稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十四話 二人の狼男(2)

  • 2018.11.19 Monday
  • 10:45

JUGEMテーマ:自作小説

恨みというのは恐ろしいものだ。
積もりに積もった恨みとなれば余計に恐ろしい。
俺はアカリさんとチェリー君と一緒に岡山までやって来た。
さらわれたモンブランを助ける為に。
けど事態はいつだって予想の斜め上をいくもので、モンブランを助けるどころか、俺たちがモンブランに助けられる羽目になった。
今、俺はモンブランの腕に抱えられている。
目の前には身長が3メートルはあろうかという狼男がいて、怖い目で俺を見下ろしていた。
その隣にはロッキー君もいる。
ついさっきまでアカリさんに締め上げられていたせいか、「おお痛え・・・」と首を押さえていた。
「あの稲荷め・・・・覚えてろよ。」
そう言いながら首をコキコキ鳴らしている。
喰い千切られた足も再生していて、霊獣の半端ない生命力に感心する。
ここは山と山の間にある寂れた集落、俺たちが目指していた場所だ。
ここへ来る途中にチェリー君がやられたり、アカリさんがロッキー君と戦ったり、イタチに変わった人間に出会ったりと色々あった。
これはもう集落まで辿り着けないかもしれない。
そう思っていたんだけど、幸いにもこうして辿り着くことが出来た。
・・・・いや、連れて来られたといった方が正しいだろう。

 

     *****

 

例の薬で人間に変わった動物たちは、日頃の恨みを晴らすチャンスとばかりに、動物に変わった集落の人間を襲い始めた。
中には銃を持った奴もいて、元人間たちは慌てて山の中に逃げ込んでいったのだ。
その一人がイタチに変わったこの人、宇根畦夫(うねうねお)さんである。
アカリさんとロッキー君が戦っている最中、俺は宇根さんから集落での話を聞いた。
そこへ人間に変わった動物たちが追いかけてきて、俺たちに銃を向けたのだ。
『逃げろ!撃たれるぞ!』
慌てて逃げて行く宇根さん、固まって動けない俺。
銃口が向けられ、死を覚悟した。
しかしその瞬間、チェリー君が助けてくれたのだ。
銃を蹴り飛ばし、ついでに敵も蹴り飛ばしてノックアウトした。
『クソ!不覚だぜ、ロッキーなんかにやられるなんて。』
悔しそうに舌打ちをしていた。
銃を持った奴はいなくなったが、ピンチが去ったわけではない。
周りを敵に囲まれていたからだ。
人間に変わった動物たち・・・・。
木立の中からゆっくりと迫ってきて、今にも飛びかかってきそうだった。
『なんなんだコイツら?』
『人間に変わった動物たちだよ。』
『てことはコイツらも・・・、』
『薬を飲んでる。』
『かあ〜!面倒臭えことになってやがんなあ!』
ジリジリと迫ってくる元動物たち。
そこへもう一人厄介な奴が現れた。
ロッキー君の仲間の狼男である。
プロレスラーの倍くらい大きな身体をしていて、ノシノシこちらへ近づいてくる。
チェリー君が『やべえなコイツ・・・・』と息を飲んだ。
『こいつはロッキーなんかよりずっと強い霊獣だぜ。ぶっちゃけ俺じゃ勝てねえ。』
『そりゃロッキー君にも負けるんだから勝てないよ。』
『うるせえ!不意を突かれなきゃあんな野郎に負けたりしなかったんだ。』
負けたのは自分から弱点を喋ったせいである。
それがなければ擬態を見抜かれることもなかっただろうに。
狼男は真っ直ぐに近づいてきて、俺たちの前で足を止めた。
目の前に立たれただけでもすごい威圧感だ。
きっと猛獣に狙われる獲物はこんな気分なんだろう・・・・。
『チェリー君・・・・ヤバいよこいつ。』
『分かってる。擬態も通用しねえし・・・・参ったな。』
自慢のリーゼントがフニャっと垂れていた。
そうこうしている間にも周りを囲う敵が迫ってくる。
いよいよマズい・・・・そう思いかけた時、『この野郎!』と雄叫びが響いた。
『よくもウチの子たちを!!』
ロッキー君を倒したアカリさんが狼男に飛びかかる。
『稲荷か?』
狼男はボソっと呟き、思いっきりアカリさんを殴り飛ばした。
『ギャン!』
まともにパンチを食らったアカリさんは10メートル以上も吹き飛ばされる。
しかしすぐに立ち上がり、牙を剥き出して飛びかかった。
『許さない!お前らぜったいに殺してやる!!』
鋭い爪で切りつけるが、これもあっさりとかわされてしまう。
だがまだ諦めない。
クルっと回転して四つの尻尾を巻き付けようとした。
狼男はこの攻撃を読んでいたかのように、高くジャンプした。
そして口先をすぼめ、アカリさんに向かって遠吠えを放ったのだ。
超音波なので俺には聴こえない。
しかしアカリさんの耳には響いたようで、『ギャッ!』と悲鳴を上げてから気絶してしまった。
『アカリさん!』
駆け寄ろうとすると狼男が立ちはだかった。
俺を掴み、高く持ち上げたのだ。
どうやら周りを囲う元動物たちに投げるつもりのようだ。
そんなことされたら一斉にリンチを受けて助からないだろう。
『させるかよ!』
チェリー君が擬態を使う。
でも狼男には通用しなかった。
また遠吠えを放ち、チェリー君の耳を揺さぶる。
『あ、頭が・・・・、』
擬態が解けてしまい、地面をのたうち回る。
狼男はチェリー君の頭を踏みつけ、鋭い爪を喰い込ませた。
『ぐあああああ・・・・、』
『やめろおお!』
チェリー君どころかアカリさんまで負けてしまうとは思わなかった。
これじゃモンブランを助けるどころか、俺たちが生きて帰れるかどうかも分からない。
万事休すである。
しかしその時、木立の中から『やめて!』と声が響いた。
『それ以上ひどいことしないで!』
モンブランだった。
木立の中から駆け出して、狼男の前に立ちはだかる。
『子犬もリーゼントの霊獣も私の仲間なの!許してあげて!』
狼男は鋭い目で見下ろす。
俺は『モンブラン!』と叫んだ。
『無事だったか!』
『悠一!いま助けてあげるからね!』
『なに言ってんだ!お前まで襲われちまうぞ!早く逃げろ!』
『平気よ、だって彼は私の婚約者なんだもん。』
そう言って『お願い』と潤んだ目で見つめた。
『悠一は私の家族なの。だったらあなたにとっても家族同然でしょ?もう許してあげて。』
まるで少女漫画のヒロインみたいに目をキラキラさせている。
狼男は俺を離し、モンブランの腕に落とした。
『悠一!よかった・・・・。』
『あの・・・・いったい何がどうなってんだか・・・・。』
『私ね、婚約したの。』
『それ・・・・マジで言ってんのか?』
『式場と日取りはまだ決めてないけど、やっぱり大安がいいわよね。それに式場は海が見えるところがいいわ。ねえ?』
狼男に目配せすると、ポっと頬を染めていた。
『というわけで、みんなも式に呼んであげるからね。』
『・・・・・・・・・。』
『それと悠一には仲人をお願いしたいの。あ、でもスピーチの時は三つの袋の話とかはやめてね。
そういう古臭いのじゃなくて、もっとこう私たちの未来を祝福するような、幸せをみんなに届けられるようなスピーチにしてほしいの。やってくれるわよね?』
まだキラキラした目で見つめている。
俺は思いっきり息を吸い込んでから答えてやった。
『こんな男と結婚なんて許さんぞ!!』

 

     *****

 

とまあ色んなことがあって、今はこの集落にいる。
個人的にはモンブランの結婚について断固反対したいところだが、とりあえず私情はしまっておこう。
今はこの集落そのものが大問題なのだから。
俺の周りには大勢の人間と動物たちがいて、互いにピリピリした様子で睨み合っていた。
人間に戻りたい元人間たち、人間に恨みを抱く元動物たち。
今にも争いが起きそうだが、これを宥めたのはマシロー君であった。
あの丁寧かつ柔らかい口調で、『みなさん落ち着いて下さい』と止めたのだ。
人間と動物、両方と話せる彼は、それぞれの言い分を聞きつつ、とにかく喧嘩はしないようにと今も説得中である。
マシロー君、やっぱり君は立派なネズミだ。
しかしいつまでもこんな状況が続くのはマズい。
どうにかして元に戻さないと・・・・。
「有川さん。」
近くの家から宇根さんが出てくる。
俺は「二人の様子は?」と尋ねた。
「無事だ。しばらくは目を覚まさないかもしれないが。」
「そうですか、とりあえず無事なら安心しました。」
アカリさんとチェリー君は狼男のせいでノックアウトされてしまった。
あの二人をこうもあっさり倒すなんて・・・・やっぱりこいつはタダ者じゃないようである。
「ロッキー君、あんたの親分は何者なんだ?稲荷と喧嘩して勝つなんて普通じゃ考えられないぞ。」
「こいつ強いだろ。」
嬉しそうに胸を張っている。
「誰も褒めてないぞ。」
「俺たちは流れ者の霊獣なんだ。俺は頭脳派、こいつは武闘派だ。」
「話を聞いてるか?」
「俺たちはあちこちで色んな霊獣と喧嘩してるからよ、自然と強くなっちまったんだよなあ。」
「強いのはそっちの狼男だけだろ。」
「だから俺は頭脳派なんだよ。頭がなきゃ腕っ節が強くても意味ないだろ。」
君も頭が良さそうに見えないよって言おうとしたけど、下手に挑発するのはやめておこう。
「君たちが強い霊獣だっていうのは分かったけど、どうしてあの薬をばら撒いてたんだ?」
「ん?まあそれは・・・・あれだな。守秘義務ってやつがあるから。」
「てことは誰かから頼まれたってことか?」
「まあな。」
「いった誰に?」
「それは言えないって。」
「じゃあさ、俺が一発で当ててみせるよ。もし当たってたら依頼者が誰か教えてくれないか?」
「上手いこと言って。そうやって引っ掛けようってつもりなんだろ?でも頭脳派の俺には効かないぜ。」
余裕たっぷりに笑っている。
だったらここはコイツにお願いするしかないだろう。
「なあモンブラン。」
「なあに?」
「お前から聞き出してくれないか?依頼者は誰なのか。」
「ええ〜・・・・ヤダ。」
「なんで?」
「だって無理矢理聞いたら彼に嫌われちゃうもの。ねえ?」
可愛こぶりながら腕を組んでいる。
狼男は頬を赤くした。
なんでこんな関係になっているのか気になるけど、とりあえず今は置いておこう。
「モンブランよ、お前は結婚して幸せになりたんだろ?」
「もちろんよ!ていうかぜったいに幸せになるわ。」
「その為にはみんなから祝福されたいよな?」
「みんなしてくれるわよ!結婚式だって盛大にやるんだから。」
「うんうん、でも俺は結婚に反対なんだ。」
「ええ!なんでよ!?」
「だってどこの馬の骨とも知れない男にお前を預けるなんて・・・・飼い主としては認められないな。」
「そんな!」
「悪いけど仲人は引き受けられない。」
プイっとそっぽを向く。
モンブランは「ちょっと待って!」と叫んだ。
「そんなのイヤよ!私はみんなから祝福されたいのに!」
「俺はこんな結婚は認めない。」
「彼はとっても良い男なのよ。悠一だって分かってくれるわよ。」
「どうだか。お前を無理矢理さらって結婚しようだなんて・・・・俺がどれほど心配したか。」
「私をさらったのはロッキー君よ、彼じゃないわ。」
「いいや、仲間なんだから共犯だ。」
「違う!だってロッキー君は私にひどいことしようとしてたのよ!依頼者に売り渡すって。」
「なッ・・・・売り渡すだって!?」
「良いサンプルになるからって。」
「サンプルって・・・・どういう意味だ?」
「だってほら、あの薬は副作用があるでしょ?急に胸が苦しくなるやつ。」
「ああ、そのせいでアカリさんの子供も苦しんでる。チェリー君の生徒たちも。」
「でも私はなんともないわ。ということは、私を調べれな副作用のない薬が作れるかもしれない。だから売り飛ばそうとしたのよ。」
なるほど・・・それでコイツを誘拐したわけか。
でもそうなると・・・・、
「前から目を付けてたってことか?」
ロッキー君を睨むと「いいや」と首を振った。
「今日初めて会った。」
「じゃあなんで副作用が出ないって分かるんだ?あれって飲んですぐに苦しくなるもんじゃないはずだろう?」
「臭いだよ臭い。」
「臭い?」
「普通は動物から人間に化けても、ちょっとだけ獣臭さって残るもんなんだよ。俺たち霊獣だってそうだし。」
「獣臭さ・・・・。」
そういえばマシロー君も言っていた。
ウズメさんと会った時、獣の臭いがするから霊獣だと見抜いたって。
「でも薬で変わった奴らにはこの臭いがないんだ。」
「臭いがない?」
「無臭ってわけじゃないぜ。人間の臭いはするからな。でも獣臭さがないんだよ。そういう奴は決まって副作用が出るもんなんだ。
でもモンブランちゃんは獣の臭いがしてた。てことは副作用が出てないんじゃないかと思ったわけさ。」
「臭いか・・・・。でも俺の仲間の霊獣たちは誰一人そのことに気づいてなかったぞ。鼻の良いマシロー君だって。」
「そりゃアレだよ、俺は特別に鼻がいいから。なんたってオオカミの霊獣だからな。」
「てことはほんの微かな臭いってことか。」
「そういうこと。モンブランちゃんは薬で変わったのに臭いがしてる。良いサンプルになると思うだろ?」
「なるほどな、それでさらったわけか。」
だんだんとロッキー君たちの思惑が分かってきた。
けど問題は誰にモンブランを売り渡すつもりだったのかってことだ。
《きっと薬を渡してきた連中にだろうな。それが誰なのか聞き出さないと。》
モンブランは腕を組んでデレデレしている。
自分がどれほど危険な状況にいたか分かっているんだろうか。
「お前はほんとに能天気だな。なんで自分を売り渡そうとした奴に惚れるんだよ?」
「うふ。」
「笑ってないで答えろ。」
「だって助けてくれたんだもん。」
「助ける?」
「彼がね、こんな可愛い子を売り飛ばすなんて可哀想だって。」
「こいつが?」
「でもロッキー君はすっごいしつこくて、ぜんぜん言うこと聞いてくれなかったわ。手を引っ張って無理矢理連れて行こうとしたのよ。
だけど彼が助けてくれた。その子を連れて行くなら、もう二度とお前とは組まないって。そしてロッキー君の手から私を奪い取って、ひどいことしてゴメンって謝ってくれたの。」
「要するに仲間割れか。」
「彼ね、私を見るたびに頬を赤くするのよ。そして一生君を守るからって・・・。」
「おい・・・まさか結婚しようって言い出したのは・・・、」
「そう、彼の方から!」
頬を赤く染めながら、嬉しそうにクネクネしている。
「私を見た瞬間に一目惚れしたんだって。それでぜったいにこの子をお嫁さんにするって。」
「プロポーズされたのか・・・・?」
「やっぱりこういうのは男から言ってほしいわよね。ちゃんと面と向かって。
最近は草食系とか増えてるけど、彼は正面から堂々と言ってくれたの。私を守ってくれたし男らしいし、もう即OKしちゃった!」
頼むからそのクネクネをやめてほしい・・・・。
普段のモンブランを知っているから、いかに猫を被っているかがよく分かる。実際猫なんだけど。
「ま、まあ・・・・誰を好きになるかは個人の自由だからな。でも結婚するっていうなら、やっぱり周りから認めてほしいだろ?」
「でも悠一は認めてくれないんでしょ?飼い主のクセに薄情だわ。」
「ならこうしよう。お前がその狼男から依頼者を聞き出してくれたら、結婚を認めることを前向きに検討する。」
「ほんとに!?」
「ああ、約束する。」
「その時は仲人もしてくれる?」
「もちろん。」
「感動的なスピーチも?」
「徹夜で考えよう。」
「ありがとう!やっぱり悠一は最高の飼い主だわ!」
嬉しそうにクルクル回ってから、「ねえねえ?」と狼男に尋ねる。
「誰があなたに依頼したの?」
「・・・・・・・。」
「あの薬は依頼者からもらったんでしょ?それが誰なのか教えて。」
可愛らしく手を組み、わざとらしく首を傾げている。
するとロッキー君が「待て待て!」と止めに入った。
「色仕掛けで落とす気か?」
「そんな言い方しないでよ。私は未来のお嫁さんなんだから。」
「これでも俺たちはプロだぜ?いくら婚約者の色仕掛けでも・・・・、」
「カマクラ家具。」
狼男は即答した。
ロッキー君はブチ切れる。
「テメエこの野郎!なにあっさり教えてんだ!」
「彼女は妻になるんだ。秘密は良くない。」
「今日会ったばっかの女にデレデレし過ぎだろ!」
「自分がモテないからって僻むな。」
「な、なにおぅ〜・・・・、」
うん、俺もッキー君はモテないだろうと思う。
まあそんなことはどうでもよくて、さっき狼男が答えたこと・・・・、
「カマクラ家具って言ったよな。それほんとなのか?」
「・・・・・・・・。」
「モンブラン頼む。」
「今のはほんとなの?」
「本当だ。カマクラ家具の瀞川と安志って男から頼まれた。この薬を捌いてほしいと。」
そう言ってフサフサの体毛から例の薬を取り出した。
「なるべくたくさんの動物に渡すようにと言われた。そして薬を使った動物たちから感想を聞いて、それを伝えてくれと。」
「要するにデータが欲しかったってことか?」
「・・・・・・・。」
「モンブラン。」
「それのデータが欲しかったってこと?」
「ああ。社内の実験だけだと限りがあるので、より多くのデータが欲しかったようだ。ちなみにこいつのデータも。」
フサフサの体毛から黄色と緑のカプセル剤を取り出した。
解毒剤だ。
「そいつをくれ!」
「・・・・・・・・。」
「モンブラン!」
「それ悠一に渡してあげてくれない?」
「君の頼みなら。」
モンブランは薬を受け取り、「ありがと」と微笑む。
「でかしたぞ!今すぐ飲ませてくれ!」
「・・・・・・・。」
「どうした?早く。」
「結婚・・・・ぜったいに認めてくれるわよね?」
「え?」
「だってあとからやっぱり無しって言われると困るから。」
「そ、それは・・・・、」
「ほら、やっぱり怪しいと思ったのよ。」
ふん!と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「さっきこう言ったわよね?結婚を前向きに考えることを検討しようって。」
「あ、ああ・・・・。」
「検討じゃなくて、ぜったいに認めるって約束してくれなきゃこれはあげない。」
「ええ!」
自分のポケットに薬を隠してしまう。
必死に手を伸ばすけど全然届かなかった。
「お願いだ!その薬をくれ!」
「じゃあ結婚を認めてくれる?」
「前向きに検討を・・・・、」
「じゃああげない。」
「モンブラン〜・・・・。」
なんてことだ。
以前のモンブランなら騙せたはずなのに。
人間になって賢くなってしまったのだろうか。
モンブランはそっぽを向いたままで、何を話しかけても答えてくれない。
これじゃ狼男から話を聞くことも出来ない。
《ああ、どうしよう・・・・上手くいくと思ったらこれだよ。》
元の姿には戻りたい。
でもこんな狼野郎との結婚を認めるなんて・・・・それは断じて出来ない!
「あの、ちょっといいですか?」
いきなりマシロー君が話しかけてくる。
俺は「なに・・・?」と気のない返事をした。
「ちょっと気になることがあるんです。」
「俺も気になることだらけだよ。いったいいつになったら戻れるのか?モンブランは本気で結婚する気なのか?そもそも無事に帰れるのか?不安でいっぱいだ・・・・。」
「心中お察しします。でも今は僕の話を聞いてほしいんです。」
「いいよ、聞くだけなら・・・・。」
「ありがとうございます。」
丁寧にペコリと頭を下げる。
もし人間なら一流の執事にでもなっていそうだ。
「実はですね、そちらの方の臭いなんですが、ちょっと記憶にございまして。」
「そちらって誰・・・・?」
「狼男さんです。あなたの臭い、どこかで嗅いだことがあるなあって気になっていたんです。」
「そうなんだ・・・。どこかですれ違ったことでもあるんじゃないの・・・。」
「いえ、お会いするのは今日が初めてです。なのに以前に嗅いだことのあるこの臭い・・・・いったいどこだったか考えていたんですが、それを見てピンと来ました。」
そう言って小さな手で指さした。
「例の薬・・・・?」
「はい。正確にはその薬が入っていたポーチです。」
「ポーチ?」
「遠藤さんはこう言っていました。以前にお付き合いしていた男性から薬を貰ったと。その時にポーチに入ったまま貰ったそうです。」
「そういえば小さなポーチに入れてたな。」
「そのポーチに付着していた臭いと、その狼男さんの臭いがまったく同じなんです。」
「・・・・・え?」
狼男を振り返ると、さっと目を逸らした。
「なあアンタ。以前にオカマの人間と付き合っていたことはないか?」
「・・・・・・・・。」
「モンブラン頼む。」
「結婚認めてくれなきゃヤダ。」
「そんなこと言ってる場合か。これはすごく大事なことなんだ。」
「どうして?」
「ポーチの臭いと狼男の臭いが同じなら、そいつが遠藤さんに薬を渡したかもしれないってことだ。」
「いくら遠藤さんでも狼男と付き合うわけないじゃない。」
「そのままの姿なら付き合ったりしないだろうな。でも彼は霊獣だ、人間に化けられる。」
「だから何よ。彼はあの人と付き合ったりなんかしてないわ。」
「狼男の口から聞きたいんだ。お願いだから・・・・、」
「イヤよ!」
「結婚のことは前向きに考える。だから・・・・、」
「そうじゃない!」
「そじゃないって・・・じゃあなんなんだよ?」
「彼は私の婚約者なのよ!昔の恋の話なんて聞きたくないわ!」
「いや、そういうことじゃなくてだな・・・・、」
「もういい!悠一なんか知らない!」
俺を置いて狼男と腕を組む。
「行きましょ。」
ポっと頬を染める狼男。
二人はラブラブな感じで去って行った。
ロッキー君が「待てよ!」と慌てて追いかける。
でもすぐに引き返してきてこう言った。
「アイツが依頼者を口走ったこと、ぜったいに言うんじゃねえぞ。」
「なんで?」
「なんでって・・・・当たり前だろうが!俺たちこれで飯食ってんだ!」
「分かったよ、言わない。」
「ほ。」
「すごい安心したな今。もしかして君たちの依頼者ってけっこう怖い奴らなんじゃないの?」
「え?」
「だってかなりビビってるみたいだから。」
「ビビってなんかねえよ・・・・。」
「声が上ずってるけど?」
「うっせえな!とにかく余計なこと言うんじゃねえぞ。」
そう言い残し、「待てよお前ら!」と去ってしまった。
さて・・・・これからどうしよう。
とりあえずモンブランが危険に晒されることはないだろう。
何かあっても狼男が守ってくれるはずだ。
問題はこの集落なんだけど・・・・、
「マシロー君、何か名案はあるかい?」
「何に対しての名案でしょうか?」
「この集落の人間と動物を元に戻す方法。」
「そうですねえ・・・・特に思いつきません。」
「だよな。」
二匹で困り果てる。
人間と動物たちはまだ睨み合ってるし、せっかくの解毒剤も手に入らなかったし。
このところ空回りばっかりっていうか、ギリギリのところで上手くいかないことばっかりだ。
大きなため息をついていると、宇根さんが「大変だ!」とやって来た。
「どうしたんです?」
「お稲荷さんがお怒りなんだ!」
「アカリさん目を覚ましたんですか?」
「そうじゃない!神社のお稲荷さんが・・・・、」
そう言って集落の奥にある稲荷神社を指さした。
・・・・誰か倒れている。あれは大きなキツネだ。
尻尾が三本、これは間違いなく稲荷だ。
「あの神社に祭られているお稲荷さんか?」
なんだかグッタリしているけど大丈夫だろうか?
不安に見つめていると、突然ガバっと起き上がった。
「ちくしょおおおお!あの狼男ども!よくも俺を生き埋めにしやがったな!ぜったいに許さん!!」
怒り心頭に起き上がる。
そして目が合ってしまった。
「あ。」
「あ。」
お互いに驚く。
そして同時に叫んだ。
「お前・・・・ただの子犬じゃないな?この雰囲気、この臭い・・・・まさか有川か!」
「さすがお稲荷さん、一発で見抜くなんて。」
「なんでお前がここにいる!?」
「こっちのセリフだよ。なんで君がこの神社に?」
彼は一昨年の夏に揉めた稲荷の一人、ツムギ君という。
たしか別の神社に祭られていたはずだけど・・・・、
「やあツムギ君。久しぶりだな。」
事情は分からないけど、とりあえず仲良くしておこう。
上手く丸め込めば力を貸してくれるかもしれない。
ただ残念ながら、彼は俺のことを嫌っているのだ。
ツムギ君はダキニの部下で、誰よりもダキニを敬愛していたからだ。
そして俺はダキニを地獄へ送った張本人、今でも恨まれている。
でもそれはそれ、これはこれ。
「昔のことは忘れて仲良くしよう。」
「出来るか!お前のせいでダキニ様を失い・・・俺は・・・俺は・・・こんな田舎に飛ばされたんだ!」
「あ、左遷されてここにいたのか。」
「黙れ!お前さえいなければ・・・・。ウオオオオオオン!ダキニ様あああああああん!!」
夜空に遠吠えがこだまする。
つられて犬に変わった人間たちも遠吠えをしていた。

バトル漫画における強さのインフレ

  • 2018.11.19 Monday
  • 10:42

JUGEMテーマ:漫画/アニメ

バトル漫画ではどんどん強い敵が出てきますが、ここで打ち止めにしておかないとマズイってこともあります。
最初は車一つ吹き飛ばす攻撃で「強ええ!」ってなるけど、次に出てくる強敵は平気で島一つ吹き飛ばすとかありますからね。
その次は地球を、その次は太陽系を、その次は宇宙を、その次は高次元の支配者みたいな感じで、どこまでいってもキリがありません。
それに能力だってどんどん凄くなっていって、思うだけで何でも出来るとか、望んだことは全て現実になるとか、作者自身が使い用に困るんじゃないかって場合もあります。
何でも出来るってことは宇宙の創造や死者の蘇生や、自分の思い通りの世界を構築するとか、無敵を通り越した万能神です。
もはや誰と戦う必要もありません。
強すぎるがゆえに孤独を感じて寂しいなんてこともないでしょう。
そんな感情さえ何でも出来るならどうとでもなるんですから。
でもバトル漫画では次なる強敵にみんな期待します。
となると際限なく強い奴とか、神様みたいな能力の持ち主を出すしかなくなります。
けど多くの場合、そういった敵は自身の強さや能力を持て余しているように思います。
そしてなぜか遥かに格下の主人公に負けてしまったりと。
ストーリーの進行上、さすがに主人公がやられるわけにはいきません。
でも敵は敵でものすごく強いわけで・・・・。
要するに設定と物語の整合性が破綻してしまうのでしょう。
バトル漫画で強い敵は必須だけど、ここが強さの限界っていう基準はあった方がいいのかもしれません。
最強の弟子ケンイチでは長老が強さの上限でした。
バキなら勇次郎がこれに当たります。
どちらも主人公じゃないのに最強なんです。
でもそうやって強さの上限が決まっていれば、極度なパワーインフレが起こることはありません。
過去に倒された敵だって、強さの上限内であれば強化が可能なので、再登場させることも可能です。
けどこれが上限のない作品だと、過去の敵は負けて終わった弱い敵となり、再登場してもインパクトに欠けます。
そしてまたどんどん強い敵を出し、作者でさえも手に負えないキャラクターとなり・・・・。
何もない完全に自由な状態よりも、何か制約があった方が物事は進めやすいです。
自由は削られるけど、制約を基準としてルールを決めやすいですから。
だから強さの上限が決められている作品って、設定と物語の整合性が取れています。
どんな強敵が出て来ようが、長老や勇次郎には勝てないわけですから、主人公が目指す場所もブレません。
主人公がブレないなら物語だってブレないわけで、バランスがいいんですよね。
漫画はキャラクター、物語、舞台、設定など、色んな要素で成り立っているけど、バトル漫画の場合はとにかく設定と他の要素のバランスが大事なんじゃないかと思います。
でも口で言うのは簡単だけど、実際に作るとなるととても難しいのでしょう。
読者は客観的に見られるけど、作者はなかなかそうはいかないと思います。
自分の中から生まれた作品だから、思い入れがあったり、描きたい事や描きたくない事もあるだろうし。
何より忙しすぎて、仕上げるだけでも相当大変だと思います。
バトル漫画って難しいですね。

稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十三話 二人の狼男(1)

  • 2018.11.18 Sunday
  • 10:24

JUGEMテーマ:自作小説

たくさんの急患が運ばれてくると、病院はパニックになる。
小さな病院となれば尚更だし、時間だって夜だ。
ここはアナグマ動物病院。
霊獣が獣医をやっている変わった病院だ。
「お前ら大丈夫か!しっかりしろ!!」
ベッドに寝かされた急患をチェリー君が励ましている。
その数12人、医者が一人しかいないこの病院ではとても手が回らなかった。
ずんぐりした角刈りの医者が「いったいどうなんてんだ!」と叫んだ。
「こんなにいっせいに中毒を起こすなんて!なに食ったんだ!?」
チェリー君を呼びにきたぽっちゃりした女が「なにって・・・」とたじろいでいた。
「どうせ変なモン食ったんだろう!」
「そんなの食べてません!人間はお腹を壊しやすいから、安全な物しか食べちゃダメだって先生が言ってたから。」
そう言ってチェリー君を振り返る。
「ですよね先生?」
「その通りだ。でもこうして中毒が起きてる。てことはつまり・・・・、」
チェリー君はアカリさんに目配せする。
「アンタの子供と同じで、やっぱ例の薬のせいでこうなったとしたか・・・・。」
アカリさんは何も答えない。
険しい表情で急患を見つめているだけだった。
先生には事情を話してある。
例の薬のせいで彼らは人間に変わってしまったと。
けど薬との因果関係がハッキリしていないから、まだ断定は出来ないんだろう。
薬のせいかもしれないし、変な物を食べたせいかもしれないし。
「とりあえずの処置は終わったが、油断できない状態だ。もしこれ以上急患が来ても対応できんからな。」
先生もいっぱいいっぱいなんだろう。
看護師は5人ほどいるらしいけど、今いるのは一人だけ。この看護師も霊獣なのだ。
たった二人でこの状況に対応しなきゃいけないわけで、そりゃパニックにもなるってもんだ。
「ただの怪我ならウズメさんに頼めばどうにか出来るのに。」
アカリさんが呟く。
位の高い霊獣は強い治癒力を持っている。
それを分け与えることで、致命傷になる怪我でさえ回復させることが出来るのだ。
ウズメさんの力で、俺の婚約者も怪我を治してもらったことがある。
でも中毒となるとそうもいかない。
それこそ原因の分からない中毒なら余計に。
医者は「邪魔だから出てってくれ」と言った。
「何かあったらすぐに連絡するから。」
「でもよお・・・、」
チェリー君が食い下がるが、「さっさと出ろ!」と追い出された。
彼らの仲間の女だけ残し、俺たちは病院の外にあるベンチに座った。
《アカリさんの子供たち、そして今運んできた急患たち。どっちにも共通するのは例の薬を飲んだってことだ。ぜったいに無関係なわけがない。》
あの薬はアナグマ医師に渡してあるので、結果が出たら教えてくれるだろう。
今の俺たちにできることは、とにかく回復を願うことだけだった。
チェリー君がベンチから立ち上がり、「行こうぜ」と言った。
「医者の言う通り、俺たちがここにいても意味ねえ。」
ポケットに手を突っ込みながら三輪車へ歩いて行く。
まるでバイクに乗るみたいに大げさに跨って、キコキコとペダルを漕いだ。
「行こうぜ、薬を渡した奴らの所によ。」
あれで岡山まで行くつもりなんだろうか・・・・。
まだ歩いていった方が早いだろう。
アカリさんも立ち上がり、「行こ」と言った。
「私の可愛い子供たちをこんな目に遭わせた奴らを殺しに。」
決意は変わらないようである。
表情はさっきより落ち着いているけど、殺気はそのままだ。
「薬を渡した奴は、たぶん岡山に逃げたはず。」
「・・・・本気で殺す気なんですか?」
「ええ。」
「・・・・・・・・・。」
「殺すのは私の役目、アンタは見つけるのを手伝ってくれればいいから。」
「でも俺はそういうことは・・・・、」
「アンタは何も気にしなくていい。手を下すのは私なんだから。」
「それは分かってます、分かってますけど・・・・、」
「モンブランがどうなってもいいの?」
「え?」
「あの子も一緒にいなくなった。てことはロッキーって奴が連れ去ったってことでしょ?」
「そうなりますね。」
「これはただの勘だけど、そのロッキーって奴も霊獣だと思うわ。」
「あの間抜けな奴が?」
「きっと演技してたのよ。わざと目立つことして動物たちを引き寄せてたんだわ。このままほうっておいたらモンブランだって何をされるか分からない。
もしあの子に何かあったら悠一君は冷静でいられる?病院に担ぎ込まれたら平気でいられる?」
「そんなの無理ですよ!もしそんなことになったらぜったいにロッキーを許しません。」
「それが今の私の気持ち。だから力を貸してよ。」
「でも・・・・今の俺はただの子犬ですよ?力を貸せって言われても・・・・、」
「ただの子犬じゃないわ。たぶんだけど、あんたは動物と人間の両方と話せるはずよ。」
「無理ですよ。だって俺の言葉は人間には通じてないから・・・・、」
「でもモンブランたちとは普通に話してるじゃない。」
「・・・ほんとだ、なんでだろう?」
言われて気づく。
「それにマシローってハリネズミは両方と話せるんでしょ?だったらあんたも出来るわよ。その力はきっと役に立つ。」
「あの子は特殊ですよ。あんな変わった動物は初めてで・・・・、」
そう言いかけて重大なことに気づく。
「マシロー君もいなくなってる!」
今気づいた。さっきまでバタバタしてたから・・・・。
「もしかしてさっきの河原に置いてきちゃったのか?」
「それはないと思うわ。だって私が来た時にはいなかったから。」
「ええ!ということはまさか・・・・、」
「あの子もさらわれたのかもしれない。」
「そんな・・・・、」
「モンブランにマシロー君、二人も仲間がさらわれてじっとしてられないでしょ?だから行こう。ウズメさんの神社から私の神社までワープすればすぐだから。」
アカリさんは歩き出す。チェリー君に「そっちじゃない、こっちよ」と手招きしていた。
三輪車が向きを変え、キコキコとあとを追っていく。
俺は病院を振り返り、自分がどうするべきか迷った。
子供を傷つけられたアカリさん、人間に変わった動物たちを傷つけられたチェリー君。
それがどれほど痛いものか想像するのは難しくない。
きっとチェリー君はアカリさんに手を貸すだろう。
その目的が復讐の為の殺しでも。
彼は俺と違って迷いがない。
根は優しいけどやる時はやる。そういう男だ。
《もしこの病院にいるのがモンブランだったら?マシロー君だって遠藤さんから預かってる大事な動物だ。それを傷つけられたら・・・・。》
商店街のある大通りは明るかったけど、ここは街の外れだ。
夜になれば暗闇に包まれ、ポツポツと点在する街灯の光だけが頼りになる。
ふと顔を上げると、一番近い場所にある街灯の下、スポットライトのように光が差す中に、誰かが佇んでいた。
「あれは・・・・、」
若い男だった。
細面の整った顔立ちをしていて、真っ白なスーツを着ている。
そいつはじっと俺を見つめながら、アカリさんが歩いて行く方に指をさした。
まるでついて行けと言わんばかりに。
アカリさんの方を振り向き、また街灯に目を戻すと、男はいなくなっていた。
「・・・・誰だったんだ今の。」
首を傾げる。
あんな知り合いはいないし、しかもいつの間にかいなくなってるし。
まさか幽霊?と思ったが、どうもそういう感じではない気がした。
「悠一君!」
遠くからアカリさんが呼ぶ。
俺はもう一度病院を振り返り、ここに運ばれたのがモンブランだったら?と想像した。
マサカリだったら?チュウベエだったら?マリナだったら?
あいつらがここで生死の境を彷徨っているとしたら・・・・・。
「・・・・行くか。」
誰かを殺すなんて賛成できない。
けどそれを上回るほどの使命感が湧き上がる。
これ以上あんな薬のせいで苦しむ者を出したくないと。
さっきの男はいったいなんだったのか気になるけど、今はそれどころじゃない。
トコトコとアカリさんを追いかけていくと、ヒョイっと抱き上げられた。
「急ぐわよ。」
尻尾が四本ある大きな狐に変わる。
ウズメさんほどではないにしても迫力のある姿だ。
「ちょっとアンタ!いつまでもそんなもん漕いでないで!置いてくわよ!!」
アカリさんは弾丸のように駆け出す。
夜の街を軽快に走り抜け、途中ですれ違った車のドライバーが目を丸くしていた。
向かった先はこがねの湯。
この近くにウズメさんの神社があるのだ。
駐車場の向かい、真っ赤な鳥居のそびえる参道があって、大きな木立が壁のように並んでいる。
その先には砂利敷きの境内が広がっていて、真ん中に古びた本殿が鎮座していた。
アカリさんは元の姿に戻り、御神体が祭られている扉の前に立つ。
その時、背後で何かが迫ってくる音がした。
振り返ると狼男みたいな怪物がこちらへ走ってきている。
首には真っ赤なマフラーを巻いていて、頭は金髪のリーゼントだ。
「あんた速すぎだぜ・・・・。」
ぜえぜえと息を切らしている。
この狼男みたいな怪物はチェリー君。霊獣に変化した時の姿であり、彼の正体でもある。
アカリさんは「アンタが遅すぎるのよ」とそっぽを向いた。
「まあ下っ端の霊獣じゃ仕方ないけど。」
「ぬかせ・・・俺はこう見えても秘獣なんだぜ。普通の奴にはない特殊能力を持ってんだ。」
「知ってる、ウズメさんから聞いたから。ぜったいに見破られない擬態が使えるんでしょ?」
「まあな。尾行や潜入、それに奇襲はお手のもんだぜ。」
誇らしそうに胸を張る。
アカリさんは「とっても役に立ちそう」と微笑んだ。
「私たち三人いれば奴らを見つけ出すのも難しくないわ。」
そう言って本殿の扉に飛び込んだ。
一瞬だけグニャっと空間が波打って、その次にワームホールみたいな奇妙な道へと引き込まれた。
凄まじい風が襲いかかる。
まるで嵐の直撃を受けているかのような。
《何度やっても慣れないんだよなこれ・・・・。》
はっきり言って怖い。
アカリさんがしっかり抱えてくれているけど、それでも吹き飛ばされるんじゃないかってほどだ。
しかしすぐに風はやんだ。
「もういいわよ」と言われて目を開けると、そこはアカリさんの神社。わすか数秒で岡山までやって来たのだ。
少し遅れてチェリー君が飛び出してくる。
すごい勢いで御神木にぶつかっていた。
「ぐあ!」
「ちょっと!私の神社傷つけないでよ。」
ブルブルっと首を振って、痛そうに頭を押さえていた。
「初めてなんだよワープすんの・・・・。気持ちのいいもんじゃねえな。」
「ブツブツ言わない。すぐに捜索を始めるわよ。」
神社を出ると、目の前には細い道が通っていた。
車がギリギリすれ違えるくらいの幅で、周りには民家も何もない。
道の向こうにあるのは山だけで、どこからか「ホーホー」とミミズクの声が響いていた。
「この山の向こうに寂れた集落があるの。あの子たちが薬をもらった神社もそこにある。」
「じゃあそこへ行けば薬を渡した奴に会えるってことですね。」
「ロッキーだっているかもしれないわ。」
「もし誰もいなかったら?」
「張り込みしましょ。それでも無理なら聞き込みね。」
そう言って真っ暗な山の中へ入って行く。
するとチェリー君が「まあ待てよ」と追いかけてきた。
「なによ?ていうかアンタいつまでその姿のままなの?」
「悪いかよ。」
「そんなんで近づいてったら目立つじゃない。気づいて逃げられたらどうすんのよ?」
「何言ってんだ。俺にはこれがあるんだぜ。」
スウっと透明になり、姿が見えなくなってしまう。擬態で周りの景色と同化したのだ。
アカリさんは「すごい!」と手を叩いた。
「見えないだけじゃなくて、霊力も気配も感じさせないなんて・・・・やるじゃない。」
チェリー君は擬態を解き、「だろお?」と上機嫌だ。
「まずは俺が行って様子を見るからよ。あんたらは後について来てくれよ。」
「OK、集落はこのまま真っ直ぐ行けば見えてくるわ。ああそれと、あんたじゃなくてアカリさんって呼ぶように。」
「なんでもいいだろ、呼び方なんて。」
「私の方が年上だし先輩。」
「そういう堅いの嫌いなんだ。」
「好き嫌いなんか聞いてないわ。常識的な話をしてるの。だいたい敬語くらい使えないの?」
「だからあ、そういうのが嫌いなんだよ。だいたい俺はあんたのこと先輩なんて思ってねえし・・・・、」
「あんたじゃなくてアカリさん。」
「ヤダね。俺は俺の呼びたいように呼ぶ。」
「あっそ。ならこうしてやるわ。」
尻尾を出して巻き付けようとする。
チェリー君は「うお!」と飛び退いた。
「何しやがる!」
「口で言っても分からないんじゃ体で教えるしかないでしょ?」
「おいおい、今の時代に体罰かよ。勘弁してくれ。」
「それは人間の世界の話、私たちは霊獣でしょ。こっちにはこっちの掟があるんだから。」
「そんな掟ねえだろ。」
「いいから敬語。」
「ヤダったらヤダね。」
険悪なムードになっていく。
アカリさんは規律や礼儀を大事にするのだ。
しかしチェリー君は自由を愛するパンクロッカーみたいなタイプだ。
根っこが違いすぎてまったく合わないようだった。
ここは俺が取りなすしかないだろう。
「まあまあ、喧嘩してても埓が明かないし。」
「なによアンタ、子犬のくせに。」
「躾ならあとからいくらでも出来ますから。今は薬を渡した奴を捕まえることが先でしょ?」
「捕まえるんじゃなくて殺すのよ。誰がそんな生ぬるい罰で許すか。」
今日のアカリさんは一段と殺気立っている。事情が事情だから仕方ないけど。
しかしチェリー君は決してひれ伏さない。
「あんたみてえなオバサンの言うことなんて聞けないね。」
「おばさん?」
目つきが変わる。怖いよ・・・・。
「だいたいあんたは俺より年下だろ。それに霊獣としても後輩だ。」
そう、チェリー君の言う通りなのだ。
実は彼の方が年齢もキャリアも上である。
なぜならアカリさんは数年前の事故が原因で稲荷になったからだ。
対してチェリー君は何十年も前から生きている。
けどここまで挑発してしまっては、そんな理屈も通用しないだろう。
その証拠に全ての尻尾を出してチェリー君を締め上げようとした。
「だから危ねえって!」
「こっちは稲荷なのよ。しかも聖獣。立場も位も上なんだから先輩に決まってるでしょ。」
「だからなんだってんだ。すぐ手を出そうとする乱暴モンがよ。ウチのオテンバの姉貴だってもっとお淑やかだぜ。」
「あんたの身内のことなんか知らないわよ。」
「だからやめろって!」
マズい・・・・ここで喧嘩なんかされたら事が進まなくなる。
けど子犬の俺では止めようがない。いや、もし人間だったとしても無理だけど・・・・。
「ふん!こんなオバサンとやってられっか。」
「あんたの方が年上でしょ。」
「性格がって意味だ。」
「・・・・いいわ、先にあんたを血祭りに上げてやる。」
アカリさんは大きな狐へと変わる。
鼻先に皺を寄せながら、鋭い牙をむき出しにした。
しかしその瞬間、チェリー君はスウっと消えてしまった。
「逃げる気?」
アカリさんは辺りの気配を窺うけど、見つけることは無理だった。
数秒後、少し離れた場所にチェリー君が現れる。
「オバサンと子犬はここにいな。俺が薬を渡した野郎どもを捕まえてきてやるからよ。」
そう言い残し、また消えてしまった。
「なんなのあいつ。心の底からシバきたいんだけど。」
ジロっと俺を睨むので、「あとからよく言い聞かせておきます」と頭を下げた。
「根っこは悪い奴じゃないんでどうかご勘弁を。」
「自分だけで捕まえてくるって偉そうなこと言ってたわね。もし無理だったらボコボコにシバき倒して嫌ってほど説教してやる。」
ギラっと牙を光らせる。
だから怖いよ・・・・。
せめて人間の姿に戻ってほしい。
それからしばらくチェリー君を待った。
時計がないから分からないけど、20分くらいは経っているだろう。
「遅いですね。」
「・・・・・・・・。」
「なんかあったんですかね?」
「・・・・・・・・。」
「あの・・・・まだ怒ってます?」
「しくじったみたいよ、アイツ。」
「え?」
アカリさんは尻尾で前を指す。
暗い木立の中、何かがこちらに近づいていた。
人のシルエットに見えるけど、ちょっと様子がおかしい。
まるで犬みたいな息遣いが聞こえて・・・・、
「あれ?これってまさか・・・・、」
暗闇の向こうから奴が現れる。ロッキー君だ。
・・・・いや、彼一人じゃない。その手にチェリー君を引きずっていた。
「チェリー君!」
ノックアウトされたみたいにぐったりしている。
ロッキー君はヘラヘラ笑いながら「よ」と手を上げた。
「こんなとこまで追っかけてくるなんて。よくやるな。」
「おい!チェリー君に何した!?」
「ぶん殴った。」
「な・・・殴るって・・・。だって彼は・・・・、」
「ああ、擬態してた。でも弱点知ってんだよね、俺。」
「なんでお前が・・・」って言いかけようとしたけど、チェリー君は彼の先生だったのだ。
自慢したがりな彼のことだから、弱点までベラベラしゃべってしまったんだろう。
「擬態はとにかく神経をすり減らすんだってなあ。だから心を乱されると解けちまうって言ってぜ。」
その通りだ。全神経を集中させないと出来ない技なんだ。
だから心を乱されなくても二時間が限度なのである。
しかし・・・・、
「なんでチェリー君がいるって分かったんだ?いくら弱点を知ってても、近くにいるって分からなきゃ心を乱すことも出来ないはずなのに。」
「だって警戒してたもんよ、追いかけてくるんじゃないかって。こっちもそれなりの対処をしてたんだよ。」
「対処だって?」
ロッキー君はニヤリと笑う。
そして・・・・、
「あ・・・・。」
なんと彼も狼男みたいな姿に変わってしまった。
ていうか狼男そのものだ。
獰猛な狼の顔に、筋肉質な肉体、前身が灰色の毛で覆われている。
「やっぱり霊獣だったのか!」
「狼のな。」
「でもラブラドールの雑種だって言ってたじゃないか。」
「ウソに決まってんだろ。俺はハイイロオオカミって種類の霊獣なのさ。だからこういうことも出来る。」
口をすぼめ、空に向かって遠吠えを放った。
その音はだんだんと高くなっていき、耳がキンキンしてくる。
やがて耳鳴りがし始めて、頭まで痛くなってきた。
「おい!やめろ・・・・、」
ロッキー君はなおも吠え続ける。
頭が割れそうなほど痛い・・・・。
このままじゃ気絶する!・・・・そう思った時、ふと遠吠えがやんだ。
でも彼はまだ吠え続けている。
夜空を仰ぎ、喉を振動させながら。
すると今度はアカリさんが苦しそうに顔を歪めた。
「なるほど・・・そういうことか・・・、」
「ど、どういうことですか!?」
「超音波よ・・・・。ものすごい高音で遠吠えをすることで超音波を出してる・・・・・。」
「俺は何も聴こえませんけど・・・・。」
「霊獣の方が感覚が鋭いのよ・・・・。これをやられちゃ頭が痛くて仕方ない。心を乱されるわけだわ・・・。」
「それでえ擬態が解けたのか。」
はっきり言ってチェリー君は霊獣の中ではそこまで強くない。
もし相手が位の高い霊獣なら負けてしまう。
てことは・・・・、
「ロッキー君!お前はまさか神獣なのか?」
そう尋ねると遠吠えをやめた。
「残念ながらまだ神獣じゃないんだよねえ。ていうかそんなモンになりたくないし。」
「でもロッキー君を簡単にやっつけちゃうってことは、そこそこ位が高いんだろ?」
「まあね、これでも聖獣だから。でも出世する気はないぜ。偉くなる代わりに自由が利かなくなるからな。」
それを聞いたアカリさんが「お前もゆとりか」と睨んだ。
「チェリーといいお前といい、最近の霊獣は人間の若い子みたいなのが増えてる。」
「あんたが時代遅れなんだよオバサン。」
アカリさんの表情が固まる。
とうとうキレてしまったんだろう。
無表情のまま牙を剥き出していた。
「悠一君、ちょっと離れてて。」
「あ・・・はい!」
こうなってはもう止められない。
尻尾の毛が逆立ち、蛇みたいにウネウネと動く。
鋭い爪で地面を蹴り、ロッキー君に飛びかかった。
「殺す!」
「やってみろ。」
ロッキー君は素早く攻撃をかわし、また遠吠えを放った。
アカリさんの顔が苦しそうに歪む。
「この程度で・・・、」
体を一回転させて尻尾を叩きつける。
ロッキー君は達人のようにそれを受け流し、カウンターの回し蹴りを返した。
アカリさんはその蹴りを口で掴み、鋭い牙を突き立てる。
「いででで!」
メリメリと音を立てて牙が食い込んでいく。
ローッキー君は「このアマあ!」とアカリさんの頭を掴み、至近距離から超音波を放った。
「ぐッ・・・・、」
辛そうに顔を歪めながら、それでも足を離さない。
それどころか四本の尻尾でロッキーを締め上げた。
ミシミシっと骨が軋んでいる。
「ぎゃああああ!折れる折れる!」
こうなっては遠吠えも出来ない。
アカリさんは顎に力を込め、とうとうロッキーの足を食い千切ってしまった。
「ぎゃああああああ!」
赤い血が飛ぶ。
悲鳴がこだまする。
俺は《ひえ!》と目をそらした。
「許さねえ!許さねえぞこのアマ!」
普通はここまでされたら怯むと思うのだが、ロッキー君は逆だった。
怒りに火が着いたように暴れまくる。
しかし尻尾で締め上げられている以上、大した抵抗は出来ない。
アカリさんの顔は殺気に満ちていて、このまま絞め殺す気なんだろう。
でもロッキー君もしぶとい。
身をよじり、尻尾に噛み付いていた。
霊獣同士の喧嘩っていうのはいつもこうだ。
荒々しいというか血なま臭いというか、かなり凄惨なものになる。
呆気にとられながら戦いに見入っていると、「おい!」と後ろから声がした。
「ん?」
「ここだよここ!」
振り返ると茂みの中にイタチがいた。
「あんた何者だ!?」
「何者って・・・そっちこそ誰?」
「俺はこの先にある集落のモンだ!」
「集落のモンって・・・あんたイタチじゃないか。もしかして誰かに飼われてたのか?」
「違う、俺は人間だ!」
「・・・へ?」
どこからどう見てもイタチである。
怪訝に見つめていると、「あんたこそ誰なんだ?」と尋ねてきた。
「あんな大きなキツネを連れてきて・・・・いったい何するつもりだ!」
「何するって・・・・、」
「また妙な薬を飲ませる気じゃないだろうな!」
「薬って・・・あんたも?」
「あんたもって・・・あんたもか?」
「そうだよ、俺だって人間なんだ。でも変な薬のせいで子犬になっちゃったんだよ。」
「じゃあ・・・あんたも被害者か?」
「被害者?」
「狼男だよ!あいつが持ってる薬を飲まされたんだろう!?」
「狼男って・・・・まさかあいつのこと?」
ロッキー君に手を向けると、「違う!」と言った。
「あいつはただの手下だ。そうじゃなくて親玉の方だよ!」
「親玉ってなに?」
「だから集落の稲荷神社にいたデッカイ狼男だ!あんた知らないのか?」
「いや・・・知らない。」
「じゃあなんで薬を飲んだんだ?」
「それには色々とあって・・・。説明すると長くなる。」
話がまったく見えない。
でもこのイタチの言っていることが本当だとしたら、これは大変なことだ。
「もしかして集落の人たちって全員動物に変わっちゃったのか?」
「ああ、狼男のせいでな。しかも!しかもだ、代わりに動物が人間になっちまったんだよ!」
「ええ!なら集落は・・・・、」
「動物に乗っ取られちまった。」
「そんな・・・、」
「しかもみんな狼男に従ってやがるんだ。人間のせいで住処を奪われたとか、遊び半分で仲間が撃ち殺されたとか・・・。どいつも人間に恨みを持ってやがるんだ。
危うく俺も殺されるところだった・・・。」
「他の人たちは?」
「みんな山に逃げたよ。でもあいつら追って来やがるんだ。銃を持ってる奴もいる。」
「銃!」
「猟師が持ってた銃を奪ったんだよ。モタモタしてたら追いつかれて撃ち殺される。だから必死に逃げてたんだが、その途中であんたらを見つけたんだよ。」
そう言って不安そうな目で戦いを見つめている。
「あのキツネは強えな。たぶん勝っちまうだろう。」
「アカリさんはお稲荷さんなんだ。そんじょそこらの奴には負けないよ。」
「お稲荷さん?んな馬鹿な。」
可笑しそうに笑うので、「ほんとだよ」と言った。
「アカリさんは俺たちの味方なんだ。」
「俺たち?あんたしかいねえじゃねえか。」
「仲間がさらわれたんだ。モンブランっていう猫なんだけど、薬のせいで人間に変わっちゃって。
赤っぽい髪でショートカットで、猫っぽくて気の強そうな顔をしてるんだけど、見たことないか?」
そう尋ねると「おお!あの姉ちゃんか!」と頷いた。
「狼男の手下が連れてたぜ。ついでに変わったハリネズミも。なんと人間の言葉が分かるんだ。」
「やっぱりか・・・・。」
ロッキー君がさらったと見て間違いなさそうだ。
「モンブランは無事なんだよな?ハリネズミも。」
「それが・・・、」
急に表情を曇らせる。
「何かあったのか・・・・?」
「そのモンブランって子・・・・、」
「まさか・・・・酷い目に遭ってるとか?」
「酷い目?なんでだ?」
「なんでって・・・・モンブランはさらわれたんだ。今頃ひどい目に遭ってるんじゃないかって心配で。」
「さらわれた?俺にはそんな風には見えなかったけどなあ。」
「どういうこと?」
「だって彼女なんだろ、狼男の親玉の。」
「なッ・・・・そんなわけないだろ!」
「でも腕を組んでたぜ。ベタ惚れって感じでよ。」
「う、腕を・・・・、」
「あなたと結婚するとかなんとか言ってたけど・・・・あの子は狼男の彼女なんだろ?」
「・・・・・・・・。」
なるほど、そう来たか。
モンブランよ、お前はほんっとうに予想の斜め上をいく奴だな!
「式場とか日取りとか話してたぜ。幸せな家庭を築こうねってラブラブな感じだったけどなあ。」
ああ・・・そうですか。
要するにこれはあれだ。
誘拐じゃなくて駆け落ちなのかもしれない。
モンブランよ、俺はぜったいにそんな結婚は認めないからな!

空は鏡

  • 2018.11.18 Sunday
  • 10:21

JUGEMテーマ:写真

 

 

 

 

 

どこで見ても空は同じだなあと思います。

空は全部繋がってるから当然かもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

朝焼け、夕焼け、昼間、夜。

色は違っても空は空です。

でも空を見る度に感じることが変わるのは、空が人の心を映す鏡だからかもしれません。

空はいつだって空で、変わるのは自分の方ですね。

昔の戦艦VS現代の戦艦

  • 2018.11.17 Saturday
  • 11:50

JUGEMテーマ:船と文化

昔の戦艦と現代の戦艦が戦ったら、現代の戦艦の方が強いと思う人がほとんどでしょう。
私もそう思っていました。
でも必ずしもそうとは限らないそうです。
というのも現代の戦艦は(今は戦艦ではなく軍艦と呼ぶそうですが)は、ミサイルが発達した代わりに装甲が薄くなっているんだそうです。
あれはいつだったか、自衛隊の戦艦が民間の船とぶつかる事故がありました。
普通なら民間の船が大破しそうですが、実際は自衛隊の船が凹んでいたそうです。
これは何も自衛隊の船が弱いわけではなく、現代の戦艦の多くはこうなるんだそうです。
現代の戦いは長距離からのミサイルの撃ち合いになるので、昔のように装甲を厚くする意味がないんだとか。
装甲を厚くすれば船体は重くなり、機動力が下がってしまうからです。
すると敵の攻撃もかわしにくくなるので、あえて装甲を薄くしているんだそうです。
逆に昔の戦艦はとにかく装甲が厚く、大和は魚雷を受けても沈まないどころか、帰港するまで魚雷を受けていたことに気づかないほどだったとか。
ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしなくて、雨あられのように爆撃を食らってやっと沈められるほどの頑丈さだったそうです。
だったら現代の戦艦もそうすればいいのにと思うけど、やっぱりミサイルの撃ち合いの現代では装甲を厚くする意味は薄いんでしょう。
それに何より航空機に対して無力になるんだとか。
当時、世界最強だったはずの大和も航空機の絶え間ない攻撃によって撃沈されてしまいました。
現代は音速のジェット戦闘機の時代だから、昔のような戦艦ではまともに戦えないってことなんでしょうね。
どんなに頑丈であっても、ずっと攻撃を食らっていたらいつかは沈んでしまいます。
現代の最強の戦艦といえばイージス艦だけど、この船は航空機に対しては滅法強いそうです。
同時に100とか200もの目標を補足して、確実に撃ち落とすことが出来るんだとか。
イージス艦が一隻いるだけで、その海域は航空機が通れないほどだそうです。
じゃあもし昔の戦艦と現代の戦艦が戦ったらどうなるのか?
当時最強だった大和と現代最強のイージス艦ではどうなるのか?
これは戦う距離によって勝敗が変わるそうです。
遠距離だとイージス艦に軍配が上がるそうです。
理由はミサイルの方が射程が長いから。
大和の砲弾の届かない所から攻撃できるわけですから、一方的に叩くことが出来ます。
ただし大和はとにかく頑丈ですから、ちょっとやそっと撃ち込んだところで沈まないでしょう。
けど大和はイージス艦にダメージを与えられないので、たとえ沈まなかったとしても、結局は被弾だけして終わりということになります。
だから遠距離だとイージス艦の勝ちです。
逆に近い距離で戦った場合は大和が有利だそうです。
大和の大砲が一撃でも当たればイージス艦は吹き飛ぶでしょう。
装甲が薄いですから、世界最大の艦砲を喰らえばひとたまりもありません。
また大和には無数の機銃が装備されているので、これをかわし続けるのも無理があるでしょう。
近距離での撃ち合いとなれば、たとえミサイルを持っているイージス艦でも負けてしまうかもしれません。
スピードと迎撃能力を活かしてしばらくは戦えるかもしれませんが、結局はジリ貧だと思います。
戦艦を単体同士で比べた場合、現代の方が強いとは言い切れません。
ただし現代は航空機が発達し、ミサイルやレーダーの性能も上がっているので、昔の戦艦が活躍できる場所はありません。
今は兵器単体の性能で勝敗が決まるのではなく、他の兵器との組み合わせでいかに力を発揮できるかが重要だからだそうです。
昔は一騎当千と呼ばれるほど強い武将がいました。
でも技術の発達に伴い、武器の強度や加工技術が上がり、なおかつ戦術が発達していく中で、一騎当千と呼ばれる武将は消えていったそうです。
個人の力量よりも、個々が力を合わせて上手く戦う方が遥かに強いからです。
三国史最強と名高い呂布でさえ最後は捕らえられてしまったそうですから。
戦艦もこれと同じで、単体の強さだけ求める時代はもう終わったのでしょう。
昔の戦艦と現代の戦艦、勝敗を議論することに大きな意味はなさそうです。

稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十二話 副作用の恐怖(2)

  • 2018.11.17 Saturday
  • 10:32

JUGEMテーマ:自作小説

例の薬で人間に変わってしまった動物の一人、ロッキー君。モンブランにしつこくナンパしてきた彼だ。
犬の時はラブラドールレトリバーが入った雑種だったららしく、飼い主が引っ越す時に邪魔だからという理由で捨てられたそうだ。
そんな彼に案内されて、例の薬を使った動物の溜まり場へやって来た。
ここは大きな川を渡す橋の袂、夜になれば虫の声しか聞こえない僻地である。
荒れた遊歩道に草が茂った河原。
橋桁には「火気の使用禁止」と看板が貼り付けてある。
何年か前まで若者がよく騒いでいたのだが、ボヤ騒ぎが出てから注意書きが貼り出されたのだ。
日中は犬の散歩をする人がいたり、キャッチボールをする親子がいたり、バイクでウィリーの練習をする人がいたりと、そこそこ人がいる。
でも夜になれば誰もおらず、明かりは橋の上から漏れてくる街灯だけ。
夜は一人で来たくないほど静かで薄暗い場所なのだ。
「なあロッキー君、ほんとにここが溜まり場なのか?誰もいないようだけど・・・・。」
「変だな。この時間にはたくさん集まってんのに。」
ボリボリと頭を掻いている。
モンブランが「騙したんじゃないでしょうね」と睨んだ。
「私をナンパして人気のない場所へ連れて来る気だったんでしょ。」
「違うって。」
「だったらなんで誰もいないのよ。ここへ連れてきてイヤらしいことする気だったんでしょ。」
「え?やらせてくれんの?」
「なわけないでしょ!」
「ふぎゃ!」
また蹴飛ばされている。
モンブランもモンブランだが、ロッキー君もなかなか変わっている。
「なあマシロー君、彼はウソを言ってると思う?」
「どうでしょう。でも彼に薬を渡したことは間違いないんです。だったら同じ仲間同士で集まっている可能性は高いと思いますよ。」
「なら今日はたまたま誰もいないってことなのかな。」
「まだ来たばっかりですし、そう急いで結論を出すこともないでしょう。もう少し待ってみませんか?」
「そうだな。」
しつこくナンパするロッキー君と、それを蹴飛ばすモンブランを尻目に、薄暗い辺りを歩いてみた。
クンクンと臭いを嗅ぎ、気になる所にはマーキングだ。
「有川さんもすっかり犬ですね。」
「困るよなあまったく。・・・・あ、ここにも掛けとこ。」
「僕もちょっと我慢していたんですよ。失礼して。」
用を足し、辺りを散策し、モンブランとロッキー君のやり取りを眺めていると、夜空に浮かぶ月の角度が変わっていた。
月の動きを見て何分経ったかなんて分からないけど、そこそこ経っているんじゃなかろうか。
「もう30分くらい待ってるよな?」
「ですね。あと少し待って誰も来なかったら帰りましょう。ロッキー君を連れて。」
大人しくついて来てくれるといいが・・・・まあモンブランの尻を追っかけてくるから平気だろう。
「ねえ悠一!コイツほんとにしつこいの。川に落っことしていい?」
「ちょっとくらい仲良くしてやったらいいじゃないか。」
「イヤよこんなチャライ奴。私は一本筋の通ったオスがいいの。」
「ほう、そういうのがタイプなのか。」
「だいたいコイツの正体は犬でしょ?なんで猫の私をナンパするんだか。」
「でも今は人間じゃないか。」
「これは仮の姿よ。心はお淑やかな猫のままなんだから。」
都合よく人間と猫を使い分けやがる。
するとロッキー君が「でも先生だって見た目はチャライんだぜ」と言った。
「先生?」
「だから霊獣の先生、俺たちに人間の常識を教えてくれるんだ。」
「そういえばそんなこと言ってたわね。」
「金髪でリーゼントでさ、やたらとカッコつけたがるんだ。」
「へえ、そんなオスはぜったいにお断りね。」
「でも中身は芯があるんだぜ。男気あふれる霊獣なんだ。」
「アンタは見た目も中身もチャライでしょ。ていうか馴れ馴れしく近寄ってこないでよ。」
「俺も先生みたいな髪型にしてみようかなあ。ついでにバイクスーツを着て真っ赤なマフラー巻いて。」
なんだろう・・・・なんか聞き覚えのある特徴が・・・・。
「ねえ悠一、それってアイツのことじゃないの?」
「いや、まだ断定はできない。」
「でもそんな変なカッコの奴なんてアイツくらいしかいないじゃない。」
「いいかモンブラン、探偵は何事も憶測で決めつけちゃいけないんだ。しっかりとした調査で裏付けを取ってからだな・・・・、」
そう言いかけた時、ロッキー君が「来た!」と叫んだ。
「先生!ここここ!ここっす!」
ブンブン手を振っている。
暗闇の向こうから誰かがやって来る・・・・。
橋の上から坂道を下りてくるシルエットが。
「ねえ悠一、なんか小さな乗り物を漕いでるわ。」
「そうだな・・・・。」
「あれって三輪車なんじゃない?」
「・・・・・・・・。」
「だったらやっぱりアイツよ。」
「いや、まだ断定は・・・・、」
「先生〜!」
ロッキー君が駆けていく。
三輪車を漕ぐシルエットがだんだん近づいて来て、その姿を露わにした。
「先生!こんばんわっす!」
「おう。」
カッコつけて三輪車から降りている。
首に巻いた真っ赤なマフラーをはためかせながら。
「今日早いなお前。」
「そうっすか?」
「今晩はいつもより遅く集合って言ったろ。」
「・・・・ああ!そうでした!三輪車のメンテナンスがあるからって言ってましたね。」
「俺の愛車だからな。ちなみにオフロード用のタイヤにチューンアップしたんだぜ。」
「おお、かっけえ!」
「サスペンションも付けたんだ。ついでにナックルガードもよ。これでどこでも走り放題だ。」
「さすが先生っすね!これも人間の常識ってやつですか?」
「まあな。お前らも人間の常識を覚えりゃ街で生きていける。もうクソみたいな飼い主を恨む必要もなくなるんだ。」
「せ、先生〜・・・・。アンタは俺らの希望っす!」
「おいよせよ。向こうで誰かが見てるじゃねえか。」
そう言ってこっちを見る。
そして固まった。
「・・・・お前らなんでここにいるんだ。」
すごいバツが悪そうな顔をしている。
面白いので写真に撮りたかったが、あいにくスマホがない。
「ほらやっぱりチェリー君じゃない!」
モンブランが嬉しそうに言う。
「私の推理が当たったわけね。」
「そうだな・・・・。」
「じゃあこれからは私が探偵ってことでいいわよね?」
「やめろ、三日で潰れる。」
モンブランは「チェリー君!」と駆け寄り、「まさかアンタが先生だったとはねえ」とバシバシ肩を叩いた。
「困った動物の為にひと肌脱ぐなんて。いいとこあるじゃない。」
「ま、まあな・・・・。」
「でもどうしてこのこと黙ってたの?さっさと教えてくれればよかったのに。」
「まあ・・・それはアレだ。これは俺のプライベートなことだからよ。私情と仕事は分けねえとと思って。」
「なによそれ?カッコつけちゃって。」
またバシバシ肩を叩いている。
するとロッキー君が「モンブランちゃんって先生の女だったんですか!?」と驚いた。
「くあ〜!俺めっちゃ恥ずかしいじゃん。先生の女に手え出そうとしてたなんて。」
「はあ!なに誤解してんのよ。チェリー君はただ一緒に住んでるだけだから。」
「い、一緒に!てことは夫婦も同然で・・・、」
「だから違うってば!」
また喧嘩を始める二人。
チェリー君はコソコソっと抜け出して俺の方へやって来た。
「お前なんでここにいるんだよ?」
「ロッキー君に案内されたんだ。」
「アイツに?」
「夜の商店街を歩いてたらモンブランがナンパされちゃって。話してるうちにお互いの正体が動物だって分かってさ。」
「それでここに案内されたのか?」
「自分たちの為に力を貸してくれる霊獣がいるって言われてな。でもまさか君だったとは。」
「いや、まあ・・・こうなったのは偶然っていうか・・・・。」
恥ずかしそうにそっぽを向いている。
チェリー君は見た目はアレだけど、中身は男気のあるいい奴なのだ。
俺たちにこの事を話さなかった理由はなんとなく分かる。
「君は人間のせいで辛い目に遭った動物を助けてあげたかったんだろ?」
「そんなんじゃねえけど・・・・、」
「顔にそう書いてあるよ。」
「う、うっせえな!分かったようなこと言いやがって。」
「でもそのことを俺たちに喋ったら、彼らは動物に戻されるかもしれない。そうなればまた野良に逆戻りで、飼い主への恨みを抱いたまま生きることになる。
生活だってその日暮らしだし、自由の代わりに危険もいっぱいある。だから黙ってたんだろ?」
「ふん!どう想像しようと好きにすりゃいいさ。・・・・ただよ、奴らは霊獣じゃねえし、ほんとの人間でもねえ。
ほっといたら悪さするかもしれねえし、生きることにも苦労するだろうから、ほんのちょっとアドバイスをと思ってだな・・・・、」
それを手助けというんだけど、意地っ張りなので認めようとしない。
ただ気になるのは何がキッカケでロッキー君に出会ったのかということだ。
「まさかとは思うけど、ずっと前から薬の存在を知ってたとかじゃないよな?」
「なわけねえだろ。それならさすがに言ってるっての。」
「じゃあどうして?」
「だからたまたまだよ。街をブラブラしてる時に変わった人間がいてよ。犬みてえにあちこち臭いを嗅いで、片足上げて立ちションしてやがんだ。」
「なんかどっかで聞いたことある話だな・・・・。」
「どう見たって変だと思うじゃん?だから声かけたわけさ。お前何やってんだ?って。そっからだよ、色々話を聞いて事情を知ったのは。
このままほっとけばぜってえトラブルになると思ってよ。いっちょ俺が面倒みてやるかって。」
「なるほど。」
ロッキー君はまだモンブランを口説いていて、もはやチャライを通り越して呆れてしまう。
でもそれは単にしつこい男というだけじゃなくて、犬の時のクセが抜けていないんだろう。
ロッキー君は明らかに発情していて、自分の気持ちだけで突っ走っている。
「前は良い女見つけるとケツに乗っかろうとしてたんだぜ。」
「それ捕まるだろ・・・・。」
「だから俺が面倒見なきゃって思ったんだよ。しかも他にもそういう奴らがいるって言うからよ、じゃあまとめて連れて来いって言ったんだ。
あとちょっとしたら集まってくるはずだぜ。」
「そっか。なら待つよ。でも・・・・、」
「分かってる。解毒剤を飲ませるんだろ。」
「手に入ったらな。チェリー君にとっては不本意かもしれないけど・・・・、」
「いいさ、現実を知ったから。」
「現実?」
「奴らに人間の常識を叩き込もうとしたんだけど無理だった。なにせいきなり人間に変わっちまったんだ。ちょっとやそっと教えたくらいじゃ動物だった頃の感覚は抜けねえよ。」
そう言ってモンブランとロッキー君を見つめる。
二人はまだぎゃーぎゃー言い合っている。
モンブランは「フシャー!」と唸り、猫パンチを繰り出した。
ロッキー君は舌を出しながら「ハッハッハ!」と犬みたいに息をして、隙を見てはモンブランの臭いを嗅ごうとしている。
「・・・・・・・・。」
「な?」
「もはや人間の姿をした猫と犬だ。」
「こういうことだよ。あのオカマはよかれと思ってやったんだろうけど、このままじゃ余計に不幸にしちまう。
だから今日で終わりにしようと思ってた。俺が解毒剤を手に入れてやるから元に戻れって。きっとその方がこいつらの為だ。」
悔しそうに歯噛みしている。
彼らが野良に戻ったところで幸せになれるわけじゃない。
ただ今よりはマシだからそうするしかないんだ。
チェリー君が歯噛みをしているのは、自分の無力さと彼らを捨てた人間に対してだろう。
「なあアンタ。」
「ん?」
「俺も本気で手伝うぜ。カグラとかいう会社を叩きのめすのを。」
「いや、叩きのめすまでやるかどうかは分からないけど・・・・、」
「何言ってんだ、ほっときゃまた似たようなことやらかすに決まってらあ。だいたい稲荷でありながらあんな薬をばら撒こうなんてよ、同じ霊獣として考えられねえぜ。」
「それは同感。本当なら動物たちを守る立場なのに。」
「俺は下っ端の霊獣だがよ、普通の奴にはない特殊な力を持ってる。」
そう言ってスウっと消えてしまった。
得意技の擬態である。
この擬態は目に見えないだけでなく、臭いも音も感じさせないし、体温さえ感じさせなくなるのだ。
それどころか霊力も感じさせないし、レーダーやソナーにも映らない。
先月に戦ったコウモリの霊獣の超音波でさえ彼を探知することは無理だった。
もはや無敵のステルスである。
ゆえに誰もこの擬態を見抜くことは出来ない。
たった一つの弱点を知っていなければ。
《チェリー君が協力してくれるならどんな場所にだって潜入できる。これは心強いぞ。》
いま一番ほしいのはカグラの情報だ。
遠藤さんの話だけではぜんぜん足りない。
あの会社は具体的に何をやっているのか?
それを知ることが出来れば、ウズメさんがカグラの壊滅に動いてくれるだろう。
そしてたまきも。
彼女は俺の師匠であり、そしてウズメさんの親友だ。
居場所さえ分かればきっと手を貸してくれる。
・・・ああ!あと解毒剤。
個人的にはこれが一番大事だ。
チェリー君ならカグラに潜入して奪って来てくれるかも。
「もう君だけが希望だ、頼んだぞ。」
「おう!任せとけ。」
前足を出して握手する。お手みたいになってしまったけど。
それからしばらく動物たちが来るのを待ってみた。
しかし待てども待てども誰も来ない。
月は雲に隠れ、明かりさえ薄くなっていく。
「なあチェリー君、誰も来ないようだけど?」
「おかしいな。今日はちゃんと集まるように言ってあるんだけど。」
「来てるのはロッキー君だけだ。まさか・・・・他の奴らは悪さでもして警察に捕まったんじゃ。」
「それはねえだろ。一人二人ならともかく、全員ってのは考えにくいぜ。」
「ちなみに前に集まったのはいつ?」
「一昨日だ。」
「つい最近か。じゃあみんないっせいに捕まるってことはないか。」
「ちょっと気になるなこれ。」
そう言って「ぶえっくし!」とくしゃみをした。
「あ、それってまさか・・・・、」
「クソッタレ!また出てきやがった。」
「一時は治まってたはずなのに・・・・。」
「また良くないことが起こるんだろうぜ。それがなんなのか分からねえけど・・・・ぶえっくしょ!」
最悪だ・・・・。
子犬に変わってしまっただけでも充分ヤバいのに、また何か起きるだなんて。
《次はゴキブリにでも変わるってんじゃないだろうな。》
想像しただけでもおぞましい。
嫌な考えを追い払おうと頭を振った・・・・その時だった。
突然目の前に何かが降ってきた。
「うおおお!今度はなんだ!?」
慌てて飛び退くと、そこにはよく知った顔がいた。
「あ、アカリさん・・・・?」
ものすごく怖い顔をしている。
今すぐ誰か殺しそうなくらいに・・・・。
「なんでこんな場所に・・・・?」
「あんたに用があるから。」
「俺に?」
「アカネ荘に行ったらマサカリが教えてくれたわ。夜の街に出て行ったって。しばらく探してたらここにいるのを見つけた。」
「そ、そうですか。あの・・・・子供さんは?大丈夫なんですか?」
恐る恐る尋ねる。
アカリさんはまったく表情を変えずにこう言った。
「もう命に別状はないって。」
「そうなんですか!よかった・・・・。」
「でも後遺症が残るかもしれない。」
「こ、後遺症・・・・?」
「まだ眠ったままなのよ。最悪はこのまま目覚めないかもって言われたわ。」
「それってつまり・・・・植物状態ってことですか?」
怖い顔がさらに歪む。
そしてふっと力を抜いて呟いた。
「殺してやる。」
「え?」
「薬を渡した奴を殺してやる。」
「アカリさん・・・・。」
本気の目だった。
声にも尋常じゃないほどの殺気がこもっている。
静かな声だけど、言葉は嘘じゃないって伝わってくる。
もし人間のままだったら全身に鳥肌が立ってるほどに。
「悠一君、手を貸して。」
「へ?」
「薬を渡した奴らを見つけるのに手を貸して。あとは私がやるから。」
顔が獰猛な獣に変わっていく。
怒りが抑えられないんだろう。
落ち着いて・・・・なんて言えない。
怖いからじゃなくて、子供をあんな風にされた親の気持ちを考えると・・・・。
「あの子達は言ってたわ。犬みたいな変な人間から薬をもらったって。そのあと山間の集落の稲荷神社でも。」
「ええ・・・たしかにそう言ってました。」
「どっちも殺してやる。絶対に許さない。」
「本気・・・・なんですね。」
「人間だろうと霊獣だろうと関係ない。どこまでも追いかけて息の根を止めてやる。」
怒りが膨らんでいく。
このまま稲荷に変わるのかと思ったら、力を抜いて人間に戻った。
それが逆に怖かった。
アカリさんはある意味冷静なのだ。
目的を達成する為に。
止めようのない怒りと、目的を成し遂げる為の冷静さ。
俺はどう答えていいのか分からなかった。
アカリさんの気持ちは痛いほど分かる。
でも誰かを殺す為に手を貸すなんてこと・・・・。
射抜くようなアカリさんの眼光、答えに窮して黙り込むしかなかった。
「なあよお。」
チェリー君が静寂を破る。
「ぜんぜん話が見えねえんだけど、なんかあったのか?」
アカリさんがチラリと彼を見る。
「彼も霊獣なんです。アカリさんなら見抜いてると思うけど。」
「知ってる、何度かお店に来てたことがあるから。」
「チェリー君は信頼できる仲間です。子供さんのこと、話していいですか?」
今度はアカリさんが黙った。
面識の少ない相手にこんな事情を喋ってほしくないだろう。
でも少しの間黙ってから、小さく頷いた。
「悠一君が信頼してるっていうなら。」
「ありがとうございます。」
チェリー君に事情を話す。アカリさんの子供たちに起きた出来事を。
すると血相を変えて「ほんとかそりゃ!」と叫んだ。
「ほんとだよ。アカリさんの子供は今もまだ病院に・・・・、」
「そうじゃねえ!」
そう言って俺を掴み上げる。
グラグラと揺さぶられて「やめろ!」と噛み付いた。
「痛ッ!」
「なに興奮してんだよ。」
「するさそりゃ!だってお前・・・・薬を渡した犬みたいな人間ってアイツにそっくりじゃねえか!」
「アイツ?」
「ロッキーだよ!」
「ロ・・・・・あああ!」
たしかにその通りだ。
犬みたいに舌を出して「ハッハッハ!」って言ったり、ひたすら臭いを嗅ごうとしていたり。
「でもたまたまじゃないのか?犬に変わった人間ならみんな同じようなことするんじゃ・・・・、」
「なに言ってんだ、マサカリはそんなことしてねえだろ。」
「言われてみれば・・・・。」
「人間なのにあちこち臭いを嗅いだり、足あげて小便したりよ。それってちょっとわざとらし過ぎんだろ。」
「ロッキー君は足上げてオシッコしたりするの?」
「最初に会った時はやってたんだよ。犬のウンチ嗅いだりな。だからこそ変な野郎だと思って声かけたんだ。」
「じゃ、じゃあ・・・・薬を渡したのはロッキー君?」
「断定はできねえ。本人に聞いてみるのが一番だろうぜ。」
そう言って「おいロッキー!」と呼んだ。
「ちょっとこっち来い。お前に聞きたいことが・・・・、」
言いかけて固まる。
「いねえ・・・。さっきまでモンブランのケツ追っかけてたのに。」
「ていうかモンブランもいないじゃないか!」
「あいつらどこ行きやがった?」
いつの間にか消えてるなんて・・・。
ロッキー君はともかく、モンブランはいったいどこへ?
するとその時、「先生〜!」と声がした。
ぽっちゃりした女が息を切らしながら走ってくる。
「おお花子、どうしたそんなに慌てて。」
「た、大変なの・・・・みんなが・・・・、」
「ちょっと落ち着け。ハアハア言ってんぞ。」
「倒れたんです!」
「なにい!?」
「ここに来る途中、急に胸が苦しいって・・・・。早く助けないと死んじゃう!」
「・・・・・・・・。」
チェリー君は呆然とする。
口を半開きにしたまま固まっていた。
「すぐ案内しろ!」
「こっちです!」
俺を放り投げ、女のあとを追っていった。
宙に投げ出された俺はアカリさんにキャッチされる。
「急に胸が苦しくて倒れるって・・・・。アカリさん、これってまさか・・・・。」
「・・・・・・。」
雲が流れ、月明かりが戻ってくる。
月光に照らされたアカリさんの顔は直視するのも怖いほどだった。

一度入ったら一ミリも出る気になれない 暖房器具の王様コタツ

  • 2018.11.16 Friday
  • 11:12

JUGEMテーマ:日常

冬といえばみかんとコタツ。
でも今年の冬はコタツを使わないでおこうと思います。
理由は気持ちよすぎるからです。
一度入ってしまうと出たくなくなります。
トイレに行くのさえ億劫で、一ミリもコタツから出る気になれません。
それにちょっと横になったが最後、そのまま長時間寝てしまいます。
コタツで一晩寝てしまった人も多いんじゃないでしょうか。
でもこれって体に良くないんですよね。
体温の調節が出来ないのと、目覚めた時にやたらと喉が渇きます。
風呂も歯磨きも忘れて次の日の朝になってしまうし。
ちょっと休憩のつもりが、目を開けると夕方なんてこともあります。
コタツは暖房器具の王様だと思っています。
ここまで人を気持ちよくさせる道具はそうはありません。
だからファンヒーターを買いました。
部屋中温めてくれるので、トイレに行くのも億劫じゃありません。
そのまま寝てしまうことも少ないし、とても便利です。
だけど気持ちよさで言うならやっぱりコタツです。
中に入ってしまったら、もう何もしたくなってくらいの気持ちにさせてくれますから。
寒い冬の日にコタツでヌクヌクする。
こんな幸せなことはありません。
満たされるんですよ、ある意味究極の幸福です。
人は不満があるから行動を起こします。
完全に満たされた状態では何をする気にもなれません。
最高の暖房であるコタツの弱点は、最高でありすぎるがゆえに人を怠け者にしてしまうことです。
あの気持ちよさを自力で断ち切るのは困難です。
冬における究極の幸福の一つ、コタツ。
今年は頼らないでおこうと思います。

稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十一話 副作用の恐怖(1)

  • 2018.11.16 Friday
  • 11:00

JUGEMテーマ:自作小説

「そんなことがあったんですか。」
源ちゃんがカリカリを頬張りながら言う。
ここは国民宿舎アカネ荘。
こがねの湯で子ギツネたちが倒れてから半日が経っていた。
症状はかなり重く、即入院となってしまった。
もう少し処置が遅ければ命を落としていそうで、数日は絶対安静。
我が子が危篤とあっては、母親としては不安で堪らないだろう。
アカリさんはしばらく仕事を休み、息子たちに付きそうことになった。
病院に駆けつけた時のアカリさんは、まるで死人みたいに血の気が引いて、ウズメさんに支えられないと立っていられないほどだったという。
いったいどうしてこんなことになってしまったのか?
アナグマ動物病院の霊獣の医者によれば、何かの中毒の可能性が高いという。
ピンときたウズメさんは例の薬のことを話した。
医者はすぐにその薬を調べたいと言ったので、遠藤さんの持っていた薬を預けた。
なにか分かったらすぐに連絡してくれることになっている。
『もう傍観してられないわ。しばらくお店は休業して、いったん稲荷の世界へ戻ることにするわ。』
アカリさんの子供がこんな事になって、ウズメさんも本気になった。
『もし用がある時は源ちゃんを通して言って。すぐに駆けつけるから。』
そう言い残し、こがねの湯の近くにある稲荷神社を通って、霊獣の世界へと帰っていった。
ウズメさんが本気で動いてくれるなら心強い。
あとはアカリさんの子供たちが良くなることを願うばかりだ。
その間、俺たちは俺たちのやるべきことがある。
まずは薬で人間に変わってしまった動物たちの捜索だ。
ほうっておけばあの子ギツネたちのように苦しむかもしれない。
まだ薬との因果関係はハッキリしてないけど、おそらくそれが原因だろう。
モンブランたちもすっかり元気になって、今は晩飯をがっついている。
また腹が痛くなっても知らんぞ。
「次から次へとおかしなことばかり。早急に手を打たんと。」
源ちゃんはカリカリを置き、険しい顔で腕を組んだ。
今朝、彼は俺のアパートへスマホを取りに向かった。
そして翔子さんに電話を掛けてくれたんだけど、番号が変わっていたようで繋がらなかったらしい。
俺の知らない間に変えられていたなんて・・・・ショックだ。
当然のごとくモンブランたちにからかわれた。
「とうとう見限られたのね」とか、「ダハハハハ!」と笑われたりとか、「これで逆玉の可能性もゼロだな」とか、「こうなることは分かってたじゃない」とか。
そもそも去年に翔子さんに会った時、マイちゃんと結婚することについて良く思っていなかった。
どうにか認めてもらうことは出来たけど、最初は『もう友達やめます』とまで言われたのだ。
『いくら霊獣だろうとタヌキと結婚するなんてどうかしてますって』かなり怒っていた。
やっぱり今でも怒っているのかもしれない。
モンブランたちは落ち込む俺を笑い続けた。
でもそうなるとカグラの調査は難しくなる。
翔子さんから口利きしてもらえないとなると、いったい誰を頼ればいいのか。
でも良い報告もあった。
源ちゃんはタカイデ・ココについて色々調べてくれたんだけど、いくつか目星い情報を掴んでくれたのだ。
まずオーナーの素性について。
名前は畑耕史といって、かつてはカグラにいたそうだ。
その頃には管恒雄と名乗っていたらしい。
どちらが本名か分からないけど、源ちゃんが言うには管恒雄が正しい名前である可能性が高いという。
おそらく素性がバレることを避ける為に偽名を使っているんだろうと。
そして偽名を使うということは、後ろめたいことがあるからだ。
・・・・遠藤さんは言っていた。
例の薬は付き合っていた男からもらったものであると。
その男がどこで薬を手に入れたかというと、タカイデ・ココのオーナーからである。
彼の忘れたポーチの中にその薬があったのだ。
オーナーはかつてカグラにいて、その時に薬を手に入れた可能性が高い。
ていうかそれしか考えられない。
それを隠す為、偽名を使っているのだろう。
しかもそのオーナーもお稲荷さんなのである。
源ちゃんはタカイデ・ココを張り込みしていた。
そして外に出てきたオーナーを注意深く観察したのだ。
するとある事に気づいた。
よく目を凝らしてみると、お尻の辺りに違和感を覚えたのだという。
もしやと思い、さらに注意深く見つめると、うっすらとキツネの尻尾らしき物が見えたという。
上手く消しているつもりでも、源ちゃんの目は誤魔化せなかったのだ。
『おそらく奴は位の低い稲荷でしょうな。上位の者なら猫又の私に見抜かれたりはしないはずだ。』
『元カグラの社員で、しかもお稲荷さん。てことは例の薬はカグラから持ち出した物ってことですよね?』
『だと思いますな。』
『ちなみに潜入は出来そうですか?』
『可能だとは思いますが、私一人入ったところでどうなるか・・・・。位は低くとも相手は稲荷です。猫又一匹では太刀打ち出来ない。』
『ならどうするんです?』
『微罪でも掴めれば警察の力を借りてガサ入れできるんですがね。』
『でも警察だけじゃお稲荷さんには勝てないでしょ?』
『いやいや、警察が踏み込めば奴も暴れることは出来ません。なぜなら人間の世界におる霊獣は正体を隠しておりますからな。
信用できる人間には正体を明かすことはあっても、公になりそうな状況で暴れるなど考えられない。』
『微罪かあ・・・・いわゆる別件逮捕的な?』
『そんなもんです。』
ついさっきまでそんな話をしていた。
二人して頭を悩ませていたんだけど、特に良い考えが浮かんでこない。
すると黙って聞いていた遠藤さんが「ちょっといいかな?」と手を上げた。
「なんだ?」
「タカイデ・ココってお店さ、ぜったいにカグラの息がかかってると思うのよ。」
「だろうな。オーナーの素性からすれば。」
「てことはさ、何か悪いことに使われてる場所じゃないかなって思うのよね。」
「例えば?」
「・・・そうねえ、例の薬の取り引きとか。」
「薬の・・・・。」
「あとは霊獣の売買。カグラは密猟が本業みたいなもんだから、獲物を売る必要があるじゃない?そういう時に使われてるんじゃないかなあって。」
「何か証拠でもあるのか?」
「だからそれがあるかどうか調べてみればいいじゃない。」
「調べるのが難しいから困っとるんだ。」
「だったら囮捜査ってのはどう?」
「囮捜査だと?」
源ちゃんは顔をしかめた。
遠藤さんの言いたいことは分かる。
猫又である源ちゃんがわざと獲物になれば、タカイデ・ココに潜入できるんじゃないかと言っているのだ。
しかしそれはあまりにリスクが高すぎる。
捕まったら何をされるか分からないし、最悪はそのままどこかへ売り飛ばされてしまうだろう。
源ちゃんもそれを分かっているようで、「アイデアとしてはアリだが・・・」と言葉を濁した。
「やっぱり無理?」
「成果を得られる可能性が低すぎる。」
「そっかあ・・・・名案だと思ったんだけど残念。」
「しかしタカイデ・ココが悪企みの現場として使われている可能性はあるだろう。だったら出入りしている客を調べれば何か掴めるかもしれん。」
「なら明日もまた張り込みってわけね。」
「実は今日だけで三人ほどの出入りがあった。」
「そうなの?だって張り込みしてたのって昼間でしょ?そんな時間からバーにお客が来るもんなのかしら。」
「だからこそ怪しいとも言える。顔は覚えているのでな、明日猫又の仲間と一緒にそっちの方面で当たってみるつもりだ。」
「でも顔だけ覚えててもどこの誰か分からないんじゃないの?」
「いや、一人だけ知っている顔がいてな。」
「そうなの?誰々?」
興味津々に身を乗り出す。
俺も「誰?」と詰め寄った。
「カマクラ家具の豊川という男です。」
「カマクラ家具・・・・それって・・・、」
「カグラのライバル会社ですな。」
「ていうかあそこの元社長ってダキニだよな?」
「ご存知なんですか?」
「まあちょっと色々と・・・・。」
「ダキニ殿は色々問題のある方だとたまきさんから聞かされておりましてな。あの会社は警戒するようにと言われておったんですわ。
ですので一応幹部の顔くらいは把握しとりますよ。」
「ならその豊川って男について調べれば何か分かるかもってこと?」
「タカイデ・ココは普通の店ではないでしょう。それに遠藤は前にこう言っとりました。カグラとカマクラ家具が共犯かもしれないと。そうだな?」
「ええ。鬼神川はちょくちょく向こうの役員と会ってたみたいだから。それにカグラの社員も二人そっちに移ってるのよ。」
「祝田と大川・・・元技術部の社員であり、薬を開発した張本人。それが今ではカマクラ家具の重役になっとる。」
「じゅ、重役!?」
「現在は瀞川と安志と名乗っているようでな。役職もそれぞれ専務と取締役だ。」
「なによそれ!なんでそんなに偉くなってんの!」
「分からん。しかし何かカラクリがあるんだろう。まあ豊川を追えばその理由も見えてくるかもしれん。」
「でも気をつけてよ。あの二人だってお稲荷さんなんだから。下手すれば返り討ちに遭うかも。」
「承知の上だ。」
源ちゃんはうんと背伸びをして立ち上がる。
残ったカリカリをポケットに詰めながら。
「では私は仕事に戻ります。」
そう言い残して部屋を出て行こうとするので「ちょっと!」と呼び止めた。
「なんですかな?」
「カーチェイスの件ってどうなったの?」
「・・・・ああ!すっかり忘れておりました。」
「ちょっとちょっと・・・頼むよ源ちゃん。このままじゃ人間に戻った時に逮捕されちゃうよ。」
「まあどうにかしてみせましょう。その代わりそっちも仕事をお願いしますぞ。
遠藤のせいで人間に変わってしまった動物の確保、それにアカリさんの子供に薬を渡した男の調査も。」
「そ、それも俺たちの仕事なの?」
「こっちはこっちで手一杯でしてな。まあウズメさんも動いてくれていることですし、どうにかなるでしょう。」
「じゃあ」と手を上げて去って行く。
カグラとタカイデ・ココの件は源ちゃんに頼むしかないけど、岡山で薬を捌いている男までこっちで調べろとは・・・。
《俺は動物探偵であって刑事じゃないぞ。》
そんな調査なんて自信がない。
遠藤さんから受けている依頼すら大変だというのに。
《せめて子犬じゃなければなあ。》
ああ・・・早く人間に戻りたい。
いったいいつになったら解毒剤が手に入るのか。
今でさえ人間であることを忘れてしまいそうな気になっているのだ。
このままいけば心まで犬に成りきって・・・・・って、悪いふうに考えるのはやめよう。
壁の時計を見ると夜の七時半。
今日は大人しく休んで、明日また仕事に取り掛かろう。
そう思って丸くなると、マシロー君に「なに寝てるんですか」と起こされた。
「夜なんだから寝るに決まってるじゃないか。」
「ダメです。野良犬や野良猫は夜に活発になるんです。」
「知ってるよ。」
「ということは人間に変わってしまった野良たちは、夜にこそ活動的になっているはずです。今なら見つけることが出来るかもしれません。」
「そうかもしれないけどさ、夜だと危険じゃないか?暗い中での捜索はやめた方が・・・・、」
そう言いかけたとき、モンブランに抱き上げられた。
「今から行きましょ!」
「コラ!降ろせ!」
「イヤよ。私たちは悠一の飼い主なんだから放っていけるわけないでしょ。」
「お前らと一緒だからイヤなんだ!どうせまたトラブルを起こすに決まってる!」
「大丈夫よ。ご飯もいっぱい食べたし元気いっぱい!ねえみんな?」
そう言って振り返ると、マサカリはお腹をなでながら寝そべっていた。
「うい〜・・・食った食った。」
「ちょっとマサカリ!寝てんじゃないわよ!」
「うっせえなあ・・・食ったら寝る・・・当たり前のことじゃねえか・・・・ムニャムニャ・・・、」
もう寝てしまった。
お前はのび太くんか。
「あ、チュウベエまで!ちょっと起きてよ!」
「う〜ん・・・・極上のミミズ・・・・もっと食わせてくれ・・・・、」
「あんた飲みすぎなのよ!一升瓶を三つも空にしちゃって!」
「そのミミズ・・・・マサカリの餌と交換してくれ・・・・ゲロ!」
「うわ汚い!」
飲みすぎて吐いている。
あの汚れた布団、誰が弁償するんだろう・・・・。
「こうなったらマリナ、私たちだけで行きましょ!」
「・・・・・・・・。」
「ちょっとマリナ。聞いてる?」
「・・・・ぐう。」
「なんでアンタまで寝てんのよ!」
マリナの横には大量の空き瓶が転がっていた。
お腹の健康を整える乳酸菌一兆個の飲むヨーグルトだ。
この手の飲み物はなぜか眠くなるものである。
俺もインドのヨーグルトみたいな物を飲んだ時、やたらと眠くなったことがあるのだ。
みんなムニャムニャと夢の中。
何度も呼んでも起きなかった。
「もう!アンタたちそれでも悠一の飼い主なの!?」
「お前らに飼われた覚えはないぞ。」
「だって今は私たちが人間じゃない。子犬の面倒みるのは当然でしょ?」
「そりゃありがたいけど、あんまり余計なことされると困るんだよ。今日は大人しく寝てさ、明日に備えよう。」
「イヤよ。だって私は猫なのよ。夜こそパワー全開なんだから。」
元気なのは分かるけど、俺をボールみたいに投げるのはやめてほしい。
「まあいいわ、こうなったら私だけで見つけてやるんだから。」
「おいやめろ!お前が一番危険なんだ。」
「それじゃ行きましょ。」
「あ、僕もお供します。」
マシロー君もトコトコついて来る。
遠藤さんが「気をつけてね〜」と手を振った。
ていうか遠藤さんもついて来てきれればいいのに。
まあ容疑者だから仕方ないけど。
モンブランに抱かれたまま夜の街へ繰り出す。
市街地の大通りにはそこそこ人がいて、昔に比べると人が増えたなあと感慨深くなる。
お店も増えたしマンションも増えたし、道路も広くなったしコンビニも「こんなにいるの?」ってくらいにある。
代わりに田んぼや畑が消えていって、田舎好きの俺としてはちょっと寂しい気持ちになる。
今は感傷に浸ってる場合じゃないけど。
「けっこう賑やかですね。」
モンブランの肩の上でマシロー君が言う。
「もう少し人の少ない街かと思っていました。」
「昔はそうだったんだよ。でもマンションやアパートが増えて引っ越してくる人も多いみたいだね。」
とりあえず大通りを歩いて商店街へ向かう。
以前は廃れていた商店街も、市が大金を投じて復活させたおかげで、今は賑わっている。
代わりにガラの悪い連中が屯することもあるけど。
最近だと違法薬物の売買をしている輩もいるようで、発展とともに治安も悪くなっていくんだなあと実感する。
「なあモンブラン、商店街は避けよう。子犬とハリネズミを持ったままじゃ目立ちすぎる。」
「目立つと悪いことあるの?」
「目立たない方が仕事がしやすいだろ。」
「いいじゃない目立っても。ていうか目立ちたいわ。」
そう言って嬉しそうに商店街へ入って行く。
「おい待てって!」
「イヤ。」
「周りを見てみろ、ジロジロ見られてるぞ。」
若い女が子犬とハリネズミを持ったまま歩いているのだ。
注目されない方がおかしい。
「あ、可愛い靴。」
店先に飾られたブーツに見入っている。
ゴソゴソとポケットを漁って、「ああ、足りない〜・・・」と残念がった。
「ファミレスでマサカリが食べまくったからちょっとしか残ってないわ。」
「ていうかお前らも散々食ってたろ。」
「また源ちゃんにねだらないと。」
「やめてくれ、俺の借金が増えるだけだ。」
羨ましそうにブーツを見つめながら、すぐに次の品に目移りする。
「あ、向こうの帽子も可愛い!」
「こらこら、買い物しに来たんじゃないぞ。」
「残念、また足りない。」
「300円しかないんじゃ何も買えないって。諦めて仕事しよう。」
「・・・あ、向こうにも可愛い靴売ってる!」
「人の話聞いてるか?」
こんな調子であちこち見て回って、気がつけば商店街を抜けてしまった。
これじゃただウィンドウショッピングをしに来ただけじゃないか。
「なによ、全然買えそうな物がないじゃない。」
「だから言っただろ、そろそろ仕事しよう。」
「飽きた、もう帰りたい。」
「お前なあ・・・・。」
自分から行こうと言ったクセにもう飽きるとは。
どうやら夜の街に遊びに来たかっただけのようだ。
まあいい。
あんまりウロウロしているとまたトラブルを起こしかねない。
俺も「帰ろう」と言った。
しかしその時、チャライ感じの男が「ねえねえ」と声を掛けてきた。
「いま何してんの?」
ポケットに手を突っ込んだまま遠慮もなく近づいてくる。
モンブランは「あんた誰?」と睨んだ。
「俺?まあただの通行人?」
「あっそ。じゃあさっさとあっち行けば。」
モンブランは相手にしない。
この手の男は猫の時から慣れているのだ。
本人いわくしょっちゅうオス猫からナンパされるらしく、その度にシッシとあしらっているのだという。
人間に変わってもそれは健在のようで、しつこく絡んでくる男に「ウザイのよ!」と怒っていた。
「あっち行かないと蹴飛ばすわよ。」
「おお怖!」
全然怖がっていない感じで言う。
そして「可愛い犬連れてんね」と俺に手を伸ばしてきた。
「ちょっと触らないでよ。」
身をよじって避ける。
男は「こっちはなに?ハリネズミ?」と興味津々だ。
「こんなの二匹も連れてるなんて変わってんね。」
「だから?」
「そんな拒絶しないでよ。」
「なに連れて歩こうと私の勝手でしょ。」
「誰もダメなんて言ってないじゃん。」
「私は忙しいの。あんたみたいなチャライ奴に構ってらんないのよ。」
相手にしていられないとばかりに男から離れていく。
しかししつこく「ねえねえ」と追いかけてくるので、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。
「ほんっとウザイわね!冗談抜きで蹴飛ばすわよ!!」
カっと目を見開いて睨みつける。
スネを蹴るフリをすると、「うお・・・」と男は飛び退いた。
「そんな怒んないでよ。」
「アンタがしつこいから怒ってんのよ!」
どこの誰だか知らなけど、そろそろ本気で逃げた方がいいだろう。
怒ったモンブランは蹴飛ばすだけでは終わらないだろうから。
しかしそれでも男は怯まない。
そしてこんな一言を放った。
「君さ、元は動物でしょ?」
「へ?」
「なんとなく俺たちの仲間って感じがするんだよなあ。」
「どういうことよ?」
「ただの勘だよ勘。なんなら当ててみよっか?たぶん・・・・・猫じゃないかな?」
「なんで分かるの!」
髪の毛が逆だっている。
こういう所だけ猫らしさが残っているのがちょっと面白い。
男は「ほらやっぱり〜」と手を叩いた。
「なんで!なんで分かるの?・・・・は!もしやアンタ霊獣なんじゃ?」
「違う違う。俺は霊獣なんかじゃないよ。」
「霊獣じゃないならなんで私の正体が・・・・、」
そう言いかけた時、マシロー君が「ちょっといいですか?」と口を挟んだ。
「あなた私のこと覚えていますか?」
「ん?」
キョトンとしている。
「私はあなたのこと覚えていますよ。高速道路の高架下で不思議な薬をもらったでしょう?」
「なんで知ってんの!」
今度は男が驚く番だった。
「ていうかハリネズミなのになんで人間の俺と会話出来てんだよ?」
「そういう体質なもので。」
「そうか、なら納得。」
《物分り良すぎだろ。》
ツッコミたい気分を我慢して男の話を聞く。
「たしかに妙な薬をもらったぜ。オカマみたいな人間からな。」
「その薬を飲んだ途端に人間に変わった。違いますか?」
「その通りだけど・・・・なんで知ってんの?」
「私もその場所にいましたから。」
「ええ!あん時ハリネズミなんていたっけ?」
「あなたに薬を渡した人のバッグに入っていたんです。ちょっとだけ顔を出していたんですが気づきませんでしたか?」
「まったく。」
「そうですか。それなら仕方ありません。」
前半はともなく、後半のやり取りはなんなんだろう・・・・。
男は「正体バレてんならやりやすいや」と言った。
「ねえそこの彼女。俺たちの溜まり場に来ない?」
「溜まり場?」
「人間に変わった動物たちが集まってる場所があるんだよ。」
「そうなの!てことはそこに行けば人間に変わった動物が全員いるってこと?」
「全員かどうかは分かんないけどけっこういるよ。ほら、俺たちって人間になったばっかで分からないことだらけだからさ。
みんなで集まって先生に教えを請おうってことになったんだよ。」
「先生?」
「霊獣だよ霊獣!しかもすげえ霊獣なんだって。」
「どうすごいのよ?」
「さあ?なんかすごいんだよ、うん。」
「ほんっといい加減ねアンタ。」
眉間に皺を寄せてイライラしている。
トントンと足踏みをしながら、「悠一どうする?」と尋ねた。
「もう私は満足したから帰ってもいいんだけど、悠一も帰りたいって言ってたわよね。」
「まてまて、俺は何も満足してないぞ。」
こんなことを聞かされて帰れるわけがない。
「君、悪いけどその溜まり場に案内してくれるか?」
「いいぜ。そっちの可愛い子も来るんだよな?」
可愛いという単語にだけ嬉しそうにしている。げんきんな奴だ。
「こいつも行くよ。な?」
「まあねえ・・・どうしてもって言うなら行ってあげてもいいわよ。」
「マジ?んじゃこっちこっち!」
調子に乗ってモンブランの手を引っ張る。
「気安く触らないでよ!」と蹴っ飛ばされていた。

稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十話 キツネの少年たち(2)

  • 2018.11.15 Thursday
  • 11:00

JUGEMテーマ:自作小説

「こんッッのバカタレども!!」
アカリさんの怒号が響く。
少年たちはビクっと怯え、肩を丸くしていた。
ここはこがねの湯。
事務所でアカリさんが怒鳴り散らしていた。
「あれほど人間の街には行くなって言ったでしょうが!」
バシン!とテーブルを叩く。
少年たちは「ごめんなさい・・・」と涙目だ。
「何度も危ないって注意したでしょ!なんで分からないの!?」
「だって面白そうだったから・・・・。」
「山にいてもつまんないし・・・・。」
「言い訳しない!!」
「ご、ごめんなさい!」
「もうしません!」
ひたすら謝る少年たち。
それでもアカリさんの怒りは治まらない。
俺は「ちょっと落ち着いて下さい」と宥めた。
「その子たちも反省してるみたいですし・・・・、」
「なによ?」
なんておっかない目なんだ・・・・。
元々怖い人ではあるけど、最近はちょっと怖すぎる。
「その子たちにも事情があるんじゃないかと思いましてですね・・・・、」
「アンタがなに知ってんの?」
「え?なにって・・・・、」
「ウチの子のなにを知ってんのよ?」
「・・・・なにも知りませんけど。」
「じゃあ黙っててくれる?」
「はい・・・・。」
これ以上刺激したら俺まで怒号の嵐に晒されるだろう。
モンブランが「情けないわねえ」と笑うけど、なんとでも言うがいい。
相手はお稲荷さんなのだ、本気で怒らせたら無事じゃすまない。
その後もアカリさんの説教は続いた。
事務所は気まずい空気に包まれる。
そこへウズメさんがやって来て、「終わった?」と尋ねた。
「まだです。全然反省してないんで。」
「そうかしら?目に涙がいっぱいだけど。」
そう言って少年の顔を覗き込む。
「ねえ君たち、お母さんがどうしてここまで怒るか分かるかな?」
「それは言うこと聞かなかったからです・・・・。」
「勝手に街に行ったし、変な薬で人間になっちゃったし・・・・。」
「そうね。でも一番はそこじゃないわ。」
椅子に座り、少年たちに向かい合う。
「アカリちゃんも座りなさい。」
「・・・・・・・・。」
「ほら。」
怖い顔をしたまま腰を下ろす。
ウズメさんは時計を見上げ、少し眉を潜めた。
時刻は朝の八時前。開店は九時だからそろそろオープンの作業をしないと間に合わない。
「モンブランちゃんたち。悪いんだけどお店を開けるの手伝って。」
「ええ!またこいつら雇うんですか?」
「だって仕方ないじゃない。こっちをほったらかすわけにはいかないし。」
俯く少年たち、鬼の形相のアカリさん。
俺は「そうですけど・・・」と答えるしかなかった。
「モンブランちゃんたち、ちゃんと仕事してくれたらご褒美をあげるわ。」
「ほんとに!?」
「この前はうやむやになっちまったけど、今日はぜったいだぜ!」
「もちろん。」
はしゃぐモンブランたち。
ウズメさんは松川くんを呼び、「その子たちお願い」と押し付けた。
「ええ!またですか・・・・。」
「ちょっと手が離せないのよ。」
状況を察した松川くんは「分かりました・・・・」とモンブランたちを引き連れて行った。
《すまんな松川くん。》
いつも損な役回りばかり。
いつか飯でも奢ってあげよう。
事務所は未だ気まずい空気のままだ。
ウズメさんは「お母さんは君たちが心配なのよ」と言った。
「君たちにはもう一人兄弟がいたわよね?」
「はい・・・・。」
「事故で死んじゃったけど・・・・。」
「飲酒運転のドライバーのせいでね。あの時はお母さんも死にかけた。だから心配でたまらないのよ。
いつまた事故が起きて子供を失うか・・・・。君たちが街をウロウロする度に気が気じゃなくなるの。
最近すごく感情的になってるのはそのせいでしょ?」
そう言ってアカリさんを振り向くと、「はい・・・」と頷いた。
「だんだん大人になってきたせいか、前より行動範囲が広くなってるんです。今は人間でいえば中学生くらいだから、それは仕方ないのかなって。
でもやっぱり心配なんです。仕事が終わって家に帰って、だけどもし子供達が帰って来なかったらって・・・・。」
「そんなに大変なら言ってくれればいいのに。子供の面倒を見る為なら休んだって全然構わないのよ?」
「それは嫌なんです。」
「どうして?」
「事故の時、ウズメさんに助けてもらって稲荷になって、今でもこがねの湯で働かせてもらって・・・・ずっとお世話になりっぱなしです。
だったらこれ以上のワガママなんて・・・・、」
「そんな風に思ったりしないわよ。」
「でもこれは私の意地なんです。子供たちもこのお店も、私にとっての宝物です。だったらどっちも完璧にこなさないと。子供を言い訳に手を抜くなんてぜったいに出来ません。」
「アカリちゃん・・・・。」
困ったように眉を寄せるウズメさん。
アカリさんはとにかく真面目で頑固で、だからこそ自分を追い詰めて感情的になりやすくなっていたんだろう。
そんな母親を見て、少年たちはバツが悪そうに俯くしなかった。
「アンタたち、お母さんの仕事が終わるまでここにいなさい。勝手にどこか行ったら許さないわよ。」
鬼の眼光に身を竦めている。
アカリさんは出て行き、少年たちは再び涙目になっていた。
ウズメさんは苦笑いしながら俺を振り返る。
「君も大変よね、次から次へと色んなことに巻き込まれて。」
「まったく。」
「まあ今回のはアカリちゃん親子の問題だから。君が首を突っ込むことじゃないわ。ただ・・・・、」
テーブルの上には例の薬によく似た薬が置かれている。
緑と黄色のカプセル剤・・・・こいつが解毒剤だ。
しかしその数は二つしかない。
この薬・・・・喉から手が出るほど欲しいけど、俺が飲むわけにはいかない。
アカリさんは解毒剤を掴み、少年たちに向けた。
「今すぐこれを飲みなさい。」
それぞれに薬を手渡し、水の入ったコップを置く。
少年たちは迷っていた。
おそらくこんな体験は二度と出来ない。
もう少し人間のままで、人間の世界を楽しんでみたいんだろう。
しかしウズメさんの目はそれを許さない。
気圧された少年たちは薬を口に入れ、コップの水で流し込んだ。
ボワっと白い煙が上がる。
そして次の瞬間にはキツネに戻っていた。
《おお!すごい・・・・。》
ああ、俺も早く戻りたい。でも今はまだ我慢だ。
二匹のキツネは、まだ幼さが残るあどけない感じだった。
「事務仕事がたまっててね。今日はここに篭るわ。何かあったら言ってちょうだい。」
子ギツネたちはシュンと項垂れる。
いったいどうしてこんな事になってしまったのか?
その事情はすでに聞き出してある。
ここへ連れて来た時、アカリさんが鬼の形相で問い詰めたからだ。
山から下りて街をウロウロしていた時のこと、この前見た犬みたいな人間に再会した。
そいつは相変わらず犬みたいにあちこちの臭いを嗅ぎ、フラフラと通りを歩いていた。
過ぎ行く人たちは怪訝な目でそれを見ていたという。
子ギツネたちは好奇心をくすぐられた。
なにせなんにでも興味を示す年頃だ。
なんならちょっとからかってやろう、そういう気持ちで近づいた。
すると犬みたいなその人間は、自分から子ギツネたちに近づいてきた。
そしてポケットからカプセル剤を取り出し、目の前に放り投げたという。
こいつはいったい何なのか?
子ギツネたちは目を見合わせた。
人間からもらった物を口にしてはいけない。
常日頃アカリさんからそう注意されていた。
しかし目の前にこんな好奇心の惹かれるものを見せられてはじっとしていられなかった。
犬のような人間はそれを食べろとジェスチャーする。
子ギツネたちは少し迷いながらも、気が付けばペロリと飲み込んでいた。
胃の中に薬が入ったその瞬間、目眩が襲ってきてフラフラとよろけた。
倒れまいと踏ん張った時、前足は人間の手に変わっていた。
そしてお互いの姿を見て悲鳴を上げる。
前足だけでなく全身が人間になっていたからだ。
しかも服まで着た状態で。
犬のような人間はゲラゲラと笑った。
『ようこそ人間の世界へ。』
おどけながらそう言って、『でもすぐに戻っちまうけどな』と付け加えた。
『そいつは試験薬だ。モノホンが欲しいならここへ行くことだな。』
そう言って地図の描かれた紙切れを寄越した。
『人間の世界を楽しめよ。じゃな。』
酔っ払ったみたいにフラフラと去って行く。
少年たちは地図を睨んだ。
そこには一箇所だけ丸印がついている所が。
『ここに行けばさっきの薬がもらえるってことかな?』
『本物の薬がとか言ってたよね。これはすぐ効果が切れるって。』
突然の出来事に冷静でいられない彼らは、これからどうずべきか迷っていた。
そうこうしているうちに薬の効果が切れ、元の姿に戻ってしまう。
驚く子ギツネたち。興奮が高まっていく。
『これ面白いぜ!人間に変われるなんてさ!本物の薬をもらいに行こうぜ!』
『うん!そうすれば堂々と街に行けるよね。』
子ギツネたちは山の中へ引き返す。
というのも地図の丸印は山の反対側にあったからだ。
そこは山間の集落で、ほぼ老人しかいない過疎化の進んだ場所だった。
その集落には稲荷神社が建っていて、丸印はその場所に付いていた。
子ギツネたちは山を駆け抜け、山間の集落までやってきた。
老人が畑で野良仕事をしている。
奥には民家が並び、その下側には小さな棚田があった。
稲荷神社は集落から山道へ続く麓に建っている。
子ギツネたちはコソコソと駆け抜け、辺りを警戒しながら赤い鳥居を潜った。
しかしそこで弟が『いいのかな?』と立ち止まった。
『こっちの稲荷神社には勝手に行くなってお母さん言ってたよね?』
『そういえば派閥が違うからどうとか言ってたな。』
『派閥ってなに?』
『仲の良いグループみたいなもんだよ。』
『じゃあここのお稲荷様は違うグループってことなのかな?』
『かもな。でも気にすることないって。どうせそんなの大人の事情だし。それにここへ来ないと薬がもらえないんだし。』
『・・・・そうだよね。』
アカリさんの言いつけは気になるが、好奇心には勝てない。
稲荷神社を見渡すと、短い参道の向こうに階段があり、その上にはまた鳥居があった。
階段を登ると両脇には狐の像が控えていた。
奥には本殿がある。
あちこちに葉っぱが散っていて、草も茂っていた。
子ギツネたちは本殿へ近づき、扉の向こうにある御神体を覗き込んだ。
『お稲荷様、僕たちに薬を下さい。』
子ギツネたちはこう思っていた。
あんな不思議な薬を人間が作れるわけがない。
きっとこれはお稲荷様の秘薬なのだと。
だから本殿に祭ってある御神体に話しかけたのだが、返事は別の方向から飛んできた。
『お前らこれが欲しいのか?』
振り向けば人間の男が立っていた。
細身だが筋肉質で、獰猛な獣のような目をしていた。
手には例の薬を持っている。
『これ欲しさに来たんだろ?』
そう言って近づいてくる男に後ずさった。
『兄ちゃん・・・・、』
『ビビるなって・・・・。』
『そうそう、ビビることはない。俺はただコイツを配ることが仕事なんだから。』
『ぼ・・・僕たちの言葉が分かるの!?』
『これってもしかして・・・・、』
『そう、俺は霊獣だ。でもここに祭られている稲荷じゃないぜ。』
『え?違うの?』
『じゃあなんの霊獣?』
『んなことはお前らには関係ねえ。大事なのは薬が欲しいかどうかだろ?』
そう言って例の薬を振って見せた。
『欲しいならくれてやる。その代わり結果を聞かせてくれよ。』
『結果?』
『なんの?』
『だからこいつを使った感想だよ。なんでもいいんだ、ちょっと気になった事とかでもよ。』
『いいけど・・・・なんでそんなの知りたいの?』
『大人の事情ってやつさ。とにかく早く決めてくれ。ウダウダ言うならこいつはやらねえ。』
兄弟は迷った。
弟は不審に思い、『やめようか・・・』と弱気になる。
しかし兄は『平気だって』と強気だ。
『感想言うだけでもらえるんだから。』
『でもさ、もし人間のまま元に戻れなかったりしたら困るじゃん。』
弟の心配はもっともだったが、男は『解毒剤がある』と言った。
緑と黄色のカプセル剤を取り出し、『こいつを飲めば元通りだ』と。
『ちなみにこっちの感想も聞かせてくれよ。』
『いいよ。その代わりタダでくれるんだろ?』
兄は前に出てそれを欲しがる。
男は『ああ』と頷き、薬を渡した。
『俺はいつでもここにいるからよ。使い終わったら感想を言いに来てくれよ。』
『わかった。』
兄は喜んで薬を飲む。そしてさっきと同じように人間に変わった。
『早速飲んじまうのか。』
男は笑う。そして『気をつけろよ』と言った。
『人間になると動物の言葉は分からなくなるからな。困ったことがあっても同族を頼れねえぜ。』
『そうなの!でもまあ・・・・これがあるから平気かな。』
解毒剤。
もし仲間の助けが必要になればこれを飲めばいい。
兄は『お前も飲めよ』と促した。
弟は『ヒャオン!』と甲高い犬のような声で返事をした。
『ほんとだ・・・ただの鳴き声にしか聞こえなくなってる。』
『そいつも一緒だぜ。お前が何言ってるのか分かってねえ。』
『マジで?』
『そりゃ人間だからな。』
『早く飲ませてやんな』と急かされて、弟の口の中に放り込んだ。
煙が上がり、人間に変わる。
『兄ちゃん!いきなり飲ますなよ!』
『悪い悪い。だってこうしないと言葉が通じないからさ。』
『・・・やっぱ怖くなってきたな。元に戻りたいよ。』
『何言ってんだよ。これから人間の街へ探索に行こうぜ。ぜったいに面白いからさ。』
意気揚々とはしゃぐ兄、不安と心配に悩まされる弟。
男は『喧嘩するなよ』と笑った。
『街へ行きたいなら集落を下っていくといいぜ。麓の村まで出られるからよ。あとはヒッチハイクでもして街まで乗っけてもらうんだな。』
『ヒッチハイクってなに?』
『こうやって親指立ててりゃ、お人好しが車に乗っけてくれるのさ。』
『でも僕らお金持ってないんだけど。』
『んなもんいらねえよ。タクシーじゃねえんだから。』
背中を向け、『じゃあな』と手を振りながら去って行く。
少年たちはその姿を見送ると、教えられたとおりに集落の下へ伸びる道を向かった。
やがてさっきの集落より大きな村が見えてきた。
『ヒッチハイクってのをすればいいんだよな。』
道路に出て車を待つが、一向にやって来ない。
すると弟が『あそこバス停じゃない?』と指さした。
『でもバスはお金がいるんだぜ。』
『そっか・・・じゃあ車が来るのを待つしかないか。』
それからしばらく待ってみたが、やはり車は来なかった。
結局この日は街へ行くことを諦め、解毒剤を使って元に戻った。
夜、アカリさんが帰ってきて、『今日は街へ行かなかったでしょうね』と言った。
兄弟は『行ってないよ』とウソをついた。もちろん薬のことも喋らなかった。
そして翌日、またあの稲荷神社へ向かい、薬をもらった。
『こんなにすぐ新しいのをもらいに来たのはお前らが初めてだ。これで最後だからな。』
薬を受け取った兄弟は計画を練った。
あの集落から街へ出るのは難しい。
だったら家の神社で使ってから街へ出ることにしたのだ。
翌日、アカリさんが仕事へ向かったあと、薬を使って人間になった。
そして街へ向かったのだが、時刻はまだ午前六時前。
ほとんど人もおらず、開いている店も少なかった。
こんな街を探索しても面白くない。
そう思った兄弟は母のいる街へ向かうことにした。
最初はヒッチハイクをしようかと思った。
しかし近くのコンビニにトラックが停まっているのを見て、兄がこう提案した。
『あのトラックに忍び込もうぜ。』
『でもお母さんのいる街へ行くとは限らないんじゃない?』
『そんなの乗ってみれば分かるよ。もし違ってたら降りればいいんだし。』
強引な兄に引っ張られて、こっそりとトラックに忍び込んだのだ。
そのトラックは岡山から東に向かった。
高速道路に乗って、母のいる街へ近づいていく。
そしてサービスエリアで停まり、運転手はトイレへ向かった。
兄弟はこの隙にトラックを抜け出し、立ち入り禁止の階段を通って高速道路を降りた。
ラッキーなことに、そこはちょうどこがねの湯から近い場所だった。
『おいやったぜ!あれぜったいにお母さんが働いてる所だ。』
『うん、よくお母さんが言ってる建物と似てるもんね。』
少し近づいてみると看板が見えた。
そこにはこがねの湯と書いてある。
母から教わった、唯一読める文字だった。
いきなり会いにいったら驚くだろう。
そしてあんな遠い場所から会いに来たことに喜んでくれるはずだ。
兄はそう思っていた。
しかし弟はまだ不安で、しかもお腹が空いていた。
『兄ちゃん、なにか食べたい。』
『そうだな、俺も腹が減った。』
『ネズミでも捕まえる?』
『この姿じゃ無理だろうな。人間って鈍いから。』
『どうしよう・・・・。』
『人間が餌を食う所に行こうぜ。』
『そんなのどこにあるの?』
『前にお母さんが言ってたんだ、街にはファミレスっていうのがあるって。』
兄弟はこがねの湯から離れ、市街地へ向かった。
しかし何がどこにあるのか分からない。
だから思い切って道行く人に尋ねてみた。
『ファミレスってどこにありますか?』
犬を散歩させていたおじさんは『すぐそこだ』と教えてくれた。
それがさっきまでいたあのファミレスだった。
食い逃げして捕まり、代わりにマサカリがお金払って、どうにか見逃してもらったのだ。
ここまでのことをすればアカリさんが怒るのも当然だ。
けどこの子たちだけを責めるわけにはいかない。
一番悪いのは薬を渡した謎の男である。
例の薬を持っていたということはカグラの関係者か?あるいはどこかで拾っただけなのか?
・・・・おそらく前者だと思う。
遠藤さんは言っていた。鬼神川たちの真の目的を。
それは世の中を霊獣の住みやすい世界に変えてしまうこと。
その為には人間を排除しなければいけない。
じゃあどうやって排除するかというと、動物に変えてしまうのだ。
代わりに動物たちを人間に変え、霊獣に都合の良いように教育し、手足としてコキ使うのである。
モンブランたちを見ていれば分かるが、人間になりたての動物は常識に疎い。
いわば人間として真っ白な状態だ。
そこへ都合の良い教育を施せば、間違ったことでも正しいと思うようになるだろう。
じゃあどうしてそんなことをするのか?
『鬼神川が言うには「ある御方」がそう望んでいるからだって言ってたわ。それが誰なのか教えてくれなかったけど。
でも「ある御方」の望みは鬼神川たちにとっても都合のいいものだそうよ。上手くいけな稲荷の勢力を拡大できるからって。』
遠藤さんはそう言っていた。
要するに稲荷の力を拡大させる為に、こんな薬をばら撒いているのだ。
しかもこれはカグラの単独犯ではなく、ライバル会社のカマクラ家具が関わっている可能性もあると言っていた。
なぜなら鬼神川がちょくちょく向こうの役員と会っていたからだ。
名前はたしか・・・・そう、常務の豊川だ。
『これは私の勘だけど、あの豊川って人もお稲荷さんじゃないかって思うのよね。なんか普通の人間って感じがしなくてさ。』
それは大いに有りうることだと思った。
なぜならカマクラ家具はダキニが社長をやっていた会社だ。
だったら奴以外にも稲荷がいたっておかしくない。ていうか多分いるだろう。
そう考えると、ふと閃くものがあった。
鬼神川の言う「ある御方」とはダキニのことなんじゃないかと。
人間の世を霊獣の世に変えてしまう・・・・・ダキニならじゅうぶんに考えそうなことだ。
次から次へと問題が出てきて、どこから対処していいのか分からない。
優先順位をつけるとしたら、遠藤さんから依頼された、薬で人間に変わってしまった動物の捜索だろう。
お店を開ける準備が終わればモンブランたちは解放されるから、また街へ聞き込みに行こう。
そう思っていると、突然子ギツネたちが苦しみ始めた。
フラフラとよろけて倒れてしまう。
呼吸が苦しいのか大きく口を開け、やがて泡まで吹き始めた。
「ウズメさん!」
叫ぶのと同時に「どうしたの!?」と抱きかかえる。
「大丈夫!?ちょっと!」
「息が・・・・、」
「胸が苦しい・・・・、」
ヒューヒューと息を漏らし、痙攣を始める。
そしてすぐに気を失ってしまった。
「ちょっと!しっかり!!」
二匹を抱き上げ、急いで駆け出して行く。
「ウズメさん!」
「病院へ連れて行くわ!あとお願い!!」
いったいなんなんだ・・・・。
どうしていきなり苦しみ始めて・・・・、
「有川さん!」
今度は松川くんが血相を変えてやって来た。
「大変です!モンブランさんとマサカリさんが・・・・、」
「どうした!?」
「苦しいって倒れちゃったんですよ!」
「なんだってえ!!」
こっちまで病人が。
マジでどうなってるんだ・・・・。
アカリさんが二人を肩に担いで駆け込んでくる。
「大変よ!この子たち急に倒れちゃって!」
「モンブラン!マサカリ!大丈夫か!?」
「いま救急車呼ぶから!」
そう言って電話を掛けようとする。
しかしその手を止めて「あの子たちは?」と首をかしげた。
「実はアカリさんの息子さんたちも苦しいって言って・・・・、」
「はあ!?」
「さっきウズメさんが病院へ連れて行きました。」
「・・・・・・・。」
受話器を握ったまま固まっている。
するとマシロー君が「行ってあげて下さい」と言った。
「モンブランさんたちは僕らに任せて。」
そう言ってもアカリさんは動かない。
まるで金縛りにでもあってるみたいに。
顔からは血の気が引いていた。
松川くんが「アカリさん!」と叫ぶ。
「こっちは僕がやるんで子供さんの所へ!」
背中を押して事務所から連れ出す。
「たぶんアナグマ動物病院ですよ!あそこの獣医さんも霊獣だから!ここからならそう遠くないから早く!!」
グイグイと背中を押して店の外へ連れて行く。
マシロー君は受話器を取り、器用にプッシュボタンを押した。
「・・・もしもし?救急車をお願いします。場所はこがねの湯、スタッフが苦しいって倒れてしまって・・・・、」
マシロー君・・・・君はなんて冷静で頼りになる奴なんだ。
そしてなんで俺はこんな時に子犬なんだ!
苦しむモンブランとマサカリを前になにも出来ないなんて・・・・。
二人共お腹を押さえ、こんなに苦しそうにしているのに・・・・。
「うう・・・・ヤバイぜこれ・・・・、」
「マサカリ!しっかりしろ!!」
「ダメ・・・・もう・・・・我慢できない・・・・、」
「モンブラン!大丈夫か!」
「と・・・・、」
「と?」
「トイレに・・・・、」
「へ?トイレ?」
二人はよろよろと立ち上がり、バックヤードのトイレに入っていく。
そして数分後、すっきりした顔で出てきた。
「いやあ!危うく漏らすとこだったぜ。ファミレスで食い過ぎちまったみてえだ。」
「・・・・・・・。」
「私もヤバったかたわあ。ドリンクバーだっけ?あれで冷たい物飲みすぎたみたい。」
「・・・・・・・。」
「悠一、ちょっとパンツが汚れちまってよ。悪りいけど新しいの買って来てくれねえか?」
「私はあったかい飲み物お願い。女の子はお腹冷やすと良くないし。」
二人ともケロっとしている。
どうやら子ギツネたちとは違う理由で苦しんでいたらしい。
それから数分後、今度はチュウベエとマリナが倒れた。
チュウベエはサウナでふざけていて、マリナは水風呂に浸りすぎたせいで。
「あっちい〜・・・・蒸し焼きになっちまう・・・・。」
「いくら人間でも冷えすぎると動けなくなるのね・・・・。」
いったいこいつらはなんなのか?
どうしてトラブルを起こさないと気がすまないのか?
マシロー君が「すみません。救急車はキャンセルで」と電話を切った。

野良猫の世界

  • 2018.11.15 Thursday
  • 10:58

JUGEMテーマ:にゃんこ

JUGEMテーマ:生き物

近所に野良猫が増えてきました。
野良猫って多い時は多いんだけど、いない時は全然いないんですよ。
ここしばらくほとんど見かけなくて、でも一匹来ると釣られて増えていくようです。
夜になるとよく喧嘩の鳴き声がしています。
それぞれ縄張りがあるんで、それを守るのに必死です。
そのうちボス猫みたいな奴も来るでしょう。
目つきが鋭くて体も大きくて、いかにも野良って感じの面構えをしているのがボス系の猫です。
このタイプの猫が来ると野良界の様相は変わります。
まずオスの野良はほとんど追い払われてしまいます。
普通のオスじゃボスのオスに敵わないんですよ。
体格も力も闘争心も違うから、あっさりと負けてしまいます。
そうして自分が頂点に立ったボスは縄張りを拡大していきます。
そしてメスの野良猫が増えていきます。
ボスがオスを追い払うのは縄張りを一人占めする為。
そうすればメスを一人占めできるからです。
それに餌だって。
ボス系の野良が幅を利かすとさらに野良が増えます。
なぜならメスと交尾するからです。
いつの間にか子猫が増えていくんですよ。
ボス系のオスは立派なタマタマを持っています。
後ろから見ると、歩くたびにプリンプリン揺れるんですよ。
これは人間でもそうだけど、性欲と出世欲っていうのは比例するそうです。
世の中で成功する人ほど性欲が強いそうです。
きっと性欲っていうのは根源的なエネルギーなんでしょうね。
野良猫ともなればそういったエネルギーが強くないと生きていけないのでしょう。
メスでも女王タイプの奴はたくさん子猫を産みます。
オスと同じく性欲が強いのでしょう。
ちなみにメス同士でもバチバチ喧嘩します。
弱いオスには見向きもしないけど、強いオスはなるべく自分が独占したいからです。
だからライバルとなるメスがいると凄まじい喧嘩をするんです。
きっと本能的に知っているんでしょうね。
ボスになるようなオスとなら強い子を産めると。
今のところはボス系の猫はまだ来ていません。
要するに今は群雄割拠の時代です。
この頃は実に色んな猫が顔を見せます。
老猫、子猫、大人になりかけの猫、いかにも野良って感じの猫、かつて人に飼われていたであろう猫。
一番多いのはかつて人に飼われていたであろう猫です。
純粋な野良猫と違って、人に対する警戒心が薄いんですよ。
だから野良が集まる場所があると、そこに人がいると思ってやって来るんです。
そして甘えてきます。
グルグルと喉を鳴らし、抱っこしてもらったり撫でてもらったりすると喜びます。
これが完全な野良だったらまず一番に餌を求めようとするんですけどね。
けど人に飼われていたであろう猫は甘える方を求めてきます。
そしてボス系の猫がやって来た時、真っ先に追い払われるのも人に飼われていたであろう猫です。
とてもじゃないけどボスとなんか戦えないし、厳しい中を生き抜く強かさもありません。
人に順応した猫ほど、野良の世界では真っ先に爪弾かれてしまいます。
今は何匹か人に飼われていたであろう猫が野良として近所をうろついています。
でもその顔を見るのはそう長くないでしょう。
ボスが来れば居場所を失うからです。
そしてボスが来れば野良猫の顔ぶりも安定します。
オスは減り、メスもメス同士で喧嘩するから、弱いメスは居場所を追われます。
群雄割拠の時代が終わって、ボスによる天下統一が成されるわけです。
そうなったらより強いオスが来てボスが交代するまで顔ぶれはほとんど変わりません。
そしていずれボスもいなくなると、野良猫そのものが減っていき、またしばらく野良の顔を見ることもなくなります。
するとその隙を狙って、またどこかから野良が流れてきて、少しずつ増えていって、またボス系の猫がやってきて、猫同士の覇権争いが起きて・・・・・。
国破れて山河ありみたいな感じです。
猫の時代も人間と同じく移ろい、人間と同じことを繰り返し、人間も猫とさほど変わらないんだなあと、人間が動物であることを実感したりします。
生き物を見るのは面白いですよ。
そこには人間の再発見と再確認がありますから。

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