蝶の咲く木 第十六話 これが夢なら(2)

  • 2018.01.21 Sunday
  • 12:15

JUGEMテーマ:自作小説

終わりよければ全て良しというけど、中途半端な終わり方をした時はどうなんだろう?
天国に行くわけでもなく、地獄に落とされるわけでもなく、死後に違う星へ来るというのは、どう受け止めたらいいのか私には分からなかった。
私は今、子供の国という星にいる。
最初は天国かと思ったけど、傍を飛んでいる蝶が話しかけてきて、そうじゃないことを知った。
ていうか蝶が喋った時点で驚きだけど、『あんたも一緒だよ』と言われて、自分の身体を見た。
・・・・私は少しの間だけ気絶した。
あれだけ毛嫌いしていた虫に変わってしまうなんて・・・・。
地獄に落ちた方がマシだったかもしれない。
だけどこれは蝶に似ているけど蝶じゃあない。
正確に言うなら宇宙人モドキらしい。
ヴェヴェっていうこんな姿の宇宙人がいて、そいつとよく似た姿になってしまったというのだ。
いったい何がなんだかサッパリだけど、一つハッキリしていることがある。
もう私は人間じゃないってこと。
私の他にも宇宙人モドキはいる。
蝶みたいにその辺を飛び回っている。
そしてその中に混じってたくさんの子供がいた。
さっきの宇宙人モドキによれば、この子たちは不幸な死に方をした子供らしい。
虐待されたり、変態に殺されたり。
ヴェヴェってやつが、そんな子供たちをここへ連れて来るのだという。
《じゃあなんで私が来たわけ?全然子供じゃないんですけど・・・・。》
子供の国なのに大人が来てもいいのかな・・・・なんて考えながら、周りの景色を見渡した。
とんでもなく大きな木が連なっていて、下には雲海が流れている。
まるで神話のような世界だ。
《なんでこんな所に来ちゃったんだろう。》
忙しなく羽を動かしながら、空を飛ぶのも悪くないもんだなんて、妙に楽しい気持ちになってくる。
もしこれが夢なら、もう少し続いてくれてもいいかなと思った。
《まあじっとしててもどうしようもないもんね。どっか飛んでってみるか。》
せっかく羽を手に入れたのだ。
うじうじ困るくらいなら、ちょっと探索でもしてみよう。
これは夢か幻か?
どっちか分からないけど、全ては私の頭の中で起きている妄想のような気がした。
あの旦那と一緒にいるうちに、私もそういうクセがついてしまったのかもしれない。
まあいいさ、考えようによっては、こんな楽しいアトラクションはないんだから。
夢だろうが妄想だろうが、日常じゃ経験の出来ないことだ。
不倫で憂さ晴らしするよりよっぽど良い。
見上げた空は青く、あの向こうには何もない気がする。
《下へ行ってみるか。》
巨木の根を流れる分厚い雲海、こっちには何かありそうな気がした。
《ワクワクする!こんな気持ち久しぶり。》
童心が蘇ってくる。
まだ子供の頃、男の子たちに混じって、秘密基地やら山を探検したことを思い出す。
あの延長だと思えば・・・・うん、やっぱり楽しいアトラクションだ。
パタパタと羽を動かして、雲海を目指していく。
不思議なもので、空を飛ぶ能力を手に入れると、高い所がまったく怖いと思わなくなっていた。
とんでもなく高い木から飛び立ったのに、恐怖なんて一つもなかった。
《虫みたいな身体なんて嫌だと思ったけど、案外悪くないかも。》
住めば都、慣れれば天国。
虫には虫の良さがあるんだななんて思いながら、どんどん雲海へと近づいていった。
《すご・・・・まるで海みたい。》
木の根を流れる雲海は、日本海の荒波よりも波立っていた。
モコモコと膨れ上がったかと思うと、鳴門の渦潮みたいにうねっている所もある。
《う〜ん・・・近くで見るとちょっと怖いなあ。》
もし流されたりしたら、いったいどうなってしまうんだろう。
飛び込むにはちょっと勇気がいる。
《・・・ま、いっか。どうせ夢か妄想なんだし。死ぬことはないでしょ。》
怖い怖いと思いつつも、雲海へと近づいていく。
そしてあと数メートルいう所まで来た時、どこからか『入っちゃダメ!』と聴こえた。
『そこに飛び込んだら死ぬよ。』
『え?誰?』
キョロキョロ辺りを見渡すと、『ここここ』と後ろから声がした。
『大きな木の根元。根っこが突き出てる場所。』
『・・・・ああ!』
振り向けば、木の根が丘のよう突き出ている場所があった。
そしてその上には・・・・、
『何あれ・・・・?』
まるで電車みたいに大きなイモムシがいる。
大きな牙を動かしながら、ガシガシと木の根を齧っていた。
『・・・・・・。』
また気絶しそうになる・・・・。
だってこんなデカいイモムシ見たことない・・・・。
全身が茶褐色で、鳥よけの目玉みたいな模様がたくさん付いている。
頭からは半透明のオレンジ色の触覚みたいなのが出ていて、気味悪く揺らいでいた。
『こっちに来て。』
イモムシが言う。
私は『無理・・・・』と後ずさった。
あんな大きなイモムシに近づいたら、ひと口で食べられるに決まってる。
いくら妄想の中の出来事だからって、虫に食われるのはゴメンだ。
『じゃ。』
クルっと背中を向けて逃げ出す。
さっきいた枝の上に戻ろう。
すると『待ってよ』と声が追いかけてきた。
『いやあ!来ないで!!』
きっと私を食べる為に追いかけてきたんだろう。
あの大きな身体で、せっせと木を登っているに違いない。
《追いつかれたら殺される!》
右に旋回して、木から離れて行く。
だけど『待ってってば!』と声は追いかけてきた。
《嘘でしょ!まさか空を飛べるっていうの!?》
あの巨大なイモムシに羽があって、私を追いかけて飛んで・・・、
想像しただけでも吐きそうになって、『来ないでよおおおお!』と叫んだ。
『イモムシの餌になんかなりたくない!』
『誰も食べたりなんかしないって!』
『嘘!だったらなんで追いかけてくんのよ!』
『危ないからよ!上に戻ったら殺されるよ!!』
『殺しにきてるのはアンタでしょ!』
『違うってば!上に戻っちゃダメなの!ヴェヴェが来たら殺される!』
『イモムシに食われるくらいなら、宇宙人に殺された方がマシよ!』
『だからあ〜・・・・私はイモムシじゃないってば!』
後ろから迫ってくる気配は、だんだんと距離を縮めてくる。
そして・・・・ポンと私の羽を掴んだ。
『イヤああああああ!食べないでえええええ!』
思いっきり腕を振り回して暴れまくる。
誰か大人しく食われてやるもんか!
『イモムシの分際で・・・・人間を舐めんなよ!』
そう言って暴れまくっていると、『私も人間よ』と返ってきた。
『はあ!?イモムシが人間なわけが・・・・、』
『だからイモムシじゃないって言ってんでしょ!こっち見ろ!』
羽交い絞めにされてから、グイっと頭を振り向かされる。
そこにはいたのは・・・・、
『イヤああああああ・・・・って、あれ?』
『だから言ったでしょ、イモムシじゃないって。』
『私とおんなじ姿・・・・。』
『そうよ。私は元人間、柚子さんと同じ。』
『なんで私の名前知ってんの!?』
『旦那さんから聞いたから。』
『へ?旦那?』
『円香拓さん、オカルト雑誌の記者。あなたの夫でしょ?』
『・・・・・ごめん、全然状況が飲み込めない。』
追いかけて来たのがイモムシじゃなかったことはホっとしてる。
だけど別の意味で頭がこんがらがってきた。
『え?ちょっと待って・・・・なんであんたが旦那のこと知ってるの?』
『取材を受けたから。』
『はい?』
『あの大木の所で取材を受けたの。』
『取材って・・・・まさか・・・・、』
『それと死にそうなになってるのを助けてあげた。ステルスをヴェヴェに見破られて、頭を切り落とされてたわ。
それで雲海へ捨てられたの。私はさっきのイモムシの近くにいたから、急いで助けに行ったわけ。』
『うん、いや・・・ごめん。ほんと話が見えなくて・・・・、』
『頭を切り落とされても即死するわけじゃないわ。だからまだほんの少しだけ生きてた。
私は羽から繭を出して、慌てて円香さんの頭を包んだの。
それを屋敷のお爺さんのとこまで持っていって、あとはあの人に任せたわ。
幸いどうにか助かったみたいでよかったね。』
『・・・・・・そうね。』
思わず頷いてしまったが、何一つ理解出来なかった。
呆然とする私に向かって、『大丈夫?』と見つめてくる。
『大丈夫に見える・・・・?』
『全然。』
『じゃあ聞かないで・・・・。』
『あのね、円香さんはどうにか助かったけど、そこまで長くは生きられない。まずはそれを知ってほしいの。』
『へ?』
『首から下はクローンだから。もって10年、早いと3年で死んじゃう。』
『クローンって・・・・何言ってんの?』
『可哀想だけど仕方ない。あのお爺さんが余計なことするから・・・・。
この星のこと知ってもらおうとしたんだろうけど、ステルスくらいじゃヴェヴェの目は誤魔化せないのに。』
悔しそうに顔を歪めて、辛そうに首を振っている。
『だけど円香さんにいま死なれちゃ困るの。あの人にはこの星のことを記事にしてもらわないと。
それで地球に根を張るのを防いでもらわないといけないから。』
・・・・何度も言う。
さっきからまったく話が見えない。
いったいコイツは何を言っているんだろう?
話が見えないんじゃ質問のしようもないし、ていうか・・・・そろそろ夢から覚めてほしい。
『ごめん、旦那が病院で待ってるんだ。そろそろ起きてもいいかな?』
『気持ちは分かるけど、これは現実だから。』
『そうね、あんた達にとってはね。でもここは私の頭の中でしょ?
昨日から色々あってロクに眠れなくて・・・・車の中で居眠りしてるんでしょ?』
『ううん、ちゃんと起きてる。そもそもあなたをここへ連れて来たのは私だし。』
『はい?あんたが・・・・?』
『円香さんに手を貸してあげてほしいの。一人じゃ無理だろうから。』
『・・・・何を?』
『だからここの巨木が地球に根を張るのを。それを説明する為に連れて来たんだけど、さっきのイモムシが触覚で思いっきりあなたのことを叩き飛ばしちゃったの。
それで上の枝まで行っちゃったってわけ。幸いヴェヴェがいなかったから殺されずにすんだみたいだけど。』
とんでもないことをサラっと言う。
こいつが私をこんな場所へ連れてきた犯人?
もしそうだとするなら、今すぐにでも元の場所へ帰してほしい。
そう言おうとしたら、『ヤバ!』と慌て出した。
『ヴェヴェが来た!』
私の手を引いて、イモムシの方へ飛んでいく。
『ちょっと!』
『ステルス使うからじっとしてて。』
そう言って羽から糸を出し、私たちを包んでいく。まるで繭みたいに。
すると次の瞬間、その繭が弾けて、息が出来なくなっていた。
《え!え!何!?呼吸が出来ない!!》
このままでは死んでしまう・・・・。
どうにかしてよと叫ぼうとしたが、息ができないんじゃ声も出ない。
宇宙人モドキは私の手を引っ張り、どんどんイモムシの方へ連れて行く。
《ちょっと!離して!!》
ジタバタ暴れていると、ふと頭上の景色が目に入った。
《なにあれ・・・・・・。》
私たちによく似た生き物がこっちへ迫っている。
遠く離れているのに、背筋がゾワゾワっとするような、嫌な雰囲気を感じた。
《怖い・・・・。》
素直にそう思った。
あれは私たちに似てるけど、まったく同じじゃあない。
何かこう・・・・私たちが一般人だとするなら、あれは凶悪な犯罪者のような不気味さがあった。
《・・・・もしかしてあれがヴェヴェ?》
なんとなくそう思ったが、きっと間違っていないはずだ。
アイツは私とは違うし、私の手を引っ張ってるコイツとも違う。
枝の上にいたたくさんの宇宙人モドキとも違う気配を放っている。
なんていうかな・・・・とにかく近寄りたくないし、関わりたくないと思うような怖さがあった。
《アレ・・・・絶対に怒ってる。きっと大人の私がここにいるからだ。》
ここは子供の星。
ということは大人はお呼でないはずだ。
どこからか侵入した邪魔者を抹殺する為に、こっちへ迫ってるんだろう。
《怖い!早く逃げて!!》
アレに襲われるくらいなら、イモムシに食われる方がマシかもしれない。
とにかく一刻も早くヴェヴェから離れたかった。
しかし奴は飛ぶのが早く、あっさりと私たちまで追いついた。
《いやあ!》
明らかに怒っている・・・・平然とした表情をしているけど、直視できないほど狂気じみた目をしている。
殺されると思った・・・・今度こそ終わりなんだと。
だけどヴェヴェは私たちの近くで動きを止めた。
グルっと辺りを見渡して、ヒラヒラと触覚を動かしている。
『またステルスか・・・・。』
ボソっとそう呟くのが聴こえた。
顔をしかめ、腕を組み、『どうしようっかなあ』と何かを悩んでいる。
《何を困ってるんだろう?もしかして私たちが見えてないの?》
悩むヴェヴェを置き去りにして、私はどんどん引っ張られていく。
あとちょっとでイモムシへ辿り着く。
きっとこの大きな虫の後ろに隠れるつもりなんだろう。
いくらヴェヴェが怖い奴でも、さすがにこんだけデカい虫には勝てないだろうから。
《早く!》
あれだけ嫌だと思っていたイモムシの傍へ行くことを望んでる。
それくらいにヴェヴェの放つ怖さは異常だった。
《もうちょっと・・・・、》
そう思った瞬間、後ろから羽を掴まれた。
『捕まえ〜た。』
振り向くと、すぐそこにヴェヴェの顔があった。
《・・・・・・・。》
おぞましさと恐怖で声が出なくなる。
元々出ないんだけど、頭の中でさえ悲鳴を上げることが出来なかった。
ヴェヴェの羽は鏡のように光を反射して、私の姿を映し出している。
・・・いや、それだけじゃない。
羽から糸が伸びて、私の腕と足に巻きついていた。
『いやあ!』
今度は叫んだ。
ていうか声が出た・・・・。
さっきまで出なかったのになんで・・・・、
『あなた大人ね?』
そう言ってブチブチっと羽を毟られた。
『痛ッ・・・・、』
『どうやってここへ入り込んだの?』
今度は腕を掴まれる。
その力は万力みたいで、今にも潰れそうなほどだった。
『やめて!千切れる!!』
『質問に答えないなら本当に千切るわよ。』
指を突き刺されて、電気を流されたような痛みが走る。
『いだあああああああッ・・・・・、』
『どうやってここへ入って来たの?』
『そ・・・そこの!そこの宇宙人モドキが・・・・、』
『そこってどこ?』
『だから私の後ろ!手を引っ張ってるそいつ・・・・、』
『誰もいないじゃない。』
『え?そんなこと・・・・、』
言われて振り返ると、本当に誰もいなかった。
ついさっきまで私の手を引っ張ってたのに・・・・。
『あなた嘘ついたわね?』
『違う!ほんとにいたの!嘘じゃないってば!』
『大人は平気で嘘をつくからね。信用できないわ。』
ヴェヴェの目が狂気を帯びて、怒りに染まっていく。
私の腕はグチュっと音を立て、いとも簡単に千切られてしまった。
『ああああああ・・・・、』
『もう一度聞くわね。どうやってここへ入ってきたの?』
今度は頭を掴まれる。
指がこめかみに食い込んで、頭蓋骨が音を立てた。
『いやあ!助けて!!』
『助かりたいなら答えて。』
『だから本当だって!そこのイモムシから声がして、そうしたら私と同じような生き物が出てきたの・・・・。
そいつが自分で言ったのよ!私をここへ連れて来たって!』
ヴェヴェの怪力は私の頭を締め上げる。
あとちょっと力を入れられたら本当に死んでしまうだろう。
『嘘じゃない・・・・お願いだから信じてよ・・・・。』
泣いたのなんて何年ぶりだろう。
この身体、涙は出ないみたいだけど、涙腺があるならきっと泣いている。
結婚して優馬が出来てから、一度も泣いたことなんてなかったのに。
・・・・いや、そんな事はないか。
去年の始め、優馬は喘息の発作で死にかけた。
白目を剥き、痙攣を起こした時は、私の方が生きている心地がしなかった。
幸いどいうにか助かったけど、医者からは奇跡だと言われた。
死んでても全然おかしくない状態だったと。
あの時はさすがに泣いた。
ほんとにもうダメだと思ったから・・・・。
そして今、私自身がダメになろうとしている。
このヴェヴェって奴は、きっと私を殺すに違いない。
何をどう答えても、私の頭はグシャっと握りつぶされて・・・・、
『イモムシ?』
急にヴェヴェの力が緩む。
少しだけ頭が楽になって、ホッと息をついた。
『イモムシって何?』
『え?』
『どこにいるの?』
さっきまでの異常な狂気は消え、代わりにピンと張り詰めた緊張感が漂う。
『どこって・・・・そこにいるじゃない。』
私は丘のような木の根を指差した。
そこにはさっきと同じようにイモムシがいて、ガシガシと根を齧っている。
『・・・・どこ?』
『だからそこ。丘みたいな木の根の所。』
『・・・・・ほんとに?』
『ほんとにって・・・・もしかして見えないの?』
『・・・・・・・。』
ヴェヴェはじっと目を凝らす。
そして鏡みたいな羽を向けて、木の根を映した。
『チクショウ!』
『え!なに・・・・?』
『また涌いてきやがった!』
目に再び狂気が戻ってくる。
そのまま上へと舞い上がり、憎らしそうにイモムシを睨んだ。
《まさか・・・戦う気?》
ヴェヴェの殺気は尋常じゃない。
もし私が人間のままだったら、全身に鳥肌が立っているだろう。
イモムシとヴェヴェの殺し合いなんて見たくない。
きっとしばらく飯が食えなくなる・・・・。
そう思って目を逸らそうとした時、ヴェヴェはくるっと背中を向けた。
そして・・・・、
『あ・・・・・。』
あれだけおっかない奴が、慌てて上の方へと飛び去っていく。
ものすごい速さで逃げるもんだから、瞬く間に見えなくなってしまった。
『・・・・・なんなのいったい?』
ヴェヴェが消えた空を呆然と見つめていると、『大丈夫だった?』と肩を叩かれた。
『ひいッ!』
『私よ私。』
『・・・あんた!』
『危なかったね、大丈夫?』
『大丈夫なわけあるか!一人だけに逃げやがって!』
なんて薄情な奴なのか。
私をここへ連れてきた犯人なら、私を守れっていうんだ。
『危うく殺されるところだったじゃない!』
『ごめん。でも二人とも捕まったらそれこそ終わりだと思って。』
そう言ってイモムシを振り返り、『あの子のおかげで助かったわ』と肩を竦めた。
『あの子がいなかったら、私も柚子さんも殺されてた。』
『あのねえ・・・・こっちは腕を千切られたのよ!のほほんと笑うな!』
『ごめんごめん、でも宇宙人モドキに変わると、腕が千切れたくらいだとそこまで痛くないでしょ?』
『まあ言われてみれば・・・・、』
『人間のままだったらショック死してるよ。』
『そうだけど・・・・そういう問題じゃないでしょ!一人だけ逃げるなんて・・・、』
『だからゴメンってば。すぐ治してあげるから。』
宇宙人モドキは羽から糸を出す。
それを千切れた私の腕に絡めて、『はいこれでよし』と頷いた。
『腕くらいならこれで再生するから。よかったね。』
そう言ってニコッと笑う。
いったい誰のせいでこんな事になったと思っているんだろう。
『あのさ、あんたって・・・・、』
『遠野真鈴。』
『は?』
『私の名前。みんなからはなつって呼ばれてる。柚子さんもそう呼んで。』
私の怒りもよそに、屈託のない顔で微笑む。
もうなんと返事をしていいのか分からない。
ただ一つ言えることは、元の世界に帰りたいということ。
これが夢なら、今すぐ目が覚めてほしかった。

効果もあるけどリスクもある 民間療法は自己責任

  • 2018.01.21 Sunday
  • 12:12

JUGEMテーマ:健康

JUGEMテーマ:病気

アレルギーと寄生虫との関係は、今では有名なものになりました。
体内にサナダムシを宿すと、花粉症や喘息が治まるといった事例があるからです。
人間は長い時代、寄生虫と共に暮らしてきました。
そのせいで体内に抗体を持っています。
しかし寄生虫が少なくなった先進国では、この抗体が役目を果たせずに宙ぶらりんな状態になっています。
そうすると本来は寄生虫と戦うはずだった抗体が、人体に無害な物を攻撃し始めました。
花粉、そば粉、猫の毛、エビやカニなど、数え上げたらキリがありません。
これを解決する最も簡単な方法は、再び寄生虫を宿すことです。
抗体は対寄生虫用の武器として、無害な花粉やそば粉を攻撃するのをやめて、アレルギー反応が治まるというわけです。
こんなに有益な方法なのに、世間ではそう多く広まっていません。
なぜか?
一つは気持ち悪いからというのがあるでしょう。
いくらアレルギーを治す為とはいえ、体内に寄生虫を宿すのは、生理的に嫌悪感があります。
しかし一番の問題はリスクでしょうね。
例えばサナダムシを宿す場合、どんな種類のサナダムシでもいいというわけではないようです。
日本人の場合だと、海外のサナダムシを宿してしまうと、大きな病気になるリスクがあります。
またどれだけの数を宿すのか?といった問題もあります。
人体に寄生する虫は多くいて、回虫(かいちゅう)もその一つです。
昔は当たり前のように奇声していたそうですが、水洗便所に変わってからほぼ無くなったようです。
お腹に宿る回虫は、便と一緒に卵が排出されます。
汲み取り式の便所の場合、糞尿を肥料として使っていました。
すると土の中に卵が埋もれて、その土で採れた野菜を媒介に感染していたわけです。
水洗便所はこのサイクルを断ち切りました。
回虫も少数ならほぼ人体に影響はないそうです。
ただし数が多くなると病気の可能性が出てきます。
もう一つ、今では見かけなくなった寄生虫があります。
それは蟯虫(ぎょうちゅう)です。
私が子供の頃、蟯虫検査がありました。
けど今はほとんど無いそうです。
理由は衛生観念の向上により、感染者が少なくなったからです。
蟯虫は感染してもそこまで大きな病気になるものではないそうです。
ただし人類以外の霊長類、例えばチンパンジーなどが感染すると、重篤な症状に陥るそうです。
こっちの生き物なら大丈夫だけど、別の生き物だと悪さをする。
これも寄生虫の難しいところですね。
寄生虫を宿すと、アレルギー反応が治まるというのは事実です。
だけどその種類や数によっては、アレルギー反応以上の病気になってしまう可能性があるので、一般的には広まらないのでしょう。
医者は確実なことしか言えません。だからリスクのある治療は避けます。
有効ではあるけど危険でもある寄生虫を用いた治療。
それは医者の責任において、簡単に勧めることが出来ないものなんだと思います。
実は私もアレルギーと似たような症状を持っています。
冬に体温が上がると、全身が痒くなって蕁麻疹が出ます。
この時の痒さといったらかなり辛いです。
お風呂上り、たまに体が痒くなることがありますよね?
あれの何倍もキツいやつが全身を襲ってきます。
しかもしばらくの間続くんですよ。
私は偏頭痛も持っていますが、まだこっちの方がマシだと思うくらいです。
これはコリン性蕁麻疹という病気です。
体内から分泌されるアセチルコリンという物質が引き金になって起こるものです。
アセチルコリンそのものは人体に必要不可欠なもので、これが分泌されなくなると運動障害が起きてしまいます。
ただコリン性蕁麻疹を持っている人の場合、アセチルコリンが皮膚の下の神経を刺激して、ヒスタミンという物質を分泌させてしまうんです。
ヒスタミンは痒みの元となります。
これを防ぐ為には抗ヒスタミン剤を飲めばいいんですが、私の場合はあまり効き目がありませんでした。
どうにかならないかとネットで調べていると、「温熱療法」というのを見つけました。
運動したりお風呂に入ったりして、あえて体温を上げる方法です。
最初のうちはすごい蕁麻疹が出るんですが、回数をこなすとだんだんマシになってくるんです。
こんな良い療法があるのに、どうして先生は薬の処方を選んだのか?
病院へ行った時に尋ねてみました。
答えはこうです。
「苦痛を伴うやり方だし、必ず効果があるとは言えないから。今は薬で抑えるのが主流になってる。」
なるほど・・・・と思いました。
万人向けではないし、薬に比べると根拠が薄いってことなんでしょう。
要するに民間療法の域は出ていないってことです。
しかし私はこの療法でかなり症状が改善しました。
しましたが・・・・先生の言う通り、全員にお勧めできるものでもありません。
医者は責任がありますから、根拠が曖昧な民間療法をお勧めするわけにはいかないのでしょう。
でも私には効いたわけで、だけど医者はお勧めしたくないわけで・・・・。
難しいですね。
病気で苦しんでいる人は、とにかくその苦痛から解放されることを望んでいます。
もし治るというなら、藁をもすがる思いで飛びつくでしょう。
けど医者がそれをお勧めしてしまうと、何かあった時に問題になってしまいます。
最悪は症状を悪化させることもあるわけですし。
薬も万人に効くわけではありませんが、製薬会社が治験して、厚生省から認可をもらっている以上、科学的根拠に基づいての使用ができます。
対して根拠が曖昧な民間療法がはびこってしまうと、苦しむ病人の心につけ込んで、金儲けを企む輩が出てくるかもしれません。
効果はあるけどリスクが大きい。しかも科学的な根拠が曖昧だったりする民間療法。
そういう療法は自己責任で行うしかないということなんでしょうね。

蝶の咲く木 第十五話 これが夢なら(1)

  • 2018.01.20 Saturday
  • 14:31

JUGEMテーマ:自作小説

32年も生きていれば、人に話せないことだってあるものだ。
中学の時に万引きしただとか、高校の時に一度だけクスリをやったとか。
就職一年目の時には、超がつくほど自己中なお局様に、逆美人局を仕掛けたこともある。
友人のイケメンにお金を渡して、お局様にあてがってやった。
その写真をポストに放り込んだ次の日から、お局様は会社に来なくなった。
旦那と大喧嘩して、かなり揉めているらしいと、噂話が好きな上司が語っていた。
さすがにやり過ぎかなとは思ったけど、あのお局様の若手イジメは酷かった。
今なら確実にパワハラで訴えられているだろう。そう考えると、私を含め、若い社員を救ったと言えなくもない。
直近だと、一昨日に浮気相手に会っていた。
今の旦那に不満があるわけではないが、いかんせん妄想好きな子供じみた所がある。
家族は大事にしてくれるし、仕事も真面目にこなしているけど、男としてはどうも物足りない。
人柄は文句無しなので、人生のパートナーとしては最良の相手だけど・・・・。
でもねえ・・・・それでも満足できない部分はあって、それはこれからも変わらないだろう。
だから不満を解消する手は、必然的に外に求めることになる。
ウチの息子は重度の喘息持ちで、頻繁に近所の病院にお世話になっている。
そこに勤める壮年の医者と、少し前からそういう関係になっているのだ。
若くて好みの医者もいたけど、こちとらストレス解消で相手を求めているだけだ。
本気になられても困るというもので、あえて若いのは避けた。
不倫相手に選ぶなら、遊びは遊びと割り切ってくれる人の方がいい。
今付き合っているその医者には家庭があって、本気で私とどうこうなろうなんて考えていない。
だから一昨日の夜も軽く食事をし、近くのホテルでやることだけやって、早々に家に帰ってきた。
少し離れた所にある実家へ向かってから。
「優馬あ!ただいまあ〜!」
今年三歳になる息子は、じいじの膝から飛び跳ねてくる。
ギュっと私の膝に抱きついて、抱っこをねだってきた。
「ごめんねえ、用事で遅くなって。」
よっこらしょっと抱き上げて、実家のじいじとばあばにお礼を言う。
「ごめんね、いつも預かってもらって。」
いつものごとく小言を言われると思った。
ボランティアに励むのもいいが、もっと息子を見てやれと。
息子を預かってもらう際、適当についた嘘だったが、ボランティアといえばボランティアかもしれない。
おじさんの遊び相手をしてやっていると考えれば、じゅうぶんボランティアと言えるのではないかな?
・・・・なんて考えて、それはさすがに無理があるかと、頭から追い払った。
だが今日に限っては小言は飛んでこなかった。
代わりに予想もしない事を聞かされて、優馬を抱いたまま貝になってしまった。
「あんた何やってんの!拓ちゃん病院に運ばれたんだよ!」
ばあばが目を釣り上げながら怒鳴った。
「何度も電話掛けても出ないし、優馬がいるから私たちも病院に行けないし。」
「・・・・・・・・。」
・・・いつ?どこで?なんで?
矢継ぎ早に質問してから、「優馬見てて」と預けた。
「優馬も行く!」
「ダメダメ、発作が出たら困るから。」
ぐずる息子はじいじに抱えられ、「もうちょっとじいじとばあばと一緒に待ってような」と宥められていた。
「ごめん!帰りは明日になるかも。また電話するけど、今日は優馬お願いしていい?」
病院の場所はかなり離れている。
新幹線で4時間ほどといった所だろう。
ばあばは「いいから早く!」と背中を押した。
「ママ〜!」と叫ぶ声に後ろ髪を引かれながら、慌てて車に駆け込んだ。
「何やってんだか・・・・。」
今日は取材で遠くに行くと言っていたが、なぜ川で溺れる?
《ムー大陸の埴輪でも探してたのか?まったく・・・・。》
怒りとも呆れともつかないため息がでてくる。
しかしそれと同時に、さっきまで情事に勤しんでいたことが、急に恥ずかしく思えてきた。
こういう緊急事態、自分の行いというのは、かえって冷静に見えてくるものだ。
《もうそろそろ私も、自分の生活を改めないとな。》
ギアを入れ、急いで隣街の駅まで飛ばした。
ばあばの話によると、命に別状はないとのことだ。
しかし精神的にかなり参っていて、口も利けない状態だという。
そりゃ溺れて死にかけたんだから、ショックはショックだろうけど・・・・、
《頼むから鬱病だとかなんとか神経症になるのだけはやめてよ。優馬の喘息だけで手いっぱいなんだから。》
あの旦那から仕事を取ったら、それこそ子供と変わらない。
家計は私がフルタイムで仕事をすればすむけど、家に帰ってから大きな子供の面倒まで見る自信はない。
片や喘息で片や鬱病でなんて・・・・。
でもだからって見捨てることも出来ない。
心を病んだ人間というのは、傍で力を貸しても立ち直ることが無理な場合がある。
それなのにもし縁を切ってしまったりなんかしたら・・・・。
《しっかりすんのよあんた!ウチの弟みたいにならないでよ!》
数年前、心を病んで命を絶った弟を思い出す。
両親と私と、それに友人までが立ち直るのに力を貸したのに、ある日とつぜん姿を消してしまった。
次に弟と再会したのは警察署で、すでのこの世を旅立った後だった。
犬の散歩をしていた人が、橋の袂で首を吊っているのを見つけたという。
弟とは特別仲が良かったわけではない。
どちらかというと反りが合わず、大人になってからは距離を置いていた。
しかしそれでも、身内に自殺されるというのは言いようもないショックだった。
父も母も私も、それにあの子の友人も、深く悲しむと同時に、自分を責めた。
もっとどうにか出来たんじゃないか?
もっと親身になっていれば・・・・・。
大事な人が亡くなった時、後から考えてしまうのだ。
こうしていたら、ああしていたら・・・・と。
あの時みたいな思いをするのは二度とごめんだ。
駅に着き、切符を買い、自由席の窓際に座る。
空いている椅子があってホッとしながら、会ったらなんて話しかけようかと悩んだ。
「しっかりしろ!」と喝を入れるべきか、「ゆっくり休んで」と優しくするべきか?
答えの出ないまま、窓を流れる夜景を睨んでいた。
4時間ちょっとの旅を終え、在来線に乗り換える。
そこからさらにワンマンのローカル線に揺られて、目的の街までやってきた。
《うわ・・・・田舎。》
小さなホームを出ると何もない。
寂れた商店街のような道が続いていて、寂しく街灯が光っていた。
ロータリーの真ん中に経つ時計は0時前を指している。
ここからどうしたもんかと悩んでいると、幸い近くにタクシーが停っていた。
こんな田舎でも・・・・いや、田舎だからこそ必要になるのか。
白髪の運ちゃんに病院名を伝え、ほぼ暗闇の街を駆け抜けていく。
しばらく走ると、遠くにそこそこ大きな病院が見えてきた。
運ちゃんが言うには、○○市病院と書かれているが、個人の病院だという。
豆知識をありがとう。
小銭のお釣りはいいからと突き返し、慌てて病院へ駆け込んだ。
受付はすでに閉まっており、ご用の方は二階のナースステーションまでと書かれている。
受付の脇にある階段を駆け上がり、でっぷり太った看護師さんに事情を伝えた。
「ああ、はいはい。円香さんね。」
病室まで案内されると、そこは大部屋だった。
怪我は大したことないので、ここでも充分ってことなんだろう。
だけど問題は心の方だ。
口も利けないほどショックを受けているというので、顔を合わせた瞬間、第一声に何を話しかけるかが大事だろう。
看護師さんがシャーっとカーテンをめくると、虚ろな表情をした旦那が横たわっていた。
瞬きさえ忘れそうな顔で、じっと天井を睨んでいる。
傍には旦那の両親がいて、お義母さんが「柚子ちゃん!」と立ち上がった。
「お義母さん、遅くなってすいません。」
ペコリと頭を下げ、「どんな状態ですか?」と尋ねた。
「うん、怪我は大したことないんだけど、ショックで何も返事をしなくて・・・・。
お医者さんが言うには、一時的なものだろうって。時間が経てばちょっとずつ回復するだろうから、様子を見ましょうって。」
「そうなんですか・・・・よかった。」
一過性のものなら、心の病に罹る心配はあるまい。
弟の苦い思い出を振り払って、「お父さん」と呼んだ。
「大丈夫?私が分かる?」
手を握りながら話しかけると、少しだけ眉を動かした。
しかし言葉は返ってこない。
何度話しかけても、虚ろなまま天井を睨んでいるだけだった。
私はお義母さんを振り返り、「何があったんですか?」と尋ねた。
「いちおうウチの母から話は聞いたんですけど、いまいち要領を得なくて。
拓君は仕事でここに来てたんですよね?朝は遠出の取材だから泊まりになるって言ってて。」
「そうなのよ。読者の方からツイッター?メール?とか、インターネットで取材を申し込んだんだって。」
「それは私も聞きました。なんでも蝶の咲く木があるとかで。」
「そんなのあるわけないのに・・・いつまで夢見てるんだか。」
呆れたように息をついて、「でもそれがこの子の仕事だもんねえ」と頷いていた。
「それでね、その木の傍に大きな屋敷があるそうなんだけど、そこのお爺さんが助けてくれたそうなのよ。」
「お爺さんが?」
「拓が川で溺れてるのを引っ張り上げてくれたんですって。それで救急車を呼んで、ここまで付き添ってくれたって。」
「そうなんですか・・・・。そのお爺さんは?」
「私たちが来る前に帰られたみたい。明日ちゃんとお礼に伺わないと。」
「私も行きます。」
その日、私は病院に泊まることになった。
実家に電話して、ばあばとじいじに優馬のことをお願いする。
そして旦那の両親は近くのビジネスホテルへ。
お義父さんの足の調子が悪いので、ゆっくり休めるようにと、そっちへ泊まってもらうことにしたのだ。
そして次の日、医者から詳しい話を聞いた。
本当は昨日に聞きたかったんだけど、大した怪我じゃないからと、担当した医者はすでに帰っていた。
気い利かせて残ってろよ言いたかったが、口には出すまい。
悪い医者ではなかったが、話し方と態度がどうも上から目線の嫌な感じだったので、「どうもお〜」と目だけは笑っていない笑顔で病室から見送った。
そして医者と入れ替わりにやってきたお義母さんたちに、「転院の手続きがあるんで、ワーカーさんが後から来るそうです」と伝えた。
さすがにこの病院だと家から遠すぎる。
いつも優馬がお世話になっている所へ転院できないかお願いしたのだ。
「じゃあすいません、拓君をお願いします。」
私は旦那の着替えやタオルやらを買う為に、近くのいまむらとスーパーへ向かった。
田舎とはいえ、今はどこでも便利な店がある。
年取ったらこういう場所に住むのも悪くないかなあなんて思いながら、必要な物を買い揃えていった。
「しかしまあ・・・川で溺れるなんてねえ。たしかカナヅチじゃないはずだけど。」
去年の夏休みに行ったプールでは、息子の手を引きながら泳いでいた。
だけど川になると変わるもんなのかもしれない。
泳ぎが上手い人でも、海や川では溺れることがあるらしいから。
「医者は一過性のショックだっていうけど、もしそうじゃなかったらどうしよう。
しばらく入院って、実は酷い状態じゃないのかな?もしあのまま治らなかったら・・・・。」
嫌な考えが溢れて、「やめよ」と頭から追い払う。
肉親の自殺というのは、いつまで経っても暗い影を落とすのだなと、悲しいやら恨めしい気持ちになってきた。
・・・自殺っていうのは一番卑怯な逃げ方だと思う。
本人は死んで楽になるかもしれないが、残された者はそれを背負っていかないといけない。
弟がまだ生きるはずだった何十年という時間・・・・それがそっくりそのまま、私や両親や、あの子と仲のよかった友達に圧し掛かってくるのだから。
いつか私が寿命を終え、あの世で会ったなら、一発くらいひっぱたいてやらないと気がすまない。
・・・・まあ実際にそんな時がきたら、怒るどころか泣くだろうけど。
暗い感情を誤魔化そうと、見知らぬ街並みに目を向ける。
「あれ・・・・ここどこ?」
考え事をしていたせいか、さっき曲がるはずだった交差点がルームミラーに映っている。
どこかでUターンしようと思ったが、田舎の道は引き返そうとするドライバーに厳しかった。
「なんで一本道がずっと続いてんのよ!」
道路は広いクセに、決して曲がらせまいと、無意味に先へと誘導される。
しばらく走った後、ナビを見ながらどうにかこうにか迂回して、病院の近くへと戻ってきた。
しかしそこでも道を間違えてしまい、交差点を左に曲がってしまう。
その先には大きな川があって、それに沿うように細い道が続いていた。
・・・またしてもUターンが出来ない・・・・。
少し先に真っ赤な橋が見えてラッキーと思ったが、歩行者専用だった。
「だからあ・・・・もうちょっと引き返しやすいように作っとけっての!」
いつか田舎に住みたいと思った気持ちは、すぐに消え去った。
しかしその時、すぐ先の方に大きな木が現れた。
太い幹にたくさんの枝。
ただでさえ細い道を占領するように、根元はレンガで囲ってある。
「なんでこんな所にこんなデカイ木があんのよ!」
イライラが加速して、思わず舌打ちしてしまう。
「まったく・・・」と呟きながら、大木の脇を抜けようとした。
・・・その時、道路のすぐ近くに大きな屋敷があることに気づいた。
「おお、すごいなこれ・・・・。」
ヒビの入った土壁に、古びた瓦が乗っている。
その上には大木の枝がかかり、さらにその向こうには趣のある屋敷がそびえていた。
少しだけバックして、大木の手前に車を停める。
ドアを開けながら、大木と屋敷を交互に見つめた。
「これって・・・・、」
家を出る前、旦那が言っていたことを思い出す。
『蝶の咲く木ってやつを取材してくる。デカイ屋敷の傍にあるんだと。』
「ここで溺れたんだ・・・。」
大木の向こうにある、大きな川を振り返る。
「きっとあの木に登ろうとでもしたんだろうなあ。それで足滑らせて落っこちたんだ。」
夢のあるオカルト話には目がない人なので、興味の惹かれる物があると、周りが見えなくなるのだ。
木の下はコンクリートで舗装された堤防がある。
斜面になっていて、そのさらに下には小さな堰があった。
きっとここから田んぼとかに水を引いているんだろう。
「でも変ね・・・・あの木から落ちたら、下の堤防にぶつかるはずだと思うんだけど。
いったいどうやって堤防の向こうまで落ちたのか?
・・・謎ではあるけど、考えるだけ損な気がした。
「う〜ん・・・・川に未確認生物でも探しに行ったか?」
もしそうだとしても驚かない。
まあいずれにせよ、ここで溺れたことは間違いなんだろう。
・・・それよりも問題なのは・・・・、
「この屋敷、もしかしたら・・・・、」
旦那は屋敷に住むお爺さんに助けられた。
そして屋敷なんてものはそうそうあるものじゃない。
ここで溺れたのなら、あの屋敷のお爺さんに助けられたってことじゃないのかな。
「どうしよう・・・迷ってるうちに、旦那の命の恩人の家に来ちゃった。」
今日はお義母さんたちと一緒に、ここへお礼に伺う予定だ。
だけどこうして来てしまったわけで・・・・これはどうしたらいい?
私だけで伺うとお義母さんたちに申し訳ないような気がするし、それに菓子折りだって持って来てない。
命の恩人に手ぶらで挨拶は・・・・無いだろうな。
「いったん引き返すか。」
車に乗り込み、ゆっくりと走り出す。
するとその瞬間、目の前を蝶が横切った。
「え?なんで?」
虫に詳しくなんてないけど、冬に蝶が飛んでいないことくらい知っている。
それに・・・・、
「なんか光ってたよね、さっきの・・・・。」
ここで再び旦那から聞いた話を思い出した。
『その木には光る蝶が咲くんだって。ほらこの写真。』
そう言ってツイッターの写真を見せてくれた。
どう見ても何かのイルミネーションに思えたが、まさか本当に・・・?
《旦那ほど夢見がちな性格じゃないんだけどな・・・・でも気になるし。》
川原沿いの道を走り続け、どうにかUターンできる路肩を見つける。
そしてさっきの場所へ引き返すと、大木の枝に蝶がとまっていた。
「やっぱり光ってる・・・・。」
アゲハ蝶のような綺麗な羽をしたその蝶は、中に電球でも仕込んでいるんじゃないかと思うほど、ピカピカと輝いていた。
それと同時に、いつの間にか空模様も変わっていた。
さっきまでは青空だったのに、今は分厚い雲に覆われている。
「今日晴れじゃなかったっけ?」
不思議に思って見上げていると、光る蝶が飛んできた。
「いや、ちょっと・・・・、」
綺麗な蝶だけど、近くに来るのは勘弁してほしい・・・・。
私が触れる虫はテントウムシが限界なのだ。それも目を閉じてちょんと・・・・。
「あっち行って!」
ぶんぶん手を払っても、蝶はそれをすり抜けてくる。
それどころか私の頭にとまってきた。
「いやあ!」
バタバタと頭を叩きまくる。
しかし蝶は離れてくれない。
「ちょっと!ほんと勘弁して!!」
悪寒が止まらず、全身が泡立ってくる。
いっそのこと川に突っ込んででも払い落としてやろうかと思った。
「マジで離れろ!」
虫が頭にとまるなんて堪えられない・・・・。
もうここは覚悟を決めて、叩き潰すしかあるまい。
きっと内蔵とか出てくるんだろうけど、このままくっつかれるよりはマシだ。
拳を握って振り上げる。
そいつを思い切り頭にふり下ろそうとした時、おかしなことに気づいた。
「あれ・・・・手が・・・・、」
振り上げた腕が思うように動かせない。
なぜなら真っ白な糸が幾つも絡みついていたからだ。
その糸は頭の上から来ている。
ということは・・・・、
「ぎゃああああああ!」
蝶の羽から糸が出ていた。
ていうか今も出ている。
ワラワラと伸びてきて、私の全身を包み込んでいった。
「誰か!助けて!!」
怖いのと気持ち悪いのと吐きそうなのとで、とにかく叫びまくった。
しかしそんな事はおかまいなしに、糸は私を包んでいく。
やがて口まで塞がれて、息さえ出来なくなった。
《嫌だ!虫なんかに殺されたくない!》
・・・きっと私は餌にされるのだろう。
いや、もっと最悪なのは卵を産み付けられたりして・・・・、
《なんで・・・・なんで私がこんな目に・・・・、》
息が出来ないのと、虫に食われる恐怖とで、意識が保てなくなる。
身体も力が入らなくなって、地面を踏んでいる感覚さえなくなっていった。
《ああ・・・私・・・・ほんとに死ぬんだ・・・・。嫌だな・・・・。》
人が死ぬ時、走馬灯が見えるというけど、私には何も見えなかった。
頭に浮かんだのはただ一つ。
悔しいということだけだった。
32年生きてきた私の人生・・・・いったいなんだったんだろう。

嫌われ者の意義

  • 2018.01.20 Saturday
  • 14:29

JUGEMテーマ:日常

ドナルド・トランプさん、今でもかなり嫌われているようです。
芸人さんはネタにするし、ワイドショーではボロくそに叩かれたりするし。
だけどその分仕事が増えて喜んでいるでしょうね。
芸人さんにしろコメンテーターにしろ、何もない世の中の方がキツイでしょう。
だって喋ることがなくなってしまうから。
漫才もコントも、風刺の利いたものはけっこうあります。
爆笑問題のように時事ネタを扱う人達は、ある意味トランプさんって最高の人材でしょうね。
ヒラリーさんだとネタにしてもウケにくいでしょうから。
コメンテーターだってトランプさんの批判をしておけば仕事が来るんだから、儲けという意味では喜んでいるかもしれません。
彼が大統領に当選する前から、書店には「トランプとは何者か?」みたい本がわんさか置いてありました。
そんなもんだから、当選後なんてあちこちトランプさんの本だからけです。
物が売れるという意味では、やっぱり嫌われ者が出てきた方がいいんでしょうね。
だって人を褒めるって難しいですから。
褒め言葉ばかりが飛び交うのを聞いても面白くないですし。
日本だと橋下さんが知事になった時も、たくさん本が出ていました。
人から嫌われるってお金になることがあるんですね。
もちろん本人には一円も入らないでしょうけど。
「世の中こんなに馬鹿な奴がいるぜ」と笑いに変える芸人さん。
「こんな奴は人の上に立つべきではない」と憤るコメンテーター。
儲かるのはこういった人たちです。
だから「嫌い嫌い」とは言いつつも、心のどこかで「この状況はおいしい」とほくそえんでいるでしょう。
与党を責める野党だって、もし与党がきっちりと仕事をされたらかえって困るでしょう。
攻撃する材料がなくなるんですから。
仕事っていうのは、色んな形で誰かと誰かが繋がっているものですね。

蝶の咲く木 第十四話 子供の国へ(2)

  • 2018.01.19 Friday
  • 11:26

JUGEMテーマ:自作小説

自分が別の生き物になるというのは、とても不思議な感覚だ。
個人差はあれど、人間は誰でも同じような姿をしている。
しかしまったく別の生き物に変わるということは、どこのどんな人間とも似つかなくなるということだ。
きっと人が見たら驚くだろうし、何より自分自身で驚いていた。
《蝶ってのはこういう感覚なのか・・・・。》
長くオカルト記者を続けているが、自分自身にこんな現象が起こるとは思わなかった。
空から繭が降りてきて大木を包み、俺自身も繭に包まれて、蝶へと生まれ変わった。
・・・・いや、正確には蝶に似た生き物だ。
ヴェヴェとかいう宇宙人そっくりの・・・・・。
今、俺は子供の国とやらにいる。
繭に包まれた後、気がつけばここへ運ばれていたのだ。
目の前にはたくさんの子供がいて、その隙間を縫うように俺とよく似た生き物が飛んでいる。
《ここは間違いなくなつちゃんが言っていた子供の国だ。てことは、俺は地球から飛び出しちまったってことなのか。》
誰かにこの状況を訪ねたいが、誰なら答えてくれるだろうかと悩んだ。
何せ子供ばかりなので、要領を得た答えは返ってこないだろう。
そこらを飛んでいる蝶もどきに尋ねてもいいが、どうしても億劫になってしまうのは、きっと自然な気持ちのはずだ。
《そういえばなつちゃん、ヴェヴェって奴に連れて行かれたんだよな?それならここに戻ってるかもしれない。》
あの子は言っていた。
ルールを破った子供は雲海の養分にされてしまうと。
彼女の言った通り、確かにこの世界の下には雲海が流れている。
山のように巨大な木の根を、すっぽり覆い尽くすほど分厚い雲海が。
もしそこへ落とされていたとしたら、きっと助からないだろう。
あれは雲海というより、荒れ狂う波に近い迫力がある。
《なつちゃん・・・・まだ生きてるよな?ていうか生きててくれよ。》
彼女の姿を思い浮かべながら、ここにいる子供たちを見渡していく。
しかし・・・・いない。
《あの子はヴェヴェもどきになっていたからな。だったらその辺を飛んでるヴェヴェもどきの中にいるのかもしれない。》
そう思って目を凝らしたが、どいつも大差ない容姿なので分からない。
よくよく見れば違いがあるのかもしれないが、ヒラヒラと舞う群れの中から、彼女を見つけ出すことは難しかった。
こうなりゃヤケだと、思い切り名前を叫んでみることにした。
胸いっぱい息を吸い込んで、ありったけの声を・・・・、
《・・・なんだ?息が出来ない・・・・。》
いくら息を吸い込もうと思っても、胸の中に何も入ってこない。
・・・・というより、今とても大事なことに気づいてしまった。
《俺、さっきから呼吸してない・・・・。》
どうやら宇宙人は息をしなくても大丈夫らしい。
しかしそうなると喋ることすら出来ないわけだが・・・、
『みんな。』
突然頭上から声がした。
見上げると俺と同じような生き物がいた。
枝の先にとまって、イライラしたように羽を動かしている。
《なんだアイツ・・・・俺に似てるけど、なんか違うような・・・・。》
姿形はそこら辺を飛んでいる蝶モドキとそっくりだ。
しかし雰囲気が違う。
なんかこう・・・・背筋が寒くなるといか、直視したくないような狂気を放っていた。
そいつは子供たちや他の蝶モドキに語り掛ける。
どうやらこの中に裏切り者がいるらしく、かなり怒っているようだ。
仲の良かった子がどうとか言っているが、まさかなつちゃんのことか・・・・?
《アイツだけ明らかに雰囲気が違う・・・・。ならアイツがヴェヴェか。》
ヴェヴェは今から抜き打ち検査をすると言った。
羽の鱗粉を全て払い落し、鏡のように反射させる。
俺の隣にいた蝶モドキが、『嘘発見機・・・・』と怯えていた。
《嘘発見器だって?じゃああれを使って裏切り者を探すわけか。》
ヴェヴェは俺たちのいる枝まで降りてきて、一人ずつ子供の名前を呼んでいった。
まず最初に呼ばれたのは、俺の傍にいた蝶モドキだ。
『大地君』と呼ばれて、二匹の蝶モドキが手を繋いで飛んでいった。
《なんだ?呼ばれたのは一人だけなのに。》
不思議に思って見ていると、ヴェヴェはその二匹に何かを話しかけていた。
そして・・・・・、
《なんだありゃあ・・・・・。》
突然ヴェヴェの羽が尖って、ナイフのようになる。
鋭利なその羽は、目の前にいた二匹の蝶モドキを切り裂いた。
《なッ・・・・、》
真横に真っ二つにされて、ヒラヒラと落ちていく。
しかし落ちていく時も手は握ったままで、しっかりロックされた鍵のように、互いに離れることはなかった。
するとヴェヴェは羽をもう一振りして、繋がれたその手まで切り裂いてしまう。
二匹はバラバラになり、枝の上から捨てられてしまった。
まるで枯れ葉のように、ヒラヒラと舞いながら落ちていく。
《なんてことを・・・・、》
あの蝶モドキたちは、かつて人間の子供だったはずだ。
死後にこの星へ来て、ようやく悪い大人の手から逃れられたというのに・・・・・。
《爺さんの言っていた通りだ。あのヴェヴェってやつは恐ろしく残忍だ。どこが子供の味方なもんか。》
雲海へ消えていく、かつて子供だった蝶たち。
その光景に胸が締め付けられる。
『はい次、美緒ちゃん。』
また名前が呼ばれる。
『早く来て。』
ヴェヴェが呼んでも誰も出てこない。
『ほら早く。』
声に苛立ちが出ている。
かなり怒っているようだ。
《怯えてるんだ・・・・。あんな光景を見せられちゃ当たり前だ。》
例えヴェヴェを裏切っていないとしても、素直に奴の前になんて立てないだろう。
まったく出てこようとしない美緒ちゃんに対して、ヴェヴェは『死にたいの?』と呟いた。
『出てこないなら嘘つきってことになるわよ?だって私に知られたくない事があるんでしょ。』
そう言って鋭利な羽をかかげる。
結局美緒ちゃんなる子が出て来ることはなく、ヴェヴェは『悪い子ね』と言った。
そして自分から一匹の蝶モドキの傍へと飛んで行く。
『美緒ちゃん、どうして出てこないの?』
『だって・・・・・、』
ヴェヴェに睨まれ、美緒ちゃんは後ずさる。
『だって私は・・・・・、』
泣きそうな声で呟き、くるりと背中を向けた。
『ごめんなさい!』
羽をはばたき、高い空へ逃げていく。
するとヴェヴェは羽から糸を伸ばして、美緒ちゃんを絡め取ってしまった。
『いやあ!』
幼い声で悲鳴が響く。
必死に逃げようとするが、糸が絡まった羽では逃げ切ることは出来なかった。
だんだんとヴェヴェの方へと引き寄せられていく。
『死にたくない!誰か!』
耳がキンキンするほどの声で叫んでいる。
聴いているこっちが辛くなるような悲鳴だ。
しかし誰も動こうとしない。
助けるどころか、直視することすら避けていた。
ヴェヴェは尖った羽を振り上げる。
その顔は怒っているようでもあり、悲しんでいるようでもあった。
『どうしてルールを守ってくれないの?良い子にしていれば私だってこんな事しなくてすむのに。』
とても切実な声だった。
おそらく嘘ではないのだろう。
なにも好き好んでこんな事をしているわけではないと伝わってきたが、やって良い事と悪い事がある。
美緒ちゃんは怯え切って、もはや悲鳴すら上げられない。
《クソ!黙って見てられるか!》
戦っても勝てないだろうが、見捨てるわけにはいかない。
思い切り『やめろ!』と叫ぼうとしたが、まったく声が出なかった。
《なんで!?他の奴らは叫んだりしてるのに!!》
呼吸が出来ないのでは声も出ない。
なのになぜ他の蝶モドキは声を出せるのか?
・・・・なんて考えている場合じゃない。
声が出ないなら体で止めるしか・・・・、
俺は羽を広げ、ヴェヴェの前に躍り出た。
《やめろ!》
しかし悲しいかな、ヴェヴェの目に躊躇いはない。
振り上げた鋭利な羽は、俺ごと美緒ちゃんを真っ二つにした。
《あ、死んだ・・・・。》
あまりの鋭さに、痛みもなく刃が駆け抜ける。
俺の後ろで美緒ちゃんが『痛だあッ!』と叫んだ。
振り返ると、下半身が皮一枚でぶら下がっていた。
『ほら、動くから。じっとしてれば楽なのに。』
ヴェヴェはそう言って、もう一度羽を振り下ろした。
《もうやめッ・・・・、》
止める暇もなく、刃は美緒ちゃんの真ん中を駆け抜ける。
彼女はついに力を失い、さきほどの蝶モドキと同じように、雲海へと投げ捨てられてしまった。
『お爺ちゃん・・・・・、』
遥か下の方へ消えていく前に、そう呟いたのが聴こえた。
《なんて・・・・なんてことを・・・まだ子供だぞ!》
怒りと悔しさが混じり合って、目が熱くなってくる。
しかしこの身体は涙を流すことが出来そうになかった。
いくら感情的になっても、目元が潤ってこないのだ。
子供たちが消えた雲海を睨んでいると、また悪夢の呼び声が響いた。
『次、ケリー君。』
どうやらまだ続けるつもりらしい・・・・・。
案の定、名前を呼ばれても誰も出てこない。
《こんな事して誰がお前の言うこと聞くもんか・・・・。可哀想に。》
いったい何があったのか知らないが、いくらなんでもこれは酷過ぎる。
ここにはここのルールがあるにしても、こんなやり方で裁く必要はないだろう。
《お前ら逃げろ!こいつに殺されるぞ!!》
しかし誰にも俺の声は届かない。
みんな俯き、小さく震えているだけだった。
《おい!逃げろって!こっちへ飛ぶんだよ!!》
身振りで逃げるように伝える。
ヴェヴェとは反対側の空へ飛んでいき、《来い!》と手招きをした。
《なんでじっとしてる!死んでもいいのか!?》
どうにかこの子たちを助けたかった。
助けたかったが・・・・俺はあまりにも無力だった。
美緒ちゃんの時と同様、一匹の蝶モドキが群れから離れていく。
ヴェヴェはそれを追いかけ、『ケリー君』と呼んだ。
『逃げるってことは、裏切りを認めるってことなのよ。それを分かってるの?』
《馬鹿野郎!お前が怖いから逃げてんだ!!》
ヴェヴェの前に立ちはだかり、どうにか止めようとしがみつく。
だがそれが叶うことはなかった。
これまたさっきと同じく、ヴェヴェは俺ごとケリー君を切り払った。
『あッ・・・・』と悲鳴が響き、三度目の惨殺。
枝の上に落ちたケリー君の亡骸は、雲海へと投げ捨てられた。
《また・・・・・、》
俺も、そして子供や他の蝶モドキも、自分の無力さに嘆くしかなかった。
だがそれと同時に、俺はある事に気づいた。
《なんで俺は生きてるんだ?》
真っ二つに切り裂かれた子供たち。
なのに俺はピンピンしている。
惨殺どころか傷一つ負っていない。
首をひねっていると、ふと目の前から殺気を感じた。
・・・・ヴェヴェが睨んでいる・・・・・不思議そうに目を凝らしながら。
『なんかいるわね。』
『・・・・・・・。』
『見えないけどなんかいる・・・・誰?』
手を伸ばし、俺に触れようとする。
しかしその手が俺を掴むことはなかった。
ヴェヴェはまじまじと自分の手を見つめ、『ねえ?』と仲間を振り返った。
『誰かステルス使ってるの?』
そう尋ねるも、誰も答えない。
俯くばかりで、どうか自分の元へ来ませんようにと願っているようだった。
『誰かステルス使ってるんでしょ?ねえ誰?』
怒りの混じった声で尋ねるが、返事はない。
『・・・・みんな怖がっちゃって。』
クスっと肩を竦め、『いいわ』と前を向いた。
『なら映してあげましょう、この鏡で。』
そう言って羽を広げ、ナイフのような営利な形状から、楕円形の姿見のような形へと変えた。
するとその瞬間、鏡にぼんやりと俺の姿が浮かび上がった。
『やっぱり。』
ニコリと笑ったその顔・・・・まるで死体を引きつらせたような表情で、思わず叫びそうになった。
『ステルスは勝手に使っちゃダメって約束でしょ。何度もそう言ってるのに、ほんとに悪い子は絶えないんだから。』
そう言った次の瞬間、ヴェヴェの羽が眩く光った。
《熱ッ・・・・、》
焼けるような痛みと、身体を揺さぶるような振動が襲い掛かる。
光はどんどん強くなって、思わず目を逸らした。
・・・・と次の瞬間、誰かが肩に触れてきた。
『つかまえ〜た。』
『・・・・・・・・ッ!』
ヴェヴェががっちりと肩を握ってくる。
『痛ッ・・・・・、』
ヴェヴェの怪力に驚くのと同時に、声が出たことに驚いた。
『・・・・あれ?呼吸ができる・・・・。声も・・・・・、』
『どうして?』
驚く俺をよそに、ヴェヴェが顔を近づけてきた。
『どうして大人が混じってるの?』
『あ・・・・いや・・・・、』
『ここは子供しか来ちゃいけない国なのよ。どうやって入って来たの?』
『や・・・・それは・・・・、』
『おまけにステルスまで使うなんて・・・誰に教わったのよ?』
『・・・・・・・、』
どう答えていいのか分からない。
分からないが・・・・分かる事が一つある。
どうやら俺は、生きてここを出られないだろうということだ。
ヴェヴェの目は明らかに怒っていて、肌を刺すような殺気を向けてくる。
少しでも抵抗すれば、怪力でバラバラにされてしまうだろう。
『今から質問するわ。正直に答えなさい。』
そう言って羽の形状を変えて、先ほどのナイフように鋭くなった。
『嘘ついても無駄だから。今までの出来事・・・・見てたんでしょ?』
『・・・俺は・・・自分からここへ来たわけじゃ・・・、』
『質問にだけ答える。』
『あッ・・・・、』
肩にヴェヴェの指が食い込む。
『分かった?』
『ちょッ・・・痛いって!肩が・・・・・、』
『質問にだけ答える。そう言ったわよね?』
肩に食い込んだ指が、関節まで突き刺さる。
ブチブチっと音を立てながら、俺の右肩はむしられてしまった。
『ぎやああああああッ!』
千切られた腕は雲海へ捨てられる。
肩があった場所からは、青緑の液体がドロリと垂れた。
『素直に答えなさい。でなきゃもう片方の腕ももらうわよ。』
今度は左の肩を握られて、指を突き刺された。
『やめろ!やめてくれ!!』
『じゃあまず聞くわね。あなたは誰?』
『・・・お・・・俺は・・・・、』
『シャキっと答える。大人でしょあなた。』
『痛ッ・・・・、』
『あなたは誰?名前は?』
『ま・・・円香拓!オカルト雑誌の記者をやってる!!』
『そう。で、どうやってここへ来たの?』
『い、糸・・・・ていうか繭に包まれて・・・・、』
『繭に・・・・。』
『変な爺さんが出した繭だ!』
『爺さん・・・・それってまさか、あの大木の傍の屋敷の?』
『そうだよ!俺は繭でグルグル巻きにされて、気がついたらここに来てたんだ!』
『ということは、その時に空から竜巻みたいな繭が降りてきたわよね?』
『ああ・・・・大木に絡みついていた・・・・。』
『そう、ありがとう。』
ヴェヴェはニコリと微笑む。
・・・・次の瞬間、営利な羽は俺の首を駆け抜けた。
『あ・・・・、』
叫ぶまもなく俺の頭が落ちていく。
景色が逆さまになって、首のない自分の身体が見えた。
『お・・・お前・・・・、』
いきなり殺すって・・・そりゃあんまりだろう。
そう言いたかったのに、もう声も出ない。
胴体から切り離された頭は、枝の上をコロコロ転がっていく。
そして枝先からポロリと落ちて、雲海へと真っ逆さまに・・・・。
《俺も・・・・あの雲海の・・・・養分になっちまうのか・・・・、》
死を数秒後に迎え、残してきた家族を想う。
喘息持ちの息子は大丈夫だろうか?
妻はシングルマザーになってしまうわけだが、いつか良い人が見つかり、安定して暮らせるだろうか?
もう助からない自分はどうでもいい。
せめて残された家族が幸せに・・・・・・。
バッテリーが減った家電製品のように、俺の意識は途絶えていく。
だがその前に奇妙な物を見た。
遠く眼下にある木の根元、そこに巨大なイモムシがいたのだ。
鋭い牙をしていて、ガシガシと根っこを齧っている。
《なんだあのデカいのは・・・・?》
ああ、俺の人生は最悪だ・・・・。
最後の最後、せめて家族を想いながら逝きたかった。
それがイモムシのことを考えるなんて・・・・。
後悔しても遅く、深い眠りにつくように、俺の意識は消えていく。
全てが真っ暗・・・・もう俺はどこにもいなくなる・・・・。
死を迎えるまでの数秒間は、今までの人生よりも長く思えた。
真っ暗な闇の中で、もう一度自分の人生を繰り返しているような・・・・・。

道に迷っても

  • 2018.01.19 Friday
  • 11:23

JUGEMテーマ:写真

 

 

 

 

 

稲荷神社を撮影に行こうとしていたら、道に迷って全然知らない場所に出てしまいました。

でもこういう景色は大好きです。

目的地へ辿り着けず、全然違う場所の景色が気に入って撮影することはよくあります。

 

 

 

人も景色も出会いだと思っています。

予期せぬ不幸があるように、予期せぬ幸運もあります。

撮りたい場所へ辿り着けないからといって、それは必ずしも悪いことじゃありません。

道に迷った日には、こういうこともあるもんだと、気分を切り替えて楽しむのが一番ですね。

 

蝶の咲く木 第十三話 子供の国へ(1)

  • 2018.01.18 Thursday
  • 14:30

JUGEMテーマ:自作小説

エアコンの点いていない部屋で、弟と二人、ドアを叩いていた。
窓は全て閉め切られていて。開けようにも子供の手が届かない場所にある。
冷蔵庫の中には何もなく、砂漠を彷徨っているみたいに喉が乾いた。
外の気温は41度。
今年一番の猛暑だ。
なのに冷房が点いてないわ飲み物はないわ窓から風も入ってこないわでは、まさしくサウナと同じ状態になる。
あれはいつだったか、父と一緒に銭湯に行った時、入っちゃいけないと言われていたサウナに、弟と忍び込んだことがある。
どんな場所かとワクワクしたが、足を踏み入れた瞬間に引き返しそうになった。
サウナに広がる灼熱は、とても子供が耐えられるものではなかった。
息をするのさえ苦しく、どうして大人たちは平気な顔で座っているのかと、本気で驚いたものだ。
どうにか堪えて入ったが、1分と経たずに出てきてしまった。
あの時、あと5分も入っていたら倒れていた自信がある。
幸いサウナはいつでも外へ出られるから助かったけど。
でもここはそうじゃない。
逃げ場のないサウナは、5歳と4歳の子供の命など、簡単に奪ってしまうのだ。
・・・まず最初に倒れたのは弟だった。
「喉乾いた・・・」と言ったきり、何も喋らなくなってしまった。
揺すっても怒鳴っても立ち上がることはなく、二度と起き上がることはなかった。
そして俺自身にも、その瞬間はすぐにやってきた。
ズキズキと頭が痛くなり、足がふらつく。
喉が渇くというより、喉が焼けるような感じになってきて、かつて入ったサウナがフラッシュバックしてきた。
やがて視界もボヤけて、気がつけば目の前に床があった。
弟を振り返ると、こちらにお尻を向けていた。
手を伸ばし、足先に触れながら、俺も弟と同じ場所へ旅立とうとしていた。
・・・しかしその時、ぼやける視界の中に、ピカピカと光る何かが飛んできた。
その瞬間、身体が楽になって、体重すら感じなくなっていた。
『可哀想に。ちょっと部屋を散らかしただけでここまでするなんて。あなたの母親は人間の心を持っていないわね。』
そう語りかけてきたのは蝶だった。
ピカピカと輝いていて、図鑑で見たことのあるモルフォ蝶より綺麗だった。
『でも悲しまないで。あなたは子供の国に行けるのよ。馬鹿な大人がいない楽園なんだから。もちろん弟さんも一緒に。』
二人で手を繋ぎ、蝶に導かれるように、高い空へと昇っていった。
街がミニチュアみたいに見えるほど高く昇って、雲も突き抜けていく。
雲の上は当たり前だけど雲一つなくて、その先は少しだけ暗くなっていた。
蝶はどんどん飛んでいく。
それに引っ張られて、俺も弟も空を超えていった。
・・・・やがて宇宙にまで飛び出して、遠い所で燃える太陽が見えた。
すごく離れているはずなのに、あまりの眩しさに目を開けていられなかった。
弟と一緒に目を逸らした先には月が見えた。
地球にいる時よりもハッキリ見えて、表面のでこぼこが妙にリアルだった。
蝶は太陽に背を向け、月の方へ飛んでいく。
『お月様に行くの?』
弟が尋ねる。
俺は『分からない』と答えた。
すると蝶が振り返って、『月までは行かないわ』と答えた。
『月と地球の真ん中くらいまで行くの。そこに子供の国があるのよ。』
『子供の国って何?』
弟が不思議そうに尋ねる。
蝶は『行けば分かるわ』と答えた。
宇宙は蛍みたいに星が輝いていて、そのたくさんの光でも埋まらないほど真っ暗だった。
綺麗な景色だけど、不安の方が大きかった。
いったいどこへ行くんだろうという怖さと、足元さえないただっ広い宇宙の恐さ。
弟の手を握り締め、『家に帰りたい』と呟いた。
『お父さんの所に帰りたい。』
それは弟も同じだったようで、『お父さんの家に連れて行って』と言った。
しかし蝶は『ダメよ』と首を振った。
『あなたのお父さんもお母さんも、子供の命をなんとも思っていない悪魔なの。戻ったらまた酷い目に遭うわ。』
『でも前のお父さんは優しいもん。』
『新しいお父さんはすごく殴るから嫌い。』
『残念だけど、前のお父さんはもう新しい家族がいるの。それにあなた達が会いに行ったら、お母さんが怒るだけよ。
キイ〜ってヒステリーを起こして、いつもみたいにブたれるわよ?それでもいいの?』
そう言われて、俺も弟も首を振った。
そしてなんでそのことを知ってるんだろうと、不思議に思った。
振り返れば地球が見える・・・・。
宝石みたいに青くて、すごく綺麗だった。
この時、俺も弟も感じていた。
もう二度とあそこには戻れないのだと。
なぜなら子供心に知っていたからだ。
俺たちはもう死んでしまったのだと。
この蝶は天使か何かで、俺たちを迎えに来たんだと。
・・・といことは、今から俺たちが行く場所は天国ということになる。
なぜなら今まで何も悪いことはしていないので、地獄へ行くはずがないと思っていたからだ。
天国のことは詳しく知らなかったが、なんとなくのイメージで、悪い場所ではないと期待していた。
できれば前のお父さんの家に戻りたかったけど、それが無理なら、もう天国へ行くしかない。
今のお父さんとお母さんの家にいたら、いつ今日みたいな目に遭うか分からない。
ちょっとしたことで叩かれて、ちょっとしてことでご飯を抜きにされる。
今日だって、俺と弟が遊んでいたオモチャをお母さんが踏んづけて、それで怒られた。
『クソガキ!部屋を散らかすな!』
そう言って一発ずつ叩かれてから、『お前ら見てるとアイツを思い出す』と、思い切り蹴られた。
『アイツに渡すのが癪だったから引き取ったけど、ほんと邪魔。死ねクソガキ!』
お母さんは元々怖い性格だったけど、新しいお父さんと結婚してから、余計に怖くなった。
だって新しいお父さんはお母さんよりも怖くて、お母さんでさえたまに叩かれているからだ。
俺たちが何かしでかすと、まずお母さんが叩かれる。
その次に俺たちを蹴ったり殴ったりするのだ。
だからお母さんは自分が叩かれるのが怖くて、前のお父さんと結婚している時より、もっともっと俺たちを叩くようになった。
俺も弟も、いつだってあの家から逃げ出したかった。
だけどそれは無理で、二人共出かける場合は、俺たちは閉じ込められるのだ。
いつもならエアコンか扇風機を掛けてくれるけど、俺たちが何かしでかした時は何も点けない。
だから冬は寒いし、夏は暑い。
窓だって閉め切ってしまうし、辛くて大変なのだ。
しかも今日は冷蔵庫の中が空っぽで、外の気温は41度。
5歳と4歳の子供が長時間そんな部屋に閉じ込められていたら、死なない方がおかしい。
あの家に戻れば、また今日と同じことが繰り返される。
そう思うと・・・・やっぱり天国へ行くことは悪くないように思った。
『お兄ちゃん、天国ってどんなとこ?』
『天使とか神様がいるんだよ。よく知らないけど、多分そう。』
『お父さんもいる?』
『お父さんは生きてるからいないよ。天国は死んだ人が行くところだから。』
『じゃあ天国に行ったら、もうお父さんに会えないの?』
『会えないけど、あの家に戻らなくてもいい。僕はその方が嬉しい。』
『ゲームある?』
『さあ。』
『コロコロは?』
『分からない。』
弟が気にするのはもっぱらオモチャやゲームのことだった。
すると蝶が振り向き、『あるわよ』と言った。
『DSもPSPもあるわ。漫画も絵本もある。お菓子もオモチャもあるわ。
子供が好きなものはなんでもあるの。すごく楽しい所よ。』
それを聞いた弟はとても喜んだ。
俺だって嬉しかった。
広い広い宇宙・・・・弟と手を繋ぎ、地球に手を振った。
これから天国に行く。
意地悪な大人がいない子供だけの国へ。
だけど・・・決して悪いものではないと思っていたその世界は、俺と弟が期待していたものと違うと知るのに、そう時間はかからなかった。
・・・・はっきり言おう。
ここは地獄だ。
見てくれは天国に似ているが、やっていることは地獄そのものだ。
俺がここへ来てから11年が経つ。
地球にいた頃と合わせると16歳、弟は15歳だ。
11年、俺たちはこの場所で過ごして、目を塞ぎたくなるような出来事をたくさん見てきた。
それどころか、俺たち自身がそういった出来事に手を貸してきた。
ここへ集められた子供は、意地悪な大人によって殺された魂だ。
時にその子たちの一部は復讐に走る。
本人の意志でそうなることもあれば、会いにやって来た親が復讐を選ぶ場合もある。
割合としてはやや本人が望む場合が多い。
いくら子供といえど、大人に受けた酷い仕打ちは、決して許すことの出来ない怒りとなって燃え続けるからだ。
俺と弟だってそんな子供たちの一部だ。
かつて俺たちを死に追いやった憎き母、その元凶となった新しい父。
だから俺たちは復讐をした。
・・・あの時はクリスマスで、俺たちの本当のお父さんがここへやって来た。
お父さんは優しいから、復讐はやめてくれと言った。
そんなことしたって、お前たちが生き返るわけじゃないし、お前たちに汚れてほしくないからと。
だけどお父さんの反対を押し切って、俺たちは復讐を選んだ。
後からヴェヴェに聞いた話では、母も新しい父も、悲鳴を上げながら死んでいったらしい。
母は丸焦げにされ、父は電気で焼かれた。
二人共この世の終わりみたいな表情で、ただただ苦しみながら死んでいったと。
あの時は胸がスウっとしたものだ。
ただその代償として、俺たちは人間として生まれ変わることが出来なくなってしまった。
父がここを去る時、とても悲しい顔をしていたのを覚えている。
うっすらと泣いていたかもしれない。
あれ以来、俺たちはヴェヴェの仲間入りをして、何度も復讐を手伝ってきた。
それがいい事だなんて思わなかったけど、ヴェヴェには逆らえないので仕方ない。
もし怒らせたりなんかしたら最後、例え子供でも雲海の養分にされてしまうのだ。
ここにいる以上、黙ってヴェヴェに従うしかなかった。
そしてここへ来る人はみんな、大人も子供も良い思いはしない。
復讐を選べば、子供は二度と地球へ戻れない。
そして復讐を選ばなかった場合も、幸せになるとは限らない。
いつか地球へは戻れるけど、その時はすでに別人になっている。
ここへやって来る親は、まずそれを受け入れることが出来ないのだ。
せっかく亡くなった我が子に会ったのに、もう二度と同じ姿で会えないなんて、認めるわけにはいかないからだ。
だからどうか同じ姿で返してくれと願う。
その場合はクローンでの復活になるんだけど、それだともって10年、早いと3年くらいで死んでしまう。
ウェウェは10年は生きられるって言うけど、実際はそこまで生きられないことの方が多い。
親としては、せっかく戻ってきた我が子と、すぐにお別れしなきゃいけなくなる。
その結果、夫婦の仲が悪くなったり、鬱病みたいになったりして、ここへ来る時よりも重いショックを受けることになる。
だからここは天国なんかじゃない。
大人も子供も不幸にする、天国に似た地獄なのだ。
だけどヴェヴェはここの神様みたいなものだから、嫌々でも従うしかない。
ないんだけど・・・・最近はそうもいかなくなってきた。
なぜなら巨木を支える雲海の養分が少なくなってきたからだ。
このままだといつか雲海が消え、木は枯れ果ててしまう。
この星はバラバラに散って、宇宙の藻屑になってしまうのだ。
そうならない為には、巨木の養分を保つしかない。
その最も手っ取り早い方法は、地球に根を張ることだ。
ここは月と地球の中間にあるけど、月に行った所で何もない。
見ている分には綺麗だけど、生き物が住める場所じゃない。
かといって、ここから生命の住める星まで飛ぶには、距離がありすぎる・・・・とヴェヴェは言っていた。
2万光年くらい先に土と水と空気が存在する惑星があるらしいんだけど、そこまで飛ぶには養分が足りなさすぎる。
だったら行くべき場所は一つ、地球しかない。
かつて俺たちが酷い目に遭ったあの星だけが、この巨木を支えることが出来るのだ。
だけどそれは、地球を乗っ取るのと同じことだ。
俺たちがいる子供の国はとても大きく、もし地球に降り立ったら、半分近く覆い尽くしてしまうだろう。
しかも根はとても大きいので、あちこちの大地に大穴を空けて、その下に流れるマントルまで届く。
そんな植物が根付いたら、地球はえらい事になる。
あちこちで災害が起きて、あちこちで人や動物が死ぬ。
そしていつかは地球の養分を吸い付くし、死の星に変えてしまうはずだ。
そんな大変なことになったら、もう大人がどうとか子供がどうとか言っていられない。
ここにいる子供たちは大人に恨みを持ってるけど、そんなレベルの話じゃなくなってしまう。
・・・・だからこれ以上ヴェヴェにはついて行けない。
俺も弟も、ヴェヴェもどきになってしまった他の子供たちの一部も、ヴェヴェを裏切ることに決めたのだ。
表面上は従うフリをしているけど、本気で従う気はもうない。
この巨木が地球に根を張るのを防ぐ為、どうしたらいいか真剣に悩んだ。
残念ながら、俺たちだけでヴェヴェを止めるのは無理だ。
それなら地球の人たちにこの事実に気づいてもらうしかない。
『子供の国っていう変な星があって、その星が地球を狙ってますよ!!』
たくさんの人にそう知ってもらえれば、この巨木が地球へやって来た時に、軍隊が迎え撃ってくれるかもしれない。
そりゃほっといても迎え撃つだろうけど、あらかじめ知っておけば戦いの準備ができるはずだ。
まず俺たちが最初にやるべき事は、どうにかして地球の人たちにここの存在に気づいてもらうことだ。
ここにいる子供の親たちはこの世界のことを知ってるけど、人に話したところで信じてもらえないだろう。
ありえない事を信じてもらうには、同時にたくさんの人に伝えなきゃいけない。
そうすれば個人の妄想だって馬鹿にされずにすむはずだから。
一気にたくさんの人に伝える手段は色々ある。
まずはネットだ。
これほど手軽に世間に物を言える道具はない。
だけどネットは信憑性が薄いし、どこの誰が発信しているか分からないので、あんまり良い手じゃないだろう。
となるとテレビかラジオが新聞になる。
影響力を考えるならダントツでテレビ、次に新聞だろう。
ラジオも悪くないけど、どうせならテレビの方がいい。
だけどこんなオカルトじみた話、テレビがちゃんと扱ってくれるか分からない。
仮にもし扱ってくれても、単なるオカルト番組で終わる可能性が大だ。
となると新聞か?・・・・と考えたけど、これも難しそうだ。
だって新聞はテレビより頭が固いから、きっとこんな話を扱ってくれないだろう。
じゃあラジオか・・・・と考えたけど、なんとなくテレビと同じ扱いになりそうな気がした。
やっぱりオカルト扱いで終わるんじゃないのかなあ・・・・と。
俺たちは散々悩んだ。
いったいどうやってたくさんの人に伝えればいいんだろうって。
なかなか良い答えが出ずに困っていると、去年にヴェヴェもどきになったなつちゃんがこう言った。
『悩んでばかりいても仕方ないから、ツイッターとかインスタでもいいから伝えてみない?』
なつちゃんは一昨年に地球へ戻った時、あの大木の写真を撮っていた。
ちょうど蝶が咲く瞬間の写真を。
こんなのヴェヴェに見つかったらめちゃくちゃ怒られるけど、なつちゃんは上手く隠していた。
雲海近くの根元、龍の鱗みたいな大きな樹皮の割れ目に、デジカメを隠しておいたのだ。
どうやってこんなの手に入れたのか聞いたら、前にここへやって来た大人が忘れていった物だと答えた。
ほんとはそういう物だってヴェヴェに報告しないといけないんだけど、なつちゃんは自分の持ち物にしていたわけだ。
なつちゃんは蝶の咲く木が写ったデジカメを持って、地球へと降りていった。
『繭の道』という不思議な道を通って。
白い竜巻みたいな感じの道で、ものすごい速さで地球まで行くことが出来る。
当然のことながら、これだってヴェヴェの許可なしに使っちゃいけない。
ていうか基本的にはヴェヴェしか使えない。
だけどなつちゃんはヴェヴェのお気に入りで、ここへ来て一年足らずで親友レベルになっていた。
『なつは私とよく似てるわ。パっと見は優しそうだけど、実はすっごい残忍。ここへ来てからもずっと復讐の事を考えてたもんね。
だけど自分と同じ子供には優しいわ。みんななつをお姉ちゃんみたいに思ってる。
だからここでは私がみんなのお母さん、なつがお姉さんね。』
そういう感じですごく気に入られていたので、なつちゃんだけは特別に繭の道を使ってもいいことになっていた。
・・・もしも誰かがこの写真に興味を持ってくれれば、色んな所に拡散してくれるかもしれない。
真剣にこの話を信じて、それを世の中に広めてくれる人。
そんな人が現れるのを待ったのだ。
そして・・・・そんな人が現れた。
ツイッターに写真を上げてから四ヶ月後、自称オカルト雑誌の記者が連絡を取ってきた。
オカルト雑誌って・・・・・って最初は思ったけど、なつちゃんはその人に会ってみることにした。
今のところ何の希望もないので、とりあえずすがってみる事にしたわけだ。
『じゃあみんな、記者さんに会いに地球へ行って来る。でもヴェヴェには内緒ね。
私がどこにいるか聞かれたら、バレないように誤魔化して。』
今日の朝、そう言い残して出て行った。
果たしてなつちゃんは上手くやっているのか?
記者は記事にしてくれるのか?
いっぱい不安はあるけど、今は待つしかない。
なるべくいつも通りに振舞っていないと、いつヴェヴェに疑われるか分からない。
幸い昼に会ったきりで、なつちゃんがどこにいるかは聞かれなかったけど、アイツは勘が鋭いから侮れないのだ。
『みんな。』
いきなり後ろから声がした。
ビクっと振り返ると、ヴェヴェが一つ上の枝にとまっていた。
いつもと同じように、狂気を感じる笑顔をしている。
・・・・いや、なんかいつもより狂気じみてるような・・・・、
『最近ね、ここのルールを守らない子が増えてるみたい。』
そう言ってジロリとみんなを見渡す。
『ルールを守らない子は悪い子よ。そんなの意地悪な大人と変わらないわ。みんなの迷惑になっちゃう。』
笑顔の狂気が増していく・・・。
俺は悪い予感がして、弟と目を合わせた。
『実は今日も一人そういう子がいたわ。地球へ行って、ここの秘密をバラそうとしたの。
私と仲良しの子だったから余計に悲しい・・・・。
可哀想だけど、そういう子には「め!」ってしなきゃダメなの。』
笑顔が消え、狂気だけが残る。
俺も弟も、なつちゃんが無事ではないことを悟った。
『これ以上こんな事が増えたら、ここはダメになっちゃう。そうなるとたくさんの子供が居場所を無くすわ。
だからね、今日は抜き打ち検査をしようと思うの。』
そう言って羽を振動させ、鱗粉を全て振り落とした。
透明になった羽は、鏡のように辺りの景色を反射した。
『お兄ちゃん、あれ・・・・、』
弟が不安そうに呟く。
俺も引きつった顔で頷いた。
『嘘発見器だ・・・・・。』
鏡のようになったヴェヴェの羽は、相手の頭の中を映し出すことができる。
いくら嘘をついても、あの羽の前では無意味だ。
あれは何年か前、まったくルールを守らない子供がいた。
注意すると反省するのだが、すぐに悪さをしてしまう。
なのであの羽を使って、本当に更生するつもりがあるのか映し出したのだ。
・・・・結果は黒。
その子は嘘を見破られ、雲海に溶かされてしまった。
『あれを使うってことは、ヴェヴェは本気で怒ってるんだ。』
ヴェヴェは俺たちの所まで舞い降りて、『一人ずつ調べていくわ』と言った。
『名前を呼ばれた子は前まで出て来て。そして私の質問に素直に答えること。もし嘘ついたってバレるんだから。』
再び笑顔に戻って、鏡の羽を広げる。
『じゃあまずは大地君から。』
そう言って俺の弟に指を差す。
『お兄ちゃん・・・・、』
『・・・・・・。』
弟が手を伸ばしてくる。
俺はその手を掴み、二人でヴェヴェの前に立った。
・・・・もう逃げることは出来ない・・・・。
嘘で誤魔化すことも・・・・・。
だからって弟を一人にさせたくない。
どうせ死ぬなら二人で・・・・・、
『お兄ちゃんも一緒?・・・・まあいいわ、じゃあ二人に質問。あなたたちはルールを破ったことがある?
私を裏切ろうとしたことは?あるいは悪い子と手を組んで、悪いことを企んだことはあるかしら?』
ヴェヴェの視線は槍みたいに尖ってて、すでに俺たちの胸を貫いている。
『お兄ちゃん・・・・・助けて・・・・、』
『・・・・・・・・。』
弟は泣いている。
なのに俺はダメな兄貴で、何もしてやれない。
せめて最後までこの手を握ってやるくらいしか・・・・。
11年前、あのサウナのような部屋にいた時のことを思い出す。
目の前にいるヴェヴェが、俺たちを閉じ込めた母と重なって見えた。

羆の怖さ

  • 2018.01.18 Thursday
  • 14:28

JUGEMテーマ:生物

JUGEMテーマ:自然

三毛別羆事件という有名な獣害事件があります。
立ち上がると3メートル50センチ、体重は380キロという巨大羆が村を襲いました。
小説にもなっているし、テレビで再現ドラマをやったりもしているので、知っている人も多いかと思います。
他にもワンダーホーゲル部が羆に襲われた事件があります。
逃げても逃げてもしつこく追跡してきて、凄惨な事件へと発展してしまいました。
三毛別でもワンダーホーゲルの事件でも、羆はある共通した習性から人を襲い続けました。
それは獲物に執着するという習性です。
羆は一度手に入れた獲物は自分の物だと思っています。
三毛別の事件では、その習性を利用して羆をおびき寄せ、銃で仕留めようとました。
ワンダーホーゲル部の事件では、食料の入っていたリュックを取り返してしまったが為に、羆に追跡されることになります。
羆はとにかく鼻が良いので、逃げても逃げても追いかけてきます。
大きな音や声で威嚇しても、逃げ出すのは最初だけ。
何度もやっていると慣れてしまうので、追い払うことも難しくなります。
また最近では火を怖がらない個体もいるそうです。
クマよけのスプレーは下手をすると自分がダメージを受けることもあるそうです。
人に慣れた羆の場合だと、クマよけの鈴の音に引かれて、逆に寄ってくることもあるんだとか。
そして当然のことながら死んだフリも通用しません。
熊は死肉も漁るので、死体はご馳走でしかないからです。
また同じ熊でも、ツキノワグマと羆ではかなり習性が異なるようです。
ツキノワグマは草食寄りの雑食性、羆は肉食寄りの雑食性です。
なのでツキノワグマの方が大人しく、羆の方が獰猛とされています。
ツキノワグマも人を襲うことはありますが、それは子熊を守る為とか、危険を感じて身を守る為だそうです。
食べる為に人を襲うことはないそうですよ。
しかし羆の場合、空腹だと人を襲って食べることがあるそうです。
上に書いたクマよけの鈴も、ツキノワグマには有効ですが、羆だとかえって危険なのはそういう意味からです。
そして獲物に対する執着性がすごいのも羆です。
走りが速く、泳ぎも得意です。
もし狙われた場合は、リュックの中の持ち物などを落として、羆の気を逸らしながら後退するのがいいそうです。
決して背中を見せて走ってはいけません。
追いかけてくるからです。
だけどダメだって分かっていても、もし遭遇してしまったら、落ち着いて後退するのは難しいでしょう。
動物園でもサファリパークでも羆は見ることが出来ます。
あれ、すごい迫力ですよ。
もし山の中で出会ってしまったら、パニックになるなという方が難しいと思います。
羆って銃を持っても勝つのが難しいそうです。
よっぽど熟練したハンターならともかく、素人や経験の浅いハンターだと、銃を使っても返り討ちに遭うこともあるようです。
というのも、羆はとても頑丈である為、正確に急所を射抜かないと倒れないそうです。
下手な所に当てたら、かえって怒らせてしまうだけ。
またショットガンではなくライフルでないと仕留めるのが難しいと言われています。
理由は銃の射程距離です。
ショットガンの弾はそう遠くまで飛びません。
有効射程は50メートルと言われています。
しかも羆を撃つ場合は威力の高いスラッグ弾(一粒弾ともいいます)を使う必要があるので、ショットガンのメリットである弾の拡散が使えません。
羆の足は最大速度で時速60から70キロ。
となるとショットガンの射程距離だと、仕留めるチャンスは一発程度ということになります。
もし外してしまったら、3秒くらいで間合いを詰めてくる計算になるからです。
羆を撃つ場合は、射程距離の長いライフルじゃないとほぼ無理なんだとか。
私は登山が好きですが、羆のいる山には登りたくありません。
ツキノワグマでも充分怖いのに、羆のいる山に登る人はよくなるなと感心します。
よほど経験のある人ならいいけど、私はそうじゃないのでいきなり素人だけで登る気にはなれません。
自然は美しいし癒されるけど、それと同等の危険がありますね。

蝶の咲く木 第十二話 空に届く繭(2)

  • 2018.01.17 Wednesday
  • 13:01

JUGEMテーマ:自作小説

夜が来る。
星も月もなく、冬にしては湿った風が吹いている。
昼間は晴れていたのに、日が落ちてから雲が出てきたようだ。
俺は屋敷の外に出て、真っ暗な空を見上げる。
後から爺さんも現れて、「嫌な風だな・・・」と呟いた。
「一雨きそうだ。」
「天気予想では晴れだったんですけどね。」
興味もなさそうに頷く爺さん。
俺の鞄を見つめ、「ほんとになあ・・・」と言った。
「あの蝶が写ってるなんて・・・・。」
信じられないといった様子で、諦めの混じったため息をついている。
「だから言ったでしょ。ほんとに撮ったって。」
ポンと鞄を叩くと、「ああ」と頷いた。
「自分から姿を見せるなんて・・・・。」
「でも大丈夫なんですか?クリスマスでもないのに現れるなんてルール違反なんでしょ?」
「奴に見つかったらどうなるか・・・・。可愛い姿をしちゃいるが、根は残忍でな。」
「どうしても伝えたいことがあるんでしょうね。でなきゃわざわざ危険を犯さないだろうから。」
俺は先ほどまでの爺さんとの会話を思い出す。
強引に屋敷に押しかけ、パソコンでメモリーカードの写真を復旧させた。
消されて間もなかったおかげで、あの奇妙な生き物の写真は無事に復活してくれた。
液晶に映し出される写真を見た爺さんは、開いた口が塞がらないといった様子で、俺とパソコンを交互に見つめていた。
・・・・それから夜にまるまでの間、爺さんは色々と話を聞かせてくれた。
あの大木には本当に蝶が咲くこと。
そこに集まる蝶は死んだ子供の魂であること。
そしてクリスマスの日、この大木を通じて、親子が再会できることを。
話を聞いている間、『別の星』だの『復讐』だの『生まれ変わり』だの、理解しがたい言葉がポンポン出てきた。
俺は必死にメモを取りながら、『話が進まなんだろうが!』と怒られるほど質問を繰り返した。
そして全ての話を聞き終える頃、外はとっぷり暗くなっていた。
取材した結論から言うと、爺さんの話はまったく信じられなかった。
熱心に質問したものの、あまりにぶっ飛びすぎていて、オカルト好きの俺としても『それはちょっと・・・』とツッコミたくなるほどだ。
『だが真実だ。あんたの話から察するに、今日あの大木で落ち合う人物は、昼間見た蝶と同一人物だ。
夜になれば来ると言ったんだろう?ならば論より証拠、実際に会った方が早い。』
確かに・・・百聞は一見に如かずだ。
大木に目をやると、特別な変化は起きていない。
昼間と同様、葉のない枝を伸ばしているだけだ。
《ほんとに来るのか・・・・?》
緊張と期待が入り混じった不思議な気分になる。
「・・・お!」
爺さんが指を差す。
その先には一匹の蝶が浮かんでいた。
まるでLEDのように輝きながら、枝の先にとまっている。
「マジか・・・・。」
驚きながらもカメラを向ける。
ファインダーを覗き、シャッターを切ろうとした瞬間、いきなり目の前が真っ白になった。
「・・・・・ッ!」
思わず目を背ける。
太陽を直視したように、しばらく何も見えなくなった。
《目の前に飛んできやがった・・・・。》
瞬きを繰り返し、涙を拭う。
と次の瞬間、ツンツンと肘をつつかれた。
爺さんか?と思い、まだホワイトアウトから戻れない目を向ける。
するとそこにはぼんやりと子供のような輪郭が映っていた。
・・・・もしやと思い、思いっきり目をこすって、光の余韻を追い払う。
ようやく見えるようになってきた目に飛び込んできたのは、まっすぐにこちらを見る少女だった。
長い髪を後ろで縛り、気の強そうな目を向けている。
背丈は俺の胸くらい。
だが威圧的な視線のせいか、それとも人とは違った雰囲気のせいか、実際よりも大きく感じた。
「・・・もしかして・・・・真鈴ちゃん?」
恐る恐る尋ねる。
少女は『はい』と頷いた。
『あのツイッターの写真を撮った遠野真鈴です。』
「・・・・・どうも。」
『みんなからは「なつ」って呼ばれてるので、そう呼んで下さい。』
「ええ・・・・。」
どう返していいのか分からず、爺さんに助けを求める。
「な?」
「な?って・・・・・、」
「だから言っただろ?あの蝶があんたの待ち合わせしていた人物だって。」
「でも・・・・、」
「信じられんのなら証拠を見せてもらえばいい。」
そう言ってなつちゃんに目を向けると、要領を得たように頷いた。
『眩しいのでまっすぐに見ない方がいいですよ。』
幼さの残る声で忠告してから、閃光のように輝いた。
「ちょッ・・・・・、」
さっきと同じように目を逸らす。
・・・次の瞬間。
俺の頭にあの奇妙な生き物がとまっていた。
「・・・マジか。」
『マジです。』
頭の上から笑い声が響く。
もう一度ピカリと光って、また少女の姿に戻った。
『来てくれてありがとう。』
ごきちない感じで会釈をして、少しはにかんでいる。
『昼間にお会いしましたよね?』
「・・・・じゃあやっぱりあれが・・・・、」
『はい。』
・・・さて、どうするか?
彼女に会ったらぶつけるはずだった幾つもの質問。
それらは無意味なものと化した。
何百、何千と質問をぶつけるより、たった一回のさっきの変身で、俺は答えを得てしまったのだから。
この子は本当に人間ではなく、あの大木には本当に蝶が咲く。
これを松永に話してやったら、間違いなく鼻で笑われるだろう。
「・・・なつちゃんに聞きたいことがたくさんあったんだけど、もうどうでもよくなった。」
『じゃあ取材は無しですか?』
「まさか。新しい質問がいっぱい浮かんできた。録音しても?」
そう言ってスマホを向けると、『あ、それ無理です』と言われた。
「録音は困る?」
『そうじゃなくて、私の周りにいると電子機器が使えなくなるんです。』
「なんで?」
『強力な磁場が出来るんです。だからスマホもカメラもパソコンも使えませんよ。』
「どれ・・・・、」
なんでも疑ってかかるのが記者というもの。
試しにデジカメを向けると、とりあえず液晶は映る。
しかしいくらシャッターを押しても反応しなかった。
スマホも起動はするが、一切の機能が使えない。
『ね?』
「なるほど・・・磁場のせいでね。でも昼間はデジカメを使えたけど?」
『夜の方が強い磁場が出るんです。』
「ほう・・・・。」
なぜこの子がいると強力な磁場が発生するのか?
気にはなるが、今尋ねるべき質問ではない。
俺はポケットからメモ帳とペンを取り出し、「記録しても?」と尋ねた。
『はい。』
「さっきお爺さんから聞いたんだけど、子供だけで勝手に地球へ来ちゃいけないんだって?」
『そうです。』
「それでもなつちゃんは会いに来た。その理由は何かな?」
聞きたいことは山ほどあれど、これを聞かないことには始まらない。
なつちゃんはしばらく黙り込み、居合の一撃でも繰り出すかのように、迫力だけをみなぎらせた。
「なつちゃん?」
『・・・・壊してほしいんです。』
「何を?」
『子供の国を。』
「それって亡くなった子供が集まる遠い星のことかな?」
『そうです。』
「どうして?お爺さんの話だと、あそこはそう悪い場所に思えないけど?
むしろ不幸な目に遭った子供を救う、一種の天国のように思えるんだけど。」
『そうだけど、あそこはもう限界なんです。』
「限界?」
『あれって実は星じゃないから。ヴェヴェは星だって言ってるけど、絶対に違う。』
「ヴェヴェって誰?」
『私たちを連れていった蝶みたいな生き物です。ここは子供の為の星よって言ってくれたけど、実は違うんです。
だってヴェヴェが他の子に話してるのをこっそり聞いちゃったから・・・・、』
「何を聞いたの?」
『・・・・もうじき地球に根を張るって。』
「根?」
『私たちがいる世界は、大きな木がいっぱい繋がってるんです。普段はその木の枝の上で暮らしています。
だけど栄養がないといつか木が枯れるから、不思議な雲海に根を張ってるんです。』
「それもお爺さんから聞いた。山みたいな大きな木を乗せてる雲海があるんだろ?」
『はい。その雲海のおかげで木は栄養を保ってるんです。
だけどもう雲海の栄養がなくなってきて、どこかに根を張らないといけないらしくて。』
「それがこの地球ってわけ?」
『ヴェヴェたちがこっそり話してるのを聞きました。』
「ごめん、ヴェヴェ「たち」ってことは、他にも仲間がいるわけ?」
『本物の宇宙人はヴェヴェだけです。他のは元々人間の子供だった「もどき」みたいな感じです。』
「もどき・・・・ね。ならそこにいる子供は、いつかはヴェヴェって生き物になっちゃうわけだ?」
『復讐を選んだらそうなります。もう二度と人間に生まれ変わることは出来なくて、ヴェヴェに変わっちゃうんです。
ヴェヴェはそうやって仲間を増やしてるから・・・・。
それで私も復讐を選んだからヴェヴェになっちゃって、ヴェヴェだけが行っていい木まで飛んでいったんです。
そうしたらそこで、みんながコソコソ話してるのを聞いたんです。』
「なるほど。」
『あの世界の木はすごく大きいんです。山脈みたいに繋がってて、根っこだけで地球の三分の一を覆うくらいあるんです。
もしそんな木が地球に根を張ったら・・・・、』
「大変なことになるだろうね。」
『地球がおかしくなっちゃう。どうにかしなきゃって思って・・・・、』
「俺に会いに来たと。」
『去年のクリスマス、私はお父さんとお母さんに会いに行ったんです。この大木へ来てって伝える為に。
その時にこの大木の写真を撮って帰りました。本当はダメなんだけど、ヴェヴェの目を盗んで。』
「でも電子機器は使えないんだろ?だったらどうやって写真を?」
『あの時はまだ私はヴェヴェもどきになってなかったから。』
「なるほど。」
『ただ綺麗だったから撮っただけなんだけど、後から役にたちました。
ヴェヴェが地球を狙ってることを伝える為に、誰かにここへ来てもらいたかったから。
だからツイッターに・・・・、』
「あげた写真を見て、俺が来たってわけだな。」
『円香さんの他にも、この場所を教えて下さいって人はいました。でも学生さんだったりからかい半分だったりしたから断ったんです。』
「俺を選んでくれたのは、俺が雑誌の記者だからってわけだな?なつちゃんの話を雑誌に載せてくれると思って。」
『これほどうってつけの人はいないと思いました。だって興味を示すのは遊び半分の人ばっかりだし、新聞やまともな雑誌じゃ相手にしてくれないし。
だけどオカルト雑誌の記者さんならちょうどいいかなって。』
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
『きっと近いうちに、あの大木が根を張りに来るはずです。それをどうにか阻止してほしいんです。』
「もちろんそうしたいけど、だったらもっと詳しく話を聞かなきゃいけない。」
俺はこれみよがしにペンを回す。
はっきり言って、この子の話を鵜呑みになんて出来ない。
確かに常識を超えた存在ではあるが、インデペンデンスデイみたいに地球の危機が訪れるなんて、はいそうですかと頷くことは無理だ。
それに・・・・まだ子供である。
本人いわく、人間だった時と死んでからの年齢を合わせると23だそうだが、見た目は完全に子供だ。
喋り方は大人びてはいるが、所々にあどけなさを感じる。
いったいどこまで真に受けていいものか・・・・。
『信じてませんね?』
あっさりと心を見透かされる。
「読心術か?」と尋ねると、『だって信じてなさそうな顔してるから』と言われた。
「ごめん、記者ってのは色々疑ってかからなきゃいけないんだ。なつちゃんを馬鹿にしてるわけじゃないよ。」
『本当なんです、信じて下さい。』
「うん。だから今から質問をさせてほし・・・・・、」
そう言いかけた時、なつちゃんは『ヤバ!』と叫んだ。
「どうした?」
『ヴェヴェが来る!』
「え?」
なつちゃんは慌てて空を見上げる。
その瞬間、太陽が間近に迫ってきたような、強烈な閃光が走った。
「うおッ・・・・・、」
焼けるように目が痛い・・・・。
瞼を閉じ、うずくまって顔を押さえた。
『円香さん!お願いします!!どうか地球に根を張らせないで下さい!』
「お願いしますって言われても・・・どうやって阻止したらいい!?」
『ごめんなさい、私はもう・・・・・、』
諦め、絶望、暗い感情が宿った声が耳にかすむ。
『ルールを破った者は雲海の養分になっちゃうんです。だからもう会えません。』
「会えないって・・・死ぬのか?」
『はい。』
「・・・・・・・・・。」
『もう死んでるけど、本当の意味で死にます。魂も身体もなくなるんです。』
「そんな・・・・、」
『全ての秘密は蝶の咲く木にあります。ここから空に届くほどの繭が・・・・・、』
そう言いかけて、なつちゃんの声は消えた。
「おい!この大木がなんだ!?繭ってどういうことだ!」
まだ眩い目を開けて、どうにか前を向く。
しかしもうなつちゃんはいなかった。
傍にいるのは爺さんだけで、「あの子は!」と尋ねた。
「どこ行った!?」
「連れて行かれた・・・・。」
「そのヴェヴェってやつにか?」
「ああ・・・・もう戻って来られん。」
「死ぬって言ってたけど・・・・本当に?」
「ああ。」
「ああって・・・・そんな簡単に言うなよ!まだ子供だぞあの子!」
「分かっとるわ。だがどうにもならん。連れて行かれちまった以上、こっちから手を出すことは出来んのだから。」
「・・・・なんてこった。」
空を見上げると、さっきの強烈な光はどこにもない。
その代わり、雲が晴れて星たちが輝いている。
爺さんは大木へ近づき、「可哀想に・・・」と呟いた。
「せめて地球で死にたかったろうに。」
「・・・・どうすりゃいい?」
「ん?」
「ん?じゃないよ。あの子が言ってたこと、本当なのか?地球に根を張るって。」
「儂に聞かれても。」
「でも爺さん、昔に行ったことあるんだろ?子供の国に。」
俺は思い出す。
屋敷で爺さんから聞いた話を。
あの時、爺さんはこう言っていた。
『儂もかつて子供の国にいたんだ。だが復讐は選ばなかった。だからこうして戻って来ることが出来たんだ。』
もしそれが本当なら、子供の世界のことを知っているのはこの爺さんだけだ。
「なあ、もっと詳しく話を聞かせてくれないか?ブッ飛んだことばかりで頭がついていかない。」
「構わんが・・・・あんた一人でどうにか出来ることじゃないぞ。」
「でも話を聞くのが記者の仕事だ。」
「だから話すのは構わん。でもだからってどうにかなると思うのは思い上がりで・・・・、」
辛そうな顔をしながら、ごにょごにょと口ごもる。
「爺さん、あんたまだ隠してることがあるな?」
「・・・・・・・・。」
「屋敷で話を聞いてた時、あんたはこう言った。生まれ変わって地球へ戻って来た子供は記憶を失うって。
人格も肉体も思考も、何もかも新しい人間に変わるんだって。
なのにあんたは前世の記憶を持ってる。どうしてだ?」
「・・・・・・・。」
「クローンを使えばそのまま生き返ることが出来るけど、その場合は長生きしないんだよな?
でもあんたは爺さんになるまで生きてる。どうしてなんだ?」
「それは・・・・、」
「屋敷じゃ何度聞いてもはぐらかしたよな?クローンだけど偶然長生きしてる稀な例だとか言ってさ。
それ本当のことなのか?実は他に秘密があるんだろ?」
この爺さんは何かを隠している。
そう思ったのは記者の勘なんてカッコイイものじゃない。
ただ単純に、爺さんは自分の話になると口篭るからだ。
「人には聞かれたくない話か?」
「聞かれたくないというより、話せないといった方が正しいな。」
「喋るとまずいことでも?」
「殺される。」
「そりゃ穏やかじゃないな。誰に?」
「ヴェヴェに。」
「またそいつか・・・・。」
「おっかない奴なんだ。子供を愛する気持ちは本物だが、根っこが残忍だし獰猛だ。口封じの為なら殺人だって厭わない。」
「じゃあ秘密を喋ったら爺さんも殺されるわけか。」
「・・・・・・・。」
急に爺さんの表情が変わる。
自信のなさそうな顔で俯いていたのに、肚を括った戦人みたいに俺を見据えた。
「儂は今年で91だ。」
「そんなに?もっと若いのかと思ってた。」
「もう充分生きた。」
「まさか秘密を喋って死ぬつもりか?」
「・・・・もう辛くなってきた。長年ここで亡くなった子供と会う親を見てきたが、誰ひとり幸せになどなっとらん。
去年もここで壮絶な夫婦喧嘩があってな。激高した旦那が嫁の腹を殴っとった。多分お腹の子は・・・・、」
そこまで言って口を閉じる。
辛そうにするその目は、ここにはいない誰かに向けられているように感じた。
「墓場まで持ってこうかと思っとったが、それもなあ・・・・。」
俺を振り向き、「このままくたばったら、あの世で閻魔さんに怒られそうだ」と笑った。
「なあ爺さん、喋って本当に死ぬなら別に・・・・、」
「なに甘いこと言うとる。あんた記者だろ?真実を聞き出すことを恐れてどうする。」
「でも人の命が掛かってるなんて・・・俺そんな真面目な記事書いてるわけじゃないし・・・、」
「オカルト雑誌だろうとなんだろうと、記者は記者だ。命懸けで取材せい。」
急に怖い顔になり、喝を入れられる。
爺さんは大木を指差し、そのまま空へと向けた。
「いいか?じっと見とれ。」
「何が起きるんだ?」
「百聞は一見に如かず。その目で見た方が早い。」
何をするつもりか知らないが、爺さんの目は真剣だ。
歳寄りのクセに猛獣みたいな迫力が伝わってくる。
《なんなんだよ・・・・。》
怖い半分、興味半分。
言われた通り爺さんの指先を見ていると、闇夜の中にキラリと何かが光った。
《なんだ?》
閃光というには頼りなく、点滅というには短すぎる。
そんな光が指先から漏れている。
その光はどんどん空へ飛びていき、蝶の羽ばたきのように、宙を踊っているように見えた。
《もしかして・・・・・、》
一つ閃くものがあった。
いつかこんな光を見たことがある。
あれは子供の頃、近所の川にテグスが掛けられていた。
川鵜が鮎を食べてしまうからと、対岸までテグスを伸ばして、鳥よけの銀紙みたいな物を括りつけていたのだ。
あの時、太陽の光を受けたテグスが、今のように輝いていた。
《糸か?指から糸が・・・・、》
おそらく・・・・いや、きっと糸が光っているのだ。
星の灯りを受けて、あの時のテグスのように。
その糸は遥か高くへ昇っていき、夜空に吸い込まれるように消えていった。
そして次の瞬間、俺は我が目を疑った。
なんと糸の消えた夜空から、真っ白な竜巻が降りてきたのだ。
グルグルと渦を巻き、何かに引き寄せられるように地上へ迫ってくる。
「おい爺さん!」
「黙って見とれ!」
そんなこと言われてもたじろいでしまう。
まるで鳴門海峡の渦潮が迫ってくるような、えも言えぬ不気味で恐ろしい光景だった。
しかし渦が降りてくるにつれ、それが竜巻ではないことが分かった。
「・・・・なんだあれ?」
大きな大きな白い渦は、大木へめがけて降りてくる。
間近にそれが迫った時、ようやくその正体に気づいた。
「糸?いや・・・・これって・・・、」
「繭だ。」
爺さんの言う通り、空から降りてきたのは繭だった。
白い竜巻に見えたものは、糸が渦巻いているものだった。
大木まで降りてきた繭は、枝の先まですっぽりと覆い隠してしまう。
「行って来い。」
「え?」
「いいから。」
ドンと背中を押されて、真っ白に巻き上げられた大木へ突き飛ばされる。
すると・・・・、
「うおッ・・・・、」
なんと大木から糸が伸びてきて、グルグル巻きにされてしまった。
叫ぼうにも口が開かず、身動き一つ取れない。
呼吸さえ出来なくなって、《あ、死ぬ》と力が抜けてしまった。
《これ死ぬ・・・・ダメだもう・・・・、》
緊縛された上に呼吸を封じられる・・・・死以外に待っているものはないだろう。
子供の頃、ポケットに突っ込んだバッタが、どうして瀕死になっていたのかよく分かる。
死ぬことへのストレスは、命のロウソクをこれでもかと早めてしまうのだ。
《なんだよこれ・・・・ここで終わりなんて・・・・、》
怖いやら呆気ないやら情けないやら、家族に別れすら告げられないなんて、最悪の死に方だろう。
今までの俺の人生はなんだったのかと笑えてきた。
意識が朦朧としてくる・・・・。
どこかへ猛スピードで運ばれて行くような感じだった・・・・。
《俺、あの世へ逝っちまうんだな。》
行きつく先は天国か地獄か?
今日、俺はここで命を終えるのだ・・・・・。
と思ったが、なぜか突然息ができるようになった。
手足も自由に動いて、気がつけば糸がほどけていた。
「なんでいきなり・・・?」
呆然としていると、ふと子供のはしゃぎ声が耳をくすぐった。
顔を上げると大勢の子供たちが遊んでいる。
走り回ったり、ゲームをしたり。
「・・・・・・・・。」
俺は言葉を失う。
たくさん子供がいたからじゃない。
子供が遊んでいるその場所・・・・・というより、今俺が立っているこの場所は・・・・、
「枝の上?」
とてつもなく巨大な木があって、その枝の上に俺がいる。
下は雲海のように雲が流れていて、所々から根っこが覗いていた。
そんな光景が遥か地平の彼方まで続いている。
今までに見たこともないような神秘的な光景が、延々と続いていたのだ。
「なるほど・・・・。」
ボリボリと頭を掻きながら、ボソリと呟いた。
「天国へ来ちゃったよ。」

最強の力士とは大関のこと 最高の力士とは横綱のこと

  • 2018.01.17 Wednesday
  • 12:58

JUGEMテーマ:格闘技全般

JUGEMテーマ:社会の出来事

白鳳の相撲が横綱らしくないと言われています。
張り手、かち上げは横綱の相撲ではないということだそうです。
ただしルール上は問題ないそうです。
横綱だからこれを使ってはダメという決まりはないんですね。
ただ横綱って特別な存在だから、そういった技は堂々としていないってことなんでしょうか?
まだカメラ屋さんに勤めていた頃、相撲に詳しい人がいたんですよ。
そのお客さんは役所の観光課で働いていて、歴史などを説明しながら観光客を案内するんです。
だから相撲の歴史にも詳しいです。
昔、相撲というのは大関が頂点だったそうです。
最強の力士とは大関のことを指したそうですよ。
では横綱とは何か?というと、いわば名誉職のようなものだったそうです。
大関の中でも、特に素晴らしい実績を残し、なおかつ人格者である者に与えられる名誉だったんだそうです。
これと似たようなものに裁判官がいます。
まず裁判官になる時点でかなりのエリートなんですが、そのエリートの中にもランクがあります。
最初は地方裁判所の判事から始まり、その中でも特に優秀な人がトップに立ちます。
そのトップのポジションは東京高等裁判所の判事です。
裁判官のキャリアの終着点がここなんだそうですよ。
その上にいる最高裁判所の判事は、いわば名誉職のようなものだそうです。
通常は東京高等裁判所の判事まで行けば、その人は最高の判事ということになります。
相撲もこれと同じで、最強の力士は大関です。
横綱は最高裁判所の判事と同じく、一握りの中から選ばれた、ほんの一摘みの特別な人達ということになります。
横綱になるには必ず大関になっていなければいけません。
このポジションを飛ばして横綱にはなれないからです。
ということは大関になった時点で、最強の力士の一人ということになります。
じゃあその上にいる横綱は、最強以上の存在ということになります。
最強の上ってなんなんでしょうか?
横綱という時点で、すでに最強は証明されています。
そのさらに上に目指すとなると、普通の戦い方ではダメってことになります。
相撲のルールの中で許されている技をどれでも使っていいのなら、横綱は強いのは当たり前です。
張り手、かち上げ、立ち合いの瞬間に有効な技ですが、横綱が使ってはダメというルールはありません。
ありませんけど・・・・あえてそれを使わないで勝つということに、最強以上の意味があるんじゃないでしょうか。
というのも、相撲とはもともと力比べです。
どちらがより力が強いか?
それを競うものなので(もっともっと大昔の相撲はパンチありキックあり総合格闘技だったそうですが)、てっぺんにいる横綱は力で勝ってなんぼということになります。
相撲で一番カッコイイ勝ち方って、押し出しだと聞いたことがあります。
教えてくれたのは、上に書いた相撲に詳しい観光課の人。
押し出しとはその名の通り、相手を土俵の外に押し出すことです。
とにかくパワーが必要になる勝ち方です。
これとにた勝ち方に寄り切りがあります。
こちらは相手を土俵から押し出す際、まわしを掴んでいる状態です。
ですからもし相手が土俵際で踏ん張った場合、投げ技に移行することも可能です。
まわしを取るのは相撲の基本であり、そのせいか寄り切りという形での決着が一番多いんだそうです。
逆に押し出しはまわしを掴んでいてはいけません。
ただ純粋に相手を土俵の外へ押し出すだけです。
とにかくパワーが必要な勝ち方です。
相撲は元々力比べだから、押し出しが一番カッコイイ決まり手になるということなんでしょう。
横綱は最強のさらに上に君臨する力士だから、相撲をやらせたら誰も敵わない存在ということになります。
要するに力比べをしたら誰にも負けないよってことです。
だから張り手やかち上げを使わずに、押し出し、もしくは寄り切りで勝つのが理想ということになります。
もちろん投げを打ってもいいけど、やはり理想は力での勝利です。
ルール内の技をどれでも使っていいのなら、自分は最強であるというのは、大関の時点で証明しています。
横綱と大関の違いというのは、力相撲ができるかどうかということになるかもしれません。
技の幾つかを封印した状態でも相手を圧倒できる。
そんな相撲を見せられたら、誰もが最強以上の力士として認めざるをえません。
ただ強いだけの力士じゃなくて、やっぱり横綱は特別なんだと。
ちなみに横綱の品格については、どういうものか分かりません。
何を指しているのか曖昧だし、専門家でさえ「品格ってなに?」と問われて、「分かりません」と答える人がいましたから。
強いていうなら上に書いたように、技に頼らず、力で圧倒できる相撲を貫く力士ということになるんじゃないでしょうか。
ただ勝つんじゃなくて、自らに技の封印という制約をもうけ、その上で圧倒的に勝てる力士。
最強というより、力比べをさせたら最高という戦い方ができる力士。
最強の上といったら最高しかありません。
横綱に必要なのは強さの証明ではなく、最高の証明なんだと思います。

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