小説の終わりのご挨拶

  • 2010.08.01 Sunday
  • 09:44
 不思議探偵誌が、昨日で完結しました。
不安の中で書き始めた小説ですが、何とか最後まで書くことができました。
途中何度か思うように書けず、挫折しそうになりました。
でも読んで下さっている方がいることが励みになり、きちっと最後まで書き上げることが出来ました。
不思議探偵誌を読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。
一週間ほど休んだら、また次の小説を書きたいと思います。
次も自分なりに精一杯書くので、よかったら読んでやって下さい。
誤字脱字に間違いも多かったと思いますが、読んで頂いた方には本当に感謝です。
勇気のボタン、不思議探偵誌ともに読んで下さった方がいたら、とても嬉しいです。
今まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(6)

  • 2010.07.31 Saturday
  • 09:39
 開けてある事務所の窓から、秋の涼やかな風が吹き込んでくる。
その風に頬を撫でられ、心地よい感触を感じていた。
今日は気持ちのいい秋晴れで、俺の心も同様に晴れ渡っていた。
今、俺の事務所には四人がソファに座っている。
俺、由香利君、茂美、そして尾崎。
その俺達のテーブルの前には、大人しくメロンちゃんがとぐろを巻いている。
「まさか、私が負けるなんて・・・。」
尾崎は茫然としながらメロンちゃんを見つめている。
メロンちゃんは男の俺と尾崎には目もくれず、由香利君と茂美を交互に見ていた。
「昨日駅前で見つけました。
これであなたとは一勝一敗。
まあ、引き分けってことですね。」
俺の言葉に尾崎は何か言い返そうとしたが、口をつぐんで黙り込んだ。
昨日駅前でメロンちゃんを見つけた俺と由香利君は、早速事務所に連れて帰り、茂美に連絡した。
「見つけたよ。
俺と由香利君でね。」
その言葉を聞くと、茂美は「そう、よかったわね」と明るく短い返事をしただけだった。
何故メロンちゃんが駅前にいると分かったのか。
昨日俺の体に起こった異変が、その原因かもしれない。
俺はただ目の前に一瞬浮かんだ映像を信じ、それに従っただけである。
どうしても負けたくないという思うが、一時的にではあるが、超能力を強くしたのかもしれない。
しかしまあ、今となってはそんなことはどうでもいい。
俺と由香利君は、こうして尾崎よりに先にメロンちゃんを見つけ、勝利を手にしたのだ。
「ねえ、尾崎さん。
今度は私の勝ちです。
さっき言ったように、これで一勝一敗の引き分け。
なら、どちらも事務所の看板を降ろす必要はなくなったということですよね。」
納得がいかないという感じの尾崎は、俺を睨んで言った。
「そうですね。
だったらまたもう一度勝負すればいい。
どぢらが真の超能力探偵に相応しいか、白黒はっきりつけようじゃありませんか。」
挑戦的な態度で身を乗り出し、チラリとテーブルの上のメロンちゃんを見た。
俺は尾崎の挑戦的な視線を受け流し、表情を柔らかくして答えた。
「いえ、私はもう勝負をするつもりはありません。
私にとって、どちらが真の超能力探偵かなんてどうでもいいことです。
あなたが自分こそ真の超能力探偵だと思うんなら、もうそれでいいじゃないですか。」
すると尾崎は俺を馬鹿にしたように笑い、そして言った。
「逃げるんですか?
もう一回私に勝つ自信が無いから。
事務所の看板を降ろすのが怖いから。」
その言葉にも、俺は柔らかい表情を浮かべたまま答えた。
「どういうふうに受け取ってもらっても結構です。
私は逃げたつもりはありません。
事務所の看板を降ろすのが怖いかと聞かれれば、それはその通りです。」
「ほら、やっぱり怖いんだ。
私に勝つ自信が無いということでしょう。
逃げているのと同じじゃないですか。」
そこで俺と由香利君は顔を見合し、わずかに笑った。
尾崎の隣に座っている茂美は、そんな光景を眺めていた。
「尾崎さん、私はね、誰かと勝負したくて探偵になったわけじゃない。
そして自分が超能力を持っていることを自慢しているわけでもない。
探偵は私にとって生き甲斐みたいなものなんです。
勝負の天秤にかけるような、安っぽいものじゃないんですよ。
さっきも言ったが、自分が真の超能力探偵であると思うなら、それでいいじゃないですか。
わざわざ私を目の敵にする必要なんてない。
実際あなたの超能力の方が優れているわけだし、それでいいじゃないですか。
それとも、本当に怖がっているのはあなたの方じゃないんですか?
この世に超能力を使える探偵が、自分だけじゃないっていう事実に怯えているだけじゃないんですか?」
「な、何を言って・・・。」
尾崎は一瞬うろたえたが、俺は構わず続けた。
「私はもうあなたと勝負するつもりはありません。
探偵は、誰かと勝負する為に存在しているわけじゃない。
持ち込まれた依頼を解決する為に存在しているんです。
私は、私の力を必要とする依頼人の為に探偵をしている。
あなと勝負をする為に、探偵をやっているのではない。」
「しかし・・・。」
そう言ってさらに身を乗り出そうとした尾崎を、茂美が不敵な笑みを浮かべながらたしなめた。
「尾崎さん、もういいじゃない。
久能さんの言う通りよ。
探偵は依頼人の為に存在している。
その言葉は、的を得ているわ。」
「いや、しかし・・・。
私はまだ勝負を続けたいと思って・・・。」
「醜いわよ!」
茂美が声を荒げ、尾崎が驚いたように目を開いた。
俺の隣で、由香利君もちょっとビックリしたようだった。
「さっき久能さんが言ったこと、やっぱり的を得てるわ。
あなた怖いのよ、この世に自分以外に超能力を使える探偵がいることが。」
「そ、そんなことはない!」
尾崎は慌てて答えた。
「だったら、もういいじゃない。
一勝一敗で勝負は引き分け。
それでお終いよ。」
尾崎は乗り出していた身を引っ込めて椅子に座り直し、唇を噛んで悔しそうな顔をしていた。
茂美は軽く口元を笑わせ、尾崎に言った。
「もう勝負はお終いなの。
あなたが久能さんに勝負を挑む正当な理由なんて、どこにもないわ。
元々この勝負はあなたのわがままみたいなもの。
久能さんはそれに付き合っていただけよ。」
由香利君が嬉しそうな目で茂美を見つめ、それに気付いた茂美は軽くウィンクをよこした。
「嫌がる相手を、これ以上勝負の土俵に引っ張り出そうとすのは、野暮な男のすることよ。
あなた、そんな野暮ったい男ってわけ?」
尾崎は完全に黙り込み、握った拳を膝の上で震わせていた。
また窓から風が吹き込み、それを合図にしたかのように尾崎は立ち上がった。
「分かりました。
もう勝負を挑むことはしません。
相手が逃げているんじゃ、勝負になりませんからね。
やっぱり、真の超能力探偵は、この私ということだ。」
そして尾崎はドアへ向かって歩き出す。
開けたドアを出て行く瞬間、一瞬だけ俺を見た。
俺はその視線を跳ね返すように見据えた。
尾崎は顔を伏せ、静かにドアを閉めて去って行った。
「茂美さん、カッコよかったです!」
由香利君がはしゃぐように茂美に言った。
「最後まで強がってたわね。
子供な男だわ。」
茂美は笑いながら言い、テーブルの上のメロンちゃんを掴むと立ち上がった。
「ごめんね、メロンちゃん。
寂しかったでしょう。
一緒にお家に帰りましょうね。」
茂美に甘い言葉をかけられながら撫でられているメロンちゃんは、とてもご機嫌そうだった。
「いやあ、やっぱり茂美さんは男前な美人やなあ。
惚れ直してまうわあ。」
メロンちゃん一号が言う。
「うんうん、その通りや。
さすが、俺らが惚れただけの女や。」
メロンちゃん二号も嬉しそうにしている。
「じゃあ、私はこれで。」
茂美がドアに向かって行く。
「なあ、茂美さん。
俺はまた探偵を続けられることが出来るよ。
君のおかげだ、ありがとう。」
そう言って頭を下げる俺に、「何のことかしら」ととぼけてみせる茂美。
「まあ、また近いうちに依頼を持ってくるかもしれないわ。
その時はよろしくね。」
そう言って茂美は去って行った。
「由香利ちゃん、またなー。」
ドアの向こうからメロンちゃんの声が聞こえ、茂美の足音とともに消えていった。
俺はソファから立ち上がり、自分の椅子に座り、窓の外を眺めた。
「お茶でも淹れましょうか。」
由香利君の声を背中に聞き、俺は頭だけ振り返って頷く。
俺はまた、探偵を続けることが出来る。
由香利君と一緒に。
嬉しいかと聞かれればその通りだが、飛び上がるような喜びではなく、何か心に暖かな安心めいた感情がわきたっていた。
「はい、どうぞ。」
由香利君が俺の机に上にお茶を置き、俺は椅子を回して由香利君と向かい合った。
お茶を一口飲み、ふうっと息を吐く。
由香利君が俺の前に立ったまま、ニコニコしながらこっちを見ている。
俺はもう一口お茶を飲み、由香利君に聞いた。
「なあ、君はいつまで俺の助手でいてくれるんだい?
大学を出たら就職だろう。
その時には、この事務所を辞めるのかい?」
由香利君は悪戯っぽく口に手を当てて笑い、「さあ、どうでしょう?」なんて笑いながら言っている。
「久能さんがどうしても私に助手を続けていて欲しいのなら、卒業してもここで働いてもいいですよ。」
俺はごほんと咳払いをし、ニコニコしている由香利君から顔を背けて言った。
「ま、まあ。
君がどうしてもここで働きたいのなら、俺は構わないけど。」
「素直じゃないなあ。」
そう言って由香利君は鼻歌を歌いながら書類の整理を始めた。
いつもと変わらない光景。
出来れば、ずっと続いて欲しい。
俺は嬉しそうに事務所を動き回る由香利君を見ながら、「卒業しても辞めないでくれよ」と小さく呟いた。

                      *

あれから十日以上が経ち、俺は相変わらず由香利君に隠れてエロ雑誌を読み、由香利君は相変わらず事務所の書類の整理や掃除をしていた。
「おお、このお姉ちゃんの腰のくびれはたまらんなあ。」
思わず声に出すと、由香利君が俺の前に立っていた。
「あ、しまった!」
そう言うのと同時に、俺の手からエロ雑誌を奪い取り、丸めてゴミ箱に捨てられてしまった。
「何度も何度も言わせないで下さい。
どうして仕事中にこういうものを読むんですか。」
俺は怒った顔の由香利君を見ながら、「えへへ」と誤魔化し笑いをして捨てられたエロ雑誌を拾おうとした。
「拾うな!」
由香利君のチョップが頭に落ちる。
「もう、相変わらず乱暴だなあ。
いいじゃないか、ちょっとくらい。」
俺が反論すると、またチョップをくらった。
「ダメなものはダメです。
たまには頭の中からエッチなことを消して下さい。」
由香利君はぷりぷり怒りながら、事務所の掃除に戻った。
「相変わらずやってるわねえ。」
茂美が開いたドアの前に立っていて、笑いながら言った。
「あ、茂美さん。
もう、聞いて下さいよ。
久能さんたら何度注意しても仕事中にエッチな本を読むんですよ。」
駆け寄って来て不満を漏らす由香利君に、「あら、それはいけないわねえ」と微笑みながら答えている。
俺は捨てられたエロ雑誌を拾いながら、こちらに近づいて来る茂美を見た。
「まあ、由香利ちゃん。
久能さんまたエッチな本を見ようとしてるわよ。」
「え?
あ、ほんとだ!
コラ、そんなもん捨てときなさい。」
またもやチョップをくらい、エロ雑誌を捨てられてしまった。
俺はチョップをくらった頭を押さえながら、顔をしかめて茂美に言った。
「もう!
バラすなよ!
また由香利君に怒られちゃったじゃないか。」
不機嫌な俺を見て茂美は笑い、そして俺の傍に寄って来て体を密着させる。
ああ、たまらん。
柔らかい胸が俺の腕に。
「うふふ、久能さん。
実はまたうちの雑誌で未確認生物の特集をやっていてね。
それで依頼を持って来たのよ。」
そう言ってさらに胸を押し付けてくる。
ああ、茂美お得意の色仕掛けが出たよ。
俺は顔をだらしなくニヤニヤさせながら、どうせまたろくな依頼じゃないんだろうなと思っていた。
「久能さん、顔がだらしないですよ。」
由香利君に拳骨をくらった。
頭を押さえて痛がる俺。
「本当に仲がいいわねえ。
ねえ、久能さん。
あなたと由香利ちゃんは、まったくいいコンビだわ。」
そう言って茂美は俺から体を離し、机の前に回って来て一枚の紙を置いた。
茂美の胸の感触が腕から離れていって、俺はちょっと残念に思いながらその紙を見た。
「今ね、インターネットで話題になっている生き物がいるのよ。
足が20本あって頭に羽が生えていて、しかも東北弁を喋るタコがいるんですって。」
またか・・・。
そんな生き物がいるわけないと思ったが、実際にメロンちゃんのようなヘビもいるので否定出来ない。
「詳しいことはその紙に書いてあるわ。
うふふ、メロンちゃんを見つけた久能さんなら、きっとこのタコも見つけてくれるわよね。」
茂美は前屈みになって豊満な胸を俺に見せつける。
クソ!また色仕掛けだ。
「ま、まあ捜してみるよ。」
俺が曖昧に答えると、茂美は満足そうに笑いながら頷いた。
「見つけたら教えてね。
期待してるわよ、久能さん。」
そう言葉を残し、茂美は色っぽいフェロモンを振りまきながら去って行った。
「面白そうな依頼ですね。
早速捜しに行きましょうよ。」
由香利君が嬉しそうに出掛ける準備をする。
俺はやれやれといった感じで立ち上がり、上着を羽織って茂美の置いていった紙をポケットに突っ込んだ。
「よし!
じゃあ張り切って捜しましょう!」
元気な声を出す由香利君の近くに寄り、俺はニコッと笑って言った。
「そうだな、張り切って行こう。」
そう言って由香利君のお尻を撫でる。
「何するんですか!」
凄まじい鉄拳が俺の顔にめり込んだ。
「もう!
本当にエッチなんだから!」
俺は出てくる鼻血を押さえるため、ティッシュを丸めて鼻に突っ込んだ。
「やっぱり由香利君の鉄拳は強烈だなあ。」
そう言うと、由香利君は「鍛えてますから」と拳を握って見せた。
「ほら、早く行きますよ!」
由香利君に急かされ、俺は「はいはい」と言いながらドアに向かう。
季節は秋。
今日は美しい秋晴れで、きっと外には透き通るような青い空が一面に広がっている。
「じゃあ、行こうか。」
俺は鼻にティッシュを突っ込んだまま、ドアを開けて由香利君とともに外に出た。
思った通り、綺麗な青空が広がっている。
「久能司探偵事務所」
その看板を一目見ると、俺は先を行く由香利君の後を追いかけた。
依頼を解決する為、今日も俺達は街へと繰り出した。

                                  最終話 完


不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(5)

  • 2010.07.30 Friday
  • 09:23
 突如として舞い込んできた希望の光。
もうダメだと諦めて、自分の唯一の生き甲斐を失くした喪失感を、心に灯った炎が明るく俺の気持ちを照らし始めた。
人生で何度か巡ってくる大きなチャンス。
それを活かすも殺すも俺しだい。
俺は、そのチャンスを絶対に掴んでみせる!
「もう、負けられませんね。
二度の敗北は許されないですから。」
由香利君が俺の隣に立って言う。
俺は椅子に座りながら頷き、昨日のことを思い出していた。
もう事務所を閉めるつもりでやって来た時、突然現れた茂美が俺に再度チャンスをくれた。
尾崎との再戦。
茂美の飼っているペットのメロンちゃんを見つける勝負。
これに全てがかかっている。
俺がこれからも探偵を続けられるかどうか、由香利君と一緒に、これからも働くことが出来るかどうか。
俺は椅子から立ち上がると由香利君に向き直った。
「また君と一緒に探偵が出来るなんて嬉しいよ。
それが今回一度限りで終わらないように、必ず尾崎に勝とう。」
由香利君は強く頷き、そして目に闘志を燃やしながら言った。
「私もまた久能さんと探偵が出来て嬉しいです。
もう負けるつもりはありません。
勝負は勝つ為にやるものです。
きっと、メロンちゃんを見つけ出しましょう!」
そして俺達は顔を見合わせて笑い、お互いに強く頷き合った。
上着を着て事務所を出た。
「久能さん、今回はどこを捜しますか?
メロンちゃんは女の子が大好きです。
尾崎の言っていたように、女の子がたくさん集まる場所を捜しますか?」
前回の勝負では、尾崎は女子高でメロンちゃんを見つけたと言っていた。
無類の女好きのメロンちゃんが、たくさん女の子が集まる女子高にいたのは当然かもしれない。
今回だって、尾崎は女子高を捜しているかもしれない。
「尾崎が女子高なら、私達は女子大でも捜しましょうか?」
それはいい考えだが、俺は何かが心の中で動いているような感じがした。
由香利君の言う通り、女子大にメロンちゃんが現れる確率は高いかもしれない。
どこを捜すか、それはとても重要な決断だ。
でも、自分の心の中で動く何か。
上手く言葉では説明出来ない。
何かが心の中を、そして頭の中を渦巻いていた。
「久能さん、早く捜しに行きましょうよ。
こうしている間にも、尾崎はきっとメロンちゃんを捜しているはずですよ。
私達には、もう後がないんです。
早く行動しないと。」
由香利君が焦った顔で俺を急かす。
俺はその顔を見た。
まだ俺と探偵を続けたいと言っていた由香利君。
その思いが目に表れていて、強く俺を見据える。
「うん、由香利君の言う通りなんだ。
早く行動しないといけない。」
でも俺は顔をしかめたまま、事務所の前で立ち止まっていた。
何だろう、この感覚。
何かが俺の心に芽生えようとしている。
強い力が流れ込んでくる気がして、俺は目まいにも似た感覚に襲われ、一瞬よろけた。
「大丈夫ですか。」
由香利君が、倒れそうになった俺の体を支える。
心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「ごめん、大丈夫だよ。
ちょっと目まいを起こしただけだ。」
俺が言うと、由香利君は俺の体から手を離さずに申し訳なさそうな顔をした。
「久能さん、疲れてるんですね。
ごめんなさい。
勝負に負けてから二日間、私何も連絡を取らずに・・・。」
顔を伏せた由香利君の頭をポンと叩き、俺は明るい口調で言った。
「いいさ、気にするな。
連絡をしなかったのは俺も同じだ。
昨日茂美がまた尾崎との再戦のチャンスを持ち込んでくれなかったら、俺はきっと、ずっと君と連絡を取らずにもう会うこともなかったと思う。
君だって、勝負に負けて辛かったろうにな。
何も気を遣ってやれなくて悪かったな。」
由香利君はぶんぶんと首を横に振り、顔をあげて言った。
「いいんですよ。
勝負に負けたショックは私も久能さんも同じだから。
どっちがどっちに気を遣うとか、そんな必要はないですよ。」
そう言って由香利君は俺の体から手を離し、ニコッと笑って見せた。
「今はもうそんなことを言っている場合じゃありませんよ。
早くメロンちゃんを見つけないと。」
由香利君、君は強い子だな。
俺も由香利君につられて笑い、よろけた体をしっかり立たせようとした時だった。
さっきまで心と頭の中に渦巻いていた何かが、急に俺の眉間に集まってくるように感じた。
これは、俺が超能力を使う時の感覚と同じだ。
でも、いつもと違う。
いつもより、もっと強烈な力が眉間に集まる。
熱い、そして痛い。
俺は頭を押さえ込み、その場に膝をついた。
「久能さん!」
由香利君が俺の前に屈んで、泣きそうな顔を見せていた。
「しっかりして下さい。
どこか体の具合が悪いんですか?
もしあんまり辛いなら、私一人でメロンちゃんを・・・。」
ガンガンと頭の中に大きな音が鳴り響く。
由香利君の声が、すごく遠くから聞こえるような気がする。
「久能さん、しっかりして!」
由香利君が俺の体を揺さぶる。
半分べそをかいている由香利君を見ながら、俺は眉間に集まる熱い力をどうすることも出来なかった。
どうしたんだ、一体?
自分でも、自分の体に何が起きているのか分からない。
超能力を使う時の感覚に似ているが、こんなに強烈な力は眉間に集中したことがなかった。
真っ白になる頭。
心の中で何かが暴れている。
耳鳴りのようなうねりが耳を痛いほど刺激する。
しばらくそのままうずくまっていた。
由香利君が半べそをかきながら俺に何か言っているが、何も聞こえない。
そうやって俺はどのくらいうずくまっていたのだろう。
多分長い時間ではないと思うが、やがて心も頭の中もクリアな状態になり、うねりのような耳鳴りもやんだ。
眉間に集まっていた力が、宙に向かって解放されていったような気がした。
「久能さん、久能さん!」
由香利君の声が聞こえるようになった。
彼女はちょっと涙を流しながら、強く俺の肩を握っていた。
俺はその手にそっと触れると、二コリと笑って立ち上がった。
由香利君が心配そうに俺を見上げる。
「大丈夫だよ、心配するな。」
由香利君の手を取って立たせ、俺は安心させるように微笑んだ。
由香利君は手で涙を拭きながら、相変わらず心配そうに俺を見ている。
心がとてもすっきりしていた。
頭の中がすっかり落ち着いて、とても気分がよかった。
眉間に集まった力が解放される瞬間、一瞬ある光景が目の前に浮かんだ。
頭の二つある、全身毛むくじゃらのヘビの姿が。
そしてそいつがいる場所が。
ほんの一瞬ではあったが、目の前にはっきりと見えたのだ。
これは透視能力だろうか?
自分でもよく分からなったが、きっとその一瞬見えた光景の場所にメロンちゃんがいると確信していた。
「由香利君、駅前に行こう!
以前メロンちゃんを捕まえたあの駅前に。」
由香利君はまだ半べそ状態のまま口を開いた。
「でも、あそこは前に捜して見つからなかったじゃないですか。
捜すなら、やっぱり女の子が集まる女子大の方が・・・。」
由香利君が言い終わる前に、俺は彼女の両肩を掴んで言った。
「いや、メロンちゃんは間違いなく駅前にいる。
きっとそこにいるはずなんだ!
間違いない。」
俺の真剣な目と力強い言葉に、由香利君は黙って俺を見ていた。
そして唇を一回噛むと、「はい」と頷いた。
「久能さんがそこまで言うのなら、私はその言葉を信じます。
二人で駅前に行きましょう。」
由香利君はもう涙を流していない目で、真っすぐ俺を見ていた。
「じゃあ行こう!
この勝負、きっと勝つんだ!」
そう言うと、俺達は駅前に向かって駆けて行った。
晴れた秋空が深い青色をしている。
その空の元を、俺達は勝利を信じて走って行った。
やがて駅前につくと、俺は息を切らしながら腕時計を見た。
午前10時。
駅前にはまばらに人がいた。
「若い女性の姿は少ないみたいですね。」
由香利君は息一つ切らしていない。
さすが空手で鍛えてあるなと思いながら、俺は駅の近くに歩み寄った。
由香利君がその後をついてくる。
由香利君の言う通り、若い女性の姿は少ない。
けど、きっとこのどこかにメロンちゃんはいるはずだと確信していた。
「二手に分かれて捜しますか?」
由香利君が俺の隣に並んで聞いてくる。
「そうだな、じゃあ1時間ほどしたらまたここに集合ということにしようか。」
「はい。
私、久能さんのこと信じてますから。
メロンちゃんはきっとここにいますよ。」
そう言って二手に分かれ、捜索を開始した。
前回と同じようにくまなく捜す。
若い女性も注意を払って見ていた。
そうこうしているうちに1時間。
俺達は元の場所に集まった。
「そっちはどうだった?」
俺は由香利君に尋ねた。
彼女は首を振る。
「見つかりませんでした。
久能さんは?」
俺も首を振った。
「でもきっとこのどこかにいるはずなんだ。」
俺はそう言って駅を見上げた。
「どこかに身を潜めているんですかねえ。」
由香利君も駅を見上げる。
その時、俺の眉間に力が集中してある映像が浮かんだ。
「危ない!」
そう言って由香利君の腕を引っ張った。
由香利君の体のすぐ脇を、頭が二つある、全身毛むくじゃらのヘビがジャンプしていった。
そのヘビはボテっと地面に落ちると、頭を持ちあげてこちらを振り返った。
「由香利ちゃーん!
会いたかったでえー!」
そのヘビはチロチロと舌を出しながら言った。
「見つけた!」
俺と由香利君は同時に叫び、そしてそのヘビを二人で鷲掴みにしていた。
「な、なんやなんや。
いきなり何すんねや!」
俺達の手の中でクネクネと体を動かしている生き物は、まぎれもなくメロンちゃんだった。
「やった!
やりましたよ!
見つけましたよ、久能さん!」
飛び上がって喜ぶ由香利君。
「なんや、由香利ちゃん。
そんなに俺らに会いたかったんかあ。」
二つの頭が同時に喋った。
メロンちゃんは相変わらず、俺達の手の中でクネクネと動いている。
「久能さん!
やった!
勝ちましたよ!
これでまた探偵が続けられますね!」
由香利君が満面の笑みで俺に向かって言う。
「ああ、そうだ。
俺達の勝ちだ。
これからも二人で探偵を続けらるぞ!」
メロンちゃんは二つの頭を忙しなく動かし、俺と由香利君を交互に見つめていた。
俺と由香利君は顔を見合わせて笑い合い、メロンちゃんを握りしめていた。
「痛たた。
あんまり乱暴に扱わんといてえなあ。」
その言葉にまた二人で顔を見合わせて笑い合った。
秋の深い青空が、俺達の勝利を祝福してくれているようだった。

                                 最終話 まだつづく


不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(4)

  • 2010.07.29 Thursday
  • 09:45
 明日になったら看板を降ろそう。
誰もいない事務所に一人座り、窓の外を眺めながらぼんやり考えていた。
尾崎に負けてから二日経っていた。
この二日間、俺は何をするでもなく、ただ事務所に入り浸っていた。
別に感傷や思い出に浸るわけでもなく、名残惜しさがあるわけでもなく、心にぽっかりと空いた穴を抱えたまま、ただ事務所でぼーっと過ごしていた。
由香利君はあれから姿を見せていない。
まだ俺と探偵を続けたいと言って泣いていた彼女。
あのあと、雨が降ってきて、俺達は一旦事務所に入った。
由香利君は何も喋らず、しばらくソファに座って泣いていた。
俺はただ、その光景を見ていた。
言葉を交わすこともなく、時間だけが過ぎていった。
「久能さん。」
唐突に言って由香利君は立ち上がり、涙を拭きながら俺を見た。
「ごめんなさい、力になれなくて。
ごめんなさい・・・。」
窓の外の雨音を聞きながら、彼女が何故俺に謝るのか分からなかった。
謝るのはこっちの方なのに。
尾崎との勝負を受けたのは俺だ。
そして、負けた責任も俺にある。
「君は何も悪くない。
俺の力が及ばなかったんだ。
謝るのはこっちだよ。
ごめんな。」
事務所はしんと静まり返っていて、窓を雨が叩く音だけが響く。
何か抜け殻のようになってしまった自分の心は、体全身から力を奪っていた。
俺は由香利君の傍に歩み寄り、肩を優しく叩いた。
何か言おうとしたが、何も言葉は出てこなかった。
「ごめんなさい・・・。」
由香利君は小さくそう呟くと、自分の荷物を持ち、ゆっくと歩きながら事務所を出て行った。
窓から外に出た由香利君を見た。
雨の中を濡れながら、力無い足取りで去って行く姿を見送ると、俺は自分の椅子に座り、夜になるまでただそうしていた。
この二日間、何度か由香利君に連絡をしようかと思った。
彼女からは何の連絡もなく、今頃どうしているのだろうと思いながら、その声を聞きたくて連絡を取ろうとした。
でも、結局連絡は取らずじまいだった。
電話をかけても、何を話せばいいのか分からない。
俺達は恋人でもない。
友達でもない。
探偵と助手だったのだ。
たったそれだけの関係だった。
だから、探偵をやめることが決まった今、由香利君に何て電話をかければいい?
何故か無性に彼女の声が聞きたい。
でも、電話をかける正当な理由なんてどこにもないのだ。
俺が探偵じゃなくなった時点で、彼女も俺の助手ではなくなった。
もう繋がりはない。
探偵をやめれば、俺には何も無くなる。
でも由香利君には大学があり、空手がある。
探偵の助手じゃなくなっても、自分の生活がある。
お金が欲しくなったら、また別のアルバイトを探せばいい。
今や探偵という唯一のものを失った俺は、由香利君ともう会うことはないのだろう。
そして、生き甲斐だった探偵は、もう出来ない。
次の自分の人生を探す為、いつまでも立ち止まってはいられない。
明日この事務所の看板を降ろしたら、全て忘れよう。
もし全て忘れるのが無理でも、探偵であった思い出に浸って生きるのはやめよう。
俺に残されたのは小さな力。
とても下らない超能力。
この力を使って、もう何かをすることもない。
何かをしようとも思わない。
もう、普通に暮らそう。
俺はコーヒーを淹れ、自分の椅子に座って、その日もただ時間が過ぎるの待った。
やがて夜がきて、俺は事務所の電気を消してドアに鍵をかけた。
「久能司探偵事務所」
その看板を一目見上げると、事務所を振りかえることなく家に帰った。
夜の秋の風は、とても冷たく感じられた。

                      *

翌日、俺は事務所に来ると、受話器を取り上げて看板業者に電話をしようとしていた。
あの看板を外してもらうのだ。
そして今日中に荷物を整理して、綺麗さっぱり、何もなくしてこの事務所と別れを告げるのだ。
コーヒーを一口飲み、電話のプッシュボタンを押す。
その指がわずかに躊躇っていることに自分で気付き、何だか可笑しくなって笑ってしまった。
もう未練など残してはいけないのに。
昨日、全て忘れようと決めたのに。
俺はプッシュボタンを押す指に力を込めた。
もう全て終わりにするんだ。
俺は探偵じゃない。
普通の暮らしに戻るんだ。
そう覚悟を決めて最後のプッシュボタンを押そうとした時、ドアから誰か入ってきた。
茂美だった。
相変わらずの色っぽいスーツ姿で、目にわずかに笑みをたたえながら事務所の中央まで歩いて来る。
俺は一旦受話器を置き、茂美を見た。
茂美は俺の視線を受けると不敵に笑い、さらに近づいてくる。
俺の前で机に片手を付き、笑顔を保ったまま口を開いた。
「久能さん、また会いに来ることになるなんて思わなかったわ。」
顔は笑っているが、声は真剣だった。
「何か用か?
俺はもう探偵じゃない。
俺に用事なんてないはずだろ。」
茂美は腰を机の上に乗せ、窓の外に目をやって答えた。
「ねえ、久能さん。
このまま探偵を終わらしたら、あなたどうするつもり?」
俺は椅子の背もたれに体を預け、茂美を見上げながら答えた。
「どうもしないさ。
また就職活動でもして、新しい仕事を見つける。
まあこの不況だから、すぐには採用は決まらないだろうけど。」
そう言って自嘲気味に笑って見せると、茂美は顔から笑顔を消して言った。
「似合わないわ。」
「何?」
俺は呟くように聞き返した。
「久能さんが、普通に働くなんて似合わない。
そう言ったのよ。」
俺と茂美の間に、しばらく沈黙が訪れる。
似合わないか。
俺が普通に働くことが。
その言葉をどう受け止めていいのか分からないが、俺は茂美を見て「ふふ」と笑った。
「そうかもな。
俺はサラリーマンが嫌で、この仕事を始めたんだ。
宝くじを当てて、自分を変えるチャンスを得た。
俺はもっと刺激のある生活が欲しい。
そう思って探偵を始めた。
だから、また普通の暮らしに戻るのは、まあ、寂しくはあるな。
けど仕方ないさ。
もう、俺は探偵じゃないんだ。」
自分の心の中にあることを吐き出すと、茂美はゆっくりとその言葉を吟味するように聞いていた。
「褒め言葉よ。」
不意に茂美が言った。
俺は一瞬何を言っているのか分からず、真顔で茂美を見返した。
「あなたが普通に働くのなんて似合わない。
それって、裏を返せば今までの仕事が似合ってたってことよ。
あなたは探偵が似合ってる。」
茂美はそう言うと、机から腰を下ろして真っすぐに俺を見据えた。
「久能さん、人生にはそう何度も大きなチャンスは巡ってこないわよ。」
俺は黙って茂美の視線を受け止めた。
茂美の言葉が、何か形をもって俺の耳に入ってくるように感じる。
「あなたはさっき、宝くじを当てて自分の人生を変えるチャンスを得たと言っていた。
そして探偵を始めた。」
俺はコーヒーカップに視線を移し、茂美の言葉に力がこもっているのを感じた。
「でも、そうして始めた探偵も、もうやめなくちゃいけない。
人生の中で手に入れた一度目の大きなチャンスが、ふいになちゃったわけね。
でも、もしまたチャンスが巡ってきたとしたら?
人生でそうはない大きなチャンス。
その二度目が、今あなたに巡ってきたとしたら、あなたはそれに背を向けるのかしら?」
茂美の言葉が理解出来ず、俺はコーヒーカップを睨んだまま尋ねた。
「言っている意味が分からないな。
二度目の大きなチャンス?
そんなものがどこにある?」
茂美はまた笑顔を作り、腕を組んで俺の傍に寄って来た。
「決まってるわ。
探偵を続けるチャンスよ。」
俺は茂美の顔を見上げた。
彼女はまるで、俺を試すような目で見ている。
事務所の静けさが、逆に俺の心を騒ぎ立てていた。
「今日の朝ね、またメロンちゃんが脱走しちゃったのよ。
まったく、困ったペットだわ。」
茂美は俺を通り過ぎて窓の外を眺めている。
俺は椅子に座ったまま動けず、茂美を振りかえることが出来なかった。
「まあ、あんなペットでも私にとって可愛い存在なのよね。
だから、また捜して欲しいのよ。」
茂美は俺の前まで回って来ると、顔を近づけて言った。
「勝負はまだ終わっていない。
尾崎にはもうメロンちゃんが脱走したことを伝えたわ。
彼はきっともう動いているはず。
あなた、こんな所で座ったままでいいの?」
そう言って茂美はドアの方へゆっくりと歩いて行く。
「まだ、勝負は終わっていない?」
そう呟いた俺に振り返り、茂美はドアを開けてその際にもたれかかった。
「うふふ、再び巡ってきた大きなチャンスを、活かすも殺すもあなたしだい。
これを逃せば、あなたはもう本当に探偵じゃなくなるわ。」
また、俺にチャンスが巡ってきた。
今度は探偵を続けるチャンスが。
だが、そう都合よく人生に大きなチャンスが巡ってくるものだろうか?
そう思った途端、俺はハッとして茂美に尋ねた。
「お前、まさかわざとメロンちゃんを・・・。」
その言葉に茂美は答えず、ただ笑顔を寄こしただけだった。
気が付くと、俺は椅子から立ち上がっていた。
抜け殻になっていた心に、何かが戻ってくるのを感じていた。
茂美は俺に背を向け、顔をだけを振り向かせて言った。
「久能さん、今度は期待してるわよ。」
バタンとドアは閉まり、茂美が去って行く足音だけが聞こえる。
茂美は、再び巡ってきたチャンスに背を向けるのかと俺に尋ねた。
とんでもない!
誰が背を向けるものか。
俺は茂美に心の底から感謝をしつつ、すぐにケータイを手に取った。
電話をかける。
もちろん相手は決まっている。
数回のコールのあと、小さな声で「もしもし」と返事があった。
俺は興奮していた。
何をどう説明しようか頭の中で整理がつかず、でもとにかくまだ全てが終わったわけじゃないんだということだけは伝えなければならない。
ケータイを強く握りしめ、俺は力強く言った。
「由香利君、まだ終わっていない。
俺達は、まだ探偵なんだ。」
電話の向こうから返事はない。
俺は構わず続けた。
「まだ依頼は終わっていないんだよ。
勝負はまだ決してない。
これから解決しなけりゃならないんだ。」
由香利君が何か言ったように聞こえたが、声が小さくて聞き取れなかった。
「君は俺の助手だろ。
だったら、すぐに事務所に来てくれ。
また二人で、依頼を解決するんだ!
この勝負に、絶対勝つんだ!」
由香利君が俺の言葉に答えた。
今度ははっきり聞こえた。
「行きます!
すぐ行きます!
だって私は久能さんさんの助手だから!
依頼を解決するのは、いつだって二人だから!
もう、絶対に負けません。
勝って、探偵を続けましょう!」
俺は笑顔になってケータイを握っていた。
そうだ、今度は負けない。
自分に負けちゃいけない。
巡ってきたチャンスを手にするには、自分に勝たないといけないんだ!
俺は全身に力が漲るのを感じていた。
電話の向こうの由香利君の声も、俺に力を与えてくれた。
待ってろよ、尾崎。
今度はこっちが勝つ番だ。
心の底から湧き上がる力が、俺を満たしていた。

                                最終話 さらにつづく

不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(3)

  • 2010.07.28 Wednesday
  • 09:20
 終わった。全て終わった。
俺の事務所にメロンちゃんを連れて、茂美と尾崎がやって来た時にそう思った。
尾崎は俺より先に、メロンちゃんを見つけたのだ。
尾崎と茂美はソファに座り、透明なカゴに入れたメロンちゃんをテーブルの上に置いた。
俺と由香利君は、茫然としたままメロンちゃんを見ていた。
「ふふふ、今回の勝負は私の勝ちですね。
やはり真の超能力探偵は私の方だったということです。」
尾崎が勝ち誇ったような笑みを浮かべ、俺を見下していた。
「久能さん、残念だったわね。
私はどっちかと言えば久能さんの方を応援していたんだけど、でもこうやって結果が出ちゃったからね。
尾崎さんの言う通り、あなたの負けよ。」
茂美の言葉は深く俺の心に突き刺さり、言葉は出てこなかった。
昨日、俺と由香利君は一生懸命になってメロンちゃんを捜した。
尾崎に負けたらどうしようという不安な思いが心の大半を占め、しかし由香利君が励ましてくれたおかげでやっとやる気が出てきた時に、茂美から尾崎が先にメロンちゃんを見つけたという電話を受けた。
あの後、そのことを知った由香利君はとても悔しそうな顔をしていたっけ。
唇を噛み、目を細めながら肩を震わせていた。
由香利君は何も言わなかった。
俺も何も言えなかった。
絶対に負けるものかと思っていたのに、二人でまだ探偵を続けたいと思っていたのに。
負けたら事務所の看板を降ろさなくてはいけない。
そのことだけが俺の頭を支配し、昨日は駅で由香利君と別れたあと、どうやって家まで帰ったのか覚えていなかった。
家に帰っても眠れず、気が付けば朝になっていた。
とりあえずコーヒーでも飲もうと布団から出た時に茂美からケータイが鳴った。
「今日メロンちゃんを連れて、尾崎さんと一緒にあなたの事務所に行くわ。
久能さん、負けちゃって可哀想だとは思うけど、これも勝負の結果だから仕方ないわよね。」
茂美からの電話に言葉は返さず、俺はケータイを切った。
食欲はなく、朝は何も食べないで事務所までやって来た。
あとからやって来た由香利君は、「おはようございます」と言ったきり、何も言わなかった。
そして事務所で待つこと一時間、こうして尾崎と茂美がやって来た。
メロンちゃんはカゴの中で忙しなく動き回り、事務所の中をキョロキョロと見渡していた。
「久能さん、約束は覚えていますよね。
負けた方が事務所の看板を降ろす。」
「言われなくても、分かっている。」
何とか声を絞り出し、尾崎に向かって言った。
「まあ、これからあなたは探偵じゃなくなるわけです。
さっさと次の仕事を探さないとね。」
尾崎は皮肉たっぷりに言い放った。
そうだ。
俺は探偵じゃなくなるんだ。
次に何をすればいいかなんて、まだ考えられなかった。
「何処でです?」
唐突に由香利君が口を開いた。
全員が由香利君を見る。
「何処でメロンちゃんを見つけたんですか?」
低い声で由香利君は言った。
まるで尋問する刑事のように。
「ふふふ、このメロンちゃんが無類の女好きだということは、茂美さんから聞いていましたからね。
しかも若い女性を好む。
だったら、若い女性が集まる場所を捜せばいい。
私は5キロ先まで見通せる透視能力を持っています。
それを駆使しながら、女子高を捜して回っていたのですよ。」
女子高か。
俺は素直に尾崎の目の付け所がいいと思った。
俺達は以前に駅前でメロンちゃんを見つけたので、駅を重点的に捜していた。
しかし、逆にそれが裏目に出たようである。
尾崎の考えることはもっともだ。
メロンちゃんは若い女性を好む。
だったら、若い女性が多く集まる場所を捜せばいい。
そのことが思い浮かばなかった自分が、悔しくなった。
「三つめの女子高を回った時です。
透視能力を使って、学校全体を見渡していました。
ちょうど下校時間でしたね。
私は校門のすぐ近くにいたんです。
すると、私の透視能力にメロンちゃんの姿が浮かびましてね。
学校の裏門でした。
テニスの部活をしている女子生徒を、じっと見つめているのを発見したんです。
持っていたカゴにすぐに捕獲したというわけです。」
由香利君は俯き、それ以降は何も喋らなくなった。
やはり尾崎の超能力はすごい。
もし俺が女子高を捜しても、学校全体を見渡す力などない。
勝負は超能力だけで決するわけではないと思っていたが、尾崎は俺には無い着眼点と、その強力な超能力を使ってメロンちゃんを捕獲したわけだ。
俺は項垂れ、自分の力の無さを痛感していた。
「由香利ちゃん、久しぶりやなー。
相変わらずべっぴんさんや。」
カゴの中のメロンちゃんが、体をクネクネ動かしながら、嬉しそうに由香利君を見る。
「やっぱり若い女の子はええなあ。」
右頭のメロンちゃん一号が言う。
「茂美さんみたいな色っぽい美人も好きやけど、由香利ちゃんみたいなのもタイプやでえ。」
左頭のメロンちゃん二号が愛想を振りまく。
由香利君はメロンちゃんの言葉を聞いているのかいないのか、視線を自分の足元に定めたまま動かない。
「なあ由香利ちゃん、今度俺らとデートしようや。
景色のええ場所知ってんねや、な。」
メロンちゃん一号が舌をチロチロ出しながら由香利君の気を引こうとする。
「そやそや。
それがええ。
今度俺らとデートしよ。
俺ら由香利ちゃんのこと大好きやねん。
景色のええとこを一緒に歩いて、ロマンティックな気分に浸ろうや。」
メロンちゃん二号がしつこく由香利君を誘う。
俺は黙ってメロンちゃんを見ていた。
メロンちゃんの二つの頭の目は、由香利君に釘付けで、「なあなあ、デートしよ」とまだ体をクネクネ動かしながら誘っている。
尾崎も茂美も言葉を発さず、ただメロンちゃんを見ていた。
「なあ、由香利ちゃん、俺らとデート・・・。」
そう言いかけた時、由香利君が勢いよくソファから立ち上がった。
泣きそうな顔でメロンちゃんを見下ろし、両手は拳を握って、体はわずかに震えていた。
「私は、あんた達のことなんか大嫌いよ!」
由香利君は大声で言うと、そのまま走るように事務所を出て行った。
「ああ、由香利ちゃん、カムバックー!」
メロンちゃんの悲しげな声が空しく事務所内に響き渡った。
「メロンちゃん、私より由香利ちゃんの方がいいの?」
茂美がメロンちゃんに声をかける。
「いやいや、茂美さんも大好きやでえ。」
メロンちゃん一号が答える。
「その色っぽい体と雰囲気、たまらんわあ。」
メロンちゃん二号が茂美に向かって言う。
「ふふふ、やっぱりメロンちゃんは女好きなのねえ。
まあ、そこが可愛い所でもあるんだけど。」
そう言うと茂美は立ち上がり、メロンちゃんの入ったカゴを手に取った。
「久能さん、あなたが探偵をやめなきゃいけないのは残念だわ。
でも、勝負は勝負。
結果には従わないとね。」
そう言ってドアまで歩き、出て行く間際に、俺に向かって言った。
「もう会うことは無いかもしれないけど、元気でね。」
茂美はドアを閉め、そのまま去って行った。
「久能さん。」
尾崎が俺に呼びかけ、俺は彼の顔を見た。
「茂美さんの言った通り、勝負は勝負です。
近いうちに事務所の看板を降ろして下さい。
あなたには悪いがね。
この世に、超能力探偵は私一人で十分だ。」
そう言うと尾崎も立ち上がり、俺を見下ろした。
「まあ、あなたには超能力探偵を名乗る資格は無かったということですよ。
早く次の仕事を見つけて、これからは普通に暮らして下さい。」
そう言い残し、尾崎も去って行った。
事務所には俺一人。
窓の外は曇っていて、まるで俺の心を映しているようだった。
俺は立ち上がってコーヒーを入れ、自分の椅子に座る。
窓を開け、タバコに火を点けて、大きく煙を吐き出した。
外を流れる風が、タバコの煙を運び去っていく。
コーヒーを口に含んだが、まるで味を感じることはなく、タバコも吸いつくして灰皿に押し付けた。
机の中には由香利君に隠して買ったエロ雑誌が入っている。
手に取ってパラパラとページをめくるが、まるで内容は頭に入ってこなかった。
俺は、もう探偵じゃなくなるのか。
もう依頼を持ちこまれることもない。
茂美から変なことを頼まれることもない。
そして、由香利君と一緒に街を歩くこともなくなるのだろう。
窓に近づき、曇った空を見上げていると、今までのことが思い出された。
思えば、妙な依頼ばかりだった。
とても探偵の仕事とは思えないものもあった。
でも、今になって思えば、どれも楽しかった気がする。
脱サラをして始めた探偵業は、俺の生き甲斐だった。
サラリーマン時代は何も刺激がなく、生きている実感というものがまるでなかった。
宝くじを当てた時、これで俺は変われると思った。
超能力を活かし、探偵という仕事を始めてからは生きているという感じがした。
やがて由香利君を雇い、彼女と行動を共にするようになって、さらに人生の充実度は増していった。
由香利君はいつだって俺の隣にいて、俺の行動にあれこれ口を出し、時には励ましてくれた。
探偵も由香利君も、俺にとって大切なものだ。
そのどちらも、もう失われようとしている。
俺は窓を閉め、事務所の表に出た。
「久能司探偵事務所」
そう書かれた看板を眺めた。
初めてこの看板を掲げた日、俺はワクワクしていた。
これからどんな依頼が舞い込んでくるんだろう。
きっと刺激のある素晴らしい人生を送れるに違いない。
そう胸を膨らませていた。
その時は、この看板を降ろす日がやってくるなんて思いもしなかった。
感慨深く事務所の看板を眺めていると、由香利君がとぼとぼとした足取りで帰って来た。
「やあ、何処に行ってたんだい?」
俺の問いには答えず、彼女は俺と同じように事務所の看板を見つめた。
俺はじっと由香利君の横顔を見た。
涙が目にいっぱいに溜まっていた。
やがて由香利君は俯き、唇を噛んで、小さな嗚咽を漏らした。
由香利君の涙が、一つ二つと地面に落ちていく。
何故由香利君は泣いているんだろう。
尾崎に負けたことが悔しいから?
それとも探偵事務所を閉めたくないから?
由香利君は、まだ俺と探偵を続けたいと言っていた。
しかし俺の力及ばず、その願いは叶えられなかった。
ごめん、由香利君。
俺は心の中で詫びた。
俯いて泣く由香利君を見て、俺は言った。
「ま、まあ仕方ないさ。
こういうこともある。
勝負は時の運。
今回は、たまたまついてなかっただけだよ。
な、だから泣くなよ。」
努めて明るい声を出して言った。
「由香利君、あんまり泣いてちゃ可愛い顔が台無しだぞー。」
そう言いながら俺はふざけて由香利君のお尻を撫でた。
しかし、鉄拳も回し蹴りも、かかと落としも飛んでこなかった。
由香利君はただ、泣いてばかりいた。
「ごめんな。
俺がもっとしっかりしていれば、探偵をやめることはなかったかもな。
本当にごめん。」
心に思っていることを、素直に言葉に出した。
曇り空はだんだんと濃くなり、一雨きそうな予感だった。
「わ、私・・・。」
由香利君が、泣きながら小さな声を出した。
俺は黙って由香利君を見ていた。
「私、まだ探偵をやめたくないです。
まだ、久能さんと一緒に、探偵をしていたい!」
そう言って俺の隣で泣いている由香利君に、かける言葉が見つからなかった。
俺は「久能司探偵事務所」と書かれた看板を見つめ上げる。
降り出してきた雨が、俺の頬を濡らした。

                              最終話 またまたつづく


不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!(2)

  • 2010.07.27 Tuesday
  • 09:28
 俺は勝負事が苦手である。
つねにのらりくらりと生きていたいのである。
だがしかし、人生というものは自分の思うようにはいかない。
俺は今、探偵事務所の看板を賭けて、自分と同じ超能力探偵と勝負をしているのだ。
勝負の内容は、茂美の飼っていたペットのヘビをどちらが先に見つけるか。
そのヘビは変わったやつで、頭が二つあり、全身毛むくじゃらで関西弁を喋る。
茂美の部屋から脱走したそいつを見つけた方が勝ちである。
「はあ、なんでこんな勝負受けちゃったんだろう。」
街を歩きながら俺が呟くと、由香利君がポンと俺の背中を叩く。
「何弱気になってるんですか。
きっと今回だって久能さんが勝ちますよ。
私だってついているんだし、張り切っていきましょう。」
由香利君は気合十分といった感じで、その足取りは力強い。
「そうは言うけどね、尾崎は俺よりすごい超能力者なんだよ。
どう考えたって俺の方が不利じゃないか。」
俺は空をぼーっと見上げ、流れる雲を目で追いかけていた。
秋の風が俺の頬を撫で、その感触は気持ち良くはあるが心は重たい。
「久能さん、もっと自分に自信を持って下さいよ。
何も超能力だけで勝負が決するわけじゃないんだから。
私達は以前にそのヘビを見つけてるんですよ。
そんなにこっちが不利だとは、私は思わないけどなあ。」
まあ確かに以前、俺達はそのヘビを見つけた。
今は茂美にメロンちゃんと命名されているそうだが、どう見たってそんなに可愛い名前が似合うようなやつじゃない。
「とりあえず、駅前に向かいましょう。
以前もそこでメロンちゃんを見つけたんだし。
今回だっているかもしれませんよ。」
そう言う由香利君の声は明るい。
俺は力無く頷き、とりあえずは駅前に向かうことにした。
そのメロンちゃんというヘビは確か無類の女好きだったはずである。
若い女性を見つけては、「俺のことどう思う?」と声をかけてくる。
由香利君もそう声をかけられた。
秋空の下を、俺は足取り重く、由香利君は力強く歩いて駅前までやって来た。
今の時刻は午後2時。
平日の駅前にはそれなりの人がいた。
若い女性も多く見かける。
俺達は駅前の自販機の前でしばらく様子を見ることにした。
注目するのは若い女性である。
もしメロンちゃんがここにいるとすれば、必ず若い女性に声をかけるはずだ。
由香利君が自販機からジュースを二つ買い、一つを俺に手渡しながら若い女性を注意して見ている。
俺はジュースのプルタブを開け、一口飲むとはあっと息を吐いた。
由香利君が買ってくれたのはオレンジジュースで、やたらと甘い味が口の中に広がった。
「久能さんもよく注意して若い女性を見ていて下さいね。
もしここにいるなら、きっと声をかけてくるはずですから。」
「分かってるよ。
あいつは無類の女好きだもんな。
由香利君もあいつに交際を申し込まれて、困っていたっけ。」
以前ここで見つけたメロンちゃんは、えらく由香利君のことが気に入り、しきりに交際を申し込んでいた。
いや、交際じゃなくてプロポーズだったかな。
ヘビのくせに、人間の嫁さんが欲しいなどと言っていた。
「嫌なことを思い出させないで下さい。
私、あの時のことちょっとトラウマなんですから。
ヘビに好意を持たれるんなんて、身の毛がよだちます。」
由香利君はぶるっと身を震わせ、ジュースを飲んだ。
俺達はしばらく駅前を行き交う若い女性を見ていた。
時計を見ると午後3時半。
1時間半、ここで見張っていることになる。
「なあ、そろそろ見張るのはやめて駅の周辺を捜さないか?
どこかに潜んでいるかもしれないぞ。」
俺はすっかり飲み干したジュースの缶をもてあそびながら言った。
「そうですね。
じゃあ二手に分かれて捜してみましょうか。
もし見つけたらケータイに連絡を入れるってことで。」
そして俺達は駅の周辺を捜した。
自転車置き場、草が刈られていない空き地、駅前の喫茶店の裏。
そうこうして捜しているうちに、瞬く間に時間は過ぎていき、時計の針は午後5時を指していた。
俺達は一旦元の場所に集まり、顔を見合わせるなり首を振った。
「こっちは何処にもいなかったよ。
若い女性も注意して見ていたんだけどな。」
「私も全然ダメでした。
もしかしたらまた声をかけられるかもってちょっとビクビクしながら捜していたけど、何処にもいませんでしたね。」
これだけ捜しても見つけられないということは、ここにはいないのかもしれない。
秋の空は夕焼け色に染まり、駅から出てくる人達をオレンジ色に照らしている。
「別の場所を捜してみようか。」
俺は夕暮れの秋空を見ながら言った。
「そうですね。
他にメロンちゃんが行きそうな場所って何処だろう?
確かよく駅前に出没するんでしたよね。
ここの電車に乗って、隣の駅まで行ってみますか?」
俺はその意見に賛成し、由香利君と並んで歩きながら駅に入った。
切符を買って改札を抜け、ここより大きな街がある隣の駅へ向かった。
ホームを着いて電車を下り、改札を出て駅前を見渡す。
「さっきの駅より大きいし、人もたくさんいますね。」
仕事帰りの人達が俺達の脇をすり抜け、足早に帰宅して行く。
その中に混じる若い女性に注意を払いながら、ここでも二手に分かれて捜すことにした。
俺は駅前の大きな本屋の前で、しばらく辺りを見張ることにした。
今頃尾崎はどうしているだろう。
何処を捜しているんだろう。
まさかもう見つけたなんてことはないよな。
あいつはかなり優れた透視能力を持っている。
ただそこに突っ立っているだけで、超能力を使えば多くの情報を得られるのだ。
俺達のように忙しなく捜し回らなくても、少し移動するだけでかなりの捜索範囲が得られる。
明らかにこちらが不利だが、もうそんなことを考えても仕方がない。
もしこの勝負に負けたら、探偵誌事務所の看板を降ろさなくてはいけない。
探偵をやめたら、俺は一体何をすればいいのか?
宝くじを当てて、脱サラをして始めた探偵業である。
これを奪われたら、俺の生き甲斐って一体何だろう?
それに由香利君の鉄拳をもうくらうことも出来なくなる。
それはかなり寂しい。
ネガティブなことばかりが頭をよぎり、メロンちゃんがいないか見張りながらも、常に負けた時のことを考えている自分がいた。
きっと今の俺の顔は暗く沈んでいるだろう。
隣に由香利君がいたら、「元気出して下さい!」と励ましてくれるんだろうな。
その時ふと思った。
俺にとって由香利君とは何だろう?
ただの助手か?
いや、それにしてはやたらと殴られたり蹴られたりしている。
俺は雇い主なのに。
まあそれは俺が悪いからなのだが、それでもそんなことをしてくる助手はそうはいないだろう。
そして俺の元気が無い時にはいつも励ましてくれる。
思えばいつも隣にいて、叱咤激励してくれる存在だった。
もし探偵を廃業したら、由香利君は俺から離れていくんだろうか。
それとも「私がついてますから、また何か新しい仕事を始めましょう!」と言ってくれるのだろうか。
思えば彼女のことを深く考えたことはなかった。
いつも隣にいるのが当たり前になっていた。
俺が探偵じゃなくなっても、彼女は隣にいてくれるのかな。
メロンちゃんがいないか見張りながらも、俺はずっと由香利君のことを考えていた。
彼女が、俺の隣からいなくなるのは寂しいな・・・。
俺はこれからも彼女と探偵を続けたいと思っている。
いつも舞い込んで来る変な依頼を、由香利君と二人で解決してきた。
それがこの先も続けられるかどうかは、俺が尾崎に勝てるかどうかにかかっている。
そう思うと、絶対に負けられないという思いが湧いてきた。
勝負事は苦手だ。
でも逃げられない、いや、逃げてはいけない勝負がある。
自分の大切なものがかかった勝負。
人生で一度はやってくるだろう大一番。
俺は頭からネガティブな思いを振り払い、本屋の前を離れて辺りを捜し回ることにした。
通り過ぎる若い女性を注意して見ながらも、建物の陰や、駅の中もくまなく捜した。
しかし、何処にもメロンちゃんはいなかった。
時刻はもう午後7時。
由香利君からケータイが鳴り、とりあえず駅の前にあるファミレスで少し休憩しようということになった。
「何処にもいませんねえ。」
由香利君の方も成果があがらなかったらしく、スパゲッティを口に運びながら宙に目を漂わせていた。
俺は食欲がなく、コーヒーだけを飲んでいた。
由香利君は相変わらず目に闘志を燃やしている。
きっと俺とは正反対で、勝負事には強いのだろう。
尾崎になんか絶対に負けない。
そういう思いが、由香利君の顔ににじみ出ている。
俺はコーヒーを口に運びながら、ファミレスの窓から外を眺めていた。
もうすっかり暗くなっている。
メロンちゃんは一体何処にいるのだろう。
ブラックのコーヒーは口の中に苦い味を染み渡らせ、俺の喉を通って胃の中へおさまっていく。
由香利君はせっせとスパゲッティを口に運び、まだまだこれから戦う為のエネルギーを補充しているように見えた。
「ここで少し休んだら、次の駅に行きましょう。
そこで見つからなかったら、また次の駅に・・・。」
そう言う由香利君の言葉を遮り、俺は尋ねてみた。
「なあ、由香利君。
なんで君はいつもそんなに前向きなんだ?
どこからそんな力が湧いてくる?
俺だって尾崎には負けたくないと思っている。
けど、正直負けたらどうしようって不安もあるし、今日だってもう少し疲れた。
君の元気の元は一体何なんだ?」
すると由香利君はフォークを皿の上に置き、水を一口ゴクリと飲んでから答えた。
「私だって、負けたらどうしようって不安はあります。
けど、不安だけじゃ前に進めない。
私はまだ、久能さんと一緒に探偵を続けたいですから。
その思いを実現させる為には、絶対に勝ちたいって思いが必要なんです。」
俺はコーヒーのカップの中を見つめた。
ブラックのコーヒーは、まるで夜の街みたいに真っ暗だ。
「私ね、空手をやってるじゃないですか。
それは強くなりたいからやっているんです。
その強さっていうのは、実際に暴漢とかに襲われた時に対処する強さでもありますけど、それ以上に心の強さが欲しいんです。
空手をやって、体だけじゃなくて心も鍛えたいんです。
空手の試合の時にね、絶対に負けるもんかって思って勝負に挑むんです。
それは相手に負けるんじゃなくて、自分に負けるもんかって思ってやってるんです。
試合はいつだって緊張して怖いです。
けど、それは自分の心のせいだから。
自分に負けなければ、相手にも負けないって思ってるんです。
勝負は勝つ為にやるものです。
だから、今回の対決だって、相手に負けたくないんじゃないんです。
自分に負けたくないんです。
私は絶対に勝って、久能さんと探偵を続けたいと思っています。
だから、常に自分の不安に打ち勝って、前へ進もうって気持ちだけなんです。」
いやはや、立派だ。
俺は笑顔で由香利君の言葉に頷き、コーヒーを一気に飲み干した。
「君の言う通りだよ、由香利君。
自分に負けてちゃ、前には進めないもんな。
俺はどうやら、自分の不安に負けそうになっていたみたいだよ。」
その言葉を聞くと、由香利君はニッコリ笑って言った。
「そうです。
自分に負けちゃダメです。
この勝負、絶対に勝って、これからも二人で探偵を続けましょう!」
俺は大きく頷き、「尾崎に負けてたまるか!」と空になったコーヒーカップを睨みつけて言った。
「その意気です!」
そう言って、由香利君はまた元気にスパゲッティを食べ始めた。
そうだ、尾崎になんか負けるもんか。
例え超能力で向こうが勝っていたとしても、それだけで勝負が決するわけじゃないんだ。
要は、自分の心の持ちようなんだ。
そう思うと食欲が湧いてきて、何か食べたくなった。
「俺も何か注文しようかな。」
由香利君は俺の顔を見ながら、笑って言った。
「そうです。
まだまだ今日の捜索は続けますよ。
久能さんもしっかり食べて、力を蓄えて下さい。」
俺は笑って頷き、メニューを手に取って広げた。
何を食べようかな。
そう考えていた時、ケータイの着信が鳴った。
相手を見ると、茂美からだった。
「もしもし。」
俺は何だろうと思いながら電話に出た。
「久能さん、残念な結果に終わったわ。」
俺は茂美が何を言っているのか分からず、訝しげに聞き返した。
「残念な結果に終わった?
どういうことだ?」
するとしばらくの沈黙のあと、茂美はゆっくりと言った。
「尾崎がメロンちゃんを見つけたの。
この勝負、あなたの負けよ。」
俺は一瞬頭の中が真っ白になった。
まるで空になったコーヒーカップのように。
そして次の瞬間、様々なことが頭に浮かんだ。
尾崎が俺達より先にメロンちゃんを見つけた?
何時?何処で?
頭に色々な言葉が浮かび、それらがぐるぐると脳内を駆け巡っていく。
俺はその一つも言葉にすることが出来ず、ただ黙り込んでいた。
「もしもし?
久能さん、聞いてる?」
電話の向こうから茂美の声が聞こえてくる。
まるで遠くから鳴る耳鳴りのように。
「久能さん、どうしたんですか?」
由香利君が不思議そうな目で尋ねてくる。
俺は唇を噛みしめ、ただケータイを握りしめていた。

                                 最終話 またつづく




不思議探偵誌 最終話 挑戦、再び!

  • 2010.07.26 Monday
  • 10:14
 秋も深まる10月の中頃、俺は相変わらず由香利君に隠れてエロ雑誌を読んでいた。
窓から見える空は、どこか哀愁が漂い、吹きこむ風は涼やかに事務所の中を駆け巡っていく。
俺はそんな秋の感傷に浸りながら、エロ雑誌を熟読していた。
「久能さん、またエッチな本読んでるんですね。」
気が付くと、俺の後ろに由香利君が立っていた。
さっきまで事務所の真ん中の床を拭き掃除していたはずなのに。
「い、いや、これは何と言うか・・・。」
由香利君は俺からエロ雑誌を取り上げ、それを丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
「ああ、なんてことを!」
俺が拾いに行こうとすると、頭にチョップをくらった。
「そんなものを事務所で読まないで下さいって、何度言ったら分かるんですか。
もう、本当にエッチなことしか頭にないんだから。」
男はみんなエッチな生き物なのだ。
しかしそれを由香利君に説明しても理解してくれまい。
俺はエロ雑誌を捨てられた腹いせに、由香利君のお尻を撫でた。
「何すんの!
この変態!」
思いっ切り顔を蹴り上げられ、俺は床に仰向けに倒れた。
今日もこうしてSMが行われる。
俺は由香利君にシバかれて以来、SMクラブには行っていない。
だってここに由香利君という最強の女王様がいるんだから、わざわざSMクラブに行く必要はないと思ったっわけだ。
「あらあ、今日も元気にやってるわねえ。」
ふとドアを見ると、茂美が腰に手を当てて立っていた。
今日は真っ赤なスーツで、胸元が大きく開き、膝上までの短いスカートを穿いてガンガンにフェロモンを振りまいている。
「こんにちわ、茂美さん。」
由香利君が茂美に駆け寄り、笑顔を見せている。
「こんにちわ、由香利ちゃん。
今日も相変わらず可愛いわね。」
「ええ、そうですかー。」
由香利君は照れたようにニコニコしている。
茂美はドアの前で突っ立ったまま、床に倒れている俺を見下ろして言った。
「うふふ、久能さん。
また由香利ちゃんにやられちゃったのね。
本当に仲のいい二人だこと。」
俺はムクっと起き上がり、由香利君に蹴られた顎を押さえながら茂美に近づいた。
「それで、今日は何の用だ?
また下らない依頼でも持ってきたか?」
俺は茂美のエロティックなボディを眺めて言った。
こいつは本当に色っぽいな。
多分自分でも意識してそのフェロモンを振りまいているんだろうけど、俺のようなエロで変態な男には、この刺激はたまらんのだ。
「いつも下らない依頼で申し訳ないと思ってるわ。
でも、今日はいつもと少しだけ違うの。
まあ妙な依頼ではあるけど、一人お客様を連れて来てるのよ。
そう言って茂美が事務所の中に入ってくると、その後ろから一人の男がついてきた。
「お、お前は!」
俺は声を出して驚き、一歩後ずさりした。
「うふふ、覚えているでしょ。
いつかあなたと対戦した探偵さんよ。」
茂美の後について入ってきた男は、あの尾崎周五郎だった。
忘れもしない。
こいつは超能力を使える探偵なのだ。
それも俺とは比べ物にならないくらい強力な超能力を。
「お久しぶりですね、久能さん。
私のことを覚えていて下さって光栄ですよ。」
そう言うと、尾崎は不敵な笑みを浮かべて俺を見た。
俺は以前尾崎と対決したことがある。
どちらが超能力探偵として相応しいか、勝負をしようじゃないかと持ちかけられたのだ。
それで負けた方は探偵事務所の看板を降ろす。
尾崎は茂美の作っている雑誌「月刊ケダモノ」の愛読者で、以前にその雑誌に載ったことのある俺を見て、「超能力探偵は俺一人で十分だ」と息巻いて勝負を挑んできたのだ。
その結果は、一応は俺の勝ちだった。
しかしそれは完全な勝ちとは言えず、尾崎から塩を送ってもらう形で何とか勝てたのだ。
だからまあ、ほとんど引き分けみたいなもので、結果としてどちらも探偵事務所の看板を降ろすことはなかった。
「久能さん、この前は完全に決着を付けることは出来なかったが、今回こそはどちらが超能力探偵に相応しいか白黒はっきりさせようじゃありませんか。」
俺は内心ビビっていた。
またこいつと勝負するのかよ。
前回は何とか勝てたものの、2回もこいつに勝つ自信はなかった。
「尾崎さんはね、あなたとの再戦を熱望していたのよ。
彼はうちの雑誌の愛読者でもあるし、超能力者でもあるから、私と懇意にしているの。
それでね、いつかあなたとの再戦の機会を設けて欲しいと頼まれていたのよ。」
そ、そんな。
俺は再戦なんてしたくない。
どうせまた、負けた方が事務所の看板を降ろせとか言うに決まってる。
俺はもう逃げ腰だった。
「あ、あの。
みなさん、立ち話も何ですから座って下さい。
お茶でも淹れますから。」
由香利君の言葉で俺達はソファに座った。
茂美と尾崎が並んで座り、その向かいに俺が座った。
「どうです。
依頼の方は順調にきていますか。」
尾崎が挑戦的な目で尋ねてくる。
俺はごほんと咳払いをし、「まあ、そこそこ」と適当に答えておいた。
正直な所、依頼なんてほとんどきていない。
けど、そんなことを正直に尾崎に言えるほど、俺は自分のプライドを捨てていない。
「そうですか。
私の事務所は大忙しですよ。
毎日のように依頼が飛び込み、私の超能力を使って解決しています。」
「ふ、ふーん。
それは結構なことで。」
俺は強がってみせたが、尾崎は見下すような目で俺を笑っているような気がした。
由香利君がお茶を運んで来てそれぞれの前に置き、俺の隣に座った。
「久能さん、以前私があなたに捜索をお願いした変なヘビのことを覚えてる?」
茂美が頬杖をついて尋ねてくる。
「変なヘビって、あの頭が二つあって、全身毛むくじゃらで、関西弁を喋るヘビのことか?」
茂美はお茶をすすりながら頷き、その艶めかしい足を組みかえる。
俺はその足に視線を奪われながらも、、「それがどうかしたのか?」と問い返した。
茂美はまた足を組みかえ、エロティックな太ももを披露しながら答えた。
「実はね、私あのヘビをペットとして飼ってるの。」
俺は口に含んだお茶を吹き出しそうになった。
隣の由香利君も驚いた顔をしている。
「あ、あれを飼ってるのか。」
そう尋ねると、由香利は「うふふ」と笑い、もう一口お茶を飲んだ。
「久能さんからあのヘビを譲り受けたあと、大学に持ち込んだんだけど、そこの教授達もびっくりしてたわ。
こんなヘビは見たことがないって。
それで是非うちの大学で預からさせてくれって言われたんだけど、あのヘビがとても嫌がってねえ。
私、何だか可哀想になっちゃって、自分で飼うことにしたのよ。」
まったく、なんてやつだ。
おかしな女だと思っていたが、まさかあんなヘビを飼うなんて。
俺なら金をもらっても断るかもしれない。
茂美の神経の太さには感心するばかりだ。
「それでね、家に連れ帰って育ててたんだけど、すごく私に懐いてるのよ。
姉さん、ほんまにべっぴんさんやなあ、なんて毎日言われると、こっちも悪い気はしないじゃない。
だから私もメロンちゃんて名前を付けて可愛がっていたわけ。」
「メ、メロンちゃん・・・。」
由香利君がポカンとした表情で聞く。
「そうメロンちゃん。
頭が二つあるでしょう。
だから右の頭がメロンちゃん1号、左の頭がメロンちゃん2号なの。
結構可愛いのよ。」
「は、はあ・・・。」
由香利君が何とも言えない顔で頷く。
メロンちゃんか。
確か以前の名前は右の頭がイチロウで、左の頭がジロウだったはずだ。
あのヘビは無類の女好きだからな。
きっと茂美にメロンちゃんと命名されて、喜々としてその名前を受け入れたんだろうな。
「でもね・・・。」
途端に茂美が暗い顔になって呟く。
俺はお茶を一口飲み、茂美の言葉を待った。
「メロンちゃん、部屋から脱走しちゃったの。」
「脱走!」
俺はまた口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「私はマンションの五階に住んでるんだけど、どうやってか分からないけど、脱走しちゃったのよ。
辺りを捜し回ったんだけど、全然見つからなくて。
それでどうしようって困っていたの。
そしたらね、たまたま仕事で尾崎さんと会うことになって、彼にそのことを話したの。
そしたら・・・。」
そこまで言って、茂美は視線を尾崎に向ける。
尾崎は真っすぐ俺を見据え、口元に不敵な笑みをたたえたまま口を開いた。
「久能さん。
もう私が何を言いたいかお分かりでしょう。」
尾崎も組んでいた足を組みかえ、少し身を乗り出して言った。
「そのメロンちゃんというヘビを、どちらが先に見つかるか勝負しましょう。」
ほら、きたよ。
俺はうんざりした顔を見せて答えた。
「いや、別に勝負しなくてもいいんじゃないですかね。
あなたは私より強力な超能力者なんだし、その力を使ってメロンちゃんを見つけてあげればいいじゃないですか。」
何故こいつは勝負にこだわるのか。
俺は少々辟易としながら背もたれに体を預けた。
しかし尾崎はさらに身を乗り出し、テーブルをドン!と手で叩いた。
「久能さん!
以前にも言ったはずです。
この世に超能力探偵は二人もいらない。
だから、どちらが真の超能力探偵か、はっきりさせようじゃありませんか!
逃げることは許しませんよ!」
俺は心底困った顔をして由香利君を見た。
由香利君は真顔で尾崎の話を聞いており、その目には闘志を燃やしていた。
おいおい、由香利君はやる気になっているぞ。
俺は由香利君に背を向けるように体をよじった。
「久能さん!」
俺の背中に由香利君の威勢のいい声がかかる。
「はい、何でしょう。」
俺は小さく聞き返した。
「この勝負、受けて立ちましょう!
真の超能力探偵は久能さんだってことを、証明してみせましょうよ!」
そう言って由香利君は俺を振り向かせ、真っすぐ目を見つめてくる。
「ふふふ、何とも勇ましい助手をお持ちだ。
ねえ、久能さん。
その助手さんの言う通り、私の勝負を引き受けて下さい。
そして負けた方が探偵事務所の看板を降ろすのです!」
はあ、やっぱりそうきたか。
由香利君、茂美、尾崎が真っすぐに俺を見つめている。
まさかこの勝負逃げないよな?
全員の目がそう言っているようだった。
俺は大きくため息を吐き、降参というふうに手を大きく上げてみせた。
「分かった、分かったよ。
この勝負、受けて立てばいいんだろう。」
そう言うと、「さすが久能さん!」と由香利君、「それでこそ私のライバルだ」と尾崎、「私のメロンちゃんを見つけてね」と茂美。
俺はもうどうにでもなれと開き直り、窓の外を見ながらエロ雑誌の巨乳のお姉ちゃんを思い出していた。
「では勝負は明日からです。
先にメロンちゃんを見つけた方が勝ちです。
今度は絶対に負けませんよ、では。」
そう言って尾崎は立ち上がり、事務所を出て行った。
「久能さん、期待してるわよ。」
茂美はテーブルの上に上半身を乗り出し、前屈みになって胸元を見せてくる。
俺はそこに目を奪われながらも、「まあ、期待には答えるよ」と言った。
「うふふ、じゃあ私も帰るわね。
尾崎は強敵よ、久能さんも心してかかってね。」
そう言ってニコッと笑い、茂美も帰って行った。
俺は何だかどっと疲れて、はあっと大きく息を吐き出した。
「この勝負を引き受けるのは久能さん一人じゃありませんよ。
私がついています。
絶対に勝ちましょうね!」
由香利君がガッツポーズを作って俺に顔を近づける。
「そうだな、負けるわけにはいかないな。
二人で必ずメロンちゃんを見つけよう。」
そう言って由香利君の太ももを叩いた。
由香利君の鉄拳が俺の顔面にめり込む。
「相変わらず、エッチですね。」
俺は出てきた鼻血もそのままに、残っているお茶をグイっと飲み干した。

                                   最終話 つづく

不思議探偵誌 第九話 ひそかな楽しみ(3)

  • 2010.07.25 Sunday
  • 10:24
 昨日、俺は初めてSMというものを体験した。
女王様に扮した女に豚呼ばわりされ、汚い罵声を浴びせられながら鞭で叩かれた。
今でも、ありありとその時のことが思い出される。
まあ、楽しい時間ではあった。
もしかしたらまた行くかもしれないので、女王様からもらった名刺は、大事に上着のポケットに取ってある。
もしこのことが由香利君にバレたら、ひどい目に遭わされるだろう。
今由香利君は、昨日に引き続いて事務所の掃除をしている。
俺は由香利君にタバコは一日に5本までと決められ、今は3本目を吸っている最中だ。
「最近本当に依頼がきませんねえ。
これじゃ事務所が潰れちゃいますよ。」
「う、うん。
そうだな。」
俺は曖昧に笑って返事をした。
依頼なら一件受けているのだ。
しかしそれは由香利君には内緒で。
だってその依頼は、俺がSMクラブに行ったことと大きく関係しているから。
口が裂けても由香利君には言えない。
俺は机の上の電話を取り、メモ帳を開いて番号をプッシュした。
数回コールがなったあと、一人の男性が出た。
「もしもし、探偵の久能です。
今お時間よろしいでしょうか?」
電話をかけたのは今回の依頼人の永野さんだ。
妻にSMクラブ通いがバレそうになり、離婚の危機に立たされている。
それを解決するのが俺の仕事だった。
「今は仕事中なんで、あまり時間はないんですが。」
永野さんは、やや声を落として答える。
どうやら会議中にでも電話をかけてしまったようだ。
「お時間は取らせません。
奥さんとの離婚の危機の件なんですが、そのことについてです。」
俺は吸っていたタバコを灰皿に押し付け、椅子を回して窓の外を見た。
「もしかして、今日解決して下さるんですか?」
勢い込んで聞いてくる永野さんに、「ええ、そうです」と答えた。
「昨日と同じ九時過ぎに駅前で待ち合わせしましょう。
私に考えがあります。
きっと奥さんとの離婚の危機は救ってみせますよ。」
そう言うと、「ありがとうございます」と声が返ってきて、俺は窓の外の空を見ながら言った。
「お時間がないようなので、これで電話は切らせて頂きます。
詳しいことは、また会ってから。」
「分かりました。
では昨日と同じ時間に駅前でお待ちしています。」
そう言って電話は切れた。
俺はくるっと椅子を回し、新しいタバコに火を点けようと、机の上に手を伸ばした。
「何の電話だったんですか。」
由香利君が俺の机の近くまで来て、怪しむような目で見つめてきた。
「い、いや。
ちょっと依頼が入って・・・。」
そう言うと、由香利君は手にしていた雑巾を両手で握り、「よかったじゃないですか」と言った。
「ここの所まったく依頼がありませんでしたかかね。
私もお手伝いしますよ。」
「とんでもない!」
俺は手を振って答えた。
「どうしてです?
いつも二人で依頼を受けているじゃないですか?
今回も二人で解決しましょうよ。」
それは出来ないのだ。
だって俺がSMクラブに行ったことがバレてしまうじゃないか。
俺は慌てながら、椅子を立って言った。
「いや、今回の依頼は俺一人でやる。
その、とても危険なんだ。」
由香利君は目をぱちくりさせ、一歩俺に近づいてきた。
「だったらなおのこと二人でやった方がいいじゃないですか。
危険な依頼なんでしょ?
久能さん一人じゃ危ないですよ。」
むう、引き下がるつもりはないようだ。
俺はごほんと咳をして、由香利君に近づいてその両手を握りしめた。
驚く由香利君。
「ちょ、ちょっと。
何なんですか急に!」
「聞いてくれ。」
俺は真剣な顔で由香利君の目を見た。
由香利君は顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらも、俺の視線を受け止めていた。
「この依頼、本当に危険なんだ。
俺はそんな危険なことに君を巻き込みたくない。
由香利君は俺の大切な助手だ。
もしものことがあったら、きっと俺は後悔する。」
何としてでも由香利君を引き下がらさせる為に、真剣に演技をした。
俺の言葉を聞いた由香利君は顔を真っ赤にしたまま俯き、そしてゆっくりっと顔をあげて言った。
「わ、分かりました。
そこまで久能さん言うのなら・・・。」
そして俺の手を握り返し、心配そうな、そして真剣な顔で言った。
「でも、私だって久能さんのことが心配です。
だから、もし本当に危険な目に遭いそうになったらすぐに逃げて下さいね。
そして私に連絡を入れて下さい。
そう約束してくれなきゃ、一人で久能さんを行かせられません。」
俺はその言葉に大きく頷き、強く由香利君の手を握って「約束する」と答えた。
「依頼人と会うのは今日の夜だ。
明日にはきっと無事に帰って来てみせる。
だから由香利君は安心していてくれ。」
その言葉を聞いた由香利君も大きく頷き、そしてニッコリと笑って「久能さんの無事を祈ってますから」と言ってまた掃除に戻って行った。
ふう、これで何とか由香利君にバレずに済む。
俺の迫真の演技が、由香利君の心を打ったようである。
そして午後9時、事務所を閉める時間になった。
「久能さん、絶対無事でいて下さいね。
約束です。」
そう言って由香利君は俺と指きりをして、「じゃあ、また明日」と言って帰って行った。
俺は窓から由香利君が帰って行くのを確認すると、すぐに上着を羽織って事務所の電気を消し、ドアの鍵を閉めて駅前に向かった。
昨日と同じように、永野さんは俺より先に駅前に着いていた。
「本当にそんなことで妻が納得してくれますかねえ。」
俺が説明した奥さんとの離婚危機解消の作戦に、永野さんは少々不安そうだった。
「大丈夫ですって。
私に任せて下さい。」
それから電車に揺られること一時間。
駅に着いて、俺は永野さんの案内で彼の家までやって来た。
「ただいま。」
永野さんが家に入り、「妻を呼んできます」と言って、俺は居間で待たされた。
そしてしばらくすると、永野さんが奥さんを連れてやって来た。
少し太り気味で、気の強そうな顔をした奥さんだった。
「申し訳ありませんでした。」
奥さんが居間に座るやいなや、俺は床に頭を下げて謝った。
「実は、私がお宅の旦那さんをしつこくSMクラブに誘っていたんです。
名刺を渡したのも私です。」
奥さんはきょとんとして俺を見る。
その隣で、永野さんはそわそわと落ち着きのない様子だった。
「申し遅れました。
私は旦那さんの会社の同僚の久能と申します。
実は私、SMが趣味でして、それで仲間を増やす為にお宅の旦那さんをしつこく誘っていたんです。」
俺は奥さんを真っすぐ見据えて行った。
奥さんはチラリと永野さんの方を見て、そしてまた俺に視線を戻した。
「しかし先日、お宅の旦那さんが、私の渡したSMクラブの名刺のせいで、自分がSMクラブに通っているんじゃないかと妻に疑われているということを聞かされました。
何でも、離婚の危機に瀕しているとか。」
奥さんは口を真一文字に結び、俺を睨んでいた。
「それで私は焦りました。
なんて永野さんに迷惑をかけることをしていたんだろうと・・・。
この久能司、誓って申し上げます。
お宅の旦那さんは、断じてSMクラブに通ったことなどありません。
私は何度もしつこく誘いましたが、自分には愛する妻と子供がいるからと言って、決してSMクラブには足を踏み入れませんでした。」
奥さんは永野さんに目をやり、「この人の言っていること、本当なの?」と尋ねた。
「ほ、本当だとも。
俺はしつこく誘われて迷惑していたんだ。
あのSMクラブの名刺だって、無理矢理渡されたんだ。
俺は一度もSMクラブになんか行っていない。」
永野さんは額に冷や汗を掻きながら、懸命に弁解していた。
「旦那さんの言う通りです。
まさか私のせいで、離婚の危機に立たされていたなんて、思いもよりませんでした。
それを聞いた私はとても申し訳なく思い、それでこうやって旦那さんへの誤解を解くべく、やって来たしだいであります。
だから奥さん、どうか旦那さんを疑うのはやめてあげて下さい。
全てはこの私が悪いのです。
責めるなら、どうかこの変態で馬鹿な私を責めて下さい!」
そう言うと、俺は再び床に頭を下げて謝った。
それから30分後、俺と永野さんは彼の家の前で声を潜めて話していた。
「いやあ、何とか妻からの疑いが晴れましたよ。
本当に助かりました。」
永野さんは心底ホッとしたような顔でそう言う。
あの後、奥さんは永野さんに対して何度も質問していた。
「あなた、本当にSMクラブに通ってないのね。」
「本当だ、一度も行ったことなんてない。」
「本当に本当ね。」
「ああ、本当だとも。
俺はそんな所には行っていない。」
そんなやり取りがしばらく続いたあと、奥さんはきつい目で俺を見て言った。
「分かりました。
じゃあ全てこの人のせいで誤解をしていたのね。」
奥さんは真っすぐ俺を見て、顔を怒らせながら言った。
「もう二度とうちの主人をそんな所に誘わないで。
いいわね。」
俺は「すいませんでした」と土下座して、何とかことなきを得たのだった。
「探偵さんのおかげで離婚せずに済みました。
もう二度とSMクラブには通いません。」
永野さんは、自分の家を見上げてそう言う。
「これは依頼料です。」
そう言われて俺はお金を受け取り、ニコッと笑った。
「これも仕事ですから。
離婚の危機が消えて本当によかった。
では私はこれで。」
「はい。
本当にありがとうございました。」
家に帰る途中、俺はまたSMクラブが恋しくなり、そして女王様の鞭をくらいに行った。
背中に鞭の快感を残したまま、俺は家路に着いた。
翌日、事務所に行くと由香利君が先に来ていた。
「久能さん。
昨日は大丈夫でしたか?」
心配そうに俺に駆け寄って来た。
労わるような目で俺を見つめ、「何処も怪我とかしてませんか?」と優しく尋ねてくる。
「あ、ああ。
その、大丈夫だよ。
依頼は上手く解決した。
何の問題もなかったよ。」
「そうですか。
よかったあ。」
由香利君はホッと胸を撫で下ろし、安堵の顔を見せた。
俺は一つ咳払いをして、由香利君に背を向けた。
何か申し訳ないな。
嘘をついたことに、ちょっぴり罪の意識を感じていた。
そして俺が上着を脱ごうとすると「私がやりますよ」と由香利君が上着を脱がせてくれた。
「久能さんは、今日はゆっくりしてて下さい。」
そう言って由香利君が俺の上着を持ってハンガーに掛けようとした時、上着から何か紙のようなものが落ちた。
「なんだろう?」
それを由香利君が拾い上げる。
と、その途端、その紙を持った手をわなわな震わせわせながら、「久能さん」と低い声で言ってきた。
「何だい?」
俺が近づくと、その手に持っていた紙を見せつけられた。
「SMクラブ 女王様と子豚の教室」
そう書かれたピンク色の名刺を見せられた途端、しまったと思った。
「い、いや。
違うんだ。これは・・・。」
俺が弁解しようとすると、由香利君は顔を俯かせて肩を震わせ始めた。
「ゆ、由香利君・・・?」
返事はない。
もしかして、泣いているのだろうか。
昨日あれだけ俺を心配し、今日も俺を心配して先に事務所に来ていた。
なんてことだ。
おれは嘘をついて由香利君を泣かせてしまった。
なんだかひどく申し訳ない気持ちになり、由香利君の肩に手を置いて言った。
「そ、その。
違うんだ。
騙すつもりはなかったんだよ。」
震える由香利君の肩が、手を通して俺に伝わってくる。
ああ、どうしよう。
泣かせてしまった。
そう思っていると、由香利君はゆっくりと顔をあげた。
「由香利君、ごめん。
俺は別に騙すつもりじゃ・・・。」
そう言いかけて、俺は固まった。
由香利君は泣くどころか、目を吊り上げて鬼のような形相をしていた。
「久能さん。」
低い声でそう言い、俺の襟首を掴む。
「私を騙して、あんなに心配させて、それでこんな所に行っていたんですね。」
声に恐ろしいほどの怒りが含まれていた。
「い、いや、違うんだ。
これは依頼上仕方なく・・・。」
俺の襟首を掴む手に力を入れ、もう片方の手で拳を握っていた。
「覚悟は出来ていますよね。」
その後、事務所に俺の叫び声が響き渡った。
由香利君の怒涛の攻撃を受け、俺は床にボロボロになって倒れていた。
「ふん、この変態!」
相変わらず由香利君の攻撃は効くなあ。
女王様の鞭とは比べ物にならなかった。
やっぱり俺の相手は君しかいないよ、由香利君。
気を失いかけながら、由香利君の怒った顔を見ていた。

                                   第九話 完

不思議探偵誌 第九話 ひそかな楽しみ(2)

  • 2010.07.24 Saturday
  • 10:19
 今日も事務所に依頼がくることはなく、俺は由香利君に「タバコは一日5本まで」と決められた約束を守りながら、タバコを吹かして一日を終えていた。
由香利君はもっぱら書類の整理や掃除に精を出しており、俺はタバコの煙を吐き出しながらそれを眺めていた。
今日も平和に一日が過ぎていく。
そして時刻は午後9時。
もう事務所を閉める時間だ。
「由香利君、今日はもうあがっていいよ。」
床を拭き掃除していた由香利君が手を止めて壁掛け時計を見る。
「もうこんな時間なんですね。
じゃあ私はお先に失礼させてもらいます。」
そう言って由香利君は掃除道具を片付け、上着を羽織って帰る準備をする。
「久能さん。
ちゃんと戸締りして帰って下さいね。
あと私がいないからって、家に帰ってたくさんタバコを吸ったらダメですよ。」
母親のように俺に向かってそう言い、「分かってるよ、お疲れさん」と言って俺は手を振る。
「じゃあまた明日。
お疲れさまでした。」
ドアをパタンと閉めて由香利君が帰っていく。
俺は窓を開けて、外を歩いて去って行く由香利君を確認した。
「よっしゃ!
これで由香利君にバレることなくSMクラブに行けるぞ!」
五日前、公園で一つの依頼を受けた。
その男性はSMクラブに通っており、それが奥さんにバレそうになって離婚の危機にあるのだと言った。
そして何とか奥さんとの離婚の危機を救って欲しいと頼まれた。
奥さんに、SMクラブに行っていないという確たる証拠を見せないと、その男性は離婚されてしまうのだ。
その男性の名前は永野健太郎さん。
四十代の真面目そうなサラリーマンだ。
仕事のストレス発散の為に、二年ほど前からSMクラブに通っているという。
俺は永野さんに、離婚の危機を救うと約束した。
ただ、SMというものがどういうものか理解する必要があるので、一度俺もSMクラブに連れて行って欲しいと頼んだのだった。
そして今日の朝、永野さんから電話があった。
「もしもし、久能探偵事務所さんですか?」
「はい、そうです。」
電話を取ったのは俺だった。
椅子に背を預け、聞き覚えのある声だなと思っていた。
「先日お会いした永野です。」
その言葉を聞いた瞬間、俺はパッと椅子から身を起こした。
「はい、どうも。」
来た!
きっとSMクラブの誘いだ。
俺の予想は的中し、永野さんは今日の午後10時にSMクラブに行かないかと誘ってきた。
俺は踊り出しそうなほど喜んだが、あまりはしゃぐと由香利君に怪しまれる。
椅子に座り直し、ごほんと咳払いをしてから落ち着いた声で答えた。
「もちろん行きます。
待ち合わせは9時過ぎに駅前でどうでしょう?」
永野さんはそれでいいと言い、短い挨拶を交わして電話を切った。
そして今、由香利君は帰っていなくなり、事務所を閉めてSMクラブに出掛けることが出来るようになった。
俺は上着を羽織って事務所の電気を消し、ドアの鍵を閉めてスキップしながら駅前に向かった。
やった!
念願のSMが出来るぞ!
子供のように躍る心を押さえながら、俺は駅前に着いた。
先に到着していた永野さんが、俺を見つけて手を振る。
俺は永野さんに駆け寄り、ニヤニヤ顔を引き締めて挨拶をした。
「お待たせしました。」
仕事帰りなのか、永野さんはスーツ姿だった。
「いえ、私もさっき着いた所です。」
短く言葉を交わしたあと、俺は興奮しながら尋ねた。
「それで、そのSMクラブというのは何処に?」
ああ、早く行きたい。
俺ははやる気持ちをなるべき顔に出さないように努力していた。
「ここから30分ほど歩いた所にある繁華街にあります。
まあ、ラブホテルやら、風俗店が並ぶ大人の店がたくさんある所ですな。」
俺は頷き、「早速行きましょう」と言って永野さんと一緒に歩き出した。
「奥さんとはどうです。
まだSMのことを疑われていますか?」
俺は少し元気のなさそうな永野さんの横顔に聞いた。
永野さんは大きくため息を吐き、手でポリポリと頭を掻いた。
「まだ疑われています。
今はまともに口もきいてくれない状態ですわ。
だから、何とか探偵さんに、私の離婚の危機を救って頂きたい。」
懇願するような声を絞り出し、永野さんは目をしばたいた。
「それはご安心下さい。
私がきっと解決してみせます。
それより今日は、SMなるものがどういうものか、依頼を受けた身として確かめねばなりません。
これはとても重要なことです。」
永野さんは「はあ」と気の無い返事をし、それから黙って二人で歩いた。
永野さんの言う通り、SMクラブのある店の周りには怪しい看板がいくつも立っていた。
いわゆる夜の大人の遊び場を提供する店の看板で、派手な明かりを放ちながら欲求不満の客達を引き寄せていた。
「SMクラブ 女王様と子豚の教室」
そう書かれたピンク色の明かりを放つ看板がある店の前に立ち、俺はゴクリと生唾を飲んだ。
こ、ここがそうなのか。
この中で、女王様が鞭だの蝋燭だのを使って、欲求不満な子豚達を苛めているんだな。
「は、入りましょうか。」
俺は喜びと緊張が混ざった震える声で言った。
しかし永野さんは首を振った。
「いえ、私はいいです。
妻に離婚の危機を迫られているんですから、もうSMクラブに通う気はありません。
どうぞ、探偵さんお一人で楽しんで来て下さい。
私はこれから家に帰ります。」
なんだか拍子抜けの返事だったが、離婚の危機にある永野さんの気持ちを考えれば当然かもしれない。
まあ、別に二人で店に入る必要はないのだ。
要は俺がSMを楽しみたいだけだった。
「そうですか。
分かりました。
ではまた後日連絡を差し上げます。
きちんと奥さんとの離婚の危機は救ってみせますので、ご安心を。」
その言葉を聞くと、永野さんは安堵の浮かんだ顔を見せ、「それでは、私はこれで」と行って夜の街に去って行った。
さてと、俺は今からSMを堪能するとしますか。
店には入ると受付があり、この店の利用は初めてかと聞かれたので、そうだと答えた。
「ではコースを選んで下さい。」
そう言ってメニューのようなものを差し出された。
中には利用時間のコースと、その料金が載っていた。
俺はSMが初めてなので、見せられた料金が高いのか安いのかは分からなかったが、とりあえず2時間コースを選んだ。
「では部屋までご案内します。」
料金を前払いした俺を、ボーイのような男が奥から出てきて案内する。
ピンク色に照らされた、いくつもの部屋が並ぶ細い廊下を通され、一番奥の一つ手前の部屋に入ってくれと言われた。
「では、ごゆっくりお楽しみ下さい。」
そう言い残してボーイは去って行き、俺は緊張しながらドアを開けた。
「中は狭い部屋で、やはりピンクの照明が薄暗く室内を照らしていた。
俺はドアを閉め、部屋の真ん中に突っ立っている、ボンテージを着た髪の長い女に挨拶をした。
「ははは、どうも。
いやあ、私、SMは初めてなもので・・・。」
言い終わる前に、女は手に持っていた鞭をピシャっとしならせた。
「うるさい!
この醜い子豚め!
さっさと服を脱いで四つん這いにおなり!」
俺はその言葉に圧倒され、いそいそと服を脱いだ。
「あ、あのう。
パンツも脱ぐんですか?」
女はまたピシャっと鞭をしならせる。
「鈍いこと言ってんじゃないよ、この豚!
パンツを脱いで、さっさとこれを穿くんだよ!」
そう言って差し出されたのは、真っ白いブリーフだった。
「あ、あの・・・。」
「口答えなんかいらない!
さっさと穿き替えな!」
俺はトランクスから、慌てて真っ白いブリーフに穿き替えた。
「さてと、手を床に付いて四つん這いになりな。」
俺は女の言われる通りにした。
「違う!
そうじゃない!」
また女の鞭がしなる。
「もっとこう、ケツを上に向かって突き出すんだよ!
ほら、さっさとしな!」
俺はたまらなく恥ずかしくなりながら、それでも女の言う通りにした。
女は俺の突きだしたケツに、高いヒールを履いた足を乗せて聞いてきた。
「鞭と蝋燭、どっちがいい?」
「はい?」
俺が間抜けな返事をすると、また鞭がしなる。
「鞭と蝋燭、どっちがいいかって聞いてんだよ!
さっさと答えな、この醜い豚!」
「じゃ、じゃあ鞭がいいです。」
俺が答えると、女は不敵に笑い、鞭を大きく振りかぶって俺の背中に叩き下ろした。
ピシャーン!と大きな音が鳴る。
「ひいいい!」
俺は痛さに声をあげた。
「うるさい!
この豚め!」
ピシャーン!
「ぎひゃあああ!」
「この無能!
この醜い豚!」
ピシャーン!
「ぐひゃあああああ!」
鞭で叩かれる背中が痛い。
痛いのだが、その中には確かに快感があった。
俺はその快感に身を任せ、恍惚とした表情を浮かべていた。
「ニヤニヤしてんじゃないよ、このクズ!」
ピシャーン!
「お前なんかミジンコ以下なんだよ!」
ピシャーン!
「ほら、何とか言いな!
この豚!」
ピシャーン!ピシャーン!
狭い部屋の中には、俺の叫び声、そして女の罵声と鞭の音が響いている。
初めて味わうSM。
それは鞭と言葉責めによる痛みと快感のパラダイスだった。
俺は四つん這いになったまま、女の罵声と鞭の餌食になっていた。
「この豚!この無能!このミジンコ!」
ピシャーン!ピシャーン!ピシャーン!
「ぐほあああああああ!」
そんなことをしているうちに、あっというまに2時間が過ぎた。
女は俺のケツから足を下ろし、鞭を持ったまま、近くにあったテーブルから名刺を取り出す。
「また鞭で叩かれたくなったら、ここへ来な!」
そう言って「SMクラブ 女王様と子豚の教室」と書かれたピンク色の名刺を渡された。
「お時間です。
お楽しみ頂けたでしょうか。」
ボーイがドアを開けて終了を伝え、俺は自分の服を着てドアを出た。
ドアを出る前、チラリと見た女は、不敵な笑みを浮かべたまま鞭を持って俺を見送っていた。
俺は店の外に出て、さっきまでのSMプレイを思い出す。
女の罵声と、鞭の痛みが思い出される。
結論から言うと、SMは楽しかった。
女の罵声は俺の心を気持ちよく刺激したし、女の鞭は痛みの中にも確かに快感があった。
とても楽しい時間だったと思う。
だがしかし、一つ物足りないものがあった。
それは攻撃力だ。
俺は日々、由香利君の鍛え抜かれた拳や蹴りを受けている。
その衝撃は、さっきの女の鞭とは比較にならない。
由香利君の攻撃は、大の男を失神させるほどの威力を持っているのだ。
それを日々受けている俺は、要するに毎日のように由香利君とSMをしていることになる。
気付かないうちに、俺達は強烈なSMプレイをしていたわけだ。
もっとも、そんなことを言ったら由香利君にどんな目に遭わされるか分からないが。
「私はSMなんかしているつもりはありません!」
そう言いながら、強烈な鉄拳や回し蹴りが飛んでくるだろう。
そしてそれを気持ちいいと感じる俺。
俺って心底変態だなあ。
もう自分が変態であることに否定はしない。
そして、不意に由香利君の強烈な鉄拳が恋しくなった。
由香利君、やっぱり俺の相手は君しかいないよ。
そう思いつつ、女からもらった名刺は大事に上着のポケットにしまった。
俺は耳に女の罵声を、背中に鞭の感触を残したまま、夜の街へと紛れて行った。

                                第九話 またつづく


不思議探偵誌 第九話 ひそかな楽しみ

  • 2010.07.23 Friday
  • 10:22
 タバコを吸うために開けた窓から、大きく煙を吐き出した。
風に乗ってゆらゆらと消えていき、そしてまた外に向かって煙を吐き出す。
窓から秋の涼やかな風が一瞬入り、頬を撫でるその感触を気持ち良く感じていた。
「久能さん、あんまりタバコ吸い過ぎちゃダメですよ。
ここの所吸い過ぎですよ。
もっと体に気を遣って下さいね。」
お茶を運んできた由香利君が、まるで母親のような口調でそう言う。
俺はタバコを灰皿に押し付け、お茶を一口すすって答えた。
「分かってるよ。
これでも吸う量は昔に比べたら減ったんだ。
昔はもっとヘビースモーカーだったんだよ。」
俺が本日十本目のタバコに火を点けようとすると、タバコとライターを由香利君に取り上げられた。
「何するんだよ。」
俺は取り返そうとしたが、由香利君が身を捻って逃げたので、机の上に突っ伏すような形にこけてしまった。
「これ以上吸ったら体に悪いです。
もう今日はタバコはお終いです。」
そう言って由香利君は、俺から取り上げたタバコとライターを自分のポケットにねじ込んだ。
「由香利君さあ、俺はもう子供じゃないんだぞ。
タバコくらい自由に吸わせてくれよ。」
俺は顔をしかめながら言ったが、由香利君は首を振った。
「ダメです。
私は久能さんの体の為を思って言ってあげているんです。
こんなに雇い主の健康を心配する助手なんてそうはいませんよ。
むしろ感謝して欲しいものです。」
そう言って由香利君は胸を張る。
まったく。
どうしてこの子はこうも俺の楽しみを奪うのだ。
エロ雑誌を読めば鉄拳をくらわされ、エロサイトを見ていれば回し蹴りをくらわされ、そしてあげくにタバコまで取りあげられてしまった。
「由香利君さあ、この事務所のでの俺の楽しみを、どうして君はことごとく奪うんだよ。
エロ雑誌もダメ、エロサイトもダメ、タバコもダメ、お尻に触るのもダメって言うんじゃあ、俺の楽しみが無くなっちゃうじゃないか。」
俺はふてくされて言った。
「何言ってるんですか!
仕事中にエッチな本やサイトを見ている人がありますか!
だいたいお尻を触るなんてもっての他です!
どういう神経してるんですか!」
俺に顔を近づけ、耳元で大きく怒鳴る。
俺はキンキンいう耳を押さえながら、椅子から立ち上がった。
「じゃあ何か俺に楽しみを与えてくれよ。
依頼がなくて暇なんだから、何か暇つぶしが必要だろ。」
前回の幽霊の一件以来、まったく依頼がきていなかった。
俺は暇で暇で体が溶けそうだったのだ。
「そんなの自分で見つけてきて下さい。
だいたい依頼がこないのなら、営業活動でもしてこっちから取りに行けばいいじゃないですか。」
「えー、そんな面倒くさいことはやだ。」
「じゃあ事務所で大人しくしてて下さい。」
そう言って由香利君は事務所の掃除を始めた。
やれやれ、本当に真面目な子だな。
「じゃあお尻がダメなら太ももに触らさせてくれよ。」
そう言うのとほぼ同時に、鉄拳が三発飛んできた。
「だから、何でそういう発想になるんですか。
本当にエッチなことしか頭にないんだから。」
俺は殴られた顔を押さえながら、「どうせ俺はエッチで変態だよ」と言い、上着を羽織って事務所のドアに向かう。
「何処かに出掛けるんですか?」
由香利君がテーブルの上を掃除しながら尋ねてくる。
俺は振り返らずに答えた。
「ちょっと本屋まで。
今日はお気に入りのエロ雑誌の発売日なんだ。」
「久能さん!だからそういう本を・・・!」
言い終わる前に俺はドアから出て、階段を下りて通りに出た。
はあ、本当に由香利君は真面目すぎる。
どうしてああもエッチなことに対して敏感なのか?
男であればエロ雑誌の一つや二つ、読んで当たり前じゃないか。
俺は上着を羽織り直し、足早に行きつけの本屋に行った。
「やあ、おやじさん。
例のものは入っているかい?」
本屋のカウンターで、雑誌に目を落としていた中年の男に声をかける。
「やあ久能さん。
ちゃんと仕入れてあるよ。」
そう言うっておやじさんは奥に引っ込み、手に一冊の本を持って出て来た。
「悩殺エロボディ!巨乳パラダイス!」
そうタイトルの付いた雑誌を受け取り、代金を払っておやじさんに礼を言う。
「いつも悪いね。
これ、人気の上に発行部数が少ないから手に入りにくいんだよね。
おやじさんのおかげだよ。」
そう言うとおやじさんは禿げかけた頭をポリポリ掻いた。
「いやいや、久能さんはうちの大事なお得意さんだから。
またいい物が入ったら連絡するよ。」
俺はおやじさんに手を振って本屋を後にした。
さて、お気に入りのエロ雑誌を買ったのはいいけど、こいつを何処で読むかが問題だ。
出来れば事務所に帰って読みたいのだが、きっと由香利君が許さないだろう。
かと言って今から家に帰るのも面倒くさい。
そう思って歩いていると、小さな公園が目に入った。
見ると誰もいないようである。
「よし、ここで読もう。」
俺はブランコに座り、エロ雑誌を袋から出した。
胸をドキドキさせながら、ページをめくる。
昼間っから、公園のブランコでエロ雑誌を読む男。
もし子供連れで遊びに来た主婦がいたら、間違いなく警察に通報されるだろう。
しかしその時はその時だ。
俺はページに写る裸のナイスボディのお姉ちゃん達に釘付けになっていた。
食い入るようにページを見つめ、あんなことやこんなことを妄想する。
ああ、たまらん。
このページの巨乳の子、俺の好みだなあ。
完全に周りが見えなくなり、エロ雑誌の世界に没頭していた。
そして一通り読み終えると、俺は背伸びをしてブランコから立ち上がった。
チラリと腕時計を見る。
もう事務所を出てから三時間も経っていた。
ということは、本屋に買いに行った時間を差し引いても、二時間以上は公園でエロ雑誌を読んでいたことになる。
うーん、楽しい時間だった。
俺は満足して事務所に帰ることにした。
おっと、この雑誌は上手く隠して由香利君に見つからないようにしないとな。
そう思って公園を去ろうとした時、俺と入れ替わりにブランコに座る中年の男性がいた。
四十代半ばくらいで、赤色のセーターに、ベージュのスラックスを穿いていた。
「はあ」っと大きなため息と吐いている。
俺は何か困ったことでもあったのかなと思いつつ、事務所に帰ろうとした。
「はあああ。」
今度は一際大きなため息を吐いていた。
俺はその男性を振りかえった。
心底困ったような顔をしている。
顔を俯かせ、この世の終わりという感じで頭を抱え込んでいた。
これはチャンスかも。
俺はそう思った。
きっとこの男性は何かとても困ったことがあるに違いない。
もしかしたら、話の内容によっては依頼が取れるかもしれない。
そう思って男の隣のブランコに腰掛け、「何かお困りですか?」と声をかけた。
男性は顔を上げて、値踏みするように俺を見た。
「あんた誰?」
男は薄い唇を動かして尋ねてくる。
俺は上着のポケットから名刺を取り出した。
「私、探偵をしている久能と申します。」
「探偵さん・・・。」
男は名刺を受け取り、繁々と俺と名刺を見つめたあと、また大きくため息を吐いた。
「もし何かお困りのことがあれば、この探偵の久能司がお話をお伺いしたしましょうか?」
その男性はしばらく黙り込み、そして真剣な顔で俺を見た。
「実はちょっと困ったことがあって。
あんた探偵さんなら、何かいい解決策を教えてもらえんかね。」
そう言って男性は手を自分の膝の上に置いた。
「ええ、もちろん。
この私に出来ることならお力になりますよ。
あ、でも正式な依頼となれば、依頼料は頂きますが。」
「それはかまわんよ。
私の悩みが解決出来るのなら。」
「ではお話をお伺いします。
どうしてそんなに困っていらっしゃるのですか?」
すると男性は空を見上げ、ふうっと息を吐き出してから話し始めた。
「まず自己紹介をしておきましょう。
私の名前は永野健太郎。
しがないサラリーマンですよ。
歳は四五歳。
妻子がいます。」
ふむふむ。
俺はメモを取り出して書いていった。
「家でも会社でも、真面目な男で通っております。
でもね、ある日仕事でストレスが溜まって、ある店に通うようになったんです。」
「ある店?」
永野さんは頷き、手で膝を撫でながら答えた。
「その、何と言うか、実にお恥ずかしいんですが・・・。」
とても言いにくそうにモジモジし、忙しなく体を揺すっていた。
そしてまたふうっと息を吐き出すと、俺を見て言った。
「実は、SMクラブに通っているんです。」
「え、SMクラブ!」
俺は大声を出して聞き返した。
永野さんが「大きな声を出さないで下さい」と俺をたしなめる。
「す、すみません。
つい興奮してしまって。」
俺はエロ雑誌を膝の上に置き、話の続きを促した。
「通い出したのは二年ほど前からです。
基本的には週に一度ですが、仕事でストレスが溜まった時なんかは、もっと頻繁に通います。」
そう言って永野さんは財布を取り出し、その中から一枚の名刺を取り出して、俺に渡した。
「SMクラブ 女王様と子豚の教室」
ピンク色の名刺にはそう書かれていた。
俺はゴクリと唾を飲み込む。
え、SMクラブ・・・。
俺も行ってみたい。
自分の願望は口に出さず、名刺を永野さんに返した。
「それでですね、じつは先日、妻に私がSMクラブに通っていることがバレそうになったんです。」
「そりゃあ大変だ。」
俺が言うと、永野さんは大きく頷いた。
「仕事から帰ってきた時に、偶然その名刺を妻に見られてしまったんです。
あんた、これはどういうことって、妻に責められました。
私は必死に誤魔化したんです。
いや、それはたまたま道を歩いていたら、勧誘で貰っただけだとね。
でも妻の疑いは晴れませんでした。
ちゃんとSMクラブに行っていないという証拠を見せなければ、離婚すると言われたんです。
それでどうしたものかとほとほと困っていたんです。」
「家庭崩壊の危機というわけですな。」
「ええ、そうです。
だから探偵さん、どうにか私の悩みを解決してもらえんでしょうか。
報酬はちゃんとお支払します。
だからどうかお願いします。」
そう言って大きく頭を下げる永野さん。
SMクラブ。
なんて甘美な響きだろう。
思えば俺も由香利君にSMまがいのことをされている。
しかし、本物のSMには行ったことがなかった。
「永野さん。」
俺は頭を下げる永野さんに、真剣な声で言った。
顔をあげる永野さんに向かって、胸を張って言った。
「この依頼、この久能司がお引き受けいたしましょう。」
「ほ、本当ですか!」
身を乗り出してくる永野さんに、俺は真顔で頷いた。
「だがしかし、SMというのがどういうものかしっかりと確かめる必要があります。
だから私を、一度そのSMクラブへ連れて行って頂けますか?」
俺は真剣だった。
だってSMクラブに行きたいんだもの。
「わ、分かりました。
では一度そのSMクラブへお連れいたします。」
や、やったー!。
俺は心の中で小躍りをしていた。
初のSMクラブだ。
俺は喜びで立ち上がってガッツポーズをしていた。
「た、探偵さん・・・。」
永野さんが訝しげな目で見てくる。
「い、いや。
すみません。
きっとあなたの悩みを解決して差し上げますよ。」
そう言った時、ケータイの着信が鳴った。
永野さんに「失礼」と言って電話に出る。
由香利君からだった。
「ちょっと、久能さん。
いつまで外をほっつき歩いているんですか。
さっさと帰ってきて下さい。」
電話の向こうからキンキンと怒鳴り声が聞こえる。
「それと、もしエッチな本を買って帰ってきたら承知しませんからね。」
そう言って電話は切れた。
俺は「あはは」と永野さんに愛想笑いをする。
この依頼のこと、由香利君には黙っていなければな。
もしバレたらえらいことになる。
それから俺と永野さんは連絡先を交換して別れた。
思わぬ依頼が取れたことに喜び、由香利君にエロ雑誌が見つからないように上着に隠しながら事務所に帰った。
隠していたエロ雑誌は見事に由香利君に見つけ出され、俺はまた鉄拳をくらった。
これもSMに近いよなあ。
そう思いつつ、もうすぐ本物のSMができることに顔をニヤニヤさせて喜んでいた。

                                  第九話 つづく

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