小説の終わりのご挨拶

  • 2010.11.25 Thursday
  • 09:26
 幽霊ハイスクールが完結しました。
正直途中で何度も挫折しそうになった小説でした。
その理由はネタ不足です。
当初は十話で完結させる予定でした。
それがなぜか二十話まで書いてしまいました。
当然ネタは不足してきます。
そこをなんとかネタを捻り出して書いていました。
でも、何とか書き終えられてよかったです。
しばらく休んだら、また次の小説を書きます。
幽霊ハイスクールを読んで下さった方、ありがとうございました。

幽霊ハイスクール 最終話 別れの時(4)

  • 2010.11.24 Wednesday
  • 09:06
 佳恵さんの彼氏に会ってから、三日が経っていた。
この三日間、佳恵さんは元気がなかった。
俺は夜、自分の部屋で佳恵さんに聞いてみた。
「佳恵さん、大丈夫?
伊藤さんと会ってから元気がないけど。」
「はい、大丈夫です。
心配をかけてごめんなさい・・・。」
「佳恵さん、傷ついてる?」
「そんなことはありませんよ。」
「ならいいんだけど。
佳恵さん、伊藤さんに会ってから元気がないからさ。」
俺は佳恵さんのことが心配だった。
もしかしたらすごく傷ついているのかもしれない。
「健太郎君、そんなに心配そうな目で見ないで下さい。」
「だって、佳恵さんの元気がないから。」
「ちょっと色々考えてしまって。」
「色々って?」
「隆行君のことです。
隆行君、私が姿を見せたことで逆に苦しんでいないかなとか、隆行君はこれから幸せになれるかなとか。」
佳恵さんの彼氏の伊藤さんは、幽霊でもいいから、佳恵さんに傍にいてほしいと言った。
しかし佳恵さんはそれは出来ないと言った。
幽霊になった自分と一緒にいたら、伊藤さんが幸せになれないからと。
「伊藤さんのことが心配?」
「そうですね。
私の愛した人ですから。」
「もしかして、伊藤さんに会ったことを後悔してる?」
すると佳恵さんは首を横に振った。
「いえ、後悔はしていません。
隆行君に会って、もう苦しまないでってちゃんと言うことができましたから。」
「そう、ならいいけど。」
すると佳恵さんは自分の頬を両手でパンと叩いた。
「ダメですね。
いつまでも元気のない姿を見せていたら。
私は隆行君に会って、言いたかったことが言えてスッキリしました。」
「本当に?」
「本当ですよ。
私の心の中のつっかえが、とれたみたいです。」
俺は佳恵さんをじっと見た。
「何ですか?
じっと見つめて。」
「いや、佳恵さん無理してないかなと思って。」
「そんなことはありませんよ。
それより、健太郎君達にはお礼を言わないといけませんね。
私と一緒に、隆行君に会いに行ってくれたんですから。」
「そんなのいいよ。
俺達は佳恵さんの為を思ってやっただけだから。」
「いえ、ちゃんとお礼を言わせて下さい。
健太郎君、ありがとう。」
「うん。」
「木原君と美保さんにも、ちゃんとお礼を言わなければいけませんね。」
「それならさ、明日みんなで遊ぼうよ。」
「何だか私に為に気を遣わせてしまっているみたいでごめんなさい。」
「謝らなくていいよ。
べつに俺は佳恵さんに気を遣っているわけじゃないからさ。
明日はみんなで遊ぼう。
ね、決まり。」
「はい。
楽しみにしています。」
そして俺は木原と美保に連絡を取り、明日はみんなで遊ぶことになった。
そして翌日の朝、俺は佳恵さんと一緒に学校に出掛けた。
「遅いぞ、健太郎。」
木原と美保はもう来ていた。
「ごめんごめん。」
俺は二人に駆け寄った。
「佳恵さん、大丈夫?」
美保が心配そうに聞く。
「はい、大丈夫です。
皆さんに気を遣わせてしまってごめんなさい。
それから木原君と美保さんにはちゃんとお礼を言ってなかったですね。
隆行君のところへ一緒に行ってくれてありがとう。」
「お礼なんていいよ。」
木原が言った。
「そうそう、私達は佳恵さんの力になりたかっただけなんだから。」
美保も言った。
「じゃあ遊びに行こう。
どこにする?」
俺は聞いた。
「遊園地なんていいんじゃない。」
美保が言った。
「そうだな。
じゃあ遊園地に行こう。」
俺は言った。
そして俺達は電車で三十分ほど離れた所にある遊園地に行くことにした。
電車に乗っている間、美保がしきりに佳恵さんに話しかけていた。
佳恵さんにそれに笑顔で応じていた。
「なんか仲の良い姉妹みたいだな。」
木原が言った。
「私、佳恵さんのことお姉さんみたいに思ってるもん。」
美保が言う。
「私も美保さんのことを可愛い妹みたいに思っていますよ。」
「本当?」
「本当です。」
「嬉しい!」
美保は笑顔になった。
そして俺達は遊園地にやって来た。
「遊園地といえばジェットコースターだよな。
みんなで乗ろうぜ。」
木原が言う。
「俺、高い所はちょっと・・・。」
俺は言った。
「何言ってんだよ。
健太郎も一緒に乗るんだぞ。」
そういうわけで、俺達はジェットコースターに乗ることにした。
俺は後ろの席がよかったのに、木原が前の席に座ろうと言った。
俺達は最前列に近い場所に座った。
俺の隣の席は係員の人に言って空けてもらった。
佳恵さんに座ってもらう為だ。
俺は隣にいる佳恵さんの手を握った。
「健太郎君、怖いんですか?」
佳恵さんが笑いながら聞いてくる。
「そ、そんなことはないよ。」
俺が佳恵さんの手を握ったのは、物に触れない佳恵さんの体が、ジェットコースターをすり抜けて置いていかれないようにする為だ。
しかしそれとは別に、俺の膝は震えていた。
「やっぱり怖いんじゃないですか。」
「そ、そんなことないって。」
ジェットコースターがだんだんと頂上まで上ってくる。
「や、やっぱり怖い・・・。」
俺がそう言うのと同時に、ジェットコースターは下り始めた。
一気に加速していく。
「うわあああ!」
俺は叫んでいた。
前の席から木原と美保の叫ぶ声が聞こえてくる。
俺は叫びながら横を見た。
佳恵さんは楽しそうに笑っていた。
「楽しかったな、ジェットコースター。」
木原が言う。
「もう一回乗ろうか。」
美保が言った。
「また乗るのか!」
俺は叫ぶように言った。
俺達はもう一回ジェットコースターに乗った。
俺は怖くて目をつむっていた。
「いやあ、楽しかったな。」
木原が言う。
「次はどこで遊ぼうか?」
美保が聞いた。
「お化け屋敷なんていいんじゃないかな。」
もうジェットコースターに乗りたくない俺は言った。
「よし、じゃあお化け屋敷に行こう。」
木原がそう言って、俺達はお化け屋敷に入った。
だけどちっとも怖くなかった。
「私達、本物のお化け知ってるもんね。
なんか全然怖くない。」
美保が言う。
「そうだな。
本物の悪霊だって見たしな。」
木原が言った。
それからも様々なアトラクションを、みんなで楽しんだ。
佳恵さんはとても楽しそうだった。
「遊園地は満喫したな。
次はどこに行こうか?」
俺は言った。
「お腹すいたね。
ご飯でも食べに行こうよ。」
美保が言った。
俺達は遊園地を出て、牛丼屋でご飯を食べた。
「次は映画でも観に行こう。」
木原が言った。
俺達は映画館にやって来て、最近公開されたばかりのカンフー映画を観た。
俺は隣に座っている佳恵さんを見た。
佳恵さんは、映画を楽しそうに観ていた。
映画の次は、ボウリング場へやって来た。
木原が三回連続でガーターになり、みんなで笑った。
ここでも佳恵さんは楽しそうだった。
ボウリングを終えて外に出ると、陽は沈みかけていた。
近くに大きな公園があるので、俺達はそこを散歩をしてから帰ることにした。
公園の中の林の遊歩道を歩いていると、佳恵さんが言った。
「今日はとっても楽しかったです。」
「俺達も楽しかったよ。」
木原が言った。
「佳恵さん、元気は出た?」
俺は聞いた。
「はい、とっても。」
佳恵さんは笑顔で言った。
そして遊歩道をしばらく歩くと、池のある広場に出た。
そこで佳恵さん俺達に言った。
「皆さん、今日は私の為にありがとう。
とっても楽しかったです。」
「俺達も楽しかったよ。」
木原が言う。
「またみんなで来ようね。」
美保が言った。
すると佳恵さんは、池の方を見ながら言った。
「私、もう皆さんと遊ぶことは出来ません。」
「どうして?」
俺は聞いた。
「健太郎君の言う通り、私は隆行君のことが心残りで成仏出来ませんでした。
でも隆行君に会って、言いたかったことは言えました。
もうこれで心残りはありません。」
「佳恵さん、もしかして・・・?」
俺は聞いた。
「私、最後に皆さんと一緒に遊べてとても楽しかったです。
私、もう成仏することにします。」
いつかくると思っていた別れの時がやってきた。
「佳恵さん・・・。」
美保が泣き声で言った。
「悲しまないで下さい。
私、皆さんと一緒にいれて、本当に幸せでした。
最高の思い出ができました。」
「嫌だよ、佳恵さん。
行かないで!」
木原が言った。
「私も出来れば皆さんとずっと一緒にいたいです。
でも、私は死んだ人間なんです。
いつまでもこの世にいるわけにはいきません。」
「そんな、佳恵さん・・・。」
美保が泣き出した。
「木原君に美保さん、私の友達になってくれてありがとう。
私、成仏しても二人のことは忘れません。」
「佳恵さん・・・。」
木原も泣き出しそうになった。
「健太郎君。」
俺は名前を呼ばれて佳恵さんの顔を見た。
「健太郎君、いつも私に優しくしてくれてありがとう。」
「そんな・・・、俺は何もしてないよ・・・。」
「いえ、そんなことはありません。
健太郎君は、本当に私に優しくしてくれました。
私、健太郎君に出会えてよかったです。」
「それは俺もだよ。
俺も、佳恵さんに出会えてよかったと思ってる。」
俺の頬を涙が伝った。
「健太郎君はまるで本当の弟のようでした。
私は健太郎君に会わせてくれた神様に感謝しています。」
「佳恵さん・・・、俺・・・、佳恵さんと離れたくないよ!」
すると、佳恵さんが俺を抱きしめてきた。
「健太郎君、一緒にいれて本当に幸せでした。」
俺も佳恵さんを抱きしめた。
「健太郎君は夢がないと言っていましたね。
でもいつか、きっと夢が見つかりますよ。」
「佳恵さん・・・。」
俺は佳恵さんを抱きしめる腕に力を込めた。
「健太郎君。
いつか健太郎君にも、愛する人ができます。
そしたら、その人を大切にしてあげて下さいね。」
そう言うと、佳恵さんは俺から体を離した。
「皆さん、私は皆さんのことを忘れません。
だから、皆さんも私のことを、心の隅っこでもいいから置いておいて下さい。」
「佳恵さんのことを忘れるわけがないだろ!」
木原が言った。
「そうだよ!
絶対に忘れないから!」
美保も言った。
佳恵さんは笑って頷いた。
佳恵さんの体が光に包まれていく。
「健太郎君。」
俺は涙を拭いて佳恵さんを見た。
「健太郎君に出会えて、本当によかったです。
私、空から健太郎君のことを見守っています。
そして、健太郎君が幸せになれるように祈っています。」
「佳恵さん・・・、俺・・・、本当に佳恵さんに出会えてよかった。」
佳恵さんは優しく微笑んだ。
「もう時間です。
皆さん、本当にありがとう。
健太郎君、さようなら。」
そう言うと、佳恵さんの体は光になり、空へと昇って行った。
「佳恵さんー!」
俺は空に向かって叫んだ。
「俺、忘れないからー!
佳恵さんと過ごした日々を、絶対に忘れないからー!」
光はだんだん空へと昇って行き、やがて見えなくなった。
「佳恵さん・・・、さようなら。」
俺は空に向かってそう呟いた。
翌日、俺は目を覚ますと、ベッドの上で大きく背伸びをした。
昨日の佳恵さんとの別れが思い出される。
また泣きそうになった。
それをこらえて、俺はベッドから降りようとした。
そこで俺は固まった。
俺は目の前にいる人を見て言った。
「佳恵さん!」
佳恵さんは二コリと微笑む。
「どうしたの!
成仏したんじゃなかったの!」
すると佳恵さんは言った。
「実はあの後、私は天国に行ったんです。
そしたら神様が現れて、私に言ったんです。
まだ健太郎君と一緒にいるようにって。」
俺は信じられない気持ちで、佳恵さんに言った。
「じゃあまた一緒にいられるっていうこと?」
「はい、そうです。
またお世話になります。
よろしくね、健太郎君。」
俺は笑った。
笑いながら佳恵さんの手を取ってジャンプした。
「こちらこそよろしく!」
俺は言った。
「今日は良い天気ですよ。
散歩にでも行きましょう。」
俺は嬉しくなり、すぐに着替えると言った。
「じゃあご飯を食べたら、また一緒に川沿いの道を歩こう。」
「はい、行きましょう!」
佳恵さんは笑顔で頷いた。
幽霊との生活は、もうしばらく続きそうだった。

                                  最終話 完


幽霊ハイスクール 最終話 別れの時(3)

  • 2010.11.23 Tuesday
  • 09:26
 俺達は佳恵さんの彼氏の家にやって来た。
佳恵さんは、俺と木原、そして美保が一緒に来てくれるなら、彼氏に姿を見せて、もう苦しまないでと言うことが出来ると言った。
俺と木原、そして美保は佳恵さんと一緒に彼氏の家に行くことにした。
電車に乗って一時間ほど離れた街に佳恵さんの彼氏の家はあった。
佳恵さんの彼氏の名前は伊藤隆行という。
優しくて、カッコイイ人らしい。
俺は佳恵さんの彼氏の家のインターフォンを押そうとした。
しかし佳恵さんは少し待ってほしいと言った。
心の準備をしたいと。
そして心の準備ができた佳恵さんは、インターフォンを押してと言った。
俺は緊張で震える指で、佳恵さんの彼氏の家のインターフォンを押した。
「はい、どちら様ですか。」
インターフォンから男性の声がした
「あの、私、坂入健太郎といいます。
伊藤隆行さんはいらっしゃいますか?」
「私ですけど。」
インターフォンの向こうからそう聞こえた。
「私、伊藤さんの彼女の友達なんです。
伊藤さんに用があってやって来ました。」
「俺の彼女の友達?」
「はい、西野佳恵さんの友達です。」
「佳恵・・・。」
しばらく沈黙があった。
「分かりました。
ちょっと待っていて下さい。」
伊藤さんはそう言った。
「佳恵さん、ついに彼氏と対面だね。」
木原が言った。
「はい・・・。」
佳恵さんはとても緊張していた。
そして少しすると、家のドアが開いた。
背の高い、若い男性が出て来た。
中々カッコイイ人だった。
「隆行君・・・。」
佳恵さんが言った。
伊藤さんは門を開け、俺達の前まで来ると言った。
「君達が佳恵の友達?」
「はい。」
俺は返事をした。
「俺に用って何?」
伊藤さんが言う。
「実は佳恵さんを連れて来たんです。」
「佳恵を連れて来た?」
「はい。」
「何を言ってるんだ。
佳恵は一年半前に亡くなったんだ。
いたずらなら帰ってくれ。」
伊藤さんは怒るように言った。
俺は後ろを振り向き、佳恵さんを見た。
佳恵さんはじっと伊藤さんを見ていた。
「ほら、佳恵さん。
伊藤さんの前に姿を現しなよ。」
俺は言った。
「だからいたずらなら帰ってくれ。」
伊藤さんが怒った。
「ちょっと待っていて下さい。
俺達は本当に佳恵さんを連れて来たんです。
ほら、佳恵さん。
姿を現しなよ。」
佳恵さんは緊張した顔で頷き、伊藤さんの前に行った。
「伊藤さん、びっくりするかもしれません。
すぐに伊藤さんの前に佳恵さんが姿を現します。」
俺は言った。
「何を言ってるんだ、君達は。
佳恵は一年半前に・・・。」
そう言いかけた伊藤さんの顔色が変わった。
大きく目を見開いている。
「嘘だろ・・・。」
伊藤さんは言った。
「こんなことって・・・。」
伊藤さんはかなり動揺していた。
佳恵さんが伊藤さんに姿を見せたのだ。
「久しぶり、隆行君。」
佳恵さんは言った。
「一体どうなっているんだ・・・。」
動揺する伊藤さんに、俺は言った。
「佳恵さんは、今は幽霊なんです。」
「幽霊?」
「はい。
信じられないかもしれませんが、本当です。」
伊藤さんは何度もまばたきをした。
「本当に佳恵か?」
「うん。
幽霊になっちゃったけど、佳恵だよ。」
「信じられない・・・。」
伊藤さんはじっと佳恵さんを見ている。
俺達は、二人のやり取りを見守ることにした。
「佳恵。
本当に佳恵なんだな?」
「うん、佳恵だよ。」
伊藤さんの目に涙がたまっていった。
「佳恵・・・。
ずっとお前のことを考えていた。
お前が亡くなってからずっと・・・。」
「隆行君。
私も隆行君のことを忘れたことはなかった。」
「佳恵!」
伊藤さんが佳恵さんを抱きしめようとした。
しかし伊藤さんの腕は、佳恵さんの体をすり抜けてしまった。
「ごめんね、隆行君。
私、幽霊だから触れないの。」
「そんな・・・。」
俺は思った。
伊藤さんも、俺と同じように佳恵さんに触れればいいいのにと。
そうすれば、二人は抱きしめ合えるのに。
「隆行君。
私、隆行君に言いたいことがあって来たの。」
「俺に言いたいこと?」
「うん。
隆行君、私達が事故に遭って、自分だけが生き残ったことにとても苦しんでいたよね。」
「そうだよ。
俺だけが生き残って、佳恵が死んだんだ。
とても苦しんだよ。
いや、今も苦しんでる。」
「私が隆行君に言いに来たのはそのことなの。
お願い、もう苦しむのはやめて。」
「佳恵・・・。」
「私、死んでから少しして、隆行君の所に行ったの。
その時、隆行君はとても苦しんでいた。
私はそんな隆行君を見ているのがとても辛かった。」
「そりゃあ苦しむさ。
自分の大切な人を失ったんだから。」
「そうだよね。
もし立場が逆だったら、私も苦しんでいると思う。
でもね、これ以上隆行君が苦しむのは嫌なの。
私のことでまだ苦しむのなら、いっそ私のことは忘れて。」
「そんなこと出来るわけないだろう。
俺は佳恵を忘れられないよ。」
その言葉を聞いて、佳恵さんは俯いた。
「隆行君・・・。」
「佳恵、幽霊でもいい。
俺の傍にいてくれないか。」
「それは・・・、出来ない。」
「どうしてさ!」
「幽霊になった私と一緒にいても、隆行君は幸せになれないから。」
「佳恵、俺は・・・。」
「分かる。
分かるよ、隆行君の気持ち。
でも、隆行君と一緒にいることは出来ない。
もしこのまま幽霊になった私と一緒にいたら、隆行君はずっと私に縛られることになる。」
「それでもいいよ!」
「よくないわ!」
「佳恵・・・。」
「私は隆行君のことが好き。
大好きよ。
だからこそ、隆行君には幸せになってほしいの。
もう私のことで苦しまないで。」
しばらく沈黙が流れた。
「佳恵、俺はお前のことは忘れられないよ。
幽霊でもいい。
傍にいてくれないか。」
佳恵さんは顔を上げて伊藤さんを見た。
「隆行君。
それは出来ないの。
お願い。
私の気持ちを分かって。」
「佳恵。
俺はお前と・・・。」
「お願い!
隆行君とは一緒にいられないの。
私も出来ることなら隆行君と一緒にいたい。
でもそれはダメなの。
幽霊になった私とずっと一緒にいたら、お互いが辛い思いをするだけなの。
もう私のことで苦しむのはやめて。
さっきも言ったけど、隆行君には幸せになってほしいの。
それが私の願いなの。
新しい恋人を見つけて、幸せになって。」
「佳恵、俺は新しい恋人を見つけることなんて出来ないよ。
俺は今でもお前のことが好きなんだ。」
「隆行君・・・。」
「佳恵。
俺の傍にいてくれ。」
佳恵さんは泣いていた。
その涙は、地面に落ちる前に消えてなくなってしまった。
「隆行君。
もう私は隆行君とは一緒にいられないの。
お願いだから、私の気持ちを分かって・・・。」
「佳恵・・・。」
泣いている佳恵さんを見て、俺の心が痛んだ。
佳恵さんは、伊藤さんの傍にいたいのだ。
でもそれはお互いの為にならないと分かっている。
だから伊藤さんに泣きながら言っているのだ。
私の気持ちを分かってと。
「隆行君。
私、今日は隆行君に会えてよかった。」
「佳恵、これからも会えるんだろ?」
「いいえ、もう会うのはこれで最後。
私は隆行君とはもう会わない。」
「どうして!」
「何度も言うけど、隆行君には幸せになってほしいの。
私は死んだ人間よ。
そんな私と一緒にいても、隆行君は幸せになれない。
だからこれが最後。
隆行君、もう私のことで苦しまないで。」
「佳恵・・・。」
「さようなら、隆行君。」
佳恵さんがそう言うと、伊藤さんが辺りを見回した。
「佳恵!
どこに行ったんだ!
姿を見せてくれ!」
佳恵さんは伊藤さんの前から姿を消したのだ。
「佳恵!
俺はお前のことは忘れないからな!
絶対に、忘れないからな!
俺が愛しているのは、お前だけなんだからな!」
佳恵さんは泣き続けていた。
「もう行きましょう、健太郎君。」
佳恵さんが言った。
「それじゃあ。」
俺は伊藤さんに言った。
「佳恵!
俺が好きなのはお前だけだからな!
絶対に忘れないからな!」
俺達は伊藤さんの家をあとにした。
「佳恵さん、大丈夫?」
美保が心配そうに聞く。
「はい・・・、大丈夫です・・・。」
佳恵さんは泣きながら言った。
「これで、よかったんだよな?」
木原が言った。
誰もその問いには答えられなかった。
俺は泣き続ける佳恵さんの背中を、優しく撫でた。
「隆行君・・・。」
俺達は、泣いている佳恵さんをただ見守っていた。

                                  最終話 さらにつづく

幽霊ハイスクール 最終話 別れの時(2)

  • 2010.11.22 Monday
  • 09:07
 明らかになった佳恵さんの過去。
佳恵さんには恋人がいた。
そして佳恵さんは事故で死んだ。
佳恵さんが彼氏と乗っている車に、信号無視をした車が突っ込んで来た。
その結果、佳恵さんは死に、彼氏は生き残った。
佳恵さんの彼氏は自分だけが生き残ったことにとても苦しんでいた。
しかし佳恵さんは、彼氏の前に姿を現して、苦しまないでと言うことが出来なかった。
苦しんでいる彼氏の前に姿を現すのが怖かったのだそうだ。
それに、自分が姿を見せることによって、余計に彼氏が苦しむのではないかと考えていた。
木原はそれは違うと言った。
今からでもいいから、彼氏に苦しまないでって言おうと言った。
美保は佳恵さんの気持ちが分かると言った。
苦しんでいる彼氏の前に、姿を現すのが怖いという佳恵さんの気持ちが。
俺は悩んだ挙句、木原の意見に賛成した。
そして俺も木原と同じように言った。
佳恵さんの彼氏に、もう苦しまないでと言いに行こうと。
佳恵さんは目を閉じて黙っていた。
「ねえ、佳恵さん。
俺達も一緒に行ってあげるから、彼氏に言いに行こうよ。
もう苦しまないでって。」
俺はもう一度言った。
「そうだよ。
俺達も一緒に行くよ。」
木原が言う。
「佳恵さん・・・。」
美保が小さな声で言った。
「少し、考えさせて下さい。」
佳恵さんはそう言った。
そして俺達は頼んだカキフライ定食をほとんど食べることなく、ファミレスを出た。
「佳恵さん、よく考えてね。」
木原が言う。
「佳恵さん、私は何て言ったらいいのか分からない。」
美保が言った。
佳恵さんずっと黙っていた。
そして家に帰り、夜になるまで佳恵さんは一言も喋らなかった。
夜、俺は自分の部屋で佳恵さんに聞いた。
「佳恵さん、俺達佳恵さんにとって迷惑なことをしてる?」
すると佳恵さんは首を横に振った。
「そんなことはありません。
皆さんが私のことを思って言ってくれているのは分かります。
だから皆さんの気持ちはとてもありがたいです。」
「なら・・・。」
「でも、怖いんです。」
「佳恵さん・・・。」
「私が死んで、もう一年半になります。
今さら苦しまないでって言いに行って、何になるんだろうって思ってしまって・・・。」
佳恵さんはそう言って俯いた。
「俺ファミレスで言ったよね。
こういうことに今さらなんてないって。」
「健太郎君・・・。」
「俺はちゃんと言うべきだと思うよ。
きっと佳恵さんの彼氏は、今も苦しんでいるよ。」
「だから怖いんです。
そんな彼の前に姿を現すのが・・・。」
「佳恵さん。
勇気を出そうよ。
ちゃんと彼氏に言わないと、ずっと成仏出来ないよ。
佳恵さんは彼氏のことが心残りで成仏出来ないんだ。
それは自分でも分かってるはずでしょ。」
佳恵さんは顔をあげて俺を見た。
「彼はどう思うでしょう。
今さら幽霊になった私が姿を現して、どう思うでしょう。
余計に苦しむんじゃないでしょうか。」
それは俺にも分からなかった。
もしかしたら、佳恵さんの言う通り、余計に彼氏を苦しませるだけなのかもしれない。
そう思うと、自分の言葉に自信が持てなくなってきた。
「佳恵さんが彼氏の前に姿を現して、彼氏がどう思うのかは俺にも分からない。
でも、俺はきちんと彼氏に言うべきだと思うんだ。
それは彼氏の為でもあるし、何より佳恵さん自身の為でもあると思う。」
「私の為ですか・・・。」
「佳恵さんは本当は彼氏に言いたいんんだろう。
もう苦しまないでって。
なら言った方がいいと思う。」
佳恵さんは目をつむった。
俺は佳恵さんの言葉を待った。
佳恵さんはしばらく黙っていた。
時計の針の音がやけに大きく聞こえる。
俺はベッドに座っていて、自分の足元を見ていた。
「健太郎君。」
「何?」
俺は顔を上げた。
「私、迷っています。
彼の前に姿を現すべきかどうか。」
「うん。」
「今の私に足りないのは勇気です。
勇気があれば、彼の前に姿を現して、もう苦しまないでって言えるような気がします。」
「うん。」
「健太郎君、私に言ってくれましたよね。
彼の所へ皆さんと一緒に行ってくれるって。」
「うん、言ったよ。」
「もし皆さんが来てくれるのなら、私、勇気が出せるかもしれません。」
「じゃあ行くの?
彼氏の所に。」
「皆さんが一緒なら。」
俺はベッドから立ち上がって佳恵さんの手を握った。
「うん、行くよ。
俺達も一緒に行く。」
「ありがとう、健太郎君。」
「よし、じゃあ佳恵さんの彼氏の所に行くのは決まりだな。
こういうのは早い方がいい。
明日にでも行こうよ。」
「明日ですか?」
「うん、明日。
佳恵さんの彼氏が住んでいる所ってここから遠いの?」
「電車に乗って、一時間ほど離れた街に住んでいます。」
「じゃあ明日行けるね。
早速木原と美保にも連絡しよう。
俺は二人に連絡を取った。
木原は「そうか、行くことにしたんだな、佳恵さん。」と言った。
美保は「佳恵さん、無理してないかなあ。」と言った。
俺は二人に、明日の午前十時に、駅で集合しようと言った。
「佳恵さん、ちゃんと彼氏に言おうね。
もう苦しまないでって。」
佳恵さんは頷いた。
「健太郎君。」
「なんだい?」
「ありがとう。
もし皆さんが一緒に行ってくれるって言ってくれなかったら、私はずっと彼の所へ行く決断は出来なかったと思います。」
「佳恵さんは俺達にとって大切な存在だから。
佳恵さんの為なら何だって力になるよ。」
「ありがとう、健太郎君。」
佳恵さんが抱きついてきた。
俺は優しく佳恵さんの背中に手をまわした。
そして次の日の朝。
俺は佳恵さんと一緒に、駅まで来ていた。
「ごめん、お待たせ。」
そう言って美保がやって来た。
「佳恵さん、大丈夫?
無理してない?」
美保が聞く。
「はい、大丈夫です。
皆さんが一緒ですから。」
そして木原もやって来た。
「やあ、佳恵さん。」
「おはようございます、木原君。」
これでみんな揃った。
「じゃあ行こうか。」
俺は言った。
俺達は切符を買い、電車に乗った。
「ねえ、佳恵さんの彼氏って何て名前?」
美保が聞く。
「伊藤隆行といいます。」
「そうなんだ。
優しい人だって言ってたよね。」
美保が言う。
「ええ、優しい人ですよ。」
「佳恵さんと喧嘩したこととかないの?」
木原が聞く。
「あまり喧嘩をしたことはありませんね。」
「佳恵さんの彼氏なら、きっとカッコイイんだろうね。」
美保が言った。
「俺もそう思う。」
木原が言う。
「自分の彼氏のことを言うのもあれですけど、結構カッコイイと思いますよ。」
「やっぱり。」
木原は笑った。
「結婚も考えてたって言ってたよね。」
俺は聞いた。
「はい。
もし私が事故で死んでいなかったら、半年後くらいには結婚していたと思いますよ。」
それを聞いた美保が言った。
「なんか残酷だね、運命って。
佳恵さんはこれから幸せになろうとしていたのに。」
「そうだよなあ。
もし佳恵さんが生きていたら、人妻になっていたわけだもんなあ。」
木原が言う。
「何か変な言い方。」
美保が木原に言った。
「そうか。
だって実際そうなってたはずだろう。」
「そうだけど、人妻って。」
美保は笑った。
「なんだよ、何がおかしいんだよ。」
木原が言う。
「いや、何となく。」
そう言って美保は笑っていた。
「でも木原君の言う通りです。
もし私が死んでなかったら、人妻になってたわけですから。」
「その人妻っていうのやめてよ。」
美保が笑いながら言う。
「変なことで笑うやつだな。」
木原が言った。
そうやってみんなで喋りながら一時間後、俺達は佳恵さんの彼氏が住む街に着いた。
「ここが佳恵さんの彼氏が住む街か。」
木原が言った。
「それで、佳恵さんの彼氏はどこに住んでるの?」
美保が聞いた。
ここから北に二十分ほど歩いた所に住んでいます。
「よし、じゃあ佳恵さんの彼氏の家に行こう。」
俺は言った。
「佳恵さんの彼氏、家にいるかな?」
美保が言った。
「今日は土曜日だから、仕事は休みのはずです。
もし仕事を変えていなければの話ですけど。」
「とりあえす行けば分かるだろ。」
木原が言った。
それから北に向かって歩くこと二十分。
俺達は住宅地にやって来た。
「佳恵さんの彼氏の家はどこにあるの?」
美保が聞いた。
「こっちです。」
佳恵さんが案内する。
「ここです。」
佳恵さんが指差したのは、二階建ての、綺麗な感じの家だった。
家の門の柱には、伊藤と書いてある。
「じゃあインターフォンを押すぞ。」
俺は言った。
「ちょっと待って下さい。」
佳恵さんが言った。
「もう少し待って下さい。」
佳恵さんは緊張した顔で言う。
「心の準備をさせて下さい。」
「うん、佳恵さんがいけると思ったタイミングでいいから。」
俺は言った。
佳恵さんはしばらく目を閉じて、胸に手を当てていた。
「健太郎君。」
「なんだい?」
「インターフォンを押して下さい。」
どうやら心の準備ができたようである。
「それじゃあいくぞ。」
俺はみんなの顔を見て言った。
木原と美保が緊張した顔で頷いた。
俺も緊張していた。
俺はふうっと息を吐き、インターフォンを押した。
インターフォンを押す俺の指は、少し震えていた。

                                 最終話 またつづく


幽霊ハイスクール 最終話 別れの時

  • 2010.11.21 Sunday
  • 09:23
 「それでは皆さん、良いお正月を過ごして下さい。」
そう言う担任の教師の言葉で学校は終わった。
今日で二学期は終わり。
明日から冬休みだ。
俺が帰る用意を済ませて席から立ち上がると、木原がやって来た。
「俺、今日部活が休みなんだよ。
一緒に帰ろうぜ。」
木原が言う。
「ああ、いいよ。」
俺は頷いた。
教室を出ようとすると、美保がやって来た。
「私も一緒に帰る。」
美保が言う。
「美保も部活は休みか?」
俺は聞いた。
「うん。」
そういうわけで、木原と美保と一緒に帰ることになった。
この二人と一緒に帰るなんて久しぶりだった。
学校を出て帰っていると、木原が言った。
「飯でも食って帰ろうぜ。」
俺と美保は頷き、近くにあるファミレスに寄って帰ることにした。
ファミレスに入り、席に案内されて座った。
「何食べようかな。」
木原がメニューを見ながら言う。
「私カキフライ定食にしよう。」
美保が言った。
「じゃあ俺もそれにする。」
木原が言う。
「健太郎は何食べる?」
美保が聞いてくる。
「俺もカキフライ定食でいいよ。」
そして店員を呼び、注文をいれた。
「明日から冬休みだな。
お前達は何か予定があるのか?」
木原が聞いてくる。
「特に何もないな。」
俺は言った。
「私もない。」
美保も言う。
「冬休みはクリスマスに正月があるのにな。
何も予定がないなんて寂しいな。」
木原が言った。
「じゃあお前は何か予定があるのか?」
俺は聞いた。
「いや、何もないよ。」
人のことを言えないではないかと思った。
そして注文したカキフライ定食が運ばれて来た。
「いただきます。」
俺達は三人揃って言った。
「クリスマスって、嫌なイベントだよなあ。
恋人がいない人間にとっては。」
木原が言った。
「子供の頃はクリスマスっていうだけで楽しかったのにね。」
美保が言う。
すると、木原が佳恵さんに聞いた。
「佳恵さんは生きている時、恋人はいたの?」
「ええ・・・、まあ・・・。」
佳恵さんが暗い顔になった。
俺はその質問はダメだと思った。
以前に俺も同じ質問をして、佳恵さんは暗い顔になったのだ。
「佳恵さん恋人いたの?」
美保も聞く。
佳恵さんは少し黙ってから答えた。
「いました。」
「へえー、そうなんだ。
ねえねえ、どんな人だったの?」
美保が興味津々で聞く。
「俺も聞きたい。」
木原が言った。
「優しい人でした・・・。」
「年上、年下?」
美保が聞く。
「同い年でした・・・。」
佳恵さんは暗い顔で言う。
「お前ら、あんまり佳恵さんのプライベートなことを聞くなよ。」
俺は言った。
「べつにいいじゃない。
それで、彼氏とはうまくいってたの?」
美保が聞く。
「はい・・・。」
そこで木原が言った。
「どうしたの、佳恵さん?
何か元気が無いけど。」
「そんなことはないですよ・・・。」
「そんなことあるよ。
いつもの佳恵さんじゃないよ。
もしかして、私達余計なことを聞いた?」
美保が言う。
「そう言えばさ、俺達佳恵さんのことを何も知らないよな。
どうして死んだのかも知らないし。」
木原が言う。
「あんまり人の過去は詮索するものじゃないと思うぞ。」
俺は言った。
「いえ、いいんです。」
佳恵さんが言う。
「佳恵さん、答えたくないことには答えなくていんだよ。」
俺は佳恵さんを見て言った。
「でも気になるよな、佳恵さんの過去。」
木原が言う。
こいつは分からないのか。
佳恵さんが過去を詮索されることを嫌がっているのが。
俺がそう思っていると、佳恵さんが言った。
「皆さんの言う通り、皆さんは私の過去を知りません。
でも、話しておいた方がいいのかもしれません。」
「佳恵さん、無理しなくていいよ。」
俺は言った。
「いえ、いいんです。
私の過去のことをお話しします。」
すると佳恵さんは真剣な顔になって話し始めた。
「私にはお付き合いしている人がいました。
結婚も考えていました。
でも、結婚する前に、私は死んでしまったんです。
事故でした。」
「そうなんだ・・・。」
美保が俯いて言った。
「あの日、私は彼とドライブに行っていたんです。
事故に遭ったのはその帰りでした。
信号無視をした車が、私達の乗っている車に突っ込んで来たんです。
その車は、助手席に乗っていた私の方に突っ込んで来ました。
そのせいで私は死にました。」
少し沈黙が流れたあと、美保が聞いた。
「佳恵さんの彼氏はどうなったの?」
佳恵さんは宙を見ながら答えた。
「私の彼は生きていました。」
「じゃあ死んだのは佳恵さんだけっていうことだな。」
木原が言うと、佳恵さんは頷いた。
「そうです。
私だけが死んだんです。
死んだ私は幽霊になり、しばらく事故に遭った現場をさまよっていました。
私はその時思ったんです。
死んだのが彼ではなく、私でよかったって。
もし立場が逆なら、私はそうとう苦しんだでしょう。
でも、それは彼も同じだったんです。
事故の現場を幽霊になってさまよっていた私は、彼の元に行ってみようと思ったんです。」
「それで、彼氏はどうだったの?」
美保が聞く。
「私は彼も元に行ってみました。
すると、彼はものすごく苦しんでいました。
私が死に、自分だけが生き残ったことを。
私はそんな彼を見ているのがすごく辛かったんです。
そしてそんな彼を見るのに耐えられなくなった私は、彼の元を離れ、浮幽霊となってさまよっていたんです。
長い間浮幽霊としてさまよっていました。
そしたら神様から言われたんです。
一人の高校生と行動をともにするだろうって。
そして健太郎君と出会ったわけです。」
そこまで佳恵さんの話を聞いて、木原は言った。
「佳恵さんの彼氏は自分だけが生き残ったことで苦しんでいたんでしょ。
でもさ、それなら彼氏の前に姿を現して言えばよかったじゃないか。
そんなに苦しまないでって。
どうしてそうしなかったのさ。」
それは俺も疑問に思った。
すると佳恵さんは言った。
「怖かったんです。
彼の前に姿を現すのが。」
「怖かった?
どうして?」
木原が聞く。
「彼はとても苦しんでいました。
そんな彼の前に姿を現すのが、何だか怖かったんです。
それに、私が姿を見せることによって、余計に彼を苦しませるんじゃないかと思って・・・。」
「そんなことはないと思うけどなあ。」
木原は言った。
「私は何だか佳恵さんの気持ちが分かる。」
美保が言った。
「苦しんでいる彼氏の前に姿を現すのが怖かったっていう気持ち、私は分かるよ。」
その言葉に、佳恵さんは俯いた。
「私、勇気がなかったんです。
本当は言えばよかった。
彼に苦しまないでって。
でも言えなかった。
私はいくじなしです。
そのせいで、今も彼は苦しんでいるかもしれないのに。」
「それからは彼氏の元には行ってないの?」
俺は聞いた。
「はい。
彼の苦しんでいる姿を見るのが辛いですから。」
また沈黙が流れた。
そしてしばらくして、木原が言った。
「言いに行こうよ。
佳恵さんの彼氏に、もう苦しまないでって。」
すると美保が言った。
「でも佳恵さんは彼氏の前に姿を現すのが怖いって言ってるのよ。」
「でもさ、俺は言うべきだと思うな。
彼氏に、ちゃんと伝えるべきだと思う。」
木原が言う。
「でも、もう長いこと彼の元に行っていませんから。
今さら言いに行ったって・・・。」
俺は迷っていた。
佳恵さんに何て言おうか。
俺もどちらかといえば木原の意見に賛成だった。
でも佳恵さんは彼氏の前に姿を現すのが怖いという。
美保は佳恵さんの気持ちが分かるという。
俺は佳恵さんに何て言えばいいのだろう。
でも、一つだけ確かだと思うことがある。
俺はそれを佳恵さんに言った。
「佳恵さん。」
俺は真剣な顔で言った。
「何でしょうか?」
「佳恵さんが成仏出来ないのって、彼氏のことが心残りだからじゃないかな。
本当は佳恵さんは、彼氏に言いたいんでしょ。
もう苦しまないでって。」
佳恵さんはしばらく黙ったあと、「はい。」と小さな声で答えた。
「なら言おうよ。
彼氏にさ。」
木原が言う。
「でも、今さら・・・。」
「こういうことに今さらなんてないよ。」
俺は言った。
「健太郎君・・・。」
「俺達が一緒に行ってあげるよ。
だから彼氏に言おうよ。
もう苦しまないでって。」
俺は、迷った挙句にそう言った。
佳恵さんは目を閉じて黙っていた。
頼んだカキフライ定食は、もう冷めていた。

                                 最終話 つづく

幽霊ハイスクール 第十九話 幽霊の恩返し(2)

  • 2010.11.20 Saturday
  • 09:08
 木原が石に閉じ込められていた幽霊を助けた。
その幽霊は原口正美さんという名前で、なんと超能力が使えるのだ。
原口さんは、助けてくれた木原にお礼がしたいと言った。
何か木原の役にたつことがしたいと。
しかし木原は困っていた。
特にお礼なんて望んでいなかったからだ。
それでも原口さんは木原の役にたちたいと言った。
そして今、木原は原口さんに弁当を食べさせられている。
「はい、木原君。
あーんして。」
原口さんが超能力を使い、木原の口にご飯を運んでいく。
木原は困った様子で弁当を食べていた。
「私、木原君の役にたってますか?」
原口さんが聞く。
「うん、まあ、何とも言えないな。」
木原が言う。
すると原口さんは悲しい顔になった。
「私、木原君の役にたててないんですね。」
「いや、だからそんな悲しい顔しないでよ。」
木原が慌てて言う。
「私、木原君の役にたちたいんです。」
「うん、それはもう分かったから。」
木原は自分で弁当を食べ始めた。
「ああ、私、どうすれば木原君の役にたてるのかしら。」
原口さんは悩んだ顔を見せる。
「べつに俺の役にたたなくてもいいよ。」
「いえ、それではいけません。
ちゃんと助けてもらったお礼はしないと。」
木原は弁当をかきこみ、お茶を飲んで言った。
「原口さんて真面目だよね。」
「そうですか。」
「うん、そうだよ。
俺が原口さんを助けたのはたまたまなんだから。
助けようと思って助けたわけじゃないんだからさ。」
確かにその通りだ。
木原はただ石に貼ってあるお札をはがしただけだ。
その結果、石に閉じ込められていた原口さんが出て来れたのだ。
「でも、助けてもらったことにかわりはありません。」
「それはそうだけど・・・。」
「私、木原君にちゃんとお礼ができるまで、成仏できません。」
「そんなこと言われてもなあ。」
木原は食べ終えた弁当をかたづけ始めた。
「原口さんて、子供の頃から超能力を使えたの?」
弁当を食べ終えた美保が聞く。
「いえ、超能力を使えるようになったのは高校三年生の時です。」
「何かきっかけのようなものがあったんですか?」
佳恵さんが聞く。
「はい。
私が高校三年生の頃、家の階段を下りていたらこけそうになったんです。
私は危ないって思いました。」
「それで?」
木原が聞く。
「そしたら、私の体が宙に浮いたんです。
おかげで私は、階段を転げ落ちずにすみました。
それからです。
私が超能力を使えるようになったのは。」
「便利そうだよね、超能力。」
美保が言う。
「とっても便利ですよ。
手の届かない所の物だって動かせるし、荷物を手で持たなくてもいいし。」
「いいですね、超能力。
私もほしいです。」
佳恵さんが言う。
「でもあんまり超能力を使い過ぎると、次の日にすごく疲れるんです。
だから加減して使っていました。」
「でも幽霊になったらそんなの関係ないんじゃない?」
美保が言う。
「いえ、幽霊になっても同じですよ。
超能力を使い過ぎると、やっぱり次の日は疲れるんです。」
「幽霊でも疲れるんだな。」
俺は言った。
「そうですよ。
幽霊にも人間と同じ体力のようなものがあるんです。
幽霊の場合は霊力ですね。
霊力を消耗すると、疲れるんです。」
佳恵さんが言った。
「へえ、そうなんだ。」
俺は言った。
「その通りです。
だから超能力は乱用出来ないんです。
でも私、木原君の為なら力を惜しみません。
私に出来ることがあったら、何でも言って下さい。」
「今のところは特に無いなあ。」
すると原口さんは、また悲しい顔になった。
「だからさ、すぐに悲しい顔をするのをやめてよ。」
木原が言う。
「すみません。
私、落ち込みやすいもので。」
原口さんが悲しい顔のまま言う。
そこで昼休みが終わった。
木原と美保が、自分の席に戻って行く。
五時間目の授業が始まった。
俺は木原を見ていた。
すると、木原が触ってもいないのに、教科書のページがめくられていく。
きっと原口さんがやっているのだ。
他にも消しゴムが宙を浮いて木原の手に運ばれてきたり、触ってもいないノートがめくられたり。
原口さんは、何とか木原の役にたとうとしているみたいだ。
「なんか努力を惜しまないね、原口さん。」
俺は小声で佳恵さんに話しかけた。
「そうですね。
よっぽど木原君の役にたちたいんでしょうね。」
「なんか涙ぐましいな。」
「ええ、木原君は困っていますけど。」
そして五時間目の授業が終わった。
俺と美保は木原の席に行った。
「あのさ、教科書とかノートは自分でめくるから。」
木原が原口さんに向かって言う。
「ごめんなさい。
私、木原君の役にたちたくて。」
「その気持ちはありがたいけど、授業中はおとなしくしててくれないかな。」
原口さんはまた悲しい顔になった。
「ごめんなさい・・・。
私、役にたてなくて・・・。」
「いや、だからそんな悲しい顔をしないでよ。」
すると美保が言った。
「いいじゃない。
原口さんは木原の役にたとうとしてるんだから。
その気持ちはありがたく受け取りなさいよ。」
「そう言うけどな、その気持ちが逆に迷惑になることだってあるんだ。」
その言葉を聞いた原口さんは、今までで一番悲しい顔になった。
「私・・・、迷惑ですか・・・。」
「いや、今のはその、あれだ、言葉のあやっていうか。」
「私・・・、迷惑なんですね・・・。」
「だから違うって!
もう、そんなに悲しい顔をしないでくれよ。」
「だって・・・、木原君が迷惑だって言うから・・・。」
木原は完全に困っていた。
「お願いだからその悲しい顔をやめてよ。」
「ごめんなさい。
私、ダメな女ですね・・・。」
「いや、そんなことないから。」
俺は木原と原口さんのやり取りが面白くて、笑ってしまった。
「健太郎、何を笑ってるんだよ。」
「いや、ごめん。
なんか面白くて。」
すると木原はぷりぷり怒った。
「ちっとも面白くないよ。」
「ごめんなさい、木原君。
私、授業中はおとなしくしています。」
原口さんが言った。
「うん、そうしてて。」
木原が言う。
「なんか木原って冷たいやつね。」
美保が言った。
「だって・・・。」
何か言おうとして、木原はやめた。
これ以上何か言ったら、原口さんが余計に悲しい顔になるだけだと思ったのだろう。
そして六時間目の授業が始まった。
木原は自分で教科書のページをめくっている。
原口さんはおとなしくしていた。
「なんか可哀想だね、原口さん。」
俺は佳恵さんに言った。
「そうですね。
明らかに落ち込んでいますね。」
そして六時間目の授業が終わった。
俺は帰る用意をして、木原の席へ行った。
原口さんまだ悲しい顔をしていた。
するとそこへ美保がやって来た。
「私はこれから部活に行ってくるわ。
木原、これ以上原口さんに悲しい顔をさせちゃダメよ。」
「分かってるよ。」
「じゃあみんな、また明日ね。」
美保は手を振って部活に行った。
「俺は今日は部活は休もう。」
木原が言った。
「何でだ?」
俺は聞いた。
「なんだか調子が狂っちゃった。
今日はこのまま帰る。」
「じゃあ一緒に帰るか。」
俺が言うと、木原は頷いた。
そして学校を出た。
「原口さん、もう悲しい顔はやめなよ。」
木原が言った。
「はい・・・。」
原口さんは小さく返事をした。
「原口さんはどうしても木原君の役にたちたいんですよね。」
佳恵さんが言った。
「はい。
助けてくれた木原君に、きちんとお礼がしたいんです。」
「べつにお礼なんていいのに。」
木原が言う。
「いえ、そういうわけにはいきません。」
原口さんは強い口調で言った。
「もう、好きにしなよ。
でも悲しい顔をするのだけはやめてくれよな。」
「はい、ごめんなさい・・・。」
「ほら、また悲しい顔になった。」
そうやって話しながら帰っていると、信号待ちになった。
すこし待つと、信号は青に変わった。
木原が自転車をこいで横断歩道を渡ろうとする。
すると「危ない!」と佳恵さんが叫んだ。
何だろうと思って前を見ると、信号無視した車が木原に迫っていた。
「木原、危ない!」
俺も叫んでいた。
木原に車が迫る。
もう車をかわせない。
木原がはねられる。
俺はそう思った。
その時だった。
木原の体が、自転車ごと宙に浮いた。
その下を、信号無視した車が通り過ぎていく。
信号無視した車は、信号の向こうにある建物に突っ込んだ
物凄い音がした。
辺りが騒然となる。
木原は宙に浮いたまま俺達の方にやって来た。
俺は原口さんを見た。
原口さんは、木原に向かって両手を伸ばしていた。
そして木原がゆっくりと地面に下りて来る。
「びっくりした!
何だったんだ、今のは。」
木原が驚いたように言う。
「木原君、怪我はないですか?」
原口さんが聞いた。
「ああ、どこも怪我してないよ。
ていうかもしかして、原口さんが超能力を使って助けてくれたの?」
「はい。
もうダメかと思ったけど、何とか間に合いました。」
原口さんは安堵した顔で言う。
木原は自転車から降りて、原口さんに近寄った。
「ありがとう!
原口さんは命の恩人だよ!
本当にありがとう!」
その言葉を聞いた原口さんは、笑顔になって言った。
「私、木原君の役にたてましたか?」
「もちろん。
もし原口さんが助けてくれなかったら、俺は大怪我をしていたか、悪くしていたら死んでたよ。
本当にありがとう。」
「やった!
私、木原君の役にたつことが出来ました。
これでちゃんとお礼は出来ました!」
原口さんは喜んでいた。
「うん、お釣りがくるくらいお礼をしてもらったよ。
本当に助けてくれてありがとう。」
「よかった。
これで私、成仏出来ます。」
原口さんの体が光りに包まれていく。
「原口さん、ありがとう。」
「私こそ、助けてもらってありがとう。
さようなら、木原君。」
原口さんは光になり、空へと昇って行った。
「助かってよかったな。」
俺は言った。
「うん、原口さんのおかげだよ。」
木原は空に向かって、もう一度ありがとうと言った。

                                 第十九話 完

幽霊ハイスクール 第十九話 幽霊の恩返し

  • 2010.11.19 Friday
  • 09:28
 佳恵さんと買い物に行った翌日の月曜日、俺は学校に向かっていた。
「よう、健太郎。」
学校に向かう途中にある上り坂で、いつものように木原が声をかけてくる。
「よう、木原。」
「佳恵さん、おはよう。
今日も綺麗だね。」
木原が言う。
「おはようございます、木原君。」
佳恵さんが笑顔で挨拶を返す。
「やっぱり朝は佳恵さんの笑顔を見ないと始まらないよ。」
木原も笑顔で言う。
「お前はいつも佳恵さんを褒めているな。」
俺は言った。
「褒めてなんかいないさ。
事実を言っているだけだよ。
佳恵さんは綺麗だから、綺麗だと言ったんだ。」
「私なんかが綺麗でしょうか。」
「もちろん。
佳恵さんはとっても綺麗だよ。
俺が生きてきた中で見た一番の美人だよ。」
「お前は恥ずかしいことをあっさりと言うやつだな。」
俺は言った。
「そうか?
俺は心に思ったことを素直に言葉にしているだけだよ。」
それからも学校に着くまで、木原は佳恵さんを褒め続けていた。
佳恵さんは笑顔で木原の褒め言葉を受け流していた。
そして学校に着き、教室に入った。
自分の席に座ると、木原がやって来た。
「佳恵さんは本当に美人だよね。」
「まだ褒めるのかよ。」
「いいじゃないか。
俺は思ったことを素直に言っているだけなんだから。」
すると美保がやって来た。
「みんなおはよう。」
「おはよう、美保。」
「おはようございます、美保さん。」
「よう、野村。」
「聞いてくれよ、美保。
木原が佳恵さんを褒めまくっているんだ。」
すると美保は笑って言った。
「そんなのいつものことじゃない。」
「でも今日は、いつもより多めに褒めている気がするんだ。」
「木原って恥ずかしいセリフを平気で言うよね。」
美保が言う。
「だから、俺は自分の思ったことを素直に言っているだけなんだって。」
「普通は自分の思ったことを何でも口に出したりしないけどな。」
俺は言った。
「俺は純粋なのさ。」
木原は言う。
それを聞くと、また美保は笑った。
「純粋っていうか、単純っていうか、ちょっと人と感覚は違うわよね。」
「それって褒めてるのか?」
木原が聞く。
「どっちでもないわよ。」
美保は言った。
「あの、木原君。」
佳恵さんが言った。
「なんだい?」
「さっきから言おうと思ってたんですが・・・。」
「なになに?」
木原が佳恵さんを見て聞く。
「あのですね、木原君。
また背後霊が憑いています。」
「ええー!」
木原は驚いた。
「また俺に霊が憑いてるの?」
こいつは本当によく霊にとり憑かれるやつだなと思った。
「ねえ、悪い霊じゃないよね?」
木原が心配そうに聞く。
「はい。
悪い霊ではありません。
何か木原君に伝えたいことがあるみたいです。」
木原は自分の後ろを見た。
「ねえ、俺の背後霊に、姿を見せるように言ってよ。」
「分かりました。
あ、私が言うまでもなく、背後霊が姿を現します。」
すると、木原の後ろに女性の幽霊が現れた。
髪はショートカットで、赤いTシャツにジーパン姿だ。
歳は佳恵さんと同年代くらい。
中々の美人だった。
木原は背後霊を見て言った。
「なんで俺にとり憑いているの?」
すると背後霊は言った。
「私、原口正美といいます。
あなたは木原君というんですね。」
「そうだよ。
木原良人っていうんだ。
何で俺にとり憑いているのさ?」
すると、原口正美と名乗った幽霊は言った。
「実は私、木原君に助けられたんです。
それで木原君に感謝の気持ちを伝えたくて、木原君にとり憑いているんです。」
「俺に助けられた?
どういうこと?」
木原が聞く。
「覚えていませんか?」
「何のことかさっぱり。」
「昨日のことですよ。」
「昨日のこと?」
木原は考え込んでいる。
「木原、何か思い当たることはないのか?」
俺は聞いた。
「ちょっと待ってよ。
今思い出しているところだから。」
木原は「うーん。」と唸りながら昨日のことを思い出しているようだ。
そしてしばらく考え込むと、「あ!」と言った。
「そういえば昨日、いつもと違う道を通って帰ったんだ。」
「それで?」
美保が聞く。
「それでさ、その帰り道の途中で林の中を通ったんだよ。
そしたらさ、その林の中に、大きな石がいくつも積み上げられている場所があったんだ。
俺は何だろうって思って、その場所に近づいてみたんだ。」
「うんうん。」
美保が頷きながら聞いている。
「そしたらさ、たくさん積み上げられている石の中に、一つ、お札が貼ってある石があったんだ。」
「お札?」
俺は聞いた。
「うん。
赤いお札で、何か文字が書かれていたんだ。
俺は何だろうと思ってそのお札をはがしたんだよ。」
「あんたよくそんなことが出来るわね。」
美保が呆れたように言った。
「どういう意味さ?」
「石にお札なんて貼ってあったら、普通は気味が悪くて誰もはがさないわよ。」
「そうか。
俺は何とも思わなかったぞ。」
美保の言う通り、木原の感覚は俺達とは少し違うようだ。
「それで、はがしたお札はどうしたの?」
美保が聞く。
「やぶって捨てた。」
「信じられない。
私なら怖くて出来ないわ。」
美保がまた呆れたように言った。
すると木原の背後霊の原口さんが言った。
「でもそのおかげで、私は助かったんです。」
「どういうこと?」
木原が聞く。
「実は私、そのお札が貼ってある石に閉じ込められていたんです。」
「そうなの?」
俺は聞いた。
「はい。
半年前に、意地の悪い霊能者にその石に閉じ込められて、出て来れないようにお札で封印されていたんです。
でも木原君がお札をはがしてくれたおかげで、私は出て来ることが出来ました。
木原君、本当にありがとう。」
原口さんは、木原に頭を下げた。
「いやあ、べつに感謝されるようなことじゃないよ。」
木原は照れていた。
「木原君のおかげで私は助かったんです。
それで私、木原君に何かお礼がしたいんです。」
原口さんは真剣な顔で言った。
「べつにいいよ、お礼なんて。」
木原が言う。
「いえ、何かお礼をしたいんです。」
「お礼って言われてもなあ。」
木原は言った。
「私、こう見えても超能力が使えるんですよ。」
原口さんは言った。
「超能力?
そんな馬鹿な。」
そう言って木原は笑った。
「あ、信じてないですね。
分かりました。
私が本当に超能力が使えるっていうところをお見せしましょう。」
すると原口さんは木原に向かって両手を伸ばした。
「うわ!
何だ!」
信じられないことに、木原の体が少し宙に浮いた。
原口さんは、今度は俺のかばんに両手を伸ばした。
すると俺のかばんも宙に浮いた。
「すごい!」
美保が驚いて言う。
原口さんは、両手を伸ばすのをやめた。
すると宙に浮いていた木原の体と俺のかばんは元に戻った。
「信じられない・・・。」
俺は言った。
「ね、これで私が超能力が使えるっていうことが分かったでしょう。」
「私、超能力なんて初めて見ました。」
佳恵さんも驚いて言った。
そこで朝のホームルームのチャイムが鳴った。
「とりあえず、続きは後で。」
木原はそう言うと、自分の席に行った。
美保も自分の席に行った。
そしてホームルームが終わり、一時間目の授業が始まった。
「すごいね。
原口さんて超能力者だったんだ。」
俺は小声で佳恵さんに話しかけた。
「ええ、私も驚きました。
まさか超能力が実在するんなんて。」
「でもさ、こうやって幽霊も実在するんだよ。
超能力があってもおかしくないのかもしれないね。」
「それはそうですね。
普通の人は、幽霊が実在することすら知らないわけですし。」
「世の中不思議なことだらけだ。」
「ええ、本当に。」
そして一時間目の授業が終わった。
俺と美保は木原の席に行った。
「木原君、何か私に望むことはありますか?」
原口さんが聞いた。
「望むことって言われてもなあ。
特に無いなあ。」
すると原口さんは悲しそうな顔をした。
「じゃあ私は木原君に何もお礼をすることが出来ませんか?」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・。」
木原の気持ちは分かる。
いきなりお礼をしたいなんて言われても、確かに困ってしまう。
「私、何か木原君の役にたてるようなことがしたいんです。
そうじゃないと、成仏出来ません。」
「そう言われても・・・。」
木原は困っているようだった。
それから二時間目の授業が始まった。
そしてどんどん授業は終わっていき、昼休みになった。
木原と美保が、弁当を持って俺の席にやって来る。
木原は弁当を広げた。
すると原口さんが言った。
「私が食べさせてあげますよ。」
原口さんは超能力を使い、木原の弁当の卵焼きを木原の口へと運んでいく。
「木原君、あーんして下さい。」
木原は言われるままにした。
木原の口に卵焼きが入る。
「美味しいですか?」
原口さんが聞く。
「うん、まあ美味しいかな。」
「じゃあ次です。」
今度はウインナーを木原の口に運んでいく。
木原は口をあけ、その中にウインナーが入った。
木原は口をもぐもぐさせながら言った。
「あのさ、気持ちはありがたいんだけど、弁当は自分で食べるから。」
それを聞いた原口さんは悲しい顔になった。
「私・・・、役にたてないんですね・・・。」
「いや、そんなに悲しい顔しないでよ。」
木原が慌てて言う。
「じゃあ私がお弁当を食べさせてあげます。
はい、あーんして。」
木原の口にまたおかずが運ばれていく。
木原は苦笑いしていた。
幽霊に弁当を食べさせられる木原。
俺はその光景を見て、木原も妙な幽霊にとり憑かれたものだと思った。

                                  第十九話 つづく

幽霊ハイスクール 第十八話 幽霊と買い物

  • 2010.11.18 Thursday
  • 09:04
 期末テストも終わった日曜日の昼過ぎ、俺は自分の部屋でゴロゴロしていた。
マンガを読んだり、ゲームをしたり。
「健太郎君、今日はどこにも出掛けないんですか?」
「うん、今日は家にいる。」
「外は良く晴れていますよ。
家の中にいたらもったいないですよ。」
「でも外は寒いんだもん。」
今は十二月の中旬。
外は寒い。
「今日は家にいるって決めたんだ。」
そう言うと佳恵さんは笑った。
「本当に寒いのが苦手なんですね。」
「うん。
寒いと何もしたくなくなるんだ。」
俺はやっていたゲームをやめ、ベッドの中に入った。
すると、誰かが俺の部屋のドアをノックした。
「はーい。」
俺は返事をした。
ドアを開けて顔を見せたのは母さんだった。
「健太郎。
あんた今日暇でしょ。」
「うん、まあ暇かな。」
「じゃあ買い物に行って来てくれない。
母さんはこれから用事があるのよ。」
「えー、外に出るのは嫌だ。」
「どうしてよ?」
「だって寒いんだもん。」
「若いのに何言ってるのよ。
さっき暇だって言ったでしょ。
母さんの代わりに買い物に行って来てちょうだい。」
そう言って母さんは部屋に入って来て、俺にメモとお金を渡した。
「じゃあ頼んだわよ。」
そう言って母さんは部屋から出て行った。
「外に出ることになっちゃいましたね。」
俺はベッドから出た。
「まったく。
今日は家に中にいたいのに。」
俺は渡されたメモを見た。
カレーのルーにニンジン、ジャガイモ、タマネギ、あとは肉と書いてあった。
どうやら今晩はカレーらしい。
俺はとりあえず外に出る為に着替えた。
「今日は二人でお買い物ですね。」
佳恵さんが嬉しそうに言う。
「佳恵さんは外に出たかったんだね。」
「はい。」
笑顔で返事をされた。
今日は家にいたかったが、仕方がない。
俺は買い物へと出掛けることにした。
玄関を出て、近所のスーパーに向かう。
「今晩はカレーみたいだ。」
俺は言った。
「いいですね、カレー。
私は大好きですよ。」
「佳恵さんは料理はできたの?」
「はい。
料理は得意でした。
カレーも得意ですよ。」
「一度佳恵さんの作ったカレーを食べてみたいな。」
「私も健太郎君にカレーをご馳走してあげたいです。
ああ、私が物に触れたらいいんですけどねえ。」
「佳恵さんのカレーなら、きっと美味しいだろうね。」
そしてしばらく歩いて、近所のスーパーに着いた。
「さて、何から買おうかな。」
「まずはカレーのルーから買ったらいいんじゃないですか。」
「そうだな。
そうしよう。」
俺はカレーのルーを探した。
そしてカレーのルーのコーナーを見つけた。
「色んな種類があるな。
母さんはいつも、どれを買っているんだろう?」
「メモにはどのルーか書いていないんですか?」
「うん。
カレーのルーとだけ書いてある。」
佳恵さんはカレーのルーのコーナーを眺めた。
「これ、私がいつも買ってたやつです。」
佳恵さんが一つのルーを指差した。
「じゃあそれにしよう。
俺は佳恵さんが指差したカレーのルーを、買い物カゴに入れた。
「ええと、あとはニンジンにタマネギ、ジャガイモに肉だな。」
俺は野菜のコーナーに行った。
メモに書かれた野菜を買い物カゴに入れていく。
「私はリンゴも入れていましたけどね。」
佳恵さんが言う。
「ふーん。
じゃあリンゴも買っておこうかな。」
俺は果物のコーナーに行き、リンゴを買い物カゴに入れた。
「あとは肉だな。」
俺は肉のコーナーに行った。
そして肉を買い物カゴに入れる。
「これで全部だな。」
メモを見て確かめた。
「カレーって、自分の家のカレーが一番美味しいと思いませんか?」
佳恵さんが聞いてきた。
「そうだな。
確かに自分の家のカレーが一番美味しいと思う。
何でだろう?」
「さあ、何ででしょうね。」
「よく考えてみれば不思議だな。」
「そうですね。
カレーって特別なのかもしれませんよ。」
「カレーが特別?
どういう意味?」
「カレーってその家によって味が異なるじゃないですか。
それでほとんどの人はカレーって好きでしょう。
みんな自分の家のカレーの味で育っているんですよ。
だから自分の家のカレーが一番好きなんじゃないでしょうか。」
「でもさ、それだったら他の料理も同じだよね。
味噌汁とか、ハンバーグとか。
なんでカレーだけは自分の家が一番美味しいと思えるんだろう。」
「確かにそうですね。
不思議ですね、カレーって。」
俺は頷き、買い物カゴをレジに持って行こうとした。
すると佳恵さんが言った。
「健太郎君、もう少し店内を見てもいいですか?」
「いいけど、どうして?」
「私、スーパーなんて久しぶりで。
もう少し店内を見て回りたいんです。」
「うん、いいよ。」
それから十分ほど、佳恵さんと一緒に店内を見回った。
「ありがとう、もういいです。」
それから俺はレジに向かい、買い物をすませてスーパーを出た。
「健太郎君、ちょっと散歩をして帰りませんか?」
「いいよ。」
俺と佳恵さんは、近くにある川沿いの道にやって来た。
何人か散歩をしている人がいた。
「そう言えばさ、給食のカレーも美味しいよね。」
俺は言った。
「そうですね。
給食のカレーも美味しいですよね。
どうしてでしょう?」
「何でだろうね?
カレーって不思議だね。」
「ええ、本当に。」
それからしばらく黙って川沿いの道を歩いた。
すると佳恵さんが言ってきた。
「ねえ、健太郎君。
手を繋ぎませんか?」
「え、あ、うん。」
「嫌ですか?」
「いや、そんなことはないよ。」
佳恵さんと手を繋ぐのは嫌じゃない。
何だか照れくさかっただけだ。
佳恵さんが手を出してくる。
俺はその手を握った。
「私、今幸せですよ。
こうして健太郎君や、木原君や美保さんと毎日が過ごせて。」
「確かにあいつらといると退屈はしないな。」
「木原君は、いつも私のことを褒めてくれますね。
私なんかの何がいいんでしょうか?」
「そりゃあ佳恵さんは美人だからじゃない。
落ち着いているし、優しいし。」
「そうですか。
自分ではよく分からないですけど。」
「佳恵さん、生きている時は、かなりモテただろう?」
「そんなことないですよ。
全然モテなかったですよ。」
「またまた、そんなこと言って。
佳恵さんは絶対にモテてたと思うな。」
すると佳恵さんは笑いながら言った。
「確かに何人かの男性の方から、付き合ってくれないかと言われたことはあります。」
「ほら、やっぱりモテてたんじゃないか。」
「だから、そんなことないですってば。
私なんか、全然モテませんでした。」
佳恵さんは恥ずかしそうに言った。
「佳恵さんてさ、生きていた時は恋人はいたの?」
何気ないつもりで質問した。
しかし佳恵さんは、急に暗い顔になって黙ってしまった。
「あ、ごめん。
俺、何か余計なこと聞いた?」
すると佳恵さんは首を横に振った。
「いえ、いいんです。
気にしないで下さい。」
気になった。
すごく気になったけど、これ以上は聞かない方がよさそうだった。
俺は話題を変えた。
「そう言えばさ、佳恵さんてどうして死んじゃったの?」
また佳恵さんが暗い顔になった。
「あ、ごめん。
俺また余計なこと聞いた?」
「いえ・・・、そんなことはないんですけど・・・。」
明らかに余計なことを聞いてしまったようだ。
「ごめん。
今の質問は忘れて。」
俺は言った。
「いえ、何だかごめんなさい・・・。」
「何で謝るのさ。」
「いえ、何だか健太郎君に気を遣わせてしまったみたいで・・・。」
「そんなの気にすることないよ。」
そう言って俺は笑った。
「誰でも聞かれたくないことってあるものだよ。
俺が余計なことを聞いたのが悪いんだ。
佳恵さんが謝る必要はないよ。」
「はい・・・。」
とても小さな返事だった。
「もう、どうしたのさ。
いつもの佳恵さんらしくないよ。」
そう言うと、佳恵さんは無理矢理笑った。
「そうですよね。
ごめんなさい、暗い顔しちゃって。」
それから佳恵さんと手を繋いだまま、他愛無い話をした。
佳恵さんは笑顔だった。
笑顔だったけど、どこか無理矢理笑顔を作っている感じがあった。
俺は佳恵さんの過去を知らない。
弁護士になりたかったという話は聞いたけど、それ以外は聞いていない。
誰でも人に聞かれたくないことの一つや二つはある。
しかし俺は、さっきの佳恵さんの暗い顔が忘れられなかった。
佳恵さんの過去。
それは佳恵さんから笑顔を奪ってしまうほどのものなのか。
俺は、俺と出会うまでの、生きていた頃の佳恵さんのことがとても気になった。
しかし今は聞かない。
他愛無い話で笑顔を作り、とりあえずは佳恵さんの過去には触れないようにしようと思った。
そう思っても、佳恵さんのさっきの暗い顔が頭から離れなかった。

                                  第十八話 完

幽霊ハイスクール 第十七話 悪霊が出た(2)

  • 2010.11.17 Wednesday
  • 09:04
 木原が悪霊を見に行こうと誘ってきた。
俺が断ると、木原は一人で行くと言った。
その話を聞いた美保は、私も木原と一緒に行くと言い出した。
俺は悪霊なんて見に行きたくなかった。
しかし木原と美保が一緒に来いと言うので、仕方なく俺も行くことになった。
「私は反対ですけどね。」
佳恵さんは言う。
「悪霊なんてちょっかいを出さない方がいいんです。
悪霊っていうのは、本当にたちが悪いんですから。」
「そうだよな。
俺も悪霊のいる所なんかに行きたくないよ。」
俺は家を出て、自転車をこいで目的地の廃墟の病院を目指していた。
俺が今から行く廃墟の病院が、悪霊が出る心霊スポットらしい。
場所は学校から東に、自転車で二十分ほど行った場所にある。
集合時間は午後九時。
俺は寒い十二月の夜道を、自転車で駆け抜けていた。
家を出てから学校を過ぎ、それから東に二十分ほど自転車をこいだら、目的地の廃墟の病院に着いた。
木原と美保が、廃墟の病院の正面にいた。
「こんばんわ、健太郎に佳恵さん。」
美保が挨拶してくる。
「よう、美保。」
「こんばんわ、美保さん。」
俺は自転車から降り、廃墟の病院を見上げた。
病院は三階建てになっている。
今夜は月明かりが出ている。
月明かりに照らされた夜の病院は、とても不気味に感じられた。
「懐中電灯を持って来たぜ。」
木原が懐中電灯を点ける。
「なんか怖いね。」
美保が言った。
「ならやめた方がいんじゃないか。」
俺は言った。
「ここまで来て何言ってんだよ。
ほら、早く病院の中に入るぞ。」
木原が病院の正面の入口へと進んで行く。
「お前達も早く来いよ。」
木原が手招きをする。
俺と美保、そして佳恵さんは病院の正面の入口まで来た。
「よし、じゃあ行くぜ。」
木原が緊張した顔で言う。
俺達は廃墟の病院の中に入った。
中は真っ暗だ。
木原が懐中電灯で辺りを照らす。
「どうやらここは待ち合い室だったみたいだな。」
木原が辺りを照らしながら言う。
確かに待ち合い室だったようだ。
いくつも長い椅子が置かれている。
「先に進むぞ。」
木原が言った。
木原は懐中電灯で辺りを照らしながら進んで行く。
処置室や、レントゲン室と書かれた部屋があった。
「ちょっと中を覗いてみるか。」
そう言って木原は、処置室と書かれた部屋のドアを開けた。
中を懐中電灯で照らす。
中にはほとんど何もなかった。
椅子が二つに、テーブルが一つあるだけだった。
「佳恵さん、ここに悪霊はいる?」
美保が聞いた。
「いいえ、ここにはいません。」
「じゃあ先へ進もう。
二階に上がってみるか。」
木原が言った。
俺達は階段を上がり、二階へとやって来た。
「どうやら二階は病棟のようだな。」
木原が懐中電灯で辺りを照らしながら言った。
少し先に進むと、ナースステーションだったと思われる部屋があった。
この部屋もほとんど何もなかった。
「じゃあ病室を覗いてみるか。」
木原はそう言いながら、病室の一つを開けた。
中には何もなかった。
「ああ、私怖くなってきた。」
美保が言う。
「佳恵さん、もし悪霊がいたら教えてね。」
美保が怖がりながら言った。
「分かりました。」
それからも俺達は、二階の病室を順番に見ていった。
しかし何も無く、佳恵さんも悪霊がいるとは言わなかった。
「二階は何もないな。
三階へ行ってみるか。」
木原がそう言い、俺達は三階へやって来た。
「三階も病棟だな。」
俺は言った。
「この階からは、邪悪な気を感じます。」
佳恵さんが言う。
「じゃあこの階に悪霊がいるってことだな。」
木原が緊張した顔で言った。
「じゃあ順番に病室を開けていくぞ。」
木原はそう言いながら、一番近くにあった病室を開けた。
何も無い。
次の病室に行く。
ここも何も無い。
そうやって次々に病室を開けていった。
特に何も無く、最後の病室にやって来た。
「ここから邪悪な気を感じます。」
佳恵さんが言った。
「じゃあこの病室に悪霊がいるってことだな。」
木原がそう言い、病室を開けようとした。
「ちょっと待ってよ。」
美保が言った。
「どうした?」
俺が聞く。
「なんだから怖くなってきちゃった。」
「何だよ、怖気づいたのか。」
木原が笑いながら言った。
「だって、怖いものは怖いんだもん。」
ならどうしてここに来たのだと言いたい。
「木原君、その病室を開けるのは待って下さい。」
佳恵さんが言った。
「どうしたの?
佳恵さんまで怖くなってきたの?」
木原が言う。
「違います。」
「ならどうしたのさ?」
「この病室には、多分悪霊がいます。
だからこの病室を開けるのはやめておきませんか。」
「ここまで来て何を言ってるんだよ。」
木原が言う。
「もうこの病院に悪霊がいることは分かりました。
それでいいじゃないですか。
悪霊っていうのは、本当にたちが悪いんです。
もしとり憑かれたら、大変なことになりますよ。
だからここで引き返しましょう。」
俺も佳恵さんの意見に賛成だった。
「なあ、木原。
佳恵さんの言う通りだよ。
もういいだろう。
これ以上はやめておこう。」
「健太郎まで何を言ってるんだよ。」
すると美保が言った。
「私、悪霊にとり憑かれたくない。」
「野村までそんなことを言うのか。
じゃあいいよ。
お前達は帰れよ。
俺一人でこの病室を開けるからさ。」
木原が怒ったように言う。
「もうやめておきましょう、木原君。」
佳恵さんが言う。
「私は皆さんのことを心配して言っているんです。
だからもうやめておきましょう、ね。」
「佳恵さん・・・。」
そう言われて、木原は病室から離れた。
「佳恵さんがそこまで言うんなら、やめておくよ。」
木原は言った。
「それがいいです。
さあ、皆さん。
もう帰りましょう。」
佳恵さんがそう言った時だった。
病室の中からガタンと物音がした。
「何だ・・・?」
木原が病室のドアを見る。
木原の点けている懐中電灯がいきなり消えた。
そして次の瞬間、誰も触っていないのに、病室のドアが勝手に開いた。
「うわ、どうなってるんだ!」
驚く木原。
俺達は病室の中を見た。
窓から月明かりが射し込んでいる。
青白く照らされた部屋の中には、誰もいなかった。
「佳恵さん!
この部屋に悪霊はいるの?」
美保が聞いた。
「皆さん、逃げて下さい!
悪霊が出て来ました!」
佳恵さんが言った。
俺達はしばらく固まっていた。
そして見た。
月明かりで照らされた、さっきまで誰もいなかった部屋に、女性の姿が浮かび上がるのを。
「きゃあ!」
「うわあ!」
俺達は驚いた。
病室に現れた女性を見て、俺は怖いと思った。
その女性はまるで憎悪の化身のような顔をしていた。
以前木原にとり憑いた犬の霊より、邪悪な気を感じた。
「逃げよう!」
俺は言った。
その言葉を合図に、みんな病室の前から逃げ出した。
俺は走りながら後ろを振り返った。
するとその女性の霊が追って来ていた。
「早く逃げろ!」
俺は言った。
しかし階段の所で、美保が転んでしまった。
「痛い!」
転んだ美保が言う。
すると美保の後ろに、悪霊が迫って来た。
「美保さん、危ない!」
佳恵さんが咄嗟に美保の前に立ちはだかる。
悪霊は、佳恵さんに掴みかかってきた。
「美保さん、早く逃げて!」
佳恵さんが言う。
俺は転んだ美保を起こした。
「美保。
木原と一緒に先に逃げろ!」
「健太郎はどうするの!」
「いいから早く逃げろ!
木原!
美保を連れて行け!」
俺は木原に美保を預けた。
「逃げるぞ、野村!」
「でも健太郎が!」
「いいから早く逃げろ!」
俺は言った。
木原が美保を連れて逃げて行った。
悪霊は佳恵さんに掴みかかっている。
その顔は憎悪に満ちていた。
「死ね・・・・、みんな死ね・・・。」
悪霊が言う。
「健太郎君も早く逃げて!」
佳恵さんが叫ぶように言った。
「佳恵さんを置いて逃げられないよ!」
俺は佳恵さんの体を掴み、悪霊から引き離そうとした。
しかし悪霊の力はすごかった。
ぜんぜん佳恵さんを離そうとしない。
「健太郎君!
私のことはいいから早く逃げて!」
「嫌だよ!
佳恵さんを置いて行けないよ!」
俺は役に立つかもしれないと思って、紙に包んで塩をポケットの中に入れていた。
俺は塩を取り出し、それを掴んで悪霊に投げつけた。
一瞬だけ悪霊が怯んだ。
その隙に、俺は力いっぱい佳恵さんを引っぱった。
すると、なんとか佳恵さんの体は悪霊の手から離れた。
「早く逃げよう!」
俺は佳恵さんの手を掴んで走った。
後ろを振り向くと、悪霊が追って来ている。
俺は佳恵さんの手を掴んだまま、全力で出口を目指して走った。
そして病院の出口が見えた。
悪霊はすぐそこまで迫って来ている。
俺は佳恵さんとともに、病院の出口を走り出た。
振り返ってみると、もう悪霊は追って来なかった。
どうやら病院からは出られないらしい。
悪霊は病院の出口から、恨めしそうな目で俺達を見ていた。
「早くこの場所から離れよう。」
俺達は自転車に乗り、病院をあとにした。
「怖かったよお。」
美保が泣き声で言う。
「皆さん怪我はしていませんか?」
佳恵さんが聞く。
みんな大丈夫だと言った。
「ごめん、俺のせいで・・・。」
木原が言った。
「もう悪霊なんて見たくないな。」
俺が言うと、木原も美保も頷いた。
「皆さんが無事で本当によかった。」
佳恵さんが言った。
「佳恵さんは大丈夫?」
俺は聞いた。
「はい。
健太郎君が助けてくれたおかげで。」
佳恵さんは微笑んで言った。
「皆さん、あれが悪霊です。
もう悪霊なんかに関わるのはやめましょうね。」
木原と美保は頷いた。
心霊スポットに、確かに悪霊はいた。
それは思った以上に恐ろしいものだった。
俺はもう二度と悪霊なんて見たくないと思った。

                                 第十七話 完



幽霊ハイスクール 第十七話 悪霊が出た

  • 2010.11.16 Tuesday
  • 09:06
 学校の三時間目の授業が終わった休み時間、俺は木原と喋っていた。
「俺達って今までたくさんの霊を見てきたよなあ。」
木原が言う。
「そうだな。
色んな霊がいたな。」
「確かにな。
でもさ、とんでもない悪霊に出会ったことってないよな。」
「それはないな。」
今までたくさんの幽霊と出会ってきたが、とんでもない悪霊に出会ったことはない。
いや、一度だけ悪霊に出会ったことがある。
この前木原がとり憑かれた犬の霊だ。
しかしとんでもない悪霊という感じではなかった。
「なあ、健太郎。
悪霊って見てみたくないか?」
また木原が変なことを言い出した。
「俺はいいよ。
悪霊なんて見たくない。」
「なんだよ、つれないな。
実はさ・・・。」
木原が何か言おうとしたが、俺はその言葉を遮って言った。
「悪霊の出る心霊スポットがあるとか言うんじゃないだろうな。」
すると木原は笑った。
「よく分かったな。
実は悪霊の出るって噂の心霊スポットがあるんだよ。」
いつも思うのだが、こいつはそんな話をどこから仕入れてくるのだろう。
噂になっていると言うが、俺はそんな噂は聞いたことがない。
「それで、その心霊スポットに行ってみようとか言うんだろ。」
俺は言った。
「さすが健太郎。
俺の考えることがよく分かってる。」
俺はため息をついて言った。
「お前なあ、この前犬の霊にとり憑かれて、除霊してもらったことを忘れたのか。
そんな心霊スポットに行って、また悪い霊にとり憑かれたらどうするんだよ。」
「もしそうなったら、またあの霊能者のおばさんに除霊してもらえばいいじゃん。」
こいつは本当に楽観的である。
この前犬の霊にとり憑かれて、あんなに苦しんだっていうのに。
もうそんなことも忘れてしまったのだろうか。
「さっきも言ったけど、俺は悪霊なんて見たくない。」
「そう言うなよ。
その悪霊が出るっていう心霊スポットに行ってみようぜ。」
すると佳恵さんが言った。
「私はそれには反対です。」
「どうしてさ?」
木原が聞く。
「もしその心霊スポットに悪霊がいたら、ひどい目に遭うかもしれませんよ。
悪霊っていうのは本当にたちが悪いんです。
呪われたり、とり憑かれたりしたら、大変な目に遭いますよ。」
俺は佳恵さんの言うことに頷いた。
「その通りだ。
悪霊なんて関わらない方がいい。
それよりもうすぐ期末テストだろ。
心霊スポットなんかに行ってる暇があったら、勉強しろよって話だよ。」
「なんだよ、健太郎と佳恵さん二人してさ。
いいよ、分かったよ。
その心霊スポットには俺一人で行くよ。」
「やめとけって。」
「いいや、俺は行く。
行って本当に悪霊がいるかどうか確かめる。」
そこで四時間目の授業のチャイムが鳴った。
俺の席に来ていた木原は、自分の席に戻って行った。
四時間目の授業が始まった。
俺は小声で佳恵さんに話しかけた。
「木原のやつ、本当に一人で行くつもりかな?」
「そうみたいですね。」
「もし悪霊にとり憑かれたらどうするつもりなんだ。」
「もしそうなったら心配ですね。
私は木原君を説得して、心霊スポットに行くのをやめさせた方がいいと思います。」
「うん、俺もそう思う。
そして木原を説得する役目は、佳恵さんがいいと思う。」
「え、私ですか?」
「うん、木原は佳恵さんのことが好きなんだよ。
好きな人が説得すれば、木原も納得してくれるだろ。」
「そうでしょうか。
私なんかが説得して納得してくれるでしょうか。」
「俺が説得するより、佳恵さんが説得した方が効くと思う。」
「分かりました。
じゃあ昼休みに、木原君を説得してみます。」
そして四時間目の授業が終わり、木原が弁当を持って俺の席にやって来た。
ついでに美保もやって来た。
二人が俺の机に弁当を広げる。
俺は佳恵さんを見た。
「佳恵さん、説得をお願い。」
俺は言った。
佳恵さんは頷いた。
「木原君、本当に悪霊の出る心霊スポットに一人で行くつもりですか?」
佳恵さんが聞いた。
「なになに、悪霊の出る心霊スポットって。」
美保が興味津々という感じで聞いてくる。
「木原君が、悪霊の出る心霊スポットに一人で行くと言っているんです。」
佳恵さんは言った。
「えー、そんな所に一人で行くの?」
美保が聞く。
「そうだよ。
健太郎も誘ったんだけど、来ないって言うんだ。
だから俺一人で行くのさ。」
木原は弁当を食べながら言う。
「木原君、そんな場所に一人で行ったら危ないですよ。
もしまた悪い霊にとり憑かれたらどうするんですか。
そんな所に行くのはやめましょう、ね。」
「佳恵さんは俺を心配してくれてるの?」
木原が聞く。
「そうです。
もし木原君に何かあったら心配です。
だからその心霊スポットに行くのは考え直してもらえませんか。
私からのお願いです。」
木原は「うーん。」と唸った。
「佳恵さんからのお願いかあ。
どうしようかな。」
木原が迷っている。
あと一押しだ。
「木原君、そんな場所に行くのはやめましょう、ね。」
木原は迷っている。
佳恵さんの説得が効いているみたいだ。
「佳恵さんがそんなに心配してくれるなら・・・。」
木原が言った。
どうやら悪霊の出る心霊スポットに行くのを諦めてくれそうである。
すると美保が言った。
「私が一緒に行ってあげようか。」
何を言っているんだ美保は。
せっかく木原が諦めかけてくれているところなのに、邪魔するようなことを言わないでほしい。
「野村も一緒に来てくれるのか?」
「うん。
悪霊が出るって怖いけど、なんか面白そうじゃない。
一緒に行ってあげるよ。」
「そうか。
野村が一緒に来てくれるのか。
じゃあ行こうかな。」
「そんな、やめた方がいいです。」
佳恵さんが言う。
すると美保が言った。
「健太郎も来なよ。」
「何で俺が行かなきゃいけないんだよ。」
「だって私達友達でしょ。
私と木原が行くって言ってるんだよ。
健太郎も一緒に来なよ。」
俺は佳恵さんと顔を見合わせた。
「そうだよ。
野村もこう言ってるんだし、健太郎も来いよ。」
木原が言う。
俺と佳恵さんは顔を見合わせたまま、はあっとため息をついた。
「どうしても行くんですか?」
佳恵さんが聞く。
「うん、行く。」
木原は言った。
「健太郎君、私が説得しても無理みたいですよ。」
「なあ、木原。
本当に行くのか?」
「だから行くって言ってるだろ。」
「健太郎も来なよ。」
美保が言う。
「はあ、結局こうなるのか。」
俺はまたため息をついた。
「じゃあ健太郎も来るってことで決まりな。」
木原が言った。
「それで、その心霊スポットっていうのはどこにあるんだ?」
「学校から東に自転車で二十分ほど行った所に、廃墟になった病院があるんだよ。」
その場所なら俺も知っている。
確か十年ほど前に病院が別の場所に移転して、前の病院はそのままになっているのだ。
「行くのは夜がいいな。」
木原が言う。
「なんか怖いね。
廃墟になった病院に、夜行くなんて。」
美保が言う。
だったらやめておけばいいじゃないかと思った。
「みんなその廃墟の病院の場所は知ってるよな?」
木原が聞く。
「うん、知ってる。」
美保が言った。
「健太郎は?」
「知ってるよ。」
「よし、じゃあ今夜九時にその廃墟の病院に集合だ。」
「もう、どうなっても知りませんよ。」
佳恵さんが言う。
「大丈夫だって。
悪霊が出たら逃げたらいいんだよ。」
木原は笑いながら言った。
「もしとり憑かれたらどうするんだ?」
俺は聞いた。
「その時は霊能者のおばさんに除霊してもらおう。」
「あ、私会ってみたい。
その霊能者のおばさんに。」
美保が言う。
「関西弁のおばさんなんだよ。
もし悪霊にとり憑かれても、きっと除霊してくれるよ。」
木原が言う。
「じゃあ安心だね。」
美保は納得したように頷いた。
俺はやれやれと思いながら、弁当の梅干しを口の中に入れた。
酸っぱい味が広がる。
「本当にどうなっても知りませんよ。」
佳恵さんが、心配そうな顔で俺達を見ていた。

                                 第十七話 つづく

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