【Xファイルパロディ】疲れているのは君の方さ

  • 2017.04.13 Thursday
  • 16:59

JUGEMテーマ:自作小説

今日、俺はスカリーと結婚する。
まさかこんな日がやって来るとは思わなかった。
俺は何年も前からスカリーのハートを射止めようと頑張っていた。
キャサリンに餌をやり、彼女が好きそうなBL同人誌があればアマゾンで取り寄せ、休日だって何度も代わった。
それに脱げと言われれば脱いだし、。鞭で叩かれて笑えと言われれば笑った。
スキナーと一緒にスク水(女子用)でマンハッタンを走るという罰ゲームもこなした。
彼女の望むことは何でもやったし、彼女の好きなものは俺も好きになる努力をした。
その甲斐あっては、俺の部屋にはBL同人誌が溢れかえっている。
東京タワーとエッフェル塔、どっちが攻めでどっちが受けか?
そんな話題にもついていけるようになった。
しかしなかなか彼女は俺を愛してくれなかった。
同僚としては大事に想ってくれているらしいが、男女となると主人とペット。
それはそれで快感なのだが、やはり俺もそろそろ身を固めたい。
というわけで、三日前にプロポーズをした。
『スカリー、君の冷淡で知的な眼差しは俺の為にある。
天国へ旅立つまで、僕の隣にいてくれ。』
きっと断らられるだろうと思った。
しかし予想に反して『いいわよ』と頷いてくれた。
『私もそろそろ良い歳だしね。身を固めるのも悪くないわ。』
『本当か!まさかとは思うが、今君の頭に宇宙人のチップは・・・・、』
『それはあなたの方。脳ミソどころか、関節ごとに埋め込まれているんじゃない?』
『それは周知の事実さ。しかしな、まさか君が俺と結婚してくれるなんて・・・・、』
信じられない。
これは確実にXファイル扱いの事件だ。
しかしXファイルの捜査官は俺たちなわけで、これは実際に結婚して実証してみるしかあるまい。
『スカリー、君が欲しい。』
『嬉しいわ。でも今は足を舐めなくてもいいのよ。』
俺たちは婚約した。
そして三日後に式を挙げることになった。
なんというスピード婚!
明日世界が滅んでもおかしくない超常現象だが、これは現実だ。
俺は誓う。
必ず幸せにしてみせると。
スカリーは『期待してるわ』と微笑んだ。
ちなみにキャサリンとはスカリーの飼っている犬の名前である。

            *

「モルダー、いかしてるぞ。」
スキナーが裸に蝶ネクタイ姿で近づいてくる。
俺は「褒めてくれて嬉しいね」と肩を竦めた。
「まさかお前が彼女と結婚とはなあ。」
「僕もびっくりさ。まだ宇宙人と遭遇する方が現実味があるね。」
「まったくだ。とにかく今日は君ら二人が主役だ。心から祝福させてもらうよ。」
そう言って新郎の控室を出ていった。
背中を向けた時、ブリーフの後ろが茶ばんでいたのは見ないことにした。
「ふう・・・・あと30分で式が始まる。」
俺は鏡の前に立ち、キリっと顔を作った。
「スカリー、君を愛している。きっと世界一の夫婦になれるはずさ。」
世間では「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマが流行っているが、俺はその逆だ。
「恥を求めて正面に立つ」
スカリーのせいですっかりドMになってしまったので、恥はご褒美でしかない。
今日、彼女はどんな風に俺を罵るだろうか?
蝶ネクタイを締めながら、ご機嫌に鼻歌を歌った。
するとその時、慌ててスキナーが戻ってきた。
「どうしたスキナー。そんなの焦ると持病のいぼ痔が再発するぞ。最悪は痔ろうという恐ろしい病に罹って・・・・、」
「大変だ!スカリーがさらわれた!」
「なんだって!?」
「さっきまで控室にいたんだ!そこへ宇宙人みたいな男が現れて、彼女を連れ去った!」
「ホーリーシット!」
蝶ネクタイを叩きつけ、スカリーの控室へ走る。
スキナーの言う通り、彼女は消え去っていた。
窓ガラスが割れているので、あそこから侵入してきたんだろう。
「なんてこった・・・・ガッデム!」
宇宙人め・・・・普段はまったく現れないクセに、どうしてこんな日に限って・・・・・。
『あなた疲れてるのよ』
今日ばかりはスカリーもそんなセリフは吐けまい。
というより吐きたくてもここにいない。
「スキナー!すぐに付近一帯を封鎖してくれ!それと指名手配を!」
「無駄だ。奴はUFOに乗って逃げたからな。」
「なんだって!」
「コテコテのアダムスキー型だ。外装は段ボールだったな。」
「それでよく飛ぶもんだ。UFOはどっちへ飛んでった?」
「俺たちのオフィスがある方だ。」
「じゃあすぐに行くぞ!」
「待て!私は裸に蝶ネクタイだ!せめてブリーフを・・・・、」
「いつも裸だから問題ない!」
「ならせめて靴下を・・・・、」
俺たちは一目散にオフィスまで向かう。
身体が熱くなってきて、タキシードを脱ぎ捨てた。
白いシャツも脱ぎ捨てて、けものフレンズのTシャツが露わになる。
スカリーに合わせてBL同人誌を嗜んでいたが、やはり俺はノーマルの方がいい。
ちなみにパンツはアイマスだ。
ラブライブのキャラが描かれた痛パトカーを走らせて、オフィスまでやって来る。
すると入り口のドアの傍に、段ボールのUFOが停まっていた。
「スカリー!」
俺は段ボールを破壊し、彼女を助けようとする。
しかし中には誰もいなかった。
「モルダー・・・どうだ?」
スキナーが裸に蝶ネクタイ、そして艦これの長門がプリントされた靴下だけで走ってくる。
しかし通りがかった警官に見つかって、手錠を掛けられていた。
「コラ!何をする!私はFBIの人間だぞ!」
「はいはい、続きは署で聞くから。」
スキナーは連れて行かれた。
「なんてこった、仲間が一人減ってしまった。まあいない方がいいが。」
俺はUFOの中を調べる。
そしてとんでもない秘密に気づいた。
「これはUFOじゃない!巨大なドローンだ!」
よく見ると、UFOの上ににはプロペラが付いていた。
中にはコントローラーもある。
「ホーリーシット!あのハゲ親父め!何がUFOだ!」
あれでよくXファイルの長官が務まるものだ。
「しかしスカリーがこれで連れ去られたのは間違いなさそうだ。」
ドローンの中にはBL同人誌が落ちていた。
どうやら式の直前までこんな物を呼んでいたらしい。
相変わらず図太いというか、彼女らしいというか。
「こんな事に感心している場合じゃない!」
俺はオフィスに駆け込む。
受付にはジェフという太った元刑事がいた。
こいつはXファイルの捜査官であったが、食ってばかりで役に立たないので、スカリーがここへ蹴飛ばした。
今は一般職員として受付にいる。
ハンバーガーとチキンを食いながら。
「ようモルダー、式はどうした?披露宴の余り物があったらタッパに詰めて持ってきてく・・・・ぶべしッ!」
「黙れ!今はそれどころじゃないんだよ!」
悪玉コレステロールの製造機を蹴り飛ばし、エレベーターのボタンを押す。
しかし降りてくる時間がもどかしくて、階段を使った。
ここはオフィスといえども、二階建ての借家だ。
よくよく考えればエレベーターなど必要ないのだが、どうして付いているのだろう?
余計なことを考えながら、二階へ駆けあがる。
そしてスカリー専用の部屋の前まで来ると、「いるか!?」とノックした。
「スカリー!いたら返事してくれ!」
・・・・返事はない。
ならば仕事場だろう。
スカリーの部屋より小さな仕事場へ駆け込むと、彼女はいた。
「スカリー!」
純白のウェディングドレスを着たスカリーが倒れている。
彼女は手足を縛れて、口には猿ぐつわを嚙まされていた。
「な・・・・なんて仕打ちを。」
怒りと殺意が湧き上がる。
そして彼女の傍に立つ、一人の男を睨み付けた。
「貴様が宇宙人か!?」
男は覆面を被り、メキシコのプロレスラー、ルチャドールのような恰好をしていた。
胸にはタコみたいな火星人のイラストがプリントしてある。
そして背は俺より低いが、筋肉はムキムキだ。
「お前がモルダーか?」
低い声で尋ねてくる。
「そうだ。お前は何者だ?宇宙人か?」
「違う。私は元サッカー選手のピオレという者だ。」
「宇宙人じゃないのか!なら胸の火星人のイラストはいったい・・・・、」
「この格好はただの趣味だ。そして今は同人作家をやっている。」
「同人作家・・・・BLとかそういうのか?」
「そうだ。そしてここにいる彼女は、私の熱烈なファンなのだ。」
そう言ってスカリーを見つめる。
「確かにスカリーはBLを嗜む。しかしお前のような奴のファンだとは・・・・、」
「本当のことだ。実は一ケ月前に、私のフェイスブックにお友達申請があったのだ。スカリーからな。」
「そんな!気高い彼女が、貴様のような男に・・・・、」
「私たちは意気投合し、夜遅くまでチャットする中になった。」
「そんな・・・・俺なんか100回に一回くらいしかLINEが返ってこないのに・・・・既読無視の嵐なんだぞ!」
「ふふふ・・・・彼女は私のファンだからな。」
男は不敵に笑う。
「実は二週間前、スカリーとデートをした。」
「なッ・・・・・、」
「そしてBL同人について熱く語り合ううちに、私は彼女に惚れた。」
「ほ、惚れッ・・・・・、」
「思い切って愛を告白したが、撃沈したよ。」
「当たり前だ!スカリーが貴様のような男と付き合うわけがない!」
「いいや、そうじゃない。スカリーは熱心な私のファンなのだ。
だから男女の関係になることは出来ないと言った。
尊敬するクリエイターとそんな関係になってしまったら、もう純粋な気持ちであなたの作品を読めないからと。」
「どこのラブロマンスの言い訳だ!彼女がそんなこと・・・・、」
そう言いかけた時、スカリーは自力で猿ぐつわを食い千切った。
凄まじい咬合筋だ。
「モルダー、今のは本当のことよ。」
「スカリー・・・・君はこんな男を尊敬していたというのか?」
「だって最高の作品を生み出すアーティストだもの。でもだからこそ男女の関係にはなれない。
なれないけど・・・・彼はしつこかった。
これが他の男なら、ケツを蹴り上げて玉を捻って、毛を毟って縛り上げて、マンハッタンのど真ん中に張り付けてやるところよ。
だけど彼にそんなことは出来ない。私の尊敬する偉大な作家だもの。
だから・・・・・、」
スカリーは申し訳なさそうに首を振る。
「どうした?まさかそいつに何かされたか?」
「そうじゃないの。彼に私のことを諦めてもらう為に・・・・・あなたを利用してしまった。」
「利用?」
「私から話そう。」
ピオレが前に出る。
ピクピクと胸筋を動かして、もっこりしたあそこを見せつけた。
「スカリーはな、お前と結婚する気など無いということだ。」
「な・・・どういうことだ!?」
「彼女はお前と結婚すると嘘をつくことで、俺に諦めさせようとしたのだ。」
「嘘・・・・・だと・・・。」
目の前が真っ白になる。
けものフレンズのTシャツを握りしめながら、「そんな・・・」と崩れ落ちた。
「ふははは!お前は利用されたのだよ!」
「・・・・・・・。」
「最初は私も焦った。いきなり結婚するなんて言い出すもんだからな。
しかし相手の顔写真を見せられて、すぐに嘘だと分かった。
スカリーのような知的で高潔な女性が、貴様のような重度のアニオタと結婚するわけがないとな。」
「なんで俺の写真を見ただけで、アニオタなんて分かるんだ!?」
「背景に写っていたお前のコレクションだよ。」
「コレクション?」
「千反田えるにブラックマジシャンガール。東方の魔理沙に艦これの長門。
まどマギのほむらに、フレッシュプリキュアのイース様。
古いものだとクリーミーマミやキューティーハニーもあったな。
それらのフィギュアやポスターが所狭しと並んでいたぞ!」
「・・・・今は増えてる。レモンマジシャンガールとアップルマジシャンガールのフィギュアも買ったからな。」
「あとなぜかビリー・ヘリントンとチャック・ノリスの合成写真があったな。
おそらくこれはスカリーの影響だろう。」
「俺はノンケだ。マッチョな男の濡れ場に興味はない。」
「とにかくだ!そんな貴様はスカリーの結婚相手に相応しくない!
そして・・・・俺と結婚してもらう為に、彼女をさらうことにしたわけだ。」
ピオレは懐から一体のフィギュアを取り出す。
それは俺の部屋にあった、限定販売のラムちゃんのフィギュアだった。
「抵抗するのなら、この可愛い彼女が犠牲になるぞ?」
そう言ってグっと握りしめる。
「やめろおおおおお!」
「ふはは!情けない顔だな。そおれ!」
「うおおおおおお!やめてくれええええええ!」
「ふははは!泣け!喚け!そして悔いろ!
例え騙されていたとしても、私のスカリーと結婚などしようとしたことを。」
ピオレは俺の嫁をいじめる。
俺はただ叫ぶしかなかった。
なかったが・・・・・、
「・・・・違うな、俺の嫁はスカリーただ一人。彼女の為なら・・・・彼女の為ならすべてのコレクションを捨てても構わない!」
「馬鹿な!こいつがどうってもいいのか?」
「スカリーには代えられない。彼女は俺の相棒だからな。一心同体、一蓮托生なのさ!」
ダッシュして体当たりをかます。
しかしピオレはビクともしない。
それどころか俺を持ち上げ、床に叩きつけた。
「ぐはあ!」
「馬鹿め。伊達にマッチョなわけではないぞ。」
「クソ・・・・今日は式だから銃は持っていない・・・・。せめて警棒くらいあれば・・・・ぐはあ!」
「ほおら、苦しめ!己の弱さを恥じろ!」
ピオレはガンガン蹴ってくる。
俺はただ耐えるしかなかった。
しかしその時、「そこまでよ」とスカリーが言った。
「あなたを逮捕するわ。」
顔を上げると、スカリーが銃を突き付けていた。
どうやら自力で手足を解いたらしい。
強いにも程があるだろう。
「な、何をする!」
慌てるピオレ。
スカリーは「ふ」っと笑った。
「あなたは一流のクリエイターでしょ?ならどうして彼のコレクションにそんなことをするの?」
「なに?」
「趣味は違えど、私も彼と同じで重度のオタクよ。だから彼の気持ちが分かる。
大勢の嫁たちをどれだけ愛しているか。」
そう言って「ピオレ、あなたを誘拐、及び暴行の現行犯で逮捕する」と手錠を掛けた。
「なッ・・・・、」
「暴れないことね。本当に風穴が空くわよ?」
眉間に銃を突きつけると、ピオレは「スカリー・・・」と首を振った。
「あんなアニオタと結婚しないでくれ。私は君のことが・・・・、」
「私もあなたのことは好きよ。ただしクリエイターとしてね。異性として見たことは一度もないわ。」
「そんな・・・・、」
「モルダーは私の大事な相棒。今までも、そしてこれからも。だから・・・これ以上傷つけるなら、容赦しないわ。」
カチャリと撃鉄を引いて、殺気の籠った目で睨む。
するとそこへスキナーがやって来た。
「クソ!あの警官め・・・・俺を誰だと思ってやがるんだ。」
ブツブツ言いながら、「ぬお!」と叫ぶ。
「スカリー!無事か?」
「ええ。」
「そいつが犯人だな?」
「連行してくれるかしら?」
「もちろんだ!とっとと来い!」
裸に蝶ネクタイ、艦これの長門の靴下を履いた姿で、マッチョなピオレを連行していく。
「スカリー・・・・私は君を愛して・・・・、」
「しつこい。」
スカリーはバン!と銃を撃つ。
ピオレは「ひい!」と腰を抜かし、スキナーに引っ張らていった。
「一件落着ね。」
そう言って銃口に息を吹きかける。
「モルダー、平気?」
「ああ・・・・いつも君の蹴りを喰らってるからな。あれくらいなんてことない。」
俺は立ち上がり、「君が無事でよかった」と頷いた。
「さらわれたと聞いた時は、生きた心地がしなかったよ。」
「モルダー・・・・ごめんなさい。あなたを騙してしまって・・・、」
「いいのさ。君が無事だった、俺はそれでいいさ。」
そう言って肩を竦めると、彼女は小さく笑った。
「あなたって本当にお人好しね。呆れるくらい。」
「そういう性分さ。」
「怒鳴るとかビンタするとか、普通はそうするでしょうに・・・・・。」
呆れたように言って、俺に顔を近づける。
「モルダー、あなたは最高の相棒よ。今までも、そしてこれからも。」
そう言って唇を近づける。
しかし俺は「よそう」とその唇を止めた。
「そんなの君らしくない。」
「モルダー・・・・。私はあなたを騙してしまった。だから・・・・、」
「俺の知ってる君は、いつだって毅然としてる。気持ちは嬉しいが、お詫びでキスはしてほしくない。
だから・・・・・その、なんだ。とりあえず事件が解決してよかった。」
「・・・・モルダー。」
切な気なその目、その表情。
俺の股間は膨らむが、今は欲情するシーンではないだろう。
「全て水に流すさ。だからこれからも俺の相棒でいてくれるかい?」
「もちろんよ。私たちはXファイル捜査官、唯一無二の相棒よ。死ぬまでそれは変わらない。」
「それが聞けただけでも充分さ。」
そう、俺たちは最高の相棒だ。
これまでも、これからも。
「とりあえず会場に戻ろう。みんなに君の無事を報告しないと。」
「ピオレのドローンがあるわ。あれに乗って行きましょう。」
俺たちはオフィスを出て、狭いドローンに乗り込む。
「なあスカリー、二つ質問がある。」
「なに?」
「ウェディングドレス姿なのに、どうして銃や手錠を持っていたんだ?」
「ああ、それはあなたが襲いかかってきた時の為。新婚初夜だから、当然そういうことをしたがると思って。」
「なら君を抱こうとしていたら・・・・、」
「今頃種無しね。」
そう言って銃を向ける。
「なるほど、君らしい。で、二つ目の質問だが、ピオレは何者なんだ?
あのイカれよう・・・・ただの同人作家とは思えないが?」
「さあね、宇宙人なんじゃない。」
「ほんとに?」
「モルダーに合わせてみただけ。あなたはどう思ってるの?」
「奴は間違いなく宇宙人さ。僕の勘がそう言ってるんだ。」
「モルダー、あなた疲れてるのよ。」
「そのセリフが聞けて嬉しいよ。でも・・・・、」
「でも?」
「・・・・いや、なんでもないさ。」
コントローラーを掴み、ドローンを飛ばす。
《スカリー、疲れているのは君の方さ。なぜならこの狭いドローンの中、もっこりした俺の息子が、ずっと君の腰に当たっている。
なのに鉄拳も蹴りも飛んでこないなんて、君らしくないじゃないか。》
きっと俺を騙したことに負い目を感じているのだろう。
硬くなった息子に怒らないのは、明らかに俺へのサービス。
こんな気遣いをするなんて、やっぱり今日の君は疲れているんだろう。
スカリーは俺を見つめて、ニコリと微笑む。
《これは・・・・案外本気で俺のことを・・・・・。》
ゴクリと喉が鳴り、さらに息子が天を向く。
ちょっとだけ腰を動かしてみると、「シバくわよ?」と睨まれた。
「種無しになりたい?」
そう言って銃を向けられる。
「君と一晩過ごせるなら、それも悪くないかも。」
「ま、いつかはね。」
不敵な目をしながら、色っぽく笑う。
果たしてどこまで本気か分からないが、俺の息子はますます元気になった。
結婚は無理だったが、この先も俺たちが良きパートナーであることは変わらない。
お姫様抱っこのようにスカリーを抱えながら、空を飛んでいった。

【読み切り】一つしかないペンダント

  • 2016.07.23 Saturday
  • 09:51

JUGEMテーマ:自作小説

日に日に彼がおかしくなっていくんです。
・・・・・ええ、そうです。
なんかこう・・・心ここにあらずって感じで。
仕事も辞めてしまって、友達とも会わなくなって、最近じゃ家族とも距離を置いているんです。
唯一私にだけ普通に接してくれるんですけどね。
先生、これってやっぱり病気ですよね?
だって仕事も友達も捨てるなんておかしいじゃないですか。
前はすごく明るい性格だったんですよ。
そりゃ見た目通りあまり社交的じゃないけど、でも今みたいに暗い人じゃなかったんです。
ねえ先生、これってやっぱり病気ですよね?
・・・・・え?今の彼を否定するなって?
どうしてですか?
だってこんなに暗い人になっちゃったんですよ。
最近じゃ閉店前のスーパーに行って、じろじろお客さんを観察してるんです。
頭の禿げたおじさんを指さして、「あれ、俺と似てるね」なんて言って。
全然似てないんですよ。だって彼はカッコいいのに。
やっぱり変です、最近の彼・・・・・。
この胸のペンダントをくれた時の彼はすごく優しかったのにな。

          *

先生、俺ね、もうじき死のうと思ってるんですけど、その前にやり残したことがあるんです。
・・・・はい?そうです、今日は俺一人だけです。
ああ、アイツとは別れました。
ていうかフラれたんですよ、もうアンタみたいな変人とは付き合えないって。
まあ遅かれ早かれこうなると思ってたんですよ。
前からちょくちょく元カレと会ってたみたいだし。
あ、でもこのペンダントだけは持ってるんです。
これ、おそろいで買ったやつなんですよ。
これだけは気に入ってるんで。
ていうかそんな事はどうでもいいんです。
俺ね、すごい事に気づいたんです。
この世には二種類の人間がいて、生きてる人間と死んでる人間がいるんですよ。
でね、死んでる方の人間がよく喋りかけてくるんですよ。
最近なんか特に。
だってほら、この前彼女と別れたから。
まあアイツも死んでる人間なんだけど、でも別れた途端に別の死んでる人間に付き合ってくれって言われて。
だからね、一度だけソイツと付き合ってやろうと思ってるんです。
俺が死ぬのはそれからで。
・・・・ん?どうして死にたいのかって?
だって先生、死んでる方が人間は楽じゃないですか。
働かなくていいし、これ以上死ぬこともないし。
ふわふわその辺うろついてりゃいいんですから。
食べなくても大丈夫だし、どこへでも行けるし。
でもね、別れたアイツは言うんですよ。
死んでるのはアンタの方だって。
馬鹿ですよね、アイツ。
俺はまだ生きてるのに。
じゃあ先生、俺、ちょっと告ってきた死んでる女と付き合ってきます。
多分二度とここには来ないだろうけど、先生も元気で。
          *

先生、私アイツと別れたんですよ。
だってね、そろそろ現実見なきゃと思って。
死人とは結婚も出来ないし、子供だって産めないし。
今の彼はすごく優しくて、頼りになるんです。
でもね、前の彼がちょくちょく会いに来るんですよ。
アイツ・・・もうお前とは会わないって言ったクセに。
今でも昔のペンダントなんか身に付けちゃって。
まあ私もこれだけは着けてるから人のこと言えないけど。
でね、先生に聞きたいことがあるんです。
今回の彼氏はどうですか?
すごく良い人だと思うんですけど、先生はどう思います?
・・・・・・そうですか。
やっぱりこの先上手くいかないんですね、私たち。
・・・分かってるんです。今の彼も死人だって。
でも私、死んだ人しか好きになれないんです。
ねえ先生、今度は私が病気になっちゃったんでしょうか?
やっぱり薬とか飲んだ方がいいんですかね・・・・。

          *

・・・・・先生、アイツはもう本当に俺のことを必要としてないみたいです。
俺は死人だから、さっさとあの世へ行けって・・・・。
・・・・ええ、死ぬつもりでしたよ、俺は。
告ってきた死人の女と付き合ってね。
でもアイツが邪魔してくるんですよ。
そんな女はアンタに似合わないって。
無理矢理別れさせられました。
はあ・・・・なんなんだよアイツ。
別れたクセに、どうして人の恋路に首突っ込んでくるんだろ?
・・・・はい?
このペンダントですか?
そうですそうです!お気に入りなんですよ!
アイツとおそろいのを買って・・・・・・・え?
それはおそろいじゃないって?
一つしかないペンダントだって?
やだなあ先生、これはアイツとおそろいなんですよ。
・・・・そんなことないです。
これは俺が買ったやつなんです。アイツとおそろいなんです。
嘘言わないで下さい。

          *

先生・・・・私どうしていいか分からないんです。
新しい彼とも上手くいかなくなって、だから別れちゃって・・・・。
それでね、前の彼がヨリを戻さないかって。
でも彼って死人じゃないですか。
だから結婚も出来ないし、子供も産めないし・・・・。
生きてる人間ならヨリを戻してもよかったんですけどね。
・・・・・このペンダント?
ええ、彼とおそろいですよ。
・・・・やだなあ先生、これは彼が買ってくれたやつなんですよ。
どうして先生がプレゼントしてくれたことになってるんですか?
しかもこのペンダントは一つしかないなんて。
・・・・何を言ってるんですか?
これは先生の亡くなった奥さんの形見で、特注品だから一つしかないって?
馬鹿なこと言わないで下さい。
これは彼とおそろいなんです。

          *

先生・・・・最近頭がボーっとするんです。
ふわっと意識が遠のくような・・・・。
でも俺が弱っていくと、アイツは元気になっていくんですよ。
これってもしかして、アイツに精気を吸い取られてるんですかね?
死人と一緒にいるから、俺のエネルギーとかが吸われてるんじゃ・・・・。
・・・・え?元気がないのは寝てないからだって?
いや、寝てますよ俺は。
・・・・彼女が起きてるから寝てないだろうって?
いや、意味が分からないです。
アイツが起きてても、俺は寝てますよ。
だって毎回毎回セックスするわけじゃないし。
ああ、それとね、このペンダントは俺が買ったやつですから。
アイツも言ってましたよ、先生が変なこと言うって。
・・・・・・はい?
どうして先生がこれを俺に渡したのか、よく思い出せって?
だから意味が分からないです。
これ自分で買ったやつだし。
・・・・・ん?これ先生の奥さんの写真すか?
ずいぶん美人ですね。
確か何年も前に亡くなったんですよね。
もったいないなあ・・・こんな美人なのに。
・・・・・あれ?
ねえ先生、奥さんの胸元、俺たちと同じペンダントが着いてる。
・・・・ははあ、さては先生も奥さんとおそろいで買ったんですね。
俺たち似た者同士じゃないですか。
はははは。

            *

先生・・・・私ね、最近すごく調子が悪いんです。
ちゃんと寝てるんですけど、全然寝てないみたいに疲れるんですよ。
これって彼のことで精神的に参ってるんですかね?
・・・・・それは寝てないからって?
やだなあ先生、私はちゃんと寝てますよ。
・・・・うん、寝てます。寝てますよ・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
いや、だからね先生、アイツは俺とヨリを戻したいのかどうか、はっきりしてほしいんですよ。
死人だから嫌とか言いつつ、でも俺がいなきゃダメみたいな言い方したり。
もうね、はっきりしてほしいっつうか・・・、
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
先生・・・・やっぱり私ダメです・・・・。
体調が悪いし、それに彼のことでいっぱい悩んでて・・・・・。
もう身体も心も限界っていうか・・・・、
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あの先生・・・・・俺・・・・もう・・・・死にそうです・・・・。
めちゃ変なんですよ・・・・・なんか・・・・意識が・・・・遠のくっていうより・・・・消えていきそう・・・・、
・・・・ペンダント・・・・・これ・・・・そうなんすね・・・・。
これって・・・・やっぱり先生の・・・・奥さんの・・・・、
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
嫌だあ・・・・先生・・・・私・・・・思い出しちゃった・・・・・。
このペンダント・・・・一つしかないやつだ・・・・。
先生が・・・・迷わないようにって・・・・くれた・・・・・。
世界で一つしかないから・・・・別の人間が・・・・持ってるはずのない物だって・・・・。
だから・・・・これ・・・・彼と・・・・・おそろいじゃ・・・・ない・・・・・。
これは・・・・・彼と・・・・私で・・・・二人で・・・・一つの物を・・・・・。
先生・・・・・私・・・・どうなるんですか・・・・・?
彼は・・・・・どうなって・・・・・・、
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。

            *

退院おめでとう。
長い治療だったけど、ようやく終わりを迎えることが出来た。
これからは迷うこともないだろう。
でももしもの時の為に、そのペンダントは預けておくよ。
もしまた自分ではない人間の声が聴こえたら、そのペンダントを見て思い出せばいい。
自分は一人しかいないんだってことを。
・・・・・・・・・・・。
・・・・そうかい。
そのペンダントはおそろいだと言うんだね。
残念だ・・・・今回こそは上手くいくと思ったのに。
・・・・ああ、話を聞くよ。
とりあえず中へ入ろうか。
またしばらくここで生活することになるだろうからね。
でも僕は信じてるよ、いつか君が本当の自分を取り戻してくれると。
それまで一緒に頑張ろう。

 

逆さ鳥居

  • 2016.07.22 Friday
  • 13:11

JUGEMテーマ:自作小説

寂れた神社がある。
田舎の集落の奥まった所に、ひっそりと建っている。
鳥居は立派で、春になると桜が咲く。
秋には紅葉も見られるので、彩のある季節だけはちらほらとアマチュアカメラマンがやって来る。
この神社、寂れた以外は特に変わった所はない。
しかし一つだけ他の神社と違う所があった。
それは鳥居が逆さまになっている場所があるのだ。
入り口には普通の鳥居がある。
その奥に階段が続き、本殿へと伸びている。
境内には小さな社が二つあって、落石で割れた陶器製の狛犬が座っている。
本殿の前には鐘がぶら下がっていて、その下には賽銭箱、そして社の奥には御神体がある。
どこを見ても逆さまになって鳥居などない。
しかしある手順を踏むと現れるのだ。
まず鳥居を潜り、階段を上る。
そして本殿で参拝し、その後狛犬にも手を合わせる。
そして鳥居の前まで戻り、パンパンと手を叩いてから外に出る。
外に出たら、今度は前を向いたまま鳥居の中へ戻る。
それから十秒数えて、またパンパンと手を叩く。
そうしてから後ろを振り向くと、そこには入り口とは別の鳥居が現れるのだ。
その鳥居は上下が逆さまになっていて、通称逆さ鳥居と呼ばれる。
この鳥居、潜るのには覚悟がいる。
なぜならこの鳥居を潜れば、生きて帰れる保証はないからだ。
神社には二つの顔があって、一つは温厚な和魂(にぎみたま)、そしてもう一つは気性の荒い荒魂(あらみたま)である。
普段私たちが知っている神社の顔は、和魂の方だ。
境内には静かな空気が漂い、賽銭を入れて参拝をする。
この時、願い事をすれば神様が叶えてくれることもある。ごくたまにだけど。
絵馬なんかも願い事の儀式の一つだし、和魂の顔をした神社はとても優しい空間なのだ。
しかし逆さ鳥居を潜ると、荒魂の神社に変わる。
例え昼でもあっても、辺りは暗く染まる。
境内には黒い影が行き来して、社の鐘がカラカラと一人でに鳴る。
本殿では扉の奥の御神体がガタガタと揺れて、こんな警告をしてくる。
『すぐに立ち去れ』
その声は腹に響くほど重く、すぐにこの場から逃げ出したくなるほどだ。
荒魂の神社というのは、優しい空間ではない。
今この空間は、人が入ってはいけない場所になっているからだ。
神様から『立ち去れ』と言われたら、素直に立ち去った方がいい。
その場に留まれば、どういう災いを受けるか分からないのだから。
荒魂の神社から出るには、もう一度鳥居を潜らなければいけない。
しかし入り口の鳥居は逆さになっていて、ここを通っても外に出ることは出来ない。
なぜなら外に出ても、その先もまた同じ神社に繋がるからだ。
荒魂の神社から出たいなら、ここへ入ってきた時と同じような手順を踏まなければならない。
そうすれば正しい向きの鳥居が現れ、和魂の神社に出ることが出来る。
しかしそれはかなり難しいことだ。
なぜなら神社の中をうろつく黒い影が邪魔をしてくるからだ。
正しい鳥居を呼び出す為の儀式を行っていると、わらわらと群がって来る。
大人、子供、男、女、若者、老人、中には外国人もいる。
あらゆる人間が黒い影となり、身体に纏わりついて来るのだ。
『行かないで』
『一緒にいよう』
『慣れれば楽しいぞ』
『元の世界に戻って何がある?』
『夢も希望もないんでしょ?』
『友達も恋人もいないんでしょ?』
『いるって?それはあんたが勝手にそう思ってるだけ。』
『みんな君のこと鬱陶しがってるよ。』
あれこれと理屈を並べて邪魔をしてくる。
それを無視していると、今度は力づくで止めようとしてくる。
手足にしがみつき、胴体にしがみつき、鳥居の前に立ちはだかって、外へ出すまいとする。
それにも負けず、正しい鳥居を潜ることが出来たなら、和魂の神社に戻れるだろう。
しかし少しでも迷いを見せると、すぐさま黒い影に乗っ取られる。
意識を奪われ、次に目を開けた時には・・・・・、
黒い影はこうして増えて行く。
しかし永遠にここにいられるわけではない。
なぜならここは荒魂の神社。
人が来てはいけない場所。
本殿の奥でカタカタと鳴っている御神体から、とうとうお怒りになった神様が飛び出して来るだろう。
それは魚のような、トカゲのような、しかし人も混じったような姿をしている。
ぬるんとした舌を伸ばし、一瞬で黒い影たちを飲み込んでしまう。
そして口の中をもごもごさせて、ぺっと吐き出す。
黒い影たちは一つの塊になり、ある時はゲジゲジに、ある時はムカデに、またある時はゴキブリにされてしまう。
虫になれば、和魂と荒魂の両方の神社を行き来出来るようになる。
いつでもここから抜け出せるし、また入ることも出来る。
ただし注意がいる。
和魂の神社には人がやって来るからだ。
虫となった人間は助けを求めて近づくだろう。
しかし人間は醜い虫を嫌う。
大きな大きな人間の足に踏み潰され、そのまま土に還ることになるだろう。
生き延びたいのなら、荒魂の神社を出てはいけない。
虫となった人間は、逆さ鳥居を潜てっても、もう人間には戻れないのだから。
神社には二つの顔がある。
もし逆さまになった鳥居を見つけても、決して潜らない方がいい。

 

【読切】 山下清は間違いなく最高の画家さ 【あなた疲れてるのよ】

  • 2014.08.06 Wednesday
  • 14:37
「あなた疲れてるのよ。」
これは俺の相棒である、スカリー捜査官の名言だ。
彼女はいつでも冷静沈着で、馬鹿な俺の言動を窘めてくれる。
それはとてもありがたいことなのだが、時として煩わしく感じることもある。
今・・・・俺の目の前には一人の画家がいた。
その名は山下清。萌えの国、クールジャパンにて最高の賞賛を得る画家だ。
彼はアメリカの風景を描く為、ビート版一つで太平洋を渡ってきた。
その体力は俺を驚かせたが、それよりももっと驚くべくことがあった。
彼の得意とする絵は、紙を細かく千切って貼り付ける千切り絵だと聞いていた。
しかしその情報は古かったらしい。
ミスター山下は、俺のデスクに座ってパソコンをいじっている。
そしてお絵かきソフトとペンタブを使って、『東方』と『艦これ』の絵を描いているのだ。
その腕前は見事なもので、ヤフオクに出してすぐに完売した。
しかも最高で4億の値がついたのだ。
彼は一瞬にして金持ちになったが、ニューヨークじゅうのコンビニからおにぎりを買占め、無一文になってしまった。
周りは彼のことを馬鹿にしたが、俺はそうは思わない。
彼こそはクールジャパンを代表する絵描きであり、人類の宝である。
だからまた絵を描いてもらう為に、俺の家に招いたというわけだ。
俺はキッチンで特大のおにぎりを握り、中にサーモンとプリングルスを入れてやった。
「ほら、ミスター山下。君の大好きなおにぎりだ。」
「お、おおおお、お、お、おおお、お、おおお・・・・・おにりぎなんだな!」
「見れば分かるだろう?さあ、たんと食べて絵を描くんだ。俺はキャサリンに餌をやりに行くから、ちょっと家を空けるがな。」
ミスター山下はおにぎりをほおばり、「う、うう、うう、う、う、うう・・・・美味いんだな!」と感激していた。
「ふふふ、素直な男だ。帰りにポプラへ寄って、海賊おにぎりを買ってきてやるか。ついでに艦これのフィギュアも予約しなければな。こっちは俺の分だが。」
靴を履いてドアを開け、わずか二秒で10キログラムのおにぎりを食べた山下を振り返る。
「それじゃちょっと留守番を頼むよ。」
「ぺ、ペンタブにも慣れてきたんだな。次はタッチパネルにしてほしいんだな。」
「オーケイ、帰りにヨドバシに寄って来よう。ポイントがたくさん溜まってるから買えるはずさ。」
俺は手を振って家を後にした。そして愛車のジャガーに乗り込むと、けたたましくケータイが鳴った。
「ん?これはスカリーじゃないか。確か着信拒否にされていたはずなのに。」
最近スカリーと喧嘩をしてしまい、またしても着信拒否にされていた。
ラインは既読無視されるし、ブログには俺への不満がぶちまけられていた。
『ファック!あの宇宙人マニアめ!次に仕事でヘマをしたら、亀甲縛りにしてバイカル湖に沈めてやるわ!』
そんな風に書いて怒っていたはずなのに、どうして向こうから電話が・・・・?
「・・・・は!もしかしてUFOにさらわれたのか?そうだ、きっと間違いない!待ってろよスカリー!」
スカリーは宇宙人にさらわれた。僕の勘がそう言っているんだ。
慌てて電話に出ると、スカリーの声が響いた。
「もしもしスカリー!今どこだ?どこの惑星につれて行かれた?」
『は?何を言ってるの?』
「宇宙人につれさられたんだろう?すぐに助けに行くから、居場所を教えてくれ!」
『違うわ、あなた馬鹿じゃないの?』
「それはいつものことさ。で、宇宙人にさらわれたんじゃないっていうのなら、いったいどんな用なんだい?
僕たちは喧嘩をしているはずなのに、どうして君から電話を?」
そう尋ねると、少し間をおいてから彼女は答えた。
『・・・・・実は、あなたに相談したいことがあるの?』
「なんだって?僕に相談だって?」
「ええ・・・・あなたにしか相談できないことなの・・・・。だからすぐに家まで来て。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
いったいこれはどういうことだろう?
スカリーが俺に相談?なぜ?どうして?ホワイ?
『もしもし?聞いてる?』
「ああ、もちろん聞いてるとも。でも君が僕に相談なんて珍しいじゃないか。
もしかして家にゾンビでも現れたのか?それともゴジラ?」
『いいえ、そのどっちでもないわ。』
「じゃあどうしたっていうんだい?君が僕に相談するなんて、例え地球が台形になったとしてもあり得ないだろう?」
『そうね。あなたに相談なんて、この世に生まれてから最大の屈辱だわ。
これなら重罪の前科がついた方がマシっていうくらいにね。』
「ははは、キツいジョークだな。でもどっちにしろ君の家に行くつもりだったんだよ。
キャサリンに餌をあげあいといけないからね。」
『ああ、そういえばそうだったわね。昨日はスキナーの当番だったから、今日はあなただったのね。』
「そうだよ。君との約束は何があったって守るさ。たとえミスター山下が艦これの絵を描いていたとしてもね。」
冗談まじりにそう言うと、スカリーは『ミスター山下が!』と驚いていた。
『あなたの家にミスター山下がいるの?』
「ああ、デカいおにぎりを一瞬で丸のみにして、パソコンで絵を描いているよ。」
『それは好都合だわ!』
スカリーはなぜか手を叩いて喜んでいた。そして明るい口調でこう言った。
『ねえモルダー、彼にフジヤマの絵を描いてくれるように頼んでくれないかしら?』
「フジヤマ?それって日本の富士山のことかい?」
『そうよ。それもできれば、雪景色のフジヤマを描いてほしいの。』
スカリーは興奮気味にそう言った。そして電話の向こうから、聞きなれない男の声が聞こえた。
「おいスカリー、いま男の声がしたぞ?誰かいるのか?」
『ええ、ちょっとね。』
「・・・・もしかして、君のボーイフレンドかい?」
恐る恐るそう尋ねると、『馬鹿言わないで』と笑われてしまった。
「じゃあ誰なのさ?言っておくけど、もし下らない男が君の家に来ているのなら、僕は今すぐにでもバルカン砲を持って突撃するよ?」
『ふふふ、相変わらず嫉妬深いわね。でも残念ながら、本当にボーイブレンドじゃないの。』
「じゃあ誰なのさ?」
『・・・・来てくれれば分かるわ。ああそれと、ミスター山下に冬景色の絵を描いてもらってきてね。それじゃ。』
「それじゃって・・・・、いったいどういうことなんだ?おいスカリー、スカリー!
・・・・切りやがった・・・・・。」
いったい今の電話はなんだったというのか?画面を戻し、艦これの長門の壁紙を睨みつける。
するとコンコンとドアがノックされて、ミスター山下が顔を覗かせた。
「どうした?またおにぎりが食べたいのか?」
やや不機嫌に尋ねると、ミスター山下は首を振った。
「や、やっぱり・・・・千切り絵の方がいいんだな。どこかに色紙は売ってないかな?」
そう言ってミスター山下は、紙を千切る動作をしていた。
「ふふふ、やっぱりそっちの方がいいか。よし!それじゃ今からホームセンターに行こう。
好きなだけ色紙を買ってやるさ!」
「ほ、ほんとなのかな?」
「ああ、本当だ。でも一つ頼みがあるんだ。実は僕の相棒が・・・・・・、」
事情を説明すると、ミスター山下は快く引き受けてくれた。
俺たちは色紙を買いにホームセンターへ走り、それからスカリーの家を目指した。
天才画家の山下は、彼女の家に着く前に絵を完成させていた。
それはとても見事なフジヤマの絵で、雪景色の中に、ぼんやりとフジヤマが浮かぶ幻想的な光景だった・・・・・。


            *


白髪交じりの男が、ミスター山下の描いた絵に見入っている。
子供のように目を輝かせ、まるでそこにフジヤマがあるかのように手を伸ばしていた。
「・・・・よかった・・・・。死ぬ前に・・・・もう一度富士山の雄姿を見ることが出来て・・・・。」
白髪の男は涙を流し、フジヤマの絵を抱きしめていた。
「よかったわね、ミスター田中。」
「ああ・・・ありがとう刑事さん・・・・。昔見た雪景色の富士山を、こうしてまた見ることが出来た。
儂は・・・・幸せだよ。」
田中と呼ばれた男は、何度も何度も頭を下げていた。するとどこからかサイレンの音が聞こえてきて、スカリーの家のドアがノックされた。
「スカリー捜査官!ミスター田中のご家族と連絡が取れました。」
「ありがとう、それじゃ後は任せるわ。」
スカリーはミスター田中の手を取り、そっと立たせた。
「さあ、田中さん。もう家族のところへ帰らないと。みんなきっと心配してるわよ?」
「・・・ああ、そうだな・・・・。」
「その絵は老人ホームに持って行けばいいわ。きっと寂しさを紛らわしてくれるでしょう。」
「・・・そうするよ・・・・ありがとう・・・・。」
ミスター田中は涙を浮かべながら、スカリーに深く頭を下げていた。そしてやって来た警官につれられて、パトカーでどこかに運ばれて行った。
「ご苦労だったね、スカリー。」
ミスター田中を見送るスカリーの肩を叩くと、「そうね・・・」と頷いていた。
「キャサリンの散歩の途中に、フラフラしている老人がいたから思わず声を掛けたの。
そうしたらいきなり泣き出すから、仕方なしに家までつれて来たんだけど・・・・まさかあなたに助けられるとはね。」
そう言ってスカリーはニコリと微笑んだ。
俺は頷き、彼女の家に来た時のことを思い出していた。
ミスター山下をつれてスカリーの家まで来ると、白髪の知らない男がいた。
スカリーによると、彼は家族と喧嘩をして家出をしたらしい。
その理由は、老人ホームに入りたくなかったからだ。
ミスター田中は家族とうまくいっておらず、厄介者扱いされていた。そして家から出て行ってもらう為に、老人ホームに入れられることになったのだ。
その話を聞いたスカリーは、大いに同情した。
しかしいくらFBI捜査官といえど、他人の家の事情にまで手は出せない。
そこで彼の最後の願いである、もう一度フジヤマを見たいという夢を叶えてやることにしたのだ。
「ミスター田中は日系移民なんだな?だから死ぬ前にもう一度フジヤマを・・・・・、」
そう呟くと、隣に立つスカリーが頷いた。
「田中さんは飛行機で長旅が出来るほど体力がないからね。でもかといって、パソコンの画面で見るのも味気ない。
だからあなたに頼んで、何とかしてもらおうと思ったのよ。」
スカリーは小さく微笑み、俺の肩を叩いた。
「こんな厄介事は、モルダーでないと頼めないからね。でもよかったわ、田中さんが満足してくれて。」
「いいや、俺の力じゃないさ。全てはミスター山下の・・・・・、」
そう言って家の中を振り返った時、そこにミスター山下の姿はなかった。
「あれ?いったいどこに行ったんだ?」
慌てて辺りを探していると、スカリーが「もう行ったのよ」と呟いた。
「ミスター山下は放浪の画家よ?ずっと同じ場所にはいられないわ。」
「・・・そうか、そうだな・・・。彼は放浪する画家として有名だもんな・・・。
きっとまたどこかで、誰かの為に絵を描いているに違いないさ。」
俺はミスター山下の姿を思い浮かべ、渋い目で空を睨んだ。
するとスカリーが、突然俺の目の前にスマホを向けてきた。
「ミスター山下ならここにいるわよ。」
「んん?どういうことだ?」
スカリーのスマホを見ると、艦これの長門が書かれた傘を差しながら、フランスのアニメエキスポに参加する山下がいた。
「さっき海を泳いでフランスまで行ったのよ、ビート版一つでね。」
「なんだって!」
「これは五分前に送られてきたラインだから、ものの二分程度で向こうに渡ったことになるわね。すごい体力だわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺は言葉を失くしていた。それはミスター山下が二分でフランスまで泳いだからではなく、いつの間にかスカリーとライン友達になっていたからだ。
「シット!あのタンクトップ野郎!俺はまだ着信拒否されたままだっていうのに!」
悔しさのあまり地面を叩くと、スカリーは「顔を上げて」と言った。
「これはミスター山下から送られてきた、あなたへのプレゼントよ。
家に居候させてもらったお礼だって。」
「お礼・・・・?」
顔を上げてスカリーのスマホを見つめると、そこにはブラックマジシャンガールが映っていた。
それもティマイオスと融合した、竜騎士ブラックマジシャンガールの姿が・・・・・。
「こ、これは・・・・なんて素晴らしい絵なんだ!一つ一つ丁寧に千切られた紙が、まるで星空の輝きのように煌めいている。それにこの繊細なタッチ・・・・・本当に生きているようだ・・・・・。」
「ふふふ、彼は知ってたのよ。あなたの一番好きなキャラクターはブラックマジシャンガールだってね。」
「ど・・・どうして!」
「だって、あなたの部屋には五百体のブラックマジシャンガールのフィギュアがあるでしょ?
それにイラストだって二千枚はある。誰が見たって一目瞭然よ。」
「そ・・・そうか・・・。ミスター山下のやつ、俺の為にこんな素晴らしい絵を・・・・・。
クッ・・・・・すまない!さっきはタンクトップ野郎だなんて言って!やっぱり君は最高の画家だよ!」
俺はミスター山下に感謝の念を捧げ、自分のケータイを取り出した。
「スカリー、悪いんだけどそれをこっちに送ってくれないか?さっそく壁紙に設定するから。」
「ええ、いいわよ。でも二万ドルね。」
「に、二万ドルだって!なんでそんな金を払う必要があるんだ!」
「だってミスター山下は一流の画家だもの。それくらいの値段は当然でしょ?」
「い、いや・・・・でも二万ドルはさすがに・・・・。」
「あら?嫌ならいいわよ。これをヤフオクに出すだけだから。」
「やめてくれ!そんなことをしたら画像がコピーされまくって、希少価値がなくなる!
それは俺の為だけのブラックマジシャンガールなんだ!」
土下座をして懇願すると、スカリーは嬉しそうにスマホを振った。
「だったら・・・・これから毎日キャサリンの世話をお願いね。
あと一年先まで私の休みと交代すること。どう?」
スカリーはブラックマジシャンガールの画像を見せつけ、試すような目つきで見下ろしてくる。
俺は迷ったが、ミスター山下の描いたブラックマジシャンガールを諦めることは不可能だった。
「・・・・・・やる!その条件を飲むから、その画像を送ってくれ!」
俺は神に祈るように手を伸ばす。スカリーはニコリと頷き、画像を送ってくれた。
「やった!最高の宝物が手に入ったぞ!」
麗しきブラックマジシャンガールをさっそく壁紙に設定する。そしてニコニコと微笑んでいると、スカリーはため息をついた。
「ねえモルダー、私からその絵を売っといてあれなんだけど・・・・・ちょっといいかしら?」
「ん?なんだい?」
満面の笑みで顔を上げると、スカリーは腕を組んで見下ろしていた。
「あなた疲れてるのよ。」
「ん?」
「冗談のつもりだったのに、まさか本気でさっきの条件を飲むなんて・・・・やっぱり変態ね。」
スカリーの冷たい視線が突き刺さる。まるでゴミ虫でも睨むような、とても冷酷な視線だった。
「スカリー、男には誰だって夢がある。俺の場合・・・・たまたまそれがブラックマジシャンガールだっただけのことさ。」
「意味が分からないわ。」
「分からなくてけっこう。男には自分の世界があるものさ。」
俺は手を振り、スカリーの家を後にしようとした。しかし急に嫌な予感に襲われ、彼女に振り向いた。
「スカリー、事件だ。」
「また?」
「僕の勘がそう言ってるんだ。」
「・・・・・分かったわ。でもね、まさかその恰好で行くつもりじゃないわよね?」
「どういうことだい?」
肩をすくめて尋ねると、スカリーは首を傾げて微笑んだ。
「だって・・・・今日のあなた服を着てないわ。」
確かにその通り。今日の俺は服を着ていなかった。生まれたままの、一糸纏わぬ姿だ。
「・・・・・・また忘れてたよ。とりあえず君のネグリジェでも貸してくれると助かるんだが?」
そう言うと、スカリーの鉄拳が飛んできた。
「ぐはッ・・・・・冗談なのに・・・・・。」
俺は鼻血を出して倒れた。視線の先には、ミスター山下の描いたブラックマジシャンガールの壁紙が転がっていた。
「ミスター山下、やっぱりあんたは最高の画家さ。」
それから二日後、ヤフオクに彼の描いたブラックマジシャンガールの絵が出されていた。
出品者はもちろんスカリー。俺だけのブラックマジシャンガールは、瞬く間に世界へ広がっていってしまった。



                               完


 

サックスアンドザシティ

  • 2014.03.13 Thursday
  • 21:02
人生では予期せぬ出来事がしばしば起きる。
それは人の期待を裏切る時もあれば、期待以上のものを授けてくれることもある。
でもどちらにしろ、それを決められるのは神様だけで、私には何の決定権もないのだ。
いつかやってくる予期せぬ出来事を待ちながら、はや20年。
この町に来た時は、夢と希望に胸を膨らませていたけど、今は汚臭のするプライドと意地があるだけだ。
でもだからといって、投げやりに人生を過ごしたくはない。
私は私なりに、きちんと生きているのだから。
でもどんなに頑張ったって、一人では耐えられない時もある。
そういう時・・・一番頼りになるのが友達だ。
人生において、気の置けない友達ほど素晴らしい宝物はないのだから・・・。


            *******

 

ここはニューヨークの外れにある、サックスタウンという町だ。
その名の通り、サックスで有名な町である。
ここには腕のいいサックスの職人がたくさんいて、その職人の腕を目当てに音楽家たちが集まる。
私はそんなサックスタウンの中心にある、古いアパートに住んでいる。
風呂とトイレは部屋にあるけど、なぜかキッチンだけが共同なのだ。
ずいぶんおかしなアパートだけど、これはこれで中々楽しいものだ。
「ねえキャシー。今日の夜に合コンがあるの。
相手は一流音楽家とその弟子たち。あんたも一緒に行かない?」
そう言いながら魚をおろしているのは、下の階に住むシャマンシャだ。
村起こしのプロデュースを企画する会社を運営していたが、一か月前に倒産。今は無職だ。
「あんたねえ、もう合コンなんて歳じゃないでしょ?ここにいる女たちはもう40手前なのよ?
そんなもんが群れで行ったら、相手が逃げ出すに決まってるじゃない。」
そう言って肩を竦めながら話しているのは、向かいの部屋に住むミランダン。
ニューヨークの一流弁護士事務所で働いていたけど、半月前に倒産。今は無職だ。
「でもこの歳になったからこそ、出会いって大切よ?
若い時は男の方から寄って来るけど、今は目が合っただけで逃げちゃうもの。
だからこっちから出会いの場を作らないと。」
明るく喋りながら豚肉をミンチにしているのは、元お嬢様のシャルロット。
馬糞の肥料を高値で売り付ける資産家の令嬢だったが、父が逮捕されて破産、今は無職だ。
「確かにシャルロットの言うとおりね。この歳になると出会いが減るもの。
シャマンシャ、私その合コンに行くわ。もうそろそろ・・・理想の男と出会いたいしね。」
そう言って何もせずに酒を呷るのは、わたしくことキャシー。
夢と男を求めて二十年前にこの町に出て来た。ちなみに生まれてこのかた無職だ。
その夜・・・私たちは合コンへ行った。
渋っていたミランダンも、いざ合コンが始まるとノリノリだった。
でも結果はいまいち。音楽家たちは誰も私たちに興味を示さなかった。
男たちと別れ、女四人で寂しく飲みに行く。
「・・・はあ。結局女って年齢なのよね。あの音楽家崩れども・・・人を豚でも見るような目をしてたわ・・・。」
シャマンシャはボトルでウォッカを呷り、葉巻に火を着けて一息で灰に変える。
「だから言ったじゃない。四十手前の女なんて誰も相手にしないって。」
「なによミランダン。あんたノリノリだったくせに、えらく知ったかぶっちゃって。本当は傷ついてるんでしょ?」
「ぜ〜んぜん。最初からこうなることは予想出来たもの。
だってあいつらの目、馬の糞のでも見るような目つきだったじゃない。
だから初めからこういう結果になることは分かってたわ。」
ミランダンは面白くなさそうに言い捨て、お金をテーブルに叩きつけた。
「それじゃ私はもう帰るわ。明日はハローワークに行かなきゃいけないから。じゃあね。」
「ふん・・・妙に悟ったようなこと言っちゃって・・・。」
シャマンシャは唇を尖らせてミランダンが出て行ったドアを睨みつけた。
「私もそろそろ帰るね。明日は父に面会に行かなきゃいけないから。」
シャルロットもテーブルにお金を起き、スタスタと店を出て行ってしまった。
「ふん!何よ・・・どいつもこいつも・・・。どっちも無職のくせにさ。」
「それはあんたもでしょ?」
「生まれてこのかた無職のあんたに言われたくないわよ。
いったいいくらお金を貸したと思ってんの?」
「それもそうね。」
私はニコリと笑って肩を竦める。
生まれてこのかた無職の私は、人にたかる以外に生きていく方法を知らないのだ。
「それじゃ私も帰るわ。もしかしたら、新しい事業を立ち上げるかもしれないから。」
「また会社を起こすの?」
「もちろん。私は人に使われるなんて絶対に嫌なの。それじゃまたね。」
シャマンシャは私の分の代金も起き、お尻を振りながら店を出て行く。
「ちょっと待ってよ!私も帰るわ。」
慌てて彼女の後を追って店を出る。
すると、シャマンシャは道路の前で固まっていた。
「どうしたの?ボーっと立ち尽くして?」
「・・・キャシー。あいつら裏切り者よ・・・・。」
「裏切り者?どういうこと?」
そう尋ねると、シャマンシャは道路の向かいを指さした。
するとそこには、先ほど店を出て行ったミランダンとシャルロットがいた。
それも・・・さっきの合コン相手の男たちと手を繋いで・・・。
「あいつら・・・ちゃっかり男をゲットしてたんだ・・・。
だからあんなに余裕ぶっこいたセリフを吐いてたのよ・・・。」
シャマンシャのこめかみに血管が浮き上がる。
きっと・・・悔しくて悔しくてたまらないんだろうな。
自分がセッティングした合コンなのに、友達だけが男に恵まれるなんて。
「・・・・・・・・・・・。」
シャマンシャは悔しそうに唇を噛んでいたが、やがてフッと力を抜いて踵を返した。
「帰るの?」
「・・・・・・・・・・・。」
私は彼女の背中に声を掛ける。でも返事はない。
きっと傷ついているのだろう。今はそっとしておくべきだ。
その日の夜、シャマンシャは一人寂しく『ブリジット・ジョーンズの日記』を観て過ごした。


            *


翌日、シャルロットが泣きながら私の部屋へ駈け込んで来た。
「キャシー!私もうダメ!」
「どうしたのよ?裸のまま入って来るなんて・・・・。」
「だって・・・彼が・・・昨日の彼が・・・・・。」
「とにかく服を着て。そこにこの前の仮装で使ったブラックマジシャンガールのコスプレがあるから。」
私はいそいそとマジシャンガールのコスプレを着せ、シャルロットをベッドに座らせた。
「何か飲む?」
「・・・こぶ茶。」
私はキッチンへ行き、リトル東京で買ったこぶ茶をティーポットに淹れる。
そして金魚の湯呑みに注いで手渡した。
「はい。」
「・・・ありがとう。」
シャルロットはブラックマジシャンガールのコスプレをしたまま、金魚の湯呑みでこぶ茶をすする。
「それで?いったい何があったっていうの?」
隣に腰掛け、肩を撫でながら尋ねる。
するとシャルロットは、またグスグス泣き始めた。
「昨日の・・・昨日の音楽家の彼が・・・・。」
「昨日の彼が?」
「担当楽器がバイオリンじゃなくて、カスタネットだったの・・・・。
そんなの・・・そんなのって・・・・。カスタネットなんかカタカタ鳴らすだけじゃない!
私だって出来るわよ!」
「シャルロット、よく聞いて。単純な楽器ほど難しいのよ。
もしカタカタ鳴らすタイミングを間違えたら、それこそカスタネットの奏者としては失格よ。
逆にいえば、彼はそれだけカスタネットが上手ってことじゃない。」
「違う!彼は下手くそよ!
昨日の晩だって、ベッドで身体を重ねてると・・・・口でカタカタ口ずさむの!
しかも全部タイミングを間違えてるのよ!だから・・・私を残して自分だけ気持ちよく・・・。
もういや・・・あんな男・・・。」
「・・・それは・・・何とも言えないわね。」
シャルロットはこの世の終わりみたいな顔で、こぶ茶を一気に飲み干す。
今は傷心なのだろう。そっとしておいてやるのが一番いいかもしれない。
すると、今度はミランダンが部屋に駆けこんで来た。
「キャシー!私はもうダメかもしれない・・・・。」
そう言いながら、裸に蝶ネクタイだけ締めたミランダンが抱きついてくる。
「どうしたの?あんたまで裸だなんて・・・。」
「だって・・・だって昨日の男が・・・・。」
「昨日のって・・・あの音楽家の?」
「そうよ!あいつ・・・・ベッドに入る前に、私に指揮者をしろって言ったの!」
「指揮者・・・?」
「オーケストラの指揮者よ!裸になって、蝶ネクタイだけ締めて指揮をしてくれって・・・。」
「それままた・・・変わった趣味ね。」
「それだけならまだいいわよ!私が許せないのは・・・あいつ一人だけ楽しんだってことよ!」
「どういうこと?」
そう尋ねると、ミランダンは急に立ち上がって、近くにあった定規を手に取った。
そしていきなり裸のままで定規を振り始めたのだ。それもオーケストラの指揮者のように。
「昨日の晩・・・ずっとこれをやらされてたの・・・。
無理矢理椅子の上に立たされて、それで指揮してくれって。
そしたらあいつ・・・私の指揮に合わせて一人で始めちゃったのよ!
それも四時間ぶっ通しでよ!
こっちは何にも楽しくないのに、向こうだけ何度もフィニッシュして・・・・。
こんなの・・・こんなの許せない!自分だけ楽しんで、気持ちよくなるなんて・・・。
やっぱり男なんか最低よ!」
ミランダンは定規を床に叩きつけ、裸に蝶ネクタイのまま項垂れる。
「昨日の男たちはハズレだったみたいね・・・・。」
「まったくよ・・・。私、しばらく合コンなんか行かない!」
ミランダンの怒りはもっともだろう。
私だってそんなことをされた日には、相手を紐で縛りつけて送電線の鉄塔の上にぶら下げてやる。
シャルロットとミランダンは傷心に打ちひしがれ、おいおいと泣き喚いている。
そこへ今度はシャマンシャがやって来た。
「はあ〜い!みんな!今日も合コンしましょ!」
そう言ってパチパチとウィンクを飛ばすシャマンシャ。
しかしその姿を見て私は絶句した。
「ちょっと・・・その恰好はなに?」
「ああ、これ?けっこう似合うでしょ?」
シャマンシャは真っ白な学生シャツに、紺色の学生スカートを穿いていた。
そして膝下までの真っ白な靴下を履き、頭はおさげに結ってある。
「昨日の合コンで気づいたんだけど、やっぱり女は若さが大事よね。
だから若い恰好をしてみたんだけど・・・似合う?」
シャマンシャは自信満々にポーズを決めて見せる。
私はため息を吐き、首を振りながら「シャマンシャ、色々と間違ってるわ」と否定した。
「いくら学生の恰好をしても、あなたはもう学生じゃないでしょ?
だから・・・・その恰好は意味がないと思う。」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃない。
で、で、今日も合コンやるんだけど、行く人は手を挙げて〜。」
シャマンシャはピンと手を伸ばし、ニコニコとみんなを見渡す。
しかも誰も手を挙げる者はいなかった。
「何よ。せっかく今夜も合コンをセッティングしてあげたのに、誰も行かないわけ?」
そう言って不満そうに唇を尖らせる。
私は再びため息を吐き、みんなを見渡しながら言った。
「いい、みんな。もっとしっかりしましょう!
だって・・・なんだか今日のみんなは、色々と間違ってるもの。
だからもう少し真人間にならないと、ロクな男が寄ってこないわよ?」
私は諭すように、そして宥めるように優しい口調で言った。
するとみんなは一斉に冷めた目を向け、口を揃えて叫んだ。
「生まれてこのかた無職の奴が偉そうに言うな!」
「な、何よ・・・みんなだって今は無職じゃない!
そっちこそ偉そうに言わないでよ!」
私の部屋で汚い罵り合いが始まり、お互いの心を抉り合っていく。
しかししばらくすれば、一斉に笑い出してどうでもよくなった。
そして嫌な事を忘れる為に、みんなで飲みに行くことにした。
何があっても、私たちの友情は永遠。
私は誰よりもお酒を飲み、誰よりも料理を食べた。
いつものようにシャマンシャに奢ってもらい、「いい加減働け!」とビンタをかまされた。
私の素敵な友達・・・これからも永遠に・・・・。
 

言い訳は無用さ

  • 2013.06.28 Friday
  • 18:46

 照りつける太陽の陽射しを手で遮りながら、ブルーシートを手で持ち上げる。
その下には動かぬ体になった被害者がいた。
本日俺は休暇のはずであったが、例のごとくキャサリンの餌やりをしていると携帯が鳴った。
「モルダー、事件だ。
すまないが人手が足りない。来てくれないか?」
疑問形ではあるが俺に断る権利はなく、返事の代わりに一つ嫌味を言ってやった。
「なあスキナー。
休日出勤なんてのは慣れっこだが、FBIにだって休日を楽しむ権利はある。
君からの電話は、確かに俺から今日の予定を奪った。
帰ってラブプラスをしながらまどかマギカを見るという予定をね。」
そう言うとスキナーは笑いながら返してきた。
「そりゃすまない。
しかし今日の現場の捜査員は新人ばかりでね。
スカリーのイライラが頂点に達しているんだ。
新人刑事の何人かは彼女に蹴り飛ばされて便器に顔を叩きこまれたようだ。
私もとばっちりをうけたよ。
ズボンを引き裂かれて今はブリーフ姿で仕事をしているよ。ははは。
幸い今日のブリーフは新しくおろしたやつで黄ばみも臭いも・・・、」
俺はうんざりして携帯を切り、キャサリンの頭を一つ撫でてから表通りに出てタクシーを拾い、その中で休日出勤を憎み、まどかマギカを見れないことを憎み、昨日から痛み出したいぼ痔を憎み、そして
何よりスカリーに蹴り飛ばされて便器に顔を突っ込まれた新人刑事達を憎んだ。
シット!それは俺の役目なのに!!。
俺以外の誰かが彼女からそんなご褒美を受け取るなんて許せなかった。
スカリーは誰でもいいのか?
俺が!俺こそが彼女に蹴られ、罵られ、跪かされる。
それは俺が・・・、俺のはずなのに・・・・・。
「シット!」
思わず声に出して叫んだ俺に運転手が目を向け、俺は視線を逸らすように空を仰ぎ見た。
ちなみにキャサリンとはスカリーの飼っている犬の名前である。
どうでもいいが・・・。

                            *


「ほんと、来てくれて助かったわ。
今日は使えない新人ばかりでうんざりしてたのよ。」
スカリーが微笑みながら被害者の顔を覗き込む。
「君の力になれるならどこだって行くさ。
例え火星の裏側でもね。」
「頼もしい限りだわ。
でも冗談は終わりにして事件の捜査を進めましょ。」
そう言うと彼女は上着のポケットから手帳を取り出して開いた。
「被害者の名前はジャック・バウヤー、私達と同じ警察よ。」
「同業者か・・・。」
「ええ、但しFBIではなくてカリフォルニアの州警察ね。
出張でニューヨークまで来ていたみたい。」
「遠路はるばるやって来てこのざまか・・・。
報われないな。」
「そうね。でも今は感傷的になっている時じゃないわ。」
俺は頷き、手で先を促した。
「彼は昨日の午後十時まで同僚とお酒を飲んでいた。
でも用があるからと店を出て行って、翌日になっても出勤して来なかった。
不審に思った同僚が彼の家を尋ねてみるとこの有り様だったってわけよ。」
俺は彼女の言葉に頷き、手袋をはめて遺体を調べた。
胸の辺りに血が滲んでいる。
服をはだけてみると大きな切り傷があった。
その横にはホルダーに入ったままの拳銃。
そいつを取り出して調べてみると、弾丸は全て入ったままだった。
安全装置もかかったまま。
他にも被害者の体を調べてみたが、これといって不審な所はなかった。
「うーん・・・、こりゃ顔見知りの犯行かな。」
俺がそう言うとスカリーは手帳を閉じて頷いた。
「私もそう思うわ。
持っていた拳銃は発砲されるどころか、安全装置すら解除されずにホルダーに収まったまま。
仮にも警官である被害者が、襲いかかって来た相手に何の抵抗もせずにやられるなんて
考えにくいわ。
となると・・・。」
「知人か友人、もしくは身内の犯行か・・・。
彼は結婚は?」
スカリーは首を横に振る。
「なるほどね。
寂しい一人身だったか。
まあどっちにしろ油断している所をやられたんだろう。
となるとやはり顔見知りの犯行の可能性が高いな。」
そこへ新人刑事がスカリーの元へ駆け寄って来た。
「ハアハア、遅くなってすみませんスカリー捜査官。
言われた通り彼の友人を・・・、」
すると新人刑事が言い終わる前にスカリーはそいつのケツを蹴りあげていた。
「遅いのよこのボケ!
こんな簡単な仕事にどんだけ時間使ってんのよ!!
便器でクソでも喰らってろ!!」
そう言ってそいつの玉袋を捻りあげた。
「ひいいいいいいい!!
すいませんすいません!!
た、種無しになっちゃうからやめて!!」
「うっさい!!
お前みたいな無能のブ男は種があっても竿を使う機会なんてないでしょ!
せいぜいにティッシュに汚い種をぶちまけてろ!!
この一生右手が恋人男が!!!。」
玉袋を掴んでいた手を話して右アッパーを放つスカリー。
新人警刑事はもんどり打って倒れた。
そして小便をもらしながら股を抑え、立ち上がる時に「ブッ!」と屁をこきながら腰をがひけた状態で
去って行った。
「やべえ、この快感クセになりそう・・・。」
そう言い残して。
まただ・・・。
またあんな新人がスカリーからご褒美を・・・。
なあスカリー、なぜそれを俺にしてくれない?
考えれば考えるほど腹が立ってきて、俺はまたしても「シット!」と叫んでいた。
「ん?どうしたの?」
彼女が怪訝な目で見つめる。
「いや、何でもないさ。
彼も君の教育のおかげで立派な刑事になるだろう。」
スカリーは満足そうに頷き、玉袋を握っていた手をハンカチで拭いていた。
そしてあの新人刑事が去って行った代わりに、俺達の傍には一人の女性が立っていた。
「あなたがエミリアさんね。」
スカリーの問いにエミリアと呼ばれた女性は頷き、狼狽した顔をスカリーに向けた。
歳は30代の後半という所か。
少し皺が目立つが、それは歳のせいというよりも苦労を重ねて出来た皺であるように思われた。
髪は地味に後ろで一つに束ねてあり、服装もジーパンに黒のトレーナーというこれまた地味ないでたちであった。
しかし靴には少々違和感があった。
彼女が履いている靴はエロ―マックス2013ハイブリッドという最新式の人気スニーカーであり、
その名の通り電気モーターがハイブリッドされたハイテクシューズである。
一般人でもウサイン・ボルトの70倍の速度で走れるというから驚きだ。
しかも単三電池三本で。
開口一番、スカリーは言った。
「あなたが犯人ね。」
俺は驚いて彼女達の間に割って入った。
「おいおい、何を言うんだスカリー。
いくら何でもいきなりそんな・・・、」
するとスカリーは俺の玉袋を鷲掴みにして言った。
「あなたも種無しになりたい?
とりあえず黙って聞いてて。」
おうふッ!これを待っていた。
今俺に向けられるこの冷たい視線。
この理不尽な仕打ち。
これが!これこそが俺の!!
「おっ立ててるんじゃないわよ!」
大きくなった息子を捻じられ、俺は股間を抑えてうずくまった。
そして新人刑事と同じように小便を漏らし、立ち上がろうとした時に「ブッ!」と屁をこいてバランスを
崩し、また倒れ込んで顔を強打し、鼻血を出してうずくまった。
スカリーはそんな俺を尻目に先を続ける。
「あなたが犯人ね。
そのハイブリッドシューズには踵部分に野菜を切る為のナイフがし込まれてしるのは知っているわ。
あなたはそのナイフで被害者を切りつけて殺害し、シューズのハイブリッド昨日をオンにして
ウサイン・ボルトの70倍のスピードでダッシュして逃亡した。
そうでしょ?」
「はい、その通りです。」
マジかよ・・・。
俺は心の中で呟き、屁を我慢しながら立ち上がってエミリアに近寄った。
「本当にあなたが犯人なのか?」
「はい、そうです。」
「でもなぜ・・・、」
「疲れていたのよ。」
スカリーがそう言った。
「疲れる・・・?
一体何を?」
するとスカリーもエミリアに歩み寄って言った。
「彼女はね、友人とは言っているけど実は恋人なのよ。」
「なぜ分かる?」
「女の勘よ。」
なるほど、そう言われると何も言い返せない。
「被害者のジャック・バウヤーはね、いい歳こいたおっさんのクセに休日になるとアニメだの恋愛ゲームだのに没頭していたそうよ。
彼女そっちのけでね。
これはカリフォルニア警察からの情報で分かっていることなの。」
何だろう、肩身が狭い思いになってきた。
「そして事件前夜の夜、彼が用事があると言って帰ったのは家でDVDを見る為だったのよ。
まどかマギカというアニメをね。
それもラブプラスとかいう非モテ男御用達のゲームをしながらね。」
「!!!」
俺は絶句した。
それは今日休日出勤していなければ俺が行う予定だったことではないか・・・。
「刑事さんの言う通りです。
昨日の夜、彼は私と会う約束でした。
でもそれをすっぽかして・・・。」
エミリアの目に涙が溜まる。
「こんなことは今までに何十回もありました。
もう・・・、もううんざりでした・・・。
私は彼のことが好きなのに、彼は私より非モテ男御用達の恋愛シュミレーションゲームが大事なんだと思うと・・・、そう思うと私は・・・・・、耐えられなかった!!
ごめんなさい!!私がやったんです・・・。
私が彼を・・・。」
涙を流しながら顔を覆う彼女を。スカリーは優しく抱きしめた。
「さぞ辛かったでしょう。
あなたの気持ちはよく分かるわ。
彼女をほったらかしてまどかマギカを見ながらラブプラスをする男なんて許せないわね。」
「ううう、うわあああああああーーーーーー!!!」
スカリーの胸の中で泣くエミリアの声がこだました。


                                *


「一件落着ね。」
「ああ。」
死んだと思っていたジャックだが、微かに脈があることが判明し、すぐさま病院へ送られて一命を取り留めた。
「彼女は悪くない。
全ては俺の不甲斐なさだ。
これからは彼女を大事にするよ。
だからどうか彼女を許してやってほしい。
頼むよ。」
病院で話を聞いていたスキナーから、ジャックがそのように言っていると連絡があった。
「まあエミリアも自分の罪は反省しているし、ジャックのその証言があればそこまで重い罪には問われないだろう。」
「そうね。」
そう言ってスカリーは自分の車の方へと歩き出す。
「悪いが俺も乗せていってくれないか。
いきなりだったからタクシーで来たもんでさ。」
「構わないわよ。」
彼女の車が俺の家に向けて走りだし、その車内で俺は一つため息をついた。
「まったく、休日が台無しだよ。」
おどけてそう言うと、スカリーは微笑みながらこう返してきた。
「そうね。
せっかくの休日が台無しね。
まどかマギカを見ながらラブプラスをするという休日が。」
俺が驚いた目で見ると、スカリーはさらに微笑みながら続けた。
「スキナーから聞いたわよ。
ねえモルダー。
もし、もしもよ。
仮にだけど私があなたの彼女だったとして、そしてあなたが私をほったらかしてそんな休日を過ごしていたら・・・・・。」
スカリーの顔から微笑みが消え、凄まじい殺気と恐ろしい眼光が俺を捉えていた。
「あ、いや、その・・・、なんだ・・・。
もしそんなことが起こったら・・・、うん、まあ、俺は天国か地獄にいるはめになるんだろうな。」
スカリーは殺気を保ったまま微笑みを作り、俺のネクタイを引っ張ってこう言った。
「もしそうなったら天国なんかに行けると思う?
生き地獄を味あわせてから、あの世の地獄のフルコースよ。」
俺はヘビに睨まれたカエルのようになり、引きつった笑顔でこたえた。
「ああ、まあ・・・、その時はなんだ。
君の好きなようにしてくれたらいい。
ただ、もし君と付き合えるなら、俺は頭の先からつま先から、何ならケツの毛の先まで君に尽くすさ。
心配いらない。」
スカリーは殺気を引っ込めてネクタイを離し、「よく出来ました。」と呟いた。
俺は居心地が悪くなり、Yシャツの下に来ているまどかマギカのほむらがプリントされたTシャツ気付かれまいとそっと背を向けた。
「とりあえずその痛Tシャツからやめることね。」
俺は吹き出てくる冷や汗を拭きながらそそくさとTシャツを脱ぎ、丸めてポケットに突っ込んだ。
言い訳は無用さ。
男なら行動で示すべきだ。
スカリーはまた満足そうに微笑み、俺に言った。
「おなたはオタクをやめる。
けど私はBL同人誌を読むのはやめない。
つまりはそういうことよ。」
なるほど、ジャイアニズムか。
実に君らしい。
俺はなんだか笑いがこみあげてきて車の窓を開けて外を見た。
するとパンツ一丁の男がカフェのテラスでコーヒーを飲んでいた。
スキナーだった。
俺はそっと窓を閉め、何も見なかったことにしてポケットの手を入れた。
ほむらのTシャツが汗ばんでいた。
 

目の前の道だけが全てじゃないさ

  • 2012.10.28 Sunday
  • 18:14
 さて、目の前に2つの道があったとしよう。
片方は地獄へ落ちる道。
もう片方はもっとひどい地獄へ落ちる道。
どちらも先へ進むのをためらうだろうが、後ろには戻れない。
映画「コマンドー」の主人公、アーノルド・シュワルツネッガー演じるメイトリックスならロケットランチャーをぶっ放して何もかも粉々にし、何食わぬ顔で先に進めるだろうが、残念ながら俺はメイトリックスではない。
どちらに進んでも辛い思いをするのならば、せめて普通の地獄の方がいい。
しかしながら、俺が進んだ道の先はもっともっとひどい地獄だった。
「オーマイゴッド!!」この言葉はこういう時の為にある。


                

                    *


「なあスカリー、宇宙人ってものはあまり人間と変わらないんだな。
俺はもっとイカかタコの化け物みたいなものだと想像していたよ。」
俺の言葉に目だけで笑い、彼女は視線を前に向ける。
「意外ね。宇宙人マニアの言葉とは思えないわ。」
俺はYシャツの下に着ているアニメ「氷菓」のヒロインである千反田えるがプリントされたTシャツを彼女に気づかれまいと、コートの前を閉じながら答えた。    
「僕だって全ての宇宙人を知っているわけじゃないさ。
彼はきっと、遠い銀河の果てから来たのさ。」
ニヒルに笑った俺に対し、彼女はツンと鼻を持ち上げた。
「火星の裏側から来たって言ってたわよ。」
「うん、まあ、・・・そんなことも言っていた・・・。」
「あなた、人の話はちゃんと聞くべきよ。
萌えアニメのTシャツにばかり気をとられてないで。」
「!!!」
なるほど、さすがはスカリーだ。
とっくにお見通しだったか。
開き直った俺はコートとYシャツを脱いで床に放り投げた。
スカリーの冷たい視線が俺の顔に注がれるが、それを快感に感じる俺はもうきているところまできているのだろう。
思えば今日の朝、便所に突っ込んだ手が抜けなくなった時から俺は運に見放されているのだ。
間違えて便所に飾ってあったフィギュアを落としてしまい、それを取ろうと手を伸ばした瞬間に水を大便モードで流してしまった。
フィギュアはトイレの先に繋がる下水へ吸い込まれ、俺の手はトイレの穴にはまって抜けなくなった。
遊戯王、ブラックマジシャンガールのフィギュアだった。
初版で買ったのに・・・。
悲しむ俺の涙はトイレの水を溢れさせた。
そこにふと後ろに気配を感じ、振り向くとスカリーが立っていた。
「キャサリンのエサがまだなんだけど、どうなっているのかしら?」
「ああ、その、なんだ。遊戯がブラックマジシャンガールを召還したみたいでね。
彼女はトイレの穴を通って、遊戯王の世界に行ってしまったみたいだ。
俺は墓地に送られたクリボーが間違ってこっちの世界に出てこないように、こうしてトイレの穴を手で塞いでいるわけさ。」
「意味がわからないわ。」
彼女は醜態をさらす俺に興味を示すわけでもなく、「キャサリンのエサお願いね。」とだけ言い残して戻っていった。
「はは、相変わらずの冷徹ぶりだ。
君の前じゃ、丸くなる前のピッコロ大魔王だってケツの毛が全部抜け落ちてしまうだろうさ。
まあピッコロにケツの毛が生えていたらの話だけど。」
トイレに落ちたフィギュアを拾う為に穴から手が抜けなくなり、その状態で一人しょうもないことを言っている俺。
悲しすぎて逆に笑えてくる。
ちなみにキャサリンとはスカリーの飼っている犬の名前である。
さて、この状態をどう脱却するか。
色々と試行錯誤をしていると、トイレの向こうから声が聞こえた。
「助けて!助けて!」
「!!」
耳を澄ましていると、また声が聞こえた。
「お願い!助けて!」
どうやらトイレの穴の中から声がしているようだ。
「君は誰だ!?」
問いかけると返事があった。
「私はこの部屋に飾ってあった人形。
あなたの強い思いが私に魂を宿らせたの。」
「な、なんだと・・・・。」
この便所に飾ってあった人形といえば、すわ、それはブラックマジシャンガールしかいないではないか。
「お願い!助けて!」
驚きとパニックとが入り混じる感情の中で、俺は「もちろんだ!すぐに助けに行くさ!」と答えようとした。
しかし待て。
このままキャサリンのエサやりをほったらかしたら俺はどうなる?
スカリーは間違いなく激怒し、俺を全裸にしてから亀甲縛りにしてグランドキャニオンの赤き大地に放置するだろう。
そしてそれを携帯で撮影し、ツイッターで「バカなうwww」とUPすることだろう。
どうする?
マジシャンガールを助けに行って、スカリーから放置プレイの刑にあうか。
それともこのまま大人しくキャサリンのエサやりに行って、マジシャンガールを見捨てるか。
どっちも地獄。
しかしながら、俺には若干ではあるが後者の方が嫌だという思いがある。
仕方ない、キャサリンは放置しておいて、マジシャンガールを助けに行こうか。
「今から君を助けに行く。
でもどうやってそこまでいけばいい?」
「大丈夫。
あなたのお尻を誰かに思い切り蹴ってもらって。
それでこっちに来れるわ。」
「う、うむ、そうか。
適任者が一人いる。ちょっと待っていてくれ。」
俺は便所の外に向かって大声で叫んだ。
「スカリー!!すまない。昨日間違えて君のお気に入りのボーイズラブの同人誌を全部捨ててしまった!!!」
そう叫ぶやいなや、彼女は鬼の形相で便所に飛び込んで来た。
「ファーーーーーック!!!ファック!ファック!ファック!ファーーーーーーーーック!!
このくされチ○ポ野郎!!全裸にして亀甲縛りにしてツイッターにUPしてテメエの痛車のボンネットに括り付けてニューヨークのド真ん中に放置してやるうううううう!!」
スカリーは思いっきり俺の顔面を蹴飛ばした。
蹴るのは尻でいいのに・・・・・。
勢い余ってもんどりうったスカリーは俺に激突し、そのまま二人ともトイレの穴に吸い込まれていったのだった。
そしてその先に待っていたのは伊藤四郎とエスパー伊藤を足して2をかけたような顔をした宇宙人だった。
なぜそいつが宇宙人だと分かったか?
それは常にそいつが宙に浮いた状態で立っており、とても人間の声とは思えない声で意味不明な言葉を喋っていたからだ。
ちなみに喋りかけていたのは手に持っていたマジシャンガールのフィギュアに向かってだ。
痛い、痛すぎる・・・・・。
周りを見渡すと、どうやらここはどこかのボロアパートの一室らしい。
俺たちに気づいた宇宙人は、人間の言葉で話しかけてきた。
「ムホ!この部屋にお客様がいらっしゃるとは。ドエフッドエフッ!
火星から来て二年。初めてのことです。ムホ!」
どうしようもない殺意が俺の中に沸き起こる。
なんだろう、何かむかつくなコイツ。
スカリーはボウフラを見るような目で火星人を見ていた。
俺達を無視し、フィギュアに向かってひたすら意味不明なオタク言葉と火星語を喋りかける火星人。
スカリーはジャケットの裏ポケットからメリケンサックを取り出して拳にはめ、助走をつけた右ストレートを火星人の顔面にめり込ませた。
もんどりうって倒れる火星人。
宙に投げ出されたマジシャンガールのフィギュアを間一髪でキャッチする俺。
見事な連携プレーだった。
「さっさと火星に帰れ!!
このイカレチ○ポ野郎!!!」
倒れた火星人に罵声を浴びせながら蹴りを連発するスカリー。
「ファック!ファック!ファーーーーーーーーーーック!!!」
スカリーの勢いは止まらない。
同人誌を捨てられた怒りが爆発しているのか。
「ひいいいいいいいいいいいいい!!!
地球怖ス!地球の女テラ怖ス!!!三次元の女ギザ怖スううううう!!!」
立ち上がった火星人は押入れの奥からオマルを取り出すとまたがった。
「ひいいいいいい!!!」
オマルに乗った火星人はアパートの天井を突き破って、遥か空の上まで飛び去ってしまった。
オマルのUFOって・・・。
しかも今時「テラ」とか「ギザ」って・・・・・。
呆れている俺の手の中で、ブラックマジシャンガールのフィギュアが語りかけてきた。
「ありがとう。
あなたのおかげで助かりました。
私も本来自分がいるべき世界へ帰りたいと思います。
このご恩は一生忘れません。
それじゃあ、さようなら。」
「な、おい!ちょっと待ってくれ!俺には今回のことが何が何やらさっぱり・・・。」
言い終わる前に、マジシャンガールのフィギュアから眩い光が放たれ、俺とスカリーはオフィスの便所に戻っていた。
手に持っていたブラックマジシャンガールのフィギュアは消えていた。
その後の俺はというと、スカリーにしばき倒され、キャサリンにエサをやらされ、君の同人誌を捨てたのは嘘であって、その嘘をついたのには理由があると説明し、それならパンツ一丁でガムテープでビルの屋上の電波等に貼り付ける刑で許してあげると言われ、彼女の仕事が終わるまでずっとそのままのパンツ一丁で貼り付けられていた。
そして先ほど家に戻り、シャワーを浴びてビールをあおっているところだった。
「やれやれ、今日はわけのわからない一日だったな。
なんか疲れたし、そろそろ寝るか。」
そしてベッドに入ってしばらくすると、頭の中に声が響いてきた。
「この声は・・・。」
俺は起き上がって目を開けようとした。
「待って。そのままでいてください。」
そう言われ、俺はベッドの中で目を閉じたまま」尋ねた。
「君はあの火星人にさらわれた・・・・・。」
「はい、そうです。
もう一度きちんとお礼が言いたくてやってきました。」
「そうか。律儀なんだな。」
やや沈黙があったあと、彼女は言った。
「あのままだと、私は危うく火星に連れて行かれるところでした。
あなたが助けてくれたから、私は本来いるべき世界に帰ることができました。
ほんとに、なんとお礼を言ったらいいのか・・・・・。」
かすかに涙声になっている。
「いや、大したことじゃないさ。
それに無事で何よりだ。
これからは自分の世界で仲間たちと一緒に幸せに暮らすといい。」
「はい、そうします。
ほんとうにありがとう。
それじゃあ。」
そう言って彼女は去ろうとする一瞬、俺は目を開けて彼女を見てしまった。
「!!!」
そこにいたのは、ブラックマジシャンガールのコスプレをしたトメさんだった。
「な・・・、あのフィギュアに宿っていた魂ってあんただったのか・・・・・。」
知らない人の為に言っておくが、トメさんとは遊戯王GXに出てくる購買部の小太りのおばちゃんである。
彼女は毎年やってくるイベントの度にこのコスプレをする。
俺に姿を見られたトメさんは、頬を赤らめ、「いやんっ!」鳴いた。
この時の俺の精神的ダメージは、クリリンを殺された時の悟空よりもひどかったと思う。
「それじゃ、また機会があったら会いましょ」
頼んでもいないのに、小太りの体を見せ付けるようにくるりと回るトメさん。
そして投げキッスを残し、去って行った。
俺は気分が悪くなり、悲しいやら虚しいやらで枕を噛み締めてベッドにもぐった。
用意されたどちらの道も地獄なら、そのどちらにも進むべきではなかった。
目の前にある道だけが全てじゃないさ。
あの時、便所に落としたフィギュアさえ拾わなければこんな不毛な一日を過ごすこともなく、こんな悲しくも虚しい気持ちになることもなかった。
さっさと寝てしまおうと目をかたく閉じると、ケータイが短く鳴った。
スカリーからのメールだった。
「夜遅くにメールしてごめんなさい。
私は明日から一ヶ月間海外へ旅行に行って来るから、その間のキャサリンの世話をお願いね。
日本にも寄るつもりだから、ブラックマジシャンガールのコスプレをしたトメさんのフィギュアをお土産に買ってきてあげるわ。
楽しみね。それじゃあ、おやすみなさい。」
俺は返信をせずにケータイを閉じ、「そんなフィギュアねえよ」と悲しい声で呟いた。



久しぶりの小説

  • 2012.10.28 Sunday
  • 18:06
 お久しぶりです。 
ヤカーです。
久しぶりにXファイルネタの読みきり小説を書きたいと思います。
機会があれば勇気のボタンや不思議探偵誌の読みきりも書きたいと思っています。
よろしくお願いします。

ラブリー・デイズ

  • 2011.04.04 Monday
  • 11:39
     女の幸せって何?
  ブランド品に囲まれること?
  セレブ御用達の高級ホテルで夜景を見ながらワインを飲むこと?
  それとも目玉が飛び出るほど高額な宝石を身につけること?
  いや違う。
  女の幸せは最高の男と時間を共に過ごすこと。
  でも世の中には男は星の数ほどいる。
  本当に良い男を見分けるのは、シュレッダーの中から破いた手紙を見つけるより難しいだろう。
  私には彼氏がいるが、彼は本当に最高の男なのだろうか。
  私の未来がどうなるかなんて、ノストラダムスでも予言出来ないだろう。
  最高の男の求め方。
  これはある意味、何も持たずにエベレストを登るより難しい。
  けど私は諦めない。
  だって私は、本当の幸せを求めているから。
     

                          *

部屋でテレビを見ていると、電話がうるさく鳴り響いた。
だるい身体を起こしながらケータイを取る。
「ハーイ!あたし、ジェリーよ。
ねえ、今夜暇?」
私はベッドから降りながら髪を掻き上げる。
「ハイ、ジェリー。
今テレビを見てた所よ。」
「あら、つまらない時間の過ごし方してるわね。」
「暇で何もすることがなかったのよ。」
私は短く息をは吐きながら言う。
「今夜セレブのイケメン達と合コンがあるのよ。
あなたも来るでしょ?」
またかと思った。
ジェリーは良い男を探すのに人生を費やすような生き方をしている。
「それより聞いてよ。
マックスったら酷いのよ。
私の勝負下着を見て、それ何のコスプレなんて言うのよ。
信じられない。」
ジェリーはあははと笑った。
「あんたまだあんな男と付き合ってるの。
いい加減別れなさいよ。
それで今夜良い男をゲットすればいいのよ。
ねえ、今夜の合コン来るでしょ?」
「まあ暇だから行ってもいいわよ。」
「じゃあ決まりね。
今夜七時、あなたのマンションに迎えに行くわ。」
「オッケー。準備して待ってる。」
「アマンダとスカーレットも誘うからね。
楽しみにしててね、じゃあ。」
ジェリーは短く笑うと電話を切った。
私はテレビを消し、シャワールームに向かった。
昨日マックスと飲んだ酒がまだ残っている。
「マックス、怒ってないかな。」
私は呟き、シャワーの蛇口をひねる。
私の彼、ジョン・P・マックス。
一流商社に勤めるエリートだ。
優しいし気遣いも出来るけど、最近些細なことで喧嘩する。
昨日も喧嘩した。
理由は乳を揉むタイミングはどの瞬間かだ。
下らないことで喧嘩になってしまった。
「まあ仕方ないわよね。
悪いのはお互い様。」
私は自分に言い聞かせ、熱いシャワーを浴びた。
     
                         *

「いい男ばっかりね。」
ジェリーがヨダレを垂らしながら言う。
私のマンションから車で一時間の場所にある高級レストラン、「タカイ・デ・ココ」。
運ばれて来る料理に口をつけながら、セレブのイケメン達と笑いながら喋り合っていた。
「僕はサーフィンが趣味なんですよ。
休日はいつも海に行っています。」
イケメンの一人が言う。
「まあ、どうりで良い体してると思ったわ。
ねえ、キャシー。」
ジェリーに同意を求められ、私は曖昧に頷く。
「私もサーフィンやったことあるわよ。
三ヶ月でやめちゃったけど。」
アマンダがワインを飲みながら言う。
「じゃあ今度教えてあげましょうか。」
イケメンが白い歯を見せながらニッコリと笑った。
「あら、いいじゃない、アマンダ。
私スポーツは全然ダメだから、運動神経の良い人って羨ましいわ。」
スカーレットがうっとりした目で言う。
「僕も学生時代にレスリングをやっていたんですよ。
これでもけっこう強かったんですよ。」
別のイケメンが言う。
「あらあ、レスリングやってたの。
じゃあ寝技は得意よね。
私是非教わりたいわ。」
ジェリーが甘えた声を出した。
「いいですよ。
あなたとの寝技なら楽しそうだ。」
「うふふ、本気にしちゃうわよ。」
ジェリーが妖怪のように笑った。
他愛無い会話で時間が進み、それと同時にお酒の量も増えていった。
そして一時間後。
「だからあー、この前の男下手くそだったのよ。
乳首撫でるのに足の指使うかっての、普通。」
ジェリーは完全酔っ払い、さっきから下ネタ連発だ。
「だから私も足の指で男のあそこを撫でてやったわけよ。
そしたらそいつ何て言ったと思う?
股間を愛撫するのに足の指を使うのはどうだろうか。
ちっとも気持ち良くないって言ったのよ。」
テメーだって足の指で私の乳首いじくり回してんだろうが!」
ジェリーの暴言はとどまるところを知らない。
「あ・・・あはは・・・、それは大変だね・・・。」
さっきまで歯磨きのCMに出られるような笑顔で笑っていたイケメン達の顔を引きつっている。
「ちょっと、ジェリー、飲み過ぎ。」
アマンダ顔をしかめて言う。
「うるさいわよ。
酒でも飲まなきゃ人生やってられないわよ。」
ジェリーはウイスキーを一気に飲み干し、急に服を脱ぎ出す。
「ちょ、ちょっと!何やってんのよジェリー。」
私は慌ててとめる。
「ああーくそ、邪魔すんな。
脱いで何が悪い。」
イケメン達は完全にドン引きだ。
その時、私のケータイが鳴った。
私は服を脱ぐジェリーをほったらかし、席を離れて電話に出る。
マックスからだった。
「もしもし。」
「ハイ、マックス。」
私は少し声を落とした。
「今夜会えないかな。」
「ごめん、今夜はちょっと無理だと思う。」
私は下着姿になったジェリーを見ながら言った。
「どうしても会いたいんだ。」
「でも・・・。」
「頼む。
君に会いたいんだ。」
マックスの声は真剣で、それが私の心を動かした。
「分かった。
今すぐは無理だけど。」
「うん。
じゃあ家で待ってる。」
「分かったわ。
また連絡する。」
「ああ待ってる。」
「それじゃ。」
私は電話を切り、下着まで脱ごうとしているジェリーの所に戻った。

                         *

「酒やー!酒持ってこんかーい!」
レストランの前でジェリーが叫んでいる。
「じゃあ僕たちはこれで。」
イケメン達はそそくさと去って行く。
しかしイケメンの一人が残った。
見るとスカーレットと手を繋いでいる。
「私この後彼の家に行くの。
じゃあね、みんな。」
スカーレットはそう言って笑い、イケメンと共に去って行った。
「上手いことやったわね、スカーレット。」
アマンダが感心したように言う。
「じゃあ私も帰るわ。
ジェリーのこと任せていいわよね。」
私はジェリーの体を支えながら頷いた。
「家まで送っていくわ。
アマンダも気をつけて帰ってね。」
アマンダは笑って頷き、夜の街へと去って行った。
「ちょっとしっかりしてよ、ジェリー。」
「うるさい!酒や!酒持ってこーい!」
「こりゃダメだわ。」
やって来た運転代行の運転するジェリーの車に乗り込み、とりあえずジェリーを家まで送った。
それから私はタクシーを拾い、マックスの家までやって来た。
ドアの前まで来て電話をする。
「マックス。キャシーだけど。
今家の前に着いたわ。
「分かった。」
電話を切るとすぐにドアが開いた。
「ああ、会いたかったよ。」
マックスは私を抱きしめ、唇を吸い寄せた。
「私も会いたかった。」
マックスは笑顔で頷き、私を抱えて家の中に入った。
そしてベッドの上に私を寝かせ、マックスは奥の棚から何かを引っぱり出している。
「何やってるの、マックス?」
マックスは笑顔で振り返り、ダンボールを手にして近づいて来た。
「何そのダンボール?」
するとマックスはそのダンボールの中から下着を取り出した。
「これをキャシーに着てもらおうかと思ってね。」
そう言って渡された下着を私はまじまじを見る。
「やだ!何これ。」
私は思わず声をあげた。
「ネットで買ったんだ。
君に似合うかと思って。」
それはTバックだった。
ただし普通のTバックではない。
股間の所に何か顔が付いている。
「何この顔?」
「知らないかい?
日本のものだそうだよ。
般若っていうらしい。」
「これを私に着ろっていうの?」
「ああ、その通りだ。
それを君につけてほしい。」
嫌だった。
何が悲しくてこんな下着をつけなくてはいけないのか。
「頼む。
それをつけた君の姿が見たいいんだ。」
マックスは真剣な目で訴えた。
私が迷っているとマックスは言った。
「頼む。
僕を愛しているならつけてくれ。」
私はさんざん迷ったが、やがてマックスの熱意に折れた。
「分かったわ。」
そして私はバスルームへ行き、般若の下着をつけた。
「うは!最高だよ!」
マックスは大喜びだ。
「ギザ萌えす!テラ萌えす!」
マックスは私を抱きしめ、ベッドに押し倒した。
「今夜の君は最高に綺麗だよ。」
マックスが私の目を見つめながら言う。
「あ・・・ありがと・・・。」
恥ずかしかった。
死ぬほど恥ずかしかった。
「さあ、あとはこれをつけてくれれば完璧だ。」
そう言ってマックスはダンボールからブラジャーを取り出した。
「何それ。」
私は呆れたような口調になって言った。
「何って見れば分かるだろ。
その般若のパンツとお揃いのブラジャーさ。」
そのブラジャーは真ん中に般若の面がついており、ささに乳首の所は丸く穴が開いている。
「さあ、これをつけてごらん。」
「い、嫌よ!」
「遠慮することはない。
さあ、さあさあ。」
言いながらマックスは私のブラジャーを脱がそうとする。
「ちょっとやめて!」
「いいじゃないか。」
マックスは力任せに私のブラジャーを取ろうとする。
「やめてって言ってるでしょ!」
「いいじゃないか。
さあ、これをつけるんだ。」
なおもマックスは私のブラジャーを脱がそうとする。
そこで私の怒りが頂点に達した。
頭の中でブチっと何かが切れる音がした。
「やめろつってんだろ!
この変態野郎!」
私はマックスの顔面を思い切り蹴り飛ばした。
ぐは!と言って床に倒れるマックス。
「テメー!調子乗んなよ!」
私はベッドから立ち上がり、マックスを見下ろした。
「そんなんだからテメーの〇〇は××で〇〇なんだよ!」
マックスは呆然と私を見つめる。
「それにセックスの時だってテメーの〇〇は××で〇〇なんだよ!
この腑抜け野郎!」
マックスは泣き出した。
「そこまで言わなくても・・・。」
「うるさい!
二度とこんな変態的なことすんな!」
私は般若の下着を脱ぎ、元の下着をはいて服を着た。
「ああ、キャシー・・・、待ってくれ。」
「黙れ!」
もう一度マックスを蹴り飛ばし、私はマックスの家を出た。
怒った私の足音が響いていた。

                         *

翌日、私は仕事から帰ってまたテレビを見ていた。
まったく、一体昨日のマックスは何だったのだ。
あんなに変態的な趣味があったなんて。
昨日のことを思い返して不機嫌になっていると、ケータイが鳴った。
「やあ、キャシー。」
マックスからだった。
「何か用?」
私はつっけんどんな声で言った。
「昨日は悪かったよ。
ごめん。」
謝られて、少し怯んだ。
「昨日は君の気持ちも考えずにあんなことをして。
本当に申し訳ないと思ってる。」
私はふうっと息を吐きだした。
「昨日は私も悪かったわ。
言い過ぎた。
ごめん。」
マックスに謝られて、私も昨日はかなり酷いことを言ったと思った。
「もう怒ってないかい?」
「さっきまで怒ってたけど、謝ってくれたからもうどうでもよくなった。」
マックスは短く笑った。
「そうか、それはよかった。
じゃあ今夜会えるかな。」
「ええ、別にいいけど。」
「昨日は本当に悪かった。
君は般若が嫌いんだね。
だから今日は別の下着を用意したよ。」
私は固まった。
「ちょっと、マックス。
何を言ってるの。
私が昨日怒ったのは・・・。」
そう言う私の声をマックスが遮る。
「いや、いいんだ。
君が般若を嫌いなんて知らなかった。
だから今日用意したのは悪魔の面のついた下着だ。
これなら君も喜んでくれるだろ。
な、どうだ?」
私の心の奥から、マグマのような熱い感情が湧いてきた。
「もしもし、キャシー?」
そのマグマが私の心全体を覆っていった。
「・・・けんじゃないわよ。」
「え、何?」
「ふざけんじゃないわよ!
私が怒ってる理由が全然分かってないじゃないかテメー!」
「え・・・え・・・、俺何かまずいこと言った?」
「テメー脳みその中はどうなってんだ!
誰があんな変態的な下着を二度と着るか!
しばらく連絡してくんな!」
「え・・・ちょっと、キャシー。
なら他の下着を用意するよ。
だからそんなに怒らないで・・・。」
マックスがまだ何か喋っていたが、私は電話を切った。
怒りのあまり頭がどうにかなりそうになる。
私はベッドに倒れ込むと、大きなため息を吐いた。
良い男に巡り合うのは難しい。
そして幸せになることはもっと難しい。
ああ、私の幸せ。
私は枕に顔を突っ込んだ。
その時ケータイが短く鳴った。
メールだ。
私は頭を動かし、ケータイを見た。
マックスからのメールだった。
「ごめん。
君が悪魔の面の下着を嫌いなんて知らなかったんだ。
新しい下着を用意するよ。
ライオンの面のついた下着だ。
これなら喜んでくれるだろう。」
私はマックスを着信拒否にした。

読み切り小説

  • 2011.04.04 Monday
  • 11:34
 読み切りで小説を書きます。
ある有名な海外ドラマのパロディーです。
多分友人がこの小説を楽しみにしています。
馬鹿らしいコメディー小説ですが、よければお付き合い下さい。

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