読み切り小説 「少年の後悔 アニメはアニメのままで」
- 2019.02.04 Monday
- 12:41
JUGEMテーマ:自作小説
ある街角に怪しげな店がありました。
並んでいる商品も怪しげな物ばかり。
魔法のランプだの惚れ薬だの。
そこへ一人の少年が通りかかりました。
少年はアニメの少女に恋をしていて、部屋にはグッズがいっぱいです。
周りからオタクだとか気持ち悪いと罵られても、まったく気にすることがないほど、少女に恋焦がれていました。
夜寝る時など、枕元に必ずフィギュアを置くほどです。
いつかあの子が画面の向こうから現れてくれる。
今は無理でも、自分が大人になる頃には科学が進んで、ぜったいにそういう未来になるはずだ。
少年は信じて疑いませんでした。
なぜならいくら恋をしてみても、相手は実在しない人物です。
恋心が強くなればなるほどに、手の届かない少女への想いに苦しむばかりでした。
そんなある時、たまたま通りかかった道で怪しげな店と出会ったのでした。
興味本位で足を踏み入れると、なんとアニメのキャラクターを現実世界に召喚できるアプリが売られていました。
値段も手頃で、子供のお小遣いでも買えるほど。
少年はすぐにそのアプリを購入しました。
早速スマホにインストールしていると、店主から一つ注意が言い渡されました。
そのアプリで召喚されたキャラクターは二度と元に戻せないと。
少年はなんの問題もないよと答えながら店を出ました。
不思議なことに、振り返ると店は消えていました。
少し怖くなる少年でしたが、まあいいかと気を取り直し、ウキウキと家に帰りました。
そして高鳴る気持ちを抑えながら、大好きなアニメのキャラクターを召喚しました。
今まで液晶の向こうにしかいなかった彼女が実体を持って現れます。
と同時にアプリは消滅しました。
憧れ、恋焦がれた少女が実物となって目の前にいる。
ぜったいに手が届かないと思っていたのに、まさかこうして会えるなんて・・・・。
これでようやく恋が実るんだ!
少年は嬉しさと緊張と興奮のあまり、直視することさえ出来ませんでした。
顔を真っ赤にしながらそわそわしていると、少女はおもむろに立ち上がり、こう呟きました。
いつも画面の中から見てた世界だ。まさか本当に来ることが出来るなんて。
そして少年に向かって「ありがとう」と言い残し、どこかへ去ってしまいました。
我に返った少年は、すぐに少女を探しに出かけました。
しかしいくら探しても見つかりません。
せっかく恋が叶うと思ったのに・・・・。
がっかりしながら家に戻ると、ある異変が起きていました。
あの少女が出ていたアニメを見ても、どこにも登場しないのです。
DVDにも、録画していたテレビにも。
それどころか部屋に貼っていたポスターからも消えていました。
まさかと思って棚を振り返ると、フィギュアまで消えています。
彼女が出ているあらゆる映像、イラスト、グッズ。
全てから彼女の存在が抹消されていました。
少年は気づきました。アニメのキャラクターを召喚してしまったから、アニメの世界から消えてしまったんだと。
もう二度とあの少女を見ることは出来ない。
ひどく落ち込む少年でしたが、立ち直るキッカケはすぐにやってきました。
数日後のこと、なにげなくテレビを見ていると、なんとあの少女が出ていたのです。
千年に一人の美少女現る!という謳い文句とともに。
この日を境に、少女は毎日のようにテレビに引っ張りだこになり、瞬く間にスターダムに駆け上がりました。
曲を出せば飛ぶように売れ、ライブをやれば満員御礼。
彼女が出ているというだけで映画も大ヒットするほどの人気者になりました。
少年はもちろんCDも買ったし、映画も見に行きました。
ライブにも行きましたが、どう頑張っても近くで会うことは叶いません。
一度だけ握手会が催されたことがあり、この時だけ直に話しかけ、手を握ることが出来ました。
しかしそれも束の間、次から次へと押し寄せるファンの波に逆らうことは出来ず、自分は見渡す限りいるファンの中の一人に過ぎないのだと思い知りました。
それでも諦めきれない少年は、毎日のようにファンレターを送りました。
高校を卒業し、大学生になり、社会人になってからも。
あれだけ憧れた画面の向こうの彼女が現実の世界にいる。
ちょっとやそっとで諦めることは出来ませんでした。
しかし何年ファンレターを送り続けても、返事が来ることはありませんでした。
それもそのはず、彼女は世間の注目を浴びる人気者で、一日に何百通と送られてくる手紙をいちいち読み返している暇などありません。
アニメならではの完璧な美しさ、それを現実の人間として具現化した彼女の美貌は、世界一といっても過言ではなかったからです。
少年が社会人となって三年後、少女も立派な大人になり、テレビからこんなニュースが流れました。
映画で共演したイケメン俳優と熱愛発覚。
翌年には破局してしまいましたが、さらに二年後には若くして大成功を収めた実業家との結婚を発表しました。
売れるということを味わいつくした彼女は、もう芸能界に未練はないとばかりに、結婚を機にあっさりと引退を決意します。
そしてあらゆるメディアからその姿を消してしまいました。
テレビを点けてもネットを開いても、もう生の彼女を見ることは出来ません。
この時、かつて少年だった男は自分の愚かしさを後悔しました。
アニメの中にいようと現実の世界に出てこようと、彼女は自分の手が届く存在ではなかったのだと。
そして同じ手が届かないのなら、まだアニメの中にいてくれた方がよかったと。
それならば永遠の心の恋人として、いつでも会うことが出来たのに・・・・・。
あれだけ大事にしていたアニメのDVD、部屋を埋め尽くしていたグッズ。
もうどこにも彼女の姿はありません。
アニメのイラスト集でさえ、彼女の部分だけが空白です。
後悔を抱えながら街をぶらついていると、なんとまたあの怪しげな店を見つけました。
しかし彼は踵を返して去ります。
画面の向こうから誰かを呼び出そうとは二度と思いませんでした。
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