VS変人類〜占い 師観月の挑戦〜 最終話 占い師VS変人類

  • 2015.12.19 Saturday
  • 14:21
JUGEMテーマ:自作小説
通い慣れた店というのは落ち着くもので、ズズッと苦いコーヒーをすする。
目の前には杉原と高司もいて、同じようにコーヒーを飲んでいた。
見慣れた友達の顔も、俺の心に安らぎを与えてくれる。持つべきものは友だなと、感慨深く窓の外を見つめた。
「そういやあそこにいた呪い女、いつの間にかいなくなってたな。」
杉原がコンビニに目を向けながら言う。
「まあそのおかげで、またここへ来れるようになったんだけどさ。お前なんか知ってる?」
そう聞かれた高司は「知らねえよ」と答えた。
「クビにでもなったんじゃねえの?」
「やっぱそうなんかな?全然見ねえもんな。」
「そりゃ仕事中に猫に餌やったりしてたらクビになるだろ。」
「もう二度と関わりたくないタイプの女だったな。」
「顔は可愛かったけどな。でも性格があれじゃ男は出来ないだろ。」
「アレ、処女かね?」
「じゃないの。だって男がいそうな感じしなかったし。」
二人はコンビニに目を向けながら、あの女について語り合う。
そして「お前はどうよ?」と杉原が尋ねてきた。
「あの女、男がいると思うか?」
「・・・・・・・・・。」
「どうしたよ黙り込んで?」
「別に。」
「歳は幾つくらいかね?俺はけっこういってると見てんだが。」
「19。」
「19?あれが?」
杉原は口をすぼめ、高司と目を合わせる。
「あれが19はないだろ。30手前くらいに見えるぞ。」
「俺もそう思う。若くても20代の半ばくらいだろ。」
「19。」
「ほんとかよ・・・・?」
「ほんと。19で間違いない。」
「マジかよ・・・・・とてもそんな風に見えねえ。」
杉原は納得がいかないという風に目を細める。すると高司が「まあコイツが言うんなら間違いないんじゃないの」とフォローした。
「コイツ、女を見る目だけは確かだからな。」
「まあ・・・・そうだな。ていうかそれで食ってるようなもんだし。」
「占い師よりホストに向いてるよな。」
「いやあ・・・どうかな?あの世界って上下関係がキツイらしいから、コイツには向かねえだろ。」
「ああ、確かに。」
「でもこの女たらしが言うなら、やっぱり19なのかもな。」
「そんな若いのに、あんな電波な性格とはな。顔が可愛いだけに不憫だよ。」
「ならお前がもらってやれよ。」
「なんでだよ?彼女いるっつうの。」
「でも浮気されたんだろ?ていうかお前二番目だったじゃん。」
「・・・・・・・・・・・。」
「あ、マジでへこんだ?」
「それ言うなよ・・・・・こう見えてもかなりショックだったんだから・・・・。」
高司は落ち込み、「女って分かんねえ・・・」と呟いた。
「まさか他に男がいたなんて・・・・、」
「もう別れろよ。ていうか別れるべきだ。」
「んなこと分かってんだよ。でもなあ・・・・めちゃくちゃ可愛いからな・・・・、」
「顔だけで選ぶなら、あの呪い女でもいいじゃん。」
「いや、さすがにアレはちょっと・・・・、」
「なら今の女とも別れろよ。でないとずっとATMにされるだけだぞ。」
「でも可愛いから・・・・、」
「だったら呪い女でもいいじゃん。」
「アレはちょっと・・・・、」
「なんで?顔もスタイルも良かったじゃねえか。面食いのお前なら性格なんて二の次だろ。」
二人は電波女と付き合えるかどうかの話題に移り、かなり盛り上がっている。
俺はタバコに火を点けながら、「彼氏ならいるぞ」と答えた。
「ん?何が?」
杉原が目を向ける。俺はもう一度「彼氏ならいる」と答えた。
「あの女に?」
「そう。」
「マジかよ?」
「芸術家の卵と付き合ってる。」
「芸術家の卵?えらい具体的な推測だなオイ?」
「写真のモデルになったのがキッカケだ。お互いに変人だから、何か通じ合うものがあったらしい。」
「そ・・・・そうなのか。まるで見て来たような言い草だな。」
「見てはいない。でも知ってはいる。」
そう答えると、杉原は「おいおいおい・・・・」と身を乗り出した。
「お前・・・・とうとうオカルトに染まり始めたか?」
「なんで?」
「だって見てないのにどうして分かるんだよ?霊視でもしたのか?」
「しなくても分かる。」
「なんで?」
「これがあるから。」
俺はスマホを取り出し、銀鷹君から送られてきたLINEを見せた。
そこには電波女と一緒に写っている銀鷹君がいた。
仲良さそうに寄り添い、頭をくっ付け合っている。
そして写真の下に、『付き合うことになりました!』とメッセージが添えてあった。
それを見た二人は「何これ!?」と叫んだ。
「おい!なんだこりゃ!?」
「呪い女が満面の笑みでピースしてる・・・・・逆に怖い。」
二人はまじまじと写真を見つめながら、信じられないという風に目を寄せ合っていた。
「その二人、俺が占った客だ。」
「マジで!?」
杉原が目を見開いて驚く。
「このインディアンみたいなオッサンと、あの呪い女を占ったのか?」
「まあな。ちなみにインディアンの方はオッサンじゃない。また17のガキだ。」
「ああ・・・なるほど・・・これがお前の言ってた変人どもってわけか。」
「他にも変人はいるぞ。若ハゲの霊能力者に、男みたいな女と結婚してるマッチョマン。どいつもこいつも俺の自信を打ち砕きやがった。」
「ならこの二人も・・・・・、」
「ああ。どっちも俺を苦しめた強敵だ。みんな理解不能な連中だよ。」
「・・・・そうか。あの呪い女みたいな客ばっかりだったら、そりゃ自信も失うわな。」
「さっきその女の歳を当てたけど、それは本人から聞いたことだ。」
「そうなの?」
「俺の見立てじゃ、30手前のバツイチだったからな。」
「え?この女バツイチなの?」
「なわけねえだろ。まだ19だぞ。」
「なら何一つ当たってねえじゃん。」
「うむ、見事にな。」
「いや、偉そうに言うなよ。」
杉原は椅子にもたれかかり、「それ致命的じゃんか」と指をさした。
「お前の占いって、女を見抜く眼力がものを言うんだろ?そんでペラペラ屁理屈並べ立ててさ。」
「屁理屈は余計だ。」
「でもその眼力が衰えてきたとなると、これはやっぱり致命的なんじゃ・・・・、」
「違う、衰えたんじゃない。通用しない相手がいるってことだ。」
タバコを吹かしながら、コンビニの方に顔を逸らす。わざとらしく目を細め、「世の中ってのはなあ・・・・」と切り出した。
「俺が思う以上に変わった奴らがいる。しかも意外と多い。」
「占いに来る時点で、そうまともじゃないだろ。」
「んなことねえよ。悩みを持ってる奴は、けっこう来たリするんだ。」
「でもこの先変人の客が増えるとなると、それは困るよな?」
「・・・・変人も困るけど、それ以上に困ってることがある。」
「何?」
「女を見抜く俺の眼力・・・・・今まで正しかったのかなって疑ってるんだ。」
真面目な顔でそう言うと、二人は顔を見合わせた。そしてワンテンポ遅れて「だははははは!」と笑った。
「なんだよお前!すんげえ自信失くしてるな。」
「よっぽど変人どもが強烈だったんだよ。だからこんなに落ち込んでんだ!」
二人はなぜか爆笑し、涙目でコーヒーをすする。
俺はタバコの煙を飛ばして、「何がおかしい?」と睨んだ。
「いや・・・・だってさ。お前の女を見る目は悪くないよ。」
「そうそう、実際に結婚まで漕ぎ着けたカップルだっているわけだし。」
「ならなんで笑う?俺は本気で落ち込んでんだぞ。」
そう言ってまた煙を飛ばすと、杉原は「それで最近サボってたんだな」と頷いた。
「お前、もう一カ月くらい占いをやってないんだろ?」
「自信がない。何言ってっも屁理屈にしかならないような気がするんだよ。」
「いや、元々屁理屈だから。」
「でもそれなりに筋の通った屁理屈だ。だけどそれが変人には通用しない。商売上がったりだよ。」
「ならここらで転職するか?今ならウチで整備士を募集してるぞ。」
「・・・いや、いい。」
「なんで?もう26なんだし、そろそろ本気で人生考えないと。なあ?」
そう言って高司に同意を求めると、「まあそうだな」と頷いた。
「30過ぎたら就職だって難しくなるわけだし、ここらで地に足のついた職を見つけた方がいいんじゃね?」
「だよな?俺もそう思う。」
「二年も自分の好きなことやってきたんだぜ?もうそろそろ本気で人生考えても良い頃だろ。でないとお前自身が変人になっちまうぞ。」
「まあそうなったらなったで面白いけどな。あの呪い女みたいな奴とくっ付いたりして。」
「それはそれで見てみたいな。こいつらな案外上手くやるかも。」
二人は勝手な話題で盛り上がり、俺の意見などそっちのけだ。
でもまあ・・・・そう言われても仕方がない。杉原も高司も固い職に就いてるわけで、こいつらからしたら俺なんて遊んでる風にしか見えないだろう。
だけど俺にだってまだ信念はある。
自信は失ったけど、でも逃げる気にはなれない。
むっつり黙ったままタバコを吹かしていると、「そういえばさ」と杉原が口を開いた。
「ちょっと前のことなんだけど、俺らの周りを嗅ぎまわってる奴がいたんだよ。」
「嗅ぎまわる?」
突然気になることを言い出し、思わず顔をしかめた。
「なんか頭の禿げたオッサンでさ、仕事場とか家の周りをウロウロしてんだよ。そんで一度だけ話しかけられたことがある。」
「・・・ほう・・・・頭の禿げたオッサンねえ・・・・。」
天井に煙を飛ばし、ポワっと輪っかを作る。
すると高司も「お前もか!」と驚いた。
「実は俺んところにも怪しい奴が来たんだよ。なんかこっちのことをジロジロ見てさ。気味悪かったな。」
「マジかよ・・・お前もかよ。」
「あれさ、もしかして探偵か何かじゃね?」
「ああ、なるほどな。誰かの浮気を調べてたとか?」
「可能性はあるだろ。」
「でもそうなると、俺とお前の共通の知り合いを調べてたことになるよな?でないと俺らん所に来ないだろうから。」
「俺とお前の共通の知り合いかあ・・・・。けっこういるから分かんねえな。」
「でも探偵が調べるなら、やっぱり浮気調査だろ。だったら結婚してる奴だ。」
「俺とお前の共通の知り合いで、なおかつ既婚者・・・・。何人か思い当たるな。」
「ほら、木根とか浮気しそうじゃね?あいつけっこう女遊びが酷いから。嫁さんには隠してるらしいけど。」
「かもな。でも園田も怪しいな。あいつ昔っから性欲の塊みたいな男じゃん?一人の女で満足してるとは思えない。」
「そう考えると、どいつも怪しく思えてくるな。」
「まあなあ・・・。でも浮気しない奴の方が少ないんじゃね?俺だって彼女に浮気されてたわけだし。」
「いや、お前のは浮気とは言わない。ただの金づるって言うんだ。」
こいつらは女みたいにコロコロ話題を変えやがる。
俺は短くなったタバコを消しながら、「それは探偵じゃねえよ」と答えた。
「多分そいつは占い師だ。」
「占い師?」
「自称霊能力者のな。」
「霊能力者なんてみんな自称だろ。」
杉原は馬鹿にしたように笑う。
「あ、そういえばお前ん所にも霊能力者がいるんだろ?」
「隣にな。まだ25なのに禿げ散らかしてる。」
「25でハゲか・・・・辛いもんがあるな。」
「同情は不要だぞ。だってお前らの周りを嗅ぎまわってた怪しい奴ってのは、多分そいつだ。」
そう答えると、二人して「マジで!?」と驚いた。
「マジマジ。ていうかあのハゲしか考えられない。」
「でも・・・なんでそんな事すんだよ?」
「多分俺の情報を集めてたんだろ。」
「お前の情報?・・・・・それ、まさかストーカーされてるんじゃ・・・・、」
「違えよバカ。霊能力の下準備だ。」
「霊能力の下準備?なんだそれ?意味分かんねえ。」
「ホットリーディングって言ってな。霊能力者とか超能力者がよくやる手法なんだよ。
事前に相手のことを調べておいて、その情報を元に霊視や占いをするんだ。そうすりゃいくらでも相手の事を当てられるだろ?」
「ああ、なるほどね。下準備ってそういう意味か。」
「テレビに出てる霊能力者とかがよくやる手法らしいぜ。」
「ふうん、占いもけっこう手間が掛かるんだな。普通の仕事やった方が効率的じゃね?」
「名前が売れれば大金が手に入るからな。やるだけの価値はあるんだろうぜ。」
「なるほどねえ。でもさ、なんでお前がそのホットリーディングとやらをされてたわけ?占い師が占い師を占っても意味ないだろ?なんか事情でもあるのか?」
「さあな。でも嫌われてるのは間違いない。元々反りが合わなかったし、俺もあのハゲのことは嫌いだ。」
「ならそのホットリーディングってやつで情報を集めて、お前に嫌がらせでもしようとしてたってわけか?」
「みたいだな。まあ失敗に終わったけど。」
「大変だな、占い師の世界も。どこ行ったって競争社会なのは変わらないってことか。」
「そういうのとは違う。ただ単にあいつが俺のこと嫌ってただけだ。」
憎きあのハゲの顔を思い出しながら、新しいタバコを咥える。
カチリと火を点け、天井に向かって煙を飛ばした時、高司のケータイが鳴った。
「あ!」
「どした?」
「仕事用のケータイなんだよこれ。出たくねえなあ・・・・。」
「出なきゃいいじゃん。」
「そういうわけにもいかないんだよ。」
「なんで?嫌なら無視すりゃいいだろ。」
煙を飛ばしながら言うと、「あのな・・・」と睨まれた。
「俺は人に雇われる身なの。自由気ままなお前とは違うんだよ。」
「さいですか。」
「ちょっとすまん。」
そう言って席を外し、外へと出て行く。窓から様子を眺めていると、ケータイ片手にお辞儀をしていた。
「大変だなあいつも。」
「まあ営業職だからな。最近は土日だってけっこう働いてるぜ。」
「休日出勤ですか、精が出ることで。」
「まあ高司には向いてるよ。あいつけっこう人当たりがいいし、俺らん中で一番体育会系だし。だから契約だってけっこう取ってるみたいだし、少々のことでへこたれないし。」
「それは言えてるな。あいつのメンタルは鉄とまでは言わなくても、ステンレスくらいは硬そうだ。」
「営業は向いてる人間には天職だっていうからな。ノルマさえ上げりゃ給料も比例するし。」
「出来高制か。なら俺の仕事と似てるな。」
「技術職なのは俺だけだ。」
「おい、占い師だって技術職だぞ?」
「屁理屈こねるだけの仕事で何言ってんだ。技術職ってのは、何かを生み出す仕事のことなんだよ。」
そう言ってスパナを回す振りをして、「俺みたいな仕事が技術職だ」と胸を張った。
「どこが?イカれた車直してるだけじゃねえか。」
「直さなきゃ走れないだろ?死ぬかもしれない車を復活させてんだ。充分にクリエイティブだろが。」
「クリエイティブって。お前からそんな言葉が出るとは思わなかった。」
「ふん、何とでも言え。俺はこの仕事に誇りを持ってんだ。」
「昔っから車好きだったもんな、お前。」
「まあな。ずっと好きなもんに触れられるってのは幸せなことだ。」
そう言ってグイっとコーヒーを飲み干し、「んじゃ俺も行くわ」と立ち上がる。
「お前も?」
「午後から仕事なんだよ。」
「みんな休日出勤だな。もっと日曜を大事にしろよ。」
「そうしたいけど、この不況じゃ休んでる方が損だ。それに車イジッてる時は幸せだし、別に嫌々行くんじゃねえよ。」
テーブルの伝票を摘まみ、「ここは奢るわ」とカウンターへ向かう。
そして急に振り返って、「お前はいつまでサボってんだ?」と尋ねた。
「何が?」
「占いだよ。もうこのまま行かないつもりか?」
「さあ、分かんね。」
「でも一カ月も休んでんだろ。あんまりサボってると、客だって離れて行くんじゃねえか?」
「ちょっと考える時間が欲しいんだよ。」
「そうか。まあお前の仕事のことだからな、納得いくまで悩んだらいいけど。」
そう言って「でもマジでヤバくなったら言えよ」と指をさした。
「俺ん所ならいつでも募集してる。本気でやる気なら、俺が一から車のこと教えてやるから。でもその代わり根性はいるぞ。」
「なんだよ?今日はえらく優しいな。」
「これでも一応お前を心配してんの。高司だって同じだぜ。」
「そうなの?」
「そりゃ占い師なんて不安定な仕事してんだ。いつどうなってもおかしくねえだろ。」
「気持ちはありがたいけどな、でも同情はいらん。お前らに心配されるほど落ちぶれてないしな。」
「そんな減らず口が叩けるんならまだ大丈夫だな。」
杉原は笑いながら会計を済ませ、「そんじゃまた」と手を挙げる。
俺も「おう」と返すと、コンコンと窓がノックされた。
見ると高司が《すまん》と言いたそうな表情で、手を拝むようにしていた。
ケータイを指さしながら、『し・ご・と』と口の動きで伝える。
「お前もか。またな。」
手を挙げて言うと、高司も手を挙げて応える。そして足早に車の方へと去って行った。
「みんな忙しいねえ。」
冷めたコーヒーをすすりながら、一人タバコを吹かす。
「やっぱあいつらからしたら、俺も変人の部類なんかな?でも俺なんかよりももっと変人がいるわけで、だったら俺は何だ?
普通の奴でもない、かといって変人でもない。いったいどこに位置してるんだろうな?」
一人呟きながら、店の中を見渡す。
すると離れた席にポツンと座る美人がいて、思わず見つめた。
《すんごい美人だな。しかも日曜の昼時に、一人で喫茶店に来て本を読んでる。映画とかドラマの中でしか見たことないけど、ほんとにあんな奴がいるんだなあ。》
物珍しく見ていると、ついつい俺の目が疼き出す。
あんな美人が、休日に一人で本を読んでいる。しかもわざわざ喫茶店で。
いったいどういう理由でここへ来て、どういう理由で一人で本を読んでいるのか?
歳は幾つだ?恋人はいるのか?結婚は?子供は?
どんな性格で、どんな思考の持ち主で、どんな仕事をしていて、どんな人生を歩んでいるのか?
無意識に分析を始め、気がつけば占いモードに入っていた。
《・・・・ああ、なるほどね。俺もあいつらと同じだわ。仕事の日でもないのに、仕事をしようとしてる。
これってつまり、仕事を仕事と思ってないってことだ。これをやる事こそが、自分の人生だって思ってるんだな。》
俺は変人か?それとも普通の人間か?
それは分からないけど、でも確かなことがある。
俺もこの先も占い師を続けていたいってことだ。
色んな変人に当たって自信を失くしていたけど、でもそんなものはまた取り戻せる。
これこそが自分の仕事なんだって思えるなら、辞める理由なんて一つもないんだから。
《自信くらいいくらでも取り戻せる。でも天職を捨てたら一生後悔する。》
杉原も高司も、そろそろ本気で人生を考えろと言うが、本気で考えるからこそ普通の仕事には就けない。
俺は本を読む女を見つめながら、もし彼女が客として来たらどうしよかとシュミレーションした。
すると向こうもこちらに気づき、ふと目が合ってしまった。
俺は笑顔で軽く頭を下げる。
女は訝しそうに眉を寄せていたけど、やがて読書に戻った。
《歳は27ってところかな。彼氏はいない、でも男性経験がないわけじゃなさそうだ。見た目は大人しそうだけど、でも芯はブレないタイプと見た。
思ったことはそのまま口にせず、一度頭の中で整理してから喋りそうな感じだな。そうするのは思慮深いからっていうのもあるけど、多分相手を気遣ってのことだ。
でもそれって逆に言えば、大抵の相手は言い負かせるほど弁が立つってことでもあるよな。格闘技やってる奴が、素人と戦う時は手加減するみたいな感じで。》
冷めたコーヒーをすすり、さらに観察を続ける。
《こういうタイプの女は、残念ながら男には縁が少ない。顔は良いし、性格も悪くなさそうだけど、男って自分よりも弁の立つ女なんて敬遠するからな。》
弁が立つということと、口喧嘩が強いということは別で、口喧嘩が強いだけの女なら、男はそこまで敬遠しない。
しかし理詰めで弁が立つ女というのは、男にとってはある種の天敵だ。
感情論で負ける分にはいいけど、理論や知性で負けると男の立つ瀬がなくなるからだ。
《そういうのを情けないって言う女もいるけど、じゃあ果たしてそういう女は、自分よりもファッションセンスが良くて、自分よりも綺麗な顔した男と付き合えるかって話だ。
男には男のプライドがあって、女には女のプライドがある。どっちのプライドも異性に突かれると嫌なもんだから、相手を立てない奴は男女共に嫌われる。
悪いけど、本を読んでるあの女はそういうタイプだな。自分じゃセーブしてるつもりでも、男のプライドを逆撫ですることが多そうだ。
電波女ほどじゃないにしても、彼女もある種の変人と言ってもいいかもしれないな。》
そう分析していると、マスターがこちらに歩いて来た。
ちょっと薄くなった頭をテカらせながら、「観月君さ」と呼んだ。
「今あそこに座ってるお客さんなんだけど・・・・、」
「ああ、あの本を読んでる人?」
「あの子ね、最近よく来るんだけど、どうも悩んでるらしいんだよ。」
「悩んでる?何を?」
「その・・・・仕事も恋愛も上手くいかないらしくて、その原因が分からないんだとさ。」
「へえ、そうなんだ。」
「でね、僕・・・・・勝手なこと言っちゃったんだよね。」
「勝手なこと?」
マスターは申し訳なさそうな顔をしながら、「実は・・・」と切り出した。
「ウチの常連に、ものすごく当たる占い師がいるって言っちゃったんだよ。その人は日曜に来ることが多いから、もしよかったら占ってもらったらって。」
「ああ、そういうこと・・・・。」
「店に誰もいないと、よく僕に話しかけてくるんだよ。どうして自分は上手くいかないんだろうって。でもそれがいったん始めると、もう長いのなんのって・・・・。」
マスターは辟易としたように言って、クシャっと顔を渋らせた。
「ならマスターはこう言いたいわけだ?あの子に捕まると、延々と愚痴を聞かされて仕事にならないと。」
「まあそんなところ。大きな声じゃ言えないけどさ。」
「それをどうにかする為に、俺を引き合いに出したと?」
「だって観月君占い師なんでしょ?だったらあの子を見てあげてよ。もし満足すれば、延々と愚痴ることもなくなるだろうから。」
そう言ってマスターは「この通り!」と手を合わせた。
「もし上手くいったら、コーヒー奢ってあげるからさ。」
「それ、全然占い料に足りないんですけど・・・・、」
「そう言わずに。顔馴染みのマスターの頼みだと思って・・・・この通り。」
マスターは何度も拝むように手を合わせる。俺はタバコを消しながら「いいよやっても」と立ち上がった。
「でも最近ちょっと失敗続きでさ、上手くいくか分からないよ?」
「いいのいいの。あの子に観月君を紹介するって言っちゃった手前、何もしないわけにはいかないから。」
「いい加減な・・・・・。」
残ったコーヒーを飲み干し、水で口直しをする。心の中で《よっしゃ!》と気合を入れ、読書女の元に向かった。
「どうも、占い師の観月真一と言います。」
笑顔で自己紹介しながら、向かいの椅子に座る。
女は少し緊張していたが、「草木恵梨香です」と頭を下げた。
「仕事や恋愛で悩んでるんだってね。マスターから聞いたよ。」
「ええ・・・・少し・・・・、」
女は目を寄せながら、まじまじとこちらを見る。俺の発する一言一句の奥に、いったいどういう意図があるのか?それを見抜こうとしているのがバレバレだった。
《そんなに相手を探ってちゃ、仕事も恋愛も上手くいかないのは当たり前だっての。もうちょい肩の力を抜いたらいいのに。》
こういう手合いには、まず相手を有利に立たせる必要がある。正確には、主導権はあなたにありますよと錯覚させるのだ。まあ実際は俺が手綱を握ってるんだけど。
でもそう錯覚させる為には、相手の警戒心を解かないといけない。
だから俺は、あの変人どものことを語ってやった。
多少誇張しながら、身振り手振りを交えて。
女は驚き、笑い、そして感心している。
《うんうん、変人のエピソードに共感を抱いているみたいだな。通じるもんがあるってことは、こいつもやっぱり変人なんだろう。だったらこれはリベンジだ。この先、俺が占い師としてやっていけるかどうか・・・・この女で試してやる。》
自信はないけど、俄然やる気は出てくる。
銀鷹君、マッチョマン、オカルト占い師、そして電波女。変人は変人で真面目に生きていて、それだけはちゃんと伝わってきた。
それに高司や杉原のように、普通の奴らも真剣に生きている。
だったら俺も、真剣に生きねばなるまい。まだどっちの人種か自分でも分からないけど、どっちにしたって真剣に生きていくしかないのだ。
女はだいぶ気持ちがほぐれたようで、ポツポツと自分のことを語り出した。
マスターの持って来たコーヒーに目を落としながら、綺麗な顔には似合わない辛辣が言葉が飛び出してくる。
決して暴言ではないが、相手の心を抉るような鋭い言葉だ。
《この女、まるでナイフだな。そりゃ敬遠されるっての。》
角砂糖を二つほどつまみ、カップの中にポチャリと落とす。
「ブラックもいいけど、たまには甘いやつも飲んでみたら?気持ちが和らぐよ。」
女のコーヒーにも砂糖を入れ、ゆっくりとかき混ぜてやった。


            -完-

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十四話 変人VS変人

  • 2015.12.18 Friday
  • 14:14
JUGEMテーマ:自作小説
占い師なら、未来に起こることを予測できるはずだ。
多くの人はそう思ってるかもしれないけど、あいにく占い師にそんな力はない。
もし未来が予測できるなら、俺はもっと良い暮らしをしてるだろう。
競馬や競艇で大儲けして、週の半分は遊んで過ごす。
でもそうはならないから、こうしてせっせと占いに励んでいる。
電波女の占いは、彼女の望まない結果に終わった。
散々話を聞いた挙句、俺の出した答えが「医者へ行け」だったからだ。
電波女は「呪ってやる!」と言い残し、席を去ろうとする。
でもそこへ路上アーティストの銀鷹君がやってきて、飯をねだってきた。
別にそれ自体はかまわない。元々そういう約束をしてたんだから。
でも銀鷹君は、電波女を見るなりこう言った。
「あんた・・・・顔暗いっすね。」
初対面の人間に向かって、いきなりダメ出しである。しかも続けて「美人なのに勿体無いっすよ」と笑った。
「世の中には整形してまで美人になりたがる人もいるのに、そんな仏頂面してちゃダメっすよ。もっと笑ってないと。」
そう言って女の頬をつまみ、グイッと引っ張った。
「ほら、こうやって笑ったら可愛いっす。」
ブニブニと電波の頬を引っ張り、楽しそうに笑っている。
「・・・・・・・・・・。」
電波女の顔から見る見るうちに血の気が引き、サッと拳を振り上げた。
そして思い切り銀鷹君のおでこを殴る。
「痛ッ!」
ガコ!っと音がして、電波の拳がめり込む。
銀鷹君は頭を押さえ、その場にうずくまった。
「なんだお前!?ふざけるな!」
電波女は奇声を上げ、銀鷹君を蹴りまくる。
俺は「やめろ!」と慌てて止めに入った。
「手え出すなバカ!」
「勝手に触るな!この変態!」
「ちょっと落ち着け!おいハゲ、お前も手伝え!」
「あ・・・・・ああ!」
俺とオカルト野郎で取り押さえ、どうにか銀鷹君から引き離す。
「この野郎!なんだいきなり!」
電波女の怒りは治まらず、俺たちに抱えられながらも蹴りを出している。
「てめえなんだこの!初対面の人間にやることか!」
女の顔は鬼を通り越し、般若のように歪んでいる。
超が付くほど真面目な性格のせいか、非常識はことはとことん許せないらしい。
まああんな事されたら俺もキレるだろうけど・・・・。
しかし銀鷹君は平然と立ち上がり、「女のわりにすげえ蹴りっすね」と笑っていた。
「そんな可愛い顔してるのに、すげえ力で蹴りまくるって・・・・あんた芸術っすよ。」
意味不明なことを言い出し、「ちょっとモデルになってもらえません?」と頼んだ。
「俺、最近写真に凝ってるんすよ。それをパソコンに取り込んで、立体的に表現するんです。」
そう言ってデカいバッグの中から、何枚かの写真を取り出した。
「これ、一緒に住んでるホームレスのおっちゃんに頼んで撮らせてもらったんす。
まだまだ完成には程遠いけど、でも出来上がったら3Dプリンタみたいに立体の写真になるはずなんすよ。」
あらゆる角度から撮影したオッサンの写真を見せつけ、「ね?面白そうでしょう?」と笑った。
「どうせ撮るなら面白い人がいいなあと思って。このオッサン、銀行の偉いさんだったのに、悟りを啓くとか言い出して仕事辞めちゃったんすよ。
そんで毎日瞑想してるんす。だけどちょこちょこ風俗に行ったりしてて、全然悟りには程遠いんすよ。しかもホームレスっていったって、何千万も貯金があるし。
それ、絶対悟り啓けねえだろみたいな。」
そう言ってまた別の写真を取り出し、「こっちのオッサンも面白いんすよ」と見せつけた。
「このオッサン、57になるのに、生まれて一度も働いたことがないんす。それに今でも童貞で。なんでかっていうと、15の時に家出して、それから20年も山奥で暮らしてたんすよ。
自分で槍とか弓矢とか作って、獲物を狩ってたんす。しかも土を耕してちょっとした畑とかも作って。
でもある日たまたま街に下りたら、警察に見つかったんすよ。そんで署に連れて行かれて、身元を調べられて。
そしたらすでに死亡したってことになってたんす。親が捜索願を出してたみたいなんすけど、あれって七年見つからないと死んだことになるらしくて。」
面白そうに言いながら、「だから今でも死人のまま」と笑った。
「隙を見て署から逃げ出して、また山に戻って。でもさすがに歳になると、冬がキツイらしくて。だから今は竜胆公園に住みついてるんす。
死亡を取り消す手続きとかしてないから、多分今でも法律上は死人のままっすよ。でもね、ちゃんと生きてるんす。
書類上では死んでても、本人は生きてるんすよ。だから人の生き死になんて、紙っぺらで決められないってことの見本すよね。」
楽しそうに説明しながら、「でもあんたも面白そうっす」と見つめた。
「そんな可愛いのに、鬼みたいな面して叫んで。でもそれがなんつうか・・・・堂に入ってる?って言うんすか?最初はアレだなあとか思ってたけど、でも似合ってるっすよ。
蹴りも凄いし、なんかあんた面白れえなあって。だから写真のモデルに・・・・、」
そう言いかけた時、オカルト占い師が「駄目だよ!」と叫んだ。
「そんなの駄目だ!写真のモデルなんて不埒な!」
「不埒(笑)って。」
「笑うな!太良池さんはそんないい加減な人じゃないんだ!君みたいないい加減な人じゃないんだよ!」
「あ、そう言えばあんたに謝ろうと思ってたんすよ。この前はすんませんでした。せっかく占ってもらったのに怒っちゃって。」
「いいよそんなの!とにかく太良池さんは渡さないからな!モデルなんて絶対にダメ!」
「渡さないって・・・・あんたこの人の彼氏っすか?」
そう尋ねられて、オカルト占い師は「いや・・・・そういうのじゃないけど・・・・」と口ごもった。
「あ、じゃあアレっすか?この人に惚れてんすか?」
「ち、違うよ!太良池さんは友達として大事にしてるだけであって、別にそんな・・・・、」
「でも普通は友達なら渡さないとかって言わないっすよね?やっぱ惚れてるんじゃないすか?」
「うるさいな!なんだよお前失礼な・・・・・もう帰れよ!」
「嫌っす。だって俺、観月さんに会いに来たわけだし、あんたにとやかく言われる筋合いはないと思うんすよ。」
「な・・・なんだよ生意気に・・・。17歳のクセに・・・・、」
「歳とか関係ないっす。年上だからって、理不尽な言うこと聞くのはゴメンなんで。」
「ああ、なんか最近の若者って感じだね。ゆとりとかいうやつだろ?」
「まあそうっす。でもそう育てたのは大人だし、それでゴチャゴチャ言われてもいい迷惑っす。だいたい最近は大人もちゃんとしてないし。どっちもどっちじゃないすか?」
「なんだよお前・・・・ムカつくな・・・・。」
「別にあんたに好かれようとか思ってないっすから。ていうか彼氏じゃないならゴチャゴチャ言う権利ないんで。黙っててもらえません?」
そう言って電波女に目を向け、「モデルやってもらえないっすか?」と頼んだ。
「俺、今はホームレスなんで報酬とか払えないけど・・・・。でもいつかきっと有名なアーティストになるんで、出世払いってことでお願いします。」
銀鷹君は礼儀正しく足を揃え、深く頭を下げた。
「あんたみたいな面白い人撮りたいんすよ。お願いします。」
銀鷹君・・・・・喋り方と服装はアレだけど、でも中身は憎めない。
まあ口の悪さに関しちゃ、俺も彼のことは言えないけど・・・・。
電波女はじっと銀鷹君を睨んでいて、「放して」と呟いた。
「もう暴れないから。」
「え?あ、ああ・・・・、」
「佐々木さんも。」
「あ、ああ!ごめん・・・・。」
手を放すと、電波女は銀鷹君に詰め寄った。
「君、まだ17歳なの?」
「そうっす。見た目老けてるけど。」
「学校は?」
「辞めました。」
「どうして?」
「やりたい事があるんで。」
「写真?」
「まあ・・・・写真も含めてって感じっす。アーティストになりたいんすよ。」
「ご両親は何て言ってるの?」
「反対してます。高校くらい行けって。」
「じゃあ学校にも行かず、家も飛び出してホームレスやってるわけ?」
「そうっす。」
「・・・・・・・・・・。」
「どうしたんすか?暗い顔して。」
「将来は不安じゃないの?17でホームレスなんて、まともな子のやることじゃないと思う。適当に生きてるわけ?」
「逆っす。真剣に生きてるからホームレスなんすよ。いや、別にホームレスになりたかったってわけじゃなくて、成功するまではそれでも仕方ないかなあって。」
「本当にそっちの道に進みたいなら、そういう学校に行こうとは思わなかったの?」
「ああ、美術学校みたいな?」
「そう。高校でも美術科がある学校はあるでしょ?どうしてそっちへ行かなかったの?」
「う〜ん・・・・難しい質問すね。」
「受験が嫌だった?勉強が嫌いとか。」
「そんな事ないっすよ。俺、成績はけっこうよかったし、勉強もちゃんとしてたし。だけどどうしてもそっちへは行けないなあっていうか。」
「なら思いつきで学校を辞めたわけ?」
「そうかもしれないっすね。」
「行きたくても行けない子がいるのに、どうして卒業まで行こうとは思わなかったの?」
「だって高校は義務教育じゃないっしょ。行きたい奴が行けばいいと思うし、行きたくても行けない子がいるっていうのは、俺のせいじゃないっす。」
「・・・・・・・・・・・。」
「俺、まだ17だし、他人のこと考えてる余裕ないんで。社会の為とか人の為とか、そういうのってまず自分がちゃんと一人前にならないと出来ないっすから。
だからもし誰かの為に何かするんだとしたら、それは夢を叶えた時っすね。まだまだ半人前なのに、誰かの為とかってちょっと偉そうっていうか。」
「偉そう・・・・・・。」
「まあ元々そういう道に進みたい人ならいいと思うんすよ。ほら、海外でボランティアやる人とか。
でもそうじゃないなら、まずは自分のことでしょ。ていうかボランティアやる人だって、いい加減だと出来ないと思うんすよ。
ああいうのって、甘い考えでやると続かないっていうか。」
「やったことあるの?」
「一回だけ。ホームレスを支援するボランティアに参加したことがあるんすよ。まあ俺もホームレスなんすけど。」
笑いながら言って、「でもあれってけっこう大変で」と腕を組んだ。
「人の為っていうのは、よっぽど信念ないと出来ないっすね。こう・・・・なんていうか、ちゃんと現実見てないとダメっていうか。
地に足ついてない奴がやっても厳しいっすよ。実際に俺が参加してた時も、続かない人だっていたし。」
「そう・・・・やったことあるんだ。」
「でもまあそれはそれっすよ。俺、やっぱりアーティストになりたいんで、今は人の事とかどうでもいいっす。だからお願いっす。あんたを撮らせてくれません?」
そう言って小さなカメラを取り出し、「こいつでパシャっと」とレンズを向けた。
「これ、けっこう奮発して買ったんすよ。日雇いの仕事とかこなしたり、ダチの家の仕事手伝ったり。そんな高くないけど、けっこう綺麗に写るんす。
だからあんたもバッチリ撮ってみせますよ。」
自信満々に言いながら、レンズに女を映している。
「・・・・・・・・・・・。」
電波女はなぜか俯き、勢いを失くしてしまった。
「どうしたんすか?」
銀鷹君が顔を覗き込むと、女は「私には真似出来ないな・・・」と呟いた。
「そんな風に自由に生きるなんて、私には無理だ・・・・。」
「いや、大抵の人は無理っしょ。俺、自分が変わってるって自覚してるんで。」
「そうだけど、でも良い意味で変わってる。それに比べて私は、悪い意味で変わってる。そこのインチキ占い師の言うとおり、やっぱり病気なのかも・・・・。」
悲しそうに言って、「病院、考えてみようかな・・・」と顔を上げた。
「私にだってちゃんと夢があった。でも今は・・・・何もしてない。ただ自分の正義を守ろうとしてるだけ。
その正義だって、他人から見れば鬱陶しいものだって分かってる。でもこれまで手放したら、私には何も残らない気がするから・・・・。」
さっきまでの勢いを完全に失くし、地蔵のように重く沈黙する。
すると銀鷹君は「病院なんてダメっすよ」と言った。
「変わってるって事と病気は違うことっす。ほら、この写真のオッサンたちだって、めちゃくちゃ変わってますよ。
でも全然病気じゃないっす。本人たちはちゃんと真面目に生きてて、ただその生き方が人と違うだけっすから。だから病院なんて行かない方がいいっす。」
「でも・・・・私は上手くいかない。なんでもそう・・・たった一人の友達だって裏切って、今でも嘘をつき続けてる・・・・。
自分だけは正しくあろうと決めてたのに、結局イジメっ子たちと変わらなかった。きっとこの先も同じ・・・・。だから病院に・・・・、」
「何があったか知らないっすけど、でもあんまり自分を責めるのはよくないっすよ。俺だってたまに高校行っときゃよかったかなあって思うけど、でも後悔したって意味ないっすから。
そんな悩む暇があるなら、自分のやりたい事やるべきっしょ。」
「そのやりたい事っていうのが私にはない。悩んでることならあるけど・・・・、」
「悩みなんて誰でもありますって。」
「でも何年も前から悩んでる。ずっと同じ事で・・・・・、」
「悩みなんてそんなもんすよ。スパッと解決できる方が少なくないっすか?」
そう言われて、女は「そうかな?」と首を傾げた。
「悩みが解決できなかったら、この先も悩みだらけにならない?」
「なるかもしんないっすけど、でも良いことだってあるじゃないっすか。悩みだけ溜まっていくってことは無いと思うから。」
「そう・・・・かな?」
「いや、まあ分かんないっすけど。俺、まだ17のガキなんで。」
「でも私よりしっかりしてる。」
「いやいやいや(笑)17でホームレスっすよ?全然しっかりしてないっすよ。」
銀鷹君は笑いながら手を振る。顔は老けてるけど、でも笑うと年相応に見えるのは若さのせいだろう。
女はまた俯き、じっと黙り込む。そしてポツリとこう呟いた。
「写真・・・・・撮ってもらおうかな?」
「マジっすか!?」
「私・・・自分ていう人間をはっきり見たことがない。だから君に撮ってもらって、自分の姿をしっかり見るのも悪くないかなあって。
それに君みたいに変わった人には、私はどう見えるのか知りたい。」
そう言って女は、今日初めて笑った。銀鷹君の言う通り、笑うととても可愛い。
「普通の人には鬱陶しく見えるんだろうけど、でも君みたいに自由に生きてる人にはどう映るのか?私は知りたい。」
「そりゃもうバッチリ撮りますよ!あ、でも可愛いとか綺麗系の写真じゃないんで、そこはよろしく頼んます。」
「そういうのは求めてないから大丈夫。もっとこう・・・・本来の私というか、自分では分からない私というか、そういうものを見てみたい。
もしかしたら、そこに変われるヒントがあるかもしれないから。」
「それなら平気っすよ。だって俺、変わってるんで。ちゃんと撮れって言われても、多分普通とは違う感じになると思うから。」
「うん。じゃあ撮ってもらっていいかな?」
「もちろんっすよ!」
銀鷹君は弾けるような笑顔を見せ、「あ、これ名刺っす」と渡した。
「ちゃんと路上アーティストって書いてあるでしょ(笑)」
「銀鷹武史、良い名前だね。」
「自分でも良い名前だって思ってるんすよ。なんか強そうでしょ?」
「うん、すごく。」
そう言ってまた笑顔を見せる。
「ケータイの番号とかも書いてあるんで。いつでも連絡してください。」
「ありがとう。」
女は大切そうに名刺をしまい、「私は太良池真由美、今は無職」と笑った。
「悪い意味で変わってるから、しょっちゅう仕事をクビになるの。また探さなきゃ。」
「じゃあその時まで暇っすよね?何度か撮らせてもらって大丈夫すか?」
「いいよ、納得するまで撮って。私だってその方が撮られる甲斐があるし。」
「おお!じゃあ・・・・・今からでも?」
銀鷹君は親指を立て、一緒に行く?と誘う。
女は「うん」と頷き、俺を振り返った。
「ええっと・・・・あなた名前は・・・・・、」
「観月真一。」
「じゃあ観月さん、そういうことです。占ってくれてどうも。」
そう言ってわざとらしく頭を下げる。
「え?あ・・・・ああ。」
「それとさっきのお釣り、やっぱり返してもらえますか?」
「お・・・おお!もちろん。」
テーブルの上に置いたお釣りを掴み、「はい」と渡す。
女はそれを受け取ると、「お腹空いてない?」と銀鷹君に尋ねた。
「空いてますよ。だってホームレスだし。だから観月さんに奢ってもらおうと思って・・・・、」
「私が奢ってあげるよ。」
「え?いやいや・・・・それは悪いっすよ。今日会ったばかりの人に。」
「初対面でほっぺをつねったのは誰だっけ?」
「まあ・・・・俺っすね。」
「じゃあモデルを頼んだのは?」
「それも俺っす。」
「なら初対面だからって気を遣う必要はないよね?」
「そう言われればそうっすね。なら・・・・ご馳走になろうかな。」
銀鷹君は頷き「肉、食いたいっすね」と言った。
「いいよ、奢ってあげる。」
「ありがたいっすけど、でもなんで・・・・、」
「なんかね、君を見てると心が落ち着くから。世の中には変わった人がいて、それは私だけじゃなかったんだなって。
だから私だって頑張れば、君みたいに良い意味で変人になれるかもと思ったの。」
「なれますなれます。変人が普通の人になるのは難しいけど、別の変人になることは出来るはずっすから。」
「何その理屈(笑)」
「いや、分かんないっすけど・・・・。でも多分きっとそうかなと思って。」
「君ってほんとに自分の感性を大事にするタイプなんだね。」
「そうっすか?けっこう頭使ってるつもりっすけど。」
恥ずかしそうに頭を掻く銀鷹君。女は「じゃあ変人同士ご飯でも行こう」と歩き出した。
するとオカルト占い師が「ちょっと!」と呼び止めた。
「ほんとにモデルなんかやるの!?」
「はい。」
「でもその子変人だよ!モデルとかなんとかいって、その・・・・イヤらしい写真を撮ろうとするかも・・・・、」
「その時はビシッと断ります。」
「いや、でも信用出来るような人じゃないと思うんだけど・・・・、」
「じゃあさっきみたいに蹴り倒すだけです。」
「・・・・で、でも・・・・・、」
オカルト占い師は納得いかないようで、銀鷹君を睨み付けた。
「お前・・・・・僕の友達に変なことするなよ。」
「しないっすよ。ていうか、二人っきりになったらあんたの方がヤバそうだけど。」
「な・・・何言ってんだ!僕はそんなことしないぞ!」
「いやあ・・・・どうっすかね?」
「君の方が下心がある気がする!だから僕も撮影について行くよ。」
「いや、あんたは呼んでないっす。」
「いいや、絶対について行く。僕が太良池さんを守る。」
オカルト占い師は意地でも退かない。もうこいつが電波女に気があるのは見え見えで、銀鷹君の言うとおり、二人きりにさせるとヤバイのはこいつの方だろう。
すると黙っていた電波女が「佐々木さん」と呼んだ。
「申し訳ないけど、撮影にはついて来ないでもらえますか。」
凛とした表情でそう言われて、オカルト占い師は「え・・・?」と固まった。
「私は一人で行きたいんです。」
「いや・・・・でも・・・・・、」
「またマルちゃんのお仏壇に手を合わせに行きます。だから今日はこれで。」
礼儀正しく一礼する女。そして銀鷹君を振り向き、「お腹空いてるんでしょ、早く行こ」と微笑んだ。
「ええっと・・・・じゃあそういうことなんで。」
銀鷹君も一礼して、女と一緒に歩き出す。
俺は慌てて追いかけ、「ちょっと待って!」と女を呼び止めた。
「なんですか?」
「いや、あの・・・・ぶしつけな質問で悪いんだけど・・・・、」
「遠慮せずにどうぞ。」
「あんた・・・・・歳幾つ?」
「19です。」
「じゅ・・・・・19・・・・?」
「それが何か?」
「その歳であんなに人生悩んでたの?」
「歳は関係ないと思いますけど。」
「ま、まあ・・・・そうだな。なら結婚歴は・・・・、」
「ありません。」
「ああ、そう・・・・。ならもう一つだけ質問。その・・・・・男性とお付き合いしたことは・・・・、」
「ないです。何を言わせたいんですか?」
「・・・・いやごめん。その・・・・どうぞ二人で楽しんできて。」
俺は手を向け、ゆっくりと後ずさる。
女は「行こ」と銀鷹君の腕を引いた。
「観月さん、また来ます。そんじゃ。」
「あ、ああ・・・・またな。」
女に引っ張られながら手を振る銀鷹君。俺も手を振り返しながら、ただ愕然としていた。
「19・・・・19かよ・・・。しかも結婚歴なしで、男と付き合ったこともない・・・・・、」
ブツブツ呟きながら、自分の席に戻る。
テーブルに肘をつき、両手で頭を抱えた。
《年齢・・・・彼氏の有無・・・・それに結婚歴・・・・・全部外れてた。こんなの初めてだ・・・・・。》
女を見抜く目だけは間違いないと思っていたのに、ものの見事に外れた。
歳も彼氏や結婚の有無も、何一つ当たっていない。
こんなことは初めてで、言いようのないショックを受けた。
《変人を見抜けないのは仕方がない・・・・。だけど女を見抜けないとなると・・・・これはもう・・・・・、》
あの女はかなり変わっていた。今までにも変わった女に出会ったことはあるけど、でもあそこまでの奴はいなかった。
でもだからといって、何一つあの女のことが見抜けなかったとなると、これはもう根こそぎ自信が削がれてしまった。
《今まで女を見抜く眼力で食ってたようなものなに・・・・・。いや、でも待て・・・・実は今までにもけっこう外してたんじゃ?
いちいち相手に確かめたわけじゃないから、その可能性はあるかも・・・・。》
そう思うと余計に自信がなくなり、気が滅入ってきた。
俺が勝手に見抜いたと思い込んでるだけで、実は女のことなんて全然分かってなかったのかもしれない。
二人が去った方向を見つめながら、虚しい気持ちに駆られる。
《俺にはどう頑張ってもあの女の心を開かせるのは無理だった・・・・。でも銀鷹君はあっさりやってのけたわけで・・・・これはどういうことだ?
もしかして銀鷹君の方が、女の扱いが上手いってことか?それとも・・・・変人同士でしか分かり合えない何かがあったのか?》
テーブルに突っ伏して悩んでいると、「ちょっと!」と呼ばれた。
「なんだよあれは!いったいどうなってんの?」
「・・・・うるせえよハゲ。フラれたからって喚くな。」
「フラれるってなんだよ!僕は何も言ってないだろ!」
「あの女のことが好きなんだろ?見てりゃ分かるよ。」
「そ、そんなこと言ってないだろ!勝手に決めつけるな!」
「ああ、そう。だったら喚くなよ。ただの友達なら嫉妬することないだろ。」
「でももしイヤらしい写真とか撮られたら・・・・・、」
「あの女が納得の上でやるんならいいんじゃないの。」
「よくないよ!」
「だから喚くな。だいたいそんなのはお前が心配するような事じゃないだろ。いいから黙ってろ。」
「黙ってられないよ!なんでこんな事に・・・・・、」
「お前が俺を嵌めようとするから、バチが当たったんだろ。見ろよ、まだ万引き犯と店長が見てるぞ。」
そう言うと、オカルト占い師はバツが悪そうに黙り込んだ。
「どうせ金でも渡して協力してもらったんだろ。もう芝居は終わりましたって言っとけ。」
「・・・・・・・・・・。」
「それとな、次にこんなことしやがったらタダじゃおかねえ。あの女に本当のことぶちまけてやるからな。」
「・・・太良池さんはお前の言うことなんか信じない・・・・だってお前のことを本物と認めてないんだから・・・・、」
「なら銀鷹君から話してもらうか。俺が彼に本当のことを教えて、それをあの女に伝えてもら・・・・、」
「やめろよ!もういいだろ・・・・もう何にもしないから・・・・。」
オカルト野郎はしょんぼりとして、荷物をまとめ始めた。
「あ、今日もサボる?」
「仕事する気分じゃない・・・・。」
「そうか、でも猫を忘れてるぞ。」
「・・・・・・あ!」
慌てて猫をしまい、大きなカゴを下げて去って行く。
その背中はとても寂しく、しばらく顔を見せないだろうなと思った。
「サボりたいのはこっちだよ・・・・・・。」
オカルト占い師を見送りながら、電波女のことを考える。
この・・・・この俺が何も見抜けなかった唯一の女。・・・・いや、女を見抜けていないってことを気づかせてくれた、変わった女と言い換えてもいいかもしれない。
今まで誇りと自信をもってやって来たけど、その全てが打ち砕かれた気がした。
「女って分からんわ・・・・。ていうか人間自体が分かんなくなってきた・・・・・。なんかもう・・・・変人ばっかなんだもん。」
銀鷹君、マッチョマン、電波女、そしてオカルト占い師。
ここ最近は変人ばかり占うことになって、世の中は変人のバーゲンセールでもやっているのかもしれない。
俺の自信は粉々になったが、でも一つ嬉しいこともあった。
「銀鷹君と電波女は、あっさりと分かり合えた。それにオカルト占い師も電波の友達だし。要は変人は変人同士気が合うってことだ。
でも俺は無理だ。銀鷹君はともかく、他の二人とは分かり合えない。ということは、俺は真人間なんだろうな。」
自分も変人ではないかと疑っていたが、どうやらまともだったらしい。
そしてまともな人間は、変人とは付き合えない。
銀鷹君は「変人は普通の人間になれない」と言ってたが、逆も然り。普通の人間は変人についていけない。
これ以上変人と付き合えば、多分俺の方がおかしくなる。
おかしくなるといっても、変人になるわけじゃない。なんの自信もない、しょうもない奴に成り下がる気がしてならなかった。
「俺もしばらくサボろうかな?」
ポツリと呟いた言葉が、胸に響くのを感じた。

 

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十三話 占い師VS生真面目な女(3)

  • 2015.12.17 Thursday
  • 14:26
JUGEMテーマ:自作小説
電波女は、中学生の時に友達を亡くしたことで悩んでいた。
こんこんと悩みを語り、俺は合いの手を入れながら話を聞き出す。
女は今まで饒舌に語っていたのに、突然辛そうに俯いた。
膝の上で拳を握りながら目を閉じる。そして何かに懺悔するように口を開いた。
「最終的には、私だって彼女をイジメる側に回ってしまったんです。だって・・・・先生たちから話を聞かれた時に、嘘をついてしまったから・・・・・、」
そう言ってさらに拳を握り、眉間に深い皺を寄せた。
「私は先生たちから詳しく話を求められました。私が一番あの子と仲が良かったからです。イジメの件は本当なのか?どうしてあの子は刀なんか持っていたのか?」
「まあそうなるよな。他の子は口を噤んでるわけだし。」
「彼女はイジメに関しては詳しく話したけど、でも刀のことに関しては一切何も喋らなかったそうなんです。だから彼女と仲の良い私なら、事情を知っているんじゃないかって・・・・。」
「刀のことに関して何も喋らなかったってことは、もしかしてあんたを守ろうとしてたってことかな?」
「そうだと思います。あの子は真面目で正義感が強かったから、友達が悪くなるようなことは言わなかったんです。」
「でも先生たちは詳しく事情を知りたい。いくら模造刀といえども、刀なんかを学校に持ち込んだわけだからね。それで実際に怪我もさせてるし。」
「私・・・・その時に初めて嘘をついたんです。彼女は私を庇って何も言わなかったのに、私は自分を守る為に・・・・・醜い嘘を・・・・・、」
閉じていた目を見開き、大きく息を吐く。
握っていた拳を開いて、肩から力を抜いた。
それはまるで、罪を告白する罪人のようだった。
「私、こう見えても勉強は出来た方なんです。将来は医療の道に進むつもりでいたから、高校だってそれなりの所へ行くつもりでした。」
「どこへ行くつもりだったの?」
「灘高校です。」
「マジで!?日本一頭の良い高校じゃん!」
「私のいる中学は進学校というわけじゃありませんでしたが、でも私は頑張って勉強しました。だから先生も、お前なら受かる可能性があるって言ってくれて。」
「あんたすげえ頭いいんだな。ちょっと見直したよ。」
「自分で言うのもアレですけど、かなり頑張って勉強したんです。だからどうしても良い高校へ進学したかった。だけど・・・・・、」
そこでまた口を噤み、拳を握る。
俺はテーブルに肘をつきながら、「進学の為に嘘をついたわけだ?」と見つめた。
「学校に刀を持ち込んだのはあんただし、その刀で脅してやれって吹き込んだのもあんただ。だからもし本当のことがバレたら、進学どころじゃなくなるかもしれない。
だから自分を守る為に嘘をついた。そういうことだよね?」
「その通りです・・・・。私、将来は人や社会の役に立てる仕事に就きたかったんです。だから絶対に医療の道へ行こうと決めていました。
医者になるか、それとも研究者になるかは決めていなかったけど、どっちにしたって良い学校で勉強をしないとなれないですから。」
「あんたはその為に今まで努力してきたから、それが水の泡になるのが嫌だった。だから先生から話を求められた時に、咄嗟に嘘をついてしまったと。」
「私・・・・刀のことなんか知らないって言っちゃったんです。私が教室に入ったら、彼女はもう刀を持っていたって。
それで・・・・私は止めようとしたけど・・・・・彼女は止まらなくて・・・・そもまま刀を振って・・・・。」
女は顔を真っ赤にしながら、これでもかと目を見開く。
まるで目の前にその時の映像があるかのように、じっと一点を凝視していた。
「先生たちが、私の嘘を信じたのかどうかは分かりません。だけど私が嘘をついたことは、彼女にも伝わりました。」
「そりゃ彼女は事件の当事者だからね。あんたの話が本当かどうか確認する為に、本人にもそれを伝えるでしょ。」
「先生から『太良池の言ってることは本当か?』って聞かれた彼女は、その通りですって頷いたそうです・・・・・。刀は自分で用意したし、これで復讐しようと企んだのも私だって・・・・。
それどころか、私のことを庇ってくれたんです。太良池さんは私を止めようとしたくれたって・・・・。それを振り払って、私が斬りかかったんだって・・・・、」
だんだんと女の声が細くなり、最後は消え入りそうなほど掠れた。
ギュッと目を閉じ、ほんの少しだけ目尻が濡れている。
「私は彼女を裏切ったのに、彼女は私を庇ってくれたんです・・・・。今まで・・・・私は嘘なんてついたことなくて、いつだって正しいことをしようと心掛けてきました。
でも・・・・一番嘘をついちゃいけない場面で、嘘をついちゃったんです・・・・。それも一番嘘をついちゃいけない人に・・・・・、」
指で目尻を拭い、短く鼻をすする。
顔は真っ赤に染まって、怒りとも悲しみともつかない表情をしていた。
「彼女が私を庇ってくれたことを知って、私はすぐに会いに行きました。あの事件から四日間、彼女は学校へ来ていなかったから・・・・。」
「で、会ってくれたの?」
「はい。」
「で、彼女はなんて?」
「笑ってました。」
「笑ってた?怒ってなかったってこと?」
「いえ、そうじゃなくて、あの時のことを思い出していたみたいなんです。イジメっ子に刀を突きつけて、あの子たちが真っ青になっていたのを。」
「ほら、やっぱり喜んでたんじゃない。」
「・・・・私にはそうは思えませんでした。すごく無理矢理笑っている感じがしたし、それに私と目を合わせようとしなかったし・・・・、」
「そりゃあんな事件を起こした後だから。気が動転してるよ。」
「・・・・そうだったのかもしれません。しばらく他愛ない話をしていたんですが、私は彼女の目を見てすぐに謝りました。
嘘をついてごめんって。明日すぐに先生に本当のことを言うからって。加子ちゃんは私が守るから、何にも心配しないでって。」
「それで、彼女は許してくれたの?」
「そう言うと、しばらく黙ったままでした。じっと畳を見つめて、ここではないどこかを見ているようで・・・・。だからもう一度言ったんです。
嘘ついてごめんなさい。全部私のせいなんだって先生に言からう。加子ちゃんは何も悪くないって知ってもらうからって。そうしたら・・・・一言だけこう呟いたんです。」
そう言って深呼吸し、自分の手を握りしめた。
「これからも友達でいてね・・・・・って。」
今までで一番静かな声で言って、「その次の日に自殺しました」と目を潤ませた。
「彼女に会いに行った次の日、私は先生に本当のことを伝えました。でもその時・・・・先生はすごく困った顔をしながら、加古ちゃんに何があったかを教えてくれたんです。」
「自殺したってことを?」
「はい。彼女の家は母子家庭で、お母さんはパートに行くから朝が早いんです。でもあんなことがあったから、毎朝心配して加古ちゃんの部屋を覗いてから仕事へ行っていたんです。
そして・・・私が会いに行った次の日、加古のちゃんの部屋を覗いたら・・・・・・・、」
辛そうに唇を噛み、また拳を握る。
眉間には深い皺が寄り、これでもかと瞼が閉じられていた。
「いいよ、その後は言わなくても。」
「・・・・ごめんなさい・・・・。」
「あんたは本当のことを先生に話した。そのことについては何かあった?」
「・・・・・何も。」
「何も?」
「私は朝一番に担任の先生に伝えました。その後に職員室へ呼ばれて、校長先生や教頭先生、それに学年主任の先生も一緒に話を聞いてくれました。」
「その時に彼女の自殺を聞かされたんだね?」
「はい。」
「で、その後はどうなったの?」
「よく覚えていません。加子ちゃんが自殺したってことを聞かされてから、ほとんど何も考えることが出来なくなりましたから・・・・・。
確かその日は家に帰ったと思います。先生がそうしろって・・・・。」
「で、それからは何の音沙汰もなし?」
「はい。加子ちゃんが亡くなったことは、先生がみんなに知らせたそうです。でも・・・・自殺だということは伏せていたみたいです。」
「まあ同級生が自殺したなんて知ったらショックだろうからな。でもどうにでもそういうのは伝わるんじゃないの?」
「ええ・・・・みんな加子ちゃんが自殺したことは知っていました。」
「でもあんたは何のお咎めも無しだった。」
「・・・・きっと先生たちは黙殺したんだと思います。イジメがあって、日本刀の事件があって、それで加子ちゃんが自殺。
その後に私が本当のことを言ったものだから、これ以上厄介事を増やしたくなかったんだろうなって。もちろん確証はありません、私の勝手な推測です。」
「でもさすがに自殺となると、それは隠しようがないよね?ニュースになったりしなかったの?」
「私はあの時子供だったから、何も分かりませんでした。だけど大人同士の話し合いはあったみたいです。」
「それは学校と親の話し合いってこと?」
「そうです。去年にたまたま同級生に会って、あの時の話を聞かされたんです。あの後、事が公にならなかったのは、イジメグループの親が地元の名士だったからだって。
私の地元は地方の小さい町なんですが、そういう所って偉い人達はみんな繋がってるんです。だから顔の利く人なら、もちろん教育の現場にだって影響力があって・・・・、」
「まあ・・・・なんかよくありそうな話だよね。いや、よくは知らないけどさ。」
「もちろんこれはただの噂です。でも実際に私は何のお咎めもなかったし、怪我をしたイジメっ子もその後は普通に学校に来ていました。」
そう言って「加子ちゃんの自殺はもちろんショックだったけど、それと同じくらいにショックなことがありました」と続けた。
「彼女のお通夜の時、加子ちゃんのお母さんに会ったんです。すごく悲しそうな顔をしていて、でも私の手を握ってこう言ってくました。
ずっと加子の友達でいてくれてありがとう。こんなことになってごめんね・・・・・・って。
私・・・・・ハンマーで思い切り胸を叩かれたような気分になりました。だって全部私が悪いのに!加子ちゃんはイジメられてただけなのに・・・・。
悪いのは私とイジメっ子なのに・・・・・、」
自分の手に爪を立て、ギリギリと食い込ませる。
それままるで、身体の痛みで心の痛みを誤魔化そうとしているように見えた。
「だから次の日のお葬式・・・・行かなかったんです。加子ちゃんの顔を見るのも辛かったし、おばさんお礼を言われるのも辛かったから・・・・・。
だから・・・たった一人の友達の最後を、見送っていないんです。それは今でも後悔してるし、それに・・・・・、」
言いづらそうに俯き、手を組み替える。
息を飲んで顔を上げ、「私・・・・まだ分からないんです」と引きつった表情で言った。
「あの時、私は加子ちゃんのお母さんに本当のことを言うべきだったのかなって・・・・。きっと加子ちゃんは本当のことをお母さんに言ってない。
だからおばさんは誤解したままなんです。あの後おばさんは、すぐに引っ越したんです。それ以来会うことも出来なくて・・・・。」
爪が皮膚に食い込み、赤くなっていく。そのうちじわりと血が滲んで、爪を赤く染めていった。
「だから教えて下さい!私は・・・・ずっとおばさんに嘘をついたままなんです!いくら正しいことをしたって、いくら自分の正義を貫いたって、今でも嘘をついたままなんです!
どんなに時間が経っても、今でも分からないまま・・・・。」
そう言ってさらに爪を立てようとするので、「怪我するから」と腕を掴んだ。
「そんなことしたって血が出るだけだ。やめとけ。」
「でもこうしないと胸の痛みに負けそうになるんです。」
「じゃああんたはアレだな、身体の痛みより心の痛みに弱いタイプだな?」
「だって・・・・身体の傷は治るけど、心は傷は深くなるばかりだから・・・・・。」
「あんたが馬鹿みたいに正しいことにこだわるのは、加子ちゃんとおばさんへの罪滅ぼしか?それとも自分の胸の痛みを誤魔化す為?」
「・・・・・分かりません。でも・・・・多分その両方かも・・・・、」
「じゃあアレだな、やっぱり病院へ行った方がいいよ。」
そう答えると、女は驚いたように顔を上げた。
「なんですかそれ・・・・ここまで話を聞いておいて、最後は病院って・・・・・。だったら最初から話なんて聞くなよ!」
鬼のような顔で叫び、親の仇のように俺を睨む。でも俺は「病院が一番いい」と答えた。
「いいか、こんなの俺の仕事じゃない。だってあんたは心を病んでるから。」
「病んでるって・・・・・なんで素人のあなたに分かるんですか!」
「いや、誰が見たって分かるだろ。だってあんたの正しさへのこだわりは異常だもん。それってつまり、加子ちゃんやおばさんのことがトラウマになってるんだろ?」
「トラウマなんて・・・・、」
「でもさっき言ったじゃん、どんなに時間が経っても分からないままって。それってさ、心に出来た傷が、今でも治らずに残ってるってことだろ?」
「そうですよ・・・・だって治るわけないじゃないですか。今でも嘘をついたままなんだから・・・・。」
「でもさ、普通の人間なら忘れると思うんだよ。そりゃ酷いことしたなあって後悔はするし、たまに思い出して落ち込んだりもすると思うよ。
でもあんたみたいに異常にはならない。だからやっぱり病気なんだよ。医者へ行くの一番いい。」
「だったらなんで私を占ったんですか!病院へ行けっていうのが答えなら、あんた最初から言ってたじゃない!」
「あれはただの冗談、でも今は本気。」
「なら余計に性質が悪い!さんざん話をさせておいて、そんな終わり方させるなんて許さない!あんたはやっぱりインチキだ!」
「そうだよ、ただの屁理屈野郎だからな。」
「開き直るんじゃない!このまま終わると思うなよ!」
「でもあんたの話を聞かなかったら、本気で病院へ行けなんて言わなかったよ。だから話を聞いた意味はあった。」
「だったら自分は偽物のインチキって認めるんだな!?この動画をばら撒いてもいいんだな!?」
「どう思ってくれてもいいし、好きにしたらいいよ。でもな、これは少なくとも俺の仕事じゃない。俺じゃあんたの心の傷は治せないから。」
そう言って「じゃあもう終わり」と手を出した。
「占い料、延長も含めて6000円。」
「はあ!?あんた・・・・マジでふざけるなよ・・・・・、」
「誰もタダで占うとは言ってない。」
「あ・・・・あんたあ・・・・・・、」
女は電波に戻り始めたようで、「一生かけて呪ってやる!」と叫んだ。
「あんたを呪ってやる!私にはそういう力があるんだから!悪い奴を懲らしめる力が宿ってる!そうよね佐々木さん?」
そう言っていきなり同意を求められて、オカルト野郎は「あ・・・うん、そうだよ」と頷いた。
「太良池さんにはそういう力がある。僕には分かる。」
「ほら見ろ!本物の占い師がこう言ってる!あんたはもうお終いだ!」
女は鬼の首を取ったように喚く。
でも俺は平然とした顔で、「呪いなんてない」と答えた。
「呪いなんてただの思い込みだし、霊能力だって同じだ。いつまでもそんなもんにしがみついて逃げてんなよ。」
「逃げてなんかない!ただ悩んでるだけ!」
「じゃあ好きなだけ悩めよ。そうやって死ぬまで悩んでりゃいいんだ。そんで死ぬまでオカルトに逃げてればいい。」
「オカルトじゃない!だって佐々木さんは霊能力があるから!加子ちゃんは私を恨んでないって言ってくれたから!」
「へえ、このハゲが霊視でもしてくれたのか?」
「そうよ!加子ちゃんは私の傍にいて、いつでも笑ってくれているって!」
「そうか、ならこのオカルト野郎に頼んで、加子ちゃんに聞いてみろよ。あんたのお母さんに本当のこと言ってもいい?って。」
「聞けるかそんなこと!」
「なんで?」
「加子ちゃんは誰にも本当のことを言わなかった!先生にも、それにおばさんにも!だったら聞けるわけないだろ!そんなの・・・・私が聞く資格なんてないから・・・・、」
「泣くんじゃねえよバカ。」
俺は女を睨み、「お前に必要なのは治療だろ?」と尋ねた。
「いくらオカルトに傾倒したって、今でも嘘をついたことを悔やんでる。お前は自分で自分を呪ってるんだよ。」
「そ・・・そんな・・・・そんなことは・・・・・、」
「無いとは言い切れないだろ?さっきも言った通り、呪いなんてただの思い込みだからな。
お前は自分で自分を呪ってるだけだ。残念ながら、その呪いは占い師にも霊能力者にも解けない。解くことが出来るのは医者だけだ。」
「・・・・違う・・・・私は病んでなんかいない・・・・・。加子ちゃんだって笑ってくれてる・・・・。黙れよインチキ・・・・・、」
顔を真っ赤にしながら、鬼の形相で立ち尽くす女。
でも俺は自分の意見を曲げなかった。もう一度「病院へ行った方がいいよ」と言い、改めて料金を求めた。
女は無言で財布を取り出し、万札を叩きつける。
「じゃあお釣り出すからちょっと待っててね。」
「いらないわよ!今これしかないから取っとけ!」
「いや、正規の料金以外は取らない。はい、4000円返すね。」
「だからいらないって!」
「あ、そ。じゃあコンビニの募金箱にでも入れとくわ。そっちの方が社会の役に立つから、あんたも本望だろ?」
「好きにしろよインチキ野郎!」
女は席を立ち、「このまま終わると思うなよ!」とスマホを見せつけた。
そして一瞥をくれてから立ち去ろうとした時、一人の客がやって来た。
「あ、どうもっす。」
軽い感じで頭を下げながら、インディアンみたいなポンチョを揺らしている。
「あの・・・・お言葉に甘えて来ちゃいました。飯、奢ってもらおうかなあって。」
そう言って馬鹿デカイカバンを抱えながら、ニコニコとしている。
「え?あ・・・・ああ、飯ね。うん、いいよ。」
俺は戸惑いながら笑いを返す。
電波女と入れ替わりにやって来た客、それは路上アーティストの銀鷹君だった。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十二話 占い師VS生真面目な女(2)

  • 2015.12.16 Wednesday
  • 12:59
JUGEMテーマ:自作小説
「私を占って下さい。」
オカルト占い師と揉めている最中、電波女は突然そう言った。
「あなたが本物の占い師だっていうなら、私の悩みを解決できるはずです。」
「知るかお前の悩みなんか。だいたいお前に必要なのは占いじゃねえ。医者の診察だ。」
「もし私の悩みを解決出来たら、あなたを本物の占い師として認めてあげます。」
「だからあ・・・・・お前の悩みなんか知るかって言ってんだろ。」
「その時はマルちゃんを見殺しにしたことも許してあげます。」
「人の話を聞けよ・・・・占う気はないって言ってんだろ。」
「それとこの動画も削除してあげます。」
さっきの動画を見せつけ、「あなたは助かるんですよ」と諭すように言った。
するとオカルト占い師が「ダメだよ!」と叫んだ。
「その動画は消しちゃダメだ!でないとこいつをここから追い出せない!」
「ほう・・・・俺を追い出す?」
「あ、いや・・・・・・、」
「だんだんとお前の企みが見えてきたよ。」
ニヤリと笑いながら、胸倉を放してやる。
「要するに、俺が気に食わないからここから追い出したかったわけだ?その為に一芝居打って、電波に動画を撮影させたと。」
「・・・・・・・・・・・。」
「それを後から編集でもして、ネットに上げるつもりだったと。そんで折を見て、オーナーにも見せるつもりだったんだろ?」
「そ・・・・そんなことは・・・・、」
「そうやって俺の立場を悪くして、ここから追い出そうとした。そうだな?」
鼻が触れるほど近づいて睨むと、「ち、違う・・・・、」と俯いた。
「違う?どう違うんだ?さっき自分で言ったじゃねえか。俺を追い出せなくなるって。」
「そ、それは勢いで・・・・・、」
「勢い?へえ・・・・そうか。なら今はどうだ?その勢いはまだあるか?」
「・・・・・もう・・・・落ち着いたかな。」
「じゃあ動画を消してもいいな?」
「あ、いや・・・・それはあ・・・・・・、」
「ほら見ろ。やっぱ俺を追い出すのが目的だったんじゃねえか。」
そう言ってポンポンと禿げ頭を叩き、「あのな・・・」と睨んだ。
「別に動画を上げたいなら上げてもいい。」
「・・・・・・・・・・。」
「それにオーナーに報告したいならしてもいい。」
「・・・・・・・・・・。」
「でもな、それをやるとお前こそインチキ野郎になるんだよ。分かってる?」
「・・・・・・・・・・。」
「だいたいそんな事されたって、俺は痛くも痒くもない。今時ネットに動画投稿する奴なんてごまんといるし、誰も見やしないよ。」
「そ、そんなの分からないじゃないか・・・・・・、」
「じゃあ百歩譲って、みんながその動画を見たとしよう。でも動画の占い師が俺だとバレるような投稿をしたなら、今度は俺がお前を追い詰めてやるよ。」
「お、追い詰める・・・・・?」
「当たり前だろ。勝手に人のこと動画に投稿してんだ。それも営業妨害になるような動画をだ。だったらその損害分、きっちり取らせてもらう。」
「う、訴えるっていうのか・・・・?」
「ああ。」
「なら・・・・やればいいじゃないか。訴えたいなら訴えてみろよ!僕だって戦ってやる!お前みたいなインチキを追い出す為に、戦ってやるよ!」
オカルト占い師は震えながらも俺を睨み返す。
目は泳いでいるが、表情は挑発的だ。
「お前なんかここからいなくなればいいんだ!人の客取ったり、僕を馬鹿にするようなことばかり言ったり。僕はそんな脅しなんかに屈しないぞ!戦ってやる!」
「ああそうか、なら好きにしろ。俺もお前をタダじゃおかねえ。」
オカルト占い師を突き飛ばし、「おい」と電波女の方を向いた。
「お前を占ってやるよ。」
「そうして下さい。」
「それでな、もし俺がお前の悩みとやらを解決したら、洗いざらい喋ってもらう。」
「何をですか?」
「お前とこのハゲが仕掛けた事をだよ。一から十まで喋ってもらう。それをこいつで録音させてもらうからな。」
そう言ってスマホを取り出すと、電波女は「何を?」と首を傾げた。
「喋るって何を喋るんですか?」
「だからお前とこのハゲが企んだことだ。万引き犯をでっち上げただろ?」
「そんなの知りません。私はあなたのインチキ占いを撮影していただけです。」
「知らないってお前・・・・・この期に及んでシラを切る気かよ?」
「知らないものは知りません。ていうか、さっきから何を言ってるのかさっぱりです。」
電波女は自分のスマホを見つめ、「私が欲しかったのは、あなたのインチキの証拠だけですから」と答えた。
「これがあれば充分です。他のことは知りません。」
「・・・・・ほんとに何も知らないのか?」
「万引き犯が捕まったことは知っています。」
「ほら見ろ。」
「でも万引きをしたなら、捕まるのは当然のことです。その方が、きっとあの子の為になる。」
「いや・・・・さっきのあれは、このハゲとお前が仕組んだもんなんだろ?」
「だから知りません。言いがかりはよして下さい。」
「ならこのハゲが一人でやったのか?」
「佐々木さんはそんなことしません。彼は立派な占い師で、あなたとは違うんです。」
「・・・・・・・・・。」
電波女は苛立ったように言う。動画を見つめながら、怒りを抑えるように唇を噛んでいた。
「おいオカルト野郎。」
「なんだよ・・・・・?」
「お前・・・この電波女まで利用したな?」
「な・・・何を・・・・?」
「俺はな、今日を含めてこの女とは二回しか会ってない。でもだいたいどういう人間かは分かった。」
「それが何・・・・?」
「この女は超が付くほどのクソ真面目だ。だから人を疑うってことを知らない。というより、疑うことが悪い事だと思ってるから、そういう発想自体がない。」
「・・・・・・・・・。」
「お前にそこに付け込んで、この女まで利用したんだろ?」
「そんなことしてない・・・・。」
「この女はお前のことを信じ切ってる。きっと元々はオカルトに染まってなっかったろうに、お前のせいで変な電波に目覚めちまったんだ。」
「言いがかりはやめろよ!太良池さんは友達なんだ・・・・利用なんて・・・・、」
「でもこいつは何も知らない。自分が利用されてることにも気づいてない。」
「・・・・・・・・・。」
「いいかオカルトハゲ。もしこの女が、お前に利用されてたことを知ったらどうなると思う?」
「ど、どうなるって・・・・・、」
「この女の性格だ。きっとお前を悪者とみなして、激しく責め立てる。今俺がやられていることを、今度はお前がされるんだ。」
「彼女はそんなことしない。だって友達なんだから・・・・・。」
「利用されてるって知ったら、友達とは思わなくなるはずだ。お前はこいつを敵に回す。それがどれだけ鬱陶しいことか、友達ならよく分かるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
オカルト占い師は黙り込み、視線を泳がせる。
焦っているのが目に見えるが、それでも認めようとはしなかった。
「一つ提案だ。」
そう言って肩を叩くと、オカルト占い師はごくりと唾を飲んだ。
「俺は今からこいつを占う。そしてこいつの悩みとやらをズバッと解決してみせる。もしそれが出来たら、お前も大人しく引き下がれよ。」
「ど、どういう事だよ・・・・・?」
「俺を追い出すのを諦めろって言ってんだよ。それを約束するなら、お前がこの女を利用してたことは黙っててやるよ。」
「言いたいなら言えばいいじゃないか。彼女はお前の言葉なんか信用しない。何言ったって無駄だよ。」
「いいや、そうはならない。」
「なんで?君は彼女に嫌われてるんだ。だから絶対に耳を傾けることはないよ。」
「それは今までの話だ。もし・・・・もしもこいつの悩みを解決することが出来たら、俺の言葉に耳を傾けるようになる。
だって悩みを解決出来たなら、俺を本物の占い師として認めるって言ったんだからな。」
「・・・・・・・・・。」
「この女の性格だ、冗談で言ったわけじゃない。約束通り、俺を本物の占い師と認めるだろうよ。そうなりゃ・・・・後はどうなるか分かるな?」
そう言って顔を近づけ、「何がお前にとって損のない選択か、よく考えろ」と肩を叩いた。
「おい電波、そこに座れ。」
俺は席につき、電波女を見上げる。
「いつまでも動画見てるな。何回見たって変わりゃしねえよ。」
「あなたのインチキぶりを再確認してるんです。適当なことベラベラ喋って、佐々木さんを困らせてる。」
「それはこのハゲが持ちかけた勝負だ。俺からやったんじゃない。」
「いいえ、あなたが佐々木さんに迷惑を掛けてるんです。嫌がらせをして、ここから追い出そうとしてる。」
「そうか、なら好きに思ってくれ。それより今は占いだろ?」
「そうですね。」
電波女はスマホをしまい、目の前に座った。
「まず聞きたいんだけど、どうして俺に占ってもらいたいんだ?」
そう尋ねると、「マルちゃんが懐いていたからです」と答えた。
「あの子は悪い人には懐かないんです。でもあなたには懐いていて、それで後を追いかけてあんなことに・・・・・、」
「なるほど。じゃあこういうことだな?」
俺はわざとらしく指をたて、電波女に向けた。
「インチキ占いの悪者であるはずの俺に、なぜかマルちゃんが懐いてた。だからもしかしたら、この人は良い人なんじゃないかって思ったわけだ?」
「そうです。限りなく黒に近いですけど。」
「でもまだグレーなわけだ?」
「ほとんど黒です。」
「ほとんどか・・・・・。なら完璧に黒かどうか判断する為に、俺に占ってもらおうと?」
「そうです。もし私の悩みを解決することが出来たら、あなたは本物ということです。だったらインチキじゃないわけですから、悪者じゃありません。
マルちゃんが正しかったってことになります。」
「あの猫を信用してるのか?」
「動物は嘘をつきません。」
「人間よりよっぽど信用出来るって言いたそうだな。」
「そうですよ。動物はみんな素直で素晴らしいんです。人間だけが醜く汚れてる。」
「そうか?動物だってけっこう強かだと思うぞ。カッコウなんか他の鳥の巣に卵産んで、子供を育てさせるし。」
「それは野生の世界の出来事だからいいんです。生き抜く為の知恵であって、人間のように汚れてるわけじゃありません。」
「なら人間の悪事だって、生き抜く為の知恵と言えるんじゃないの?」
「違います!人間は汚れてるんです。動物のように素直じゃなくて、嘘にまみれた酷い生き物なんです。」
「ずいぶん人間に偏見を持ってるな。」
「偏見じゃありません。事実です。」
「じゃあもしかしたら、あんたの悩みもそこにあるのか?」
「そうです。」
「分かった。なら俺の占いで、あんたの悩みを解決してやるよ。」
背筋を伸ばし、電波女の目を見つめる。
向こうも俺の顔を睨んでいて、まるで決闘にのぞむ武士のようだった。
「じゃあ言いますね。私の悩みというのは・・・・・、」
淡々とした口調で、電波女は悩みを語り始める。
武士のようなその顔を見つめながら、俺は耳を傾けた。


            *


電波女の口調はとても淡々としていて、すごく聴き取りやすい。
それは自然とそういう口調になっているんじゃなくて、相手に伝わりやすいように意識しているんだなと思える話し方だった。
内容も筋道立てて分かりやすいので、これも相手に伝える為に意識しているんだと分かる。
俺はじっと耳を傾け、女の悩みを聞いていた。
喋り始めてから五分、女は「これが私の悩みです」と言い、真っ直ぐに俺を見つめた。
「どうですか?あなたに解決出来ますか?」
「・・・・・・・・・・。」
「あなたが本当の占い師だっていうなら、きっと出来るはずです。佐々木さんのように霊力がなかったとしても、本物なら出来るはずなんです。」
「・・・・うん、そうだな。でもちょっとあんたの悩みを整理させてくれ。」
「いいですよ。じっくり考えて下さい。時間はたっぷりありますから。」
「今日は暇なの?」
「はい。」
「コンビニをクビになったから?」
「はい。」
「猫に餌やるからって、ちょくちょく仕事さぼってたらそうなるよ。自業自得だな。」
「自覚しています。一緒に入っていた同僚にも迷惑をかけていたと分かっています。」
「でもやめられなかった?」
「私の悪いところです。そうやって何度も失敗してきました。」
「でもそれを改善しようとは思わなかった?」
「自分の信じることをやめてしまえば、自分ではなくなってしまいます。私は自分が正しいと思うことをしないといけないんです。」
「そうしないと、亡くなった友達を裏切ることになるから?」
「そうです。・・・・ていうか、こんなにベラベラ喋りながら、私の悩みを整理なんて出来るんですか?」
「喋ってる方が整理しやすい。自分一人で考えたって、あんたの考えとはズレが出て来るから。だから話しながら相手の考えや望みを探っていくんだよ。」
「それがあなたの占いですか?」
「そうだよ。コールド何とかっていうらしい。」
「?」
「いや、気にしなくていいよ。」
俺は腕を組み、「でもあんたの悩みは重いなあ・・・・」と呟いた。
「正直こんな悩みは初めてだよ。だって大抵の客は、恋愛とか仕事の悩みだからな。」
「私は自分の生き方で悩んでいます。仕事でも恋愛でもありません。」
「あんたは中学の時に友達を亡くした。良かれと思ってやった事なのに、それが相手を追い詰めて・・・・、」
「私が殺したようなものです。結果的には自殺でしたけど、でもそこまで追い込んだのは私ですから。」
「だけどあんたは元々正義感が強いんだろ?だったら友達がイジメられてたら、それを助けようとするのは当然だと思うけど。」
「やり方が間違っていたんです。彼女は酷いイジメを受けていて、友達は私しかいませんでした。だから助けるのは当然なんだけど、私はいつも不器用なんです。」
「まあ・・・・ねえ。イジメられてる子を助けるのに、普通は日本刀なんか持たせないよ。」
テーブルに肘をつき、「ていうかよく学校にそんな物を持ち込めたな?」と尋ねた。
「普通は先生とかに止められるだろ?どうして教室まで持って入ることが出来たの?」
「生徒が学校に日本刀を持って来るとは思わないでしょう?」
「まあそうだな。ならあんたはそれも計算に入れて持ってきたわけだ?」
「彼女から相談されていたんです。このままじゃ堪えられないし、いつ自殺するか分からない。でも何もしないで死ぬのは悔しいから、ちょっとでもやり返したいって。」
「だからって日本刀はないでしょ。」
「真剣じゃありません。ただの模造刀です。」
「いや、模造刀だろうと何だろうと、そんなもんを向けられたら誰だってビビるよ。」
「実際にみんな怯えていました。でもそれが目的だったんです。」
「相手を怖がらせようとしたわけだ?」
「彼女にそれを持たせて、イジメッ子に向けさせました。」
「みんなブルってたろ?」
「顔が真っ青になっていました。泣き出す子もいたし、その場で謝る子も。」
「当たり前だよ。イジメてたやつに刀を向けられたんだ。そりゃ殺されるかもって思うよ。」
「イジメっ子は教室の隅で固まりながら、身を寄せ合うように怯えていました。そこで私がこう言ったんです。『もう絶対にこの子をイジメないで』って。」
「で、相手はどう答えたの?」
「今までイジメててごめんなさいって。必死に謝ってきました。」
「なら目的は達成したんだな。」
「そうなんです。本当ならここで終わるはずだったんです。だけど・・・・・、」
女は口を噤み、不安を紛らわすように腕をさすった。
凛としていた表情はどこかへ消えて、自信がなさそうに眉を寄せている。
「その・・・・刀を持った彼女はすごく興奮状態になってしまっていて、私が止めても刀を放さなかったんです。」
「まあ気持ちは分かるな。今までイジメられてた子が、今度は相手を追い詰める側になったんだから。そこで刀なんか持ってたら、興奮して当たり前だと思うよ。」
「彼女は顔を真っ赤にしながら、まるで猛獣みたいに怖い顔をしていました。大声で喚き散らして、イジメっ子たちを怒鳴りつけて・・・・、」
「夢にまで見た復讐の機会がやってきたんだ。きっと嬉しかっただろうな。」
「嬉しい?」
「そうだよ。今までは弱者の立場だったのに、急に強者に変わったんだ。胸の中に溜めていた怒りとか悔しさとか、そういうものが一気に噴き出したんだと思うよ。」
「それは嬉しさと言うんでしょうか?」
「最初は違ったとしても、最終的にはそうなったんじゃないかな?だって恐怖で刀を振ることは出来ないでしょ?」
そう言って刀を振る真似をして、女の方に向けた。
「その子はイジメっ子に刀を振り下ろした。」
「はい。一番自分をイジメてた子に向かって。たまたま頭を逸れたからよかったけど、でも下手したら殺していたと思います。」
「それはさぞ楽しかっただろうな。相手を見下す快感とか、相手の命を自分が好きに出来る快感があったんだと思うよ。
このイジメっ子どもを生かすも殺すも、自分次第なわけだから。」
「・・・・そう・・・なんですかね?私はてっきり興奮してパニックになっていたと思ったんですけど・・・・、」
「パニックで刀を振ったんなら、狙って当てることは出来ないでしょ?」
「・・・・どういうことですか?」
「だって自分を一番イジメてた子に向かって刀を振り下ろしたんでしょ?それって明らかに狙ってるわけじゃない。ある意味冷静じゃないと出来ないことだよ。」
「たまたま・・・・じゃないんですか?」
「じゃあ聞くけど、刀が当たったのはどの部分。頭じゃないって言ってたけど、どこに当たったの?」
「肩です。」
「ならやっぱり狙ってるよ。」
「どうして?殺すつもりなら頭を狙うはずでしょう?」
「殺すつもりがなかったから、頭を狙わなかったんだと思うよ。だってもし殺したりなんかしたら、今度は自分の立場が悪くなるから。」
そう言ってまた刀を振る真似をして、女の顔の前で止めた。
「イジメっ子たちはちゃんと謝ってくれた。それも顔を真っ青にして泣きながら。」
「そうです。ちょっと可哀想なくらいでした・・・・。」
「ならその時点で目的は達成してるわけだよね?だったらそれ以上危害を加えるのは合理的じゃない。」
「でもそれはパニックになっていたから・・・・、」
「違う、嬉しかったんだよ。今まで自分をイジメてた奴らが、泣きながら頭を下げている。それが堪らなく嬉しかったんだ。」
「・・・・・・・・・・・。」
「だからもう許してもいんだけど、でももうちょっとこの状況を楽しみたい。
謝ってはくれたけど、でも私が今までに受けた仕打ちに比べれば、もうちょっと追い詰めてもバチは当たらないはずだ。
だったら肩か腕に一撃でも加えて、もうちょっと泣かせてやろう。そこまでやれば、自分も溜飲を下げられるから。」
「・・・・・・・・・・・。」
「そして実際に刀を振り下ろし、相手の肩に当てた。模造刀だから刃は付いてないけど、でも金属の塊だからね。
そんなもんで殴られたら、そりゃ怪我くらいするよ。」
「・・・・・刀で叩かれたその子は、悲鳴を上げてうずくまっていました。他のイジメっ子は半狂乱みたいに泣き出すし、クラスの女の子も悲鳴をあげて・・・・。
男の子の何人かはすぐに職員室に駆け出しました。他のクラスからも野次馬が来て、一気に大騒ぎに・・・・・。」
「やがて駆け付けた先生によって、その子は刀を取り上げられた。そして肩を叩かれた子は病院に運ばれたんだね?」
「そうです。あの時は学校じゅうがパニックでした。」
「でも警察は来なかった。」
「はい。」
「模造刀といえど、相手を刀で怪我させた。でも学校は警察を呼ばなかったんだ。これっておかしいよね?」
「最初は呼ぼうとしていたんです。でもこうなった事情を知るにつれて、先生たちの態度は変わっていきました。」
「原因がイジメだからね。それが外にバレることを恐れたわけだ?」
「そうだと思います。彼女が受けていたイジメは酷いもので、口で言うのも躊躇うような事だってあります。」
「そんなに酷いイジメがあって、その子は自殺まで考えていた。しかも・・・・最後は模造刀で相手を怪我させている。
まあこんな事がバレたら大変だよね。すぐに新聞やテレビで取り上げられちゃうよ。」
「これは私の勝手な想像だけど、学校は事実を隠そうとしたんだと思います。あの状況で警察を呼ばないのは、明らかにおかしいですから。」
「多分それで当ってるよ。ていうかそれ以外に考えられない。」
「警察は来なかった。でもだからって何も無かったことになるわけじゃありません。」
「うん、自殺を考えるほどのイジメと、模造刀で相手を怪我させたこと。そりゃ無かった事には出来ないよ。
だから先生たちは、イジメられていたその子と、イジメていた子たちに話を聞いたんだろ?もちろんあんたにも。」
「学校の中で調査は行われました。イジメは本当にあったのか?もしあったならどの程度のものなのか?でも誰も口を開こうとはしなかったみたいです。」
「正直なところ、誰も深く関わりたくなかったんだろうね。イジメってのは、告げ口した時点で自分も首を突っ込むことになるから。
下手に何か喋ったら、後からチクリ魔だとか言われるかもしれないし。」
「それもあるかもしれないけど、でも本当の理由は別にあると思っているんです。」
「へえ、どんな?」
「積極的にイジメていた子は、彼女に刀で脅された子たちだけです。でもクラスのほとんどの子が、大なり小なり彼女をイジメたことがありました。」
「マジかよ?そりゃ酷いな・・・・。」
「そもそも担任の先生ですから、彼女への態度は冷たかったんです。だから彼女は本当に孤立していて・・・・、」
「あんたしか味方がいなかった?」
「はい。私以外のクラスメイトは、多少なりとも彼女をイジメたことがある。だからあえて口を開かなかったんだと思います。」
「でもさ、そこまで嫌われるってよっぽどだよね?もしかしてその子にも原因が・・・・、」
そう言いかけようとした時、電波女は「それは違います」と遮った。
「イジメは悪なんです。だからイジメられてる子に原因があったとしても、やってはいけないことです。」
「それはそうだけど、でもイジメって大人の世界でもあるんだよ?だったら中学生なら尚更じゃないの?気に入らない相手がいたら、イジメに走ったっておかしくないよ。」
「イジメを肯定しないでください。いくら相手が気に入らないからって、平気で傷つけるようなことをするなんて・・・・、」
「肯定はしてないよ。ただその子がどういう子が具体的に知りたかっただけ。まあ喋りたくないならいいけど。」
「彼女のことなら教えてあげますよ。私以上に正義感の強い子でした。例えどんなに小さなことでも、間違ったことは許せない性格だったんです。」
「ああ・・・・それは正直・・・・・あれだな、鬱陶しがられるな。」
「でも私ほど気は強くありませんでした。言いたいことがあっても何も言えない、大人しい子だったんです。
だけど一度だけ勇気を振り絞って、クラスのリーダー格の女の子に注意をしたことがあるんです。」
「はいはい・・・・もう何となく分かるよ。」
俺は顔をしかめ、椅子にもたれた。
「学校ってさ、いわゆるスクールカーストっていうのがあるじゃない。自分より格下だと思ってる相手から注意されたら、そりゃ怒るよ。ましてやそれをリーダー格の子にやるなんて。」
「でも彼女のとった行動は正しいですよ。だってその時は、別の子がイジメの的にされていたからです。」
「ならそれを注意したわけだ。」
「はい。」
「それ以前にあんたはそれを注意しなかったの?」
「しましたよ。」
「でもイジメの的にはされなかったんだ?」
「されました。だけど私って気が強いから、相手が悪いことしてくるなら、黙っていられないんです。」
「まあ・・・・そうだろうね。」
「一度机の上に花瓶が置かれていたことがあったんですが、一目見て誰が犯人か分かりました。だって困惑する私を見ながら、リーダー格のグループがニヤニヤしていたからです。
だから花瓶を手に持って、その子たちの机に叩きつけてやりました。」
「・・・・・・・・・・・。」
「そして飛び散った破片を拾って、それをギュッと握りしめたんです。手から血が流れて、それを相手に見せつけました。」
「凄まじいな・・・・。」
「イジメをするってことは、相手をこうやって傷つけることなんだって、教えてやりたかったんです。こうやって心から血を流してるんだぞって。
それ以来クラスの誰も口を利いてくれなかったから、無視という形でイジメを受けていました。」
「それはイジメじゃなくて、誰もあんたに関わりたくなかっただけだと思うよ。」
「ならそれでいいです。だけど結局、リーダー格のグループはイジメをやめませんでした。相変わらず弱い子は的にされていたから、彼女が見かねて注意したんです。」
「それで今度は自分がターゲットになったと。」
「はい。私は彼女を守ろうとしましたが、でも私の見えないところでコソコソイジメられていたんです。だからとうとう我慢出来なくなって、彼女は自殺を考えるように・・・・、」
「なるほどね、そこから日本刀の事件に結びつくわけだ?」
「イジメの的にされた彼女は、クラスじゅうから除け者にされていました。彼女は私しか友達がいなかったし、私も彼女しか友達がいませんでした。
だから本当なら、私がしっかりと彼女を守ってあげないといけなかったんです。いけなかったんですけど・・・・・でも・・・・・、」
女は口を噤み、ギュッと目を閉じる。
膝の上で拳を握り、痛みに耐えるように震わせていた。


 

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十一話 占い師VS生真面目な女

  • 2015.12.15 Tuesday
  • 13:15
JUGEMテーマ:自作小説
占い師に占いをぶつける。
共に占い師である以上、下手な理屈は通用しない。
手の内だって分かってるわけだから、普段の客を相手にするのとはわけが違う。
しかしそれでも戦わないといけない時はあるわけで、後ろに道がない時は尚更だ。
俺は頭の中で、徹底的に理屈をこね回した。
オカルト占い師を納得させるだけの理屈を作り上げようと、必死になってこね回した。
しかしいくら考えたところで、しょせん理屈は理屈。
手の内がバレている同業者相手では、通用するにも限界がある。
だから俺は、もういっそのこと考えるのをやめにした。
あらかじめ用意した理屈をぶつけるんじゃなくて、その場その場の切り返しで乗り越えようと思った。
果たして俺の理屈がどこまで通用するか?
オカルト占い師との瀬戸際の勝負が始まった。
「俺が最後に感じた違和感は、ビルの取り壊しの話だよ。」
そう言って切り出し、相手の様子を窺う。
オカルト占い師はむっつりと黙っていて、腕組みをしながら俺を見ていた。
真面目な顔だが、どうしても笑ってしまいそうなほどマヌケな面だ。
でも笑えば全てが台無しになるので、グッと堪えながら続けた。
「このビルは築50年、ならボロがきて当然だけど、きっと初代のオーナーはこのビルが取り壊される日が来るなんて考えてなかっただろうなあ。」
しみじみと言いながら、わざとらしくビルを見渡す。
「今でこそボロだけど、きっと当時は立派だったんだと思う。それこそ駅前の綺麗なビルみたいに。
でもさ、さすがに築50年ともなれば、やっぱり時代から取り残されるもんなんだろうな。」
そう言ってオカルト占い師に目を向け、「あんたはきっと、ここの初代オーナーに会ったことがあるはずだ」と問いかけた。
「このビルが築50年ってことは、初代オーナーは相当歳がいってたはずだ。でもあんたはその人に会ったことがある。
だってこのビルの話をする時に、こう言ってたからな。『前のオーナーは病気で亡くなってね、今のオーナーが買い取ったんだ』って。
これってどう考えても、当時のオーナーを知る人間の言い方だよな?25の若僧じゃ言えないセリフだと思うんだけど?」
そう尋ねると、オカルト占い師は小さく笑った。
「君の言う通り、僕は当時のオーナーを知ってるよ。」
「ならやっぱりあんたは25じゃない。もっと年上だよ。」
「何言ってるのさ。確かに初代オーナーはかなり歳がいってたけど、でも昔にここを売り渡したとは限らない。
晩年になってから売り渡した可能性もあるよ。なら25の僕が会ったことがあってもおかしくないでしょ?」
「いや、おかしいだろ。」
「どこが?」
「だってビルを建てようと思うなら、それ相応のお金が必要だろ?とてもじゃないけど20代、30代じゃ無理だと思う。
そうだな・・・・せめて40以上じゃないと無理だろ。その頃なら、社会的に成功を収めて、ビルを建てるほどの金を持った奴だっているかもしれないから。」
「だとしたらどうだっていうの?40になってからビルを建てて、晩年に売り渡したかもしれないじゃない?」
「でもそうなると、相当な晩年に売り渡したってことになるぞ?」
「なんでさ?」
「だってあんたは自称25だ。それが本当だとするなら、占い師を始めてせいぜい4、5年だろ?」
「まあそうなるね。」
「でもって、ここで商売を始めたのも、だいたいそれくらいの頃からだ。」
「そういう計算になる。」
「でもそれはおかしいんだよ。ていうかあり得ない。」
「どうして?」
「だってあんたはさっき、こうも言ってたからだ。『オーナーは通路以外に使い道のないこの場所を、ただ遊ばせておくのが嫌なだけだったから。
だから格安で占い師を置かせてくれてるんだよ』って。」
「ああ、言ったよ。」
「これって今のオーナーのことを指してるんだよな?」
「もちろん。今のオーナーがこの場所を貸してくれてるんだから。」
「でもそうなると、あんたは初代オーナーには会ってないことになる。」
そう言って乾いた唇を舐め、一息に続けた。
「なぜならあんたがここに店を構えた時、ここはすでに今のオーナーの手に渡ってたからだ。
だとすらなら、あんたはいったいどこで初代オーナーと会ったんだ?」
「どういうことかな?」
オカルト占い師は挑発的に笑う。
俺はもう一度唇を舐め、気持ちを落ち着かせて続けた。
「あんたがここで店を構えた時、すでにビルのオーナーは変わっていた。それはつまり、初代オーナーが病気で亡くなった後ってことだ。」
「そうなるね。」
「だったらもう亡くなってるはずの初代オーナーに会うことなんて出来ない。そうだろ?」
「うん。」
「でもあんたはさっきこう答えた。『君の言う通り、僕は当時のオーナーを知ってるよ』ってな。こりゃあどう考えてもおかしいよな?
だってあんたが本当に25だっていうなら、どこにもオーナーに会うチャンスが無いんだから。」
「・・・・・・・・・・。」
「あんたがここに店を構えた時、すでに前のオーナーは亡くなってる。でもあんたは確かに会ったことがあると答えた。ならどこかに嘘があるはずなんだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「あんたは本当のことを喋ってなくて、どこかで嘘をついてる。そしてその嘘こそが、俺についたたった一つの嘘だ。」
オカルト占い師の眉毛が少しだけ動き、唇が尖る。
俺から目を逸らし、靴屋の方を睨んだ。
「そして俺についたたった一つの嘘というのが、年齢だ。あんたは本当は25なんかじゃなくて、もっと年上なんだよ。」
そう突きつけると、「なら幾つに見える?」と言った。
「この前は40〜50くらいって言ったけど、あれは外れてるよ。本当は幾つに見えるんだい?」
「70。」
「即答だね。その根拠は?」
「あんたは今のオーナーに頼んで、新しいビルで占いが出来ないがどうかの交渉の機会を作ってもらった。」
「そうだよ、仲がいいんでね。」
「でもいくら仲がいいからって、普通はそこまでしてくれないと思う。」
「またただの感想かい?」
「俺たちに物的な証拠はいらない。あんたも頷いたろ?」
オカルト占い師は小さく笑い、肩を竦めた。
「新しいビルで仕事が決まったってことは、実際に交渉の機会を作ってもらったってことだ。
なら今のオーナーは、あんたの無茶なお願いの為に尽力してくれたことになる。」
「そうだね。」
「今のオーナー、俺は実際に会ったことはないけど、でも若くはないのは確実だ。多分50くらいのオッサンだと思う。」
「それも感想だね。」
「何度も言わせるなよ、占い師なんだから具体的な証拠は・・・・、」
「分かってるよ、続けて。」
「ここのオーナーは金持ちで、別のビルの持ち主にまで交渉出来るほど、地位のある人間ってことだ。ならそれくらいの年齢が妥当だと思う。
若すぎたらそこまでのことは無理だろうし、逆に年寄り過ぎたら占い師の為にそこまで尽力してくれるほどのエネルギーってないと思う。
だからやっぱり、50くらいが妥当だよ。」
「オーナーの歳を推測しても意味ないよ。僕の年齢が70である根拠を聞いてるの。」
「今から説明してやるよ。」
乾いた喉に唾を流し込み、息をついて続けた。
「それなりに地位のある50のオッサンが、あんたの為に尽力してくれた。ということは、あんたはここのオーナーよりもずっと目上の人間ってことになる。
そうでなきゃ、そこまで力を貸してくれないだろうから。」
「どうして?良い人だから力を貸してくれたのかもしれないよ?」
「そういう考え方も出来るけど、でも違うはずだ。だっていくら仲が良いって言っても、相手はたかが占い師で、別にこのビルからいなくなっても困らない。
でもわざわざあんたの頼みを聞いて、交渉の機会を作ってくれた。そうなると、あんたはやっぱり目上の人間なんだよ。
お願いというより、命令に近い感じで頼み込んだのかもしれない。そしてそこまでことのが出来るほど目上の人間なら、相当年上のはずだ。だから70が妥当。」
「もっと上という可能性は?」
「ない。さすがに80や90で占い師はやってないだろ。もし占いに関わるとしても、弟子でもとって後進の育成の方に励んでるはずだ。」
「・・・・・・・・・。」
「あんたの本当の歳は70くらいで、何十年も前からここで占い師をやってる。でもって、その間に何人もの万引き犯を見つけてきた。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「だから初代のオーナーにも会ったことがある。おそらくここを貸してもらえないか頼んだ時にな。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「きっと初代のオーナーも良い人だったんだろな。占い師の為に、通路なんて場所ではあるけど、格安で場所を貸してくれたんだから。
今のオーナーは、初代オーナーの意向を引き継いで、俺たちにも場所を貸してくれてる。だからきっと、今のオーナーは前のオーナーの息子なんだろう。
だって赤の他人なら、わざわざ格安で占い師に場所を提供するはずがないからな。父親の頼みで、今でもこの場所を貸してくれてるんだ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あんたはきっと、初代オーナーの友達か何かだったんだろう。だからこの場所を借りることが出来た。
そして親父の代からの知り合いだから、今のオーナーはあんたの頼みを聞いて、交渉の機会を作ってくれた。これが俺の理屈だ。」
そう言って顔を近づけ、「当たってるかどうかは知らないけど」と笑った。
「でもそんなのは重要じゃない。要は俺の理屈に、あんたが納得するかどうかだ。そしてあんたは難しい顔して黙り込んでる。だったら・・・・これは俺の勝ちってことだよな?」
挑戦的な目でそう問いかけると、オカルト占い師はしばらく黙っていた。
靴屋を睨み、ポリポリとハゲ頭を掻いている。
そして俺に顔を近づけ、こう答えた。
「君、面白いね。」
「は?」
「だって滑稽だもん。途中から笑いそうになっちゃって・・・・、」
そう言って口元を押さえ、肩を揺らして笑った。
「おいふざけんなよ。こっちは真剣に答えたんだ。ならそっちも真剣に・・・・・、」
「いやいや、こんなの元々遊びだから。」
「はあ?遊び?」
「ていうか・・・・・仕返し?」
オカルト占い師はそう言って、靴屋に向かって手招きをした。
すると店の中から、帽子を被った一人の女が現れた。
ツバのついた帽子を深く被っているので、顔は見えない。
そしてその手にはスマホを持っていて、じっとこちらに向けていた。
「なんだコイツ・・・・・、」
怪しい奴が出てきて、顔をしかめる。
するとオカルト占い師が「この人知ってるよね?」と尋ねた。
「は?いや、知らねえよこんな怪しい奴。」
「いやいや、つい最近会ったでしょ。」
「だから知らねえって。」
「あ、そう。なら・・・・顔を見せてあげなよ。」
オカルト占い師は、怪しい女に向かって頷きかける。
すると女は帽子を取り、「どうも」と頭を下げた。
「あ・・・・・・・、」
「ね?知ってるでしょ。」
「・・・・・電波女。」
そう呟くと、「電波じゃありません。太良池です」と睨んできた。
「あなたがインチキ占い師である証拠を掴みました。」
「は?」
「今までのやり取りは、全てこのスマートフォンに収めています。これをネットに上げれば、あなたは占い師としてお終いです。」
そう言って、水戸黄門の印籠のようにスマホを見せつける。
そこにはさっきまでの俺とオカルト占い師のやり取りが録画されていた。
俺が必死になって喋り、オカルト占い師が余裕の笑みでそれを聞いている。
「どうです?あなたのインチキ屁理屈占いが、ちゃんと記録されています。」
「・・・・・・・・・。」
「ちょっと離れていたので声は聴きとりづらいですが、でもパソコンでいじればハッキリ聞こえるようになるはずです。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「ベラベラ偉そうに屁理屈を喋り、インチキで金儲けをしている悪い人・・・・。これがその証拠です!」
そう言って俺を睨み付け、「さあ、どうですか?」と尋ねた。
「どう・・・・・って、何が?」
俺は意味が分からず、ただ顔をしかめていた。
するとオカルト占い師が「まだ分からない?」と笑った。
「君ってけっこう鈍感なんだね。」
「はあ?何がだよ?」
「これって最初から、全て僕たちが仕掛けてた罠なんだよ。」
「罠・・・・・・?」
「うん。君みたいなインチキ占い師を懲らしめる為に、僕と太良池さんが仕掛けた罠。ね、太良池さん。」
そう言って電波女に頷きかけるオカルト占い師。
「そうです。霊能力も無いのに占いなんて、れっきとした詐欺です。」
「いや・・・・何言ってんだお前・・・・。」
「でも残念ながら、警察に行っても相手にしてもらえませんでした。」
「当たり前だろ。警察だって暇じゃねえんだ。お前みたいな電波を相手にしてられるか。」
「だから警察に代わって、私が裁くことにしました。」
「はあ?」
「あなたの言うことは、何一つ当たっていません。佐々木さんの嘘にまんまとハマり、それを信じ込んで屁理屈を披露した。
だからこのインチキ占いの動画をネットにアップします。そうすれば、あなたが屁理屈のインチキで金儲けをしている悪い人だって、みんなが気づくから。
あなたみたいな悪者の犠牲者になる人を、少しでも減らせるんです。」
「・・・・・いや、だから何言ってるか全然分からね・・・・病院でも行って来いよ。」
「分からない?何が分からないんですか?あなたは自分のやったことに罪の意識は無いんですか?」
「いや、もういいから。お前なんか相手にしてらんねえ。」
「誤魔化さないでください。屁理屈で人を騙し、それでお金儲けをして平気なんですか?」
「あのな・・・・占いってそういうもんだから。霊能力とか嘘っぱちなの。」
「違います、嘘っぱちなのはあなたです。そのせいで・・・・マルちゃんが死んだんです。」
そう言って目を潤ませる電波女。俺は呆れた顔で頭を掻いた。
「お前な・・・・いい加減にしねえと営業妨害で警察呼ぶぞ。」
そう言ってテーブルを叩き、「とっとと失せろ!」と怒鳴った。
しかし電波女はさらに詰め寄ってきて、「この人でなし!」と罵った。
「マルちゃんを殺したクセに、それを何とも思わないなんて・・・・あなたには人の心がない!」
「・・・・・え?なんて?」
よく分からないことを言われて、思わず聞き返した。
「マルちゃんを死なせてって・・・・この猫のことか?」
そう言ってオカルト占い師の猫を指さすと、「それはマルちゃんの兄弟です」と言われた。
「は?兄弟?」
「マルちゃんは死にました。車に撥ねられて。」
「いや、でもここに・・・・・、」
「それはマルちゃんの兄弟って言ったでしょ。マルちゃんは車に撥ねられて即死だったんです。」
「そ・・・・そうなの?」
「当たり前でしょ!正面から車に撥ねられたんですよ!それであんなに酷いことになって・・・・・可哀想・・・・。」
電波音は泣き出し、ズズッと鼻をすすりあげた。
「あなたがインチキ占い師じゃなかったら、マルちゃんは死ななかったのに・・・・・この嘘つき!」
「はああああ!?」
意味不明を通り越し、思わず笑いそうになってくる。
もう相手にするのが面倒臭くなって、「帰るわ」と立ち上がった。
「こんな電波がいるんじゃ商売になんね。今日は店じまい。」
「逃げるんですか!?」
「うん。」
「この卑怯者!」
「何とでも言えよ、このオカルト電波女が。お前に必要なのは、猫じゃなくて頭の病院だ。今すぐ治療してもらってこい。」
そう言って帰ろうとすると、ふと気になるものが目に入った。
通路の先に、チラチラとこちらの様子を窺う人物がいたのだ。
「あれは・・・・・さっきの万引き犯じゃねえか。」
警察に連れて行かれたはずの万引き犯が、なぜかこっちを見ている。
するとオカルト占い師が「やば・・・・」と呟いた。
「ん?お前今やばって言ったか?」
「あ・・・・いや・・・・、」
「あいつさっきの万引き犯だよな?なんであんな所にいるんだ?警察に行ったはずだろ?」
「さあ・・・・・。」
「とぼけんなよ。こりゃどういう事だ?」
オカルト占い師に詰め寄り、「おい」と胸倉を掴む。
「やめて!暴力は・・・・、」
「黙れ電波女!こいつに聞いてんだよ!」
胸倉を持ち上げ、強引に立たせる。
「おいお前・・・・・これはどういうことだ?」
「・・・・・・・・・・・。」
「黙ってんじゃねえよ!お前・・・・・もしかして何から何まで仕込んでたのか?」
そう言いながらチラリと靴屋の方を見ると、さっきの店長もこっちの様子を窺っていた。
しかし俺と目が合うなり、サッと奥に消えてしまった。
「ああ・・・・・なるほどな。みんなグルだったってわけか。」
オカルト占い師を突き飛ばし、「何から何まで仕込みだったってことだな?」と周りを見渡した。
「さっきの万引き犯、それにあの店長・・・・全部お前らが仕組んだヤラセなんだろ?」
そう詰め寄ると、「違うよ!」と首を振った。
「だって実際に警察に連れて行かれただろ!君も見てたじゃないか!」
「ああ、見てたよ。じゃあなんで万引き犯があんな所にいるんだ?おかしいじゃねえか。」
「そ、そんなの知らないよ・・・・。」
「嘘つけ!本当は万引きなんてなかったんだろ?全部自作自演だったんだろ?」
「だから違うって!実際に警察が来てたじゃないか・・・・。」
「確かに来てたけど、でもあれも仕込みなんだろ?」
「そ・・・・そんなわけないだろ!どうやって警官なんか仕込むんだよ!」
「あのな、今時ネットがありゃ大抵のもんは手に入るんだ。本物の制服は無理だとしても、コスプレ用の服なら手に入るだろ?」
「そ・・・・そんなの言いがかりだ・・・・。君の勝手な想像で・・・・、」
「じゃあ説明してもらおうか。なんで万引き犯がここにいる?どうして警察署に連行されてないんだ?ええ!?」
そう言ってガクガク胸倉を揺さぶると、「太良池さん!」と助けを求めた。
「け・・・警察!警察呼んで!」
「おう、呼んでみろや。でも痛い目見るのはてめえの方だぞ?」
「な・・・・なんで僕が・・・・・、」
「当たり前だろ!嘘の万引き犯でっちあげて、警官のコスプレした奴まで出てきたんだ。そんな悪ふざけをしておきながら、本物の警察なんか呼んでみろ。注意を受けんのはてめえの方だ!」
「そ・・・・それは・・・・、」
「だいたいな、そんな話がオーナーの耳に入ってみろ。てめえこそここから叩き出されるんじゃねえのか?」
「こ・・・・このビルは半年後に取り壊されて・・・・・、」
「もうそんな嘘はいいんだよ!何もかもてめが仕組んだことだってバレてんだ!いい加減白状しろや!」
胸倉を掴んだまま拳を振り上げる。
オカルト占い師は「やめて!」と叫び、必死に顔を覆った。
すると電波女が「占って下さい」と口を開いた。
「私を占って下さい。」
「はあ?何をいきなり・・・・・、」
「あなたは占い師でしょう?だったら私を占って下さい。」
いきなりの言葉に、俺もオカルト占い師もキツネにつままれたような顔で女を見ていた。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第十話 占い師VS占い師(3)

  • 2015.12.14 Monday
  • 13:10
JUGEMテーマ:自作小説
オカルト占い師は椅子にふんぞり返り、真剣な顔で笑っている。
その挑発的な態度に苛立ったが、でも今は怒っている時じゃない。
ここでこいつの嘘を見抜かないと、俺は占い師として終わるかもしれないのだから。
《嘘・・・・この若ハゲの嘘・・・・。そんなもんどうやって見抜けってんだよ?こいつになんか興味ないから、ぜんぜん会話とか覚えてねえし・・・・。》
俺は困り果てた。しかし困ってるだけではチャンスを失う。
だから占い師を続ける為に、恥を忍んで頭を下げた。
「頼む!なんかヒントくれ!」
膝に手をつき、深く頭を下げる。
よもやこの若ハゲに頭を下げる日が来るなんて思わなかったが、最近は「よもや」ばかりなので、もう気にしていられない。
この先も占い師を続ける為なら、一瞬の恥なんていくらでもかいてやる!
・・・・じっと頭を下げ続けていると、オカルト占い師は「仕方ないなあ」と根負けした。
「いいよ、なら一つだけヒント。」
「お願いします!」
「全部今までの会話にヒントが隠されてる。」
「それ・・・・ヒントって言うのか?」
「君がちゃんと僕との会話を覚えていれば、見抜くことが出来るはずだよ。」
「・・・・・・覚えてねえ。」
「ほら、それ。君は女の人以外はほんっとに見ようとしないからね。でも男もちゃんと見ていれば、見抜けるはずなんだよ。
だってまがりなりにも、二年もこの道で飯を食ってきたんだから。だからちゃん集中さえすれば見抜けるはずだよ。」
そう言って「これ以上は何も教えないからね」と黙り込んだ。
「会話・・・・今までの会話にヒント・・・・・、」
ブツブツ言いながら、頭を抱え込む。
目を見開き、オカルト占い師との会話を思い出した。
《ほんのついさっきの会話だ。思い出せないはずがない。どうにか記憶を引っ張り出すキッカケさえ掴めれば・・・・・、》
うんうんと悩みながら、チラリとオカルト占い師の方を見る。
するとあの猫が目に入って、電波女のことを思い出した。
《ええっと・・・・確かこいつとの会話の始まりは、この猫だったはずだ。そこからあの電波女に話題が変わって、その後に靴屋の万引きがあった。
そんでこのビルの取り壊しの話になって・・・・・・、》
猫を睨みながら考えていると、ふとあることに気づいた。
《この猫の飼い主がこのオカルト野郎。そんであの電波女の友達・・・・・。なんかそこにヒントがあるような・・・・・、》
記憶を手繰り寄せ、どうに会話の内容を思い出す。
するとわずかに「ん?」と思うことがあった。
それはとても小さな違和感だけど、でもどうしても心に引っかかった。
この違和感の正体を探る為、俺はさらに記憶を手繰り寄せた。
《靴屋で万引きがあった後、ちょっとだけ『あれ?』って思うことがあったんだよな・・・・。大して気にしなかったけど、さっきの違和感と繋がるかも・・・・、》
眉間に深い皺を寄せて、じっとテーブルを睨み付ける。
集中すればするほど周りの音が聴こえなくなり、その代わりに鮮明に記憶が蘇ってきた。
《コールド何とかの話は・・・・・まあどうでもいい。これは説教みたいなもんだからな。大事なのはその次だ。
このビルが取り壊されるのはビックリだけど、でもそんなの俺は全然知らなかった。いや、俺だけじゃなくて、このビルで商売してる人達は誰も知らない。
知ってるのはただ一人、このオカルト占い師だけ。それはビルのオーナーから直接教えられたから・・・・。
これってよくよく考えると、すごいコネだよな。公式に発表してないことを教えてもらえるなんて、よっぽど深い付き合いがないと無理だ。》
そう考えながら、ざっとビルの中を見渡した。
《建って50年か・・・・確かにボロイ感じがするよな。いちおう客は入ってるけど、でもこのままじゃどんどん駅前の綺麗なビルに客を取られていくだけだ。
ここを最初に建てたオーナーは、いつかこういう日が来るって思ってたんかな?もう亡くなってるらしいけど、きっとここを建てた時は、潰れることなんて考えてなかっただろうな。
今はボロイって言っても、当時としては立派なビルだったんだろうし。》
このビル、そして初代のオーナーの気持ちを想像していると、また違和感があった。
それは先ほど感じた違和感に繋がるもので、《これってやっぱり・・・・、》と、ある一つの疑いが浮かんだ。
《このオカルト占い師は、一つだけ嘘をついてる。でもその嘘は、何も今日の会話の中でついた嘘じゃないはずだ。
『今までに一つだけ』って言ってたから、この二年の間についた嘘なんだ。
でもこいつとは大したことは話してないし、ほとんど嫌味の言い合いばっかりだった。
だけど・・・・つい最近、嫌味以外のことも話した。そう・・・・あれは銀鷹君が来た次の日、こいつと俺で、あることを見抜き合ったんだ。
こいつはピッタリそれを当てやがったけど、俺は間違えた。だから嘘をついてるとしたら、その部分しかない。》
もう一度猫に目を向け、じっと見つめる。
くあっと欠伸をしながら、オカルト占い師の膝で丸まった。
《こいつがついた嘘は分かった。でもその嘘を突きつけたら、今度は根拠を求められるはずだ。いったいどうしてそれが嘘だと思うのか?それを説明しろって言ってくるに決まってる。》
今までに掘り起こした記憶を整理しながら、根拠を求められた際の反論を考える。
そしてゆっくりとオカルト占い師に視線を向け、むっつりと黙り込んだその顔を睨んでやった。
「あんたのついた嘘って、年齢のことだろ?」
そう尋ねると、「どうしてそう思うの?」と返してきた。
「今までの会話の中で、何個か違和感があったから。」
「どんな?」
「まずあんたは、電波女のことを『その子』とか『優しい子』って呼んでた。でもこれはおかしい。」
「どうして?仲がいいからそう呼んだだけだよ。」
「いや違う。『子』って呼び方は、自分より年下に対して使う呼び方だ。でもあの女はあんたより年上だろ?」
「なんでそんなこと君に分かるのさ?太良池さんは自分の歳なんか教えてないはずだろ?」
「教えられなくても分かるよ。だって俺は、女を見抜く目はだけは自信があるからな。特に年齢と彼氏の有無、それに既婚者かどうかはすぐに分かる。」
「君の得意なコールドリーディングだね。女性を見る目に関しては凄いと思うよ。」
「そこはあんたも認めるところだから、説明はいらないよな?」
「うん、二年間隣で見てたからね。」
「なら続けるけど、あの電波女は28か29で間違いない。でもってあんたは、この前に25って答えたよな?」
「見た目より若いだろ?」
そう言って笑うが、俺は真面目な顔で睨み付けた。オカルト占い師は笑みを消し、「どうぞ」と先を続けるように促した。
「25のあんたが、年上の女に向かって『子』を付けて呼ぶのは、ちょっと違和感がある。
絶対に無い事とは言えないけど、でもどうしても引っかかるんだよ。」
「どうして?あり得ない事じゃないなら、違和感を覚える必要なんてないはずだろ?」
「そうだな。でもあの電波女は、異常なまでに礼儀とか常識とかにこだわりを持ってると思うんだよ。
相手のことなんかお構いなしに、自分が正しいと思ったことをやる。そんな病的なほど真面目に憑りつかれた奴が、年下に『子』を付けて呼ばれるのを許すとは思えない。」
「本人にそんな呼び方はしないよ。」
「分かってるよ。でもそういう呼び方をするってことは、自分より下に見てるってことだ。だったらあの電波女と接する時だって、年下を扱うような感じで話してるんだと思う。
それをあの電波が許すとは思えないってことだよ。」
一息にそう答えると、オカルト占い師は「なるほど」と笑った。
「まあ理屈は通ってるかもね。でもそれだけじゃ弱いよ。」
「分かってるよ、だから他にも違和感を覚えた部分があるんだ。」
そう言って乾いた唇を舐め、気持ちを落ち着かせた。
「次に違和感を覚えたのは、靴屋の店長だ。」
「店長?へえ、どこに違和感を覚えたの?」
「万引き犯を警察に引き渡したあと、店長はあんたの所へ礼を言いに来たよな?」
「律儀だよね、良い店長だよ。」
「あの時店長はこう言ってたんだ。『どうも毎回すみません』って。これってさ、あんたはちょくちょく万引き犯を見つけてるってことだよな?」
「まあそうなるね。」
「だけど俺がここへ来て二年の間に、あんたが万引き犯を見つけた所を見たことがない。なら『毎回すみません』って言い方に違和感を覚えたんだよ。」
「君が休んでる時に見つけてるんだ。おかしな事じゃない。」
「俺が休むのは、基本的に木曜だけだ。たま〜にサボったりする日もあるけど、でも週に何回も休んでるわけじゃない。
だったら数少ない休日の時に限って、あんたが万引き犯を見つけてるとは考えにくい。」
「でも実際にあの店長は『毎回すみません』って礼を言ったんだよ?なら君が休みの日に万引き犯を見つけてるっいうのが、一番筋が通るんじゃないの?」
「いいや、違う。」
「どう違うのさ?」
「さっき見つけた万引き犯は、俺がここへ来て二年の間に、初めて見つけたやつなんだよ。」
「なら『毎回』っておかしいじゃない。」
「そう、おかしいんだよ。でもこう考えると筋が通る。あんたは相当昔から占い師を続けてる。それも4年や5年じゃない。
きっと何十年も続けてるんだ。そんでその間にたくさんの万引き犯を見つけてきた。だからあの店長は『毎回』って言ったんだよ。」
「いや、その理屈こそおかしい。だって僕は25なのに・・・・・、」
「だからそれが嘘だって言ってんだろ。あんたは25なんかじゃない。もっと年上だよ。」
そう言って靴屋に目を向け、「多分さっきの店長だって・・・」と続けた。
「あの人、一見若く見えるけど、でも見た目より歳食ってると思う。」
「どうしてそう思うの?」
「だって万引き犯を見つけた時の対処が、あまりに冷静だったから。いくら店長だろうと、若い奴ならあそこまで落ち着いて対応できるとは思えない。
だからけっこうなキャリアがあるんだよ。きっと実際の年齢は40とかその辺だと思う。」
「それ君の予想でしょ?」
「そうだよ。でも占いなんてそんなもんだろ。物的証拠がなきゃ成り立たないっていうなら、俺たち占い師は飯の食い上げじゃねえか。」
そう答えると、オカルト占い師は「確かに」と笑った。
「でもまだそれだけじゃ弱い。確かに僕たち占い師の仕事に、物的証拠は必要ない。でも逆に言えば、物的証拠なんて必要ないと思わせるくらいの理屈が必要なんだよ。
その理屈が正しいかどうかはさておき、相手を納得させる力がなきゃいけない。」
「それも分かってる。だから・・・もう一個あるんだよ、違和感が。」
「ならそれが最後だね?」
「ああ、これが最後。」
「その違和感を説明する理屈が弱かったら、僕は納得しないだろう。これがどういう意味か分かるよね?」
「あんたは俺の突きつけた嘘を認めない。だから俺の負けになる。」
「ならこれが本当に最後だ。君の得意の屁理屈で、僕を納得させてみてよ。」
オカルト占い師は余裕の笑みでふんぞり返る。
俺は目を逸らし、テーブルの上に視線を落とした。
《ようやくこの勝負の意味が分かってきた。これはオカルト占い師が、本当に嘘をついているかどうかはどうでもいいんだ。
大事なのは、その嘘が本当の嘘であると思わせるくらいの理屈を聞かせること。そしてその理屈でこいつを納得させなきゃいけない。
要するにこれは、俺を新しいビルへ連れて行くかどうかの試験みたいなもんだ。》
オカルト占い師が、何を意図してこんな勝負をしかけてきたのかは分かった。
そしてそれが見えてくると、今の自分に何が求められているのかも分かるような気がした。
《もしここで躓くようなら、俺に占い師としての未来はない。俺は手相もタロットも出来ないから、このコールド何とかに頼るしかないんだ。
だから何としてもこいつを納得させる理屈を披露しないといけない。・・・・瀬戸際の勝負だ。》
杉原や高司が言うように、もしかしたら俺の占いはただの屁理屈なのかもしれない。
しかし占いが人生相談であるという考えは、今でも変わらない。
だったら重要なのは、当たっているかどうかではなく、相手を納得させられるかどうかだ。
一番最後に感じたこの違和感・・・・これをいかに理屈として形にするかに全てが懸っている。
テーブルに視線を落としたまま、幾つもの理屈を組み立てていく。
自分の言葉、相手の反論、その反論に対しての切り返し・・・・・。
周りの音が聴こえなくなるほど、理屈の海に没頭していった。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第九話 占い師VS占い師(2)

  • 2015.12.13 Sunday
  • 13:10
JUGEMテーマ:自作小説
オカルト占い師の言う通り、靴屋の若者は万引きをしていた。
「・・・・というわけ、どう?」
勝ち誇ったように笑いながら、こちらに目を向けてくる。
俺はじっと靴屋を睨んだまま、「何が?」と尋ねた。
「何がって、あの子万引きしてたでしょ?僕の言った通りじゃない。それについてどう思ってるの?」
「たまたまだろ。」
「ほんとにそう思う?」
「ずっと様子を見てたんなら、誰だっておかしいって気づいたんじゃないの?自分の手柄みたいに言うなよ。」
「いや、誰でも気づくわけじゃない。だってあの子は相当やり慣れてるはずだから。ちゃんと店員以外の人間にも目を配ってたよ。普通じゃまず気づかない。」
「ああ、そう。じゃああんたが特別にすごいんだな。もしかして霊能力か?」
馬鹿にしたように尋ねると、オカルト占い師は「まさか」と笑った。
「こんなもんに霊能力なんていらないよ。ちゃんと相手の表情や行動を見てれば分かるからね。」
「へえ、ずいぶんと目がいいんだな。」
「そう。これがコールドリーディング。」
またさっきの言葉が出てきて、「だから何だよそれは?」と睨んだ。
「そのコールド何とかってのは、いったいどういう意味なんだ?」
「知りたい?」
「教える気がないなら言うな。」
「じゃあ教えてあげるよ。」
そう言って偉そうに笑い、「これは相手の情報を読み取る技術なんだよ」と答えた。
「リーディングってのは読む力。コールドは沈黙って意味。だから物言わぬ相手からでも、たくさんの情報を読み取る技術のことさ。」
「ああ、そういう事か。」
俺は納得し、「それなら俺もやってるぞ」と言い返した。
「要するに観察力とか洞察力で、相手の性格やクセを見抜くってことだろ?」
「そうだよ。だからさっきも言ったじゃない、君がやってる占いはコールドリーディングだって。」
「へえ、俺はそんな名前があるなんて知らなかった。まあ知る必要もないけど。」
「これは占いだけで使われる技術じゃなくて、ビジネスマンが交渉の時にも使ったりするんだよ。相手の情報を集めることが出来れば、有利に話し合いを進められるからね。」
「まあそうだろうな。俺だって客の性格を読み取って、それを自分なりにカテゴライズしてる。それである程度の性格や行動パターンを言い当ててるんだ。」
「そう、だから君がやってるのはコールドリーディング。でもまだまだ下手くそだけど。」
馬鹿にしたように笑われて、またカチンと来る。
「なんだその言い方?」
「だって君は見抜けなかったじゃない。あの子が万引きをするかもって。」
「あのな、靴屋の客なんかじっと見てるわけねえだろ。俺が見るのは目の前に座った客だけだ。」
「分かるよ、だってそれが商売だもんね。タダで見たって金にならない。」
「分かってるなら言うんじゃねえよ。」
「でも逆に言うと、もし君がじっとあの子を見ていたら、気づいた可能性があるってことだよ。」
「だからあ・・・・そんな金にならない事しても意味な・・・・、」
「修行だよ。」
「は?」
「コールドリーディングの修行。君はそれを怠ってる。」
そう言ってオカルト占い師は、目の前を通り過ぎる人達を見つめた。
「コールドリーディングっていうのは、この目でもって人の内面を見抜くことさ。だからこうやって人を眺めてるだけでも、充分修行になる。」
「あ、そ。」
「君は女の人を占うのが得意だよね?」
「まあな。女を見る目には自信がある。」
「それは常に女の人を見てるからだよ。きっと女性経験も豊富だろうし、女を見ること自体が好きなんだ。・・・あ、別にいやらしい意味だけじゃなくてね。」
「うるせえな。そういうクセなんだよ。」
「でもそのおかげで女の人を見る目は長けてる。そして自分の中に、事細かに分析されたカテゴリーを持ってる。」
「さっき俺がそう言ったじゃねえか。」
「君の中には、大量に女の人の情報が蓄積され、それが占いで活かせるように体系立てられてるんだよ。きっと無意識のうちにそうなったんだろうけど。」
「そんなことねえよ。占い師やるんだから、ちゃんと自分なりに女のパターンを分けるカテゴリーを作ったんだ。」
「なるほど。でもだからこそ女の人を見る目は養われてるし、その分析も正確だ。けど・・・・これが男だったらどうかな?」
そう言って俺に目を向け、「僕のこと見抜ける?」と、片目を瞑って望遠鏡を覗くような真似をした。
「お前になんか興味ねえよ。見る気もしねえ。」
「だよねえ。だからこそ僕の年齢を当てられなかったんだ。」
「だってお前老け顔だもん。それに禿げてるし。」
「老け顔でハゲの若者だっているよ。」
「いねえよそんなの。」
「現にここにいるだろ。」
「そうだな。お前みたいな奴は滅多にいないから、見抜くことが出来なかった。それだけだよ。」
「そう、そこなんだよ!」
オカルト占い師は大声で言って、また指をさした。
「君はね、自分に興味のないものにはまったく目を向けようとしない。でもそれが致命的な弱点なのさ。」
「どこが?」
「だって女の人以外は見抜けない。」
「そんなことねえ。おれは男だって色んなこと見抜けるよ。それでカップルを誕生させて、結婚までいった奴らもいる。」
「それは女の人を見抜く目があるからだよ。こういうタイプの女性なら、こういう男を好むだろうって想像してさ。
だからきっと、君が誕生させたカップルのほとんどは、男から相談を受けてのものだ。違う?」
そう言われて、「まあそうだけど・・・・、」と答えた。
「君は自分の男友達から相談を受け、そしてその子に合いそうな女の子を紹介してあげた。
この場合だと、男の方に関しては君の友達だから、最初からどういう人間かよく分かってる。それはつまり、その男を見抜く必要はないってことだ。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから相談を受けた君は、逆算して考えることにした。こういう男を好むのは、どういう女だろうかってね。
それで相談を受けた男にピッタリ合いそうな女の子を見つけ、それを紹介した。そうだろ?」
「・・・・・ああ、合ってるよ。」
「それはつまり、君が誕生させたカップルのほとんどは、女性を基準にして考えたってことさ。
だから男の方はまったく見ていない。だけど・・・・もし男だけを見なきゃいけない時が来たとしたら?
君は果たして、その男を正しく見抜くことが出来るのかな?」
挑発的な口調で言いながら、「さあ、僕を見抜いてよ」と言った。
「僕は一つだけ君に嘘をついている。」
「嘘?」
「そう、嘘だよ。僕は今までに、君に一つだけ嘘をついてるんだ。それが見抜ける?」
いきなりそう問われて、俺は顔をしかめた。
「お前の嘘なんて見抜きたくねえよ。」
「それは言い訳だね。単純に見抜く力を持ってないだけなんだよ。」
「うるせえな。もう黙ってろ。」
「いいや、黙らない。ちゃんと僕の嘘を見抜いてもらう。」
「はあ?お前な、さっきからいったいなんなんだよ。鬱陶しい奴ってのは知ってるけど、今日は特にひどいぞ。」
イライラを通り越し、だんだんと呆れてくる。
もうこんな奴は相手したくないので、無視を決め込むことにした。
「あ、逃げる?」
「・・・・・・・・・・。」
「別にいいよ、そうやって逃げるなら。」
「・・・・・・・・・・。」
「だってこのまま無視し続けると、困るのは君なんだから。」
「・・・・・・・・何が?」
ずっと無視しておこうと決めたのに、なぜか気になって尋ねてしまった。
「お、いいね。ちゃんと反応した。」
「はあ?何がだよ・・・・。」
「さっき『困るのは君なんだから』って言った時に、ちょっとだけ声のトーンを落としたんだよ。ほんのちょっとだけだけどね。」
「それが何だ?」
「声が低くなるってことは、怒りや不安の表れでもあるのさ。君は僕の声のトーンがわずかに変わったことに気づき、無意識に自分も不安も覚えたんだ。
だから無視し続けることが出来ずに、こうして口を開いた。」
「お前の分析なんか聞いてねえ。いったい何が困るのか言えよ。」
俺は腕を組み、真剣な目で睨んだ。
多分・・・・いや、きっと良くない事を聞かされるんだろうけど、でも聞かずにはいられなかった。
だってオカルト占い師の目は、さっきまでの俺を馬鹿にした感じとは違っていたからだ。
もっと・・・・何か大切な、そして真剣なことを言おうとしている。そう感じさせる目だった。
だから俺も真剣に聞くことにした。
息を飲みながら、じっと目を逸らさずに。
「あのね、非常に残念なお知らせなんだけど・・・・・、」
そう前置きしてから、さらにトーンを落としてこう続けた。
「このビルね、半年後に取り壊されるんだよ。」
「へ?取り壊す?」
思わず変な声が出てしまい、口を開けて固まった。
「いいねその顔。予想よりも驚いた表情してる。」
「おい、取り壊すってどういうことだよ?」
詰め寄って尋ねると、「そのまんまの意味だよ」と答えた。
「実はね、僕とこのビルのオーナーは昔からの知り合いなんだ。」
「そ・・・・そうなの?」
「だからオフレコで教えてもらったわけ。半年後にここを取り壊すってね。これ、まだ誰にも言っちゃダメだよ。公式に発表してないんだから。」
そう言ってニヤリと笑い、「ここも古いからねえ」としみじみとした。
「もう築50年くらいだよ。前のオーナーは病気で亡くなってね、今のオーナーが買い取ったんだ。
でもそれだけ古いと、あちこちにガタがくるじゃない?耐震性にも問題が出てくるし。」
「ああ・・・・まあ・・・・、」
「でもビルごと建て直すのは、あまりにお金がかかる。それならいっそのこと、ビルを壊して駐車場にでもしようってことになったわけ。」
「ちゅ・・・・駐車場・・・・・。」
「この街もずいぶんと人が増えてきたからね。古いビルを維持するよりも、手間のかからない駐車場の方が、利益が見込めるってわけだよ。」
「そ・・・それは・・・正しい選択かもな・・・・・、」
「でしょ?でもさ、そうなるとこのビルで働いている人達は困るよね?」
「そりゃそうだろ。仕事がなくなっちゃうじゃんか。」
「まあその辺はオーナーも考えてるよ。別の場所に持ってるビルに、こっちの従業員を移そうと考えてるんだ。
でもそれだけじゃ収まり切らないから、その場合は自分のとこの会社で雇ってもいいと言ってた。」
「へえ、今時ずいぶん良心的な経営者だな。だってこのビルで働く人は、全部テナントだろ?自分の会社の人間じゃないってのに。」
「そうだよ、人格者なんだよ。でもさ、他のビルや会社で働かせてもらえるのは、あくまで普通の商売してる人達だけ。
僕ら占い師は・・・・・残念ながら次の職場は保証されていない。」
「はあ?なんだそれ!」
眉間に皺を寄せ、「なんで俺らだけ保証がないんだよ!?」と怒鳴った。
「占い師だから次の職場は用意しませんって・・・・それ職業差別だろ。他の仕事してる奴らはちゃんと面倒みてもらえるのに。」
「そうだよ、でもこればっかりは仕方ない。だってオーナーは、通路以外に使い道のないこの場所を、ただ遊ばせておくのが嫌なだけだったから。
だから格安で占い師を置かせてくれてるんだよ。次の職場の保証なんてしてくれるわけないのさ。」
「そんな・・・それじゃ無職になっちまうじゃんか・・・・・。、」
俺は俯き、「どうにかなんねえの?」と尋ねた。
「あんたオーナーと知り合いなんだろ?なら掛け合ってくれよ。」
「無理だよ。僕らはここを出て行かなきゃならない。」
「いや、何を冷静に言ってんだよ。あんただって仕事場を失うんだぞ?」
「そうだね。でも占いの技術が消えるわけじゃない。」
「いや、技術はあっても職場がないと・・・・、」
「あるよ、僕はある。」
「は?」
「僕も・・・・そして僕の隣にいる占い師たちも、ちゃんと次の職場がある。」
「ど・・・・・どこに?」
「去年駅前に大きなビルが建っただろ?」
「ああ・・・東京から出てきたやつだろ?こっちよりも断然デカイし、客の入りだっていい。ああいう場所で店を持てたら最高・・・・・、」
そう言いかけて、「まさか・・・・、」と気づいた。
「あんたら・・・・・向こうで店出すってのか?」
「そうだよ。あのビル、たくさんのお客さんが入るからね。しかもメインの客層は女性だ。だったらこっちよりも儲かるよ。」
「いや、でも・・・・どうやってあんな良い場所に決まったんだよ?営業でもかけたのか?」
「まあそれに近いね。」
「マジかよ。自分の力であんな良い場所を・・・・、」
「だってさっきも言ったろ。コールドリーディングが使えれば、交渉を有利に運べるって。」
そう言って得意そうに肩を竦め、「占いだけじゃなくて、そういう時にも役立つ便利な技術さ」と笑った。
「でもいきなり占い師が行ったって、相手にしてもらえるわけがない。だからオーナーに頼んで、口だけ利いてもらったのさ。」
「それは・・・・交渉のきっかけを作ってもらったってことか?」
「まあね。ここのオーナーもそれなりにお金持ってる人だから、けっこう顔が広いんだ。
だから交渉の機会だけどうにか作ってもらって、あとは僕が実際に交渉を行ったわけ。最近ちょくちょく休んでたのはその為ね。」
「・・・・・・・・・。」
「だからここにいる占い師たちは、次の仕事場に困らない。ただし君を除いてだけど。」
「・・・・・・・・・・。」
「まあこのままだと、君はもう占い師としてお終いだね。大した技術もないし、経験もない。タロットも手相も出来ないし、それらを必要としないほどの得意技があるわけでもない。
この場所を失ったら、もう占い師として終わりだよ。さっさと次の仕事を探さないと、半年後にはプータローになっちゃうよ?」
予想もしていなかったことを聞かされて、やっぱ聞かなきゃよかったと後悔する。
・・・・いやいや!聞かなきゃよかったってことはないか・・・・。
だってもし知らないままだったら、半年後には本当にプータローになっちゃうんだから。
《俺・・・・・ほんとに杉原んところで雇ってもらおうかな・・・。今から勉強して、自動車整備士の資格取って・・・・、》
そんなことを考えていると、「チャンスをあげるよ」とオカルト占い師が言った。
俺は顔を上げ、「チャンス・・・・?」と沈んだ声で聞き返した。
「まあ一応は二年間一緒に商売した仲だからね。このまま見捨てるのは忍びないじゃない。」
「・・・・いいよ、同情してくれなくても・・・・、」
「まあまあ、そう言わずに。占い師を辞めてもいいっていうなら話は別だけど。」
「・・・・・・・辞めたくないな・・・この仕事・・・・・。」
「本気でそう思ってる?」
「・・・・だって俺・・・・ビッグになるって決めて、この仕事を始めたんだよ・・・。それを今さらノコノコ引き返すなんて・・・・。」
「ならビッグになれるなら何でもいいわけだ?例えば・・・・自動車の整備士でも。」
そう言われて、「なんで分かった?」と驚いた。
「なんでって、顔にそう書いてあるから。」
「嘘つけ。いくらそのコールド何とかってのを使っても、そこまで見抜けるかよ。」
「いや、僕の占いはコールドリーディングだけじゃないから。」
「なら霊能力かよ?」
「こんなものに霊能力はいらない。僕くらいの腕になれば、手相やタロットでもいけるし、それにホットリーディングやショットガンニングだって使えるしね。」
「え?な・・・・なんて?ホット・・・・何?」
「気になるなら自分で調べなよ。ググれば一発だろ?」
「ああ、そうね・・・・じゃあ後でググってみようかな・・・・。」
「そんなことは今はどうでもいいんだよ。僕が聞いてるのは、君は本当に占い師を続けたいのかどうかってこと。それを聞かせてよ。」
オカルト占い師は真剣な目で尋ねる。俺はその目を見返しながら、「この仕事が好きなんだよ」と答えた。
「始めた頃は、ビッグになれればなんでもよかった。でも今は違う・・・・この仕事に誇りを持ってるんだ。だから辞めたくねえ・・・・。」
「だったらチャンスをあげるよ。さっき僕が言ったこと、よく考えてごらん。」
「さっきあんたが言ったこと?・・・・・何か言ってたっけ?」
「ああ、言ったよ。僕は君に一つだけ嘘をついている。だから・・・もしそれを見破ることが出来たなら、君を新しいビルに連れて行ってあげてもいいよ。」
そう言って挑戦的な表情で腕を組む。
「僕はこれ以上何も言わない。だって嘘を見破るのに必要な情報は、すでに与えてるからね。」
「そ・・・・そうなの?」
「後は君がそれに気づくかどうかだよ。君が僕の言動に気を配っていたなら、きっと見抜くことが出来る。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「これを見抜けるかどうかに、君の占い師としての生命が懸ってるんだ。もし見抜けなかったらチャンスはない。・・・・・一発勝負だよ。」
椅子にふんぞり返り、真剣な顔で笑うオカルト占い師。
俺は目の前の靴屋を睨みながら、眉間に皺を寄せていた。

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第八話 占い師VS占い師

  • 2015.12.12 Saturday
  • 11:41
JUGEMテーマ:自作小説
オカルトだの電波だの、そういうものに染まった人間は恐ろしい。
この前の電波女の一件から一カ月、俺は憂鬱な気持ちのまま仕事を続けていた。
果たして俺は、本当に占い師に向いているのか?
ここ最近は体調も悪いし、これはあの女の呪いのせいなんじゃないのか?
消えない葛藤を抱えながら、目の前を通り過ぎる客を眺める。
すると遅れてやって来た若ハゲのオカルト占い師が、大きなカゴを抱えながら隣に座った。
「どうも。」
笑顔で挨拶して、テーブルに大きなカゴを乗せる。
「なんだそれ?」
「あ、これ?なんだと思う?」
「さあ?」
「君も知ってるもんだよ。」
「はあ?」
「まあ見れば分かるって。」
オカルト占い師はカゴの蓋を開け、中から一匹の獣を取り出した。
「ほら、知ってるでしょ、この子。」
「・・・・・・・・・・。」
それを見た瞬間、俺は血の気が引いた。
オカルト占い師が取り出したのは、一匹の真っ黒な猫だったのだ。
「ん?どうしたの?なんかビビってるけど・・・・、」
「・・・・・・・・・・。」
「これさ、僕の飼ってる猫なんだけど、今から一カ月前に事故に遭ったんだよね。」
「・・・・・・・・・・。」
「幸い優しい人が病院へ連れて行ってくれて、どうにか一命を取り留めたんだ。でも酷い重体だったから、ほんとに危なかった。
獣医さんが言ってたよ、あとちょっとでも連れて来るのが遅かったら、多分助からなかっただろうって。」
そう言って膝の上に乗せ、「でもどうにか助かったんだ。よかったねえ」と頭を撫でている。
「治るまで時間がかかったよ。今でもまだ歩き方が変でさ、完治するにはもう少しかかるみたい。」
「そ・・・そうなんだ。」
「顔なんか酷かったよ。でも幸い脳は無事だったから、死なずにすんだんだ。」
「それは・・・・ラッキーだったな。」
「撥ねた車はそのまま逃げちゃってさ。だから今捜してるところなんだ、僕の力を使ってね。」
「へ・・・へえ。霊能力で?」
「まあそんなところ。」
オカルト占い師は猫を抱えたまま、「今日はずっと一緒にいようね」と頬ずりをする。
そしておもむろに俺の方を見て、威圧的に尋ねた。
「君、この子に見覚えあるでしょ?」
「・・・・・・さあ?」
「嘘ついたらダメだよ。だって太良池さんから聞いたんだから。」
「太良池・・・・・。」
聞きたくない名前が出てきて、思わず息を飲む。
《もしかして、あの電波女が言ってた知り合いの占い師ってコイツのことだったのか?・・・・ていうか、その猫の飼い主はお前だったのかよ・・・・。》
沈んだ表情で考えていると、オカルト占い師はニヤニヤと笑った。
「君さ、ここ一月ほど顔色が悪かったよね?まるで何かを思いつめたみたいに。」
「いや・・・・・、」
「それって太良池さんのことを気にしてたんでしょ?彼女に呪われるんじゃないかって。」
「は?何わけの分かんねえこと言ってんだよ・・・・。」
そう答えると、「そういうの信じないんじゃなかったの?」と言って、「ねえマルちゃん」とキスをした。
「この子ね、すっごく人懐っこい子で、誰にでもついて行くクセがあるんだよね。だから外に出さないように注意してたんだけど、たま〜に隙を見て脱走しちゃうんだ。」
「・・・・・へえ。」
「一か月前にも脱走してさ、でもだいたいどこへ行ったかは想像がついてた。僕の友達がバイトしてるコンビニだよ。」
「・・・・・そう。」
「そこには猫好きの女の人がいて、いつも餌をくれるんだよ。」
「・・・・・ふうん。」
「その子、太良池さんっていうんだけど、すっごく優しい子でさ。僕とも仲が良いし、マルちゃんのことも可愛がってくれるんだ。」
「・・・・・へえ。」
「でね、一カ月ほど前に太良池さんの店に一人の男がやって来た。そいつは自称占い師で、態度も言葉遣いも悪かったんだって。」
「・・・・はあ。」
「そいつはマルちゃんに引っ掻かれて怪我をした。でも優しい太良池さんは、そいつに絆創膏を貼ってあげたんだ。
しかもズボンについたマルちゃんの毛まで取ってあげたのに、全然感謝しないんだよ。」
「・・・・・ふうん。」
「しかも!その後マルちゃんのことを蹴飛ばしたんだ。もう最悪でしょ?」
オカルト占い師は、まるで鬼の首でも取ったかのように責めてくる。
俺は言い返そうとしたが、あえて最後まで聞くことにした。
「それで・・・・?」
「その後さ、男は太良池さんに散々失礼なこと言ったんだ。しかも占い師のくせに、マルちゃんが撥ねられることも予測できなかった。」
「・・・・・ほう。」
「でもまあそれは仕方ないんだよ。だってそいつ、占い師のくせに、ロクな占いが出来ないんだもん。霊能力はもちろんのこと、手相もタロットも出来ない。
四柱推命も姓名判断も出来ないし、得意技といえばベラベラ屁理屈並べることだけ。」
「・・・・・ならあんたは出来るの?霊力以外の占いが。」
睨みながら尋ねると、「当たり前だろ」と返された。
「手相やタロットは、占い師として基本中の基本だよ。出来ない方がおかしい。」
「そんなことないだろ。みんなが手相やタロットやってるわけじゃない。」
「まあそうだけど・・・、」
「じゃあみんが出来て当たり前って嘘じゃねえか。出来ない奴もいるんだろ?」
「でも大抵は出来るもんだよ。」
「ほんとかよ・・・・・。」
「少なくともどっかの誰かさんみたいに、屁理屈並べるだけってことはないね。全部は無理でも、最低何らかの技術は身に着けてるよ。まあ僕は全部出来るけど。」
勝ち誇ったように言いながら、「それでさ・・・・、」と切り出す。
「あんまりグチグチ責め立てても悪いから、もう本題を言うね。」
急に真剣な口調になり、俺は少し身構えた。
オカルト占い師は目の前の靴屋に目を向けながら、「君さ、ここから出て行ってくれないかな?」と言った。
「え?出て行けだって・・・・?」
「正直さ、君が来てからここの空気が悪いんだよね。」
「はあ?」
その言葉にカチンと来て、思わずガンを飛ばした。
するとオカルト占い師は「僕の隣を見てよ」と、俺の反対側に目を向けた。
そこには三つのテーブルが並んでいて、それぞれのテーブルに占い師がいる。
オカルト占い師の隣から、オバハン、オバハン、そして若い女だ。
誰もが目の前の客に向き合って、手相だのタロットだのを使って占っている。
客は真剣に話を聴いていて、時折驚いたように頷いていた。
「みんな口には出さないけど、君のことはよく思ってないよ。」
「・・・・・だから何だよ?」
「あれ?分からない?」
「はっきり言えハゲ。」
そう答えると、「ほら、それ」と指をさされた。
「君さ、口が悪すぎるんだよ。まずそれが空気を悪くしてる。」
「生まれつきだから仕方ねえだろ。」
「へえ、そうなんだ。君って生まれつき口が悪いからって、仕事中までそんな口の利き方するんだね?」
「お前にだけだろ。客にはしてない。」
「そうかな?口には出してなくても、心の中じゃ酷いこと言ってるでしょ。」
「それはお前の勝手な想像だろ。」
「いいや、見てれば分かる。」
「偉そうに言うな。お前は心の内が読めんのかよ?」
「読まなくても分かるよ。だって君、内面がけっこう表に出てるからさ。きっと胸の中で悪態ついてるんだろうなあって分かる。」
そう言って「例えばさ、ファミレスなんかでも愛想の悪い店員っているじゃない?」と続けた。
「本人はちゃんとしてるつもりなんだろうけど、明らかに不機嫌な店員とかさ。あれって絶対に接客業に向いてないと思うんだよね。」
「なんだよ?俺がそういう奴らと同じって言いたいのか?」
「そうだよ。上手く隠してるつもりだろうけど、でも態度の悪さが滲み出てる。だから君の所に来る客って、変わった人ばっかりじゃん。まともな人はほとんど来ないでしょ?」
「そもそもまともなら占いなんて来ねえだろ。」
荒い口調で言い返すと、「ほらそれも」と指をさされた。
「それってお客さんを見下してるってことだよ。愛想の悪い店員と何も変わらない。」
「だってそうじゃんか。まともな人間なら占いなんて来ないだろ。」
「あのね、まともかどうかは問題じゃなくて、客商売として正しい仕事をしてるかどうかなんだよ。」
「はあ?なんだ偉そうに・・・・・、」
「占い師って言ったって、結局はお客さん相手の商売なんだよ。だから絶対に見下すようなこと言っちゃダメ。そんなの仕事の基本だろ。」
「知ってるよそんなこと。」
「知ってるならそういうこと言うなよ。」
オカルト占い師は「でもまあ・・・・それだけならまだ許せる」と顔をしかめた。
「一番いけないのは、大した実力もないクセに、自分が凄いみたいに勘違いしてるところだよ。」
「・・・・お前、さっきから喧嘩売ってんのか?」
思わず胸倉を掴みそうになるが、グッと堪えた。
「あのな、俺はこれでも真面目に仕事してんだ。それ以上ぬかすなら表出ろや。」
カッと身体が熱くなってきて、椅子から腰が浮く。
「俺はこの仕事に誇りを持ってる。それを馬鹿にされちゃ許せねえんだよ。」
拳が硬くなり、「俺が気に入らねえんならそう言えよ」と睨んだ。
しかしオカルト占い師は平然とした顔で「喧嘩なんてゴメンだよ」と笑った。
「僕、子供じゃないからね。喧嘩したって一円の得にもならない。」
「じゃあもう喋るな。それ以上ぬかすなら表に引っ張ってくぞ。」
「どうぞお好きに。僕は手を出さない。その代わり警察を呼ぶだけだから。」
そう言ってスマホを取り出し、「110、準備しとこうか?」と笑った。
「てめえから喧嘩売っといて、ヤバくなったら警察頼みかよ。腰抜けだなお前は。」
「コールドリーディング。」
「何?」
「君の使ってる占い、コールドリーディングっていうの。知らない?」
いきなりわけの分からないことを言われて、「なんだそれ?」と眉を寄せた。
「いきなり何を意味不明なこと言ってんだ?」
「いや、知らないならいい。」
「気になるだろ、言えよ。」
「だから君のやってる占いの種類さ。それ、コールドリーディングっていうんだよ。」
「だからそれが何か教えろって・・・・、」
そう言いかけると、オカルト占い師はおもむろに目の前を指さした。
「あの靴屋さんに、若い男の客がいるね?」
「それがどうしたよ?」
「さっきからチラチラ見てたんだけど、あの子靴盗むね。」
「はあ?」
「まあいいから見てなって。」
自信満々そう言って、腕組みをしながら見つめている。
《なんだよコイツ・・・なんでこんなに調子乗ってんだ。》
イライラを抑えながら、靴屋の若い男に目をやる。
歳は10代の後半くらいで、おそらく高校生か、大学の一回生といったところだろう。
スポーツシューズを持ちながら、店の中をウロウロしていた。
そして店の奥へ行ってしまい、姿が見えなくなった。
・・・・しばらくすると、若い男は袋に入った商品を抱えて出て来た。
それを見た俺は、「おい、予想が外れたな」と笑った。
「何が盗むだよ。ちゃんと買ってるじゃねえか。」
馬鹿にしたように言うと、オカルト占い師は店に向かって手を挙げた。
店員がそれに気づき、店の奥へと走って行く。
すると俺と同い年くらいの男が出て来て、キョロキョロと辺りを見渡した。
「あれ、あの靴屋の店長じゃんか。」
「そうだよ。」
オカルト占い師はニヤリと笑い、さっき靴を買って行った若い男を指さした。
すると店長はその男を追いかけ、「ちょっといいですか?」と呼び止めた。
若い男は「あ?」と睨むが、店長は笑顔で何かを話しかけている。
そして袋に入った商品を指さしながら、何かを問い詰めていた。
若い男は「言いがかりつけんな!」と怒りだすが、店長は笑顔を崩さない。
そしてオカルト占い師の方に指を向けて、こう言った。
「目撃者がいるんだよ。」
それを聞いた若い男は、一気にトーンダウンする。
しかしまだ「言いがかりだ!」と怒っていて、店長と言い争いを始めた。
「なんだ?何やってんだよあいつら・・・・?」
二人の様子を見つめていると、やがて店長がこう一言。
「警察行こうか?」
それを聞いた若い男はさらにトーンダウンして、急に大人しくなった。
店長は袋に入った商品を預かり、若者を店まで連れて行く。
野次馬たちがそれを見ていて、ガヤガヤと騒ぎ立てていた。
「なんだ?もしかして万引きしてたのか?」
そう呟くと、「だから言ったでしょ」とオカルト占い師が答えた。
「あの子靴を盗んだんだよ。」
「いや、でもちゃんと袋に・・・・・、」
「あれは事前に用意していた物。店員に見えない場所に隠れて、その中に商品を隠したんだよ。」
「なんで分かるんだよ?」
「だって見てたから、あの子の行動とか表情を。」
「はあ?盗む現場は見てねえじゃんか。」
「盗みを働く前の行動を見てたのさ。それで怪しいと思ったわけ。」
「おいおい、そんなんで犯人って決めつけるのか?」
「違うよ、あくまで疑いを持っただけ。万引き犯かどうかは証拠が必要でしょ?」
「じゃあどこにその証拠があるんだよ?」
「それは今店長がやってるよ。あの店はPOSレジが入ってるから、在庫の状況は一発で分かる。
レジに履歴だって残るから、あの子の持ってた商品がレジを通ったかどうかもすぐに分かる。」
「じゃあもしちゃんと買った商品だったら?」
「その時は店長が頭下げるしかないね。」
「いや、お前があの男を万引き犯みたいに言ったんだろ?ならお前のせいじゃんか。」
「僕は何も言ってないよ。ただ店員に手を挙げて、あの子の方を指さしただけ。」
「それは・・・まあそうだけど・・・・、」
「まあすぐに分かるよ。もうじき出て来るんじゃないかな?」
俺たちはしばらく靴屋を見ていた。
すると二人組の警官がやって来て、店の中へと消えていった。
少し待っていると、さっきの若い男が警官に連れられて出て来た。
店長はそれを見送ってから、こちらに向かって歩いて来た。
「どうも毎回すみません。」
そう言ってオカルト占い師に頭を下げる。
「いや、たまたま見つけだけだからさ。で、あの子は認めたの?」
「ええ、在庫数えたら数が合わなかったんです。それにレジを通った記録もないし。」
「でもそれを突きつけても認めなかったでしょ?」
「そうなんですよ。これは別の店で買ったもんだって言い張って。」
「ははは、子供らしい言い訳だよね。」
「そんなもんが通用するわけないですよ。だってウチの店の袋に入ってるんですから。しかも中にあるのは一足だけ。その一足分の在庫が合わず、レジを通った記録もない。
こんなもん言い逃れ出来ませんよ。」
「でも認めなかったでしょ?」
「ええ、頑なに。」
「そりゃそうだよ。だってあの子初犯じゃないと思うからね。きっと今までにも捕まったことがあるんじゃないかな。」
「まあ手口が巧妙ですからね。佐々木さんが教えてくれなかったら絶対に気づかなかったし。」
「キョロキョロと店員の様子を窺ってたからね。しかも慣れた様子で。あれは絶対に初犯じゃないよ。」
「まあ後は警察にお任せします。こっちとしては商品さえ戻ってくればそれでいんで。」
店長はそう言って「おかげで助かりました。また何か気づいたら教えて下さい」と、会釈を残して戻って行った。
「・・・・というわけ。どう?」
オカルト占い師は肩を竦め、勝ち誇ったように笑った。


 

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第七話 占い師VS猫(2)

  • 2015.12.11 Friday
  • 13:45
JUGEMテーマ:自作小説
猫に餌をやっていた可愛い店員が、「これ、よかったら」と絆創膏を差し出した。
「ああ、どうも・・・・、」
「洗っておいた方がいいですよ。猫の爪ってけっこう雑菌が多いから。」
「いや、大丈夫っす。」
「店のトイレ使って下さい。石鹸もあるし。」
「いやいや、ほんとに大丈夫っすから。」
「じゃあ・・・ちょっと待っててください。」
女は店に戻り、ウェットティッシュを持って来た。
それを一枚取り出すと、俺の手を掴んで傷口を拭った。
「ちゃんと消毒しといた方がいいです。」
「あ・・・ああ、どうも・・・・。」
「私も猫飼ってるから、よく引っ掻かれるんです。昔に深く切られたことがあって、化膿しそうになったんです。」
「はあ・・・それは大変すね。」
ウェットティッシュで拭き終えると、女はそっと絆創膏のシールを剥がした。
そして丁寧に俺の傷口に貼り、剥がれないように指でなぞった。
「ああ、どうもすんません。」
「いえいえ、猫好きなんですか?」
「は?」
「だってわざわざ餌を買ってあげてたから。」
「まあ・・・・あんまりかな。」
「好きじゃないのに餌あげてたんですか?」
「いや、まあ・・・・ちょっとした勝負で。」
「勝負?」
「ええ、そこの喫茶店で友達と喋ったんですけどね、この猫の歳を当てようって言い出して。そんで負けたら奢るって約束なんです。」
そう答えると、「だったら私に聞いてくれたらよかったのに」と笑った。
「この子しょっちゅうここに来るんですよ。近所の家の猫なんだけど、もう仲良くなっちゃって。」
「だったら歳も知ってるんすか?」
「もちろん。まだ一歳半です。」
「一歳半・・・・。それって若い方?」
「全然若いですよ。猫って長生きだと20年以上生きますから。」
「んじゃまだまだ子供ってことっすか?」
「んん〜・・・子供ではないです。人間でいうと、もう成人はしてるはずですから。」
「そうなんですか?」
てっきり若くはないと思っていたのに、見事に外れた。やっぱり猫の歳なんて分からない。
「じゃあ人間でいうと、まだまだ高齢者じゃないっすよね?」
「うん、全然。」
女は可笑しそうに「高齢者って」と笑った。
「いや、俺の友達が言うんすよ。この猫は絶対に高齢者だって。」
「全然、まだまだこれからの猫です。」
「なんだよあいつ・・・・嘘ばっかじゃん。」
喫茶店にいる高司の方を睨むと、「猫の歳なんて簡単に分からないですよ」と女が言った。
「やっぱそうっすよね?ムツゴロウさんでもなきゃ無理っすよね?」
そう言うと、「ムツゴロウさん」とまた笑った。
「でも獣医とか学者とか、そういう人なら分かるんじゃないですか。だからムツゴロウさんでも分かると思いますよ。」
「なるほど・・・じゃあ専門家じゃなきゃ無理ってことっすね?」
「ただの猫好きじゃ無理だと思います。私だって分からないし。」
「いや、それが聞けてよかったっす。」
俺は小さく頭を下げた。
《猫を占うことは出来なかったけど、でも歳は分かった。これは高司の負けだから、彼女連れて俺ん所に来てもらおう。》
女に貼ってもらった絆創膏を撫でながら、「これ、ありがとうございます」と会釈する。
「そんじゃ友達が待ってるんで。」
そう言って喫茶店に駆けだすと、「あ、ちょっと!」と呼び止められた。
「なんすか?」
「猫がついて行ってる・・・・。」
「は?」
振り返って足元を見ると、猫が纏わりついている。
ゴロゴロと喉を鳴らしながら、顔をスリスリしていた。
「おいやめろ。毛が付くから。」
足をのけてもまたスリスリしてきて、「くっつくな」と追い払った。
この前買ったばかりのチノパンが黒い毛まみれになり、「ああ・・・・」と顔をしかめた。
「これいいやつなのに・・・・。」
3万もしたチノパンを毛だらけにされて、ちょっとへこむ。
するとまた女が「ちょっと待っててください」と言って、店からコロコロを持ってきた。
「すぐ取れますから。」
「あ、いや、別にいいっすから・・・・、」
「ちょっとじっとしてて下さい。」
そう言ってコロコロをかけまくり、丁寧に毛を取っていく。
コンビニにやって来た若い女の子に、クスクスと笑われてしまった。
「あの・・・・ほんともういいですから・・・・、」
「まだ残ってるんです。動かないで。」
「いや、だから恥ずかしいんですよ、これ。なんか笑われてるし・・・・、」
そう言ってもまったく聞かず、自分が納得するまでコロコロをかけていた。
「・・・・あ、靴も。」
「いやいや、靴はいいっすから・・・、」
「大丈夫です、気にしないでください。」
「いや、あんたが気にしなくても俺が恥ずかしいから。」
いい加減鬱陶しくなって、サッと逃げようとした。
すると女はガシっと俺の足を掴み、意地でもコロコロをかけようとする。
「ちょっとアンタ・・・・、」
「・・・・・はい。もう取れました。」
満足そうに言って、毛が付いたコロコロを剥がしている。
するとまた猫が近づいて来て、「ちょッ・・・・来んな!」と足で追い払った。
その時、つま先が猫の顔に当たってしまい、ガツっと音がした。
「あ、悪い・・・。」
猫は平気な顔をしながら、また寄って来ようとする。
俺は「もういいって!」と慌てて逃げ出した。
「ちょっと!」
逃げ出そうとした俺の襟首を女が掴む。そしてグイと引き戻され、危うく転びそうになった。
「なんだよ?」
ムッとして睨むと、女は「なんで蹴ったの?」と睨み返してきた。
「はあ?」
「なんで今蹴ったの?」
「いやいや、蹴ってないよ。足が当たっただけ。」
「ほんとに・・・・?」
「ほんとだって。蹴るわけないだろ。」
「イラっとして蹴ったんじゃないの?」
「だから蹴ってないって。」
「追い払うだけなら、ちょっと足でのければよかったじゃない。」
「だからあ・・・・たまたまだって言ってんだろ。」
だんだん腹が立ってきて、つい口調が荒くなる。このままだと喧嘩になりそうなので、「蹴ってないですから」と気持ちを落ち着かせた。
「ていうかさ、そこの喫茶店で友達が待ってんの。もう行くよ?」
「謝って。」
「はあ?」
「猫に。」
「なんで?」
「だって蹴ったから。」
「・・・・・いや、蹴ってない。」
「たまたま当たったにしても、この子よろめいていたじゃない。可哀想だから謝って。」
女は打って変わって、親の仇のように俺を睨む。
さっき絆創膏を張ってくれた優しさはどこへやら。今は敵意剥き出しの目をしている。
《・・・・やっぱり地雷だったか。さっさと逃げりゃよかったクソ・・・・。》
鬱陶しいのに捕まったなと思いながら、チラリと喫茶店を見る。
すると杉原はニヤニヤ笑っていて、俺が困っているのを楽しんでいるかのようだった。
《アイツ・・・・もしかしてこの女が地雷ってこと知ってたんじゃないのか?》
女はまだ「謝って下さい」と睨んでいて、鬱陶しいを通り越してイライラしてくる。
《うざいなコイツ・・・・。そこの側溝にでも叩きこんでやろうか。》
俺は「なんだよお前?」と睨み返した。
その時、猫がまた足元に纏わりつき、「寄ってくんな」と払った。
「あ、また蹴った!」
「だから蹴ってねえって!ていうかさっさと仕事に戻れよ。」
「そんなのあなたに関係ない!」
「ああ、そう。だったら店長呼んで来い!てめえがこうしてサボってること伝えてやる!」
「今日は店長はいません!」
「なら電話しろ!俺が言ってやるから。」
「今は猫の話をしてるんです!」
「俺はお前の話をしてんだよ!いいから上を呼べ!」
「じゃああなたは何の仕事をしてるんですか!?」
「はあ?」
「人のこと偉そうに言うなら、一度もサボったことがないんでしょ?ならどこで働いてるか教えて下さい。あなたの職場へ行って、あたなが一度もサボったことがないか確かめます!」
「俺は誰にも雇われてない。自分で商売やってんだ。」
「何?何の商売?」
「占い師だ。」
そう答えると、女は「占い師・・・・?」と顔をしかめた。
「・・・私の知り合いにも占い師がいるけど、ああいう仕事って日曜は休めないものじゃないんですか?」
「はあ?なんで?」
「だってそういう仕事って、他の人が休みの日に儲かるものでしょう?だったらなんで日曜に休んでるんですか?」
「そんなの俺の自由だ。」
「儲かる日に休むなんてサボりだと思います。」
「あのな、俺は誰に雇われてるわけでもない。営業しようが休もうが、それは俺が決めることなんだよ。」
「そんな事ないと思います。自分で商売やるなら、儲かる日に営業するのが当然のはずです。」
「何わけの分かんねえこと言ってんだよ・・・。自分一人でやってるんだから、働くか休むかは自分で決めることだろ?なんでお前にとやかく言われなきゃなんねえんだよ?」
「お前って言うのやめて下さい。」
「ああ?じゃあなんだ?サボりの店員って呼んでほしいのか?」
「太良池(たらいけ)です。」
「え?」
「太良池真由美です。」
「あっそう。じゃあ太良池さん。どうでもいいからさっさと仕事に戻れ。客が並んでんぞ。」
そう言って店に指をさすと、太良池は「あ」と声を上げた。
レジには客が並んでいて、店員が一人で捌いている。
しかもどの客も野次馬のように俺たちを面白がっていた。
「な?太良池さんがサボってるから、あの店員さんも苦労してる。さっさと戻って来いって思ってるよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「このままサボってたら、それこそクビになるんじゃないの?俺を睨んでる暇があったら、早く戻ってやれよ。」
俺は努めて笑顔になり、「それじゃ」と喫茶店へ走って行った。
猫が追いかけて来るが、そんなのは知ったことじゃない。
餌がほしいなら、とっとと家に帰れってんだ。
店のドアを開け、「おい、あの女たまったもんじゃねえぞ・・・」と杉原たちの元に戻る。
するとその時、車が急ブレーキをかける音が響いた。
何事かと思って振り返ると、さっきの猫が車に撥ねられていた。
「おいおい・・・・、」
俺は店を出て猫の方に向かう。
撥ねた車は慌ててハンドルを切り、そのまま逃げ去ってしまった。
「おいコラ!ちょっと待て!」
大声で叫んでも、車はまったく止まらない。猛スピードで走り抜け、遠くの信号を曲がって消え去った。
「逃げやがったか。」
舌打ちしながら猫の方を振り向くと、見るも無残な姿になっていた。
ぐったりと横たわり、顔の形が少し歪んでいる。
目はカッと見開いていて、口から血を流していた。
足もおかしな方向に曲がっていて、直視するのが辛いくらいだ。
「なんってこった・・・・可哀想に。」
別に猫なんて好きでもなんでもないが、さっきまで生きていのが突然死んでしまうとなると、さすがに切ない気持ちになってくる。
しかもこんな無残な姿で・・・・。
このまま道路の真ん中に放っておくのは可哀想だと思い、道端にでも運んでやろうと近づいた。
すると太良池が「わああああああ!」と喚きながら走ってきて、猫を抱き上げた。
「なんで!なんでええええええ!?」
顔が歪んで血みどろになった猫を、何の抵抗もなく抱きしめている。
それもまるで我が子のように。
「ひどい!ひどいよおおおお・・・・・。」
死んでしまった猫を撫でながら、「こんなのひどい・・・・」と泣き続ける。
俺はゆっくりと太良池に近づき、「触らない方がいいぞ」と声を掛けた。
「可哀想なのは分かるけどな、でもあんまり触んない方がいい。そいつは飼い猫なんだろうけど、でも動物ってどんな菌持ってるか分からないんだ。
だから・・・そんな酷い状態の猫を触ってると、何かの病気に感染するかもしれないぞ?」
そう言って肩を手を置くと、鬼の形相で振り返った。
「なんで!?」
「え?何が・・・・・・?」
「あなた占い師なんでしょ!?なんでマルちゃんを助けてくれなかったの!?」
「はああ?」
「占い師ならマルちゃんが撥ねられるかもって分かったでしょ!なんで何もしなかったのよ!」
「知らねえよそんなもん!その猫が勝手について来たんだろ!だいたい撥ねたのは俺じゃねえし!」
「でも占い師なら未来が見えるはずでしょ!なんでマルちゃんを見殺しにしたのよおおお!!」
太良池は鬼を通り越し、猛獣のような顔で吠える。
血だらけの猫を抱きしめたせいで、顔まで血がついている。
そんな顔で怒鳴られたら、ちょっとたじろいでしまう。
俺は一瞬だけ言葉につまったが、でもすぐに言い返した。
「そんなにその猫が大事なら、てめえで守っとけってんだ!なんで俺のせいになるんだよ。」
「だって占い師でしょ!」
「だから何だ!?」
「占い師なら霊力があるから、不幸な未来は分かるはずじゃない!あんたはマルちゃんを見殺しにした!この人でなし!」
「いや、お前何言ってんだ?ちょっと意味分かんねえ・・・・・・、」
「それとも何?もしかして占い師のくせに霊力がないの?」
「無えよそんなもん!だいたい霊能力なんてインチキに決まってんだろ。馬鹿かお前!」
「違う!本物の占い師なら霊能力を持ってるはずだもん!私の知ってる占い師はちゃんと持ってる!」
「だったらそいつが嘘ついてんだよ!霊能力で占いなんて人を騙してるだけだ!俺はそんな詐欺みたいなことはしねえんだよ!」
「そっちこそ詐欺よ!霊能力がないなら占いなんて出来るわけないじゃない!あんたは嘘つきの犯罪者よ!警察に言ってやる!」
「おお勝手にしろ!てめえみてえな馬鹿に付き合ってられるか。」
この女、地雷なだけじゃなく、オカルトにも染まっていたらしい。
だったらこれ以上相手にするのは損というもんで、とっとと退散することにした。
喫茶店を振り返ると、杉原と高司が店から出ていた。
そして駐車場の車を指さし、『早く来い』と合図をした。
俺は電波女に一瞥をくれてから、二人の元へ走った。
後ろから「逃げる気!?」と電波の声が飛んで来るが、無視して車に乗り込んだ。
「おい高司!早く出せ!」
そう言って急かしながら、電波女を振り返る。
「逃がさない!警察に言ってやるから!」
血まみれの猫を抱えながら、血に汚れた顔で叫んでいる。
しかも車を追いかけてきて、「呪ってやるからあああああ!!」と喚いた。
「あんたを呪ってやる!藁人形にマルちゃんの毛と私の毛を結び付けて、死ぬまで呪ってやるううううう!逃がさないからなああああ!!」
電波の叫びは、これでもかと憎しみが籠っていた。
杉原も高司も引きつった顔をしていて、とにかく車を飛ばした。
《・・・・怖ええ、なんだアイツ・・・・・。》
今まで色んな女を見てきたけど、あんな奴は初めてだった。
これはもう地雷どころじゃなくて、とんでもない猛毒を浴びせられたような気分だった。
「アレ・・・・やばいな。」
杉原がチラリと後ろを見ながら言う。
高司も「やばいのに手え出しちまったな・・・」と怯えていた。
「触らぬ神に祟りなし。しばらくあの場所に行かない方がいいな。」
杉原の意見に、俺も高司も頷く。
こんな事になるとは誰も思わず、世の中にはとんでもない奴がいるもんだと、人間の怖さを噛みしめていた。
「なあ・・・・・、」
俺は小さな声で呟き、二人の顔を交互に睨んだ。
「俺の占い・・・・やっぱ屁理屈かもしんねえ・・・・。だってあんな女だって見抜けなかったから・・・。」
そう言うと、高司が「誰も見抜けないだろあんなの」とフォローしてくれた。
「そうそう。今回は運が悪かった。お前が悪いわけじゃないって。」
杉原も慰めてくれるが、俺はすっかり自信を無くしていた。
だって・・・・女を見抜く目は確かだと思っていたのに、まさかここまでそれが通用しない相手がいるなんて・・・・。
猫のことなんて分からなくても問題ないけど、女のことが見抜けないとなると、これはちょっとまずい。
だって占いに来るのはほとんどが女で、特に俺の客はそうだ。
俺はタロットも手相も出来ないから、この目と口だけが武器なのだ。
それがまったく通用しない女がいるとなると、これは大変な問題だった。
「もし・・・・もしもあんな女が客として来たら、俺はまともに相手をする自信がない。だから・・・やっぱり俺って、ただの屁理屈野郎なのかも・・・。」
銀鷹君、マッチョマン、そして地雷電波女。
短い間に三人も変人が続き、完璧に自信を無くす。
「しばらく仕事休もうかな・・・・。なあ杉原、お前んところでちょっと雇ってくんない?」
「お、そろそろ真面目に働く気になったか?」
「今までだって真面目だっての。でも・・・ちょっとしんどくなってきた。」
「なんだよ、お前ってそんなに打たれ弱かったっけ?」
「変人どものせいで参ってんだよ。」
「まあお前も変人の類だけどな。」
「やっぱそう思う・・・・・?」
「誰が見たって変わってるだろお前は。」
あっさりそう言われて、なんだか胸が苦しくなる。
「・・・・あ、なんか息が苦しい・・・。これってまさかあの女の呪いじゃないよな?」
「かもしれないぞ。だってお前猫死なせてるし。」
「ふざけんな!俺のせいじゃないだろ!」
「冗談だよ、んな怒るな。」
「あの猫・・・・・可哀想だったな・・・・。」
「そうだな。でも毎年何万匹も保健所で処分されてるんだ。あれを可哀想と思うなら、そっちも可哀想と思ってやれよ、なあ高司?」
そう言って杉原が目を向けると、高司は泣いていた。
「俺が・・・・・猫に詳しいなんて言ったばっかりに・・・・あの猫は・・・・、」
「泣くのは構わないけど、ちゃんと運転しろよ。」
車は現場から遠ざかっていき、でもその分胸が苦しくなる。
もし本当に呪われたらどうしようと思うと、さらに息苦しくなった。
足元を見るとあの猫の毛が付いていて、さらにブルーになる。
《今日・・・・サボるんじゃなかった・・・・。》
今さら後悔しても遅く、息苦しい胸を押さえていた。


 

VS変人類〜占い師 観月の挑戦〜 第六話 占い師VS猫

  • 2015.12.10 Thursday
  • 14:04
JUGEMテーマ:自作小説
季節は初夏。
初夏といえば清々しい気がするけど、実際は雨ばっかり続く鬱陶しい季節だ。
日曜の午後、俺は仕事をサボって茶を飲んでいた。
本来は木曜が定休日だけど、たま〜にこうしてサボることもある。
だって今日みたいな鬱陶しい雨の日は、とても働く気になれないからだ。
外はパラパラと雨が降っていて、街並みがグレー一色に染まっている。
空もグレー、街もグレー、見るもの全てがグレー。
そんな日は心までグレーになるってもんで、こういう時は友達と遊ぶに限る。
顔馴染みのマスターがいる喫茶店で、二人の友達と茶を飲んでいた。
この二人は高校時代からの友達で、俺が占い師になる時にも相談に乗ってくれた。
というより、この二人と相談しながら、占い師になることを決めたのだ。
二人とも中々良い奴で、しかも付き合いが長いから気を遣うこともない。
俺はこいつらのおかげで今の仕事に就いてる。そしてこいつらは俺のおかげで彼女が出来た。
お互いに持ちつ持たれつ。これぞ友達の正しい姿ってもんだと思う。
喫茶店へ来て小一時間。俺たちは他愛のない話を続けていたが、だんだんとそれにも飽きてきた。
「場所変える?」
そう提案すると、ジャニーズ系の顔をしたイケメンの杉原が「だるい」と答えた。
「鬱陶しいんだよ梅雨って。こういう日って動きたくない。」
「そんなもんみんな同じだろ。だから俺だってサボってんだし。」
「いや、それは真面目に働けよ。」
「いいんだよ、俺は誰にも雇われてるわけじゃねえし。働きたい時に働いて、休みたい時に休むの。」
「良い身分だなお前は。俺なんか先週と先々週は休日出勤だぜ。そんでようやくの休みにこんな天気だよ。」
「まあ人に雇われるってのはそういうことだろ。」
「俺も占い師になろうかな・・・・・。」
「無理無理。この仕事は向き不向きがあるから。」
「だろうな。お前みたいにペラペラ口の上手い奴じゃないと無理だよ。」
「口だけじゃない。洞察力と観察力が優れてるから出来るの。」
「確かにお前は人の性格とか相性とか見抜くのは上手いけどさ。でもそれだけでずっとやっていけるもんなの?」
「今のところは大丈夫・・・・・と言いたいところだけど、ここ最近は二連敗だったな。」
「二連敗?何が?」
杉原は興味を惹かれたようで、「占い師に勝ち負けとかあんの?」と尋ねた。
俺は「いや、ちょっと変わった客が来てさ・・・・」と、銀鷹君とマッチョマンのことを話してやった。
「・・・なんていうか、今までに占ったことのないタイプなんだよ。ていうか出会ったことすらないタイプだな。
だからどういう人種にカテゴライズしていいのか分からなくて、最終的に恥かいたって感じだ。」
「ほお、そんな面白い奴らがいるのか。是非会ってみたいな。」
「プライベートで会う分には面白いだろうけどな、占いの客として来られたら最悪だぞ。」
「でもそのマッチョマンはお前が客引きしたんだろ?」
「だからそういう変わり者だってことを見抜けなかったんだよ。」
「ならお前の洞察力も落ちたってことじゃねえの?昔ならそんなヘマしなかっただろ。」
「んなことねえよ。」
「でも実際に負けたんだろ?」
「まあ・・・・そうだけど・・・・、」
「もうそろそろ占い師も辞め時なんじゃねえの?」
「なんでだよ。一応は儲かってるんだぞ。」
「それがいつまで続くかって話だよ。だってお前さ、占い師のクセに手相もタロットも出来ねえじゃん。」
「そんなもん俺には必要ねえの。この目と話術があれば。」
「でも二回も負けただろ?」
「うるさいな。そういう事もたまにはあるんだよ。」
イライラしながらタバコを吹かし、窓に向かって吐き出した。
するともう一人の友達である高司の顔が映っていて、じっと一転を見つめていた。
「お前どこ見てんの?」
そう尋ねると、「向かいのコンビニ」と言った。
「店員が猫に餌やってる。」
「・・・・・ああ、ほんとだな。あんた事したら住みついちゃうんじゃねえの?」
「あれ、けっこう歳のいった猫だな。」
「そうなの?」
「俺、こう見えてけっこう犬とか猫とか詳しいんだよ。」
「そんなの初めて聞いたな。」
「いや、マジで分かるんだよ。あの猫はけっこうな高齢者だ。」
高司は厳つい顔で見つめながら言う。すると杉原が「高齢者って」とツッコんだ。
「猫の歳なんか分かるのかよ?」
「だから分かるんだって。俺、そういうのに詳しいから。」
「具体的にどう分かるんだ?」
「まあ顔とかかな。猫も顔に歳が出るから。」
「ほんとかよ。」
「マジだって。」
「でもこっからだと遠いじゃん。猫の表情とか分かんねえだろ。」
「・・・・じゃあ・・・動きとか?」
「じゃあってなんだよ、じゃあって。お前絶対に詳しくないだろ。」
「そんなことないって。俺の猫とか犬を見る目は確かだから。」
高司は意地でも引き下がらない。「あの猫は高齢者で間違いない」の一点張りだ。
すると杉原が面白がって尋ねた。
「なんでそんなに意地張るんだ?どうでもいいことだろ?」
「なんでって・・・・子供の頃の夢が動物学者だったからな。」
「マジで?それこそ初耳だわ。」
「俺、ムツゴロウ王国とかすげえ好きだったんだよ。だから本気であそこで働こうと思ったこともある。」
「思うだけなら誰でも出来るわな。実行はしたの?」
「いや、しなかった。」
「なんで?面白そうなのに。」
「いや、よくよく考えたら、そこまで動物学者になりたくないかなあって・・・・、」
「なんだよそれ?どうせ他のもんにでも興味が移っただけだろ。」
「まあな。その後すぐに服の方が好きになったから。」
「ほら見ろ。やっぱ全然詳しくねえじゃん。」
「いや、詳しいのは詳しいって。けっこう図鑑とか読んでたし、それに野良猫とかに餌やってたし。」
「野良に餌やるなよ。いっぱい集まって来るぞ。」
「だからこそ詳しいんだよ。」
高司は鼻息荒く言って、「間違いない、あの猫は高齢者だ」と断言した。
「ほう、そこまで言うなら勝負してみるか?」
杉原は意地悪そうに笑い、「負けたらここ全部奢りな」と言った。
「いいぞ。でも勝負って何をどうするんだ?」
「決まってるだろ、そこの占い師にやってもらうんだよ。」
そう言って杉原は、俺の方にタバコの煙を飛ばした。
「お前さ、ちょっとあの猫の歳を当ててみてよ。」
「はあ?何言ってんだお前。」
俺も煙を飛ばし返す。
すると「お前なら出来る」と言われた。
「変人みたいな路上アーティストとか、男みたいな女と結婚したマッチョマンを占ったんだ。猫だって占えるよ。」
「馬鹿かお前、猫は獣だろうが。獣占う占い師なんかいねえよ。」
「いや!お前なら出来る!なんたって何十組ものカップルを誕生させて、しかも結婚まで漕ぎ着けた奴もいるんだから。」
「それとこれとは関係ないだろ。」
「でもモノを見る目はあるってことだ。それとも何か?やっぱ昔に比べて見る目は衰えたか?」
そう言ってまた煙を飛ばしてくる。その顔はぶん殴りたいほど憎たらしくて、「うっせえ馬鹿」と返した。
「猫なんか占ったって何の得もないだろ。無駄なことさせんな。」
「あ、逃げるのか?」
「お前な・・・・俺は仕事で占いやってんの。いくら暇だからって、タダでそんなしょうもない事出来るか。」
「ほほう、一人前にプロ意識かね?」
「当たり前だろ。それで飯食ってんだから。」
「じゃあさ、これが仕事に繋がればいいわけだ?」
「仕事に繋がるならな。」
そう答えると、杉原は「おい」と高司を肘で突いた。
「条件変更。もしお前が負けたら、こいつの所で占ってもらえよ。」
「なんでだよ?インチキ占いなんかしたくねえよ。」
高司は本気で嫌そうな顔をする。
俺は「誰がインチキだコラ」と睨んだ。
「だってお前のってただの屁理屈じゃん。」
「何言ってんだ。お前らに彼女見つけてやっただろ。」
「それ何年前の話だよ。とうに別れてるっての。」
「それはお前らが悪いんだよ。上手くやらないからフラれたんだ。」
「いや、俺も杉原もフッった方なんだけど。」
「もったいないよなあ・・・せっかく良い女紹介してやったのに。」
「まあ確かに良い女だったけど、でも金使いが荒すぎだよ。誕生日にブランド物の靴とバッグと服を同時にねだられちゃ敵わねえって。別れて当然だろ。」
「悲しいねえ、金の無い男ってのは。」
「あの頃はまだ大学生だっての。そんな金あるわけないだろ。」
高司は不満そうに言い、ズズッと酸っぱいコーヒーをすすった。
すると杉原が「でも罰がなきゃ勝負になんねえ。だから占ってもらえよ」と説得した。
「だから嫌だって。」
「でも猫を見る目には自信があるんだろ?だったら負けないだろ。」
「でもなあ・・・・、」
「まあそう言わずにさ。新しい彼女が出来たんだから、二人の相性を占ってもらっても損はねえだろ。」
そう言ってポンと肩を叩く杉原。高司は「う〜ん・・・・」と腕組みをした。
「おい、今のなんだ?新しい彼女って。」
身を乗り出して尋ねると、杉原が「言ってなかったっけ?」と首を傾げた。
「なんも聞いてねえよ。詳しく聞かせろ。」
「こいつ一か月前に彼女が出来たんだよ。しかもめちゃ可愛いの。」
「マジで!?なんで俺に最初に報告しないんだよ?」
ちょっと怒りながら尋ねると、高司は「なんで最初にお前に報告しなきゃいけないんだよ」と顔をしかめた。
「だって俺はお前らの兄貴みたいなもんだろ?だったら最初に言ってもらわないと。」
「誰が兄貴だよ。手のかかる弟みたいなクセしやがって。」
「いいから詳しく聞かせろよ。」
そう言ってさらに身を乗り出すと、「おっとそこまで」と杉原が止めた。
「これ以上聞きたいなら、あの猫を占ってもらおうか。」
「はあ?だからなんで獣を占なわなきゃいけないんだよ。」
「占う理由ならあるだろ。もし高司が負けたら、お前の所で占ってもらわなきゃいけないんだから。仕事に繋がるぞ。」
「人をインチキ呼ばわりする奴を奴を占う気はない。」
「でも高司の彼女のことを聞きたいんだろ。」
「当然。そういうのはまず俺に報告してもらわないと。」
「いいか?もし高司がお前の所に占いに来たら、彼女のことを話さなきゃいけないんだ。・・・ていうか、彼女本人を連れて行かなきゃいけない。」
「はあ?」
高司が叫び、「ふざけんなよ」と怒った。
「インチキ占い師の所に彼女を連れていくわけないだろ。」
「いいや、連れて行かなきゃいけないんだ。だってそうしないと、ちゃんと二人の相性を見てもらえないから。」
「いやいやいや・・・だからいいってそういうのは。そもそも占い自体が好きじゃないし。」
「でもこれは勝負だから。そしてお前はその勝負に乗っただろ?」
「最初からこんな条件なら乗ってねえよ。」
「でも猫を見る目には自信があるんだろ?」
「それは・・・まあ・・・・、」
「なら負けるはずねえじゃん。この勝負・・・・受けてもらうぞ。」
杉原の説得はいつだって強引で、高司は舌打ちしながらコーヒーをすすった。
「んな怒んなよ。どうせ暇なんだし、何か面白いことしないと。」
そう言って笑い、今度は俺の方に目を向けた。
「というわけで、高司はやる気満々だ。」
「どこがだよ?無理矢理じゃねえか。」
「そんな事ない。こいつは勝負したがってる。そして俺も勝負したがってる。だから後はお前次第だ。」
「知らねえよ、お前らの勝負なんか。」
「じゃあ高司の彼女を見たくないの?こいつらの相性をその目で判断したいとか思わない?」
「それは・・・・思うけどさ。ていうか、そういうのはまず俺に報告してもらわないと。」
「だろ?だったらやろうぜ。ちゃっちゃとあの猫を占ってくれよ。」
杉原はまた憎たらしい顔で笑う。
《こいつただ楽しんでるだけだな。でも高司の彼女には会ってみたいし・・・・。》
俺はしばらく迷ったが、「いいぞ」と頷いた。
「でもさ、俺があの猫の歳を当てたとして、誰がそれを証明するんだよ?」
「ああ、それは大丈夫。だってあの猫、コンビニの近所の家の猫だから。」
「そうなの?」
「だと思う。」
「思うだけかよ・・・・違ってたらどうすんだ?」
「大丈夫だって。その家から出て来るのを見たことがあるんだから。」
「たまたま庭に忍び込んでただけじゃねえの?」
「そんなことない。きっとあの家の猫だ。」
「強引にも程があるだろお前・・・・。」
顔をしかめながら言い返すと、「大丈夫だって、心配すんな」と何の根拠もない断言をした。
「猫の歳は、その家の飼い主に聞けば分かるよ。」
「聞くって・・・・いきなり猫の歳なんか聞きに行ったら、不審者扱いされるだけだろ。」
「大丈夫、俺が聞きに行ってやるから。」
こいつは何としても俺に猫を占わせるつもりだ。いくら言っても引きそうにないし、ここはやっぱりやるしかない。
「・・・・分かった。じゃあ占ってやるよ。」
タバコを灰皿に押し付け、コーヒーを一口飲む。
猫の年齢を当てるなんて初めてのことだけど、乗っかってしまった以上はしょうがない。
ここでビシっと当てれば、高司も俺も見直すだろうし、何より最近の汚名を挽回出来そうな気がした。
《変人どものせいで、最近はちょっとへこんでたからな。これを当てれば自信が戻るかも。》
水で口直しをして、気を引き締める。
コンビニの方を見ると、店員がまだ餌をやっていた。
遠くて顔が分かりづらく、「ちょっと傍まで行ってくるわ」と席を立つ。
ドアへ向かう俺に、「まあ頑張って」と杉原の笑い声が響いた。


             *


人の年齢が顔に出るように、獣だって年齢が顔に出る。
コンビニの前まで来た俺は、しゃがんで猫を覗いていた。
いきなり近づくと逃げるもんだから、わざわざコンビニで餌まで買った。
そいつでおびき寄せてから、まじまじとその表情を窺っていた。
「こいつ若くはないな。なんかこう・・・初々しさがないもん。」
猫といえども、顔にはそれなりの表情がある。
だからじっと観察すれば、若いかどうかくらいは分かる。
だけど高齢者かどうかまでは分からず、どうしたもんかと悩んだ。
「なあ、お前何歳?もう年寄りになってんの?」
手を伸ばして頭を撫でる。ビクッと警戒したが、餌に夢中でそこまで気にしないようだ。
「猫の歳なんか分かんねえよ。俺、ムツゴロウさんじゃねえし。」
占い師になってまだ二年だけど、よもや猫を占うことになるなんて思わなかった。
まあ俺の占いは、手相でもタロットでもなく、相手の表情や言動から内面を読み取るって方法だから、やり様によっては猫に通用しないわけでもないと思う。
だけどいくらこの優れた観察力をもってしても、俺には猫の知識がない。
知識がないなら、いくら観察しても答えなんて出ない。
「どうしたもんかね、これ。猫に詳しい奴なら分かるんだろうけど・・・・、」
半分諦めながら、チラリと喫茶店の方を見る。
杉原も高司も、見張るように俺を睨んでいた。
「あいつら・・・俺がズルしないか見てやがる。」
この猫のことを詳しく知るには、さっき餌をやっていた店員に聞くのが一番だ。
ああいうのは猫好きのやることだから、きっと猫にも詳しいだろう。
それにこの猫がよくここへ来るのなら、もしかしたら年齢だって知ってるかもしれない。
店の中を見ると、さっきの店員が品出しをしていた。
化粧っ気の少ない地味な感じだけど、顔はまあ可愛い。
細身のジーンズがよく似合うほどスタイルもいいし、それに制服の上からでも分かるほども胸も大きい。
髪はシンプルに後ろで括っていて、このご時世に黒髪というのもポイントが高い。
「けっこう可愛いな。でも雰囲気からして彼氏はいない。それに見た目ほど若くはないだろうな。パッと見は22か23くらいに見えるけど、多分もう30手前だ。」
俺の女を見る目は確かで、年齢、彼氏の有無、既婚者かどうかはもちろんのこと、処女かどうか、それに思考や主義、人格までかなりの確率で当てられる。
品出しをしている可愛い女は、歳は28か29。彼氏はいないが結婚歴あり。しかし既婚者の雰囲気ではないので、おそらくバツイチだろう。
子供は・・・・多分いない。母親には特有の空気があるけど、それも感じさせない。
表面上は大人しそうに見えるけど、実はかなり気が強いタイプと見た。
攻撃的な性格ではないだろうけど、でも一本芯が通ってるというか、自分が信じることは絶対に曲げない性格だ。
しかも男を見る目はかなり厳しいだろうし、女に対してもそれなりに厳しい目を持ってる。
だけど何より、自分に対して一番厳しいタイプに思えた。
《可愛いしスタイルもいいけど、ああいうのは地雷の一種だ。なんつうか・・・・自分なりの正義感を持ってて、それを絶対に正しいと信じ込んでるタイプだな。》
正義感が強いと言えば聞こえはいいけど、自分こそ正義と思ってる奴は、とにかく鬱陶しいだけだ。
それは男女関係なく鬱陶しいし、過去に付き合った女にそういう奴がいた。
《ああいうのって最初はいいんだけど、付き合ううちにだんだん面倒臭くなるんだよな・・・。ありゃきっと旦那から鬱陶しがられて、別れを切り出されたと見た。》
そんなことを考えながら女を観察していると、ポケットのスマホが鳴った。
「もしもし?」
『おい、女観察してどうすんだよ?猫を占え、猫を。』
杉原が笑い交じりに言ってくる。
「今占ってる最中なんだよ。」
『嘘つけ。ずっと女ばっか見てんじゃねえか。』
「そういう仕事だから。ついクセが出ちゃうんだよ。」
『どういう仕事だよ。占い師だろうがお前は。』
「占いなんてほとんど女しか来ないんだよ。だから女を見るのが仕事みたいなもんなの。」
『まあ屁理屈はともかく、その猫の歳は分かったのか?』
「いや、全然。」
『んだよ、全然ダメじゃねえか。』
「うるせえな。猫なんか占えるわけねえだろ。」
『言っとくけど、店員に話を聞くのはダメだからな。あくまでお前の力で占えよ。』
「分かってるって。もう切るぞ。」
『あと5分だけな。それが過ぎたらここ全部お前の奢りってことで。それと高司の彼女もなし。』
「奢るのはいいけど、高司の彼女のことは絶対に聞くからな。」
そう言って電話を切り、猫を振り返った。
「お前まだ食ってんのかよ?」
猫はほとんど餌を食べ尽くし、空になった缶を舐めている。
「お前飼い猫なんだろ?だったら卑しいことすんなよ。」
そう言って空き缶を奪おうとした。
するといきなり手を引っ掻かれて、「痛ッ!」と引っ込めた。
「おまえ・・・餌もらったクセになんだその態度は!」
引っかかれた手はミミズ腫れのようになっていて、薄っすらと血が滲んでいた。
「だから獣は嫌いなんだよ。ほら、もういいだろ。」
強引に空き缶を奪い取り、ゴミ箱に捨てる。
「もういいや、猫の歳なんか分かんね。」
こんなものを当てたって何の得もない。
高司の彼女に会う方法なんていくらでもあるわけだし、もう喫茶店に戻ることにした。
「とっとと家帰れお前。野良猫に間違われて保健所に連れてかれるぞ。」
猫は食後の手入れをしていて、ペロペロと手を舐めている。
俺は背中を向け、喫茶店の方へ歩き出した。
すると「あの」と声を掛けられ、足を止めた。
「さっき手を引っ掻かれてましたよね?」
餌をやっていた可愛い店員が、絆創膏を片手に近づいて来る。
「これ、よかったら。」
そう言って箱から一枚取り出し、そっと差し出した。

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