微睡む太陽 最終話 微睡む太陽(2)

  • 2017.05.22 Monday
  • 11:58

JUGEMテーマ:自作小説

11月の終わりごろ、ようやく秋らしくなってきた。
紅葉はまだまだだけど、空気はひんやりしている。
さっきまで琴音さんと話をしていた。
銭湯の帰り、家の前で俺を待っていた。
彼女もUFOを探していたけど、就職の為にそれが難しくなった。
だから俺は彼女の分まで頑張るつもりだ。
必ずUFOを見つけて、写真を撮って見せてあげよう。
そんなことを考えながら、しばらくゴロゴロする。
しかしふと大事なことを思い出した。
「アレの電池が切れてたな。」
俺は長袖のTシャツを着て、デニムジャケットを羽織る。
そして宇宙人捜索用ライト、通称懐中電灯というが、その電池を買いに出かけた。
昼前なので陽は高く、空気は涼しいが、陽射しが暑い。
ジャケットはいらなかったなと思いながら、汗ばむ背中を撫でた。
電器屋に着き、電池のコーナーへ向かう。
途中でテレビのコーナーを抜けるのだが、そこでこんなニュースが流れていた。
『先日見つかった大型肉食恐竜の化石ですが、11月23日に一般公開されることが決まりました。
このニュースには海外も注目していて、多くの学者が詰めかけています。
公開は五日間の限定となっており、連休も重なることから、かなりの混雑が予想されています。』
アナウンサーがニュースを読み上げ、コメンテーターが『楽しみですね』と喜んだ。
「また人が多くなるな。」
ようやく登山制限が解除されたのに、人混みで溢れてはUFOの捜索は難しいだろう。
「公開中は他の場所を探すか。」
電池を握りしめ、カウンターに歩く。
家に帰り、古くなった電池を抜いて、新しいのを入れた。
「こいつは必須アイテムだからな。」
カチカチと入れたり切ったりして、部屋の中に光を飛ばす。
点滅する光、自由自在に駆け抜ける閃光。
きっとUFOはこんな感じで空を飛ぶのだろう。
「・・・・・・・・・。」
カーテンを引き、部屋の電気を消し、床に寝転がる。
ライトを握ったまま、好きなだけ光を遊ばせた。
薄暗くなった部屋の中に、跳ねるように駆ける光の玉。
壁を、天井を、カーテンを。
一瞬で部屋の隅まで移動したかと思えば、次の瞬間には天井に張り付いている。
そうやって何度も何度もライトで遊んだ。
手首をちょいっと動かすだけで、光はどこへでも飛んでいく。
窓を開ければ、一瞬で空の向こうまで駆け抜けるだろう。
「・・・・・・・・・。」
俺はじっと光を睨む。
というのも、さっきから奇妙なことが起きているからだ。
懐中電灯の光の他に、もう一つ光が飛んでいる。
俺はスイッチを切って、電灯を置いた。
「なんだこれは?」
やっぱりもう一つ光が飛んでいる。
懐中電灯と似たような動きをしながら、シュババ!っと部屋を駆け回っている。
時々チカチカと点滅して、色まで変わった。
いや、色だけじゃない。
細長くなったかと思えば、真四角になった。
三角にもなるし、輪っかのようにもなる。
「これはUFOか!」
そう叫んで立ち上がろうとしたが、やめた。
黙って寝転んだまま、光を眺めることにした。
光は好きなように飛び回る。
色も形も自由自在で、瞬間移動かと思うほど速く動く。
そして・・・・・、
「すごい。」
壁や天井を駆けていた光が、宙に舞い上がる。
そして俺の頭上までやってきた。
「・・・・・・・・。」
光と目が合う。
じょじょに降りてきて、手を伸ばせば届きそうな位置で止まった。
俺は手を伸ばし、光に触れようとした。
しかし途中でやめた。
手を引っ込め、じっと見つめる。
すると光の中から優二が出てきた。
《行かないの?》
「ああ。」
《約束したじゃん。一緒に行こうって。》
「俺は地球がいいんだ。」
《どうして?》
「宇宙には何もないから。ここから見上げるだけでいいんだ。」
《見てるだけでいいの?楽しいこといっぱいあるよ?》
「でも寂しい場所だ。」
《行ったことないのに、どうして分かるの?》
「・・・・・・・。」
《怖いんでしょ?》
「ああ。」
《平気だよ、僕がいるから。》
「お前は幻だ。どこにもいない。」
《違うよ、僕はいる。宇宙人がみんなの記憶を操作して、真実を隠してるんだ。》
「そうかもしれないけど、俺は行かない。でも会いに来てくれて嬉しいよ。」
身を起こし、優二と向かい合う。
「お前は幻か?そうじゃないのか?そんなのはもうどうでもいいんだ。」
《僕はよくない。》
「お前は本当の宇宙人で、俺の記憶が間違ってたとしよう。だけど俺はこの星を離れたくない。」
《じゃあなんでUFOを探すの?乗りたいからでしょ?》
「いいや、探そうって思う気持ちが大事なんだ。そうする限り、俺は空を見ることをやめないだろう。」
《いつでも見られるよ。宇宙に出たら。》
「この星に立ってることが大事なんだ。それで空を見上げる。それでいいんだ。」
《変なの。もうチャンスはないよ。》
「構わない。」
《本当に?後悔しない?》
「しない。」
《・・・・分かった。じゃあ別の人を乗せていくよ。》
「誰を?」
《兄ちゃんもよく知ってる人。その人もUFOに乗りたがってるんだ。
悲しい気持ちを抱えてるから、ずっと空を見てる。》
優二はUFOに戻る。
そしてパッと光って消えてしまった。
「おい!」
部屋から光が消える。
俺は電気を点け、カーテンを開けた。
外を見渡しても、UFOはどこにもいない。
「・・・・まさか。」
俺はすぐにおばさんの家に電話を掛けた。
「・・・・もしもし?おばさんですか?」
『ああ、勇作君。今日は休み?』
「はい。それより陸翔君はいますか?」
『部屋でゲームしてるはずだけど。呼んでくる?』
「お願いします。」
『ちょっと待っててね』と言い残し、おばさんの足音が遠ざかる。
そしてしばらくすると『UFOの人?』と声がした。
「陸翔君!無事か?」
『何が?』
「UFOが君をさらいに行くかもしれないんだ。」
『ほんとに?』
「俺もすぐにそっちへ行く。もしUFOが来ても、絶対に乗っちゃいけないぞ!」
『分かった。』
俺は電話を切り、車を飛ばした。
陸翔君の家に着くと、「無事か!?」と駆けこんだ。
「UFOの人!」
車椅子を押しながら出て来る。
そして「UFOは来なかったよ」と笑った。
「本当か?」
「ほんとほんと。」
そう言って「今日も晩御飯食べて行けば?」と誘った。
「そのあと一緒にゲームしようよ。」
「すまない。今はそれどころじゃないんだ。」
「何かあったの?」
「優二が来たんだ!あいつ・・・・誰かをさらっていくつもりだ。」
「UFOの人、また・・・・、」
陸翔君はおばさんを振り向く。
「UFOの人がまたおかしくなっちゃった。」
「そうね・・・・。引っ張ってでも病院に連れて行った方がいいかしら?」
「また溺れたりするかもしれないもんね。」
おばさんは頷き、「勇作君」と呼んだ。
「明日バイトを休んで、病院に行かない?」
「どうして?」
「勇作君がUFOを追いかけたい気持ちは分かる。
だけど・・・・たまにね、そうやって興奮する時があるでしょう?
私も陸翔もそれが心配なのよ。」
「俺は平気です。」
「誤解しないでほしいんだけど、UFOを探すのをやめろって言ってるわけじゃないのよ。
ただすごく興奮する時があるでしょ?感情が不安定になるっていうか・・・・、」
「だって優二が誰かをさらおうとしているんです!放っておけません!」
俺は外に駆け出す。
車に乗り込み、エンジンを掛けた。
「勇作君!」
「UFOが来ても、絶対に家に入れないで下さい!」
「ちょっと落ち着いて・・・・、」
「今から琴音さんの所へ行ってきます。」
「琴音ちゃんの?どうして?」
「陸翔君がターゲットじゃないなら、彼女しか思いつかない。きっと今頃UFOに怯えているはずです!」
「それじゃ」と言って、陸翔君の家を後にする。
「勇作君!」
ルームミラーに、心配そうなおばさんの顔が映る。
そりゃそうだろう。
宇宙人の脅威が再び蘇ったのだから。
これを阻止できるのは俺しかいない。
急いで車を走らせ、琴音さんの元に向かう。
彼女は銭湯に向かったはずだ。
ボロッちい銭湯まで車を走らせて、「琴音さん!」と駆け込んだ。
すると番台のばあさんが「なんだい?」と睨んだ。
「琴音さんは!?」
「風呂だよ。今日が最後だから入りに来てるよ。」
「UFOは来てませんか!?」
「は?」
「宇宙人が琴音さんをさらうかもしれないんです!」
「また始まった・・・・。」
「早く保護しないと、遠い宇宙に連れて行かれてしまいます!」
俺は女湯の暖簾に駆け込む。
ばあさんは「何してんだい!」と掴みかかってきた。
「警察呼ぶよ!」
「離せ!琴音さんが危ないんだ!」
「頭おかしいんじゃないのかあんた!」
男湯の方から「どうした?」とじいさんが顔を出す。
「警察呼んどくれ!」
「なんだ?UFOの兄ちゃんじゃねえか。」
「こいつ女湯に入ろうとしてんだよ!ウチの孫が入ってるのに!」
「琴音ちゃんもべっぴんになったよなあ。そりゃその兄ちゃんも惚れるってもんだ。」
「馬鹿言ってないで警察!」
「んな大層なことじゃねえだろ。」
じいさんは「落ち着け」と俺の頭を殴った。
「ぐあ!」
年寄りとは思えないパワーだ・・・・。
俺は頭を抱えてうずくまる。
「あんたこの人に逆らわない方がいいよ。」
ばあさんがじいさんを指さす。
「こう見えて空手の先生なんだからね。」
「空手・・・?あの怪人と一緒か?」
そう言って睨むと、「怪人?」と首を傾げた。
「・・・・おお!もしかして兄ちゃんがあの変人か?ウチの息子が言ってた?」
「なにい?」
「お前陸翔と仲良くしてくれてんだろ?」
「どうして陸翔君を知ってる!?」
「そりゃ孫だからな。」
「孫!?あんた陸翔君のじいさんなのか?」
「そうだよ、知らなかったのか?」
「初めて聞いた・・・・・。」
「もっとも息子は離婚しちまったがな。でも孫は孫だ。ここんところ会ってねえけど。」
じいさんは寂しそうに呟く。
ばあさんは「いいからこいつを摘まみ出しとくれ!」と叫んだ。
「最後の日にこんなケチがつくなんて最悪だよ。」
「まあまあ、あんな可愛い子が風呂入ってりゃ、覗いてみたくもなるってもんだよなあ。」
「馬鹿言ってんじゃないよ。あんたが若い頃とは違うんだ。
覗きなんてやったら、桶で頭叩かれる程度じゃ済まないんだよ。」
ばあさんは「とっとと出ていきな!」と入口を指す。
「これ以上は本当に警察行きだよ!」
「ばあさんマジで怒ってら。兄ちゃん、出るぞ。」
そう言って男湯の方に連れて行かれる。
じいさんの拳骨は強烈で、俺はまだ頭を押さえていた。
すると「あの・・・・」と声がした。
「勇作さん・・・・来てるんですか?」
暖簾の向こうから琴音さんの声がする。
「琴音さん!無事ですか!?」
「なにかあったんですか?すごいおばあちゃんが怒ってますけど・・・・、」
「おうよ、さっき琴音ちゃんの風呂を覗こうとしてたんだ。」
「え?」
「違います!宇宙人がさらいに来るかもしれないんです!琴音さん、早く安全な所へ逃げて下さい!」
俺は暖簾をくぐり、琴音さんに駆け寄る。
するとばあさんが「近寄るんじゃない!」と箒で叩いてきた。
「痛ッ!」
「琴音!早く帰りな!こいつ何しでかすか分かんないから。」
そう言って剣豪のように箒を向ける。
しかし琴音さんは首を振った。
「勇作さん、宇宙人なんていませんよ。」
「いえ、さっき優二が現れたんです。俺が一緒に行くのを拒否したもんだから、別の人間を連れて行くと言っていました。」
「きっとただの幻ですよ。」
「でも見たんです!あれは本物のUFOで、優二は間違いなく宇宙人なんです。」
「勇作さん、あのね・・・・、」
「早く逃げて下さい!でないと危な・・・・、」
「勇作さん!」
琴音さんは大声を上げる。
とても大きな声だったので、ばあさんもじいさんも驚いていた。
「ごめんなさい、私が余計なこと言ったばかりに。」
そう言って俯く。
「何がです?」
「そのままでいてほしいなんて・・・・。頑張ってUFOを探して下さないなんて。」
「それが俺の使命ですから。」
「そうですね。でも勇作さんが何を信じようと勝手だけど、人を困らせたらダメです。」
「困らせるなんて・・・・、」
「してるんです。私もおばあちゃんも、それにきっと陸翔君とおばさんも。」
「俺はみんなを守ろうとしてるんです。迷惑かもしれないけど、みんなの為なんですよ。」
「空ばかり見てると、足元につまづきますよ。」
そう言われてハッとした。
なぜ琴音さんが俺の両親と同じようなことを・・・・。
「琴音さん・・・・まさか俺の両親に会ったことが?」
「え?」
「だって言ってたんです。父と母が。そう言われたんです。」
「勇作さんのご両親に会ったことなんてないですよ。でもきっと、おばさんも陸翔君も同じことを思ってますよ。」
「・・・・・・・・・。」
「私はこれから忙しくなるから、ずっと空ばかり見てられません。
だけど勇作さんは、きっとこれからも空ばかり見てるんだと思います。
だから・・・周りにいる人は大事にした方がいいです。」
「どういうことですか?」
「勇作さんは一人で生きて行けるタイプじゃないってことです。
だからおばさんとか陸翔君とか、傍にいてくれる人を大事にしないといけないんです。
勇作さんはブっ飛んでるけど、でもすごく魅力的な人だと思います。
私だって、彼氏と別れたばかりじゃなかったら・・・・、」
「俺は陸翔君もおばさんも大事にしてます。琴音さんだって友達だから、大事にしてます。だから心配なんです。」
「分かりますよ。でももうちょっと傍を見てほしいんです。
空を見るのは悪いことじゃありません。だけどずっとずっと空ばかり見てたら、一人ぼっちになっちゃいますよ?」
そう言って「行きましょう」と外に出た。
「どこに?」
「陸翔君を誘って、兎羽山に。」
「UFOを探すんですか?」
「そうです。私だって踏ん切りをつけたいんです。子供の頃に見たUFOが本物だったのか。
だからUFO探しはこれで最後にします。」
「琴音さんが探さなくても、俺が探してあげますよ。見つけたら教えてあげます。」
「ありがとう。」
俺たちは銭湯を出て車に乗る。
ばあさんが「ちょっと!」と窓を叩いた。
「琴音!そんなのについて行っちゃいけないよ!」
「平気平気、悪い人じゃないから。」
「何言ってんだい!」
ばあさんは猛烈に怒る。
俺を睨み「琴音になんかしたら許さないからね」と言った。
「地獄だろうが天国だろうが、追いかけて殺してやるよ。」
「俺は琴音さんを守りたいだけなんです。心配しないで下さい。」
「それが心配だって言ってんだよ!」
ばあさんは発狂する。
そこへじいさんがやって来て「若いモンの青春を邪魔しちゃいけねえ」と言った。
「その兄ちゃん悪さはしねえよ。」
「なんでそんなこと言えるのさ!」
「息子から散々聞いてんだ。イラつく野郎だけど、陸翔が懐いてるってな。だから悪い奴じゃあねえ。」
「でも琴音は女の子だよ!こんなのと一緒にいたら何されるか・・・・、」
「おばあちゃん、平気だから。勇作さんはそんな人じゃないから。」
俺はエンジンを駆け、車を走らせる。
「あ、ちょっと・・・・、」
ばあさんが追いかけて来るが、じいさんが「まあまあ」と止めていた。
陸翔君の家に向けて、まっすぐに車を走らせる。
陽は傾き、空が焼けていく。
琴音さんは「綺麗ですね」と言った。
「勇作さんはずっと夕焼けの中にいるのかもしれませんね。」
「何がです?」
「夕焼けってすごく神秘的じゃないですか。でもほんのちょっとの時間が過ぎたら、夜が来るでしょ?
普通の人は夜になったら家に帰って、朝が来るまで寝るんです。
だけど勇作さんは、ずっとずっと夕焼けの中にいて、太陽を見上げてる感じがするんです。
だから羨ましいなって。普通はできないんです、色々将来のこととか考えちゃうから。」
「そう言われたら、そうかもしれません。こうやって空が焼ける景色は好きなんです。
あの太陽の向こうから、UFOが飛んでくるんじゃないかって。」
俺は空を見つめる。
すると琴音さんが「あ!」と指さした。
「太陽の向こうに、もう一個太陽みたいな光がありますよ。」
「ええ。」
「あれ知ってます?幻日っていうんですよ。」
「知ってます。俺が一番好きな星です。」
道行く先に浮かぶ、二つの太陽。
一つは本物、一つは幻。
琴音さんは「やっぱり空を見てるんですね」と言った。
「あれってただの幻ですよ。星じゃないのに。」
「星なんです。俺にとっては。」
「私は本当の太陽の方がいいです。でも幻日も好きです。なんだか神秘的で。」
琴音さんは、いや・・・・きっと多くの人が、本物の太陽を選ぶだろう。
そもそも本物がなければ、幻日は消え去ってしまう。
だけど俺にとっては、紛れもない星なんだ。
あそこにはUFOがあって、宇宙人がいる。
触れることは出来なくても、そこにある。
そしていつか触れることが出来たらと、そう考えてしまう。
「あ、そっちじゃないですよ。陸翔君の家はこっちで・・・・、」
琴音さんは交差点を指さす。
でも俺は交差点を曲がらない。
真っ直ぐに突き進んでいく。
その先にある幻日に。
「ほんとに空しか目に入らないんですね。」
琴音さんは呆れたように笑う。
「いいですよ、UFO探しはやめて、ドライブにしましょうか?」
「ドライブじゃありません。あの幻の星へ行くんです。」
「届かないのに?」
「届きます。信じていればいつか届くんです。」
「でも先の信号は赤です。ちゃんと目の前も見て下さいね。」
「平気です。目はいいですから。」
赤信号で止まっている間も、ずっと空を見ていた。
傍には友達がいて、でもやっぱりこの目は空に向かってしまう。
「もう青ですよ?」
「え?ああ・・・・、」
「ほんとに大丈夫ですか?運転代わりましょうか?」
「いよいよ危なくなったらお願いします。」
「もういよいよって感じですけど・・・、」
「でもその代わり、いつかあの星に連れて行ってあげますよ。陸翔君も一緒に。」
「楽しみにしてます。」
空は激しく焼けていき、その分幻日も形が崩れていく。
まるで微睡んでいるように。
でもそれは、俺も同じかもしれない。
地球でも宇宙でもない場所で、フラフラと彷徨ってばかりだ。
寝ているのに起きているような、起きているのに寝ているような、いつだって微睡んでいる感じだ。
これは病気なのか?
それとも誰にも感じない何かを、俺だけが感じているのか?
その答えは、あの幻日に隠されている。
焼ける空の下、微睡む太陽に突き進んでいった。
          -終-

微睡む太陽 第十七話 微睡む太陽(1)

  • 2017.05.21 Sunday
  • 07:59

JUGEMテーマ:自作小説
太陽が眩しい。
夏が過ぎ、秋になったというのに、灼熱は休む気配がない。
夏は楽しい季節だけど、あまりに長く続くと、体も心も疲れてしまう。
使い込んだエネルギーを取り戻すには、秋のような穏やかな季節が必要だ。
そうでなければ、過酷は冬は乗り切れない。
秋にたくさんの実が成るのは、冬に対して備えろということ。
身体を休め、心を癒し、たっぷりと栄養をつけて、春まで耐えるしかないのだ。
俺は兎羽山を登る。
スコップを担ぎ、リュックを背負い、緩んだブーツの紐を直して、ゴツゴツした岩道を歩んだ。
目的は一つ、UFOを探すこと。
頂上まで昇って、遮るものがない空を見上げた。
雲は薄く、極限まで伸ばしたピザの生地みたいだ。
太陽の光は鈍く、薄い雲を突き抜けて、焼けるような暑さを運んでくる。
その太陽の傍には、もう一つ太陽が浮かんでいた。
実体のない幻、光だけを放つ幻日だ。
これは偽物の太陽、でもこうして目で見ることが出来る。
できるけど、触れることはできない。
飛行機に乗って近づけば、そこには何もないのだ。
だけど見ることは出来る。
そこになくても、あるかのように浮かんでいるのだ。
俺はスコップを掴んで、土を掘る。
UFOを探す為に。
ここにはきっとUFOが眠っているはずだ。
宇宙人が隠れているに違いない。
それを見つけることこそが、俺の使命。
これをせずして、いったい何をしようというのか?
せっせと穴を掘り続け、宇宙より飛来した超文明の産物を探していく。
でも今日も見つからない。
高かった陽は落ちて、空が焦げていった。
「はあ・・・・。」
ため息を拭い、スコップを担ぐ。
頂上を後にして、トボトボと下山した。
麓に着くと、おばさんが墓地の手入れをしていた。
「こんばんわ。」
「あら、今日も登ってたの?」
「ええ。でもUFOは見つかりません。」
「残念ね。」
ニコッと笑って、家に戻っていく。
しばらくすると、陸翔君が出てきた。
「UFOの人!」
慣れた手つきで車椅子を走らせる。
俺の手前まで来ると、「UFOあった?」と尋ねた。
「あるのはある。でも見つからない。」
「いつか見つかるよ。」
「ああ。」
「今日はそのまま帰るの?晩御飯は?」
「お邪魔しようかな。」
「泊まっていきなよ。」
陸翔君は家に戻っていく。
「お母さ〜ん!」と叫んで、「ハンバーグ一個追加して!」と叫んだ。
俺は空を振り返る。
幻日は消えて、本物の太陽しかない。
でもいつかまた現れるだろう。
実体のない幻の星、あれこそが俺の星なのだ。


            *

今から一ケ月前、俺はあの星に手を伸ばした。
オーロラを超え、亜空間から飛び出し、二つの太陽を目撃した。
本物と幻の二つ、それぞれの太陽には異なるものが詰まっていた。
本物には地球と人間が。
幻には宇宙と宇宙人が。
俺は迷わず幻の太陽に手を伸ばした。
その瞬間、元の世界へ戻ってきた。
ここは病院。
医者に鎮静剤を打たれてから、ずっとベッドの上で寝ていたようだ。
傍にはおばさんと陸翔君がいて、怪人も来ていた。
『大丈夫?』とか『もうちょっと寝てなよ』と声をかけてくる。
しばらくすると医者がやって来て、俺に幾つか質問をした。
頭は痛くないか?とか、気分はどうだ?とか。
俺は『スッキリしてます』と答えた。
医者は頷き、明日には退院できるよと言った。
怪我は浅いので、身体は問題ないそうだ。
だけど心に問題があるかもしれないから、精神科の受診を勧められた。
俺は必要ないと首を振った。
『もう真実が分かったんです。』
そう答えて、精神科の受診は断った。
あれから一ケ月、俺の毎日は相変わらずだ。
こうやってUFOを探している。
陸翔君とはずっと友達だし、ていうか兄弟のようだ。
おばさんと怪人は離婚し、琴音さんとはあれから会っていない。
それと優二はどこかへ消えてしまった。
光の国のUFOへも行ったけど、もう二度と会うことはなかった。
あの廃村で見つかった骨は、かなり昔に亡くなった人のものだそうだ。
ウシガエルのいたあの穴は、かつて肥溜めだったらしい。
警察によれば、肥溜めから発生したガスを吸い込んで、そのまま中に落ちたんだろうということだ。
かなり昔の骨なので、身元を特定するのに難航している。
あのウシガエルはただのウシガエルで、宇宙人ではなかった。
そして兎羽山で見つかった恐竜の骨だが、あれも宇宙人ではなかった。
あれは正真正銘恐竜の骨。
琴音さんの言っていた通り、発掘には時間がかかっている。
でも登山の一部が解除されて、近々一般公開されるらしい。
あの恐竜の骨を除いて、それ以外のことは全部俺の妄想だったわけだ。
亜空間から飛び出し、幻日に手を伸ばしたあの日、そのことを悟った。
全ては俺の生み出した妄想であり、幻日と同じく存在はしない。
なぜならこの手で触れようとした幻日は、ホログラムのように実体がなかったからだ。
中にはUFOや宇宙人のイメージが詰まっていたけど、イメージはイメージでしかない。
・・・・だけどそれでいい。
今はまだ触れられなくても、いつか触れてみせる。
宇宙人は必ずどこかにいるはずなのだから。
でもこの星から飛び出すつもりはない。
俺がいるべき場所はこの地球だ。
父の言ったように、宇宙は寂しい場所だ。
母が言ったように、地球は笑える場所だ。
俺の立つ場所はここでいい。
だけど宇宙を、UFOを、宇宙人を見上げることはやめないだろう。
・・・・今思えば、俺は両親の死から目を背けたかったのかもしれない。
いもしない弟を生み出し、やたらとUFOにこだわることで、大きなショックから身を守ろうとしていたのかもしれない。
だけどそれ以前からも、ここではない遠くを見ることは多かった。
父の言うように、俺はここではないどこかを見ていないと、生きていけないのだろう。
だけど母の言うように、足元も大事にしないといけない。
だから宇宙を見上げることはあっても、この星から飛び立とうとは思わない。
今まで通り、この大地を踏みしめながら、UFOを探すだけだ。
そうやって変わらない毎日が過ぎていく。
いつかUFOを見つけるまで・・・・。

            *

「あ、ちょっとあんた。」
銭湯の帰り、番台のばあさんに呼び止められた。
「あのね、急なんだけど・・・・、」
「はい。」
「今日でウチ終わりなんだ。」
「閉めるってことですか?」
「そう。もうあたしも歳だし、ここもボロボロだしね。」
そう言って本当にボロボロの銭湯を見つめた。
「趣味で続けてたんだけど、これ以上はちょっとね。」
「じゃあもうここに入れないんですか?」
「当たり前だろ。あんたも風呂くらいある家に住みなよ。まだ若いんだから、こんなボロいとこ来るんじゃなくてさ。
ちゃんと稼いで、いつまでもUFOなんて言ってないでさ。」
「はい、気が向いたら。」
俺は「お世話になりました」と出ていく。
しかし「あの・・・」と引き返した。
「琴音さんは卒業旅行に行けますか?」
「ん?なんのこと?」
「琴音さんは卒業旅行に行けるかどうか分からないと言っていました。
家が裕福じゃないので、ヨーロッパを巡るなんて無理だって。」
「何言ってんだい。ウチは裕福だよ。」
「え?」
「じゃなきゃ儲けもないこんな銭湯、趣味で出来ないよ。」
「じゃあお金持ちで?」
「そこそこね。ウチのじいさんがたくさん土地持ってたから。ここら辺の地主だったんだよ。
今は息子が引き継いでるけどね。コンビニやら駐車場やらにして、ほっといてもそこそこ入ってくるよ。」
「でも琴音さんはそんなこと言っていませんでした。旅行に行くお金がなくて、それで訳あって俺に近づいて来たんです。」
「訳?どんな?」
「それは琴音さんの名誉に関わることなんで言えません。」
「なんだいそりゃ?でもウチは貧乏なんかじゃないよ。あの子が何言ったか知らないけど、変な噂広めるのはやめとくれよ。」
ばあさんはシッシと手を振る。
俺は「今までお世話になりました」と言って、銭湯を後にした。
家路につきながら、「琴音さんは嘘をついてたのか?」と首を傾げた。
「お金がいるから俺に近づいて来たんじゃないのか?」
いったいどんな理由があって近づいてきたのか?俺には分からなかった。
分からなかったが、その答えは向こうからやって来た。
家に着くと、琴音さんがいたのだ。
ドアの前で佇んでいる。
「琴音さん?」
「あ・・・・どうも。」
ペコッと頭を下げて、「大丈夫でしたか?」と尋ねてくる。
「何がです?」
「あの日私が帰ってから、錯乱して気を失ったって。おばさんから聞きました。」
「大丈夫ですよ。」
「お見舞いに行こうかと思ったんですけど、その・・・・顔を合わせづらくて。」
申し訳なさそうに俯いて、「ほんとは怒ってますよね?」と言った。
「いえ、怒ってません。でもさっき銭湯に行ってたんです。それで番台のばあさんに聞きました。」
そう言うと、琴音さんの表情が曇った。
「何を聞いたんですか?」
「実は裕福な家だって。」
「ああ・・・・・、」
「だから卒業旅行は行けるはずですよね?だったらどうして俺に近づいて来たんだろうって考え中だったんです。どうしてですか?」
「それは・・・・、」
「俺に気があるとかですか?」
「・・・・ぶっちゃけ言うと、けっこうタイプです。でもこの前彼氏と別れたばっかりで、今は誰とも付き合う気はないっていうか。」
「ならどうして近づいてきたんです?」
「・・・・笑いませんか?」
「聞いてみないと分からないけど、多分笑わないと思います。」
琴音さんは顔を真っ赤にする。
そしてこう答えた。
「すいません・・・・その・・・信じてるんです、UFO。」
「え?」
「私は・・・・見たことあるんです、UFO。」
「ほんとに!?」
「アメリカに住んでたとか、妹がさらわれたとかは嘘だけど、でも見たことがあるのは本当なんです。
それでいつ見たかっていうと、両親が離婚した時です。」
「やっぱり離婚してたんですか?」
「はい・・・・。私が陸翔君と同い年くらいの時に。あの時、すごく寂しくて、おばあちゃんの家に行ってたんです。
ていうかおばあちゃんがウチに来いって言ったからなんですけど。」
「親の離婚なんて子供に見せられないですからね。」
「それでその日の夜に、銭湯に連れて行ってもらったんです。お風呂に入った後、すごく空を眺めたくなって、こっそり屋根に登ったんです。」
「銭湯の屋根?じゃあ俺と一緒だ。」
「そうなんです。だからおばあちゃんから勇作さんの話を聞いた時、気になって気になって仕方なくて。」
「残念ながら、俺はあの時UFOは見れませんでした。」
「私は見ました。遠い空からピュンと現れて、けっこう近くまで飛んできたんです。
それでトンボみたにピュンピュン飛び回って、色もチカチカ変わって。
しばらく見てたら、おばあちゃんに呼ばれたんです。銭湯の中から「琴音〜!」って。
その瞬間に消えちゃいました、UFO。」
「なるほど。他の人には目撃されたくなかったわけだ。」
「かもしれません。けど今となっては、あれはただの幻だったのかなって。
大人になるにつれて、そう思うようになったんです。両親が離婚して悲しくて、そこから目を逸らす為に、ああいうのを想像したのかなって。」
「ただのイメージだったと?」
「でも本物だったかもしれない。それを確かめたくて、勇作さんに近づいたんです。
だって一人で探すより、二人の方がいいでしょ?
UFO探しなんて誰も付き合ってくれないし、かといってどっぷりオカルトマニアな人は嫌だし。
だから勇作さんに話しかけてみて・・・・この人ならって思えたんです。」
「?」
「その・・・・UFOは信じてるんだけど、危ない人じゃないって思えたから。
さすがに夜の廃村に行こうって言われた時は、やっぱり危ない人なんじゃないかって思ったけど。
でも約束通り、すごく紳士でした。だからこの人は信用できるって思って、一緒にUFOを探そうと決めたんです。」
「う〜ん・・・そういうことだったんですか。」
俺は腕組みをして唸る。
「それならどうして嘘なんかついたんですか?これからも一緒に探せばよかったじゃないですか。」
そう尋ねると、琴音さんの表情が曇った。
「だって勇作さん溺れて死にかけるから!あの時は助かったからよかったけど、今度こんな事があったら本当に死ぬかもって怖くなったんです。
勇作さんは私以上にUFOを信じてて、危険なんて考えずに突っ走るでしょ?
それがちょっと怖くなったんです。UFOを見つける前に、勇作さんの死体を見ることになるんじゃないかって。」
「なるほど・・・・それで嘘を。」
俺は強く頷く。
琴音さんは「なんでもすぐ信じるんですね」と言った。
「素直すぎますよ。また私が嘘ついてるとか思わないんですか?」
「どうして?」
「どうしてって・・・・だって一回嘘ついたのに。」
「一回ついたからって、二回つくとは限りません。」
「それは・・・・人を信用し過ぎじゃないですかね?」
「それに俺を騙したからって、琴音さんにメリットはない。家が裕福なんですから、卒業旅行は行けるわけだし。」
「そうだけど・・・・、」
「琴音さんは俺と同じ使命を背負っているんですよ。」
「使命?」
「UFOです。UFOが俺たちを呼んでいるんです。空を見ろと。」
「どういうことですか?」
「人は悲しいことがあった時、空を見た方がいいんです。それは琴音さんも知っているはずです。」
「ええ。だからあの時、銭湯の屋根に登ったんです。」
「それと陸翔君を連れ出してあげた。あの子もまた両親の離婚で悲しんでいたから。
そんな時、空を見ることの大切さを、あなたは知っていたんです。だからおばさんに内緒で、廃村に連れて行こうとしたんでしょう?」
「だってほんとに悲しそうだったから。本人は隠してるつもりかもしれないけど、丸分かりって感じでした。」
「あなたは優しい。後からお咎めを受けるかもしれないのに、陸翔君を癒してあげようとした。」
「そんな大層なことじゃないですけど・・・・、」
「とにかくです、また一緒にUFOを探しましょう。」
俺は手を差し出す。
しかし琴音さんは首を振った。
「来年の春から就職だから・・・、」
「ああ、それは忙しくなりますね。」
「引っ越しの準備もあるし、それに卒業旅行も。」
「ならもうUFOを探す気はないと?」
「いえ、そんなことはないんです。でもいつまでもUFOに拘るわけにはいかなくて。すいません・・・・。」
「なんで謝るんです。」
「だって嘘ついちゃったし、それにお見舞いにも行かなかったし・・・・。だからちゃんと謝ろうと思って来たんです。」
「いいですよそんなの。それより卒業旅行に行けるみたいでよかったです。楽しんできてください。」
「それじゃ」と言って、家に入ろうとした。
「あの!」
「はい?」
「一つお願いがあるんですけど・・・・、」
「なんですか?」
「もしUFOを見つけたら、教えてくれませんか?」
「いいですよ。」
「ほんとに?」
「だって気になるんでしょう?もし写真が撮れたら送ります。」
「ありがとうございます!」
琴音さんは嬉しそうに笑う。
「私もほんとは勇作さんみたいに、自由に生きたいです。
自分の好きなこととか、気になることを追いかける人生を。
でも色々と先のことを考えちゃうし、親にもちゃんとしろって言われるし。
だから・・・・羨ましいです。」
「羨ましい?」
「だって純粋なままじゃないですか。」
「子供っぽいとはよく言われます。」
「そうじゃなくて、真っ直ぐでいいなって思って。今はみんな暗い顔してて、元気がないじゃないですか。
だから一人くらい勇作さんみたいな人がいてもいいと思うんです。」
「勝手かもしれないけど・・・」、そう言って「そのままでいてほしいです」と頷いた。
「きっと見つかりますよ、UFO。だから探し続けてほしいです。」
「必ず見つけます。それが俺の使命ですから。」
俺も頷きを返す。
琴音さんはニコっと笑い、「それじゃ」と踵を返した。
「就職、頑張って下さい。」
「はい!勇作さんも!」
そう言い残し、銭湯がある方へ去って行った。
「彼女は本物の太陽を選んだわけか。」
去りゆく背中に手を振る。
UFOを見つけたら、必ず知らせてあげないとな。
陽は傾き、空が焼けていく。
長く伸びた自分の影が、宇宙人のように見えた。

微睡む太陽 第十六話 涙する宇宙 笑う地球(2)

  • 2017.05.20 Saturday
  • 13:37

JUGEMテーマ:自作小説

太陽はいつまで燃え続けるのだろう?
いちおう寿命はあるらしいが、何十億年も先のことだ。
その頃、俺は生きてはいないだろう。
遥か遠い未来、命溢れる地球は、ただの岩に変わるのだ。
・・・ちなみに地球も燃えている。
大地の下にはマントルが流れ、灼熱をたくわえながら、常に旅をしている。
しかし地球の炎は太陽とは違う。
太陽は自分で燃えているが、地球は過去の熱が残っているだけなのだ。
大昔、地球にたくさんの隕石が降り注ぎ、その炎が今も燃えている。
大地や海は、炎の上に乗っかる薄い皮のようなもの。
地球誕生から46億年が経って、ようやく皮膚が冷えてきただけなのだ。
しかしいつかは芯まで凍る。
自ら燃えることの出来ない地球は、常にエネルギーを放出し、寿命へと近づいているからだ。
・・・・今、俺は亜空間を漂っている。
トリケラトプスの宇宙人によって、ここへ閉じ込められてしまったのだ。
俺は自ら燃えることが出来ない。
このままここにいたら、いつかエネルギーが枯れ果てて、魂の芯まで凍り付いてしまうだろう。
目の前には大きな星があり、太陽のように輝いている。
直視できないほど眩しくて、思わず目を逸らした。
大きな星の反対側には、オーロラの幕が広がっている。
いや、星の反対側だけではない。
この亜空間全てを包み込んでいる。
それは七色に輝くヤマタノオロチのようで、美しくも恐ろしい怪物に思えた。
・・・・トリケラトプスの宇宙人は言った。
この亜空間を出るには、オーロラを超えるしかないと。
そしてあのオーロラは、宇宙と地球を隔てる壁らしい。
いったどうやったらあのオーロラを超えることが出来るのか?
大きな星に照らされながら、じっと考えた。
《ヒントはある。だけどヒントの意味が分からない。》
俺は思い出す。
トリケラトプスが言っていたことを。
目で見て、その手で触れられるものだけを信じるか?
それともまだ見ぬ遠い世界を信じるか?
宇宙は泣き、地球は笑う。
宇宙がこぼした涙が、地球になった。
・・・・分からない。
《なんなんだろうなあ・・・・。》
口をへの字に曲げながら、どうしたものかと悩んだ。
大きな星は、過剰なほど光を振り撒く。
誰に求められるわけでもないのに。
《・・・・もしこの星が消えたらどうなるんだろう?》
この亜空間は、宇宙に似た場所だ。
ああやって大きな星があるということは、どこかに地球に似た星があるかもしれない。
この亜空間は、本物の宇宙のように、無数の星々が輝いている。
だけど広がるオーロラのせいで、小さな星の光は見えなくなっていた。
・・・・いや、見えなくはないか。
見えづらいといった方が正しい。
強い光に紛れているだけで、消えたわけではなさそうだ。
俺はふわふわと漂いながら、地球に似た星がないか探した。
すると意外なほどあっさりと見つかった。
大きな星から少し離れた所に、地球によく似た星があったのだ。
青く、白く、緑に輝いている。
俺は手足をじたばたさせて、亜空間を泳いでみた。
・・・・どうにか進めるようだ。
でも水の中を泳ぐように、スムーズにはいかない。
スカスカの真空を、水のように掻くことは出来ない。
だけど進むことは進むので、地道にかんばり続けた。
そしてどうにか地球に似た星へ近づくと、驚くことが起こった。
《これは・・・・、》
地球もどきの星の表面に、七色の光が駆け巡ったのだ。
《これはオーロラだ!》
オーロラを宇宙から見ると、光のカーテンが星の上を走っているように見える。
この地球モドキにも同じ現象が起きていた。
磁石が引き合うように、俺はじっと目を寄せる。
星の上の部分、オーロラが走っている所。
そこはかつて俺が住んでいた、アイスランドという国がある。
幼い頃なので、あまり記憶はない。
鮮明に残っているのは、両親が殺された時のこと、そしてUFOと優二のことだけである。
あの時、オーロラが弾け、中からUFOが現れた。
・・・もしかしたら、この地球モドキにも同じことが起こるんじゃないか?
そう思って、噛みつくように凝視した。
オーロラは絶え間なく波打ち、もだえる蛇のよう。
その光は綺麗で神秘的だ。
だけど不気味で恐ろしくもある。
今にも地球を食い尽すのではないかと、獰猛ささえ感じた。
オーロラはしばらくうねり、そしてパチンと弾けた。
《あ・・・・、》
思わず声が出る。
なぜなら弾けたオーロラの中から、UFOが現れたからだ。
そのUFOはアイスランドへ向かい、すぐに上昇した。
そして地球モドキから飛び出して、俺のいる方へと飛んできた。
《・・・・・・・・。》
無意識に手を伸ばす。
いや、UFOの方が俺を捕まえようとしているのか?
・・・・・どっちか分からないが、俺たちの距離は縮まった。
その時、UFOの中が見えた。
窓の傍に二つの人影が立っている。
一つは琴音さん、そしてもう一つは陸翔君だった。
《なんで・・・・・。》
言葉を失う。
あの時、UFOで運ばれていったのは、優二ではないのか?
呆気に取られていると、また地球モドキからUFOが飛んできた。
《もう一つ!?》
また中を覗く。
そこには一つの人影が。
《優二!そんな!これはどういうことだ!?》
俺は震える、青くなる、漏らしそうになる。
《あの夜・・・・UFOは二つ来ていたのか?・・・・しかもなんで琴音さんと陸翔君が・・・・、》
二つのUFOは飛び去っていく。
そしてオーロラを超えて、亜空間から出ていった。
《おお!ここから出ていった!》
亜空間の空を見上げ、《やるなあ》と呟く。
《俺はこんなに困ってるのに、あっさりと出ていった。さすがはUFOだ。》
そこまで考えて、ピンときた。
《そうか!俺もUFOを手に入れればいいんだ!》
地球モドキを振り返り、またUFOが出てこないか待つ。
しかしいくら待っても出てこなかった。
《今ので最後なのか?・・・・いや、そんなはずはない!UFOはもっとたくさんあるはずだ!》
そう信じたけど、出て来てくれなかった。
でも俺は待つ。
UFOはもっとたくさんいるはずなのだ。
この広い宇宙から、たくさんの宇宙人が地球へ来ているはずだ。
だから待った。
ずっと待った。
そしてその甲斐あってか、またUFOが飛び出してきた。
《よし!》
俺は慌てて手を伸ばす。
するとUFOの方から近づいて来てくれた。
中に人影が見える。
なんとそこには、殺された両親が乗っていた。
《お父さん!お母さん!》
《勇作。》
《こっちへおいで。》
UFOの蓋が開いて、長いマジックハンドが出て来る。
俺はそれに捕まって中に入った。
《久しぶりだな勇作。》
《大きくなって。》
《・・・・・・・・・・。》
目が潤む・・・・言葉に詰まる。
目の前に死んだ両親がいるなんて、とても信じられなかった。
《幽霊になったの?》
そう尋ねると、二人とも頷いた。
《宇宙人のおかげでな。》
《今は宇宙を旅してるのよ。》
《そうか・・・・幸せそうでよかった。》
《勇作はどうだ?》
《幸せに暮らしてる?》
《そうだな・・・・よく分からないな。でも今は困ってる。ここから出られなくて。》
《勇作は昔から夢見がちな性格だったな。》
《ここじゃないどこかを見てるような目をしてたわ。》
《・・・・・・?》
《でもそれでいい。そうじゃなかったら、お前はとうに死んでたかもしれない。》
《あんな小さい頃に、目の前で私たちが死んで・・・・。普通ならショックで立ち直れないわ。》
《お前はここではないどこかを見ている。だから生きて来られたんだ。》
《でもね、自分が立っている足元は忘れないで。遠い世界を見ていても、今立っている場所を。》
《お父さん、お母さん、俺はここから出たいんだ。じゃないと友達が危険なんだ。》
《友達は大事だ。すぐ傍にある大事なものだ。》
《足元を見るって、そういうことよ。それを知った上で、勇作が歩く道を決めなさい。》
《ここじゃない遠い世界は宇宙そのものだ。果てしなく広いが、果てしなく寂しい。》
《だけど目で見て、手で触れられるものがあれば、寂しさは消えるわ。》
《宇宙が黒いのは、いつだって泣いているからだ。》
《地球が青いのは、宇宙が涙したから。この星には目に見える大事なものがある。
それを忘れない限り、笑っていられるわ。》
《空を見る道を選んでも、足元は大事にな。》
《お父さんとお母さんは、遠い宇宙の果てから見守ってるからね。》
長いマジックハンドが動いて、俺をUFOから降ろす。
《お父さん!お母さん!》
《じゃあ勇作、またな。》
《元気でね。》
《行かないでくれ!俺も一緒に連れてってよ!》
必死に追いかけるが、父と母は去ってしまった。
さようならと手を振りながら。
《・・・・・・・連れてってよ。》
みんなどこかへ去ってしまった。
陸翔君も、琴音さんも、優二も父も母も。
俺はどうしたらいい?
宇宙のような亜空間の中で、何をどうすればいい?
《みんな行かないでくれ!戻って来てくれ!》
その時、地球モドキからまたUFOが出てきた。
そして俺の前でピタリと止まった。
《・・・・・・・・・。》
中には誰も乗っていない。
ハッチが開いて、マジックハンドが出て来る。
俺はそれを掴んで中に入る。そして窓から外を見つめた。
《俺にもついに専用のUFOが・・・・・。》
飛び上がるほど嬉しくて、傍にあるレバーを握った。
UFOはヒュンヒュン飛び回って、飽きることなく俺を楽しませる。
蠅のように俊敏で、ハヤブサのように速くて、ハチドリのようにホバリングできる。
こんな乗り物はどこにもない。UFO以外には。
《これは俺のUFOだ!俺が飛ばすんだ!》
しばらく亜空間を飛び回って、《これなら・・・・》と頷く。
《みんなを追いかけられるはずだ。オーロラを超えられるぞ!》
UFOは超文明の産物、行きたい所があれば、どこへだって行けるはずだ。
俺は外に出たい。
地球に戻り、琴音さんと陸翔君を助けないといけない。
・・・・しかし、
《これ、どっちに行けばいいんだ?》
みんなはオーロラの外に出ていった。
だけど出て来たのは地球モドキからだ。
《この地球モドキにもオーロラがある。そして亜空間の周りにも・・・・。》
トリケラトプスは言っていた。
ここから出たいのなら、オーロラを超えろと。
でもどっちのオーロラを超えたらいいのか分からない。
外へ向かうオーロラか?
地球モドキへ降りるオーロラか?
俺は激しく迷った。
迷ったが・・・・・父と母の言葉を思い出し、行き先を決めた。
《地球モドキへ行こう。》
ここへ戻っても誰もいない。
だけど外へ行ってもいないはずだ。
なぜならここは亜空間。
本当の世界じゃない。
さっき出会った人たちは、きっと幻なのだ。
宇宙に似たこの空間、ここには何もない。
とても寂しい場所だ。
父が言った言葉、宇宙は果てしなく広いけど、果てしなく寂しい。
だから外へ出ても悲しみが広がるだけのような気がした。
でも地球モドキならばそれもないだろう。
ここは俺の知っている星だ。
兎羽山があり、廃村があり、銭湯があり、母の言っていた足元がある。
それはきっと、俺が立つべき場所なのだ。
宇宙が涙したのは、笑える場所が欲しかったからに違いない。
それが地球だ。
ここへ行けば、きっと・・・・・。
トリケラトプスが言ったことは全て信用は出来ない。
優二が悪い宇宙人かどうかは、まだ分からない。
だけど陸翔君と琴音さんには会わないといけない。
もしも悪い宇宙人が俺たちを囲んでいるのなら、俺はそれを見過ごすことは出来ない。
レバーを握りしめ、地球モドキへ降りていく。
目の前にオーロラが迫る。
獰猛なヘビのようで、思わず身構える。
でも進んでいく。
俺はここへ降りなければいけないのだ。
ここにこそ、俺の立つ足元があるのだから。
UFOはゆっくりとオーロラに近づく。
そして二つが交わった瞬間、眩い光が炸裂した。
それはヤマタノオロチのごとく荒れ狂い、亜空間を食い尽していく。
亜空間を覆っていたオーロラさえも、瞬く間に食い尽してしまった。
俺は目を閉じる。
瞼越しでも光が射して、眼球が焼かれそうなほどだ。
強烈な光は暴れ狂う。
でもじょじょに治まって、俺は目を開けた。
最初に飛び込んできたのは空。
それも薄い雲が広がる、晴れているのか曇っているのか分からない空だ。
その向こうには太陽がある。
薄い雲に遮られ、鈍く輝いている。
そして太陽のすぐ傍に、もう一つ太陽があった。
・・・・あれはいつか見た光景。
そう、おばさんが言っていた幻日だ。
どちらかが本物で、どちらかが幻。
宇宙か地球か?
宇宙人か人間か?
分かれる二つの太陽には、きっとそれぞれ異なるものが詰まっているはずだ。
本物はどっちか?幻日はどっちか?
あの日の光景を思い出し、「きっとこっちだ」と頷く。
空を見上げながら、幻日の方に手を伸ばした。

微睡む太陽 第十五話 涙する宇宙 笑う地球(1)

  • 2017.05.19 Friday
  • 09:58

JUGEMテーマ:自作小説
地球人は宇宙人相手にどこまで戦えるのだろう?
俺は優二に連れられて、兎羽山に来ていた。
ここに琴音さんの妹が捕えられているのだ。
兎の形をした大きな岩があって、その下の亜空間に幽閉されている。
しかし兎の岩は、悪い宇宙人のUFOだった!
俺は恐竜の牙を振るい、そのUFOと戦った。
敵はビームを撃ってくる。
俺はビームサーベルと化した恐竜の歯で、それを叩き斬る。
眩い光が炸裂し、思わず目を閉じた。
・・・その瞬間、敵のビームが俺を貫いた。
《しまった!》
真っ赤なビームが胸を貫通する。
これで死んだ・・・・。
そう思ったが、なんのダメージもなかった。
《なぜだ?》
不思議に思っていると、優二がこう答えた。
《忘れたの?今の兄ちゃんは幽霊なんだよ。肉体から意識だけ分離してるんだ。》
《そうか!これなら物理攻撃は無効ってわけだな!》
《でも気をつけて。奴らは色んな攻撃を使ってくるから。油断してると負けちゃうよ。》
兎のUFOは巨大な歯を見せる。
優二は《あれに噛まれちゃダメだ!》と叫んだ。
《なんでも噛み砕く歯なんだ!幽霊も真っ二つだよ!》
《心配するな。》
俺はビームサーベルを構え、UFOの一撃を迎え打った。
居合に構えた状態から、真一文字に剣を振る。
すると敵の横面にヒットした。
《ぎゃお!》と叫んで、大きく仰け反る。
《トドメ!》
ダッシュして勢いをつけ、一回転しながら斬り払う。
兎のUFOは大ダメージを受けて、よろよろ後退した。
その時、UFOの下から空間の渦が現れた。
《兄ちゃん!あれが亜空間への道だよ!》
《よし、早く妹さんを助けないと!》
《気をつけて!中にはいっぱいウシガエルの宇宙人がいるはずだから!》
《平気だ、これがあるからな。》
光り輝く剣を振って、渦の中に向かう。
《優二!UFOは任せたぞ!》
《うん!》
優二はグレイ型の宇宙人。
力ではレプティリアン型の宇宙人に負ける。
しかし文明はグレイ型の方が上だ。
傍には仲間のUFOもいるし、きっと負けないだろう。
地上の敵は優二に任せ、俺は亜空間を進んでいった。
《なんとも奇妙な場所だな・・・・。》
亜空間の中は不思議な所だった。
銀河のように星々が煌めいて、その隙間に闇が滲んでいる。
それに重力がないので、ふわふわと辺りを漂うばかりだ。
《なんて場所だ・・・・こんな所に琴音さんの妹は幽閉されているのか。》
ここは宇宙そのものといっても過言ではない。
きっと空気もないだろう。
《幽霊の状態で来てよかった。もし肉体のまま気ていたら、呼吸が出来ずに死んでいただろうな。》
宇宙は地球とは違い、底なし沼より過酷な世界である。
地球で進化してきた人間にとっては、美しくはあっても、生きていける環境ではないのだ。
《妹さんは大丈夫だろうか?》
だんだんと心配が強くなっていく。
するとその時、遠くに大きな星が見えた。
それは太陽のように輝いていて、直視できないほど眩しい。
そしてその星の周りには、オーロラが広がっていた。
最初は風にそよぐカーテンのようだったが、やがてうねる大蛇のごとく、四方八方に伸びていった。
《すごい!ヤマタノオロチみたいだ!》
頭が八つある怪物が、七色の光をまとって、亜空間を包んでいく。
周りはどこもかしこも七色に輝いて、小さな星々が見えなくなってしまった。
《なんだこれは!?》
逃げ場を塞がれた!そう思った。
《おのれウシガエルめ・・・琴音さんの妹と一緒に、俺も幽閉しようというのか!?》
もしここで俺が負けたら、人類の存続に関わる。
しかし俺の武器は光の剣だけ。
さすがにこれでは分が悪い。
《敵は空間を操る能力を持っているんだな。さすがは超文明の宇宙人だ。》
科学力では遥かに負ける人類。
この凶悪な宇宙人に勝つには、人類にも宇宙人の力が必要だ。
《優二!早く来てくれ!》
じたばたしながら亜空間を漂っていく。
でも優二は来てくれなくて、俺は大きな星の方へ流されていった。
《クソ!ウシガエルめ・・・・。》
目を細めながら、大きな星を睨む。
するとそこに、巨大なウシガエルのシルエットが映った。
《なんて巨大な・・・・あれが親玉か!?》
どうやら敵のボスが出てきたらしい。
俺は光の剣を構えた。
気分はダースベイダーに挑むルークだ。
《来るなら来い!》
玉砕覚悟で睨み付ける。
大きな星にだんだんと近づき、巨大なウシガエルの姿が露わになる。
それを見た瞬間、俺は絶句した。
「・・・・・・・・。」
戦う気が失せる。
剣を構えていることすら忘れそうになって、呆然とした。
「なんだこれは・・・・。」
それはウシガエルではなかった。
シルエットだけ見るとカエルだが、中身が違う。
《恐竜・・・・?》
それはトリケラトプスを平たくしたような、大きな角を持つ怪物だった。
カエルみたいに足を折り曲げ、カエルみたいに四つん這いになっている。
だけどカエルじゃない。
どう見てもトリケラトプスだ。
《お前が宇宙人か?》
そう尋ねると、何も答えずに背中を向けた。
《おい!琴音さんの妹を返せ!》
我に返って、剣を向ける。
するとトリケラトプスの宇宙人は、大きな角を振ってきた。
《うおッ・・・・・、》
慌てて防御する。
角の一撃は強力で、剣が粉々になってしまった。
《なんてパワーだ・・・・。》
こいつはこの歯の持ち主の宇宙人を滅ぼした奴だ。
普通に考えれば、この剣で勝てないのは当たり前だった。
武器もない、この空間から出ることも出来ない。
俺は《負けだ・・・・》と俯いた。
《やっぱり宇宙人には勝てない・・・・俺の力じゃ・・・・、》
《宇宙人ではない。》
トリケラトプスが口を開く。
それは何重にも響く、やまびこのような声だった。
《宇宙人はお前だ。》
《なに?》
《この星は、かつて私たち恐竜の世界だった。それを人間どもが奪ったのだ。》
《何を言ってるんだ?》
《恐竜は文明を築いていた。今の地球人よりも、高度な文明だ。
しかしそこへ宇宙からの生命体がやってきた。お前たち人類の祖先のな。》
《なんだって!?》
《奴らはとても高い文明を持っていた。しかし母星を失い、この星へ逃れてきた。
我ら恐竜族は、最初は友好的に迎えた。
それなのに、奴らは戦いを挑んできた。この星を自分たちのものにせんと。》
《恐竜と人類の祖先で、戦争をしたっていうのか?》
《そうだ。とても激しい戦いだった。そして我らは負けた。
恐竜族の文明はほとんど失われ、同胞の多くが死に絶えた。
わずかに残った同胞は、鳥に変わって生き延びている。》
《それなら知っている。恐竜は鳥に進化したってな。》
《わずかに残った文明の方は、現在ではオーパーツと呼ばれている。》
《オーパーツ・・・・人類の文明を遥かに凌駕する、超文明の産物だな。》
《激しい戦いの末、恐竜族の文明は滅んだ。しかし敵もまた痛手を負った。
母船を失い、多くの仲間を失い、ボロボロの状態だ。》
《でも今はたくさんの人間がいるぞ。文明も栄えてる。》
《奴らはじっくりと時間をかけて、今の世界を築いた。
元々地球に存在していた、魚、両生類、爬虫類のDNAを取り込むことで、現在の人間のような姿へと変わっていった。
元の姿はグレイ型の宇宙人だ。》
《なんだと!だったらグレイは人類の祖先だというのか!?》
《お前の傍にいる優二という弟、奴らがそうだ。》
《な・・・・・なんだってえええ!?》
驚きのあまり白目を剥いた。
《優二が俺たちの祖先だと!?》
《悪い宇宙人は奴らの方なのだ。》
《嘘を言うな!優二はそんな奴じゃない!》
《このままでは、我ら恐竜族は滅ぼされる。だからこの星を旅立つことにした。》
《旅立つ?》
《新たな母星を探す。この星はグレイと人類にくれてやる。好きなだけ汚して、好きなだけ破壊するがいい。
いつかこの星に住めなくなり、人類は滅びる。》
《待て!ならどうして兎羽山で見つかった、ティラノサウルス型の宇宙人を滅ぼした?あれはお前たちの仲間だろう?》
《彼らを滅ぼしたのは、グレイ型の宇宙人だ。》
《優二たちがやったというのか!?》
《そうだ。》
《そんな馬鹿な・・・・・、》
《人間よ、せいぜい夢の中に生きているがいい。何も知らず、幻想の中でいつまでもはしゃいでいろ。》
トリケラトプスは大きな遠吠えをあげる。
するとどこからかたくさんのウシガエルが集まってきた。
《いつの間にこんなにたくさん・・・・・、》
辺りを埋め尽くすウシガエル。
そして兎の岩のUFOまでやって来た。
《あれは優二と戦っていたやつ!》
ボロボロになっているが、どうにか飛んでいる。
トリケラトプスもウシガエルも、UFOの中に吸い込まれていった。
《お前ら!逃げる前に琴音さんの妹を返せ!》
《我らは何もしていない。悪さをしているのはグレイ型の宇宙人だ。》
《嘘をいうな!優二は俺たちの味方だ!そんなことはしない!》
《世界中で悪さをしている。優二も、車椅子の少年の親も。》
《車椅子の・・・・。それってまさか・・・・、》
《髪の薄い浮浪者も、お前を保護した警官も。》
《そんな・・・・なんてこった!》
《お前はグレイ型の宇宙人に囲まれているのだ。》
《俺の周りは、みんな宇宙人だってのか!?》
《みんなではない。琴音と車椅子の少年は違う。》
《あの二人は人間なのか?》
《そうだ。》
《ということは・・・・あの子はおばさんの本当の子供では・・・・、》
《違う。そして真実を知らないのはお前だけだ。お前の両親を殺したのも奴らだ。》
《なッ・・・・・・・、》
《両親を殺した男は、奴らが操っていた。》
《なんでそんなことを!?》
《お前の両親は、優二の正体に気づいていた。だから殺されたのだ。》
《嘘だ!誰がそんなことを信じるか!》
優二の言う通り、こいつは悪い宇宙人だ。
しかし武器がない今では倒せない。
《そうやって嘘をついて、たくさんの人を騙してるんだな?》
《信じるかどうかはお前が決めればいい。》
トリケラトプスはUFOから上半身を出して、真上を指さす。
左右、真下も指さして、《このオーロラは壁だ》と言った。
《壁?》
《お前は周りから変人扱いされているだろう?》
《誰も俺の言うことを信じてくれない。俺は真実を言っているのに・・・・。》
《このオーロラは、地球と宇宙を遮る壁だ。》
《・・・・・何が言いたいんだ?》
《その目で見て、手で触れて、そこに存在するものだけを信じるか?
それともまだ見ぬ遠い世界の存在を信じるか?
どちらを見るかで、このオーロラの中にいるか、外に出るかが決まる。
もしお前が答えを間違うなら、永遠にこの空間に閉ざされるだろう。》
《大丈夫だ、優二が助けに来てくれるからな。》
俺はニヤリと笑う。
しかしトリケラトプスは首を振った。
《優二は逃げた。》
《なんだって!?》
《我らの宇宙船が撃退した。》
《何を言ってる!優二の方がお前らよりも強いんだぞ!》
《強いのは強いが、憶病で狡賢い連中だ。たかがお前ひとりの為に、命を懸けたりはしない。》
《俺を置いて逃げたっていうのか?》
《お前は利用されているのだ。我らレプティリアンを絶滅させる為に。》
《そんなのは信じないぞ!》
俺は必死に否定する。
しかしトリケラトプスは鼻で笑った。
《この空間から出たいなら、オーロラを超えて見せることだ。》
《どうやって!?》
《さっきも言った通りだ。答えは自分で出すがいい。》
UFOは遠ざかっていく。
大きな星の向こうへ消えていく。
《待て!》
《ヒントをやる。》
《ヒント?》
《宇宙は泣いている。地球は笑っている。》
《なんだそれは?》
《宇宙が流した涙が、地球になったのだ。》
それだけ言い残し、UFOは光のごとく飛び去った。
俺は一人残されて、宇宙のような亜空間を漂う。
周りはうねるオーロラに包まれて、これを超えないと出られないらしい。
《なんだあの宇宙人は・・・・。わけの分からないことばかり。》
優二は悪い宇宙人で、しかも陸翔君と琴音さん以外はみんな宇宙人。
そして真実を知らないのは俺だけ。
《どうなってるんだいったい・・・・。》
俺は途方に暮れるしかなかった。
頭を抱え、海面を漂う昆布のように、へなへなと流されるばかり。
《ずっとここにいたらどうなるんだろう?》
辺りを見つめ、《別に出なくてもいいんじゃ・・・・》と考える。
人生の目的はすでに果たした。
UFOに乗るという目的は。
琴音さんと陸翔君のことは気掛かりだが、これ以上俺に何が出来よう。
《・・・・・いや、ダメだな。あの二人は放っておけない。それに妹さんだって助けないといけないし。》
やっぱりここから出ないといけない。
しかしその為には・・・・・、
《トリケラトプスは言っていたな。
目で見て、手で触れて、そこに存在するものだけを信じるか?
それともまだ見ぬ遠い世界の存在を信じるか?》
俺は亜空間を包むオーロラを見上げる。
《これは宇宙と地球を遮る壁だと言っていた。ということは、この外には宇宙が広がっているということか・・・?
いや違うな。この外に地球が広がっているんだ。でないと、このオーロラを超えても地球へ戻れない。
ということは、この亜空間が宇宙ってことになるな。》
そう考えて、《妙だな》と頭を掻いた。
《この外に地球があるなら、地球は宇宙よりも広いことになる。
でもそんなのはおかしい。地球は宇宙に浮かんでいるはずだから。》
何がなんだかわからなくて、への字に口を曲げた。
《去り際にヒントを言っていたな。
宇宙は泣いて、地球は笑うって。
そして宇宙が流した涙が、地球になったと。・・・・・分からない。》
昆布のように漂いながら、いつまで経っても答えが出ない。
優二が助けに来てくれないかと期待したが、全然そんな気配はなかった。
《困った・・・・どうすれば・・・・。》
別にここにいても死ぬわけじゃない。
でもここから出ないといけない理由がある。
俺の為でなく、友達の為に。
考えながら、ふわふわと漂い続ける。
・・・・その時、ふとある疑問が蘇った。
《そういえばどうして琴音さんは、陸翔君をあの廃村に連れて行ったんだろう?》
病院で浮かんだ疑問が、再び頭をもたげる。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・ん?」
今、ふと思うことがあった。
《・・・・守ろうとしたのか?この俺を・・・・。》
トリケラトプスは言っていた。
周りは宇宙人だらけで、人間なのは陸翔君と琴音さんだけ。
そしてそのことを知らないのは俺だけだと。
《あの二人は知っているんだ。みんなが宇宙人だってこと。
となると・・・・俺を守ろうとしたのか?人気のない廃村へ行くわけだから、悪い宇宙人に狙われないように・・・・。》
俺は恥ずかしくなった。
俺だけが真実を知っていると思っていたのに、俺だけが真実を知らなかったのだ。
《なんてこった・・・・・とんだ赤っ恥だ!一人相撲だ!俺は阿呆だ!》
頭を抱え、むう〜と悶える。
大きな星を見つめ、眩しく目を細めた。

微睡む太陽 第十四話 遠い故郷(2)

  • 2017.05.18 Thursday
  • 09:06

JUGEMテーマ:自作小説

俺はUFOに乗った。
失われた記憶も復活し、弟にも会った。
俺は・・・・もう充分だった。
両親が殺されてから今まで、ずっとUFOを追いかけていた。
いつか乗れるはずだと信じて。
その夢は今日叶った。
だからこれ以上は何も望まない。
あとは人並みを人生を歩いて行くだけだ。
しかし俺ではない誰かのことは気掛かりだ。
陸翔君と琴音さん。
この二人の抱える問題を、俺は解決しないといけない。
幸い陸翔君の方はどうにかなりそうだ。
優二が弟か妹をプレゼントしてくれるのだから。
離婚した親は元に戻らないが、彼は新たな家族を得る。
悲しみは消えなくても、喜びが癒してくれるだろう。
だから・・・・問題は琴音さんの方だ。
彼女の妹を連れ戻すには、悪い宇宙人と戦わないといけない。
俺は病院のベッドの上で、琴音さんにそのことを説明した。
UFOに乗ったこと、記憶を取り戻したこと、そして優二から聞いた話を。
「琴音さん、俺はあなたの味方です。妹さんは必ず助けてみせます。」
ガシっと肩を掴んで、「希望は捨てちゃいけません」と言った。
すると琴音さん、困った顔をしながら、隣の陸翔君を見つめた。
「これって・・・・、」
「前より頭がおかしくなっちゃったね。」
二人は俺の話を信じない。
まあ仕方ないだろう。UFOに乗った人間でなければ、UFOに乗った人間の言葉は信じられない。
琴音さんは眉を寄せながら、「あのですね・・・」と言った。
「実は謝らないといけないことが・・・・、」
そう前置きして、何かを話しだそうとした。
しかしおばさんがそれを遮る。
「ちょっと待って。先に私の話をさせてちょうだい。」
そう言って俺の前に座る。
「勇作君、どうしてあなたが病院にいるか話したわよね?」
「ええ。」
「あなたは溺れたのよ。あの骨を追いかけて、その先にある川に落っこちたの。
その時に頭を打ったみたいで、気絶してたのよ。」
おばさんは俺の頭の包帯を撫でた。
「琴音さんがすぐに助けを呼んでくれたからよかったけど、そうじゃなきゃ死んでたわ。」
ため息交じりに俯き、「ねえ?」と尋ねる。
「その・・・・一度精神科を受診してみない?」
「どうして?」
「勇作君がUFOを信じてるのは分かる。だけどね、それが行き過ぎて死にかけるなんて・・・・おばさん心配なのよ。」
「俺は溺れていたんじゃありません。UFOに乗っていたんです。」
「そうね・・・。そうかもしれないけど、それは勇作の夢かもしれないわよ?」
「夢じゃありません。俺はあの骨を追いかけ、そして悪い宇宙人に殺されかけたんです。
そこを優二が助けてくれたんですよ。」
そう、俺は優二に会ったのだ。
弟に、宇宙人に。それは紛れもない真実だ。
でもおばさんは首を振る。
困った顔をしながら、琴音さんを振り返った。
「あの・・・・、」
琴音さんは戸惑いながら口を開く。
「勇作さんは本当に溺れたんです。あの骨を追いかけて、その先にある川に落ちて。
浅い川だけど、落ちた時に気絶してたみたいで・・・・。」
「違う、俺はUFOに乗っていたんだ。」
「・・・あの骨の周りには、たくさんウシガエルがいたんです。
そこに私たちが来たもんだから、慌てて川の方へ逃げ出したんですよ。
骨はそれに引っかかって動いてただけなんです。
あの廃村には、今は警察が来てます。色々調べてるみたいだけど、宇宙人なんて見つけてないですよ。」
「だからあのウシガエルが宇宙人なんだ!悪い奴なんだ!琴音さんの妹をさらった奴らなんだ。」
「・・・・・・・。」
琴音さんは俯く。
するとおばさんが「正直に言いなさい」と彼女の肩を叩いた。
「もう分かったでしょ?勇作君は本当にUFOを信じてるの。これ以上嘘をついてたら、あなたの為に危険なことをしちゃうわ。
もしそれで死んだりしたら、あなたは責任が取れる?」
そう言って、陸翔君の車椅子を掴んだ。
「ちゃんと話をして謝りなさい。いいわね。」
険しい顔を向けながら、陸翔君と一緒に病室を出ていく。
琴音さんは腕をさすりながら、「あの・・・」と怯えた。
「その・・・・謝らないといけないことがあるんです。」
そう言って俺の前に座る。
「私は嘘をついてました。」
「嘘?」
「私に妹なんていないんです。アメリカに住んでたこともないし、UFOを見たこともありません。」
「何を言ってるんです?」
俺は顔をしかめる。
琴音さんは俺よりも顔をしかめた。
「勇作さんはよく近所の銭湯に行きますよね?あのボロっちい。」
「ええ。」
「あれって私のおばあちゃんがやってるんです。」
「そうなんですか!?あの番台のおばあちゃんが?」
「はい。それで前から聞かされてたんですよ。変わった人が来るって。
UFOUFOっていつも言ってて、この前は屋根に登ったって。
それを友達に話したら、みんな面白がって・・・・。」
「知らなかった、琴音さんがあの銭湯のお孫さんだったなんて。」
世間は狭いもんだ。
こうして彼女と出会ったのも、何かの運命かもしれない。
となると、なんとしてでも妹を連れ戻してあげないと。
「大丈夫ですよ、俺が必ず妹さんを見つけてあげます。」
「いや・・・だからそれは嘘で・・・・、」
「記憶を消されてるんですよ、宇宙人に。きっとあのウシガエルの宇宙人がやったんだ。」
「違うんです、そうじゃなくて・・・・、」
膝の上で手を組み、もじもじする。
そして申し訳なさそうな顔でこう言った。
「賭けをしていたんです。」
「賭け?」
「ゼミの友達に勇作さんのことを話したら、みんなすごく面白がって。
だから勇作さんのことを面白がって、誘惑してやれって言ってきたんです。」
「誘惑?何を?」
「・・・・その勇作って奴は、頭のおかしい社会不適合者で、ロクな仕事もないだろうし、女にもモテないだろうって。
だからUFOとか宇宙人を信じて、現実逃避をしてるんだって。」
「・・・・・・・・・・。」
「俺らもそういうの好きだけど、でも本気で信じてるわけじゃないって。
その勇作ってやつも、本気で信じてるんじゃなくて、そうすることでしか現実から逃げられないんだろって。
だから誘惑してやれって言ってきたんです。
もし彼女が出来れば、UFOとか宇宙人とかなんて、一瞬でどうでもよくなるだろうって。」
「・・・・・・・・・・。」
「だから佐原、お前が誘惑してやれよって。変人が好きなんだから、お前ならいけるだろって。
・・・・私は最初、断りました。確かに変わった人は好きだけど、そこまで変な人は嫌だから。
それにそんな賭けなんてする気になれないし。」
「・・・・・・・・・・。」
「だけどもし落とすことが出来れば、一緒に卒業旅行に連れて行ってやるって言われて・・・・。」
「卒業旅行?」
「私の家、そこまで裕福じゃないんです。だから学費を出してもらうので精一杯で。
でも周りはお金持ちが多いんです。みんな将来に不安がないから、考古学なんて役に立たないゼミで遊んでる感じで・・・・。
でもお金はあるから、卒業旅行は良い所に行こうってことになったんです。
だけど私は行けない・・・・。仲の良い子は、私の為に安い所でいいじゃんって言ってくれたけど、最終的にはヨーロッパを巡ることになって。
そうなると、せっかく四年間一緒に過ごしてきた友達なのに、卒業旅行に入れてもらえないんです。」
「・・・・・・・・・・。」
「でも勇作さんを落とすことが出来たら、旅費を持ってくれるって言ったんです。
交通費と宿泊費だけは出してやるって。それなら一応はみんなと一緒に行けるから・・・・・。
だから賭けに乗るこにしたんです。それで勇作さんに声を掛けることにしたんです。」
「・・・・・・・・・・・。」
「本当は銭湯で声を掛けようと思ってました。だけどたまたま勇作さんも同じバイトをしてたから、あの山で声を掛けたんです。
・・・・最初は怖くて戸惑ってたけど、斎藤さんが先に声を掛けちゃって。
あ!あの人は何も事情を知らないですからね!さすがに定年した人が、そんな賭けに乗るわけがないから。
だけど斎藤さんが話しかけて、それで友達が「ほらいけ!」ってせっついて。
それで・・・・その・・・・今に至るというわけです。」
申し訳なさそうな顔で言って、申し訳なさそうな顔で俯く。
長い間俯いていて、「ごめんなさい」と呟いた。
「私には妹もいないし、両親も離婚なんかしていません。アメリカだって行ったことないし、UFOなんて見たこともありません。
ただ勇作さんを騙す為に嘘をついて・・・・・。」
そう言って顔を上げて、「でも!」と叫んだ。
「勇作さんと一緒にいるうちに、この人は本当にUFOを信じてるんじゃないかって思ったんです。
演技とか、現実逃避とかじゃなくて、根っから信じてるんだって。
それに勇作さんの過去を知ったら、こんな賭けなんかしていいのかなって迷うようになって・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「辛い過去があって、本気でUFOを信じて・・・・そんな人を騙してまで、みんなと旅行に行っていいのかなって・・・・。
そうやって迷ってるうちに、こんな事になって・・・・・。」
「こんなこと?」
「だって死にかけたじゃないですか!まさかこんなことになるなんて・・・・。」
青い顔をしながら、「マジで焦った・・・」と首を振る。
「普通あそこまでしませんよ。骨とカエルを追いかけて、川に落ちて死にかけるなんて。
でもその時分かったんです。この人は本気でUFOとか宇宙人を信じてるんだって。
どうしてそこまで信じてるのか分からないけど、それだけは間違いないって。」
「・・・・・・・・・・・。」
「すぐに救急車を呼んで、それで病院に運ばれるまでの間、おばさんも陸翔君もすごく心配してました。
陸翔君のお父さんだって「しっかりしろ!」って励ましてて。
あの時、私は震えるしかなかったんです。これで勇作さんが死んだら、私はみんなから恨まれるって。
だからおばさんに話したんです。嘘ついて勇作さんを落とそうとしてるって。」
琴音さんはまた「ごめんなさい」と謝る。
「本気でUFOを信じてるんですね、勇作さんは。」
「信じるもなにも、ついさっき乗ったばかりです。」
「・・・・・怒ってますよね?」
「何を?」
「私が嘘をついてたこと・・・・。」
「いえ。」
「いや、怒ってるでしょ?酷い女だって。」
「全然。でも迷ってるんです。」
「何をですか?」
「琴音さんの言うことを信じてもいいのかどうか?」
「はい?」
「もし琴音さんの言ってることが真実なら、俺は肩の荷が降りるんです。だって妹を見つけなくてもいいから。」
「・・・・・・・・・。」
「だけど宇宙人に記憶を消されている可能性もある。
琴音さんは自分の記憶を正しいと思っているかもしれないけど、そうじゃない可能性もあるんです。
だから優二から連絡が来るのを待つしかありません。」
「連絡って?」
「あのUFOの破片を調べてくれているんです。金属にも記憶があるらしくて、その記憶を調べているんです。」
「・・・あの・・・・、」
「心配しなくても大丈夫です。優二は良い宇宙人だし、頼りになる弟ですから。」
俺は胸を張って言う。
きっと優二が真実を突き止めてくれる。
それまでは待つしかないのだ。
琴音さんは黙り込んでしまって、俺と目を合わせようとしない。
そこへおばさんと陸翔君が戻ってきた。
「琴音ちゃん、話はもう終わった?」
おばさんが尋ねる。
「はい・・・・。」
「勇作君はいつも通りだったでしょ?」
「はい・・・・。」
「そういう子なのよ。純粋だし真面目だし、他人想いなの。
だからもう構わないであげて。卒業旅行に行きたい気持ちは分かるけど、それは自分でどうにかしてちょうだい。
勇作君を巻き込まないでほしいの。」
「すいません・・・・。」
琴音さんは立ち上がる。
俺に頭を下げて、「騙しててごめんなさい」と言った。
「もう会いに来ません。ほんとうにごめんなさい。」
そう言い残し、病室を出て行った。
陸翔君が「なに話してたの?」とキョトンとする。
おばさんが「大人の話よ」と言った。
「あ、もしかして痴話喧嘩?もうそういう関係になってたの?」
「コラ!子供がそんなこと言わない。」
去ってしまった琴音さん。
でもまた会うことになるはずだ。
優二が真実を突き止めてくれたら、彼女にも伝えないといけないから。
卒業旅行に行くのは、それからでも遅くないだろう。
「ねえUFOの人。」
「ん?」
「なんの話してたの?」
陸翔君は興味津々だ。目が輝いている。
俺は「彼女の記憶の話だ」と答えた。
「なにそれ?」
「俺と同じなんだ。彼女も正しい記憶じゃないのかもしれない。」
「そうなの?付き合うとか別れるとか、そういう話じゃなかったの?」
「違う。」
「ふ〜ん・・・。でもあの人、UFOの人のこと好きそうに見えるけどなあ。」
「そうだとしても、俺は誰とも付き合うことは出来ない。これが終わったら、優二と宇宙へ行かないといけないからな。」
「じゃあ僕も連れて行ってよ。」
「ダメだ。」
「なんで?前はUFOに乗せてくれるって約束したじゃん。」
「陸翔君にはお父さんもお母さんもいる。それに近い将来に弟か妹が出来るはずだ。」
「それさっき言ってたね。出来るなら弟にしてくれないかな?」
「いいぞ。優二にそう言っておく。」
「絶対ね。」
「ああ。」
陸翔君は嬉しそうに頷く。
俺は窓の外を見て、琴音さんのことを心配した。
《彼女は記憶を操作されている可能性がある。ただ俺を騙すだけなら、二人で廃村へ行けばよかったはずだ。
なのにわざわざ陸翔君を呼んだのはなぜだ?》
さっき琴音さんはこう言っていた。
私の両親は離婚なんてしていないと。
しかしそれだと辻褄が合わなくなる。
彼女が陸翔君を呼んだのは、自分と同じように親が離婚して、それに同情していたからだ。
だからこそ陸翔君を可哀想だと思い、廃村へ誘った。
辛い現実から目を逸らさせようと。
でも彼女の両親が離婚していないというのなら、その理屈は通らない。
ならばなせ呼んだのか?
《どうも引っかかるな。同情で連れ出したんじゃないとしたら、他にどんな理由がある?
俺たち二人だけで廃村へ行ったら、都合の悪いことでもあったのかな?》
琴音さんの記憶が確かだろうと、そうでなかろうと、これは疑問だ。
陸翔君に接する琴音さんは優しかった。
なのにどうして車椅子の陸翔君を連れ出そうとしたのか?
《・・・・宇宙人か?もしかしたら脳内に埋め込まれたチップで、宇宙人によって操作されているのかもしれない。
ということは、あの廃村にいた宇宙人は俺や琴音さんではなく、陸翔君に用があったってことになるな。》
俺は陸翔君を見つめる。
優二は言った。陸翔君は宇宙人に乗っ取られてはいないと。
ではこうは考えられないか?
あのウシガエルの宇宙人は、これから陸翔君を乗っ取ろうとしていたと。
《きっとそうに違いない!なんてこった・・・・陸翔君まで危険に晒そうというのか!》
俺は気が滅入る。
琴音さんと陸翔君。
この二人を凶悪な宇宙人から守れるだろうか?
「ねえお母さん、UFOの人またぶつぶつ言ってる。」
「日増しにひどくなってくわね。これは無理にでも精神科の先生に診てもらった方がいいかもしれないわ。」
二人は能天気な会話を交わしている。
《みんな分かってない!人類は今、侵略の危機に晒されているというのに・・・・。》
宇宙人は狡賢い。
人類に気づかれることなく、着々と侵略の準備を進めているのだ。
もしも優二みたいな良い宇宙人がいなかったら、俺たちはウシガエルの奴隷になっているだろう。
《米軍も日本政府も、宇宙人と癒着している。きっと手は貸してくれない。
ならどうすればいい?どうすればこの危機を乗り切れる!?》
滅びの危機はいつだって傍にある。
その真実を知ってしまった今、俺は冷静ではいられなかった。
「ちょっと出かけてきます。」
ベッドから下りて、外へ走り出す。
「勇作君!」
おばさんが追いかけて来る。
俺は必死に走ったが、頭が痛くなって、フラフラとよろけた。
「クソ・・・・頭を打ったのは本当らしいな。でもこんな怪我で負けていられない!」
手すりにつかまり、階段を降りていく。
「勇作君!ダメよ!まだ寝てなきゃ!」
おばさんが俺の手を掴む。
俺はその手を振りほどき、人類を守る為に駆け出した。
「誰か!その子を捕まえて!」
近くにいた看護師たちが、俺に飛びかかってくる。
医者も駆け付けて、病室へ戻されてしまった。
「まだ安静にしてて下さい。」
医者は無理矢理に俺を寝かせる。
「地球が危ないんだ!人類が滅びる!」
「ちょっと暴れないで!」
「人類が危険なんだ!このままじゃウシガエルの奴隷になってしまう!」
俺は必死に叫ぶ。人類を、この地球を守る為に。
「早く!早く悪い宇宙人を倒さないと!」
「暴れるな!」
医者も看護師も、必死の形相で俺を押さえつける。
「誰か鎮静剤!」
看護師がどこかへ走り出し、その数分後に、俺は注射を打たれた。
意識が朦朧としてきて、強烈な睡魔が襲ってくる。
「頼む・・・・行かせてくれ・・・・。じゃないと・・・・みんな宇宙人の奴隷になってしまう・・・・。」
真実を知らないというのは、恐ろしいことだ。
誰もかれもが俺を変人だと思っている。
でもそうじゃない。
真実を知っているのは俺だけで、だからこそ焦っているというのに。
《クソ!なんで分かってくれないんだ!このままじゃ本当にウシガエルの奴隷になってしまうのに・・・・・、》
叫びたいのに声が出ない。
瞼は重く、指さえ動かせなくなる。
しかしその時、頭上から眩い光を感じた。
《兄ちゃん。》
《優二!》
《あの破片の記憶を読み取ったよ。》
《本当か!それで結果は!?》
《琴音さんの妹はまだ生きてる可能性があるよ。》
《それはよかった!じゃあすぐに連れ戻さないと!》
《兎羽山って知ってるよね?あそこの亜空間に幽閉されてるんだ。》
《兎羽山か。今は恐竜の化石が見つかったせいで封鎖されてるな。》
《じゃあ滝尾山から行けばいいよ。あの山は尾根で繋がってるから。》
《無理だ。あそこも封鎖されていると聞いた。熱心な恐竜マニアが、尾根を越えて入って来るらしいからな。》
《そっか・・・・じゃあもう一回僕のUFOに乗る?それで兎羽山まで行こうよ。》
《もちろんだ!早く妹さんを助けないと。》
《なら光の国に来て。》
《光の国?あの子供向けの施設か?》
《あそこの屋根にUFOがあるでしょ?あれが僕たちのUFOなんだ。》
《やっぱりあれは本物だったのか!?》
《急いで来て。ウシガエルの宇宙人は、もうこっちの動きに気づいてる。早くしないと妹さんが危ない。》
《分かってる。でも注射を打たれて動けなくて・・・・、》
《・・・・・じゃあ仕方ない。やっちゃいけないことだけど、特別にやってあげるよ。》
《何を?》
《兄ちゃんの意識を抜き取る。肉体を捨てて、僕たちと一緒に行くんだ。》
《どういうことだ?》
《幽霊になるってこと。人類にとってはオーバーテクノロジーだけど、兄ちゃんの為だから特別にやってあげる。》
優二は俺の頭に手を突っ込む。
かつて記憶を封じられた時のように、トコロテンが脳ミソを駆け巡るような感覚だった。
《・・・・これでよし。》
《おお!俺の身体があんな所に・・・・。》
俺は宙を浮いていた。
肉体はベッドに寝たまんまで、医者やおばさんに囲まれている。
《さあ行くよ。》
優二は俺の手を取り、病院から飛んでいく。
向かうは光の国、屋根の上に眠るUFO。
《早く乗って。》
《ああ。》
今日、俺は二度目のUFO搭乗に成功した。
《優二、琴音さんはやっぱり記憶を操作されていたんだな?》
《みたいだね。》
《宇宙人め・・・・なんて酷いことを。》
《レプティリアンは冷酷だから。恐ろしい奴らだから、覚悟してかからないといけないよ。》
《分かってる。これは人類の為の戦いだ。俺は負けない!》
UFOは空に舞い、ピュンと駆け抜ける。そして瞬きするほどの時間で兎羽山に着いた。
俺は窓から山を見下ろす。
せっせと化石を発掘している人達がいて、遠い昔の命を、現代に蘇らせようとしている。
でもあれは恐竜じゃない。宇宙人の骨なのだ。
それもウシガエルに滅ぼされた宇宙人の。
彼らの怒りは未だ消えず、復讐を誓っている。
だからこそ俺を引き寄せた。そして武器を与えたのだ。
・・・・・気がつけば、手にバナナの歯を握っていた。
ノコギリみたいにギザギザのついた歯。
これでもって、ウシガエルの宇宙人の企みを阻止してみせる。
そして琴音さんの妹を連れ戻すのだ!
UFOは山へ下りていく。
化石から少し離れた場所に。
そこにはこの山の名の由来となった、大きな岩がある。
兎の形をしたあの岩だ。
その傍に、一匹のウシガエルがいた。
《じゃあ降りるよ兄ちゃん、準備はいい?》
《いつでも。》
バナナの歯を剣のように掲げる。
ここは地球、悪い宇宙人の好きにはさせない。
俺は近々この星を離れるが、残された人たちが安心して暮らせる星であり続けてほしい。
遠い宇宙に出たって、地球での不安ごとが消えないのは知っている。
銀河の果てに旅立った時、遠い故郷を案じるなんて、そんな暗い気持ちにはなりたくないのだ。
優二が俺の手を掴み、一緒にUFOから降りていく。
するとその瞬間、岩の傍にいたウシガエルが、長い舌で襲いかかってきた。
《この星をお前たちに渡すものか!》
バナナの歯を振ると、ビームサーベルのように光の刃が伸びた。
ウシガエルの舌を斬り払い、返す刀で一刀両断!
すると兎の岩が動いて、ピカリと目を光らせた。
《兄ちゃん!あれが奴らのUFOだよ!》
《これがか!》
《このUFOの下に亜空間があるんだ!そこに琴音さんの妹がいる!》
《任せろ!こんなUFOなんて、俺が叩き斬ってやる!》
俺はビームサーベルを振り上げる。
兎のUFOは目からビームを放ってきた。
ぶつかる二つの光。
眩く炸裂する閃光は、あの夜のオーロラのように弾ける。
人類の存亡を懸けた戦いが始まった。

微睡む太陽 第十三話 遠い故郷(1)

  • 2017.05.17 Wednesday
  • 08:40

JUGEMテーマ:自作小説
記憶というのは誰にでもあって、思い出せない記憶だって誰にでもあるだろう。
霧がかかったように見えなくて、そこにあるのは分かるんだけど、輪郭がハッキリしない。
脳のどこかには保存してあるんだけど、それを引っ張り出すツールがない。
もし、その不鮮明な記憶の霧が晴れて、青空のようにクリアになったら、未知の世界へ足を踏み入れたような感覚になるだろう。
今、俺は未知の世界へ来ていた。
空を超え、大気圏を超え、地球を離れ、数々の宝石が煌めく宇宙へ来ていた。
ここは完全なる未知の世界。
地球から見るのと、宇宙から見るのとでは、宇宙の様子はまったく違っていた。
どんなに晴れた夜空よりも、宇宙から見る宇宙は明るい。
そこかしこに光が満ちていて、永遠の昼間のような、曇るのことのない晴れ空のような、桃源郷のような世界だった。
俺は宇宙にいる。
念願のUFOに乗って、果てしない世界に浮かんでいる。
隣には優二がいて、手を繋いで地球を眺めた。
《兄ちゃん、すごいでしょ?》
「ああ、すごい・・・・地球がダンゴムシみたいだ。それも七色のな。」
じっと地球を眺めてから、UFOの中を見渡す。
「想像していたよりも質素なんだな。」
UFOの中はとても広く、天井から何人かの宇宙人が垂れている。
彼らはこうやって立っている方が楽なんだそうだ。
UFOの中はオーロラのように光が揺らめいていて、形があるのか無いのか分からない。
「UFOっていうのは、もっと金属的なものかと思っていた。でもこれはそうじゃない。エネルギー体なんだな。」
《UFOは宇宙人の身体なんだよ。軍隊アリが身体を繋いで巣を作るみたいに。》
「盲点だった。UFOはてっきり乗り物だと思っていた。」
《乗り物だけど、生き物でもあるんだよ。僕だってこのUFOの一部さ。》
優二は天井に吸い込まれ、ニュルっと生えてくる。
《兄ちゃんも来る?》
「ああ。」
俺もニュルっと天井に吸い込まれて、逆さまにぶら下がった。
「頭に血が上るな・・・・・。」
《今は重力を発生させてるからね。兄ちゃんの為に。》
「なら切ってくれ。」
《ダメだよ。人間は重力がないと生きていけないんだ。
宇宙飛行士みたいに訓練を受けてない兄ちゃんだと、すぐに骨とか筋肉がやられちゃうよ。》
「不便だな、人間の身体って。」
《環境に適した身体になるのが生き物だから。遠い遠い未来に、人間が宇宙で暮らすようになったら、身体の作りは変わるよ。
でもその頃には、人間は人間じゃない生き物になってるだろうけどね。》
優二はクスクス笑って、周りの宇宙人に手を向ける。
俺はじっくりと彼らを観察した。
その姿は「映画アビス」に出て来る宇宙人と、グレイを足して二で割ったようなものだ。
顔と身体のバランスは人間に近いが、ずいぶんと幼児体型だ。
目は人間より大きく、真っ黒だ。でもどこか愛嬌がある。
輪郭はシュっとしていて、頭の後ろから背中にかけて、羽のような触覚が生えていた。
その触覚はお互いに絡まっていて、そうすることでUFOを形成しているのだ。
「なあ優二、迎えに来てくれてありがとうな。」
《いいよ。約束だったし。》
便所へ繋がる穴の中で、優二は迎えに来てくれた。
動く骨を追いかけていった先に、こいつは俺を待っていてくれた。
「なあ優二、あの骨はなんだったんだ?」
《ただの骨だよ。昔に殺されて、ずっとあのままなんだ。
動いてたのはウシガエルのせいだよ。あの骨に棲みついてて、ジャンプすると骨が動くんだ。》
「殺人か・・・・。俺たちの親と一緒だな。」
ボソっと呟くと、優二は《一緒に行く?》と言った。
《僕の星に。》
そう言って宇宙の彼方を指さす。
しかし俺は首を振った。
そしてじっと目を閉じた。
アイスランドの夜を思い出す。
あの時弾けたオーロラは、オーロラではなかった。
あれは優二が俺を守ったのだ。
父と母を殺した犯人は、俺にも襲いかかってきた。
その時、優二が俺の前に立った。
手を広げ、空に向かって「助けて!」と叫んだ。
その瞬間、オーロラの中からUFOが現れ、凄まじい光を放った。
それはあたかもオーロラが炸裂したような光で、誰もが目を覆った。
UFOはこちらへ飛んでくる。
犯人は弾き飛ばされ、海へ投げ落とされた。
そして優二はUFOに吸い込まれて、そのままどこかへ消え去ってしまった。
その日以来、誰も優二のことを覚えていなかった。
教師も、友人も、近所の人も、役所の戸籍からも消えていた。
そしてこの俺の記憶からも。
今になって思い出す。
まだ俺が四つの時、母が不妊で悩んでいたことを。
俺はすんなり身ごもったのに、弟か妹はなかなか出来なかった。
父も悩んでいて、医者にも通っていた。
俺は悩む父と母を見るのが嫌で、空に願いをかけたのだ。
窓の外に広がるオーロラを見上げ、どうか弟か妹を下さいと言った。
その次の日、突然弟が出来ていた。
隣で優二が寝ていたのだ。
誰もかれもが、さも昔からいたかのように受け入れた。
親も、教師も、近所の人も。役所には戸籍もある。
俺も疑問なく優二を受け入れていた。
それから二か月後、優二は秘密を打ち明けた。
『僕ね、宇宙人なんだ。兄ちゃんが願ったから来たんだよ。』
そう言って、オーロラが横切る空に手を向けた。
すると光の中からUFOが現れた。
そして優二も宇宙人に変わっていた。
『僕の星はなくなっちゃったんだ。だからこの星に来たんだけど、住む場所に苦労するんだよね。
だから受け入れてくれそうな人間を探してるんだ。これ、誰にも言わないでね。』
俺は言わないと約束して、優二と指切りを交わした。
それからさらに二か月後、あの事件が起きた。
俺の親が殺されて、優二はUFOと共に消え去った。
消え去ったのだが・・・・その日のうちにまた現れた。
警察署で保護されていた俺の所にやって来たのだ。
窓から光が射し、優二が入って来る。
そしてこう言った。
《一緒に行く?》
俺は首を振った。
《寂しくない?》
俺は頷いた。
《じゃあ一緒に行こうよ。》
「僕は地球人だから。それにお父さんとお母さんを置いていけないから。」
《もう死んじゃったのに?》
「死んでもこの星にいるもん。だから行かない。」
俺は泣いていた。
ショックと恐怖と悲しみと、それに不安と寂しいのとで、泣く以外にできなかった。
優二は《じゃあさ》と言った。
《兄ちゃんがピンチになったら迎えに来るよ。それと辛い記憶は煙を掛けてあげる。
消すことは出来ないけど、その代わりに思い出しにくくしてあげるよ。
そうしたら、きっと兄ちゃんはUFOを探す。
思い出せない記憶の中に、UFOの存在を感じるだろうから。
UFOのことばっかり気になって、辛い記憶に振り回されずにすむはずだよ。》
優二は頭に手を突っ込んだ。
それはトコロテンが入ってくるみたいな、妙な感覚だった。
くすぐったくて、ちょっと痛い。
そして眠くなってきて、次の朝には色んなことがボヤけていた。
記憶の一部に霧がかかり、なぜかUFOや宇宙人のことしか考えられなくなっていた。
・・・・あの時のことを思い出しながら、そっと目を開ける。
隣の優二を見つめて、「頭に血が上る」と言った。
《降りようか?》
「ああ。」
ニュルニュルっと天井に吸い込まれ、床に戻る。
「なあ優二、俺にはやらないといけないことが二つある。」
《なに?》
「一つは陸翔君のことだ。あの子は寂しがっている。それをどうにかしてやらないと。
それにあの子は宇宙人に乗っ取られている可能性が・・・・、」
《あの子は宇宙人に乗っ取られてないよ。》
「本当か!?」
《微生物型の宇宙人はいるけど、地球じゃ生きていけないんだ。だって地球は微生物でウヨウヨだから。
それに他の生き物を乗っ取る力もないから、この星には来てないよ。》
「よかった・・・・。でもあの子が寂しがっているにの変わりはない。
だから俺は、あの子の兄貴になってやろうと思う。そうすれば寂しくなくなるだろうから。
だから地球から離れるわけにはいかないんだ。」
《じゃあもう一つは?》
「琴音さんだ。彼女は俺とまったく似たような境遇だ。親こそ殺されていないが、UFOを目撃した後に、妹を失ってる。」
《それ僕らとは別の宇宙人だよ。》
「ならやっぱり宇宙人に連れ去られているんだな!?」
《兄ちゃんのポケットに、UFOの破片が入ってるでしょ?》
「ああ、これか?」
俺は銀色の破片を取り出す。
《そのUFOの持ち主だよ。》
「なにい!?」
《ちょっと悪い奴らなんだ。世界中で人をさらってる。》
「そんな・・・・拉致が目的なのか!?」
《ううん、侵略。もし地球に地球人しかいなかったら、とっくに乗っ取られてるよ。》
「・・・・・・・・・。」
俺は恐怖に震える。
地球侵略の危機が、すぐそこまで来ていたなんて・・・・。
《心配しなくても、侵略は無理だけどね。》
「そうなのか!?なら人類は・・・・、」
《滅ばない。だって他にも宇宙人がいるから。僕らみたいに母星を失くしたり、星を追われたりした種族が。
ほとんどは良い宇宙人だから、外敵から地球を守ってくれてるよ。だから侵略は出来ないんだ。
だけど犯罪レベルの悪さまでは防げない。》
「なんてこった・・・・人間は奴らの実験体にされているのか・・・・。」
《そんなとこだね。他には売り飛ばされたりとか、拉致した後に本人に成りすましたりとか。》
「恐ろしいな・・・・地球の文明では対抗できない。」
悔しくなって、「どうにか出来ないのか!」と叫んだ。
「このままじゃ琴音さんは辛いままだ。妹を取り返す手はないか?」
《まだ生きてるなら出来るかも。》
「調べることは出来るか?」
《難しいよ。だって地球に棲む宇宙人はたくさんいて、種族同士で戦争しないようにルールがあるんだ。
だからあんまり他所の種族を調べたりとかしにくいんだよ。明らかに悪いことしてる時は、やっつけてもいいんだけどね。》
「なるほど、証拠が必要ってわけか。」
《兄ちゃんの気持ちは分かるけど、あんまり首を突っ込まない方がいいと思う。ただでさえ死にかけたのに。》
「死にかける?」
《だって約束したじゃん。ピンチになったら迎えに来るって。
兄ちゃんは地下の穴で骸骨を見つけたでしょ?その時に殺されそうになったんだよ。》
「なんだって!?いったい誰に・・・・、」
《琴音さんをさらった宇宙人の仲間。》
「なッ・・・・、」
《あの穴にあった骸骨って、宇宙人が殺したんだよ。それを兄ちゃんが見つけたから、殺されそうになったんだ。》
「ならあの廃村にはやっぱり宇宙人が・・・・、」
《うん。》
「じゃあ宇宙人の秘密基地も?」
《それはないけど、でもあそこに棲んでるんだ。兄ちゃんも会ってるはずだよ。》
「会ってるだって!じゃああそこにいた誰かが犯人ってわけか!?」
《うん。》
「・・・・そんな。となると、容疑者は限られてくるじゃないか。俺と琴音さんは人間だし、陸翔君も宇宙人には乗っ取られていない。
となるとおばさんか怪人のどちらかということに・・・・・ああ!そうか!あれは怪人じゃなくて宇宙人で・・・・、」
《違うよ、人間じゃない。》
「なに?」
《ウシガエルに会ったでしょ?あれがそう。》
「あいつが!?カエルに化けてるのか!」
《もともとああいう姿なんだよ。》
「爬虫類型の宇宙人・・・・レプティリアンだな!」
《人間はそう呼んでる。ちなみに僕はグレイ型だよ。》
「宇宙人にも色々いると聞く。レプティリアンは凶暴だとも。」
《文明は僕らの方が上なんだけど、奴らは一人一人がすごく強いんだ。だから兄ちゃんじゃ勝てないよ。
琴音さんのことは可哀想だけど、関わらない方がいいよ。》
「いや、それは出来ない。」
《どうして?》
「俺には彼女の気持ちが分かるんだ。見えないもの・・・・いや、見えなくなったものを探そうとする気持ちが。
それは誰にも止めようがないほど、熱いエネルギーなんだ。だから俺は戦う!優二、力を貸してくれ!」
悪い宇宙人が相手なら、良い宇宙人の力を借りるしかない。
優二は良い宇宙人だ。そして俺の弟だ。
これほど俺にとって最高の相棒はいない。
「俺はもう目的を果たした。UFOに乗るって目的を。
優二にも会えたし、これでもうUFOを追いかける必要はなくなる。
ちゃんと自分の人生を生きられる。だけど琴音さんはこのままじゃダメなんだ。」
《どうしても琴音さんを助けたいの?》
「ああ。お前なら力を貸してくれるだろう?」
《・・・・・・・・・。》
「優二、兄ちゃんに力を貸してくれ!」
手を握り、「頼む」と頭を下げる。
「琴音さんは同志なんだ。」
何度も何度も頭を下げると、優二はため息をついた。
《・・・・・分かったよ。》
しぶしぶ頷く。
《でも一つだけお願いがあるんだ。》
「なんだ?」
《もし妹さんを見つけることが出来たら、僕と一緒に行こうよ。》
「どこに?」
《兄ちゃんは僕の兄ちゃんだよ。種族も違うし、血も繋がってないけど、でも兄ちゃんなんだ。
だから一緒に宇宙へ行って、遠い遠い世界まで旅しようよ。》
「いいぞ。その代わり、俺からも一つ頼みがある。」
《なに?》
「陸翔君の足を治してやってほしいんだ。」
《それは無理だよ。》
「宇宙人の科学力でも無理なのか?」
《出来るけど、やっちゃいけない決まりなんだ。人間の医学を超えてるからね。》
「なるほど、人類にとってのオーバーテクノロジーは禁止ってわけか。」
《うん。》
「じゃあ・・・・そうだな。どうにかして彼が寂しくないようにしてやってくれないか?」
《それなら出来るよ。弟か妹を作ればいい。僕が兄ちゃんの弟になったみたいにね。》
「でも陸翔君の両親は離婚してるんだ。それは難しいだろう。」
《出来るよ。兄ちゃんの時だって、いきなり僕っていう弟ができても、誰も不思議に思わなかったでしょ?》
「それはそうだな。あれは俺たちの記憶を操作したってことか?」
《うん。宇宙人が地球人に溶け込む時に限って、オーバーテクノロジーは許されるんだ。
でないと宇宙人だってバレちゃうから。》
「なら頼む。琴音さんと陸翔君、この二人のことが解決すれば、俺はお前と一緒に行く。」
《ほんとに!》
「ああ、ずっと一緒に宇宙を旅しよう。」
優二は嬉しそうに頷く。
嬉しいのは俺も一緒で、二人で地球を眺めた。
極限まで丸まった、七色のダンゴムシのような星。
少し離れた所には月があって、さらに向こうには眩い太陽がある。
地球は二つの星に見守られながら、広い宇宙を旅していく。
こうして遠くから眺めていると、数ある星の一つに過ぎない。
だけどあそこに降り立てば、宇宙という世界は消え、どこを見渡しても地球に変わる。
かつて俺は思った。
広い宇宙から眺めれば、地球での悩みなんてどうでもよくなると。
でもそんな事はなかった。
陸翔君と琴音さん、この二人のことは胸から消えない。
それはきっと、地球が俺の星だからだろう。
いくら宇宙から眺めようが、あの二人のことを、小さな悩みとして忘れることは出来なかった。
《じゃあ兄ちゃん、地球まで送って行くよ。》
「頼む。」
《その前にそれ貸して。》
「ん?」
《それ、恐竜の歯。》
陸翔は手を差し出す。
俺はギザギザのついたバナナの歯を渡した。
《実はこれも宇宙人なんだよね。》
「な、なああにいいいい!?」
《ウシガエルの奴らと敵対するレプティリアンだったんだ。でも滅ぼされたんだ。だから怒ってる。復讐したいって。》
「そうだったのか・・・・俺はすでに宇宙人を発見していたんだな。」
《兄ちゃんがこれを見つけたのは偶然じゃないんだ。この宇宙人が呼んだんだよ。》
「呼んだ?」
《だっていっつもあの山でUFOを探してたでしょ?だから呼んだんだよ、「宇宙人はここにいるぞ」って。
それでこの歯でもって、奴らに復讐してほしかったんだよ。》
「そうだったのか・・・・まさか宇宙人の方から俺を求めていたとは。」
《しかもこの歯のおかげで助かった。》
「助かる?」
《ウシガエルの宇宙人に襲われた時、これが守ってくれたんだ。これは立派な武器なんだよ。》
そう言ってブルブルと恐竜の歯を振った。
《はい、これでよし。》
「何をしたんだ?」
《ちょっと壊れてたから、治しただけ。》
「壊れる?どこも壊れてなかったぞ。」
《中の機械が壊れてたんだ。》
「機械!?それは機械なのか!」
《ナノマシンって知ってる?》
「ああ、目に見えないほど小さな機械だろ?」
《そう、それが入ってるの。それで武器として使えるんだ。》
「すごいな・・・・まるでSF兵器じゃないか!」
《あのウシガエルが襲ってきたら、きっと守ってくれるよ。大事に持っててね。》
そう言って俺の手に握らせる。
《それとそのUFOの破片、貸してくれる?》
「ああ。」
銀色の破片を渡すと、《こっちで調べてみる》と言った。
「何を?」
《金属にも記憶があるんだ。それを読み取ってみる。》
「そんなことも出来るのか!?」
《もしこのUFOで妹さんをさらってたら、何か読み出せるかもしれないから。》
「頼んだ!」
なんと心強い弟だろう。
なんと頼りになる宇宙人だろう。
これなら悪い宇宙人が相手でも怖くない!
《じゃあ地球に帰ろう。》
「ああ。」
UFOは地球に向かっていく。
月が遠ざかり、太陽が遠ざかり、海と大地が近づいてくる。
今日、ようやく念願のUFOに乗った。
感動したし、優二に会えて嬉しかった。
だけどそれと同時に、不安も抱えることになった。
《宇宙人との対決になるかもしれないな。》
あのウシガエルの宇宙人は、虎視眈々と地球の覇権を狙っている。
人々をさらうのもその為だろう。
俺は許さない。
果てしなく広い宇宙、色んな奴がいるとしても、ここは地球だ。
この星は俺の母星、そして故郷。
断じて悪い宇宙人に渡したりはしない!
きっと地球も同じ思いだろう。。
私を守ってくれと。この星で生まれた命を守ってくれと。
《地球よ・・・・母なる星よ。俺に任せておけ。必ずお前を守る!》
悪い宇宙人との戦いは怖いが、それ以上に闘志が湧き上がる。
大気圏に突入する頃、太陽が怒っているように見えた。

微睡む太陽 第十二話 UFOの秘密基地(2)

  • 2017.05.16 Tuesday
  • 07:54

JUGEMテーマ:自作小説

廃村はいつ来ても独特の雰囲気がある。
家や商店があるのに、人がいない。
いるはずのものがいないというのは、ものすごい違和感がある。
この前は夜だったが、今日は朝。
それでもこの独特の雰囲気は変わらなかった。
人工物があるのに、人がいない。
人によっては不気味と感じるだろう。
しかし俺はそんな事どうでもいい。
だからすぐに探し回った。
まずは蔵の地下室からだ。
「UFOの人、どこ行くの?」
「地下室だ。」
「僕も行く。」
「無理だ。あそこの階段は狭いからな。」
「じゃあおぶって。」
「それならいいぞ。」
俺は膝をつき、陸翔君をおぶろうとした。
すると怪人が「一緒に行くのはダメだ」と止めた。
「お前なんかに任せたらどうなるか分からん。」
そう言って陸翔君をおぶる。
「お父さんと一緒に行こう。」
「地下室にね。」
「そんな所に行かなくていい。他にも色々あるじゃないか。民家とかお墓とか。」
「お墓は嫌だよ。」
「で、行くのか行かないのかハッキリしてくれないか?」
俺は蔵の方へ顎をしゃくる。
陸翔君が「行こう!」と叫ぶので、怪人はしぶしぶ頷いた。
「危ない場所だったら引き返すからな。」
俺たちは蔵へ向かう。
するとおばさんが「気をつけてね」と言った。
「怪我しないように。」
「平気です。今日は怪人がいますから。」
「お前なあ・・・、」
怪人の眼光をかわしつつ、蔵へ入った。
懐中電灯を点けて、地下室へ続く階段を降りていく。
かなり狭いし、それに急だ。
注意しながら降りていき、プレハブくらいの大きさの部屋に出た。
ライトを向けると、この前みたいにカマドウマが跳んでいった。
「以前と変わりはないな。」
誰かがここへ入った様子はない。
陸翔君は興味津々に「ねえ?」と尋ねた。
「ここって何?」
「箪笥や掛け軸があるから、きっと物置だろう。」
「でも物置なら上の蔵じゃないの?」
「物が多いから、ここにも置いているんだろう。」
そう答えると、怪人が「ここは便所なんじゃないか?」と言った。
「ほら、そこの箪笥の後ろ、ボロいドアがある。その上にカマドウマがへばりついているぞ。」
「ほんとだ。ねえUFOの人、あのドア怪しくない?」
「そうだな、開けてみるか。」
「おいおい、勝手に触らない方が・・・・、」
「怪人も手伝ってくれ。腕力だけはあるだろ?」
「だけってなんだ?お前より頭もある。」
俺と怪人は箪笥を掴む。
そう大きくないので簡単に動いた。
「じゃ、後はよろしく。」
怪人はちょっとだけ離れる。
どうやら怖いらしい。
怪人のクセに情けない奴だ。
ドアの取っ手に指をかけ、手前に引いてみた。
しかし全然開かない、押しても開かない。
「引き戸なんじゃないか?」
怪人が言う。
俺は「今やろうとしたとこだ」と、ドアをスライドさせた。
するとガラガラと音を立てて開いた。
少し立て付けが悪いが、「ふんぎ!」と開け切った。
中にライトを向けると、そこは便所だった。
それも昔ながらのボットン便所だ。
「怪人の言う通りだった。ここは便所だ。」
「僕にも見せて。」
陸翔君が手を振る。
しかし俺は「覚悟がいるぞ?」と言った。
「なんで?」
「壁じゅうにびっしりカマドウマが張り付いてる。」
「マジ!見たい!」
そう言ってウキウキするが、怪人が「絶対に嫌だ!」と首を振った。
「そんな光景見たくない!」
「ただの虫だよ?怖くないって。」
「気持ち悪いだろうが!壁じゅうにびっしりだぞ!しかも便所コオロギが!」
「面白そうじゃん。」
「やめとけ、見たら絶対に気持ち悪くなる。」
怪人は近づこうとしない。
本当に情けない奴だ。
「陸翔君、怪人は憶病だ。代わりに俺がおぶってやる。」
「ダメだ!お前に預けられるか!」
「こんなにすぐ傍にいるんだ、問題ない。」
「・・・・・本当だろうな?」
「本当だ。」
「陸翔に何かあったら殺すからな。」
「いいぞ。」
怪人はしぶしぶ陸翔君を預ける。
俺は彼をおぶり、便所の前に立った。
「おい変人!中には入るなよ!」
「入る時はこの子を返す。」
便所を照らすと、壁にはカマドウマがびっしり。
陸翔君は「おえええ!」と舌を出した。
「なにこれ・・・・気持ち悪い。」
「だから言っただろ。」
怪人が舌打ちする。
「外にいるか?」
そう尋ねると、「いい」と首を振った。
「ねえ?便所の所さ・・・・、」
急に青い顔をして指さす。
「どうした?」
「なんかいる・・・・。」
「なに!?」
俺はライトを向けた。
するとそこには、こちらを見つめる二つの目があった。
「宇宙人か!?」
「違うよ!あれカエルだ!」
「なに!?」
「ウシガエルだよ!」
「なんでそんなモンが便所から・・・・。」
大きなウシガエルが、ボットン便所から顔だけ出している。
動かない、じっとしている・・・・。
しかし近くにカマドウマが来ると、ペロっと飲み込んでしまった。
「なるほど、ここにはたんまり餌があるからか。」
びっしりと埋め尽くすカマドウマの大群。
ウシガエルにとってはご馳走だろう。
しかし問題はどこから来たのかだ。
俺はゆっくりと中に入る。
「おい!」
怪人が止めるが、陸翔君は「平気だよ」と答えた。
「虫とカエルしかいないから。」
「そういう問題じゃない!またなんかあったら・・・・、」
「だから平気だって。」
陸翔君は笑っている。
俺は中に入り、ウシガエルに近づいた。
すると巨体に見合わないほどの俊敏さで、便所の中に逃げ込んだ。
「この便所・・・どこかへ繋がっているのか?」
ボットン便所は汲み取り式だ。
だから別の場所に繋がっているのは当然だが、どうしてウシガエルが入ってきたのか?
「まさかワームホールか!?」
慌てて中を照らす。
すると何かが流れているのが見えた。
「これは・・・・地下水?」
便所の下に、小川のような水の流れがある。
「なるほど。これは天然の水洗便所ってわけか。」
出来れば中に入りたい。
宇宙人は地下に潜んでいる可能性もある。
しかしさすがこれは狭すぎだ。
「この先にワームホールがあるに違いないのに!クソ!」
どうにかは入れないものかと悩んでいると、「大変!」とおばさんが駆けこんできた。
「誰か来て!」
「どうしました!?」
「琴音ちゃんが川に落ちたのよ!」
「なんですって!?」
俺たちは急いで外に出る。
おばさんは「こっち!」と神社の向こうへ駆けていった。
そこには幅が三メートルほどの川が流れていた。
そして岸には琴音さんがいた。
服はびしょ濡れで、ギュッと裾を絞っている。
「琴音さん!」
俺は駆け寄り、「大丈夫ですか!?」と肩を揺さぶった。
「平気です。ちょっと足が滑っちゃって。」
おばさんもやって来て、「よかったあ・・・」とホッとした。
「死んじゃうんじゃないかと思ったわ。」
「そんな大げさな。浅いですよこの川。」
「浅くても溺れることがあるのよ!ああ、よかったあ・・・・。」
ギュっと手を握るおばさん。
するとその時、琴音さんの後ろの川で、何かが跳ねた。
「ウシガエル!」
陸翔君が指さす。
「UFOの人!あの便所ってここに繋がってるんじゃないの?」
「可能性はあるな。」
俺は怪人に陸翔君を預ける。
そして川に飛び込んだ。
「ちょっと勇作君!」
「浅いから平気です。」
水深は俺の踝くらい。
ちゃんと立っていれば流されることはない。
川の縁は草に覆われている。
手で掻き分けて、じっくりと調べていった。
すると・・・あった。
人が一人通れそうなくらいの、小さなトンネルがある。そこから水が流れ出ていた。
「UFOの人、何かあった?」
「ああ。でも妙なんだ。」
「何が?」
「水が川の方へ流れ出ている。」
「だから繋がってるからでしょ?」
「いいか。さっきの便所とこの川では高低差がある。こっちの川よりも、向こうの便所の方が低い位置にあるんだ。
だったらここから水が出てくるのはおかしい。」
「でも出てるんでしょ?」
「水は高い方へ流れることはない。だったら考えられることは二つ。」
「どんなどんな!?」
「一つはこことあの便所が繋がっていないということだ。」
「じゃあさっきのウシガエルは別のやつってこと?」
「そうだ。しかしもう一つ可能性がある。」
「なになに!?」
「中に宇宙人がいるという可能性だ。」
「出た!」
陸翔君は手を叩いて喜ぶ。
「やっぱUFOの人はそうじゃなきゃ!」
俺は穴の中に潜り込んでみた。
「勇作君!?」
おばさんが叫ぶ。
怪人は「ほっとけ」と言った。
「陸翔に危険がないならどうでもいい。」
「何言ってるの!この子UFOのこととなると無茶するのよ!光の国の屋根にも登ってたし!」
「頭がおかしいんだから仕方ないだろ。」
「だからそういう言い方・・・・、」
怪人とおばさんはまた喧嘩を始める。
俺は無視して先に進んだ。
天井が低いので、えっちらおっちら匍匐前進していく。
だけど先に進むほど水の流れが強くて、上手く進めない。
「顔に水が・・・・それに狭いし。」
これじゃ呼吸もままならない。
引き返そうか迷っていると、「勇作さん!」と声がした。
「琴音さん!ついて来たんですか!?」
「私も気になるから。」
「危ないですよ!」
「でも宇宙人がいるかもしれないんでしょう?だったら行きます。」
「でもこの先は危険です。水の流れも強いし、だんだん狭くなってるし。」
「じゃあ私が先に行きます。いったん出ましょう。」
琴音さんはズリズリと下がっていく。
俺もえっちらおっちらと下がって、どうにか外に出た。
おばさんと怪人はまだ喧嘩していて、陸翔君はうんざりしていた。
「UFOの人、何かいた?」
「まだ分からない。だけどもう一度調べてみる。」
今度は琴音さんが先に行く。
「ぶあ!水が・・・・、」
「だから言ったでしょう。」
「でもどうにか進めます。」
俺より小柄なので、さっきよりも先に進んでいく。
「どうですか?」
「暗くて見えません!」
「ならこれ使って。」
手を伸ばし、ライトを渡す。
パッと光が灯って、先が照らされた。
「どうです?何かいますか?」
「・・・・・・・。」
「琴音さん?」
「・・・・・・・。」
彼女は振り返り、ぶるぶると首を振った。
「大変なものを見つけちゃいました・・・・。」
「UFOですか!」
「いえ・・・・、」
「じゃあ宇宙人ですか!?」
「違います・・・・骨です。」
「骨!?宇宙人の骨ですか!それはすごい発見だ!」
「そうじゃなくて・・・・髑髏があるんです。」
「髑髏!?宇宙人の?」
「人のです!」
「なんですって!」
「きっと人だと思います。身体の骨もあるし・・・・・、」
「死人がいるってことですか?」
「それも三つもあるんです・・・・どうしようこれ。」
琴音さんは震える。
そして「いやあ!」と叫んだ。
「どうしたんです!?」
「ウシガエルが!」
「さっきのやつですか!?」
「分からないけど、いっぱいいるんです・・・・骨の周りに。髑髏の中に入ってるやつも・・・・、」
「なるほど、人骨を棲み処としているわけか。」
俺は「恐竜の歯を出して!」と叫んだ。
「なんで!?」
「もしここに宇宙人がいるとしたら、その骨は襲いかかってくるかもしれない!」
「襲う!?」
「きっとそいつらはガーディアンなんです!その骨の奥に、宇宙人の秘密基地があるはずなんです!」
「なんで断言できるんですか!?」
「だって水が高い方に流れてるんですよ!そんな事ができるのは宇宙人しかいない!」
「でもこの穴って、川に向かって下がってますよ。」
「え?」
「だってここに来るまで、ちょっと登りになってたじゃないですか。
きっと水脈が幾つかに分かれてて、直接そのトイレと繋がってるわけじゃないんですよ。」
「なるほど・・・・そうなるとますます怪しい。分岐する水脈のどこかに宇宙人がいる可能性がある。」
「とにかく出ましょう。怖いし・・・・。」
俺たちは外に出て、人骨があったことをおばさんに伝えた。
「人の骨が!?」
「きっと宇宙人のガーディアンですよ。」
「あなた!警察!」
「え?あ・・・おお!」
怪人は慌てて電話を掛ける。
「UFOの人!骨があったってマジ?」
「本当だ。もういっぺん入って来る。」
「マジで!怖くないの!?」
「まったく。それよりも宇宙人だ。」
俺はまた穴に入る。
おばさんは「ダメよ!」と叫ぶが、俺は止まらない。
宇宙人を見つけるという使命は、誰にも止められないのだ。
すると後ろから琴音さんもついて来た。
「私も行きます!」
彼女もまた俺と同じ。
UFOを見つけ出し、妹を連れ戻すという使命を背負っている。
俺たち同志は、果敢に穴の中を進む。
かなり狭くなってきたけど、どうにかさっきの場所まで辿り着いた。
しかし・・・・、
「骨がない。」
「え?」
「なんにもないぞ?」
「そんなはずないです!さっきはあったんですよ!この目で見ました。」
「ということは移動したのかもしれないな。」
「移動?」
「あれは宇宙人のガーディアンだ。人骨を衛兵として使っているに違いない。きっと骨のどこかにチップが入っているはずだ。」
「そ・・・・そうなんですか?」
「間違いない。」
「いっつも断言しますよね、すごい自信だなあって感心します。」
「確信があるんです。俺にはそういう直感が備わっているんです。」
「じゃあ・・・・信じます。先に行きましょう。」
骨のあった場所を抜けて、ズリズリと這いずっていく。
すると急に穴が広くなった。
しかも道が四つに分かれていて、そのうちの一つは上に向かっていた。
「ここが水脈の分岐点か。」
俺は上に向かう穴にライトを向けた。
するとそこにはウシガエルがいた。
壁面にはポツポツとカマドウマも張り付いている。
「ここはさっきの便所に繋がってるのか?」
じっと見上げていると、「あれ!」と琴音さんが叫んだ。
「あ・・・・あれ・・・勇作さん!」
怯えた顔をしながら、ギュッと俺の足にしがみつく。
「ほ・・・・骨が・・・・・、」
引きつった表情で、左へ伸びる穴を指さす。
「何かいますか?」
「暗いからよく見えないけど・・・・・でも先から明かりが漏れてるんです。
それでさっきの骨が動いてたんですよ!」
「なんですって!?」
俺はライトを向けた。
するとそこには人の骨があった。
それも三つも。
「骨が勝手に動くはずがない。やはりガーディアンだったか。」
じっと睨んでいると、骨はズルズルと動き出した。
「いやあ!」
琴音さんは目を閉じる。
俺はしっかりと凝視した。
骨は奇妙な動きをしている。
壊れたマリオネットみたいに、不規則な動きだ。
そしてゆっくりと奥へ向かっていった。
「あの先に宇宙人がいるんだな!」
ここで逃がすわけにはいかない。
せっかく掴んだ宇宙人への尻尾、なんとしても捕まえてみせる!
しかし琴音さんが足にしがみついているので動けなかった。
「離して下さい!逃げられる!」
「ダメですよ追いかけちゃ!あんなの危ないですよ!怖いですよ!」
「でもあの先に宇宙人がいるんです。きっとこの先に秘密基地があるんです!」
「でも襲われたらどうするんですか!」
「たかが骨ごときに負けません。」
「でも毒とか呪いとか使ってくるかもしれないじゃないですか!」
「俺は回避能力は高いんです。だから問題ありません。」
「こんな狭い場所でどうやって避けるんですか!」
「いいから離してくれ!早く追いかけないと!」
全身のパワーを解放して、動く骨を追いかけていく。
「勇作さん!」
琴音さんは泣きそうな声で叫ぶ。
俺は「先に戻ってて下さい!」と言った。
「いざという時の為に、NASAに連絡を!」
「電話番号知らないですよ!」
「なら誰かに聞いて下さい!」
「誰に!?」
叫ぶ琴音さんを置いて、骨を追いかける。
すると「これを!」と何かを投げ寄こした。
「襲ってきたら、それでやっつけて下さい!」
「恐竜の歯・・・・。」
バナナみたいな大きな歯、ノコギリみたいなギザギザが付いているので、立派な武器になるだろう。
「ありがとう、必ずUFOを見つけ出す。そして琴音さんの妹も連れ戻してみせる!」
琴音さんから武器と勇気をもらい、がぜん闘志が湧き上がる。
骨はせっせと逃げていって、光が漏れる先に消えた。
「あの光・・・・UFOに違いない!」
この穴の先には、まだ見ぬ未知の世界があるはず。
UFO、宇宙人・・・・この星の外からやって来た、広大な世界の使者がいるはずなのだ!
「優二、待ってろよ!」
また知らない名前が勝手に出てきた。
「優二・・・・優二・・・・。」
何度も名前を呟いていると、あの時のオーロラが蘇った。
暗い夜空を股にかけ、巨人が縦断するかのごとく、闇を切り裂いている。
やがてオーロラは弾け、光の中にUFOが・・・・、
「知ってるぞ・・・・この名前は。これは俺が子供の頃にいた・・・・、」
ハッキリしない記憶・・・・その中に光が照らす。
それと同時に、穴の先から強烈な光が降り注いだ。
眩しくて目を閉じる。
だけど目を逸らしてはいけない。
この先に大事なものがあるのだ!
「・・・・・・・・。」
薄く目を開け、眩い穴の先を見つめる。
するとそこには人影が立っていた。
光を背負いながら、俺の方を向いている。
それは幼い子供のシルエットだった。
「・・・・・・・・。」
俺は息を飲む。
その子は真っ直ぐ歩いてきて、俺に手を伸ばした。
《兄ちゃん。》
今、不鮮明だった記憶がハッキリした。
霧が晴れ、雲一つない晴天のように。
俺は手を伸ばし、その子の手を掴んだ。
「優二。」
全ての記憶がクリアになる。
今まで忘れていた俺の弟・・・・であり、宇宙人。
手を握った瞬間、あの夜のようなオーロラが弾けた。

微睡む太陽 第十一話 UFOの秘密基地(1)

  • 2017.05.15 Monday
  • 08:26

JUGEMテーマ:自作小説
土曜日、空は晴れていた。
雲はあるけど、晴天といって差し支えない。
俺は駅前に車を停めて、UFOの破片を見つめていた。
五日前、兎羽山で見つけたものだ。
これと同時に恐竜の骨まで見つけてしまって、今は兎羽山の登山は制限されている。
東京からテレビ局も来ているし、海外の学者もたくさん来ている。
しばらくはあの山へ行けない。
みんな恐竜の骨が出て来て喜んでいるけど、俺は悲しかった。
「見つけるんじゃなかったなあ、恐竜の骨なんて。UFOが探せないじゃないか。」
恐竜に興奮する気持ちは分かる。
だけど宇宙人の科学力をもってすれば、恐竜を復活させるなんて容易い。
恐竜のことを知りたいなら、先にUFOを見つけるべきなのに。
しかし多くの人はそれを理解しない。
阿呆だの病気だのと言って、一蹴されるだけだ。
「まあいいさ。ずっと登れないわけじゃない。」
いつかは恐竜の骨も掘り出され、どこかの博物館に飾られるだろう。
その時、またあの山を調べればいいのだ。
今日はあの廃村へ行く。
琴音さんと一緒に。
俺は破片をポケットにしまって、駅の入り口を見た。
するとちょうど琴音さんが出て来るところだった。
「おはようございます。」
手を振りながら、小走りにやってくる。
「おはよう。」
ドアを開けると「紳士ですね」と笑われた。
「今時こういうことしてくれる男の人って珍しいですよ。」
「そうなんですか?」
「勇作さんってけっこうカッコいいし、モテるんでしょ?」
「彼女は今までに三人いました。でも頭がおかしいと言ってフラれました。」
「う〜ん・・・・それは辛いですね。でも仕方ないですよ、UFOはUFOに遭遇した人じゃないと分かってもらえないから。」
「慣れっこなんで気にしてません。それより早く行きましょう。」
車を駆り、あの廃村へ向かって行く。
今日こそは宇宙人を見つけないといけない。
こうしてUFOの破片も見つかったんだから、きっと見つかるはずだ。
ポケットから破片を取り出し、じっと見つめる。
「あの・・・・前見て下さいね。」
琴音さんは不安そうに言う。
俺は「平気です」と答えた。
「あれから恐竜はどうですか?教授の手伝いをしているんでしょう?」
「はい!もう楽しくって!」
「俺は悲しいです。しばらくあの山に行けないから。」
「それは仕方ないですよ。日本でティラノサウルスと似たような恐竜の化石が出てきたんだから。古生物学者は大喜びですよ。」
「でも琴音さんは考古学なんでしょう?そんなに嬉しいですか?」
「考古学でも発掘はしますからね。だからウチの先生もお手伝いに行ってるんです。
・・・・ていうのは建前で、本当は化石を見たいだけなんですけどね。」
クスっと肩を竦めて、ポケットから恐竜の歯を取り出す。
「これ、ありがとうございました。」
「いえ。」
「先生に見せようかと思ったんですけど、絶対に取り上げられると思って。これは家宝にするつもりです。」
「それがいいです。学者たちはなんでも自分の物にしたがりますからね。
あの山だって誰のものでもないのに、封鎖なんて酷いことしますし。」
「怒ってるんですね。」
「ええ、かなり。」
「でも残念ながら、しばらくはあの山に入れませんよ。」
「どうして?化石が掘り終わったら入れるんでしょう?」
「最近は安易に掘り起こすなんてことはしないんです。
なんでかっていうと、骨の周りについている土には、貴重な物が含まれている場合があるからです。」
「貴重なもの?」
「内蔵や皮膚ですよ。パっと見は土なんだけど、実はそうじゃなかったりするんです。
だから慎重に調べながら掘っていくんですよ。」
「詳しいですね。」
「これでも考古学の学生ですから。」
他愛ない話を続けながら、廃村を目指す。
すると琴音さんが「ちょっと寄ってほしい所があるんです」と言った。
「いいですよ。どこですか?」
「陸翔君が入院している病院があるでしょ?あの近くのマックスバリューに。」
「分かりました。」
何か買い物でもするんだろう。
俺は交差点を曲がり、病院の近くのマックスバリューに向かった。
今日は土曜日のせいか、駐車場は少し込んでいた。
入り口近くの焼鳥屋には、ちょっとした行列が出来ている。
「ちょっと待ってて下さいね。」
琴音さんは降りていって、人混みに紛れる。
そしてしばらくしてから、誰かを連れて戻ってきた。
「UFOの人!」
「陸翔君!」
琴音さんに車椅子を押されながら、こっちへやって来る。
「僕も廃村に行くからね。」
「なんだって!おばさんは許可したのか?」
「黙って来ちゃった。」
「どうしてそんなことを・・・・、」
「私が呼んだんです。」
「琴音さんが?」
「だってすごく寂しそうにしてたから。あの時の陸翔君を見てたら、昔の自分を思い出しちゃって。」
「昔?」
琴音さんは小さく頷く。
「実は私の両親も離婚してるんです。」
「そうなんですか?」
「あの時はすごく寂しかった・・・・。私はお父さんに引き取られたんだけど、仕事が忙しいから、あんまり一緒にいられなかったんです。
だからお母さんに会いにいったら、もう別の人と結婚してて。」
「それは辛いですね。だから陸翔君に同情したと?」
「はい。」
「でもおばさんが心配しますよ。」
「でしょうね。下手したら誘拐で捕まるかも。」
「そこまでして陸翔君を連れて行きたいんですか?」
「この子には現実から目を逸らすものが必要なんです。そうじゃないといつか参っちゃうと思います。
私はUFOのことがあったから、悲しみに潰されずにすんだけど。
だったら陸翔君にだってそういうのが必要だと思うんです。」
琴音さんは「一緒に行こうね」と笑いかける。
「お姉ちゃん気が利くよね。この前こっそり連絡先を渡してくれてさ。」
「だってすごい寂しそうな顔してたから。」
「・・・・・・・・・。」
陸翔君は俯き、そして俺を見上げた。
「一緒に行ってもいいよね?」
「・・・・・・・・・。」
「UFOの人?」
「おばさんが心配する。」
「大丈夫だって。すぐ戻って来るんだから。」
「もう心配してるかもしれない。」
俺は「おばさんの番号を教えてくれ」と言った。
「許可がないなら連れて行けない。」
「なんで!?」
「おばさんも怪人も心配する。」
「なんでそういう所だけ常識があるんだよ・・・・。いっつもみたいに妄想してくれればいいじゃん。
僕は宇宙人で、お母さんも宇宙人で、わけのわからない屁理屈で納得してくれたらいいじゃん。」
「俺は屁理屈なんて言わない。妄想もしない。真実しか言わないんだ。そしておばさんが心配しているのは真実だ。」
陸翔君の前に膝をつき、「番号は?」と尋ねる。
「言わない。」
「ならこのまま病院に連れて帰る。」
「嫌だよ!」
陸翔君は勝手に車に乗ろうとする。
琴音さんが「あの・・・」と戸惑った。
「どうしてもダメですか?陸翔君行きたがってるし。」
「おばさんが心配しますから。」
「でもこのままじゃ陸翔君が可哀想です。親って意外と子供の気持ちに疎いから。
あんまり寂しいのを我慢してると良くないですよ。」
「おばさんに連絡します。」
「勇作さん・・・・。」
俺は「番号を」と陸翔君に詰め寄った。
「僕行くから。」
「許可が出ればな。」
「出なくても行く。」
「ダメだ。」
「なんで?」
「おばさんが心配する。」
「そればっかじゃん!今日だけ真面目ぶんなよ!」
「番号は?」
「・・・・・・・・・。」
「ならこのまま帰ろう。」
俺は車椅子を押す。
「UFOの人!」
「許可が必要だ。」
「僕宇宙人だよ!だから問題ないよ!」
「君は操られている。だから廃村へ行きたいのは、陸翔君本人の意志じゃないかもしれない。」
「なんでそういうとこだけ妄想になるんだよ!」
「真実だ。」
陸翔君はぎゃあぎゃあ喚く。
俺はお構いなしに車椅子を押していった。
琴音さんはオロオロしながらついてくる。
・・・・その時、俺のスマホが鳴った。
知らない番号だったけど、すぐにピンと来た。
「もしもし?」
『勇作君!?』
思った通り、おばさんだ。
『大変なの!陸翔がいなくなって・・・・、』
「ここにいます。」
『ここって・・・・勇作君の所?』
「病院の近くにマックスバリューがありますよね?そこにいます。」
『わ、分かった!すぐ行くから待ってて!』
おばさんは慌てて電話を切る。
それから数分後、ものすごい形相で車から降りてきた。
「陸翔!あんた何してるの!?」
「・・・・・・・・・。」
陸翔君は無言で俯く。
おばさんはガシっと肩を掴んだ。
「病室にはいないし、他の子も知らないっていうし!看護師さんはトイレのはずだっていうし!」
「・・・・・・・・・。」
「お父さんは仕事を抜けて病院に向かってるし。みんな大慌てだったのよ!」
「・・・・・・・・・。」
「警察に連絡しようと思って、でもその前にもしかしたらと思って勇作君に電話したら・・・・案の定じゃない!」
顔は鬼のように怖いが、目には涙が溜まっている。
陸翔君の前に膝をつき「なんでここにいるの?」と睨んだ。
「自分で抜け出したの?それとも・・・・、」
そう言って俺の方を見る。
「勇作君に誘われた?」
「・・・・・・・・・。」
「答えなさい!」
バシン!と車椅子のタイヤを叩く。
陸翔君はビクっとして俺を見上げた。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
俺は小さく頷く。
陸翔君は「UFOの人が・・・・」と答えた。
「今日ここに来たら、一緒に連れて行ってあげるって。」
「ほんとに?」
おばさんの顔が強張る。
すると琴音さんが「ちょっと待って下さい」と前に出た。
「誘ったのは勇作さんじゃなくて・・・、」
「俺が誘いました。」
「勇作さん!?」
「寂しそうにしていたので、一緒に行こうと。」
おばさんの顔がさらに強張る。
「ほんとなの?」
「はい。」
「嘘ついてない?」
「いいえ。」
「・・・・勇作君は常識のある子だもの。夢見がちはところはあるけど、勝手に陸翔を連れて行くような子じゃないわ。」
「俺が誘いました。」
「陸翔を庇ってるんじゃないの?」
「違います。」
おばさんは険しい顔をする。
そして「陸翔」と呼んだ。
「ほんとに勇作君が誘ったの?」
「・・・・うん。」
「ちゃんと目を見て答えなさい。勇作君が誘ったの?」
「・・・・・・・・。」
「陸翔。」
おばさんはかなり怒っている。当然だろう。
陸翔君はまた俺を見上げた。
「UFOの人、僕は・・・・・・、」
「一緒に廃村へ行こう。」
「え?」
驚く陸翔君。おばさんはもっと驚いていた。
「勇作君、今はそんなこと聞いてるんじゃないのよ。なんで陸翔がここにいるか聞いてるの。」
険しい顔がさらに険しくなる。
俺は「それが陸翔君の為なんです」と答えた。
「この子は寂しがっているんです。おばさんと怪人が離婚をするから。」
「だから勝手に連れ出したの?」
「はい。人は大きな悲しみを抱えた時、何かで目を逸らそうとするんです。
陸翔君もそうしたかったんでしょう。」
そう話すと、「あの!」と琴音さんが叫んだ。
「あの・・・・誘ったのは私で・・・・、」
「みんなで行けばいいんです。それで廃村に宇宙人がいなかったら、俺を警察に突き出して下さい。」
「勇作さん!」
琴音さんは「そんなのダメですよ!」と首を振る。
だけど俺は続けた。
「あそこに行って何もなかったら、俺を煮るなり焼くなり好きにしてくれたらいいです。
でもこれは、今の陸翔君には必要なことなんです。陸翔には・・・・・優二には・・・・・、」
そう呟くと、「優二?」と琴音さんが首を傾げた。
「誰ですかそれ?」
「え?」
「いま優二って言いましたよね?それ誰ですか?」
「・・・・そんなこと言った?」
「ハッキリ言いましたよ。陸翔君を見つめながら。ねえ?」
琴音さんが尋ねると、陸翔君も頷いた。
「優二・・・・誰だそれ?」
「自分で言ったんじゃないですか。」
「・・・・優二・・・・優二?」
腕を組み、そんな知り合いがいたかな?と思い出す。
するとおばさんが「勇作君」と呼んだ。
「はい?」
「もし本当に君が連れ出したんなら、これ以上陸翔に会わせるわけにはいかないわ。」
「申し訳ありません。連れ出したのは俺です。」
「・・・・・そっちのお嬢さん。」
「え?あ・・・・はい!」
「本当に勇作君が連れ出したの?」
「いえ!連れ出したのは私で・・・・、」
「UFOの人だよ!」
「ええ、俺です。」
「なんで私を庇うんですか!?」
琴音さんは納得いかないようだ。
でも俺と陸翔君はこれで押し通すつもりでいた。
なぜなら琴音さんが犯人だとバレたら、陸翔君は確実に連れ戻される。
しかし俺のせいということにしておけば、陸翔君は廃村へ行けるかもしれないのだ。
俺は頭がおかしいと思われている。
これを逆手にとって、屁理屈(俺にとってはそうではないが)を並べ立てれば、おばさんは以前のように付き合ってくれるかもしれない。
そして何より、陸翔君は俺の友人だ。
この子の悲しみを癒してあげたい。
だから・・・おばさんに理解してもらうしかない。
俺の無茶と、陸翔君のワガママを。
黙って連れて行くのは良くないが、ワガママを通して同行してもらうなら、心配をかけることはあるまい。
迷惑ではあると思うが。
俺も陸翔君も、同じ思いでおばさんに訴えかける。
「廃村に行きましょう。」
「行ってもいいでしょ?」
「陸翔君にはそれが必要なんです。」
「僕、UFOを信じてるんだ。この目で見てみたい!」
俺たちは必死に訴える。
果たしておばさんに届くだろうか?
今も険しい顔をしていて、間違いなく怒っている。
この怒りの奥に、いったいどんな感情を抱いているのか?
俺と陸翔君は答えを待った。
するとおばさんは「ごめんね」と呟いた。
「ごめんね、お父さんとお母さんのせいで、陸翔に辛い思いをさせて・・・・。」
涙ぐみ、「ごめんね」と抱きしめる。
「でも無理なのよ・・・・。あんたにはまだ分からないだろうけど、親子の愛と夫婦の愛は違うものなの。
お母さんもお父さんも、ずっと陸翔のことが大好きよ。それは間違いない。
でもお父さんとお母さんはそうじゃないの。夫婦の愛っていうのは、途切れることがあるの。
でも陸翔にそんなの関係ないのに・・・・・ごめんね。」
おばさんはケータイを取り出し、誰かに掛けていた。
話しぶりからして、おそらく怪人だろう。
「うん、うん・・・・大丈夫、陸翔は無事だから。ちょっと外に出たくなったみたいで。
全然平気よ。・・・・違うわ、勇作君は関係ない。どっちかっていうと私たちのせいね。陸翔が寂しがって・・・・。
だから今日は先生に許可をもらって、出かけようと思うの。・・・え?あなたも来るって?」
おばさんは俺を振り返る。
目で「いい?」と訴えかけた。
俺は頷く。
おばさんは「いいわよ」と電話に話しかけた。
「病院の近くのマックスバリューに来て。うん、いいわよゆっくりで。気をつけて。」
電話を切り「怪人も来るって」と笑った。
「構いません。」
誰が来ようと、宇宙人の捜索に変わりはない。
しかし陸翔君は違った。
「お父さんも来るの!」
「そう、三人で行きましょ。」
陸翔君は俺を振り向き、「UFOの人!」と笑った。
「よかったな。」
「うん!」
宇宙人に乗っ取られているとはいえ、陸翔君はまだ子供だ。
子供らしいその笑顔は、俺を和ませた。
それは琴音さんも同じようで、「よかったですね」と頷く。
「でもいいんですか?私のせいなのに・・・・、」
「構わない。そんなことよりも宇宙人が見つかるかどうかだ。」
そう、それこそが最も重要なことだ。
一人頷いていると、琴音さんが「あの・・・」と尋ねた。
「さっきの優二って誰なんですか?」
「分からない。」
「・・・・前に言ってましたよね、ハッキリしない記憶があるって。もしかしたら、そこに優二って人の記憶があるんじゃ・・・。」
「かもしれない。」
「・・・・もしかしたら勇作さんの弟かもしれませんよ?」
「そうかもしれないな。でもまだ何も分からない。なんでそんな名前が出てきたのか。」
俺には弟がいたかもしれない。
しかしあの時俺の傍にいた誰か、それが人間とは限らない。
優二という名前の宇宙人の可能性もあるのだ。
「分からないことだらけだ。」
曖昧な記憶を探るのは、地図のない森を歩くがごとし。
むやみに考えても、かえって迷うだけだ。
《とにかく今日は廃村だ。そこに宇宙人がいるかどうかだ。》
地球外生命体は必ずいる。
俺には確信がある。
なんたってUFOの破片を見つけたんだから。
まだ見ぬ真実に向かって、少しずつ進んでいる気がした。

微睡む太陽 第十話 宇宙からの使者(2)

  • 2017.05.14 Sunday
  • 08:02

JUGEMテーマ:自作小説

廃村に行った翌日、琴音さんを連れて病院に行った。
エレベーターに乗り、三階で降りて、渡り廊下を歩いていく。
向かうは小児病棟。
渡り廊下を抜けると、騒ぐ子供たちが出てきた。
パジャマ姿で鬼ごっこをしている。
「可愛いですねえ。」
琴音さんはニコリと笑う。
「私子供好きなんですよ。」
「俺もです。子供は純粋だから。」
騒ぐ子供たちの間を縫って、陸翔君の病室に向かった。
「おはよう。」
手を挙げると、「UFOの人!」とベッドから起き上がった。
「何を読んでるんだ?」
「これ?矢追純一って人の記事。」
「・・・・東スポじゃないか。UFOが載ってるな。」
「UFO見つけたんだって。」
「どれ。」
俺は紙面を覗き込む。
確かにUFOを見つけたと書いてあった。
「すごいよね!」
「・・・・・・・・・。」
「どうしたの?」
「東スポは娯楽性の強い新聞だ。果たしてどこまで信用していいのか・・・・。」
じっと記事を読んでいく。
果たして写真のUFOは本物か?
東スポは日付以外は誤報と言われるくらいだから、注意してかからねばならない。
「・・・・分からないな。これは本物なんだろうか?」
「どっちでもいいじゃん。面白いから。」
「ダメだ。事実を検証する必要がある。このUFOが本物なら、宇宙人の存在が公に発表されたことになるんだからな。
裏で米軍や日本政府が絡んでいる可能性もある。」
「相変わらずだね。」
陸翔君は可笑しそう笑う。そして俺の後ろに目を向けた。
「その人誰?彼女?」
「仲間だ。佐原琴音さんという。」
新聞を読みながら紹介する。
「彼女じゃないの?」
「違う。」
「なんだつまんない。」
本当につまらなさそうな顔をしている。
琴音さんが俺の彼女だと、この子にメリットがあるんだろうか?
「こんにちわ。」
琴音さんが挨拶する。
陸翔君も「こんにちわ」と返した。
「あの・・・・、」
琴音さんはゴニョゴニョと口籠る。
「変な人だと思わないでね。」
「なにが?」
「実は私もUFOに遭遇したことがあるの。」
「マジで!?」
「子供の頃にね。陸翔君よりまだ小さな頃。」
琴音さんは自身の体験を話す。
陸翔君は興味深そうに聞いていた。
「そうなんだ・・・・妹はまだ帰ってこないの?」
「うん。だからUFOを探してるんだ。」
「それでUFOの人と友達になったわけか。」
「昨日は廃村に行ってきたんだよ。」
「UFOの人がいかにも好きそうな場所だね。」
「でも何もいなかったんだけどね。だけど今度の土曜にまた行くの。」
「なんで?なんにもなかったんでしょ?」
「そうんなんだけど・・・・、」
そこから先は俺が説明した。
「琴音さんは天才なんだ。なぜなら俺では思いつかなかった、斬新な宇宙人論を思いついた人だからな。」
「何それ?」
「宇宙人は微生物の可能性がある。そして他の生き物の脳や中枢神経を乗っ取り、思い通りに操っているんだ。」
「おお!また新しい妄想を思いついたんだね。」
「妄想じゃない。新しい理論だ。あの廃村は怪しい、きっと宇宙人が潜んでいるはずだ。」
俺は新聞を置き、「なあ?」と見つめた。
「陸翔君に質問しなきゃいけないことがある。」
「なに?」
「君は宇宙人か?」
「うん。」
「やっぱりか!」
なんてことだ・・・・恐れていたことが真実だったなんて。
「なら陸翔君はもう宇宙人に乗っ取られて・・・・、」
「嘘だけどね。」
「嘘?」
「僕は人間だよ。」
「・・・・・・・・。」
「なにその怪しそうな目?」
「本当は宇宙人なんだろう?」
「うん。」
「ほらやっぱり!このままじゃ君の肉体は完全に乗っ取られる。」
どうにかしてこの子を助けないと。
しかし普通の医学では無理だろう。
だったら・・・・、
「すぐにNASAに手紙を書かないと!」
この子を助けられるのはNASAしかいない。
ペンと手紙を買う為に、売店へ走り出した。
するとエレベーターの手前でおばさんと出くわした。
「あら!おはよう勇作君。」
大きなバッグを抱えながら「またお見舞いに来てくれたの?」と言った。
「大変です!陸翔君は宇宙人だったんです!」
「まあ。」
「このままじゃ何もかも乗っ取られてしまいます!早くNASAに手紙を出さないと!」
急いで売店に向かう。
ペンと紙を買い、急いで戻って来ると、病室には誰もいなかった。
「どこ行った!?」
さっきまでいたはずだ。
まさか・・・・・、
「UFOに連れ去られたのか!?」
頭の中が真っ白になる。
これは・・・・俺のせいだ!
俺が陸翔君の正体を見破ってしまったが為に、陸翔君を乗っ取る宇宙人が、みんなをさらっていったのだ。
そして頭の中にチップを埋め込み、記憶を消すつもりに違いない。
「・・・・いや、記憶を消されるだけでは済まないかもしれない。最悪は人体実験をされて・・・・、」
こうなってはNASAに手紙を書くどころではない。
人類に友好的な宇宙人を見つけて、みんなを助けてもらわないと。
「なんてこった!えらいことだ!」
病室から駆け出し、階段を駆け下りる。
そして病院の庭に出ると、「勇作君」と声がした。
「おばさん!」
「勇作君も一緒にやらない?」
「なんですかそれは?」
「バトミントンよ。」
「UFOにさらわれたんじゃないんですか?」
そう尋ねると、「あはは!」と笑われた。
「ほんとによく次々に思いつくわねえ。感心しうちゃうわ。」
「頭にチップは!記憶は大丈夫なんですか?」
「平気平気。それより勇作君も一緒にやりましょ。」
おばさんはラケットを振る。
その後ろでは、陸翔君と琴音さんがバトミントンをしていた。
「みんな無事だったか・・・・。」
どうなることかと焦ったが、取りこし苦労だったようだ。
「いいですよ、やりましょう。」
ラケットを受け取り、みんなでバトミントンをする。
「それ!」
「ほい!」
「はい勇作さん!」
バトミントンの羽がポンポン飛び回る。
陸翔君は車椅子にも関わらず、とても上手かった。
さすがは怪人の血を引いているだけある。
「ねえUFOの人。」
「ん?」
「今度の土曜、僕も連れて行ってよ。」
「いいぞ。」
「ほんと?」
「でもおばさんの許可が必要だ。前回のような危険があるからな。」
「お母さん、今度の土曜に・・・、」
「ダメ。」
「なんで?前はOKしてくれたじゃん。」
「お父さんとの約束だから。勇作くんと友達でいることは許してくれたけど、UFO探しはダメだって。」
「黙ってれば分からないよ。」
「そんなこと出来ないわ。あの人が陸翔のお父さんだってことは、これからも変わらないもの。
だから約束を破るなんてできないの。」
「ケチ。」
「ケチでけっこう。」
「なら一緒に来てよ。」
「イヤよ廃村なんて。」
「前はついて来てくれたじゃん。」
「前は仕方なかったから。でも今回はダメ。」
陸翔君はつまらなさそうにラケットを振る。
それからしばらくバトミントンをして、病室に戻った。
「じゃあね、陸翔君。」
琴音さんが手を振る。
俺も「また来るから」と言った。
陸翔君は浮かない顔で窓を見ている。
おばさんが「ごめんね」と言った。
「入院が退屈なのよ。だから外に行けなくて拗ねてるだけだから。」
「本当に行かないんですか?廃村。」
「それは無理だわ。あの人との約束があるから。」
「怪人は意外と息子思いなんですね。」
「そうよ。だって良い怪人だもの。」
ニコっと笑い、「また来てね」と手を振った。
「はい。じゃあこれで。」
ペコっと会釈して病室を出る。
すると「UFOの人!」と陸翔君が呼んだ。
「お願いがあるんだ。廃村の写真撮ってきて。」
「いいぞ。」
「約束だよ。」
「ああ。」
「でも心霊写真があったら見せないでね。怖いから。」
「分かった。」
俺は頷き、「早く怪我を治せよ」と言った。
「うん!」
「それじゃあな。」
病院を後にして、車に乗り込む。
俺は遺跡発掘のバイトへ、琴音さんは大学へ行かないといけない。
だから駅まで彼女を送っていった。
車の中、琴音さんは何かを考え込んでいた。
「どうしたんです?」
「陸翔君って寂しがってるんですね。」
「ええ、親が離婚するから。」
「あの子は本気でUFOなんて信じていないと思います。だけどそういうものに興味を持つことで、辛いことを忘れようとしているような・・・、」
「・・・・・・・・。」
「勇作さんの言う通り、あの子は私を変人扱いしませんでした。
だけどきっと、私の言ったことは信じていないと思います。」
「ショックですか?」
「いえ、それが普通だと思います。だけどこのままだったら、陸翔君はもっと寂しい思いをして、ふさぎ込んでしまうかもって思って。」
「だからこそ早くUFOを見つけないといけないんです。宇宙から地球を眺めれば、些細な悩みなんて忘れますよ。」
「そうだけといいけど・・・・。」
琴音さんは後ろを振り返る。
陸翔君を心配するように。
やがて駅に着いて、彼女は「ありがとうございます」と降りていった。
「じゃあまた土曜に。」
「はい。勇作さんもバイト頑張って下さい。」
ペコっと頭を下げて、駅の中へ消えていく。
「出来れば陸翔君も連れていってあげたいな。」
琴音さんの言う通り、陸翔君は寂しがっている。
気を紛らわすものを必要としている。
だけど俺は、あの子が本当にUFOを信じていないとは思っていない
なぜならあの子自身が宇宙人なのだから。
そしてあの子の助けるには、人類に友好的な宇宙人の協力が必要だ。
「それも含めて、早く宇宙人を見つけないとな。」
ハンドルを切り、バイトに向かう。
その日はやたらと暑くて、汗が止まらないほどだった。
秋だっていうのに、今日だけ夏が戻ってきたみたいだ。
でも俺は手を止めない。
せっせと土を掘り、壺の破片だの瓦だのを発掘していった。
今日は平日で、学生たちがいない。周りはじいさんとばあさんばっかりだ。
みんな働いているように見せかけて、もう飽きている。
期日の二か月後には、半分も残っていないだろう。
最近の若いモンはどうとかいうが、若いモンの方がしっかりしていると思う。
俺は休憩中も穴を掘り続けた。
カロリーメイトでエネルギーを補給し、ポカリで水分をチャージする。
そうやってせっせと穴を掘っていると、奇妙な物を見つけた。
「なんだこれは?」
陶器の破片や瓦に混じって、プラスチックとも金属ともつかない、何かの破片が出てきた。
叩くとカンカンと音が鳴るが、軽石みたいに軽い。
土を払って綺麗にすると、ピカピカの銀色に輝いた。
表面には幾何学模様の溝があって、とても不思議なデザインだ。
「これはUFOの破片だ!」
興奮して大声が出る。
みんなこっちを向いて、主任さんまでやって来た。
「どうしたの?」
「・・・・・いえ、なんでもないです。」
「なんか叫んでたじゃない。」
「空にUFOがいたんです。」
「・・・・どこにもいないぞ。」
「なら見間違えでしょう。すいません。」
そう謝ると、「何か見つけたんじゃないの?」と言った。
「勝手に持って帰ったらダメだよ。」
「はい。」
「何を見つけたの?」
「・・・・これです。」
俺はちょっと変わった模様の壺を見せた。
UFOの破片より前に出てきたやつだ。
「・・・・おお!これは・・・、」
「すごいやつですか?」
「これ縄文土器だよ!ほら、この燃え上がるような造形、すごいでしょ。」
「いや、特に。」
「詳しく調べてみないと分からないけど、おそらく間違いない。」
主任さんは興奮している。
「他にもあるかもしれない。これはえらいことだぞ・・・・。」
そう言ってどこかに電話を掛けていた。
《なんか分からないけど、UFOの破片のことはバレなかったな。》
俺はこっそりとポケットにしまう。
こんなすごいお宝を渡すわけにはいかない。
・・・・その翌日、遺跡発掘のバイトは急に打ち切りになった。
なぜなら考古学者やら歴史学者やらが、ワラワラと兎羽山にやって来たからだ。
昨日見つかった土器は、学術的にかなりの価値があるそうで、素人のバイトなんかに任せておけないってことになったのだ。
新聞にまで載るほどだったので、相当な発見なのだろう。
でも俺はそんなことよりも、UFOの破片が見つかったことが嬉しかった。
これがあるということは、あの山にはかつてUFOが着陸したということ。
ということは、この付近に宇宙人がいるということだ。
だから兎羽山に向かった。
土器が出た周辺は封鎖されていたけど、コソコソっと侵入して、コソコソっと土を掘り返していった。
見つかるとマズイので、忍者のように隠れながら。
幸い隠れる場所はいくらでもある。
ここは山なんだから、岩の後ろとか、木立の陰とか。
そうやってコソコソしながら調査をしていくと、ある物を見つけた。
「なんだこれ?」
それはバナナのような形をした石だった。
よく見るとノコギリみたいにギザギザが付いている。
「妙な石だな。UFOに関係がある物かもしれない。」
せっせと掘っていくと、また同じ物が出てきた。
それも三本も。
さらに掘っていくと、太い棒が現れた。
それは湾曲していて、規則正しく何本も並んでいる。
まるで・・・・そう、肋骨のように。
「あれ?これって・・・・・、」
せっせと掘っていくと、人の足音が近づいてきた。
「マズイ!」
慌てて岩陰に隠れる。
茂みの向こうから、二人の男が現れた。
「教授、この辺はまだまだ色々出てきますよ。」
「そうだな。今日だけで四つも土器が出てきた。」
「上手くいけば、縄文時代の定説がひっくり返るかもしれません。
それくらいに価値のある物ばかりですよ。じっくり調査して・・・・、」
そう言いかけて、何かに躓いていた。
「なんだこれ?」
膝をつき、そして悲鳴を上げる。
「きょ・・・・・教授!」
若い男が指をさす。
ヒゲの男は「ぬうあ!」と驚いた。
「これは・・・・すごい発見だ!」
「縄文土器どころじゃないですよ!」
「恐竜の化石・・・・それも大型の・・・・。」
「しかも肉食っぽいですよこれ。・・・・ああ!これ歯じゃ・・・・、」
「バナナ型でノコギリのような溝があるな。これは・・・・、」
「ティラノサウルスと同じです!」
「・・・・この辺鄙な山に、Tレックスと同じような大型肉食恐竜がいたというのか・・・・。」
二人はプルプル震えている。
そして「誰か来てくれ!」と叫んだ。
「とんでもない物を見つけた!早く来てくれ!」
発狂したように興奮して、茂みの向こうへ走り去っていった。
「・・・・・・・・。」
俺は岩陰から出て、恐竜の化石を見つめた。
「やっぱりそうか。昔に博物館で見たのと似てる。」
こんな山でティラノサウルス類の化石が見つかったら、さぞ大騒ぎだろう。
「まずいな・・・・これじゃUFOが探せなくなる。」
俺はがっくりと肩を落とす。
恐竜は興味があるが、それよりもUFOが大事だ。
さっき見つけた歯を握りしめ、トボトボと家路についた。
・・・・その日、琴音さんから電話がかかってきた。
『さっき教授から電話があったんです!兎羽山で恐竜の化石が見つかったって!それも大型肉食類の!』
「知ってます、それ俺が見つけたやつですから。」
『ええ!?』
「家にそいつの歯があります。いちおう持って帰って来たけど、別にいらないからあげますよ。」
『本当ですか!!』
琴音さんはすぐに家に来ると言った。
俺はゴロンと寝転び、UFOの破片を見つめた。
「土器だの化石だの・・・・そんなのいらないんだよ。UFOを見つけたいのに。」
今この手にあるUFOの破片。
これは宇宙からの使者のものだ。
果てしなく広い宇宙から、この星へやってきた未知の使者。
「UFOはいる。宇宙人もいる。俺は見つけてやるぞ。」
じっと破片を見つめていると、いつの間にか時間が経っていた。
コンコンとノックの音がして「佐原です!」と声がした。
「恐竜の歯、見せて下さい!」
声が弾んでいる。
興奮と喜びを隠せないようだ。
「琴音さんもUFOより恐竜の方がいいのかな。」
みんなどうしてUFOの価値が分からないのか?
こんなバナナみたいな歯よりも、UFOの破片の方が何億倍も価値があるというのに。
俺はよっこらしょっと腰を上げた。

微睡む太陽 第九話 宇宙からの使者(1)

  • 2017.05.13 Saturday
  • 08:52

JUGEMテーマ:自作小説
子供の頃にUFOと遭遇してから、25歳の大人になるまで、一人も理解者に出合うことはなかった。
誰もかれもが俺の頭をおかしいと言う。
病気だとか可哀想な奴だとか。
最初は傷ついたけど、今ではすっかり慣れた。
きっとこの先も俺の理解者は現れない。
それならそれでいいと思っていた。
例え俺一人でも、UFOや宇宙人を探し続けると。
だけど今日、一人の理解者が現れた。
遺跡探しのバイトで知り合った、考古学の学生だ。
名前は佐原琴音さんという。
彼女は子供の頃アメリカに住んでいた。
そしてUFOに遭遇した。
夜、家で寝ていると、窓の外にUFOがやって来た。
そして一緒にいた妹を連れ去っていった。
琴音さんはそれ以来ずっとUFOを探している。
いなくなった妹を連れ戻す為に。
だけどそれは茨の道だった。
なんと親も教師も、それに友達も知り合いも、「お前に妹なんていないだろ」と言ったのだ。
この世で妹がいたことを知っているのは琴音さんだけ。
きっと宇宙人が記憶を消したのだ。
頭にチップでも埋め込んで、彼女の妹の記憶を消したのに違ない。
だから琴音さんは、子供の頃から今まで、たった一人でUFOを探し続けてきた。
考古学をやっているのだって、UFOを探す為だ。
歴史や遺跡を調べていれば、UFOの痕跡が見つかるかもしれないから。
そんな琴音さんと俺は、今日運命の出会いを果たした。
同じ使命を持ち、同じ体験を持つ、貴重な仲間。
お互いに言葉を交わし、一緒にUFOを探す約束をした。
出会って間もないが、俺たちの間には同志ともいうべき絆が芽生えた。
だから今、夜の廃村に来ている。
宇宙人を探す為に。
懐中電灯を照らしながら、人のいなくなった村を歩き回る。
ボロボロになった民家、ガラスの割れた商店、倒れた墓石。
草だらけの道路、誰もお参りしなくなった神社。
なかなかノスタルジーに溢れていて、新鮮な光景だ。
《こういう場所なら、政府の手が及んでいない宇宙人がいるはずだ。》
全ての宇宙人が米軍や政府の管理下にあるわけではない。
きっと誰にも知られずに、ひっそりと暮らしている宇宙人だっているはずなのだ。
民家の中に入り、ライトを照らす。
押入れ、風呂場、台所、便所、あらゆる場所を探していく。
でも全然見つからなくて、ちょっとガッカリした。
「クソ・・・もう別の場所へ移動したのかな?」
今は廃村とか廃墟とかがブームらしいから、こういう場所にも人が来るのかもしれない。
だとしたら別の場所に身を隠したとしても、おかしくはないだろう。
廃村を見渡し、落胆のため息をつく。
すると神社の中から琴音さんが出てきた。
「いましたか?」
俺は首を振った。
「こっちもです。神社もお墓も商店も見回ったんですけど、誰もいません。」
「ならもうこの村には・・・・、」
ここは小さな村だ。
もう探す場所はない。
そう思った時、琴音さんが「でも一つだけ気になる所が」と言った。
「どこです?」
「お墓の傍に蔵があったんですよ。扉を開けてみたら、地下に階段が続いていました。」
「そこはまだ探してないんですか?」
「さすがにあそこは一人だと怖くて。」
「なら行きましょう。」
俺たちは蔵に向かう。
傍には倒れた墓石があって、人によってはこういうのを怖いと思うんだろう。
でも幽霊を怖がることはない。
あれは宇宙人の機械によって抜き取られた、人の意識なんだから。
俺は蔵の扉を開けて、中を照らした。
すると脇の方に、地下へ続く階段があった。
かなり急な階段で、しかも狭い。
ライトを向けても奥まで見えない。
「これは怪しいな。」
宇宙人がいるとしたらここしかない。
俺はすぐに階段を降りた。
後ろから琴音さんもついてくる。
「急だから気をつけて下さい。」
「はい・・・・。」
どうやら怖がっているらしい。
しかし大丈夫、ここににいる宇宙人は、きっと悪い奴じゃない。
もし暴力的な奴だったら、人類を侵略しているはずだから。
狭いを階段をゆっくり下りていく。
すると物置のような場所に出た。
広さはプレハブ一個分くらい。
古びた箪笥や桶、それに壺や掛け軸が散乱している。
ライトを向けると、ピョンとカマドウマが逃げていった。
「なんかいますか・・・?」
琴音さんが後ろから覗く。
「怖いですか?」
「地下って苦手なんです。お墓も神社も平気だけど、こういう場所は苦手で・・・・。」
「平気ですよ、ここにいる宇宙人はきっと大人しい。」
「そうじゃなくて、地下って怖いじゃないですか。地震とか来たら崩れて埋められて・・・・、」
「もしかして閉所恐怖症ですか?」
「逃げ場のない所が嫌なんです。」
「なら外にいますか?」
「・・・・いえ、ここにいます。」
そう言ってギュっと俺の背中に張り付く。
・・・・なんだろう?今不思議な感じがした。
まだ俺が子供の頃、今と似たような事があったような・・・。
俺より小さな誰かが、ギュッと俺の背中にしがみつく。何かに怯えるように。
《この感覚は陸翔君の手を握った時と同じだ。》
あの子の手を握った時にも、同じような感覚があった。
ずっと昔に、誰かの小さな手を握っていた感覚が。
《デジャブってやつだな。》
デジャブは既視感という錯覚だ。
初めて来た場所、初めて会う人、なのに懐かしさを感じることがある。
それは過去に似たような場所に来ていたり、会っているのに忘れていたりといった時に起きる錯覚だ。
《陸翔君や琴音さんにデジャブを感じるということは、過去にも似たような人物がいたってことか?
手を握ったり、俺の背中に張り付いていたり。》
まだハッキリしない記憶。
そこに秘密があるのかもしれない。
《弾けるオーロラの中に現れたUFO。あいつが連れ去った人物が、このデジャブの原因かもしれないな。》
ギュッとしがみつく琴音さんの手は、遠い昔の誰かを思い出させる。
それが誰かは分からないが、確かにこれと似たような経験があったはずなんだ。
しかし今は過去を思うより宇宙人だ。
狭い地下室をくまなく探していく。
でも誰もいなくて、「ダメだな」と首を振った。
「ここにはいないみたいだ。」
そう言って「帰ろう」と引き返した時、ライトの先にカマドウマが飛んだ。
「どうしたんですか?」
「・・・・・・・・。」
「何か見つけたんですか?」
「俺はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。」
「何がです?」
「宇宙人だからといって、人の姿をしているとは限らないってことだ。」
カマドウマに近づくと、ピョンと逃げていく。
こいつはただの虫だ。
虫は宇宙から来たという説もあるが、でも宇宙人じゃない。
文明を持つ知的生命体ではない。
しかし・・・・・、
「琴音さん。」
「なんですか?」
「あなたは言いましたね、宇宙人は目に見えるとは限らないって。」
「ええ。」
俺は思い出す。
車の中で彼女が語った宇宙人論について。
「俺は琴音さんのような発想はなかった。
宇宙人は微生物のように小さいんじゃないかなんて発想は。」
「私はあり得ると思うんです。だってこれだけUFOの目撃例があるなら、宇宙人の目撃例があってもいいはずなんです。
なのにほとんどないでしょう?だったら宇宙人って、人間の目には見えない姿をしてる可能性がありますよ。
透明になれるとか、目に見えないほど小さくなれるとか。
そう考えると、細菌とかウィルスみたいに小さいんじゃないかって。」
「だけどそこまで小さいと、周りは敵だらけになってしまう。
だってこの空気中にですら大量の微生物がいるんです。
そうなれば四方八方は敵だらけで、とてもこの地球では生きていけない。
微生物のいない宇宙空間ならともかく、地上での生活は無理です。
だけど・・・・・、」
「だけど?」
「別の生き物に宿れば、それも可能かもしれない。」
「別の生き物?」
「目に見えないほど小さいなら、生物の体内に侵入することは簡単です。
そして脳や中枢神経を乗っ取り、ロボットのように操っているんです。」
「それこそ無理じゃないですか?そんな簡単に乗っ取るなんて・・・・、」
言いかける彼女の言葉を遮り、カマドウマにライトを向けた。
「こいつはカマドウマって虫です。でも便所コオロギって呼ばれることもある。」
「知ってます。」
「ゲジゲジやムカデと並んで、みんなから嫌われる虫です。」
「あんまり可愛い虫じゃないですからね。私は平気ですけど。」
「じゃあ人が一番気持ち悪いと思う虫はなんでしょう?」
「そりゃゴキブリじゃないですか?私もあれは嫌いなんです。
外で見る分には平気だけど、部屋に出たら絶叫しそうになります。」
「俺は平気です。」
「あの・・・・さっきから何が言いたいんですか?」
琴音さんは怪訝な顔をする。
俺は「ゴキブリはね」と答えた。
「ハチに乗っ取られることがあるんですよ。」
「ハチ・・・・ああ!エメラルドゴキブリバチ?」
「ええ。そのハチは毒によってゴキブリの神経を支配し、自分に都合よく動かすんです。」
「そういう生き物は他にもいますよ。ロイコクロリディウムって寄生虫で、カタツムリを乗っとっちゃうんです。
完全に自分の思い通りに動かして、最後はわざと目立つ場所に行って、鳥に食べられちゃうんですよ。」
「知っています。だったらね、宇宙人だって同じことが出来るかもしれない。
地球の虫が出来るのに、高度な文明を持つ宇宙人に出来ないわけがない。」
飛び跳ねていくカマドウマを見送りながら、「もう一度探しましょう」と言った。
「宇宙人は別の生き物を乗っ取って、人気のない場所に暮らしている可能性がある。
だからもう一度くまなく探すんです。この廃村を。」
「もう一度ですか・・・・。」
「怖いですか?」
「いや、そうじゃなくて・・・・それなら明日の方がよくないですか?こんな夜だと探すのは難しいですよ。」
「でも明日はバイトです。」
「なら今週の土曜は?」
「それなら休みです。」
「じゃあその日にもう一度来ましょうよ。明るい方が探しやすいはずだから。」
「・・・・・・・・。」
「どうしたんですか?」
「ひっそりと身を隠す宇宙人が、明るいうちから動き回るだろうか・・・・。」
「宇宙人って夜行性なんですか?」
「可能性はあります。」
「だとしても、やっぱり夜は探しにくいですよ。明るい時にしませんか?」
そう言って早くここから出たそうにする。
かなり怖いみたいだ。
「・・・・分かりました。とにかくいったん車に戻りましょう。」
地下室を出て、廃村を後にする。
茂みに停めていた車に乗ると、琴音さんは「はあ・・・」と息をついた。
「怖かった・・・・。」
「狭い所は苦手なんですね。」
「はい・・・・それに夜だし・・・・。もし崩落とかしたら、救助が来るのだって時間がかかるじゃないですか。」
「じゃあ次からは、狭い所は俺だけ入ります。」
「そうしてくれますか?私は別の場所を探しますから。」
怖がる琴音さんを乗せて、廃村から離れていく。
宇宙人は人の目に見えるとは限らない。
俺では思いつかなかった、斬新な意見だ。
琴音さんは天才かもしれない。
《この事実を陸翔君にも伝えてやらないとな。それと新しい仲間が出来たことも。》
俺は「琴音さん」と言った。
「あなたを陸翔君に紹介したいんです。」
「それって相棒の子のことですか?」
「ええ。明日一緒に病院へ行きましょう。」
「別にいいですけど・・・・、」
「どうしました?不安でも?」
「その子・・・・私のこと笑ったりしないですかね?」
「笑う?」
「変人だって。」
「平気です。陸翔君はそういうのに理解があるんです。そもそもあの子自身が宇宙人の可能性が・・・・、」
そう言いかけて「ああああ!」と叫んだ。
「どうしたんですか!?」
「もしかしたら・・・・あの子も乗っ取られている可能性が・・・・、」
宇宙人は人間の体内に入り、思い通りにコントロールしている可能性がある。
だったら陸翔君も・・・・、
一気に不安になる。
「あの・・・・顔色悪いですよ?」
「陸翔君は乗っ取られているかもしれない・・・・。」
「よかったら運転代わりましょうか?」
運転席を譲り、助手席で頭を抱える。
宇宙人には会いたい。
でもあの子が乗っ取られているなんて、そんなのは絶対に嫌だった。
《陸翔君!君は宇宙人か?それとも乗っ取られているのか?頼むから人間であってくれ!》
今日、初めて宇宙人に対して恐れを抱いた。

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