不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 最終話 オカルト編集長の陰謀(3)

  • 2017.07.31 Monday
  • 10:21

JUGEMテーマ:自作小説

古代人の事件から一週間後、事務所でタバコを吹かしていた。
茂美からギャラをふんだくってやろうと思ったのに、なぜか奴は姿を見せない。
上の階にある出版社にも行ったけど、ここ数日は出勤してないとのことだった。
編集長が出勤しないで雑誌が作れるものなのか?
色々不思議に思ったが、内容なんてないに等しい雑誌なので、特に問題ないのだろう。
もしこのまま奴が現れなければ、それはそれで喜ばしいことだ。
ギャラはもらえなくなるが、今後一切のあの女の関わらないですむというのなら、それは何よりの報酬になる。
そんな事を考えながら煙を吐き出していると、コンコンのノックが鳴った。
「はいはい。」
由香里君がドアを開けに行く。
そして「成美さん!」と叫んだ。
《チッ・・・・戻ってきやがったか。》
椅子を回し、背中を向ける。
茂美は「久能さんいる?」などと、わざとらしく尋ねた。
「ええ、いますけど・・・・でもどうしたんですか?その格好は。」
「ああ、これ?面白いでしょ?」
「面白いっていうか・・・・なんで?っていうか。」
由香里君が驚いている。
《茂美の奴、いったいどんな格好をしているんだ?》
興味はあるが、振り返る気分にはなれない。
目を合わしたら最後、また余計な依頼を持ちかけられるのだ。
この際ギャラは諦めて、自腹で旅行に行くしかない。
「ふふふ、久能さんったら。また私のこと警戒しちゃって。」
背中越しに不敵な笑みが伝わってくる。
コツコツとヒールの音を響かせながら、「久能さん」と近づいてきた。
「この前はお疲れ様。」
「ああ。」
「大変な仕事だったわね。」
「まったくだ。どっかの誰かさんが余計なことをしてくれるから。」
「怒らないで。その分のギャラを持ってきたんだから。」
そう言って俺の目の前に紙切れを振った。
「なんだこれは?」
「小切手よ。」
「・・・・ほう、いいのか?こんなに貰って。」
「今回の事件は私にも原因があるからね。」
「あんた以外に原因が思い当たらないぞ。」
「それに色々と危険だったから。」
「なら貰っておくよ。」
小切手には700万の数字が。
これならかなり良い所へ旅行に行ける。
「わざわざ払いに来てもらってすまんな。じゃあ帰ってくれ。」
羽虫でも追い払うように、シッシと手を振る。
するとその手を掴まれて、何かを握らされた。
「ん?なんだこりゃ?」
「見れば分かるでしょ?」
「ああ、ただの石ころだ。」
「お礼よ。」
「お礼?なんの?」
「ティムティム女王から。」
「なんだって?」
「この前彼女が会いに来たのよ。」
「会いにって・・・・あんたにか?」
「彼女ね、今は土星の近くに住んでるの。」
「・・・・・・・。」
「新しい住処が見つかって、無事に暮らせるようになったわけ。だからお礼を言いに来てくれたの。」
「ちょ、ちょっと待て!」
慌てて話を止める。
「由香里君。」
チョイチョイと手招きをすると、「なんですか?」と面倒くさそうに言った。
「いま事務所のホームページの更新で忙しいんです。」
「実はタバコが切れてしまってね。買って来てくれないか?」
「自分で行って下さい。」
「そうしたいけど、茂美さんと仕事の話をしてるんだ。ちょっと手が離せなくてな。」
「ほんとに!また依頼を持って来てくれたんですか?」
嬉しそうに立ち上がる。
俺は「そういうわけなんでちょっと頼む」と千円を渡した。
「すぐ行ってきます!帰って来たら私にも聞かせて下さいね!」
「もちろんさ。あ、あと釣りはいらないから。アイスでも買いたまえ。」
「子供みたいに言わないで下さい。」
由香里君は上着を羽織り、千円をポケットにつっこんで出ていった。
「・・・・さて、詳しく聞かせてもらおうか。」
灰皿を消し、茂美を振り返る。
「・・・・あんた、その格好はなんだ?」
「ふふふ、似合ってるでしょ?」
「それ宇宙服じゃないか。」
全身タイツに宇宙人のアップリケ。
これは間違いなくあの宇宙服だ。
「なんでそんな物を着て・・・・・、」
言いかける俺の口を、茂美は指で止めた。
「ふふふ、優しいわね久能さんは。」
「何が?」
「だって女王との約束なんでしょ?由香里ちゃんには何も話さないって。」
「ああ。そしてその事を知ってるあんたも、俺と同じく女王の真意を知っているということだな?」
「まあね、順を追って話すわ。」
茂美はデスクに腰掛ける。
ピッチリタイツの宇宙服が、そのエロいボディを引き立てていた。
「すぐ息子さんが元気になるのね。ほんとに若いこと。」
「いつか躾けるさ。それよりあんたの話を詳しく聞かせてくれ。」
手にした石を見つめながら、「お礼ってなんのことだ?」と尋ねた。
「ふふふ、実はね、今回の事件はティムティム女王が私に依頼してきたのよ。」
「・・・・・はい?」
「人形塚の土偶が目覚めたのは、私が古文書を取ったから。だけどそうするように頼んできたのはティムティム女王なのよ。」
「話が見えん。どういうことだ?」
不穏な雲行きになってきた。眉間に皺が寄る。
「あのね、古文書の封印の力は元々弱まっていたの。このままではいずれ土偶は復活してしまう。
そうなれば人形が支配する世の中になってしまうわ。」
「実際にそうしようとしていたからな。」
「それを阻止する為に、ティムティム女王が私に会いに来たの。」
「なんであんたに会うんだ?」
「だって私はオカルトに詳しいもの。今までに散々ムー大陸やアトランティスのネタを扱ってるわ。
内容はほとんどがデタラメなんだけど、稀にそうじゃないこともあるの。
以前に一度だけ「呪われた人形」ってタイトルで特集を組んだことがあるのよ。
その時に人形塚の取材をしたわけ。」
「よくあんな所へ取材に行ったな。呆れる神経だよ。」
「その時にね、ティムティム女王が私のことを見ていたらしいの。
そしてこの女は使えるかもと思って、後日に声を掛けてきたわけ。」
「ほんとかよ?女王に責任をなすりつけようとしてないか?」
「いいから最後まで聞いて。女王は土偶が復活することを心配していたの。
そうなれば再び人形戦争が起きてしまうから。」
「それを阻止する為に、あんたに協力してくれと頼んできたと?」
「ええ。だけど私はか弱い女子だから、大したことは出来ないって答えたの。」
「あんたほど図太い神経の落ち主はいないと思うがな。」
「だから知り合いの探偵を紹介してあげるわって言ったのよ。
今までに幾つもの難事件を解決してきた腕利きの探偵を。」
「おい待て、ちょっと話がおかしくなってきたぞ。」
思わず立ち上がる。
動悸と目眩がして、台所で水を一杯飲んだ。
「あんたが俺を紹介したって?」
「ええ。」
「ということは、あんたが俺たちを巻き込んだってことだな?」
「巻き込むなんて人聞きの悪い。仕事を紹介してあげたんじゃない。」
「アホかお前は!こんな事件になるって分かってたら、最初から断ってたぞ!」
「でもいつもは危ない仕事がしたいって言ってるじゃない。」
「それはそうだが・・・・いや、しかしだな!古代人だのUFOだの、そんなオカルトじみた危険はゴメンだ。」
「そんなに怒らなくても。」
「怒るに決まってるだろ!なんでそういう大事なことは最初に言わない?」
「最初に言ったら断られると思って。」
「確信犯じゃないか!」
頭が痛くなってきた・・・・。
やっぱりこの女に関わるべきじゃなかった。
「要するにだ・・・・あんたは最初から全てを知っていたわけだ?
土偶が暴れ出すことも、女王がそれを鎮める為にミスコンを開くであろうことも。」
「ええ。」
「今回の事件、一から十まであんたの手の平の上だったわけだな?」
「そういう言い方しないで。この作戦は女王と私で考えたんだから。」
「嘘つけ!絶対にお前のアイデアだろ。」
「シナリオの99パーセントは私が考えたわね。」
「主犯だろうがそれ!」
「でも残りの1パーセントはティムティム女王よ。」
「どの部分だ?」
「ミスコンでどんな衣装を着るかって部分。」
「オシャレしたいだけじゃないか!どっか他でやれ!」
「だからそう怒らないでってば。事件はもう終わったんだし、みんな無事だった。それでいいじゃない。」
「タムタムとモリモリはあの世へ逝ってしまったんだぞ。みんな無事なわけないだろ。」
「でもそれは古代人同士の問題だから。私たちがどうこう言うことじゃないわ。」
「ぐッ・・・・こういう時だけまともなこと言いやがって。」
怒りを通り越して呆れてくる。
タバコを咥え、「帰ってくれ」と手を振った。
「もうあんたの顔は見たくない。」
「なんでそんなに怒るのよ?」
「怒らない方がどうかしてる。」
「ちゃんと依頼料は払ったじゃない。700万も。」
「割りに合わない気がしてきた。」
「それに私は雑誌の売り上げを伸ばせるわ。」
「定期購読が幾つも取れたもんな。」
「それだけじゃないわ。今回の事件、大々的に特集を組むつもりなの。
なんたって私も事件の中心にいたんだから、リアルな記事が書けるわ。」
「出来上がっても見せには来るな。あんたへの恨みが倍増しそうだ。」
呆れを通り越し、イライラが戻ってくる。
窓を開け、盛大に煙を吹かした。
「あ、ちなみになんだけど・・・・、」
「なんだ?」
「宇宙旅行へ行かない?」
「は?」
「実は今朝まで宇宙にいたのよ。ティムティム女王のUFOに乗って。」
「そうかい。そのまま宇宙の果てまで飛んでってくれればよかったのに。」
「それでね、新しい古代都市が出来たから、ぜひ遊びに来ないかって言ってくれたの。」
「誰が行くか!」
「私は行ってきたわよ。はい、これお土産。」
そう言ってお菓子の箱を置く。
「なんだこりゃ?」
「ムー大陸まんじゅうよ。」
「誰が食うかこんなもん。」
「でも向こうじゃ人気なのよ。火星人も買いに来てるし。」
「そうかい。儲かってけっこうなことだ。でも俺は金輪際関わることはない。
女王だって『もう会うことはない』ってメイトリックスばりに言ってたんだから。」
「そんなこと言わずに行ってあげればいいじゃない。」
「お断りだ。」
「でも彼女は決着を着けたがってるわ。」
「決着?」
「ミスコンよ。由香里ちゃんとの対決はノーコンテストに終わったでしょ?だから次こそはって・・・・、」
「馬鹿らしい。由香里君がそんなのOKするわけが・・・・、」
「やります!」
バン!とドアが開いて、勇ましい女戦士が現れる。
「・・・・由香里君、帰って来てたのか。」
目を釣り上げながら、ズンズン歩いてくる。
「はいこれ。」
ポンとタバコを置いて、「お釣りでアイスを買いました」とレジ袋を揺らす。
「う、うむ・・・・美味そうだな。」
「茂美さん、私行きます。宇宙へ。」
「まあ。」
「私も決着をつけたいと思ってたんです。うやむやなまま終わっちゃったから、ずっと胸に引っかかってて。」
「さすがは由香里ちゃん、話が分かるわ。」
茂美は嬉しそうに手を叩く。
俺は「やめとけ」と言った。
「どうせまたロクなことにならない。」
「でもこのまま終わりたくないんです。」
「君はいつからそんな子になったんだい?ミスコンなんて興味ない子だと思っていたが?」
「ミスコンがどうとかじゃなくて、きっちり決着をつけたいだけです。勝負は最後までやり抜かないと。」
グっと拳を握るその姿は、戦に赴く戦士のよう。
もはやどんな言葉でも止められないだろう。
「で、いつですか?」
「由香里ちゃんの都合の良い時でいいって言ってたわ。」
「じゃあ今から行きましょう。」
「いいの?忙しいんじゃない?」
「どうせ大した仕事はないから。」
そう言って俺を振り返る。
「久能さん、悪いけどちょっと宇宙へ行ってきます。」
「本当に行くのか?」
「ホームページに仕事の依頼が二件入っていました。」
「ほう、どんな?」
「逃げたオタマジャクシを捜してほしいって。」
「そうかい。田んぼに行って新しいのを捕まえてこいって返信しとくよ。」
「それと犬の躾をお願いしたいって。」
「俺は息子の躾で手いっぱいだ。だいたいそれは探偵の仕事じゃない。」
「どっちも久能さん一人でできますよね?」
「一ミリもやる気が起きないな。」
「じゃあ断っておいて下さい。私は女王と戦ってきますから。」
眉間に皺を寄せ、鼻息荒く事務所を出て行く。
「おい由香里君!旅行はどうするんだ?明後日に行く約束だろう?」
「久能さん一人でどうぞ。」
「そんな!ちゃんとゴムも買ったのに・・・・、」
「え?何か言いました?」
「・・・いや、何も。」
人を殺しそうな目で睨むので、一気に息子が萎えた。
「茂美さん、早く行きましょう。」
勇ましい足取りで出て行く由香里君。
もはや誰も止めることは出来まい。
「ふふふ、ほんとに勇ましい子。」
「茂美さん・・・・あんたが来なけりゃこんな事にはならなかったんだ。ほんとに疫病神め。」
「ごめんなさいねえ、よかったらゴム代払いましょうか?」
「馬鹿にしやがって。宇宙でもどこへでも好きなとこへ行ってこい。」
これ以上は付き合いきれない。
この女に関わるくらいだったら、犬にお手を教えていた方がマシだ。
「これ返すよ。」
女王からのお礼を投げ渡す。
「いらないの?」
「そんな石ころいるか。」
「あらそう?不思議な力を持った石なのに。」
茂美は残念そうに言う。
思わず「何か秘密があるのか?」と尋ねてしまった。
「これね、煩悩をコントロールする石なの。」
「なんだって?」
「水に溶かせば煩悩を押さえる薬になるの。」
「それはすごいな。息子を躾できる。」
「逆に油で揚げれば煩悩が増す。」
「ほう、そりゃ面白い。」
「しかも飲んだ相手が惚れてしまうというオマケ付き。」
「な、なんだってええええ!?」
慌てて石を取り返す。
こんな素晴らしい石、誰が返すものか。
「ふふふ、ねえ久能さん。」
「なんだ?薄気味悪い顔しやがって。」
「宇宙にはまだ見ぬ美人がいるかもしれないわ。」
「ん?」
「その石を使えば・・・・ねえ?美人な宇宙人のお嫁さんが見つかったりして。」
「・・・・いや、宇宙人の嫁さんは欲しくないな。」
「じゃあ由香里ちゃんに使えば?」
「なッ・・・・彼女に?」
「だって旅行に行くはずだったんでしょう?そこで一発ヤルつもりだったわけでしょう?」
「下品な言い方をするな。裸の付き合いをした後に、共に朝陽を眺めようとだな・・・・、」
「なら宇宙から眺めればいいじゃない。燦々と輝く太陽を。」
「そ、それは・・・つまり・・・・、」
「由香里ちゃんと宇宙旅行・・・・悪くないと思わない?」
不敵な笑みをしながら顔を近づけてくる。
俺は引き出しを開け、昨日買ったゴムを見つめた。
「・・・・いやいや!そういうのはイカンよ、うん。薬を使ってどうこうしようなんて、そんなのは犯罪者と同じ発想であって・・・、」
「あ、ちなみに好意のない相手には効かないからね。」
「え?」
「もし由香里ちゃんが久能さんに好意を持っていたら、煩悩によってそれが刺激されるわけ。
逆に久能さんのことが好きじゃないなら、何も起こりはしないわ。」
「・・・・・・・・。」
「本当は久能さんが煩悩をコントロールできるようにって、女王から預かった物なの。
だけどあなたに渡した以上、それはあなたの物。どう使おうと勝手よ。」
「・・・・・・。」
「私の見る限り、久能さんは嫌われてないと思うわ。だからそれを使えば・・・・、」
俺は立ち上がり、窓の外に石を投げ捨てた。
「あら。」
「・・・・間違いを起こしそうだ。やっぱりいらん。」
「ふふふ、後悔しない?」
「さあな。」
茂美に背中を向け、投げ捨てた石を見つめる。
車が走ってきて、コツンと弾いた。
コロコロと転がって、ドブの中に流されていく。
「ふ・・・・これでいいのさ。」
若干の後悔はあるものの、あんな物に頼って由香里君をどうこうしようとは思わない。
それはさすがに反則というものだろう。
「というわけで、とっとと帰ってくれ。くれぐれも由香里君が危ない目に遭うことがないようにだけ気をつけてくれよ。」
そう言って振り返ると、ガチャリと手錠を掛けられた。
「おい、何してる?」
「久能さん、ちょっとは成長したわね。」
「はあ?」
「あれはただの石ころよ。」
「はああ!?」
「ふふふ、煩悩に負けてついて来ると思ったのに。まさか捨てちゃうとはね。」
「アンタあ・・・・また騙そうとしたな。」
ほんっとにこの女だけは油断ならない。
思いっきり睨みつけてやったが、まったく悪びれていなかった。
「こうなったら実力行使しかないわ。」
茂美は自分の腕にも手錠を掛ける。
「おい!何をするつもりだ?」
「実はね、また女王から依頼を受けたのよ。」
「依頼?」
「なんでも土星に住む古代人がイチャモンを付けてきてるらしいの。
ここは自分たちの縄張りだから出て行けって。」
「そうかい。なら別の星に住めばいいさ。」
「でも他に住めそうな場所がないのよ。だからね、女王は挑戦状を叩きつけたの。
ミスコンをやって、わらわが勝ったらここに住まわせてくれって。」
「またミスコンか。ほんとに好きだな。」
「敵の大将もかなりの美少女でね。しかも家臣に至るまで美人揃いなのよ。」
「ほう、そりゃすごい。是非とも拝んでみたいけど、俺は行かないぞ。」
「こままミスコンをやれば、女王は確実に負けるわ。」
「なんで?」
「ミスコンはチーム戦で行うの。となると、古代人の方は女王しかまともに戦えないわ。」
「そりゃ他はペンゲンだらけだからな。」
「そこで私たちにお声がかかったってわけ。」
茂美はクスリと笑う。
目の奥には不穏な影が宿っていた。
「おい、あんたまさか・・・・、」
「そう、私たちは助っ人。地球人代表として、女王のチームで参加するの。」
「馬鹿な!なんだそのアホは展開は!」
「女王、由香里ちゃん、そして私でチームを組むわ。」
「あんたも出るのか!?」
「久能さんにも出てほしいの。」
「なんで!俺は男だぞ!」
「男性枠もあるのよ。向こうじゃむさ苦しい男がモテるらしいから、久能さんでも充分戦力になるわ。」
「お断りだ!」
「でも引き受けちゃったから。」
「だからなんで勝手に決めるんだ!?一言くらい相談しろよ!」
「見返りとして100年先まで定期購読してもらうことになったの。だから断れなくて。」
「そん時にはあんたは死んでるだろ!」
「いいえ、どうにか生きてみせるわ。どんな手を使ってもね・・・・。」
「怖いぞお前・・・・。」
茂美は本気のようだ。
こいつなら1000年先でも生きているかもしれない。
「というわけで、今から土星に行きましょ。」
「嫌だ!もうお前に関わりたくないんだ!」
「でも由香里ちゃんが待ってるわよ。」
そう言って窓の外を指さす。
そこには勇ましく空手の型をする由香里君がいた。
「茂美さん!早く行きましょう!!」
「ほら、助手があれだけ張り切ってるのよ。逃げるなんて恥ずかしいと思わない?」
「何を言う!この話を知ったら、由香里君だって断るに決まってる!」
窓から身を乗り出し、「由香里君!」と叫んだ。
「君は騙されてるぞ!この女はまた俺たちを利用しようとして・・・・、」
「はい、それじゃ行きましょう。」
「おいコラ!引っ張るな!」
「ふふふ、今回も良い記事になるわ。」
「なにい!?」
「移住先に土星を勧めて正解だった。あそこには美人の宇宙人が揃ってるからね。
きっとこういう展開になると思ってたのよ。」
「また悪だくみか!」
「商売の為よ。」
「あんた怖すぎるぞ!ていうかなんで土星人がいるなんて知ったるんだ!?」
「コネよコネ。」
「どんなコネだ!?」
「だから宇宙人とのコネ。NASAに知り合いがいてね、その伝手で紹介してもらったの。」
「・・・・オカルト雑誌の編集長なんかやめて、今すぐメンインブラックに入ったらどうだ?」
もはや逆らうまい。
きっとこいつ自身が宇宙人なのだ。
手錠を引っ張られ、外に連れ出される。
「由香里ちゃん、久能さんも行くって。」
「ほんとに?」
「ほんとほんと。」
「だってミスコンですよ?久能さんは出られないんじゃ?」
「男性枠もあるの。」
「そうなんですか!」
なぜか喜んでいる。
俺の手を握り、「一緒に戦いましょうね!」と叫んだ。
「君はいつだって元気だな。」
「勝負になると燃えてくるんです。」
「そうかい。でも行ったらきっと後悔するよ。」
「そんなの行ってみなきゃ分かりません。ねえ茂美さん。」
「そうよお。助手がこれだけやる気になってるんだから、所長の久能さんが弱気でどうするの?」
「今すぐあんたの頭をカチ割ってやりたい。」
もうどうにでもなるがいい。
人生は水の流れのごとし。逆らわず、刃向わず、大きな流れに身を委ねるに限る。
「久能さん!今度こそ女王をギャフンと言わせてやりましょうね!」
再戦に喜ぶ由香里君・・・・真実を知ったらどう思うだろう?
いや、案外燃えるかもしれないな。
相手が誰であれ、この子は勝負となれば本気になるから。
「まあ・・・なんだ。気楽に行こうじゃないか。」
そう言ってポンと肩を叩いた時、ポケットからアレが落ちた。
「ん?何か落ちましたよ?」
由香里君は膝をかがめ、アレを拾う。
その瞬間、プルプルと震え出した。
「・・・・なんですかこれは?」
「ゴムさ。」
「どうしてこんな物を?」
「そりゃあれだよ、旅行に行くからさ。」
「はい?」
「沖縄への旅行はキャンセルになってしまった。だったら宇宙旅行に切り替えようと思ってね。」
「・・・・・・・・。」
「UFOの中、一つのベッドで過ごす俺たち。目が覚めたなら、君の肩を抱きながら燦々と輝く太陽を見つめるのさ。」
「へえ・・・・。」
「あ、ちなみに下心だけじゃないよ。ちゃんと愛のある夜を過ごそうじゃないか。
俺たちは付き合いが長いんだ。だったらもうそろそろ裸の付き合いをしてもと思ってだね・・・・、」
「また膨らんでますけど?」
「・・・・こりゃ失敬。」
「はあ・・・・ほんとに変わらないんだから。」
さっきまでの勢いはどこへやら。
呆れと憐憫のため息をつく。
「まああれだ。地球へ帰って来る頃には、俺たちは新しい形の関係になっているかもしれない。」
「はいはい、好きなだけ妄想して下さい。」
肩を竦めながら首を振っている。
踵を返し、「さっさと行きますよ」と歩き出した。
「ふふふ、先が思いやられるわね。」
「あんたさえいなけりゃもっと上手くいくんだ。」
「そうかしら?」
馬鹿にしたように笑うので、「見てろ」と言い返した。
「由香里君、そいつを返してくれ。」
「途中で捨てておきます。」
「そう言うな。君はウチに就職するんだ。だったらもっとお互いのことを知らないと。
そろそろこいつを必要とするに仲になってだね、二人で明るい未来を築こうじゃないか。」
極上の笑顔でポンとお尻を叩く。
すると由香里君も極上の笑顔を返した。
「由香里君、同じベッドで朝を迎えよ・・・・、」
「くたばれ!」
鬼神のごとくキレる由香里君。
極上のカカト落としがめり込んだ。

        不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜  -完-

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十八話 オカルト編集長の陰謀(2)

  • 2017.07.30 Sunday
  • 09:33

JUGEMテーマ:自作小説

便所と便所を繋ぐワームホール。
そこは長く暗い穴だった。
《臭い!》
とんでもない臭いが充満している。
だけどしばらく我慢していると、突然どこかに放り出された。
「ぐはあッ!」
ケツから落っこちて、ブっと放屁してしまう。
「久能さん!」
由香里君が走ってくる。
俺の傍に膝をつき、「よかった・・・」とため息をついた。
「なかなか出てこないから心配してたんです。」
「途中でちょっと詰まってしまってな。」
「詰まるような場所なんてありましたっけ?」
「運動不足のせいさ。」
腹の肉を掴んでみせると、「じゃあ私と一緒に空手をやりましょうよ」と言われた。
「引き締まるし強くなるし、一石二鳥ですよ。」
「気持ちだけもらっとくよ。」
ポンと由香里君の頭を叩いて、よっこらっしょっと立ち上がる。
「おお、本当に人形塚だ。」
周りは木立に囲まれる山。
手前には小さな古墳があって、その上に便器が建っていた。
「なんであんな場所なんだよ。もうちょっと他にあるだろ。」
不満を言いつつも、とりあえず帰って来られてほっとした。
「さあて、これで古代人の事件は終わりだ。事務所へ帰ろう。」
「ですね。早くお風呂に入りたいし。」
便所のワームホールを通ったせいで、まだ臭いが残っている。
色々なことがあった事件だが、終わりよければ全てよし。
今の俺たちに必要なのは休息だ。
「じゃあみんな、帰るか。」
俺たちは山を降りる。
しかし麓まで来た時に、ほぼパンツ一丁だったことを思い出した。
「まずいな・・・この格好で歩いたら捕まる。」
上は短い毛皮のコート。
下はパンツ。
これで街を歩いたら、パトカーに乗せられること請け合いだ。
「由香里君、悪いが君の宇宙服を貸してくれないか?」
「嫌ですよ、私までお巡りさんに捕まるじゃないですか。」
「でも水着を着てるだろ?」
「だから嫌なんです。」
「平気さ。君みたいな美人が水着で歩いていたら、むしろ歓迎されるよ。」
「歓迎するのは久能さんみたいな人だけです。」
「冷たいな。だったら俺はどうすればいいのさ。」
どこからどう見ても変態の格好をしているのに、街へ出るのは恥ずかしい。
どうしたもんかと困っていると、爺さんが「これ持ってけ」と何かを差し出した。
「それは?」
「儂の股引じゃ。」
「・・・・・・・・。」
「何があるか分からんから、いつも予備を持ち歩いとるんじゃ。」
「・・・・そうか、では・・・・、」
何もないよりはマシ。
そう思って受け取ると、今度は婆さんが「これもやる」と何かを差し出した。
「それは?」
「ブラジャーじゃ。」
「なぜそんな物を・・・・、」
「もしもの時の為に、予備を持ち歩いとる。」
「・・・そうか。なら使わせてもらうよ。」
なんの予備かは分からないが、好意を無駄にするのは悪い。
爺さんの股引を穿き、婆さんのブラジャーを胸に着けた。
「どうだい由香里君?似合ってるかな?」
「こっち向かないで下さい!」
ガバっとコートを広げてみせると、思いっきりカカト落としをくらった。
「ごはあッ・・・・、」
「ほんっとにそういう所は治りませんよね。小学生レベルのイタズラですよ。」
「少年の心を持っていると言ってくれ。」
「変態の間違いでしょう?」
由香里君の目は冷たい。
でもそれが快感だった。
「お楽しみのところ悪いんだけど・・・・、」
茂美が口を開く。
「先に帰るわね。」
「あんたはいいな。スーツのままだ。」
「私ならパンツ一丁でも気にせず帰るけどね。」
「あんたほと神経が太くないんでな。」
「ふふふ、いつでも平静がモットーなの。」
クスクス笑いながら街へ向かっていく。
「ついでにお爺さんとお婆さんも送っていくわ。」
「ああ、頼む。」
茂美は街へ向かっていく。
爺さんと婆さんは「世話になったな」と言った。
「また家に来い。採れたての野菜を食わせてやるから。」
「普通の野菜にしてくれよ。UFOはもうゴメンだ。」
二人は手を振りながら去っていく。
由香里君が「また遊びに行きますね〜!」と手を振り返した。
「いいお爺ちゃんとお婆ちゃんでしたね。」
「変わり者っていった方が正しいだろ。」
「それを言うなら、今回の事件そのものが変わったことばかりですよ。」
「確かにな。まさか本物の古代人に会うとは。」
「ちゃんと新しい住処が見つかるかなあ。」
由香里君は心配そうに空を見上げる。
《平気さ。宇宙のどこかに新しい家を建てるだろうから。》
新たな住処は月か火星か?
どこへ住むにせよ、今後俺たちと会うことはないだろう。
《達者でな、古代人たちよ。》
空に向かって呟くと、由香里君が「何か言いました?」と振り返った。
「達者でなと言っただけさ。」
「みんな幸せに暮らしてくれるといいですね。」
「ああ。それよりも・・・・これはどうにかならんものか。」
上は短いコートとブラジャー、下は股引。
これでは新手の変態にしか見えない。
「なあ由香里君、どこかで服を買ってきてくれないか?」
「無理ですよ、財布なんて持ってないし。」
「う〜む・・・・困った。」
「ていうか私だって宇宙服のままなんですからね。これもけっこう恥ずかしいんですよ。」
「じゃあ代わりに俺が着てあげよう。君は水着で・・・・、」
「けっこうです。」
「冷たいな。」
「じゃあタクシーでも拾いましょうよ。事務所まで帰ればお金があるでしょ?」
「おお、その手があったか。」
俺たちはコソコソと街へ出る。
なるべく物陰に隠れながら、通りゆくタクシーに手を振った。
しかし二人してこんな格好では停ってくれない。
「全然ダメだな。」
がっくりと肩を落とすと、由香里君が「こうなったら・・・」と呟いた。
「どうした?」
「・・・・・・・・。」
「おい!いきなり何を・・・・、」
彼女は宇宙服を脱ぎ捨てる。
エロくて健康的な水着姿となって、俺の息子が反り返った。
「ちょっと待ってて下さい。」
そう言って迫って来るタクシーに手を挙げた。
「・・・・・おお!停った。」
ガチャリとドアが開き、「久能さん、早く!」と手招きする。
俺はそそくさとタクシーに乗り込んだ。
運転手のおっさんがルームミラー越しに由香里君を見つめている。
彼のあそこも反り立っていた。
「ええっと・・・・どこまで?」
思いっきり鼻の下が伸びている。
由香里君は宇宙服で身体を隠しながら「神戸まで」と答えた。
「いやあ、助かったよ由香里君。」
「だってこうしないと誰も停ってくれないから。」
「さすがはミスコンの勝者、男なんてイチコロだな。」
「そういう意味で水着になったんじゃありません。宇宙服よりはマシだと思っただけです。
それにミスコンはノーコンテストだし。」
「いや、君の方が勝っていたさ。」
「そんなの分からないですよ。ティムティム女王は手強かったし。」
「いいや、君の方が可愛い。」
「ほ、ほんとですか・・・?」
嬉しそうに頬を赤くする。
しかし俺の息子を見て、「一気に萎えたました・・・」と目を逸らした。
「下心が丸見えですよ。」
「正直が俺のモットーさ。」
「我慢も覚えて下さい。」
「ま、いずれはね。」
「そんなこと言うんだったら、茂美さんの所に就職先を替えようかなあ。」
「それはダメだ。あいつの所へ行くくらいなら、君が所長をやってもいいからウチにいてくれ。」
「え?ほんとに?」
「本当に茂美の所へ行くつもりならな。」
「ふふふ、冗談ですよ。」
さっきまでの不機嫌はどこへやら。
嬉しそうに笑っている。
「なあ由香里君。」
「なんですか?」
「今回の依頼、茂美からギャラをふんだくるつもりだ。」
「ちゃんと払ってくれますかね?」
「元はと言えばあいつのせいだから。何がなんでも払わせてやるさ。」
こんな珍事に巻き込まれ、定期購読までさせられたのだ。
それなりの見返りを貰わないと割に合わない。
「それでさ、もしたんまりとギャラが入ったら、二人で旅行でも行かないか?」
「それさっきも言ってましたね。」
「君にはいつも助けられてる。ここは所長として労わないとと思ってね。」
そう言って肩を竦めると、「別にいいですけど・・・」と怪訝な顔をした。
「ほんとにただの旅行ですよね?」
「ん?」
「またエッチなこと考えてるんじゃないかと思って。」
「考えてるさ。」
「なッ・・・・堂々と言い切りましたね。」
嬉しそうにしていた顔が、また鬼のように変わる。
「久能さん!今日という今日は言わせてもらいます!いい加減そのセクハラまがいのことはやめて下さい。
私は久能さんのことをよく知ってるからいいけど、もし依頼人にそんな態度を取ったら訴えられて・・・、」
「セクハラじゃないさ。」
「はい?」
「下心だけならそうなるだろう。でもそれだけじゃなかったとしたら?」
「ど、どういうことですか・・・?」
急にうろたえる由香里君。
俺は「そのまんまの意味さ」と笑った。
「君が事務所を離れている間、俺は気づいたんだ。やっぱり俺には君が必要だと。」
「またそんなこと言って。エッチな本ばっかり見てたんでしょう?」
「いいや、君がいないのに読んでもつまらない。」
「なんですかそれ?ああいうのって一人で読むものなんじゃ・・・、」
「君がいつもカカト落としをしてくれる。いつだって正拳突きをかましてくれる。
そういうのがないと張り合いがなくてさ。」
そう言って肩を竦めると、「要するに構ってほしいんですね」と笑われた。
「そうさ。君がいない事務所は寂しくて仕方ない。だから傍にいてほしいのさ。」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、私は久能さんのお母さんじゃありませんからね。
あんまり甘えてばっかりいると、いつまで経ってもまともな仕事なんか来な・・・・、」
「君がいればいいさ。」
「はい?」
「君が隣にいてくれればそれでいい。」
「・・・・・・・。」
「二人で久能探偵事務所、そうだろ?」
「久能さん・・・・。」
「今までも、そしてこれからも二人で探偵をやっていこうじゃないか。
古代人が相手でもUFOが相手でも、どんなアホな依頼でも君と二人なら楽しめるさ。」
我ながら臭いことを言ってしまった。
少々恥ずかしくなり、「ううん!」と咳払いする。
「まあ・・・なんだ。旅行でも行って、嫌なことはパーっと忘れよう。だからどうか茂美の所へ行くのだけは・・・、」
「いいですよ。」
由香里君は小さく頷く。
「エッチだしちゃらんぽらんな所長だけど、やる時はやる人ですから。
だからこれからも傍にいてあげます。」
そう言ってクスっと笑った。
「由香里君・・・・・。」
彼女の手を握り、「二人で朝陽を眺めよう」と言った。
「一つのベッド、そこで朝を迎える俺たち。君の肩を抱きながら、水平線から昇りゆく朝陽を・・・・、」
「それ下心なしで言ってます?」
「もちろんさ。・・・いや、エロい心はもちろんある。しかしだね、そういう気持ちだけで言っているわけでは・・・・、」
「また下半身が膨らんでますけど?」
「・・・・ぬうあ!」
いつもの3倍くらい膨張している。
「鎮まれ!」と叩いていると、「はあ・・・」とため息が聴こえた。
「危うく騙されるところだった。」
「いやいや!今のは本心だよ、うん。何もエロい気持ちだけじゃ・・・・、」
「旅行に行くのはいいですけど、部屋は別々で。」
「そんな!」
「あ、しぼんだ。」
「え?・・・・おいコラ!なんて分かりやすい反応をするんだ!出来の悪い奴め!」
呆れる由香里君、焦る俺。
いい加減息子を躾けないと、また就職先を替えるなんて言い出しかねない。
「ま、まあ・・・アレだ。とにかく今は家に帰って休もう。その後は茂美からギャラをふんだくらないと。」
「そうですね。私ももう一度就職のことを真剣に考えないと。」
「そんな!」
「だから冗談ですって。この世の終わりみたいな顔しないで下さい。」
「なら二人で朝陽を・・・・、」
「別々の部屋でね。」
「だけど俺たちは付き合いが長いんだよ?お互いのことをよく知っているわけだし、もうそろそろ下半身が交わっても・・・・、」
「くたばれ!」
「うごうッ!」
タクシーの中なのにカカト落としがめり込む。
驚く運ちゃん。
彼の息子もしぼんでいった。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十七話 オカルト編集長の陰謀(1)

  • 2017.07.29 Saturday
  • 16:25

JUGEMテーマ:自作小説

探偵・・・それは常に危険と隣り合わせの仕事。
命懸けで依頼を果たし、時には身体を張って依頼人を守りぬく。
そんなシチュエーションに憧れて始めたこの仕事だが、そんな状況になることは滅多にない。
滅多にないのだが・・・・今はその滅多にないことが起きていた。
「パンツ一丁で南極の地下・・・・いったいどうすりゃいいんだ?」
ブルっと震えて、くしゃみが出る。
すると司会をやっていた王様ペンゲンが『これ着てろ』と何かを寄越した。
「それは?」
『ペンゲンの羽毛で作ったコートだ。』
「おお!ありがたい。」
早速着込む。
うむ、温かい。
でもペンゲン用なので裾が短かった。
パンツから下は丸出しだ。
「これじゃ余計に変態に見えるな。」
「元々変態じゃない。」
「成美さん・・・・笑ってる場合か。このままじゃ日本へ帰れないぞ。」
「そうねえ・・・どうしましょ。」
困ったように腕を組むが、全然困っているように見えない。
こいつの神経は出雲大社の注連縄より太そうだ。
「でも久能さん・・・問題はそれだけじゃありませんよ。」
由香里君が不安そうに呟く。
「見て下さい、ペンゲンたちが混乱してます。」
さっきまではワイワイとミスコンを楽しんでいたペンゲンたちが、この世の終わりみたいな顔をしている。
『女王様はどこいったの!?』
『誰がここを治めるんだ!』
『ていうかこのままでここは大丈夫なの?いつかは沈んじゃんでしょ?』
ペンゲンたちの混乱はもっともだ。
指導者を失い、住処まで危険に晒されているのだから。
「女王が言ってましたよね。もうじきここに住めなくなるって。」
「ああ、海底火山やらなんやら、自然現象のせいで沈みかけてるらしいな。」
「それを防ぐには、あの泥人形に魂を入れるしかないんですよね。」
「もしくは引越しするかだ。しかし古代都市の引越しなんてそう簡単にはいかないだろう。」
「ですよね。ペンゲンたちだけじゃどうにも出来ないだろうし。」
「だったらやはり泥人形に魂を入れるしかないわけか。そうなると誰かが生贄にならないといけないわけで・・・・、」
泥人形に魂を入れるということは、すなわち誰かが死ぬということ。
「人間の魂が必要なんだよな。今ここにいる人間は・・・・俺、由香里君、成美さん、そして爺さんと婆さんだ。」
腕を組みながら「さあて、誰に死んでもらうかな」と呟いた。
「俺はまだ探偵を続けたいし、由香里君を生贄に捧げるわけにはいかない。
となると茂美さんか爺さんか婆さんになるわけだが・・・・」
俺としては茂美に生贄になってもらいたい。
そうなればもうこのオカルト編集長と関わらなくてもすむ。
しかし老い先が短い爺さんと婆さんの方が、生贄に適しているか?
「なあアンタら。誰が生贄になるか、三人でジャンケンを・・・・、」
「久能さん!」
思いっきり頭を叩かれる。
「なんてこと言うんですか!!」
「冗談だよ。」
「冗談でも言っていい事と悪いことがあります!」
由香里君は目を釣り上げる。
俺は「失敬」と肩を竦めた。
「でも誰かが生贄にならないと、ペンゲンたちが滅んでしまうぞ?」
「そんなの分かってますよ。でもだからって生贄なんて酷いこと出来ません。」
腕を組んでプリプリしている。
気持ちは分かるが、彼女も良いアイデアは持っておらず、二人して顔をしかめるしかなかった。
「ちょっといいか?」
爺さんが声を掛けてくる。
「なんだ?」
「あんたの話を聞いとったんだが、誰かが犠牲になればすむのか?」
「ああ。」
「なら儂か婆さんがそうしよう。いいじゃろ婆さん?」
「好きにせい。」
「おいおい、さっきのただの冗談だぞ。あんたらを生贄になんて・・・・、」
「じゃあ誰がその役目をやるんじゃ?」
「それが無理だから困ってる。」
「儂らはもう老い先短い。生き甲斐にしようと思っとったUFOもなくなったし、せめて役に立ってから死にたいんじゃ。」
「決断せい、お若いの。年寄りが一人死んであんたらが助かるんだ。気にせんでも恨んだりせん。」
「そういう問題じゃない。人の命を犠牲にするなんて出来ないと言ってるんだ。」
そう答えると、由香里君も「そうですよ!」と頷いた。
「老い先がどうとか関係ないです。だってお爺さんとお婆さんにはお孫さんがいるじゃないですか。
二人が亡くなったらきっと悲しみますよ。」
「なあに、正月と盆にしか会わん孫じゃ。儂らのことなんざすぐ忘れる。」
「そんな・・・・、」
「それに会っても小遣いせびるだけだからな。それでも可愛いからついついあげちまうんだが。」
「だからって生贄なんてダメですよ!そんなの絶対ダメです!」
由香里君は必死に首を振る。
二人の手を掴んで、「そんなの許しませんからね!」と言った。
「ふうむ・・・こうなったらやることは一つしかない。」
俺は後ろを振り返った。
「成美さん、悪いがここで死んでくれ。」
「なんてこと言うのよ。私は嫌よ。」
「5年分定期購読してやるから。」
「命あっての商売よ。死んだら一銭の得にもなりゃしないわ。」
「やっぱりダメか・・・・。」
「そこまで言うなら久能さんが生贄になればいいじゃない。」
「いや、俺がいなくなると由香里君の就職先がなくなるわけで・・・・、」
「ウチで雇ってあげるわ。」
「由香里君をオカルトに染める気か?そんなことは断じて許さん。」
「じゃあ結局誰も生贄は嫌なわけね。」
「ああ。いったいどうしたもんか・・・。」
頭を掻きながら悩んでいると、王様ペンゲンが『俺たちのことはいい』と言った。
「ん?」
『これは元々アンタらには関係のない話だ。』
「そりゃそうだが、あんたたちを見殺しににするのは後味が悪いさ。」
『自分たちでどうにかするよ。』
「出来るのか?もう女王はいないのに。」
『アンタらは甘い。あの人は必ず帰ってくるよ。』
「まさか。宇宙の果てに飛ばされたのに。」
『俺たちは女王のことをよく知ってる。あの程度でどうにかなるような人じゃないんだ。』
「恐ろしいことを言うな・・・・。」
『ま、それはともかく、ペンゲンたちのことは気にしないでくれ。ここを捨てて、どこか他に住める場所を探すから。』
「ほんとにいいのか?」
『辛い道のりだろうが、やるしかないんだ。女王が戻ってくるまで。』
「なんか悪いな・・・・勝手に宇宙へ飛ばしちゃって。」
『気にするな。今までにもこういう事はあったんだ。
悪魔とか死神とかと喧嘩して、マグマの中に落とされたり、月へ縛り付けられたり。
酷い時なんか、地獄の閻魔をブン殴ってこの世に戻ってきた。』
「化け物かよ・・・・。」
『あれでも丸くなった方なんだ。』
「尖った頃の彼女に会わなくてよかったよ。多分俺たちの方が宇宙へ飛ばされてる。」
『まあそういうことなんで、俺たちのことは気にしなさんな。アンタらは自分の国に帰ればいい。』
「それが出来ないから困ってる。何か良い方法はないか?」
『ワームホールがある。』
「なに?」
『ついて来い。』
王様ペンゲンは街の外れに歩いていく。
そこにはプレハブのような小さな建物があった。
「おいこれって・・・・、」
『便所だ。』
「またかよ!」
ペンゲンはドアを開ける。
すると中には和式便器が。
『このトイレは人形塚と繋がってるんだ。』
「そうなの!?」
『あそこの傍にも便所があってな。』
「なんで便所だらけなんだよ・・・。」
『ちなみにこっちからは入れるが、向こうからは入れない。
アンタらが向こうへ帰ったら、この便所は破壊する。
もう二度とあんたらに関わることはないから安心してくれ。』
「そりゃよかった。」
ドアを潜り、便器の前に立つ。
案の定、由香里君は嫌そうな顔をしていた。
「はあ・・・・またトイレの中に入るんですね。」
「古代人の頭は8割ウンコのことを考えてるらしいから。仕方ないさ。」
ポンと肩を叩き、「先に行け」と手を向ける。
「ええ!なんで私が先なんですか?久能さんからどうぞ。」
「いやいや、ここは君に譲るよ。」
「こんなとこで気を遣わないで下さい。久能さんがお先に。」
どっちが先か押し付け合っていると、「儂らが先に行かせてもらうぞ」と爺さんが言った。
「婆さん、便所を通れば帰れるとよ。」
「肥溜めには慣れとる。昔さんざん汲み取ったでな。」
二人は頷き合い、「ほうりゃ!」と飛び込んだ。
「すごいな、なんの迷いもなく行ったぞ。」
「それじゃ私も行くわね。」
「茂美さん・・・あんたも肥溜めを汲み取った経験が?」
「違うわよ、早く帰って今回のことを記事にしたいの。・・・・きっと売れるわよ。」
ニヤリと笑い、便器の中に消える。
「相変わらず逞しい商魂だ。」
あいつはこの世に一人になっても生きていけるだろう。
ある意味古代人以上だ。
「じゃあ・・・私も行きます。」
由香里君も覚悟を決めた。
「気をつけてな。俺もすぐ行くから。」
「じゃあ・・・またあとで。」
泣きそうな顔で便器を見つめる。
目を閉じ、「押忍!」と飛び込んだ。
「みんな行ったな。」
一人残された俺は、ゆっくりと王様ペンゲンを振り返った。
「そろそろ正体を現したらどうだ?」
そう言って睨んでやると、『バレてただしょか』と笑った。
「透視能力が使えることを忘れたか?」
『そういえばそうだっただしょね。』
王様ペンゲンからボワンと煙が上がる。
そして・・・・、
「ティムティム女王、あんたって奴は・・・・、」
『うふ。』
「うふ、じゃないだろ。」
『で、いつからだしょ?』
「ん?」
『わらわがペンゲンに化けてるのを見破ったのは。』
「だから透視能力が使えると・・・・、」
『でも怪しまなかったら使わないだしょ?』
「そうだな。」
『で、いつだしょか?』
「ついさっきだ。」
『さっき?』
「ペンゲンが人形塚のことを知ってるわけがない。」
『どうしてだしょ?』
「どうしてって・・・・ここのペンゲンたちはタムタムやモリモリのことを知らなかったからさ。
あんたがUFOに頭を下げたとき、ペンゲンたちはキョトンとしていた。
いったい誰に謝っているのかと。
そしてあの二人がUFOから出てきた後も、やはり彼女たちが誰だか分かっていなかった。」
『それがなんだって言うんだしょ?』
「人形塚にはタムタム王が眠っていた。土偶の姿となってな。
それを知らないってことは、彼女が封印されていた人形塚の存在も知らないんじゃないかと思っただけさ。」
『なるほど。』
「それにもう一つ気になることが。」
『なんだしょか?』
「あんたはとにかく我が強い。何がなんでも自分が一番じゃないと気が済まない人だ。」
『それくらいじゃないと女王なんて務まらないだしょ。』
「何度も聞いたさ。俺が言いたいのは、そんなアンタがペンゲンたちの目の前で頭を下げるのはおかしいってことさ。」
『どういうことだしょ?』
「ペンゲンたちがタムタムやモリモリのことを知っていたのなら、あんたが衆目の前で頭を下げるのも分かる。
なんたって相手はアトランティスの王と、ムー大陸の大臣だ。
自分に近い身分なんだから、頭を下げたって威信に関わることじゃない。」
『逆だしょ。偉い身分の相手にこそ頭は下げられないだしょ。それこそ威信に関わるだしょ。』
「しかしペンゲンたちは怒っていた。敬愛する女王が、どこの馬の骨とも知れん奴に謝っているんだから。
その結果、暴動にまで発展しかけた。頭の良いアンタなら、この事態を予測できないわけがない。」
『むう・・・結局何が言いたいんだしょ?』
「簡単なことさ。あの時のアンタは本気で謝っていたんだ。」
背筋を伸ばして女王を睨む。
「俺はてっきり演技だと思っていた。だけどそうじゃなかった。
あれは演技に見せかけて、本気で謝っていたんだ。
わらわのせいで辛い思いをさせてしまった・・・申し訳なかったって。」
『そりゃ買いかぶりだしょ。本気謝るつもりなら、とっくの昔にそうしていただしょ。』
「それこそ無理さ。なぜならタムタムは土偶となって封印され、モリモリは重度の引きこもり。謝るチャンスはなかった。
だけどとあるオカルト編集長のせいで、事態は一変したんだ。」
『あのアホが封印の古文書を取ってしまっただしょからね。あの時は呪い殺してやろうかと思ったほどだしょ。』
「そのせいで土偶は目覚め、再び人形戦争が起きようとした。
あんたはそれを防ぐ為に、俺や由香里君を利用したわけさ。」
『利用ってのは言い過ぎだしょ。』
「でも実際にそうじゃないか。俺に瞬間移動能力を与え、ついでに超能力もパワーアップしてくれた。
だけどしょせん俺はただの人間、アトランティスの王に勝てるわけがない。」
『あれだけ力を与えてやったのに、お前はボロ負けだっただしょな。使えん奴だと思っただしょ。』
「このままでは再び人形戦争が起きてしまう。それを危惧したあんたは、わざとあの街から消え去った。
わらわに会いたければ、南極まで来いと書置きを残して。」
『だしょ。』
「その書置き通り、俺たちはここへやってきた。
じゃあなんでわざわざこんな場所に呼び寄せたのかというと、ミスコンを開催する為だろう?」
そう尋ねると、わずかに眉が動いた。
「あんたはタムタムを止める為に、重度の引きこもりであるモリモリまで連れ出した。
きっと激しく抵抗されたと思うが。」
『命懸けだっただしょね。モリモリは一流の魔術師だったから。』
「あんたの目論見通り、モリモリとタムタムを引き合わせたことで、争いは止まった。
しかしこのままではタムタムは死んでしまう。彼女は美少女の姿に戻ると、すべてのエネルギーを使い果たしてしまうから。」
『・・・・・・・。』
「そしてモリモリもまた死のうとした。タムタムと再会したことで、彼女と一緒に心中を図ろうとした。
このままでは二人とも消えてしまう。
そうなれば、心に深い傷を抱えたままあの世へ旅立つことになってしまう。
あんたはそれをどうにか止めたかったのさ。」
女王の眉がまた動く。
俺がいったん口を閉じると、すぐに表情を戻した。
『・・・・・続けろだしょ。』
「あの二人はあんたの友達だった。心を許せる数少ない親友だった。
だけどあんたはとにかく我が強いから、そのせいで二人を深く傷つけてしまった。
しかも今さら謝ったところで傷は消えない。
かといってこのまま消えていくのを見送るのは胸が傷む。
それなばら、もう一度ミスコンを開催するしかない。
そしてあの二人に花を持たせることで、心の傷を取り除いてやろうとしたんだろう?」
『ずいぶん好意的な解釈だしょな。わらわがそんな善人だと思うだしょか?』
「でもそれ以外にミスコンを行う理由が思いつかない。
提案したのは俺たちだが、あれも計算のウチなんだろう?」
『さあ、どうだしょかな。』
「タムタムとモリモリを助けるには、あんたの力が必要だ。
でも俺たちは正面から挑んで勝てない。だったら勝負の方法を考える必要がある。
力で戦うのではなく、もっと別の方法で・・・・、」
『そういうのはもういいだしょ。』
これ以上無駄な説明はいらないという風に、小さく首を振った。
『屁理屈の言い合いしても意味ないだしょ。さっきから色々言ってるけど、結局は何が言いたいんだしょ?』
「だから単純なことさ。あんたはあの二人に謝りたかった。そして心に抱えた傷をどうにかしてやりたかったんだ。
あんたならタムタムに力を与え、命を長らえさせることは出来ただろう。
しかしそれをやってしまうと、さらにあの二人を傷つける可能性がある。」
『タムタムの恨みは200万年も続いているんだしょ。謝ったところでどうにもならないだしょ。
きっと恨みに突き動かされて、また人形戦争を起こしてしまうだしょ。
そうなれば古代人だけの問題ではすまないだしょ。』
「そう、だから助けてやることは出来ない。となれば、せめて心の傷を癒してやることしか出来ないわけが・・・・。
その為のミスコンさ。あんたはあえて悪者を演じ、最後の最後で痛い目に遭うというシナリオを描いた。
そうすればあの二人は溜飲を下げ、心安らかに旅立てるだろうから。」
『・・・・・・・・。』
「そのお膳立てをする為に、またしても俺と由香里君が利用されたわけだ。
あんたの演じる悪役、それにまんまと引っかかって、不正を働くんじゃないかと疑った。
だけどそれでよかったんだ。ああいう展開にもっていけば、会場は混乱する。
ペンゲンたちの敵意は俺たちに向き、それを止めようとタムタムとモリモリが奮闘した。
そしてあんたはUFOに乗って宇宙へGO。
あの二人はあんたの描いたシナリオ通り溜飲を下げたんだ。」
女王は何も言い返さない。
クルリと背中を向けて、街へ歩き出した。
「ティムティム女王。」
呼び止めると、チラリと振り返った。
「あんたは強いな。例え自分に原因があるにせよ、200万年も友に恨まれていた。
それにも関わらず、あの二人をどうにかしてやろうと頑張った。」
『買いかぶりだしょ。』
「それにここにいるペンゲンたち、ちゃんとみんなの面倒を見ている。
行き場を失った古代人たちに居場所を与えてやっている。」
『女王の責任を果たしているだけだしょ。』
「もう一度言う、あんたは強い。」
素直な気落ちでそう言った。
俺としては賛辞のつもりだったのだが、女王は俯いた。
『強いっていうのは、寂しいことでもあるだしょ。対等に話せる相手がどこにも・・・・、』
そう言いかけて口を噤んだ。
『探偵。』
「なんだ?」
『この事はお前の胸にしまっとけだしょ。』
「ベラベラ人に喋ったりしないさ。でも由香里君には知る権利がある。彼女だってこんな珍事に巻き込まれたんだから。」
『ダメだしょ。』
「どうして?」
『あの小娘は優しいだしょ。きっとわらわに同情するだしょ。』
「いいじゃないか、同情だって立派な情けだ。人の情けが幸せだって、日本昔話でも歌って・・・・、」
言いかける俺の言葉を遮るように、女王は険しい目で睨んだ。
『わらわは26代目ムー大陸の女王、ティムティムだしょ。同情などいらんだしょ。』
仁王立ちしながら、大地に杖をつく。
その目は力強く、威風堂々としたオーラを放っていた。
見た目は子供でも、中身は比類なき王。
俺は「悪かった」と頭を下げた。
「この事は誰にも言わない。」
そう答えると、クスっと微笑んだ。
『もう用はないだしょ。さっさと帰るだしょ。』
「もちろん帰るさ。でもその前にもう一つ聞きたいことがある。」
『なんだしょ?』
「ここはダメになるんだろ?本当に行くあてがあるのか?」
『・・・・そうだしょな。地球も古代人にとっては住みづらくなってきただしょから・・・。』
遠い目で空を見上げる。
『今度は火星にでも住むだしょかな。』
そう言って杖を掲げると、カボチャのUFOが飛んできた。
「なあ、まさかとは思うが・・・・、」
『これは宇宙人の乗り物ではなく、古代人の乗り物なんだしょ。』
「やっぱり・・・・。あんたほど頭の良い人が、茂美のハッタリに騙されるのはおかしいと思ったんだよ。」
女王はしきりにUFOを怖がっていたが、あれも演技だったようだ。
ハッチが開き、中から王様ペンゲンが顔を出す。
その傍にはあの宇宙人一家がいた。
「斎藤さんじゃないか!」
「お〜い!」と手を振ると、斉藤さんたちは煙を上げた。
「・・・・ペンゲンに変わった。」
『ちょっと魔術を。』
「あんた・・・宇宙人まで仕込んでたのか?」
『何があるか分からんだしょからね。色々用意しとかないと、不測の事態に対応できないだしょ。』
「じゃあ他にも何か用意してたのか?」
『ネッシーとかミステリーサークルとか、それに雪男とか恐竜とか。
色んな場所に待機させておいただしょ。どれかが上手く引っかかってくれれば、おバカさんをここまで誘導しやすいだしょから。』
「要するに俺みたいな奴を利用する餌ってことだな?」
『だしょ。あのオカルト編集長とか。』
「そこまで手の込んだことをしてたのか。あんた・・・・本当にあの二人の傷を癒してあげたっかったんだな・・・、」
『同情はいらんと言ったはずだしょ。』
「こりゃ失敬。」
女王は杖を振る。
するとどこからともなく無数のUFOが現れた。
カボチャだったりニンジンだったりトマトだったり、どれも野菜のUFOばかりだ。
『これに乗って宇宙へ行くだしょ。新たな住処を求めて。』
古代都市にいたペンゲンたちが、UFOの中に吸い込まれていく。
王様ペンゲンが『女王様もお早く』と手招きした。
『というわけだしょから、ここはもう閉鎖だしょ。』
そう言って杖を掲げると、辺りがグラグラと揺れた。
「お、おい!なんだこりゃ・・・・、」
『海底火山の活動を早めたんだしょ。もうじきここはマグマに飲み込まれるだしょ。』
「そんな!」
『タムタムたちと同じ場所に行きたくなければ、とっとと帰るだしょ。』
そう言い残し、UFOへ飛んでいく。
「女王!またいつか会おう!」
『もう会うことはないだしょ。』
映画、コマンドーのメイトリックスばりに決め台詞を吐く。
古代人たちを乗せたUFOは、ピカピカと点滅する。
そして手品のように一瞬で消えてしまった。
「さらばだ、古代人たちよ。」
誰もいなくなった空に手を振る。
その瞬間、地割れが起きてマグマが噴き出した。
「とっとと帰らないと、俺もマグマの中に沈んでしまうな。」
マグマに飲まれていく古代都市。
ここには確かに古代人たちがいた。
もう二度と会うことはないだろうが、「またな」と呟きかける。
俺は俺で待っている人がいるわけで、早く彼女たちの元へ行かないと。
沈みゆく古代都市に背を向け、便所の穴に飛び込んだ。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十六話 さらば古代人よ(2)

  • 2017.07.28 Friday
  • 08:31

JUGEMテーマ:自作小説

漫才を終えた俺は、ふうっと冷や汗を拭った。
《緊張したあ・・・・。ていうか一人二役は疲れる。》
恐る恐る顔を上げ、観客たちを見る。
するとみんな泣き崩れていた。
「なんで!?」
『うう・・・・いい話だしょ。』
「女王まで!?」
口元を押さえながら、顔を涙でグショグショにしている。
するとUFOの中からも泣く声が聴こえた。
『いい話もす・・・・。』
『感動したもり・・・。』
「なんなんだこいつら・・・・。」
ちょっとばかし気味が悪くなる。
今の漫才のどこに感動する要素があったのか?
俺の狙いとしては、笑いで気持ちを和ませつつ、古代人と現代人が理解し合えないことを伝えたかっただけなのに。
マネキンを現代人、土偶を古代人と置き換えて、永遠に交わらない二人の会話を演じたつもりだ。
理解し合えない者同士は、下手に関わらない方がいい。
古代人には古代人の考え方があって、現代人には現代人の考え方がある。
今までティムティム女王やペンゲンたちを見ていて、俺たちは永久に分かり合えないと思った。
それならば、今後一切俺たちは関わるべきではないと伝えたかったのだ。
茂美のアホが古代の人形を蘇らせ、それが元で今に至る珍事が起きている。
正直なところ、もうこいつらとは関わりたくない。
だからモリモリとタムタムが助かったら、二度とこんな場所には来たくない。
そして土偶や埴輪にも関わりたくはない。
ただの人形ならいざ知らず、古代人の魂が宿った人形など、トラブルの元でしかないのだ。
《俺が伝えたかったのは、お互いに一線をたもちつつ、この地球で暮らしていきましょうってことだ。
それを分かりやすく伝える為に、漫才という形を取っただけなんだけどな。》
ウケるか?
それともスベるか?
どちらかの反応しか予想していなかった。
なのにどうしてみんな泣いているのか?
《古代人の気持ちはよく分からん。》
頭を掻きながら困っていると、ティムティム女王が握手を求めてきた。
『探偵、久能司・・・。感動的な寸劇だっただしょ。』
「そ、そうか・・・。寸劇ではなく漫才のつもりだったんだが、喜んでもらって何よりだ。」
『ぐふう!まさか・・・・まさか現代人にもわらわたちの気持ちを理解してくれる人がいたなんて。』
「はい?」
『うう・・・・ぐふう!』
「あの・・・・なんでそんなに泣いてるんだ?」
『笑ってるんだしょ。』
「笑ってたの!?なんで?」
『だってわらわたち古代人は、一日の8割をウンコのことを考えて過ごしてるから・・・・、』
「ええ!?ただのネタなのに事実だったのか!」
『さっきの寸劇・・・土偶を古代人、マネキンを現代人に見立てたんだしょ?』
「ああ。二つの種族は分かり合えないってことを伝えたかったんだ。
そして今後はお互いに関わらないようにするべきだと・・・、」
『何言ってるだしょか!わらわたちは理解し合えるだしょ!』
「なんで!?どこをどう見てそう思うんだ!」
『だってウンコのことを考えてたのはマネキンの方だしょ。だったら現代人がウンコのことを考えてるってことになるだしょ。』
「・・・・・・あ。」
『しかも一日に8割も・・・・・ぶははははは!!』
「笑うんじゃない!あれはただの漫才であって、現代人はウンコのことなんて・・・、」
『お前たちは仲間だしょ。これからも仲良くするだしょ。』
「今までも仲良くした試しはないだろ!」
予想外の結果になってしまった。
古代人は誰しもが笑い転げ、喜び、ウンコを叫ぶ。
『ウンコ〜!』
『ウンコ探偵!』
《誰がウンコ探偵だ!》
嬉しくない結果に終わってしまった。
しかし心象は悪くないようだ。
《これなら勝てるかもしれないな。》
観衆のハートはガッチリ掴んだ。
そう思って喜んでいると、「久能さん!」と誰かがやってきた。
「おお!由香里君!」
すっかり元気になった由香里君が、「やりましたね!」とはしゃぐ。
「みんな大喜びですよ!」
「残念ながら。」
「何を落ち込んでるんですか!これなら絶対に勝てますよ!」
「だといいが・・・、」
チラリと女王を振り返ると、まだ笑っていた。
しかし目の奥には不敵な光が宿っている。
《こいつ・・・絶対に不正を働くな。》
ミスコンの勝者は投票で決まる。
その時、この女王は必ず不正を仕掛けてくるはずだ。
なんたって超がつくほどの負けず嫌いなので、どんな手を使ってでも勝ちにくるだろう。
司会がマイクを握り『最高のパフォーマンスをありがとう!』と叫んだ。
『以上でミスコンは終わりだ!今から投票を開始する!みんなが良かったと思う方の名前を書いて、投票箱に入れてくれ。』
ステージの前に設置された箱に、ペンゲンたちが票を入れていく。
それと同時に、女王はステージの脇へはけていった。
「久能さん・・・・。」
「ああ、何かやらかすつもりだ。」
「ここまで頑張ってきたんです。不正で負けるなんて絶対に嫌ですよ。」
「分かってるさ。こんな時の為に超能力があるんだからな。」
投票箱の前には行列が出来ている。
すべてのペンゲンが投票を終えるまで、10分ほどかかった。
『さあて!それでは集計に入るぜええ!果たして優勝するのは女王か?それとも由香里ちゃんか?
みんなちょっとばかし待っててくれ!』
司会は箱から票を取り出して、ステージの上で数えていく。
それと同時に、俺は透視能力を使った。
眉間に意識を集中させて、ステージの周りの様子を探る。
すると・・・・、
「やっぱりか。」
ステージの裏側に女王の姿が見える。
傍には一匹のペンゲがいて、女王から何かを渡されていた。
《あれは投票用紙。それもかなりの数があるな。》
さらに透視を続けると、投票用紙に書かれた名前が見えてきた。
『ティムティム女王様』
そう書かれているのが分かる。
大量のその用紙を受け取ったペンゲンは、代わりに女王から金貨をもらっていた。
《賄賂で勝利するつもりとは・・・心底腐ってやがる。》
買収されたペンゲンが、俺たちのいるステージへ現れる。
そしてゆっくりと司会の方へ近づいていった。
背中を向け、手にした投票用紙が見えないように隠しながら。
そいつはヒソヒソと司会に話しかける。
そしてこっそりと金貨を渡した。
「今だ!」
ガバっと飛びかかり、不正の現場を押さえた。
「おいお前たち!これはなんだ!?」
ペンゲンの手から投票用紙を奪う。
『な、なんだいきなり・・・、』
うろたえるペンゲン。俺はニヤリと笑った。
「こいつは不正な投票用紙だ。金貨と引き換えに、票を操作するつもりだったな?」
『馬鹿なことを。』
「認めないつもりか?」
ペンゲンは何食わぬ顔でふんぞり返っている。
「ようし、だったら不正の証拠をみんなに公表しちゃおうじゃないの。」
投票用紙と金貨を持って、観衆を振り返る。
「みなさん!こいつら悪いことしてますよ!なんと金貨と引き換えに票を操作しようとしたんです。」
そう言って「見て下さい!」と不正な用紙を掲げた。
「ここにたくさんの投票用紙があります。これは投票箱の中に入っていたものではありません。
そこのペンゲンが金貨と引き換えに、女王から受け取ったものです。」
会場がざわめく。
俺は勢いよく続けた。
「この用紙にはティムティム女王の名前が書いてあります。
おそらく自分で書いたのでしょう。ほら、見て下さい!」
用紙を広げ、観衆に見せようとした。
しかし・・・・・、
「・・・・・・・。」
「どうしたんですか?」
由香里君が首を傾げる。
「早くみんなに見せてあげて下さい。女王の不正を暴かないと。」
「無理だ・・・・。」
「どうしてですか?」
「見てごらん、えらいことになってる。」
由香里君に投票用紙を渡す。
すると「なんで!?」と絶叫した。
「これ・・・私の名前じゃないですか!」
「ああ・・・・。」
「だってさっきはティムティム女王の名前が書いてあったんでしょ?」
「透視した時はな。おそらくだけど、どこかですり替えたんだ。」
「すり替える?」
「女王は予測していたんだと思う。投票の瞬間、俺たちが彼女の不正を疑うことを。だから・・・・、」
「だから・・・・私たちの方がハメられたってことですか?」
「ああ。俺が透視していることに気づいていたんだ。きっとそこのペンゲンがどこかで票をすり替えたに違いない。」
「そんな・・・まさかそこまでするなんて・・・、」
「ちなみにこの金貨も偽物だ。」
「え?」
由香里君の手に金貨を落とす。
「あれ?これってもしかして・・・・、」
金貨の表面に爪を立てる。
中から茶色い塊が出て来て、一口齧った。
「・・・・チョコレート。」
「票はすり替えられ、金貨はただのお菓子。こんなものを観衆に見せたら・・・・、」
「逆に私たちが不正しようとしたんじゃないかって疑われる?」
「そこまでいかなくても、票の集計を妨害したと見なされるだろう。最悪は失格になるはずだ。」
「そんな!せっかくここまで戦ってきたのに・・・。」
由香里君は悔しそうに唇を噛む。
観衆はさらにざわめいて、『何があったんだよ!』とヤジを飛ばし始めた。
『さっさと集計しろよ!』
『どっちが勝ったの!女王?現代人の女の子?』
『もったいぶってねえで早く発表しろ!』
《まずいな・・・・せっかく漫才で心を掴んだのに。》
攻勢が一転して、崖っぷちに追い詰められる。
その時、背後から冷たい視線を感じた。
「・・・・女王。」
ステージの袖から女王が覗いている。
その顔は悪どい笑みに満ちていた。
《おのれ女王・・・・。》。
司会がマイクを掴み、俺たちに詰め寄る。
『あんたら、これはどういうことだ?』
「いやあ、これはその・・・・ちょとした勘違いというかだな・・・、」
『集計を妨害するとはいい度胸だ。そんなに負けるのが嫌だったか?』
そう言うと、由香里君が「それは女王の方でしょ!」と怒った。
「票を操作して不正を働こうとしたんだから!」
『なんだと?』
「久能さんが超能力で見てたんだから!」
『では証拠を見せろ。』
「その証拠をすり替えられたの!」
『なんだそりゃ?言いがかりもいいとこだな。』
司会はクスっと肩を竦める。
由香里君は「あんただってグルのくせに!」と怒鳴った。
『なにい!?俺がグルだと!』
「だって金貨を受け取ろうとしてたじゃない!実際にはお菓子だったけど、私たちを騙す為に一芝居打ったんでしょ?」
『馬鹿なことを!私はそんなことはしていない。』
「嘘よ!絶対にあなたも・・・、」
「よせ由香里君。」
「久能さん・・・・どうして止めるんですか!」
「おそらくだが、その司会は何も知らない。」
「そんなはずありませんよ!だってこの人が協力しなきゃ不正はできな・・・・、」
「さっきも言っただろ?俺たちはハメられたんだ。」
「分かってますよそんなの!だからって黙ってるわけには・・・・、」
「落ち着いて聞け。」
ポンと肩を叩く。
「俺たちはこう思っていた。『女王は必ず不正をするはずだ』と。しかしそう思い込んでいるのを逆手に取られた。
女王の本当の目的は不正ではなく、俺たちを空回りさせて、集計を妨害しているように見せかけることだったんだ。」
「だから分かってます!でもそれは女王の策略で・・・、」
「その策略を司会のペンゲンは知らないはずだ。あえて事実を伝えないことで、俺たちを責めるように仕向けてるんだ。」
「でも!さっきは金貨を受け取ってたじゃないですか!実際はただのお菓子だったけど、何も知らないなら受け取るはずがありませんよ。」
「きっと女王からの差し入れですとかなんとかいって渡されたんだろう。」
「そんな・・・そんなのって・・・、」
「そう考えると、金貨を渡したペンゲンも何も知らない可能性が高い。
ここにいるすべてのペンゲンが、俺たちの方を疑ってるはずさ。」
「なんて人・・・・そこまで計算してたなんて。」
怒りを通り越し、半ば放心状態になっている。
そこへティムティム女王がやってきて、ニヤリと笑った。
『どうしただしょか?』
『ああ!ティムティム様!』
司会が事情を話す。
『なるほど・・・・わらわが不正しようと企んだと。』
『しかし証拠は何もありません。ただの言いがかりでしょう。』
『当然だしょ。不正なんてしなくても、わらわがそんな小娘に負けるはずないだしょ。』
ニヤニヤ笑いながら杖を向けてくる。
人を馬鹿にしたその表情・・・思わずぶん殴ってやりたくなる。
「このッ・・・・いい加減にしなさいよ!」
「よせ由香里君!いま飛びかかったら確実に失格だ!」
「じゃあどうすればいいんですか!?このままじゃ私たちは負けちゃいます。
そうなったらタムタムもモリモリも助からな・・・・、」
『もう充分もす。』
どこからか声が響く。
『これ以上私たちの為に傷つく必要はないもす。』
「この声はタムタム!」
空にUFOが浮かんでいる。
その上に美少女の姿に戻ったタムタムとモリモリが立っていた。
『探偵よ、お前は充分戦ってくれたもす。』
「何を言ってるんだ。このままでは君は消えてしまうんだぞ?」
『とうの昔に尽き果てているはずの命もす。ここらで死ぬのも悪くないもす。』
「馬鹿なことを。命を粗末にしてどうする。」
『もう充分生きたもす。ね、モリモリ。』
『探偵殿が漫才で伝えようとしたこと、すごく胸に響いたもり。』
「モリモリ・・・・。」
『そなたの言う通り、古代人と現代人は関わらない方がよさそうもり。』
そう言ってタムタムと手を繋ぐ。
『私たちはあの世へ旅立つことにするもす。』
『だけどその前に・・・・やるべきことがあるもり!』
二人は土偶とマネキンに変わる。
そしてティムティム女王に飛びかかった。
『な、何するだしょか!』
『私たちの最後のエネルギーを使って、お前を封印するもす。』
『封印!?』
『再び埴輪に戻るもり!』
『や、やめるだしょ!誰か助けるだしょ!』
女王は必死に叫ぶ。
するとペンゲンたちが『女王様を救い出せ!』とステージへ上がってきた。
しかしそこへUFOが降りてくる。
「暴れるならこの街ごと吹き飛ばすわよ?」
ピカピカと点滅するUFO。
ペンゲンたちは慌てて逃げ出した。
『こらお前たち!わらわを助けるだしょ!』
『ごめんなさい!まだ死にたくありません!』
『わらわがいなくなったら、誰がここを治めるんだしょ!?』
『そんなこと言ったって、さっきは俺を盾にしようとしたじゃないですか!』
『そうですよ!私たちは女王様の身代わりじゃありません!』
『ぐぐう〜・・・・今まで世話をしてやったのに・・・・この恩知らずども!』
女王の目が黒く染まる。
おぞましい殺気が溢れて、古代都市の中を包んでいった。
しかしタムタムとモリモリも本気を出す。
土偶は目からビームを撃ち、マネキンは『てい!』とチョップをした。
『ぐぎゅうッ・・・・、』
『ティムティム、もう終わりにするもす。』
『大人しく人形に戻り、永遠の眠りにつくもり!』
土偶とマネキンは呪文を唱え始める。
『ぐあああああ!やめろだしょ!』
女王は耳を塞いで苦しむ。
毒でも打たれたよに、七転八倒にのたうち回った。
『わらわにこんな事してタダで済むと思ってるだしょか!』
可愛い顔が鬼のように歪む。
『呪ってやる!何もかも呪ってやるだしょ!!』
鬼を通り越し、悪魔のような顔になる。
彼女の歪んだ性格が、そのまま表情に現れていた。
しかし土偶とマネキンは手を緩めない。
ひたすら呪文を唱え続ける。
『ぎゃああああああ!やめるだしょ!もう・・・・身体が・・・たもて・・・な・・・・、』
女王はカランと杖を落とす。
そのまま倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。
そして・・・・、
『今もす!』
『埴輪に戻るもり!』
二人は古文書を掲げる。
一つは稲妻の古文書、もう一つは冷気の古文書だ。
二つの古文書から、稲妻とブリザードが放たれる。
『ぴぎゃッ!』
女王はビクンと反り返る。
そして・・・・とうとう埴輪に戻ってしまった。
『今こそ封印のチャンスもす!』
『永久に眠るがいいもり!』
埴輪に戻った女王を、二つの古文書でグルグル巻きにする。
そこへUFOが飛んできて、茂美と爺さんと婆さんが降りてきた。
「自動運転の設定は出来てるわ。いつでも飛ばせる。」
土偶とマネキンは頷き、古文書でグルグル巻きにした埴輪を抱えた。
『もはや地球に我らは必要ないもす!』
『宇宙へ飛んでいけもり!』
二人して『どおおおりゃああああ!』と埴輪を投げた。
吹っ飛んでいく埴輪は、上手いことUFOの中に入っていく。
そしてスーパーボールをぶつけたみたいに、カコンガコンとUFOの中を跳ねた。
『茂美殿!』
『奴めを宇宙へ!』
「任せて。」
茂美はリモコンのような物を操作する。
するとUFOは高く舞い上がり、古代都市を覆う南極の氷を貫いて、地表へと飛び出した。
「さようなら、ティムティム女王。」」
茂美はピっとボタンを押す。
UFOはピカピカと点滅して、一瞬にしてどこかへ飛び去ってしまった。
「・・・・どこ行っちまったんだ?」
「宇宙よ。」
「宇宙・・・。成美さん、あんたあのUFOに何かしたのか?」
「自動操縦を設定しておいたの。あとはこのリモコンで発進させるだけ。」
「なるほど・・・。でもまた戻ってきたりしないか?」
「それはないわ。自動操縦はこのリモコンがないと解除できないから。」
「ならティムティム女王は・・・・、」
「ただっ広い宇宙を延々と旅することになる。二度と戻って来られないわね。」
そう言ってクスっと微笑んだ。
「今頃リモコンの電波も届かない所にいるだろうから、地球へ戻る手段はないわ。これで一件落着。」
「あんたが一番の悪魔だよ・・・・。」
俺も由香里君もゾっと鳥肌を立てた。
そこへ土偶とマネキンがやってきて、『迷惑をかけたもすな』と言った。
『ティムティムは去り、私たちも消えるもす。』
「やはり君たちは死んでしまうのか?」
『もう充分生きたもす。』
『唯一の心配事だったティムティムもいなくなったし、そろそろあの世へ旅立つもり。』
二人は手を繋ぎ、ゆっくりと消えていく。
「おい待て!まだ逝くな!」
『同情はいらないもす。』
『探偵殿、最後まで共に戦ってくれて感謝するもり。』
「だから逝くな!まだアンタたちが必要なんだ!」
『そんなことないもす。』
『私たちの役目はもう終わったもり。』
『生まれ変わったならまた会おうもす。』
『ずっとこの世が平和であることを願ってるもり。』
二人は微笑む。
手を振りながら『さようなら』と消えていった。
「おい待て!」
手を伸ばしても、もうそこには誰もいない。
「久能さん・・・・・。」
由香里君が切ない顔で呟く。
俺は「分かってる」と頷いた。
全ては終わった。
悪しき女王は遠い宇宙へ消え去った。
だがそのせいでUFOも失った。
それに瞬間移動だってもう出来ない。
「どうやって帰ればいいんだ・・・・。」
ここは南極。
地球の真下に位置する極寒の大陸。
パンツ一丁だったことを思いだし、「ぶえっくし!」とクシャミが出た。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十五話 さらば古代人よ(1)

  • 2017.07.27 Thursday
  • 09:32

JUGEMテーマ:自作小説
パンツ一丁で人前に出るなんていつ以来だろう?
小学生の頃にウンコを漏らした時が最後か。
ていうかそんな事はどうでもいい。
どうして俺がミスコンに出場しなければいけないのか?
いくら由香里君の頼みとはいえ、この状況は辛すぎる。
《なんて説明すればいいんだこんなの・・・・。》
観衆の目が冷たい。
南極のブリザードよりも寒い。
「ええっと・・・・・、」
しどろもどろになっていると、『ぶふッ!』と笑い声が聴こえた。
《女王の奴・・・・笑ってやがる。》
一瞬イラっとしたけど、この格好じゃ笑われても仕方ない。
だってなあ・・・ミスコンにパンツ一丁のオッサンって。
司会が困った顔で『あの・・・』とマイクを向けてくる。
『さっきの女の子は?』
「実は体調を崩してしまってな。今は休んでる。』
『なら棄権ということで?』
「いいや、棄権はしない。」
『でも体調が悪いんでしょ?』
「俺が代理を務める。」
『・・・これミスコンですよ?』
「そうだ。」
『あんたオッサンだよな?』
「見れば分かるだろう。」
『しかもなぜパンツ一丁なんだ?』
「事情があるんだ。深く聞かないでくれ。」
『まあどっちにしても男は出場できないから。棄権ってことでいいな?』
「そこをどうにかしてもらえないか?」
『無理だろ・・・。誰がオッサンの裸を見て喜ぶんだよ。』
会場は白けきっていて、スマホをいじっている奴もいる。
《クソ!やはり無理があったか・・・・。》
寒いわ恥ずかしいわで、今すぐここから消えたくなる。
・・・・いや、この突き刺すような冷たい視線、案外クセになるかも・・・、
『いいだしょよ。』
女王が前に出て来る。
『特別にお前の出場を認めるだしょ。』
「本当か!?」
喜ぶ俺だったが、司会は異論を挟んだ。
『お言葉ですがティムティム様、ミスコンにオッサンを出すのはどうかと・・・、』
『わらわが許可するだしょ。』
『しかし女王様は参加者ですから、ルールを変えることは出来な・・・・、』
『明日から雑用係になりたいだしょか?』
『OKベイベ〜!そこの男性、特別に出場を許可しよう!』
《なんて理不尽な上司だ。》
少しばかりこの司会が可哀想になる。
でもしょせんは他人事。
俺は俺自身と由香里君の為に戦うだけだ。
『ではオッサン!あなたのメッセージをみんなに伝えちゃって下さい!』
「オッサンではない。探偵の久能司だ。」
一歩前に出て、観衆を睨みつける。
「まずお詫びしたい。実は由香里君が体調を崩してしまって、俺が代理で立つことになった。」
・・・反応はない。
誰もオッサンのパンツ姿など見たくないようだ。
「気持ちは分かる。あの水着の美女はどこへ行ったのか?
どうして代理がパンツ一丁のオッサンなのか。色々不満はあるだろう。」
『ぶふッ!』
また女王の笑いが聴こえる。
ニヤニヤしながら、余裕の笑みで見つめてくる。
もはや勝利を確信しているようだ。
《なんて嫌味な顔だ。》
苛立つ気持ちを堪え、「ううん!」と仕切り直した。
《さて、パンツ一丁のオッサンが何を喋ったところで、誰も心を動かさないだろう。
正直なところ棄権していた方がマシだったかもしれない。》
観客の白けようは、南極を超える絶対零度のよう。
心象は最悪だろう。
・・・であればどうするか?
《由香里君は俺にバトンタッチした。だったら俺も、誰かにバトンタッチすればいいだけだ。》
ニヤリと笑いながら、「そこのお二人」と振り向く。
「どうだい?ここは一つ、君たちも参加してみないかね?俺の代理ということで。」
タムタムとモリモリにそう尋ねると、女王が『それはイカンだしょ』と言った。
『これ以上ルールを変えることは出来ないだしょ。』
「でも俺の参加は認めてくれたじゃないか。」
『ルールの変更は一度きりだしょ。』
そう言って司会を睨むと、『その通りでございます!』と頷いた。
『これ以上ルールの変更を求めるなら、この場で失格になりますよ。』
「そう硬いことを言わずに。」
『ダメです。』
「どうしても?」
『どうしても。』
司会は頑として譲らない。
なぜなら彼の後ろで女王が睨んでいるから。
しかし女王の隣にいる土偶とマネキンは、『面白そう!』とハモった。
『ねえティムティム、私たちも参加させてほしいもす。』
『せっかく仲直りしたんだし、出てもいいもり?』
『イカンだしょ。これ以上のルールの変更は認めないだしょ。』
『ふう〜ん・・・そういうこと言うもすか。』
『ティムティムちゃん、私たちのことを怖がってるみたいもり。』
二人はクスクスと笑う。
そして一言、『ダサ』と言い放った。
『んなッ・・・・ダサいだしょと!?』
『だって私たちのことビビってるもす。』
『ビビってなんかいないだしょ!』
『顔が真っ赤。やっぱり怖いもり?』
『違うだしょ!これ以上ルールの変更を認めたくないだけだしょ。
そうポンポンとルールを変えてしまったら、大会そのものが滅茶苦茶になってしまうだしょ。』
『ルールかあ。だったら仕方ないのかな。』
『そうだしょ。ルールだしょ。』
『でもティムティムちゃん、昔のミスコン大会ではルールを守らなかったもり?』
『は?何を言ってるだしょか?わらわは公平な戦いをしただしょ。』
『あなたが当選すれば、民は半年間の税金の免除があったもり。』
『それに私に生牡蠣を送って、食中毒で棄権させたもす。』
『そんな大昔のことなど知らんだしょ。』
『あ!もしかしたら、由香里ちゃんが棄権したのもティムティムのせいなんじゃ・・・、』
『違うだしょ!わらわは何もしていないだしょ!』
『本当かなあ?』
『本当だしょ。疑うんなら好きなように調べればいいだしょ。』
そう言ってツンとそっぽを向く。
『ねえモリモリ、ティムティムはやっぱり私たちのことが怖いみたいもす。』
『そうみたいね。だったら・・・強制参加しちゃおうかもり?』
二人は頷き合い、ピカっと光って人の姿に変わった。
どちらも女王に負けず劣らすの美少女だ。
『こらお前たち!勝手な真似は許さんだしょよ!』
女王は怒る。
しかし二人はそれを無視して、観衆に手を振った。
『アトランティスの王タムタムもす!』
『イエ〜イ!!』
『私はムー大陸で大臣をやっていたモリモリもり。』
『可愛い〜!!』
『私たち!』
『今からミスコンに参加します!』
『おおおおおおお!!』
美少女が二人増えたことで、会場は大盛り上りだ。
『というわけもす、女王陛下。』
『みんなウェルカムムードもり。』
『もし私たちの参加を拒否したら、また女王陛下のイメージが悪くなるもす。』
『来年あたりには、女王が入れ替わってるかもしれないもり。』
不敵に笑う二人の女。
女王は『むぎぎぎ〜・・・・』と歯ぎしりをした。
『お前たち・・・・覚えてろだしょ。後で絶対に酷い目に遭わせてやるだしょ。』
『え〜?なに〜?聴こえない〜もす。』
『もっと大きな声で言ってほしいもり。』
こんなこと大声言えるわけがない。
女王は『うぐうッ・・・・・』と悔しそうにした。
『・・・・・・・。』
『ティムティムちゃん?』
『参加・・・・してもいいもり?』
『・・・・勝手にしろだしょ。』
耳まで真っ赤にしながら、プイっと背中を向ける。
『というわけで〜!』
『私たちも参加するもり!』
二人が手を振ると、観衆は大いに沸いた。
そして俺を振り向き、ニコっとウィンクを飛ばした。
《助かった・・・・この二人が出てくれるのなら勝目がある。》
タムタムもモリモリも、大昔のミスコンで酷い目に遭わされている。
女王に本気で復讐するなら、今しかないと踏んだのだろう。
それならばこんなパンツ一丁のオッサンはさっさと退場するに限る。
そう思って脇へはけていくと、『どこへ行くだしょ?』と女王が睨んだ。
『逃げるつもりだしょか?』
「逃げるなんてそんな。ここはオッサンがいるような場所じゃないと思ってね。」
『わざわざルールを変えてまで参加を認めてやったんだしょ。逃げるなんて許さんだしょ。』
目に殺気が宿っている。
逃げたら後ろから刺されかねない。
「分かったよ。」
渋々ステージへ戻ると、両脇をタムタムとモリモリに挟まれた。
二人共腕を組んできて、ニコっと微笑む。
「なんだ?」
『応援するもす。』
『必ずティムティムを倒すもり。』
「もちろんそうしたいが、それは君たちに任せるよ。オッサンの俺では票は集まらないだろうから。」
『そうしたいのは山々もすが、私はもう時間がないのでもす。』
「まさか・・・もう消えてしまうのか?」
『もす。』
『だからここは・・・・探偵殿!あなたに任せるもり!』
二人はムギュっと抱きついてくる。
「おい、何をしてるんだ?」
『お前のパワーの源は煩悩もす。』
『こうして私たちが肉感を与えることで、それを刺激してるもり。』
「まさかまた股間から女王を召喚しようというのか?」
『いや、召喚の儀はもう消えてるはずもり。さっきあれだけ恥をかかされたから。』
「じゃあなんでこんな事を?」
『探偵殿は煩悩が高まると、普通ではあり得ないパワーを発揮するもり。
だからこうして色仕掛けをして、煩悩を刺激してるもり。』
そう言ってさらに身体を押し付けてくる。
「残念ながら俺にロリ属性はない。ムチっとしたボディじゃないと反応しないんだ。
君らの気持ちはありがたいが、これじゃあ息子は反応しな・・・・、」
『心配するなもす。』
『私たちだって魔術が使えるもり。』
二人はブツブツと何かを唱える。
すると一瞬でエロいお姉さんに変身した。
豊満な胸、引き締まったウエスト、むっちりしたお尻と太もも。
それら肉の塊を、ムギュっと押し付けてくる。
「はうあッ!」
息子は一瞬で反り立った。
『これなら煩悩が高まるもす。』
『こう見えても私たちはウン百万歳。子供じゃないもり。』
「うおおおおお・・・・煩悩が・・・・高まっていく。すべてのエネルギーが息子へ・・・・、」
耐え難いほどの熱が集まってくる。
痛く、熱く、そして輝いていく。
すると・・・・、
「むうああ!」
股間から土偶とマネキンが咲いた。
「おお!すごいことになったぞ!」
『うわあ・・・・、』
『探偵殿、あなたはちょっとおかしいもり・・・。』
二人はササっと離れていく。
「しょうがないじゃないか。君たちから煩悩をもらったんだ。土偶とマネキンくらい咲くさ。」
『魔術を超えた怪奇現象もす。』
『古代でもこんな光景な見たことがないもり。』
驚き、呆れ、表情を歪めていた。
『と、とにかく!今がチャンスもす。』
『その状態ならば、何かすごいことをやらかすはずもり!』
「すごい事とは?」
『知らないもす。』
『後は任せるもり。』
二人は土偶とマネキンに戻る。
美少女が消えたことで、会場は一気にトーンダウンした。
『さっきの可愛い子ちゃんたちは?』
『パンツのおっさんとかいらないんだけど。』
『なんで股間から土偶とマネキンを生やしてるんだ?』
『そういう病気じゃない?』
《そんな病気があるか!》
そう思いながらも、もしかしたら病気かもと思ってしまう。
股間から生えた土偶とマネキン。
志村けんでさえアヒルなのに・・・・。
《俺はいつからコメディアンになってしまったんだ・・・。》
『ぶふッ!』
《おのれ女王・・・・ニヤニヤ笑いやがって。》
あの顔は自分の勝ちを確信している。
モリモリとタムタムがいなくなった今、俺など敵ではないのだろう。
《いいさ、そこまで馬鹿にするならやってやろうじゃないの!》
普通なことをやったって、誰も喜んでくれない。
であれば何をするか。
《ここが正念場だ。・・・・考えろ久能司。》
股間から生える土偶とマネキン。
お笑い芸人しかしないようなこの格好で、いったい何が出来るのか・・・・。
「・・・・今からトリオ漫才をやります!その漫才の中で、私からの・・・・いや、現代人からのメッセージを伝えます。」
ポンポンと股間を叩くと、クスクスと失笑が起きた。
《受けるかズベるかのどちらかだ。・・・・頼んだぞ、土偶とマネキン。》
二人に増えた息子たち。
こいつらと一緒なら勝てる気がする。
ステージの中央に立ち、「はいどうも〜!」と漫才を始めた。


            *

土偶(以下:土)「よかったよかった、まだ雑貨屋さん開いてた。すいませ〜ん!」
マネキン(以下:マ)「はいはい、いらっしゃい。」
土「ここって埴輪って売ってますか?」
マ「ええ、置いてますよ。」
土「埴輪の友達が誕生日なんで、可愛らしい埴輪をプレゼントしようと思ってるんですけど。いいのありますか?」
マ「埴輪に埴輪をあげるんですか?」
土「やっぱおかしいですか?」
マ「人間だって美少女のフィギュアとか買うわけだからいいんじゃないですか。」
土「ですよね。で、どこに置いてます。」
マ「私です。」
土「え?」
マ「私が埴輪です。」
土「あなたマネキンじゃないですか。」
マ「そう見えますか?」
土「それ以外の何物にも見えませんよ。」
マ「私もそう思います。」
土「誰でもそう思うわ。」
マ「埴輪に憧れがあるんですよ。自分では埴輪と思ってるんです。」
土「・・・思うのは勝手だけど、こっちは本物の埴輪が欲しいんです。どこに置いてますか?」
マ「天井に。」
土「気持ち悪・・・。シャンデリアみたいにいっぱいぶら下がってんじゃん・・・・。」
マ「で、どれにいたしましょう?」
土「届かないよ!天井だから。」
マ「いま脚立をお持ちします。」
土「早くしてよ。今夜の誕生パーティーであげるんだから。」
マ「どうぞ。」
土「え?何が?」
マ「私が脚立です。」
土「なんで!?マネキンだよね?」
マ「実は脚立にも憧れているんです。」
土「何に憧れてんだよ!羨ましい要素がどこにもねえだろ。」
マ「ちなみに梯子は嫌いです。」
土「どっちでもいいわ!なんでもいいから早く埴輪を取ってよ。」
マ「そっちの棚にあるんで自分でお取り下さい。」
土「最初からそっちをすすめろよ!なんで天井にぶら下がってんだよ・・・。」
マ「僕天井にも憧れてるんですよ。」
土「アホなのか?お前の憧れなんか知らんわ。」
マ「お客様に私を理解していただくことが、接客のモットーと心得ておりまして・・・、」
土「逆だろ!お前が客を理解しろよ!お前の歪んだ性癖なんて知りたくもねえわ。」
マ「何が面白いんですか?」
土「は?」
マ「ずっと細目で笑いを堪えてらっしゃるから。」
土「土偶だからね!こういう目なの!」
マ「私の知り合いに腕の良い整形外科医が・・・、」
土「お目々パッチリさせる気はないから!目ん玉ひん剥いてる土偶なんて怖くて誰も寄ってこねえだろ。」
マ「ははは!元々怖いですよ。」
土「シバくぞ!なんだよお前は・・・・俺客だぞ?」
マ「え?いつから?」
土「最初からだよ!」
マ「説明していただかないと分かりません。」
土「よくそれで店を経営してるな!」
マ「あ、私は売り物なんで。」
土「商品だったの!?店長は?」
マ「昨日夜逃げしました。」
土「夜逃げしちゃったの!なんで?」
マ「この仕事に向いてないからって。」
土「まあ仕事は向き不向きがあるからな。」
マ「ちなみに店長も説明を受けないと客かどうか分からない人で・・・・、」
土「よく店を開いたね!そいつもお前と同じアホだな。」
マ「そういうわけなんで帰ってもらえますか?」
土「それ店に入ってきた時点で言ってくれる!無駄なやり取りしたっちゃったじゃん!ねえ?」
マ「私にはなんのことだか。」
土「何笑ってんだよ!?」
マ「愛想笑いですよ。」
土「使う状況間違えてんだよ!ていうか俺は埴輪が欲しいの!店長がいないんだったらアンタが売ってくれよ。」
マ「では商品を選んで下さい。」
土「なんなんだよまったく・・・・。埴輪はこっちの棚だったよな?」
マ「こっちってどっちですか?」
土「だからこっち。」
マ「どっちですか?」
土「だからこっちだって言ってんだろ!指差してんじゃん!」
マ「どこに指があるんですか?」
土「ここだよここ!腕の先っぽに付いてんだろ?」
マ「それ栓抜きじゃないんですか?」
土「土偶を馬鹿にしてんのか!元々こういう指なんだよ!」
マ「当店に栓抜きを必要とする飲料はございません。」
土「だから指だっつってんだろ!」
マ「すいません、そろそろラストオーダーになります。」
土「まだなんも注文してねえだろ!いいから埴輪を寄越せってつってんだよ!」
マ「分かりましたよ・・・・。」
土「なんで呆れてんだよ。こっちだよ呆れたいのは。」
マ「ちなみにご予算はどのくらいで?」
土「ん〜そうねえ。あんまり安いとあげる相手に申し訳ないしなあ。」
マ「ではお高めということで?」
土「でもあんまり高いと気い遣わせちゃうでしょ?だからそこそこっていか、ちょうどいいくらいの値段のやつないかな?」
マ「具体的には?」
土「そうだねえ・・・・だいたい一万くらいのやつかな。」
マ「すいません、万を超えるやつだと10万からになるんですよ。」
土「そうなの?じゃあ一万より安いやつでもいいよ。」
マ「一万以下だと10円のやつになりますけど。」
土「商売下手か!間を置いとけよ間を!」
マ「別の商品なら5000円のやつがあるんですけどね。」
土「そうなの?例えばどんな?」
マ「私です。」
土「お前!?微妙な値段なんだねお前。」
マ「中古なもので。」
土「誰が売りに来たんだよ!雑貨屋だろうがここ。」
マ「左腕だけなら1000円でお売りしますけど・・・、」
土「いらねえよ!タダでもいるかそんなもん!」
マ「右腕とセットだと4900円になります。」
土「えらい跳ね上がったな!腕以外は全部合わせても100円じゃねえか。」
マ「腕だけ砂鉄でできてるんですよ。」
土「重みで倒れるだろそれ!」
マ「だから売られたんですよ」
土「ごめんね!辛い過去思い出させちゃって!」
マ「そろそろ何を買うか決めてもらえますか?」
土「だから埴輪だって言ってんだろ!最初からよ!」
マ「すみませんがお客様とは分かり合えそうにありません。」
土「こっちのセリフだよ!ていうかお前が理解しろよ!客の心をよ!」
マ「・・・・・・・・。」
土「何してんだよ?いきなり顔近づけて。」
マ「いや、どこを見てるのかなと思って。」
土「は?」
マ「だってずっと目を細めてるから。」
土「土偶だからね!元々こういう目なの!」
マ「アイプチとかしたらどうですか?」
土「二重にしてどうすんだよ!そんな土偶気持ち悪いだけだろ!」
マ「ははは!元々気持ち悪いですよ!」
土「喧嘩売ってんのかお前は!マネキンに気持ち悪いって言われてくねえよ!」
マ「マネキンの悪口を言わないで下さい。」
土「お前が言わせてんの!俺だって言いたくて言ってるわけじゃないんだよ!」
マ「僕たちなんで仲良くできないんでしょうね?」
土「さっきからお前が失礼だからだろうが!なんなんだよ、散々土偶を馬鹿にしやがって。」
マ「生まれたての赤ちゃんの顔って、ちょっと土偶に似てますよね。」
土「知らねえよ!お前の主観だろうがそれ!」
マ「僕は人間に似てるってよく言われるんですよ。」
土「そりゃマネキンだからね!似てなかったら廃棄されるよ!?」
マ「でも土偶っていいですよね。」
土「何が?」
マ「だって貴重じゃないですか。土偶とか埴輪って。昔の物だから大事に扱われるでしょ?博物館とかに飾られて。」
土「まあな。それが俺らの特権だから。」
マ「それにひきかえマネキンは・・・・・、」
土「どうした?急に暗い顔して。」
マ「僕らは消耗品なんですよ。どんなに頑張ったって、埴輪や土偶ほど大事にされません。」
土「そりゃ気持ちは分かるけどさ、そればっかりは仕方ないよ。」
マ「僕の気持ち・・・・分かってくれるんですか?」
土「まあ同じ人形としてな。」
マ「よかったあ・・・。」
土「泣くなよ馬鹿野郎。」
マ「笑ってるんですけど。」
土「なんで!?」
マ「だって二人してウンコのこと考えてたなんて・・・、」
土「そんなこと考えてたの!?寂しい気持ちで暗い顔してたんじゃないのかよ!?」
マ「一日の8割はウンコのこと考えてるんですよ。」
土「暇だなお前は。仕事中に何やってんだよ。」
マ「そんな僕の気持ちを分かってくれる方がいたなんて・・・・、」
土「分かるかそんなもん!同情して損したじゃねえか・・・。」
マ「・・・・・・。」
土「なんだよ?また暗い顔して。」
マ「・・・・・・・。」
土「おい、どうした俯いて。泣いてんのか?」
マ「いや、笑ってるんですけど。」
土「だからなんで!?」
マ「二人してウンコのこと考えてたなんて!」
土「一ミリも考えてねえよ!なんなんだよお前は。」
マ「マネキンですけど?」
土「見りゃ分かるよ!」
マ「で、本日は何をお求めで?」
土「殺すぞ!埴輪だっつってんだろ!」
マ「当店にそのような物はございません。」
土「は?いや、天井からぶら下がってるじゃん。」
マ「あれはシャンデリアです。」
土「ほんとにシャンデリアだったの!?どうりでいっぱい群がってると思ったんだよ。」
マ「ちなみにそこの棚にあるのはマネキンです。」
土「これマネキンなの!?どう見ても埴輪だけど!」
マ「中にマネキンが入ってるんですよ。埴輪の頭を外すと・・・・ほら!」
土「気持ち悪!」
マ「ちなみにマネキンの中には土偶が入ってます。」
土「マトリョーシカか!いらねえよそんな気味の悪いもん。」
マ「けっこう売れてるんですよ。」
土「誰が買ってくんだよこんなもん。」
マ「埴輪です。」
土「そうなの!?あいつら趣味悪いんだね。ていうかもういいよこんな店!」
マ「あ、お客様!」
土「今さら売ろうとしても無駄だからな。こんな店で買い物できるか。」
マ「いえ、そうではなくて・・・・、」
土「なんだよ?」
マ「店の戸締りお願いできますか?」
土「なんで!?俺ただの客だよ?お前がやれよ。」
マ「でもそろそろ店に戻らないといけないんで。」
土「は?店はここにあるじゃねえか。」
マ「僕となりの店のマネキンなんですよ。」
土「最初に言えよ!なんなんだよここまでのやり取りは!?」
マ「ちなみに僕の店には一万円の埴輪があるんでよかったら・・・、」
土「もういらねえよ!」
マ「・・・・・・・・。」
土「なんだよ?急に顔を近づけて・・・。」
マ「いや、目を細めてどこ見てんのかと思って。」
土「お前を睨んでんだよ!ていうか元々こういう目のなの!何度も言わせんなよ!」
マ「またご冗談を。」
土「笑うんじゃねえ!土偶を馬鹿にしてんのか?ああ?」
マ「土偶の気持ちは分かりません。」
土「じゃあお互い様だな!理解できないもん同士、これ以上話しても意味ねえや!」
マ「・・・・・・・。」
土「なにをへこんでんだよ?お前から喧嘩売ってんだろ?」
マ「・・・・・・・・。」
土「・・・・おい?」
マ「・・・・・うう。」
土「泣くなよ・・・・ちょっと言いすぎたよ。悪かったよ。」
マ「笑ってるんですけど。」
土「殺すぞ!」
マ「すいません、またウンコのこと思い出しちゃって・・・・、」
土「もういいよ。」
土、マ「ありがとうございました〜!」

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十四話 愛のカカト落とし(2)

  • 2017.07.26 Wednesday
  • 11:42

JUGEMテーマ:自作小説

『さあて!波乱の第二審査も終わったあ!いよいよラストだあああ!!』
司会のペンゲンが大げさなほど煽る。
観衆の盛り上がりはいよいよ最高潮で、足踏みが会場を揺らした。
『まずは我らが女王!ティムティム様の登場だあああ!!』
司会が振り返り、大げさに手を向ける。
すると今までとは違って、派手なライトアップもスモークもなく、ゆっくりと歩きながら女王が現れた。
その顔は険しく、とてもミスコンに望む表情とは思えない。
さっきまではあんなにあざとかったのに。
《由香里君の挑発で本気になったってわけか。》
女王の周りには近寄りがたいオーラが溢れている。
見た目は子供だが、腐っても一国の女王。
本気になった時のオーラは迫力がある。
女王はステージの前まで歩き、可愛らしくお辞儀をした。
顔は微笑んでいるが、目は笑っていない。
今までと違うその雰囲気に、あれだけ盛り上がっていた観衆も静まり返った。
《最後の審査は観客へのメッセージだったな。いったい何を伝えるつもりだ?》
険しい表情、殺気立ったオーラ。
きっともの凄く真面目なことを言うに違いない。
俺も観客たちも、息を飲んで見守った。
《こっちまで緊張してきた。》
ピンと張り詰めた空気・・・・握った手が汗ばむ。
するとティムティム女王、司会に向かってクイクイと手を動かした。
どうやらマイクを要求しているらしい。
『あ、どうぞ・・・。』
受け取った女王は『マイクくらい用意しとけだしょ』と睨んだ。
『す、すいません・・・・。』
『お前、来月から補佐官に降格だしょ。』
『ええええええ!!』
驚く司会ペンゲン。
そりゃそうだろう。
彼は王冠を被った王様で、それが補佐官に降格になるんだから。
しかもマイク一つ忘れただけで。
しょんぼりと肩を落とす司会。
ティムティムは険しい表情のまま喋りだした。
『今日ここに集まってくれたみんな。まずは感謝の言葉を述べるだしょ。』
あのワガママな女王が謙虚になっている。
かえって恐ろしい・・・・。
『さっきの小娘・・・偉そうにわらわに説教してくれただしょ。
現代人だから許してやるけど、もしもわらわと同じ古代人だったら、即刻打ち首だしょ。』
そう言ってステージの脇にいる由香里君を睨みつけた。
その眼光は恐ろしく、背筋が冷たくなる。
それは由香里君も同じようで、表情が強ばっていた。
『でもまあ・・・あの小娘の言うことももっともだしょ。
わらわはちょっとばかり身勝手かもしれないだしょ。』
《ちょっとどころじゃないだろう。》
ツッコミたい気持ちを堪え、女王の言葉に耳を傾ける。
『かつてわわらには友達がいただしょ。彼女はムー大陸の外交大臣として、わらわを影で支えてくれただしょ。
しかし悲しいかな、わらわの身勝手な行為で、心を塞ぎ込んでしまったんだしょ。』
女王の声には悲しみがある。
どうやら本気で悪いと思っているようだ。
『その結果、彼女の友達であったタムタム王まで傷つけてしまっただしょ。
タムタムは土偶に魂を宿した後でも、わらわを恨んでいただしょ。
その恨みは現代まで続き、ついさっきまで戦っていただしょ。』
そう言ってカボチャのUFOを見つめた。
『あの中にはタムタムとモリモリがいるだしょ。二人共わらわのせいですごく傷ついているだしょ。
だけどわらわは生まれながらにして女王様気質だしょから、素直に謝るなんて出来なかっただしょ。』
《だろうなあ。あれは後から身に付いた性格じゃない。》
『だけど本心では悪いと思っていただしょ。思っていたけど・・・・謝ることはなかっただしょ。
だってわらわは一国の女王だから、そう簡単に頭を下げるわけにはいかなかっただしょ。』
《それは確かにその通りだ。国の威信に関わってくるからな。》
『でも・・・・もうそんな意地を張っても仕方ない気がしてきただしょ。
ずっとずっと恨みを抱かれて、現代に蘇ってまで争うなんて。
しかもそんな小娘にまで説教をかまされて・・・・。』
またジロっと睨むが、今度はさっきより柔らかい視線だった。
『さっきは殺してやろうかと思っただしょが、いち小娘に手を出すなんて、女王の威厳に関わるだしょ。
だからさっきのは許してやるだしょ。』
そう言った後に鋭い眼光が戻る。
きっと次は無いぞという脅しなのだろう。
その眼光を受けて、由香里君はさらに強ばっていた。
『さて、グダグダこんなことを言い続けても仕方ないだしょね。
今回、わらわはミスコンという機会を得てラッキーだったかもしれないだしょ。
だって・・・・あの二人に謝るチャンスが出来たから。』
また表情を和らげて、少しだけ笑みを見せる。
どこか演技臭くもあるが、素直な言葉であると信じよう。
『遥か大昔のミスコンで、わらわは彼女たちを深く傷つけてしまっただしょ。
そのお詫びをここでさせてほしいだしょ。』
女王は杖を床に置く。
そして膝をつき、両手もついた。
「おい、まさか・・・・、」
由香里君と目を見合わせる。
彼女も驚いていた。
『タムタム!モリモリ!聞こえてるだしょか!?』
UFOに向かって叫ぶ。
『わらわのせいで、二人を傷つけてしまっただしょ。
今日この場を借りて、二人に謝罪させてほしいだしょ。』
顔を俯かせ、ゆっくりと身体を沈めていく。
『謝るまでにずいぶんと時間がかかってしまったこと・・・・許してほしいだしょ。
そして二人を傷つけてしまったこと、本当に申し訳ないと思ってるだしょ。
・・・・・ごめんなさいだしょ。』
深々と頭を下げて、床におでこをくっ付ける。
土下座・・・。
一国の女王が、かつての友達に最高位の謝罪を送っている。
会場はドヨドヨとざわめき、悲鳴まで聴こえた。
『やめて女王様!』
『俺たちの女王が土下座するなんて見たくない!』
『中止だ!女王様が頭を下げるようなミスコンなんて、今すぐ中止にしろ!!』
会場からはブーイングの嵐だ。
その矛先は女王ではなく、彼女が頭を下げているUFO。
もっというならば、その中にいるかつての友達だ。
『出てこいコラ!』
『俺たちの女王様に頭を下げさせるなんざいい度胸だ!』
『その面見せろ!!』
ペンゲンたちはUFOを取り囲む。
そして『出てこい!』と一斉にわめきだした。
《おいおい・・・なんて展開だ。まるでデモじゃないか。》
悪いのはティムティム女王の方。
それなのになぜかタムタムとモリモリが責められている。
その時、《まさか!》と女王を振り返った。
『・・・・・・・・。』
「・・・・今、ほんの一瞬だけ笑ってやがった。」
一秒もない時間だったが、確かに笑っていた。
「あのアホ女王め・・・・わざとこういう展開を狙ったな。」
ペンゲンたちは深い事情を知らない。
きっとモリモリとタムタムのことも知らないだろう。
そんな相手に対して女王が土下座をしている。
それはペンゲンたちにとっては受け入れられない光景のはずだ。
由香里君を見ると、彼女もその事に気づいているようだった。
眉間に皺を寄せ、ギュっと拳を握っている。
「由香里君!堪えるんだ!決して殴りかかったりしちゃいけないぞ!」
「そんな事はしません。しませんけど・・・腹が立って・・・・。」
「そりゃ俺も同じだ。あの女王様、根っから腐ってやがる。」
ペンゲンたちの『出てこい!』コールは続く。
俺は「逃げろ!」と叫んだ。
「成美さん!UFOを飛ばして逃げるんだ!!このままじゃそいつらが襲いかかる!」
そう叫ぶと、UFOの中から誰かが現れた。
「あれは・・・・、」
中から出てきたのは土偶とマネキン。
「タムタム、モリモリ・・・・。」
二人は手を取り合い、ステージまで飛んでいく。
観衆の一人が石を投げて、コツンと土偶に当たった。
『こいつらだ!こいつらが女王様に頭を下げさせたんだ!』
『許すな!俺たちの女王を傷つけた罪を!』
『引きずり下ろしてぶっ殺せ!!』
ウオオオオオオ!と怒号が響く。
石はさらに飛んできて、バコバコと二人を直撃した。
『やめるだしょ!!』
女王が立ち上がり、杖を掲げる。
『その二人はわらわの友達だしょ!侮辱することは許さんだしょ!!』
杖の先から眩い光を放つ。
ペンゲンたちは『ははあ〜!』とひれ伏した。
《まるで水戸黄門だな。》
権威に弱いのは古代人も同じらしい。
女王は飛んでくる二人を見つめて、『お帰りだしょ』と手を広げた。
『タムタム、モリモリ。わらわが悪かっただしょ。』
そう言ってまた頭を下げた。
『モリモリ・・・・ごめんだしょ。わらわのせいで、貴女は引きこもりになってしまっただしょ。
最後はそんなマネキンの中に閉じこもって・・・・すまなかっただしょ。』
《あれは自分から宿ってたのか。》
どうしてマネキンなのかと疑問だったが、引きこもりが行き過ぎた結果らしい。
『それにタムタム。貴女の大事な友達を傷つけてしまっただしょ。
それは貴女自身を傷つけたのと同じこと。ごめんなさいだしょ。』
女王は手を広げて走り出す。
そしてガバっと二人を抱きしめた。
『ごめんなさい、私の大事な友達たち。』
目に涙を浮かべながら、強く抱きしめる。
『そう簡単に許すことが出来ないのは分かってるだしょ。
だけど二人は今でも大事な友達だしょ。
だから・・・出来るならわらわと一緒に、ここでペンゲンたちを導いてほしいだしょ。』
潤んだ瞳のまま、二人を見つめる。
『これからは三人で手を取り合って、この古代都市を治めていこうじゃないかだしょ。』
グイっと涙を拭い、握手を求めるよに手を差し出した。
そんな様子をペンゲンたちが見守っている。
さっきまでのお祭り騒ぎはどこへやら。
みんな感動の場面を期待して、まっすぐな目を向けていた。
《まずいなこりゃ・・・・。》
また由香里君を見ると、彼女も同じような顔で困っていた。
「久能さん、これって・・・、」
「ああ、どう転んでも俺たちが不利になる。」
もし・・・もしもここで、モリモリとタムタムが仲直りを拒否したらどうなるか?
ペンゲンたちは一気に暴動を起こすだろう。
その後に由香里君がメッセージを伝えたところで、誰も聞いちゃいない。
誰もが女王の味方をして、彼女に票を入れるだろう。
ではもしタムタムとモリモリが仲直りを受け入れたらどうなるか?
これはこれで厄介なことになる。
なぜならペンゲンたちは一気に感動の嵐に包まれて、『女王万歳!』などと叫ぶに決まっているのだから。
一国の王でありながら頭を下げ、謝罪を送った。
そしてそれを受け入れたかつての友達。
こんな感動的な場面はないので、ペンゲンたちは女王に票を入れるだろう。
そして当の女王本人は、心からの謝罪などしていない。
先ほどチラリと見えた笑みがそれを物語っている。
ほとぼりが冷めた頃、どうにかしてあの二人をここから追放するだろう。
・・・・いや、追放だけならまだいい。最悪は処刑ということも有りうる。
《あの女王め・・・・さっきの由香里君の説教を逆手に取りやがった。》
観衆の前で現代人の娘に侮辱される。
きっと女王のプライドはズタズタだったはずだ。
しかしこういう展開に持っていけば、ペンゲンたちはこう思う。
『女王はなんて心が広いのだろう。あんな小娘の侮辱に怒りもせず、それどころか自ら非を認め、頭を下げるなんて・・・・』と。
タムタムとモリモリ、この二人が謝罪を受け入れようが受け入れまいが、明るい未来は待っていない。
・・・・この状況、果たしてどうすれば打開できるのか?
「久能さん・・・やっぱり・・・私の説教まずかったみたいですね。」
「今さらそんな事を言っても始まらん。」
「だけどこのままじゃ・・・・、」
「とにかく事の成り行きを見守ろう。下手に手出すとさらに状況が悪化するかもしれない。」
ティムティム女王はウルウルしながら二人の手を取る。
しかしその涙の奥には悪魔の笑みが潜んでいる。
あの二人はそれに気づいているのか?
『タムタム、モリモリ、どうかわらわを許してほしいだしょ。』
切ないその声は、あの二人にどう響くのか?
成り行きを見守っていると、二人は突然ティムティム女王から離れた。
《仲直りを拒否するつもりか?》
二人は手を取り合って、空へ浮かんでいく。
そしてまたUFOへと戻ってしまった。
《拒否したか・・・。しかしそうなると・・・・、》
案の定ペンゲンたちからブーイングが起こる。
ブーブー言いながらまたUFOを取り囲んだ。
『なんだその態度は!』
『女王が土下座までしたのに!』
『出てきなさいよ!』
このままでは暴動が起こる。
奥ではまたティムティムの女王の不敵な笑みが。
《このままじゃティムティム女王に同情票が持って行かれる。いったいどうすればいい?》
焦りながら見守っていると、二人はまたUFOから出てきた。
『モリモリ、タムタム・・・・やっぱりわらわと仲直りしてくれんだしょね。』
嬉しそうに手を広げる女王。
タムタムとモリモリは顔を見合わせて、ニヤリと微笑んだ。
『バ〜カ。』
『んなッ・・・・、』
『誰がお前となんか仲直りするか。』
『うむううッ・・・・、』
女王の顔が真っ赤に染まっていく。
二人はゲラゲラ笑いながらUFOへ逃げ込んだ。
『ぐううう・・・・おのれええええええ!!』
女王は殺気を振りまく。
その怒りはペンゲンたちにも伝わって、途端に暴動へ発展した。
『なんて奴らだ!』
『あれだけ女王様が謝ってるのに!』
『このUFOごとやっちまえ!!』
みんな一斉に石を投げつける。
するとUFOは高く舞い上がり、中から茂美の声が響いた。
「この中には私の大事なお客様が乗っておられます。これ以上攻撃を加えるなら、UFOの一撃でここを吹き飛ばしますよ?」
そう言ってピカピカとUFOを光らせた。
「お爺様、細胞破壊ビームの用意を。」
「おう!」
「お婆様は都市破壊爆弾の用意を。」
「任せとけ。」
UFOの中から物騒なやり取りが聴こえる。
するとそれを聴いたペンゲンたちはパニックに陥った。
『アイツらここを吹き飛ばすつもりだぞ!』
『いやあ!助けて女王様!!』
みんなあちこちへ逃げ惑う
中には女王の後ろに隠れる者もいた。
《でかした茂美さん!》
あのUFOに攻撃能力はないが、女王はそれを知らない。
だから青い顔で『やめるだしょ!』と叫んだ。
『ここを吹き飛ばすなんて・・・そんな酷い真似は許さないだしょ!』
そう言って杖を掲げるが、UFOが迫ってきて『ひい!』としゃがんだ。
「まずは女王様の首から頂こうかしら?」
『や、やめるだしょ!』
UFOの中からマジックアームが出てくる。
おそらくただの作業用だろうが、女王は『ひいいいい!』と怯えた。
「うふふ、古代ムー大陸の女王の首・・・・きっと高く売れるわ。」
『そ、そんなの嫌だしょ!』
「それとも生け捕りにしようかしら?そうすれば世界中の科学者たちがあなたを解剖して・・・・、」
『それも嫌だしょ!』
女王はペタンと座り込む。
そして傍にいたペンゲンを盾にした。
『わらわは女王だしょ!みんなわらわを守るだしょ!』
『そんな!俺たちは女王の盾ってことですか!?』
『だってわらわが死んだら、誰がここを治めるんだしょか!?』
『だからって俺たちを犠牲にするなんて・・・・、』
『わらわがいるからこの古代都市を維持できるんだしょ!それとも何だしょか?
お前たちがわらわに代わって、ここを治めることが出来るんだしょか!?』
『そんなの無理です!だけど死にたくない!!』
『女王の身代わりになるなんて名誉なことだしょ!お前の名前は教科書に載せてやるだしょ!』
『名誉より命が惜しいです!』
民を盾に命乞いをする女王。
他のペンゲンたちは、目を丸くしてそれを見ていた。
・・・今、女王の威信は地に落ちた。
《これもうチェックメイトだろ。》
茂美はウィンウィンとマジックアームを動かす。
盾にされたペンゲンは『ぎゃああああ!』と怯えた。
『こいつを連れて行けだしょ!その代わりわらわは見逃すだしょ!』
『そんな!』
泣きながら首を振るペンゲン。
するとその時、UFOの中からタムタムとモリモリが降りてきた。
『やめて下さい。』
『ここまでする必要はありません。』
ペンゲンの前に立ち、守るように手を広げる。
『民に罪はありません。』
『どうか許してあげて下さい。』
そう言うと、マジックアームは動きを止めた。
『ほっ。助かった。』
『あ!わらわを置いて逃げるなだしょ!』
女王も逃げようとするが、マジックアームが迫って『ひいい!』と腰を抜かした。
「さあ、その首をもらおうかしら。」
『い、嫌だしょ・・・・・。』
「大丈夫、痛みは感じないから。」
『そんな酷いことやめるだしょ!』
泣きながら首を振っている。
そして『呪ってやるだしょよ!』と睨んだ。
『わらわは一流の魔術師だしょ。もし殺したりなんかしたら、子々孫々末代まで続く呪いを掛けてやるだしょ。』
どうやら本気のようで、目が黒く染まっていった。
おぞましい殺気が溢れて、古代都市を覆っていく。
『わらわは死ぬだしょが、お前も永久に苦しむだしょ。それでもいいならやるだしょよ。』
どうやら腹を括ったらしく、険しい目で睨んでいる。
するとタムタムとモリモリがUFOの前に立ちはだかった。
『お願いです!女王を許してあげて下さい!』
『彼女を必要とする民がここにはいるんです!』
『私たちならもう怒ってません。』
『どうか彼女を殺さないで下さい。』
そう言って必死にお願いしている。
「そこまで言われちゃ仕方ないわね。」
茂美はマジックアームを引っ込める。
そしてゆっくりと女王から離れていった。
『ほっ。』
胸を撫でお下ろす女王。
タムタムとモリモリは宙に舞い上がり、『みなさん!』とハモった。
『怖い思いをさせてしまってごめんなさいもす。』
『もうUFOは大人しくなりました・・・もり。』
隠れていたペンゲンたちが顔を出す。
しかしまだ怯えていた。
『私たち・・・・女王と仲直りすることにしますもす。』
『許せない部分はまだあるけど、これ以上みなさんにご迷惑をかけるわけにはいきませんもり。』
そう言ってクルっとティムティム女王を振り向いた。
『ティムティム。』
『仲直りしましょう。』
女王の傍へ飛んでいき、手を差し出す。
『お前たち・・・・、』
ウルっと潤むティムティム女王。
握手を交わそうと手を出したが、なぜかピタリと固まった。
《あの二人・・・・笑ってやがる。》
タムタムとモリモリは不気味に微笑んでいる。
まるでさっきのティムティム女王のように。
『お前たち・・・・わらわを嵌めただしょな?』
『嵌めるなんてとんでもないもす。』
『心の底から仲直りしたいと思ってるもり。』
二人の顔がどんどん歪んでいく。
それは悪魔の微笑み。
ティムティム女王は顔を真っ赤にした。
『お前たち・・・許さんだしょ!』
『ティムティム、ここは握手しといた方がいいと思うもす。』
『そうでななければ、ペンゲンたちは貴女を信用しなくなるもり。』
二人は小声で脅す。
ティムティム女王は顔を真っ赤にしながら、『おのれええ〜・・・』と悔しがった。
しかしここで争えば、ペンゲンたちからの信頼を失う。
悔し涙を我慢しながら、二人と握手を交わした。
その瞬間、ペンゲンたちから安堵の歓声が湧いた。
『よかった!和解したみたいだ。』
『これでここが滅ぼされることはなくなったのね!』
『よかったあ〜・・・死ぬかと思った。』
涙ながらに包容するペンゲンたち。
ティムティム女王は怒りに満ちた声でこう呟いた。
『お前たち・・・・この恨みは忘れんだしょよ。』
笑顔の奥に潜む、確かな殺意。
女の恨みはかくも恐ろしい・・・・。
「どうにかなりましたね。」
由香里君もホっとしている。
「いや、まだだよ。」
「どうして?ここまで来ればもう・・・・、」
「ペンゲンたちを見てみろ。」
手を向けた先には、じっと女王を見つめるみんなの視線が。
「今、奴らの心は揺れ動いている。」
「揺れ動く?」
「この先女王を信用してもいいものかどうか?判断に困ってるんだ。」
「でもさっきはペンゲンを盾にしようとしたんですよ?だったら信用なんて・・・、」
「そう思いたいが、そうもいかない。なぜなら彼女は長くここを治めてきたという実績がある。
だからペンゲンたちは迷ってるんだ。この先も女王について行くべきかどうかを。」
俺が思っていたよりも、女王への信頼は厚いらしい。
これを打ち崩すには、やはりミスコンで勝つしかあるまい。
「由香里君、今度は君の番だ。」
「でもこんな状況じゃ、誰も私のメッセージなんて聞いてくれないですよ。」
「逆さ。こんな状況だからこそ届く。女王に対する不信感が芽生えた今こそ、票を獲得出来るチャンスなんだ!」
バシっと背中を押すと、「でも・・・」と戸惑った。
「迷うな。いつもの君らしく、言いたいことをビシっと言ってやればいいだけだ。」
「久能さん・・・。」
しばらく迷っていたが、「そうですね」と頷く。
「私、ビシっと言ってきます。自分の伝えたいこと。」
「ああ。俺も客席から聞いてるよ。」
彼女は小さく頷き、ステージの中央へ歩いていった。
床に転がっているマイクを拾って、観衆の前に立つ。
みんなの視線が一気に集まって、かなり緊張していた。
「頑張れ由香里君!俺がついてるぞ!」
頷きを返し、観衆をまっすぐに見据える。
「ええ〜っと、なんか大変なことになっちゃったけど、次は私の番なんで聞いて下さい。」
会場はシンと静まり返る。
緊張が増したのか、由香里君の喉がゴクリと動いた。
「私はミスコンなんて初めてで、緊張しっぱなしです。
まだ空手の試合で蹴ったり突いたりしている方がマシかなって思うほどで・・・。
今だってこんな格好のまま喋ってるし・・・・、」
そう言って「まだ水着じゃん!」と叫んだ。
「なんで水着のままなの!?」
「気づいてなかったのか・・・。」
「久能さん!アオザイは?」
「ステージの脇にある。」
マイクを捨てて、慌ててアオザイを拾う。
顔を赤くしながら、一目散にステージの袖に逃げていった。
『ええっと・・・ちょっとばかり時間がかかるようなので、しばしお待ちを。』
司会が困った顔で言う。
少し離れた所では、ティムティム女王がニヤニヤと笑っていた。
《なんだあの笑顔?何かを企んでいるのか?》
こいつは何をしてくるか分からない。
分からないが・・・今は心強い味方がいる。
ティムティム女王の隣にはタムタムとモリモリがいるのだ。
もしも女王が悪さを企んだら、おそらく彼女たちが知らせてくれるだろう。
《正々堂々と戦うなら、由香里君が負けるわけがない。》
そう思って彼女が出て来るのを待った。
しかし待てども待てども現れない。
やがて観衆からブーイングがおき始めた。
『何やってんだ?』
『さっさと出てこいよ。』
『もったいぶってんじゃないわよ。』
《いかん、このままでは心象が悪くなる。》
俺はステージに上がって、「由香里君」と袖へ入った。
「何してるんだ?みんな待ってるのに・・・・、」
そう言いかけて言葉を失う。
「ゆ、由香里君!」
「久能さん・・・・。」
彼女は倒れていた。
アオザイを手にしたまま、顔色悪く横たわっている。
「どうしたんだ!」
「急に・・・体調が悪くなって・・・、」
「なにい!まさか・・・女王に何かされたのか!?」
「そうじゃなくて・・・、」
「ならどうして倒れてるんだ?」
「ここ、寒いから・・・、」
「・・・・・あ。」
今思い出した。ここは南極の地下だったのだ。
地表ほど寒くはないが、それでも水着で過ごせる場所じゃない。
「さっきまで・・・水着だったから・・・、」
「全身が冷え切ってるじゃないか・・・・・。どうして言わなかった!?」
「だって・・・・休憩なんてしたら・・・・不利になるから・・・、」
「馬鹿なことを・・・・。そんなの気にしてる場合か。」
俺は宇宙服を脱ぐ。
「サイズは合わないだろうが、これを着ていろ。」
「でもそんなことしたら久能さんが・・・・、」
「いいのさ。君の水着姿のおかげで、たっぷり温まってる。」
「それ下半身だけでしょ・・・?」
「うむ。」
息子は屹立しっぱなしで、ちょっとばかし痛いほどだ。
「とにかくこれを着るんだ。」
強引に宇宙服を着せると、「温っかい・・・」と身体を抱いた
「それを着ていればすぐに体温が上がるはずだ。」
「でも・・・これ以上待たせたら、誰も私のメッセージを聞いてくれません・・・。」
「それは仕方ないさ。この状態じゃまともに話なんて出来ないだろ。」
「だけどこせっかくここまで来たのに・・・・。」
「棄権しよう。」
「そんなッ・・・・そんなの絶対に嫌です!」
そう言ってフラフラと立ち上がる。
「私は最後までやります・・・・。」
「無理するな。」
「途中で投げ出すなんて嫌です・・・・。どんな事でも・・・最後まで・・・やり抜かないと・・・・、」
フラフラとステージへ向かおうとするが、足取りはおぼつかない。
「あ・・・・、」
「危ない!」
倒れる由香里君を抱きとめる。
彼女は俺の腕を掴んで、「久能さん・・・」と呟いた。
「私の代わりに・・・戦って下さい・・・。」
「え?」
「ミスコン・・・・久能さんに・・・最後を任せます・・・。」
「おい由香里君!由香里君!!」
彼女は気を失ってしまった。
「俺に任せるって・・・・俺は竿が付いてるんだぞ。」
「いいじゃない付いてても。」
後ろから茂美がやってきた。
「由香里ちゃんは預かるわ。」
「・・・・・・。」
「何その目は?」
「あんたに預けたら、強制的に定期購読させられるんじゃないかと思ってだな・・・、」
「由香里ちゃんにそんな事はしないわ。」
「本当だろうな?」
「いくら私でも、気絶してる子から無理矢理契約は取らないわよ。」
「そうか・・・なら頼む。」
茂美の腕に由香里君を預ける。
宇宙服さえ着ていれば、すぐに体温が戻るだろう。
しかし俺の方は・・・・、
「ぶえっくしゃ!おお寒・・・・。」
「由香里ちゃんから代打をお願いされたんでしょ?」
「ああ、でも俺は玉も竿も付いてるからなあ。ミスコンには参加出来ない。」
「でもこのまま行かなかったら、それこそ棄権とみなされるわ。」
会場から大きなブーイングが沸いている。
茂美は「ね?」と肩を竦めた。
「・・・分かったよ。やるだけやってみるさ。」
「UFOの中から応援してるわ。」
由香里君を抱えて、ステージの袖から去っていく。
俺は「寒いいいい〜・・・」と身体をさすった。
「由香里君、ずっとこんなのに耐えてたのか。ていうかこれだけ寒いなら、水着のままだってことに気づけばいいのに。」
文句を言ったところで始まらない。
ここはもう腹を括って、玉砕覚悟で挑むしかないだろう。
「超能力探偵、久能司!初のミスコンへ挑むぞ!」
今の俺はパンツ一丁だ。
でもそれがどうした?
裸で何が悪い?
身体は寒いが、息子は元気なまま。
胸を張り、自信を持っていこうじゃないか。
「やるか息子よ!」
気合を入れ、ステージへ歩いていく。
「やあみなさん!お待たせしてしまって。」
30半ばのオッサンが、パンツ一丁で手を振る。
南極より冷たい視線が突き刺さった。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十三話 愛のカカト落とし(1)

  • 2017.07.25 Tuesday
  • 10:29

JUGEMテーマ:自作小説
ここは南極。
ウィルスさえ死滅する極寒の世界。
そんな世界の地中に、古代都市が広がっていた。
今、ここでミスコンが開かている。
古代人一の美少女VS現代人の空手美女。
ティムティム女王と由香里君の戦いは、序盤から白熱した。
お互いにそれぞれの持ち味を活かし、ガッチリと観客の心を掴んだ。
俺の見た感じでは、序盤戦はほぼ互角だ。
しかしまだまだミスコンは始まったばかり。
あと二つの審査を乗り越えなければ、由香里君に勝利は訪れない。
《頑張れよ由香里君!俺がついてるぞ!》
ステージの最前列で、熱狂的なオタクのごとく応援する。
ペンゲンたちもますます盛り上がり、雷鳴のような歓声が響き渡った。
『序盤から素晴らしい戦ぶりだあ!みんな!この先も大いに盛り上がってくれ〜!』
司会がマイクを向けると、『イエ〜イ!!』と拍手が沸いた。
『さあて、お次はそれぞれの特技をアピールしてもらうぜえ!歌、ダンス、手芸、落語、魔術、武術、お色気!
ジャンルも方法も一切問わない!自分が最も自信のあるパフォーマンスを魅せちゃってちょうだい!』
そう言ってガバっとステージに手を向ける。
すると空から巨大な埴輪が降ってきて、ドスン!とステージに降りた。
「あれはティムティム女王か・・・?」
息を飲んで見守っていると、埴輪からボムっと煙が上がった。
そして案の定ティムティム女王が現れた。
『だしょ〜!』
杖を掲げると、ペンゲンたちが『女王様〜!』と沸いた。
『だしょだしょ。』
可愛く手を振りながら、ステージの上に浮かぶ。
『わらわは魔術が得意だしょ。今からマジックショーをするだしょ!』
『うおおおおおお!』
熱い声援に応えるように、女王は最高の笑顔を振りまく。
『ではティムティムのマジックシー、始めるだしょ!』
クルクルっと杖を回すと、いきなり10人に分身した。
その10人が杖を回すと、今度に100人に増えた。
ステージ上はティムティム女王で埋め尽くされる。
《なんて不気味な光景だ・・・・。》
いくら可愛かろうが、同じ人間が100人というのはちょっと気持ち悪い。
しかしペンゲンたちは嬉しそうに拍手を送っていた。
『お次は巨大化するだしょ!』
100人の女王が一斉に杖を掲げる。
するとスライムみたいに溶けて、グニョグニョっと混ざり合った。
《これまた不気味な・・・・。》
ステージ上に汚い泥粘土がうごめている。
それはだんだんと人の形に変わっていって、やがて巨大化したティムティム女王が現れた。
その大きさはゆうに50メートルはあるだろう。
初代ウルトラマンとほぼ同じ身長だ。
《もはや可愛いとは言いがたいな。》
巨人と化した女王は、腰に手を当ててポーズを取る。
何匹かのペンゲンがスカートの中を覗き込んでいた。
『・・・チ!』
『スパッツ穿いてやがる・・・・。』
男というのは、古代人であっても煩悩の塊らしい。
不届き者のペンゲンたちは、『天罰!』と蹴り飛ばされた。
『ぎゃああああ・・・・、』
『うぎょおお・・・・・、』
『これはストリップショーじゃないだしょ。エロオヤジはいらんだしょ。』
不機嫌そうに言ってから、俺の方を睨んだ。
『お前にも手伝ってもらうだしょ。』
「え?俺?」
女王はクイっと杖を動かす。
すると俺の身体が宙に浮かび上がった。
「うおおおお!何をする・・・・、」
『今から釣りをするだしょ。』
「釣りだと?」
ティムティム女王は不敵に笑う。
そして『てい!』と指を振った。
するとどこからともなく大きな魚が現れた。
体長は10メートルほどもあり、頭が鎧のような装甲に覆われている。
大きな口をしていて、切断機のような鋭い歯が並んでいた。
その姿はなんとも恐ろしく、しかも空中をスイスイと泳いでいた。
「なんだこいつは!?」
『古代魚だしょ。』
「古代魚?」
『ドゥンクレオステウスというんだしょ。』
「ドゥ・・・・なんだって?」
『デボン紀最強の生物だしょ。別名サメ殺しだしょ。』
「なッ・・・サメ殺しだと!」
『動きも速いし、力も強いだしょ。』
「なんでそんな危険な魚を呼び出すんだ!?」
『だから釣りをする為だしょ。』
「釣りって・・・・まさか・・・・、」
『お前が餌になるんだしょ。』
「やめろおおおおお!」
女王はクイっと杖を動かす。
俺は釣り糸にくっついたゴカイのごとく、古代魚の前に運ばれた。
「うおおおおお!」
目の前に切断機のような歯が迫る。
「おいコラ!俺を殺す気か!?」
『だしょ?』
「こんなデカイ歯で噛みつかれたら死んじまうぞ!」
『その魚に歯はないだしょ。』
「いや、ちゃんとあるじゃないか!」
『それは骨が変化したものであって、歯じゃないだしょ。
だから獲物を切り裂くことは出来ても、噛み砕くことは出来ないから安心するだしょ。』
「できるか!」
咄嗟に念動力を使って、魚の攻撃をかわす。
しかしクルっと向きを変えて、また襲いかかってきた。
『ほ〜れほれ、美味しい餌だしょ。』
「だからやめろ!」
こいつの頭はどうかしてる・・・・。
悪女を通り越して悪魔だ。
「あっちいけこの野郎!」
念動力で弾き飛ばそうとするが、硬い鱗に覆われているので、あまり効かなかった。
『あ、ちなみにわらわの魔術でパワーアップしてるだしょから、生半可な攻撃は効かないだしょ。』
「な、なんだと・・・・。」
『たっぷり魔力を与えてあるから、こうして空だって飛べるんだしょ。』
女王の言う通り、古代魚は悠々と空を泳いでいる。
こんなもの、もはや化け物でしかない・・・・。
『ほらほら、じっとしてると食われるだしょよ。』
「お前なあ!これはミスコンだろう!なんでこんな危険なことをするんだ!!」
『危険な方が盛り上がるだしょ。』
そう言って『だしょ〜!』と観客に手を振った。
『女王様〜!』
『現代人なんてやっつけちゃってください!』
『そいつら地球を汚すクズどもです!』
ペンゲンたちから拍手が上がる。
どうやら現代人を快く思っていないらしい。
「ちくしょう!いったいどうすれば・・・・って、ぬおおおおお!」
また目の前に襲い掛かってくる。
《このままでは食われてしまう!》
俺は咄嗟に瞬間移動を使った。
しかし・・・・何も起きなかった。
『わらわに操られてるから逃げられないだしょ。』
「そんな!」
女王は不敵に笑う。そしてクイっと杖を動かした。
そのおかげで間一髪攻撃を免れる。
古代魚は悔しそうな顔をしながら、再び襲いかかってきた。
「NOおおおおおお!」
死ぬ・・・・本当に死んでしまう・・・・。
この女王、予想以上にイカれた奴だ。
しかしその時、「やめなさい!」と誰かが叫んだ。
「こんなのミスコンでもなんでもないじゃない!」
ステージの上で由香里君が叫んでいる。
「今すぐ久能さんを下ろして!」
『嫌だしょ。』
「あなたねえ・・・・好き勝手するにも程があるでしょ!」
由香里君は怒っている。
しかし相手はウルトラマンに匹敵する巨人。
いくら彼女が強かろうが何も出来ない。
『うるさい小娘だしょね。』
足を持ち上げ、由香里君を踏み潰そうとする。
「きゃああああ!」
「いかん!」
念動力を使い、由香里君を宙へ飛ばした。
それと同時に、女王の足がステージを踏み砕く。
ズズン!と地鳴りが響いて、辺り一帯が揺れた。
「大丈夫か!?」
「な、なんとか・・・・、」
宙に浮かびながら、「悔しい!」と叫んでいる。
「魔術なんて卑怯よ!正々堂々と戦いなさい!」
『正々堂々と戦ってるだしょ。』
「どこがよ!魔法でインチキばっかりじゃない!」
『魔法のどこがインチキだしょか?』
「だってこんなの何でもアリじゃないの!全然ミスコンと関係ない!」
『何言ってるだしょか。これは特技をアピールする審査なんだしょ。だったら得意の魔術を使って何が悪いんだしょか?』
「ぐッ・・・それは・・・・、」
悔しそうに口元を噛む由香里君。
しかしこればっかりは女王の方が正しい。
そもそも不利を承知でミスコンを持ちかけたのはこっちなんだから。
「由香里君・・・すまない。どうやら俺たちはここまでのようだ。」
「そんな!諦めないで下さい!」
「ティムティム女王は強すぎる。さすがはムー大陸の覇者だけある。」
「久能さん!そんな弱気でどうするんですか!負けてもいいんですか!!」
由香里君の目に悔し涙が溜まっている。
負けず嫌いの彼女は、こんな時でも闘志に溢れていた。
「せめて君だけでも逃げたまえ。」
由香里君をUFOの傍へ飛ばす。
「オカルト編集長に定期購読の約束をしろ。きっとすぐに街まで返してくれる。」
「嫌です!私だけ逃げるなんて!」
拳を構え、ステージへ走っていく。
するとそこへ古代魚が襲いかかった。
「何よこんな魚くらい・・・・ブッ飛ばしてやる!」
「よせ!逃げろおおおおお!」
大きな歯が由香里君を食い千切ろうとする。
俺は咄嗟に念動力で由香里君を逃がした。
しかし古代魚はそれを追いかけていく。
《クソ!何か・・・・何か弱点はないのか!》
この魚はやたらと硬い。
しかし生き物である以上、必ずどこかに弱点があるはずだ。
透視能力を使って体内を探ってみた。
すると・・・・、
「こ、これは・・・・・、」
古代魚は由香里君に迫る。
彼女は「久能さああああん!」と悲鳴を上げた。
「心配するな由香里君、そいつは何も出来ない。」
「え?」
驚く由香里君。
そこへ古代魚が迫ったが、スルリとすり抜けてしまった。
「あ、あれ・・・?」
「な。」
「どうして・・・・、」
「幻なのさ。」
俺はティムティム女王に目を向ける。
「古代魚なんてもんはいない。そして・・・・あんたも巨大化なんてしないない!」
そう言ってビシっと指さすと、『バレただしょか』と笑った。
『さすがは超能力者、わらわの魔術を見抜くとは。』
女王はチョイっと杖を振る。
すると古代魚は消え、女王も元の大きさに戻った。
「久能さん・・・これはいったい・・・・、」
呆気に取られる由香里君に「俺たちはからかわれていたのさ」と言った。
「からかう?」
「全ては幻だ。女王の魔術にまんまとハマっていたようだ。」
ギロっと睨んでやると、『うふ』と笑いやがった。
『いくらわらわでも、ミスコンで人の命は奪わないだしょ。』
悪びれる様子もなく、あっけらかんとしている。
魚も巨大化も全てはまやかしで、踏み潰したはずのステージにも傷一つなかった。
女王は観衆に向かって、ペコリとお辞儀をする。
『以上、女王のマジックショーだしょた。』
『うううおおおお!』
『女王最高!!』
『現代人どもマジで焦ってやんの!』
『ダサ〜イ!』
ゲラゲラと笑い声が響く。
由香里君が「どういうことですか!」と駆け寄ってきた。
「幻っていったい・・・・、」
「さっき透視能力を使った時に気づいたんだ。あの魚の中には何も見えなかった。」
「そんな・・・・、」
「女王も同じだ。彼女を透視したら、小さな少女のままだった。」
「・・・・私たち・・・遊ばれてたってことですか?」
「そのようだ。」
「・・・・・・・・。」
目に溜まっていた涙が、溢れんばかりに大きくなる。
頬は赤くなり、キっと女王を睨みつけた。
「子供だからって我慢してたけど・・・・もう許さない!」
「おい待て!」
「離して下さい!」
「ここで手を出したら失格負けになる。そうなればタムタムとモリモリは助からないんだぞ!」
「でもッ・・・・・、」
「悔しいのは分かる。しかし殴った所でなんにもならない。」
「・・・・・・・。」
「ミスコンで勝つしかないんだ。」
「・・・・分かってます、そんなの・・・。」
ギリっと歯を食いしばって、ステージの中央へ歩いていく。
「司会のペンゲンさん。次は私の番ですよね?」
『ウィイ。』
「じゃあ私の特技・・・・みんなに披露します。」
涙を拭き、まっすぐに観衆を見つめる。
司会がマイクを振り上げ『ありがとうティムティム女王様!』と叫んだ。
『素晴らしいパフォーマンスでした!みんな盛大な拍手を!』
ペンゲンたちは興奮のあまり、足踏みをしながら拍手をした。
地鳴りを響き、辺りが揺れる。
《これか、ステージが破壊された時の揺れは。》
幻なのに地震が起きて、おかしいと思っていた。
《どうやら幻だと知らなかったのは俺たちだけのようだな。》
ここまでコケにされては黙っていられない。
由香里君を振り返り、「頑張れよ!」と手を振った。
「今度はこっちの番だ!女王も観衆もギャフンと言わせてやれ!」
「任せて下さい!」
強気な目でビシっと親指を立てる。
『ふふふ、わらわ以上のパフォーマンスなんて無理に決まってるだしょ。まあせいぜい頑張るだしょ。』
女王は余裕の笑みで去って行く。
司会が再びマイクを掲げ、由香里君に手を向けた。
『お次は本条由香里ちゃんの番だあ!空手が得意な彼女だが、いったい何を披露してくれるのか!?』
司会が煽ると、『瓦割りなんてつまんねえことすんなよ!』とヤジが飛んだ。
『もう空手の型も見飽きたぞ!』
『バット折りでもやるんじゃな〜い?』
『それもつまんね。もっと面白いことやってくれよ〜!』
ゲラゲラガハハと笑いが飛んで、誰もが彼女を馬鹿にしている。
しかし由香里君は動じない。
得意の空手が通用しないというのに、まったく焦りを見せなかった。
《由香里君・・・君はいったい何を披露するつもりなんだ?》
こうなったら息を飲んで見守るしかない。
由香里君は目を閉じ、精神を集中させている。
そして・・・・、
「なッ!」
思わず声が漏れる。
なんと観衆の前でアオザイを脱ぎ出したのだ。
『いいぞ姉ちゃん!』
『やることないからってお色気かよ。』
『最低〜!』
オスたちは歓喜し、メスたちはブーイングを飛ばす。
しかし由香里君は止まらない。
上を脱ぎ、下を脱ぎ、とうとうアオザイを脱ぎ捨ててしまった。
「おい由香里君!」
彼女は決してお色気で人目を惹くような子じゃない。
なのにどうして・・・・、
「どうして水着になんか・・・・。」
アオザイの下には水着を着ていた。
シンプルなデザインのビキニで、健康的なエロさがある。
「そんな・・・君はどうしてしまったんだ・・・いったいいつからそんな子になってしまったんだ!」
俺は悲しくなってくる。
だけど息子は元気になってきて、「馬鹿野郎!」と叩いた。
「今はそんな場合じゃないんだよ!反応するんじゃない!」
てい!てい!と叩いていると、由香里君はステージのすぐ前までやって来た。
抜群のプロポーションに、オスたちの目がハートになっている。
しかしメスの受けはよくないようで、『卑怯者!』とヤジが飛んできた。
『そんなので票を集めようとするなんて最低!』
『帰れ!下品な現代人め!』
『サノバビッチ!』
《いかん!いかんぞ由香里君!お色気戦法は逆効果だ!》
ただでさえアウェイなのに、会場の半分を埋めるメスたちを敵に回しては勝てない。
「今からでも遅くない!服を着るんだ!」
「いいえ、これでいいんです。」
「なんだって?」
自信満々に言う。
いったいこれの何がいいというのか?
いや、俺は嬉しいんだが、このままでは確実に負けてしまう。
「久能さん、ステージへ上がって来て下さい。」
「え?俺が?」
「早く。」
言われるままステージに上がる。
すると由香里君は、ニコッと笑って腕を組んできた。
「おい!」
胸を押し付けられて、息子が反応する。
「むお!イカン!イカンぞ衆目の前で!」
てい!てい!と叩いて叱る。
しかし由香里君はまた色気で攻めてきた。
「久能さん・・・・。」
とろけるような目をしながら、ギュッと抱き付いてくる。
「あおうふ!」
慌てて腰を引く。
しかし由香里君はさらに抱きついてくる。
「おい!いったいどうしたんだ!こんなの君らしくないぞ!」
「だってもうこれしか方法が・・・・。」
そう言いながら、そっと俺の手を取った。
それを自分の胸元にもっていき、二つの柔らかい膨らみの間に押し付けた。
「ふうおううッ!」
なぜだ!どうして自分からこんなことを!
いつもなら「シバきますよ!」とブッ飛ばされるのに・・・・。
「久能さん・・・どうですか?」
「どうって・・・何が?」
「言わせないで下さい・・・。」
頬を赤らめながら俯く。
これは・・・もしや誘ってるのか?
《そんな・・・まさか!こんな衆目の前でモーションをかけるなんて・・・・、》
由香里君は断じてそんな子ではない。
そんな子ではないが・・・・もしもそうだとするなら、断ったら恥を掻かせることになる。
女性がここまでアピールしているのだ。
それを無碍にするなんて、男として最低の行為であろう。
《据え膳食わぬは武士の恥!由香里君・・・・俺は君を抱く!》
衆目など知ったことか!
最愛の相棒がここまでしてくれているのだ。
無視するんて俺には出来ない!
「由香里君!!」
シャツをはだけ、ズボンに手を掛ける。
・・・・と、その時だった。
俺の股間が眩く輝いた。
「な、なんだ!?」
息子が熱い・・・・。
身体中のエネルギーがここへ集中している・・・。
「うおおお!どうなってんだこれは!?」
抗いようのないエネルギーが、俺の息子を屹立させる。
もう・・・自分でも止めようがない!!
「由香里く〜ん!!」
飛びかかったその時、息子の中から誰かが現れた。
『だしょ!』
「ティムティム女王!」
俺の息子から飛び出してきて、ドサっと倒れ込む。
『最悪だしょ!またこんな所から召喚されるなんて!』
「それはこっちのセリフだ!なんであんたが出て来る!?」
予想外の出来事に、シュンと息子が項垂れる。
「ふふふ。」
「ゆ、由香里君・・・・?」
「思った通り、まだ召喚の儀は残ったままだったようですね。」
「な、何を言ってるんだね・・・?」
「簡単なことですよ。ティムティム女王は、久能さんに召喚の儀ってやつを掛けてたんでしょう?
土偶との戦いでピンチになった時、股間から現れて助けてくれた。」
「ああ。でもそれがなんだっていうんだ?」
「久能さんの煩悩が最高潮に達した時、女王はその汚らわしい場所から召喚されるんです。」
「あの術・・・まだ俺にかかったままだったのか?」
「考えてみて下さい。久能さんは今でも超能力がパワーアップしたままなんです。それに瞬間移動だってまだ使えるはずでしょう?」
「ああ、さっきは女王のせいで上手くいかなかったが。」
「ということは、召喚の儀だってまだ掛かったままなんじゃないかと思って。」
「なるほど!しかし彼女を召喚してなんの意味が?」
「こんな意味があります。」
由香里君はニヤリと観客に手を向ける。
すると一斉に大爆笑が起きた。
『だははははは!股間から女王様が!!』
『なんであんな所から出てるの!あはははは!』
『チンチンからティムティム様が出現!』
『チンチン、チンティン、ティンティン、ティンティム。ティムティムってか!』
ペンゲンたちは笑い転げる。
女王は顔を真っ赤にしていた。
『いよ!チンチン女王!』
『ぎゃははははは!』
『うるさいだしょ!チンチンっていうな!』
恥ずかしさのあまり涙目になっている。
これぞまさかに屈辱の極み、もはや女王の威厳は台無しだ。
「どうですか女王陛下?」
由香里君はニコリと詰め寄る。
「からかわれるって嫌でしょう?」
『お前・・・わざと恥をかかせただしょな?』
「さっきはこっちが恥をかかされたからね。」
『お前・・・意外と根に持つタイプなんだしょな。』
グイっと目尻を拭う女王。
すると由香里君、笑顔を消してこう答えた。
「人の痛みも分かんない子供に躾をしただけよ。」
『なッ、わらわに躾とな!・・・・現代人の小娘が偉そうに!!』
「平気で汚い手を使ったり、わざと相手に恥をかかせたり・・・・一国を治める人がする事とは思えない。」
『生意気言うなだしょ!わらわはお前の何万倍も生きてるんだしょ!口の利き方を気をつけ・・・・、』
そう言いかけた時、由香里君のカカト落としが炸裂した。
『だしょ!!』
咄嗟に頭を庇うティムティム女王。
由香里君のカカト落としは、女王のすぐ目の前にめり込んだ。
『・・・・あ・・・危ないじゃないだしょか!』
怒って詰め寄るが、由香里君は表情を崩さない。
「あなたのせいで辛い思いをしている友達がいるわ。」
そう言ってUFOを指差した。
「自分が勝ちたいからって、友達があんな風になるまで追い込むなんて・・・・。
私より何万倍も生きてるなら、それが酷いことだってどうして分からないの!」
また足を持ち上げると、『ひえ!』と怯えた。
『ぼ、暴力はイカンだしょ!ちょっとでもわらわに当てたら、即失格だしょ!!』
「当てる気なんてないわ。私だって暴力は嫌いだもの。」
『だ、だったらその足下ろすだしょ!』
「じゃあもう下らない手は使わないって約束する?」
『だ・・・だしょ?』
「もし次にさっきみたいな事したら、私は許さない。」
『え、偉そうに・・・・。わらわが本気になれば、お前みたいな小娘ごとき・・・・、』
「簡単に倒せるでしょうね。」
『だったら偉そうに言うなだしょ!』
「だったら正々堂々と戦ってよ。」
『む、むむう・・・・。』
「魔術を使うのは構わない。だけどそれで人を傷つけたり、嫌な思いをさせるのはやめて。
でないと・・・・本当に誰からも嫌われるわよ。」
そう言ってペンゲンたちに手を向ける。
みんな腹を抱えて、まだ笑い転げていた。
「女王の威厳がなくなったら、いったい誰があなたを尊敬するの?」
『・・・・・・・。』
「みんながあたなを女王だと認めてる。だからワガママも許してくれる。
だけどもしも女王と認めてもらえなくなったら・・・・、」
『言うなだしょ。』
ティムティム女王の顔つきが変わる。
目の奥に険しい殺気が宿った。
『そこまで言うなら本気で相手をしてやるだしょ。』
「望むところよ。」
二人は鼻が触れそうな距離で睨み合う。
漫画なら背景に稲妻のスクリーントーンが貼られているだろう。
『え、ええっと・・・・、』
司会が困った顔でマイクを握った。
『こ、これにて第二審査は終わり!次はいよいよラストだあ!!』
ペンゲンたちから歓声が沸く。
由香里君と女王はまだ睨み合っていて、殺気がヒシヒシと伝わってくる。
「・・・・ふん!」
『・・・・だしょ!』
プイっとそっぽを向き、それぞれ反対方向へステージを降りていく。
「久能さん!」
「なんだ?」
「女王を本気にさせちゃいました。」
「だな。」
「油断をついて勝つつもりだったのに・・・・ごめんなさい。」
「どうして謝る?」
「だって・・・これじゃ勝つ見込みが無くなります。」
申し訳なさそうに言う由香里君。
俺は小さく肩を竦めた。
「でも後悔はしてないんだろう?」
「はい。」
「じゃあいいさ。」
「怒ってないんですか?」
「怒るわけないだろう。君の言ったことは正しいんだから。」
「久能さん・・・・。」
「それに俺だって良い思いをさせてもらった。」
「良い思い?」
首を傾げる由香里君に、「こういう思いさ」と手を伸ばした。
「きゃあ!」
「まさか自分から胸の谷間に触らせてくれるなんて・・・・。しかも水着姿まで披露してくれるなんて・・・。
もうね、俺も息子も大感激さ!」
「くたばれ!」
鼻面にカカト落としがめり込む。
「うぎゅおおッ・・・・、」
「好き好んでこんなことしたんじゃありません!」
「ぬうおお・・・・鼻の骨があああ・・・・、」
「ただ女王を負かすにはこれしかないと思って・・・・、」
「ど、どういう意味だ・・・?」
「だってもしお色気で来られたら、こっちもお色気で対抗しようと思って。」
「だから水着を着てたのか?」
「ほんとはこんなこと嫌だけど、向こうがそれで来るなら対抗してやろうと思ったんです。
別の形で役に立っちゃいましたけど。」
そう言って俺の息子を睨んだ。
「君は・・・そこまでの覚悟で戦いに臨んでいたんだな。」
「当然です。負けたらタムタムもモリモリも助からないじゃないですか。」
「そりゃそうだ。」
「それに勝負は負けたくないんです。あんな生意気な子に負けるくらいだったら、水着くらいなんだって話ですよ。」
ふん!と鼻息を飛ばし、バッファローのごとき足取りで去って行く。
逞しいその背中を、俺は息子と共に見つめた。
数秒後にはお尻に視線がいったけど。
「いい尻だ・・・・なあ息子よ。」
ググっと膨らんで、息子も頷いてくれた。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十二話 ミスコン大会開催!(2)

  • 2017.07.24 Monday
  • 10:38

JUGEMテーマ:自作小説

『よく来ただしょな。』
宮殿の前にティムティム女王がいる。
周りにはペンゲンたちがいて、怖い顔で睨んでいた。
「女王陛下、タムタムとモリモリが危ない。どうか助けてやってくれ。」
消えかかるタムタム、薄汚れたマネキンに変わり果てたモリモリ。
二人に手を向けると、『だしょ』と頷いた。
『助けるのはいいけど、これ以上逆恨みされちゃ困るだしょ。』
「逆恨みと思ってるのはあんただけだ。」
『どう思おうとわらわの勝手だしょ。』
「助ける気はないということか?」
『条件付きでなら助けてもいいだしょ。』
「条件?」
『これ以上わらわに恨みを抱かないこと。それを約束してほしいだしょ。』
「それは俺が決めることじゃない。この二人が・・・・、」
そう言って目を受けると、二人の魂は天へ昇ろうとしていた。
「まずい!茂美さん!」
「任せて。」
UFOを飛ばし、サッと二人の魂を掴む。
素手で霊魂を掴むこの女は、すでに人間離れしている。
「あれがモリモリの本当の姿か。」
霊魂となったモリモリは、本来の美少女の姿に戻っていた。
温和な表情、ボーイッシュなショートヘア、とても優しそうな子だ。
手には杖を持っていて、先っぽに付いているイモムシがモゴモゴと動いていた。
そしてサイババとアリババを足して、2で割ったような格好をしていた。
「このままではいつ昇天するか分からない。早く助けてもらわないと。」
ティムティム女王を振り向き、「頼む!」と叫んだ。
「どうかあの二人を!」
『だから恨みを捨てるって約束するなら助けてあげるだしょ。』
「しかしあの二人は死にかけている。とても喋れる状態じゃない。」
『条件が飲めないなら、助けることはできないだしょ。』
「あんたなあ・・・・それでも一国の女王か!だいたい元はと言えばあんたが原因で・・・、」
指を向けながら近づくと、ペンゲンたちが襲いかかってきた。
「痛!つつくな!!」
『その子達はわらわの味方だしょ。下手な真似をすれば、その子たちの胃袋に収まるだしょ。』
「あんたいい加減にしろよ!かつての友達が死にかけてるんだ!助けてやってもいいじゃないか!!」
『女王は常に命を狙われる身だしょ。恨みを捨てないというのならば、助けてやることはできないだしょ。』
「クソ!なんて意地っ張りな・・・・、」
いったいどうすればこのアホを説得出来るのか?
あの二人はいつ死んでもおかしくないというのに。
何もできずに悔しがっていると、突然由香里君が叫んだ。
「ティムティム女王!!」
『なんだしょ?』
「私と勝負して下さい!」
『勝負とな?』
「もし私があなたに勝ったら、あの二人を助けてあげてほしいんです。」
『う〜ん・・・ではお前が負けたらどうするだしょ?』
「その時は・・・・ここの守り神になります。」
『守り神?』
「この古代都市を守る為に、人形神が必要なんでしょう?だからペンゲンたちが私をさらった。」
そう言って王冠をかぶったペンゲンを睨んだ。
「そのペンゲンが頭から火を噴くと、泥人形が出てきますよね?」
『だしょ。あれに人間の魂を入れると、古代都市を守る人形神に変わるだしょ。』
「だったらもし私が負けたら、あの泥人形の中に私の魂を入れてください。」
『本気だしょか?』
「もちろんです。だけどその代わり私が勝ったら・・・・、」
言いかける由香里君を遮って、「よすんだ!」と止めた。
「何を馬鹿なことを言ってるんだ!」
「だけどこれしか方法がありません。」
「あのな・・・相手は古代ムー大陸の女王だそ?君が強いのは知っているが、さすがに相手が悪すぎる。」
「彼女の力は知っています。まともに戦ったって、私は勝てないでしょうね。」
「だったらどうしてそんな提案を・・・・、」
「まともに戦っても勝てないなら、戦い方を変えればいいんです。」
「・・・どういうことだ?」
「ちょっと耳貸して下さい・・・・。」
由香里君はヒソヒソと耳打ちをする。
「・・・・ね?」
「なるほど・・・それなら勝てるかもしれないな。」
「成美さんにも協力してもらいましょう。」
「ああ、このこ作戦にはUFOが必要になる。」
「でも一番の鍵は久能さんです。」
「俺の超能力が勝敗を左右するな。もし失敗したら・・・・、」
『何をボソボソ言ってるだしょか。』
ティムティム女王が不機嫌そうに頬を膨らませる。
俺たちとは距離があるので、心の中を読むことは出来なかったらしい。
『お前たち・・・・まさかわらわの暗殺など企んではいないだしょうな?』
「俺たちはそんな悪者じゃないさ、なあ由香里君?」
「ええ。まっとうま勝負をするつもりです。」
『ほんとだしょかあ・・・?』
疑わしそうな目を向けるティムティム女王。
俺は一歩前に出てこう宣言した。
「ティムティム女王!!」
『なんだしょ?』
「もう一度ミスコンをやらないか?」
『ミスコン?』
「そうだ。あんたと由香里君、この二人のどちらが美少女が競うんだ。」
『ふ・・・何を言うだしょか。わらわは古代人一の美少女なんだしょよ?そんな現代人の小娘など相手にならんだしょ。』
「自信たっぷりだな。」
『だいたいミスコンをするって言ったって、何をどうやるんだしょ?ここにいるのはわらわの僕のペンゲンたちだけ。
投票なんかしたって、お前たちに入れる者などおらんだしょ。』
「そんなのはやってみないと分からないぞ?」
『・・・・何か企んでるようだしょね。』
怪訝な顔をしながら、俺たちの前に下りてくる。
《クソ!心を読むつもりか・・・・。》
近づかれたら心を読まれてしまう。
そうなればこの作戦は失敗して・・・・、
「はいそこで止まって。」
『ぬわわ!なんだしょ?』
茂美のUFOが、俺たちと女王の間に割って入る。
「相手の心を盗み聞きするなんてルール違反よ。」
そう言ってUFOの上からビシっと指を差した。
「勝負は公平なものでなければならない。盗聴は反則よ。」
この女に公平だの反則だのと言われたくないが、こういう時は心強い味方になる。
女王は『むむう・・・』とUFOから離れた。
『さすがに宇宙人の文明を相手にするのは分が悪いだしょ。』
「さすがは女王陛下、身を弁えてらっしゃる。」
高らかに笑う茂美。
俺はUFOの中を覗いて、爺さんにこう尋ねた。
「このUFO、敵と戦ったりできるのか?」
「うんにゃ。基本的に飛ぶだけじゃ。」
「じゃあ武装は一切していない?」
「古代人と戦ったら一撃で負けるじゃろうな。」
「茂美はそのことを・・・・、」
「知っとるはずじゃぞ。」
「・・・・・・・・・。」
あの女、ハッタリをかましてティムティム女王を牽制するとは・・・・。
《こういう状況だと本当に頼りになるな。》
ティムティム女王は明らかにUFOを警戒している。
茂美はタムタムとモリモリの霊魂を握りながら、不敵に微笑んでいた。
《う〜ん、茂美の方が悪人に見える。》
もしこの女が古代に生まれていたら、確実にムー大陸とアトランティスを統一していただろう。
恐ろしい女だ。
「久能さん、さすがは茂美さんですね。」
「ああ、今のうちに茂美にも作戦を伝えよう。」
UFOによじ登って、ヒソヒソと耳打ちする。
「なるほど・・・上手くいけばこの二人は助かるわね。」
「協力してくれるか?」
「いいわよ。でもその代わり・・・・、」
「なんだ?」
「ウチの雑誌を定期購読してくれるかしら?」
「・・・・・・・。」
「あら、嫌そうな顔。」
「金を払うのはいいんだが、あの雑誌がウチに届くのはちょっと・・・・、」
「ならお金だけ振り込んで。雑誌は届けないから。」
「それは購読とは言わないだろう。」
「じゃあ届いたら捨てればいいじゃない。どうせ読む価値もない雑誌なんだから。」
「編集長がそれを言ったらおしまいだぞ。」
どうやら雑誌の売上にしか興味がないらしい。
商魂はあっても、クリエイター魂は持ち合わせていないようだ。
「いいさ、月間ケダモノを定期購読する。」
「ほんとに!?」
「だから手を貸してくれ。でないと・・・・、」
「OKよ、お得意さんは大事にしないとね。」
そう言ってニコリとウィンクを飛ばした。
「由香里君、OKだ。」
グッと親指を立てると、彼女も頷いた。
『だから何をコソコソ話してるだしょか!』
女王はかなり苛立っている。
もし茂美のハッタリがなければ、俺たち全員南極の底に沈められているかもしれない。
「すまない、ちょっと打ち合わせを。」
『なんの打ち合わせだしょか?』
「だからミスコンさ。あんたとウチの由香里君、どっちが美人か決めようじゃないか。」
『・・・・・・・・・。』
怪訝そうな顔で睨んでいる。
俺たちの企みを警戒しているようだ。
「受けるのか?それとも受けないのか?」
『・・・・・・・。』
「あんたは古代人一の美少女なんだろう?だったら現代人の小娘に怯えてどうする?」
『誰も怯えてなんかいないだしょ。ただお前らがコソコソ何かを企んでるから・・・、』
「女王陛下ともあろう者が、現代人のコソコソ話を警戒するなんてな。情けない。」
『侮辱は許さないだしょ!』
「プライドが高い分、挑発に乗りやすくて助かる。」
『むうう〜・・・・喧嘩を売ってるだしょか?』
「ああ、ミスコンでな。」
『わらわは古代人一の美貌の持ち主だしょ。天地がひっくり返ろうが、そんな小娘ごときに負けないだしょ。』
そう言ってビシっと杖を突きつけた。
「だそうだ。由香里君、君に勝つ自信は?」
「相手はしょせん子供ですからね、手を抜いてもいけるかなって。」
『なんだしょと!?わらわは子供じゃないだしょ!!お前たちの何万倍も生きてるだしょよ!』
「年は上でも、中身が子供じゃないですか。」
『そんなことないだしょ!精神年齢もわらわが上だしょ!』
顔を真っ赤にしながら、ゴソゴソと何かを取り出した。
『見るがいいだしょ!このDVDを!!』
そう言って深夜アニメのDVDを掲げた。
『ついこの前までアンパンマンを見ていただしょが、最近とうとう深夜アニメの面白さに気づいただしょ。
これでも子供だと言うだしょか!?』
《これを子供じゃないならなんだと言うんだ・・・・。》
ツッコミたい気分を我慢して、「だったら勝負しようじゃないか」と言った。
「あんたは勝つ自信があるんだろ?」
『当然だしょ。』
「だったらあんたが勝てば、由香里君はここの守り神になる。古代都市はお引っ越ししなくてもすむんだぞ。」
『でもわらわが負けたら・・・・、』
「タムタムとモリモリを助けてもらう。あんたなら出来るだしょ?」
『朝飯前だしょ。』
「なら勝負を・・・・、」
『いいだしょ、そこまで言うなら受けてやるだしょ!』
御年225万歳でも、やはり心は子供。
安易な挑発に乗ってくれて助かる。
『じゃあ用意をするから待ってるだしょ。』
そう言って王冠をかぶったペンゲンに何やら話しかけていた。
それから30分後、宮殿はミスコンのステージに変わっていた。
華やかなイルミネーション、天井にはミラーボール、床にはスモークが焚かれている。
そして宮殿の前には大勢のペンゲンが駆けつけた。
みんなワイワイとミスコンを楽しみにしている。
やがてステージの上に王様ペンゲンが現れて、マイク片手に司会を始めた。
『数千年の時を超えて、ここに再び伝説のミスコンが蘇る!!
かつて古代ムー大陸とアトランティスを沸かしたあの伝説のイベント!
今宵ここにいられることを、君らは感謝するか!?』
マイクを客席に向けると、『イエ〜イ!!』と歓声が返ってきた。
『OKOK、みんな盛り上がってるな!これからこの舞台に二人の美女が登場する。
一人は我らが女王陛下、ティムティム様だあああああ!!』
そう言ってステージを振り返ると、イルミネーションが派手に輝いた。
スモークの量も増して、舞台が煙に覆われていく。
《いよいよ始まるな。》
・・・・煙の中から、光り輝く美少女が現れた。
バっと杖を掲げ、スモークを切り裂く。
『だしょ〜!!』
ミスコンの為にドレスアップした女王が、軽やかにジャンプしながら登場した。
「女王様のやつ・・・えらいめかしこんでるな。」
インドの民族衣装、サリーみたいな服を着ている。
スカートの丈を短くして、その美脚を披露していた。
しかも縞々のニーソを穿いて、ご丁寧に絶対領域を作っていた。
「なんて派手な衣装だ。こりゃあ明らかに男ウケを狙ってるな。」
ペンゲンのオスどもが歓喜に湧く。
女王が投げキスを飛ばすと、一斉にフラッシュが焚かれた。
《現代人でも古代人でも、男の考えることってのは変わらんのだなあ。》
しみじみと感慨に浸っていると、司会が次なる美女を紹介した。
『さあて!我らが女王陛下に挑もうという現代人の美女!それを今から紹介するぜえええ!!』
『ブウウウウウウ〜!!』
歓声が一気にブーイングに変わる。
しかしこれは仕方ない。
ここは女王の仕切る古代都市。
誰だって彼女の味方をするだろう。
《完全なアウェイだな。だけどウチの由香里君だって負けていないぞ。》
由香里君はかなりの美人だ。
空手のおかげか、スタイルも抜群に良い。
それにステージの用意が整うまでの間に、しっかりと衣装を選んだ。
和服、チャイナドレス、ナース服、意表をついてミリタリーという手も考えた。
由香里君は『空手着で出ます!』なんて言っていたが、これは空手の試合ではない。
だからその案は却下して、慎重に、厳正に議論を進めて選んだ。
そしてある一つの民族衣装に決定したのだ。
《あの衣装ほど由香里君の良さを引き立てるものはない!》
俺が勧めた民族衣装を、由香里君も気に入ってくれた。
こういう事に関して俺たちの意見が一致するのは珍しい。
それだけ彼女に似合っているということだ。
・・・・あ、ちなみに衣装はペンゲンたちが用意してくれた。
せっかくミスコンをやるのだからと、こちら側にもある程度協力してくれたのだ。
しかし敵に塩を送るその行為は、女王の絶対的な勝利を疑っていない証拠。
俺たちは見下されているわけだ。
《いいさ、格下だと思ってくれた方がやりやすい。》
強敵から勝利をもぎ取るには、油断させるのが一番。
ペンゲンたちは由香里君を舐めているわけだから、その期待を裏切った時の効果はデカイ。
司会のペンゲンが『挑戦者の登場だああああ!!』と叫ぶ。
再びもくもくとスモークが焚かれて、ステージの上を覆い尽くす。
するとその中に一人の女のシルエットが浮かんだ。
女は高く足を持ち上げて、「せりゃあ!」とカカト落としを放つ。
そして・・・・、
『おお!』
ペンゲンたちから歓声が沸く。
スモークの中から由香里君が現れ、その美貌を見せつけた。
「よし!みんな一気に食いついた。」
ステージ上では由香里君が勇ましく立っている。
気の強そうな目、短い黒髪、美しく整った顔立ち。
それに何より、ベトナムの民族衣装であるアオザイが、彼女のスタイルの良さを引き立てていた。
色っぽく、かといってエロ過ぎず、品のある美しさを醸し出してくれるのがアオザイだ。
由香里君は健康的な色気を持っているので、これほど似合う衣装はない。
《いいぞ由香里君!みんな見惚れている。》
顔だけで考えるなら、アイドル顔をしているティムティム女王の方が有利だろう。
可愛いは正義、強力な武器になる。
しかしスタイルは完全に由香里君の圧勝だ。
アオザイをまとった彼女を見て、ティムティム女王の表情に少しばかりの焦りが浮かんでいた。
二人の美女は中央に立ち、その美貌を衆目に見せつける。
司会のペンゲンが拍手を煽ると、会場は一気にヒートアップした。
『おおおおおおおお!!』
『どっちも可愛い!!』
『現代人の姉ちゃんもやるじゃねえか!』
鳴り止まない歓声。
司会のペンゲンが『静粛に!』と手を叩いた。
『これより古代人VS現代人のミスコンテストを始めます!!
ルールは簡単!まずはそれぞれにステージ上を歩いてもらい、好きなポーズ、好きな表情で、チャームポイントをアピールしてもらいます。
その次に特技を一つだけ披露してもらいます。これもなんでも構いません。
歌でもダンスでも、魔術でも武術でもOK!
そして最後は観客に向けてメッセージを伝えてもらいます。
それが終わると投票の開始!
ステージの前に設置された投票箱に、自分が良かったと思う方の名前を書いて入れて下さい。』
再び歓声が沸いて、某アイドルのジャンケン大会のごとき熱気だ。
『それではいよいよミスコンの開始だあ!』
司会のペンゲンは『ますはティムティム王女から!』と手を向ける。
しかし彼女は『ジャンケンで決めるだしょ』と言った。
『わらわが先攻になってしまったら、こんな小娘のことなんて目に入らなくなるだしょ。
ここは公平にジャンケンといこうだしょ。』
そう言って手を差し出した。
『ほれ小娘、ジャンケンだしょ。』
「・・・・・・・・・。」
由香里君は何も答えない。
無表情のまま女王と向かい合った。
《ありゃ相当怒ってるな。》
ティムティム女王と同じで、由香里君もかなりの負けず嫌いだ。
勝負事になると目つきが変わる。
『んじゃいくだしょよ、ジャンケンぽん!』
ティムティム女王はチョキ、由香里君はパーだ。
《負けたか・・・・。だが先攻が有利とは限らない。インパクトのあるアピールが出来るなら、後攻の方が印象に残るだろうからな。》
ジャンケンに負けた由香里君は、自からステージの脇にはける。
女王はクスっと微笑み、観客に手を振った。
《まさかまた不正をしてジャンケンに勝ったんじゃないだろうな。》
あの女王なら充分にあり得る。
俺は由香里君の傍まで駆け寄った。
「おい由香里君、大丈夫か?いけそうか?」
「・・・・・・・。」
「由香里君。」
「いま集中してるんです。話しかけないで下さい。」
「こりゃすまん。」
目が戦士に変わっている。
心の底から本気のようだ。
司会のペンゲンがマイクを振り上げ、『レディースエンゼントルメン!』と叫んだ。
『まずは我らが女王、ティムティム様の登場だあ!』
いつの間にかステージから消えていたティムティム女王が、神々しい光をまとって、空から降りてくる。
「いよいよね。」
UFOの上で茂美が呟く。
「成美さん、タムタムとモリモリの様子は?」
「今は大丈夫。とりあえず身体に戻ったし、今はUFOの中でお茶を飲んでるわ。ミヤネ屋を見ながら。」
「ふむ、緊張感の欠片もないな。彼女たちの為にやっているというのに。」
「ていうかあの二人の口から『ティムティムへの恨みは忘れます』って言ってくれれば解決なんだけどね。」
「いや、もう無理だろ。ここまで来て中止にしたら、ペンゲンたちが暴動を起こす。」
会場は異様な熱気で、もはや怖いくらいだ。
「じゃあ後は任せるわ。私もみんなと一緒にテレビ見てるから。」
「薄情だな、由香里君が頑張るっていうのに。」
「そんなの見たところで、雑誌のネタにならないもの。」
「また商魂か。」
「それに由香里ちゃんが可愛いのは充分知ってるから。」
そう言って「終わったら呼んでちょうだい」とUFOの中に引っ込んだ。
あいつも緊張感のない奴だと思いながら、ステージを振り返る。
女王は笑顔を振りまきながら手を振っていた。
「ますはステージを歩きながら、ポーズや表情を見せるんだったな。」
ティムティム女王はプロのアイドルかと思うほど、自分の可愛さをアピールするのが上手かった。
あざとい表情、あざといポーズ、だけどその全てが馴染んでいる。
伊達に225万年も生きていないらしい。
ペンゲンたちは大喜びだ。特にオスが。
「由香里君はこういうの苦手だろうからなあ。大丈夫かな。」
いささか不安になってくる。
ティムティム女王はたっぷりと可愛さを振りまき、投げキスを残して去っていく。
ペンゲンたちの興奮は最高潮に達し、気絶する者まで現れた。
『さすがは我らが女王、ティムティム様!!みなさん盛大な拍手を!!』
司会が煽る前から、すでに盛大な拍手が起きている。
まるで雷鳴のような轟だ。
『お次は現代人の美女の登場だあ!名前は本条由香里ちゃん!
空手が得意で、キリっとした目が印象的な美人だああ!』
そう言って『さあど〜ぞ!』と由香里君に手を向けた。
彼女はゆっくりとステージに上がる。
そして観客に向かって深々と一礼。
・・・と、次の瞬間、拳を握って「押忍!」と正拳突きをした。
《おいおい由香里君・・・今は可愛さをアピールする審査だぞ。空手の型をやってどうする。》
心配していたことが的中する。
やはり彼女はこういう事に慣れていないようだ。
ていうかこの次は得意なことをアピールする審査が待っているのに、ここで空手を出してはダメじゃないか。
二回も同じパフォーマンスをやったところで、インパクトは薄れるだけなのに。
しかしそんな俺の心配もよそに、彼女は空手の技を繰り出し続ける。
その動きは見事なもので、観客は黙ったまま見入っていた。
《・・・・いや、これでいいか。この素直さと力強さこそが、彼女の持ち味なんだ。》
下手に可愛さをアピールするなんて、由香里君には向いていない。
凛々しく前を向いて、その時その時を全力投球する。
それが由香里君の魅力だ。
「頑張れ由香里君!あんな女王に負けるな!」
拳を突き上げながら、あらん限りの声援を送った。
由香里君は最後まで空手の型を続ける。
そして「ふう〜」と息を吐きながら、ゆっくりと拳を収めた。
「押忍!」
ビシっと手を交差させて、また深々と一礼。
踵を返し、堂々とした足取りでステージを後にした。
『うううおおおおおお!!』
『あの子カッコイイ!』
『よかったぞ姉ちゃん!』
拍手と声援と口笛が飛ぶ。
由香里君の見せたパフォーマンスは、ガッチリと観客のハートを掴んだ。
そんな様子を空からティムティム女王が見つめている。
ピクピクと眉毛が動き、悔しそうにしていた。
《いいぞ!次もギャフンと言わせてやれ。》
スカっとした気持ちで女王を睨みつけてやる。
するとUFOの中から「よかったらお二人も定期購読いかが?」と茂美の商魂が漏れてきた。
どうやらタムタムとモリモリに勧めているらしい。
本物の古代人にインチキのオカルト雑誌を勧めるとは・・・・。
図太いというかアホというか、やっぱりこいつだけは理解できない。
由香里君、この件が終わったら、事務所の引越しを考えよう。
これ以上こいつに付きまとわれたら、俺たちまで定期購読させられる。
・・・・いや、俺はもう予約済みだった。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十一話 ミスコン大会開催!(1)

  • 2017.07.23 Sunday
  • 10:26

JUGEMテーマ:自作小説
再び戻ってきたティムティム女王。
パワーを使い果たし、南極へ戻ったはずなのにどうして?
しかもなぜか一体のマネキンを連れてきた。
そのマネキンを見たタムタム王は『モリモリ!』と泣き崩れた。
ギュッと抱きつき、『会いたかった!』と涙している。
「久能さん・・・これはいったい・・・。」
由香里君も不思議そうな顔をしている。
「分からない。あの凶悪な少女がこんなに泣き崩れるなんて・・・。」
この謎を知るのはティムティム女王ただ一人。
俺は神妙な表情で「女王陛下」と尋ねた。
「これはいったいどういう・・・・、」
「え?来世のその次の来世も定期購読してくれるの!?」
「お前は黙ってろ!」
商魂逞しい茂美の声が鬱陶しい。
ううん!と咳払いして仕切り直した。
「ティムティム女王、これはいったいどういうことだ?どうしてタムタム王は泣いているんだ?」
『親友だからだしょ。』
「親友?」
『あのマネキンにはモリモリという古代人の魂が宿ってるんだしょ。』
「モリモリ・・・これまたなんとも微妙な名前で・・・・、」
『言っとくけど揉み揉みじゃないだしょよ。』
「え?」
『揉み揉み・・・・モミモミ・・・・モミモリ・・・・モリモリ・・・・そう考えただしょ?』
「恥ずかしながら、おっぱいを揉む所を想像してしまって・・・・、」
『天罰!』
「ぐはあ!」
杖で思い切り頭を叩かれる。
『ほんとにお前は煩悩の塊だしょね。』
「息子によく言い聞かせておく。」
コラ!と一喝して、どうにか鎮める。
ティムティム女王は汚物でも見るような目を向けた。
『先を続けてもいいだしょか?』
「もちろんさ。」
『カッコつけて笑うなだしょ。』
コツンと俺を叩いてから、キリっと表情を引きしめた。
『モリモリは古代アトランティスで大臣をやっていただしょ。』
「大臣?」
『外交大臣だしょ。彼女はいつだってムー大陸との平和を望んでいただしょ。』
「彼女ってことは女なのか?」
『だしょ。見た目はわらわたちと同じで、ちょっと幼いだしょ。でも御年300万歳の御方だしょ。』
「ふむ、古代人はみんな萌え系の見た目だったんだな。」
『んでもって、モリモリとタムタムは仲が良かったんだしょ。そしてわらわとモリモリも仲良しだったんだしょ。』
「じゃあ仲良し三人組だったわけか?」
『いや、わらわとタムタムは、最初は友達じゃなかっただしょ。』
「ならモリモリが共通の友人ってわけか。」
『だしょ。モリモリはいつだってムー大陸との友好を望んでいたんだしょ。
だから友好条約を結ぶ為に、何度もムー大陸に足を運んでくれたんだしょ。
それがキッカケで、わらわとお友達になったんだしょ。』
「平和を愛する者同士、すぐに打ち解けたわけだ?」
『だしょ。わらわは必死にお願いしただしょ。どうかその友好条約を実現させてほしいと。
モリモリは必ず実現させると約束して、アトランティスの王に進言してくれたんだしょ。
これからは友好の時代だから、ムー大陸と仲良くしようと。
そのおかげで、アトランティス王は友好条約に前向きになってくれたんだしょ。』
「ふうむ・・・ちなみにその時のアトランティスの王は・・・・、」
『タムタムの先代だしょ。彼は中々話の分かる人物で、すぐに友好条約を締結することを約束してくれただしょ。
だけど長年仲の悪かったムー大陸を、いきなり信用することは出来なかったんだしょ。
だからモリモリをムー大陸の要職として置かせてほしいと提案してきたんだしょ。』
「監視役ってわけだな?」
『だしょ。わらわは心の底から友好を望んでいたから、裏切るつもりなんて毛頭ないだしょ。
だからモリモリを大臣として置くことをOKしたわけだしょ。
そのおかげでアトランティス王の信頼を得ることが出来て、友好条約は現実味を帯びてきただしょ。』
「いい流れじゃないか。しかし現実にはそうはならなかったんだろ?」
『政治は難しいだしょ。アトランティスの民の中には、未だにムーのことを快く思わない人たちがいただしょ。
その人たちはデモを起こしたりして、友好条約に反対しただしょ。』
「しかし王様がやると言ってるんだ。いくらデモを起こそうが無駄に終わりそうなもんだが?」
『普通のデモならそうなっただしょうね。だけどそのデモの中にはある人物がいたんだしょ。
そいつが中心となり、反対派を先導していたんだしょ。』
そう言ってタムタム王に目を移した。
彼女は今もモリモリを抱きしめている。
頬を伝う涙は再会の喜び。
いったい彼女とモリモリの間に何があったのか?
『モリモリはタムタムの親友だっただしょ。それがムー大陸の大臣になってしまったものだから、寂しくて仕方なかったんだしょ。
だからアトランティスに戻ってきてほしくて、デモなんか起こしてただしょ。』
「大事な友達を取られた気分だったんだろうなあ。でもモリモリはあくまで監視役だろ?
いずれは戻ってくるじゃないか。どうしてデモを起こしてまで連れ戻そうとしたんだ?」
『あの頃のタムタムはただの平民だったんだしょ。元々は貧しい家の生まれで、明日食う物にも困ってたほどだったんだしょ。
だけどそんなタムタムに、モリモリは優しくしてくれたんだしょ。
たまたま道でぶつかって、お互いに転んじゃたんだしょ。相手は貴族だから、タムタムは焦っただしょ。』
「なるほど、あいつにもそんな過去が・・・・、」
『タムタムはすぐに土下座しただしょ。どうかお許し下さいと。
そしたらモリモリは首を振って、こっちこそごめんなさいと謝ったんだしょ。
しかも大丈夫ですか?と心配までしてくれて。
貴族にそんなことを言われたのは初めてだったから、タムタムはすごく嬉しかったんだしょ。
自分みたいな貧乏人を気遣ってくれる貴族がいるなんてと。』
「じゃあそれ以来仲良くなったわけか?」
『だしょ。タムタムはモリモリにお手紙を書いたんだしょ。
あなたみたいな優しい人は初めてもすって。
あの時あんな風に優しくしてくれて、本当に嬉しかったって。』
「いい子じゃないか。」
『普通なら平民の手紙なんて、貴族は受け取らないだしょ。
だけどモリモリは優しい子だしょから、ちゃんとそのお手紙を読んだんだしょ。
そしてお返事まで書いたんだしょ。
それ以来文通が始まって、気がつけば仲の良い友達になっていたわけだしょ。』
「ずいぶん微笑ましいじゃないか。」
『喧嘩もよくしてたみたいだしょけどね。』
「喧嘩するほど仲が良いっていうからな。」
『バチバチ殴り合ったりしていたみたいだしょよ。顎が割れるほど。』
「やりすぎだろ・・・・。」
『時にはお互いの家を水没させたり。』
「よく友情が続いたな。」
『お互い同じ男を好きになった時なんて、刀持って斬り合ってただしょ。』
「男が逃げるだろそれ。」
『そうならないように、鎖で縛ってから斬り合ってただしょ。』
「帰してやれよ・・・・。」
『他にも色々と喧嘩をして・・・・、』
「仲がいいのは充分わかった。いい加減話を進めてくれ。」
『まあとにかく、タムタムはモリモリがいなくなって寂しかったんだしょ。だからデモなんか起こしてだしょ。
それでもアトランティス王は友好条約を諦めることはなかっただしょ。。
すると業を煮やしたタムタムは、なんと単身ムー大陸に乗り込んできたんだしょよ。』
「すごい度胸だな。」
『わらわは暖かく彼女を出迎えただしょ。それにモリモリもタムタムが来てくれたことを喜んだだしょ。
そしてわらわたち三人で、お茶を飲みながらお話をしただしょ。』
「ふむ、今で言う女子会ってやつだな。」
『場所はお墓だっただしょけどね。』
「宮殿でやってやれよ。女王だろあんたは。」
『女子三人がお茶を飲みながら、腹を割って話をしただしょ。
そのおかげで、タムタムの誤解は解けたんだしょ。モリモリは決してアトランティスを捨てたわけじゃないと。』
「よかったじゃないか。」
『これでデモも治まり、ようやく友好条約が結べる。そう思って喜んでいたんだしょけど・・・・、』
「何かトラブルでもあったのか?」
『実は・・・・・、』
「実は?」
『モリモリ・・・・ムー大陸に来てから、密かに好きな男と結婚してたんだしょ。』
「な、なんだってええ!!」
『せっかく楽しいお茶会だったのに、ポロっと口を滑らせてしまったんだしょ。本当は秘密にしとくはずだったんだしょけど。』
「そりゃそうだろう。監視役として来ているのに、その国の男と結婚するなんて。」
『そのことを知ってしまったタムタムは激怒しただしょ。モリモリはアトランティスを捨てるつもりもすか?と。』
「まあなあ・・・・修羅場になるよなあ。」
『このままじゃまずいと思って、わらわは止めに入っただしょ。そうしたらタムタムはものすごい剣幕で私に怒鳴ったんだしょ。』
「女王に?どうして?」
『お前がそののかしたんだろって。』
「ああ、なるほど。」
『わらわは必死に否定したけど、タムタムは信じてくれなかっただしょ。まるで鬼のような顔になって、わらわを殺そうと襲いかかってきたんだしょ。』
「怖いな・・・・あんたは無事だったのか?」
『幸い衛兵が取り押さえてくれただしょ。』
「助かったのか、よかったじゃないか。」
『でもそのせいでタムタムは牢屋に入れられてしまっただしょ。わらわは釈放するように言ったんだしょが、女王に襲いかかったのにそれは出来ないと言われて。』
「あんたを守るのが家臣の仕事さ。」
『分かってるだしょ。でもそのせいで、わらわはとても困っただしょ。
タムタムは釈放してあげたい。だけどわらわを想う家臣の気持ちも無碍には出来ない。
どうしたもんかと悩んでると、モリモリがこんな事を提案したんだしょ。』
「どんな?」
『わらわとタムタム、どちらがより美少女かでコンテストをやったら?って言ったんだしょ。』
「それは・・・・ミスコンってことか?」
『だしょ。』
「でもどうしてそんなことを?」
『だってわらわもタムタムも美少女だしょ。だったら美貌を競って、もしタムタムが勝ったら釈放ってことにすればいいだしょ。』
「自分で美少女と言うのはいかがなものかと思うが・・・・。」
『事実だしょ。』
「自信たっぷりだな。まあいい。それで実際にミスコンをやったのか?」
『国を挙げてやっただしょ。みんな大盛り上りだっただしょ。』
「楽しそうで何よりだな。」
『どうせやるなら派手にと思って、家臣や国民からも参加者を募ったんだしょ。
その結果、5万人の応募があっただしょ。』
「選ぶだけで一苦労だな。」
『一次予選で4万9997人落ちただしょ。』
「厳しすぎだろ。」
『だから二次予選は三人だけだっただしょ。』
「すでに決勝じゃないか。その受かった三人は誰なんだ?」
『わらわとタムタムとモリモリだしょ。』
「モリモリも!?参加してたのか?」
『あの子、意外とこういうの好きなんだしょ。』
「それで二次予選はどうだったんだ?」
『タムタムが落ちただしょ。』
「なら決勝は・・・・、」
『わらわとモリモリだしょ。』
「タムタムが可哀想すぎる・・・・。」
『結果は結果だしょ。仕方ないだしょ。』
「それはそうだが、そもそもタムタムを釈放する為に始めたミスコンだろ?彼女が落ちるなら意味ないじゃないか。」
『ミスコンが盛り上がりすぎて、当初の目的を忘れてただしょ。』
「余計に可哀想だ・・・・。」
『ちなみに決勝に進んで一番はしゃいでたのはモリモリだしょ。』
「最悪じゃないか。タムタムは怒っただろう?」
『そんなことないだしょ。だってモリモリはタムタムの親友だしょ。だから彼女が優勝すれば、タムタムだって嬉しいだしょ。』
「なんとも涙ぐましい友情だな。で、結果はどうだった?」
『わらわが優勝しただしょ。』
「さらに最悪の結果に・・・・。」
えっへんと胸を張る女王陛下。
意外と頭が弱いのかもしれない。
『誰が馬鹿だしょ?』
「だってそうじゃないか。それじゃあまりにもタムタムが可哀想すぎる。
親友は決勝で敗退し、自分も釈放されない。それじゃ怒っても無理ないさ。」
『いやいや、タムタムはそこまで怒らなかっただしょ。だってみんな楽しんでたから、これはこれでいいって納得してくれただしょ。』
「なんて聞き分けのいい子だ・・・・。彼女の味方をしたくなってくる。」
『ミスコンは無事終了し、わらわはムー大陸一の美少女と決定しただしょ。』
「そうかい、実に喜ばしいな。しかしタムタムはどうなる?釈放されないままじゃないか。」
『そうだしょが、あの子は抗議しなかっただしょ。だって牢屋に入れられたのは、自分が悪いって自覚していただしょから。』
「まあなあ、先に襲いかかったのは彼女の方だからな。」
『むしろ大変だったのはモリモリの方だしょ。』
「彼女が?どうして?」
『ミスコンの結果に納得していなかったんだしょ。だから来年またミスコンをやって、その時こそ優勝してみせるって息巻いてただしょ。』
「ふうむ、女の意地ってやつか。」
『ミスコンは盛り上がるから、わらわも賛成だっただしょ。だけどそうなると、モリモリはもう一年ムー大陸にいる必要があるだしょ。』
「どうして?アトランティスに帰ってからでも、また来年参加すればいいじゃないか。」
『次のミスコンで優勝できるように、国民に根回しを始めたからだしょ。』
「意外と悪どいな・・・・。」
『根は良い子なんだしょが、勝負が絡むと人が変わるんだしょ。
なんたって貴族の娘だから、幼い頃から帝王学を叩きこまれてるだしょ。』
「何がなんでも勝負に勝ちたい性格なんだな。」
『そしてそれから一年後、またミスコンが開催されたんだしょ。この時の応募は20万人あっただしょ。』
「もはや国民的行事だな。」
『そして一次予選で19万9997人落ちたんだしょ。』
「残った三人はもしかして・・・・、」
『わらわ、モリモリ、羊飼いのおばさんだしょ。』
「タムタムは?」
『予選落ちしただしょ。』
「可哀想すぎる・・・・。」
『これも仕方ないだしょ。彼女は女王暗殺罪に問われて、ずっと牢屋の中だっただしょから。
国民から良いイメージを持たれていなかったんだしょ。』
「悲しいな。で、二次予選はどうなった?」
『わらわ、モリモリが残っただしょ。』
「去年と同じか。優勝者はどっちだ?」
『わらわだしょ。』
「またか・・・・。」
『モリモリは悔しくて怒り狂っただしょ。だからまた来年もやろうって話になっただしょ。』
「ふむ、で翌年の結果は?」
『わらわだしょ。』
「その次は?」
『わらわだしょ。』
「その次は・・・・、」
『1000年先までわらわだしょ。』
「モリモリも可哀想になってきた・・・・。」
『負ける度に怒り狂うから、顔が般若のようになってただしょ。この頃には予選落ちするようになってただしょ。』
「可哀想に。一回くらい負けてやればいいじゃないか。」
『嫌だしょ。』
「なんで?1000年も優勝したら充分だろう?」
『わらわは女王なんだしょ。だから何事も一位じゃないと気が済まないだしょ。』
「だけど連続で1000年も優勝したんだぞ。あんたが美少女だってことは誰もが認めてるわけだ。
だったらあんたは殿堂入りってことで、王座は他の誰かに譲ってやってもいいじゃないか。」
『嫌だしょ。全てにおいて一位じゃないと気が済まないだしょ。』
「なああんた・・・まさかとは思うが、不正とかはしてないよな?」
『ん?』
「あんたの勝負へのこだわりはモリモリ以上だ。だったら何か汚い手を使って優勝したんじゃないだろうな?」
『汚い手なんて使ってないだしょ。ただわらわが優勝すれば、半年の間は全ての税金が免除されることに・・・・、』
「最低の方法じゃないか!」
『女王の権限だからいいんだしょ。持ってる武器を使って何が悪いんだしょ?』
「なんてエゴの塊だ・・・・。」
見た目は可愛い少女でも、中身は図太い支配者のようだ。
『女王は楽な商売じゃないだしょ。国民に舐められないためには、常に無敵じゃなければいけないだしょ。』
「OKOK、あんたが見た目通りの可愛い性格じゃないことは分かった。
しかしそうなるとモリモリは納得しないだろう?」
『わらわが1000回目の優勝を果たす頃、モリモリは憎悪と嫉妬に狂ってただしょ。ついたあだ名が魔王だしょからね。』
「酷い・・・・。魔王はこっちの女王の方だというのに。」
『嫉妬と怒りと憎しみに支配されたモリモリは、とうとうやってはいけないことをやってしまったんだしょ。』
「やってはいけないこと・・・?まさかあんたを暗殺しようとしたとか?」
『それをやったら彼女も牢屋行きだしょ。』
「じゃあ何をしたんだ?」
『タムタムを牢屋から連れ出して、一緒にアトランティスに帰ろうとしただしょ。』
「タムタムはまだ捕まってたのか!?」
『女王を殺そうとしたわけだしょからね。本当なら死刑でもおかしくないだしょ。』
「それはそうかもしれんが・・・・、」
『罪人を勝手に連れ出すなんて許されない行為だしょ。
それにこの頃のモリモリは、外交大臣としてムー大陸に欠かせない存在になっていただしょ。
だから勝手にアトランティスに帰られちゃ困るんだしょ。』
「二人が可哀想になってきた・・・・。」
『わらわはすぐに二人を追いかけただしょ。そして来年、もう一度ミスコンをやろうと提案したんだしょ。
今度は女王としての権限は使わないから、まっとうな勝負をしようって。』
「不正をしてるって自覚はあるんだな。ちょっとホッとしたよ。」
『モリモリもタムタムも、それならばと提案を飲んでくれただしょ。
そして次の年、またミスコンの季節がやってきただしょ。』
「今度こそはモリモリが優勝したんだろうな?」
『残念ながらそうはならなかっただしょ。』
「まさか・・・また女王の権限で不正を働いたのか?」
『そんなことしてないだしょ。』
「じゃあなんでモリモリは優勝できなかったんだ。」
『羊飼いのおばさんが優勝しただしょ。』
「二回目の時のセミファイナリストが!」
『誰も予想しなかった事態だしょ。』
「俺も予想出来なかったよ・・・・。」
『モリモリは深く悲しんだだしょ。まさか羊飼いのおばさんに負けるだなんて・・・・、』
「そりゃショックだろうな。じゃあそのおばさん、相当な美人だったんだろうなあ。」
『国民にタダで羊肉を配ってただしょ。』
「また不正かよ!」
『あとから不正がバレて失格になっただしょ。それで敗者復活戦で、わらわとモリモリが一騎打ちすることになっただしょ。』
「そりゃそうだろう。で、結果は?」
『みんな白けて帰っちゃったから、誰も投票しなかっただしょ。』
「最悪!!」
真面目に話を聞いている自分がバカらしくなってきた。
『モリモリはすっかり自信を無くしてしまっただしょ。』
「だろうな。俺なら女王を訴えてる。」
『それ以来、彼女はミスコンには出なくなり、家に引きこもるようになっただしょ。』
「なんて気の毒な・・・・。」
『そのせいで二度とアトランティスに帰ることはなかっただしょ。』
「送ってやればいいじゃないか。」
『だって家から出てこないんだから仕方ないだしょ。勝手に入ったら不法侵入になるだしょ。』
「そういう時こそ女王の権限を使え!」
聞けば聞くほどバカらしくなってくる。
これじゃあモリモリは元気を無くして当然だ。
『モリモリは以前のような明るさを失い、二度と笑顔を見せることはなかっただしょ。』
「気の毒なんてもんじゃないな。」
『そのせいでタムタムは激怒して、わらわを逆恨みするようになっただしょ。』
「何をどうすれば逆恨みと解釈できるんだ?全てはあんたのせいじゃないか。」
『タムタムはアトランティスに戻り、ムー大陸との友好条約を白紙に戻す為に、先代の王を失脚させただしょ。』
「ていうかまだ締結してなかったのか・・・・。王様は何をやってたんだ。」
『アトランティスでもミスコンが開催されていて、みんな友好条約のことなんて忘れていただしょ。』
「アホの一言に尽きるぞ。」
『アトランティスの王はミスコンにのめり込むあまり、職務を怠っていただしょ。
そのせいで政治は混乱し、経済は停滞し、大陸まで沈みかけてただしょ。』
「もはや災害じゃないか。」
『タムタムはそんな王の怠慢を世間に訴え、失脚に追い込んだだしょ。』
「彼女が追い込まなくても、近いうちに失脚してただろうな。」
『タムタムは国民投票を行い、見事に新たな王様になったんだしょ。
あ、ちなみにアトランティスでは女王という称号はないから、女の子でも王様になるんだしょ。』
「どうでもいいプチ情報を感謝する。しかし問題はそこじゃない。
あんたに恨みを抱いたタムタムが王様になったということは、ますますムー大陸とアトランティスの仲が悪くなったということだろう?」
『だしょ。だから向こうから戦争を吹っかけてきたんだしょ。』
「戦争か・・・・きっと多くの犠牲者が出たんだろうな。悲しい事だ。」
『ミスコンの戦争だしょ。』
「・・・・どう返していいか分からない。」
『まずはそれぞれの大陸で予選を行い、リーグ優勝した者が大陸シリーズをかけて争うんだしょ。』
「セ・リーグとパ・リーグみたいに言うな。」
『ムー大陸の代表はもちろんわらわだしょ。そしてアトランティスの代表はタムタムだっただしょ。』
「女王と王様の一騎打ちってわけか。さぞ盛り上がっただろうな。」
『両方の大陸のすべての民が注目してただしょ。』
「そりゃあそうだろう。自分の大陸の威信が懸かってるんだ。戦いはさぞ白熱しただろうな。」
『残念ながらわらわの不戦勝だっただしょ。』
「どうして!?まさか相手が棄権でもしたのか?」
『わらわがプレゼントで送った生牡蠣を食べて食あたりに・・・・、』
「不正より酷いぞ!」
『ムー大陸の名産品なんだしょ。』
「だったら新鮮なやつを送ってやれ!」
『まあそんなこんな感じで、わらわが世界で一番の美少女に輝いたわけだしょ。』
「あんたに対するイメージがガラっと変わったよ。」
『タムタムは負け犬の烙印を押され、王様としての威厳を失ったんだしょ。』
「あんたの送った生牡蠣が原因でな。」
『そしてモリモリは未だに引きこもり。いろんな事情が重なって、今でもわらわを逆恨みしてるんだしょ。』
「だからよく逆恨みと解釈できるな!あんたは無責任のチャンピオンだよ。」
『とまあ、これが大昔から続くわらわとタムタムの因縁だしょ。
それぞれの大陸が災害で沈んだあとでも、まだわらわを逆恨みしてるんだしょ。』
「あんたがいなければ、こんな騒動が起きなかったってことがよく分かったよ。」
ここまで話を聞いて、すべての原因はこの女にあると分かった。
これではタムタムの方に味方したくなる。
由香里君も「可哀想・・・」と同情した。
「ほんとにな。この女王様、茂美以上の厄介者かもしれん。」
「いや、そうじゃなくて・・・・、」
「ん?」
「タムタムさん・・・・消えかかってます。」
「なにい!?」
目を向けると、確かに薄く消えかかっていた。
《そういえば言ってたな、美少女の姿になると長くはもたないって。》
タムタム王は『モリモリ』とマネキンを抱きしめる。
『一緒に天国に行くもす。』
『タムタム・・・・・。』
『天国に行けば好きなだけ引き込もれるもす。』
『タムタムと一緒なら、それも悪くないかも。』
二人は手を握り合う。
少女漫画ならキラキラのスクリーントーンが貼られているだろう。
『この世からさよならもす。』
『幸せな来世を期待して、二人で旅立とう・・・・もり。』
どうやら彼女も特徴的な語尾をしているらしい。
「久能さん、このままじゃ可哀想すぎますよ。」
「だな。ティムティム女王、元はといえばあんたが原因だ。なんとかならな・・・・って、あれ?どこ行った?」
「なんか地面に書置きが・・・・、」
「ん?どれどれ・・・・、」
《エネルギーが尽きたので帰るだしょ。会いたければ瞬間移動を使って南極まで来るだしょ。》
「どこまで無責任なんだあいつは!?」
怒りを通り越して呆れてくる。
「久能さん、行きましょう。この二人を救えるのは・・・・残念ながらあの人だけです。」
あの由香里君が珍しく非難的な口調になっている。
俺は「そうだな」と頷いた。
「タムタム王、モリモリ大臣。今からあのクソッタレな女王に会いに行こう。
そして二人がここまで苦しんだ責任を取ってもらうんだ。」
彼女たちは俺の声なんて聞いちゃいない。
手を握り合ったまま、遠い天国を見つめていた。
《早くしないと精神まで崩壊してしまうな。》
俺は頭の中に南極をイメージする。
《頼む!あの場所へ・・・・エゴを固めて作ったような、あのアホ女王の元へ飛ばしてくれ!》
淡い光が俺たちを包む。
そしてほんの一瞬で南極まで来た。
目の前には大きな穴があって、古代都市へと続く梯子が伸びている。
「行くか由香里君。」
「はい!」
俺はタムタム王の手を引き、由香里君はモリモリ大臣の手を引く。
落っこちないように、ゆっくりと梯子を下りていった。
その時、遠い空からカボチャのUFOが飛んできた。
「聞いて久能さん!子々孫々末代まで定期購読してくれるそうよ!これで売上部数は5割も伸びるわ!」
ここにアホがもう一人。
茂美を無視して梯子を下りていった。

不思議探偵誌〜オカルト編集長の陰謀〜 第二十話 古代の怨念(2)

  • 2017.07.22 Saturday
  • 09:58

JUGEMテーマ:自作小説

人形たちとの死闘は、いよいよクライマックスにさしかかっていた。
由香里君は人形の群れを相手にしている。
敵の数は圧倒的だが、今の彼女はティムティム女王からもらった古代服を着ている。
そのおかげでちょっとした超人なみにパワーを発揮していた。
銅像の拳を素手で受け止め、回し蹴りで遠くのビルまで吹っ飛ばしている。
そして茂美もまた活躍してくれていた。
ほんの一瞬の隙をついてUFOに入り込み、爺さんと婆さんを連れ出した。
歩道にちゃぶ台を置いて、三人仲良く茶を飲んでいる。
一見遊んでいるように見えるが、これでも立派に戦っているのだ。
ああやってほっこりと和ませることで、土偶の洗脳を解こうとしている。
そしてあわよくば自分が洗脳をかけて、UFOをわが物にしようと企んでいるに違いない。
恐ろしい女だ。
だがこういう場面では頼りになる。
由香里君、茂美がそれぞれの敵を引き付けてくれているおかげで、俺は一対一で土偶と向かい合うことが出来るのだから。
「土偶よ、もう終わりだ。」
『何を言う!追い詰められているのは貴様の方だ!』
「強がりを。周りを見てみろ。」
俺は周囲を指差す。
由香里君は人形の群れをなぎ倒し続け、茂美は爺さんと婆さんを丸め込んでいる。
このままいけば、土偶が一人になるのは時間の問題だ。
「大人しく人形塚に戻るんだ。そうすれば手荒な真似はしない。」
『ググ、人間風情が偉そうに。』
「そういうお前だって、元は古代人なんだろ?俺たちの仲間みたいなもんじゃないか。」
『吐かせ!誰が貴様らのような低劣な現代人と同じものか。
そもそも私は世界の覇権を握るはずだったのだ。ティムティムさえ邪魔しなければ・・・・。』
土偶は悔しそうに目を光らせる。
「大昔にティムティム女王と戦ったんだってな?」
『ああ。人形同士の戦争が起きた。しかしそれ以前にも奴とは因縁があるのだ。
まだ私たちが古代人だった頃に・・・・。』
「そういえばえらくティムティム女王を恨んでいたな。あれは人形戦争だけが理由じゃないのか?」
『違う。私と奴はそれ以前にも戦っているのだ。』
「ふうむ・・・お前はアトランティスの古代人。そしてティムティム女王はムー大陸の人。そのことと何か関係があるのか?」
『大ありだ。アトランティスとムーは仲が悪かったのだ。』
「そうなのか?同じようなもんだと思っていたが。」
『全然違う!ムー大陸の連中は、綺麗事が大好きな平和ボケした民族だ。
それに対してアトランティスは、いつだって革新的なことに挑戦する、闘志溢れる民族だった。
ゆえに二つの民族は対立関係にあったのだ。』
「平和を望む民族と、戦いを望む民族ってことだな?」
『誤解のないように言っておくが、アトランティスの民は決して野蛮人ではないぞ。
ただムー大陸の連中のように、頭が平和ボケしていないだけだ。』
「なるほど、要するにアトランティスの方から喧嘩を吹っかけたってことだな?」
『逆だ。先代のアトランティス王は、ムー大陸と友好関係を築こうとしていた。
いつまでもいがみ合っていても仕方ないと言ってな。
反対派も大勢いたのに、それを無視して政策をすすめたのだ。
ムーの連中は喜んで友好関係を築こうとしたが、私は我慢ならなかった。
だから先代の王を蹴落として、私が新たな王となったのだ。』
「なに!お前って王様だったのか?」
『そうだ。先代を失脚させ、私は王となった。そして友好条約の交渉を白紙に戻した。
だが反対派がデモを起こし、ムー大陸の連中からも批判の嵐だ。
せっかく仲良くなろうとしていたのに、余計なことしやがってと・・・毎日のように呪いの手紙が届いた。』
「そりゃそうだろう。誰だって平和な方がいいに決まっているからな。」
『私は嫌だ!平和を否定するわけではないが、ムーの連中と対等だなんて我慢ならない!
特にあのティムティムと同列に扱われるなんて・・・・。』
土偶から殺気が溢れる。
かなりご立腹のようだ。
「よかったら聞かせてくれないか?どうしてそこまでティムティム女王を恨む?」
『さっきも言ったはずだ。世界の覇権を握ろうとした私を、奴が邪魔したのだ。
それさえなければ、今頃この地球はアトランティスの物になっていたのに。』
また殺気が溢れる。
かなりの恨みを抱いているらしい。
「なあ?お前の怒りようを見ていると、ふと思うことがあってな。」
『なんだ?』
「お前の恨みはムー大陸とかアトランティスなんて関係なしに、もっと個人的なものじゃないのか?」
『なんだと?』
「もっと言うなら、ティムティム女王だけに恨みを抱いているように思える。
それも世界の覇権を邪魔されたからではなく、もっと別の理由からきているように感じるんだ。」
『知ったことを!お前に何が分かる?』
「話しぶりからそう思っただけさ。お前の恨みはティムティム女王だけに向けられている。
民族とかアトランティスなんて関係なしに、もっとプライベートな問題なんじゃ・・・、」
『黙れ黙れ黙れ!現代人風情が偉そうに!!』
また氷柱を浮かばせて、弾丸のように飛ばしてくる。
しかし今の俺には効かない。
なぜなら超能力が復活したのだから。
ティムティム女王からもらったエネルギーで、念動力を発動させる。
その威力は絶大で、たった一撃で氷柱の嵐を粉砕してしまった。
ついでに土偶も地面に叩きつけてやった。
『グブニュッ!』
メキョっと地面にめり込んで、『おのれ・・・』と這い出てくる。
『許さん・・・よくも私に傷を・・・・、』
土偶は頭が割れていた。
どこからか接着剤を取り出し、必死に塗り塗りしている。
『ここまで私をコケにしたのは、ティムティム以外ではお前が初めてだ。
もう絶対に・・・・許さないわあああああ!!』
「え?女の声?」
男とも女ともつかない機械的な声だったのに、急に若い女の声に変わった。
いや、若いよいうより、幼いといった方が正しい。
『人間よ!今こそ見せてやる!私の究極奥義を!!』
そう言って『ミャアアアアアア!!』と叫ぶ。
まるでサカリのついた猫みたいに。
すると遠い空からあの便器が飛んできた。
「それはアトランティスの秘宝の便器!」
『この技だけは使いたくなかったけど、もう我慢ならない。全てトイレの向こうへ流してやる!』
土偶はグルグルと回転する。
便器もグルグルと回転する。
そして『合体!』と叫ぶと、土偶と便器が本当に合体してしまった。
ていうか顔だけが便器になっている。
これは合体というより、たんに頭に装着しただけだ。
「なるほど、確かに使いたくない技だ。ものすごく恥ずかしい。」
『黙れ!この姿になったからには、お前らに勝目などない!』
便器から水が溢れてくる。
それはたちまち洪水となり、辺り一帯を飲み込んでしまった。
「おいコラ!どんだけ小便してるんだ!」
『小便じゃないわ!こんなに出るわけないでしょ!』
「じゃあこの水はなんだ!?」
『この便器の中は地下水脈と繋がってるの。いくらでも出てくるわよ。』
「便器の中から地下水が・・・・。ならば意外と綺麗というわけだな。」
よかった、衛生面を心配する必要はなさそうだ。
だがこのままでは街全体が飲み込まれてしまう。
そうなる前になんとかしなければ。
「・・・・瞬間移動で水だけ飛ばしてみるか。」
ティムティム女王から授かったこの力。
今まで移動にしか使わなかったが、物を運ぶのにも使えるかもしれない。
・・・もしそうだとしたら、水よりもこの土偶を飛ばした方が早いかも。
「物は試しだ、やってみるか。」
眉間に意識を集中させて、人形塚を思い浮かべる。
《この土偶を飛ばせ・・・・人形塚まで・・・・。》
頭に人形塚を思い描き、強く念じる。
しかし・・・・何も起きなかった。
「クソ!やっぱり無理か・・・・。」
『馬鹿め!私を瞬間移動で飛ばそうとしたな?』
「残念ながら不発に終わった。」
『不発じゃない。元々無理なのよ。瞬間移動は移動用の技、物を動かす技じゃないんだから。』
「そうらしいな。だったら移動の為に使おう・・・・お前を抱えてな。」
『何!?』
慌てる土偶。
俺は念動力で奴を引き寄せた。
『ああ、やめて!』
「一緒にお墓まで行こうじゃないか。」
『嫌よ!あんな山の中で眠りたくない!』
「便器をかぶって洪水を起こすよりマシだと思うぞ?」
ニヤリと笑い、引き寄せた土偶を掴む。
「じゃあ行こうか。」
『嫌だ!離せ!!』
土偶は暴れまくる。
何がなんでもあそこへは行きたくないらしい。
すると由香里君が「久能さん!」と叫んだ。
「こっちは片付きました!そっちはどうですか?」
由香里君は大勢の人形を全てノックアウトしていた。
いくら古代服の力があるとはいえ、さすがとしか言いようがない。
「久能さん、こっちも片付いたわ。」
茂美がUFOの中から手を振る。
「お爺さんとお婆さん、私の説得で洗脳が解けたわ。」
「新しい洗脳にかかったの間違いだろ?」
「しかも月間ケダモノのファンになってくれたの。これからは定期購読してくれるそうよ。」
「そうかい。まだ土偶に洗脳されてた方がマシかもな。」
あんな三流雑誌を定期購読させられるとは・・・茂美の話術は洗脳以上かもしれない。
「みんなのおかげで敵は減った。残りはこいつだけだ。」
暴れる土偶を「もう観念したらどうだ?」と宥める。
「仲間もUFOもいなくなったぞ?これ以上まだ戦うつもりか?」
『うるさい!私こそが世界の王に相応しいんだ!』
「まだそんなこと言ってるのか。もうお前には何もない。いい加減諦めるんだな。」
土偶、絶体絶命のピンチ。
悔しそうにしながらも、ガクッと項垂れた。便器の頭が。
『グググ・・・・ならばせめて・・・せめて憎き敵に鉄槌を・・・・。
貴様と・・・・ティムティムだけは道連れにしてやる!』
土偶から黒い煙が溢れる。
嫌な予感がして、急いで瞬間移動しようとした。
しかし・・・間に合わなかった。
土偶から溢れる黒い煙は、モクモクと人の形に変わっていく。
そして・・・・、
「なんてこった・・・お前も美少女だったのか。」
土偶はなんとも美しい少女へと変貌した。
『私は32代目アトランティスの王、タムタムであるもす!』
タムタム王はなんとも勇ましい少女だった。
キリっとつり上がった目、まっすぐ通った鼻筋、燃えるように真っ赤な髪はお団子に結ってある。
右手にはコウモリの形をした杖を握っていた。
そして楊貴妃と小野小町を足して、2で割ったような格好をしていた。
「これが土偶の正体か。でもタムタムって名前はなんとも卑猥な・・・・、」
『てい!』
「痛ッ!」
『誰が金玉もす!』
「え?」
『貴様、今こう考えたもす?金玉・・・チンタマ・・・タマタマ・・・・タマタム・・・・タムタムと。』
「お前も心が読めるのか!?」
『表情で分かるもす!天罰!!』
「ぎゃああああ!!」
コウモリの杖から雷を落とされる。
宇宙服がなければ死んでいただろう・・・・。
《古代人たちはどうしてこうも乱暴なんだ・・・・。》
プスプスと煙を上げながら、チリチリになった髪を撫でる。
「大丈夫ですか!?」
由香里君が駆け寄ってくる。
「ああ、どうにか・・・・。」
「私も一緒に戦います!」
そう言って拳を握る。
しかしタムタム王は杖から鎖のような物を伸ばして、由香里君を縛り上げてしまった。
「ああああああ!」
「由香里君!」
『こんな小娘に用はないもす。どっか行ってろ!』
ブンっと杖を振って、そのまま遠くへ投げ飛ばしてしまう。
「久能さああああああ・・・・、」
「由香里くうううううん!」
ベーブルースのホームランのごとく、彼女は景色の彼方へと消え去ってしまった。
「貴様ああああ!」
怒りが燃えて、眉間に熱が集まる。
今までで最高のパワーを使って、念動力を発動させた。
「もう許さんぞ!このまま人形塚まで弾き飛ばしてやる!!」
眉間に集まった熱を解放する。
タムタム王の周囲の空間が歪んで、凄まじい衝撃波が起きた。
「うおおおッ・・・・、」
あまりの威力に俺自身が吹っ飛ぶ。
「どうだ!このパワーなら人形塚のある山まで吹っ飛んだだろう!!」
『残念ながら無理もす。』
「ぬお!」
いつの間にかバックを取られていた。
「まさか・・・お前も瞬間移動が?」
『この姿になれば可能もす。』
「そんな・・・だったらどんな攻撃もかわされてしまうじゃないか!」
『今の私は無敵もす。だけど残念ながら、この姿になるにはすべてのエネルギーが必要もす。
私はもう・・・・・、』
そう言って悲しそうに目を伏せる。
『だけどお前とティムティムだけは道連れにしてやるもす!』
杖を掲げ、怪しげな文字を飛ばしてくる。
それは俺の股間に張り付いて、えも言えぬ快感が走った。
「うおおおお!なんだこれは!?」
『お前のパワーの源は煩悩にあるもす。だから股の間が枯れ果てればどうなるか?』
「ま、まさか・・・・、」
『種無しになるもす。』
「やめろおおおおお!!」
命懸けの戦いの最中だというのに、何度も絶頂を迎えてしまう。
恥ずかしいやら情けないやら・・・。
いや、そんなことよりもだ!
このままでは種無しになってしまう。
それだけはなんとしても避けないと!
「茂美さん!手を貸してくれ!」
「ごめんなさい、今忙しくて。」
彼女は爺さんと婆さんに定期購読の契約書を書かせていた。
「そんなモンは後にしろ!」
「ダメよ。契約は取れる時にとっておかないと。でないと後からキャンセルなんてことになりかねないわ。」
「そりゃあんたの雑誌ならそうなるだろうな。でも今は俺を助けてほしいんだ。でないとい種無しになってしまう。」
「そんなこと言われてもねえ。だってそのタムタム王って人、無敵なんでしょ?だったら私ごときが太刀打ちできる相手じゃないわ。」
そう言って「じゃあ次はここにサインを」と勧めていた。
「こちらが五年分、こちらが十年分、こちらが生涯分の定期購読になります。
今ご契約いただきますと、亡くなられた後も墓前にお供えして・・・・、」
「死んだ後に読めるか!」
ダメだ、こいつは当てにならない。
この商人魂は素晴らしいが、今は発揮してほしくなかった。
『ぬふふ、お前はもう終わりもす。種無しになるもす。』
「嫌だ!」
『きっとあの小娘にも嫌われるもす。』
「ゆ、由香里君にも・・・?」
『だってあの小娘、お前に好意をもってるもす。出来るなら一生一緒にいたいと思っているもすよ。』
「そんなまさか。」
『私は心は読めないもすが、感情を読み取ることはできるもす。あの小娘、間違いなくお前に惚れているもす!』
「・・・由香里君が・・・俺に・・・・、」
『しかしお前は種無しになってしまうもす。そうなれば・・・・どうなるもすかなあ?』
なんとも嫌味な顔で笑いやがる。
いや、それよりもだ。
由香里君が俺に惚れていたなんて・・・。
《なんてこった・・・・全然気づかなかった。》
俺はバカだ、マヌケだ、ウスラトンカチだ。
《由香里君!それならそうとどうして言ってくれない!?
俺はもうじき種無しになってしまうというのに・・・・。》
もっと早くこのことを知っておけば、彼女と○○したり××したり、○○○を×××しながら、○○できたというのに!
しかし種無しになってしまえば、それらの行為も虚しくなる。
《クソ!このまま種無しになってしまうのか!》
『お前・・・この期に及んでまたイヤらしいこと考えてるもすな。』
はあっとため息をついて、『呆れた煩悩もす』と首を振られた。
『ていうか本当ならとうに種無しになっているはずもす。なのに・・・・お前は何回イケば枯れるもすか!!』
「そんなこと言われてもだな・・・・、」
『いい加減こっちのパワーが限界もす!』
「俺もけっこう辛くなってきたところだ。このままいけば、一時間後には確実に枯れ果てて・・・・、」
『こっちのエネルギーがもたないもす!』
ブツブツ言いながら『いったいどんな夜を過ごしてるんだか・・・』と呆れられた。
『もういいもす。このままではティムティムに復讐する力がなくなっちゃうもす。』
「おお、なら許してくれるのか?」
『種無しは勘弁してやるもす。その代わり・・・・お前の性癖を変えてやるもす!』
「な、なんだと!?」
タムタム王は杖を掲げる。
そして『コックローチ、コックローチ・・・・』と怪しげな呪文を唱え始めた。
と、次の瞬間!
どこからか不気味な音が響いてきた。
《これは・・・・虫の羽音か?》
『探偵、久能司!』
「は、はい!」
『お前の性癖を変化させるもす!』
「ど、どんな風に・・・・?」
『ゴキブリに欲情するようになるもす。』
「やめろおおおおおお!!」
考えただけでもおぞましい・・・・。
そんな性癖になるくらいだったら、まだ種無しの方がマシだ!
『ぬふふ、いい顔で焦ってるもすなあ。』
「頼むからそれだけはやめてくれ!」
『嫌もす。』
「だっていくらなんでもそりゃないだろう?これからゴキブリしか愛せなくなるなんて・・・・、」
『愛は人間にも感じるもす。しかし性欲はゴキブリにしか向かないようになって・・・・、』
「それが嫌だって言ってんのさあああああ!!」
タムタム王は『憐れな奴もす』と嘲笑う。
『来い!コックローチキング!!』
虫の羽音が近くなる。
「これ・・・まさか・・・。」
背中に冷や汗が流れる。
羽音がする方を見上げると、人の倍はありそうな巨大ゴキブリが飛んできた。
「ひいいいやああああ!」
ショックのあまり気絶しそうになる・・・・。
『こいつは私のペットもす。その名もコックローチキング!略してコロチン!』
「名前なんてどうでもいい!そいつを近づけるな!」
『お前はこいつと合体するもす。』
「嫌だ!絶対に嫌だ!!」
『そうすれば頭から触覚が生えて、脂ぎった艶々の身体になるもす。』
「やめろ!」
『そして雌ゴキブリのフェロモンにしか欲情できなくなるもすよ。』
「そんなの死んだ方がマシだ!!」
なんて恐ろしいことを考えつくのか。
今まで出会った中で最悪の敵だ・・・・。
俺は念動力を使い、巨大なゴキブリを潰そうとした。
しかし思いのほか頑丈で、大したダメージを与えられない。
『ぬふふ、コロチンはそんなことでは死なないもす。』
「く・・・・。」
かなりのピンチだ・・・・。
しかしまったく手がないわけじゃない。
瞬間移動を使えば逃げることは出来るのだから。
だが・・・・そんな事をすれば、由香里君やオカルト編集長を見捨てることになる。
最悪オカルト編集長は置いていってもいいが、由香里君を残して逃げることだけは出来ない。
「・・・このまま・・・ゴキブリにしか息子が反応しなくなってしまうのか。」
もしそうなったら、俺はどう生きればいいのだろう?
部屋に出て来るゴキブリを見て、胸がトキメクのだろうか?
もしそうなったら、ゴキブリのエロ本を読んで興奮するのだろうか?
いや、そもそもそんな本は売っているのだろうか?
《・・・・図鑑・・・か。昆虫図鑑なら多少はゴキブリの写真が・・・・、》
そんなことを悩んでいる間に、コロチンの触覚に捕まってしまった。
「うおぽおおおお!」
目の前に巨大ゴキブリが迫る。
黒光りした身体、長い触覚、小さな毛に覆われた足。
そして若干コオロギに似た、逆三角形の不気味な顔。
俺は失禁した。
《もうダメだ・・・・俺はゴキブリ相手にしか息子が反応しなくなるんだ・・・・。》
久能司、ここに人間をやめる。
もしゴキブリに欲情するようになってしまったら、茂美に頼んでそういう雑誌を作ってもらうしかない。
・・・そう諦めかけたとき、またまた股間が熱くなった。
「なんだ?」
目を向けると、またしても息子からティムティム女王が召喚された。
「女王陛下!」
『最悪だしょ・・・・またこんな場所から・・・・。』
げんなりするティムティム女王。
彼女は南極に帰ったのではなかったのか?
「ティムティム女王・・・どうしてまたそんな所から?」
『ちょっとお届け物を。』
そう言って『よいしょ』と大きな荷物を下ろした。
「それは?」
『見れば分かるだしょ。』
「マネキンだな。」
南極からわざわざこんな物を持ってきたらしい。
《いったいなぜ?》
不思議に思っていると、タムタム王がいきなり泣き出した。
『モリモリ・・・・・。』
「モリモリ?」
『そんな・・・・どうしてこんな所に貴女が・・・・。』
口元を抑え、『モリモリ!』と抱きつく。
「なんなんだいったい・・・・。」
呆気にとられていると、ティムティム女王が『てい!』と杖を振った。
するとコロチンは『あうふ!』と叫んで、遥か遠くの空まで吹き飛ばされた。
『ゴキブリがペットだなんて・・・相変わらず趣味が悪い奴だしょ。』
はあっとため息をついて、タムタム王を見下ろす。
『タムタム、もう終わりにするだしょ。』
『黙れ!お前が・・・・お前がモリモリを奪いさえしなかったら・・・・、』
『奪った覚えなんかないだしょ。そいつが勝手に私の所へ来たんだしょ。』
『嘘を言うな!モリモリは・・・私の親友だったのに!!』
大声で『うわああああああん!』と泣き崩れる。
《なんなんだいったい・・・・。》
呆然としながら見つめていると、「久能さ〜ん!」と声がした。
「由香里君か!?」
街の向こうから由香里君が走ってくる。
遥か彼方まで吹き飛ばされたのに、自力で戻ってくるとはさすがだ。
「はあ・・・はあ・・・大丈夫ですか?」
「こっちのセリフさ。よく無事だったな?」
「空手やってますから。」
「ふむ、何の答えにもなっていないけど、とにかく無事でよかった。」
「それより・・・どうしたんですかこれ?なんかよく分からない状況になってますけど。」
マネキンを抱きしめるタムタム王。
先ほどとは打って変わって、子供のように泣きじゃくっている。
いったいこのマネキンはなんなのか?
モリモリとは誰のことなのか?
謎が謎を呼ぶが、きっと大した事じゃないんだろうなと、冷めた目で見る自分がいる。
「やった!やったわ!来世の分まで定期購読の契約が取れたわ!」
茂美のアホっぷりの方がよっぽどインパクトがあった。

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