稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第二部 第十四話 二人の狼男(2)

  • 2018.11.19 Monday
  • 10:45

JUGEMテーマ:自作小説

恨みというのは恐ろしいものだ。
積もりに積もった恨みとなれば余計に恐ろしい。
俺はアカリさんとチェリー君と一緒に岡山までやって来た。
さらわれたモンブランを助ける為に。
けど事態はいつだって予想の斜め上をいくもので、モンブランを助けるどころか、俺たちがモンブランに助けられる羽目になった。
今、俺はモンブランの腕に抱えられている。
目の前には身長が3メートルはあろうかという狼男がいて、怖い目で俺を見下ろしていた。
その隣にはロッキー君もいる。
ついさっきまでアカリさんに締め上げられていたせいか、「おお痛え・・・」と首を押さえていた。
「あの稲荷め・・・・覚えてろよ。」
そう言いながら首をコキコキ鳴らしている。
喰い千切られた足も再生していて、霊獣の半端ない生命力に感心する。
ここは山と山の間にある寂れた集落、俺たちが目指していた場所だ。
ここへ来る途中にチェリー君がやられたり、アカリさんがロッキー君と戦ったり、イタチに変わった人間に出会ったりと色々あった。
これはもう集落まで辿り着けないかもしれない。
そう思っていたんだけど、幸いにもこうして辿り着くことが出来た。
・・・・いや、連れて来られたといった方が正しいだろう。

 

     *****

 

例の薬で人間に変わった動物たちは、日頃の恨みを晴らすチャンスとばかりに、動物に変わった集落の人間を襲い始めた。
中には銃を持った奴もいて、元人間たちは慌てて山の中に逃げ込んでいったのだ。
その一人がイタチに変わったこの人、宇根畦夫(うねうねお)さんである。
アカリさんとロッキー君が戦っている最中、俺は宇根さんから集落での話を聞いた。
そこへ人間に変わった動物たちが追いかけてきて、俺たちに銃を向けたのだ。
『逃げろ!撃たれるぞ!』
慌てて逃げて行く宇根さん、固まって動けない俺。
銃口が向けられ、死を覚悟した。
しかしその瞬間、チェリー君が助けてくれたのだ。
銃を蹴り飛ばし、ついでに敵も蹴り飛ばしてノックアウトした。
『クソ!不覚だぜ、ロッキーなんかにやられるなんて。』
悔しそうに舌打ちをしていた。
銃を持った奴はいなくなったが、ピンチが去ったわけではない。
周りを敵に囲まれていたからだ。
人間に変わった動物たち・・・・。
木立の中からゆっくりと迫ってきて、今にも飛びかかってきそうだった。
『なんなんだコイツら?』
『人間に変わった動物たちだよ。』
『てことはコイツらも・・・、』
『薬を飲んでる。』
『かあ〜!面倒臭えことになってやがんなあ!』
ジリジリと迫ってくる元動物たち。
そこへもう一人厄介な奴が現れた。
ロッキー君の仲間の狼男である。
プロレスラーの倍くらい大きな身体をしていて、ノシノシこちらへ近づいてくる。
チェリー君が『やべえなコイツ・・・・』と息を飲んだ。
『こいつはロッキーなんかよりずっと強い霊獣だぜ。ぶっちゃけ俺じゃ勝てねえ。』
『そりゃロッキー君にも負けるんだから勝てないよ。』
『うるせえ!不意を突かれなきゃあんな野郎に負けたりしなかったんだ。』
負けたのは自分から弱点を喋ったせいである。
それがなければ擬態を見抜かれることもなかっただろうに。
狼男は真っ直ぐに近づいてきて、俺たちの前で足を止めた。
目の前に立たれただけでもすごい威圧感だ。
きっと猛獣に狙われる獲物はこんな気分なんだろう・・・・。
『チェリー君・・・・ヤバいよこいつ。』
『分かってる。擬態も通用しねえし・・・・参ったな。』
自慢のリーゼントがフニャっと垂れていた。
そうこうしている間にも周りを囲う敵が迫ってくる。
いよいよマズい・・・・そう思いかけた時、『この野郎!』と雄叫びが響いた。
『よくもウチの子たちを!!』
ロッキー君を倒したアカリさんが狼男に飛びかかる。
『稲荷か?』
狼男はボソっと呟き、思いっきりアカリさんを殴り飛ばした。
『ギャン!』
まともにパンチを食らったアカリさんは10メートル以上も吹き飛ばされる。
しかしすぐに立ち上がり、牙を剥き出して飛びかかった。
『許さない!お前らぜったいに殺してやる!!』
鋭い爪で切りつけるが、これもあっさりとかわされてしまう。
だがまだ諦めない。
クルっと回転して四つの尻尾を巻き付けようとした。
狼男はこの攻撃を読んでいたかのように、高くジャンプした。
そして口先をすぼめ、アカリさんに向かって遠吠えを放ったのだ。
超音波なので俺には聴こえない。
しかしアカリさんの耳には響いたようで、『ギャッ!』と悲鳴を上げてから気絶してしまった。
『アカリさん!』
駆け寄ろうとすると狼男が立ちはだかった。
俺を掴み、高く持ち上げたのだ。
どうやら周りを囲う元動物たちに投げるつもりのようだ。
そんなことされたら一斉にリンチを受けて助からないだろう。
『させるかよ!』
チェリー君が擬態を使う。
でも狼男には通用しなかった。
また遠吠えを放ち、チェリー君の耳を揺さぶる。
『あ、頭が・・・・、』
擬態が解けてしまい、地面をのたうち回る。
狼男はチェリー君の頭を踏みつけ、鋭い爪を喰い込ませた。
『ぐあああああ・・・・、』
『やめろおお!』
チェリー君どころかアカリさんまで負けてしまうとは思わなかった。
これじゃモンブランを助けるどころか、俺たちが生きて帰れるかどうかも分からない。
万事休すである。
しかしその時、木立の中から『やめて!』と声が響いた。
『それ以上ひどいことしないで!』
モンブランだった。
木立の中から駆け出して、狼男の前に立ちはだかる。
『子犬もリーゼントの霊獣も私の仲間なの!許してあげて!』
狼男は鋭い目で見下ろす。
俺は『モンブラン!』と叫んだ。
『無事だったか!』
『悠一!いま助けてあげるからね!』
『なに言ってんだ!お前まで襲われちまうぞ!早く逃げろ!』
『平気よ、だって彼は私の婚約者なんだもん。』
そう言って『お願い』と潤んだ目で見つめた。
『悠一は私の家族なの。だったらあなたにとっても家族同然でしょ?もう許してあげて。』
まるで少女漫画のヒロインみたいに目をキラキラさせている。
狼男は俺を離し、モンブランの腕に落とした。
『悠一!よかった・・・・。』
『あの・・・・いったい何がどうなってんだか・・・・。』
『私ね、婚約したの。』
『それ・・・・マジで言ってんのか?』
『式場と日取りはまだ決めてないけど、やっぱり大安がいいわよね。それに式場は海が見えるところがいいわ。ねえ?』
狼男に目配せすると、ポっと頬を染めていた。
『というわけで、みんなも式に呼んであげるからね。』
『・・・・・・・・・。』
『それと悠一には仲人をお願いしたいの。あ、でもスピーチの時は三つの袋の話とかはやめてね。
そういう古臭いのじゃなくて、もっとこう私たちの未来を祝福するような、幸せをみんなに届けられるようなスピーチにしてほしいの。やってくれるわよね?』
まだキラキラした目で見つめている。
俺は思いっきり息を吸い込んでから答えてやった。
『こんな男と結婚なんて許さんぞ!!』

 

     *****

 

とまあ色んなことがあって、今はこの集落にいる。
個人的にはモンブランの結婚について断固反対したいところだが、とりあえず私情はしまっておこう。
今はこの集落そのものが大問題なのだから。
俺の周りには大勢の人間と動物たちがいて、互いにピリピリした様子で睨み合っていた。
人間に戻りたい元人間たち、人間に恨みを抱く元動物たち。
今にも争いが起きそうだが、これを宥めたのはマシロー君であった。
あの丁寧かつ柔らかい口調で、『みなさん落ち着いて下さい』と止めたのだ。
人間と動物、両方と話せる彼は、それぞれの言い分を聞きつつ、とにかく喧嘩はしないようにと今も説得中である。
マシロー君、やっぱり君は立派なネズミだ。
しかしいつまでもこんな状況が続くのはマズい。
どうにかして元に戻さないと・・・・。
「有川さん。」
近くの家から宇根さんが出てくる。
俺は「二人の様子は?」と尋ねた。
「無事だ。しばらくは目を覚まさないかもしれないが。」
「そうですか、とりあえず無事なら安心しました。」
アカリさんとチェリー君は狼男のせいでノックアウトされてしまった。
あの二人をこうもあっさり倒すなんて・・・・やっぱりこいつはタダ者じゃないようである。
「ロッキー君、あんたの親分は何者なんだ?稲荷と喧嘩して勝つなんて普通じゃ考えられないぞ。」
「こいつ強いだろ。」
嬉しそうに胸を張っている。
「誰も褒めてないぞ。」
「俺たちは流れ者の霊獣なんだ。俺は頭脳派、こいつは武闘派だ。」
「話を聞いてるか?」
「俺たちはあちこちで色んな霊獣と喧嘩してるからよ、自然と強くなっちまったんだよなあ。」
「強いのはそっちの狼男だけだろ。」
「だから俺は頭脳派なんだよ。頭がなきゃ腕っ節が強くても意味ないだろ。」
君も頭が良さそうに見えないよって言おうとしたけど、下手に挑発するのはやめておこう。
「君たちが強い霊獣だっていうのは分かったけど、どうしてあの薬をばら撒いてたんだ?」
「ん?まあそれは・・・・あれだな。守秘義務ってやつがあるから。」
「てことは誰かから頼まれたってことか?」
「まあな。」
「いった誰に?」
「それは言えないって。」
「じゃあさ、俺が一発で当ててみせるよ。もし当たってたら依頼者が誰か教えてくれないか?」
「上手いこと言って。そうやって引っ掛けようってつもりなんだろ?でも頭脳派の俺には効かないぜ。」
余裕たっぷりに笑っている。
だったらここはコイツにお願いするしかないだろう。
「なあモンブラン。」
「なあに?」
「お前から聞き出してくれないか?依頼者は誰なのか。」
「ええ〜・・・・ヤダ。」
「なんで?」
「だって無理矢理聞いたら彼に嫌われちゃうもの。ねえ?」
可愛こぶりながら腕を組んでいる。
狼男は頬を赤くした。
なんでこんな関係になっているのか気になるけど、とりあえず今は置いておこう。
「モンブランよ、お前は結婚して幸せになりたんだろ?」
「もちろんよ!ていうかぜったいに幸せになるわ。」
「その為にはみんなから祝福されたいよな?」
「みんなしてくれるわよ!結婚式だって盛大にやるんだから。」
「うんうん、でも俺は結婚に反対なんだ。」
「ええ!なんでよ!?」
「だってどこの馬の骨とも知れない男にお前を預けるなんて・・・・飼い主としては認められないな。」
「そんな!」
「悪いけど仲人は引き受けられない。」
プイっとそっぽを向く。
モンブランは「ちょっと待って!」と叫んだ。
「そんなのイヤよ!私はみんなから祝福されたいのに!」
「俺はこんな結婚は認めない。」
「彼はとっても良い男なのよ。悠一だって分かってくれるわよ。」
「どうだか。お前を無理矢理さらって結婚しようだなんて・・・・俺がどれほど心配したか。」
「私をさらったのはロッキー君よ、彼じゃないわ。」
「いいや、仲間なんだから共犯だ。」
「違う!だってロッキー君は私にひどいことしようとしてたのよ!依頼者に売り渡すって。」
「なッ・・・・売り渡すだって!?」
「良いサンプルになるからって。」
「サンプルって・・・・どういう意味だ?」
「だってほら、あの薬は副作用があるでしょ?急に胸が苦しくなるやつ。」
「ああ、そのせいでアカリさんの子供も苦しんでる。チェリー君の生徒たちも。」
「でも私はなんともないわ。ということは、私を調べれな副作用のない薬が作れるかもしれない。だから売り飛ばそうとしたのよ。」
なるほど・・・それでコイツを誘拐したわけか。
でもそうなると・・・・、
「前から目を付けてたってことか?」
ロッキー君を睨むと「いいや」と首を振った。
「今日初めて会った。」
「じゃあなんで副作用が出ないって分かるんだ?あれって飲んですぐに苦しくなるもんじゃないはずだろう?」
「臭いだよ臭い。」
「臭い?」
「普通は動物から人間に化けても、ちょっとだけ獣臭さって残るもんなんだよ。俺たち霊獣だってそうだし。」
「獣臭さ・・・・。」
そういえばマシロー君も言っていた。
ウズメさんと会った時、獣の臭いがするから霊獣だと見抜いたって。
「でも薬で変わった奴らにはこの臭いがないんだ。」
「臭いがない?」
「無臭ってわけじゃないぜ。人間の臭いはするからな。でも獣臭さがないんだよ。そういう奴は決まって副作用が出るもんなんだ。
でもモンブランちゃんは獣の臭いがしてた。てことは副作用が出てないんじゃないかと思ったわけさ。」
「臭いか・・・・。でも俺の仲間の霊獣たちは誰一人そのことに気づいてなかったぞ。鼻の良いマシロー君だって。」
「そりゃアレだよ、俺は特別に鼻がいいから。なんたってオオカミの霊獣だからな。」
「てことはほんの微かな臭いってことか。」
「そういうこと。モンブランちゃんは薬で変わったのに臭いがしてる。良いサンプルになると思うだろ?」
「なるほどな、それでさらったわけか。」
だんだんとロッキー君たちの思惑が分かってきた。
けど問題は誰にモンブランを売り渡すつもりだったのかってことだ。
《きっと薬を渡してきた連中にだろうな。それが誰なのか聞き出さないと。》
モンブランは腕を組んでデレデレしている。
自分がどれほど危険な状況にいたか分かっているんだろうか。
「お前はほんとに能天気だな。なんで自分を売り渡そうとした奴に惚れるんだよ?」
「うふ。」
「笑ってないで答えろ。」
「だって助けてくれたんだもん。」
「助ける?」
「彼がね、こんな可愛い子を売り飛ばすなんて可哀想だって。」
「こいつが?」
「でもロッキー君はすっごいしつこくて、ぜんぜん言うこと聞いてくれなかったわ。手を引っ張って無理矢理連れて行こうとしたのよ。
だけど彼が助けてくれた。その子を連れて行くなら、もう二度とお前とは組まないって。そしてロッキー君の手から私を奪い取って、ひどいことしてゴメンって謝ってくれたの。」
「要するに仲間割れか。」
「彼ね、私を見るたびに頬を赤くするのよ。そして一生君を守るからって・・・。」
「おい・・・まさか結婚しようって言い出したのは・・・、」
「そう、彼の方から!」
頬を赤く染めながら、嬉しそうにクネクネしている。
「私を見た瞬間に一目惚れしたんだって。それでぜったいにこの子をお嫁さんにするって。」
「プロポーズされたのか・・・・?」
「やっぱりこういうのは男から言ってほしいわよね。ちゃんと面と向かって。
最近は草食系とか増えてるけど、彼は正面から堂々と言ってくれたの。私を守ってくれたし男らしいし、もう即OKしちゃった!」
頼むからそのクネクネをやめてほしい・・・・。
普段のモンブランを知っているから、いかに猫を被っているかがよく分かる。実際猫なんだけど。
「ま、まあ・・・・誰を好きになるかは個人の自由だからな。でも結婚するっていうなら、やっぱり周りから認めてほしいだろ?」
「でも悠一は認めてくれないんでしょ?飼い主のクセに薄情だわ。」
「ならこうしよう。お前がその狼男から依頼者を聞き出してくれたら、結婚を認めることを前向きに検討する。」
「ほんとに!?」
「ああ、約束する。」
「その時は仲人もしてくれる?」
「もちろん。」
「感動的なスピーチも?」
「徹夜で考えよう。」
「ありがとう!やっぱり悠一は最高の飼い主だわ!」
嬉しそうにクルクル回ってから、「ねえねえ?」と狼男に尋ねる。
「誰があなたに依頼したの?」
「・・・・・・・。」
「あの薬は依頼者からもらったんでしょ?それが誰なのか教えて。」
可愛らしく手を組み、わざとらしく首を傾げている。
するとロッキー君が「待て待て!」と止めに入った。
「色仕掛けで落とす気か?」
「そんな言い方しないでよ。私は未来のお嫁さんなんだから。」
「これでも俺たちはプロだぜ?いくら婚約者の色仕掛けでも・・・・、」
「カマクラ家具。」
狼男は即答した。
ロッキー君はブチ切れる。
「テメエこの野郎!なにあっさり教えてんだ!」
「彼女は妻になるんだ。秘密は良くない。」
「今日会ったばっかの女にデレデレし過ぎだろ!」
「自分がモテないからって僻むな。」
「な、なにおぅ〜・・・・、」
うん、俺もッキー君はモテないだろうと思う。
まあそんなことはどうでもよくて、さっき狼男が答えたこと・・・・、
「カマクラ家具って言ったよな。それほんとなのか?」
「・・・・・・・・。」
「モンブラン頼む。」
「今のはほんとなの?」
「本当だ。カマクラ家具の瀞川と安志って男から頼まれた。この薬を捌いてほしいと。」
そう言ってフサフサの体毛から例の薬を取り出した。
「なるべくたくさんの動物に渡すようにと言われた。そして薬を使った動物たちから感想を聞いて、それを伝えてくれと。」
「要するにデータが欲しかったってことか?」
「・・・・・・・。」
「モンブラン。」
「それのデータが欲しかったってこと?」
「ああ。社内の実験だけだと限りがあるので、より多くのデータが欲しかったようだ。ちなみにこいつのデータも。」
フサフサの体毛から黄色と緑のカプセル剤を取り出した。
解毒剤だ。
「そいつをくれ!」
「・・・・・・・・。」
「モンブラン!」
「それ悠一に渡してあげてくれない?」
「君の頼みなら。」
モンブランは薬を受け取り、「ありがと」と微笑む。
「でかしたぞ!今すぐ飲ませてくれ!」
「・・・・・・・。」
「どうした?早く。」
「結婚・・・・ぜったいに認めてくれるわよね?」
「え?」
「だってあとからやっぱり無しって言われると困るから。」
「そ、それは・・・・、」
「ほら、やっぱり怪しいと思ったのよ。」
ふん!と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「さっきこう言ったわよね?結婚を前向きに考えることを検討しようって。」
「あ、ああ・・・・。」
「検討じゃなくて、ぜったいに認めるって約束してくれなきゃこれはあげない。」
「ええ!」
自分のポケットに薬を隠してしまう。
必死に手を伸ばすけど全然届かなかった。
「お願いだ!その薬をくれ!」
「じゃあ結婚を認めてくれる?」
「前向きに検討を・・・・、」
「じゃああげない。」
「モンブラン〜・・・・。」
なんてことだ。
以前のモンブランなら騙せたはずなのに。
人間になって賢くなってしまったのだろうか。
モンブランはそっぽを向いたままで、何を話しかけても答えてくれない。
これじゃ狼男から話を聞くことも出来ない。
《ああ、どうしよう・・・・上手くいくと思ったらこれだよ。》
元の姿には戻りたい。
でもこんな狼野郎との結婚を認めるなんて・・・・それは断じて出来ない!
「あの、ちょっといいですか?」
いきなりマシロー君が話しかけてくる。
俺は「なに・・・?」と気のない返事をした。
「ちょっと気になることがあるんです。」
「俺も気になることだらけだよ。いったいいつになったら戻れるのか?モンブランは本気で結婚する気なのか?そもそも無事に帰れるのか?不安でいっぱいだ・・・・。」
「心中お察しします。でも今は僕の話を聞いてほしいんです。」
「いいよ、聞くだけなら・・・・。」
「ありがとうございます。」
丁寧にペコリと頭を下げる。
もし人間なら一流の執事にでもなっていそうだ。
「実はですね、そちらの方の臭いなんですが、ちょっと記憶にございまして。」
「そちらって誰・・・・?」
「狼男さんです。あなたの臭い、どこかで嗅いだことがあるなあって気になっていたんです。」
「そうなんだ・・・。どこかですれ違ったことでもあるんじゃないの・・・。」
「いえ、お会いするのは今日が初めてです。なのに以前に嗅いだことのあるこの臭い・・・・いったいどこだったか考えていたんですが、それを見てピンと来ました。」
そう言って小さな手で指さした。
「例の薬・・・・?」
「はい。正確にはその薬が入っていたポーチです。」
「ポーチ?」
「遠藤さんはこう言っていました。以前にお付き合いしていた男性から薬を貰ったと。その時にポーチに入ったまま貰ったそうです。」
「そういえば小さなポーチに入れてたな。」
「そのポーチに付着していた臭いと、その狼男さんの臭いがまったく同じなんです。」
「・・・・・え?」
狼男を振り返ると、さっと目を逸らした。
「なあアンタ。以前にオカマの人間と付き合っていたことはないか?」
「・・・・・・・・。」
「モンブラン頼む。」
「結婚認めてくれなきゃヤダ。」
「そんなこと言ってる場合か。これはすごく大事なことなんだ。」
「どうして?」
「ポーチの臭いと狼男の臭いが同じなら、そいつが遠藤さんに薬を渡したかもしれないってことだ。」
「いくら遠藤さんでも狼男と付き合うわけないじゃない。」
「そのままの姿なら付き合ったりしないだろうな。でも彼は霊獣だ、人間に化けられる。」
「だから何よ。彼はあの人と付き合ったりなんかしてないわ。」
「狼男の口から聞きたいんだ。お願いだから・・・・、」
「イヤよ!」
「結婚のことは前向きに考える。だから・・・・、」
「そうじゃない!」
「そじゃないって・・・じゃあなんなんだよ?」
「彼は私の婚約者なのよ!昔の恋の話なんて聞きたくないわ!」
「いや、そういうことじゃなくてだな・・・・、」
「もういい!悠一なんか知らない!」
俺を置いて狼男と腕を組む。
「行きましょ。」
ポっと頬を染める狼男。
二人はラブラブな感じで去って行った。
ロッキー君が「待てよ!」と慌てて追いかける。
でもすぐに引き返してきてこう言った。
「アイツが依頼者を口走ったこと、ぜったいに言うんじゃねえぞ。」
「なんで?」
「なんでって・・・・当たり前だろうが!俺たちこれで飯食ってんだ!」
「分かったよ、言わない。」
「ほ。」
「すごい安心したな今。もしかして君たちの依頼者ってけっこう怖い奴らなんじゃないの?」
「え?」
「だってかなりビビってるみたいだから。」
「ビビってなんかねえよ・・・・。」
「声が上ずってるけど?」
「うっせえな!とにかく余計なこと言うんじゃねえぞ。」
そう言い残し、「待てよお前ら!」と去ってしまった。
さて・・・・これからどうしよう。
とりあえずモンブランが危険に晒されることはないだろう。
何かあっても狼男が守ってくれるはずだ。
問題はこの集落なんだけど・・・・、
「マシロー君、何か名案はあるかい?」
「何に対しての名案でしょうか?」
「この集落の人間と動物を元に戻す方法。」
「そうですねえ・・・・特に思いつきません。」
「だよな。」
二匹で困り果てる。
人間と動物たちはまだ睨み合ってるし、せっかくの解毒剤も手に入らなかったし。
このところ空回りばっかりっていうか、ギリギリのところで上手くいかないことばっかりだ。
大きなため息をついていると、宇根さんが「大変だ!」とやって来た。
「どうしたんです?」
「お稲荷さんがお怒りなんだ!」
「アカリさん目を覚ましたんですか?」
「そうじゃない!神社のお稲荷さんが・・・・、」
そう言って集落の奥にある稲荷神社を指さした。
・・・・誰か倒れている。あれは大きなキツネだ。
尻尾が三本、これは間違いなく稲荷だ。
「あの神社に祭られているお稲荷さんか?」
なんだかグッタリしているけど大丈夫だろうか?
不安に見つめていると、突然ガバっと起き上がった。
「ちくしょおおおお!あの狼男ども!よくも俺を生き埋めにしやがったな!ぜったいに許さん!!」
怒り心頭に起き上がる。
そして目が合ってしまった。
「あ。」
「あ。」
お互いに驚く。
そして同時に叫んだ。
「お前・・・・ただの子犬じゃないな?この雰囲気、この臭い・・・・まさか有川か!」
「さすがお稲荷さん、一発で見抜くなんて。」
「なんでお前がここにいる!?」
「こっちのセリフだよ。なんで君がこの神社に?」
彼は一昨年の夏に揉めた稲荷の一人、ツムギ君という。
たしか別の神社に祭られていたはずだけど・・・・、
「やあツムギ君。久しぶりだな。」
事情は分からないけど、とりあえず仲良くしておこう。
上手く丸め込めば力を貸してくれるかもしれない。
ただ残念ながら、彼は俺のことを嫌っているのだ。
ツムギ君はダキニの部下で、誰よりもダキニを敬愛していたからだ。
そして俺はダキニを地獄へ送った張本人、今でも恨まれている。
でもそれはそれ、これはこれ。
「昔のことは忘れて仲良くしよう。」
「出来るか!お前のせいでダキニ様を失い・・・俺は・・・俺は・・・こんな田舎に飛ばされたんだ!」
「あ、左遷されてここにいたのか。」
「黙れ!お前さえいなければ・・・・。ウオオオオオオン!ダキニ様あああああああん!!」
夜空に遠吠えがこだまする。
つられて犬に変わった人間たちも遠吠えをしていた。

バトル漫画における強さのインフレ

  • 2018.11.19 Monday
  • 10:42

JUGEMテーマ:漫画/アニメ

バトル漫画ではどんどん強い敵が出てきますが、ここで打ち止めにしておかないとマズイってこともあります。
最初は車一つ吹き飛ばす攻撃で「強ええ!」ってなるけど、次に出てくる強敵は平気で島一つ吹き飛ばすとかありますからね。
その次は地球を、その次は太陽系を、その次は宇宙を、その次は高次元の支配者みたいな感じで、どこまでいってもキリがありません。
それに能力だってどんどん凄くなっていって、思うだけで何でも出来るとか、望んだことは全て現実になるとか、作者自身が使い用に困るんじゃないかって場合もあります。
何でも出来るってことは宇宙の創造や死者の蘇生や、自分の思い通りの世界を構築するとか、無敵を通り越した万能神です。
もはや誰と戦う必要もありません。
強すぎるがゆえに孤独を感じて寂しいなんてこともないでしょう。
そんな感情さえ何でも出来るならどうとでもなるんですから。
でもバトル漫画では次なる強敵にみんな期待します。
となると際限なく強い奴とか、神様みたいな能力の持ち主を出すしかなくなります。
けど多くの場合、そういった敵は自身の強さや能力を持て余しているように思います。
そしてなぜか遥かに格下の主人公に負けてしまったりと。
ストーリーの進行上、さすがに主人公がやられるわけにはいきません。
でも敵は敵でものすごく強いわけで・・・・。
要するに設定と物語の整合性が破綻してしまうのでしょう。
バトル漫画で強い敵は必須だけど、ここが強さの限界っていう基準はあった方がいいのかもしれません。
最強の弟子ケンイチでは長老が強さの上限でした。
バキなら勇次郎がこれに当たります。
どちらも主人公じゃないのに最強なんです。
でもそうやって強さの上限が決まっていれば、極度なパワーインフレが起こることはありません。
過去に倒された敵だって、強さの上限内であれば強化が可能なので、再登場させることも可能です。
けどこれが上限のない作品だと、過去の敵は負けて終わった弱い敵となり、再登場してもインパクトに欠けます。
そしてまたどんどん強い敵を出し、作者でさえも手に負えないキャラクターとなり・・・・。
何もない完全に自由な状態よりも、何か制約があった方が物事は進めやすいです。
自由は削られるけど、制約を基準としてルールを決めやすいですから。
だから強さの上限が決められている作品って、設定と物語の整合性が取れています。
どんな強敵が出て来ようが、長老や勇次郎には勝てないわけですから、主人公が目指す場所もブレません。
主人公がブレないなら物語だってブレないわけで、バランスがいいんですよね。
漫画はキャラクター、物語、舞台、設定など、色んな要素で成り立っているけど、バトル漫画の場合はとにかく設定と他の要素のバランスが大事なんじゃないかと思います。
でも口で言うのは簡単だけど、実際に作るとなるととても難しいのでしょう。
読者は客観的に見られるけど、作者はなかなかそうはいかないと思います。
自分の中から生まれた作品だから、思い入れがあったり、描きたい事や描きたくない事もあるだろうし。
何より忙しすぎて、仕上げるだけでも相当大変だと思います。
バトル漫画って難しいですね。

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