うららかな・・・

  • 2019.04.19 Friday
  • 11:59

JUGEMテーマ:

散った桜と入れ替わるように

 

菜の花が咲いている

 

足元には名前も知らない小さな花もたくさん

 

桜の花びらも散らばって

 

川原が色鮮やかになる

 

でも一番目を引くのは草木の緑

 

そして揺れる木影

 

温い風がそよぐ 草の揺れる音が風に乗る

 

サッカーボールを抱えた兄弟が

 

おばあちゃんと呼びながら追い越していった

稲松文具店〜燃える平社員と動物探偵〜第三部 第十三話 闘争(1)

  • 2019.04.19 Friday
  • 11:33

JUGEMテーマ:自作小説

動物探偵ってのは大変な仕事だ。
自分で言うのもナンだけど、たま〜に後悔することもある。
なぜかって?
相手が普通の動物ばかりじゃないからだ。
お稲荷さん、猫又、狼男。
実に様々な霊獣たちがこの世にはいて、そういった動物たちとも関わることになる。
良い霊獣なら大歓迎だけど、そうじゃないならとても困ったことになる。
「なあ?翔子はどこだ?」
マサカリが拳銃を揺らしながら言う。
ここはカグラ本社の社長室。伊藤の狼に運ばれてやって来た。
マシロー君が言うにはここに翔子さんが囚われていたはずだという。
しかしどこにもいない。
社長室の割には質素で狭いこの部屋、くまなく探したけど隠れられそうな場所もない。
「やいマシロー!テメエ嘘こきやがったな!?」
マサカリがズイズイっと詰め寄る。
マシロー君は「嘘なんて・・・」と首を振った。
「ここにいたはずなんですよ。そうでしょ?」
そう言って伊藤秀典を振り返る。
彼はもう一人の伊藤、二つのうちの別れた心臓から生み出された、いわばクローンのような存在だ。
ちなみにこの伊藤、なぜか喋らない。
マシロー君曰く、口が利けないわけではないらしいけど、滅多なことじゃ言葉を発しないのだという。
「北川さんをここへ連れて来たのは伊藤の狼なんです。」
「アイツが?」
「ここならそう簡単に手は出せないからと思ったんでしょう。」
「なるほど。少なくともここに来るまでは無事だったんだよな?」
「はい。」
それを聞いてちょっと安心する。
前に囚われていた工場は燃え尽きてしまったので、万が一ってことを考えてしまったのだ。
でもここにもいないとなると・・・・いったいどこへ?
伊藤に尋ねようとしたが、まったく目も合わせてくれない。
何を聞いても無駄だろう。
そして当の狼だけど、アイツは俺たちをここへ運んだ後にどこかへ消えてしまった。
もう一人に伊藤の所にでも行っているのかもしれない。
「これで振りだしね。」
モンブランが肩を竦める。
マリナも「さらわれた人を助けるって難しいのねえ」と言った。
「まだこれで戦ってる方が簡単だわ。」
そう言って懐から拳銃を取り出した。
「お、お前まで!?」
「私も持ってるわよ。」
「モンブランも!」
「だって強い敵と戦おうってのよ。これくらいいるでしょ。」
「そうよお。この場で武器を持ってないのは悠一だけよ?」
「・・・・・・・・。」
みんながみんな拳銃を持つ。・・・・・これが普通なのか!?
だってここは日本だぞ。持っていない俺の方が普通じゃないのか。
マサカリたちはみんな銃を持ってるし、御神さんだって・・・・、
「・・・・って、御神さん!何をしてるんですか?」
さっきから何も喋らないなと思ったら、社長のデスクに座って勝手にパソコンをいじっている。
そして悔しそうに「ダメか」と呟いた。
「ここを覗けば何か分かるかと思ったんけど・・・・ゲームばっかりだわ。」
「彼は大のゲーム好きなんですよ。仕事の情報とかは入っていないと思いますよ。」
マシロー君が言う。
「みたいね」と頷き、「なにかネタになりそうなモノはないかしら?」とあちこち漁りまくっていた。
う〜ん・・・・さすがはジャーナリスト。
こういう場面でもまったく臆することがない。
「ここにいねえんじゃ仕方ねえ。さっさと別の場所を探そうぜ。」
マサカリの言葉に「そうだな」と頷きかけて、ふと気づく。
「あれ?チュウベエは?」
「さあ?さっきまでいたんだけどな。」
「アイツ、また勝手にどこかに・・・・、」
ちょっと目を離すとすぐこれだ。
まさか社長室の外に出たりしてないだろうなと心配していると、プルルとデスクの電話が鳴った。
「ねえ悠一、電話が鳴ってるわ。なんか内線ってところが光ってるけど。」
「分かってるよ。」
「出ないの?」
「俺たちが出たらおかしいだろ。かといって伊藤は出る気はなさそうだし。ここは無視しとこう。」
俺たちは狼の霊獣に運ばれてここへやって来た。
アイツの背中に乗って、こっそりと社長室に侵入したのだ。
もう一人の伊藤と鬼神川がいるかもって心配だったけど、幸い奴らはどこかへ消えているようで、窓を一枚破壊してお邪魔させてもらっている。
もし誰かが入ってきても、クローンの伊藤がいるから誤魔化せると思ったんだけど・・・・電話には出ない方が賢明だろう。
「はいもしもし?」
いきなり出たバカ野郎がいた。
チュウベエである。
どうやらデスクの下でゴソゴソしていたらしく、受話器片手に偉そうに社長の椅子に座った。
「バカ、なんでお前が出るんだよ・・・・、」
せっかくバレないように忍び込んだのに、電話に出てしまったらもう・・・・、
「おい代われよ。」
マサカリが手を伸ばす。
するとモンブランも「私も私も!」と受話器を欲しがった。
「ていうか社長の椅子も代わってよ。」
「ちょっとみんな、ちゃんと順番を決めましょ。ここは公平にジャンケンでどう?」
マリナまで加わってみんなで受話器を奪い合っている。
御神さんがお手上げねみたに肩をすくめた。
マシロー君が「有川さん、逃げた方がいいと思います」と呆れている。
「俺もそう思う。けどどこから?」
あの狼はどこかへ消えてしまった。
最上階の窓から俺たちだけで逃げ出すのは不可能だ。
「もしもし?悪いが極上のミルワームを丼いっぱい持ってきてくれたまへ。」
「いいや、特上のステーキだ!」
「ていうか早く代わってよ!」
「だからジャンケンしましょうってば。」
どいつも大声で喚いているので、受話器の向こうに筒抜けだろう。
それから数分後、案の定というかなんというか、数人の社員が部屋に駆け込んできた。
御神さんはサっとデスクの下に隠れるけど、俺たちは隠れる間もなく見つかってしまった。
「誰だお前ら!」と囲まれる。
「どこから入った!」
「いや、あの・・・・、」
「おい、窓が割れてるぞ!」
「なに・・・てことは屋上からか?もしやお前らプロの窃盗団かなにかじゃ・・・・、」
「俺の友人だ。」
伊藤が初めて口を開いた。
社員たちは「社長!」とすくみ上がった。
「みな俺の友人だ。文句あるか?」
「い、いえ!とんでもない。」
どいつもかなり怯えている。
どうやらかなり伊藤を恐れられているらしい。
「邪魔だ、出て行け。」
「は、はい!」
軍隊みたいに回れ右をして、ササっと駆け出していく。
「社長、なんか若返ってないか・・・・?」
「し!外見を気にされる方だ・・・・。余計なことは言うな。」
ヒソヒソ声が聞こえてくる。
伊藤が「なにか言ったか?」と近づいていくと、「いえいえ!なんでもありません!!」と逃げるように去っていった。
「・・・・・・・・。」
どうにか助かった・・・・。
喋るのを初めて聞いたけど、思っていたよりも渋い声だった。
いや、そんなことよりも・・・・・、
「今度はこっちから掛けてやるか。」
チュウベエのアホがリダイヤルしようとしている。
「いい加減にしろ!」と受話器を取り上げた。
「お前らのせいで危うくバレるところだったんだぞ!」
「いいじゃんかバレても。」
「いいわけないだろ!」
「もし襲いかかってきたらこいつでバンだ!」
そう言って拳銃を振りかざした。
「あのな、そいつはオモチャじゃないんだぞ。」
「馬の耳に念仏だぜ悠一、俺たちはこいつで何度も戦ってるんだから。」
「そうよ、悠一なんて子犬のまま怯えてただけじゃない。」
「ねえ。私たちにもっと感謝してほしいわ。」
「ぐッ・・・・調子に乗りやがって。」
これ以上つけあがらせると危ない。
どうにか取り上げたいけど、下手に奪おうとしたら撃たれかねない。
今はなるべく刺激しない方がいいだろう。
俺は受話器を置き、「でもさっきの電話はなんだったんだろう?」と呟いた。
わざわざ社長室に内線を寄越すくらいだから、大事な用があったはずだ。
モタモタしてたらまた誰かやって来るかもしれない。
それまでにどうにかしてここから逃げ出さないと・・・・。
「おい。」
どこかから声がする。
周りを見渡していると「ここだよ」とまた声が。
「天井から・・・・?」
見上げるが誰もいない。
するとモンブランが「敵だわ!」と銃を向けた。
「きっと忍者よ!モタモタしてたら手裏剣で殺されちゃう。」
「んなアホな。」
「殺られる前に殺る!戦いの鉄則でしょ!!」
天井に向け、バン!と撃つ。
「オイ!何してんだ!?」
いきなり撃つなんてどうかしてる。
これ以上コイツらに武器を持たせてはダメだ。
「それは俺が預かっとく。」
「イヤよ!」
「いいから貸せ!」
「ちょっと乱暴しないでよ!」
「ぐはあ!」
銃のグリップが横っ面にめり込む。
モンブランは「あ、ごめん・・・」と苦笑いしていた。
「大丈夫?」
「お、お前なあ・・・・、」
「だって乱暴なことするんだもん。」
「ていうか銃口をこっちに向けるな!」
慌てて逃げ出すと、ドンと誰かにぶつかった。
「痛・・・・なんだよもう!」
目の前を睨むけど誰もいない。
するとまた「相変わらず鈍臭い野郎だなあ」と声がした。
「あれ?この声はもしかして・・・・、」
誰もいない目の前に、うっすらと人影が浮かび上がってきた。
「よう。」
「チェリー君!」
自慢のリーゼントをシュっと撫で付けている。
「無事だったか!」
「まあな。見つかりそうになった場面もあったけど、どうにか乗り切ったぜ。」
「いやあ、よかった!心配してたんだよ。」
バシバシ肩を叩いていると、「で、どうだったの?」と御神さんが寄ってきた。
「どうって何がだよ?」
「ここへ潜入してたんでしょ?なにか面白い情報は掴めた?」
さすがジャーナリスト、驚きもせずに仕事に取り掛かっている。
チェリー君は「そうそう!よく聞いてくれたぜ」と頷いた。
「実はよ、さっきまでここに鬼神川の野郎がいやがったんだ。しかも女を連れてよ。」
「女!?どんな?」
「美人だったぜ。スーツ着ててよ、けっこうスタイルもよかったな。いかにも仕事できますって感じだったぜ。」
「間違いない・・・・翔子さんやっぱりここにいたんだ。」
「でもすぐどっかに行っちまったよ。」
「ちなみにここにいたのは鬼神川と翔子さんだけか?」
「ああ。」
「もう一人男がいなかったか?そこに立ってる真っ白なスーツとよく似た男が。」
「いなかったな。・・・・ていうかそいつ俺に銃を撃ってきた野郎じゃねえか!」
血相を変えて飛びかかろうとする。
伊藤も銃を抜き、今にも殺し合いを始めようとしたので、「スト〜ップ!」と止めた。
「落ち着け二人とも!」
「これが落ち着いてられるか!危うく殺されるとこだったんだぞ!」
「まあまあ、彼は敵じゃないから。」
「なら銃を下ろさせろ!撃つ気満々だぞアイツ!」
「ええっと・・・・伊藤さんも銃を下ろしてくれませんか?」
「・・・・・・。」
「そんな怖い顔しないで・・・・。彼は悪い霊獣じゃないんです。あなたを騙したダキニとは違うんです。だからそう恨まないで。」
「・・・・・・。」
「ま、マシロー君からもなんか言ってよ!」
「大丈夫、そっちから手を出さないなら撃たないですよ。」
「何言ってやがる!この前はいきなり撃ってきやがったぞ!」
「ほんとに?」
「ほんとだ!」
「撃たれる前に攻撃しようとしませんでしたか?いきなり飛びかかろうとしたとか。」
「そ、それは・・・・どうだったかな?」
「霊獣に変身して襲いかかろうとしたりしませんでしたか?」
「・・・・覚えてねえ。おいアンタ、ありゃ俺が悪いのか?」
「えっと・・・・たしか君の方から飛びかかろうとしてたな。でもあれは俺を守ろうとしたからで・・・・、」
「おお、そうだったそうだった!思い出したぜ!アンタが襲われてると思って飛びかかったんだ。」
「ならそれが原因ですよ。手を出さない限りは何もしてきませんから。」
「ほんとかよ?」
「ほんとです。」
チェリー君は疑わしそうな目で伊藤を睨む。
しかしここで喧嘩しても仕方ないと思ったのか、「なら我慢してやらあ」と拳を下げた。
「前より大人になったなチェリー。」
チュウベエが頭を撫でる。
モンブランも「我慢を覚えるなんて偉いわね」と言い、マリナも「ちゃんと成長してるのねえ」としみじみしていた。
「ぐッ・・・・テメエらは相変わらず減らず口ばっかだな!」
「がはは!まあ俺様の教育の賜物だな。」
「黙れデブ犬!テメエになにか教わった覚えなんざねえ!」
また喧嘩を始める。
いい加減に話を進めたいので、「喧嘩は帰ってからにしてくれ」と宥めた。
「なあチェリー君、もう一度聞くけど、ここには鬼神川と翔子さんしかいなかったんだよな?」
「ああ。スーツの女が翔子って奴かどうかは知らねえけど、二人だけだったぜ。」
「そっか。なら社長の伊藤はいったいどこに・・・・。」
「ちなみに鬼神川が出て行ったのは誰かから電話がかかってきたからだ。えらいペコペコしてたぜ。」
「てことは伊藤からかな?」
「その伊藤っての、ここの社長なんだよな?」
「そうだよ。そこの男に瓜二つの。」
「てことは男か。なら違うな、電話から漏れてる声は女だった。」
そう言ってヒクヒクと耳を動かした。
「電話のあとに鬼神川は出ていった。女を連れてな。」
「どこへ行ったかは・・・・、」
「分からねえ。そのあとまた社内をスパイしてたからよ。」
「そっか・・・・。で、なにか見つかった?」
「まあな。」
偉そうに胸を張っている。
ハッタリをかますタイプではないので、これは期待していいだろう。
「実は技術部ってところに潜入しててよ。」
「技術部!それって例の薬が作られてたところじゃないか!」
「今も作ってたぜ。もう研究は終わったせいか知らねえけど、実験用の動物とかはいなかったな。
代わりに見たこともないような機械でバンバン作りまくってたけどよ。」
「量産に取り掛かったのか・・・・。このままじゃいつバラ撒かれてもおかしくないな。」
「どうにか止められねえかと思ったんだけど、さすがに敵の本拠地の中じゃあなあ。」
「いや、無茶はしなくて正解だよ。もし見つかったら殺されかねない。」
「見てるしかねえってのも辛いもんだったぜ。しかも新しい薬まで開発しようとしてるみたいでよ。」
「新しい薬・・・・?」
物騒なことを言う。
不安に目を寄せていると、御神さんが「どんなどんな!」と目をキラキラさせた。
「新しい薬ってなに?今度はどんな効果があるの?」
めちゃくちゃ嬉しそうにICレコーダーを向けている。
チェリー君は「近けえよ」と仰け反った。
「いいから教えて!」
「だから近けえって!」
ICレコーダーが鼻に当たっている。ていうか押し付けられている。
「具体的にどういう効果なのかは分からねえけどよ、今までとは違う色だったんだ。」
「色?」
「例の薬は赤と青のカプセル剤だろ。でもって解毒剤は緑と黄色。新しいのは紫なんだ。」
「紫?」
それを聞いて嫌な感じがした。
紫といってまず思いつくのはあの狼の血である。
例の薬も解毒剤も狼の血から出来ている。
カプセル剤の中には紫色の結晶が入っていて、そいつを飲むことによって効果が発揮されるのだ。
そして霊獣を殺傷できる伊藤の弾丸、あれも紫だ。
御神さんも同じことを考えていたのか、不安そうな顔で「気になるわね」と呟いた。
「今までにない薬か・・・・いったいどんな効果があるのかしら?」
「なあ、気になるよなあ。」
「ええ、とっても。」
「だから一個パクってきた。ほれ。」
そう言ってポケットから紫色のカプセル剤を取り出した。
「でかした!」
御神さんは大喜びだ。
チェリー君の手から奪い取り、マジマジと見つめている。
そしてパシャパシャとシャッターを切ってから、「はいどうぞ」と俺に向けた。
「え?どうぞって何が・・・・、」
「飲んでみて。」
「イヤですよ!」
「でも飲まなきゃどんな効果なのか分からないじゃない。」
「だからって俺を実験台にしないで下さい!」
「困ったわねえ、誰か飲んでくれないかしら?」
「そんなに知りたいなら自分で飲めばいいでしょう。」
「イヤよ、だって怖いじゃない。」
「だったら人に飲ませようとしないで下さい・・・・。」
「・・・・・・・。」
「チラチラ見たって飲みませんよ!」
なんて人だまったく・・・・・。
仕事熱心なのはいいけど、他人にわけの分からない薬を飲ませようだなんて・・・・、
「俺にもちょっと見せてみ。」
横から手が伸びてきて薬を奪う。
チュウベエだった。
「おい悠一、歯に青のり付いてるぞ。」
「え?どこ?」
「そこ。」
「だからどこ?」
「ほい。」
口の中に薬を投げ込まれる。
思わずゴクンと飲み下してしまった。
「お、お、お・・・・・、」
「どうだ?なんか変化はあるか?」
「お前えええええええ!!」
こいつはもはやアホを通り越してクレイジーだ。
一発くらいブン殴ってやらないと気がすまない!
「歯あ食いしばれ!」
握った拳を振り上げる。
するとマサカリが「おお!」と何かに驚いた。
「悠一!手え見てみろ。」
「手?」
「いいから!」
言われて見てみる。
すると・・・・・、
「な、なんじゃこりゃああああああ!」
俺の・・・俺の手が・・・・人とも獣ともつかない厳つい形に変わっていた。
指は太く短くなり、代わりに爪がナイフのように伸びていく。
しかも・・・・、
「うわああああ!う、腕もおおおおおお!!」
わさわさと白い毛が生えてくる。
・・・いや、腕だけじゃない。首も、胴体も、足も・・・・全身が真っ白でフサフサした毛に覆われていく。
そして遂には身体の形までもが・・・・。
「なんてこった・・・・。」
窓ガラスに映った自分を見て嘆く。
鋭い爪、頑丈な四肢、ガッチリした胴体。
顔は人と獣を混ぜたような厳つく、口からは牙がはみ出している。
これってまんま霊獣じゃないか!
「なるほどねえ。」
御神さんが唸る。
カメラを向け、パシャっとフラッシュを焚いた。
「あの紫の薬、霊獣に変える為のモノなのね。」
「そ、そんな・・・・・、」
「面白い、ますます面白いわ。」
「写真を撮らないで下さい!」
最初は子犬になり、次は霊獣って・・・・。
しかもこれ、いったい何の動物なんだよ?
よく見たら尻尾が生えてるし、頭の上から耳も生えてるし。
「だはははは!悠一もついに霊獣デビューか!」
マサカリが腹を揺らしながら笑っている。
モンブランは「けっこうイケてるじゃない」と褒めてくれるが、ちっとも嬉しくない。
マリナは「私はタイプじゃないわあ」と興味がなさそうだ。それはそれで傷つく。
ていうかこうなった原因のチュウベエは冷めた目で鼻クソをほじっていた。
「おいコラ!お前のせいでこうなったんだぞ!感想くらい言え!」
ガシっと胸ぐらを掴むと簡単に持ち上がってしまった。
さすがは霊獣、腕力が半端じゃない。
「よかったな悠一。」
「どこがだ!」
「これで武器なしでも戦えるぞ。」
「なにい・・・・。」
「だってほら、お前は拳銃を持ってなかっただろ?」
「まさかお前・・・・俺の為にわざと飲ませてくれたのか?」
「ウィイ。」
「ウソつけ!」
「ギャウ!」
あの薬の効果を知らなかったクセに何を言ってやがるのか。
《今度は霊獣に変わる薬とは・・・・。でも変だな。霊獣に変えるなら例の薬でも出来るはずなのに。》
本来あの薬は普通の動物を霊獣に変える薬なのだ。
でもカプセル剤のまま飲むと本来の効果を発揮できず、種族が変わるだけで終わってしまう。
すると俺の疑問を見透かしたかのように、マシロー君が「腑に落ちませんね」と呟いた。
「霊獣に変えるなら今までの薬でよかったはずです。どうして新薬を開発したんでしょうか?」
「俺も気になってたんだよ。作るメリットってないような・・・・、」
「あるわ。」
御神さんが言う。
「例の薬ってさ、正しい飲み方は漢方のように煎じて飲むのよね?」
「ええ。しかも霊獣の血で煎じないとだめなんです。」
「それってすごく面倒じゃない?人間が飲む漢方の場合だって、煎じて飲む本格的なやつはなかなか続かないっていうもの。
多少効果が落ちたとしても、飲むなら長続きする錠剤がいいそうよ。前に腰痛でお世話になった薬剤師さんがそう言ってたわ。」
「なるほど、たしかにさっきの薬の方が簡単に飲めますね。でも従来の薬と効果が同じなら新薬を作らなくてもいいと思うんだけど・・・・。
本物の漢方みたいに毎日飲み続けなきゃいけないわけでもないし。」
「たしかにね。けどそれは飲む側の理屈かもよ?」
「・・・・どういうことですか?」
「薬を与える側からしたら、簡単に霊獣に変わってくれた方がいいってこと。だってカグラの狙いは霊獣を増やしてこの世を支配することでしょ?
だったら従来型よりも新薬の方が手っ取り早く霊獣を増やせるじゃない。」
「ああ、そういうことか。」
言われて納得。でもそれってつまり・・・・、
「カグラは本腰を入れて霊獣の世の中を作ろうとしてるってことですよね?」
「そうなるわね。モタモタしてるとさっきの薬が大量にバラ撒かれるかも。まあそうなったらなったで私としては面白いんだけど。」
「冗談言わないで下さい。俺はぜったにそんなこと認めませんよ。」
とは言いつつ、自分がこのように霊獣になってしまった。
ていうかこれ、元に戻れるんだろうか?
「なんかタヌキっぽいな。」
マサカリが言う。
モンブランとマリナも「うんうん」と頷いていた。
「たしかに似てるわ。」
「模様は違うけど、なんとなくタヌキっぽいわね。」
「そ、そうか・・・?」
「よかったじゃない悠一!」
「そうよお、だって婚約者はタヌキの霊獣なんだから。」
「これでなんの気兼ねもなしに結婚できるわね。」
「生まれてくる子もきっと霊獣だわ。」
「そう言われると悪い気もしないような・・・・、」
「じゃあずっとこのままでいいわよね?」
「霊獣同士の結婚・・・・素敵じゃない!」
なんだろう・・・・ちょっと腑に落ちないけど、こういう時はポジティブに考えた方がいいのかも・・・・、
「なに納得してんだアンタは。」
チェリー君にツッコまれる。
「自分のペットに言いくるめられる奴があるかよ。」
「・・・・だよな。俺もおかしいとは感じてた。」
「ウソつけ。まんざらでもないって顔してたぜ。」
イカンイカン・・・・チェリー君の言う通り、モンブランたちの戯言に納得するなんてあってはいけない。
ここ最近はおかしなことばかりだったから、冷静な判断が出来なくなってるらしい。
「ま、元に戻る方法は後から探そうや。とりあえずここから逃げた方がいいと思うぜ。」
チェリー君がそう言った瞬間、また内線電話が鳴った。
「やっぱりなにか用事があったんだな。さっきは伊藤のおかげで助かったけど、今の俺はこんな姿だからぜったいに怪しまれる。」
「実はこの部屋に来る前よお、なんか下の階からガヤガヤ騒ぐ声が聞こえてたんだ。何かあったのかもしんねえな。」
「ならまたやって来るはずだ。とっととズラかろう。」
俺とチェリー君、霊獣が二人もいれば最上階からでも逃げられるだろう。
割れた窓から外を見下ろす。
たしかここは地上20階、高さにして約60メートルってとこだろう。
・・・・高い、そして怖い!
けどなぜかここからでも飛び降りることが出来そうな気がしてくる。
なぜなら霊獣の肉体というのは、中から溢れんばかりのパワーが湧いてくるからだ。
ちょっとやそっとじゃ怪我したり死んだりしない。
そう確信できるだけのパワーを感じていた。
「ちょっと怖いけど・・・・行くか?」
そう振り返ると、マサカリたちがピョンとしがみついてきた。
「コラ!なんで全員俺にしがみつくんだ!?」
みんなニンマリ笑うだけで離れようとしない。
チェリー君が「ウダウダ言ってねえで飛び降りるぜ」と御神さんを担いだ。
「そっちの兄さんとハリネズミも!さっさと俺にしがみつけ!」
そう言った瞬間、ドアが開いて「社長!」とさっきの社員たちが駆け込んできた。
「大事な用をお伝えするのを忘れていました!」
軍隊みたいにビシっと整列する。
伊藤は無言のまま目も合わせなかった。
「ご、ご報告いたします!実は少し前から賊が侵入しておりまして。」
「・・・・賊?」
また喋った。
一人が前に出て「例の奴らだと思われます」と言った。
「我々の追っ手をことごとく生け捕りにしているあの連中です。以前にこの会社にやってきたフリージャーナリストの仲間と思って間違いありません!」
そう言ってからこっちを見て「ぬうあ!」と叫んだ。
「あ、あの時のジャーナリスト!」
「おい、隣には見たこともない霊獣がいるぞ!」
「そいつも仲間だろう。まとめて捕まえろ!」
社員たちが一斉に霊獣に変化する。
周りを囲まれ、逃げ場を失ってしまった。
この状況、すごいピンチだけど、それと同じくらいに心配なことがあった。
《さっき賊が侵入って言ってたけど、それってまさかアカリさんたちのことじゃ・・・・・。》
アカリさんたちはカグラの本社へ向かった。
てことは・・・・・、
「下の階でのガヤガヤ騒ぎ、姐さんたちの仕業なんだろ?」
チェリー君がニヤリとほくそえむ。
「こうなりゃ逃げるのはヤメだ!姐さんたちと一緒にコイツら叩きのめしてやるぜ!」
厳つい霊獣に変身し、周りを囲う敵に飛びかかる。
するとモンブランたちも銃を構えて「私たちもやるわよ!」と引き金を引いた。
耳をつんざく乾いた音が響く。
「みんな勇敢ねえ。だったら私もちょっと暴れちゃおうかしら。」
御神さんまで銃を抜く。
社長室は一気に戦場と化し、怒号と罵声と銃声が飛び交う地獄になってしまった。
「・・・・・・・。」
これ、俺も戦うべきなんだろうか?
戦うべきなんだろうな。だって今は戦える身体になっちゃったんだから。
チラっと奥を見ると、マシロー君が「みなさんファイトです!」と拳を振っていた。

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