期待と裏切り

  • 2019.09.02 Monday
  • 11:34

JUGEMテーマ:

頂上に登っても風がない

 

汗を拭っても垂れるばかりで

 

期待していた爽快感を得られない

 

苦労の先に達成感があるとは限らない

 

こんな日は家で寝転びながら

 

スマホでもいじっておくべきだった

 

下山の足が重い

勇気の証 第十六話 目を覚ましたら(2)

  • 2019.09.02 Monday
  • 10:25

JUGEMテーマ:自作小説

人間は不思議だ。
ついさっきまで生死の境を彷徨っていたはずなのに、今は冗談を口にしたり出来るんだから。
「あそこの木の葉が全部散ったら、俺も死んじゃうんですかね。」
「なら相当時間がかかるね。だってあれ松だから。木が枯れるまで全部散ったりしないもん。」
ベッドの上、包帯に巻かれ、点滴に打たれながら言う常沼君の顔には精気が戻っていた。
時折辛そうに顔を歪めるけど、お医者さんによればもう命に別状はないとのことだった。
今だから言うけどと前置きしながら、「運ばれた時は助かる見込みが低かった」とも。
けど人間っていうのは、時にお医者さんの予想を覆すほどの回復力を見せることがあるそうで、常沼君もそういった例の一つらしい。
あとは安静にして、動けるようになったらリハビリをして、四ヶ月もあればほぼ元通りになるだろうと言ってくれた。
私は「ありがとうございました」とお礼を言って、常沼君の傍で手を握っていた。
「でも藤井さん・・・いいんですか?東京へ行かなくても。」
「君の家族が来られるまでここにいるって言ったじゃない。」
「実家は遠いから三時間くらいかかると思うけど・・・・、」
「いいのいいの、気にしないで。」
常沼君はしばらく他愛ない話を続けた。
好きな食べ物とか、この前見た映画とか、欲しかったバイクが高くて買えなかったこととか。
私も頷いたり相槌を打ったり、他愛ない話を返しながら聞いていたんだけど、急に「藤井さん」と真顔で見つめてきた。
「なんか変な夢を見たんです・・・・。」
「どんな?」
「自分が幽霊になった夢です。それで藤井さんが夢の中に出てきたんですよ・・・・。」
「・・・・私、夢の中で何か言ってた?」
「このまま終わっていいのかって。俺はそれでいいよって言ってほしかったのに、そんなのダメだって言うんです。
このまま終わるなんていいわけがないって。そう言われてなんか気づいちゃったんですよね・・・・。」
目を閉じ、その時のことを思い出すように、グっと唇を噛み締めている。
「藤井さんに肯定してほしかった。でも思いっきり否定されて、胸の中がモヤモヤしたんです・・・・。
なんか抑えつけてた嫌なものが吹き出すみたいに。その嫌なモノの中に、自分が死ぬイメージが出てきたんです。
首を吊ってたり、電車に飛び込んだり・・・・。その時にふと気づいたんです。ああ、これが俺の本心なんだって・・・・。
もう生きるのがしんどくなってて、この世からオサラバしたいなあって・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「だから藤井さんに肯定してほしかったんだと思います・・・・。今日初めて会った人だけど、今までの誰よりも心を開けたから。
そんな人に認めてもらえれば、楽に死ねるんじゃないかなって。でも違った・・・・。藤井さんに否定されて、抑えてたモノが溢れ出して・・・・。
あの時、死ぬのが怖いと思ったんです。もっと生きたいって・・・・。」
「なら今は?もう死にたいとは思わない?」
「正直なところまだ少しそういう気持ちがあるかも・・・・。だって先のことは分からないし、またいつか辛い目に遭うんじゃないかって。
想像しても仕方ないのに嫌なこと考えちゃうんです。こうしてずっとベッドの上で寝てた方が楽なんじゃないかとか。
でも・・・・きっとダメなんでしょうね。だって今の藤井さん、すごく怒った顔してるから。」
私に視線を向け、「あれ、夢じゃなかったんでしょ?」と言った。
「魂だけ抜けて藤井さんに会いに行ってたんだ。そうなんでしょ?」
「かもしれないね。でもそんなこと重要かな?」
握っていた手を離し、「常沼君はさ」と続ける。
「生死の境を彷徨ってる間に、真剣に人生を考えたんだと思う。そして生きたいって願ったからこうして助かった。
もしそうじゃなかったら、今こうして話せてないかもしれない。だったらさ、終わったことを気にしても仕方ないよ。
君はこうして生きてる。助かってくれて私も嬉しい。だから・・・・あとは君次第よ。」
「自信がないです・・・・。」
「それはきっとみんな一緒だよ。私だって未来に自信なんてない。あのね、野生動物を保護する活動って危険なこともあるの。
動物に襲われそうになることだってあるし、密猟者と出くわすことだって。
何度か危険な目に遭ったこともあるよ。それでも辞めようとは思わない。だって私が続けたいって望んでるから。
周りから辞めろって言われても絶対に辞めない。けど私自身が辞めたいって思ったら、その時はきっぱり辞めると思う。
そういうことは自分にしか決められないことだから。常沼君はどう?なんでも周りに左右されて自分の道を決めるの?」
「流されやすい性格なんです・・・・。」
「その割にはストレスを抱えながらも、ずっと仕事を頑張ってたじゃない。簡単に流される人ならそうはなってないと思うな。」
「そんなカッコいいもんじゃないですよ。ただ怖かったんです。いま辞めたら会社に迷惑が掛かるとか、新しい仕事は見つかるのかとか。
あの悪魔みたいな上司に辞めるって伝える勇気もなかったし、なんかもう色々考えちゃって、ここまでズルズル来ただけなんですよ・・・・。」
「だったらこれから変わればいいじゃない。生死の境を乗り越えたんだもん。きっと変われる、強くなれるよ。」
「俺は・・・・、」
何かを言いかけてすぐに口を噤む。
包帯に巻かれた手を必死に動かして、私の手を探していた。
「もう一度握ってくれませんか・・・・。」
「いいよ。」
差し出された彼の手を握る。
すると力を込めて握り返してきた。
「ちょっと寝ます・・・・。」
「それがいいよ。ゆっくり休んで。」
「その前に一つだけいいですか?」
「うん。」
「俺、藤井さんのこと好きになっちゃいました・・・・。」
「・・・・・・。」
「あの時、走っていって女の人を助けたのは、ちょっとカッコつけたかったんです・・・・。そういうとこ見せれば好きになってもらえるかなって。
自業自得なんですよね、こうなっちゃったのは。慣れてないことするからこんなことに・・・・。」
「カッコよかったよ。誰かの為に走り出すなんて。」
「だからあの・・・・ワガママなんですけど、俺いまから寝るんで、もし気持ちを受け取ってくれるなら、目が覚めるまでここにいてくれませんか?」
「・・・・・・・・。」
「そうじゃないなら、俺が寝たらすぐに・・・・、」
「分かった。なら私からもお願い。今は休もう。ゆっくり休んで、たっぷり寝て。そして目が覚めたなら、もう一度しっかり自分の人生を見つめて。」
手を伸ばし、頭を撫でる。
そして光を遮るように、瞼の上に手を重ねた。
ポンポンと頬を撫で、しばらく触れたままでいると、いつの間にか眠りに落ちていた。
「おやすみ。」
それから一時間ほど手を握り続けていると、『いつまでいるの?』とエル君が言った。
さっきまで部屋の隅でハチロー君とじゃれてたんだけど、さすがに飽きてしまったらしい。
私は「ご両親が見えるまで」と答えた。
『ここ退屈なんだけど。』
『僕も。』
「ごめん、もうしばらく我慢して。」
『どれくらい?』
「あと二時間くらいかな。」
『え〜!』
『ここ飽きた。』
二匹は拗ねたようにそっぽを向いてしまう。
悪いなとは思うけど、ご両親が見えるまではここにいるつもりだった。
「あの・・・・、」
後ろから声を掛けられて振り返る。
看護師さんだった。
「ご家族の方では・・・・ないですよね?お姉さんとか妹さんとか。」
「ええっと・・・家族ではないです。」
「なら付き合ってらっしゃる・・・・?」
「いえ、なんていうか・・・・友人です。」
「ああ、お友達。」
なんとも言えない表情で頷いてから、「もうじきご両親がお見えになるそうです」と言った。
「そうなんですか?でも彼の実家からだと三時間は掛かるって・・・・、」
「飛行機で来られたそうなんです。もう空港に到着してて、あと十分ほどで。」
なるほど、それなら早い。
自分の子供が生死の境にいるとなったら、親からすれば一刻も早く会いたいものだろう。
・・・・それから10分後、小柄な老夫婦が、看護師さんに案内されながら病室へ入ってきた。
いったい何があったのかと不安になるご両親に、これまでの事情を説明する。
やがてお医者さんもやって来て、もう命に別状はないことを伝えると、心底ホっとした様子だった。
そして当然のごとく「あなたは?」と聞かれたので、「友人です」と答えた。
「友達になったのはつい最近ですけど。」
そう言って常沼君の傍へ行き、「元気でね」と語りかけた。
もうこの場所に私は必要ない。
そして常沼君にも。
彼に必要なのはゆっくりと考える時間だ。
生死の境を乗り越えたのだ、きっと変われるし強くなれる。
ご両親に会釈をしてから病室を後にした。
トコトコとあとをついて来るエル君が『ねえ藤井ちゃん』と言った。
『あの人さ、藤井ちゃんのこと好きだったんだろ?』
「聞いてたの?」
『帰るってことは、藤井ちゃんは好きじゃないんだ。』
「・・・・そうね、そういうことになるね。」
『じゃあなんで助けたの?』
「好きじゃなきゃ助けちゃダメ?」
『そうじゃないけど。なんか可哀想だなと思って。』
「どうして?」
『だってずっと手を握ってただろ?人間って好きな相手にああするんだろ?』
「手を握るのは色んな意味があるのよ。心配だったり、落ち着かせる為だったり。」
『ふう〜ん。でのあの人、目を覚まして藤井ちゃんがいなかったら寂しくならないのかな?』
「もう常沼に私は必要ないし、私もずっと彼を助けてるわけにはいかないから。ただあの時は心配で思わず声を掛けちゃって。
なんでだろね?見ず知らずの他人なのに。よくよく考えれば不思議なことかも。」
よく知らない誰かの為に手助けをする。
けどそれなら常沼君だって同じだ。
自分を犠牲にしてまで誰かをを助けようとしたのだから。
《ちょっと似てるかも。》
別れた彼氏のことを思い出す。
常沼君ほど繊細ではなかったけど、誰かの為・・・・っていうより、動物の為に身を砕く人だった。
面倒だから嫌だ、危ないから嫌だと言いつつ、結局はちゃんと力になっていた。
そして今は自分なりの道を歩んでいる。
だったら常沼君だってそういう日が来るだろう。
なぜなら彼の胸にはちゃんと勇気があるからだ。
彼もそうだった。
ちゃんと勇気を持ってるのに、色んなことが邪魔をして、胸に眠る勇気に気づかずにいた。
でも持っているのだ、ちゃんとそこにある。
私だって最初から海外へ動物保護のボランティアへ行こうと思ってたわけじゃない。
そこまでの勇気なんてなかったし、そこまでの行動力もなかった。
いきなり大きなことを出来るわけじゃない。
少しずつ階段を登っていくように、時間と努力が必要なのだ。
胸に宿る勇気に気づけば、常沼君だって最初の一歩を踏み出せるはずだ。
『あ、そういえば。』
何かを思い出したようにエル君が呟く。
『ハチローどっか行っちゃったんだ。』
「へ?」
『なんか思い出したことがあるって言って。』
「いつ!?」
『ちょっと前。ここにいろって止めたんだけど、壁をすり抜けて走っていっちゃった。』
「どこに!?」
『和歌山に行くとか言ってたけど。』
「和歌山って・・・・ここからすごい遠いじゃない!」
『そんなの俺に言われても。』
「思い出すって何を思い出したんだろう?どうして和歌山に・・・・・。」
考えても仕方ない。
まだそう遠くへは行っていないはずだ。
「追いかけよう!」
病院から駆け出し、辺りを見渡す。けど・・・・いない。
「えっと・・・・和歌山ってことは西に走っていったわけよね。ていうことは・・・・こっち!」
ほんとにじっとしていない子だ。
目を離した私も悪いんだけど・・・・。
大きな荷物を抱えながら走るのは大変で、すぐに息が切れてしまう。
エル君が『追いかけないの?』とウズウズしていた。
「ちょっと待って・・・・荷物が重い・・・・。」
『じゃあ俺だけ先に追いかける!』
「あ、ちょっと!」
私を置いて走り去ってしまう。
だったら最初から引き止めてくれればいいのに・・・・・。
「走ってたら追いつかない。どうしよう。」
和歌山っていったって、和歌山のどこへ行く気なのかも分からない。
今ここで見つけないと本当に見失ってしまう。
タクシーでも通ってくれないかなと道路を振り返ると、「お姉さん!」と声がした。
「陽菜ちゃん!それに児玉君も!」
一台の車がやって来て、窓から二人が手を振っている。
「探したよ!」
「なんでここに?」
「だっていきなりさよならはヒドいじゃん。」
「そうだよ。ちゃんとお別れ言いたくて探してたんだ。」
「ごめん、気を遣ったつもりだったんだけど・・・、」
「なんかすごい息が切れてる。大丈夫?」
「ちょっと猫を追いかけてて・・・・、」
「猫?もしかしてあの幽霊の猫?」
「ハチロー君が和歌山へ行くっていなくなっちゃったのよ。エル君はそれを追いかけて行っちゃって。」
「じゃあ早く見つけないとマズいじゃん。」
そう言って「ねえお母さん」と運転席を振り返る。
「お姉さんを和歌山まで乗せてってくれない?」
「そりゃちょっと遠すぎるわよ。駅までならいいけど。」
「じゃあ駅までお願い!」
陽菜ちゃんは「乗って!」と叫ぶ。
児玉君も降りてきて、「早く早く」と荷物をトランクに入れてくれた。
「ほんとにいいの?」
「いいっていいって。」
背中を押されるので「じゃあお言葉に甘えて・・・・」と乗り込んだ。
「西へ走っていったの。途中で見つかるといいんだけど。」
「もし無理なら和歌山へ行くしかないね」と陽菜ちゃんが言う。
「でも場所が分からないのよ。いったい和歌山のどこへ行くつもりなのか・・・・、」
「とにかく追いかけよ。」
車は走り出し、私は注意深く窓の外を睨んだ。
けどどこにもいない。
幽霊の猫二匹なんてそう簡単に見つけられるものじゃなかった。
眉間に皺を寄せながら探していると、「あのさ・・・」と児玉君が呟いた。
「もしかして幽霊が見えてないのって俺だけなの?」
「うん!」
陽菜ちゃんが可笑しそうに頷く。
「まさか幽霊って見えるのが当たり前とかじゃないよな?」
「さあ。」
「なあ!他の人も見えてんのか!?俺だけ見えてないってことないよな?」
「さあ。」
「どっち!?」
「さあ。」
「不安になってきた・・・・。」
頭を抱える児玉君。
私を振り返って「藤井さん、幽霊って見えるのが普通なの?」と尋ねる。
「さあ。」
「おばさんは!?」
「さあ。」
「やっぱ俺だけかよ・・・・。」
「そうそう、あんただけ。」
面白そうにからかう陽菜ちゃんだったけど、さすがに可哀想なので「そんなことないよ」と肩を叩いた。
「ウソだ・・・・ぜったいみんな見えてんだ。」
「じゃあ見たい?」
「それはちょっと・・・・、」
「ならいいじゃない。」
「俺だけ仲間はずれもちょっと・・・・、」
駅に着くまでの間、本気で落ち込んでいた。

 

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