胸を抉る視線

  • 2019.09.07 Saturday
  • 12:26

JUGEMテーマ:

弁当を買ったら箸がついていなくて

 

ベンチに座って手で食べる

 

小鳥が寄ってきて分け前をねだり

 

遠くで野良猫も様子を窺っている

 

これは俺の弁当だと

 

背中を向けて頬張った

 

人の目が突き刺さる

 

食べ物を取られることよりも

 

哀れみと蔑みの視線の方がよっぽど痛かった

 

勇気の証 二十一話 潜む者(1)

  • 2019.09.07 Saturday
  • 10:24

JUGEMテーマ:自作小説

幽霊にも色々いる。
守護霊、浮遊霊、地縛霊、そして悪霊。
知識はあっても、具体的にどう違うのかは分からなかった。
なにせ一昨日に霊感に目覚めたばかりなので、幽霊は幽霊としか思えない。
けど人間にも色んな人がいるように、幽霊にも色んなタイプがいるんだろう。
私は今、怖い幽霊に捕まっていた。
鬼頭さんや陽菜ちゃんのお母さんや絹川さんが忠告してくれたのに、油断していたせいで取り憑かれてしまったのだ。
「大丈夫かい?」
絹川さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
私は目を閉じ、黙ったまま俯くしかなかった。
だって目を開けたら悪霊の姿が飛び込んでくる。
ベッドのすぐ隣に立つハチロー君が・・・・。
「やっぱり病院へ行った方がいいんじゃないですか?」
ボーイさんが言うけど、絹川さんは「病院じゃどうにもならん」と答えた。
《ほんと私はドジだ。油断してたからこんなことに!》
・・・・ここは私の泊まっている部屋。
ついさっきまで水の中に沈んでいた。
足をすべらせ、穴の中に落ちてしまったせいで。
でもあれはつまづいたとか転んだとかじゃない。
ハチロー君の仕業だ。
そう深くない水なのに溺れてしまったのは、あの子が私を離さなかったから。
なぜなら私の命を奪おうとしていたから。
『ずっと一緒にいよ。』
遠のく意識の中でそう語りかけてきた。
もちろん断った。
だって死にたくない。野生動物保護のボランティアだってまだ一年しかやっていないのだ。
《ごめん、私は幽霊になることは出来ない。》
そう答えた瞬間に意識を失い、次に目を開けた時には部屋のベッドに寝かされていた。
すぐ傍には恐ろしい幽霊になってしまったハチロー君がいる。
なにせ顔だけで人間くらいの大きさがあるのだ。
全身だと人間の三倍近い大きさだ。
変わったのは身体の大きさだけじゃない。
目は真っ赤に血走り、毛はずぶ濡れになって、あちこちに怪我を負っている。
何より傍にいるだけで身震いするほどの嫌な気配が伝わってくるのだ。
湿り気の強い空気のように、いくら振り払ってもまとわり付く感触のせいで、鳥肌が立ちっぱなしだった。
「やっぱりやめた方がよかったんだ。いくら動物と話せるといっても相手は幽霊だ。一昨日に霊感に目覚めたばかりじゃ手に余る。」
絹川さんは申し訳なさそうに言う。
「俺が情けないせいで・・・・すまん。」
「謝らないで下さい・・・・私はまだ諦めたわけじゃないですから。」
「ハチローを成仏させようってのか?それはやめた方がいい。こいつは俺が責任をもって・・・・、」
「無理です。もう私に取り憑いてるから。」
成仏するまではぜったいに私から離れない。
ハチロー君の強い感情が肌を通して伝わってくるのだ。
「絹川さん、ボーイさん、席を外してもらえませんか。」
「席を外すって・・・・、」
「ダメですよ。顔色だって悪いし唇も紫色だし。やっぱり病院に行きましょ。」
「私なら平気です。」
「平気なわけないだろう。いつハチローが悪さをするか分からん。こいつはもう悪霊になっちまったんだ。」
怯える絹川さんの声が響く。
それでも私は「いいんです」と言った。
「私とハチロー君だけにして下さい。」
「しかし・・・・、」
「大丈夫、エル君がいるから。」
腕の中で大人しく座っているこの子がいなかったら、私はあのまま死んでいたかもしれない。
ハチロー君が私を連れて行こうとした時、この子が必死に守ってくれたのだ。
全身の毛を逆立て、フシャー!と唸り、鼻面に皺を寄せて牙を剥いていた。
あの時の迫力は尋常じゃなかった。
ハチロー君はその気迫に圧され、私を連れて行くことが出来なかった。
《ありがとね、エル君。》
頭を撫でると、グルグルと喉を鳴らしていた。
「ハチロー君は私を狙ってるんです。だったら私の声しか届かない。」
「ほんとにいいのか?何かあってからじゃ遅いんだぞ。」
「そうですよ。今からでも病院に・・・・、」
「大丈夫、必ずこの子を成仏させてみせます。」
二人は沈黙する。
「そこまで言うなら・・・・」と絹川さんが立ち上がった。
「しかし無理はするなよ。もし何かあったらすぐに助けを呼ぶんだ。」
「私も力になれることがあったら言って下さい。すっ飛んできますから。」
「ありがとう。」
二人の足音が遠ざかっていく。
パタンとドアが閉じられて、部屋の中は静まり返った。
恐る恐る目を開け、怖いのを我慢して隣を見る。
悪霊となったハチロー君はじっとこっちを睨んでいた。
大きな二つの目は瞳孔が縦長に伸び、獲物を狙うような視線に思わず身震いする。
私と出会った時は可愛らしい子猫だったのに、今は見るのもおぞましい悪霊になってしまった。
・・・・きっと私のせいだ。
飼い主を失い、その現実を受け入れられずに10年も幽霊をやっていた。
そこへ動物と話せる私が現れて、10年分の孤独とか悲しみが爆発してこうなってしまったんだろう・・・・と思っている。
「ねえハチロー君。私にどうしてほしい?」
答えは分かっているけどあえて尋ねる。
すると間髪置かずに『ずっと一緒にいたい』と答えた。
『あのね、あのお兄さんね・・・・、』
「あのお兄さん?」
『車に撥ねられた兄さん。』
「・・・・ああ、常沼君。彼がどうかしたの?」
『死にかけたでしょ?じゃあ藤井ちゃんも事故して死んだら幽霊になるから、僕と一緒にいられるよね。』
「なるほどね・・・あれを見て私を幽霊にしようと思ったわけか。」
『僕ね、思い出した。』
「なにを?」
『あーちゃんが一緒に死のうねって言ってたの。』
「あーちゃん?」
『ご主人。』
「ご主人って・・・・ここで亡くなった女性のこと?」
『事故したお兄さんも死にたいって言ってたでしょ?でも助かったでしょ?あれ見て思い出した。あーちゃんも死のうとしたけど、死ななかったこと。』
「え!それどういうこと・・・・、」
身を乗り出すと、ハチロー君が私を捕まえようと手を伸ばしてきた。
けどエル君がフシャー!っと唸ってその手を払う。
怯えたハチロー君はビクっと後ずさった。
『藤井ちゃんに悪いことするな!』
今にも飛びかかろうとしている。
ハチロー君は怯えたように目を逸らした。
「エル君、そこまで脅さなくても・・・・、」
『だってこいつ本気で藤井ちゃんを殺そうとしてるんだぜ。俺が猫じゃなかったらとうに殺されてるよ。』
「猫同士だからお兄さんのエル君を怖がってるってこと?」
『うん。もし俺がネズミの幽霊だったらパクって食われてるね。』
「それはそうだろうけど・・・・。」
同族だからこそ感じる恐怖があるのかもしれない。
とにかくエル君がいてくれるなら、あの世に連れて行かれる心配はなさそうだ。
小さいけど頼もしいボディガードを「ありがとね」と抱きしめた。
「ハチロー君、こっちを見て。」
怯えるハチロー君に向かって語りかけると、何も言わずに背中を向けてしまった。
そして壁をすり抜けてどこかへ去ってしまう。
「あ、ちょっと!」
慌てて部屋の外に駆け出す。
すると食事を運ぼうとしていたボーイさんと出くわして、荷台にぶつかってしまった。
ガラガラと音を立てて落ちていく料理と食器。
「ごめんなさい!」と拾おうとすると、「平気ですから」と荷台を立て直していた。
「それよりどうしたんですか?血相変えて。」
「ハチロー君が消えちゃったのよ!」
「ハチローって・・・・あの悪霊の?」
「どこに行ったか見ませんでした?」
「幽霊は見えないもんで。」
「ですよね・・・・。」
「あ、絹川さん呼んできましょうか?」
「はい!・・・いや、やっぱりいいです。」
「どうして?霊感のある人じゃないと分からないでしょ。」
「だって私が引き継いたんです。責任をもってハチロー君を成仏させるって。なのにこんなにすぐ絹川さんを頼れない。」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思いますけど・・・・、」
ボーイさんの言うことはもっともだけど、これ以上絹川さんに負担を背負わせたくなかった。
10年も苦しんできて、ようやく解放されたばっかりだっていうのに。
《どうにかしなきゃ。》
とは言っても一人では手に余る。
ここはエル君にお願いするしかない。
「ねえエル君、手分けしてハチロー君を・・・・、」
そう言って振り返るとどこにもいなかった。
「あれ?エル君!」
またどこかに行ってしまったんだろうか?
何度呼んでも返事がなくて、ボーイさんが「やっぱり絹川さんにも手伝ってもらいましょう」と言った。
「悪霊って怖いんでしょ?ほっといたらどうなるか。」
「・・・・そうだね。意地張ってても仕方ない。もし他の人に危害を加えたりしたら・・・・、」
「うわあ!藤井さん後ろ!!」
ボーイさんがいきなり腰を抜かす。
私は振り返る前から背後に何がいるのか悟った。
一瞬にして全身に鳥肌が立つほどの気配がそこにある。
霊感のないボーイさんでも見えてしまうほど、今のあの子は強烈な殺気を走らせていた。
「藤井さん!早くこっちへ!」
手招きをするボーイさん。
私は小さく首を振った。
もう逃げられない。
エル君がいないんじゃこの子を追い払うことは出来ないのだ。
襟元に噛み付かれ、親猫が子猫を運ぶ時みたいに私を連れ去る。
「もしもし絹川さん!大変です!すぐ来て下さい!!」
ボーイさんが電話を掛けている。
私はその間にどんどん遠ざかっていく。
その時、ふとおかしなものが目に入った。
ボーイさんの近くに私が倒れているのだ。
でも私は今ハチロー君に捕まっているわけで・・・、
《・・・あ、これもしかして幽体離脱?》
瀕死の状態にあった常沼君が会いに来た時のように、私の魂も肉体から抜け出てしまったらしい。
けど彼の場合は自分の意思だけど、私の場合は違う。
ということはこれって、もう死んじゃったも同然なのかもしれない。
だってもしこのまま肉体に戻れなかったらずっと幽霊のままだ。
『ずっと一緒にいようね。』
『待って!私はまだ死にたく・・・・、』
『捨てるの?』
『え?』
『責任があるんでしょ。』
『もちろん捨てたりしない。けど死ぬつもりもない。お願いだからちょっと落ち着いて!』
『一緒にいようね。』
いくら叫んでも離してくれない。
ハチロー君に咥えられたまま、二階にある古いドアの前まで連れて来られた。
『ここは宿直室だった部屋・・・・。』
かつて自分が死んだ場所へ来て何をするつもりなんだろう?
スルリとドアを抜けて、シャワー室の奥にあるドアの前で私を下ろした。
『サウナルーム・・・・。』
ここはハチロー君にとって辛い場所のはずだ。
なのに私と一緒に来るってことは、なにか伝えたいことがあるのかもしれない。
『一緒にいようね。』
血走った目を向けて言う。
ぜったいに逃がさない・・・そんな意志が伝わってくる。
『そんな目をしなくても逃げないよ。』
抵抗しても無駄だろう。
かといって自分の命を諦めるつもりはない。
悪霊から解放されるたった一つの方法は成仏させてあげること。
だったらこの子が何をしようとしているのか知る必要がある。
『ここはハチロー君が亡くなった場所だよね?実はずっと不思議に思ってることがあるんだけど、君は飼い主さんと一緒にサウナルームに入ってたの?』
猫と一緒にお風呂に入る人はいる。
けどさすがにサウナは聞いたことがない。
猫にサウナは暑すぎる。一緒に入るなんて危険なこと、自分の死後もハチロー君のことを気にしていた飼い主さんがやるとは思えない。
『君は飼い主さんと一緒に穴の下で亡くなっていた。でも一緒に入っていたとは考えいにくい。じゃあどうして同じ場所に倒れていたの?』
尋ねても答えない。言いたくないことがあるんだろうか。
『君は瓦礫の下に倒れてたんだよね?ということは飼い主さんと一緒に落ちたことになる。
けど飼い主さんは君を大事にしていたはず。サウナに連れて入るなんて、そんなことするはずがないと思うの。
べえ、どうして瓦礫の下にいたの?』
『・・・・・・・。』
『ハチロー君?』
『あーちゃんなんか大キライ。』
ボソっと呟く。
自分の飼い主を嫌い?
なぜ?
『それはもしかして、あーちゃんが君と一緒に死のうとしていたから?君にとっては無理やり殺されるのと同じだよね?だから嫌いなの?』
『僕思い出したもん。あーちゃんは僕と一緒に死のうとして、でも死ななかった。』
『それさっきも言ってたね。まさかあーちゃんは自殺しようとしていたってこと?』
『お金もないし、離婚したし、あと病気にもなったし。だから死ぬって言ってた。』
『病気?』
『悪い病気になって、病院にいっても辛いから、行きたくないって。もう私にはなんにもないから死にたいって。』
『人生に絶望してってことね?』
『いつもね、ボーっとしながらもう死にたいなって言ってた。山とか森に行って死のうとしたけど、上手くいかなくて生きたままだったよ。』
『そっか・・・・そういう願望があったんだ。』
人間は一つの辛いことには耐えられるけど、幾つも重なると限界がくる。
足し算じゃなくて掛け算で膨らむのが心の重圧だ。
それに耐えられなくなった時、命を絶とうとするものなのかもしれない。
『あーちゃんはね、この部屋で死ぬつもりだった。それで僕は嫌なのに殺そうとした。だからここに逃げた。』
『ここに逃げるって・・・・サウナルームに?』
『だってこの部屋で一緒に死のうとしたんだもん。だから逃げた。でも捕まえようとしてくるから暗い部屋に逃げたんだ。だって人間は暗いところ見えないでしょ。』
『自分の身を守ろうとしてサウナルームに逃げたってことね。』
『シャワーの部屋は暗かったし、それにサウナのドアがちょっとだけ開いてたから。隠れてたら見つからないと思った。』
『怖かっただろうね・・・可哀想に。でもあーちゃんはどうしてこの場所を選んだの?友達の職場なのに。』
『知らない。なんか友達がいるからって言ってた。』
『友達がいるから・・・・か。』
誰だって孤独は寂しい。
それは自殺しようとする人間だって同じなのかもしれない。
山や海で死んでしまえば、死んだあとも一人きりになってしまう。
けど友達のいる場所なら違う。
死を悲しんでもらえるし、昔からの仲だったら弔ってもらうことも出来るかもしれない。
離婚して、さらに両親とも上手くいっていなかった彼女にとっては、絹川さんのいるこの場所が最後の砦だった可能性はある。
《だからここへ来た理由を絹川さんが尋ねても答えなかったんだ・・・・。今から死にますなんて言えないから。》
きっと彼女は絹川さんに看取ってほしかったんだろう。
それに自分が死んだ後じゃハチロー君を連れて行くことは出来ない。
だから先に手にかけようとした。
それを嫌がったハチロー君はサウナルームへ逃げた。
彼女はそれを追いかけてあんなことに・・・・・。
《これってつまり、入りたくてサウナルームに入ったわけじゃないってことよね。ハチロー君を追いかけて中に入って、捕まえようとしている間に床が抜けてしまった。
ということはこの事故って、絹川さんにはぜんぜん責任がないじゃない!なのに遺言のせいで10年も苦しんでたなんて・・・・。》
会ったことのない人を悪く言いたくないけど、彼女に対してちょっと怒りが沸いてくる。
大事な猫と友達なのに、どうして苦しめるようなことをしたんだろう。
いくら人生に絶望したからって、周りを巻き込んでいいはずがないのに!
『僕まだ死んでないよ。』
『え?』
『こうして生きてるよ。』
『ハチロー君・・・・・。』
『あーちゃんがね、僕を捕まえようとしててね、それですごい音がして床が抜けたの。でも僕はピョンってジャンプして外に逃げようとしたんだ。
そうしたらね、あーちゃんが僕の足を掴んでね、引っ張って一緒に落ちたんだ。』
『引っ張ってって・・・・。そこまでして無理矢理一緒に死のうとするなんて・・・・、』
『それでね、下に落ちてね、ガラガラっていっぱい床が壊れたのが落ちてきて埋まっちゃった。
でも目を開けたらあーちゃんはいなくなってて、代わりに知らない人間がたくさんいた。』
『ということは、ハチロー君は落ちた時点ではまだ生きてたってことなのね?』
『ずっと生きてるよ。死んでなんかないもん。死んだのはあーちゃんだけ。』
『・・・・ねえ、その話って誰かにしたことはある?』
『うん。』
『だれ!?』
『猫。』
『どの猫!?』
『忘れた。』
『もしかしてだけど・・・・季美枝ちゃんの猫じゃない?あの子言ってたのよ、君は病気で死んだって。
あれって勘違いしてるんじゃないのかな?飼い主さんが亡くなった話を、ハチロー君が亡くなった話だと勘違いして覚えてたとか。』
『知らない。』
『ほんとに?』
『分かんない。』
『・・・・・・。』
この子が本当のことを言っているのかどうか?
他にも話を聞いた誰かがいれば確認が取れるんだけど、それは難しいようだった。
今さら季美枝ちゃんの猫に聞いてもハッキリしないだろう。
ただ一つだけハッキリしていることがある。
ハチロー君はまだ自分が生きていると信じている。
10年も幽霊でい続けて、今は悪霊になってしまった。
だったら言葉で説得したところで成仏なんてしないだろう。
《なにか・・・なにかないかな?》
自分が死んだと納得させられるものがあれば、成仏させてあげることが出来るかもしれない。
『藤井ちゃんは僕と一緒にいるよね。』
『もちろんよ。だけどハチロー君のやり方は間違ってる。私を無理矢理に幽体離脱させるなんて・・・・、』
そう言いかけてハっと気づいた。
『ねえハチロー君。どうして私の魂を抜いたの?』
この子は自分が生きていると思い込んでいる。
だったらどうして私の魂を抜いたんだろう?
生きてると思ってるなら、今までのように一緒にいればいいだけなのに。
《ほんとはもう死んでるって自覚してる?でもそれを認めたくないだけなんじゃ・・・・、》
『あの時すごい怖かった。』
『え?』
『僕が穴から逃げようとした時、ガシって足を掴まれて。穴に引きずり込まれて息が出来なくなったもん。』
『息が?もしかして一瞬で落ちたわけじゃないの?』
『違うよ。だってあーちゃんは穴の端っこにしがみついてたもん。それで穴が重くなってバキバキっていって崩れたの。
僕は穴に挟まったままで、だから息ができなくて苦しかった。』
『穴に埋まったまま苦しかった・・・・・。』
それって私が見た夢と一緒だ。
そして絹川さんも同じ夢を見たと言っていた。
『ねえハチロー君。君さ、私の夢に入ってきた?今日すごく嫌な夢を見たんだけど、君が苦しんだ時とまったく同じ状況なのよ。あれは君の仕業だったの?』
『そんなことしてない。』
『なら絹川さんには?10年前、彼の夢に入ったりしてない?』
『してない。人間の夢なんか興味ない。』
『じゃあどうして・・・・。』
『ねえ。ずっと一緒にいよ。』
『さっきも言ったけど、私はハチロー君を捨てたりしない。だからずっと一緒だよ。』
『ずっと一緒って言って。』
『うん、ずっと一緒だよ。』
『そうじゃなくて、このドアの向こうに。』
『ドアの向こう?サウナルームにってこと?』
『聞こえるように。』
『聞こえるようにって・・・・誰に?』
『ねえ言って。』
『どうしてそんなこと・・・・、』
『いいから言って。』
『ねえ待って。君の飼い主さんはもう亡くなってるのよ。そして君も・・・・、』
言いかけた瞬間、ドアの向こうで誰かが動く気配がした。
ガチャっと取っ手が動き、ゆっくりとドアが開いていく。
「だ、誰かいるの・・・・?」
怖くなり、後ずさる。
けどハチロー君に『言って』と押し戻された。
『ちょっと待って!言うっていったい誰に?』
ドアはどんどん開いていって、奥から嫌な気配が溢れる。
ここにいたくない!
そう思った。今すぐ走って逃げ出したいと。
けどハチロー君は離してくれない。
ドアは完全に開き、異様な気配も増していく
《な・・・何かが迫ってくる・・・・。》
真っ暗なサウナルームを睨んでいると、とつぜん二つの手が飛び出してきた。
私の首を締め上げ、中に引きずり込もうとする。
とてつもない怪力で抗うことが出来ない。
《いや!誰か!!》
必死に助けを求めるけど声すら出せない。
目を閉じて苦しんでいると、頭の中に男の人の声が響いてきた。
『アツコ・・・・・。』

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