イモムシの横断

  • 2019.09.11 Wednesday
  • 12:13

JUGEMテーマ:

道路を横切るイモムシがいる

 

黒と黄色の大きなイモムシ

 

アゲハの子供のイモムシが

 

えっちらおっちらと道路を渡っていく

 

渡りきれば田んぼがある

 

植え込みの木々だって

 

車が来ないように願って

 

畦に消えるまで見つめていた

勇気の証 第二十四話 いつかまた(2)

  • 2019.09.11 Wednesday
  • 11:19

JUGEMテーマ:自作小説

「おお無事だったか!」
ホテルに戻るなり絹川さんが出迎えてくれた。
「この子たちのおかげです。」
腕に抱いた二匹を見せると、「ハチロー、元に戻ったんだな」と喜んでいた。
「で・・・・悪霊はどうなった?こうして無事に戻ってきたってことは・・・・、」
「消えたみたいです。」
「消えた?」
「亜津子さんの骨・・・・私が砕いたから。手を開いたらなぜか骨が消えていて、同時に悪霊も消えていました。」
「う〜ん・・・・なんだかよく分からんが、とにかく無事でよかった。」
そう言って「とりあえずゆっくり休め」と背中を押された。
「ところでボーイさんは?無事なんですよね?」
「もちろんだ。ただあんたをさらって包丁まで持ち出したからなあ。今は他の連中から問い詰められてる。」
「でもあれは悪霊のせいで彼の責任じゃ・・・・、」
「分かってる、俺からちゃんと説明するよ。信じてもらえるかどうかは分からんが、内藤に罪が及ぶことはないようにする。」
それを聞いて安心した。
「部屋に戻ってちょっと休みます。」
「それがいい。あとで飯作って持ってってやる。俺の奢りだ。」
「ありがとうございます。あ、それと・・・、」
「なんだ?」
「時間が空いたらでいいから、お話したいことがあるんです。」
「構わんが・・・・えらく神妙な顔だな。なにかあったか?」
「あとでお話します。」
会釈を残し、「それじゃ」と部屋へ向かった。
ベッドに寝転び、大きなため息をつく。
さっきまでの出来事は嘘だったのか本当だったのか・・・・はっきりしないほど現実感のない体験だった。
「ねえエル君、ハチロー君。」
『なんだ?』
『なあに?』
「ちょっとの間だけ寝ていい?」
『もちろん。』
『いいよ。』
「ありがとう。じゃあちょっとだけ・・・・。」
目を閉じるとすぐ眠りに落ちてしまった。
しばらく肉体から離れていたせいか、今でもまだ全身がダルい。
鉛のように重く、頭痛も酷くなっていく。
少し寝て回復してくれればいいんだけど。
・・・・・寝ている間に奇妙な事が起きた。
別れた彼、有川君の叫び声が聴こえたのだ。
何か良くないモノに襲われている。
それはさっきの悪霊なんかよりもずっと恐ろしくて、暗い洞窟の中で有川君に鋭い爪を向けていた。
そういえばボーイさんが言っていたっけ。
オーナーのお嬢さんの亀がさらわれて、動物探偵なるものを雇うかもしれないって。
もしあれが本当なら、今このホテルの近くに有川君がいるってことなのかもしれない。
彼もまた私と同じように危険な目に遭い、誰かに助けを求めている。
・・・・いや、誰かじゃない。
ハッキリと私の名前を呼んでいるような気がした。
夢か現かよく分からないけど、今でも彼は大事な人だ。
もう恋人同士ではないけど、ある意味同じ道を歩む同志だから。
私も彼も動物と話せる力を持って生まれ、動物に関わる道を歩いている。
その彼が助けを求めているのなら答えは決まっている。
『有川君!』
彼の名前を呼び、手を伸ばす。
その瞬間に目が覚めた。
「・・・・・重いよ。」
エル君とハチロー君が胸の上に座っていた。
『おはよう。顔色悪いぞ。』
『それにうなされてたよ。大丈夫?』
「平気、ありがとね。」
よしよしと頭を撫で、身体を起こす。
『よく寝てたね。』
『もう夜だよ。』
「え!そんなに寝てたの?」
時計を見ると午後10時。
ほぼ半日寝ていたことになる。
でもおかげで身体のダルさは取れた。
頭痛もだいぶマシになったし、うんと背伸びをしてからお風呂に向かった。
服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びようとした時、エル君が『誰か来た』と言った。
『たぶん絹川さんっぽい。』
「ほんと?」
『夕方くらいにも一度来たんだぜ。寝てるって言ったらまた後で来るって。』
「ちょ、ちょっと待ってもらって!」
慌てて服を着る。
サっと髪を整えてからドアを開けると、絹川さんとボーイさんが立っていた。
「よう、気分はどうだ?」
「よく寝たおかげでバッチリです。」
「そりゃよかった。腹減ってると思ってよ、ほらこれ。」
ボーイさんに目配せすると、荷台を押しながら「失礼します」と入ってきた。
「これお粥?」
「はい。疲れてるだろうから、こういうモノの方がいいだろうって絹川さんが。物足りないようでしたら他にもお持ちしますよ。」
「ううん、嬉しい。」
テーブルにお粥とお吸い物とお茶、それに梅干を並べて「それじゃ私はこれで」と頭を下げた。
「あ、ボーイさん!」
「はい?」
「ごめんね、こんな事に巻き込んじゃって。」
「いいんですよ。気にしないで下さい。」
「あなたのおかげで色々助かった。ほんとにありがとう。」
「いやそんな・・・・。」
照れ隠しなのか帽子を深く被り込む。
「こう言ったら不謹慎だけど、普通じゃ経験できないことだから・・・よかったかなって思ってるんです。」
「あんな怖い思いをしたのに?」
「こうして無事だったしいいかなって。なんでも前向きに考えないと。」
そう言ってまた帽子を被り直し、「何か御用があればいつでも」と部屋を出ていった。
「いい人ですね、内藤さん。」
「ああ。若いのにどうしてなかなか。」
絹川さんは腕を組みながら彼を見送ると、真顔で私を振り向いた。
「・・・・で、なんだい?」
「はい?」
「ホテルに戻って来た時に言ってたろう。俺に話があるって。」
「はい。」
椅子に腰掛け、「どうぞ」と向かいに手を向ける。
「先に飯食ったらどうだ。せっかくのお粥が冷めちまう。」
「そうですね。でもきちんとお話してからの方が。」
「分かった。で、どんな話なんだい?」
そう尋ねる絹川さんの顔はどこか引きつっていた。
霊感のある人は勘がいい。
だったら今から私が話そうとしていること、薄々勘づいているのかもしれない。
「回りくどいのは無しにして単刀直入に聞きますね。絹川さん、あなたは亜津子さんと関係を持ってたんじゃありませんか?」
「ああ。」
即答だった。
普通なら狼狽えるだろうに、やはり勘づいていたみたいだ。
「それがどうかしたのか?」
「悪霊が言ってたんです。離婚の原因は俺が亜津子を裏切ったからだって。じゃあどうして裏切ったかっていうと・・・・、」
「亜津子が他の男と関係を持ったから。その復讐として自分も女遊びに走った。」
「・・・・そうです。」
「亜津子と関係を持ってた男ってのは俺のことだ。でもそれがどうかしたか?」
声に怒気が宿っている。
きっと触れられたくないんだろう。
でも聴かずにいられなかった。
「絹川さんはご存知だったんじゃないんですか?別れた旦那さんが亡くなっていたこと。そして悪霊になってこのホテルに潜んでいたことを。」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって・・・関係を持っていたなら、旦那さんのことも知っていたと思うんです。
あなたが原因で離婚にまで発展して、それを苦に彼が自殺してしまったことを。
あと絹川さんほど霊感のある人が、悪霊の存在に気づかないなんて考えられません。」
「どう答えればいいんだか・・・・・、」
「別に亜津子さんと関係を持っていたことを責めてるんじゃありませんよ。そんなの私が首を突っ込むことじゃないから。」
「なら何が言いたいんだ?回りくどいことは無しなんだろ?ハッキリ言ってくれよ。」
組んでいた腕をほどき、背筋を伸ばして睨んでくる。
私は顎を引いて真っ直ぐにその視線を押し返した。
「まさかとは思うが、俺が亜津子を殺したなんて言うつもりじゃないだろうな?」
「そこまでは思いません。あれは事故だったはずです。ただ・・・・、」
「ただ?」
「彼女が自殺しようとしていることは知っていたんじゃないですか?」
「知ってたら止めてる。長年の友達なんだから。」
「友達のままだったらそうかもしれません。けど男女の関係になってしまったら変わるものでしょう?
亜津子さんの離婚の原因は自分にあると知っていたし、離婚後の彼女が色々と悩んでいたことも知っていたはずです。
あなたは彼女がどうして宿直室に泊まりに来たのか分からないって言ってたけど、それはウソです。
死にたいって望んでるのを承知の上で泊めた。」
「その言い方だと、俺が亜津子の自殺を望んでたみたいに聞こえるな。」
形相を一変させて「言葉は選べよ」と静かな怒りをぶつけてきた。
「いくら男女の関係になろうが、それまではずっと友達だったんだ。あいつが死ぬのを望むわけがないだろう。」
「でしょうね。」
「なあ、いい加減ハッキリ言ってくれないか?俺はあいつと不倫してたし・・・・ぶっちゃけ自殺願望があることも知っていた。
別れた旦那が自殺したことも、その旦那が悪霊としてこのホテルに住み着いてることも知っていた。」
開き直ったのか、堂々とした態度で全てを認める。
「その上で何が知りたいんだ?」
身を乗り出し、「もちろん言葉は選べよ」と圧力を掛けてきた。
「俺はあいつが死ぬことを望んでなんかいなかった。あの時ここに泊めたのは帰る場所がなかったからだ。
別れた旦那がストーカーみたいにアパートの周りをうろついてるって言うんでな。
家に帰すと危ないから・・・・、」
「危ないから彼を殺しに行った。」
「なッ・・・・、」
「宿直室に泊まらなかったのは、亜津子さんとの関係を疑われるのが怖かったからじゃない。
彼女を守る為に、別れた旦那さんを殺しに行っていたんじゃないですか?」
「・・・・・・・・。」
「けど彼はそんなことは一言も言わなかった。自殺したと自分で認めていました。」
「だったら・・・・、」
「ええ、あなたは殺してなんかいません。だけど殺しに行こうとしていたはずです。
私どうしても気になるんです。あのアパートの庭に骨が埋まっていたこと。
あれって悪霊になってしまった彼の魂を、あの場所に縛り付ける為だったんじゃないですか?」
絹川さんは答えない。
さっさと先を話せという風に目で促していた。
「あなたは亜津子さんを泊めた晩に、別れた旦那さんを殺しに行こうとした。
けど出来なかった。アパートの周りをうろついているのは見つけたけど、実際に殺すほどの覚悟は出てこなかった。
しばらくは迷ったかもしれないけど、そのままホテルへ引き返したんです。
そして戻って来た時にはもう彼女は穴の下に落ちていた。
亡くなった彼女が枕元に立っていたから宿直室へ向かったなんてウソです。
ホテルへ戻って来るなり宿直室へ向かった。自殺するかもしれない彼女を一晩一人にしておくのは心配だったから。
けど・・・・彼女はサウナルームで事故に遭っていた。」
「それで?」
「病院へ運ばれて、あなたは彼女が助かることを願っていた。その時にハチロー君をお願いねと頼まれたけど、あれもウソじゃないんですか?
そこまでハチロー君のことを考える飼い主さんだったら、死んだあと現場に戻って、ハチロー君も一緒に天国へ連れて行ったはずです。
けど実際は10年もほったらかしのままだった。・・・・ついさっきだってそうだったんです。
私は何もしてあげられないって消えちゃいました。」
「どうだかな。本当に俺の前に現れて、ハチローのことを頼んでいったかもしれんぞ。」
「私はそう思いません。あなたは自分からすすんでハチロー君の面倒を見ていたんです。
離婚の原因を作ってしまったこと、そして亜津子さんの傍から離れて事故を防げなかったこと。
そういう罪悪感からハチロー君の面倒を見ていたんじゃありませんか?」
「ただの想像だな。」
「その通りです。確証なんてありません。亜津子さんの骨をアパートの庭に埋めていた理由だってただの想像です。
あなたは彼が自殺したことも悪霊になったことも知っていた。もっと言うならそうなってもおかしくないことを予見してたんじゃないかと思っています。
放っておいたら死んだ後でも亜津子さんを追い回すかもしれない。
だから骨の一部をアパートに埋めることで、まだここに亜津子さんがいると思わせたんでしょう?
・・・・もしかしたらあなたの口から教えたのかもしれない。ここに亜津子の骨があるぞって。
結果として彼はこの土地に縛られたままでした。あの世まで亜津子さんを追いかけることもなければ、ここじゃないどこかへ行って悪さをすることもなかった。」
「買いかぶりだな。そこまでするほどお人好しじゃない。骨を盗んで埋めるなんて犯罪なんだから。」
「だからこれもただの想像です。想像なんだけど・・・・きっとそうだって思えるほど確信があるんです。
だって悪霊が消えた瞬間から、なぜか霊感が強くなってるんです。そのせいで勘もどんどん鋭くなって・・・・、」
「急に霊感が強くなる?・・・あんたまさかとは思うが・・・・、」
「はい。きっとそうなんだと思います。」
どんどん冴え渡っていく勘、そして強くなっていく霊感。
だけど同時に虚しいというか、寂しい感覚が襲ってくるのだ。
自分の中から何かが消えようとしている・・・・そんな感覚が。
「ロウソクは燃え尽きる前が一番激しくなります。あれと似たような感じで、霊感だって限界が近づけば強く燃え上がるのかも・・・・。」
「もう消えるぞ、あんたの霊感。」
私はエル君とハチロー君を抱き寄せて「お願いがあるんです」と言った。
「この子達の面倒を見てもらえませんか?」
「飼うって言ったのはあんただろう?今さら俺に押し付けるのか。」
「霊感が消えたらこの子たちと話をするどころか、見ることさえ出来ません。だから絹川さんに・・・・、」
『ちょっと待てよ!』
エル君がテーブルに飛び乗る。
『なんだよそれ!責任をもって飼うって言ったくせに!』
「ごめん。私だってずっと一緒にいたい。だけど霊感が消えたらもう・・・・、」
『そんなんだったらハチローの飼い主と一緒じゃんか!あんなにエラソーに言ってたクセに自分もかよ!』
「そうだね・・・・エル君の言う通り。口では偉そうなことを言っておきながら、私自身がなってない飼い主だった。ごめん・・・。」
『ごめんですむかよ!おいハチロー!お前からもなんとか言ってやれ!!』
私の膝に座るハチロー君に叫ぶけど、『仕方ないよ』と答えた。
『霊感が消えちゃったら僕たちのこと分からなくなっちゃうんだもん。一緒にいたって寂しいだけだよ。』
『そんなすぐ受け入れるなよ!お前だってヒドイ飼い主のせいで苦しんだんだぞ!悪霊から解放されてやっと自由になったのに・・・・、』
『でもずっとこの世にいられないよ?』
『え?』
『僕ね、もう天国に行きたい。』
『ハチロー・・・・。』
『やっと自由になれたんだもん。天国に行きたい!』
ピョンとテーブルに飛び乗り、『藤井ちゃん』と見つめてきた。
『助けてくれてありがと。』
『ハチロー君・・・・ごめんね、ずっと一緒にいるって約束したのに・・・・。』
『泣かいないでよ。藤井ちゃんがいなかったらずっと悪霊に捕まったままだったんだから。僕はもう自由なんだ。
なんにも・・・・縛られ・・・・ない自由・・・なんだ・・・・・。』
『ハチロー君?』
声が掠れ、身体が薄くなっていく。
『おいハチロー!成仏するつもりかよ!』
エル君が牙を剥いて怒る。
『お前までいなくなったら俺はどうすればいいんだよ!』
消えかかるハチロー君に飛びかかり、逝かせまいと抱え込んだ。
『お前は俺の弟だろ!』
『そうだ・・・よ・・・。エル君は・・・僕の・・・お・・・兄ちゃん・・・・。』
『じゃあ一匹にするなよ!ここにいろよ!』
『エル・・・くん・・・は・・・お・・にい・・・ちゃ・・・、』
『俺はもう人間なんか信じない!飼い主なんかいらない!俺とお前でずっと一緒にいよう!』
『ずっと・・・いっしょ・・・に・・・いる・・・・。』
『じゃあ消えるなよ!成仏するなあああああ!!』
エル君の叫びも虚しく、ハチロー君は完全に消えてしまった。
でも気配はまだ漂っている。
部屋の中をグルグルと飛び回りながら『エル君も・・・一緒に行こう』とささやいた。
『一緒に・・・・天国に・・・行こう・・・。きっと・・・楽しい・・・よ・・・・。』
そう言い残し、ハチロー君の魂は部屋から飛び去っていった。
『ハチロー!なんでだよ!バカヤロオオオオオ!』
ぶつけようのいない怒りがこだまする。
私は手を伸ばし、ギュっとエル君を抱きしめた。
『触んなよ!』
「ごめん・・・ごめんね。」
『触るな!離せよ!』
エル君の身体もだんだん薄くなっていく。
でもそれはこの子が成仏を選んだからじゃない。
私の霊感が消えかかっているのだ。
『人間なんか嫌いだ!人間が俺を殺した!幽霊にした!』
「エル君!言葉が通じるうちに聞いてほしいことがあるの。」
『幽霊になったらなったで・・・今度は・・・身勝手な人間に拾われて捨てられるなんて・・・・ふざけるな!お前・・・な・・・か大っキライだ!』
「お願い聞いて!」
声もちゃんと聞き取れなくなってきた。
でもこの子と離れてしまう前にどうしても伝えておきたいことがある。
『人間なんかみ・・・な嫌い・・・だ!いな・・・くなっち・・・え・・・、』
「ねえお願い聞いて!!」
思わず怒鳴ってしまう。
エル君はビクっと身を竦ませた。
『ごめんね、大きな声出して・・・・。』
テーブルに乗せ、正面を向かせる。
彼は怒りとも悲しみともつかない目で私を睨んでいた。
「待ってるから。」
何を言ってるんだ?みたいなキョトンとした目に変わる。
「私は生まれ変わりを信じてるの。だから待ってる、また君に会えるのを。」
『なんだよそれ・・・そんな・・・いい加減なこと・・・言って誤魔化そうったって・・・・、』
「誤魔化しなんかじゃないよ。私ね、動物と話せるこの力がどこから来たんだろうってよく考えることがある。
でね、最近こう思うようになったの。これって前世から引き継いでるものなんじゃないかって。
霊感に目覚めてからそう感じるの。魂に刻まれた強い力だって。
だから私は前世でも今と似たようなことをしていたんだと思う。
そして時を越えて再会した人もいる・・・・確信に近いほどそう信じてる。』
『そんな・・・の・・・・ウソ・・・だ・・・・、』
「実は私以外にもいるのよ、動物と話せる人が。」
『え?マジ・・・?』
「それも一年前まで付き合ってた人なの。」
『・・・・・・・。』
さらにキョトンとしている。
「この広い世界で同じ力を持つ者同士が出会って、しかも恋人だった。こんな偶然あると思う?
きっと目に見えない大きな力が働いて引き寄せられたんだって感じるのよ。
今日寝てる時だって彼の声が聴こえたわ。たぶんこの近くにいるんだと思う。
そして私と同じように困った動物を助けてるのよ。これ、やっぱり偶然なんかじゃないよ。
間違いなく前世から関わりがあったはず。だから生まれ変わってもこうして出会った。
だったらエル君だって同じよ。君が生まれ変わったらまた出会える。」
『俺は・・・そん・・・なの・・・信じられ・・・ない・・・・。』
「私は信じてる。必ずまた会えるって。どんな形で再会するかは分からないけど、さよならにはならない。だから待ってるよ。また会える日を信じて。」
握手をするように前脚を握る。
エル君は俯き『そんな・・・の・・・ズル・・・いや・・・・』と漏らした。
『俺は今でも・・・藤井ちゃん・・・と・・・一緒に・・・・いたい・・・の・・に・・・・、』
だんだんと声が聞き取れなくなっていく。
もうじき私の中から霊感が消えてしまう。
そうなる前に「ありがとう」と抱きしめた。
「君がいなかったらどうなってたか分からない。たくさん助けてくれて感謝してる。短い間だったけど・・・・一緒にいてくれてありがとう。」
エル君は俯いたままだったけど、そっと尻尾を絡ませてきた。
私の手にそっと。
そういえば手の甲を悪霊に切られていたんだ。
深くはないのでもう血は止まってるけど、エル君の尻尾が触れた途端に傷口が塞がっていった。
『さよならは言わない。また会えるって信じてるから。』
そう伝え終えるとの同時に、エル君が見えなくなってしまった。
もう気配すら感じることが出来ない。
さっきまで見えていたテーブルの上を見つめていると、ふと声が聴こえたような気がした。
『またね。』
絹川さんは宙を見上げ、しばらく視線を走らせてから「消えた」と呟いた。
「成仏したみたいだ。」
「・・・・・・・・。」
「なんていうか・・・泣かない方がいいんじゃないか。また会うって約束したんだろ。」
絹川さんの声は優しい。
私はコクコクと頷いて、ズズっと鼻をすすった。
窓の外は真っ暗で、遠くに漁火だけが見える。
夜に浮かぶほのかな光は、旅立っていった二匹の魂のように感じた。
「・・・・またね。」

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