針の山

  • 2020.08.09 Sunday
  • 12:39

JUGEMテーマ:

針の山を登ろう

 

頂上に求めるモノがあるなら

 

途中で息絶えたり

 

たどり着く頃には

 

血まみれになっていたり

 

なんなら引き返しておけばよかったと

 

過去の自分を呪ったとしても

 

誰も行かない場所にこそお宝がある

 

そう自分に言い聞かせながら

 

まだ針山の前で足が竦んでいる

 

いつか登るんだと強がって

 

そのいつかがいつ訪れるのか

 

自分次第であることから目を逸らしている

 

一歩踏み出した足は痛くて

 

痛みを感じた瞬間から

 

針山の高さが何倍にも見える

 

足が竦むわけだ

 

だけど登らないわけにはいかない

 

これ以上自分に背中を向けると

 

振り返った先の平地さえ

 

歩きやすかった道さえ

 

全て針の道になってしまうから

不思議探偵誌〜探偵危機一髪〜 第十話 消えた二人

  • 2020.08.09 Sunday
  • 12:20

JUGEMテーマ:自作小説

過去は誰にだってあるもので、子供時代をすっ飛ばして大人になる人はいない。
だがその過去が明るいものか暗いものか?
こればっかりは千差万別である。
ある人はお金に困り、ある人は小遣いの概念を超えた金額をもらっている。
またある人は歩くたびに軋む家に住み、ある人は別荘を幾つも持っている。
しかし最も幸不幸が別れるポイントは人間関係だろう。
恵まれた人に囲まれる環境もあれば、その逆もある。
そしてもっとも悩む人間関係の一つに『孤独』がある。
あれはいつだったか何かの記事で読んだ。
人間が一番ストレスに感じる事は孤独であると。
大切な妹さんを失った姫月さんは孤独になった。
・・・・いや、元々孤独だったのかもしれない。
「姫月さん。」
崖の傍に立つ彼女に語りかける。
「あなたは本当に二重人格だったんじゃありませんか?」
彼女は何も答えない。
代わりに由香里君が「けどもしそうなら・・・」と言った。
「久能さんが見たっていう窓の外に立っていた男の人・・・・説明が付かないじゃないですか。」
「・・・・・・。」
「外にスーツを着た男の人がいたんでしょう?」
「ああ。」
「でも姫月さんはスーツじゃありませんよ。」
「そうだな。」
「窓の外に男の人が現れて、それから姫月さんがやって来るまでほんの少しの時間でした。着替えて部屋の前に回るなんて無理ですよ。」
「それもそうだ。だが由香里君、君も信じていないんじゃないのか?一つの肉体に二つの魂。こんな事がありえるか?」
「それは・・・・、」
「あの時見た男・・・・いや、男っぽいだけで女なのかもしれない。どちらにせよ姫月さんに瓜二つだった。」
「ということは妹さんの幽霊・・・・、」
「もし本当に幽霊なら、大人の姿で現れるのはおかしい。恋花さんが亡くなったのは14歳の時なんだからな。」
「ああ、言われてみればたしかに。」
「なぜ今の姫月さんとそっくりの大人の姿で現れたのか?」
「う〜ん・・・・まったく別人のそっくりさんだったとか?」
「可能性はゼロではないな。だが限りなくゼロに近いから、その可能性は除外しよう。・・・・姫月さんはきっと何かを隠しているはずだ。」
彼女は背中を向けたまま滝を覗き込んでいる。
滝壺に妹さんを重ねているのだろうか。
「姫月さん。」
呼びかけても振り返らない。
こんな場所に来たせいで、過去を思い出して辛くなっているのかもしれない。
ポンと肩を叩き、「心中お察しします」と言った。
「どれだけ時間が経とうとも辛いことは辛いものです。もし泣きたいのであれば無理しないで下さい。私と由香里君は少し離れていますので。」
誰だって見られたくない顔というのはあるだろう。
俺は踵を返し、「向こうに行ってよう」と由香里君の背中を押した。
「姫月さん大丈夫ですか?なんだかすごく思いつめてるような感じが・・・・。」
「誰にだってそういう時はあるさ。」
「そうですけど・・・・こういう時にこんな場所で一人にするのはかえって危なくないですか?
崖の傍であんな風に滝を見下ろしてるし。もし万が一良くない事を考えてたら・・・、」
「平気さ。見えなくなるほど離れるわけじゃない。もし何かあったらすぐにこの久能司が止め入る。」
心配する由香里君の背中を押し、彼女の傍から離れる。
「大丈夫かなあ・・・・。」
由香里君は振り返る。そして「え?」と叫んだ。
「く、久能さん!」
「どうした?」
「姫月さんが・・・・、」
「うん。」
「いなくなってる・・・。」
「なにい!」
慌てて振り返る。
彼女の姿は消えていた。
「そんな!さっきまでそこにいたのに。」
「まさか・・・滝に飛び込んだとか・・・・、」
「・・・・・・・・。」
ドクンと鼓動が跳ね上がる。
気づけば駆け出していて、サっと崖の下を覗いていた。
「・・・・いないな。」
由香里君も恐る恐る覗き込む。そして「深く沈んでるとか・・・・?」と言った。
たしかに滝壺は深い。底に沈んでいたら見えないだろう。
だが飛び込んだなら音がするはずだ。
この崖はそう高くはない。
せいぜい二階建ての家の屋根くらいの高さだろう。
それに水量が多いとはいえ、滝の音もそう大きくはない。
滑り込むように水が流れ込んでいるからだ。
だからもし飛び込んだのであれば音がするはずなのだが・・・・、
「きゃあ!」
由香里君が悲鳴をあげる。
「どうした!」
「さっき後ろから物音が・・・・、」
「物音?どこからだ?」
「そこです・・・・。」
そっと指さした先にあったのは祠だった。
「なにかが動く音がしたんです・・・。ガタガタって・・・・。」
祠はさっきと変わらない様子で佇んでいる。
もしや近くに姫月さんがいるのかと思ったが、祠の後ろには大木があり、その後ろは岩壁になっている。
誰かがいるならすぐに分かるはずだが・・・、
「きゃああ!また!?」
祠がガタガタっと動く。まるで何かに揺さぶられるように。
由香里君は俺の後ろに隠れる。
そして「まさか心霊現象・・・?」と怯えた。
彼女はこういうのが苦手なのだ。
「まさか。」
「で、でも・・・だったらなんで勝手に動いたんですか!?」
「風・・・・じゃないよな。地震でもないし。」
「ほらほら!やっぱり心霊現象なんですよ!」
まるで子供のように怯えながら、ギュっと俺のシャツにしがみつく。
「そもそも祠って神様を祀ったり、なにか良くないものを封印する為のものですよ!それを勝手に開けたりしたからバチが当たったんじゃ・・・・。」
「落ち着きたまえ。あの祠には何もなかった。神様を祀ってあるわけでもないし、なにかの封印でもない。」
「じゃあなんで勝手に動いたんですか!祠が動くなんておかし・・・・、」
言いかけたとき、またガタガタと揺れた。
今度の揺れはかなり激しい。
倒れそうな勢いである。
「いやああああ!」
もはや由香里君は顔面蒼白である。
ていうか俺も一人だったらかなりビビっているだろう。
彼女がしがみついて来るから逆に冷静でいられた。
そして冷静でいるからこそ、少し奇妙なことに気づく。
祠はまだ揺れているのだが、どうも揺れ方がおかしい。
というのも左右に揺れるのではなく、前に倒れそうな感じで動いているのだ。
これではまるで誰かに押されているような・・・・。
そこで俺はふと思った。
《祠の後ろには大木がある。ということはあの木は御神木かもしれない。》
神社に行くと大抵は御神木がある。
そして大きな御神木の根元には『ある物が』があったりするのだ。
だったら祠の傍にも同じ物があっても不思議ではない。
俺は思い切って祠へ向かう。
そして両手で掴み、力いっぱい手前に引っ張った。
「ふぬうう!」
「ちょ、ちょっと何してるんですか!」
悲鳴を上げる由香里君。「バチが当たりますよ!」と止めようとした。
「かもしれないな。でも気になるんだ。」
「気になるってなにが・・・・。ていうかまた祠が・・・・。」
ガタガタと音がする。
俺が引っ張っている音ではない。祠の後ろから響いている。
「いやあああ!やっぱり神様かなにかが怒ってるんですよ!もうやめて!」
「けっこう重いなこれ・・・・。悪いが君も手伝ってくれないか?」
「イヤですよ!」
「どうして?」
「だって呪われるかもしれないじゃないですか!」
「呪いか。超能力が存在するんだから、呪いだって本当にあるかもな。」
「そうですよ!これ以上やったらほんとにバチが当たって大変なことになっちゃう!」
「バチってのは神様が与えるもんさ。」
「だから怖いんじゃないですか!」
「もし人間だったら?」
「へ?人間?」
由香里君はキョトンとする。
昔はよくこういう可愛らしい表情をしていたもんだが、最近は大人になってめっきり減った。
だからこそちょっと得した気分になる。
「いいかい由香里君?相手が神様なら怒られても仕方ない。しかしそうじゃないとしたら、怒られる筋合いはないのさ。」
「さっきから何を言ってるんですか・・・・。」
とうとう本気で頭がおかしくなってしまったんですか?
彼女の目がそう言っている。
こういう冷たい視線は嫌いじゃないが、今は特殊性癖を満たしている場合ではない。
俺は渾身のパワーで「どおりゃ!」と引っ張った。
祠は前のめりに倒れ、土の上に横たわる。
由香里君は青い顔で俺の腕にしがみついていた。
「やっちゃった・・・・知りませんよどうなっても・・・・。」
怖い怖いと思いつつ、怖い物ほど目を背けられないのが人間の性。
怯える由香里君だったが、数秒後には別の意味で悲鳴をあげていた。
「ど・・・・どうして!?」
まるで漫画みたいに頬を押さえて絶叫する。
そして一目散に祠の立っていた場所に駆け出した。
「お母さん!」
「由香里・・・・。」
約一ヶ月ぶりの親子の再会。
だが感動的というわけにはいかなかった。
なぜなら由佳子お姉さんは、大木の根元に空いた穴の奥から這い出してきたからだ。
俺は由香里君と一緒にお姉さんを引っ張り出す。
「なんでこんな所にいるの!ていうか大丈夫?」
母をいたわる娘。
服はあちこち汚れていて、パッパと砂を払う。
「ああ〜・・・やっと出られた。」
ホっと息をつき、大木にもたれかかる。
「お母さん・・・・。」
由香里君はギュっと手を握りしめ「心配してたんだから・・・」と涙ぐんだ。
「いきなり家を出てって・・・・やっと見つけたと思って旅館に行ったらいなくなってて・・・・、」
「ごめんごめん。心配かけたね。」
ポンポンと肩を抱くお姉さん。顔を上げ「司くんも・・・」と笑ってみせる。
「ごめんね、いきなりいなくなっちゃって。」
「心配しましたよ。それより怪我は?どこも痛くありませんか?」
「平気平気。」
大木に手をついて「よっこらしょっと」と立ち上がる。
由香里君が肩を支えながら「どうしてこんな所に?」と大木の穴を睨んだ。
「お母さんが泊まってた旅館に行ったら、連れの人が来てチェックアウトしたって言ってたけど・・・・まさかその人に閉じ込められてたとか?」
俺も同じことを考えた。
というのも御神木の根元には大きな穴が空いている場合があるのだ。
きっと神様の住処か何かだろう。
だから祠の後ろの大木にも大きな穴が空いていて、その穴の中から誰かが祠を倒そうとしているんじゃないかと考えたのだ。
そして俺の読みは当たっていた。
当たっていたのだが、まさかお姉さんが出て来るとは思わなかった。
そもそもお姉さんが自分からこんな穴に入ったりはしないだろう。
ということは誰かに閉じ込められた可能性がある。
そう思っていたのだが、お姉さんは「自分で入ったのよ」と答えた。
「へ?」
「自分から?」
「そう。自分から。正確には反対側の穴からね。」
「反対側の・・・・、」
「穴・・・・・?」
俺と由香里君は顔を見合わせ、キョトンと首を傾げた。
「どういうことですか?」
「反対側の穴なんてあるの?」
お姉さんは穴を振り返り「入ってみる?」と指さした。
「入ってみるって・・・・さっきそこから出てきたばかりじゃないですか。」
「そうだよ。なんか危なさそうだし・・・・。」
「別に危なくはないわ。ただ・・・、」
「ただ?」
ゴクリと息を飲んで答えを待つ。
お姉さんはニコリと微笑んで「行けば分かるわ」と言った。
「ああ、それと・・・・、」
「はい?」
「あなた達がここにいるのは、姫月さんに連れて来られたからでしょ?」
「ええ。実は彼女からも依頼をされまして。姿を消してしまった由佳子お姉さんを捜してほしいと・・・、」
言いかけて「そうだ!姫月さん!」と思い出す。
「とつぜんいなくなってしまったんです。もしかしたら滝壺に飛び込んだんじゃないかと心配していたところで・・・・、」
「それも行けば分かる。この穴の先にね。」
意味深な笑みを浮かべる。
どうやらお姉さんも何かを隠しているようだ。
《さあて、どうしたもんかなこれ。》
いつもなら迷わずに頷く。
去年なんて南極の地下にある古代人の国へ行ったのだ。
今さら大木の根っこの穴など怖くはない。
ないのだが・・・、
《なぜか分からないが寒気が止まらない・・・・。この先に絶対に良くない事が待ち構えていそうな気がしてならないな。》
夏だというのに鳥肌が立つ。
背筋には悪寒が走り、頭の中で『やめておけ!』と本能の警告が響く。
「久能さん。」
由香里君が不安そうな声で呼ぶ。
「私・・・・なんか怖いです。この穴に入ったら良くない事が起きそうな気がして・・・・。」
「君もかい?」
「見て下さい。夏なのに鳥肌が。」
彼女の腕も俺と同じような状態に。
自分で自分を抱きしめ、ブルリと震えていた。
気丈な由香里君がここまで怖がるなんて珍しい。
俺は「やめておこう」と首を振った。
「俺はともかく由香里君の身に何かあったら大変だ。」
「久能さん・・・・。」
「もし君を守ることが出来なかったら、俺は一生後悔するだろう。だからこの穴に入るのはやめておこう。」
そう言って肩を叩くと、「違うんです」と言った。
「私じゃなくて・・・・、」
「うん?」
「良くない事が起きるのは私じゃない。きっと久能さんです。」
真剣な目で見つめてくる。
その目は本当に俺の身を案じているようだった。
「・・・・そういえば以前にも言っていたな。俺に良くない事が起きそうな気がすると。本当なら君は家に帰ってるはずなのに、心配だからと残ってくれた。」
「そうです。あの時よりもっと嫌な予感がするんです。具体的にどう悪い事が起きるのか分からないけど・・・・。」
そう、分からない。だから怖いのだ。
そもそも嫌な予感というのはよく当たる。
《さあて・・・・どうしようかな。》
由佳子お姉さんは見つかった。
母と娘も再会した。
そういう意味ではこの島へやって来た当初の目的は果たしたと言える。
「帰るか。」
ニコっと言うと、母と娘の両方から冷たい目を向けられた。
「司くん・・・・、」
「それ本気で言ってます?」
「ぶっちゃけた話、出来れば帰りたい。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「だがそうもいかないことは分かっている。ならばやるべきことは一つ。」
穴の前に膝をつく。
嫌な予感は消えないままだが、引き返す選択肢がない以上、この先へ進まねばなるまい。
《穴の大きさは人一人が通れるほどだ。つまり・・・・、》
「私も行きますよ。」
由香里君が言う。
「いやしかしだな、おそらく俺は良くない事が起きるだろう。一緒について来たら君まで巻き込まれて・・・・、」
「それが嫌ならとっくに一人で帰ってます。」
彼女も穴の前に膝をつく。
中を覗き込み、「うわまっ暗!」と怯えていた。
「怖いなら無理するな。」
「無理しなきゃ私たちの仕事はやってられないじゃないですか。」
俺より探偵らしいことを言う。
「それに怖いだの危険だのは慣れっこですから。今までの依頼だってそうだったでしょ?」
ニコッと微笑んだその顔はとても可愛い。そして美しい。
思わずセクハラに走りそうになったが、さすがに母親が見ている前でそれは出来ない。
「分かった。なら穴に入ってみるか。」
「はい!」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
そもそもスリルと刺激を求めて探偵になったのだ。
ここで尻尾を巻くのは間違いだろう。
「お姉さん、良くない予感が消えませんが中に入ってみます。お姉さんはここで待っていて下さ・・・・、」
言いかけて振り返ると、お姉さんはいなくなっていた。
「あれ?どこ行った?」
由香里君も心配そうに「お母さん!」と叫ぶ。
「どこいっちゃったの!ねえお母さん!」
辺りを探してみるがどこにもいない。
まさかと思いつつ滝壺を覗いてみたが、落ちた様子はなかった。
「どこへ消えたんだ?一人で下山したわけでもあるまいし。」
由香里君は必死に母を呼ぶ。
姫月さんが消え、今度は由佳子お姉さんが・・・・。
そもそもお姉さんはなぜあんな穴の中に入っていたのか?
《分からん。謎だらけだ・・・・。》
幻でも見ていたのだろうか。
俺と由香里君二人揃って・・・・。
それもおかしな話である。
《いったい何がどうなってんだ?》
顔をしかめながら頭を掻きむしる。
その時、ふとおかしな事に気づいた。
「祠が・・・・、」
振り返った視線の先、倒れていたはずの祠が元に戻っていたのである。
大木の穴を隠すように佇んでいる。
しかもなぜか扉が開いていた。
「久能さん・・・・お母さん、ぜんぜん見つからない。どこ行っちゃったんだろう・・・・。」
走って探し回ったのだろう。息を切らす由香里君だったが、「ボケっとしてどうしたんです?」と俺の顔を覗き込んだ。
「なんか狐につままれたみたいな顔してますけど・・・・。」
「由香里君、あれを見てごらん。」
祠を指をさす。彼女は「なんで!」と悲鳴をあげた。
「祠が元に戻ってる・・・・。」
「さっきまでは倒れていたのにな。」
「く、久能さんが戻したんでしょ!?そうなんでしょ?」
どうやら俺のイタズラであることを願っているようだ。
だが残念ながら俺の仕業ではない。
ゆっくりと首を振ると、「そんな・・・」と息を飲んでいた。
「由香里君、怖がっている最中に申し訳ないんだが、もう一つ奇妙な事があるんだ。」
「き、奇妙なこと・・・・?」
言葉に出すのが怖いのだろう。いったいどんな?と目が尋ねている。
「祠の扉が開いている。」
そう答えると、なんだそんなことか・・・みたいな表情をした。
「だってあの扉の鍵は壊れてたじゃないですか。きっと自然に開いたんですよ。」
「そうかな?」
「そうですよ。きっとそうです。」
自分に言い聞かせるように無理な自信を見せる。
「なあ由香里君。」
「な、なんですか・・・・?」
「さっきは祠の中には何もなかったよな?」
「え?中・・・・?」
「姫月さんが鍵を外して扉を開けた時、祠の中には何もなかったはずだ。」
由香里君はじっと祠の中を見る。そして言葉を失った。
「・・・・・・・。」
「な?おかしいだろ。」
もはや石のようになってしまった。
試しに「大丈夫か?」とお尻を叩いたら正拳突きが飛んできた。
鼻がもげそうになる。
「うむ・・・・大丈夫なようだな。」
ダラダラと流れる鼻血を押さえながら祠へ近づく。
膝を着き、中を覗き込んだ。
ふっと息を吹きかける。
すると白い綿毛のような物がフワフワと舞い上がった。
そいつは地面に落ちては雪のように消えていく。
白い綿毛は祠の中にギッシリ詰まっていて、息を吹きかけると次々に舞い上がった。
手を出して受け止めてみる。
触れた途端に消えてしまうが、一瞬だけハッキリと見えたものがある。
目だった。小さくてつぶらな瞳が二つ。
さらに触覚のような長い毛が二つ、カタツムリのようにピョンと伸びていた。
「久能さん・・・・それって・・・・、」
恐怖と驚きに縛られながらも、辛うじて声を出す由香里君。
俺は振り返って頷いた。
「噂ってのも馬鹿に出来ないな。」
「じゃあやっぱり・・・・、」
「実物を見たことがないから断言は出来ない。だが俺が子供の頃にも流行っていたから、なんとなくの姿は想像がつく。」
もう一度手の平で受け止める。
消える前にその姿を目に焼き付けた。
「ケセランパサラン・・・・本当にいたのか。」

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM