目の前の道だけが全てじゃないさ

  • 2012.10.28 Sunday
  • 18:14
 さて、目の前に2つの道があったとしよう。
片方は地獄へ落ちる道。
もう片方はもっとひどい地獄へ落ちる道。
どちらも先へ進むのをためらうだろうが、後ろには戻れない。
映画「コマンドー」の主人公、アーノルド・シュワルツネッガー演じるメイトリックスならロケットランチャーをぶっ放して何もかも粉々にし、何食わぬ顔で先に進めるだろうが、残念ながら俺はメイトリックスではない。
どちらに進んでも辛い思いをするのならば、せめて普通の地獄の方がいい。
しかしながら、俺が進んだ道の先はもっともっとひどい地獄だった。
「オーマイゴッド!!」この言葉はこういう時の為にある。


                

                    *


「なあスカリー、宇宙人ってものはあまり人間と変わらないんだな。
俺はもっとイカかタコの化け物みたいなものだと想像していたよ。」
俺の言葉に目だけで笑い、彼女は視線を前に向ける。
「意外ね。宇宙人マニアの言葉とは思えないわ。」
俺はYシャツの下に着ているアニメ「氷菓」のヒロインである千反田えるがプリントされたTシャツを彼女に気づかれまいと、コートの前を閉じながら答えた。    
「僕だって全ての宇宙人を知っているわけじゃないさ。
彼はきっと、遠い銀河の果てから来たのさ。」
ニヒルに笑った俺に対し、彼女はツンと鼻を持ち上げた。
「火星の裏側から来たって言ってたわよ。」
「うん、まあ、・・・そんなことも言っていた・・・。」
「あなた、人の話はちゃんと聞くべきよ。
萌えアニメのTシャツにばかり気をとられてないで。」
「!!!」
なるほど、さすがはスカリーだ。
とっくにお見通しだったか。
開き直った俺はコートとYシャツを脱いで床に放り投げた。
スカリーの冷たい視線が俺の顔に注がれるが、それを快感に感じる俺はもうきているところまできているのだろう。
思えば今日の朝、便所に突っ込んだ手が抜けなくなった時から俺は運に見放されているのだ。
間違えて便所に飾ってあったフィギュアを落としてしまい、それを取ろうと手を伸ばした瞬間に水を大便モードで流してしまった。
フィギュアはトイレの先に繋がる下水へ吸い込まれ、俺の手はトイレの穴にはまって抜けなくなった。
遊戯王、ブラックマジシャンガールのフィギュアだった。
初版で買ったのに・・・。
悲しむ俺の涙はトイレの水を溢れさせた。
そこにふと後ろに気配を感じ、振り向くとスカリーが立っていた。
「キャサリンのエサがまだなんだけど、どうなっているのかしら?」
「ああ、その、なんだ。遊戯がブラックマジシャンガールを召還したみたいでね。
彼女はトイレの穴を通って、遊戯王の世界に行ってしまったみたいだ。
俺は墓地に送られたクリボーが間違ってこっちの世界に出てこないように、こうしてトイレの穴を手で塞いでいるわけさ。」
「意味がわからないわ。」
彼女は醜態をさらす俺に興味を示すわけでもなく、「キャサリンのエサお願いね。」とだけ言い残して戻っていった。
「はは、相変わらずの冷徹ぶりだ。
君の前じゃ、丸くなる前のピッコロ大魔王だってケツの毛が全部抜け落ちてしまうだろうさ。
まあピッコロにケツの毛が生えていたらの話だけど。」
トイレに落ちたフィギュアを拾う為に穴から手が抜けなくなり、その状態で一人しょうもないことを言っている俺。
悲しすぎて逆に笑えてくる。
ちなみにキャサリンとはスカリーの飼っている犬の名前である。
さて、この状態をどう脱却するか。
色々と試行錯誤をしていると、トイレの向こうから声が聞こえた。
「助けて!助けて!」
「!!」
耳を澄ましていると、また声が聞こえた。
「お願い!助けて!」
どうやらトイレの穴の中から声がしているようだ。
「君は誰だ!?」
問いかけると返事があった。
「私はこの部屋に飾ってあった人形。
あなたの強い思いが私に魂を宿らせたの。」
「な、なんだと・・・・。」
この便所に飾ってあった人形といえば、すわ、それはブラックマジシャンガールしかいないではないか。
「お願い!助けて!」
驚きとパニックとが入り混じる感情の中で、俺は「もちろんだ!すぐに助けに行くさ!」と答えようとした。
しかし待て。
このままキャサリンのエサやりをほったらかしたら俺はどうなる?
スカリーは間違いなく激怒し、俺を全裸にしてから亀甲縛りにしてグランドキャニオンの赤き大地に放置するだろう。
そしてそれを携帯で撮影し、ツイッターで「バカなうwww」とUPすることだろう。
どうする?
マジシャンガールを助けに行って、スカリーから放置プレイの刑にあうか。
それともこのまま大人しくキャサリンのエサやりに行って、マジシャンガールを見捨てるか。
どっちも地獄。
しかしながら、俺には若干ではあるが後者の方が嫌だという思いがある。
仕方ない、キャサリンは放置しておいて、マジシャンガールを助けに行こうか。
「今から君を助けに行く。
でもどうやってそこまでいけばいい?」
「大丈夫。
あなたのお尻を誰かに思い切り蹴ってもらって。
それでこっちに来れるわ。」
「う、うむ、そうか。
適任者が一人いる。ちょっと待っていてくれ。」
俺は便所の外に向かって大声で叫んだ。
「スカリー!!すまない。昨日間違えて君のお気に入りのボーイズラブの同人誌を全部捨ててしまった!!!」
そう叫ぶやいなや、彼女は鬼の形相で便所に飛び込んで来た。
「ファーーーーーック!!!ファック!ファック!ファック!ファーーーーーーーーック!!
このくされチ○ポ野郎!!全裸にして亀甲縛りにしてツイッターにUPしてテメエの痛車のボンネットに括り付けてニューヨークのド真ん中に放置してやるうううううう!!」
スカリーは思いっきり俺の顔面を蹴飛ばした。
蹴るのは尻でいいのに・・・・・。
勢い余ってもんどりうったスカリーは俺に激突し、そのまま二人ともトイレの穴に吸い込まれていったのだった。
そしてその先に待っていたのは伊藤四郎とエスパー伊藤を足して2をかけたような顔をした宇宙人だった。
なぜそいつが宇宙人だと分かったか?
それは常にそいつが宙に浮いた状態で立っており、とても人間の声とは思えない声で意味不明な言葉を喋っていたからだ。
ちなみに喋りかけていたのは手に持っていたマジシャンガールのフィギュアに向かってだ。
痛い、痛すぎる・・・・・。
周りを見渡すと、どうやらここはどこかのボロアパートの一室らしい。
俺たちに気づいた宇宙人は、人間の言葉で話しかけてきた。
「ムホ!この部屋にお客様がいらっしゃるとは。ドエフッドエフッ!
火星から来て二年。初めてのことです。ムホ!」
どうしようもない殺意が俺の中に沸き起こる。
なんだろう、何かむかつくなコイツ。
スカリーはボウフラを見るような目で火星人を見ていた。
俺達を無視し、フィギュアに向かってひたすら意味不明なオタク言葉と火星語を喋りかける火星人。
スカリーはジャケットの裏ポケットからメリケンサックを取り出して拳にはめ、助走をつけた右ストレートを火星人の顔面にめり込ませた。
もんどりうって倒れる火星人。
宙に投げ出されたマジシャンガールのフィギュアを間一髪でキャッチする俺。
見事な連携プレーだった。
「さっさと火星に帰れ!!
このイカレチ○ポ野郎!!!」
倒れた火星人に罵声を浴びせながら蹴りを連発するスカリー。
「ファック!ファック!ファーーーーーーーーーーック!!!」
スカリーの勢いは止まらない。
同人誌を捨てられた怒りが爆発しているのか。
「ひいいいいいいいいいいいいい!!!
地球怖ス!地球の女テラ怖ス!!!三次元の女ギザ怖スううううう!!!」
立ち上がった火星人は押入れの奥からオマルを取り出すとまたがった。
「ひいいいいいい!!!」
オマルに乗った火星人はアパートの天井を突き破って、遥か空の上まで飛び去ってしまった。
オマルのUFOって・・・。
しかも今時「テラ」とか「ギザ」って・・・・・。
呆れている俺の手の中で、ブラックマジシャンガールのフィギュアが語りかけてきた。
「ありがとう。
あなたのおかげで助かりました。
私も本来自分がいるべき世界へ帰りたいと思います。
このご恩は一生忘れません。
それじゃあ、さようなら。」
「な、おい!ちょっと待ってくれ!俺には今回のことが何が何やらさっぱり・・・。」
言い終わる前に、マジシャンガールのフィギュアから眩い光が放たれ、俺とスカリーはオフィスの便所に戻っていた。
手に持っていたブラックマジシャンガールのフィギュアは消えていた。
その後の俺はというと、スカリーにしばき倒され、キャサリンにエサをやらされ、君の同人誌を捨てたのは嘘であって、その嘘をついたのには理由があると説明し、それならパンツ一丁でガムテープでビルの屋上の電波等に貼り付ける刑で許してあげると言われ、彼女の仕事が終わるまでずっとそのままのパンツ一丁で貼り付けられていた。
そして先ほど家に戻り、シャワーを浴びてビールをあおっているところだった。
「やれやれ、今日はわけのわからない一日だったな。
なんか疲れたし、そろそろ寝るか。」
そしてベッドに入ってしばらくすると、頭の中に声が響いてきた。
「この声は・・・。」
俺は起き上がって目を開けようとした。
「待って。そのままでいてください。」
そう言われ、俺はベッドの中で目を閉じたまま」尋ねた。
「君はあの火星人にさらわれた・・・・・。」
「はい、そうです。
もう一度きちんとお礼が言いたくてやってきました。」
「そうか。律儀なんだな。」
やや沈黙があったあと、彼女は言った。
「あのままだと、私は危うく火星に連れて行かれるところでした。
あなたが助けてくれたから、私は本来いるべき世界に帰ることができました。
ほんとに、なんとお礼を言ったらいいのか・・・・・。」
かすかに涙声になっている。
「いや、大したことじゃないさ。
それに無事で何よりだ。
これからは自分の世界で仲間たちと一緒に幸せに暮らすといい。」
「はい、そうします。
ほんとうにありがとう。
それじゃあ。」
そう言って彼女は去ろうとする一瞬、俺は目を開けて彼女を見てしまった。
「!!!」
そこにいたのは、ブラックマジシャンガールのコスプレをしたトメさんだった。
「な・・・、あのフィギュアに宿っていた魂ってあんただったのか・・・・・。」
知らない人の為に言っておくが、トメさんとは遊戯王GXに出てくる購買部の小太りのおばちゃんである。
彼女は毎年やってくるイベントの度にこのコスプレをする。
俺に姿を見られたトメさんは、頬を赤らめ、「いやんっ!」鳴いた。
この時の俺の精神的ダメージは、クリリンを殺された時の悟空よりもひどかったと思う。
「それじゃ、また機会があったら会いましょ」
頼んでもいないのに、小太りの体を見せ付けるようにくるりと回るトメさん。
そして投げキッスを残し、去って行った。
俺は気分が悪くなり、悲しいやら虚しいやらで枕を噛み締めてベッドにもぐった。
用意されたどちらの道も地獄なら、そのどちらにも進むべきではなかった。
目の前にある道だけが全てじゃないさ。
あの時、便所に落としたフィギュアさえ拾わなければこんな不毛な一日を過ごすこともなく、こんな悲しくも虚しい気持ちになることもなかった。
さっさと寝てしまおうと目をかたく閉じると、ケータイが短く鳴った。
スカリーからのメールだった。
「夜遅くにメールしてごめんなさい。
私は明日から一ヶ月間海外へ旅行に行って来るから、その間のキャサリンの世話をお願いね。
日本にも寄るつもりだから、ブラックマジシャンガールのコスプレをしたトメさんのフィギュアをお土産に買ってきてあげるわ。
楽しみね。それじゃあ、おやすみなさい。」
俺は返信をせずにケータイを閉じ、「そんなフィギュアねえよ」と悲しい声で呟いた。



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