竜人戦記 番外編 クロスワールド(4)

  • 2013.03.09 Saturday
  • 00:01
 曇りかけてきた空を眺め、ケイトはため息をついた。
心の中には言い様のない不安が立ち込め、気づかないうちにまたため息をついていた。
あの異界の者達。
ウェインが倒し、いや、制圧したと言った方が正しいのか。
三人いたその者達をすぐさまトリスの元へと連れていった。
男二人に女が一人。
確か、男達のほうはコルドとベインという名前だった。
筋肉質で大柄、赤髪のいかつい顔をした方がコルド。
細身で長身、切れ長の黒い髪の方がベインだったはずだ。
しかしケイトにとってはこの二人のことは正直どうでもよかった。
一番気になっていたのは・・・・・、そう、マリーンに似たあの女性。
名前はクレアといっていた。
輝くような金色の髪に、透き通るような白い肌。
そして何よりも印象的で力強い青い瞳。
見れば見るほどマリーンにそっくりだった。
ただ耳は長くないので、エルフではなく人間なのだろう。
ケイトは彼女のことが気になって仕方なかった。
今彼女達はトリスの家で質問を受けているはずだ。
ウェインもそれに立ち会っている。
だんだんと空の雲が厚くなってきて、ケイトが三度目のため息をつこうとした時、ウェインが後ろから声をかけてきた。
「あんたは何かあるとこの小川のそばに来るな。」
ケイトはウェインに振り返らず、ただ小川に視線をやっていた。
「落ち着くんです。川を眺めていると。
山間のこういう場所で生まれましたから。」
ウェインは僅かに微笑むと、ケイトの隣に腰を下ろした。
「あいつらの話だがな、まあ・・・、何というか・・・。」
ケイトは顔を上げてウェインを見た。
彼がこんな風に言いよどむなんて珍しいことだったからだ。
ケイトが目で先を促すと、ウェインは続きを話し始めた。
「奴等のいる世界が、未知の生物に侵略を受けているらしい。」
「未知の生物に・・・、侵略・・・?」
ウェインは頷くと、「魔物さ。」と呟いた。
「この世界にいる、俺達が魔物と呼んでいる者たち。
それがどういうわけか向こうの世界に現れているらしい。」
「え!?どういうことですか!?」
ウェインはケイトと同じようにため息をつくと、重々しく口を開いた。
「どうやら魔人が関係しているらしい。」
それをきいた途端、ケイトは川の中へ転げ落ちそうになった。
ウェインが法衣のフードを掴んで引き戻す。
「な・・・、な・・・、まじ・・・、まじ・・・、魔人ーーーーーーーッ!!!?」
開いた口が塞がらず、目はこれ以上ないくらい大きく見開かれたケイトの顔を見て、ウェインは笑った。
「予想通りの反応だ。」
「な、何を冷静に言ってるんですか!
魔人ですよ!
あの・・・、私達が命懸けで地獄に封印した・・・、あの・・・。」
「わかってる。」
ウェインはぽんとケイトの頭に手をのせた。
「俺も奴等の口からきいた時は耳を疑ったよ。
しかしどう考えても、奴等が言う未知の生物の総大将の特徴が魔人バースそのものなんだ。」
「そ、そんな・・・、どうして・・・。」
先ほどとはうって変わって、ケイトは全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「魔人が・・・。」
放心状態のケイトの顔を覗き込み、「大丈夫か?」とウェインが問いかける。
しばしそのままの状態であったケイトは、やがて立ち上がって小川のすぐ近くでしゃがみこんだ。
唇を震わせながら固く拳を握り締めて目を閉じる彼女の肩に、ウェインはそっと手を置いた。「そんなに思いつめた顔をするな。
人の話は最後まできくべきだ。」
「・・・、どういうことですか?」
泣きそうな顔をしたケイトに、ウェインは続きを話した。
「魔人といっても本体じゃない。」
「本体・・・?」
「ああ。奴は今地獄に押し込められているはずだからな。
もう一度地獄の門を開かないかぎりそこから出ては来れないさ。」
「じゃあ異界に現れた魔人は一体・・・?」
真剣な目で見つめるケイトに、軽く笑みを返しながらウェインは答えた。
「今異界にいる魔人は、いわば影のようなものさ。」
「影・・・・・ですか・・・?」
「ああ。どういうわけか、魔人は異界というものの存在に気づいていたらしい。
だから、もし自分に何かあった時の為に保険をかけてかけておいたのさ。
別の世界に自分の分身を送ることによってな。」
「そんなことが・・・・・。」
そんなことが出来るのかと問おうとしたケイトであったが、その言葉を飲み込んだ。
あの魔人のことだ。
こちらの想像を遥かに超えることをしていてもおかしくない。
「それで・・・?」
ケイトが先を促すと、ウェインは曇り空を見つめながら言った。
「過去に竜と悪魔の大戦があったことは知っているな?」
ケイトは強く頷いた。
「もちろんです。
その大戦によって竜と悪魔はこの世界からいなくなってしまったんですから。
そしてその後に残されたのが、ウェインさんと魔人でしょう?」
「そうだ。
竜の力を受け継いだのが、竜人である俺。
悪魔の力を受け継いだのが魔人だ。」
ケイトは膝を抱え、小川に視線を落とした。
「でも、そのことが何か関係があるんですか?
この世界ではウェインさんと魔人の戦いは決着がついたんですよ。
どうして今更そんな話を?」
ウェインは大きくため息をつくと、ケイトと同じように小川に視線を落とした。
「あんたの言うとおり、この世界では俺と魔人の決着はついた。
しかしだ、俺達の戦いの発端は一体何だったのかということさ。」
急な質問に、ケイトは首を傾げた。
ウェインと魔人の戦いの発端。
「魔人が地獄の門を開くのを阻止する為ってことだったはずです。」
「そうだな。
しかしそれは、俺が魔人と戦う理由の一つであって、・・・・・。
そうだな、なぜ俺と魔人が生み出されたのかを考えてみるといい。」
その言葉にまた首を傾げながら、ケイトは自分の記憶を辿っていった。
この二人が生み出された理由。
魔人は地獄の門を開こうとしていた。
なぜか?
この世を地獄に変える為である。
そしてウェインはその野望を阻止する為に竜が生み出した存在。
一体それ以上の何があるというのだろう?
深く考え込んでしまったケイトに、ウェインがヒントを出した。
「代理人さ。」
「代理人?」
何を言っているのかわからず詳しい説明を求めようとした時、ケイトの頭にある言葉が閃いた。
「代理人・・・って、もしかして・・・、代理戦争・・・?」
「ああ、その通りだ。」
ウェインは笑って頷いた。
「地獄の門を開き、この世を地獄に変えたいというのは魔人の存在理由でしかない。
それを阻止する為に生まれた俺もまた、その為だけの存在だ。
なら、俺達二人の背後にいるのは一体何者なのか?
もうわかるだろう。」
そこまで言われて、ケイトは自分の中に芽生えた考えに確信を持った。
「竜と悪魔ですね。」
「正解だ。
あんたも随分と物分りがよくなった。」
「もう、人を馬鹿みたいに言わないで下さい。」
頬を膨らませたケイトを見て、ウェインは軽く笑った。
「竜も悪魔のこの世界からはいなくなった。
しかし、だからといってその魂が消滅したわけではない。
あくまで肉体が滅んだだけであって、魂は別の世界で存在している。」
「・・・、悪魔は地獄ですよね?」
「そうだ。」
「じゃあ竜は・・・?」
ウェインはケイトを見て大きくため息をついた。
「さっきの言葉は訂正しよう。
やはりあんたは以前と変わっていない。」
「何がですか?」
「物分りが悪いってことさ。」
「もう、ウェインさん!」
また頬を膨らませて怒るケイトを見て、ウェインは可笑しそうに笑っていた。
「今は真剣な話をしているのにからかわないで下さい。」
頬を膨らませたままそっぽを向いてしまったケイトであったが、以前のウェインならこんな冗談を言うなど考えられなかった。
そう思うと僅かに笑みがこぼれるケイトであったが、そのことを悟られまいと表情を引き締めてからウェインに向き直った。
「それで、竜の魂は今どこにいるんですか?」
そう尋ねると、ウェインは空を指差した。
「空・・・・・、ああッ!
もしかして、天界ですか?」
ウェインは頷いた。
「竜とは元々この世界の秩序の番人のようなものだ。
そして大きな力を持っている。
肉体を失い、魂だけになった竜達を天界の神々が放っておくはずがないだろう。
竜は今でもこの世界を見つめ続けている。」
ケイトは空を見上げた。
遥か空の上からこの世を見守り続けている竜達。
そっと手を握り、祈りを捧げた。
「まだ竜と悪魔の戦いは終わっていない。
完全に悪魔の力を持った存在をこの世から消し去るまではな。」
そう言ってウェインは立ち上がり、大きく深呼吸をした。
「この世は無数にある。
異界という形で各々の世界は区切られているが、それでも根っこは一緒だ。」
ケイトも立ち上がり、空を見上げた。
「根っこは一緒。」
「そうだ。
俺達がいるのはトリスに言わせると物質界というのだそうだ。」
「何ですか、それは?」
「分かり易く言うならば、肉体を持つ者達がいる世界だ。
この世界にはこの世界の理がある。
まあ低級な悪霊なんかは肉体を持たずにこの世界にとどまることも出来るそうだが、大きな力を持つ者は肉体無しにはこの世界には存在することが出来ないらしい。」
「だから肉体を失った竜達は天界に行ったんですね。」
「ああ。しかし・・・・・、天界と地獄はそれぞれ一つずつしかないそうだ。」
ケイトは僅かに驚いてウェインを見た。
「そうなんですか?
でもどうして?
この世・・・、物質界ですか?
それは異界という形でたくさん存在しているんでしょう?」
「だからさっき言ったとおりさ。」
ケイトは首を傾げた。
「根っこは一緒。
それは魂の世界のことさ。
天界も地獄も、元々は同じ場所だったそうだ。
魂が集う黄泉の国というな。」
「黄泉の国・・・・・。」
ウェインは踵を返すとゆっくりと歩き始めた。
ケイトもその後をついて歩く。
「天界も地獄も一つだけ。
それは物質界の根源だ。
ならそこに住まう者達なら、なんらかの形で異界に接触することも可能というわけだ。
魔人はそのことを知っていたから、俺達に敗れ去る前になんらかの手を打っていたんだろうな。」
ケイトは竜を象った首飾りに手を当てた。
いくらこの世界で悪を倒そうとも、地獄が存在する限りは根本的に悪魔や魔人を滅ぼすことは出来ない。
ウェインの話をきいて、そう確信を抱いていた。
「ウェインさん・・・・・、私達の世界には・・・、いえ、この世には本当の平和っていつになったら訪れるんですかね?
私達が戦うことに意味なんて・・・。」
ケイトが言い終える前に、ウェインは口を開いた。
「気になっているんだろう?」
いきなり言われてケイトは小首を傾げた。
「あの異界の者達。
特にクレアという女が。」
見透かされていたのが恥ずかしくて、ケイトは顔を逸らした。
「似ているな。
俺達と一緒に戦ったあのエルフに。」
「はい・・・・・。」
ケイトはマリーンの顔を思い出していた。
「行って来たらどうだ?
うじうじ悩むのはあんたらしくない。
物分りが悪くとも、素直に自分の心に向き合うのがあんたのいいところだ。」
ケイトは今まで一番大きく頬を膨らませた。
「もう!ほんとに怒りますよ!
さっきからからかってばっかり。」
「もう怒っているように見えるがな。」
そう言うと、ウェインは背中を向けて軽く手を振りながら去って行った。
ケイトはウェインの背中を見ながら、自分の心の中にあるもやもやしたものを大きな息とともに吐き出した。
確かにウェインの言うとおりだ。
うじうじ悩んでいても仕方がない。
あのクレアという女性に会って話をしてみよう。
何を話すかなんて決めていないけど、ウェインの言ったように自分の心に正直でいるのが取得であることはわかっている。
彼女が気になる。
マリーンに似た、あの異界のクレアという女性が。
ケイトは雲の間から差し込んだ細い光を見上げ、天からこの世界を見守っているであろう竜達にもう一度祈りを捧げた。


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