竜人戦記 番外編 クロスワールド(5)

  • 2014.01.11 Saturday
  • 19:47
 「不思議な世界ね、ここは。」
美しい金色の髪をかきあげながら、窓の外へ目をやる女性。
彼女の名前はクレア。
異界からの来訪者だ。
「あ、あの・・・。」
ウェインにすすめられてここへ来たものの、何を話していいか分からない。
あんなに聞きたいことがあったはずなのに。
ケイトの頭の中はすっかり真っ白になってしまっていた。
「どうしてあなたの方が緊張しているの?」
クレアが可笑しそうに言う。
「あ、はい!ごめんなさい・・・。」
里の離れにある小さな小屋に、先ほどまでトリスとウェインに質問を受けていた異界からの来訪者三人がいた。
武器になるものは全てとりあげられていて、お互いの意思をはかる翻訳機械だけが彼女達に携行を許可されていた。
部屋の隅の椅子に二人の男が憮然と腰掛けている。
一人はケイトを見据えるように、もう一人は宙に視線をさまよわせながら。
「でも呑気なものよね。
今ここで私達があなたを人質にして立て篭もったらどうするつもりなのかしら?」
そう言ってクレアはケイトに近づいて来る。
「その心配はありません。
だって・・・、今のあなた達からは邪悪な気は感じられませんから。」
ケイトがそう言うと、椅子に座っていた筋肉質で大柄な男、コルドが笑った。
「ははは、あんたらお得意の魔法ってやつか。
まったく泣けてくるね。
こんなろくに文明も発達していないような世界の猿どもにとっ捕まるとは。
おまけに魔法だの竜人だの、まるでお伽話だなこりゃ。」
するともう一人の男、細身で長身のベインが口を開いた。
「よせよ。そういう言い方は。」
「ふん!よくそんな冷静でいられるな。
なあ隊長!そいつを人質にとって武器を取り返そう。
こっちは一刻の猶予もねえんだ。
ぐずぐずしてると・・・。」
「分かってるわ。
でも今は無理よ。
見たでしょ、あのウェインという男の強さを。
例えを武器があっても同じ目に遭うだけよ。」
クレアにそう言われ、コルドはむっつりと黙ってしまった。
「ごめんなさい、気を悪くしないでね。」
「ああ、いえ、そんな・・・。」
ケイトはうつむき、床に目をやりながら尋ねた。
「あの、クレアさん達の世界は・・・、」
「クレアでいいわ。」
あ、はい。
そのクレアの世界の話だけど、さっき聞いたことが本当なら・・・。」
「本当なら?」
ケイトは一度唇を噛みしめ、ここへ来てからクレアに聞かされた話を思い出していた。
やはりウェインの言った通り、彼女達の世界は魔物に侵略をうけていた。
それもこの世界の魔物に。
彼女達の世界はケイト達のいる世界より遥かに文明が発達した世界であり、月まで乗り物を飛ばしたり、夜でも昼間のように世界を明るく照らすことが出来るという。
ケイトには想像もつかない世界だが、彼女達からするとこの世界の魔法だの魔物だのの方が理解出来ないそうである。
なんでも、彼女達の世界ではそういうことはお伽話や創作の世界の話であり、実在するなど有り得ないからだそうである。
しかし、その有り得ないはずの魔物がその世界を侵略してきた。
当初、彼女達の世界の軍隊は魔物に対して応戦したそうである。
優れた文明の強力な武器は瞬く間に魔物達を制圧していった。
しかし、あともう少しで魔物を殲滅出来るという所で、思わぬ事態がおこった。
なんと、一部の国の指導者達がその武器を魔物ではなく人間に向け始めたそうなのである。
予想外のことに彼女達の世界の軍隊は混乱をおこし、また次第に数を増やし始めた魔物も猛攻をしかけてきた。
クレア達のいる国はその世界でも有数の大国であり、他の同盟国とともに反乱をおこした国を鎮圧し、攻め来る魔物達を撃退していった。
しかしである、今度は同盟国の指導者がまたもや反乱をおこし、ついにはクレアの国の指導者の一部までもが同族に武器を向け始めた。
あまりの異様な展開に、世界はますます混乱をきたし、もはや魔物と人間同士の争いという泥沼状態になってしまったという。
そんな戦いが半年も過ぎたころ、彼女鯛の世界の科学者と呼ばれる人達が魔物が出現してきている場所の存在をつきとめ、詳しく調査したところどうやらこの向こうにもう一つ世界があるとわかったという。
そしてその世界にこそこの異常な事態を静める鍵があるのではないかと思い、まず斥候としてクレア達が送り込まれたそうだ。
にわかには信じ難い話だが、現に異世界の人間がこうして目の前に立っている。
ケイトは立ち上がってクレアの目を見てこう言った。
「あなた達の世界をそんな風にしてしまったのはこの世界の魔物です。
だから私達にも、その・・・、あなた達の世界を助けるのに協力させて下さい。」
そう言うと三人はお互いを見回し、そしてコルドが大笑いした。
「何を協力するってんだよ、ええ?俺達はあんたらの世界から来た化け物のせいで滅びかけてるんだぜ。
偽善者面するんじゃねえよ!」
「いえ、私はそんなつもりじゃなくて・・・・、」
ケイトがそう言いかけた時、突然部屋の中に恐ろしい邪気が立ちこめた。
「な、何・・・?この邪悪な気は?」
ケイトは立ち上がって胸に手を当てた。部屋を満たす邪気はさらに強くなり、吐き気を催すほど頭がクラクラしてきた。
「・・・これは・・・この感じは・・・・。」
「大丈夫?どうかしたの?」
「・・・もしかして、あなた達は感じないの?この邪悪な気配を・・・。」
「・・・何のことか分からないわ。でも気分が悪いならとにかく横になりなさい、ほら。」
クレアは膝をつき、ケイトの肩に手を回す。しかしその時だった!黒い影が頭上を駆け抜け、ケイトは思わず目を瞑った。
「今のは何!」
クレアは立ち上がって拳を構える。そして部屋の中を見渡して、口を覆って絶句した。
「そ、そんな・・・。コルド!ベイン!」
二人の首からは血が流れていて、白目を剥いて絶命していた。クレアは恐怖に固まり、じりじりと後ずさる。
しかし突然ケイトが飛びかかってきて、思い切り床に倒れ込んだ。
「危ない!」
黒い影はまた頭上を駆け抜け、「あはははははは!」と不気味な笑い声を響かせた。
そして窓を割り、風を巻き起こしてどこかへと飛び去っていった。
「い・・・今のは・・・間違いない!あいつだわ!」
ケイトは弾かれたように立ち上がり、ドアを開けて外へ駆け出した。そしてキョロキョロと辺りを見渡し、あの黒い影を探した。
「・・・いない・・・。どこへ行ったの?」
部屋から飛び出していった黒い影、それはケイトがよく知る恐ろしいあの敵だった。
「・・・魔人・・・。どうしてここに・・・。」
胸に手を当てて唾を飲み、恐怖と驚きで思わず力が抜けた。すると後ろからクレアに支えられ、「今のは何?」と顔を近づけてきた。
「あれは魔人・・・。あなた達の世界を無茶苦茶にしている張本人よ。」
「今のが・・・・。」
クレアは青い瞳で黒い影が飛び去った方を見つめ、ギリっと歯を食いしばった。
「じゃあ、あいつを倒せば何もかも解決ってことよね・・・?」
「そうだけど・・・でもあなたじゃ魔人を倒すのは無理よ!ウェインさんじゃないと。」
「あの竜人さん・・・?」
「そうよ。私達の世界も、一年前に魔人の脅威に晒されたの。でもウェインさんや、心強い仲間のおかでげ、何とか地獄に封じ込める
ことが出来た・・・。」
「・・・・地獄に・・・。なら、どうして私達の世界に魔人が現れたの?今は地獄にいるんでしょう?」
「分からない・・・。でも、今はとにかくウェインさんに知らせないと!」
ケイトはクレアの肩を掴んで立ち上がり、トリスの家に向かった。心臓がバクバクと鳴り響くのを感じ、息を切らせて走っていく。
「魔人・・・。そいつのせいで・・・私達の世界は・・・。」
クレアは仲間が殺された小屋を見つめ、そしてケイトの方を振り返った。言いようの無い怒りが湧き上がり、青い瞳を揺らして立ち上がる。
「許さない・・・許さないわ・・・。あいつのせいで・・・私の恋人や仲間は・・・。」
憎しみと怒りが身体を満たし、クレアは全力で駆け出した。そしてすぐにケイトに追いつき、横に並んで言った。
「私も戦うわ!ここで魔人を倒せば、私の世界は元の姿に戻れる!」
ケイトはクレアを見つめ、彼女の目に強い決意が宿っているのを感じた。そして強く頷き、長い金髪を揺らしてひたすら走って行った。
しかし石につまづいて転び、坂道をゴロゴロと転がっていった。
「ケイト!」
クレアはケイトに駆け寄り、肩を抱き起こして「大丈夫?」と心配そうな目を向ける。
「ご、ごめん・・・。私ってドジだから・・・。」
苦笑いを見せて擦りむいた肘を押さえ、何とか立ち上がる。
「痛たたた・・・。転んでる場合じゃないのに・・・・。」
そう言って顔をしかめた時、遠くの方で凄まじい雷鳴が鳴り響いた。まるで落雷のように空が明るくなり、僅かに地面が揺れる。
「これは・・・ウェインさんの稲妻!」
ケイトとクレアは息を飲んで稲妻を見つめる。すると、黒い影と戦っている一人の剣士が見えた。
「ウェインさん・・・魔人と戦っている・・・。」
突如現れた魔人。そして大剣を振って戦うウェイン。
一年前の激しい戦いの記憶が蘇り、ケイトはギュッと拳を握って走り出した。
 

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