マーシャル・アクター 第二話 武術と魔法と科学

  • 2014.01.11 Saturday
  • 20:45
〜『武術と魔法と科学』〜

「ちょっと待ってろよ、今楽にしてやるからな。」
ジョシュが運んできた男は、領主の建物の中にある医務室に寝かされていた。
「あの、ここは医務室なんで・・・、その我々に任せて頂ければ・・・。」
「ま、ま、ちょっと待ってくれよ。」
ジョシュは胸の辺りまで持ちあげた両手を前に向かって広げ、短く呼吸を吐きながらゆっくりとその手を下ろしていく。
そして今度は短く息を吸いながら両手を胸の前まで持ち上げた。
この動作を三回繰り返し、開いた両手を丹田の辺りで止めて男の傍に立った。
冷や汗を流しながら苦しそうに顔を歪める男に向かってジョシュは言った。
「ちょっと衝撃があるけど、かんべんな。」
今、ジョシュの両手の間には大量の練られたオーラが溜まっていた。
そしてそのオーラを掌底を打つようにして男の丹田にぶつけた。
「が・・・ッ!」
一瞬身を曲げて苦しそうにする男であったが、しばらくすると乱れていた呼吸も収まり、苦しそうに歪んでいた顔もだんだんと落ち着きを取り戻していった。
「ふうっ・・・、このおっさんオーラに歪みがあったんだよ。
きっと他の武術家にやられたんだろうな。そのせいで本来の力が出せなくなってたみたいだけど、これでもう大丈夫。
大きな怪我も治ったし、あとはあんたらに任せるよ。」
ジョシュは医務室の職員の肩をポンと叩くと、この街の領主が立っている入り口のドアまで歩いていった。
「活泉の気を練ったんだね。その歳でたいしたもんだ。」
長く青い髪、やや垂れ目だが端整な顔立ち、そして紺色の法衣を纏った男が感心した目を向ける。
ジョシュは少し自慢げに笑った。
「うん、まあ、これくらいは出来ないと。」
「かっこつけちゃって。」
レインに笑われ、ジョシュは口を尖らせた。
「ククリ先生、すみません。兄は少し子供っぽいところがあって。」
「いや、その歳ならそんなものだろう。
レインが歳の割に落ち着き過ぎているんだよ。」
「そうそう、こいつね、たまに説教くさいんっすよ。俺一応兄貴なのに。」
「だったらもっと兄らしくしてもらわないと。
私がいなきゃさっきだってどうなってたか・・・。」
「はいはい、お前はすごいよ。稀代の天才魔導士だ。
それに比べて元々俺は大した才能は・・・、」
「もう!またそうやって拗ねるんだから。」
「ははは、仲の良い兄妹だ。」
ククリと呼ばれた領主はジョシュの肩に手を置くと、優しそうな顔で笑った。
「正直ね、僕はレインのことが心配だったんだよ。この子の秘めている力は大きすぎる。
だから僕がレインを弟子にとった時、教えたのはその力をコントロールする術だけだった。
他は教えることなど何もなかったからね。」
「そんな、私の魔法は全て先生から教えてもらったものばかりです。」
「いやいや、誰に師事しても君ならその才能を開花させていたよ。
ただね、恐ろしいのはその強大な力に君の心が飲み込まれてしまうことだけだった。
でも・・・。」
肩に置いていた手をぽんと叩いてククリは続けた。
「ジョシュ君。君がいればレインは大丈夫だな。
君の存在がどれほど彼女の精神的支えになっているかがわかるよ。」
「へへ、おい聞いたかレイン!やっぱりすごい人は見る目が違うよなあ。」
ジョシュは嬉しそうに鼻を持ち上げた。
「先生、あんまりジョシュを褒めないで下さい。すぐに調子に乗るんですから。」
「ほらほら、そういうとこが説教くさいんだよ、まったく。」
「あのね、ジョシュが調子に乗ったが為に危険な目に遭ったことが何度あると思ってるの?今回だってそう。
いい、ジョシュ。この体が死ねば二人とも死んじゃうんだからね。
もっとそういうところを自覚して・・・、」
「まあまあ、兄妹喧嘩はそのへんにして・・・。」
二人をなだめると、ククリは踵を返して歩き始めた。
「僕としてはその微笑ましいやり取りをもっと見ていたいところだけど、今はやらなければいけない大切なことがあるだろう?その為に君達をここへ呼んだんだから。」
「そうでした。すみません。」
レインが謝り、ジョシュは先を行くククリの後を追った。

             *

「さて、準備は出来ているかな?」
ククリは建物の地下にある、大きな魔法陣が描かれた扉を開けた。
「すげえ!なんだこりゃあ?」
ジョシュの目の前に広がっているのは、直径百メートルはあろうかと思う巨大な透明の円柱と、その周りを忙しなく行き交う魔導士や科学者だった。
円柱の床と天井にはこれまた巨大な魔法陣が描かれ、下の方にはその円柱を支える機械が設置してあった。
機械はパイプやケーブルで部屋を埋め尽くすほどのたくさんのコンピューターに繋がれ、科学者がその機械をいじったり、魔法使いが科学者と話し込んだりしている。
「い、いったいこれは・・・?」
レインが驚きの声を上げた。
「先生!これはいったいどういうことなんですか?
こんな場所に科学者達がいるなんてッ!
あの人達は次世代文明管理会の人間でしょう?
そんな人達がなぜ魔法協会の最重要都市の中枢に入り込んでいるんですかッ?」
「まあまあ、少し落ち着きなさい。」
「それだけじゃないわ!
さっきジョシュが助けた男の人、あれは間違いなく前武術連盟会長のフレイ剣聖ですよね。」
「ええー、マジかよッ!
あ〜、俺ちゃんと挨拶してねえや、同じ剣士なのに。
よっしゃ!今からちょっと剣聖のところに・・・、」
「ジョシュは黙っててッ!」
突然怒鳴られてジョシュはたじろいだ。
「な、なんだよ・・・。んな怒んなくても、っておいッ!」
ジョシュの体が一瞬眩く光り、その体は長い髪を後ろで束ねた細身の法衣の女に変っていた。
「ちょ、おいッ!レイン!何勝手に入れ替わってんだ。今日は俺が表に出る日・・・・、」
「だから黙っててって言ってるでしょッ!」
「な、なんだよ・・・?どうしたんだお前?」
レインはククリに詰め寄り、真っすぐにその目を見据えて言った。
「先生、フレイ剣聖はこの大戦の引き金となった人ですよ。しかも、最初に襲われたのは魔導協会です。なのになんであんな人がこの街に・・・・・、
何の宣戦布告もなしにいきなり襲ってきて・・・、その時に、先生のいた街も襲われて、先生の奥さんと子供は・・・・・。」
「・・・・・・・。」
「先生!私納得いきません。確かに私はフレイ剣聖を助けるのを手伝ったけど、でもそれはいたぶられているのを見ていられなかったからで・・・・・、
私は人としてはあの男を許せません。」
レインはグッと拳に力を入れ、顔を俯かせて続けた。
「先生に師事している時、奥さんも二人の子供も、私に本当の家族のように接してくれた。
物心がついた時から、私達兄妹には母親がいなかったから・・・、だから優しくしてくれる奥さんを本当のお母さんみたいに思ってた・・・・・。
まだ小さかった子供二人だって、本当の弟と妹のように思ってた・・・。
なのに、なのに・・・・・、何にも悪い事してないのに・・・、どうして・・・。」
目を滲ませるレインの肩に、ククリは優しく手を置いた。
「そうだな。私の家に住み込みで修行をしていた時、確かに君は私達家族の一員だった。
いや、今でもそう思っているよ。」
ククリはレインの涙をそっと指で拭うと、頭を撫でながら続けた。
「すまないレイン。用が終わった後にちゃんと全てを説明するつもりだったんだ。
その方が君達も混乱しなくていいと思ったからね。でも逆だったようだ。
君達が私に会いに来た時、きちんと説明するべきだった。許しておくれ。」
レインは涙を拭きながら、ぶるぶると首を振った。
「違うんです、ごめんなさい。取り乱してしまって・・・。
ただ、自分の感情を抑えられなくなって・・・。」
「いいんだよ。」
ククリはレインに向かって優しく微笑んだ。
「・・・大丈夫か、レイン?」
「うん、ごめんね。勝手に出て来て。中に戻るね。」
「いやいや、いいって。せっかく久しぶりに師匠に会えたんだから、今日はお前が表に出てろよ。」
「いいの・・・?」
「おう!」
「羨ましいよ君達が。本当にいい兄妹だ。」
ククリは忙しなく行き交う科学者や魔導士の間を抜け、部屋の隅にある長椅子に腰掛けた。
「まだ準備が出来るまで時間がかかりそうだ。それまでに君達に全てを話そう。」
そう言ってククリは手で隣に座るように促した。

             *

「さて、何から説明したものか。」
ククリは煙管に火をつけ、しばらく考え込んでから口を開いた。
「レインは、世界を支配する三大勢力のことはもちろん知っているね?。」
「はい。世界武術連盟と世界魔導協会、そして次世代文明管理会です。」
ククリはゆっくりと煙を吐き出しながら頷いた。
「ではそれぞれがどういう組織かも知っているかい?」
「もちろんです。先生に教えてもらいましたから。」
「そうだな。ジョシュ君はどうだ?」
「う、うーん、そうっすねえ。知っているような、いないような。
どっちとも言えないっすね。」
レインは大きくため息をついた。
「そういうのを知らないっていうのよ。今までに何度も説明してあげたのに・・・。」
「ははは、よし!いいだろう。ジョシュ君の為に分かりやすく教えてあげよう。」
「なるべく噛み砕いてお願いします。」
「もう、まったくジョシュったら・・・。」
灰皿にポンと灰を落とし、新しいに草に火をつけてククリは口を開いた。
「まずは世界武術連盟についてだ。
この組織は三つの中で一番歴史が古いんだが、きちんと組織としてまとまったのは実は最近のことでね。
それまでも世界武術連盟というのはもちろん存在していたんだが、ほら、武術と一口に言っても様々なものがあるだろう。
体術に剣術、槍術に弓術、細かいものまで含めると、かなりの数にのぼるだろうね。」
「そうっすね、体術一つ取ったって、手技主体のものから足技主体のもの、投げ技や関節技に重点を置くものだってありますからね。」
「そうだね。だから以前の武術連盟というのは、あくまで武の道を志す者達がただ寄り集まって出来たものにすぎなかったんだ。
だから当然内部で大小の揉め事は数え切れないほどあったみたいだし、場合によっては敵対する流派の師範を暗殺したりと、まあかなり大変だったみたいだね。
皆が皆、自分の武術や流派こそ最強と信じ、敵対するものには容赦しなかったみたいだよ。」
「武術をやる人間ってのは、強いってことに異常にこだわりを持ったりしますからね。」
「そうだね。ようするに、世界武術連盟というのは組織としては烏合の衆といわれても仕方のない状態だったんだよ。
しかしだ、今から二十年前、ある一人の男が世界武術連盟の頂点に立つことになった。
その男の剣技は凄まじくてね。
自分に戦いを挑んで来る武術家達をみんな斬り伏せてしまったんだよ。
最強を自負する武術家達が何人も挑んだみたいだけど、勝つどころか触れることすら出来ずにあっさりやられてしまったという。
武術連盟に、彼に勝てる武術家は誰一人としていなかったんだ。
初めの頃は彼は周りからとても恐れられていたみたいだよ。
でもね、やがて若い武術家達がその強さに憧れを抱くようになった。
そして彼の元には大勢の若者が弟子入りを志願しにやって来たんだ。」
「そりゃあそうですよ。そんな強い剣士なら俺だって弟子入りしたいっすもん。」
「そうか、なら後で頼んでみるといいよ。」
「?」
笑いながら煙を吐き出し、ククリは先を続けた。
「その剣士は弟子入りを志願してきた若者の中から、特に才能のありそうな者だけを弟子に取り、剣技だけでなく肉体的にも精神的にもみっちり鍛え上げていったんだ。
もちろんオーラの習得にも力を入れた。
彼は剣技だけでなく、弟子を育てるのも上手かったみたいでね、やがて彼と選り抜きの弟子達だけで作られた剣聖会というグループが誕生した。
剣聖会の力は武術連盟内において絶対的なものとなり、武術的にも権力的に逆らえる者はいなくなったんだ。」
「へえー、すごいっすねえ・・・ん?あれ?剣聖会?
ってことはそのグループのリーダーってもしかして・・・さっき俺が怪我を治した・・・、」
「そうさ。さっき君が怪我を治してあげたあの男、剣聖フレイのことだよ。」
「・・・マ、マジっすかあーッ!」
「マジもマジ。大マジだよ。」
ククリは一旦話を休み、深く煙管をふかして上を向いた。
「こ、これは・・・、ますます挨拶をしに行った方がいいんじゃ・・・。」
「・・・ジョシュ。」
「じょ、冗談だよ。そんな怖い声出すなよ。」
「ははは、まあとにかく、彼は武術連盟において絶対的な存在となった。
そしてほとんど独裁状態で組織の運営を仕切っていって、世界武術連盟は組織としてだんだんと力をつけていき、やがて他の勢力に並ぶ存在となったわけさ。」
「へえー、なるほどねえ。」
「へえーって、ちゃんと理解したの?」
「う、うん。まあだいたいね、はは・・・。」
「もう、いつもそんな調子なんだから。」
「要するに、最初はバラバラだったけど、剣聖フレイの登場で強力な組織になったってことさ。
さて、武術連盟に関してはこれくらいかな。」
「随分あっさりしてるんすね。」
「うん、武術連盟っていうのは歴史は古いけれど、特にこれといって歴史に残るようなことをしたわけじゃないんだ。フレイ毛剣聖が登場するまではね。
次は世界魔導協会について説明しようと思うんだけど、これはレインが教えてあげたらどうかな?」
「えー、レインにっすかあ・・・。」
明らかに不満そうな声を出すジョシュにレインは頬を膨らませた。
「はいはい、どうせ私の説明は説教くさいから嫌だっていうんでしょ。」
「お!よく分かってんじゃん。」
「もう!さっきからジョシュは!本当に怒るわよ。」
「もう怒ってんじゃん。」
「まあまあ、じゃあ引き続き僕が説明するよ。」
煙管をコンと灰皿に叩いて燃えきった草を落とし、三つめの草をふかしながらククリは説明を始めた。
「世界魔導協会は武術連盟に次いで古い歴史を持つ組織でね。
ここは武術連盟とは違って初めからきちんと組織として統一されていたんだよ。
現魔導協会会長、シーター大魔導士の曾祖父にあたる人が設立したんだけど、この組織の設立目的は三つある。
一つ、魔法や呪術、神霊術といった強大な力の拡散の防止。
二つ、組織系統がバラバラだった魔術関連の組織の統一化。
三つ、古代魔法の文献の解明、保護、管理。
これら三つを目的として創られたんだ。
ただ寄り集まって出来た武術連盟と違って、魔導協会は最初から設立目的がはっきりとしていたんだよ。
だから多少の反対はあったみたいだけど、それでもほとんど問題なく組織は設立されて、その後もこれといった問題もなく三つの目的の為に運営されていった。
それに当時の会長であるメ―ジエ大魔導士が、実力的にも人間的にも多くの魔導士達に支持されていたというのも大きな理由だけどね。」
「大丈夫ジョシュ?ついてきてる?」
「ちょ、今話しかけないで。必死に整理してんだから。」
「まあまあ、そんなに気張らないでリラックスして聞いた方がいいよ。
そして月日が流れて、当時の会長のメージエ大魔導士は息子のエリーギ魔導士に会長の座を譲ったんだ。
メ―ジエ大魔導士はかなり高齢になっていたからね。
ついでに大魔導士の称号もエリーギ魔導士に譲り、それから二年後に亡くなったよ。
息子のエリーギ魔導士は父ほど優秀な人ではなかったけど、周りのサポートもあって特に大きなトラブルもなく仕事をこなしていったんだ。
そのおかげで魔法や呪術の拡散の防止、魔術系組織の統一化という二つの目的は達成され、維持されていた。
しかし残る一つの目的がなかなか達成できなくてね。
古代魔法の文献の収集にはかなり苦労したんだ。
いったいどれだけの数があるのか、そもそもそれがどこにあるのかがほとんど分かっていなかったからね。
だから古代文献の収集チームを結成して、長い時間をかけて地道に集め続けたんだよ。
時には武術連盟の力も借りたりしてね。」
「武術連盟っすか?でもこの二つは敵対してるんじゃ・・・?」
「いやいや、この二つの組織が対立したのはフレイ剣聖が武術連盟の会長になってからだよ。
それまではお互いに干渉し合うことはほとんどなかったんだ。」
「へえー、でもどうして武術連盟の力を?」
「それはね、古代魔法の文献ってのは結構危ない場所にあったりしてね、ウヨウヨ化け物が出る長い長い地下道の奥とか、伝説の巨大怪鳥が住処にしている山奥とかね。
そんな場所に行くのなら戦力は多いほうがいいだろう。
それに武術家が戦うことに専念してくれるなら、魔導士は捜索や収集に集中出来るからね。
もちろんボディーガード代として、それなりのお金は払ったみたいだけど。」
「うーん、なんかセコイ感じっすねえ、武術連盟は。」
「そんなことはないよ。
仕事を依頼するんだからそれなりの対価を払うのは当然さ。」
三つめの草を吸い終え、四つ目の草に火を点けようとするククリだったが、レインがその草を取り上げてしまった。
「吸い過ぎですよ先生。いつも奥さんに注意されていたでしょう?」
「いやいや、僕は魔導士だからさ、汚れた肺も魔法でパパっと綺麗に・・・、」
「そういう考え方がダメなんです!まったくもう。」
バツが悪そうに苦笑いしながら、ククリは誤魔化すように咳払いをして続きを説明した。
「えーと、それでね、文献の収集は大変ではあったんだけど、地道に頑張って少しずつ集めていったんだ。
ただ問題は集めた文献の解明でね、これは全く進まなかった。
本に記してあるのは古代文字だから、まずそこから解明しなきゃいけないわけだったんだけど、これも一苦労でね。
そして古代文字が分かっても、古代魔法っていうのは今とはまったく技術体系が違っていたんだよ。
ちっとも古代魔法の解明が進まないまま月日が流れ、二代目の会長であったエリーギ大魔導士も高齢の為に引退。
次の会長は誰にしようかってなった時、その息子であるシーター大魔導士が推薦されてね、引き続き古代魔法の解明に力を注ぐことになったんだ。」
「ああ、なんかちょっと・・・、整理のスピードが追いつかなくなってきた。」
「ははは、まあ要するに三つの目的の二つは達成出来たんだけど、残りの一つがなかなか進まなかったってことさ。
けどね、次に会長に就任した現会長のシーター大魔導士は天才と呼ばれていた人でね。
難航していた古代魔法の解明に一気に近づくことになるんだ。
そしてそれからしばらくして、シーター大魔導士は一人の弟子を取ることになる。」
「マリオン魔導大師ですね。」
レインの言葉にククリは頷いた。
「そう、天才と呼ばれていたシーター大魔導士だけど、彼が弟子を取ったのはマリオン魔導大師ただ一人なんだ。
彼女はシーター大魔導士に劣らぬくらいの才能の持ち主でね、彼に師事したことでどんどんその才能を開花させていったんだよ。
そして誰もが認める一流の魔導士になった頃、師匠の仕事を手伝うようになるんだけど・・・。」
ククリはそこで少し言い淀み、手の中の煙管をもてあそんだ。
「・・・この二人の才能のおかげで、古代魔法の一部の解明に成功することになる。
なるんだけど・・・・・その力は想像を絶するものでね。
こんなものを全て現代に蘇らせたら、それこそ世界は滅ぶんじゃないかという代物だった。
だからこんな物はあってはいけないということで、シーター大魔導士と魔導協会の大勢の魔導士達はもう一度これを封印し、二度と蘇らせてはいけないと決めたんだ。
ついでに古代魔法の文献も誰の目も触れない所に厳重に保管しようということにしたんだけど・・・・・、」
「さっきからどうしたんですか?先生がそんなに言い淀むなんて。」
ククリは眉根を寄せて厳しい顔になると、レインに向き直って言った。
「これから言うことは、君も知らないことだ。多分、魔導協会に対する印象が百八十度変わってしまうよ。」
ジョシュとレインは心の中で顔を見合わせ、真剣な顔でククリの話を聞いた。
「シーター大魔導士と魔導協会の幹部達がいざ古代魔法の封印をしようとすると、それに強く反対する者がいたんだ。」
「反対する者?いったい誰なんですか?」
レインが首を傾げて尋ねた。
「マリオン魔導大師さ。」
「え?どうしてですか?マリオン大師はシーター魔導士の唯一人の弟子なんですよね?
普通なら賛成すると思うんですが・・・?」
「そうさ、普通ならね。しかし、あの人は普通じゃなかったんだよ。
僕は彼女の弟子として、ずっとマリオンという人を間近で見てきた。
あの人は表面上はいい人を演じているけど、その裏側には何か得体の知れない恐ろしいものを感じていたよ。
分かりやすくいうとね、マリオン大師は蘇らせた古代魔法の力を自分だけのものにしたかったんだ。
ここで魔導協会内で二つの派閥が出来る。
古代魔法を封印しようとするシーター魔導士派と、その力を自分達の物にしようとするマリオン大師派にね。
そしてある時、マリオン大師が自分の師匠であるシーター魔導士に強力な呪術をかけたんだ。
それがきっかけでマリオン派の魔導士達はどんどん強硬な手段を用いてシーター魔導士側の人間を抹殺していったんだ。」
「そ、そんな・・・。抹殺って・・・、殺したってことですか?」
「ああ、そうさ。しかもだ、魔導士達だけじゃなくて、その家族も見せしめとして殺された。
頼みのシーター魔導士は呪術をかけられて瀕死の状態、残ったシーター派の魔導士達も家族もろとも殺されていく。
誰も彼女達に逆らえなって、ある者は魔導協会を去り、ある者は別の組織に身を移し、またある者は服従するふりをして反撃の機会を狙っているわけさ。
もちろんこの事実は公にはされていない。」
「そんな・・・・・。」
「なんかすげえ話だな。ちょっとフレイ剣聖と似てるかも。」
手にしていた煙管を机の上に放ると、ククリは背もたれに身体を預けた。
「フレイ剣聖はね、マリオン大師とは正反対の人間だよ。
確かに彼は強引に武術連盟を仕切っていたけど、そのおかげで烏合の衆だった組織は大きな勢力となるまでに成長したし、彼が手にかけたのはあくまで自分に刃を向けてくる者だけだった。
フレイ剣聖を・・・・・、」
そこでわずかに顔を歪め、ククリは唇を噛んで言った。
「フレイ剣聖をマリオンなんかと一緒にしちゃいけないよ。
マリオンを悪魔とするならば、フレイ剣聖は正義を貫こうとした誇り高き武人だよ。」
一瞬三人の間に沈黙が流れた。
レインは静かな目を向けてククリに尋ねた。
「先生、私が聞きたいのはそれなんです。
フレイ剣聖は魔導協会にとっては憎むべき敵のはずですよね?
なのに先生の話を聞いていると、まるでマリオン大師が悪者で、フレイ剣聖が正義の味方のように感じます。
それになぜ彼がここいるのかも分からないし・・・。お願いです先生、詳しく説明して下さい。」
「ああ、わかっているよ。」
ククリは背もたれに預けていた体を起こして座り直した。
「いいかい、レイン。一つヒントをあげよう。
フレイ剣聖が武術連盟の会長に就任した時、魔導協会はすでに古代魔法の一部を復活させることに成功していたんだ。
いったいこれが何を意味するのか、頭の良い君なら分かるはずだよ。」
ククリはわずかに身を乗り出してレインに顔を向けていた。
「フレイ剣聖が会長になった時、古代魔法の一部は復活していた・・・・・。
それって世間の認識とは逆ですよね。
フレイ剣聖とその門弟達に攻撃を受けて、それを撃退するのに古代魔法の解明を急いでいた。
そしてマリオン大師が復活させた古代魔法で撃退したっていうことになっているはずですけど・・・。」
口に手を当てて考え込んでいるレインに、ククリは二つの目のヒントを出した。
「さっき僕が言ったことを覚えているかい?
マリオンは悪魔、フレイ剣聖は誇り高き武人だと・・・・・。」
「・・・ッ!もしかして・・・?で、でもそんな・・・・・。」
「おい、どうしたんだよ。俺には何がなんだか分かんねえぞ。
一人で納得してないで教えてくれよ。」
レインは力が抜けたように俯いてしまった。
「私だって全て理解したわけじゃないわ。分からないこともたくさんある。
けど、少なくともフレイ剣聖は世間で思われているのとは全く逆の人ってことだわ・・・。」
「そうだよ。彼がいなければ世界大戦の勃発よりも大変なことが起こっていたんだ。
あのマリオン魔導大師のせいでね。」
レインはグッと唇を噛んだ。
「私・・・とんでもない誤解をしていたのね・・・。
え?じゃあもしかして先生の家族を殺したのは剣聖じゃないってこと?」
ククリは机に両肘をつき、拳を頭につけて目を閉じた。
「ああ、彼は僕の家族を殺すどころか、守ろうとしてくれたんだ。
そして・・・彼がいなければ僕はあの時家族とともに死んでいたよ・・・。」
「そんな・・・・・、そんなことって・・・・・。」
言葉を失くす二人に、ジョシュは苛立ちを覚えていた。
「おいおい、だからなんだってんだよ!二人で納得してないで俺にも教えてくれよ!」
ククリは顔を上げ、レインの中のジョシュを見つめるようにして言った。
「それを言う前に、まだ君には説明していないことが残っているからね。
先にそれを言おう。」
「?・・・何すか、まだ説明してないことって?」
レインは頭をおさえて大きなため息をついた。
「ジョシュ、そもそも先生は何の説明をしてくれていたんだっけ?」
「んー、ああ!三大勢力についてだ。」
「そうよ、ならまだ一つ残っているでしょう。」
ククリは可笑しそうに笑い、レインとジョシュを見つめた。
「ほんとうに君たちは良い兄妹、もとい良いコンビだよ。」

               *

口寂しそうに煙管をもてあそぶククリを見て、レインは取り上げた草を手渡した。
「これが最後ですよ。」
喜々としてそれを受け取ると、火を点けて美味そうに煙を吸ってからククリは口を開いた。
「さて、次世代文明管理会についてだけど、これは元々は科学者の寄り集まりでしかなかたったんだ。
でも今は大勢の元魔導士達がこの組織に属しているんだよ。
大昔は魔法がこの世界の文明の基盤だったんだけど、その時の世界は一度滅んでしまったというのは知っているかい?」
「ええ、それくらいは知ってますよ。古代魔法の暴走が起きて旧世界はなくなったんすよね?」
「ああ、その通りだ。今よりも随分進んだ文明を持っていたそうだけど、あまりに強力すぎる魔法文明を扱いきれなくなって滅んでしまったんだ。
まあ滅んだっていうのは文明のことで、人間が全ていなくなってしまったわけじゃないんだけどね。
そして「これは魔法を文明の基盤にするのは危険だぞ」ってことになって、当時の魔導士達は古代魔法を全て封印してしまったんだよ。
ただ魔法っていうのは人類の英知の結晶でもあるから、文献だけは残したんだけどね。」
ククリは忙しなく行き交う科学者や魔導士達に目を向けた。
「科学というのは、旧世界でも存在していたんだよ。
ただ当時の主流は魔法だったから、科学者というのは異端児扱いされていたみたいだけど。
でもね、魔法を文明の基盤に使えなくなって、じゃあ次は何を持ってこようかとなった時に科学しかなかったんだ。
魔法に比べて制約も多いし、何をするにも大がかりな装置が必要になる科学だけど、扱いやすさや安全性という意味では古代魔法より優れていたからね。
それに何より、科学は研究すればするほど大きな可能性を秘めていることが分かったんだ。
だから大きな期待を寄せられていたんだけど、文明として定着するにはとても長い時間がかかってしまったんだ。」
「何でですか?」
「当時の科学者達はね、次世代の文明基盤に科学が選ばれたことをとても喜んだんだ。
しかしどんな組織でもそうだけど、外から大きな力を持った存在が入ってくるのは嫌うものさ。
魔導士が自分達の知恵や技術を提供しようとしたんだけど、科学者達はそれを拒否した。
あくまで自分達の力だけでやると言ってね。
だから科学が人々の生活に広がるまでには時間がかかってしまったんだ。」
「なんか意地っ張りっすね。」
煙を吐き出すと、ククリは笑った。
「そんなもんさ、組織なんていうのはね。
けど魔導士達も、魔法の為に世界を滅ぼしてしまったという苦い経験があるから偉そうに口を出すことは出来なかった。
やがて時代が流れ、科学もそれなりに発達して力を持つようになった頃、次世代科学文明会と名乗っていたその組織に鞍替えする魔導士達が現れたんだ。
元々魔導士と科学者っていうのは似た者同士でね。どちらも知的好奇心の塊といってもいいんだ。
だんだんと可能性を広げる科学に対して、大きな魅力を感じる魔導士はたくさんいたのさ。」
「でも、それはけっこう最近のことなんですよね。」
レインの言葉にククリは大きく頷いた。
「そうさ。分かりやすく言うと、シーター大魔導士とマリオン大師が古代魔法の復活に成功したあたりからだね。
危険だからと古代魔法を蘇らせることに反発する魔導士もいてね、かといって自分の知的探究心は抑えられない。
それにマリオン大師が力を持ち始めた頃から、彼女のやり方に疑問を持つ者も現れ始めた。
そういう魔導士達が大量に科学の方に流れていったんだ。
そして科学者達もそれなりに力を持ち始めていたから、外からの力を取り入れることに興味を持っていた。
科学者と魔導士が手を組み、新しい文明世界を切り開こうとしたんだ。
その時に名称も次世代文明管理会と変えて、新たな組織として出発したのさ。」
「うーん、なるほどねえ・・・。」
「なるほどって本当に理解したの?」
「うん、まあ多分ね。」
「絶対理解してないわね・・・。」
「ははは、まあ細かいとこはともかく、大雑把にでも覚えておけばいいよ。」
ククリは煙管の火を消し、うんと背伸びして立ち上がると辺りを見回した。
「もうじき準備が整いそうだね。」
レインも立ち上がり、透明な円柱の装置を見つめた。
「先生、まだまだ聞きたいことが、というより先生の話を聞いてますますわけがわからなくなってしまいまいした。
フレイ剣聖のこと、マリオン大師のこと、そして先生の家族のことも・・・。」
ククリはその言葉には答えず、円柱の装置の方へと歩いて行く。
「うん、でもね、やっぱり用が済んでから全てを説明しようと思う。
もう準備も終わったみたいだし、その方が君達も・・・ね?」
ククリの訴えるような目に、レインは頷いた。
「はい、でも後で必ず説明して下さい。」
「ああ、約束する。ところでさ、レイン。
君はどうしてもっと早く僕を頼ってくれなかったんだい?
僕は君の師匠だよ。君達の問題だって、もっと早く相談してくれていれば・・・。」
レインは俯き、後ろめたそうに黙ってしまった。
「ごめんなさい・・・。実はこんな状態になっちゃったのは・・・私が・・・。」
「レイン・・・?」
黙ったまま俯いて顔を上げないレインを、ククリは心配そうに見つめた。
「ま、ま、いいじゃないすか!
今大事なのは、俺達のこの状態をどうにかすることでしょ?
その為にここへ来たんだから。」
しばらくレインを見つめていたククリだが、彼女の肩に手を置いて言った。
「そうだな。ジョシュ君の言う通り、今は君達にかけられた封魂の術を解くのが先だ。」
「・・・・・はい。」
一人の魔導士がククリの元へやって来て、準備が整ったと伝えていった。
「よし!それでは二人とも、心の準備ができたらあの円柱の中へ入ってくれ。」
レインとジョシュは心の中で顔を見合せて頷き、円柱の装置の中へと入って行った。
 

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