マーシャル・アクター 第三話 マーシャル・スーツ

  • 2014.01.11 Saturday
  • 20:54
〜『マーシャル・スーツ』〜

大きな円柱の装置の中に入ったレインとジョシュは、床と天井に描かれている魔法陣をじっと眺めた。
「すごく巨大な魔導装置ね。科学の力もだいぶん使っているみたいだけど。」
「詳しいことはよくわかんねえけど、すごい装置だってのは俺にも分かるぜ。」
科学者や魔導士と打ち合わせをしていたククリが二人の前までやって来た。
「どうだい?こうやってお互いの姿を見るのは久しぶりだろう。」
円柱の中のジョシュとレインは、それぞれが肉体を持った状態で二人の人間に分かれていた。
「そうだな、三年ぶりくらいか?」
「うん、なんか久しぶりだからこうやって向かい合うと照れるね。」
二人は照れくさそうに笑い合っていた。
「さて、君達のお父さんが造ったあの機械人形だけど、すごい代物だね。
よく一人でこんな物を造りあげたよ。」
円柱から離れたところにある人間大のカプセルに、機械と魔法の力で造られた人形が寝かされていた。
表面はエナメルのような質感の金属皮膚で覆われており、顔は目を閉じたまま能面のように無表情であった。
そしてその機械人形を何人もの科学者や魔導士が興味深そうに見つめ、話し込んでいた。
「詳しい構造はこれから調べてみないと分からないけど、僕達が造った機械人形もなかなかの出来だよ。
今君達が使っている肉体はその魔法陣の円柱の中でしか使えない非常用でね。
けどすぐに君達の魂を機械人形に移してあげるからね。少しその場で辛抱していてくれ。」
それだけ言うと、ククリは足早に奥にある扉を開けて別の部屋へ行ってしまった。
「ふう、ようやく自分の肉体が持てるんだな。」
ジョシュは腰を下ろしてしみじみと天井を見上げた。
「・・・ごめんね。・・・私のせいで・・・。」
「それは言わない約束だろ。お前があの時俺の魂を機械人形に入れてくれなかったら、俺も今頃父さんと同じ場所にいるさ。」
「・・・・・・。」
「そんな顔すんなよ、お前は俺の命の恩人なんだぜ。」
ジョシュは立ち上がって、レインの頭をクシャクシャっと撫でた。
レインはその手を握り、コンとおでこをジョシュの肩に寄せた。
「立ってると疲れるぜ、座ろう。」
レインは手を握ったまま、ジョシュに寄り添うようにその場に座った。
「父さんは、多分死んでる。」
「・・・・・うん。」
ジョシュは忙しそうに行き交う科学者や魔導士を眺めながら、昔を思い出していた。
「あの時、普段と同じように俺とレイン、父さんで晩飯食ってたらさ、武装した集団が突然襲ってきて、父さんは俺達を守りながら地下室に逃げ込んでさ・・・。」
「・・・・・・。」
「あの時の父さんの顔は忘れないよ。本当に切羽詰まった顔してた。
いつも堂々としてて、自信に溢れてて、隙なんて見せたことのなかった父さんが必死の形相して・・・。
お前だけ封魂の術かけて機械人形に入れてさ、多分父さんは俺のことを・・・、」
「違うッ!父さんはジョシュのこともちゃんと愛してたッ!
父さんがジョシュに厳しくあたったのはそれだけ愛してたから・・・。
強くなってほしかったのよ・・・ジョシュに・・・。」
ジョシュは握ったレインの手を見ていた。
「俺はガキの頃はどうしようもない弱虫だったからな。
武術連盟に行かされたのも、そんな俺の性根を鍛え直す為だったのかもな。」
レインは握りしめた手に強く力を込めてジョシュを見た。
「父さんはあの機械人形を動かすには強い魔力がいるって言ってた。
だからとっさに私をあの中に封じ込めたのよ。私なら機械人形を動かせると思って。
ジョシュのことは、きっと自分が死んでも守り抜くつもりだったのよ。絶対そうよ。」
ジョシュはレインの目を見つめ返した。
「地下室まで追いかけて来たあいつらは、きっと私達全員を殺すつもりなんだって思った。
だから、私はとっさにはジョシュの魂を・・・。
封魂の術を重ねがけするのは禁忌だってわかってたけど・・・。」
レインは申し訳なさそうに顔を伏せる。
「でも、そのせいでジョシュの体は・・・・・。」
「はは、何言ってんだよ。肉体が消滅したのはお互い様だろ。
あの時父さんが俺達の魂が入った機械人形を強制的に脱出させて、そんで俺達は生き延びたんだ。
多分父さんはもう生きてはいないだろうけど・・・、でもあの時父さん言っただろ。
生き延びろって。だからさ、俺達にとって大事なのはこれからも生き延びることさ。
それぞれの肉体を得てな。」
ジョシュは笑いかけるように言った。
「うん、そうだね。これからも、私達ずっと一緒だよね・・・。」
「当たり前だろ、俺達は家族なんだから。」
レインは嬉しそう微笑んだが、その顔にはわずかに悲しみが含まれていた。
しかしジョシュはそのことに気づかず、円柱の外に目をやった。
「やあ、お待たせ。これが僕達が造り上げた機械人形さ。」
ククリと数人の魔導士が大きなカプセルに入った機械人形を運んで来た。
「すげえ!俺達が入ってたのとは少し違うけど。」
「先生すごい!よくこんなものを造りましたね。」
ククリが持って来た機械人形は、レイン達が入っていたものよりも機械的な造りだった。
しかしその分頑丈そうな造りで、女性的だったジョシュ達のものよりもっとゴツゴツとした男性的なデザインだった。
「言っておくけど、これは僕一人で造り上げたんじゃないよ。
たくさんの魔導士や科学者の力があってこそのものさ。
特に次世代文明管理会の力が大きいね。」
「次世代文明管理会が・・・。」
二人は顔を見合わせた。
「そうさ、魔導協会の一部の魔導士達と、次世代文明管理会の一大合同作だよ。
こいつの出来は素晴らしい。」
ククリはどうだと言わんばかりに機械人形を自慢する。
「なるほど、それで科学者達が大勢いるんですね。でもなぜこんなものを造って・・・?」
笑顔だったククリが真剣な顔になって二人を見つめる。
「君から手紙をもらったとき、これは運命だと感じたよ。
一つの肉体に二つの魂。そんな状態は長くはもたないからね。
いずれどちらかが死ぬことになる。
そして君の手紙の内容を見た限り、その機械人形はレインの為に造られたものだと確信したよ。君もそのことは感じていたはずだ。」
「・・・・・・はい。」
「だから僕を頼って来た。どうにかならないかとね。
君のお父さんは元魔導協会の人間で、マリオンのやり方に疑問を感じて次世代文明管理会に身を移した人間だ。」
「父さんが魔導協会から次世代文明管理会へ移ったことは知っていたけど、まさかそんな理由があったなんて・・・。」
「実は当時から機械人形の開発は進められていたんだよ。
君達のお父さんがその中心人物だった。
開発理由はただ一つ、古代魔法に対抗しうる存在を生み出すこと。
もっと言えば、あのマリオンの野望を打ち砕くためだ。」
「マリオン大師の野望・・・?」
ククリは強く頷いた。
「まあこれは後で詳しく話すけど、まさか次世代文明管理会を辞めた彼が一人で機械人形の開発を進めていたとは知らなかった。
そしてここにも僕達が造り上げた機械人形がある。
ちょうど二体、君達の魂が一つずつ入る。これを運命といわずして何と言う?
僕達はこの機械人形をマーシャル・スーツと名付けた。
開発者の子供達、僕の愛弟子、みんなこのマーシャル・スーツで結ばれているんだ。」
「マーシャル・スーツ・・・。」
《戦う為の衣装》という言葉は、この機械人形にピッタリであると二人は感じていた。
「さて、これから二体の機械人形に君達の魂を移すわけだけど、機械人形の細かい調整だの、君達の魂との適応性の検査だのとちょっと時間がかかる。
申し訳ないけど、もうしばらくそこで我慢していてくれ。」
そう言ってククリはマーシャル・スーツを別の部屋へと運んでいった。
ジョシュはまた床に腰を下ろし、両手をついて上を見上げた。
「なんかすげえことになってきたな・・・。」
「うん、自分達の体が手に入ることは嬉しいけど、でもなんだかそれだけじゃ終わりそうにない雰囲気だよね・・・。」
ククリはあのマーシャル・スーツという機械人形で、何かをしようとしている。
そう思う二人であったが、口に出さずしばらくじっと座りこんでいた。
「ちょ、ちょっとちょっと、まだ動いちゃダメですよッ!
安静にしていないとまた傷が・・・、」
部屋の入り口から叫ぶような声が聞こえて来た。
「うるさいッ!この程度の怪我はなんでもないッ!
どいつもこいつも大袈裟に喚きやがって!」
その言葉とともに部屋に入ってきたのは、ジョシュが助けたあのフレイ剣聖だった。
「おい、何があったッ!」
別の部屋からククリがとんできた。
「ふんッ!随分大袈裟な部屋だな。気の小さい魔導士や科学者どもは、すぐにこういう物を作って安心したがる。」
悪態をつくフレイに、ククリが苦い顔をしてみせた。
「フレイ剣聖・・・、また勝手に街に出て・・・、
建物の中で大人しくしておいて下さいと言ったでしょう。」
やれやれという感じでククリが言うと、フレイはフンと鼻を鳴らした。
「こんな退屈な場所でじっとしていられるかッ!」
「何を言ってるんですか。今日も勝手に街へ抜け出したが為にうちの下級魔導士達と揉め事をおこして・・・。彼らはあなたが誰か知らないんですよ。」
「あいつらが因縁をつけてきたんだ。売られた喧嘩を買って何が悪い!」
「何が悪いって・・・、いいですか、今のあなたはかなり疲弊していていつもの力は・・・。」
「おう!それだけどな、俺を助けたあの小僧。あいつの活泉の気のおかげでオーラの歪みがなくなったぞ。
これでグエンの野郎に受けたダメージはほとんどなくなった。
やはり体を癒すには武術家のオーラが一番だ。」
豪快に笑うフレイに、ククリは苦笑いを返した。
「まったくあなたという人は・・・。
そんなに彼のことが気にいったならあそこにいますから。
怪我を治してもらったお礼でも言ってきたらどうですか?」
ククリの指差す方を見て、「おお!」と声を上げてフレイは厳しい表情を崩した。
そして堂々とした足取りでジョシュの方へと近づいて行く。
「あ、そうそう。」
ククリに呼び止められ、フレイは足を止めて振り返った。
「あの青年、ジョシュ君というんですが、あなたの弟子になりたいと言っていましたよ。
まあ本気か冗談かは知りませんが。」
「・・・・・ほう。」
口の端をわずかに持ち上げて笑い、フレイは足早にジョシュの方に歩み寄った。
そして円柱の装置に手をついて顔を寄せると、まじまじとジョシュを見た。
鋭い眼光に思わずジョシュは立ち上がり、緊張した面持ちでフレイを見つめた。
「ふむ、なかなか鍛え上げた体をしているな。それに俺を助けた時もいい動きをしていた。
まあどちらも歳の割にはだが。」
フレイはジョシュの顔に目を移し、顎に手を当ててじっと見据えた。
「あ、あの・・・。」
ジョシュが何か言いかけると、フレイは嬉しそうな顔をして話しかけてきた。
「おい小僧ッ!」
「は、はい・・・。」
「お前、俺の弟子になりたいんだって?」
「え、ああ、はい。俺も剣士のはしくれですから。
やっぱすげえ強い剣士がいるってんなら、教えを乞いたいかなあって。」
何も言わずにじっとジョシュを見据えるフレイだったが、急に笑い出すとククリの方を振り返った。
「おい、これはどうやって中に入るんだ?」
「・・・はい?」
「はい?じゃねえよ。どこから入るんだって聞いてんだ?
さっさと言わねえとぶっ壊して中に入るぞ。」
そう言ってフレイは拳を握って振り上げた。
「ちょ、ちょっとちょっと、何やってんですかッ!」
慌てて止めに入るククリの頭に手を置き、ニヤっと顔を近づけるフレイ。
「ど・こ・か・ら・入るんだ?」
やれやれとを諦めた顔になって、ククリは頭を掻いた。
「反対側の下を支えている機械部分から入れますよ・・・。」
「そうか。」
満足そうに入り口へ向かうフレイは、近くを通りかかった魔導士をつかまえた。
「おいお前、俺の部屋に木剣があるから二本持って来い。すぐにだぞ。」
「え、わ、私ですか・・・。」
「お前に喋りかけてんだよ。さっさと持ってこい。」
「いや、でも今は準備で忙しい・・・、」
「うるさいッ!グダグダ言ってねえでさっさと行ってこいッ!」
物凄い剣幕で怒鳴られ、魔導士は慌てて木剣を取りに行った。
ククリはジョシュの方を見てやれやれと肩を竦める。
「ジョシュ君さ、悪いんだけど準備が出来るまで剣聖に付き合ってあげてよ。」
「あ、はあ・・・・・。」
「剣聖、あまり無茶はしないで下さいよ。」
「さあ、どうだかな。」
フレイは教えられた場所から円柱の装置の中に入ってきた。
「ジョシュ君。まあ死ぬことはないと思うから。
世界最強の武術家の技に触れられるのはある意味幸運だし、その、なんだ、頑張って。」
そう言い残してククリは去って行った。
フレイは装置の中をじっと見回し、どかっと床に腰を下ろした。
「ふんッ!こんなもんに頼らんと何も出来んとは・・・。
やはり俺は魔法だの科学だのは好きになれんな。」
何物にも物怖じしない態度に、ジョシュとレインは呆気にとられて固まっていた。
「なあ、小僧。お前もそう思うだろ?」
「ん、いや、これがないと俺達困るんですけどねえ、はは。」
「・・・・・・俺の怪我を治してくれた礼は言っておく。
ただ余計な手助けをしたことは許せんな。あの程度の連中、グエンに受けたダメージがなければ相手にもならなかったんだ。それをいらぬ邪魔をしおって・・・。」
「ちょっと待って下さい!」
無礼な物言いにレインが食ってかかった。
「あのまま放っておけばあなたはもっと酷い目に遭っていました。
それを助けたのはジョシュですよ。
なのにその態度は何ですか?感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いなんて・・・、」
「おいおい、落ち着けよ。」
ジョシュが慌ててなだめに入った。
「気の強い女だな。おい小僧、お前のこれか?」
フレイが小指を立てた。
「いやいや、これは俺の双子の妹ですよ。」
「そうか、まだまだガキ臭いが、あと十年もすりゃあいい女になるだろうな。」
レインは腕を組んでそっぽを向いた。
「ガキ臭くてすいませんね!けど歳の割に子供っぽいあなたに言われたくありませんけど!」
「ははははは!言うじゃないか。おい小僧、こいつは本当にいい女になるそ。
悪い虫がつかんように、兄貴としてしっかり守ってやれよ。」
「余計な心配はいりません。悪い虫なんて自分で追っ払いますから!」
レインは口を尖らして睨んだ。
「はははははは!お前くらい気が強けりゃ悪い虫も寄って来んか。ははははは!」
レインの怒りが頂点に達した時、魔導士が木剣を持ってやって来た。
「はあ・・・はあ・・・、あのう、木剣をお持ちしまし・・・、」
「遅いぞこの野郎ッ!こんなもんくらいさっさ持って来い!」
「ひいいッ、すいません!」
魔導士は逃げるようにそそくさと去っていった。
「なんて乱暴で無神経な人・・・。」
ぷりぷりと怒るレインをなだめ、ジョシュはフレイに近寄った。
「あの、その木剣ってもしかして・・・。」
「おうよ!こいつを使って今からテストをするんだ。
俺の弟子になりたいんなら、それなりの力を見せてもらわんとな。」
そう言ってフレイは木剣を手渡した。
「なるほどね、実技試験すか。でもいいんですか?俺結構本気でやっちゃいますけど?」
挑発的に笑うジョシュの頭を、フレイは子供をあやすように撫でた。
「俺に一太刀でも入れてみな、坊っちゃん。」
フレイは手にしていた木剣を軽く振った。
凄まじい轟音とともに、叩きつけるような風圧がジョシュを襲った。
「さあ来い、小僧!」
剣を構えたフレイの迫力は圧倒的で、冷や汗が出てくるのを感じながらジョシュも剣を構えた。
 

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