マーシャル・アクター 第四話 剣聖フレイ

  • 2014.01.11 Saturday
  • 20:59
〜『剣聖フレイ』〜

ジョシュの額を冷や汗が落ちていく。
今ジョシュの目の前で剣を構えているのは世界最強の武術家であり、かつて武術連盟の頂点に立っていた男だ。
その体から放たれる圧倒的な闘気に、ジョシュは完全に飲み込まれていた。
〈なんて迫力だ・・・。足が前に出ねえ。
 それに隙があるようで無いし、どっから斬り込めばいいんだ・・・。〉
「何ビビってんだ?さっさと来い!」
〈見合っててもしゃあねえ、一か八か踏み込んでやるぜ!〉
ジョシュは剣を引いて腰を落とし、八相構えでフレイの懐に飛び込んだ。
間合いに入ると一気に剣を振り上げるジョシュだったが、剣を握った手には何の手ごたえもなかった。
「ッ!」
さっきまでフレイが立っていた場所には誰もいなかった。
背後に殺気を感じ、反射的に前へ転がるジョシュ。
それと同時に彼の頭上を木剣が駆けていった。
「ほう、よくかわしたな。しかし今のは挨拶みたいなもんだ。」
フレイは剣を下段に構えると、だらりと全身の力を抜いた。
そしてその体がまるで陽炎のように揺らめきだした。
「き、消えたッ!いや、違うッ!」
ジョシュは辺りの気配を探ったが、どこにもフレイの気を感じられなかった。
「ジョシュ!上よッ!」
レインが叫び、ジョシュは上を見上げた。
その時すでに木剣が目前まで迫って来ていて、ジョシュはしゃがみながら払い太刀をした。
着地したフレイから素早く離れ、体勢を整えるジョシュ。
「ふうー、危ねえ・・・。」
ジョシュの服の中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
「おいおい、情けないな。妹に助けてもらうなんて。」
その言葉にムッとして、ジョシュは唇を噛んだ。
「おいレイン!これは俺の戦いだ!手助けはいらねえ!」
「何よ!意地張って!せっかく助言したのに!」
「いいから黙って見てろッ!」
ジョシュは居合いの構えで素早く踏み込んだ。
横に斬ると見せかけて上から斬りかかるが、その動きを途中で変えて突きを繰り出した。
「見え見えのフェイントだな。」
フレイは剣先でジョシュの突きを止めた。
「なッ・・・!」
ジョシュはフレイの木剣を蹴り上げ、ガラ空きになった所へ袈裟がけに剣を振り下ろすがあっさりと手で払われてしまった。
「なんだこの腑抜けた打ち込みは?」
「そんな・・・、木剣とはいえ俺の全力の斬り込みを素手で払うなんて・・・。」
唖然とするジョシュの腹にフレイの蹴りがめり込む。
「ぐはあッ!」
後ろへ吹っ飛んでもんどりうつジョシュにフレイの突きが迫ってきた。
〈あの距離を一瞬で詰めた・・・ッ!〉
すんでのところでかわしたジョシュに、横薙ぎの二撃目が飛んできた。
「うおッ!」
なんとか屈んでかわしたが、次の瞬間にはジョシュの顎の下にフレイの木剣があった。
「うおおおおおッ!」
顔を横へ逸らしてなんとかかわしたが、続けざまに蹴りが飛んできて、「ガゴッ!」という音ともにジョシュの体が宙へ舞った。
「ぐはあ・・・ッ。」
鼻と口から血が飛び散る。
床に落ちたジョシュはふらつきながらも立ち上がり、なんとか剣を構えた。
「ほう、俺の蹴りを顔面に喰らって剣を手放さんとは・・・。
根性だけは及第点だな。しかし・・・。」
〈クソッ!また消えやがったッ!〉
ジョシュは辺りの気配を探ったが、やはりどこにも気を感じられない。
〈あいつは魔導士じゃない。何も本当に消えたわけじゃないんだ。
ただ、ただあいつの動きが掴めないだけなんだ・・・〉
一方的にやられるジョシュを、レインは不安げな顔で見ていた。
〈ジョシュったら・・・。意地張ってたらやられちゃうよ・・・
ずっと二人で何でも乗り越えてきたのに、どうして手伝わせてくれないの・・・〉
次の瞬間、ジョシュの右の脇腹に身体をえぐるような衝撃が走った。
「・・・・・・ッ!」
苦しさに声を出すことも出来ず、ただそれでも剣だけはしっかりと握っていた。
「これが真剣なら、今の突きでお前は死んでいたぞ。」
フレイが剣を構えて彼の横に立っている。
顔を歪めながらフレイに剣を向けるが、堪え切れずに膝をついてしまった。
「はあ・・・はあ・・・、クソ・・・ッ!」
「根性があるのだけは認めてやるがな、しかしそれだけでは俺の弟子にはなれん。
いいか、あともう一回だけチャンスをやる。
次にまともに攻撃をくらうようなら、試験は不合格ということだ。」
そう言ってフレイは剣を構え直した。
「ジョシュ!大丈夫!」
レインが心配そうに駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ・・・。」
「ねえ、どうして一人で戦おうとするの?私達はずっと一緒に色んな困難を乗り越えてきたのに。
私達は・・・、ほとんど一心同体みたいなものじゃない。どうして・・・。」
フレイはジョシュの前に歩み寄り、二人の間に剣を振り下ろした。
「お前、名はレインというのか?」
「そうよ。それがどうかした?」
レインはフレイを睨みつけた。
「この小僧の打ち込みの甘さはお前のせいだ。」
「・・・何を言ってるの?」
フレイは脇腹を押えるジョシュを睨みつけた。
「剣というのは心の甘さが全て技に出るものだ。お前には才能はあるが、その甘ったれた心が全てを台無しにしている。」
「何よ、ちょっと手合わせをしたくらいで分かったようなことを!私達兄妹は・・・・・、」
「やかましいッ!」
剣幕に怒鳴られてレインはビクッと身を竦めた。
「お前のその甘さがこの小僧を死に追いやるかもしれんのだ。
さっきも言ったが、これが実戦なら小僧はとうに死んでいるのだぞ。」
木剣をジョシュの顎に当て、グイっと持ち上げてフレイは言った。
「小僧、いい歳をこいて妹にべったりか?恥ずかしいと思わんのか?
貴様のような奴をシスコンというんだ、ははははは!。」
ジョシュはレインを押しのけて立ち上がった。
「んだとお・・・ッ。誰がシスコンだコラあああッ!」
振り下ろされるジョシュの剣を、フレイは素手で受け止めた。
「こんなヤワな剣は素手で十分だ。」
強く握ったフレイの手から、いくら引っ張ってもジョシュの木剣は抜けなかった。
「隙だらけだぞ。」
フレイの拳がジョシュの顔面を殴りつける。
「クッ、この野郎・・・。調子に乗りやがって!」
「兄貴のくせに妹に甘やかされるとは、こんな情けない剣士は見たことがないわ!
膝枕でもして頭でも撫でてもらったらどうだ?ははははは!」
ジョシュは恥ずかしさと悔しさで顔を赤くしながら体を震わせていた。
「本当のことを言っただけだろうが。何を怒っている?
ああ、そうか。本当のことだから怒っているんだな、こりゃ悪かったなあ。」
ジョシュは怒りの形相でフレイに飛びかかった。
木剣同士がぶつかる激しい音が響く。
「てめえッ!ふざけんじゃねえッ!」
弾丸の嵐のようなジョシュの打ち込みを、フレイは片手で捌いていった。
「うおおおおおおッ!」
ジョシュの打ち込みはより激しさを増していく。
「おお、いいぞ!さきほどの甘ったれた攻撃よりよっぽどいい!」
フレイも隙を見て反撃をするが、ジョシュは最小限の動きでそれをかわし、さらに鋭く斬りかかっていった。
「うむ、なかなかいい動きだ。」
大上段で斬りかかってきたジョシュの剣を受け止め、二人の間に激しい鍔迫り合いがおこる。
「クソッ!負けるかよおおおッ!」
渾身の力で押すが、フレイの体はビクともしない。
「どうした?もっと怒りをぶつけてこいッ!もっと闘志を出せ!殺気を込めろ!」
フレイの圧倒的なパワーに押し飛ばされたが、ジョシュはすぐに反撃に転じた。
「うおらああああッ!」
だんだんと威力と鋭さを増していく攻撃に、フレイは両手で木剣を握って応戦し始めた。
二人の間に目にもとまらぬ早さで剣が飛び交い、木剣がぶつかる激しい音が響く。
「おおおお!」
「こりゃすげえやッ!」
作業をしていた魔導士や科学者が手をとめて二人の戦いに見入った。
「いいか小僧ッ!お前のような若い剣士にまず必要なのは闘争心だ!
必ず相手を切り裂く!剣が折れても、両腕がなくなっても相手の喉笛を喰いちぎる!
そういう闘争心こそが剣士の基本なのだ!」
ジョシュの剣を下からカチ上げ、無防備になったところへ突きの連打が襲いかかる。
俊敏な動きでその連打をかわし、ジョシュは最後の一撃を体を回転させながら捌いて回転斬りを放った。
その剣をスウェーバックでかわし、フレイは後ろへ跳ねて距離を取る。
そして木剣をだらりと下段に構え、全身の力を抜いた。
「クソ!またあれかッ!」
「小僧、この動きを見切らん限りお前に勝ち目はないぞ。」
ゴクリと唾を飲み、口元の血を拭ってジョシュは剣を構え直した。
〈確かにあいつの言う通りだ。なんとかあの動きを見切らないと・・・。
でもどうやって・・・?〉
「ふふ、焦っているな。何ならさっきのようにまた妹に助けてもらうか?」
「はあ?ざけんなよ!誰がレインの力なんか!俺は俺の力で勝つッ!」
その言葉にレインの瞳に小さな悲しみが宿った。
〈私なんか・・・。私なんか・・・。私は必要ないの?私は・・・・・。〉
フレイはゆらりと柳のように体を動かし、より一層体から力を抜いた。
「小僧、一つだけヒントをやろう。」
「ヒント?」
「ああ、お前は俺の太刀筋ばかり追いかけているだろう。
相手の剣の動きが読めるならそれでいい。
だが今のお前では俺の太刀筋を見切るのは無理だ。ならどうする?」
「ならどうするって・・・。」
突然の言葉にジョシュは困惑した。
「この程度のことが分からんようなら俺の弟子にはいらん。さあ、ゆくぞッ!」
ジョシュの目の前からフレイが消えた。
「チクショウ!どうすりゃいいんだ・・・。」
「ジョシュ・・・・・。」
レインは胸に手を当てて呟いた。
〈フレイ剣聖のヒントの意味、私ならわかる。けど・・・。〉
強力な魔法を扱うことが出来るレインは、力の流れをコントロールする術に長けている。
大小の力の流れをコントロール出来ないのであれば、自身がその力に飲み込まれてしまうからである。
細かい力の流れが把握出来ない場合、まずは大きな力の流れを見極める。
これは魔術の基本であった。
そのことを理解しているレインは、フレイのヒントがこれと同じであることを見抜いていた。
〈剣の動きを追えないのなら、もっと大きな動きを追えばいい。
けど、私が助言をすればきっとジョシュは怒るんだろうな・・・。
今までみたいに拗ねるんじゃなく、きっと本気で怒るんだろうな・・・。
・・・でも、これ以上ジョシュが追い詰められる姿を見たくない!〉
レインはジョシュに向かって叫んだ。
「ジョシュ!剣聖のヒントの意味は・・・、」
「上かッ!」
レインが言い終える前に、ジョシュは前転して頭上から斬りかかるフレイの剣をかわした。
そして素早く立ち上がってフレイに剣を向けた。
「随分無様なかわし方だな。」
「確かにな。でも初めてかわしたぜ。」
ジョシュの顔に笑みが浮かぶ。
「ふん!生意気な顔をしやがる。しかし二撃目はどうかな?」
再びフレイの姿が消える。
ジョシュはフレイと同じように体の力を抜き、五感を研ぎ澄まして微かな気配を窺っている。
そしてほんの一瞬であったが、ジョシュはすぐ左に空気が動く気配を感じた。
次の瞬間、木剣がぶつかり合う轟音とともにジョシュはフレイの剣を受け止めていた。
「なんとッ!まさか防がれるとは!」
バックステップで距離をとるフレイに、ジョシュの渾身の一撃が襲いかかる。
空を切り裂くジョシュの斬り下ろしを、フレイは横薙ぎの太刀で迎え撃った。
その場にいる全員が言葉を失って二人の決着を見つめていた。
「はあ・・・はあ・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
フレイの木剣はさながら真剣のようにジョシュの木剣を斬り落とし、彼の喉元の寸前でピタリと止まっていた。
「はあ・・はあ・・・、俺の・・・負けか・・・。」
ジョシュは切られた木剣を握ったまま、崩れ落ちるように床に座り込んだ。
「くっそ・・・いい線までいったのになあ。」
フレイは木剣を杖のように立ててジョシュを見下ろした。
「ははは、いい線だと?バカを言うな。どれほど手加減したと思っている!
おまけに貴様の剣は一太刀も俺に入っておらんではないか。」
ジョシュはがっくりと項垂れた。
「やっぱ・・・弟子入り・・・ダメすか?」
フレイは木剣に肘をついて明後日の方を見ながら言った。
「不合格・・・・・と言いたいところだが、まあ最近の若造でここまで喰らいついたやつは初めてだ。
どうしてもというのなら、弟子にしてやらんこともない。」
「ははは、なんすか、それ?」
フレイを見上げて笑うジョシュの元へレインが駆け寄ってきた。
「大丈夫ッ?」
「ああ、ちょっとフラフラするけどな。大丈夫だよ。」
膝に手をついて立ち上がるジョシュに、レインはさっと肩をかした。
「いいって、一人で立てるから。」
「フラフラするって言ったじゃない。意地張らないの。」
バツの悪そうな顔でジョシュはフレイに歩み寄った。
「剣聖と手合わせをして分かりました。
俺はまだまだ未熟なんだって・・・だからお願いします。俺に剣を教えて下さい!」
ジョシュは深く頭を下げた。
厳しい顔で見下ろすと、フレイはポイっと木剣を放り投げて踵を返した。
「明日から稽古をつけてやる。ただ途中で根を上げることは許さんからな。
覚悟しておけよ。」
それだけ言い残すと、フレイは円柱の装置から出て去って行った。
「いやあ、やっぱ強えわ。」
ニコッと笑いかけるジョシュに、レインは問いかけた。
「でもよく剣聖の動きが読めたね。あのヒントの意味分かったの?」
ジョシュは得意気に笑って頷いた。
「確かに俺にはあの人の剣の動きは読めない。
けど五感を集中させれば、体そのものの動きはなんとか読めた。
太刀筋が見切れないなら、体の動きを見切ればよかったんだ。
まあ二撃目の受け太刀はほとんどまぐれに近かったけど。」
「そう・・・すごいね、自分で気付くなんて。」
「はあ、疲れた。ちょっと座ろうぜ。」
フレイの剣を受け止めたこと、そして彼に弟子入りを認めてもらえたことで、ジョシュは大いに喜んでいた。
言葉には出さないが、表情がそう物語っていることをレインは気付いていた。
「あの人に剣を教えてもらえば、ジョシュはどんどん強くなっていっちゃうんだね。
そのうち私よりずっと強くなって・・・、そしたら私はいらなくなっちゃったりしてね、
ははは。」
「何言ってんだよ。」
ジョシュはレインのおでこに軽くデコピンを当てた。
「いたッ、何するのよ。」
「お前はさ、たまーにそういうこと言うよな。
物凄くしっかりしてて、常に冷静で隙を見せなくて、でも意外と弱いというか、小さなことで不安になるというか。」
「・・・・・・・・。」
「大丈夫だって。俺はどこにも行きやしねえよ。お前を一人にしたりしない、心配すんな。」
そう言ってレインの頭をクシャクシャと撫でた。
「・・・うん。」
部屋の奥の扉が音を立てて開き、ククリがマーシャル・スーツの入ったカプセルとともに現れた。
「お待たせしたね、お二人さん。」
カプセルの中のマーシャル・スーツは、まるで命を持った生き物のようにその目を光らせていた。

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