マーシャル・アクター 第五話 さらわれたレイン

  • 2014.01.11 Saturday
  • 21:08
〜『さらわれたレイン』〜

ジョシュとレインのいる円柱の装置の中に、ククリと魔導士、そして科学者達が入ってきて来て、二人の体に何本かのコードを巻き付けた。
そしてその傍らには二体のマーシャル・スーツが機械で覆われたカプセルの中に入っていた。
二人に巻きつけられたコードはマーシャル・スーツが入っている機械に取り付けられ、何人かの科学者が慎重にコードのチェックをしていた。
ククリが二人の方を向き、それぞれの肩に手を置く。
「さて、二体のマーシャル・スーツの調整は終わったし、ついでに君達のお父さんが造ったマーシャル・スーツについても色々調べさせてもらったよ。」
ジョシュとレインは顔を見合わせ、疑問符の浮かぶ顔でククリに尋ねた。
「これから何が始まるんですか?」
「これから何を始めるんですか?」
「お、さすが双子、綺麗にハモったね。」
ククリは腰に手を当てて笑った。
「何が始まるって決まっているじゃないか。
君達の魂をこのマーシャル・スーツに移すんだよ。
これでお互いがそれぞれの肉体を持つ事が出来る。どうだい、嬉しいだろう?」
ジョシュは笑って答えた。
「そりゃあもちろんすよ!な、レイン?」
「う、うん。そうだね・・・・・。」
「おや、レインは少し緊張してるのかな?」
ククリは幼い子供でもあやすようにレインの頭を撫でた。
「大丈夫!二体のマーシャル・スーツの調整も終わったし、君達のお父さんが造った方のマーシャル・スーツも念入りに調べることが出来たし、あとは君達の魂の適合性だけさ。」
コードに繋がれた機械がピーピーと五月蠅くなり始め、しばらくするとピピッっと短い音が鳴った。
「ククリ魔導士、魂の適合性も問題ありません。」
機械をチェックしていた科学者が事務的な口調で言った。
「そうか!やはり僕の予想通りだったな。」
「どういうことですか?」
レインの質問に、ククリはニッと笑って見せた。
「少し前に僕が説明したことを覚えているかな?」
レインは首を傾げて頬に指を当てた。
「君達が最初に入っていたマーシャル・スーツはレインに合わせて造られていたってことさ。
あのマーシャル・スーツは魔法仕様になっていてね。
発動させると強力な魔法を操ることができるようになっているんだ。
けどその為には中に入っている魂が強い魔力を持った魔導士でないといけない。
魔法を操れないと、発動させることすら出来ないだろうからね。」
「発動?」
二人は復唱のように言葉を合わせて呟いた。
「そうさ、マーシャル・スーツとはその名の通り闘う為の衣装だ。
だから宿っている魂が発動条件を満たすと、とんでもない力を発揮する。」
「とんでもない力?そんなのまったく知らなかった・・・。」
「だろうね。」
腕を組んだククリは真剣な顔になって説明を続けた。
「けど、知らなかったってのは逆にいいことだよ。
何も知らずに発動させたら大変なことになっていただろうからね。」
「どんな風に大変なんすか?」
「マーシャル・スーツの力が発動している間は、常に魂からエネルギーが吸い取られるんだよ。
だから扱い方を知らないとどんどん魂は弱っていって、やがて死んでしまうんだ。」
「な、なんか物騒っすね・・。俺達は今までそんな物に入ってたのか・・・。」
ジョシュとレインは背筋にゾッとしたものを感じた。
「それにね、これは古代魔法に対抗する為に造られた代物だ。
要するに兵器でもあるのさ、恐ろしく強大な力を持ったね。
だから魂が力に飲み込まれて暴走すると、これはもう止めようがなくなる。
宿った魂のエネルギーが尽き果てるまで、戦闘と破壊を繰り返すだろうね。」
ククリの説明に、二人の表情がどんどん暗くなっていく。
「大丈夫だよ!それは扱い方を知らなかった場合の話さ。
ちゃんと知っていれば問題ない。僕が今から説明するよ。」
ククリが周りの人間に指示を出し、二人に巻きつけていたコードが取り外された。
そして近くにいた一人の魔導士を呼び寄せて二人に紹介した。
「彼女はシーナ。今回のマーシャル・スーツの開発で重要な仕事をこなしてくれたんだ。」
シーナと呼ばれた魔導士は、青く長い髪を揺らせて頭を下げた。
「・・・・・どうも。」
背が低く、ジョシュやレインよりも少し幼い顔をしている。
木造りの杖をギュッと握りしめ、水色の瞳を恥ずかしそうに伏せている。
黒い法衣は丈が合ってないのか袖が余っていて、膝上までの法衣の下にはレインと同様にスパッツを穿いていた。
「あれ、穿かない方がいいのになあ・・・。」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもないよ。」
慌てて首を振るジョシュに、レインは不思議そうな顔を向けていた。
どことなく気の弱そうな雰囲気があり、挨拶はしたもののまったく目を合わせようとしなかった。
「シーナは魔導士兼科学者なんだ。
今回は次世代文明管理会と魔導協会の一部の人間との合同プロジェクトだったからね。
彼女は二つの組織の重要な橋渡し役だったんだ。
もちろん優れた魔導士でもあるし、僕が一番信頼を置いている弟子なんだ。」
「へえ、すごいね!俺はジョシュ、よろしく。」
差し出されたジョシュの手を、シーナは遠慮がちに握った。
「私はレイン、よろしくね。」
レインはそう言ったあと、ククリをキッと睨んだ。
「優秀そうな魔導士さんですねえ。さすが先生の一番弟子だわ。
けど、私も先生にそのセリフを言われた覚えがあるんですけど、もしかして誰にでも言ってるんですか?。」
レインの冷たい視線に、ククリは慌てて弁明した。
「いやいや、違うよ!レインはさ、ほら、もう一流の魔導士じゃないか。
今は僕に教えを乞っているわけでもないだろ?
それにさ、君は僕の娘みたいなものだから。だからレインは特別だよ。」
レインは唇を尖らせてそっぽを向いた。
「なーんかプレイボーイが吐きそうなセリフだこと。
先生は昔っからちょっと女の人にだらしないところがありましたもんねえ。
ああ、そういえば一度別の女の人と食事にいったのがバレて奥さんにこっぴどく・・・、」
「ああ!わ、わかったわかった!別にそんなつもりじゃなかったんだよ。
君は今でも僕の一番弟子さ。」
「どうだか・・・ねえジョシュ。
あなたはこういう大人の男の人にはならないように・・・、ってジョシュ?」
ジョシュの目は、初対面の人間と向かい合うのを恥ずかしそうに俯いているシーナに釘付けになっていた。
「シーナって、いい名前だね・・・・・。
すごくよく似合ってると思うよ。」
恥ずかしそうにそう言って、ジョシュは体をもじもじさせた。
「・・・あ、ありがとう。」
シーナもまた恥ずかしそうに深く顔を俯かせた。
そのやり取りを見ていたククリが顎に手を当て、茶化すように言った。
「おやおやおや〜、どうしたんだいジョシュ君?顔が真っ赤だよ〜?」
ククリが嬉しそうに顔を覗き込む。
「え?な、何がっすか・・・?俺はただいい名前だなあ〜と思っただけで・・・。
べ、別に深い意味は・・・・・。」
しどろもどろになるジョシュを見て、ククリは吹き出した。
「別に照れなくてもいいじゃないか。ジョシュ君だってもう年頃なんだ。
気になる女の子ができたって恥ずかしがることはないよ。」
「ああ、いや、そ、そういうわけじゃないっすよ!」
ジョシュの額から汗が流れる。
「シーナは良い子だよ〜。可愛いし仕事も出来るし。
大人しそうに見えるけどけっこうしっかりしてるんだよ。
それに性格もいいし、こんな良い子は滅多にいないんだから。
あ、そうだ!よければ僕が二人のキューピッドになって・・・。」
その時だった。ククリとジョシュは背後に凄まじい殺気を感じて振り返った。
「あ、レイン・・・。いやいや、これはただ場を和まそうと思って言っただけで・・・、」
射抜くような怒りのこもった視線にククリはたじろぎ、慌てて弁明した。
「なに怒ってんだよ・・・。お前は昔っからすぐにやきもち妬いて・・・。」
「バカ!。」
ククリが慌ててジョシュの口を塞ぐ。
「二人とも・・・・・・。」
静かだが殺気のこもったレインの呟きに、二人はたじろいだ
「は、はい・・・。」
ククリの額に冷や汗が流れる。
「余計なこと喋ってないで、さっさとやることやるッ!さもないと・・・・・。」
「は、はい!すいません!」
「わ、悪かったよ・・・。」
二人は深々と頭を下げた。
「あ、あの、それじゃ・・・。」
シーナがおずおずとククリに話しかけた。
「ああ、そうだったね。じゃあお願い出来るかな。」
「はい。」
二体のマーシャル・スーツの方へと向かい、シーナはカプセルの蓋をあけた。
生々しい二体の機械人形が部屋の光を受けて鈍く光っている。
「さて、今からこいつに君達の魂を入れるわけだが、その前に説明しておこう。」
ククリはジョシュとレインが入っていたマーシャル・スーツに軽く手を触れた。
「まずこっちのマーシャル・スーツだが、さっきも言ったようにこいつはレインに合わせて造られている。
だから君にはこっちに入ってもらう。というより戻ってもらうと言った方が正しいかな。
こいつは魔法に対して反応するシステムが組み込んである。
だからこいつの胸の中心にあるコアに魔力を注入すると、戦闘形態が発動する。
外見も変わるし、生身とは比べ物にならないくらいに強力な魔法が使えるようになる。
もちろん肉体の強度や性能も上がるよ。
並みの攻撃や魔法ではビクともしないし、肉体が破損しても再生が可能だ。」
「すごい性能ですね・・・。」
レインが感嘆の声を出す。
「ただし、さっきも言っけどこいつは魂のエネルギーを吸って動くんだ。
だからいつまでも発動状態でいると最悪は死んでしまう。
そうなる前に戦闘形態を解除しないといけないんだ。」
「その解除はどうやって?」
「これは実に簡単だよ。コアに中止の命令を出せばいい。
自分の脳からその指令を出すだけで、戦闘形態は解除される。
ただ気をつけないといけないことが一つ。
レインが入るマーシャル・スーツは、戦闘能力は強大だが、中に入っている魂をサポートする機能がほとんどない。
だから解除のタイミングは自分で見極めなければいけないんだ。それに・・・・・。」
「それに?」
少し不安げにレインは尋ねた。
「いいかい、戦闘形態を維持しすぎて最も最悪なケースは中の魂が死ぬことではない。
一番恐ろしいのはマーシャル・スーツの力に自我と魂が飲み込まれて暴走することさ。
こうなると止める手段は一つ。暴走するマーシャル・スーツの破壊だ。」
「破壊って・・・、そんなことしたら中に入ってる魂はどうなるんすか?」
一瞬の沈黙のあと、ククリは重たい口調で言った。
「死ぬよ。」
「死ぬって、じゃあ要するに殺して止めるってことっすか?」
「ああ、そうだ。」
ジョシュは掴みかかる勢いでククリに詰め寄った。
「何をさらっと重いこと言ってんすかッ!
黙って聞いてたけど、これめちゃくちゃ危険な代物じゃないっすか!」
興奮するジョシュの肩に、ククリはそっと手を置いた。
「そうだよ。だから僕は言ったはずだ。こいつは古代魔法に対抗する為の兵器だと。
そしてマリオンの野望を打ち砕く為の物だと。」
顔をしかめてジョシュはククリを睨んだ。
「さっきからそこんとこの意味がよく分かんないっすよ!一体何が言いたいんすか?
ていうか、これに俺達の魂を入れていったい何をさせるつもりなんすか?
俺はともかく、もしレインを危険な目に巻き込むつもりなら、俺はあんたを許さねえぜ。」
「・・・・・・・・。」
二人のやり取りを見ていたレインは、自分が入っていたマーシャル・スーツに歩み寄り、そっと手を触れて言った。
「やっぱり、私の考えていた通りなんですね。」
レインは悲しい目でククリを見つめた。
「・・・・・、どういうことだよ?」
ジョシュの視線から顔をそらし、レインはスッと指で機械人形をなぞった。
「昔父さんが言っていたでしょ。これが将来世界を変える道具になるって。
きっとあの頃から父さんは、世界大戦が起きることを確信していたのよ。
だからこれを造っていた。」
「はあ?いや、だからいまいち意味が分からねえって。」
レインは目を伏せたまま答える。
「マリオン大師のやり方に疑問を感じて、父さんは次世代文明管理会に移った。
それはきっとこの機械人形を造るためだったんだと思う。
いつかマリオン大師が世界大戦を起こして世界の覇権を獲ろうとした時、その野望を打ち砕く為に。
そしてその背後にある古代魔法に対抗する為に。」
「世界大戦の原因がマリオン大師・・・?」
意外なことを言われ、ジョシュは混乱した。
「そうよ。多分私の考えは間違っていないはず。そうでしょ、ククリ先生。」
「・・・・・ああ。」
ガリガリと音をたててジョシュは頭を掻きむしった。
「ああ、もう!何がなんだかわかんねえ!」
レインはジョシュに歩み寄り、寂しさの宿る瞳で見つめた。
「父さんはね、この機械人形を兵器として造っていたの。
そしてこれは私に向けて造られたもの・・・。
父さんは、これを造っている時から私をこの兵器の中に入れて使うつもりだったのよ・・・。」
「そ、そんな・・・ッ!」
一瞬ジョシュの顔が青ざめた。
「そんなことあるかよッ!父さんが自分の子供を兵器として使うなんてッ!
何言ってんだよお前!」
ジョシュは強くレインの肩を握った。
「んなことあるわけねえだろッ!それに父さんが大事にしていたのはお前の方だぞ!
利用するんなら俺の方だろッ!」
握る力を強め、ジョシュは激しくレインの肩を揺さぶった。
「よすんだ、ジョシュ君ッ!」
ククリが止めに入るが、ジョシュはその手を振り払った。
「だいたいなんだよあんたは!わけわかんねえことばっか言いやがって。
これ以上レインを混乱させるようなこと言うんじゃねえッ!」
レインの肩から手を離し、ジョシュはククリの胸ぐらを掴んだ。
「・・・・・・。」
「何黙ってんだ?神妙な顔して目を逸らしてんじゃねえよ!」
「やめて下さい!」
不意に叫ばれて、三人は声の主に目をやった。
「混乱しているのはあなたの方です・・・。今はククリ先生の説明を聞くべきです・・・。」
シーナは手にしていた杖をギュッと握りしめて、頬を紅潮させていた。
「まずはマーシャル・スーツの説明を聞きませんか・・・?
質問は・・・その後でもできます。」
ジョシュは毒気を抜かれたようにククリの胸ぐらから手を放した。
乱れた服を直し、ククリは口を開いた。
「君が怒るのも無理はない。分からないことだらけなんだからね。
けど、今は我慢して僕の話を聞いてほしい。」
「・・・・・・・。」
軽く舌打ちして、ジョシュは三人から離れた場所に座り込んだ。
「ふん、じゃあ聞いてやるよ。」
「ジョシュ・・・・・。」
ククリは気を取り直すように息を吐き、改めて説明を続けた。
「いいかい、要するにレインの魂が入るこのマーシャル・スーツは、君自身が全てを見極めてコントロールしなければいけないんだ。
これはかなり難しいことだけど、君なら扱えると信じている。」
マーシャル・スーツの無表情な顔に触れ、レインは言った。
「はい、大丈夫です。だって三年も私達の体だったんだから。」
ククリは頷くと、次に自分達が造り上げたマーシャル・スーツについて語り始めた。
「さて、こっちのマーシャル・スーツにはジョシュ君に入ってもらう。
基本的なことはレインの方と一緒だけど、一つだけ大きな違いがある。」
ジョシュは興味を惹かれたように顔を上げた。
「こいつにはね、自我があるんだよ。」
「自我・・・ですか?」
レインが尋ねる。
「ああ、実はボディーそのものは結構早くに完成していたんだけど、この自我を組み込むことが難しくてね。」
ククリがシーナに目配せをすると、彼女は頷いてマーシャル・スーツを乗せている機械のボタンを操作した。
すると機械のモーター音や電子音が鳴り始め、横たわっていた機械人形がむくりと身体を起こした。
「・・・・・・マジか?」
ジョシュは立ち上がって息を飲んだ。
機械人形はゆっくりと手をついて立ち上がり、機械から飛び降りてジョシュの前まで歩み寄った。
「こいつはレインのマーシャル・スーツと違って、中に入っている魂をサポートする機能が充実しているんだ。
魂のエネルギーが尽きかけると、強制的に戦闘形態が解除される。
だから死ぬことも暴走することもない。
そしてこいつには隠された機能がいくつもあるんだけど、それをいちいち説明する必要もない。
このマーシャル・スーツに宿っている人格が、こと細かに教えてくれるからね。
それに中に入っているジョシュ君が気を失ったりしても、機械人形の人格が代わりに闘ってくれるんだ。」
ククリは腰に手を当てて誇らしげに言った。
「要するに、レインのマーシャル・スーツより扱いが簡単なんだよ。
それにこいつは白兵戦を重視して造ってあるからね。
剣士のジョシュ君にはピッタリだよ。」
鈍く光る金属の皮膚、そして関節や胸、首には機械的な部分が残されている。
一見するとレインの機械人形より厳つい感じに見えるが、その目の光にはどこか優しさが含まれているようだった。
「こいつが、これから俺の肉体になるのか・・・。」
ジョシュは小さな魔法陣が描かれている胸に触れてみた。
すると機械人形は目の光を点滅させてジョシュの手を握った。
「うお!なんだよ?」
戸惑うジョシュだったが、まったく恐怖は感じなかった。
それよりも早くこいつと同化したいという思いが湧き上がってきた。
「その機械人形もジョシュ君のことが気に入ったようだね。
じゃあ、まずは君から封魂の術をかけようか。」
ククリはジョシュに目を閉じるように言い、杖をシーナに預けて機械人形の手を握った。
そしてジョシュの手も握ると、魔法の詠唱を始めた。
ジョシュと機械人形から青白い光が放たれる。
その光はククリの体に吸い込まれていき、閃光のような輝きが走るとジョシュが入っていた体は砂のように崩れ落ちた。
「ふう〜。うまくいったはずだが・・・どうだい?」
しばらく沈黙していた機械人形だったが、やがてドクンドクンとコアが鼓動を始め、見る見るうちにジョシュの姿へと変わっていった。
「ジョシュ!」
レインが駆け寄って手をとった。
ジョシュはその手を握り返し、ニコっと微笑んだ。
「レイン、これすげえぜ!体に力が漲ってくるんだ!
大きな力が俺の身体を包んでるように感じるしさ。すげえ、これが俺の肉体か・・・。」
ジョシュは自分の体をまじまじと見つめた。
「今までの体はレイン仕様だったのに加えて、一つの肉体に二つの魂だったからね。
無理があったのは当然なんだ。でもその身体は違うよ。それは正真正銘君だけの肉体さ。」
嬉しくなったジョシュは辺りを駆け回って飛び跳ねた。
「うおおおお!この感覚久しぶりだぜえ!
そうだよ!自分だけの肉体ってこの感じだったんだ。ヒャッホーッ!」
子供のようにはしゃぐジョシュをレインもククリも笑いながら見ていた。
「さて、次は君の番だ。」
ククリがレインを振り返って言う。
「・・・はい。」
ジョシュの時と同じように、ククリはレインと機械人形の手を握った。
「大丈夫だよ、心配しなくても僕もジョシュ君もついてる。
マーシャル・スーツのせいで君が暴走したり死んだりすることなんてない。」
「・・・はい、信じてます。先生も、ジョシュも。」
ククリはジョシュの時と同じようにレインと機械人形を青白い光で繋ぎ、封魂の術を行った。
レインの魂も無事に元の体へと戻っていった。
「よし!これで終わりだ。」
ククリが二コリと笑う。
その時だった。
「なんだお前らはッ!・・・ぐはあッ・・・。」
部屋の入り口から騒ぎ声が聞こえた。
「おい、関係者以外の立ち入りは・・・、がはッ!」
「おい、どうしたッ?」
シーナから杖を受け取ったククリが外へ出ようとした時だった。
「先生、危ないッ!」
慌てながらレインがククリを押し倒した。
するとさっきまでククリが立っていた場所に、円柱の装置を突き破って稲妻が走っていった。
「な、なんだ・・・?」
突然の出来事にその場にいた全員が凍りつく。
「おとなしくしろッ!反抗する者は全員この場で処刑するぞッ!」
部屋の入り口からは武装した兵士と魔導士が多数押し寄せて来た。
「動くなッ!我々は魔導協会の治安維持部隊である!今すぐこの場の責任者を出せッ!
さもなくば全員この場で・・・、」
「僕がこの街の責任者、魔導士のククリだ。」
レインを起こし、ククリは治安維持部隊と名乗った者達の方へと近づいていく。
「何か用かな?」
「何か用かだと?とぼけるなッ!」
さきほどから声を張り上げている切れ長の目をした人相の悪い魔導士が怒鳴った。
「ククリ・クロケットッ!貴様を魔導協会への反逆罪で逮捕する!」
人相の悪い魔導士がククリに罪状が書かれた紙を見せた。
「逮捕ねえ・・・。僕は別に何も悪いことなんてしていないんだけど・・・。」
「何をぬけぬけと・・・。貴様の罪はここに書かれている通り、魔導協会に隠しながら凶悪な兵器を開発していたことだ。
これは重大な罪にあた・・・、あた・・・、は・・・、はれ?」
人相の悪い魔導士は、まるで乾いた紙粘土のように固まってしまった。
「な、なんら・・。おまへ・・・、はひをひた・・・?」
「ああ、ちょっと声が五月蠅いもんだから呪文をかけただけさ。」
兵士達が慌ててククリの周りを取り囲む。
「今すぐ隊長にかけた魔法を解除しろ!さもなくば・・・、」
「さもなくば?」
ククリが手をかざすと、周りを囲んだ兵士達はまったく身動きがとれずに固まってしまった。
「あのね、僕は魔導協会最重要都市の一つであるクラナドの最高責任者だよ。
たかが治安部隊の君達がどうにかできる相手だと思っているのかい?」
ククリが軽く杖を振ると、周りを囲んでいた兵士が押し付けられるようにその場に膝をついた。
それを見て後ろの魔導士達が後ずさって行く。
「なんだい?偉そうなこと言ってたわりには随分へっぴり腰なんだねえ?」
人相の悪い魔導士は何とか自力で魔法を解除し、杖を振ってククリにイナズマを放ってきた。
だがククリがパチンと指を鳴らすと、イナズマはあっさりと消えてしまった。
「な、そんな・・・。」
ごくりと唾を飲む治安部隊の魔導士に、ククリは杖の先を突きつけた。
「マリオンの差し金だな?」
「な、何を・・・・・、」
「彼女が僕の不審な行動に気付いたのは最近だろう?でも少し気付くのが遅かった。
帰ったら彼女に伝えてくれ。今日限りでククリ・クロケットは魔導協会をやめると。
そして今日この日をもってあなたに宣戦布告をするとね。」
ククリは杖の先端で相手の顎を持ち上げた。
「ぐ、ぐううう・・・、おのれ・・・ッ。」
悔しそうに顔を歪める魔導士に、ククリは射抜くような眼光を向けていた。
「はいはい、みんな道開けてね。」
治安部隊の後ろから陽気な声が聞こえ、痩せた赤髪の魔導士がフラフラと前へ出て来た。
「おう、久しぶりだねえ。」
「・・・グリム・・・、貴様も来ていたのか・・・。」
グリムと呼ばれた魔導士は嫌味な笑い声をあげた。
「おいおい、同期の魔導士がせっかく久しぶりに会いにきたのにその顔はないだろう。
俺もお前も、マリオン大師の元で同じ釜の飯を食った仲間じゃないか。」
「ふざけるなッ!俺の・・・俺の愛する妻と子供を殺しておいてよくも・・・ッ。」
怒りを露わにするククリの顔を見て、グリムは腹を抱えて笑った。
「おいおい、まだそんな昔のことにこだわってるのか?
プレイボーイのお前なら新しい女くらいすぐに見つけられるだろう?
ついでに子供も産んでもらえば元通りじゃないか。
あ、なんなら知り合いの美人を紹介してやろうか?」
「貴様・・・・ッ。」
ククリの体が怒りで震え出す。
「なんだあの野郎?ククリさんとの間に何があったか知らねえけど、明らかに馬鹿にしてるのはわかるぜッ。
おいレイン!せっかくそれぞれの体を手に入れたんだし、ここは一丁暴れてやろうぜ!」
そう言って駆け出そうとするジョシュの肩を、レインは両手で引き戻した。
「な、なんだよ!お前の先生が馬鹿にされてんだぜ。黙ってていいのかよ?」
「違う!そうじゃないわ。」
レインの体もククリと同様にわなわなと震えていた。
「どうした?」
レインは苦しそうな顔で答えた。
「私、あのグリムって人の声知ってるわ・・・。
私だけじゃない、ジョシュだって知ってるはずよ・・・。」
「?俺あんな奴なんか知らねえぞ。」
レインは首を振った。
「そんなことない!あの忌まわしい日を思い出して!
私達家族がめちゃくちゃになったあの日を・・・。」
必死の形相で訴えかけるレインにたじろぎながらも、ジョシュは自分の記憶を辿っていった。
そして細い記憶の道からある光景がジョシュの頭に浮かび上があがり、その瞬間弾けるようなショックがジョシュの体を突き抜けた。
目つきが変わり、グリムと名乗る男を凝視した。
「・・・ああレイン。お前の言う通りだ。俺達はこの声を知っている・・・。
あの日、父さんが俺達を守る為に地下室に逃げ込んだ時に、俺はこの声を聞いている。」
レインは顔を俯かせて、崩れ落ちそうな体をなんとか支えていた。
「父さんを、俺達を襲ったのはあいつだ。この耳につくような下品な笑い声と喋り方。
マスクを被ってたから顔は分かんねえけど、間違いなく俺達を襲った奴の声だ。
間違いねえッ!」
昔の記憶が鮮明に蘇り、ジョシュは考えるより先にグリムに飛びかかっていた。
「くたばれこの野郎ッ!」
ジョシュの拳がグリムの顔にめり込んだ。続けて二発三発と拳を打ち込んでいく。
「よせッ!」
ククリが止めに入るが、怒りに火がついたジョシュは止まらない。
「お前のせいで父さんはッ!俺達の家族をめちゃくちゃにしやがって!」
目にも止まらぬ早さで拳を打ち込むジョシュであったが、急に呼吸が苦しくなってしゃがみ込んだ。
「おいおい、なんだよ坊や。いきなり飛びかかってきてさ。」
顔の血を拭いながらグリムが笑う。
「か・・・は・・・ッ。」
「俺に手をあげるってことがどういうことか分かってるのか?」
グリムがジョシュに向けた右手をグッと握った。
「・・・・・・・ッ!」
ジョシュが声にならない声でもがき苦しむ。
「ジョシュッ!」
苦しむジョシュの姿を見て、レインもグリムに飛びかかった。
「はああああッ!」
レインの両手から火球が放たれるが、グリムが左手をクイっと反転させると火球はレインの方へと向きを変えていった。
「危ないッ!」
ククリが咄嗟に杖から冷却魔法を放って火球を打ち消す。
「先生!ジョシュが!」
「分かっている。グリム、魔法を解け!さもないと・・・。」
ククリはレインの前に立って杖を構えた。
「さもないと?ふふん、ククリさあ、確かに俺じゃあ本気のお前に勝てないよ。
でもな、お前がこんな所で本気を出したらどうなると思う。
お前の本領は呪術だろ?それも広範囲のさ。
そんなものを使ったら、俺どころかここにいる人間が全員死んじゃうぞ。」
杖を向けて戦いの姿勢を見せるククリだったが、その言葉に悔しそうに顔を歪めた。
「まったく、おとなしく言うことを聞いて連行されてくれりゃあ問題ないのに。
なあ坊や、お前もただじゃ済まないぜ。ククリと一緒に来てもらうよ。」
グリムは後ろの魔導士達に指示を出した。
「おい、ここのどこかに機械人形があるはずだ。探し出せ!」
治安部隊の魔導士達が一斉に室内に散っていった。
「ジョシュ君、大丈夫か?」
ククリがすぐさまジョシュにかけられた魔法を解除した。
「げほ・・・クソ、この野郎ッ!お前の、お前のせいで俺達家族は・・・ッ。」
睨みつけるジョシュの視線をグリムはより強い視線で押し返した。
「何をそんなに興奮しているんだ?俺はお前なんか知らないけど?」
「知らないですって!そんなこと言わせないわッ!」
レインがくってかかった。
「いまから三年前、私達は父さんを殺された。
いつもと変わらない家族団欒の食事の時に、武装した集団が襲ってきて・・・。
私は忘れないッ!あの時私達を笑いながら襲ったあなたの声をッ!」
「レイン、まさか・・・。」
ククリが驚愕の顔でレインを見つめた。
「先生、こいつが、こいつが私達の父さんを、私達の平和だった生活をめちゃくちゃにした男です!」
最後の方は涙まじりの声になりながらレインは訴えた。
「グリム・・・、貴様は俺の家族だけでなく、俺の弟子までも・・・。」
怒りを通り越した感情がククリの中に湧き起こる。
「・・・・ああ。思い出した。あの時の家族か。」
軽い用事でも思い出したようにグリムはぽんと手を叩いた。
「大師に命じられて裏切り者の魔導士を始末しに行ったんだ。
そういえばあの魔導士もこそこそ隠れて機械人形の研究をしてたんだっけか。
あの魔導士は殺したけど、機械人形は取り逃がしたんだよ。
ガキ二人もどこかに消えちまったし・・・。お前らあの時のガキどもか?」
悪びれる様子のないグリムを見て、レインの中に重く暗い感情が湧き上がって来た。
「グリム様、室内をくまなく探しましたが機械人形は見つかりませんでした!」
「ふうむ、あれがあるならここのはずなんだけどなあ・・・。」
そう言ってククリ達を無視しながら部屋の中央まで歩いて行き、グリムはぐるりと辺りを見回した。
「隠せそうな場所もないしねえ・・・・・。」
しばらく考え込んでいたグリムだが、「まあいっか。」と呟くとジョシュの方へ寄って来た。
そして苦しそうにしゃがみ込むジョシュの髪の毛を掴むと、力任せに立ち上がらせた。
「とりあえずこいつらを連行しよう。
何人かはここに残って、まあ拷問でも何でもして何か聞き出してよ。
えーっと、名前が分かんねえや。あの時のガキ二人とククリは俺と一緒に来てもらうよ。
逆らえばこのガキどもがどうなるか分かってるよな?」
「その子達は関係ないだろう!僕だけを連れて行け!」
「ははは、そういうわけにはいかないよ。
この坊やは俺の顔を殴ってくれたわけだし、そっちのガキも俺に恨みを抱いてるみたいだからさ。
こういう悪の芽はちゃんと摘んでおかないと。」
グリムは嫌味な笑いとともにジョシュの首を締め上げた。
「やめて!」
レインが助けようとしたが、近くにいた魔導士二人が彼女を羽交い絞めにした。
グリムは身動きの取れなくなったレインの腹を思い切り杖で殴りつけた。
「うう・・・・・ッ。」
悶えるレインの姿を見て、ジョシュは理性の糸が切れたようにグリムに殴りかかった。
だがまたしても呼吸を止められてしまい、今度は白目を剥いて気を失ってしまった。
「や、やめて・・・これ以上私の大事な人を傷付けないで、お願い・・・。」
ククリが杖を振って魔法を放とうとしたが、グリムがレインの顔に杖を突きつけた。
「動くなよ。これお前の弟子って言ってたよな。可愛い顔に傷がついてもいいのかなあ〜。」
「グ・・・ッ、貴様という男はどこまでも卑劣な・・・ッ。」
気を失ったジョシュの髪を放し、グリムはレインの顎を掴んで顔を持ち上げた。
そして舐めまわすように全身をじっくりと見回すと、下品な笑みを浮かべて顔を近づけた。
「ふうん。ガキの割に色気のある体してるじゃないか。」
レインは心の底から得体の知れない恐怖を感じて顔を背けた。
グリムは無理矢理正面を向かせると、指でレインの顔をなぞった。
「やめてよ!触らないで!」
「ふふん、照れちゃって、、可愛いんだ。」
「貴様、それ以上俺の弟子に触れるなッ!」
我慢の限界を超えたククリが魔法を放とうとするが、グリムの反応の方がわずかに速かった。
ククリの体にはグリムの杖から放たれた無数の魔法針が刺さっていた。
「うぐ・・・これは・・・?」
「その針、毒があるからね。まあ心配しなくてもただの麻痺毒さ。
お前には死なれちゃ困るからね。色々と聞かなきゃいけないことがあるからさ。」
「先生ッ!」
レインが暴れて魔導士を振りほどこうとするが、グリムはまた杖で腹を殴りつけた。
「が・・・・・ッ。」
「大人しくしといてくれる?あんまり傷ものにしたくないんだよ。
君とは後で・・・ねえ・・・。」
レインは力が抜けたようにがっくりと項垂れてしまった。
「やめて・・・もう・・・、やめてよ・・・。
お願いだから・・・、これ以上私の大切な人達を傷つけないで・・・お願い・・・。」
泣きながら訴えるレインだったが、グリムはそれを恍惚とした表情で見ていた。
「まあ、とりあえず魔導協会の本部まで来てもらいましょうか。
おい、倒れてる二人も連れてけ。」
魔導士達がジョシュとククリを担ぎ上げ、グリムが撤収の合図を出そうとした時だった。
背後から身も凍るような殺気を感じて振り返った。
「やれやれ、騒がしいから下りて来てみたら何だこれは?
部屋で酒飲んでくつろいでたってのに。」
真剣を携えたフレイが鬼神の形相で立っていた。
「ククリ、なんだその様は。自分の弟子くらい守れんでどうする。おまけに・・・。」
フレイは剣をグリムの方に向けた。
「この程度の雑魚にやられるなど失態もいいところだ。鈍り過ぎてるんじゃないのか。」
「剣聖、来るんならもっと早く来て下さいよ・・・。」
ククリは苦しそうに顔を歪めながら笑いかけた。
「剣聖フレイ・・・・・生きていたのか・・・。」
その言葉を聞いてフレイは豪快に笑った。
「なんだ?俺が死んだとでも思ってたのか?
いくら何でもグエンごときにやられるわけがないだろう。
まあお前らのしょうもない小細工にはまったことは確かに情けなかったが・・・。
しかししょせん雑魚は雑魚。いくら策を講じたところで俺を倒せるなどと・・・、」
次の瞬間、フレイはグリムの背後に回り込んでいた。
「思い上がりもいいところだッ!」
フレイの剣が閃光のように駆け抜ける。
「があ・・・ッ!」
なんとか後ろへ飛んでかわしたグリムだったが、両腕だけがさっきまで立っていた場所にぼとりと落ちていた。
慌てて魔法の防御シールドを張ろうとしたグリムだったが、その首にはピタリとフレイの剣が当てられていた。
グリムの背中に冷たい汗が流れる。
治安部隊の魔導士達もフレイの気殺気で近寄ることすら出来なかった。
「あのさ、ものは相談なんだけど・・・見逃してくれないかな・・・。」
引きつった笑いでグリムが言う。
フレイもにやりと笑って答えた。
「断る。」
首に当てられていた剣が一閃し、グリムの頭は胴から斬り離されて床に転がった。
静まりかえる治安部隊の魔導士達に、フレイは剣を向けて言った。
「さあ、次は誰がこの剣の錆びになる?」
皆青白い顔をして後ずさり、小さく震え出す。
敵の戦意が消失したことを確認したフレイは、レインを羽交い絞めにしている魔導士二人に近づいた。
「おい、いつまでそうしているつもりだ。」
魔導士達は慌ててレインを離した。
「お前ら、余計なマネをすると首が飛ぶぞ。」
しっかりと釘を刺したあと、崩れ落ちそうになるレインを抱きかかえるフレイ。
「大丈夫か?」
さきほどの殺気は消え、父親のような顔になってレインに語りかける。
「は、はい・・・私は大丈夫です。それより・・・・・、」
「心配ない。お前の兄貴は気を失っているだけだ。ククリもすぐに俺が治してやる。」
「・・・ありがとう。」
レインはほっとした途端に気を失ってしまった。
「おい、何をボケっと見ている!誰かこの娘を介抱してやれ。
それとそこに突っ立ている賊どもをさっさと拘束しろ!」
フレイに言われ、呆気にとられていた周りの魔導士達が動き出した。
「あ、あの・・・私が介抱します・・・。」
そう言ってフレイの元にシーナが駆け寄って来た。
「そうか、では頼むぞ。」
フレイはレインをシーナに任せ、毒針で苦しんでいるククリの元へと膝を下ろした。
「随分大袈裟に苦しんでいるな。」
「何言ってんです、痛いんですよこれ。常人なら発狂してるかも。」
フレイはわずかに笑って、ククリの上に手をかざした。
そしてゆっくりと息を吸い、体内で気を十分に練った。
両手に練った気を集め、息を吐きながら一気にククリにオーラを叩きつけた。
「う・・・ッ。」
ククリの体が一瞬ビクンと跳ね、しばらくして魔法針が消滅していった。
乱れた呼吸が治まっていき、蒼白だった顔色も元に戻っていく。
ククリはふらつきながらも立ち上がり、両手を広げておどけてみせた。
「あなたレベルの活泉の気になると、下手な回復魔法よりよっぽど効きますよ。」
「当たり前だ。魔法なんぞと一緒にするな。」
立ち上がったフレイは気を失っているジョシュの元へ膝を下ろし、同じように活泉の気を叩きこんだ。
「がはッ!・・・あ、あれ・・・剣聖?いや、師匠じゃないですか・・・。」
気が付いたジョシュは状況が飲み込めずに呆然としていた。
「お前には怪我を治してもらったからな。これで借りは返したぞ。」
膝に手をついてジョシュは立ち上がり、フレイに頭を下げた。
「なんか知らんけど、助けてもらったみたいでありがとうございます。
ていうか師匠も活泉の気使えたんすね。だったら自分で治せばよかったのに。」
「あの時はグエンにやられた気の歪みのせいで力が出なかったんだよ。
弟子のくせに生意気を言うな。」
ジョシュの頭にフレイの拳骨が落ちた。
「いてッ!なんすか。いきなりどつかなくても・・・、ってレインはッ?」
ジョシュが慌てた顔で辺りを見回す。
「ああ、お前の妹ならそこだ。」
フレイが顎でしゃくった。
「レイン!大丈夫かッ?」
ジョシュは一目散にシーナの膝に頭を乗せているレインに駆け寄った。
「体のダメージは大したことはありません・・・。意識も戻ったし・・・。
けど・・・相当な精神的ショックを受けたようで力が戻りません・・・。
何かトラウマでもあるんでしょうか?」
シーナが心配そうな顔を向けた。
「昔の記憶が蘇ったんだ。お前ってそういうとこは結構繊細だからなあ。」
「ごめんね・・・何も出来なくて・・・。」
レインは申し訳なさそうに目を閉じた。
「私っていつも肝心なところでダメだから・・・。」
ジョシュは眉根を寄せてレインの鼻を押した。
「だからそういうこと言わなくていいんだよ。」
二人の会話をじっと見ていたシーナが口を開いた。
「仲がいいんですね・・・。羨ましいな・・・。」
そう言われるとジョシュは慌てて手を振りながら顔を赤くした。
「ああ、言っとくけど俺はシスコンじゃないぜ。レインがブラコンなだけだからな。」
「いいえ、ジョシュ君は十分シスコンです。」
「う・・・・・。」
赤い顔をさらに赤くして立ち上がり、ジョシュは誤魔化すように咳払いをした。
「ちょ、ちょっと師匠のところにいってくるわ。レインのことよろしくな。」
そそくさと立ち去るジョシュを見て、シーナは口元を抑えて笑っていた。
フレイとククリが話し込んでいるところへジョシュは駆け寄っていった。
「どうしたんすか?神妙な顔しちゃって。」
二人は床に転がっている物を見て沈黙していた。
「こいつを見てみろ。」
ジョシュが覗き込むと、そこには頭と胴体が斬り離されたグリムがいた。
「う・・・・ッ。」
顔をしかめるジョシュを見てフレイは笑った。
「なんだ、こういうのを見るのは初めてか?」
「はあ・・・まあ・・・。」
「だったら目を背けるな。剣士たる者死体くらいで怯えていては話にならんぞ。」
「そ、そうっすよね・・・。」
床に転がっているグリムの顔を、ジョシュは恐る恐る覗いた。
「う・・・ッ。直視はキツイっすね・・・、ってあれ・・・。」
ジョシュは見間違えかと思い、少し顔を近づけてみた。
「師匠・・・こいつ生きてません・・・?」
頭だけになったグリムの口元は、何かを喋っているように小さく動いていた。
そして斬り離された首からは白い糸のような物がウネウネと伸び始めていた。
「な、なんだこれ・・・。気持ち悪りい・・・。」
「恐らくだけど・・・。」
ククリが前置きをしてから口を開いた。
「古代魔法による肉体改造をうけているんじゃないかな。」
「肉体改造・・・?」
ジョシュが首を傾げた。
「ああ、古代魔法の中にそういうのがあってね。
普通なら死に至るような怪我でも再生してしまうんだよ。
実を言うとマーシャル・スーツの開発はこれにアイデアを得たんだ。」
沈黙のあと、ジョシュは恐る恐る尋ねた。
「ってことはもしかして・・・俺とレインの身体にもこれが・・・?」
ククリは手を振って即座に否定した。
「いやいや、あくまでヒントを得ただけで、こんな魔法は使っていないよ。
ジョシュ君とレインの機械人形は僕達のオリジナルさ。」
フレイがふんッと鼻を鳴らした。
「やはり魔法などというものはろくなもんじゃないな。俺は部屋に戻るぞ。
ククリ、後の面倒が終わったら俺の部屋に来い。ついでに小僧、お前もだ。」
フレイは剣を鞘に納めると、グリムの首に一瞥をくれてから部屋を出て行った。
「さて、こいつをどうしようか。」
ククリは腰に手を当てて見下ろした。
「とりあえず別の場所に運ぶか。すまない、こいつを入れる容器を持って来てくれ。
ちゃんと魔法処理を施してからね。」
近くにいた魔導士が返事をして部屋を出て行った。
そして拘束された治安部隊の魔導士と兵士に歩み寄ると、高圧的な目で見下ろした。
「悪いけど、しばらく身柄を拘束させてもらうよ。
大人しくしていれば手荒なマネはしない。」
ククリが合図すると、彼らを拘束していた魔導士達が別の部屋へと引き連れて行った。
「さて、とりあえず大きな被害がなくてよかった。」
ククリがそう言ってジョシュを振り返った時、シーナが大声で呼びかけてきた。
「ククリ先生!レインさんが急に痙攣し始めました!」
「なんだとッ?」
ジョシュとククリは慌ててレインの元へと駆け寄った。
顔を歪めながら体を痙攣させているレインの額に手を当てるククリ。
「ひどい熱だ。けどこれは精神的なストレスによるものだろう。
グリムのせいで昔の心の傷が開いたんだ。」
「レイン・・・。」
シーナはレインをおぶると、ククリに言った。
「あの・・・私の部屋のベッドに運びます。」
「そうだな、一人で大丈夫かい?」
「はい、ご心配いりません。」
レインを背中に抱えてシーナが歩き出すと、横にジョシュがついて来た。
「俺も行くよ。」
するとシーナは首を振った。
「大丈夫です、私が看ていますから。」
「いや、でも・・・・・。」
言いかけるジョシュの言葉を遮って、シーナは言った。
「あんまりべったりしてると、またシスコンって言われますよ。
それに着替えさせたりとかしなきゃいけないし。
ここは同じ女同士に任せておいて下さい。」
「あ、ああ。そうだな。」
シーナはペコリと頭を下げると、レインを自分の部屋へ運んで行った。
ジョシュは腕を組んでシーナを見送ると、後ろを振り返ってグリムの頭に目を向けた。
「・・・・・?」
ジョシュは一瞬自分の目を疑って瞬きをした。
床に落ちていたはずのグリムの首と胴体が無くなっていたのだった。
「あれ?ククリさんが運んだのかな?」
その場でじっと立っていると、離れた場所で魔導士と話していたククリが戻って来た。
「あ、ククリさん。グリムの身体って移動させたんですか?」
ジョシュが尋ねると、ククリは疑問譜の浮かぶ顔で首を傾げた。
「いや、まだ容器がきていないから何も・・・・・・・ッ!」
一瞬にしてククリの顔から血の気が引いた。
そして杖を構えて辺りを見回そうとした瞬間、ジョシュの上に何かが落ちてきた。
「な、なんだッ?」
「ははははははッ!油断しすぎだよお前ら!」
ジョシュの上に乗りかかっているのは、頭と胴体がつながったグリムだった。
「馬鹿なッ!いくら何でも再生が早すぎるッ!。」
「んふふふふふ、ククリさあ。
お前の知らない間に古代魔法の研究はどんどん進んでるんだよ。」
「くッ・・・不覚・・・。」
グリムはジョシュの髪を掴んで頭を引っ張り上げた。
「さて、めんどくさいフレイもいなくなったことだし、俺はこのガキだけでも連れて退散するわ。
お前らの話を聞いてたけど、どうもこのガキ自身が機械人形らしいからな。」
「貴様、意識があったのか・・・。」
「当たり前だろ。騙すだの誤魔化すだのは俺の得意分野だからな。お前も知ってるだろ?
さて、ジョシュ君だっけか?俺と一緒に・・・、うおッ!」
組み敷かれていたジョシュは、上手く体を反転させてグリムに蹴りを放った。
「いつまでも調子こいてんじゃねんぞコラッ!」
グリムを蹴飛ばして立ち上がったジョシュは、全身のオーラを高めて戦闘態勢に入った。
「さっきから好き勝手してくれやがって・・・。」
ジョシュは足を開いて体術の構えをとった。
「ほう!俺とやる気か?
でも残念でしたー。今はそんなめんどくさいことやってられないんでねえ。
またフレイが来ても困るし、ここは大人しく退散するわ。」
グリムは両手で魔術の印を結ぶと、黒い煙となって宙に浮かんだ。
「待て!逃がさんぞッ!」
ククリが杖から吹雪を放つが、黒い煙はそれをかわすと空中に散らばって消えていった。
「あはは、そういやまだ一匹ガキがいたよな。
あのガキも機械人形ってんなら、あっちを持って帰るか。」
声だけが部屋にこだまし、グリムの気は完全に消え去った。
「しまった、レインを狙う気かッ!」
「チッ!あのクソ野郎ッ!」
ククリがシーナの部屋に向かって駆け出し、ジョシュもそれに続いた。
「クソッ!僕としたことが失態続きだ!」
悔しそうに顔を歪めながらククリは駆けて行く。
二人がシーナの部屋に駆け込むと、レインを抱えたグリムがフレイと睨み合っていた。
「レインッ!」
飛びかかろうとするジョシュの腕を、フレイが掴んで引き戻した。
「何すんだッ!離せ!」
「馬鹿者ッ!よく見ろ!」
フレイに言われて目をやると、グリムの杖から伸び出た刃がレインの首に当てられていた。
「ジョシュ・・・。」
未だ体に力が入らないレインが顔を上げてジョシュを見つめる。
「・・・レイン。大丈夫だ。すぐに助けてやるからな。」
その言葉を聞いてグリムが嫌味な笑い声をあげた。
「んふふふふ、どうやって助けるのかな?言っとくけど一瞬でも妙な動きを見せたらこの女の首が落ちるよ。」
刃がレインの首に食い込んでいく。
「わかった!わかったからそれ以上レインを傷つけるな。」
ククリが焦りの表情で言う。
「ク、ククリ先生・・・・・。」
名前を呼ばれて目をやると、部屋の片隅でシーナがぶるぶると震えていた。
「何してる!早くこっちへ!」
シーナは慌ててククリ達の後ろに隠れた。
「どこまでもゲスな野郎だな。外道ってのはお前の為にある言葉だ。」
フレイが腰の剣に手をかけた。
「おっと!動くなよ。」
すかさずグリムが威嚇する。
「フレイ剣聖・・・。あんたにはいつも邪魔されっぱなしだ。
あんたがいなきゃ全てはうまくいったんだ。なのにことあるごとに邪魔しやがって。」
グリムの体が黒い煙に変わっていく。
「けど今度はそうはさせない。
いつまでも猿山の大将にでかい顔されちゃあたまったもんじゃないからな。」
レインの体は黒い煙に包まれ、窓ガラスを突き破って宙に舞い上がっていった。
「ジョシュッ!」
レインが煙の中から手を伸ばす。
「レイン!」
窓枠を蹴って飛び上がり、ジョシュも手を伸ばした。
しかしわずかに届かず、レインは黒い煙となったグリムにどこかへと連れ去られてしまった。
「レイィィィィィーンッ!」
フレイとククリも外へと飛び出したが、もはやグリムの気配は完全に消えていた。
「クソッ!なんてこった!」
ククリは悔しさと情けなさが入り混じる顔で地面を殴りつけ、フレイは眉間に皺を寄せてグリムが消えた方を睨みつけていた。
「レイン・・・すまない・・・。
守ってやれなくて・・・・・。」
ジョシュは拳を固く握るとレインが消えた空を見上げた。
「けど、絶対に助けてやるッ!何があっても絶対にだッ!
レイィーーンッ!」
レインの消えた空に、獣のようなジョシュの咆哮が響き渡った。

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