マーシャル・アクター 第六話 敵陣強襲

  • 2014.01.11 Saturday
  • 21:15
〜『敵陣強襲』〜

レインがグリムにさらわれて三日が経っていた。
ジョシュとしてはいてもたってもいられない気持ちだったが、居場所の特定に一日を費やし、またそこが魔導協会の総本山でもあった為に早急に行動を起こすことが困難だった。
当初は周りの制止を振り切って一人で助けに行こうとしたジョシュだったが、ククリから
必死の説得を受けてなんとか自分の気持ちを抑えていた。
またフレイにも単独で乗り込むのは自殺行為であると諫められ、レインを助けたいのなら今は堪えろと言われていた。
ジョシュは自分の部屋で傷だらけになった体を寝かせていた。
彼の体に無数にある切り傷や打撲はフレイがつけたものであった。
「本当はじっくり時間をかけて鍛えてやりたいが、そうも言っていられん。
一つだけ俺の奥義を伝授してやる。なんとしても短期間で習得しろ。」
フレイは拷問のような稽古をジョシュに課した。
常人では十分ともたないような稽古は、ジョシュの心と体を限界まで追いこんでいた。
しかしジョシュがそれに耐えられたのは、この奥義の習得こそが彼をレイン救出作戦に同行させる条件だったからである。
「魔導協会の総本山、セイント・パラスにはマリオンを筆頭に猛者どもがうようよいる。
今の小僧では足手まといになるだけだ。俺やククリと一緒に妹を助けに行きたければ、何としても俺の奥義を習得しろ、いいな。」
必ず自分の手でレインを救い出す。その気持ちだけで地獄の稽古に耐えていた。
フレイがジョシュに授けた奥義は《陽炎の歩》というものだった。
「これを体得出来ればお前の剣技も戦い方も遥かにレベルが上がるはずだ。」
そして今日、ジョシュはこの奥義の習得に成功した。
フレイの言う通り、この《陽炎の歩》のおかげで自分が武の境地に到達したかと思うほど剣技も体の使い方も上達した。
レインを救出に行くのは明日だった。ジョシュは何とか間に合ったのだ。
拳を固めて見つめるジョシュ。自分がどこまで戦えるかは分からない。
ククリや、あのフレイでさえ慎重に行動を進めているのだから。
しかしジョシュは決めていた。もしもの時は、自分の命と引き換えにレインを守ると。
稽古の疲れがでたのか、拳を見上げていたジョシュはいつの間にか眠りに落ちていた。

             *

翌朝、クラナドの前には六人の屈強な武術家が集結していた。
《剣聖会・六部衆》、フレイの奥義を余すことなく伝授された世界最高峰の武術家達だった。
「あなたがジョシュ君ね。六部衆リーダーのマオ・スージーよ。」
スリットの入った動きやすそうな細身の武道服を着た女性が名乗った。
しなやかな体つきに後ろで結んだ長い黒髪、釣り上がっているが優しさを感じさせる目を持ったマオがジョシュの手を握った。
「あなたは私達の弟弟子、なら兄弟も同然よ。あなたの妹を助けるのに助力は惜しまないわ。必ず助け出しましょう。」
ジョシュは無言のまま強くマオの手を握り返し、頭を下げた。
「紹介しておくわね。右から剣士のタオ。」
朗らかな顔で金色の短髪のタオがニコッと手をあげた。「よろしくな、坊主!」
「その隣が弓の達人、マルコ。」
細身で長身、長髪のマルコは「俺の矢は何でも射抜くぜ。女のハートもな。」とキザったらしく笑った。
「真ん中の彼はビズ。槍使いよ。」
スキンヘッドに厳格な顔つき、そして鎧のような筋肉を纏ったビズは小さく頭を下げた。
「ちょっと露出の多い挑発的な武道服を着てるのが蹴り技のサラ。」
セクシーな体に愛嬌のある顔で、赤い長髪を掻き上げて「お姉さんに任しとけば大丈夫。」
と投げキスを寄こしてきた。
「最後に、背が低くて小太りなのが気功師のジン。」
乱れた髪に目を閉じているかと思うほどの細目で、大量の汗を拭きながらジンは「ま、ま、ひとつよろしく。」と申し訳無さそうに言った。
「みんな個性的でしょう」とマオが笑い、目にも止まらぬ速さでジョシュの目の前に拳を打ち出してきた。
「ちなみに私は拳法家よ。よろしくね。」
「自己紹介はそれくらいでいいだろう。」
フレイが言い、ククリと共にジョシュと六部衆の前に立った。
「やることは決まっている。小僧の妹の救出。そしてマリオンとその馬鹿な手下どもを叩き潰すことだ。」
「あ〜、ようやくこの日が来たのね。」
サラがうっとりとした顔で言った。
「元々マリオンと魔導協会は叩きつぶすつもりだったからな。
少々予定が早まったが、特に問題はあるまい。
あのなんとか言う機械人形も完成したのだし、ちょうど頃合いだ。」
「ですね。かつて我らがマリオンの野望を打ち砕く為に戦いを仕掛け、身内のグエンに裏切りにあって劣勢を強いられましたが、今回はそうはいきません。
この世界の安寧を保つ為、きっちりと奴らの息の根をとめて見せましょう。」
ジョシュと話していた時とは打って変わった険しい表情でマオが言った。
フレイの目配せを受け取ったククリが頷いて一歩前に出た。
「僕もみなさんとはお久しぶりですね。お会い出来て嬉しいです。」
「嬉しいなら抱擁くらいしてよー。」
サラが茶化すと、タオが「大人しく聞いてろ」と眉を寄せた。
「ははは・・・まあそれは後で・・・。」
「絶対よ〜。」
ククリは咳払いをして仕切り直し、皆の方を見た。
「作戦は単純かつ明快です。僕の部下の陽動部隊と、武術連盟の一部の有志達が敵の注意を引きつけます。」
なるほど、ククリが忙しく動き回っていたのはこの準備の為かとジョシュは納得した。
「そして我々ですが、敵の注意が陽動部隊に向いた所で、本陣に強襲を仕掛けます。
陽動でおびき寄せるのはあくまで敵の雑兵であり、本陣の中には主力が残っているはずです。
ですから少数精鋭でもって向こうの主戦力と戦うことになるでしょう。
僕と剣聖と、後もうすぐここに来る僕の弟子の魔導士、そしてマーシャル・スーツを有するジョシュ君はセイント・パラスの中枢である魔導核施設に入り込み、マリオンとその右腕達と戦います。
おそらくレインもそこにいるはずだ。」
最後の言葉はジョシュに向けて放たれ、彼は強く頷いた。
「六部衆の皆さんには魔導核施設に入るのを妨害してくる敵を蹴散らして頂きます。
おそらく主力部隊は古代魔法による肉体改造を受けていると思われますので、くれぐれも御注意を。」
六部衆はククリの言葉に頷き、ククリも「よろしくお願いします。」と締めくくった。
「先生、お待たせしました・・・。」
息を切らせて駆けてきたのは、あのシーナだった。
「陽動部隊が出発しました。」
「ありがとう、ご苦労だったね。」
「あ、あの・・・・・。」
ジョシュは遠慮がちに手を上げた。
「もしかして、魔導協会の中枢に入り込むもう一人の魔導士って、シーナのことっすか?」
「そうだよ。」
ククリは当然だと言わんばかりに頷いた。
「言っておくけどね、彼女の魔導士としての腕は超一流だよ。
この街じゃ僕に次ぐ腕前じゃないかな。」
「・・・・・マジっすか。」
「ちょっと気の弱い所はあるけど、スイッチが入るとすごいんだから。」
シーナは恥ずかしそうに顔を俯け、杖をギュッと握りしめたままジョシュに駆け寄った。
「ジョシュ君、ごめんなさい・・・。私がもっとしっかりしていればレインさんは・・・。」
「いいって。あんな化け物相手じゃしょうがないよ。ていうかこの三日間、何回同じこと言ってんだか。」
ジョシュはシーナの肩を叩いて笑った。
「シーナは何も悪くないよ。俺が弱くて情けなかっただけだ。」
ジョシュが目を伏せると、シーナは顔を赤らめて下から覗き込んだ。
「レインさん、絶対助けましょうね!」
二人はしばらく見つめ合い、どちらからともなく二コリと笑った。
「さてさて、それじゃ行きますか。」
ククリの言葉にシーナは頷き、杖を持ち上げて魔法の詠唱を始めた。
彼女の頭上に光が集まり、巨大な魔法陣が現れた。
シーナは詠唱を終えると、「出でよ!」と大きく叫んだ。
すると巨大な魔法陣は扉のように真ん中から左右に開き、その中から風を纏った怪鳥が現れた。
「おお!すげえッ!」
ジョシュは思わず声を上げた。
怪鳥は「ギエエエエエーッ!」と雄叫びをあげて翼を広げ、周りの風を吸い込みながら見る見るうちに巨大化していった。
「ほう、これは・・・。」
フレイが顎鬚を擦りながら感心した声を上げた。
「シーナは召喚術が得意なんですよ。陽動部隊も彼女が呼び出した怪鳥に乗って敵の所へ向かっているはずです。我々も行きましょう!」
一同は巨大怪鳥に飛び乗った。
大きな翼が羽ばたいて砂埃を上げ、怪鳥の体が宙に浮いた。
「猛スピードで飛んでいきますから、振り落とされないように気をつけて下さいね。」
シーナが人間には分からない言語で怪鳥に話しかけると、怪鳥は奇声を上げて周りの風を集めた。
すると怪鳥の周りを緑色に光る球体の膜が覆った。
「風のシールドが守ってくれると思いますが、ある程度の衝撃は覚悟しておいて下さい。」
怪鳥の頭に乗っているシーナが振り返って言った。
次の瞬間、砲撃のような轟音とともに怪鳥のスピードは軽々と音速を超えていた。
「ぎゃああああッ!」
ジョシュは叫び声を上げ、必死に羽にしがみついた。
「情けない、こんなもんでビビるな!」
フレイの拳骨がジョシュの脳天に落ち、皆の笑い声が起きる。
雲の上を音速で飛びながら、ジョシュ達は魔導協会の本部、セイント・パラスへと向かって行った。

              *

 音の速さにも慣れたころ、ジョシュは遥か前方に巨大な建造物を見つけた。
「あれは・・・?」
身を乗り出して眺めるジョシュにククリは言った。
「あれが魔導協会の首都、セイント・パラスさ。
今頃先に到着した陽動部隊が敵の注意を引きつけているはずだ。」
セイント・パラスに近づくにつれ、眼下で大勢の人間が闘っている姿が見えた。
「うむ、上手くやってくれているようだね。」
セイント・パラスを囲むように陽動部隊が展開し、敵の魔導士達は首都に侵入されまいとして応戦していた。
「さて、あの街の上空には敵の空襲に備えて強力な魔法シールドが張ってあってね。
このまま行くと激突して僕たちはバラバラになってしまう。」
「バラバラって・・・じゃあどうすんすかッ!」
ククリは立ち上がると、両手で握った杖を前に突き出した。
魔法を唱えると彼の前に虹色の渦巻きが出来あがり、その中心に黒い穴が現れた。
シーナは怪鳥に指示を出して上昇させ、皆をセイント・パラスの遥か上空まで運んだ。
「さて、ここから一気に飛び下りるからね。」
「いや、いくら何でもこの高さじゃ死んじゃいますよ。
それに魔法のシールドだって・・・。」
慌てるジョシュに、ククリは「心配ない。」と言った。
「シーナ、頼むよ。」
「はい。じゃあ怪鳥さん、ありがとね。」
シーナがそう呟くと怪鳥は一声鳴いて消え去った。
「ちょ、落ち・・・・・・・、あれ?」
慌てるジョシュだったが、その体はさきほどと変わらず空に浮いていた。
「だからお前はいちいち騒ぐな。」
またもフレイに拳骨を落とされて頭を抑えるジョシュに、シーナが口を開いた。
「大丈夫ですよジョシュ君。よく見て下さい。」
「ん?見るって何を・・・・、おお!」
さきほどまで怪鳥を包んでいた風のシールドはそのまま残っていた。
「ほう!召喚獣を消してその魔法だけ残すとは大したもんだ。
これは小僧より見どころがある娘だな。」
フレイの言葉に恥ずかしそうに照れながら、シーナは杖を握りしめた。
「だから言ったでしょ、シーナはすごいって。
さて、このままセイント・パラスに突撃するから、よろしく頼むよシーナ。」
シーナは頷き、風のシールドを球体から先が尖った槍の穂先のように形状を変えた。
ククリはその先端で虹色の渦巻きを前に突き出した。
「では!」
風のシールドが猛スピードでセイント・パラスに落下していく。
「うわああああああああッ!」
叫び声を上げるジョシュとは反対に、武術家の面々はアトラクションでも楽しむかのように笑っていた。
セイント・パラスの魔法シールドに猛スピードで落下して近づいていく。
「うわあ、ぶつかるううううッ!」
ジョシュが叫んで身構えた。
しかし二つのシールドがぶつかるその瞬間、ククリの虹色の渦巻きの穴が拡大して、セイント・パラスの魔法シールドの一部を吸い取って穴を開けた。
ジョシュ達を包んだ風のシールドは何事もなく通過し、ふわりと着地するとシャボン玉のように消え去った。
「た、助かった・・・・・。」
「何をほっとしている。ここからが本番だろうが。」
フレイが剣を抜いて構える。
気が付くと周りを敵の魔導士に囲まれていた。
「街の中の警護にあたっているということは上級魔導士だな。」
六部衆のタオが首を鳴らしながら言った。
「何者だ貴様らッ!」
わらわらと魔導士達が集まって来る。
「貴様ら、魔導協会の本部に少人数で乗り込んでくるとはいい度胸・・・、グゲッ!」
マオが裏拳を放ち、喋っていた魔導士は城壁まで吹き飛ばされていた。
「さあ、さあ、ここの雑魚どもは私達に任せてちょうだい。」
サラが武道服のスリットを捲りあげながら言う。
「そうそう、中枢の建物までへの道は僕が作りますんで。」
弓使いのマルコが身の丈ほどもある鉄弓を構えた。
構えた矢もこれまた身の丈を越す鉄製のもので、マルコは矢にオーラを込めると敵に警告した。
「死にたくない奴はどいてなよ。」
「なにおうッ!」
魔導士達はこめかみに血管を浮き上がらせて応戦の構えを見せた。
「馬鹿だねえ・・・。」
解き放った矢はまるでレーザーのように光閃が走り、道を塞いでいた魔導士や建物が一瞬にして消し飛んだ。
「す、すげえ・・・。」
「感心している場合か。一気に駆け抜けるぞ!」
フレイが疾風のごとく駆け出し、ククリもシーナを担いでその後を追った。
「ジョシュ君。」
マオが呼びかける。
「ここは私達に任せて、あなたは妹さんを救い出してきなさい。
そして、お互い必ず生きて会いましょう。」
「・・・・・はい!」
ジョシュは米粒に見えるほど遠くまで駆けて行ったフレイ達を追いかけた。
「ふふふ、死ぬんじゃないわよ、弟弟子。」
「さ〜て、俺らは俺らの仕事をしますか。」
タオが柄だけの剣を持ち、オーラを込めて闘気の刃を作りだす。
「そうね、こんなのさっさと終わらせてククリ君に抱擁してもらわなきゃ。」
軽く蹴り上げたサラの足が空を斬り裂いて砂埃を上げる。
「無駄なく速やかに仕事を終わらせるのが武人の務め。」
地面を突いたビズの槍が大地を揺らす。
「それ同感。今日は美人と会う予定があるんで遅刻出来ないんだよね。」
マルコが二発目の矢を構えてオーラを込める。
「まあ、あれですな。こんな雑用はさっさと終わらせたいということですな。」
気を集めたジンの腕が丸太のように太くなる。
「はあ・・・はあ・・・、貴様らあ・・・、許さんぞお・・・。」
城壁の瓦礫の下から先ほどの魔導士が起き上がってきた。
「よく聞け!我らはマリオン大師様より古代魔法の力を頂いた!
この前のような失態は二度と・・・・・ブべッ!」
マオが放った気の砲弾が直撃して再び魔導士を城壁まで吹き飛ばす。
「うるさい。お前達のような歪んだ心の持ち主は、この拳王マオが鉄拳制裁をもってその根性を叩き直してくれるわッ!」
「お、おのれええ!」
「あら、また立ち上がってきた。意外と丈夫、うふふ。」
サラが馬鹿にしたように笑う。
「我が精鋭部隊よ!今こそマリオン大師様に授かった力を解放せよッ!」
六部衆をとり囲んでいた魔導士達は杖を投げ捨て、その体から強大な魔力を発した。
「おお!こりゃあ中々・・・。」
「・・・・・うむ。遊びというわけにはまいりませんな。」
強大な魔力を放つ魔導士達に、六部衆の顔つきが変わる。
「なるほど、鉄拳制裁では済みそうにないな。
ならばこの白銀の拳で砕くまでよ!ゆくぞみんな!」
「オウッ!」
「調子に乗るなよ・・・。行け我が精鋭部隊!奴らを肉片一つ残らず消し飛ばせッ!」
咆哮を上げながら六部衆と魔導士達の戦いが始まった。
白銀のオーラを纏う拳で敵を粉砕しながら、マオはジョシュ達が向かった建物を振り向いた。
《剣聖、ジョシュ君、そして仲間の方々も、どうか御無事で》

             *

「思っていたより警備は手薄だな。」
魔導核施設内の部屋で、フレイが剣を拭きながら後ろを振り返った。
魔導核施設の入り口、そしてここまでの通路には魔導士達の無数の屍が転がっている。
「やれやれ、剣聖フレイの名は健在ですね。
あなたが一瞬にして斬り裂いたのは全員一級魔導士ですよ。
それも古代魔法による肉体改造を受けたね。」
呆れ顔のククリに対し、フレイは「ふんッ」と悪態をついた。
「いかに力を持とうが心に隙があれば何の意味もない。
お前達魔導士の最大の弱点だ。」
「確かに・・・、魔導士は魔法という強力な力を扱えるが故に、精神的に隙のある者はいますが、ただ・・・。」
「分かっている。」
フレイは建物の中にある魔導核施設の中枢へ繋がる扉を見た。
「ここより先で待ち構える敵は今までような雑魚とは違う。
一瞬の油断が死に繋がるような連中ばかりだ。」
その言葉にククリは無言で頷いた。
「小僧ッ!」
「はい!」
ただただフレイの剣さばきに感心していたジョシュが顔を上げた。
「よいか、ここより先には俺やククリの因縁の敵が待ち受けている。
お前のフォローをしている余裕はないだろう。」
「何言ってんすか。誰も手助けなんかしてもらおうなんて思っちゃいませんよ。
それに俺のやることはただ一つ、レインを助け出すことです。
たとえ何があっても、どんなことをしてもね。」
フレイは何も言わずにジョシュを見据えた。
そしてくるりと背を向けて目の前の扉を切り裂いた。
音を立てて崩れ落ちる金属製の扉を見つめ、ジョシュが覚悟を決めた目でその先を睨んでいると、突然服の裾を引っ張られた。
「ジョシュ君・・・・・。」
振り返るとシーナが上目遣いに立っていた。
「レインさんを助けるのはもちろん大事ですが、あまり無理はしないで下さいね・・・。
自分の命のこともちゃんと考えないと・・・。」
「・・・・・。」
沈黙するジョシュを見て、ククリが口を開いた。
「シーナ、やっぱり君はジョシュ君と行きなさい。僕なら大丈夫だから。」
「・・・はい。」
「どういう意味っすか・・・?」
ジョシュが顔を強張らせて尋ねた。
「ふん!小僧よ、お前はいよいよともなれば妹の為に死ぬつもりだろう。」
「ッ!」
「図星か。貴様の顔を見ていればそれくらい分かるわ。」
俯くジョシュの顔先に、フレイは剣を向けた。
「よいか小僧!この俺に無断で死ぬことなど許さん!
弟子をみすみす死なせたとあっては剣聖の名が泣くというもの。
それに貴様にはまだまだ叩きこまねばならん事がたくさんあるのだ。
たかが奥義の一つを継承したくらいで思い上がるなよ!」
そう言ってフレイはスタスタと先へ歩いて行ってしまった。
「相変わらず素直な物言いじゃないねえ。」
ククリは肩をすくめて笑った。
「でもジョシュ君、剣聖の言う通りだよ。安易に命を投げ出そうとしていけない。
考えてごらん。もしレインを助け出しても、君がいなければ彼女がどれほど悲しむか。」
「・・・・・・・。」
「大丈夫さ、君もレインも死なせやしないよ。
ただそれでも、色んな意味での不安があるからシーナは君に同行させる。
彼女の力はここへ来る時にその目で見ただろう。きっと君の助けになる。」
黙っていたジョシュがククリを睨んで口を開いた。
「要するに、俺は弱いってことっすか?」
「ああ、そうだよ。まだまだ君は未熟だ。
君がマーシャル・スーツの肉体を持っていなければ、絶対に同行させなかったね。」
「・・・・・・・・。」
「ジョシュ君・・・・・・。」
ククリは踵を返してフレイの後を追う。
「拗ねるのは誰でも出来る。大切なのは前に進もうとする心意気さ。
僕だって剣聖と同じで、君の将来の可能性には大いに期待しているんだ。」
その場に立ち尽くすジョシュを置いて、二人はどんどん先を行く。
レインを助ける戦いに、自分の力が戦力外通告を受けたことは大きなショックだった。
ジョシュは悔しさのあまり、血が流れるほど唇を噛んでいた。
「ジョシュ君・・・・・。」
シーナが目の前に回り込んでジョシュを見つめる。
「先生も、剣聖さんも、ジョシュ君が大事だからああ言ったんです。
確かにきつい言い方だったけど・・・・・、でも二人ともレインさんにもジョシュ君にも無事でいてもらいたいんです。
だから・・・・・、私にもお手伝いさせて下さい・・・。」
ジョシュはしばらく黙ってその場に立ち尽くしていた。
唇だけではなく、握った拳からも血が流れていた。
「・・・ジョシュ君・・・。」
シーナが杖を握りしめて心配そうな、そして悲しそうな瞳を向けてくる。
「・・・・・・。」
きつく握った拳から力が抜け、ジョシュは無言のまま歩き出した。
そして振り返らずに言った。
「レインにもよく言われたよ、俺はすぐ拗ねるって・・・。
けど、やっぱかっこ悪りいよな、これ。」
足を止めてシーナを振り返る。
「半人前で悪いけど、一緒に戦ってくれるか?」
シーナの表情がパッと明るくなり、嬉しそうにジョシュに駆け寄った。
「はい、もちろんです!力を合わせて、必ずレインさんを助けましょう。」
扉の先を真っすぐ進むと、地下へ下る魔法装置の前でフレイとククリが待っていた。
「遅いぞ、あと一分遅れたら俺達だけで行くところだったわ。」
「ははは、まあまあ。若いうちは色々と葛藤がありますよ。」
ジョシュは顔を上げ、二人の元へと歩み寄った。
「この戦いが終わったら、多分俺は二人が目ん玉ひん剥くくらい成長してますよ。」
「ふん、減らず口を。」
ククリとシーナは顔を見合わせて笑った。
「ではいくぞ!全員死ぬなよ!」
フレイの言葉に皆が頷き、地下へと下りていった。

calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM