マーシャル・アクター 第八話 マーシャル・スーツ発動

  • 2014.01.12 Sunday
  • 19:27
〜『マーシャル・スーツ発動』〜

「ほとんど敵がいないっすね。」
道が分岐する広場に出て、ジョシュがここまでの道のりを振り返った。
「ここは魔導協会の最重要施設だからね。ほんの一部の魔導士しか入れないのさ。
ただその代わり・・・、」
通路の前方に気配を感じて全員が目をやった。
「その代わり、ここにいる魔導士は外の雑魚どもとは違うってことさ。」
「お前は・・・・・。」
ジョシュが腰の剣に手をかけていきり立つ。
「やあ、クソガキ。妹を取り返しに来たか?」
グリムが嫌味な笑顔を浮かべて言った。
「てめえ・・・レインはどこだ?あいつに何もしてねえだろうなあ・・・。」
獣のように歯を剥き出して威嚇するジョシュに、グリムはレインの首飾りを見せた。
「いやあ、おいしく頂きましたよ。あの子初めてだったんだろ、すんげえ嫌がってたよ。
でもそれがたまんないよね、一年後には俺の子供が生まれてたりして、ははははは。」
「てめええええッ!」
飛びかかるジョシュをフレイが引き戻した。
「落ち着かんか!こんな安っぽい挑発に乗るなッ!」
「挑発・・・・・・?」
ククリが二人の前に歩み出た。
「レインはマーシャル・スーツの肉体を持っている。
これはマリオンにとっては最高の研究素材だろう。
あの人が自分の大切な物を他人に触れさせたりするものか。
もしお前がレインに手を出していたら、お前はもうこの世にはいないはずだ。」
グリムは手の中で首飾りを弄んで笑っている。
「さすがは元マリオン大師の弟子だな。
お前の言う通り、俺はあのガキに指一本触れさせてもらってないよ。」
嫌味な笑いを引っ込め、真顔になったグリムは杖をククリに向けた。
「楽しみにしてたのにさ・・・まあ仕方ないよな。
さて、俺がここへ来たのは戦う為じゃない。ククリ、お前に伝言があるからだ。」
「伝言?」
「ああ、マリオン大師からの言葉だ。
簡潔に言うよ、《お前には才能と力がある。私の元へ来い。》だ。」
「はあ?お前何言ってんだ・・・。」
ジョシュが呆れた顔をしていると、ククリが満更でもない顔で言った。
「条件によるな。」
「な、何言ってんすかッ!」
ジョシュが目を吊り上げて詰め寄る。
しかしククリはそれを無視して続けた。
「レインを無事に返すこと、古代魔法を全て封印すること、魔導協会を解体すること、そして・・・、」
ククリもグリムに杖を向けた。
「マリオンとグリム、この二人を永久に地下牢に押し込めること、それが条件だ。
この条件を飲むなら肩書き上は弟子に戻ってやってもいい。」
一瞬顔をしめたグリムだったが、すぐに声を上げて笑いだした。
「それは無理だな。なら仕方ないけど、お前ら全員ここで死んでよ。」
顔を強張らせたグリムの魔力が高まっていく。
「気をつけろよ小僧!」
フレイがジョシュの前に立った。
法衣のマントを広げ、グリムの身体が露わになる。
その肉体は人間のものではなかった。
ぱっくりと割れた胴体は内蔵が剥き出しになっていて、うねうねと動く肋骨はまるで生き物のようだった。
「あれからさらに改造を受けたのか?」
「ああ、もうとても人間とはいえない身体になったが、そんなことはどうでもいい。
それ以上に素晴らしい力が手に入ったんだからな。
お前らにも十分堪能させてやるよ!」
割れたグリムの胴体から強大な邪気が吹き出し、生き物のように動く肋骨が折り重なって魔獣へと姿を変えていった。
「さて、俺は野暮用があるんで失礼するよ、また後で会おう。
まあ、生きていたらの話だが・・・。」
下品な笑い声とともに、グリムは黒い煙となって消えていった。
後には三匹の巨大な魔獣が残されていた。
腐敗した屍を無理矢理動かしているようなおぞましい姿の魔獣は、顔を苦しそうに歪めて咆哮した。
「俺は真ん中の一番でかい奴をやるぞ。」
魔獣に歩み寄りながらフレイが言う。
「分かりました、残った二匹はだいたい同じくらいの力のようですね。
シーナ、こいつはけっこう手強いぞ。ジョシュ君のサポートをしっかり頼む。」
「はい。」
剣を抜き、オーラを高めるジョシュにシーナが言った。
「手強いですが勝てない相手ではありません。しっかり気を引き締めていきましょう。」
「ああ、こんなとこでやられてらんねえからな。」
フレイが剣を構えて叫ぶ。
「ゆくぞ!」
三匹の魔獣が雄叫びを上げながら襲いかかってきた。
「ぬうんッ!」
フレイが剣を一閃すると、魔獣の顔は二つに切り裂かれた。
しかしすぐに再生し、口から黒炎を吐いてくる。
ククリも得意の冷却魔法で魔獣を凍りつかせるが、気にもとめずに突進してくる魔獣をかわして次なる魔法を放った。
ジョシュ達に向かってきた魔獣は、シーナが召喚した岩石の戦士とぶつかっていた。
魔獣の黒炎が一瞬にして召喚獣を消し去ったが、素早く背後に回り込んだジョシュの剣が足を切り払っていた。
ジョシュの方に戦意を向けて反転する魔獣だったが、続けてシーナが召喚した鉄のサソリの聖獣に毒針を打ちこまれて悶えていた。
ジョシュはすかさず剣を振り、魔獣の身体を斬りつけていく。
ジョシュとシーナの攻防は完全に息の合ったものだった。
「なかなかやるな。」
「ええ、ジョシュ君は魔導士の戦い方をよく知っているようです。
伊達にレインと一緒にいたわけじゃ、・・・、おっと!」
ククリの眼前に魔獣の爪が掠める。
「いつまでもこのような雑魚と遊んでいられん。」
「ですね。」
ククリは魔法を唱えて杖を長いイバラの鞭に変えた。
そしてそれを解き放つと魔獣の体にぐるぐると巻きついていった。
振り解こうともがく魔獣であったが、動けば動くほど体にイバラが絡みついていく。
まるで蜘蛛の巣に絡まったように身動きがとれなくなった魔獣は怒り狂って咆哮した。
「さて、これで終わりだ。」
ククリは両手で素早く印を結び、床に魔法陣を出現させて地獄から飽食の魔王を呼びだした。
恐怖を喚起する雄叫びを上げながら大口を開けて召喚された飽食の魔王は、飴でも飲み込むように魔獣を平らげ、プっと杖を吐き出して地獄へと戻っていった。
「相変わらずお前の呪術は恐ろしいものだな。死神の名は健在ということか。」
フレイが可笑しそうに笑う。
「その呼び名は嫌いなんですよ。僕の優しい人というイメージが崩れますから。」
「ははは、戦い方は優しさの欠片もないがな。」
一番大きな魔獣が口からはみ出るほどの黒炎をたくわえた。
フレイは青眼の構えをとり、魔獣に向かい合う。
そして爆音が響いて魔獣の口から黒炎が放たれた。
フレイの剣に黒炎が触れる寸前、清流を思わせるような一点の淀みもない斬り込みが放たれた。
黒炎は真っ二つに斬り裂かれて霧のように消え去っていく。
気が付けばフレイは魔獣の後ろに移動していて、呼吸を乱すことなく静かに剣を鞘に収めた。
パチンと鍔が音を立てた瞬間、魔獣も二つに切り裂かれて霧のように消滅していった。
「剣聖こそ相変わらず見事な剣捌きで。」
「褒めても何も出んわ。さて、小僧どもは・・・。」
ジョシュは落ち着いた顔で魔獣と向かい合っていた。
サソリの聖獣は魔獣の体にしがみついてまだ毒針を打ち込み続けていたが、魔獣は毒に耐性が出来たようでまったく効いていなかった
「ふむ、いいぞ。そのまま冷静さを失わずに闘え。」
雄叫びを上げながら魔獣がジョシュに飛びかかってきた。
しかし次の瞬間、ジョシュの体はゆらりと揺れて消えていた。
「おお!陽炎の歩を使うか!」
フレイが興味深く見つめる。
敵を見失った魔獣は辺りを見回すが、ジョシュの気配を察知することが出来ずに苛立った顔をしていた。
そして魔獣が牙をむき出して吠えた瞬間、一筋の剣閃が魔獣を襲った。
下から放たれた剣閃は確実に魔獣の体を捉えていたが、わずかに致命傷に至らなかった。
「惜しいな。実戦での経験があれば決まっていただろうに。」
ジョシュの姿が見えないことと、腹を切り裂かれたことに怒った魔獣は背中のサソリを尻尾で絡めて引きずり下ろし、そのまま食い尽くしてしまった。
すると見る見るうちに魔獣の体が変貌していく。
腐敗した体は鉄で覆われ、尻尾は長く伸びて毒針を携え、体は倍ほどに巨大化した。
「おい、これは・・・・・。」
「敵の魔力を吸収するという古代魔法特有の力ですね。」
変貌した魔獣はジョシュの気配を窺っている。
そしてわずかに空気の振動を感知すると、尻尾を振り上げて毒針を放った。
金属同士がぶつかる音が響き、吹き飛ばされたジョシュは壁に叩きつけられた。
「なんとか防いだか・・・しかし・・・。」
助太刀しようとしたフレイをククリが引き止めた。
「待って下さい。ちょうどいい機会です。」
ククリはジョシュに向かって叫んだ。
「ジョシュ君!マーシャル・スーツを発動させるんだ!」
「は、発動って・・・、どうやって?」
ふらつく身体を起こしながらジョシュが尋ねる。
「簡単だ。コアに君のオーラを送ればいい。
どうやったらいいかは感覚的に分かるはずだ。なんたってそれは君の肉体なんだから!」
立ち上がったジョシュはククリの言葉に頷き、体内にあるコアを感じてみた。
体の中心に、わずかにジョシュのオーラに反応する物があった。
「これか・・・?」
少し躊躇いながらもコアにオーラを送るジョシュ。
「ジョシュ君!」
心配したシーナが駆け寄って来る。
力が増大するジョシュを警戒した魔獣は、走って来るシーナに戦意を向けた。
「いかんッ!」
フレイが剣に手をかけて飛び出すが、魔獣の毒針はシーナの目前に迫っていた。
「きゃああああッ!」
シーナのいた場所に魔獣の毒針が突き刺さり、床に巨大な穴を開けていた。
「くそッ!シーナ!」
ククリが魔法を飛ばそうとするが、「待て!」とフレイの声がかかる。
魔法を中断し、ククリはフレイの視線を追って魔獣の毒針に目を凝らしてみた。
じっと見つめていると、床に空いた穴の中で何かが動いているのに気づいた。。
「おお!あれは僕達が造り上げた・・・・・。」
二撃目を加えようと尻尾を持ち上げる魔獣であったが、振り下ろそうとした瞬間に何かが巻きついて来て動きを封じられた。
「ふう・・・。大丈夫かシーナ?」
「う、うん・・・。ジョシュ君・・・それ・・・。」
「おう、これが俺の新しい体、マーシャル・スーツってやつか。」
穴から飛び出てきたジョシュは、シーナをそっと床に下ろした。
「なんと・・・・・。」
フレイがジョシュの体を見て息を飲む。
エナメルのような光沢を放つ金属の鎧、東洋の龍を思わせる背中まで伸びた長い頭飾り、フルフェイスの鎧のような顔の中で目が青く輝いている。
中世の騎士を機械的にアレンジしたような井出達の身体は、見る者に威圧感を与える重厚さがあった。
長身のフレイが見上げるほどの巨躯のマーシャル・スーツは、魔獣を縛っている武器を振り上げた。
すると敵の巨体は軽々と宙を舞い、凄まじい勢いで床に叩きつけられた。
軽く手を振ると、魔獣を縛っていた武器がジョシュの手元の長い柄に戻ってくる。
「これは・・・槍か?」
「みたいっすね、よくわからんけど。」
《ジョシュ、敵はまだ生きている。油断するな。》
「分かってるって。」
ジョシュは頭の中に話しかけてくる声に返事をした。
身体を起こした魔獣がジョシュに向かって吠えた。
身を屈ませ、後ろ足の筋肉が膨らんでいく。
そして床が砕けるほどの力で地面を蹴り、巨体には似つかわしくない速さで飛びかかってきた。
ジョシュは落ち着いた様子で左手を持ち上げた。
すると前腕に内蔵されている魔法シールドが展開し、突進してきた魔獣とぶつかる。
何かが弾けたような音が響き、魔獣はシールドに吹き飛ばされて壁に激突していた。
《敵は弱っている。とどめをさすなら今が好機だ。》
「おう!」
シールドの中からプラズマを纏ったフレードが伸びてくる。
体の各部に付いたブースターから圧縮空気が吹き出され、ブレードを構えたまま魔獣に向かって飛んで行く。
「グオオオオオオオオーーンッ!」
ブレードが魔獣の身体に突き刺さり、苦しそうな雄叫びが響き渡る。
そして刀身から放たれたプラズマが一瞬にして魔獣を灰に変えてしまった。
「す、すごい・・・・・。」
シーナが杖を握りしめて驚愕する。
「うん、これは予想以上だよ。ジョシュ君の魂とこのマーシャル・スーツの相性が良いんだろうね。おそらく他の人間じゃここまでの発動は出来ないよ。」
《敵の消滅を確認。周囲に敵の気配も察知できない。戦闘形態を解除する。》
ジョシュの体が見る見るうちに元へと戻っていった。
「ジョシュ君!」
ククリとシーナが駆け寄って来た。
「すごいね!かっこよかったよ!」
「そ、そうか、あははは。」
「素晴らしい!僕達も造った甲斐があるってもんだよ。」
二人に褒められ、ジョシュは頭を掻きながら照れていた。
「ふん!確かに恐ろしいほどの力だが、だからこそ危うさもある。
小僧!力に溺れることなく、精神面の大切さも忘れるなよ。
大きな力というのは、あっさりと人の心の飲み込むものだからな。」
フレイに釘を打たれ、「分かってますよ。」と口を尖らせた。
「さて、ここからどうするか・・・。」
フレイは通路の先にある二つの扉を見た。
「片方は魔導核施設の中枢へと繋がる道です。もう片方は祭壇ですね。
魔法は精霊や聖獣の力を借りて行いますから、それらに祈りを捧げる場所です。」
ククリが言うと、フレイは顎に手を当てた。
「どちらが危険だ?」
「決まってますよ、魔導核施設の中枢室の方です。
おそらくマリオン達もそこにいるでしょうし、レインが囚われている可能性も高い。」
「ふうむ・・・。」
しばらく思案してから、フレイは左側の扉に目をやった。
「ククリと小僧達は魔導核施設の中枢とやらへ行け。俺はその祭壇とやらに向かう。」
「いや、祭壇の方に行っても何も無いと思いますよ。
ここは分散せずに固まって行動した方が・・・。」
「分かっている。だがこの先からは何かを感じるのだ・・・。」
「何かって、いったい何を?」
「分からん。ただの勘だ。」
「・・・分かりました。剣聖がそう言うのなら・・・。」
ククリはジョシュとシーナを振り返った。
「僕たちは魔導核施設の中枢室へと行こう。きっとレインもそこにいるはずだ。」
「はい!でも師匠は一人で大丈夫っすか?」
そう言った途端にフレイの拳骨が落ちた。
「いてッ!なんすか?人が心配して言ってるのに。」
「貴様に心配されるほど落ちぶれてはおらんわ。人の心配より自分の心配をしろ。」
ムスっと拗ねるジョシュを残し、フレイは扉を切り裂いて先へと進んで行った。
「何もなければ俺もすぐにお前達の後を追う。それまで生きておれよ!」
駆け出したフレイはすぐに見えなくなってしまった。
「まあ・・・あの人なら一人でも大丈夫だろう。僕達も先へ進もう。」
三人は魔導核施設の中枢へと繋がる扉を進んで行った。

             *

ジョシュ達が魔獣を倒す少し前、六部衆は街の敵を殲滅したところだった。
「なかなか手強かったな。」
「ほんと、剣聖は楽な仕事だなんて言ったけど、どこが楽なのかしら?」
「まあまあ、あの人の楽な敵っていうのは、それ以外の人間にとっちゃ化け物と一緒だから。」
六部衆の足元には魔導士達の屍が転がっていた。
「確かに手強い相手だったけど、なんとか全員無事でいられたわね。」
マオが拳の皮巻きを直しながら言った。
「んで、どうする?先生には街中の敵の殲滅ってだけ言われたけど、もうやることもないし後を追うか?」
タオの問いに、マオはしばらく考えた。
「あ、俺はパスね。この後美人とデートしなきゃいけないから。」
「マルコ殿は相変わらずの好色家ですな。」
「おいおい、その言い方はよしてくれよ。俺はどの女の子も大事に付き合ってるんだぜ。」
「それが好色家なのよ。」
サラが尻を蹴飛ばした。
「で、どうするマオ?」
思案顔のマオは「そうね。」と呟いた。
「半分はここに残って警戒に当たりましょう。まだ敵が残っていないとも限らないし。
私とあと二人は剣聖達の後を追いましょう。戦力は多い方がいいでしょうから。」
マルコを除いた全員が頷いた。
「マルコ殿、今日のデートは諦めなされ。」
ジンに肩を叩かれ、マルコはがっくりと肩を落とした。
「それじゃ私とマルコ、そしてジンは剣聖の後を、残りはここの・・・、」
「待たれよ!何者かがこちらへ来るぞ。」
ビズが槍を構えた。
全員がビズの視線の先を追う。
「あれは・・・・・。」
白衣を身に付けた複数の男達が六部衆に近づいて来た。
「やあやあ、これは武術連盟の精鋭、六部衆の皆さんじゃありませんか。」
痩せた体に白衣を纏い、ぼさぼさの白髪と髭をたくわえた眼鏡の男が現れた。
「あなたは・・・次世代文明管理会代表のヨシムラ博士・・・。」
「ほう、私を御存じとは光栄ですな。あまり表に出ないものですから。」
六部衆の間に妙な緊張感が走った。
「あなたがなぜここに?」
拳こそ構えていないが、マオの気はヨシムラを警戒していた。
「なに、野暮用ですよ。ちょっと魔導協会と合同実験がありましてね。
あなた方にお話するような内容ではありません。」
ヨシムラはクイっと眼鏡を持ち上げて顔を逸らす。
「なーんか怪しいなあ。」
タオが腰に手を当てて前に出てくる。
「俺はいまいちあんた等科学者ってのを信じてなくてねえ。
ていうかその後ろのデカイ箱はなんだい?
やたらと大袈裟な機械で覆われてるけどさ。」
ヨシムラの後ろには機械の台座に備え付けられた金属の箱があった。
「まるで棺桶みないな形してるけど、死人でも入ってるのかい?」
「・・・・・・・。」
「返事無しか・・・、どうするマオ?」
マオはヨシムラのすぐ目の前まで歩み寄り、険しい顔を向けた。
「申し訳無いけど、この先は通せないわ。
どの道今日は合同実験なんて出来ないでしょうし。」
うんざりしたように首を振り、ヨシムラは眼鏡を取って後ろの箱を振り返った。
「まったく・・・これだから筋肉馬鹿の山猿どもは・・・。
何一つ理解しちゃいない・・・。」
「ほお、そりゃどういう意味だい?」
タオが闘気の剣をヨシムラの首に当てた。
「言っとくが、余計な企みはしない方がいいぜ。
あんたからは歪んだオーラを感じるんだよ、あのマリオンとそっくりのな。」
「そうね、自己中な男特有の臭いがするもの。私こういう人って嫌い〜。」
ヨシムラは口の端を持ち上げて笑い、眼鏡をかけ直して振り向いた。
「まったく・・・君達武術家というのは本当に知性の欠片もない言動をするね。
・・・まあいい。山猿どもを実験台にするのも悪くはないか・・・。」
彼の眼鏡の奥の瞳に殺気を感じ、六部衆が戦う構えを見せた。
「さっきも言ったはずよ。余計な動きを見せたら容赦はしない。
あなたが何かをするより、私の拳の方が確実に速い。これは警告よ。
いったい何を企んでるの?そしてその箱はいったい何?。」
ヨシムラはおどけたように肩を竦ませた。
「構わんよ。というより、彼も君達との再会は喜ぶかもしれない。」
「・・・?どういう意味?」
「おい、起動させろ。」
ヨシムラの合図で背後の科学者達が台座の機械を操作した。
ピピっという短い電子音が流れ、白い煙を上げながら金属の箱が開いていく。
「なッ!これは・・・・・。」
「嘘だろ・・・。」
箱の中から出てきたものを見て、六部衆は驚愕した。
台座から飛び降りて六部衆の目の前に立っているのは、全員がよく知る人物だった。
「グエン・・・その体はいったい・・・?」
マオがグエンと呼んだその人物は、人の顔と身体をしてはいるが、全身が鈍い銀色の皮膚で覆われていた。
端整な顔立ちにオールバックの銀髪、身体は鍛え抜かれた筋肉を纏っている。
その目は紫に輝き、身体から強い魔力と闘気を発していた。
「やあ、久しぶりだねマオ。」
驚きで声の出ない六部衆。それを見てヨシムラが口を開いた。
「御存じの通り、彼は現術連盟会長のグエン老子です。
六部衆の元リーダーでもありますが・・・ああ、あの時は七部衆でしたか?
皆さんの旧友ですな。」
グエンは一歩前に出てマオに語りかけた。
「なんだいその顔は?かつての恋人に会えて嬉しくないかい?」
その言葉にマオが小さく肩を震わせて叫んだ。
「ふざけないで!この裏切り者が!
あなたさえ・・・あなたさえ裏切らなければ・・・あの時マリオンの首を討ち取ることができたのに!」
「それだけじゃねえ。」
タオが殺気の宿った瞳で剣を向ける。
「お前のせいでどれほど剣聖が・・・俺達が危ない目に遭ったか。
そして何より、マオがどれほど傷ついたか・・・・・。」
マオは拳を握って俯いていた。
「ああ、すまないねタオ。君はマオに惚れていたから、余計に悔しかったろうね。」
「てめえ・・・ッ!」
剣を握るタオの手に力が入る。
「やあ、後ろのみんなも久しぶりだね。元気そうで何よりだ。」
「相変わらず白々しいこと言う男ね。私の一番嫌いなタイプの性格は直ってないみたいね。」
サラがスリットを捲り上げて脚を伸ばした。
「まったくだ。お前は一番後から入って来たから優しくしてりゃどんどんつけ上がってったよなあ。」
マルコが弓矢を構える。
「武の才能でお主の右に出る者はいなかった、剣聖を除いてだがな。
だが武人の誇りは当時から欠片もなかった・・・。」
ビズが槍の穂先を向けた。
「正直二度と見たくない顔でしたな。
弟弟子といって甘やかした我々にも責任はありますが・・・。」
ジンの筋肉がオーラで膨れ上がった。
「グエン老子。六部衆が相手なら試験戦闘にはもってこいでしょう。
それともかつての同志と拳を交えるのは抵抗がおありかな?」
ヨシムラの言葉に、グエンは軽く微笑んだ。
「何をおっしゃるのです。私はこの肉体を手に入れた時点で人間をやめているのですよ。
下らないヒューマニズムなど欠片も残っていませんよ。」
そう言って拳を握るグエン。
「やはり・・・あなたは邪悪な思想の持ち主だったのね・・・。
いつか改心してくれると思って私も剣聖も期待していたけど・・・もう無理ね・・・。」
マオが足を開いて拳を構える。
「私の生涯でただ一人愛した男・・・せめてこの拳で葬ってあげるわ。」
マオの真剣な顔を見て、グエンは肩を震わせて笑った。
「何を言っているんだい?マオが初めて愛したのは剣聖だろう?」
「・・・・・ッ!。」
「彼に手が届かないものだから僕に乗り換えたのは知っているよ。それにね・・・。」
グエンは二コリと微笑んでマオに顔を近づけた。
「僕はマオのことを愛したことなんて一度もないよ。
君と恋人になったのは、手っ取り早く周りの信用を得る為だ。
君は僕の為にあれやこれやと世話を焼いて駆け回っていたね。
まったく、御苦労なことだよ。」
声を上げて笑うグエンに、マオは顔を俯かせて悲しそうに目を伏せた。
「もうダメだなこりゃ。」
「そうね、マオ、こいつの言葉を真剣に聞く必要なんてないわ。
もともと信用のならない男だったんだから。」
マオは顔を上げ、両の拳を白銀に輝かせた。
「もう・・・これ以上お前と話すことなどない・・・。
我が白銀の拳に砕かれ、塵に還るがいいッ!」
拳を構えて飛びかかるマオを筆頭に、六部衆がかつての仲間に挑みかかる。
そこには恐ろしいほどあっけなく、凄惨な結末が待っているとも知らずに・・・。

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