マーシャル・アクター 第九話 弟子との死闘

  • 2014.01.12 Sunday
  • 19:36
〜『弟子との死闘』〜

「師匠は大丈夫っすかね?」
「僕の知る限り、この世にあの人より強い人間はいないよ。ただ一人を除いてね・・・。」
「誰っすかそれは?」
「決まっている。マリオンさ。」
魔導核施設の奥へ続く通路を走りながら、ジョシュはフレイの身を案じていた。
「あの人なら剣聖と肩を並べるだろうね。いや・・・古代魔法の力を得た今なら恐らく向こうの方が上だ。」
「そんなに強いのか・・・。だったらそのマリオンっての相当やばくないですか?」
「だから君が必要なんだよ。」
ククリが杖を向けて言った。
「君とレインのマーシャル・スーツだけが、唯一古代魔法に打ち勝てる代物なのさ。
だから何としても君とレインには・・・・ッ!」
ククリは何かに気づいて素早く後ろへ飛び退いた。
「これは・・・・・。」
足元に無数の魔法針突き刺さっていて、ククリが杖を持ち上げて辺りの気配を探る。
そして頭上に邪悪な魔力が集まっていくのを感じて目をやると、突然空間が歪み始めた。
「まずいッ!亜空間に飲み込まれるッ!」
ククリは慌てた顔でジョシュとシーナを突き飛ばした。
「先生!」
シーナが駆け寄る。
「来るなッ!こいつは僕の因縁の敵だ。
私怨の闘いに君達を巻き込むわけにはいかない!それに・・・。」
空間の歪みに飲み込まれながら、ククリが微笑んだ。
「さっきも言ったろう。君とレインだけが希望なんだ。
大丈夫、僕は死なない。必ず後を追う。だから・・・・・・。」
「先生ッ!」
ククリを飲み込んだ亜空間はその穴を閉じて消え去ってしまった。
「な、なんてこった・・・。」
突然のことにジョシュは呆然と立ち竦んでいた。
「師匠もいない、ククリさんもいなくなっちまった・・・。」
気が抜けた顔をするジョシュの裾を、シーナが強く引っ張った。
「ジョシュ君、落ち込んでいる場合じゃありません!
先生も剣聖さんも、きっと大丈夫です・・・。
あの二人がそう簡単にやられたりするわけないですから。」
シーナの青い瞳が真っすぐにジョシュを見つめる。
「・・・・・だよな。」
自分を納得させるように頷くと、ジョシュは腰の剣に手を掛けて通路の奥を睨みつけた。
そしてシーナを振り向くと、力強く言った。
「シーナ、この先の道のりは分かるか?」
「もちろんです。私もここの出身ですから。」
「そうか・・・なら道案内を頼む。今は二人のことを心配してる場合じゃねえ。
この先にレインが助けを待ってるんだからな。」
二人は顔を見合わせて頷き、魔導核施設の中枢へと駆けて行った。

              *

「ふん、ククリの奴め。何がこの先には何も無いだ。雑魚どもが必死に行く手を阻もうとしているではないか。」
祭壇へ向かう道のりには無数の敵が待ち構えていた。
魔獣と融合した魔導士達がフレイの行く手を阻もうと襲いかかって来た。
しかしあっさりと襲い来る敵を斬り伏せ、フレイは祭壇の部屋の前まで辿り着いていた。
「この扉の奥・・・凄まじい力を感じる・・・。」
フレイは後ろに転がる敵の屍を振り返った。
「こいつら・・・いったい何を隠そうとしていたのか・・・。」
呼吸を整え、活泉の気を練って力を溜めるフレイ。
「この扉の先、相当な敵がいると見た。しかしこの気はどこか懐かしさを感じるが・・・。」
扉を切り裂き、フレイは意を決して中へと足を踏み入れた。
「・・・・・これが祭壇か?なんとも荘厳な・・・。」
無数の紋章が彫られた石柱が並ぶ大きな部屋の奥に、黄金に輝く社が建っていた。
全体から揺らめくオーラと魔力が立ち昇り、天井に描かれた魔法陣に吸い込まれていっている。
「巨大な力の源はこれか・・・。しかしさきほど感じた懐かしさを思わせる気は・・・。」
「僕ですよ。」
「ッ!」
社の奥から一人の人間が現れた。
「・・・グエン・・・。なぜ貴様が・・・いや、それよりその身体はいったい・・・?」
「ふふ」っと笑い、社を下りて腕を組むグエン。
「やれやれ、みんな同じことを聞くんだな。僕がここにいる理由なんて少し考えれば分かりそうなものだけど、やはり武術一筋の連中は脳みそまで筋肉のようだ。」
腰に手を当てて部屋を歩きながら、グエンは馬鹿にしたような笑い声を上げた。
「・・・なるほど。やはりマリオンと手を組んでいたということか。」
「ご名答。」
グエンは指を立てて眉を持ち上げた。
「武術なんて時代遅れな物に未来はありません。
あなたがマリオンの野望を恐れて魔導協会を強襲した時、僕はすでに彼女と接触していました。」
「・・・・・。」
「古代魔法の力をもって世界を統括する。全ては大いなる魔導の力の元にひれ伏す。
私に与するなら、お前にもその力を授けてやろう。
・・・そう言われて、僕に迷いはなかった。」
「・・・・・・・・。」
「もともと僕が武術を始めたのは、当時では一番強力な力だと思ったからですよ。
いずれはあなたを殺し、自分が頂点に立つつもりだった。
なのにお人好しのあなた方ときたら、そんな僕に惜しむことなく武術を教えた。
こんな馬鹿どもが頂点に立つ組織は遅かれ早かれ他の力に潰されます。
あなた方が、やれ剣の振り方だ、矢の打ち方だと原始人のような遊びをしている間に、他の二大勢力は確実に力をつけていったんですよ。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
くるりと向きを変え、グエンは手を後ろに組んで社の前に立った。
「ほんとうに・・・あなたも、兄弟子達も馬鹿な連中だ。
化石のような古い思想を持ち、時代遅れな考え方と生き方をし、全く時代の流れというものに目を向けようとしない。そんなことだから・・・・・。」
グエンは社の奥から何かを取り出し、自分の足元に投げた。
ごろごろと転がってこちらを向いたそれを見て、フレイは体を震わせた。
「き・・・・貴様・・・・・、貴様は・・・・、」
グエンが床を転がったその物体を足で踏みつけた。
それは人の頭だった。
「ふふふ、ここに来る前に兄弟子達と出くわしましてね。
まあ、なんというか、相変わらずの単細胞というか・・・。
安い挑発に乗って挑んで来ましてね、本当に頭の悪い連中だ。」
「・・・・マオ・・・・。」
唇を震わせながら、呻くように呟いて彼女の顔を見つめるフレイ。
「・・・・その足をどけろ・・・。」
力の抜けた顔をするフレイを見て、グエンは面白そうに顔を歪めた。
「まったく、本当に阿呆な連中だ。
ただでさえ僕の方が上だというのに、新たな肉体を得たこのグエンに勝負を挑むなど。
他の兄弟子達は皆外で挽き肉になっていますよ。誰が誰だか分からないくらいにね。」
目を閉じ、膝をついて項垂れるフレイ。
グエンは満足そうにかつての師を眺めた。
「マオはあなたの一番弟子でしたからね。こうして頭だけは綺麗な状態で持って来てあげたんです。
それに彼女が本当に愛してしたのはあなたでしたから。」
マオの頭を足で弄びながらグエンが言う。
「違うッ!・・・。マオは本気だった・・・。
あいつがどれほどお前のことを・・・・・。」
がっくりと項垂れたまま、声にならない声でフレイが呻く。
「そうですか。なら馬鹿な女だ。ただ利用されていただけとも知らずに。」
グエンがグっと足に力を込める。
「・・・よせッ!・・・やめろッ!」
フレイが立ち上がって手を伸ばす。
その瞬間、「グシャッ」っと音を立ててマオの頭は潰された。
「あ・・・ああ・・・あああああああッ!」
両手を床につき、顔を歪めてフレイは獣のような呻き声をこだまさせた。
「はははははははは!」
高らかに笑うグエンの声が祭壇の間に響き渡る。
「あなたも可哀想な人だ!マリオンの野望を阻止しようとして僕の裏切りに遭い、反旗を試みるもまた僕の策に嵌って武術連盟を追われ、そして目の前で弟子の頭を潰される!
あなたの企みは何一つ成功せず、ただ大切なものを失い、傷つくだけ!
武術家というよりは喜劇家だ!ははははははは!」
「ぐう・・・・くうううううう・・・・ッ!」
嗚咽するフレイを見下し、グエンは続けた。
「剣聖・・・僕はすごい力を手に入れましたよ。いや、これからもっと凄くなる!
この社から放出されるエネルギーがなんだかお分かりになりますか?」
うずくまったまま動こうとしないフレイを無視し、グエンは叫ぶ。
「僕はマーシャル・スーツという肉体を手に入れたのですよ。
あなたのお仲間がこそこそ造り上げていたものと一緒です。
ああ、但しあんな出来そこないと同じ物だと思われては困りますよ。
この社から出るエネルギーを使って、神獣を降臨させるんです。」
神獣という言葉に反応し、フレイがわずかに顔を上げた。
「神獣とは神に匹敵する力を持った存在です。
古代魔法の強力なエネルギーを社で増幅し、天井に描かれた魔法陣に送ることによって、あそこから神獣を召喚するんです。
そしてその力をこの肉体に取り込む。それでこのマーシャル・スーツは完成するのですよ。」
グエンは天井の魔法陣を見上げた。
「そろそろ頃合いだ。」
両手を上げ、魔法の詠唱を始めるグエン。
すると魔法陣から巨大な光の柱が伸びてきて、社を押し潰していく。
その光の奥から途方もない力が迫ってくるのを感じてフレイは身を震わせた。
光の柱が膨張していき、魔法陣は吹き飛ばされ、部屋中が光に飲み込まれていく。
強力な波動が空気を震わせ、稲妻のような轟音とともに光の柱が消滅した。
「これは・・・・・。」
フレイは息を飲んで見上げていた。
天井だった場所が光のオーロラに変わり、その中に黄金に輝く者がいた。
龍だった。
圧倒的な迫力と神々しさ、人では逆立ちしても敵わぬと思わせる強大なオーラ。
弟子を失った悲しみさえ忘れ、フレイはしばらくその龍に見惚れていた。
「どうです?これが世界の中心に位置する神獣、黄龍です。」
「・・・黄龍・・・。」
フレイは立ち上がり、黄龍から放たれる神々しい波動を全身で受け止めた。
「これを僕の体に取り込むのですよ。そうすることでこのマーシャル・スーツは完成する。」
「貴様は・・・神の力までも自分の物にしようというのか・・・。」
「ええ、そうですよ。僕こそが神になるんです。」
グエンのマーシャル・スーツが発動し、銀色の皮膚が輝いて筋肉が盛り上がっていく。
「さあ、黄龍よ!我が肉体に宿るがいい!」
両手を広げ、グエンは黄龍の放つ輝きを吸収し始めた。
「させるかッ!」
「ッ!」
フレイの斬り込みを間一髪でかわすグエン。
しかし身体をかすめたフレイの剣はグエンの両腕を斬り落としていた。
闘気を放ち、剣を構えるフレイ。
「そのマーシャル・スーツという肉体のことは知っている。
腕を落とされたくらいでは致命打にならんのだろう?」
「ええ、その通りです。」
斬られた腕から無数の白い糸が伸び、瞬く間に腕が再生していった。
「剣聖・・・私は最初からあなたが嫌いだった。
現実離れした理想論を振りかざし、人の絆こそが世界に平和をもたらすとかなんとかいう、鳥肌の立つヒューマニズム・・・反吐が出る。」
「そうか。俺もお前のことはもう弟子ともなんとも思っておらん。
今はただ、この剣でその首を落とすのみよ!」
「そうですか、ならやってみせて下さい。時代遅れの武術家がどこまでこの私に通用するか、試してみるがいいッ!」
床を蹴り砕いて踏み込んで来たグエンを、フレイは正面から迎え撃った。
「ぬうんッ!」
「ふんッ!」
両者の剣と拳が激突する。
しかし圧倒的なパワーで弾き飛ばされ、フレイは壁に叩きつけられた。
「ぐはあッ!」
「死ねええええいッ!」
よろけて立ち上がるフレイにグエンの拳が降り注ぐ。
「ぬおおおおおッ!」
見事な剣さばきで迎撃するフレイであったが、生身の肉体とマーシャル・スーツでは結果は見えていた。
強力な拳がフレイの剣を圧倒していく。
そして隙をついてグエンの膝蹴りが入った。
「がは・・・ッ!」
倒れ込むフレイの髪を掴み、片手で振り回して床に叩きつけるグエン。
「・・・・が・・・ッ・・・。」
さらに追撃の肘を鳩尾に叩きこむ。
「・・ごあ・・・・ッ!」
フレイの口から大量の血が溢れる。
髪を掴んで持ち上げ、グエンは顔を近づけて笑った。
「さすがは剣聖だ。兄弟子達はこの時点でもうミンチにされていましたよ。」
「・・・う、ぐ・・・ッ。」
苦悶の表情を浮かべるフレイをグエンは恍惚と眺めていた。
「あなたを力で圧倒できる日が来るなんて、やはりこの肉体は素晴らしい。」
「・・・ぬかせ・・・自分で得た力でも無かろうに・・・。」
「力が手に入れば結果は同じですよ。日々地道な稽古を積むより、魔導と科学の力を用いれば一日でこの通りです。」
腹に拳を打ち込み、苦痛に悶えるフレイを床に投げ捨ててグエンは黄龍を振り向いた。
「せめてもの情けです。私が黄龍の力を得て完全体になるのをそこでご覧になるがいい。
とどめはその後さしてあげますよ。」
踵を返して黄龍の元へ歩いて行くグエン。
しかし突然バランスを崩して床に手をついた。
「な、なんだ・・・?」
右足に違和感に覚えて振り向くと、膝から下が斬り落とされていた。
「なッ・・・いつの間に・・・?」
フレイはゆっくりと立ち上がり、口の血を拭って剣を構えた。
「やはり貴様は何も分かっておらん。」
「・・・どういうことだ?」
口の中に溢れてくる血を吐き捨て、フレイは黄龍に剣を向けた。
「もし本当に神獣の力を得られるのなら、なぜマリオンが自分の身体に取り込まない?
俺はあいつほど欲深い人間を知らない。
貴様のような若造に、このような力を与えるわけがない!」
「・・・・・・。」
二人の視線がぶつかり、沈黙が下りる。
「はは、そんなことか・・・。」
グエンは脚を再生させて立ち上がり、飛び上がってフレイの前に降り立った。
「僕はね、実験台なのですよ。
神獣の力を得ることが本当に可能かどうか、その為の実験台です。」
グエンは胸に手を当てて肩眉を持ち上げながら誇らしげに言う。
「もし失敗したらどうなる?あれほど巨大な力だ、貴様は魂ごと消し飛ぶかもしれんぞ。」
「ふふふ、大きな力を得る為にはそれ相応のリスクがあるのは当然です。
それにね、もし失敗しそうなら途中でやめますよ。
まだまだいくらでもチャンスはあるのだから。」
グエンは自信に満ち溢れた顔で笑う。
「そんなに上手くいくと思っているのか?」
「ええ、もちろん。僕は天才ですから。そう言ったのはあなたですよ。」
目を閉じ、フレイは身体の力を抜いていった。
「やはり貴様は何も変わっておらんな。」
フレイの姿がグエンの目の前から消える。
「これは、陽炎の歩か!」
掌を左右に向け、グエンは構えをとって気配を探った。
「そんな古臭い技が通用すると思っているんですか?あなたの技は全て知って・・・、」
次の瞬間、何の音もなくグエンの右腕が斬り落とされた。
「クソッ!」
必死に気配を探るが、フレイの動きはまったく捉えらない。
今度は両足が切断される。
「な、なぜだ!僕はこの技を知っているのに!なぜ見切れないッ?」
床に這いつくばってグエンが叫ぶ。
「本当に阿呆な奴だ。」
「何・・・・。」
すぐに斬られた肉体を再生させ、グエンは顔を強張らせながら立ち上がる。
しかしいくら気配を探ってもフレイの動きは捉えられなかった。
フレイの声だけがグエンに響いてくる。
「貴様の考えの甘さ、思いあがった心、昔から変わっておらん。
そのような軟弱な精神では・・・・・、」
「チィッ!」
グエンの身体に一筋の剣閃が走る。
「剣聖のフレイの剣は捉えられんわ!」
グエンの後ろに降り立ち、剣を鞘に納めるフレイ。
鍔鳴りの音とともに、グエンの身体は頭から真っ二つに斬り裂かれた。
「そ・・・そんな・・・。」
一刀両断されたグエンの身体が二つに分かれて崩れ落ちていく。
そんな状態になっても手足を動かすグエンを見て、フレイは呆れたように口を開いた。
「このような状態になっても息があるとは・・・マーシャル・スーツとは恐るべきものよ・・・。」
「お、お、おのれええええッ!」
じたばたとあがくグエンに、フレイは憐れみの目を向けた。
「この僕が・・・この天才が・・・こんなところで終わってたまるかあああッ!」
邪悪な気が満ち溢れ、フレイは思わず飛び退いた。
「くおおおおおッ!」
裂かれたグエンの身体から気味が悪いほど無数の白い糸が伸びて再生していき、さらに醜く姿を変えていく。
「な、なんと・・・。」
「ぐう・・・はあ・・・はあ・・・。」
全身に血管が浮き上がり、輝く銀の皮膚は光を失って腐ったように爛れていた。
筋肉がアンバランスに膨張し、顔の一部は骨が剥き出しになっている。
「はあ・・・はあ・・・もういい・・・。手加減してれば調子に乗りやがって・・・。
この姿になれば二度と元に戻れないが、お前を殺して黄龍の力をとり込めば・・・僕は完全体となって復活できる・・・。」
「まだそのようなことを・・・。」
憐れみの増した目で再び剣を抜くフレイ。
「小賢しいッ!」
グエンの口から灼熱のオーラが放たれる。
「うおおおおおッ!」
直撃をくらって壁まで吹き飛ばされるフレイ。
なんとかオーラで防御したものの、全身が焼かれて身体から煙を上げていた。
「くッ・・・ぐう・・・。」
剣を落とし、フレイはうつ伏せに倒れ込んだ。
「はあ・・・はあ・・・、馬鹿め・・・。たかが剣士ごときがマーシャル・スーツに勝てるものか・・・・・。」
黄色の元へと近づき、グエンは両手を上げた。
「そこで大人しく見ているがいい・・・ぐッ・・・はあ・・・はあ・・・。」
グエンの筋肉が腐り始めて剥がれ落ちていく。
「黄龍・・・早く・・・力を・・・、その力をよこせ・・・。」
グエンの体に黄龍の光が集まる。
「やめろ・・・貴様はどこまで・・・。」
「うるさい!・・・死に損ないは黙っていろ・・・後で殺してやる!」
神々しい光がどんどんグエンの身体に吸い込まれていく。
「よし、いいぞ!もっとだ!もっとよこせ!」
グエンは身体に流れ込む大きな力に快感を覚えて叫んだ。
しかし突然黄龍の体から波動が放たれ、彼の肉体に吸い込まれる光が消えていった。
黄龍の咆哮が空気を揺らし、祭壇の間を震えさせる。
「な、なんだ・・・?おい、どうした?なぜやめる?
僕が、僕がお前を召喚したんだぞ!いかに神獣であろうとも、召喚した術者に力を与えるのが召喚獣の義務だろう!さあ!力をよこせッ!」
黄龍はもう一度は波動を放ち、大気を振動させて言葉を発した。
「我が力・・・邪悪なる者の為にあらん・・・。
矮小なる欲望の亡者よ・・・我が力・・・汝のものだけにあらず・・・。」
「な、何を言っている・・・?術者の命令に従え!さあ!」
グエンはさらに大きく両手を広げて黄龍を見上げる。
「我は大地・・・我は風・・・我は炎・・・我は水・・・我こそは偉大なる自然の化身。世を司る大いなる力・・・、我は自然そのものなり・・・。
この力・・・生きとし生ける全てのものなり・・・。
誰が為のものにあらず・・・。」
「な・・・なんだと・・・。ふざけるな!そんなことは僕が許さんぞ!」
焦りと怒りで叫ぶグエンを、フレイは大声で笑った。
「ふははははは!だから言わんことではない。
神獣の力を自分の物にしようなどと、思い上がりも甚だしい!」
「だまれ、この死に損ないがッ!」
フレイは落とした剣を手に取り、杖代わりにして身を立たせた。
「はあ・・・はあ・・・本当に・・・、どこまでも出来の悪い男よ・・・。」
黄龍が波動を放ち、威厳のある声で問いかけてきた。
「我は問う・・・汝らは何者ぞ・・・。」
一瞬何を言っているのか理解出来ないグエンだったが、すぐに胸を張って答えた。
「僕は僕だ!他の誰でもない、グエン・コーランドだ!
いずれこの世界を統べて、神となる男だ!」
「・・・・・・・・・。」
声高に叫ぶグエンの言葉は、見せかけの自信とは裏腹に虚勢を感じさせるものだった。
徐所に力を取り戻してきたフレイは、真っすぐに黄龍を見つめて言った。
「我が名はフレイ・ヴォルト。武に命を捧げ、剣にのみ生きてきた。」
フレイは高々と剣を上げた。
「かつては私欲の為に剣を振ったこともあった・・・。
だが今は違う!武の意味、剣の意味、そして人として生を受けた意味をただ全うするのみ!
この剣は力無き者の為にあり!」
フレイの言葉を聞いた黄龍は、波動を放って激しく震えだした。
「グオオオオオオオオーーーッ!」
大地を揺るがす雄叫びが響き、黄龍から放たれる黄金の光がフレイの剣に吸い込まれていく。
その光は剣を通じてフレイの体を包み、傷を癒していく。
揺らめく輝きの中、フレイは背筋を伸ばして剣を青眼に構えた。
「そ、そんな・・・こんなことが・・・・・。」
驚きと恐怖の色を浮かべてグエンが後ずさる。
「よせ、やめろ!かつての弟子を殺す気かッ?
助けを懇願する弟子を手にかけるなど、剣聖の名が泣くぞ!」
グエンは必死の形相で叫びながら後退していく。
フレイはただ静かに剣を構え、怒りも憎しみも無い目でグエンを見据えた。
「お前の根性を叩き直せなかったのは俺の罪だ・・・、許せ。」
フレイの剣から光の波が放たれる。
その光とフレイは同化し、稲妻のように刹那の閃光を走らせてグエンの体を駆け抜けた。
剣を青眼に構えたまま消えゆく光の中からフレイが現れ、鍔を鳴らして剣を収めるのと同時にグエンの身体に一筋の光が走った。
「おおおおおおおッ!」
頭から一刀両断されたグエンは体内から光を放ち、乾いた土のようにボロボロと崩れ去っていった。
呼吸を整え、フレイは黄龍を見上げた。そして目を閉じ、一礼をした。
崩れ去ったグエンの体を振り返ると、六部衆の魂がそこに立っていた。
「お前達・・・・・。」
六部衆は二コリと微笑み、師に一礼をした。
そしてその足元には、がっくりと項垂れるグエンの魂が座り込んでいた。
兄弟子達の顔を見上げ、泣きっ面のように顔を歪めるとまた項垂れていく。
黄龍の光が六部衆を包み込み、今にも天へと昇らせんとしていた。
マオは膝をつき、グエンの頬に手を当てた。
抜け殻のような顔で涙を流す彼を見つめ、呟くように小さく口を開いた。
「馬鹿な子・・・・・。」
そして自分の胸の中にそっとグエンを抱き寄せた。
フレイはじっとその光景を見つめていた。
俯いて目を閉じ、剣を握る手に力を込めて黄龍に問いかける。
「黄龍よ、頼みがある・・・。その者達と一緒に、そこの馬鹿も連れて行ってはくれまいか?」
マオの胸の中で、ハッとしてグエンが顔を上げる。
フレイは弟子達から目を逸らして言った。
「いくら馬鹿でも・・・俺の弟子に変わりはない・・・。
俺が死んだら、あの世で今度こそ甘えた根性を叩き直すと約束する。だから・・・。」
フレイの気持ちに同調するように、六部衆も黄龍に向かって頭を下げた。
かつての兄弟子、恋人の腕の中でグエンは声を出して泣いた。
「グオオオオオオオオオンッ!」
黄龍が雄叫びをあげ、グエンと六部衆を光の柱で包み込んだ。
そして彼らとともにゆっくりと天へ昇っていき、眩い光を放って消え去っていった。
「・・・・・・・・・。」
上を向いて目を閉じ、フレイは弟子達に謝り、そして再会の日までの別れを告げた。
静寂が広がる祭壇の間でしばらくの間佇み、悲しみを消し去って目を開いた。
「いつまでも感傷に浸っている場合ではないな。すぐに小僧達の後を追わねば。」
表情を切り替え、剣に手をかけてフレイは祭壇の間を後にした。

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