マーシャル・アクター 第十一話 シーナの秘密

  • 2014.01.13 Monday
  • 18:49
〜『シーナの秘密』〜

「あの二人が簡単にやられることはないだろうけど、やっぱ心配だな。」
通路を進みながらジョシュは不安そうに言った。
「大丈夫ですよ。剣聖さんもククリ先生もすごく強いですから。
相手がマリオン大師でもない限りひけはとりませんよ。」
二コリと笑ってシーナが言葉を返す。
「だよな・・・どっちかつうと俺達の方が心配されてんだろうな。」
「そうですね。この先にはマリオン大師以外にどんな敵が待ち構えているか分からないですから。」
腰の剣に手を当てながら、ジョシュは常に敵の気配を探っていた。
「そういえばさ、シーナっていつからククリさんの弟子やってんの?」
何気ない質問だったが、シーナは一瞬だけ暗い顔を見せた。
しかしすぐに笑顔に戻って答える。
「二年くらい前からです。もともとセイント・パラスの魔導士だったんですけど、出来が悪くて追い出されちゃって。それを拾ってくれたのがククリ先生なんです。」
「ふーん、けどククリさんはシーナのことベタ褒めだったじゃん。
それにあの召喚術を見せられたら出来が悪いなんて言えないと思うけどなあ。」
顎に手を当てて考えるジョシュに、シーナは慌てて付け加えた。
「ああ!その・・・、私があんなに魔法を使えるようになったのはククリ先生の指導のおかげなんです。それまでは本当にダメな子で・・・。」
「ははは、自分でダメな子って。」
可笑しそうに笑ってジョシュはシーナの肩を叩いた。
「でもその気持ちは分かるぜ。俺も昔は何にも出来ない弱虫でさ。
ずっとレインに助けてもらってたんだ。俺兄貴なのにだぜ。
そんな俺を見かねて父さんが武術連盟にやったんだ。
けどレインの奴は俺とは対照的に昔からすごくてよ、周りから神童って呼ばれてさ。
双子なもんだからよく比較されて、あん時は辛かったなあ・・・。」
「へえ、ジョシュ君にもそんな時があったんですか?」
意外そうな顔でシーナが見つめた。
「私・・・もっとジョシュ君のことが知りたいです・・・。」
俯き加減で目を逸らしてシーナが呟く。
「ん?何か言った?」
キョトンとした顔で振り向くジョシュに、シーナは慌てて手を振った。
「い、いえ!何でもありません・・・。」
「ふーん、でも言いたいことがあるならはっきり言えよ。俺達はもう仲間なんだから。」
「・・・・・はい。」
シーナは杖を強く握りしめて顔を逸らした。
しばらく会話が途切れ、二人は周りを警戒しながら先へ進んだ。
「ッ!」
何かの気配を感じてジョシュは足を止めた。
「気をつけろシーナ。誰かいるぞ。」
そう言ってジョシュは剣を構えた。
通路の先から気配が近づき、ジョシュは身を固くした。
気配がシルエットとなって姿を現し、さらに近づいて来て二人の前で立ち止まった。
「やあやあ、魔導協会の本部へようこそ。ジョシュ・ハート君。」
白衣を着た白髪の科学者が手を広げて言った。
長い口髭を触り、大きな眼鏡を指でクイっと持ち上げて二コリと笑う。
「・・・誰だてめえ?何で俺の名前を知ってる?」
剣を前に突き出し、威圧的な口調でジョシュがすごむ。
「ああ、申し訳無い。私は次世代文明管理会の議長を務めているヨシムラという者だ。
あまりメディアには出ないので顔は知られていないことが多くてね。」
キザな口調で肩を竦めてみせ、人を小馬鹿にしたような顔でヨシムラは笑った。
「・・・そうか。で、なんで俺のことを知ってんだ?」
「さあね、どうしてだと思う?」
眼鏡のブリッジに手を当て、横を向くヨシムラ。
ジョシュはヨシムラに得体のしれない危うさを感じていた。
「シーナ、気をつけろよ。こいつ多分ただの科学者じゃねえ。」
「・・・・・・。」
ヨシムラはジョシュに向き直り、不敵な笑みを浮かべた。
「うむ。武術家のわりには察しがいい。外にいた連中とは一味違うようだね。」
「外にいた連中・・・・って。マオさん達のことか?」
「ああ、そんな名前だったかな。六部衆ということは知っているんだがね。」
ポケットに手を突っ込み、興味も無さそうに言った。
「・・・お前・・・。もしかして六部衆に何かしたのか?」
ジョシュは一歩前に出て剣を八相に構えた。
「ううん・・私は何もしていないが、かつての六部衆の仲間がねえ・・・。
まあなんというか、少し奴らを実験台にね・・・。」
思い出し笑いで声を上げるヨシムラに、ジョシュがくってっかかる。
「実験台だと・・・、いったい何をしやがった!」
「まあまあそんなに怒らずに。かつての奴らの仲間であるグエン老子が、挑発に乗って挑みかかってきた六部衆を軽くミンチにしただけさ。」
「ミ、ミンチだと・・・・・、まさか・・・。」
顔を傾げて口元を笑わせ、小さな子供をあやすようにヨシムラは言う。
「死んだよ、全員ね。それもかなり惨たらしい死に方だ。
いくら六部衆とはいえ、相手がマーシャル・スーツでは赤子同然だった。
奴らの技は何一つ通用せず、ただ一方的にやられていったよ。
ある者は頭をもぎ取られ、ある者は胴を踏み潰され、ある者は目玉をくり抜かれ、最終的には皆挽き肉された。
ああ、あのマオ君だっけ?六部衆のリーダーの。
彼女だけは頭は綺麗な状態で持って行ったみたいだね。
かつての恋人に情でも湧いたねえ?
まあどっちにしろ、凄惨な殺され方だったよ。
おかげでこちらとしてはマーシャル・スーツの有益なデータが取れてよかったんだけど。」
簡単な用事でも報告するかのようなヨシムラの口調に、ジョシュは怒りで我を忘れそうになる。
「て、てめえ・・・、なんてことを・・・・・。」
犬歯を剥きだして身を震わせるジョシュを、ヨシムラは「まあまあ」と宥めた。
「私がやったんじゃないんだよ。グエン老子がやったんだ。
それにね、私はもっと引っ掛かる言葉を私は言ったはずだよ。
マーシャル・スーツという単語をね。どうしてそれに反応しないかな?
あんなカス共の死に方などどうでもいいだろう。」
「てめええええええッ!許さねえッ!」
気が付けばジョシュは飛びかかっていた。
疾風のような動きで間合いに入り、ヨシムラの頭をめがけて剣を振り下ろす。
しかし彼の頭を割るはずだった剣は、額の手前でピタリと止まっていた。
「な・・・・・ッ!」
「ふふふ、ひ弱な科学者の頭を割るなんて簡単だと思ったのかな?」
ジョシュの剣はヨシムラにしっかりと握られていた。
「バカな!素手で俺の剣を止めるなんて・・・。」
引いても押してもビクともせず、ヨシムラは余裕の笑みでボディブローを叩きこんだ。
「がは・・・ッ!」
「おや、こんなひ弱な老人のパンチで膝をつくなんて・・・、最近の若者は随分と情けないな。」
「てめえ・・・、やっぱりただの科学者じゃねえな・・・。」
しゃがんだ体勢から飛び上がって頭突きを入れ、顔を蹴り上げて剣を引き抜いた。
シーナの所まで下がったジョシュは剣を構え直して言った。
「シーナ!どういうカラクリかわかんねえけどコイツ強えぞ。援護してくれ!」
「・・・・・。」
何も言わずにシーナは杖を振りかざし、岩石の精霊を召喚した。
「よし!俺がなんとかあいつの動きを止める。その隙にその岩のデカブツでトドメを刺してくれ。」
膝を屈め、飛びかかる体勢を作ってジョシュは叫んだ。
「行くぜ!・・・・ッ!」
床を蹴って飛び出そうとしたジョシュだったが、突然何かに身体を掴まれて持ち上げられた。
岩石の精霊が大きな手でジョシュを握り、彼の動きを封じ込めている
「お、おい!何やってんだよ!俺を捕まえてどうするんだッ?」
杖を振り上げ、シーナは精霊の言葉を囁いて岩石の精霊に指示を出した。
「うわああああッ!」
巨大な岩の手がジョシュの体を締め上げる。
「ふふふ、残念でしたね。こんなに近くに敵がいたなんて。」
眼鏡を持ち上げながらヨシムラが近づいて来る。
「な、何言ってんだ・・・、おい、シーナ!こいつを離せ!お前もやられちまうぞ・・・。」
必死に叫ぶジョシュの言葉を、シーナは顔を背けて無視した。
「やれやれ、何と言う鈍さだ・・・。」
ジョシュの前に立ち、肩をすくめて呆れた顔を見せるヨシムラ。
「やはり武術家というのは脳みそまで筋肉のようだ。私はお前達のような野蛮人が嫌いでね。本当なら今すぐ殺してしまいたいが・・・、生憎君の肉体には興味がある。」
「お、俺の肉体・・・?」
「ああ、マーシャル・スーツのことだよ。あのククリという魔導士が造り出したね。
きっと我々が造り上げた物とは色々と異なる性能を持っているはずだ。
私が興味があるのはそれだけですよ。」
ジタバタともがきながら、ジョシュは鋭い視線でヨシムラを睨みつけた。
「そういやさっきもマーシャル・スーツがどうとか言ってたな・・・。
お前らの組織も同じもの造ってんのかよ?」
「ええ、正確には魔導協会との合作ですがね。君達の所と同じですよ。」
「俺達と同じって・・・、まさか!お前らマリオンとかいう奴と手を組んでるんじゃ・・・。」
「ははは」と鼻で笑い、ヨシムラは眼鏡を押し上げた。
「今頃気付いたんですか?私がこんな所にいる時点でそのくらい推測できるでしょ。」
ヨシムラの手がジョシュの首を鷲掴みにする。
「シーナさん、暴れると困りますからしっかりと押さえつけといて下さいよ。」
「・・・・・・。」
ジョシュは首をよじってシーナを振り返った。
「シーナ・・・どうしたんだよ?なんでこいつがお前に命令してんだ・・・?
俯いてないで何か言ってくれよ!」
「・・・・・。」
ジョシュに体を背け、シーナは細い肩を震わせていた。
「ごちゃごちゃと五月蠅い奴だ。さっさと眠るがいい。」
ヨシムラの手から電流が放たれる。
「ぐわあああああああッ!」
力任せに暴れ回るジョシュだったが、岩石の精霊にしっかりと握られ、ヨシムラの手から逃れることは出来なかった。
「うわああああああッ!」
薄れゆく意識の中で、ジョシュはシーナの涙交じりの呟きを聞いた。
「・・・ごめんね・・・ジョシュ君・・・。」

           *

誰かの話声が聞こえる。近くに誰かの気配を感じる。俺の身体に誰かが触れている。
ぼんやりとした意識の中でジョシュは感じていた。
いったい誰が何を喋っているのか分からないが、確実によくない状況であることは理解していた。
《クソ!あれからいったいどうなったんだ・・・?身体もまったく動かないし・・・。
何かで固定されてんのか?それにシーナのあの言葉・・・。
分からねえことだらけだぜ。》
そこでハッと気が付いてジョシュはマーシャル・スーツに呼びかけた。
《おい!出て来いよ!この状況をなんとかしてくれ。》
だがマーシャル・スーツの人格からは何の返事も返ってこなかった。
何度も呼びかけるがやはり返事はなく、コアにオーラを送ってみても発動しなかった。
《チクショウッ!どうなってんだ?》
心の中で悪態をつくジョシュであったが、何かの物音が聞こえて神経を集中させた。
耳を澄ましていると、コツコツと床を鳴らして近寄ってくる足音に気づいた。
少しずつ意識を取り戻していったジョシュは、ゆっくりと目を開いてみた。
ジョシュの目に濃い紫の髪を束ねた女の顔が飛び込んできた。
「お目覚めか・・・。気分はどうだ、ジョシュ・ハート君?」
「だ、誰だ・・・、お前は・・・?」
その女は白地に紫の線が二本入った細身の法衣を纏い、紋章の入った大きな羽衣を羽織り、そして左の頬には古代文字の刺青、額には法具と思われる金色の鉢がねを巻いていた。
女は二コリと笑ってジョシュの顔に手を当てて答えた。
「私はマリオンという者だ。魔導協会の会長を務めている。」
「ッ!・・・てめえが・・・マリオン・・・。」
身体を起こそうとしたがまったく身動きがとれなかった。
何かに締め付けられる感覚があり、目を向けてみると台座の上に金属のベルトで縛りつけられていた。
「ぐッ!おい、これを外しやがれ!」
暴れるジョシュを細い目で見つめ、両手で頭を抱きかかえてマリオンは顔を近づけた。
「そう興奮するな。私はお前に会いたかったのだぞ。」
愛しい者を愛撫するようにジョシュの顔を撫でまわし、長い前髪を垂らしてじっと見つめるマリオン。
「なんなんだお前は・・・、頭がイカれてんのか?」
「ああ、とっくの昔にな。」
マリオンは上体を起こし、背後にある巨大な石像を指差した。
「あそこを見ろ。お前の最も大切な人間がいるぞ。」
「俺の最も大切な・・・ッ!まさかレインがッ?」
ジョシュはマリオンの指差す石像に目をやり、じっくりと見回した。
女神を象ったその石像はいくつもの太いパイプが繋がれていて、それは魔法陣の描かれた巨大な扉へと続いていた。
冷酷さと残忍さを感じさせる表情、天使のような翼、体に巻き付く細い羽衣、両腕は自分の体を抱きしめていて、その目は遠い空を見上げているようだった。
そしてその女神像の胸元に、同じ格好で埋め込まれている人物に気づいた。
「レインッ!」
固定された体をバタバタと暴れさせて、ジョシュは何度もその名を叫ぶ。
「チクショオオオオーッ!外せこの野郎ッ!レイイイイィィンッ!」
金属のベルトが食い込んでジョシュの腕から血が流れる。
「ふふふ、威勢がいいですな。」
ヨシムラが可笑しそうに笑う。
「てめえ!何が可笑しいッ?それにシーナはどうしたッ?
まさかあの子にも何かしたんじゃねえだろうなッ!」
眼鏡を外してハンカチで拭き、口元だけを笑わせてヨシムラは答えた。
「何を言ってるんです?何かされたのは君の方でしょう。
心配せずとも彼女ならそこにいますよ。」
顎でしゃくって石像の足元を示すヨシムラ。
ジョシュが目をやると、シーナは石像の女神に両手をかざして魔力を注いでいた。
「シーナ!」
名前を呼ばれるとシーナはビクっと身を震わせた。
「大丈夫か?何もされていないか?
きっとすぐに師匠とククリさんが助けに来てくれる!
俺だってこんなもんくらい!ウオオオオオオッ!」
「ははは、無駄だよ。君程度の力じゃそれはどうにもならないさ。」
歯を食いしばって力を入れたせいで、ジョシュの腕からはさらに血が流れた。
「シーナ!俺は分かってる!お前はやりたくてこんなことしてんじゃないよな。
何かこいつらに弱みでも握られてるんだろ?じゃなきゃお前がこんなことするはずねえ!
もし本当に悪い奴ならククリさんが弟子に取ったりするもんか!
師匠だって、悪人ならすぐに見破ってぶん殴ってるはずだ!
それにな、俺だって短い時間だけど一緒にいて、お前とはきっと良い友達になれると感じた!俺は昔よく苛められたから性根の悪い奴はすぐ分かるんだ。
お前はそんな奴じゃない!だから自分を責めたり、気に病んだりすることはねえんだぞ!
悪いのは全部こいつらに決まってるんだ!」
背中でジョシュの叫びを聞き、シーナは小さく肩を震わせていた。
顔を見ずとも、ジョシュは彼女が泣いていることは分かっていた。
「シーナ・・・もう調整はいい・・・。こっちへ来なさい。」
マリオンに呼ばれ、シーナは床に置いた杖を拾って歩いてきた。
「シーナ・・・。」
ジョシュの呼び掛けに答えず、長い前髪を垂らして顔を見せないようにしている。
「ジョシュ・ハート・・・。お前の言う通り、この子は好きでこんなことをしているわけではない。ただ、私の命令に逆らえないだけだ。」
「やっぱりそうか・・・。」
ジョシュは悔しそうに顔を歪めた。
杖を強く握り、シーナはジョシュから顔を逸らす。
マリオンが彼女の肩に手をかけ、我が子でも見つめるように優しい眼差しを向けた。
「この子は私が生み出したのだ。古代魔法と科学の力を使ってな。
人工生命体、ホムンクルスというやつだ。」
「ホムンクルス・・・。」
シーナの後ろに回って両肩に手を置き、マリオンは彼女の頭に顔を寄せた。
「そうだ。ホムンクルスにとって、生みの親である術者は絶対だ。
いくら嫌がっても、最終的に私の言う事には逆らえない。」
「シーナ・・・。」
「・・・・・・。」
シーナの頭から顔を放し、頬を撫でながら抱きしめるマリオン。
「この子を造ったのは、ククリの動向を探るスパイとして送り込む為だ。
あいつが私に敵意を持っているのは知っていたし、放っておけば厄介な事をしでかす力も持っている。
だからこの子を生み出し、送り込んだのだ。
ククリは優れた魔導士だが一つだけ弱点があってな。あいつは情に脆いのだ。
とくにこんな若い娘ともなれば、例え敵だと見抜いても殺すことは出来ん。
奴へのお目付け役として最適というわけだ。」
マリオンの話を聞き、ジョシュは怒りと悲しみが混じった目でシーナを見つめた。
「そんな・・・そんなことの為に・・・シーナは・・・。」
「・・・・・・。」
シーナの頬を滴が滑り落ちた。
「シーナ!ホムンクルスだろうがなんだろうが関係ねえ!お前は俺の友達だ!
そこのマリオンをぶっ倒して必ず自由にしてやる!」
ジョシュの言葉にヨシムラは眉を持ち上げて笑い、お手上げのジェスチャーをした。
「若者の青臭い青春劇は歯がゆくて見ていられませんな。」
「クソッ!こんなもんくらい!ていうか何でマーシャル・スーツが発動しねえんだ!
こういう時こそ役に立てよッ!」
ヨシムラが興味深そうに見つめ、「なるほど・・・自由に扱えるわけではないようだ。
人格が宿っている影響かな?」と好奇心の宿る目で呟いた。
「ちくしょお・・・・・。」
「・・・・・・・。」
シーナの頬を伝う滴が大きくなっていく。
マリオンはシーナから離れ、彼女の頭に人差し指を突き付けた。
「この子は本当によく働いてくれた・・・。私も実の娘のように可愛がった。」
マリオンから殺気を感じ、ジョシュは大きく目を開いて叫んだ。
「おい!何する気だ!シーナから離れろッ!」
本当に自分の娘を見るような優しい目を向け、マリオンは指先に魔力を溜めた。
「私はな・・・例えそれがどんなに愛しい者であっても・・・用が無くなれば処分することにしている・・・。下らない感情に振り回されては身を滅ぼすからな・・・。」
マリオンの指先が鈍く光り始めた。
「やめろッ!そんなに大事に思ってんならその子に手を出すなッ!
自分の娘みたいに思ってんだろ!だったら何で傷付けようとするッ?
そいつは俺の友達なんだ!ククリさんにとっても大事な・・・・・。
だからやめてくれ!おい、シーナ!ボケっとしてないで早く逃げろッ!」
「無駄だ・・・。この子は私に逆らえない・・・。」
ここへ来てシーナは初めて顔を上げた。
静かに涙を流しながら、青い瞳でジョシュを真っすぐ見つめる。
そして囁くような声で言った。
「ジョシュ君・・・私・・・・・ジョシュ君のことが好・・・・・、」
言い終える前にマリオンの指が光り、シーナは乾いた砂人形に変わっていた。
こぼれ落ちる涙も砂に変わり、海辺の砂の城のようにボロボロとその場に崩れ去っていった。
「あ・・・ああ・・・ああああああああッ!」
ジョシュの目から大粒の涙が溢れ、砂になったシーナを見て泣き喚いた。
「なんで、なんで殺すんだよッ!愛してるなら・・・なんでこんなことを・・・。」
マリオンは微笑みながらジョシュの傍へ寄り、優しく頬を撫でた。
「仕方ないのだ・・・。愛するが故に障害となることもある・・・。
まだ子供のお前には分からんだろうがな・・・。」
「分かってたまるかッ!てめえらマジで許さねえッ!おい、マーシャル・スーツ!
いつまでも黙ってないで出て来いよッ!こいつらをぶちのめすんだ!力を貸せ!」
必死の叫びも虚しく、マーシャル・スーツからは何の反応も返ってこなかった。
「無駄だ。お前はまだマーシャル・アクターとしては未熟すぎるからな・・・。」
「マーシャル・アクター・・・?」
涙で濡れる顔で、ジョシュはオウム返しに呟いた。
「ほう、その言葉は私も初めて聞きますな。」
ヨシムラが興味深そうに眼鏡を持ち上げた。
「お前は知らんでもよい・・・。あまり好奇心を見せすぎるとシーナと同じ運命を辿ることになるぞ・・・。」
「・・・・・・。」
マリオンは砂になったシーナに目を向け、それからレインを見つめ、ジョシュに語りかけた。
「お前の大事な者達は皆凄惨な運命を辿ることになるだろう・・・。
そしてそれは・・・、お前自身もだ・・・。」
ヨシムラに目で合図をし、マリオンは手に魔力を溜めてジョシュの胸に当てた。
「おい、何をする気だ?」
「心配することはない・・・。お前の魂をレインの中に入れるだけだ。
最愛の者同士、永遠に一緒にいられるぞ・・・、意識の中でだがな・・・。」
ヨシムラが女神像から伸びる細いコードを持って来た。
「おまえらは・・・いったい何をするつもりなんだ・・・?」
無言でジョシュを見下ろし、マリオンは目を閉じて笑った。
「いいだろう・・・何も知らずにというのは少し憐れすぎるかもしれん・・・。」
マリオンはヨシムラにそのまま待つように言い、女神像を見て語り出した。
「あの女神像は根源の世界から力を受ける依り代だ。
そしてレインは女神像の魂にあたる存在だ・・・。」
理解が出来ないジョシュの顔を見て、マリオンは噛み砕いて説明をした。
「根源の世界とは・・・地獄のさらに奥にある空間のことだ・・・。
そこには純粋にエネルギーだけが存在している・・・。
物質はもちろんのこと、精霊や神獣、悪魔でさえもそこに存在することは許されない。
古代魔法とはこの根源の世界から力を取り出す術のことなのだ・・・。
あの女神像は巨大なマーシャル・スーツと考えればよい。
それを動かす心臓部になるのがレインだ・・・。
あの子の魔力は凄まじい・・・。あと十年も修行すれば・・・私ですら超える魔導士になれたかもしれん・・・。」
「・・・・・・。」
マリオンはシーナを見る時以上に愛おしい目を向けていた。
「古代魔法とレインの力であの女神像に命を与えれば、間違いなくこの世を支配する神となる。もっというなら・・・あの子が新たな世界を統率し、導いていく女神となるのだ。」
「・・・・・・そんなことの為にレインを・・・。」
ジョシュの言葉を無視し、マリオンは続ける。
「しかし一つ問題があってな・・・。レインは強く心を閉ざしているのだ。
あの状態ではまともに女神像を動かすことは出来ない・・・。
そこであの子の精神を探ってみた。
するとそこにはただまっ黒な世界だけが広がっているだけだった・・・。
ただ一つ、お前という存在を除いてな。」
「俺が・・・?」
マリオンの視線を受けてジョシュはレインを見た。
「そうだ。あの子の中には強くお前が存在している。・・・いや、あの子の精神そのものがお前という存在の上に成り立っているのだ・・・。ならばやることは一つ・・。
レインの中にお前の魂を住まわせ、あの子の心を開いてやるのだ・・・。
永遠の孤独を味わうか・・・永遠に愛する者と一緒にいるか・・・。
あの子が選ぶ答えは火を見るより明らかだ・・・。レインは必ずお前の魂を受け入れる。
あの子は孤独に堪えられるほど強くはない・・・。喜んでお前を迎え入れるだろう。
その時こそ・・・新たな神が誕生し、この下らん世界を終わらせて、新たな世界へと生まれ変わるのだ。そして・・・お前はその為の鍵だ・・・。」
説明を終えたマリオンは魔力を溜めた手でジョシュの胸を掴んだ。
「うわああああああああッ!」
身をよじって苦しむジョシュにマリオンが微笑みかける。
「喜べ、レインと永遠に一緒にいられるのだから・・・。」
「レ・・・レイン・・・。」
涙を流して自分の無力さを呪うジョシュ。
自分の魂が肉体から抜き取られていくのを感じ、唇を震わせて無念の思いを抱いていた。
しかし、意識が途切れていく中で何かが空を切り裂くのを感じた。
ぼやける視界の中で、強く、大きく、逞しい背中がジョシュを守るように立っていた。
「あ・・・あああ・・・。」
無力の涙が安堵の涙に変わり、ジョシュはその者の名を口にした。
「・・・し・・・師匠・・・・・。」
剣を構えたフレイが二コリと微笑んでジョシュを振り返る。
「遅れてすまなんだな、小僧。」
ジョシュもその顔を見て小さく笑いを返した。
「フレイ・・・またも私の邪魔をするか・・・。」
ジョシュの魂を抜き取ろうとしていたマリオンの腕は切り落とされていて、彼女は憎らしそうに顔を歪めていた。
「ああ、ついでに僕も邪魔させてもらいますよ。」
黒く邪悪な影がマリオンの足元に伸びてきて、彼女を囲うように紺色の炎を上げた。
「チィッ!呪術か、小賢しいッ!」
素早く片手で印を結び、マリオンは自分を覆う紺色の炎を消し去った。
マリオンは目を吊り上げて呪術を放った主を睨みつける。
「ククリ・・・お前も私に牙を剥くか・・・。」
マリオンの言葉を無視し、ククリは大広間の中を見回した。
「シーナはどこだ?」
心配そうな目でシーナを捜すククリに、ジョシュは血が出るほど唇を噛んで、涙を滲ませながら答えた。
「シーナは・・・もういません・・・。マリオンが・・・マリオンがシーナを・・・。」
「なんだと・・・・・ッ!」
顔の色を失って身体を震わせるククリに、ジョシュは床に落ちている砂を指差した。
「そ・・・そんな・・・。シーナ・・・。」
ククリは歯を食いしばって強く目を閉じた。
震える身体で拳を握り、獣のように顔を歪めて小さく呻く。
マリオンは斬られた腕を再生させ、砂となったシーナに目を向けて言った。
「あの子は私が生み出したホムンクルスだ。お前へのスパイとしてな。
よい子だったが・・・用がなくなったので処分した。」
「・・・・・・。」
ククリはゆっくりと目を開けて、砂になったシーナを見つめた。
怒りと悲しみが入り混じった瞳で顔を俯け、またもや大切な者を守れなかった悔しさが心を押し潰すほど溢れてくる。
「・・・すまない・・・。」
ククリは目を閉じて眉間に皺を寄せながら呻いた
「シーナ・・・すまない・・・守ってやれなくて。・・・不甲斐ない師を許してくれ・・・。」
「ふふふ。」
魔力を高めて殺気を放っていたマリオンは、急に力を抜いて穏やかな表情に戻った。
「無能の部下に裏切り者の弟子・・・そして我が首を狙う敵・・・。
どうも私は人に恵まれんな・・・。」
マリオンの言葉に、フレイは剣を下げて馬鹿馬鹿しそうに笑った。
「まるで人運がないような言い方だな。全ての原因はお前であろうが!」
マリオンは言葉を返さずに、ただ宙を見つめている。
「・・・まったくだ。昔からあなたは自分のことしか考えていない・・・。
誰がそんな人間に心を寄せるものかッ!」
ククリの顔が死神の異名をとる姿へと変化していく。
「お前のような邪悪な存在は何一つ世の為にならん。今日こそこの剣の錆びにしてくれる。」
フレイは剣を収め、居合いの構えをとった。
「小僧ッ!お前は一旦退けい!妹は必ず俺が連れて帰ってやる!」
「でも俺・・・縛りつけられて・・・。」
「バカもんッ!」
フレイは強く怒鳴りつけた。
「そんなオモチャはとっくに斬り払っておるわ。さっさと行けいッ!」
言われて自分の体を確認すると、ジョシュを固定していた金属のベルトはバラバラに斬り裂かれていた。
「すげえ・・・いつの間に・・・。」
「感心しとらんで早く行け!」
自由になった身体を起こすジョシュだったが、突然何かが巻きついてきた。
「ふふふ、逃がしませんよ。あなたの肉体には興味があるといったでしょう。」
ヨシムラが腕を鉄の鞭に変化させてジョシュを縛りつけていた。
「チィッ!」
フレイが斬り払おうとするが、マリオンが稲妻を放って阻止した。
オーラを纏った剣で打ち払い、フレイはマリオンを睨みつける。
「私相手によそ見をしていていいのかな?」
「・・・・・確かにそれは危険だな。」
フレイはもう一度居合いの構えをとってマリオンに向き合い、ジョシュに向かって言った。
「小僧、残念ながらそっちまで手が回らん。その雑魚は自分で何とかしろ。」
「分かってますって。こいつには借りがあるんでね。」
ジョシュは台座から高く飛び上がり、ヨシムラの顔面に蹴りを入れた。
そしてよろけるヨシムラにさらに回し蹴りを放った。
「この!よくも私の顔を・・・。」
腕に力を入れて鞭を引っ張るヨシムラだったが、ジョシュはビクともしなかった。
「こんな鞭くらいなわけないぜ。」
体内に溜めたオーラを足先に集中させ、ジョシュはヨシムラの手元を蹴り上げた。
「ぬおッ!」
鉄の鞭が根元から粉砕され、ジョシュは体を縛っている鞭を振りほどいた。
「さっきみたいにはいかないぜ、科学者さんよ。」
「おのれ・・・。」
ヨシムラは砕かれた腕を再生させ、掌から剣を造り出した。
「ああ!それ俺の剣じゃねえか!何パクってんだ!」
「ふふふ、返して欲しければ自分で奪い取ってみることだ。」
ジョシュの剣を握ってゆらゆらと振りながら、ヨシムラは猫のように背中を丸めた。
ジョシュは足幅を広く取って腰を沈ませ、左手を前に、そして右手は拳を握って腰の横に構えた。
二人は睨み合ったまま動かず、お互いの隙を窺って睨み合っていた。
そして、その様子を横目で見ていたフレイがククリに言った。
「こっちも始めるか。」
「ええ。」
フレイとククリも臨戦態勢に入る。
「この私に挑むか・・・。よかろう・・・。
言っておくが、今の私はお前達が知っている以前の私とは比べ物にならぬぞ・・・。」
新時代の神になるかもしれない女神像のもと、それぞれの戦いが始まった。

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