マーシャル・アクター 第十三話 マーシャル・アクター

  • 2014.01.13 Monday
  • 19:02
〜『マーシャル・アクター』〜

《くそ・・・身体が動かねえ・・・。寝てる場合じゃねえのに・・・。》
意識はあるが五感と身体がまったく反応せず、ジョシュは外の様子を窺うことが出来ずに焦っていた。
《レインを助けなきゃならねえのに・・・。
それに師匠やククリさんだって・・・動いてくれよ!》
マリオンの攻撃はジョシュに致命的なダメージを与えていた。
辛うじて生きてはいるが、放っておけば一時間ともたずに死んでしまうほどの傷を負っていた。
《これマジでやばいなあ・・・。何か、何か手はないのかよ・・・。》
焦りばかりが先走って、ジョシュはまともに考えることが出来ない。
《マリオンは俺の魂をレインの肉体に入れるって言ってたな。
あいつが心を閉ざしてるからって・・・。レイン寂しがってんだろなあ・・・。
気が強いように見えて、実はけっこう弱いんだよなあ・・・。》
わずかに鼓動を始めるマーシャル・スーツのコアだったが、レインのことだけを考えているジョシュは気づかない。
《俺が彼女に振られた時も、あいつ文句言いに行って・・・。
魔法で殺しかけた時は冷や冷やしたけど・・・気づいてないつもりだろうけどバレバレだっての。あの時なんだよなあ、あいつの俺に対する気持ちに気づいたのは・・・。
レインが異常に俺に構う理由が分かって、でもこっちはどうしたらいいのか分かんなくて・・・。何度もあいつのことを真剣に考えたけど、やっぱ俺はレインを妹以上に見れなくて・・・てか俺がこのことに気づいてることすら知らねえだろうな・・・。》
マーシャル・スーツの鼓動は徐々に大きくなっていく。
《でも・・あいつの傷つく顔は見たくないから・・・。
知らねえだろうなあ、俺があれからまた女の子に告白されたこと。
けっこう好みの子だったけど、レインが傷つく顔を見たくないから断って・・・。
レイン、知ってるか?俺はさ、いつかお前に好きな男が出来るまで、女の子とは付き合わないって決めてんだ。
お前が泣くくらいなら恋愛くらい我慢してやるさ・・・。だってお前は、俺の最愛の妹なんだから・・・。》
傷ついたジョシュの身体が、マーシャル・スーツの鼓動とともに再生していく。
内側からオーラが溢れ、その身を包んで姿を変えていく。
《けどなレイン、どんなに仲が良くたって、どんなに愛し合っていたって、兄妹ってのはいつかそれぞれの道を歩かなきゃいけないんだ。
どんなに寂しくったって、いつかは一人で歩いていかなきゃいけないんだ。
それは孤独になることとは違うぜ・・・。
俺達が最愛の兄妹ってのは変わらねえ。お前が困ってりゃ、俺はいつだって飛んでって助けてやる。
けど・・・それでも・・・俺は俺の、お前はお前の道を行かなきゃならねえ・・・。
だから、だからよお・・・こんな所でくたばってる場合じゃねんだよおッ!》
マリオンは女神像の頭の上で瞑想にふけっていた。
来るべき新時代に向けて確固たる思想を作り上げ、レインの精神に刷り込む為であった。
長年に渡る夢があと一歩で実現に向かう喜び、自分が神の一部となれる喜び、様々な喜々感がマリオンの心を包んでいた。
一点の曇りもない明鏡止水の心で瞑想にふけっている。
しかし突然心に乱れが走り、マリオンは瞑想をやめて立ち上がった。
「なんだ?この嫌な感じは・・・?これは・・・敵意か?」
女神像の頭の上から下を見下ろそうとした時、一筋の風が駆け抜けていった。
「なんだ・・・?」
肩に違和感を覚え、そこに手を当てるとあるはずの右腕がなかった。
「ッ!」
彼女の足元には斬り落とされ右腕が転がっていて、砂となって消えていった。
そして背後に異様な気を感じ、杖を構えて振り返った。
「貴様・・・。」
「よう。」
次の瞬間、ブレードがマリオンの身体を貫いていた。
「ぐあ・・・ッ!」
慌てて身体を引き抜き、マリオンはレインの所まで逃げるように飛び降りた。
「発動させたのか・・・マーシャル・スーツを・・・。」
マリオンは女神像の頭を見上げた。
その上にはマーシャル・スーツを纏うジョシュがいた。
光沢のある機械的な騎士の鎧、竜の尻尾を思わせる背中まで伸びた頭飾り。
右手には鈍く光る銀色の三又槍を持ち、左手の付け根からはプラズマを纏うブレードが伸びていた。
そして青く光る眼が殺気を纏ってマリオンを見据えている。
「お前の言ってた意味が分かったぜ。俺はマーシャル・アクターとして未熟だってこと。」
突然マリオンの目の前から消え、ジョシュは一瞬にして背後に回った。
「速いな・・・。」
杖から稲妻を出して反撃するが、マーシャル・スーツの装甲が弾き飛ばしてしまった。
「これは・・・魔法防御加工を施してあるのか!」
女神像から飛び降りようとするマリオンだったが、空中でジョシュの槍が身体に巻きついてきて締め上げられた。
「ぐ・・・なんだこの槍は・・・?」
「刃の根元が鎖みたいに伸びるんだ。便利だろ。」
そのままマリオンを引き寄せ、無防備な所へもう一度ブレードを突き刺した。
「ぐおおおッ!貴様、いいのか?シーナの身体だぞッ?」
「お前はシーナじゃねえ。」
ジョシュの目が強く光った。
「マーシャル・スーツに宿る人格、レイドってんだけど、俺がくたばってる時に尋ねてきたんだ。私は闘う為の衣装だ、お前にそれを纏う覚悟はあるかって。」
マリオンは槍を振りほどこうと魔力を溜めたが、巻き付いた槍が魔力を吸い取っていく。
そしてより強くマリオンを締め上げていった。
「お前言ったよな。俺に甘さがある限り、絶対に自分には勝てないって。
それで全てが分かったよ。こいつを発動させるには、甘さがあっちゃいけないんだって。
何がなんでも敵を打ち砕く、そういう覚悟がなきゃ闘う衣装は纏えない。
だから俺はレイドに答えたよ。俺はお前を纏う時、戦いの鬼になるってな。
それこそが戦う衣装を纏い、戦いを演じるマーシャル・アクターだ!」
ジョシュのブレードからプラズマが放たれ、マリオンを焼き尽くしていく。
だがプラズマの炎の中でマリオンは不敵に笑った。
「・・・ふふふ。私も余計な助言をしてしまったものだ・・・。
まだ若造と甘く見たのが失敗だったな・・・だがッ!」
「な、なんだ・・・?」
急にマリオンの気が膨れ上がっていき、危険を感じたジョシュは槍をほどいて離れた。
「ふふふ・・・なにも切り札を持っているのはお前だけではないのだぞ・・・。
我が身体にも、戦いの神が宿っておる・・・。見よ!これが私の闘う衣装だ!」
《ジョシュ!危険だ。もっと離れた方がいい》
頭の中にレイドの声が響き、ジョシュは女神像から離れた。
「どんどん気がでかくなってく・・・。」
強大なオーラと魔力でマリオンの身体は膨れ上がり、シーナの姿は見る影もなくなってしまった。
「おい、レイド!いったい何が起ころうとしてんだよ?」
《おそらく何かの神の化身になるつもりだろう。》
「何かって・・・いったい何の神だよッ?」
《戦いの神と言っていたが・・・おそらく多神教における戦いを担う神の化身だろう。
ジョシュよ、死闘が予想されるぞ。心してかかれ。》
「んな曖昧なこと言われたって・・・それにレインや師匠やククリさんだって助けないといけねえし・・・。」
《分かっている。だがマリオンを討たないと仲間は助けられない
仲間を死なせたくなければ奴を倒す以外に道はない。》
「・・・・・だよな。あいつが全ての元凶なんだ。サポート頼むぜ、レイド!」
《無論だ。》
マリオンの身体から光が放たれ、波状に拡散していく。
《くるぞ!》
膨張したマリオンの身体から閃光が走り、雷鳴のような轟音を響かせた。
そして輝く光の中から戦いの神の化身となったマリオンが姿を現した。
「なんて姿だ・・・・・。」
三つの顔に六本の腕、細身ではあるが筋肉質な身体、赤、青、黒が交互に巻き付けられたような色彩、そして破れかけた真っ白な法衣を身に着けていた。
六本の腕がそれぞれ合掌をしており、人間より遥かに高貴なオーラを纏っていた。
《あれは、おそらく阿修羅だろう》
「阿修羅?何だそりゃ?」
《東洋における鬼神だ。その力と闘争心は凄まじい。
いくらマーシャル・スーツといえど、勝てるかどうかは微妙な相手だ。》
「マジかよ・・・。戦いの前に不安になるようなこと言うなよ。」
《希望的観測は身を滅ぼすだけだ。勝ちたいなら目の前の敵を正しく見ることだ。》
阿修羅となったマリオンは神々しいオーラを纏って地面に降り立った。
「この姿になるのは本当に久しぶりだ。私の師、シーター大魔導士と闘った時以来だな。」
圧倒的な迫力に身を固くするジョシュだったが、すぐに弱気を振り払って槍を構えた。
「阿修羅だろうがなんだろうがやってやるぜ!お前を討ち滅ぼして全てを終わらせてやる!」
「ふふふ、いくら力を得ようともお前ごとき若造にやられたりはせん。さあ来い!」
「うおおおおおおおッ!」
左腕の魔法シールドを展開させ、ジョシュは飛び込んでいった。
三つある阿修羅の顔の一つから熱線が吐き出される。
「効くかよ!」
ジョシュのシールドに当たった熱線は跳ね返されてマリオンに直撃した。
爆炎をあげるマリオンに向かってジョシュの槍が伸びていく。
しかし途中で槍の動きは止まり、穂先を掴んだマリオンが爆炎の中から飛び出してきた。
「むん!」
槍を持ち上げてジョシュを投げ飛ばし、自分も飛び上がって鉄拳の嵐を見舞った。
シールドで防御するが、隙をついてマリオンの蹴りが入る。
「うおおおおおおッ!」
床を砕いて地面に激突するジョシュ。
マリオンは六本の手で印を結び、オーラと魔力を織り交ぜた光の砲弾を撃ち出した。
「やべッ!」
《大丈夫だ》
マーシャル・スーツの胸部が開き、中にあるファンが回って光の砲弾を吸収していった。
《これは返すぞ》
レイドは威力を倍増させてファンから光の砲弾を撃ち出した。
マリオンは余裕の笑みで砲弾を蹴り飛ばし、天井にぶつかった砲弾が爆発を起こして穴を開けた。
ジョシュは舞い上がった煙に乗じて身を隠し、マリオンの頭上から槍を突き刺そうとする。
「甘いッ!」
身体をよじって槍をかわし、二本の腕でジョシュを掴むマリオン。
「この!離せよ!」
特大のプラズマを発生させてブレードを振り下ろすが、あっさりと白刃取りを決められてしまった。
「ぬるい打ち込みだな。この剣は頂くぞ。」
腕を振ってブレードを折り、無防備なところへ熱線を吐き出した。
「うおおおおおおッ!」
装甲の魔法防御の限界をあっさりと超える威力の熱線は、ジョシュを壁まで吹き飛ばした。
ぶつかった衝撃で壁が壊れ、ジョシュの上に崩れ落ちていく。
「くそ・・・なんちゅう化け物だよ・・・。」
瓦礫を退かして立ち上がるジョシュにプラズマブレードが飛んできた。
《危ない!》
レイドが咄嗟に槍を伸ばしてブレードを叩き落とす。
そしてシールドを変形させて弓を作り出した。
右手の甲に仕込まれた短い針がオーラを帯びて光の矢と化し、弓に番えて撃ち出した。
マリオンは飛び上がって矢をかわすが、まるでロックオンしたミサイルのように進行方向を変えてマリオンに突き刺さった。
もう一発放った矢も、かわそうとするマリオンを追従して突き刺さり、レイドは槍を伸ばして束縛した。
《ジョシュ、今が好機だ。》
「やるなレイド!」
ジョシュは左の掌に開いた穴にオーラを溜めて増幅し、マリオンに接近してゼロ距離の射程から撃ち出した。
掌から放たれたオーラの波動が爆音を響かせて閃光を放ち、マリオンの身体を貫通して穴を開けていった。
「もう一発!」
二発目のオーラは顔の一つを吹き飛ばし、そのまま槍を振り回してマリオンを床に叩きつけた。
砕けた床が煙を上げ、ジョシュは槍にオーラを込めて横一文字に払った。
オーラの光刃がマリオンに直撃し、とどめに胸部のファンから魔力とオーラを混ぜた特大の光線を放った。
壁にめり込むマリオンに直撃して地震のように部屋を揺らし、大爆発を起こした。
「よっしゃ!こんだけ連続で決まればさすがのマリオンも復活できねえだろ!」
ガッツポーズを取るジョシュにレイドが釘を刺した。
《いや、油断するな。奴はまだ本気を出していない。》
「そうか?結構本気で戦ってただろ。」
槍を構えてじっと見つめていると、抉れた床の中から何事もなかったようにマリオンが飛び出して来た。
潰れた顔と穴の開いた身体はそのままだったが、それ以外は何一つダメージを受けていなかった。
ぼろぼろになった法衣を脱ぎ去り、コキっと肩を鳴らすマリオン。
つまずいて転んだ時のように冷静に身体の汚れを払っていた。
「マジかよ・・・。あんだけの攻撃を受けてダメージが無いなんて・・・。」
《だから言ったはずだ、油断するなと。》
マリオンはパチンと指を鳴らし、傷ついた身体を一瞬で治してしまった。
「ふふふ、今のは中々良い攻撃だったぞ。
この身体になった私に傷を付けただけでも賞賛に値する。」
マリオンの底知れぬ力に、ジョシュは心の底から恐怖を抱いた。
《恐れている場合ではないぞ。闘志の低下は敗北に繋がる。》
「分かってるよ!分かってるけど・・・まさかここまでなんて・・・。」
腕をだらんと下げ、マリオンはスタスタと普通に歩いて近づいて来る。
「くッ・・・。」
ジョシュはシールドを展開させて槍を構え、迎撃の体勢をとった。
「どれ、少し驚かせてやろう。」
マリオンの身体が柳のように揺れてジョシュの目の前から消えた。
「なッ・・・これは!」
次の瞬間、ジョシュの顔面に蹴りが入っていた。
「うおッ!」
バランスを崩しながらも槍で反撃するが、もうそこにマリオンの姿はなかった。
次の瞬間、ガゴッ!っという鈍い音が響き、マリオンの拳がジョシュの腹部の装甲にヒビを入れていた。
「このおッ!」
反撃したジョシュの蹴りを軽々と掴み、残った五本の手が貫手を放つ。
「うぐあああああッ!」
マリオンの貫手は装甲を貫通して中の機械部分にまで達していた。
「どれ、お前も感電してみるがいい。」
刺さった指から稲妻を放つマリオン。雷光と雷鳴が部屋に響き渡る。
「うわあああああああッ!」
「そうれ、もっと強くなるぞ!」
落雷のような轟音が響き、数億ボルトの電気がジョシュの身体を焼いていく。
《まずい!このままでは・・・。》
レイドは強引にジョシュから意識を奪い取った。
青く光る目が紫に変わり、龍の頭飾りの先端を刃に変えて振り回した。
ジョシュを突き刺していたマリオンの腕が切断され、レイドは背部のブースターを最大出力で噴射した。
レイドはマリオンに体当たりをくらわせ、遠くへ吹き飛ばした。
しかし空中で一回転したマリオンは、綺麗に着地して構えをとった。
「なるほど、マーシャル・スーツに宿っている人格か・・・。レイドとか言ったな?」
《そうだ。ジョシュを守る為に一時的に入れ替わっている。
あれ以上感電させられては痛みによって、精神に致命的なダメージを負ってしまうのでな。》
切断された腕をあっさりと再生させ、嬉しそうに笑いながらマリオンは腕を組んだ。
「なるほど・・・。主人格に死なれてはお前も困るというわけか・・・。」
《その通りだ。彼がいなければ私の存在理由はなくなってしまう。》
「ふむ・・・。」
顎に手を当て、三つの顔の目を閉じながらマリオンは呟いた。
「要するにお前の最大の任務は宿主の魂を守ることか?」
《それは私の存在理由であり、任務というわけではない。
私にとって一番重要なことは、主人たる魂に勝利をもたらすことだ。》
「ならここで戦いをやめることは・・・。」
《できない。ジョシュが戦いを拒否するか、もしくは彼の魂のエネルギーがつきかけて死に直面した時にのみ戦闘形態は解除される。
だが彼は私の中で意識を失っている。またこの形態を解除することはお前に殺されることを意味する。よってこれより先も戦い続けるしかない。どちらかが死ぬまで。》
マリオンは残念そうに頷いて腕組みをといた。
「そうか・・・ここまで私と戦える青年を殺すのは忍びないと思ったのだが・・・。
仕方あるまい・・・。
当初の予定通り、ジョシュを殺して魂だけをレインの中に入れるとしよう。」
六本の腕を広げ、魔力を溜めていくマリオン。
膨張していく凄まじい力にレイドは圧倒された。
《魔導士としての本領を発揮するか・・・。》
「そうだ。白兵戦は元々得意とするところではない。
ただお前達の遊びに付き合っていただけだ・・・。
だがそろそろ遊びに時間を費やすわけにもいかない・・・。
新たな世界の幕開けが待っているのだからな。」
炎、氷、稲妻、風、光、呪術、六つの力が六つの掌に宿り、マリオンはその全てを同時に撃ち出した。
《・・・防ぎきれるか・・・。》
シールドのパワーを最大にして稲妻を跳ね返し、真空の刃を槍で斬り払った。
しかし続けざまに飛んでくる巨大な炎弾が直撃し、爆炎がヒビ割れた装甲から内部を焼いていく。
横へ跳んで爆炎から逃れるも、地面を這う氷柱に脚を凍らせられ、頭上からレーザーの雨が降り注ぐ。
《むううう・・・》
シールドを持ち上げて跳ね返すが、凄まじい衝撃のせいで装甲に入ったヒビが大きさを増していく。
ブースターから強力な熱風を吹き出して氷を溶かし、オーラを込めた槍の一撃で頭上のレーザーを掻き消した。
しかし槍を突き上げて無防備になったところへ呪術の黒い炎が纏わりつき、怨霊の顔を浮かび上がらせて恐ろしい声と共に燃え上がった。
まともに呪術を受けて倒れるレイド。マリオンは飛び上がって傍に降り立った。
「完全に決まったな・・・。よく闘ったがここまでだ・・・。」
レイドの頭を掴み、完全に沈黙したことを確認すると興味も無さそうに放り投げた。
「さすがはククリの造り出したマーシャル・スーツだ。中々よく出来た代物であった。
しかしこの私を討つには少々及ばなかったな・・・。
せめて中の魂がこんな若造ではなく、フレイくらいの使い手であればもう少し戦えたかもしれないが・・・まあ、どうでもいいことだ。」
自分の身体に傷をつけた敬意として、マリオンは黙祷を捧げた。
「・・・・・・妙だな。魂が身体から出て行かない。まだ息があるというのか?」
マリオンは不思議そうにマーシャル・スーツを見つめる。
そしてその一瞬の隙をレイドは見逃さなかった。
槍を伸ばして地面を走らせ、マリオンの身体に巻きつけると魔力を吸収し始めた。
「なんと!死んだと思わせたのは演技であったかッ!」
レイドは再生したプラズマブレードをマリオンに向け、シールドを弓に変えて撃ち出した。
刺さったブレードがマリオンの体内で閃光を放って弾け飛ぶ。
「おのれッ!」
すぐさま傷を再生させようとするが、槍が魔力を吸収して力を奪い取っていった。
槍を伝って魔力が注がれ、傷ついたマーシャル・スーツが回復していく。
「生意気な・・・。」
慌てるマリオンだったが時はすでに遅かった。
立ち上がったレイドが胸のファンを開いて熱線を放とうとしている。
《ジョシュ、さすがにマリオンの魔法の六連発は効いた。私はしばらく休ませてもらう。
後の戦いは任せたぞ。》
「おう!こっちはじっくり休ませてもらってばっちり回復したぜ。後は任せろ!」
レイドの中で意識を回復させたジョシュが力強く言った。
《頼んだぞ》
レイドの胸から熱線が放たれ、魔力を失って弱ったマリオンを焼いていく。
「ぐおおおおおおッ!」
熱線の光の中でマリオンはもがき苦しんだ。
三つの顔が叫び、六本の腕が踊り狂っている。
マーシャル・スーツの目が再び青の輝きに戻り、巻き付けていた槍をほどいてジョシュは飛び上がった。
「なんかおいしいとこだけもらって悪いけど、これでとどめだぜッ!」
シールドを展開させてそこに槍を差し込み、オーラと魔力を注ぎ込んだ。
シールドと槍が一体化して光の十字架を作り出す。
「舐めるなああああああッ!」
渾身の魔力で熱線を吹き飛ばし、マリオンが鬼の形相で飛びかかってくる。
ジョシュはブースターをフルパワーで噴射し、迫りくるマリオンに十字架の槍を向けて突撃した。
六本の腕で拳を握り、半分は魔力、半分はオーラを込めて身体を回転させるマリオン。
「喰らえ、魔法とオーラの我が奥義!阿修羅金剛撃ッ!」
魔力とオーラが螺旋状になって六つの拳から撃ち出される。
マリオンは螺旋の波動と同化して、高速で回転しながら弾丸のように飛んできた
「てめえの必殺技ごと粉砕してやるぜ!陽炎の太刀・十字閃槍!」
マリオンの拳とジョシュの槍が激しくぶつかる
力と力の衝突が眩い閃光を放ち、大きなエネルギーが二人の間で渦を巻く。
「うおおおおおおッ!」
僅かにジョシュのパワーが勝り、十字架の槍がマリオンの拳を砕いて彼女の身体を貫いていった
十字架の光が消えてジョシュが現れ、身体から煙をあげて膝をついた。
「ぐ・・・ッ!なんつう技だよ・・・。」
マーシャル・スーツの装甲がヒビ割れ、槍を握っている手が痺れて動かせなかった
立ち上がってマリオンを振り返ると、上半身の半分が抉られてふらつきながら立っている。
しかしすぐさま奥義の構えに入り、ジョシュに拳を向けた。
「お前の動きはもう見切った!二度は通用せんッ!」
残った三本の腕で拳を握り、さっきと同じ技を撃って来るマリオン。
「クソ・・・ッ!」
ジョシュはシールドをフルパワーで展開させてマリオンの奥義を受け止めた。
「無駄だ・・・。この盾ごと貫いてくれるッ!」
「うおおおおおおッ!」
ビキビキと音を立ててシールドが軋む。
マリオンのパワーに堪え切れずに、ジョシュは膝をついた。
「なんて力だ・・・。身体が半分抉られてるのに・・・・、ん?」
ジョシュはその言葉でハッと何かに気がついた。
《どうしてマリオンは傷ついた身体を再生させなかったんだ?
完全な状態で撃てばもう勝負はついているはずなのに。
・・・もしかして。》
ブースターを噴射させ、ジョシュはなんとか立ち上がった。
そしてシールドに持てる力の全てを注いでいく。
「お前の奥義は確かに強力だ。だけどその分エネルギーを使うんだろ?
再生出来なかったのはその為だ。」
マリオンがニヤリと笑う
「ふふふ、そうだ。しかしお前を倒すには十分な力だ・・・。
このまま我が奥義に貫かれ、砕け散るがいい!」
マリオンの技に堪え切れずにシールドにヒビが入り始めた。
「ぐううう・・・ッ。魔法で出来たシールドにヒビ入れるなんてどんな力だよ・・・。
けどな、これさえ防げばお前にもう力は残ってねえだろ。そうなりゃ俺の勝ちだ!」
勝ち誇ったように言うジョシュに、マリオンは声を上げて笑った。
「甘いな!我が渾身の奥義はお前ごとき若造に防げるものではない!」
マリオンの回転がスピードを増して威力が上がっていく。
シールドのヒビは大きくなり、もはや限界寸前のところまできていた。
「終わりだッ!死ねええええいッ!」
「うおおおおおおおッ!」
バキイイイィィンッ!っと大きな音を立ててシールドは砕け散り、マリオンはジョシュの身体めがけて突っ込んでいった。
爆音と衝撃が部屋を揺らし、女神像が大きくぐらつく。
地面にクレーターのような穴を開け、立ち昇る煙の中にマリオンが立っていた。
「痕かたも無く消し飛んだか・・・?」
そう呟きながら辺りの気配を窺う。
しかしすぐに違和感に気づき、辺りを窺うと魔力を放つ金属の破片が散らばっていた。
マリオンが粉砕したのはシールドだけだった。
足元に散らばる残骸を蹴り飛ばして拳を握り、再び奥義の構えをとった。
「どこだ・・・。」
真上に微かな空気の振動を感じ、マリオンは刹那の反応で奥義を撃ち出した。
「馬鹿め!お前の動きは見切ったと言っただろう!」
迫りくるジョシュの槍を拳で跳ねのけ、無防備になったところへマリオンが飛んでくる。
「馬鹿はお前だッ!」
槍の握っていた手とは反対側の手が背中にかけられている。
マリオンの拳を流れる水のように軽やかにかわし、背中の隠し武器の魔法刀で斬りつけた。
「な・・・ッ!」
残った腕のうち二本が斬り落とされ、切断面から炎が上がった。
マリオンは残った腕で反撃するが、ジョシュは槍を手放してもう一本ある背中の魔法刀で斬り落とした。
今度は斬られた部分が凍りつく。
「馬鹿なッ!」
驚愕するマリオンを蹴り飛ばして地面に叩きつけ、ジョシュは陽炎の歩を使った。
「く・・・・ッ!」
すぐに立ち上がって迎え撃とうとするも、腕が全て斬り落とされたマリオンにもう奥義は撃てなかった。
「動きは見切っても隠し武器までは見切れなかっただろ?」
背後から気配を感じ、マリオンは振り返って口から熱線を放った。
それをあっさりとかわすと、ジョシュは氷の魔法刀をマリオンに投げ刺した。
脚にささった魔法刀は氷柱を作り出してマリオンの動きを封じ込め、絶対零度の低温が身体を蝕んでいく。
「お、おのれ・・・この程度で・・・・・ッ!」
氷を砕こうと力を溜めるマリオンの目の前に、炎の魔法刀の刃が迫っていた。
「・・・・・ッ!」
ジョシュは音も無く刀を振り下ろし、氷漬けになったマリオンを一刀両断した。
真っ二つに斬られた身体から灼熱の炎が上がり、マグマのようにマリオンの身体を溶かしていく。
「そんな・・・この私が・・・こんな若造に・・・。」
悲哀と驚愕に満ちた顔で雄叫びをあげながら、マリオンは灼熱の業火の中に消えていった。
「・・・終わったか・・・。」
マリオンの気は完全に断たれた。
しばらく刀を構えたまま様子を窺うジョシュだったが、再生してくる気配がないことを確認して構えを解いた。
「・・・・・・・・。」
燃え盛るマリオンの身体を見ていると揺らめく霧がたちあがり、その中から幻影のようにマリオンの霊体が現れた。
「やっぱ完全にくたばってなかったか!」
再び刀を構えるジョシュに、霊体となったマリオンは静かに微笑んだ。
燃え盛る自分の身体に目を落とし、しばらくそのまま佇んでいた。
「見事だな・・・。」
呟くように口を開き、落ち着いた表情でジョシュを見つめるマリオン。
「お前の剣技、そしてそのマーシャル・スーツ。実に見事なものだった。
潔く敗北を認めよう・・・。お前の勝ちだ。」
「・・・なんだよ、やけに素直じゃねえか。」
先ほどとは打って変わって穏やかな顔を見せるマリオンに、ジョシュは逆に不気味さを感じていた。
「そんな顔をするな。お前の勝ちだと言っただろう・・・。
お前は私の生涯において唯一黒星を付けたのだ。誇るがいい・・・。」
「褒められても何にも嬉しくねえな。どうせまだ何か企んでるんだろう?」
マリオンは無言のまま自分の身体から離れ、女神像の元へと歩いて行く。
愛おしそうにそれを見つめ、宙に浮いてレインの元へと降り立った。
「おい、レインに何をするつもりだッ?」
ジョシュもその後を追ってレインの所へと飛び上がった。
「確かに私はお前に負けた。
しかしだからといって私の夢を終わらせるわけにはいかない。
新たな世界、そして新たな神の誕生は誰にも止められん。
お前の魂でレインの心を開くつもりだったが、敗れた今となってはそれも無理だ。
ならば、残る方法は一つ!私自身がレインの中に入り込み、この子の心を支配する。
無理が出るやり方だろうが・・・このまま夢を終わらせるよりはマシだ・・・。」
マリオンの身体が光って霊魂となり、レインの身体の上に漂う。
「ふざけんなッ!これ以上レインを傷つけさせるかッ!」
魔法刀で斬りかかるが、マリオンは舞い踊る蝶のようにかわしてレインの肉体に入っていった。
「しまったッ!」
女神像が一瞬だけ光って波動を放ち、胸元のレインを吸収していく。
「レインッ!」
慌てて手を伸ばしたが間に合わず、地震のような音をたてて女神像が動き出した。
冷たい石の身体がライトブルーの金属の肌へと変化していく。
瞳のない目に光が宿り、赤く輝かせて翼を広げた。
つま先から胸の辺りまでが金色の鱗に覆われていき、両手を広げて悲鳴の産声を上げた。
それは耳を塞ぎたくなるような悲痛な絶叫だった。
「クソッ!レイイイィィンッ!」
羽ばたく女神から振り落とされるジョシュ。
根源の世界の力を取り出す魔法陣が光り出し、パイプを流れて女神に力を送っていく。
「アアアアアアアアッ!」
悲しみとも苦しみともつかない絶叫を上げて顔を覆い、身をよじっただけで空気が振動した。
「こりゃあ・・・・・。」
女神の強大な力に、空気に漂う原始の精霊達が怯え、波のように大気をうねらせている。
「こんなもんが地上に出たらとんでもないことになるな・・・。」
女神はただひたすら身体をよじって泣いていた。
ジョシュはその姿を見てある種の懐かしさを覚えた。
「これは、レインが泣いてる時とそっくりだ・・・。」
まだ子供だった頃、滅多に泣かないレインが泣き出すと手がつけられなかった。
耳を塞ぎたくなるような大声を出し、滝のように涙を流し、慰めようとすると暴れ回った。
普段とのあまりの変貌ぶりに、そういう時のジョシュはかえって冷静になれた。
そして、それは今回も同じだった。
女神の力は、とてもではないがジョシュ一人の手に負えるものではなかった。
しかしこの懐かしい泣き方が、ジョシュに平静を保たせていた。
「こうなるとしばらくこのままだからなあ・・・。今のうちに師匠達を助けるか。」
泣き喚く女神に踵を返し、振り向いて言った。
「レイン・・・すぐに助けてやるからな。」
体内で活泉の気を練り、まずは血を流して倒れているククリの方へ向かって行った。

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