竜人戦記 番外編 クロス・ワールド(7)

  • 2014.01.17 Friday
  • 18:26
ウェインの卓越した剣捌きが敵を凪ぐ。
重い大剣を軽枝のように振り回し、襲いかかる敵の攻撃を全て跳ね返していく。
「ぬうんッ!」
渾身の一撃がドラゴンゾンビの顎に突き刺さり、そのまま持ち上げて地面に叩きつけた。
「グオオオオン!」
続けて襲いかかってきたケルベロスゾンビの牙を素手で受け止め、口の中に光の砲弾を放つ。
聖なる竜人の闘気がゾンビの腐敗した身体を焼き払い、眩い光が飛び散った。
「さすがはウェイン!いくら強力でもゾンビでは相手にならぬか?」
「当然だ!高みの見物はやめて、さっさとかかって来い!」
ウェインは剣を八双に構え、足を広げて大地を踏ん張る。
魔人はニヤリと笑って飛び上がり、印を結んで呪術を放ってきた。
「まずい!さがれお前達!」
ウェインはケイトとクレアを抱えて飛び上がる。
すると地面に黒い染みが現れて、憎悪に歪む悪霊が飛び出て来た。
「この程度の呪術!」
黄金に光る大剣を一閃し、一撃で悪霊を吹き飛ばす。
しかし後ろから魔人の手が伸びてきて、クレアを奪われてしまった。
「クレア!」
ケイトは手を伸ばして叫ぶ。
「前に出るな!」
ウェインはケイトを抱えて着地し、魔人に向かって剣を構えた。
「ふふふ、さすがのお前でも、二人も守りながら戦うのは無理があったか?」
「・・・・貴様が相手ではな。で、その女をどうするつもりだ?」
「どうもせんよ。ただ盾になってもらうだけだ。」
魔人はクレアの首に爪を喰い込ませ、邪悪な瘴気を流し込む。
「あああああああああああ!」
「クレア!」
クレアの身体は見る見るうちに黒く変色し、青い瞳が灰色に変わって生気が失われていく。
「ああ・・・あああ・・・・・・。」
「クレア!ちょっと!クレアに何をしたのよ!」
ケイトは怒って魔人に詰め寄ろうとする。
「下がってろ!死にたいのか?」
「で、でも・・・クレアが・・・。」
クレアは魔人の呪いを受け、真っ黒な蝋人形に変えられてしまった。
その身体からは無数にイバラが伸びて来て、魔人を守るように囲っていった。
「ふふふ・・・俺を攻撃したければ、この女を殺すことだ。
まあ甘ちゃんのお前には無理だろがな、ははははは!」
「・・・・・・・・。」
ウェインは何も答えずに剣を構える。そして地面を蹴って飛びかかろうとした。
「ウェインさん!クレアを攻撃するつもりですか!」
「仕方ないだろう。魔人を倒すためだ。」
「で、でも・・・。クレアを攻撃するなんてあんまりです!」
「気持ちは分かるが仕方がないんだ。バースがああいう手段に出るということは、必ず何かを企んでいるんだ。
下手に時間を与えれば何をしでかすか分からない。それはお前もよく知っているだろう?」
「そうですけど・・・・、でも・・・・。」
ケイトは納得のいかない様子でウェインの腕を掴む。
そしてグッと唇を噛みしめ、険しい顔で呪いのかかったクレアを見つめた。
「・・・・・・あ!そうだ!」
突然何かを思いつき、法衣の長い袖をスルスルと捲る。するとそこには、青い宝石の填まった銀の腕輪が着けられていた。
「それは聖者の腕輪か・・・?」
「はい!トリスさんの家に行った時に持って来たんです。
この腕輪ならクレアの呪いを解けるかもしれない。」
「しかしそれを使うのは一年ぶりだろう?上手くいくのか?」
「・・・・・分かりません。でも、この一年でシスターとしては成長したつもりです!
だから・・・・必ずクレアを助けてみせます!」
ケイトの目は本気だった。青い瞳が熱い闘志を燃やしているのを感じて、ウェインはゆっくりと頷いた。
「いいだろう、お前に任せる。しかしあまり時間はないぞ。見ろ、バースの奴が何かを始めた。」
ウェインは魔人の方に剣を向けた。
するとイバラの檻の中で守られた魔人が、目を閉じてブツブツと呪文を唱えていた。
「あいつがそこまでの詠唱を必要とする魔法だ。きっととてつもない力を持った何かを召喚するつもりだろう。
だから奴の詠唱が終わる前に、お前はクレアの呪いを解除しろ。いいな?」
「はい!やってみせます!」
「じゃあ俺は後ろの雑魚どもを叩きのめす。お前は呪いを解くことに集中していろ。」
そう言ってケイトの肩を叩き、大剣を振って後ろを振り返る。
そこにはウェインにやられたゾンビ達が立ち上がっていて、牙を剥き出してこちらを睨んでいた。
「さすがにゾンビだけあって、しぶとさだけは大したものだな。が、しかし!」
ウェインは闘気を高め、湯気のように黄金の竜気を立ち昇らせた。
「しょせん雑魚は雑魚!まとめて叩き伏せてくれる!」
「グウオオオオオオオオオオンッ!」
二匹のゾンビは雄叫びを上げ、おそろしい形相で飛びかかって来た。
ウェインは目にも止まらぬ速さで横に回り、ケルベロスゾンビの頬を殴り飛ばした。
「ギュウウウウウウン・・・・。」
重たい音が響き、拳の一撃でケルベロスゾンビはノックアウトされる。
その後ろからドラゴンゾンビが飛びかかってくるが、ウェインは高く飛び上がって回し蹴りを放った。
強烈な蹴りがドラゴンゾンビのこめかみにめり込み、頭蓋骨にヒビが入る。
「ギュウウウウウウウ・・・・。」
二匹のゾンビは地面に倒れ、力無く呻いていた。
ウェインはその身体を踏みつけて高く飛び上がり、頭上に剣を構えた。
「肉片一つ残さず塵に還れ!おおおおおおおおうッ!」
黄金に光る剣は、銀色の光に変わって槍のように伸びていく。
ウェインは逆手に剣を構え、銀の刃をゾンビ達に突き刺した。
「ゴオオオオオオオオオ!」
「ギュウオオオオオオオオオォ!」
竜気で出来た銀の刃はゾンビの身体を貫通し、深く地面に突き刺さる。
そしてウェインが「炸裂ッ!」と叫ぶと、眩い光を放って竜気が炸裂した。
その光は一瞬にして二匹のゾンビを焼き払い、肉片一つ残らず塵へと消し去った。
「ゾンビにしては手強かった・・・。それだけ魔人の力が上がっているということか・・・。」
大地に刺さった剣を抜き、ウェインはケイトの方を睨んだ。
「どうだ?いけそうか?」
「・・・・はい、もう少しで・・・。」
ケイトの右腕に填められた腕輪からは、青白い光が放たれていた。
その光はクレアの身体を包み、魔人の呪いをじょじょに打ち消していく。
「・・・ああ・・・・。」
クレアは僅かに目を開け、小さく唇を動かして呟いた。
「・・・あたたかい・・・・。ロビン・・・・。」
クレアが呟いた「ロビン」という名は、魔人に殺された恋人の名前だった。
クレアの所属する中隊の指揮官で、人として軍人としても、そして男としても愛していた。
誰よりも祖国を愛するロビンは、先陣を切って魔物の軍勢に戦いを挑んだ。
しかし突如現れた黒い影によって惨殺され、その黒い影の中に吸い込まれてしまったのだった。
あの時、クレアは何も出来なかった。迫りくる魔物の軍勢に圧され、圧倒的な力を持つ黒い影に、自分の部隊を皆殺しにされていった。
恋人の死、仲間の死、そして蹂躙されていく祖国。クレアは成す術なく、それらを見ているしかなかった。
「・・・ごめんなさい・・・みんな・・・。何も出来なくて・・・私だけ生き残って・・・ごめんなさい・・・・。」
クレアの目に涙が浮かび、ポロリと頬を伝っていく。
ケイトの放つ聖なる光は、傷んだクレアの心を優しく包み込み、そして癒していった。
「クレア・・・大丈夫。必ず助けるから、もう少しだけ頑張って。」
「・・・・・・ロビン・・・みんな・・・・・。」
ケイトの放つ光は、確実に魔人の呪いを取り去っていく。
クレアの肌は元の色に戻り、美しい青い瞳も復活した。
蝋人形のように硬くなっていた身体は柔らかさを取り戻し、無数のイバラはボロボロと朽ちていった。
「もうすぐ・・・もうすぐよ・・・。」
ケイトの光は、完全に魔人の呪いを打ち消そうとしていた。そしてあともう一歩というところで、魔人の高らかな笑い声が響いた。
「ははははは!おい異界の女、これを見ろ!」
クレアは揺れる瞳を動かし、ぼやける視界で後ろを振り向いた。
するとそこには、クレアと同じ軍服を着た、精悍な顔つきをした逞しい男が立っていた。
「そんな・・・。ロビン!」
それは殺されたはずのクレアの恋人だった。生気の無い真っ白な顔で目を閉じ、クレアの声に反応して僅かに動いた。
「・・・ク・・・レア・・・・・・。」
「ロビン!どうしてあなたが!いいえ、そんなことはどうでもいい!生きて・・・生きていたのね・・・。」
クレアの目に涙が浮かび、小さく肩が震える。
「俺は・・・・どうなった?黒い影に襲われて・・・・それからどうなったんだ・・・?」
ロビンは半分目を開き、クレアを見つめる。すると魔人は彼の肩に手を置き、ニヤリと笑った。
「ふふふ、こいつはもう死んでいる。いわばゾンビと同じさ。」
「ゾンビ?ロビンが・・・・・?」
「こいつには生け贄になってもらおうと思ってな。」
「生け贄?なんのことよ!」
「ふふふ、この里にある竜王の石像から、竜気を受け取る生け贄さ。
こいつは異界の者のくせに、中々高い霊力と精神力を備えている。
だから私の持つ奈落の亜空間に縛り付け、アンデッドとして飼っておいたのだ。」
「そんな・・・。許さない!ロビンをそんなことに利用するなんて許さないわ!」
クレアは枯れたイバラを引き千切り、肩にかけていた銃を魔人に向けた。
「ロビンから離れなさい!」
「ふふふ、そんなオモチャで何をする気だ?」
魔人はロビンの首に爪を立て、邪悪な瘴気を注いでいく。
するとロビンの身体は、服が弾けて筋肉が盛り上がり、悪魔のように姿を変えていった。
「ぐおおおおおおおおおッ!」
「ロビンッ!」
クレアは引き金を引き、魔人に向けて銃を放った。
しかし悪魔となったロビンが銃弾を叩き落とし、クレアに向かって飛びかかって来た。
「・・・クレ・・・・ア・・・。逃げ・・・ろ・・・・。
邪悪な意志が・・・・俺を・・・・乗っ取って・・・・。」
ロビンの爪がクレアの喉元に迫る。そして彼女の命を絶とうとした瞬間、ウェインの大剣がそれを弾いた。
「バースよ。これ以上好き勝手な真似はさせん!この竜牙刀にて、再び地獄へ送ってやる!」
ウェインはロビンを蹴り飛ばし、高く飛び上がって魔人に斬りつける。
「おっと!これ以上お前達と遊んでいられん。あとはそこのロビンとかいう男が相手をしてくれるさ。」
魔人は黒い霧を吹き出し、ウェインの視界を遮る。そして自分も黒い霧へと姿を変え、竜王の石像が眠る里の祠へと飛んでいった。
「待て!逃がさん!」
後を追おうとするウェインだったが、ケイトの悲痛な叫び声に呼び止められた。
「ウェインさん!クレアが!」
悪魔となったロビンは、クレアの身体を握りしめ、深く爪を突き立てていた。
「がはッ・・・・。やめ・・・て・・・ロビン・・・・。」
「・・・駄目だ・・・。自分の・・・意志じゃ・・・抑え・・・られ・・・な・・・い・・・。」
ロビンの意志は、魔人の植え付けた邪悪な意志に支配されていた。
それは抗うことが出来ないほど強力な意志で、ロビンの心までもを悪魔に変えようとしていた。
「・・・俺・・は・・・お前を・・・殺したく・・・な・・・い・・・。
悪魔・・・に・・も・・・なりたく・・・ない・・・・。」
ロビンは血が出るほど歯を食いしばり、完全な悪魔になる一歩手前で踏みとどまっていた
そしてウェインの方に振り向き、血の涙を流しがら懇願した。
「たの・・・む・・・。お・・俺を・・・・殺して・・・くれ・・・・。」
「・・・・・・・。」
ロビンの目は本気だった。恋人を手にかけたくないという思い。
そして人として死にたいという思い。
ウェインはその強い思いを受け取り、小さく頷いて大剣を構えた。
「いいだろう。今楽にしてやる。」
「すま・・・な・・い・・・。もう・・・これ以上・・・もたない・・・・。
は・・・はやく・・・・やって・・・くれ・・・・。」
ロビンの目から流れる血の涙は、紫の血に変わっていく。それは悪魔の血の色であり、もう彼に残された時間はほとんどなかった。
ウェインは黄金の光を纏い、大剣を振り上げて飛びかかる。
しかしクレアは首を振り、「ダメえッ!」と叫んで銃を構えた。
「ロビンを殺さないで!お願い!」
「そいつはもう死んでいる!これ以上苦しませるな!」
「嫌よ!もう大事な人が傷つくところを見たくない!お願いだからやめて!」
クレアは狂ったように首を振り、ウェインに向けて銃を撃った。
しかしウェインに銃弾が通用するはずもなく、彼の大剣はロビンに振り下ろされた。
「ロビイイイイイイインッ!」
クレアの目の前で、ウェインの大剣がロビンを斬り裂いた。

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