マーシャル・アクター 第十七話 闘いの決意

  • 2014.01.17 Friday
  • 18:30
〜『闘いの決意』〜

ジョシュは深い意識の底にいた。
女神に向かっていったところまでは覚えている。
しかしその後大きな衝撃を受けて意識が途切れてしまった。
深い意識の底で、自分は生きている、まだ死んだわけではないのだということは分かっていた。
ただ外の状況がまったく分からず、それがジョシュの心を焦らしていた。
「クソ・・・。闘わないきゃいけねえってのに、身体が動かないのは歯がゆいぜ。
レイドに話しかけても返事はないし、いったい外の状況はどうなってんだ?
もしかしてレイドが代わりに闘ってんのかな?」
悶々と考えを巡らせる。
何も出来ずに苛々だけが募る。
しかし突然誰かの叫びが頭の中に響いてきた。
「なんだ?」
注意深くそれを感じてみると、レインの泣き声だった。
「こりゃあレインが癇癪を起した時の泣き声じゃねえか。
こんな泣き方するなんてよっぽどのことがあったに違いないな・・・。
おい、レイド!何やってんだ?返事しろよッ!」
大声で呼びかけるジョシュ。すると誰かが自分の意識に近づいて来るのを感じた。
《待たせたな、修復は完了だ。これより戦闘に戻るぞ。》
「いや、戻るぞって急に言われても・・・それより外はどうなってんだよ?
お前は知ってるんだろ?説明してくれよ。」
レイドはやや間を置いて口を開いた。
《私も見ていたわけではないから細かい部分は分からない。
しかし外の音や気配を感じるに、あまり良くない状況であることは確かだ。》
「やっぱりか・・・。レインが泣いてるからそうだろうとは思ったけど。」
《・・・・・・とりあえず意識を交代させよう。肉体の修復で少々疲れた。》
「分かった、治してくれてありがとな。後は任せてくれよ。」
《ああ。しばらくの間一人で闘うことになるが、頼む。》
そう言い残して、レイドはさらに深い意識の中に潜っていった。
「さて・・・と。」
ジョシュは意識の表層に向かい、自分の精神を肉体に同調させた。
マーシャル・スーツの目が青く光り、身体に圧し掛かる瓦礫を吹き飛ばして床の中から飛び出した。
「おお、すげえ。完全に治ってらあ。
さすがはレイド、いい仕事するぜ。」
感心して呟くジョシュだったが、すぐに周りの異変に気づいた。
「・・・・・・。」
言葉を失って茫然と立ち尽くし、天井から射す光を見上げて呟いた。
「どうなってんだこりゃあ・・・。ここで戦争でも起きたってのかよ・・・。」
魔導核施設の広大な部屋は原型をとどめていなかった。
壁が崩壊し、この部屋に繋がる通路や様々なパイプが剥き出しになっていた。
至る所が砲撃にあったかのように抉られ、千切られていた。
女神に繋がっていた根源の世界への魔法陣の扉も消し飛ばされている
床も穴と瓦礫だらけになっていて、普通の人間では歩くことすら困難な状態だった。
そして天井から射す光は、地上から届く陽の光だった。
数キロ先の地上まで続く大きな穴は、再びジョシュに言葉を失わせた。
しばらく天井の穴を呆然と見上げるジョシュだったが、ハッと気が付いて辺りを見回した。
「おい、レイン!どこだ、どこにいるッ?」
ジョシュはボロボロになった部屋を駆けながら何度もレインの名を呼んだ。
必死になって彼女の気を探ってみるが、近くにレインの存在は感じられなかった。
「嘘だろ・・・。レイン!どこだ、返事をしてくれえええッ!」
しかしレインの声が返ってくることはなく、ただ虚しくジョシュの声が響くだけだった。
「レイン・・・。はッ!そうだ!師匠!どこですか師匠ッ!」
レインの時と同様に駆け回ってフレイの気を探るジョシュ。
しかしまったくフレイの気を感じることが出来ずに立ち尽くした。
「そんな・・・師匠・・・。そうだ!ククリさんはッ?ククリさん、どこですか?
近くにいるんなら返事をして下さい!ククリさんッ!
レインも、師匠も、返事をしてくれよおおおおおおッ!」
ジョシュは膝から崩れ落ち、両手をついて項垂れた。
最悪の状況が彼の頭の中を駆け巡っていく。
「嘘だろ・・・。俺が寝てる間に、みんな・・・。」
地面についていた手が瓦礫を握りつぶし、ジョシュはそのまま何度も自分の顔を殴りつけた。
「チクショオオオオッ!なんで俺がくたばってる間にこんな・・・。
なんで俺は呑気に気を失ってたんだ!みんなが・・・みんなが闘ってる時に俺は・・・。
チクショオオオオオオオオッ!」
咆哮のように泣き叫ぶジョシュ。頭を抱えて身体を反らし、悶えながら地面にうずくまった。
「アアアアアアアアアッ!」
駄々をこねた時のレインと同じように、ジョシュは地団駄を踏み、装甲にヒビが入るほど自分を殴りつけた。
何度も咆哮がこだまし、やがて力尽きたようにぐったりと倒れ込んだ。
「はあ・・・はあ・・・。へへ、ざまあねえぜ。
レインにお前を独りにしないなんて偉そうなこと言っておきながら、俺が一人ぼっちになっちまった・・・。
レインも、師匠も、ククリさんも、シーナも・・・もう誰もいねえ・・・。
きっと・・・残ってんのはあの化け物だけだ・・・。
こんなんじゃあ・・・こんなんじゃあ・・・。
俺も女神やられた時に死んどきゃよかったぜ・・・ははは・・・。」
仰向きに寝返ったジョシュは天井の穴から見える空を眺めていた。
陽の光が眩しく顔に当たり、場違いにジョシュを平和な心にさせる。
いつもと変わらない空、そしてその中を流れていく雲、暖かな陽の光。
それらがジョシュの心から闘う覚悟や闘志を奪っていき、マーシャル・スーツの戦闘形態は解除されてしまった。
ただ目を閉じ、力を抜いて穏やかな呼吸をする。
全てが夢のようで、今までの戦いは何もかも嘘だったのではないかと思い始めていた。
「はあ・・・良い天気だな今日は・・・。
こんな日はどっかに遊びに行きたいよなあ。
レインと自然が綺麗な場所をぶらぶら散歩するのもいいし、街にナンパしに行くのもいいかもな。
そうだ、シーナを誘って買い物に行くのもいいかもしれねえ。
・・・ははは、なんだ俺は。女のことばっか考えてらあ。
レインに聞かれたら目を吊り上げて怒られちまうな、ははははは。」
穏やかな顔で笑い、ジョシュはそっと目を閉じた。
天井の穴から地上の風が吹いてきて、心地よく頬を撫でていく。
ジョシュは胸いっぱいに風を吸い込んで深呼吸をした。
そして時間が経つのも忘れ、しばらく寝転んだまま陽の光と風の匂いを楽しんでいた。
「・・・・・・・・・。」
ジョシュは眠ったように動かなくなった。
五感と筋肉を弛緩させて、ただ穏やかな気持ちに身を委ねていた。
しかし吹き下りてくる風の中に嫌な臭いを感じて目を開けた。
じっと天井の穴を凝視していると、地上から何かが降ってくる。
豆粒のようなそれは落ちて近づいてくるにつれてはっきりと形が見てとれた。
人間だった。
法衣を纏った人間が血を撒き散らしながら落下し、大きな音を立ててジョシュの横に叩きつけられた。
ジョシュは顔を横に向けた。
目の前には落下の衝撃で半分潰れた人の顔があった。
カッと目を開き、苦悶の表情で死んでいた。
潰れた顔から広がる血がジョシュの頬を赤く染め、じわりと首の辺りまで広がっていく。
じっとその死に顔を見つめ、ジョシュはゆっくと上体を起こして空を見上げた。
青い空に一筋の閃光が走った。
続けざまに炎が飛び、それを掻き消すようにまた閃光が走る。
平和な空に不似合いなその光景を眺めながら、ジョシュはレイドに話しかけた。
「おいレイド。もう起きてるか?」
《ああ、しばらく前から目を覚ましていた。》
ジョシュは空を見上げたまま無表情でレイドに尋ねた。
「起きてんなら声くらいかけろよ。」
《私は闘う為の人格だ。そして宿主の闘いに勝利をもたらす為にここいる。
ならば闘う覚悟を放棄した者に、語りかける言葉はない。》
「なんだそれ、嫌味か?」
《違う、お前の質問に答えただけだ。》
「・・・ったく。相変わらず味気ないというか冷たいというか。」
ジョシュは頬の血を服で拭い、膝に手をついて立ち上がった。
先ほどの虚ろな目とは打って変わり、強い決意を宿した目をしていた。
「あるよ。」
ジョシュは小さく呟いた。
「闘う覚悟ならある。」
《・・・・・・・。》
閃光と炎が走る空を見上げ、ジョシュは拳を握った。
「気づいたんだ。しばらくボケっとして、陽の光や風を感じてさ・・・。」
さらに強く拳を握り、ジョシュは苦悶の表情で死んでいる法衣の男を振り返った。
「いくら幻に浸ってても、目の前の現実は動かせないってな。」
法衣の男を見つめるジョシュの顔は、闘う者の表情になっていた。
《その通りだ。》
レイドは満足そうにその言葉に頷き、ジョシュは少しだけ笑って服を破り取った。
そして骸になった法衣の男の顔にそっとかけてやる。
目を閉じて黙祷を捧げ、振り返って空を見上げた。
「闘うよ、俺。たとえこの身が砕け散っても、俺は闘う。
だからレイド、もう一度俺に力を貸してくれるか?」
しばらく沈黙が流れたあと、レイドは力強く答えた。
《もちろんだ。私はその為にここにいる。お前が望むのなら、いくらでも力になろう!》
ジョシュは笑って頷き、オーラをコアに送り込んだ。
ジョシュの身体が闘う為の衣装を纏い、マーシャル・アクターへと姿を変えていく。
腰についている短い棒を槍に変化させ、シールドを展開させて空を睨みつけた。
「あそこまで飛べるか?」
《無論だ。》
溜めたオーラをブースターからフルパワーで噴射し、一気に空へと駆け上がって行く。
青い空が近づくにつれ、ジョシュの中で闘志が燃え上がってきた。
「待ってろよ、化け物女神め。俺の槍がお前を地獄まで送ってやるぜ!」
槍を高く振りかざし、ジョシュは光が溢れる地上へと飛び出していった。

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