竜人戦記 番外編 クロス・ワールド(8)

  • 2014.01.18 Saturday
  • 19:35
トリスは家の窓から外を眺めていた。
「魔人・・・この世界へやってきたか・・・。」
ウェインと魔人の激しい戦いは、遠く離れたトリスの家からも見えていた。
里の重要な人物はいち早くトリスの家に集まり、魔人に対する策を練っているところだった。
「トリス殿、魔人の狙いはやはり竜王の石像でしょうか?」
白い髭を生やした学者が、椅子から立ち上がって尋ねる。
「だろうな。それ以外にこんな場所には用はないだろう。」
トリスは後ろで手を組んで振り向き、大きなテーブルに置かれたヒスイを見つめた。
それは竜人の里を全て映し出すことが出来る特殊なヒスイで、そこにはこちらに迫って来る魔人が映っていた。
「ウェインめ・・・取り逃がしたのか・・・。」
顔に傷を刻んだ老兵が口元を歪めて呟く。
「仕方あるまい。ウェインとて万能の超人というわけではないのだ。
あやつにばかり頼っていると、本当に竜王の石像を奪われてしまうぞ。」
「・・・そうですな。ここにいる者は皆、それぞれの分野の達人であります。
いくら相手が魔人といえど、指を咥えて見ているいるわけにはいかない。」
「その通りだ。だからなんとしても魔人を撃退し、竜王の石像を守らねばならない。
剣士や魔術師はこの場所にて魔人を迎撃、私と他の学者諸君は竜王の祠へ向かおう。
万が一魔人がやって来たとしても、竜王の石像に宿る力を奪われないように、封印を強化するのだ。」
トリスの言葉に皆が頷き、ドアを開けて外へ出て行く。
「いよいよとなれば、私も戦わねばならないかもしれないな。
大昔の相棒を持って行くか。」
トリスは二階の部屋に上がり、かつて軍人だったころの剣を腰に差した。
「では皆の者!それぞれの務めをよろしく果たすように!」
「おおうッ!」
トリスの掛け声に皆が拳を振り上げる。そして剣士と魔術師は家の前に陣を張り、トリスと学者たちは奥の山道へと向かった。
「魔人め・・・お前の好きなようにはさせんぞ。」
剣を腰に差したせいか、軍人だった頃の闘志が燃え上がってくる。
普段は温厚なトリスの顔が険しくゆがみ、土を踏みしめて竜王の祠へと向かった。

                   *

竜人の里に流れる小川が、赤い血で染まっていた。
「ケイト・・・絶対に傍を離れるなよ・・・。」
「ウェインさん・・・。」
ウェインは大剣を構えて、ケイトを守るように立ちはだかる。
彼の目の前には、完全に悪魔と化したロビンが牙を剥きだしてこちらを睨んでいた。
「・・・・おお・・・いい・・・おお・・・。」
ウェインの剣は、確かにロビンを真っ二つにしたはずだった。
悪魔になりたくないという彼の頼みに応え、大剣を振り下ろして一刀両断したはずだった。
しかしその瞬間、クレアがロビンに抱きついた。
「いや・・・一人にしないで!」
死にかけていたロビンは、クレアを体内に吸収することで復活した。
そこにはもはや人の心は無く、魔人の邪気に飲み込まれて完全な悪魔と化していた。
それはウェインの想像を上回るほど強力で、単純な力だけなら魔人よりも上に感じられた。
ウェインはロビンの猛攻を受けて胸から血を流し、小川の傍まで追い詰められていた。
ケイトは彼の背中に守られながら、強く腕を握りしめた。
「ウェインさん・・・私・・・間違ってますか?」
ケイトがそう尋ねるには理由があった。完全な悪魔と化したロビンは確かに強かったが、ウェインの敵となるほどではなかった。
パワー、スピード、魔力、頭脳、全てにおいてウェインが上回っている。
しかし今のウェインは追い詰められている。ケイトの頼みのせいで、ロビンを攻撃できないでいた。
「あの中にはクレアがいる・・・だから・・・傷つけないでって頼んだけど・・・。
でもそのせいでウェインさんが・・・・。」
自分のわがままのせいで、ウェインが傷つき、血を流している。
それなのに自分はこうして、ウェインの背中に守られている。
それを考えると、クレアを傷つけたくないという思いが揺らぎ始めた。
「ごめんなさい・・・。また私のわがままのせいで、ウェインが危ない目に・・・・。
もう・・・いいです・・・。これ以上ウェインさんが傷つくのは見たくないから・・・。
ロビンを・・・あの悪魔を倒して下さい!」
気持ちが焦り、思わず声が裏返ってしまう。
するとウェインはケイトの頭をポンと叩き、小さく笑いかけた。
「あんたがわがままなのは、今に始まったことじゃない。
一年前からずっとそうだったろう?」
「ウィンさん・・・。」
「いいさ、お前の頼み通り、クレアは絶対に傷つけない。
そして、何とかあの悪魔だを倒してみせる。」
「で、でも・・・そんなことが出来るんですか?ただでさえ相手は強いのに・・・。」
ウェインは「そうだな」と頷き、ケイトの右腕に嵌っている腕輪に触れた。
「確かに俺一人じゃ難しいが、あんたがこれを使って協力してくれればいけるかもしれない。」
「これって・・・聖者の腕輪ですか?」
「そうだ。それは聖職者の力で奇跡を起こす法具だから、うまくいけばクレアを助けられるかもしれない。」
「で、でも・・・上手くってどういう具合にですか?」
「それは俺より聖職者のあんたの方がよく知っているんじゃないか?
どうして自分が神に仕えているのか?どうして神の名の元に人を助けようとするのか?
きっと、答えはそこにあるはずだ。」
「どうして・・・神を・・・・?」
ケイトは腕輪を見つめて考える。どうして自分が神を信じ、人の役に立とうとしているのか。
捨て子だった自分を拾ってくれたのが、たまたま神父だったから?
それとも、他に理由が・・・・?
じっと考え込んでいると、突然ウェインに抱えられた。
「ボケっとしてるな!」
悪魔となったロビンが巨大な拳を振り下ろしてくる。
ウェインはケイトを抱えて飛び上がり、すれ違いざまに腕を斬りつけた。
「ぐおおおおおおおお!」
「ケイト!しっかりと自分を見つめろ!きっと答えは出る!
その時こそ、その腕輪は真の力を発揮するはずだ!」
「自分を・・・見つめる・・・。」
腕を斬られたロビンは、怒り狂って突っ込んで来る。
ウェインは足を踏ん張って大剣を構え、正面から受け止めた。
「ぬうううんッ!」
「ぐおおおおおおおお!」
「ウェインさん!」
ケイトは助太刀しようと腕輪を振りかざす。
「俺のことはいい!あんたはその腕輪の力を引き出すことに集中しろ!」
ロビンの尻尾がウェインを締め付け、ハンマーのように地面に叩きつける。
「ぐッ・・・。この程度!」
ウェインは身体を捻って剣を振り、太い尻尾を斬り落とす。
「ぐいええええええええ!」
「ロビンよ・・・・。人間のうちに死なせてやることが出来ずにすまなかった。
せめて、お前の恋人だけは助けてみせよう!」
大剣を地面に突き刺し、両手を前に突き出して竜気を溜める。
「喰らえいッ!」
二つの気弾が螺旋状に渦巻きながら飛んでいく。
「ぐうえええええええええ!」
それはロビンの胸を抉り、遥か遠くまで吹き飛ばした。
「まだまだ!極限まで弱らせてやる!」
ウェインは足を開いて大地を踏ん張り、弓矢のように剣を引いた。
すると黄金の大剣が槍のように伸びていき、刃の先端に大きな力が集まった。
「竜の牙よ、敵を穿てッ!竜牙の一閃!」
大地を蹴り、腰を回して剣を突く。
刃の先端に溜まった竜気がレーザーのように放たれ、ロビンの腹を貫いた。
「があああああああ!」
「この程度ではくたばらんだろう?さっさと立ってこい!」
ウェインは大剣を居合いに構えて突撃する。
ロビンは身体を起こし、背中から翼を生やして空に舞い上がった。
「逃がさんッ!」
大地を蹴って弾丸のように飛び上がり、居合いに構えた剣を一閃する。
ロビンの翼は一瞬にして斬り落とされ、叫び声を上げて地面に落下していった。
「まだまだこれからよ!」
黄金の大剣を振り、光の刃が放たれる。
ロビンは両手でそれを受け止め、凄まじい怪力で握りつぶした。
「おおおおおおおおう!クレアあああああああああ!」
「まだ人の意識が残っているのか・・・?」
ロビンは頭を抱え、激しい葛藤を起こしていた。
僅かに残った人の意識が、クレアを助けようともがいている。
「俺は・・・・俺はクレアを・・・・クレアを愛している・・・・。
だから・・・せめて・・・クレアだけは・・・クレアだけはあああああ!」
ウェインは剣を構えてロビンの前に立つ。そして僅かの憐れみを感じて剣を向けた。
「分かっている。クレアは傷つけない。俺の頼りになる相棒が、きっとクレアを助けてくれる。」
「おおお・・・・おお・・・もう・・・時間がない・・・・。
このままでは・・・クレアも・・・・悪魔の一部に・・・・。」
「もう少し、、もう少しの辛抱だ!きっとケイトはクレアを助けてくれる。
それまで俺と戦え!闘志を燃やし、拳を振って自我を保つんだ!」
「・・・ううううおおおおおおおおおお!」
ロビンは発狂したように暴れ回り、自分の顔を掻きむしった。
「戦い・・・・そう・・・俺は軍人だ・・・・。
戦って・・・・戦って・・・・守らなければ!」
「そうだ!さあ、俺に挑んで来い!お前の闘志を存分に引き出してやる!」
「うおおおおおおおおおおおッ!」
ロビンの咆哮が空気を揺らし、木々が揺れて葉っぱが落ちる。
小川の水面は波打ち、遠くの山に反射した声がやまびことなって返ってくる。
「行くぞロビンッ!」
「ううおおおおおお!来いッ!」
ウェインの大剣とロビンの拳がぶつかる。力と力がせめぎ合い、互いの肉体がミシミシと音を立てる。
「ぬうううううんッ!」
「おおおおおおおおうッ!」
両者の踏ん張る大地は、その力に耐えかねてビキビキとヒビ割れていく。
「こんなものか!お前の力はこんなものか!軍人が聞いて呆れるぞッ!」
「まだだ!もっと・・・・もっと戦える!」
ロビンのパワーが増し、じりじりとウェインの剣を押し返していく。
「ぬうううう・・・・。中々のパワーだ。ならこれはどうだ!」
ウェインの竜気が高まり、身を包む黄金の光が銀色に変わっていく。
パワーは何倍にも膨れ上がり、激しい竜気がロビンを吹き飛ばした。
「うおおおおおおおお!」
「手加減は無しだッ!俺の攻撃を防いでみろ!」
ウェインの剣がVの字を描き、燕返しが一閃する。
「ぐううあああああ!負けるかあああああ!」
ロビンは膝をつきながらもウェインを睨み、赤く目を光らせた。
すると灼熱の光線が放たれ、ウェインの身を焼いていく。
「ぐううう・・・・。」
「喰らえええええええいッ!」
ロビンは口を開け、怨霊の蠢く吐息を放つ。
憎悪に歪む悪霊達が、醜い手を伸ばしてウェインに纏わりついた。
「ぬうう・・・・。」
そこへロビンの体当たりが炸裂し、鋭い角がウェインを吹き飛ばした。
「うおおおお!」
岩を砕いて地面に叩きつけられ、巻き上がった瓦礫が落ちてくる。
「まだだ!まだ戦えるぞおッ!」
ロビンの硬い拳がウェインにめり込み、大地が割れていく。
「ぐうッ・・・。やるじゃないか・・・。」
ウェインは大剣を盾にして受け止め、ロビンの顎を蹴り飛ばした。
鈍い音が響いてロビンの身体が宙を舞い、背中から地面へ落ちていく。
「さあ立ち上がれ!まだ終わりではないぞッ!」
「ぐううう・・・・。」
ロビンは膝に手をついて立ち上がろうとする。
その目は闘志に燃えていて、真っ赤な輝きを放っていた。
「俺は・・・まだ戦える・・・まだ・・・終わりじゃな・・・・・、」
そう言いかけた時、地面に手をついて紫の血を吐いた。
「ぐぼあッ・・・・。」
「ロビンッ!」
「ああ・・・ああああ・・・まだ・・まだだ・・・。
もう少し・・・もう少し待ってくれ・・・。
ここで終わったら・・・クレアが・・・・。」
ロビンはもう限界に近づいていた。魔人の邪気が意識を覆い、激しい闘志を飲み込もうとしていた。
「立て!クレアが死んでもいいのか!」
「ぐうう・・・クレア・・・・死なせない・・・。
この身が砕けても・・・お前だけは・・・・、ごふうッ!」
またしても大量の血を吐き、たまらず倒れ込む。
そしてウェインに手を伸ばし、最後の力を振り絞って呟いた。
「たの・・・む・・・。もう・・・このまま・・・トドメを・・・・。
このままでは・・・・クレアまで悪魔に・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
ロビンの鬼気迫る表情がウェインの胸に刺さる。
もうこれ以上時間を稼げないことを悟り、大きく頷いて剣を構えた。
「分かった。今楽にしてやろう。」
「・・・すまない・・・・。早く・・・やってくれ・・・・。」
ガチャリと大剣を鳴らし、ウェインは刃を向けて飛びかかる。
しかしその瞬間に青いレーザーが飛び抜けていき、ロビンの身体を貫いた。
「誰だッ!」
剣を構えて後ろを振り向くと、聖者の腕輪を掲げたケイトが立っていた。
「ケイト!」
ウェインは傍に走って呼びかける。
「やったな!間一髪で間にあったぞ!」
「・・・・・・・・・・・・。」
ケイトの肩を揺さぶるウェインだったが、彼女の雰囲気に違和感を覚えて顔を覗き込んだ。
「ケイト・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・。」
ケイトの目は虚ろで、まったくウェインの声に反応しない。
それは眠ったまま立っているような状態で、ゆらりと倒れそうになる。
「どうした!しっかりしろ!」
彼女の身を抱きかかえ、小さく揺さぶって必死に呼びかける。
「これはまさか・・・・魂が抜けているのか?」
ケイトの身体からは、まったく生気が感じられなかった。
ウェインはゴクリと息を飲み、そっとケイトの頬に触れた。
すると背後で光の柱が立ち昇り、雲を突き破って天に届いた。
「あれは・・・・ケイトの気?」
光の柱はロビンを包み、悪魔の肉体を砂に変えていく。
そしてその中からクレアが現れ、ぐったりと地面に倒れ込んだ。
「クレア!」
ウェインはケイトを抱えて駆け寄る。
するとクレアの傍に、一人の男が立っているのに気づいた。
「お前は・・・・ロビンか?」
ロビンはウェインと目を見合わせてコクリと頷き、膝をついてクレアの頬を撫でた。
「・・・・・クレア・・・。よかった、間にあって・・・・。
もう俺はいかなきゃならないが、君のことは決して忘れない。
だから・・・無事に自分の世界へ戻って、幸せに暮らしてくれ・・・・。
・・・・さよなら・・・・。」
ロビンは唇を重ね、そして目を瞑って天を仰いだ。
光の柱はドクンと脈打ち、稲妻のように炸裂して消え去っていった。
「・・・・ケイト、これがお前の力か。大したものだ・・・。」
光が消え去った後には、意識を失ったクレアだけが残されていた。
ウェインは彼女の傍に膝をつき、優しく肩をゆすって呼びかける。
「クレア・・・。大丈夫か?」
「・・・・・・・・。」
ウェインの声に反応するように、クレアの唇が微かに動いた。
そして閉じた目から涙を流し、「ロビン・・・」と囁く。
「・・・・よく戦った。お前も、ロビンも。
そして・・・・ケイトもだ。」
ケイトの身体には魂が戻っていて、顔に生気が漲っていく。
「・・ううん・・・・ウェイン・・・・さん・・・?」
「ケイト、クレアは無事だぞ。お前のおかげだ、よくやった。」
ウェインが手を握って笑いかけると、ケイトは嬉しそうに微笑み返した。
「・・・よかった・・・上手く・・・いって・・・・。」
「今は無理をせずに寝ていろ。後は・・・俺に任せておけ!」
ケイトとクレアを抱え、急いでトリスの家に向かう。
しかし遠く離れたトリスの家から不吉な気を感じ、慌てて走って行った。
「バースめ!これ以上好き勝手はさせん!今度こそお前との戦いを終わらせるッ!」
激しい竜気が身体を熱くして、心まで燃え盛っていく。
ウェインは大地を蹴りつけ、土埃を上げてトリスの家に向かって行った。

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