竜人戦記 番外編 クロス・ワールド(9)

  • 2014.01.20 Monday
  • 16:47
竜王の祠に続く山道の前で、魔人と里の者達との戦いが繰り広げられていた。
老獪な剣士は巧みな技で敵を翻弄し、熟練の魔術師は多彩な魔術で攻め立てる。
「さすがはウェインを育てた者達・・・人間といえど一筋縄ではいかんか。」
「当然だ。これより先は偉大なる竜王が眠る神聖な場所。一歩たりとも進ませんぞ!」
老獪な剣士の刃が魔人を斬りつける。
「ぬうう・・・見事な技だが、しょせんは人間。
ウェインの足元には及ばんな。もうお前達に構っている暇はない。
まとめて消え去れ!」
魔人は地面に手を着き、呪いの吐息を吹きかける。
すると大地に東洋の呪殺文字が浮かび上がり、悪霊の手が伸びてきた。
「面妖な技をッ・・・・。」
老獪な剣士は悪霊を斬りつけるが、次から次へと湧いて来る亡者に身体を掴まれた。
「ぬおおおおおお!」
「はははは!そのまま地獄へ引きずり込まれるがいい!」
悪霊に続いて鬼や悪魔の手も伸びて来て、皆を地獄へ引きずり込もうとする。
「うおおおおおお!」
「この!離れろ!」
達人であるはずの剣士や魔術師は、成す術なく翻弄され、追い詰められていく。
そこへ魔人の爪が、しなる鞭のように襲いかかった。
「ぐはあッ!」
「ぐおおッ!」
鋭い爪が身体を抉り、赤い鮮血が飛び散る。
「ははははは!雑魚の分際で私に挑もうなどと、思い上がりも甚だしい。
地獄で永遠に苦しむがいいッ!」
魔人の手から黒い稲妻が放たれ、里の戦士達を苦しめていく。
「ぬあああああああああッ!」
「ぐおおおおおおおおッ!」
圧倒的な力の差と、限界を越える苦痛が襲い、老獪な剣士は堪らず膝をついた。
「すまん、トリス殿・・・。我々はここまでのようだ・・・・。
どうか・・・・竜王の石像を・・・守って・・・・・、」
諦めの入った声で呟こうとした時、一筋の銀色の光が大地に突き刺さった。
「これは・・・・。」
大地に刺さったのは、銀色に輝くウェインの大剣だった。
刀身から放たれる強力な竜気が、地面に広がる呪いを打ち消していく。
そして灼熱の業火を纏う竜巻が駆け抜け、魔人を飲み込んでいった。
「うおおおおおおお!おのれウェインッ!」
魔人は爪を伸ばして炎の竜巻を切り裂く。
すると次の瞬間、ウェインの拳が腹を貫いていた。
「がはッ・・・。貴様ッ・・・・!」
「これで終わりだバースよ。二度と復活出来ぬよう、塵に還れえッ!」
ウェインの拳から眩い竜気が放たれ、魔人の身体を吹き飛ばす。
「ぐおおおおおおおッ!まだだ!この程度でッ!」
魔人は黒い霧になって逃げようとする。
「逃がさんッ!」
ウェインは地面に手を向け、「戻れ!」と叫ぶ。
すると大地に刺さっていた大剣が宙に浮き、ウェインの手に飛んできた。
「バース!これで最後だッ!おおおおおおおうッ!」
大剣から黄金の光と銀の光が立ち昇り、龍に姿を変えていく。
「龍の牙と爪に貫かれ、永遠に消え去れいッ!」
頭上に構えた剣を振り下ろすと、二匹の龍が魔人に喰らい付いた。
そして螺旋状にうねって遥か上空まで舞い上がり、四方八方に光の筋を放ちながら炸裂した。
「うううおおおおおおおお!終わらん!俺はまだ終わらな・・・・・・・・、」
魔人は二匹の龍の光に焼かれ、砂塵となって消滅していく。
太陽が二個あるかと思うほど空は眩く光り、凄まじい爆音を響かせて大地を揺らした。
「・・・・・・終わったか。」
ウェインは大剣を背中に戻し、里の戦士達に駆け寄った。
「大丈夫か!しっかりしろ!」
倒れる老剣士を抱き起こし、身体を揺さぶる。
「・・・まったく・・・年寄りには堪える戦だ・・・・。」
老獪な剣士はニコリと笑い、ふらつきながらも自分で立ち上がった。
「儂らは大丈夫だ。お前が間一髪で助けてくれたからな。
しかしそこのお嬢さんがたは、ずいぶんグッタリしておられるようだが?」
老剣士が指差した先には、木の根音に寝かされたケイトとクレアがいた。
「あの二人なら大丈夫だ。しかしかなり疲弊しているから、トリスの家で休ませてやってほしい。」
「うむ、それは構わんが、お前はどうするつもりだ?
魔人を倒したというのに、ずいぶん浮かない顔をしているが?」
老剣士の言う通り、ウェインは眉間に皺を寄せて険しい表情をしていた。
「なんだか胸騒ぎがするんだ。なあ、トリスは竜王の祠を向かったのか?」
「ああ、山道の奥を通って祠に向かったぞ。封印を強化すると言ってな。」
「そうか・・・・・。」
ウェインは立ち上がって山道の奥を睨み、そちらに向かって走って行く。
「ケイトとクレアを頼む!俺は竜王の祠へ行く。」
「おいウェイン!どうしたんだ、そんなに慌てて?」
老剣士は手を伸ばして呼びかけるが、ウェインは振り向くことなく山道へ消えて行った。
「あいつめ・・・何かを感じているのか?」
ウェインの勘はよく当たる。しかも、悪い勘ほどよく当たっていた。
そのことをよく知っている老剣士は、表情を引き締めて皆に呼びかけた。
「お前達、いつまで寝ている!まだ終わっていないぞ。不測の事態に備え、準備を整えて祠へ向かうぞ!」
そう叫んで激を飛ばし、ケイトとクレアを担ぎ上げてトリスの家に入る。
二人をベッドに寝かせ、窓のから山道の奥を見つめた。
「このまま何事もなく終わってくれればいいが・・・・。」
不安な呟きは自分の耳にこだまし、さらに不安を掻き立てる。
老剣士のこめかみに一筋の汗が落ちていった。

              *

静寂に包まれた荘厳な祠の中に、見上げるほど巨大な竜の石像が鎮座している。
周りには、山から湧く透き通った水が流れていて、祠の中の空気を清めていた。
「ここへ来るのは久しぶりだ。いつ見ても石像の迫力に圧倒される・・・。」
竜王の石像は、高い天井に届くほど首を伸ばし、鋭い目を向けて宙を睨んでいる。
遥か昔に起きた竜と悪魔の大戦で、竜側の総大将を務めた誇り高き竜は、いまでも石像に力を残していた。
世界を見守るように、そして悪魔を威圧するように、猛々しい表情で牙を剥き、大きな翼を広げている。
身体に刻まれた無数の傷は、多くの悪魔をなぎ倒した勲章であった。
そして大戦の最後には悪魔の総大将である魔王と一騎打ちになり、相討ちとなってこの世から消え去った。
トリスは竜王の石像を見上げ、そっと目を閉じて祈りを捧げる。
「偉大なる竜族の王、ウルガムルよ。今あなたに魔人の手が迫っている。
その神聖なる力を我が物とし、地獄への扉を開こうと企んでいる。
我々は、断じてそれを見過ごすわけにはいかない!
あなたにの石像に宿った力を奪われぬ為、さらに強力な封印をかけさせて頂きます。」
そう言ってトリスはもう一度祈りを捧げ、後ろを振り返った。
「では皆の者、これより魔封じの儀式を執り行う。
精神を統一し、一切の雑念を抱くことなく、魔法陣の制作に取りかかってくれ。」
皆は頷き、竜王の石像の周りに散らばっていく。
しかしそのうちの一人が石像に駆け寄り、ニヤリと笑って手を触れた。
「おい、何をしている!」
学者の一人が肩を掴んで止めさせる。
すると次の瞬間、鈍い音が響いて、その学者の腹を剣が貫いていた。
「ぐはあッ・・・・。」
「貴様!何をする!」
トリスは剣を抜いて駆け寄る。
「ふふふ・・・、これが竜王の石像か。凄まじい力を感じる。」
「お前は・・・・。」
仲間を刺した学者は、トリスを突き飛ばして笑った。
そして血の滴る剣を投げ捨て、服を破いて禍々しい気を放つ。
「何ということだ・・・・。」
トリスは傷ついた仲間を抱えて後ずさり、床に寝かせて剣を構えた。
「ふふふ、ありがたいものだな、異界の科学技術というものは。
細胞から別の自分を生み出すことが出来るのだから・・・。」
そう言って顔を歪め、さらに禍々しい気を発して魔人に姿を変えた。
「なんと・・・私達の仲間に化けていたのか!」
トリスは青ざめた顔で剣を向ける。
すると魔人は指を立てて「チッチッチ」と首を振った。
「化けていたのではない。肉体を分割していたのだ。」
「分割・・・・だと?」
「異界にはクローンという科学技術があってな。我が身の一部から、もう一人の自分を創り出すことが出来るのだ。
私はその力をこの身に宿し、お前の仲間に自分の細胞を植え付けておいた。」
「そんな・・・・そんなことが・・・・。」
「貴様らの仲間が必死に俺と戦っている間、肉体の一部を飛ばしてさっきの学者に植え付けたのさ。
元の俺はウェインに倒されたが、ほれ、こうしてここに新たな俺が生まれた。
まったく・・・・異界の技術さまさまだよ、はははははは!」
「くッ・・・・私としたことが不覚だった。まさか異界にそのような技術があるとは・・・・。」
トリスは悔しそうに顔を歪め、仲間に指示を出した。
「皆の者よ!ここから逃げよ!そしてすぐにウェインを呼んで来るのだ!」
「し、しかしトリス殿は?」
「・・・私はここで戦う。いくら学者といえど、私は竜人の里の長なのだ。
いざという時に命を懸けて戦わなくてどうする!さあ、早く行け!」
「わ、分かりました!」
トリスに命令された学者達が、慌てて祠の外へ逃げていく。
しかし魔人の放った黒い稲妻に焼かれ、バタバタと倒れていった。
「くッ・・・。我々をここから出さないつもりか・・・。」
額に冷や汗を流し、トリスは剣を向ける。
そして意を決して魔人に斬りかかった。
「私もかつては軍人!一矢報いるぐらいのことはしてみせる!」
「馬鹿め・・・・。そんな鈍間な剣が当たるか。」
魔人はあっさりと剣をかわし、爪を伸ばしてトリスの肩を貫いた。
「ぬぐああああッ!」
「ほう、心臓を狙ったのにとっさにかわしたか。老体にしてはやるじゃないか。」
可笑しそうに笑ってトリスの顔を掴み、爪を喰い込ませて持ち上げる。
「ぐおおおおおおおおッ!」
「ふふふ、痛いか?」
「な、なんのこれしき!」
トリスは力を振り絞り、魔人の胸に剣を突き刺した。
しかし硬い音が響いて剣はヒビ割れ、パキリと折れてしまった。
「そんなナマクラで俺の身体を貫けるものか。」
魔人はさらに爪を喰い込ませ、ギリギリと締め上げていく。
「うぐああああああああッ!」
「ふふふ、このまま殺してもいいが、観客がいないのはちと寂しい。
竜王の力が奪われる瞬間を、そこで見ているがいい!」
魔人はトリスを持ち上げ、壁に向かって投げ飛ばした。
「がはあッ!」
「そこで大人しく見ていろ。お前達の崇める竜王の力が奪われる瞬間を。
そして、地獄の門が開かれる瞬間をな!」
「ぬぐッ・・・。くそ・・・・。」
魔人は大きく口を開け、濃い灰色の煙を吐き出す。
そして呪文を唱えて指を伸ばし、その煙に突き刺した。
すると灰色の煙はモクモクと人の形に変わっていき、やがて一人の男が現れた。
「ふふふ、ロビンよ。いや、ロビンのクローンか。
まあどっちでもいい。お前に竜王の力を宿し、地獄の門を開く為の鍵としよう。」
ロビンは虚ろな目で立っている。その顔に表情はなく、だらりと腕を下げていた。
「今のお前には魂が入っていない。天に召されたお前の魂を一時的に呼び戻し、再びその肉体に宿らせてやる。」
魔人は大きな魔力を蓄え、天に向かって両手を掲げた。
「さあ、天に召されしロビンの魂よ。
禍々しき呪術により、ほんのひと時ここへ戻り給えッ!」
魔人の手から黒い稲妻が放たれ、祠の天井に穴をあけていく。
その向こうから日の光が射し込み、何かが迫って来た。
「来い!ロビンの魂!ここへ降臨せよッ!」
天井の穴から眩い光が差し込み、轟音を響かせて何かが地面に突き刺さった。
そして次の瞬間、魔人の身体に亀裂が走り、灼熱の炎が立ち昇った。
「ぬッ・・・・・、ぬあああああああああ!」
「ロビンじゃなくて残念だったな、バースよ。」
「ウェイイイイイイイイインッ!どこまでも・・・・どこまでも俺の邪魔をしおってえええええええッ!」
極限まで高まった怒りで魔人の顔が歪む。
そして凄まじい邪気を放って炎を消し飛ばし、瞬く間に傷を再生させた。
「バースよ、お前との付き合いは長いからな。こういう展開になることは予想していた。
さあ、今度こそ消えてもらおうか!」
ギラリと竜牙刀を光らせ、刃を立てて魔人に向ける。
「・・・ふふ・・・・ふふふふふ・・・・・。」
怒りに歪んでいた魔人の顔が、馬鹿にしたような笑顔に変わっていく。
「やはり・・・やはり貴様をどうにかせん限りは、俺の目的は達成出来んか。
いいだろう、これが本当に本当の最後だ。
俺の持てる全ての力をもって、お前を叩きのめし、切り刻み、あの世へ送ってくれるッ!」
魔人の身体がブルブルと震え、黒い金属の肉体へと変わっていく。
頭の角は鋭く伸び、背中にブレードの翼が生えてくる。
瞳は怪しい紫に輝き、艶やかに光る黒いボディがウェインの姿を映した。
「これぞ科学と悪魔の融合。さて、お前の力が通用するか・・・・試してみるがいいッ!」
高らかに叫び、宙に浮き上がって両手を広げる。
ウェインは剣を目の前に立て、目を閉じて気を集中させた。
「バースよ、なにも力が増したのはお前だけではない。
俺もこの一年、竜人の里にて技と力に磨きをかけてきた。
今こそその奥義を解放し、お前を完全に消し飛ばしてやるッ!」
大剣から黄金と銀の光が立ち昇り、ウェインを包んでいく。
竜と人、そして磨かれた竜気が体内で混ざり合い、ウェインの姿を変えていった。
「ぬうああああああああああッ!」
ウェインの首から下は煌めく銀の鱗に覆われ、やがて鎧のように融合して硬質化した。
顔は竜の形に変化し、再び人の顔に戻ってゆく。
その目は燃えるような赤い瞳を宿し、目元から首筋に赤い線が走っていた。
「・・・・バースよ。竜王の石像が見守るこの祠で、今度こそ引導を渡してやる。」
「ふふふ、やってみろ。出来るものならな。」
二人は睨み合い、剣と拳を構えて突撃した。
「うおおおおおおおおおおッ!」
「ぬうううううううううううんッ!」
大きな力が激突して、祠の中が揺れる。
竜王の石像はその目を輝かせ、竜と悪魔の戦いを見守っていた。

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