竜人戦記 番外編 クロス・ワールド(10)

  • 2014.01.21 Tuesday
  • 19:47
竜王が祭られる静寂な祠に、空気を切り裂く轟音が響き渡る。
竜人と魔人、大きな二つの力がぶつかり合い、巨大な竜王の石像が揺れている。
「むうう・・・なんと凄まじい戦いだ。
これがウェインと魔人の力か。とても人間が太刀打ち出来るものではないな。」
トリスは傷ついた身体を起こし、竜王の石像へ向かった。
「ふむ・・・まだ力は奪われていないな。今のうちになんとか魔封じの儀式を・・・。」
そう呟いた時、誰かがトリスの腕を掴んだ。
「誰だッ!」
慌てて飛び退き、剣を構える。
「お前は・・・魔人が呼び出した男・・・。」
「・・・・・・・・・。」
ロビンのクローンは虚ろな目でトリスを見つめる。
まるで死人のような顔でフラフラと立ち、小さく口を動かして呟いた。
「・・・オレハ・・・ダレダ・・・?
オレノ・・・ナマエヲ・・・オシエテ・・・クレ・・・。」
「お前は・・・・魂が入っていないのか?」
トリスは剣を下ろし、ゆっくりとロビンに近づいた。
「人でありながら、人成らざる雰囲気・・・。
しかしゾンビのようなアンデッドとは違うな・・・。
これは魔人が言っていた、異界のクローンという技術か。」
トリスはそっとロビンの胸に手を触れる。心臓の鼓動が手の平に伝わり、確かに生きていることを感じる。
しかしその鼓動は、機械的で、そして切ないほど悲しい音に聞こえた。
「・・・お前は、本当は天に召された人間なのだな。
無理矢理肉体を復活させられ、行き場を失くして嘆いている。
何とかしてやりたいが、私だけの力ではどうすることも出来ない。
・・・・・すまんな。」
「・・・・・・・・・・・・。」
ロビンの瞳が僅かに揺れ、トリスの横を通り過ぎて竜王の石像の前に立った。
そしてそっと手を触れ、目を閉じて天を見上げる。
「・・・オオキナ・・・チカラヲ・・・カンジル・・・・。
コノチカラヲ・・・・オレノ・・・タマシイ二・・・シタイ・・・・。」
切ない呟きは竜王の石像に宿る力を引き出し、ロビンの手に吸い込まれていく。
「よせ!その力を吸収してはならん!」
トリスは慌てて止めに入るが、ロビンに突き飛ばされて床に倒れ、頭を打って気を失ってしまった。
「・・・モット・・・チカラヲ・・・・。
オレニ・・・・タマシイヲ・・・・・・。」
竜王の石像から流れ込む力が、ロビンの胸に集まって行く。
神聖な竜王の力が、新たな魂を生み出して命を与えようとしている。
人の姿を持つ生き物から、本当の人間へと変えようとしている。
「・・・アア・・・・アタタカイ・・・・モット・・・ヒカリヲクレ・・・。
オレヲ・・・イノチアルモノ二・・・・ニンゲン二シテクレ・・・。」
ロビンの目から涙がこぼれ、分厚い胸板を伝っていく。
彼の肉体は熱を持ち、全身が鼓動を始めて魂の形成を促していく。
しかしその時、祠の扉が開いてケイト達が現れた。
「ウェインさんッ!」
部屋に入るや否や、ウェインと魔人の激しい戦いを見て叫び、聖者の腕輪をかざして駆け寄った。
「待てケイト!近づいていかん!」
「離して下さい!私も一緒に戦うんでうす!一年前みたいに、命を懸けて戦わなきゃ魔人は倒せない!」
老剣士の腕を振り払い、ケイトはウェインの元へと駆けて行った。
「まったく・・・無茶なことを・・・。」
老剣士は顔をしかめ、祠を見渡して仲間に指示を出した。
「おい、倒れている者を介抱してやれ!」
魔人の稲妻にやられた学者に駆け寄り、傷を癒していく魔術師たち。
老剣士は竜王の石像の方へ走り、トリスを抱き起こした。
「トリス殿!しっかしなされいッ!」
「う・・・うう・・・・。」
頭を振って顔を押さえ、トリスはゆくりと身体を起こした。
「おお、皆来てくれたのか!」
「ええ、ウェインが魔人を倒した後に、慌ててこちらに走って行ったものですから・・・。」
そう呟いて祠の中央を見つめ、「魔人、まだ生きていたか・・・」と口元を歪めた。
「奴は異界のクローンという技術によって、肉体を分割出来るのだ・・・。」
「クローン?」
「ああ、そしてそこに立つ男も、おそらくクローンだ。
早く竜王の力を吸収させるのを止めないと。」
老剣士の肩を掴んで立ち上がり、フラフラとロビンの元へ向かう。
すると誰かが肩を突き飛ばしてロビンの方へと走って行った。
「ロビンッ!生きてたのね!」
クレアが泣きながらロビンに抱きつき、逞しい胸板に頬を寄せる。
「よかった・・・。てっきり死んだと思ってた・・・・。
よかった・・・・・。」
指で涙を拭い、鼻をすすってロビンを見上げる。そして長い髪を揺らして二コリと微笑んだ。
ロビンはクレアの頬に手を触れ、そして顔を近づけて口を開いた。
「君は・・・・誰だ?」
「だ・・・誰って・・・クレアじゃない!あなたの恋人を忘れたの?」
「クレア・・・・?分からない。僕は・・・今さっき生を受けたばかりだ。
だから・・・誰も知らない。僕の名前すらも・・・。」
「そ、そんな・・・・。どういうこと!まさか記憶喪失に・・・・、」
そう言いかけた時、トリスが彼女の肩を叩いた。
「クレア、残念だが、彼は君の知る男ではない。」
「どういうことよ・・・。どう見たって、彼はロビンじゃない!」
「確かに外見はそうかもしれん。しかし、魂は違う。」
「魂が・・・違う・・・?」
「今の彼は、おそらくクローンとよばれるものだ。魔人が異界の技術を取り込み、その力を使って生み出したのだ。
そして竜王の石像から力を得ることで、新たな魂を得た。
だから・・・彼はロビンであってロビンではない。姿形の似た、まったくの別人だ。」
「そ、そんな・・・・クローンだなんて・・・・そんなこと・・・。」
クレアはよろめき、ロビンがサッと支える。
そして顔を近づけ、もう一度語りかけた。
「なあ、教えてくれないか?ロビンって誰だ?僕の名前か?そして君は誰だ?」
ロビンは真剣な目で真っすぐに見つめる。
クレアはその視線に耐えかねて顔を逸らし、口元を覆って泣き始めた。
「・・・ひどいわ・・・こんなの・・・・。
こんな、こんなことって・・・・。」
「君はどうして泣いているんだい?僕の恋人だって言ってたけど、それは本当なのかい?
なあ、教えてくれよ。僕は誰なんだ?君とはどういう関係なんだ?」
ロビンはクレアの肩をつかみ、小さく揺さぶる。
その目は恐ろしいほど真剣で、自分が誰なのかを本当に知りたがっていた。
「頼む、僕のことを知っているなら教えてくれ!」
「やめて!ロビンの顔で・・・ロビンの声で・・・私に語りかけないで!」
クレアはロビンを突き飛ばし、祠の出口へ走った。
すると魔人の放った黒い炎弾が、ウェインの剣に弾かれてこちらに飛んで来た。
「危ないッ!」
ロビンは咄嗟に駆け出し、クレアを突き飛ばした。
そして黒い炎弾の爆風に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ロビンッ!」
クレアは身体を起こして駆け寄り、ロビンの肩を抱き起こした。
「ロビン!しっかりして!」
「・・・・ああ・・・力が・・・入らない・・・・。」
ロビンは重傷を負っていた。身体の半分が焼かれ、爆風によって右の手足が吹き飛んでいた。
大きな傷からダラダラと血を流し、そっと手を持ち上げてクレアに触れる。
「ロビン・・・・。」
クレアはその手を掴み、濡れる瞳でロビンの顔を抱き寄せた。
「・・・不思議だな・・・・僕は・・・・どうして君を・・・助けたんだろう・・・。
初めて会った女性なのに・・・・なぜか・・・勝手に身体が動いて・・・君を守っていた・・・。」
ロビンは虚ろな目で宙を見つめる。クレアは彼の手を握りしめ、首を振って答えた。
「ごめんなさい・・・ひどいことを言って・・・。私は・・・・あなたの恋人だったクレアよ・・・。
そして・・・あなたの名前はロビン・・・。誰よりも勇ましくて、堂々とした誇り高い軍人・・・。
私は・・・そんなあたなに惹かれて・・・恋人になった・・・。
あなたは・・・ラーズという星の、ロビンという男・・・。私の愛した男よ・・・。」
クレアの涙はロビンの頬に落ちる。そして、ゆっくりと伝って床に流れていった。
「そうか・・・僕の名前は・・・ロビンか・・・。
ラーズという星の軍人で・・・クレアの恋人・・・・。
・・・よかった・・・自分が誰なのか・・・知ることが・・・でき・・・・て・・・・・。」
そう呟いたきり、ロビンは動かなくなった。薄っすらと目を開け、小さく笑ってい天を見つめていた。
「ロビン!ねえロビン!嫌よ!もう私を置いていかないでよ!ねえロビン、ロビイイイイイイインッ!」
クレアは強くロビンを抱きしめる。死した彼は魔人の魔術が解けて、灰色の煙へと変わっていった。
その中から小さな白い骨が現れ、クレアはそっとその骨を拾い上げた。
「これは・・・ロビンの骨だわ・・・。
魔人は、これを使ってロビンのクローンを・・・・・。
許さない、絶対に許さないわッ!」
ロビンの骨を握りしめ、そっと胸のポケットにしまって魔人を見上げた。
「私・・・あなたの仇を討ちたい・・・。だから、絶対にやっちゃいけないことをやるわ!
あの魔人を滅ぼす為に、あの武器を使う!」
クレアは拳を握って立ち上がり、トリスに駆け寄った。
「ねえ、私から取り上げた武器を返して!あの中に魔人を倒せるかもしれない武器があるの!」
「それは本当か!」
クレアは頷き、そして躊躇いがちに目を伏せた。
「ほんとうは・・・・絶対に使ってはいけない武器なの・・・。
この世界へ来る時、万が一の為に渡された恐ろしい武器、それを使うわ!」
トリスと老剣士は顔を見合わせ、険しい顔で眉を寄せた。
「とりあえず話を聞こう、私の家に向かいながらな。
そして、その武器の使用を認めるかどうかは、それから判断させてもらう。いいな?」
「分かったわ・・・。」
トリスは小さく頷き、老剣士に指示を出した。
「ウェイン以外の者はここから避難させろ!我々がいては足手まといになるだけだ。」
「分かりました。しかし・・・ケイトはどうしますか?ウェインと一緒に戦うと言ってききませんが・・・。」
ウェインと魔人の繰り出す激しい戦いの傍で、ケイトは祈るように手を組んでいる。
いつ流れ弾が飛んで来て死ぬかも分からないのに、微塵の恐れも見せずにウェインを見守っている。
「・・・構わん。ケイトは一年前に、ウェインと共に魔人と戦ったのだ。
そして今回も、きっと彼の力なってくれるだろう。」
「・・・・そうですな。では我々はすぐにここを出ましょう!」
老剣士は大声で退避を呼び掛け、皆を先導して祠から出て行く。
「ウェイン、ケイト・・・頼むぞ。お前達なら、きっと魔人を倒してくれると信じている。」
トリスは入り口で振り向き、激しいを見つめて呟いた。
 

calendar

S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< July 2019 >>

GA

にほんブログ村

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM