ダナエの神話〜神樹の星〜 第四話 金貸しダレス(2)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 16:03

『金貸しダレス』2


酒場は街人で溢れていた。どの席もいっぱいで、店内は騒々しく酔っぱらいの声が響いていた。
「座る場所がないな・・・。」
アリアンロッドは眉をひそめて言い、不機嫌そうに腕を組んだ。するとゾンビの一人がササっと前に出て、「任せて下さい!」と胸を叩いた。
「師匠の為に席を空けさせますから、ちょっと待ってて下さい。」
「誰も弟子にした覚えはない・・・。」
ゾンビはニコニコと手を振り、酒場の奥へ向かう。そして気の弱そうなイタチの獣人に声を掛け、席を空けろと怒鳴った。しかし怒ったイタチは椅子から立ち上がり、思い切りゾンビを殴りつけた。ゾンビは床に倒れ、必死に謝ってこちらへ戻って来る。
「何をやっているんだあいつは・・・・。」
アリアンロッドは呆れた顔で呟き、コウは「ダッサ」と馬鹿にする。
「・・・すいません。返り討ちに遭いました・・・。」
ゾンビは悲しい顔で頬を押さえ、シュンとへこたれる。
「・・・まあ仕方ない。どこか別の場所で話そう。」
そう言ってアリアンロッドが店を出ようとすると、入口のドアが開いてダレスが現れた。
「・・・・・・・・・・。」
ダレスは何も言わずにじっと睨みつける。ゾンビ達は身を寄せ合って怯え、コウは怒った顔で睨み返す。そしてアリアンロッドは静かな口調で言った。
「なんだ?まだ私と戦うつもりか?それならば今度は本気で・・・・、」
ダレスはその言葉を遮るように首を振り、みんなの横を通って店のVIP席に向かった。そこには恐ろしい顔をしたイノシシの獣人と、身体の大きな鬼が座っていた。
「おいてめえら、この席を空けろ。」
ダレスがドスの利いた声で言うと、イノシシと鬼は「ああん!」と怖い顔で睨みつけた。
しかし相手がダレスだと分かると、途端に頭を下げて席を空けた。そして肩を竦めてササっと店から逃げていく。
「おお!なんかすげえじゃん。」
コウは感心して口笛を吹く。ダレスはアリアンロッドに向かって手招きをし、ドカっと椅子に座った。
「さ、さ、師匠!席が空いたから行きましょう!」
「だから、誰も弟子にした覚えはない・・・。」
アリアンロッドはゾンビに案内されて広毅仞覆惴かった。そして椅子に座ると、ダレスが指を鳴らしてウェイターを呼び、高いお酒を注文した。
「俺の奢りだ。何でも好きな物を頼んでくれ。」
「お、マジ?じゃあ俺はこれとこれね。あとこのトロピカル極楽カクテルってやつ。」
「・・・私は水でいい。あと海藻のサラダ。ああ、それと極上ミルクのチーズケーキを。」
二人はメニューを指差し、ウェイターはペコリと頭を下げる。
「ええっと、俺はこのバットフィッシュのトリュフソテーを・・・、」
ゾンビがメニューを見ながら頼もうとすると、ダレスにギロリと睨まれた。
「・・・・すいません。水でいいです・・・・。」
ゾンビは肩を竦めて小さくなり、ウェイターはサッと奥へ下がっていく。ダレスは足を組んでアリアンロッドを見つめ、怖い顔を小さく笑わせた。
「あんた強えなあ。さすがは神様だぜ・・・。」
「つまらんお世辞はいい。何か話があってここへ来たのだろう?」
ダレスは頷き、テーブルに肘をついて身を乗り出す。そして大きな口を動かして喋った。
「・・・実は、あんたに相談したいことがある。この星と・・・地球の間で起こっている危機についてだ。」
「この星と・・・地球の危機だと?」
アリアンロッドの顔が強張り、ダレスは目を瞑って頷く。
「実はな・・・俺もそこのゾンビ達も、元々は地球の・・・・・、」
そう言いかけた時、コウが二人の間に割って入った。
「ちょっとちょっと、後から来たくせに先に話さないでくれる?今は俺の話が先なんだ。」
ダレスはジロリとコウを睨むが、コウは腰に手を当てて睨み返した。
「睨んだって怖くないぜ!お前はダナエを酷い目に遭わせた悪い奴だ。もし俺が今より強くなったら、絶対にぶっ飛ばしてやるからな!」
そう叫んで、小さな指をビシッと向ける。ダレスはじっと睨んでいたが、やがて小さく吹き出してコウに手を向けた。
「そりゃ悪かったな。先にそっちの話をしてくれ。」
ダレスは腕を組んで椅子にもたれ、大きな葉巻を咥えて火を点けた。そしてプカリと煙を吐き、奥に向かって「早く持って来い!」と怒鳴りつける。
「やだねえ・・・野蛮人は・・・。絶対に友達になりたくないタイプだ。」
コウはテーブルの上に胡坐を掻き、アリアンロッドの方を向いて尋ねた。
「さっきあんたはこう言ってたな。プッチーが発動しないと、宝石の中から出て来られないって。」
「ああ、そうだ。私の意思だけでは外に出られない。」
「だったらさ、その辺のことを詳しく聞かせてくれよ。その腕輪はジル・フィンっていう海の神様からもらったんだけど、詳しい説明はしてくれなかったんだ。」
「ジル・フィンか・・・。あいつはしっかりしてるようで呑気なところがあるからな。
しかし妖精よ、どうしてそこまでこの腕輪のことを知りたいのだ?」
アリアンロッドがコスモリングを掲げて見せると、コウは目を瞑って指を振った。
「俺の名前はコウ。月の妖精だ。」
「・・・すまない。ではコウよ、どうしてコスモリングのことを、そこまで知りたがるのだ?」
そう尋ねると、コウは暗い顔になって俯いた。
「だって・・・もっと詳しくプッチーのことを知っておけば、ダナエはあんなに酷い目に遭わずに済んだかもしれない・・・。あいつは無鉄砲なところがあるから、いつも俺が手綱を引いて危険から遠ざけてるんだよ・・・。なのに・・・今回は何も出来なかった。
もしあんたが出て来てくれなかったら、あいつはそこの狼に殺されてたかもしれない・・・。」
コウは唇を噛み、悔しそうに眉に皺を寄せる。それを見たアリアンロッドは笑って頷き、コウの頭を撫でた。
「お前は勇敢な子だな。こっちのゾンビよりよっぽど見込みがある。」
「へん!そんな死に損ないどもと一緒にするな。」
コウは頬を膨らませ、プイッとそっぽを向く。アリアンロッドはコスモリングを触り、宝石の中にいるダナエを見つめた。
「いいだろう、この腕輪のことを詳しく聞かせてやろう。」
ウェイターが注文を運んで来て、テーブルの上に並べていく。アリアンロッドは水を一口飲み、コスモリングを指差して言った。
「この腕輪はな、海の力が生み出した結晶なのだ。まるで生き物のように自分の意思を持っていて、所有者の身体と心に繋がっている。」
「所有者の・・・・。てことは、ダナエの身体と心に繋がっているってことか?」
「ああ、もっと正確に言うならば、この腕輪は所有者の魂の一部となっている。だから所有者が力を発動させなければ、私は外へ出ることが出来ない。」
「なるほど・・・それであんたはすぐに外へ出られなかったわけか・・・。」
コウは顎に手を当ててふむふむと頷く。
「あのダナエという子は、とても強い意志を持っている。だからどんな敵でも自分の力で挑もうとするだろう?」
「うん、絶対に無理だって分かってることでも、自分だけの力で立ち向かおうとするな。」
「強い意志を持つのはいいことだが、あまりにそれが行き過ぎると、自分の身を滅ぼすことになる。自分だけの力に頼ろうとするようでは、この腕輪の力は発動出来ない。なぜなら、この腕輪は海の結晶で出来ているからな。海というのは、多くの命が支え合って生きている場所だ。
だからあまりに独りよがりな者では、コスモリングは力をかしてくれない。」
「・・・そうか。なんだかダナエの性格とは正反対の考え方だな。」
コウはトロピカル極楽カクテルのストローを咥え、チュルチュルと吸っていく。
「いいや、そんなことはないぞ。あの子は少し意地っ張りなだけで、決して独りよがりではない。しかし・・・今は自分の意地の方が勝っているようだ。だから自分の命が危険に晒されるまで、誰かに助けを求めようとしなかった。そこの獣の拳が振り下ろされる瞬間、あの子は心の中で叫んだのだ。
『誰か、力をかして!』とな。その想いこそがコスモリングを発動させ、私が姿を現わしたわけだ。」
「そうだったのか・・・。プッチーにはそんな秘密が・・・。」
「この腕輪を持つ者は、常にこの腕輪に対して心を開いていないといけない。そうでなければ、力を発動させることは出来ないのだ。」
コウは頷きながら、ゴクゴクとカクテルを飲んでいく。お酒のせいで少し頬が赤くなり、ストローから口を放してゲップをした。
「でもさ、プッチーにはあと二つ宝石が填まってるだろ。ということは、その宝石にも神様が宿ってるってことだよな?」
コウが赤い頬で問いかけると、アリアンロッドは「もちろんだ」と頷いた。
「残りの二つの宝石にも、それぞれに神が宿っている。」
「じゃあさ、どうして他の神様じゃなくて、アリアンロッドが出て来たのさ?」
「ふむ、それはだな、想いの伝え方の違いによるものだ。」
「想いの違い?どういう意味さ?」
「今回私が現れたのは、『力をかして!』と望まれたからだ。ではどうしてあの子がそんなことを望んだのかというと、自分がここで死ねば、コウやそこのゾンビ達も守ることが出来なくなってしまうからだ。」
「俺達を・・・守る為?」
ゾンビが意外そうな顔で呟く。
「ダナエはとても優しい子だ。初めて会った者でも、困っていれば助けようとする。例え自分の身を呈してでも、弱き者を守ろうとする優しい心がある。私はその想いに応えて姿を現わしたのだ。」
「・・・そっかあ・・あいつ、自分があんな目に遭っても、俺達のことを考えていたのか。
相変わらず、お人好しというか何と言うか・・・・。」
コウはしみじみとした目で言い、ストローに口をつけてチュルチュルとカクテルを飲んでいく。
するとゾンビ達は、目を涙ぐませて俯いた。
「・・・あの子・・・そんなに優しい子だったのか・・・。俺達は何てことを・・・。」
「さらって売り飛ばそうとした俺達を・・・守ろうとしてくれるなんて・・・、俺、あの子に弟子入りするよ・・・・。」
ゾンビ達はグスグスと鳴き、グビッと水を飲み干す。
「私は暴力を好まないから、戦いの為の戦いはしない。だからあの子の気持ちに応えて、こうして姿を現わしたわけだ。・・・しかし、この宝石の中には非常に荒々しい神もいる。戦の神と恐れられ、戦いの為の戦いをする神も宿っている。
下手にその神を呼び出せば、たちまちその場所は戦場に変わってしまうだろう。敵だけではなく味方も傷つけ、目に映る全てのものを破壊するまで止まらない。」
「そりゃおっかないな・・・。そんなのが表に出てきたらえらいことになっちゃうよ。」
「その通りだ。だからこの腕輪は強力である分、危険な代物でもあるのだ。使い方を間違えれば、たちまち不幸が訪れるだろう。」
「・・・そんな怖いものなのか・・・プッチーは・・・。」
コウはゴクリとカクテルを飲み、赤い頬をさらに赤くする。
「それだけじゃない。コスモリングは他にも秘密があるのだが・・・それは今教えても仕方がないだろう。」
「なんでだよ。ダナエの為にも、その秘密ってのを聞かせてくれよ。」
「・・・追々分かる。」
「またそれか・・・。どうして神様ってのは、こう思わせぶりな言い方をするのかねえ・・・。」
コウは不機嫌そうに海藻サラダを突き、小さく千切って口の中に放り込んだ。そしてもぐもぐと口を動かし、鈍チンのダナエにどう説明してやろうかと考えていた。
すると黙って聞いていたダレスが、ウィスキーのグラスをカランと鳴らして口を開いた。
「お前の話は終わったか?」
「え?ああ・・・まだ聞きたいことはあるけど、どうせ教えてくれないからもういいよ。」
そう言ってプチプチと海藻を千切っていく。ダレスは頷き、グラスを傾けてアリアンロッドを見つめた。
「じゃあ俺の話をさせてもらうぜ。この星と、地球に訪れている危機の事を。」
「ああ、是非聞かせてもらおう。私も興味があるからな。」
アリアンロッドはフォークでチーズケーキを切り分け、パクっと口の中にいれて眉を動かす。
ダレスは葉巻を灰皿に押し付け、煙を吐いてから切り出した。
「あんた・・・ユグドラシルって樹を知ってるかい?」
「ああ、大昔に地球にいた神樹だ。居場所を追われ、今はこの星に来ているはずだが?」
「そうだ・・・。なら地球に小さなユグドラシルがあることは知ってるか?」
「もちろんだ。あの神樹が残していった分身だろう?」
「じゃあその根っこがこの星と繋がっていることは・・・・。」
「それも知っている。地球にいた神なら誰でも知っていることだ。しかし現実の世界の者はそのことを知るまい。仮に知っていたとしても、絶対に見つけることは出来ない。」
「・・・絶対か・・・。頼りねえ言葉だぜ・・・。」
ダレスは新しい葉巻に火を付け、眉を寄せて煙を吐いた。
「俺は元々は地球にいた人間だ。そして、そこのゾンビ二人も同じだ。俺達はユグドラシルの根っこを通り、この星にやって来た。」
「それはおかしな話だな。いくらあの樹の根っこを通ろうが、途中には光の壁がある。
現実の魂がそれを越えれば、消えてなくなるはずだが?」
「その通りさ。」
ダレスは大きく頷き、グラスを傾けた。
「しかし現実の世界の者でも、この星に来られる方法はある。それは・・・肉体という実体を失った時だ。だから俺もそこのゾンビも、地球では死んだことになっている。」
「死んで肉体が滅べば、確かにこの星に来ることは可能だ。しかし分からんな。どうしてユグドラシルを見つけることが出来た?あれは空想の世界の存在だから、現実の魂では触れることはおろか、見ることすら叶わぬはずだが?」
アリアンロッドはフォークを向けて尋ねる。するとダレスは暗い顔で目を閉じ、グイッと酒を呷った。
「・・・今から十年前のことだ。俺は地球の裏社会で生きていた。高い利子をつけて馬鹿な奴らに金を貸すのが商売で、大きな組織の幹部だった。俺は誰よりも仕事をこなしたし、いつか組織のトップに立つ為に、手段を問わずに借金の取り立てをやっていた。しかしある時、些細なミスをして警察に捕まったんだ。でも大した罪じゃなかったから、すぐに釈放されたよ。
そして組織に戻っていざ仕事を再開しようとした時、ボスに呼ばれた。『お前はもういらない。つまらんミスをするような奴は、この組織にはいらん』ってな。俺は必死に抗議したが、ボスは取り合ってくれなかった。そして最後にこう言ったのさ。『消えろ、この無能!』ってな。
その時、頭にカーっと血が昇って、持っていた短刀でボスを刺し殺した。そしたらまあ、後はどうなるか分かるだろ?」
ダレスは馬鹿らしそうに笑って肩を竦める。アリアンロッドは頷き、目を瞑って腕を組んだ。
「今度はお前が殺されたわけだ。そのボスの手下にな。」
「ははは!神様も人間の世界の事情に詳しいじゃねえか。」
「・・・正直なところ、多くの者が集まれば人も神も変わらん。神話や宗教の世界でも、神同士による諍いや喧嘩はよくあるからな。」
それを聞くと、ダレスは「がはははは!」と豪快に笑った。
「まあそんなもんだよなあ、人も神様も。でもな、あんたの言ったことには一つだけ間違いがある。」
「ほう、それは何だ?」
「俺は誰にも殺されちゃいねえってことさ。」
「・・・・どういうことだ?」
アリアンロッドは怪訝そうに眉を寄せる。ダレスはグラスに酒を注ぎ、指を向けて言った。
「確かに俺は、ボスの手下に殺されそうになった。でも全員ぶっ殺して返り討ちにしてやったんだ。」
「醜いな・・・。お前の心には暴力が根を張っているようだ。」
「人の性格をとやかく言われたかねえよ。」
ダレスは酒臭い息を吐き出し、葉巻を咥え直した。そしてもくもくと煙を吐き、椅子にもたれかかる。
「俺は組織を逃げ出し、身を隠すように色々な場所を転々とした。その頃には警察まで俺を追っていたから、表にも裏にも逃げ場はなかった。組織に捕まれば殺されるし、警察に捕まれば裁判にかけられて死刑だ。ほんとうに・・・あの時はどこにも逃げ場がなかった・・・。」
しんみりとして言うダレスに腹を立て、アリアンロッドはケーキをポイっと口の中に放り込んだ。
「自業自得であろうが。」
「・・・まあ確かにその通りだ。でもあの時の俺はとにかく生き延びることしか考えていなかった。誰もいない廃れた工場で途方に暮れていると、ある女が俺の前に現れたのさ。」
「ある女?」
「ああ、紫のワンピースを着た、綺麗な顔をした女さ。でもどこか冷たい表情をしていて、怪しげな雰囲気を纏っていた・・・。そして、女は俺の前に立つとこう言ったのさ。
『生き延びる方法があるわ』ってな。初めて会った女が、どうして俺の事情を知っているのかと不思議に思ったよ。でも女には・・・何か不思議な魅力があった。この世のものとは思えない、妙な魅力だった・・・。」
コウは食べかけていた海藻のサラダを落とし、目を丸くしてダレスを見上げた。
「どうした?」
「・・・え?い、いや・・・ちょっと・・・。」
「?」
アリアンロッドに顔を覗きこまれ、コウはサッと目を逸らしてストローに口をつけた。
「・・・話を続けてもいいかい?」
「ああ・・・すまん。」
アリアンロッドはじっとコウを睨み、ダレスに視線を戻した。
「その女は俺を見ながら、もう一度言ったのさ。『生き延びる方法があるわ』って。俺はその言葉に飛びつき、どうやったら警察と組織から逃れられるのか教えてくれと尋ねた。
すると女は工場を出て行って、俺に手招きをしたんだ。そして後をついて行くと、ボロい図書館に辿り着いた。壁はヒビ割れてツタで覆われているし、中は電気も点いてなくて誰もいなかった。俺はその図書館に怪しい気配を感じてキョロキョロしていると、女は棚から本を一冊取って俺に渡した。妙に古臭い感じの本で、『空っぽの神話』ってタイトルが付いていた。」
その言葉を聞いて、コウは飲みかけていたカクテルを吹き出した。ごほごほと咳き込み、手元で口を拭う。
「大丈夫か?」
「・・・ごめん、ちょっとビックリして・・・。」
アリアンロッドに背中をなでられ、コウはコホンと咳をしてダレスを見上げた。
「どうしたチビ?俺の顔に何か付いてるか?」
「・・・いや、そうじゃなくて、あんたの話と似たようなのを知ってるから思わず・・・。」
「それは本当か!」
ダレスはドンとテーブルをたたき、料理をつまみ食いしていたゾンビ達がビクッと身を竦める。
「チビ!その話を詳しく聞かせろ!」
ダレスはコウ掴んで怖い顔を近づける。
「ちょっと、息が酒臭いよ!それとチビって呼ぶな!俺は妖精のコウだ!」
コウは手足をばたつかせ、ダレスの指の隙間から逃げ出してアリアンロッドの肩に止まる。
「相変わらず乱暴な奴だな・・・。」
「ああ、悪い・・・。でもさっきの話を聞かせてくれ!頼む!」
ダレスは真剣な目で見つめ、グッと拳を握る。コウは小さく頷いてアリアンロッドの肩に座った。
「いいよ・・・。でもそのかわり乱暴なのはナシだぜ?」
「分かってる。さっさと聞かせろ。」
コウはもう一度頷き、この星に来てからのことを話した。森の中に箱舟を停め、カプネという盗賊に会ったこと。そしてカプネは元々は地球の人間で、怪しい女に図書館に連れて行かれ、空っぽの神話という本を渡されたこと。そして神様を殺し、カエルとなってこの星に来たこと。
最後には、ダナエの箱舟を盗んで宇宙へ飛び出していったこと。
ダレスは険しい顔で聞いていて、時折牙を剥き出して唸っていた。
「・・・チビ、いや・・・コウ。俺の話も似たようなもんだぜ。あの女に空っぽの神話ってのを渡されて、それと一緒に斧を渡されたんだ。それは神様でも殺せる魔法の斧で、俺はそれで風の神を殺した。そうすれば自分の願いが叶うって言われてな。しかし風の神を殺した俺は、呪いを受けて死にかけた。だからあの女の所へ助けを求めに行ったんだ。」
「・・・そしたらどうなったんだ?」
「そうしたら、あの女はこう言いやがった。『あなたみたいな人間はたくさんいるから、仲間の元へ行くといい』、そしてあの女はユグドラシルのことを教えてくれて、その根っこを通れば別の世界へ行けると言った。・・・但し、肉体は邪魔になるから預かっておくって奪われちまったよ・・・。」
「・・・なるほど、カプネの話とよく似てるな。」
コウは難しい顔をして、空になったグラスのストローをズズっとすすった。ダレスは天井を見上げ、そこに地球があるかのように目を細めた。
「こっちの世界に来た俺は、人間の姿を捨ててこんな獣になっていた・・・。
そしてあてもなくこの星を歩いていると、俺と同じように、あの女のせいでこの星に来た奴らと出会った。みんなあの女に利用されて、何もかも失った連中だ。肉体がないから地球に帰っても意味はないし、それに神殺しの呪いを受けることになる。かといってこの星のことは何も分からない。しばらく途方に暮れていたが、俺はこのままじゃダメだと思った。だから地球でやっていた金貸しを商売にして、仲間と一緒に会社を創った。それがノストラ商会だ。」
「ああ、このゾンビ達が借金をしたっていう?」
「・・・ああ、但しそいつらが金を借りたのは、地球の支社だけどな?」
「ん?地球の支社ってどういうこと?」
コウが首を傾げて尋ねると、ダレスは大きな指を立てて鋭い眼光を向けた。
「それこそがこの星と地球の危機なんだよ。いいか、俺をたぶらかしたあの怪しい女の正体は、恐ろしい邪神なんだ。」
「・・・邪神・・・?」
「そうだ。ユグドラシルがこの星から追い払ったんだが、奴はどういうわけか光の壁を越えて地球にやって来た。」
「そうなのか・・・。でもさ、空想の世界の者でも、実体がないなら光の壁を越えられるんだろ?」
「いいや、この星の者達は、空想の世界の者でありながら実体を持っている。だから光の壁を越えることは出来ないんだよ。なのに邪神の奴は、どうにかして光の壁を越えたらしい。そして地球に辿り着き、この星と地球を自分のものにしようと企んでいるのさ。」
「なんか・・・すごい奴だな、その邪神って。」
「ああ、常識外れの化け物だ。それにかなり頭も良い。俺はこの星でノストラ商会を創り、地球でやっていたのと同じ方法で金を貸した。騙された馬鹿な奴らが高い利子を払ってくれるおかげで、俺の会社はどんどん大きくなった。建物も立派になったし、従業員だってたくさん雇い入れた。こんな辺ぴな星でも、ちゃんと経済があってくれてよかったよ。
俺は地球に戻りたいという思いを捨てて、一生この星で金貸しをやっていこうと決めた。
しかし・・・そこでまたあの女が現れた。」
ダレスは腹立たしそうに口を歪め、グラスを握る手に力を入れた。ビキビキと鳴ってグラスにヒビが入り、割れ目からウィスキーがこぼれ出す。
「あの女は突然俺の会社にやって来て、この会社を寄こせと言ってきた。もちろん俺は断ったが、女はしつこく迫ってくる。だから頭にきて襲いかかったんだが・・・あっさりとやられちまった。女は俺を散々に痛めつけて会社を乗っ取り、地球に支社を創った。そして不思議な力を使ってアコギに金を稼ぎまくり、現実の世界でも力を手に入れたんだ。」
「ううむ・・・なんとも狡賢い。胸が悪くなる話だ。」
アリアンロッドは顔をしかめ、チーズケーキをつまみ食いしようとしたゾンビの手をピシャリと叩いた。
「あの女は金を手に入れて、地球でも力を持った。そして歯向かう者は魔法を使って殺し、部下には脅しを効かせて手駒のように操っている。・・・・俺も、その手駒の一つだ。」
ダレスの顔に悔しさが滲み、握っていたグラスがパリンと割れる。そして大きく息を吸い込んで気持ちを落ち着かせ、ボトルを握ってグビグビと酒を呷った。
「あのさ、一つ質問なんだけど?」
コウが手を上げると、ダレスは酒臭い息を吹きかけて「何だ?」睨んだ。
「その女・・・邪神が悪い奴だっていうのは分かったけど、どうしてダレスやカプネに関わって来たのかな?単に手駒が欲しいだけなら、もっと他にやりようがあると思うんだけど。」
そう尋ねると、ダレスはグリグリとコウの頭を撫で回した。
「おい、何するんだよ!俺の素晴らしいヘアースタイルを乱すな!」
「いや、チビのくせにいいところに気がついたなと思って。」
「だからチビって言うな!俺はコウだ!」
コウはプリプリ怒り、赤い頬をプクッと膨らませた。
「ははは、悪りい悪りい!お前の疑問はもっともだが、それにはちゃんとした理由がある。」
ダレスは椅子から腰を浮かして、ズボンのポケットをゴソゴソと漁った。
「これを見ろ。地球の支社からクスねてきたものだ。」
そう言ってテーブルの上に置いたのは、ヨレヨレになった一枚の紙切れだった。
「なんだこりゃ・・・?何か書いてあるけど読めないや。地球の文字か?」
ダレスは頷き、もくもくと煙を吐き出した。アリアンロッドはその紙を手に取って見つめ、興味深そうにふむふむと頷いている。
「これは地球の神のリストだな。しかし横に付いているバツ印はいったいなんだ?」
アリアンロッドは不思議そうに首を捻る。するとダレスは椅子をギシリと軋ませて言った。
「バツ印がついているのは、殺された神様だよ。」
「なんと!これは神殺しのリストだというのか!」
「ああ、あの女が作ったリストだ。」
アリアンロッドは驚いて言葉を失くし、震える手でそのリストを見つめた。
「しかし、なぜこんなものを・・・?」
「地球には多くの神様がいるが、それは邪神にとっては邪魔な存在なんだよ。そしてその中でも特に邪魔になりそうな神様を選び、そこに記しているわけさ。俺もそのカプネって奴も、神殺しに利用されたんだ。そして・・・呪いを受けてこの星へ逃げて来た。」
「なるほど・・・自分のリスクを避ける為にあんたらを利用したんだな?」
「そういうことさ。邪心はかなり用心深い奴で、危険な仕事は他の誰かを利用してやらせるんだ。そこが・・・あいつのムカツクとこでもあるんだよ・・・。」
ダレスは悔しそうに牙を剥き、ボトルを握りしめてヒビを入れた。
「そんな・・・私がいない間に、地球ではこんなことが・・・・・・。」
アリアンロッドは悲しみとも怒りともつかない声で呟き、グシャリとその紙を握った。
「おいおい、破かないでくれよ。それは大事なリストなんだから。」
ダレスは指を向けて威圧的な声で注意する。アリアンロッドは瞳を震わせ、唇を噛んでリストを睨みつけていた。
「私と親交のあった神も、何人か殺されているではないか・・・。おのれッ・・・・。
許さぬぞ・・・・その邪神とやらめ!」
アリアンロッドは紙を破りそうな勢いで握りしめる。ダレスは手を向け、クイクイと指を動かして「返せ」と呟いた。
「・・・・ちょっと待て!このリストを頭に叩き込む・・・。」
アリアンロッドはじっとリスト睨み、そこに書かれている神様を記憶した。そして目を瞑って頷くと、そっとダレスに差し出した。
「・・・地球がこんなことになっていると分かっていたら、もっと早く戻ったのに・・・。
ジル・フィンめ、どうして私に教えてくれなかったのだ・・・。」
悔しそうに唇を噛むと、ダレスは首を振って答えた。
「きっと・・・戦力を温存しておきたかったんだろうな。」
「戦力・・・?どういうことだ?」
「そのジル・フィンってのは、このリストに載っている神様だ。なら邪神の企みで殺されたってことだ。」
「・・・そうだ。あいつは人間の手によって殺された。しかし詳しい話は、そこの妖精に聞くまで知らなかった。」
するとコウは首を捻り、唇を尖らせて尋ねた。
「でもさ、アリアンロッドはその腕輪に宿っていたんだろ?どうして知らなかったのさ?」
「この腕輪は、ジル・フィンがこの星に来てからユグドラシルに与えられたものだ。もし私がその場所にいたら、人間などに殺させたりはせん!」
怖い顔でそう言うと、ダレスは納得したように頷いた。
「あんたはほんとに強え神様だ。いくら魔法の武器を持っていようが、人間に殺されたりはしねえだろうな。」
「当然だ。私はそんなにヤワではない。」
「だからこそ、戦力になると言ったのさ。」
ダレスは短くなった葉巻をもみ消し、ボトルを掴んで指を向ける。
「邪神は地球の神様を殺し、あの星を手に入れようとしている。しかし当然、それを阻止しようとする連中だっているわけさ。それがこのリストに載っている神様だ。そのジル・フィンって神様は、なんとしても邪神の侵略を喰い止めたいと思ってるはずだ。しかしその為には戦力がいる。」
「・・・なるほどな。邪神を倒す為の力を集めようというわけだ。」
「その通りさ。あんたみたいな正義感の強い神様に本当のことを話したら、きっと単身で地球に乗り込んで行くに決まってる。ジル・フィンって神様は、それを防ぎたかったんだろうぜ。」
ダレスは顔に似合わず思慮深い目で言う。しかしアリアンロッドは怒った顔でダレスを睨んだ。
「この私が、異星の邪神ごときに後れを取るとでもいうのか?」
「一騎打ちで戦うなら、あんたに勝ち目があるかもしれない。しかし戦力を集めているのは向こうも一緒だ。」
「・・・どういうことだ?」
「地球にいる空想の魂は、なにも神様だけとは限らないだろう?例えば・・・その反対の悪魔や魔獣とか。」
「・・・・もしかして、邪神は地球の闇の者達を集めているというのか?」
ダレスは大きく頷き、神妙な顔で酒を呷った。
「地球の悪魔や魔獣だって、あの星を自分のものにしたいと思っているはずさ。邪神はその心につけ込み、恐ろしい悪魔や魔王を味方に付け始めた。今や地球では、現実の者でも空想の者でも、邪神に挑んで勝てる奴はいねえ。ギリギリのところで、なんとかあの星を守っているのさ。」
「・・・そんな・・・・なんということだ・・・・・。」
アリアンロッドはカランとフォークを落とし、暗い瞳でテーブルの上を見つめた。彼女の心には怒りと悲しみが渦巻いていて、長い銀髪がざわざわと動き出す。
「私は・・・古い神だ・・・。人々の信仰が新たな神に移り変わり、そして現実の世界から追い出されて、空想の世界へと身を移した。」
「なんかユグドラシルと一緒だな。」
コウが言うと、アリアンロッドは笑って頷いた。
「あの神樹も古い神だからな。地球の古き時代は、神々が謳歌していた時代だ。だからどの神も友のように感じていた。もちろん中には悪さを企む者もいたが、それでも・・・いい時代だった。まあ今の者達にとっては、古臭いノスタルジーかもしれんがな。」
アリアンロッドの目に悲しみが宿る。そしてコスモリングを見つめ、綺麗な指でそっとなでた。
「ある時、私は悪しき神に不覚をとった。ほんとうはそのまま死ぬはずだったが、海を漂ううちにこの腕輪と出会った。そして・・・この宝石に吸い込まれたわけだ。私の友と一緒に。」
「アリアンロッドの友達?」
「ああ・・・。私はケルトの神だからな、同じ神話の神と旅をしていたのだ。」
「じゃあ他の宝石に宿る神様っていうのは・・・・。」
「私と同じケルトの神だ。一人の武術と魔法を極めた女神、スカアハ。もう一人はそのスカアハの弟子、クー・フーリンだ。私が先ほど言った、荒ぶる戦いの神とはクー・フーリンのことだ。普段は心優しい美男子なのだが、ひとたび戦いとなればその姿は一変する。
鬼神のごとき形相となり、尽きることのない闘争心を抱く戦神と化す。そして魔槍ゲイボルグを振るい、次々に屍の山を積み上げる恐ろしい神だ。」
「ケルト神話か・・・。確か俺達のいる月の女神も、それを元に生み出されたって聞いたことがあるな。」
「ダフネのことだな。ジル・フィンから聞いたことがある。なんでも、空想と現実の壁を取り払おうとしたとか?」
「うん、あの時は大変だったみたいだよ。ダナエのお父さんとお母さんのおかげで、事なきを得たそうだけど・・・。」
アリアンロッドは小さく笑って頷き、宝石の中で眠るダナエを見つめた。
「今もまた・・・地球に危機が訪れているわけだ。ここへ来て私はようやく悟ったぞ。
どうしてジル・フィンが、この腕輪をダナエに託したのか・・・。」
コウは不安そうな目で見上げ、手を広げて尋ねた。
「・・・何か悪い予感がするけど・・・いったい何を悟ったのさ?」
アリアンロッドは険しい顔で俯き、コスモリングを握りしめて答えた。
「ジル・フィンはこう考えているのだ。ダナエをユグドラシルまで旅をさせて鍛え上げ、仲間を集めさせる。そして戦力が整ったところで、ダナエを総大将に据えて邪神に戦いを挑む。」
「な、なんだってええええ!ダナエを総大将にして戦いを挑む?そんな無茶な!
あいつはまだ子供だぜ!それに邪神と戦わせるなんて無理だよ!」
「・・・果たしてそうかな?」
「なんだよ・・・。アリアンロッドもジル・フィンと同じ考えなのか?」
コウは問い詰めるように顔を近づける。アリアンロッドは真っすぐにコウを見つめ、そっと手で包み込んだ。
「ダナエは強い子だ。鉄のように固い意志を持ち、絹のように優しい心を持つ。そして妖精王とその妃から受け継いだ強い魔力を持っている。しっかりと鍛え上げれば、私をも越える逞しい戦士になるだろう。」
「そんな・・・だからって・・・。」
「それにな、あの子には人を惹きつける魅力がある。力ではなく、心で和解しようとするだろう?そういう者は、自然と周りに仲間が集まってくるものだ。現に、私がこうして姿を現わしたのだからな。」
「そりゃ確かにダナエは人から好かれるけど・・・だからって・・・・。」
コウは不安そうな目で俯く。無鉄砲で正義感の強いダナエは、きっとジル・フィンの考え通りに動くに違いない。そして一度こうだと決めたら決して後ろには退かず、そのせいで何度も手を焼かされたことがあった。
「俺は反対だ・・・。ダナエをそんな危険な目に巻き込むなんて。あいつは俺の友達なんだ。いや・・・兄弟みたいなもんさ。もちろん俺が兄貴で、ダナエが妹だぜ。
だったら・・・危険な目に遭うのを黙って見ていられるか!」
コウは小さな拳でドン!テーブルを叩く。しかしダレスはコウを摘まみあげ、怖い顔を近づけて大きな牙を見せた。
「なんだよ?また乱暴しようってのか?」
「いいや、そんなつもりはねえ。ただ一つ忠告してやろうと思ってな。」
「忠告?お前なんかに忠告されるようなことはない!」
「ははは、まあそう言わずに聞けよ。いいか、もし邪神が地球を支配したら、月だって危ないんだぜ。」
「月が・・・・?」
「今までの会話を聞いていると、お前は月の出身なんだろう?」
「そうだ!美しい月の女神が治める、美しい月の楽園から来たんだ!」
「そうかい。でも邪神が地球を支配したら、次は月が狙われるかもしれねえぞ?
なんたってあの星は強い魔力を持っているから、邪心は放っておかないだろうせ。」
「そうなったら戦うだけさ!月を邪神なんかに支配されてたまるか!」
コウはボクシングのように拳を振る。ダレスは笑い、コウをテーブルに下ろした。
「だったら今戦えよ。地球を乗っ取られてからじゃ、それこそ不利になるだろう?」
「いや・・・そりゃそうだけど・・・。」
「仲間を想うお前の気持ちは分かるよ。俺だって、ただの傍若無人な馬鹿じゃねえんだ。
これでも会社の仲間は大切にしてんだぜ。」
「・・・ほんとかよ?」
「ほんとうだ。仲間がいなきゃ会社はやってられねえ。特に裏の商売ってのは、ある意味じゃ信頼が大事なんだ。誰かが裏切れば、組織ごと壊滅する恐れがあるからな。だから俺は信頼のある奴しか傍におかないし、その仲間を大事にしている。」
「金貸しに偉そうに言われてもなあ・・・・。」
「ははは!そりゃそうだ。でもな、これでも人を見る目はあるんだぜ。じゃなきゃ信頼に足る仲間は集められないからな。そして俺の見たところ、あのダナエってガキは中々いいものを持ってる。内に光を感じさせるとでもいうか・・・・。それにお前だって中々悪くない。そんな小さなナリで、この俺に堂々と啖呵を切るんだからな。あと頭も良さそうだ。こっちのゾンビどもに比べりゃ、月とスッポンだぜ。」
「だから、そんな死に損ないと一緒にするな!」
コウは「ふん」と鼻を鳴らし、腕を組んでそっぽを向く。そしてゆっくりとアリアンロッドを見上げ、心配そうに尋ねた。
「なあ、ダナエはもう回復したのか?」
「ああ、ほとんど傷は治っている。もうすぐ目を覚ますだろう。」
それを聞いてコウはホッと胸を撫で下ろし、ダレスに向かって言った。
「おい!ダナエが出て来ても、もう酷いことはするなよ!」
「しねえよ。そこの怖い神様にやられちまうからな。」
ダレスはボトルに残った酒を一気に飲み干し、大きなゲップを吐いてアリアンロッドを見つめた。
「俺はな、いつかあの邪神をぶっ殺してやろうと思ってるんだ。だからあんたに会いに来た。俺に協力しないかと聞く為にな。でも・・・どうやら俺達の利害は一致しているらしい。
そこでだ!どうだ、あんた俺と手を組まないか?」
「お前と・・・?あまり気が乗らんな。私は暴力的な輩は嫌いなのだ。」
「まあまあ、最後まで聞けよ。俺の会社の資金力はちょっとしたもんだ。この星だって経済があるんだから、金はきっと役に立つぜ。だからもし金が必要な時は、協力は惜しまない。
それに・・・俺は地球と行き交うことが出来るんだ。」
「ほんとうか!」
アリアンロッドは驚いて身を乗り出す。ダレスは頷き、胸に付けた金のネックレスを見せた。
「これは邪神の奴が作ったもんでな。こいつを使うと、俺の会社の隠しドアを使って地球の支社に行くことが出来る。」
「じゃあそれを貸してくれ!私も今すぐ地球に・・・・、」
「そりゃ無理だろう。」
ダレスはぶんぶんと首を振った。
「なぜだ!私は地球で生まれた空想の魂なのだぞ。実体を持たないから、光の壁を越えても問題ないはずだ!」
「何を言ってるんだよ・・・。あんたは今、ダナエってガキと同化してるも同然なんだぜ?
あのガキは空想の魂のくせに実体を持ってやがる。こいつを使って向こうに行けば、あんたは消えて無くなるだけだ。」
「ああ・・・そうだったな・・・。」
するとコウは首を傾げ、小さな手を上げた。
「なんだチビ?」
「だからチビじゃない!コウだ!あんたさ、どうしてダナエに実体があるって知ってるんだよ?」
「ああ、そんなことか・・・。実はさっきあのガキと戦った時、懐かしいものを感じたんだよ。」
「懐かしいもの?」
「そうだ。空想の世界には無い、確かな手応えってやつをな。その時分かったんだよ。こいつは肉体と似たような実体を持っていると。」
「へえ・・・鈍感な馬鹿じゃなかったんだな・・・。」
コウは感心してダレスを見上げる。
「元々実体を持っていない奴には分からない感覚だろうけどな。」
「じゃあさ、どうして邪神は地球とこの星を行き交うことが出来るんだ?邪神は地球からあんたに会いにいて、会社を乗っ取ったんだろ?」
そう尋ねると、ダレスは大きく首を振った。
「分からねえ。邪神に関することは、ほとんどが謎なんだ。下手に調べようとした奴は、みんな殺されたよ。」
「・・・・怖いな。ダナエはそんな奴と戦うことになるってのか・・・。」
二人はしんと黙りこむ。重い空気が包み、ゾンビのつまみ喰いの音だけが響く。
「私は・・・・何としても地球の危機を救いたい・・・。」
アリアンロッドは思い詰めた顔で呟く。コスモリングを撫でながら、懐かしい地球を思い浮かべていた。
「その為ならば、自分の好き嫌いで仲間を選んでいる場合ではないのかもしれない。」
そう言ってコウを手に乗せ、真剣な目で見つめた。
「コウよ。ダナエが出てきたら、私の意思を伝えてはもらえないか?私は地球とこの星を守る為に戦うと。その為ならば、いくらでもお前に力を貸すと。」
アリアンロッドの瞳は、晴れた日の夜空のように澄んだ黒をしていた。コウはアリアンロッドの目に本気の決意を感じ、戸惑いながらも頷いた。
「伝えるのは別にいいけどさ・・・。でも俺は・・・やっぱりダナエにそんな危険なことはしてほしくないな・・・。」
「分かっている。しかし・・・お前の気持ちを理解した上で言っているのだ。どうか、よろしく頼む。」
アリアンロッドは目を閉じて頭を下げる。コウは納得のいかないまま頷き、「分かったよ」と返した。
「じゃあ俺と手を組んでくれるってことだな?」
ダレスは嬉しそうに尋ねる。アリアンロッドは小さく笑って頷き、そっと手を差し出した。
「強大な敵に打ち勝つ為には、仲間は多い方がいい。よろしく頼む。」
「そうこなくちゃいけねえぜ!俺も協力は惜しまねえからよ。」
ダレスはアリアンロッドの手を握り、力強く笑った。
「さて・・・俺はとりあえず会社に戻る。これから色々と忙しくなるからな。」
そう言って立ち上がり、まだつまみ喰いを続けるゾンビ達を睨んだ。
「おい!てめえら!」
「は、はい!」
「ぜ、全部は喰ってませんよ!ダレスさんの分は残ってますから!」
「わけ分かんねえこと言ってんじゃねえ!いいか、お前らはこれから、この二人に付いてこの星を案内して差し上げろ!」
「え?でも借金の返済は・・・・?」
「・・・待ってやるさ。この二人に協力するなら、利息はチャラにしてやる。」
「マ、マジっすかあ!」
「それと、もしこの二人が邪神を倒したら、元金もチャラにしてやるし、肉体も返してやる。だからしっかりお供をして、色々と手助けをして差し上げろ!いいな!」
「は、はい!喜んで!」
「やった!師匠と一緒に旅が出来る!」
ゾンビ達は手を握って喜びあい、嬉し涙を流していた。
「それじゃ俺は会社に戻るが、その前に名刺を渡しておこうか。場所はそこに載ってるから、困った時はいつでも来てくれ。じゃあな。」
そう言って名刺を渡し、金をテーブルの上に置いて店を出て行った。
ゾンビ達はぺこぺこしてダレスを見送り、ササっと席に戻ってアリアンロッドを見つめた。
「俺達がこの星を案内しますんで、分からないことがあったら何でも聞いて下さい!」
「そうそう、師匠の手助けをするのは弟子の役目ですから!」
嬉しそうに笑うゾンビを見て、アリアンロッドはため息をついた。
「だから・・・誰も弟子にした覚えはない・・・。」
残ったチーズケーキを突き、面倒くさそうに顔を背ける。
「あ、そうだ!肩をお揉みしましょうか?」
「いらん・・・。」
「じゃあマッサージは?こう見えても得意なんですよ!」
「それもいらん・・・。」
アリアンロッドはうんざりしてフォークを置き、コウを見つめて言った。
「私はそろそろ腕輪の中に戻る。ダナエが出て来たら、今までのことを説明してやってくれ。」
そう言って目を閉じ、パッと眩く光った。次の瞬間にはダナエの姿に変わっていて、目を半分開けてふらふらと椅子にもたれかかった。
「ダナエ!」
コウはギュッと腕に抱きつき、涙を浮かべてダナエを見上げた。
「よかった!無事でよかった・・・。」
「どうしたのコウ?あれ、私・・・なんでこんな場所に?・・・あの狼は?」
ダナエはキョトンとした目でコウを見つめ、不思議そうにパチパチとまばたきをしていた。

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