ダナエの神話〜神樹の星〜 第五話 病気の神ウルズ(1)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 16:08

『病気の神ウルズ』1


ダナエは街の外れにある墓地に来ていた。
コウからアリアンロッドの話を聞き、信じられない思いでコスモリングを見つめていた。
「この腕輪に・・・そんな力が・・・・。」
広い墓地の入り口に立ち、青い宝石をじっと見つめる。そしてアリアンロッドの宿っている宝石を撫で、「ありがとう」と呟いた。
「鈍チンのお前でも分かるように説明したつもりだけど、ちゃんと理解したか?」
「・・・・・・・・・・。」
ダナエは腕輪を撫でたまま首を振り、小さな声で言った。
「正直分からないことだらけよ・・・。でも、地球とこの星が危ないのは確かなんでしょ?」
「らしいな。あの金貸しがそう言ってたから。あいつ乱暴な奴だけど、嘘を吐くようなタイプじゃないと思うし・・・。」
ダナエはしばらく考え込んでいたが、やがて明るい笑顔になって頷いた。
「難しいことは分からないけど、とりあえずジル・フィンの頼み通り、ユグドラシルを目指してみましょう!この星を旅していれば、色々なことが分かる気がするもの。」
元気を出してそう言うと、後ろにいたゾンビ二人が頷いた。
「俺達はあんたらを案内するのが役目だからな。何でも困ったことがあったら聞いてくれ。」
「そうそう、ダナエちゃんの為なら協力は惜しまないからさ。」
ニコニコと笑うゾンビに、コウは指をさして言った。
「まったく、お前らは調子のいい奴らだなあ。ダナエをさらって売り飛ばそうとしたくせに。」
「い、いや・・・それは悪かったよ。申し訳無い。」
「・・・ごめんな。俺・・・ダナエちゃんを第二の師匠と呼ぶからさ。」
ゾンビ達はシュンと項垂れ、手を組んでもじもじと動かす。
「いいわよ、私は気にしてないから。それより、これからよろしくね!」
ダナエはニコリと笑いかけ、長いポニーテールを揺らした。
「おお・・・まるで女神のような優しさ・・・・。」
「俺・・・・一生ダナエちゃんについて行くよ・・・。」
「ふふふ、大袈裟よ。それよりさ、これから一緒に旅をするなら名前を教えてよ。」
ゾンビ達はコクコクと頷き、胸を張って言った。
「俺はトミーっていうんだ。地球では大工をやってた。」
トミーは誇らしそうに胸を張って言った。
「俺はジャムっていうんだ。地球ではアイドルの追っかけをやってた。今はダナエちゃんと師匠のファンさ!」
そう言ってビシッと親指を立てる。
「ええっと・・・頬の肉が取れかけている方がトミーで、アバラが丸出しの方がジャムね?」
「うん・・・まあ・・・そういう覚え方をされるのは初めてだけど・・・。」
「じゃあトミーとジャム!これからよろしく!」
ダナエは二人の手を取り、ギュッと握手をした。トミーは照れ臭そうに笑い、ジャムはデレデレと鼻の下を伸ばす。
「じゃあ友達の印にこれあげる。その格好のままじゃ可哀想だから。」
ダナエはポケットをごそごそと漁り、白い包帯を取り出した。
「怪我したらいけないと思って、ずっとポケットに入れてたんだ。これ魔法の包帯だから、いくいらでも伸びるよ、ほら!」
そう言ってぐるぐると伸ばし、二人に巻きつけた。
「うん!これでちょっとは良くなったかな。」
「そ、そうか・・・?なんかミイラみたいになってるけど・・・。」
コウは何とも言えない顔でコメントする。しかしトミーとジャムは喜んでお礼を言った。
「ゾンビよりミイラの方がマシだぜ!」
「・・・ダナエちゃんの巻いてくれた包帯・・・。俺、宝物にする!」
「うん!似合ってるよ!」
「変な意味でな・・・。」
コウは呆れた声で言い、トミーに向かって尋ねた。
「で?ここへ連れて来た理由を教えてくれよ。なにか重要な場所なんだろ?」
トミーは頷き、墓地の入り口の前に立って手を向けた。
「この墓地は泥の街の魂が眠ってるのさ。ここは亡者の街だから、街人は全員死んでるんだ。
ええっと、ダレスさんの会社を除いてだけど。」
「・・・なんか気味悪いね・・・。」
ダナエは眉を寄せてブルっと肩を抱く。
「お前はこういう話はほんとに苦手だよなあ。で、それがどう重要なんだ?」
すると、今度はジャムが答えた。
「普通はさ、死んだらあの世へ行くだろ?でもこの街じゃそうはならなかった。なぜなら、悪い病気の神が呪いをかけたからな。」
「病気の神?」
ダナエとコウは顔を見合わせて首を傾げる。
「ずっと昔にこの街に住んでた奴らしいんだけど、隣の家の奴に恋人を殺されたのさ。
そして怒りに狂って暴走して、この街に呪いをかけた。死んでもあの世へ行けず、ずっとこの街で苦しむようにってな。」
「へえ・・・。でもその割にはこの街の人は楽しそうだけど?」
「まあ・・・なんというか、意外と楽なんだよな、死んでさ迷うのって。悪霊とかなら別かもしれないけど、そうでない魂はこの街を謳歌してるんだ。だから病気の神はこの街を捨てて、墓地の中にある穴を通って、別の場所へ言ったんだと。」
「ふうん・・・。なんだか切ない話ね・・・。」
ダナエは墓地の方を見つめ、辺りに漂う怪しい雰囲気を感じていた。トミーはスタスタと墓地の中へ入り、一番小さな墓石を指差した。
「あれが病気の神の恋人の墓だ。あれの下には真っ暗な穴があって、こことは別の街へ繋がってるんだ。まだ誰も通ったことはないらしいけどな。」
「誰も通ったことがないのに、何で別の場所へ繋がってるって分かるんだよ?」
コウが尋ねると、トミーは「ふふん」と指を振った。
「実はな、この穴を通って、何度か病気の神が現れたのを目撃した奴がいるのさ。」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。それでな、その病気の神っていうのは、とても物知りらしいんだ。だからそいつに会えば、ユグドラシルへ楽に辿り着く方法を教えてもらえるかもしれない。」
「なるほどな・・・。でもさ、ダレスはユグドラシルの根っこを通ってここに来たんだろ?あんたらだってそのはずだ。ならわざわざ病気の神なんかに会いにいかなくていいじゃん。」
そう尋ねると、トミーは「チッチッチ」と指を振った。
「ユグドラシルは荒い海の中にいるのさ。だから根っこを通ってこの星に出て来ると、荒い海流に飲まれて遠い所へ流されるんだ。ダレスさんは、その流れに飲まれてこの街へ打ち上げられたのさ。」
「そういえばジル・フィンが言ってたな。ユグドラシルは荒い海の中にいるって。」
「そうそう、それに俺達は地球の支社から秘密のドアを通ってここへ来たから、ユグドラシルへの生き方は知らないんだ。」
「ふうむ・・・なるほど・・・。だったら物知りの病気の神に会う価値はあるな。でも病気の神って・・・なんだか怪しい感じだなあ。ダナエはどう思う?」
コウが尋ねると、ダナエはスタスタと墓地の中へ歩いて行った。
「細かいことはいいわよ。とにかくその病気の神様に会いに行ってみましょう。」
「相変わらず前向きだなあ・・・。その穴だって、どこへ繋がってるか分からないんだぜ?」
するとダナエはニコリと笑い、明るい声で言った。
「考えるより行動よ。さ、さ、トミーとジャム。早くその真っ暗な穴に案内して!」
ダナエが微笑みかけると、二人はササっと墓地の奥に走って行った。そして小さな墓石の前に立ち、二人で掴んで力いっぱい持ち上げた。
「ふんぬ!」
「おりゃあああああ!」
トミーとジャムは墓石を持ち上げ、横へドンと放り投げた。するとその下には木で出来た丸い蓋があって、怪しい気配が漏れていた。
「この蓋の下に穴があるのさ。さ、さ、どうぞ開けちゃって。」
トミーはサッと横に逃げ、蓋の方に手を向ける。
「何ビビってんだよ。自分で開けろよ・・・まったく。」
コウとダナエは蓋の前に立ち、そこから漏れてくる怪しい気配に身を竦めた。
「これ・・・絶対に何かいるね?」
「だな。きっと悪霊かゾンビだぜ。そういう禍々しい気を感じるもの。」
ダナエはそっと膝をつき、「えい!」と叫んで蓋を持ち上げた。するとその途端にたくさんの怨霊が溢れて来て、恐ろしい悲鳴を上げながら空に昇っていった。
「な・・・なんだよこれ・・・・。」
コウは顔を青くしてダナエの肩にしがみついた。トミーとジャムは墓地の端っこの方へ逃げていき、墓石の陰から顔を覗かせている。
「死人のくせに怨霊を怖がるよ・・・。なあダナエ?・・・・って、ダナエ?」
ダナエは目を開けたまま気を失っていて、その表情は石のように固まっていた。
「・・・気を失ってる。おい、しっかりしろ!」
コウにペチペチと頬を叩かれ、ダナエはハッと我に返った。
「・・ああ、コウ。なんか・・・下水から出て来るゴキブリみたいだったね・・・。」
「確かに気持ち悪かったな。俺もちょっとビビったよ。」
二人はブルッと肩を震わせ、暗い穴の中を覗き込んだ。奥の方から何かの呻き声が聞こえてきて、思わず後ずさる。
「いやあ、ビックリしたな。まさかあんなもんが出てくるとは。」
「触らぬ神に祟りなしっていうし・・・やっぱり行くのやめる?」
「お前らはとことん役立たずだな。誰がここへ連れて来たと思ってるんだよ・・・。」
コウはため息交じりに言い、ダナエに顔を近づける。
「・・・どうする?この穴に入ってみるか?」
「・・・・うん。怖いけど、先へ進まなきゃいけないからね。覚悟を決めて行ってみよう!」
ダナエとコウは顔を見合わせて頷き、真っ暗な穴の中へピョンと飛び込んだ。
「うお!ほんとに入っちゃった・・・。」
「ううむ・・・適当な思い付きで連れて来ただけなのに・・・。」
トミーとジャムは冷や汗を流して暗い穴の中を見つめ、覚悟を決めたように頷き合った。
「俺達も行くぜ!借金をチャラにしてもらう為に!」
「俺はダナエちゃんと師匠に愛される為に!とう!」
二人のゾンビも暗い穴の中に飛び込んだ。そして誰もいなくなった墓地では、勝手に蓋が閉まって穴を塞いだ。横に倒れていた墓石もひとりでに宙に浮かび、大きな音を立てて元の位置に戻っていった。

            *

暗い穴の中には風が吹いていた。まるで台風のような強い風で、その風に乗って悪臭が漂ってくる。ダナエとコウは鼻をつまみ、風に運ばれて暗い穴の中を飛ばされていた。
「なんだろう・・・この臭い?鼻が曲がりそう・・・。」
「こりゃあ何かが腐った臭いだな。肉とか魚を放置してるとこんな臭いになるよ。」
二人は悪臭に顔をしかめながら飛ばされて行く。後ろの方からはトミーとジャムの声が聞こえ、「臭ッ!」とか「おえ!」などと叫んでいる。
ダナエは後ろを振り向き、真っ暗な中を見つめて言った。
「大丈夫〜?」
「おう、大丈夫、大丈夫!でも・・・・臭ッ!」
「ダナエちゃ〜ん!何かあっても、俺が守ってあげ・・・・・・おえ!」
「うん、大丈夫そうね。」
ダナエは前を向き、真っ暗な闇の先を見つめた。先に進むにつれて悪臭は酷くなり、もはや息をするのも辛いほどであった。
しかしそれを我慢して風に運ばれていくと、遠くの方からおぞましい悲鳴が聞こえてきた。
「な・・・何・・・?」
悪臭に混じって響いてくるおぞましい悲鳴は、だんだんとこちらに近づいてくる。そしてチラリと白い何かが見えたかと思うと、無数の怨霊がわらわらと飛んできた。
「いやあああああああああ!」
ダナエは絶叫してコウを鷲掴みにする。そして前に突き出し、目を閉じてぶるぶると震えた。
「こ、こら!俺を盾にするな!」
「だって怖いんだもん!」
迫りくる怨霊はゴキブリの大群のようにダナエの横を飛び抜け、生温い風を撒き散らしていく。
それは吐き気がするほど臭く、頭がクラクラして思わず気を失いそうになった。
「おいダナエ!しっかりしろ!」
「・・・・・・・・・。」
ダナエは気絶寸前でコウを抱き寄せ、青白い顔をして白目を剥いていた。後ろからはトミーとジャムの雄叫びが響き、「助けてえ〜!」と絶叫している。
怨霊の大群は嵐のように過ぎ去り、ダナエとコウは勢いを増して飛んで行く。
すると遥か先の方に光が見えて、コウはぺしぺしとダナエの頬を叩いた。
「頑張れ!もうちょっとで出口だぞ!」
「・・・・・・・・・・・・。」
勢いを増した風は凄まじい速さでダナエとコウを運んで行く。そして瞬く間に暗い穴の出口に辿り着き、光の中に突っ込んで高い空に投げ出された。
「うわああああああ!落ちるううううう!」
コウは顔を覆って叫ぶ。ダナエは相変わらず放心したままで、コウは仕方なく風の魔法を唱えた。
「風の精霊!俺達の盾になってくれ!」
そう叫んで両手をかざすと、周りの空気が集まって二人を包み込んだ。そしてそのまま落下し、下にあったボロボロの家に突っ込んでいった。
「ぎゃああああああ!」
屋根を突き破り、柱を壊し、床を突き抜けて固い石にぶつかった。風の魔法がクッションのように守ってくれたおかげで怪我をせずに済んだが、二人は放心したまましばらく動けなかった。
「・・・・・危うく死ぬところだった・・・・。」
震える声で呟くと、空からゾンビの叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃあああああああ!死ぬうううううう!」
「いや、俺達はもう死んでる!でも痛いのは嫌だああああ!」
二人はダナエとコウの真上に落ちて来て、風のクッションにぶつかって弾き飛ばされる。
「ぐはあッ!」
「ほげえッ!」
その勢いで壁に激突し、土煙りを巻き上げて気絶していた。
「・・・なんなんだよ・・・いったい・・・。」
コウはダナエの手からもぞもぞと這い出て、じっと辺りを見回してみた。
「なんだここは・・・呪いの実験場か何かか・・・?」
ダナエ達が落ちて来たのは、壁じゅうに呪いの文字が書かれた薄暗い部屋だった。壁にはいくつかの蝋燭が立てられていて、怪しく室内を照らしている。床にはいくつも魔法陣が描かれていて、蛇のようにウネウネとパイプが巡らされている。そしてダナエとコウの足元には、荒縄が巻かれた大きな岩があった。
「なんだこの岩・・・?すごい霊力を感じるけど・・・・。」
岩には黄色いお札が張られていて、大きな霊力を発していた。
「・・・なんか不気味な場所に出ちゃったな・・・。これ、大丈夫なのかな・・・。」
コウはダナエの横に降りて、クイクイと鼻を引っ張った。
「おい、しっかりしろダナエ!もう怨霊はいないから。」
「・・・・え?・・ああ!ここは・・・・どこ?」
ダナエは身を起こしてキョロキョロ辺りを眺め、その異様な雰囲気に思わず息を飲んだ。
「何この部屋・・・気持ち悪い・・・。」
「あの暗い穴を抜けると、ここへ落ちて来たんだよ。
きっと呪いの実験場か何かだと思うけど・・・・・・・。」
「呪い・・・?」
ダナエはまた青ざめ、ギュッとマントの裾を握って立ち上がった。そして周りを見渡し、「あの二人は?」と尋ねる。
「そこにいるよ。」
コウは壁の穴を指差す。瓦礫の下で、トミーとジャムがもぞもぞと動いていた。
「大丈夫!」
ダナエはダっと駆け寄り、瓦礫をどかして二人を引きずり出した。
「ああ・・・死ぬかと思った・・・。」
「だからもう死んでるって・・・。それよりダナエちゃんの手・・・柔らかい・・・。」
ゾンビ二人はよろよろ立ち上がり、部屋の中を見渡して「うお!」と後ずさった。
「なんだここは・・・?」
「分からない・・・。でもあの穴からここへ落ちて来たみたい・・・。」
ダナエは自分が落ちて来た空を見上げる。そこには丸い穴が空いていて、波のように揺らめいていた。しかしすぐに空間が歪み、小さくなって消えてしまった。
「なんなの・・・いったい・・・。」
呆然と立ち尽くしていると、部屋の奥にある階段から足音が聞こえて来た。ダナエ達は慌てて岩の後ろに隠れ、顔を覗かせて様子を窺った。
石造りの階段からはカツカツと足音が響き、やがて真っ黒なスーツに白衣を着た男が現れた。
服の上からでも痩せているのが分かるほどガリガリで、その顔は死人のように生気がなかった。
そして眠たそうな細い目をこすり、艶々としたオールバックの髪をなでつけていた。
「なんかいかにもインテリって顔だな・・・。マッドサイエンティストって感じだぜ。」
「怪しい気配を感じるわね。見つかったらまずいかも。」
ダナエ達は息を飲んで白衣の男を見守る。男は脇に抱えていた何かを机の上に置き、本を捲ってブツブツ言っている。
「おい・・・あれ骸骨じゃないか?」
コウは机の上に置かれた物体を指さした。ダナエはじっと目を凝らし、「きゃ!」と小さく悲鳴を上げる。
「おいおい・・・人の骸骨だぜ・・・。」
「怖ええ・・・。」
トミーとジャムは身を寄せ合って震えた。
「まさかあいつが殺した人間とかじゃないよな・・・。」
ダナエ達はゴクリと息を飲んで見つめる。男は本を閉じて髑髏を持ち、ダナエ達が隠れている岩の方までやって来た。
「おい!まずいぞ!見つかったら殺されるかも・・・。」
「分かってるよ!声を出さずにじっとしてろ。」
怖がるジャムにコウが怒り、息を殺して男の足音に耳を澄ます。男は岩の前で止まり、骸骨を持ってブツブツ独り言を言っている。そして上から吹きつける風に気づき、じっと天井を見上げた。
「なんだ・・・?なんであんな穴が空いて・・・・、」
そう言いかけて口を止め、岩の上に髑髏を置いて辺りを見渡した。そしてゆっくりと岩を回って近づいてくる。
「・・・・・・・・・・・。」
ダナエ達は足音を殺して、岩に沿ってぐるりと逃げていく。男は岩を一周して、誰もいないことを確認して髑髏を手に取った。
「・・・・・・・・・・・。」
ダナエ達の心臓はバクバクと音を立てる。岩の向こうから男の気配をビンビンと感じて、明らかにこちらの存在を感じ取っている様子だった。
「・・・動くなよ・・・じっとしてるんだ・・・・。」
コウは小さな声で言い、みんなはコクコクと頷く。男は髑髏を持ったまま再び岩を回って来る。ダナエ達は足音を殺してゆっくりと逃げて行くが、ジャムの包帯が岩の突起に引っ掛かってビリビリ!っと音がした。
「あ!やべ!」
思わず声が出てしまい、コウは「馬鹿野郎・・・。」と小さく呟く。その時、カツン!と男の足音が響いた。ダナエ達が真上に気配を感じて見上げてみると、そこには髑髏を持って、冷たい視線で睨む男がいた。
「うわああああああああ!」
「お助けえええええええ!」
トミーとジャムは部屋の端まで逃げて行き、ダナエとコウは手を握り合って男を見上げていた。
「・・・・誰かねチミたちは?・・・ここで何をしとるんだ?」
男の声は、冷淡な顔に似合わず高い声だった。口調もコミカルで、怒るでもなく、怯えるでもなく冷静に問い詰めてくる。
コウはダナエの服を引っ張って逃げようとするが、ダナエはスッと立ち上がって答えた。
「私はダナエ。月から来た妖精よ。泥の街にある墓地の穴を通って、ここに落ちて来たの。」
真っすぐに見つめて言うと、男は「むむ!」と低く唸った。
「・・・チミい・・・。あの亡者の穴を通ってここまで来たというのか?」
「亡者の穴?私は墓の下の穴に飛び込んで、気が付いたらここに落っこちて来たの。」
「・・・むむう・・・。あの道を通って無事な者がいるとは・・・。普通は怨霊にとり憑かれて殺されてしまうのに・・・。」
男は岩から下り、髑髏を片手にダナエに近づいた。そして興味深そうにジロジロと見つめ、左の手首に着けているコスモリングを見て「おお!」と声を上げた。
「それこそは、まさしくコスモリングではないか!チミ、いったいそれをどこで手に入れたんだね?」
男はグイッと顔を近づける。ダナエはうろたえて後ろに下がった。
「これはジル・フィンっていう海の神様からもらったの。」
「・・・ジル・フィン・・・?聞いたことのない神だな。」
「ほんとうは地球の神様なんだけど、事情があってこの星にいるの。そしてユグドラシルを目指す私の為に、この腕輪をくれたのよ。」
「ほほう・・・チミ、ユグドラシルへ行きたいのかね?」
男はさらに顔を近づけ、ダナエはサッとコウを盾にした。
「むほ!妖精ではないか!これはチミのペットか?」
男はコウに指を向けて尋ねる。するとコウは怒った顔で指を払った。
「誰がペットだ!俺はダナエの友達、妖精のコウだ!」
「彼女の友達?なら君も月から?」
「そうだ。・・・ていうか、あんたも月を知ってるのか?」
男は顔を引っ込めて背筋を伸ばし、ヨレヨレのネクタイを直して言った。
「私はかつて、金星に住んでいた神だ。だから月のことくらい知っている。」
「き、金星だって!」
「うむ。ただなにぶん、あそこは寒かったり熱かったりと大変でな。だからこの星にやって来たのだ。ああ・・・・懐かしき金星・・・。ふるさとは遠くにありて思うものと言うが、これはただのホームシックだろうか・・・。」
男はしんみりした顔で胸を押さえ、髑髏の頭を撫でまわしている。コウは肘でダナエを突き、小声で言った。
「おい・・・こいつヤバイ奴だぜ・・・。今のうちにさっさとずらかろう・・・。」
「ちょっと待って。その前に聞いておきたいことがあるの。」
ダナエは男の前に立ち、真剣な顔で尋ねた。
「私達、病気の神様を探しているの。あなたはその神様がどこにいるか知らない?」
そう尋ねると、男は白衣を翻して髑髏を持ち上げた。
「それは私のことだ。人々は、私のことを病の神と呼ぶ。」
「あ、あなたが!」
ダナエは驚いて声を上げる。そして男に詰め寄り、白衣を握ってブンブンと揺さぶった。
「ねえ、私達ユグドラシルへ行きたいの!どうやったら行けるか教えて!」
「うむむ・・・チミい・・・首が締まって苦しいんだが・・・。」
「ああ!ごめんなさい。私って興奮すると、周りが見えなくなる性格だから・・・。」
「初めて会ったチミの性格など知らんがね・・・・まったく・・・。」
男は白衣を直し、髑髏を脇に抱えて胸を張った。
「私は病の神ウルズ。・・・・まあ本当は病の神ではなく、細菌の神なのだが。」
「細菌・・・?要するにバイ菌の神様ってこと?」
「・・・チミは嫌な言い方をするねえ・・・。それじゃ私が汚い神様みたいじゃないか。」
ウルズは不機嫌そうに眉を寄せる。
「ごめんなさい、悪気はないの。」
ダナエは謝り、コウを抱き寄せて言った。
「私とこの子は、ユグドラシルの声を聞いてこの星にやって来たの。今、地球とこの星は悪い邪神に乗っ取られようとしていて、それを防がないといけないのよ。だからお願い、力をかして!」
ダナエは透き通った青い瞳で見つめる。ウルズはじっとその瞳を見つめ返し、「エダ・・・。」と呟いた。
「エダ?何それ?」
「ああ・・・すまん。昔の恋人の名前でね。こんな怪しげな私のことを愛してくれた、とても美しい女性だよ。君の瞳は・・・エダの瞳にそっくりだ。一点の曇りもなく透き通っている。」
ウルズは懐かしそうに言い、脇に抱えた髑髏を見つめた。
「・・・エダと一緒にいた時間は幸せだった・・・。それが、今じゃこんな姿になってしまって・・・。」
「ええ!それって、あなたの恋人の髑髏なの?」
「そうだよ。私が実験に失敗したせいで、こんな姿になってしまった。ああ・・・・・可哀想なエダ・・・。」
ウルズは髑髏を抱いて目に涙を浮かべる。ダナエとコウは顔を見合わせ、目を丸くして尋ねた。
「なあおっさん。」
「おっさんではない。ウルズだ。失礼だよ、チミい・・・。」
「じゃあウルズ。あんたの恋人って、隣の家の奴に殺されたんじゃないの?」
「違うぞ。私が実験に失敗したせいで死んだのだ。おかげでほら、こんな姿に。」
ウルズは髑髏を前に出して見せつける。
ダナエとコウは何とも言えない顔で髑髏を見つめ、切ない声でウルズに尋ねた。
「・・・じゃあさ、泥の街があんな風になっちゃった原因って何なの?あれはあんたが恋人を殺された復讐で呪いをかけたんじゃないの?」
「いいや、あれも私の実験が失敗したせいだ。呪いを持った細菌がそこらじゅうに散らばって、あんなことになってしまった。今思うと、あの街には悪いことをしたもんだ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
二人は黙って俯き、悲しい顔で足元を見つめていた。ダナエは唾を飲んで気持ちを落ち着かせ、顔を上げて言った。
「それって私達が聞いた話と全然違うんだけど・・・・。」
「・・・ううむ・・・チミはよっぽど純粋なんだねえ。チミの聞いた話なんて、しょせん誰かの噂だろう。ああいうのは、なるべく悲劇のストーリーっぽく作られるものだ。その方が噂としては面白いからねえ。」
ウルズは何でもないことのようにサラっと言う。ダナエとコウは後ろのゾンビを振り返り、呆れた目でジトっと睨みつけた。
「い、いや・・・俺達は嘘を言ったわけじゃないぜ!」
「そうそう、確かに酒場でそう聞いたんだ!ただし、そしつは噂好きのおばさんだけど・・・。」
ダナエとコウは大きくため息をつき、がっくりと肩を落とした。そして顔を見合わせ、ブツブツと小声で相談を始めた。
「・・・ねえ、どうするコウ?この神様ふつうじゃないよ・・・。」
「・・・だから言ったじゃん、病気の神なんて怪しいって・・・。どう考えてもコイツの頭は金星までぶっ飛んでるぜ・・・。」
「そうね・・・なんたってバイ菌の神様だから・・・。他あたろうか?」
「・・・だな。ついでにあのゾンビ達もここへ置いて行こう・・・。」
「・・・全部聞こえとるがね、チミたち・・・・。」
ダナエとコウはヒソヒソと相談を続け、そして大きく頷いてウルズを振り返った。
「それじゃあ、私達はこれで。」
「あんまり危ない実験すんなよ、おっさん。」
二人は手を振り、スタスタと階段に向かう。
「ほら、トミーとジャム、行くよ。」
「いいよ、あいつらはここに置いていこう。おっさん、その二人は置いて行くから、何かの実験に使ってやってくれ。」
そう言うと、トミーとジャムは慌てて駆け寄って来た。
「おいおい!ひどいこと言うなよ!」
「そうだよ!俺達を見捨てないでくれえ!」
トミーとジャムは膝をついて懇願し、包帯の隙間から涙を流している。
「コウ、さっきのは言い過ぎよ。ごめんね、この子口が悪いところがあるから。」
「ただの冗談じゃないか。・・・いや、そうでもないか。こいつらあんまり役に立たなさそうだし・・・。」
コウは厳しい顔をして腕を組む。
「そんなことない!これからはちゃんと頑張るからさ!」
「そうだよ!誰だって間違いはある!ここで見捨てられたら、俺達の借金は・・・。」
「だから冗談だって言ってるだろ!どいつもこいつも頭が固いなあ・・・。」
四人は階段の前でぎゃあぎゃあと騒ぎだす。ウルズはうんざりとして首を振り、髑髏を抱えて岩の前に立った。
「ほんとうに想像しいねえ、チミたちは・・・。家の屋根を壊すわ、人のことをバイ菌呼ばわりするわ・・・。」
大きなため息をついて岩の上に髑髏を乗せ、机に行って何かの機械を取り出した。
「どうでもいいけど、実験の邪魔だけはしないでくれよ。今日の実験は特に重要なんだから。」
そう言って手にした機械をいじっていく。鉄で出来た四角い機械には、いくつものボタンが付いていた。
「おいおい・・・何をしようっていうんだよ?ここを呪いの細菌で埋め尽くす気じゃないだろうな?」
コウは不安そうにダナエの後ろに隠れる。ウルズは「ふん」と鼻を鳴らし、ポチポチと機械のボタンを押した。
「そんな実験はここではせんよ。私がやろうとしていることは、エダを生き返らせることだ。」
「・・・人を・・・生き返らせる・・・?」
ウルズは黙って機械を操作し、一人でブツブツ頷いている。そして機械を片手に岩の近くに走り、床を這うパイプの先端を持ち上げた。
「私は細菌の神だから、生き物の事に詳しいのだ。だから科学と魔法の力を使って、エダを復活させる。この髑髏は、その為の依りしろだがね。」
ウルズはパイプの先端を持って岩の後ろに回り、下の方にある小さな穴に差し込んだ。
「科学の力でエダの身体を生み出し、魔法の力で黄泉の国から魂を呼び戻す。どうだい、完璧な理論だと思わんかね?」
ウルズはニコニコとして機械をいじり、岩から離れていく。そしてダナエ達のいる所まで下がると、機械を掲げてニコリと笑った。
「チミたちは幸運にも、私の素晴らしい実験の成功を目にすることが出来るわけだ。」
ウルズは艶々した黒髪をなでつけ、緊張した面持ちで岩を見つめる。そして機械の真ん中にある赤いボタンに指を置いた。
「さて・・・行くぞ・・・。エダよ、今日こそ黄泉の国から戻してあげるからね。」
ウルズは期待に満ちた目で赤いボタンを見つめる。しかし後ろの四人は嫌な予感がして、冷たい汗を流した。ウルズは指に力を込め、ボタンを押そうとする。ダナエは咄嗟に飛びつき、実験を止めさせようとした。
「ダメ!きっと良くないことが起こるわ!」
「ノープロブレム!我が実験に中止の二文字は無い!さあエダよ!戻って来おおおおおい!」
ポチっと赤いボタンが押される。すると床の魔法陣が揺れ出し、怪しい紫の光を放った。
どこに繋がっているのか分からないパイプは、ボコボコと動いて岩に何かを送りこんでいく。
部屋の中に怪しい気と悪臭が満ち、ダナエ達は思わず鼻をつまんだ。
「くさあ〜い!これ穴の中を通る時に嗅いだ臭いだ!」
「なんだよこの臭い?絶対に何かの死体だろ!」
「ゾンビでも鼻が曲がる臭さだぞ!」
「マジでやばい臭いだ・・・。ダレスさんのトイレ掃除より臭いぞこれ・・・。」
悪臭は臭いを増し、それと比例するように部屋に邪悪な気が満ちていく。するとダナエ達が落ちてきた穴が再び現れて、部屋の臭いを吸い取っていった。
「ああ・・・ちょっとはマシになった・・・。」
ダナエは眉をしかめて岩を見つめる。すると部屋に充満していた邪悪な気は、魔法陣の紫の光の中へ吸い込まれていった。そして地震のように床が揺れ、部屋全体が軋み出す。
「壊れないだろうな、この家・・・・。」
コウはギュッとダナエの肩に掴まり、不安そうに部屋を見渡す。ゾンビ達はお互いに抱き合ってぶるぶると震え、何かに気づいて魔法陣を指差した。
「お・・・おい・・・・あれ・・・・。」
トミーが指差した先を見ると、魔法陣から何かが現れようとしていた。紫の光は輝きを増し、魔法陣の奥からおぞましい悲鳴が聞こえてきた。
「これは・・・まさか・・・・。」
魔法陣に吸い込まれた邪気が一気に吹き出して、それと同時に無数の怨霊が湧き出て来る。まるでマンホールの隙間から溢れるゴキブリのように、次から次へとウゾウゾと溢れてくる。
「いやあああああああああ!」
ダナエは絶叫してコウを盾にし、目を瞑って顔を逸らす。
コウは石のように固まって口をパクパクさせ、小さな身体をカタカタと揺らしていた。
ゾンビ二人は抱き合ったまま膝をつき、祈るようなポーズで涙を流していた。溢れた怨霊は部屋の中を飛び回り、苦痛の声を吐き出して顔を歪める。
「さあ、エダ!君はどこにいる?僕はここだ!僕の元へ来るんだ!」
ウルズは手を広げて高らかに叫び、岩の周りをぐるぐると走りだす。怨霊は苦痛と憎悪の叫びを吐き出してウルズに飛びかかるが、ウルズは落ち着いた様子でふっと息を吹きかけた。
すると呪いの細菌が怨霊を蝕み、絶叫を放って魔法陣の中へ戻っていった。
「君達はエダじゃないだろう!僕が求めているのは彼女の魂だけだ!無用な魂は黄泉へ返りたまえ!」
そう言ってパチンと指を鳴らすと、空に浮かぶ黒い穴が怨霊を吸い込んでいった。
「エダ!どこだ?どこにいるんだ?早く僕の元へ来てくれ!」
ウルズは怨霊の大群に向かって叫び声を上げる。怨霊は溢れては吸い込まれ、吸い込まれては溢れて、もはや室内は地獄のようになっていた。
「嫌だあ・・・・。月に帰りたい・・・・。」
ダナエはコウを盾にしたまま泣き崩れ、サッとゾンビの後ろに隠れた。
無数に溢れる怨霊は、ただただ苦痛の声を残して消えて行く。しかしその中に一つだけ美しい魂が混じっていた。醜く蠢く怨霊の群れに、小さく輝く青い光があった。そしてその光は怨霊の群れから飛び出し、ウルズの元へ飛んで来た。
《ウルズ・・・・。》
「おお!エダ!」
青い魂は霊体に変化し、ダナエと良く似た美人が現れた。ウルズは感激して涙を流し、機械を放り投げてエダに駆け寄った。
「エダあああああ!会いたかった!この日をどんなに待ったことか!」
エダは両手を広げてウルズを迎える。ウルズは涙を流してエダに駆け寄る。そして二人が抱き合おうとした瞬間、「パーンッ!」と鋭い音が響いた。
《このロクデナシ!恋人を実験に使って死なせるなんて・・・。あんたは最低の男よ!》
「エ・・・エダ・・・?」
《絶対に安全だっていうから協力したのに・・・機械がぶっ壊れて私は一瞬で骨になっちゃったじゃない!どう責任取ってくれるのよ!》
エダは美しい顔を怒らせて、鬼神の形相でウルズの襟首を掴む。
「ち・・・違うんだ・・・。あれはちょっとした計算ミスで・・・。」
《はあ?計算ミス!そんなんで私は死んじゃったの!・・・もう許せない・・・。今からあんたを呪い殺してやるわ・・・・。》
エダの姿がぞわぞわと恐ろしい怨霊に変わっていく。ウルズは慌てて首を振り、彼女の手を握りしめた。
「待て待て!君を呼び出したのはその責任を取る為さ。」
《どういうことよ・・・?》
「いいかい。あの岩は死者を生き返らせる転生装置なんだよ。ほら、そこのパイプは肥溜に繋がっていて、それを元に君の身体を復活させるんだ。」
《・・・・・・・・・・・・・。》
「大丈夫だよ!肥溜っていったって、僕の発明した細菌を使って、ちゃんとした身体に変化するから。それでね、あそこに君の髑髏が乗っているだろう?あれを依りしろにして、君の魂と身体をくっつける。そして最後は岩の転生装置を使って、君は復活するんだ!どうだい、素晴らしいだろう?」
《・・・・・・・・・・・・・。》
ウルズは両手を広げて、どうだと言わんばかりに胸を張る。その笑顔は一点の曇りもなく、眩しいくらいに輝いていた。エダはそんなウルズを見てクスリと笑い、微笑みを向けて言った。
《ねえウルズ。私はあなたの実験で死んだのよ?それなのに、またあなたの実験台にしようっていうの?》
「違うよ!僕はただ君に生き返ってほしくて・・・・、」
《嘘言うんじゃないわよ!あんたの頭には実験のことしかないでしょ!わけの分からない実験ばかりして、周りに迷惑ばかりかけて!だから病気の神だなんて言われるのよ!いったいどれだけ私が苦労したと思って・・・・。》
エダの目に涙が浮かび、それを見たウルズは優しく抱きしめようした。
《触んじゃねえよ!この甲斐性無しのクソ野郎!》
「・・か・・・甲斐性無し・・・?」
《いいか!私は黄泉の国でのんびり暮らしてんだ!向こうで新しい恋人も出来たし、もう二度とお前に関わりたくないんだよ!ああ、もう!呪い殺すのもアホ臭くなってきた・・・。》
エダは宙に浮かび上がって霊魂に戻り、真っ暗な穴に向かって飛んで行く。
《いいか!二度とこんなマネをするなよ!今度やったら本当に呪い殺すからな!》
そう言い残し、エダは暗い穴の中へ消えていった。
「・・・エダ・・・・。」
ウルズはがっくりと項垂れ、この世の終わりみたいな暗い顔して立ち尽くした。
「・・・なんなんだよ・・・これ・・・。あいつは何がしたかったんだ・・・?」
コウは呆然として呟き、ダナエはゾンビの後ろで放心していた。そしてウルズは力を失くしたようにヨロヨロとよろめき、投げ捨てた機械を踏みつけてしまった。そこには『復活』と書かれた黄色いボタンがあって、彼が踏んだせいでスイッチが入ってしまった。
すると突然岩が揺れ出し、ウルズは思わず転びそうになった。その拍子に岩に張ってあったお札を剥がしてしまい、「しまったああああああ!」と大声叫んだ。
そして足元に目をやり、『復活』と書かれたボタンを踏みつけているのを見てまた叫んだ。
「ああ・・・・なんてこったあああああああ!」
「どうしたんだよ・・・何をそんなに驚いてるんだ?」
コウが尋ねると、ウルズは慌てて机の引き出しを開けた。
「おいチミたち!早くここから逃げるんだ!じゃないと恐ろしい魔人が出て来るぞ!」
「ま・・・魔人・・・?」
「そうだ!この岩には恐ろしい魔人が封じ込められているんだ!
でもお札を剥がして、『復活』のボタンを押してしまったから、外へ出て来てしまう!」
「・・・何やってんだよ、あんたは・・・・。」
コウは放心するダナエの頬を叩いて「しっかりしろ!」と呼びかける。
「・・・え?ああ・・・また気を失ってたんだ・・・。」
そう言って気を取り戻すが、まだ部屋をうようよする怨霊を見てまた気を失いそうになる。
「待て、寝ちゃダメだ!なんかヤバイ奴が出て来るらしい。」
「ヤバイ奴?ヤバイ奴って何?」
「分からないよ!魔人とかって言ってたけど・・・。でもここがヤバイことに変わりはない。
早く逃げよう!ほら、お前らゾンビも!」
コウはトミーとジャムの頭を叩き、「逃げるぞ!」と激を飛ばす。そしてみんなで階段を上ろうとした時、大きな岩が弾け飛んだ。
「きゃあああああ!」
「うわあああああ!」
岩の破片は室内に飛び散り、階段にぶつかってガラガラと壊れてしまった。そして砕かれた瓦礫が崩れ落ちて、逃げ場は完全に塞がれてしまった。
「ああ・・・なんてこった・・・・。」
ウルズはクラクラよよろめく。
砕かれた岩から怪しい影が現れ、ダナエ達はゴクリと息を飲んで見つめていた。

 

                      (つづく)

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