ダナエの神話〜神樹の星〜 第五話 病気の神ウルズ(2)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 16:29
『病気の神 ウルズ』2


ウルズのミスにより、魔人を閉じ込めた岩の封印が解けてしまった。
ダナエ達は呆然とし、身を寄せ合って砕けた岩の方に目を向ける。するとそこには黒い煙がもうもうと立ちこめていて、その中から恐ろしい姿の化け物が現れた。
「・・・・・ようやく出て来ることが出来た・・・・。おのれ、あの厄病神め・・・。
許さん・・・・八つ裂きにして消してやるぞおおおおお!」
魔人の雄叫びは爆音のように響き渡り、部屋の柱がミシミシと軋んでいく。
「チミたち!何をボケっとしてるんだ!早く逃げたまえ!」
ウルズは四人の前に立ちはだかり、大きな銃を構えて魔人に向ける。
「いや・・・階段が塞がっちゃって・・・。」
「何・・・・ああ!なんてこった・・・・。」
ウルズの顔がゾッと青ざめる。ダナエ達は彼の後ろに隠れ、こちらを睨む魔人を見上げた。
「ねえ・・・何あれ?すごく禍々しい気を感じるんだけど・・・。」
ダナエはウルズの白衣を掴んで顔だけ覗かせる。
「あれは地球にいた魔人だ。ソロモン七二柱の魔人が一人、ダンタリオンだ。」
「ダンタリオン・・・。」
ダナエは岩から出て来た大きな魔人を見つめた。
浅黒い身体に学者の黒服を身に着け、右手には分厚い本を持っている。そして大きな頭にはいくつもの人の顔が浮かんでいて、正面を向く老人の顔が口を開いた。
「ここにおったか厄病神め。よくも儂を騙してくれたな!」
ダンタリオンは怖い顔でビシッと指を向ける。ウルズは銃を向け、ダナエ達に言った。
「こうなったのも僕の責任だ。チミたちは守ってみせる!」
「ウルズ・・・。」
そのセリフに、ダナエはウルズのことを少しだけ見直した。
「あなたは自分勝手な人じゃなかったのね。身を呈してでも、誰かを守る優しい神様なんだね・・・。」
「まあ元はといえば僕の責任だからな・・・。さあ、チミたちは下がっていたまえ!」
ウルズがそう言うと、ダナエは首を振って横に並んだ。そしてコスモリングに念じて銀の槍を呼び出し、ダンタリオンに向けて構えた。
「私も一緒に戦うわ!協力してこいつをやっつけましょう!」
「チミは・・・なんていい子なんだ!よし、この邪悪な魔人をぶちのめしてやろう!」
ウルズがそう叫ぶと、ダンタリオンは「馬鹿も〜ん!」と怒鳴った。
「邪悪なのは貴様の方だろう!儂を呼び出してあんな岩に閉じ込めて、『これで魔人の力は僕のものだ〜!』とはしゃいでおったのは、どこのどいつだ!ええ!」
ダンタリオンは顔を真っ赤にして怒り、拳を握ってプルプルと震わせた。ダナエは疑問に思って首を捻り、ウルズに尋ねた。
「ねえ・・・あの魔人さんずいぶん怒ってるけど、あなたが何かしたの?」
するとウルズはバツが悪そうに顔をしかめた。
「ダンタリオンは学術に長けているんだ。そして召喚した者に知識を与えてくれる。だから金星からこの星へ向かう途中、地球へ寄って召喚したんだ。それでまあ、なんというか・・・あの岩の中に閉じ込めた・・・。」
「だったらあなたが悪いんじゃない!それじゃあの人は怒って当たり前よ!」
「それはそうなんだが、どうしてもあの知識を自分だけのものにしたくて、ははは・・・。」
「・・・呆れた・・・・。」
ダナエは槍を下ろし、馬鹿らしそうに首を振る。
するとダンタリオンは、さらに顔を怒らせてダナエに言った。
「それだけじゃないぞ、お嬢さん。この厄病神はな、儂の力を勝手に使って女をたぶらかしたのだ。」
「・・・どういうこと?」
「儂は学術にも長けておるが、人の心を操るのも得意なのだ。そこの厄病神は儂の力を勝手に使い、好きな女の心を操って自分に惚れさせた。」
「・・・・それ本当?」
「本当だ。そうでなければ、あんなに美人で聡明な女が、こんな奴のことを好きになるものか!」
ダナエは冷たい目でじろりとウルズを睨む。彼は咳払いをして目を逸らした。
「・・・まあ、ちょっとくらいならいいかなって・・・つい魔がさして・・・・。」
「・・・最低・・・。」
ダナエは冷たく言い放ち、ダンタリオンを見上げて言った。
「魔人さん。この人にキツ〜イお灸をすえてあげて。私は邪魔しないから。」
ダンタリオンは頷き、ダナエはササっと後ろに下がる。
「さて・・・厄病神よ。儂の積年の恨み、今ここで晴らしてくれよう!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!ほんの出来心だったんだ!」
「言い訳無用!今度はお前が岩の中に閉じ込められるがいい!」
ダンタリオンは分厚い本を開き、ゴニョゴニョと何かを呟いた。すると砕けた岩が元に戻り、ウルズに向かって飛んで来た。
「くそ・・・。こうなったら戦うまでだ!」
ウルズは銃を構え、岩に向けて引き金を引いた。すると鉄の弾丸が音速で飛び出し、一撃で岩を粉砕した。
「見たか!これぞ科学の力!文明万歳!近代兵器万歳!」
ウルズは調子に乗って銃を乱射し、ダンタリオンは慌てて逃げ惑う!
「おのれ!飛び道具とは卑怯な!」
「何を言っている!お前も岩を飛ばして来たじゃないか!お合いこだ!」
ウルズの銃の威力は凄まじかった。壁を貫通して穴を開け、天井まで貫いて空に飛び出していく。その内の一発がダンタリオンに命中し、右腕を吹き飛ばされて分厚い本を落とした。
ウルズはにニヤリと笑い、腕を押さえて苦しむダンタリオンの前に立った。そして銃を頭に突き付け、落ちた本を拾った。
「僕が欲しかったのはこれだ・・・。いくら頼んでもくれないから、いつか奪ってやろうと思ってたんだ・・・。」
「やめろ!それは儂のだぞ!汚い手で触るな!」
ダンタリオンは慌てて本を奪い返そうとする。
「おっと!下手に動いたら頭が吹き飛ぶよ。この本は頂きだ〜!」
ウルズはダンタリオンを蹴り飛ばし、本を脇に抱えて嬉しそうにする。それを見ていたダナエ達は、顔をしかめて嫌な気分でいた。
「ひどい・・・。あれじゃあの魔人さんが可哀想・・・。」
「だよな。これじゃどっちが魔人か分からないぜ・・・。」
ウルズは銃を構えたままパラパラと本を捲り、「むほ!」と声を出す。
「なるほど・・・死者復活には色々と方法があるのだな。次はこれを試してみようか・・・。」
「ぐぬぬ・・・。悪いことは言わん、その本を返すのだ。それはどこぞの弱小な神が扱えるものではない・・・。」
「いいや、これはもう僕のものだ。これさえあればあんたは用無しだ。あとで実験の材料にでもしてあげるさ。」
ウルズは満面の笑みで本を見つめる。しかし横から手が伸びてきて、サッと本を奪われてしまった。
「ああ!誰だ?」
「私よ。この本はあなたの物じゃないでしょう?そこの魔人さんに返しなさい!」
ダナエは槍を向けて睨み、ダンタリオンの方へ近づいた。そしてそっと膝をつき、彼に本を差し出した。
「はい。これ大事なものなんでしょ?」
「・・・おお・・・。なんと優しき心の持ち主よ。今時の若いもんに、こんな良い子がおったとは・・・。」
ダンタリオンは孫を見つめるような優しい顔になり、ウルウルと目を潤ませた。そして本を手に取ると、ゆっくりと立ち上がった。
「コウ!魔人さんの腕を治せる?」
「完全には無理だけど、血を止めるくらいなら出来るよ。ほら、見せて!」
コウはダンタリオンの腕を見つめ、水の呪文を唱えて両手を向けた。
「命の水よ、癒しの力で溢れる血を止めてくれ!」
コウの両手から虹色の水が放たれ、ダンタリオンの傷を塞いでいく。
「おお!痛みが嘘のように引いていく。お主、中々やるではないか。」
「へへへ・・・まあね。」
コウは恥ずかしそうに頭の後ろで手を組む。すると目の前を鉄の弾丸が飛び抜けていった。
「・・・・ッ!」
「チミたち・・・・。言ったはずだぞ。僕の邪魔をするなと。」
ウルズは怖い顔でダナエとコウを睨みつける。そして銃を構え、ダナエの眉間に狙いを定めた。
「あなたは本当に悪い神様ね。いいえ、悪魔といった方が正しいかもしれない。」
ダナエは銀の槍を構え、ウルズを睨み返す。
「ふふふ、そんなもので僕の銃に勝てるつもりかい?こいつは僕の特別製で、マッハ7の速さで飛んで・・・・、」
自信満々に言うウルズだったが、また横から手が伸びてきて銃を奪われてしまった。
「やった!頂きい〜!」
トミーは銃を掲げて嬉しそうにはしゃぐ。
「ぬうう・・・。ゾンビの分際でえ・・・。」
「おっと!動くなよ!動いたら・・・・・バン!だぜ。」
トミーは銃を撃つ振りをして笑う。そしてダナエの方に近寄り、みんなを守るように立ちはだかった。
「これで形勢逆転だな。」
コウは腕を組んで勝ち誇り、ジャムはササっと走ってみんなの後ろへ逃げて行く。
「さあ厄病神よ。大人しく岩の中に封印されるがいい。お前のような輩を放置しておくと、ろくなことにならんからな。」
ダンタリオンが魔法を唱えると、砕け散った岩は元に戻った。そして岩の中心に黒い穴が現れ、風が吹いてウルズを吸い込み始めた。
「・・・ぬうううう・・・・。おのれ・・・。ここで終わってたまるかあああああ!」
ウルズは足を踏ん張り、胸を張って両手を広げた。そして大きく息を吸い込み、自分の身体にふっと吹きかけた。
「ううううう・・・・いおおおおおおおおおお!」
「な、なんだ?自分の息で苦しんでるぞ?」
ウルズの口の中には、たくさんの呪いの細菌がいた。その中には敵を葬る細菌もあれば、自分を強力にする細菌もあった。ウルズが自分に吹きかけた息は、細胞の限界と魔力の限界を越えて、自分の力を何倍にもパワーアップさせる呪いの吐息だった。
「・・・ふおおおおおおお・・・・・力が漲るうううううう・・・・・。」
ウルズは恍惚として天を見上げる。その身体は筋骨隆々としていて、ガリガリの痩せ形だった面影はなくなっていた。顎はパックリ二つに割れ、一目見ると忘れられないほどの濃い顔立ちになっていた。
「・・・さあて・・・。その本をもらおうかね・・・。」
ウルズは一瞬にして間合いを詰め、銃を持ったトミーを殴り飛ばした。
「ぐへえッ!」
「トミー!」
トミーは壁にめり込み、瓦礫の下に埋もれてしまった。ウルズは横にいたジャムも殴り飛ばし、天井を貫いて宙へ舞い上げた。
「ぐほあッ!」
ジャムは家の外に投げ出され、ピクピクと痙攣して白目を剥いていた。
「やべえぞダナエ!こいつめっちゃ強え!ダレスよりも馬鹿力だ!」
「・・・でも逃げられない。そんなことしたら、また魔人さんの本が奪われるわ!」
ダナエは勇敢にも槍を突いて戦いを挑んだ。しかしウルズの筋肉は分厚く、ビヨン!と槍を跳ね返されてしまった。
「そんな・・・・・、あ!」
ウルズは槍を掴み、ダナエの顔にアイアンクローをかける。
「あああああああ!」
「何度も言っただろう!私の邪魔をすると・・・・許さないと!」
ウルズは口を開け、ダナエに向かって呪いの細菌を放った。するとダナエの皮膚は灰色に変色し、蝋人形のようにパキパキと固まっていく。
「・・・ううう・・・・。」
「ダナエ!」
コウは魔法を唱え、ダナエに向かって両手を突き出した。
「土の精霊!ダナエを守ってくれ!」
すると床にヒビが入り、土が盛り上がってダナエを包み込んだ。ウルズは手を放して飛び退き、また呪いの吐息を放ってくる。
「喰らうか!」
コウは両手をかざし、土の精霊に働きかけた。するとまた床が割れて土が盛り上がり、ウルズの口の中に飛んで行った。
「ぐぼぼ・・・・。」
ウルズは口の中の土を必死に掻き出すが、次から次へと土が飛び込んでくる。そして堪らず膝をつき、息が出来なくなって転げ回った。
「・・・コウ・・・・。」
ダナエは土に包まれ、ぐったりとして呟く。
「その中にいろ!土の精霊が悪い菌を分解してくれるから!」
コウは床をのたうち回るウルズを睨んだ。そして天に向かって両手をかざし、大声で叫んだ。
「俺の一番の魔法を喰らわせてやる!来おおおおい!金属の精霊!」
コウの魔法に反応して、家の外から金属の分子が集まって来る。そして巨大なハンマーに変化し、ウルズに向かって振り下ろされた。
「ぐげえええええッ!」
巨大なハンマーはウルズを押しつぶし、床を砕いて地面にめり込む。グラグラと家が揺れ、耳を塞ぎたくなるほどの轟音が響いた。
「・・・やった・・・・。」
力を使い果たしたコウは、地面に落ちてパタリと気を失った。
「・・・コウ・・・そんな無茶して・・・・。」
ダナエは土の中で呟く。土の精霊が細菌を分解してくれたおかげで、皮膚の色は元に戻っていた。そして身体にも力が戻り、土を蹴り破って外へ飛び出した。
「コウ!しっかりして!」
両手でコウを包み込み、小さく揺さぶって呼びかける。コウはぐったりと気を失い、シュルシュルと羽を丸めて動かなくなってしまった。
「ああ・・・そんな・・・。しっかりしてよ!」
ダナエは涙目でコウを抱き寄せる。するとダンタリオンがコウを覗き込み、「ふむ」と小さく唸った。
「お嬢さん、心配する必要はないぞ。その妖精は今、進化の時を迎えているだけだ。」
「進化の時?」
「ああ、生き物に例えると、脱皮の瞬間を迎えたようなものだ。目を覚ました時には、一回り成長しているだろう。」
「・・・そうなんだ。じゃあコウは無事なのね?」
「何の問題も無い。それよりも、もっと厄介な問題がそこにおる。」
ダンタリオンは、地面にめり込んだハンマーを指差した。すると巨大なハンマーがもぞもぞと動き、その下からウルズが現れた。
「おのれああああああ!僕の実験の邪魔をする奴は何人たりとも許さあああああん!」
大声で叫んで土を吐き出し、ゴホゴホと咳をしてハンマーを掴んだ。
「ふふふ・・・ここにちょうどいい金属がある・・・。いいか、凡人のチミたち!金属というのはこういう具合にして使うのだ!そおおおおれ、ビルドアアアアアアップ!」
ウルズの皮膚から灰色の煙が吹き出す。
「な、何これ・・・?」
「ふはははは!これは機械と魔法で作った細菌さ!どんな金属でも浸食して、その形を変えてしまう!この巨大なハンマーは、僕の鎧になるのさ。」
灰色の煙はハンマーに吸い込まれ、鉄クズに分解していく。そして砂状の粒子に変わり、ウルズの中に吸い込まれていった。筋骨隆々とした身体は、黒光りする鉄の身体へと変化した。
そして口の中から機関銃を吐き出し、ガチャリと鳴らしてダナエ達に向けた。
「ビルドアップ完了!こうなれば怖いもの無しだ!それにこの銃はさっきの銃とは威力が違うよ。マッハ10の速さで連射出来るんだからね!」
「そんな・・・ここまで何でも出来るなんて、ちょっと反則じゃないの?」
「いいや、これは僕の努力の結晶だ。才能を持ち、努力を怠らなければ、たいていの奴に負けることはない!さあ、最後の警告だ!大人しくその本を渡せ!」
ウルズは引き金に指を掛け、ダンタリオンに銃口を向ける。
「・・・なんと愚かな男だ・・・。もはや説教をする気も失せた・・・。」
「ありがたいね。僕は説教なんて大嫌いだ!さあ、本を寄こせ!」
ダンタリオンは諦めたようにため息を吐き、ウルズの方に本を差し出した。
「ダメよ!あんな奴の言いなりになっちゃ!」
「いいや、ここは仕方あるまい。儂一人ならどうにかなるかもしれんが、お嬢さん達まで守るのは無理だ。」
「でも・・・・・・。」
「儂は感謝しとるんだ、君とその妖精に。だからこれ以上君達を傷つけさせるわけにはいかんのだ。」
「魔人さん・・・・・。」
ダナエは俯き、暗い顔で「分かった」と頷いた。
「さあ、厄病神よ。この本を受け取れ。」
「ようし、それでいい。下手なマネをしたら、チミたちの頭が吹っ飛ぶよ。」
ウルズは銃を構えたまま近づき、ダンタリオンの手から本を奪い取った。
「ははははは!やった!これで魔人の知識は全て僕のものだ!色々と研究が捗るぞ!」
ウルズは嬉しそうに本を開く。するとその途端に本から腕が伸びて来て、ウルズの頭を掴んだ。
「うわわ!何だ!」
本から伸びた手は、凄まじい力でウルズを本の中へ引き込もうとする。ウルズは必死に抵抗するが、彼の上半身は本の中に引き込まれてしまった。
「油断したな、厄病神よ。何も呪いを使えるのはお前だけではない。」
「・・・ぐぐ、ごごごごごごッ・・・・・。」
「さっきその本を取り返した時、コッソリと呪いをかけておいた。地獄へ誘う死の呪いをな。
お前は地獄にしょっぴかれ、己の犯した罪の報いを受けるがいい!」
ダンタリオンは呪文を唱えて右手を向け、「むん!」と喝を入れた。すると本から何本もの手が伸びてきて、ウルズの身体にしがみ付いた。
「待て待て!僕が悪かった!反省するから助けてくれ!」
「嘘を吐くな。お前が口だけなのは分かっておるわ。」
「違う!今度は本当に改心する!だからこの呪いを解いてくれええええええ!」
ウルズの悲痛な叫びは、ダナエの心を動かした。
「ねえ魔人さん。あそこまで言うなら、本気で改心するつもりかもしれないわ。許して上げましょうよ!」
「・・・・よいのか?奴はお嬢さんの命まで奪おうとしたのだぞ?」
「でもそうならなかった。コウが起きてたら、『そんなのは結果論だ!』って怒られるけど、それでも私は許してあげてほしい。・・・・お願い。」
「・・・・・ふうむ。優しいのはいいことだが、あまり優し過ぎると痛い目を見るかもしれないぞ?」
「それでもいい。傷つくことを怖がってたら、誰も信用出来なくなるもの。」
「・・・そうか。そこまで言うのなら・・・。」
ダンタリオンはパチンと指を鳴らして呪いを解いた。ウルズは本の中から吐き出され、死にそうな顔でガクガクと震えていた。
「大丈夫?」
ダナエは心配そうにウルズに駆け寄る。ウルズの身体にはたくさんの黒い手形が付いていて、固い鉄の皮膚がボコっとへこんでいた。
「痛そう・・・大丈夫?」
そう言って顔を覗き込むと、ウルズはサッと手を伸ばしてコウを奪い取った。
「はははは!油断したねえチミ!」
可笑しそうに笑ってダナエを突き飛ばし、また口から機関銃を吐き出した。
「チミの優しさのおかげで助かったよ。危うく地獄に引きずり込まれるところだった。」
「・・・改心するって言ったのは・・・嘘だったのね。」
「いいや、あの時は本気だった。でも今は忘れたよ。ほら、喉元過ぎれば熱さ忘れるってやつだ。ははは!」
「・・・やっぱり・・・最低・・・。」
ダナエは目をつり上げて睨み、銀の槍を拾ってウルズに向けた。
「コウを返して!」
「嫌だね。進化の途中の妖精なんて、滅多に手に入るものじゃない。これは実験の材料にさせてもらうよ。」
「そんなことさせないわ!コウは私の大切な友達なんだから!」
ダナエは槍を向けて走り出そうとした。しかしダンタリオンに肩を掴まれて、思わず転びそうになった。
「落ち着きなさい、お嬢さん。」
「だって・・・あのままじゃコウが!」
「勢いで突っ込んでどうにかなるものではない。それに、傷ついても相手を信じると言ったのは君だぞ?」
「それは・・・・・。」
ダナエはシュンと項垂れて暗い顔になる。ダンタリオンは首を振り、ダナエの肩を叩いた。
「責めたわけではない。信用に傷は付きものだ。ここは儂に任せて・・・・、」
その時だった。「ダアーンッ!」という耳をつんざく銃声が響き、ダンタリオンの頭は弾け飛んでいた。
「きゃああああああああ!魔人さん!」
ダナエは絶叫して銀の槍を落とし、口に手を当てて身を竦めた。
「ふふふ、知恵の回る年寄りは油断ならないからな。本さえ手に入れば用は無い。」
ダンタリオンは膝をつき、大きな音を立てて仰向けに倒れた。
ダナエはダンタリオンに駆け寄って、必死に身体を揺さぶった。
「魔人さん!魔人さん!・・・そんな・・・。」
ダナエの目に涙が浮かび、ポロリと床に落ちる。グスっと鼻をすすり、赤い目を向けてウルズを睨んだ。
「ひどい!なんでこんなことするのよ!」
「チミはほんとうに話の分からない子だねえ。僕は何度も言っただろう?邪魔をする奴は許さないって。」
「・・・あなたは自分のことしか考えてないのね。神様のくせに・・・最低!」
「神は神でも、僕は細菌の神様だからね。実験や研究が命なのさ。」
ウルズは口を開け、コウをぶらりと持ち上げる。
「ちょ、ちょっと・・・・。何をするつもり?」
「ふふふ、これは貴重な実験材料だから、腹の中にしまってこうと思って。」
「やめて!」
「いいや、やめない。ふふふ・・・・。」
ウルズは舌の上にコウを乗せ、ゴクリと飲み込んだ。
「いやあああああああ!コウおおおおお!」
ダナエは顔に爪を立てて絶叫する。ボロボロと涙をこぼし、爪に力が入って血が流れる。
「さて、僕はコスモリングにも興味がある。それには凄い秘密が隠されているからねえ。
チミを殺して、それを頂くとしようか。」
ウルズは銃を向け、ニヤリと笑って引き金に指をかける。
「・・・・うう・・・。ひどい・・・ひどいよおおおおおお!うわああああああん!」
ダナエは槍を握り、ウルズに向かって駆け出した。
「ふふふ、大人の言うことを聞かないからこうなるのさ。チミも死にたまえ。」
ウルズは引き金を引いた。音より速い鉄の弾丸が撃ち出され、ダナエを粉砕しようとする。
しかしダナエに当たった銃弾は、その場にポトリと落ちてしまった。
「んなッ!そんな馬鹿な!」
ウルズは銃を連射し、嵐のように弾丸を放つ。しかしダナエの周りにバリアでも張ってあるかのように、ポトポトと床に落ちていく。
「なぜだ!音速の十倍の速さだぞ!防ぐことなんて出来るはずが・・・・・・、」
驚くウルズだったが、ダナエから妙な気配を感じて後ずさった。
「なんだ・・・?さっきとは雰囲気が・・・・・。」
ダナエは槍を握ったまま、ダラリと力を抜いていた。そして柳のように揺れながら、目を閉じてふらふらと立っている。
「・・・・・・・・・・。」
「なんだ・・・。いったいどうしたんだ、チミは・・・・。」
ウルズはただならぬ気配を感じて、さらに後ずさる。ダナエはゆっくりと目を開け、ふらふらと揺れながらウルズを睨んだ。
「・・・弱き者に狼藉を働く悪漢よ・・・。汝・・・神として恥じを知るべし・・・。」
「・・・そ、それ以上近寄るな!・・・チミはいったいどうしたん・・・・、あああ!」
ウルズは何かに気づき、怯えながら銃を向ける。ゴクリと唾を飲み、引き金の指がカタカタと震えていた。
ダナエの瞳は燃えるような赤に変わっていて、まるで歴戦の兵士のように鋭い気を発していた。
「・・・我は腕輪の盟約に従い、この少女に力をかさん・・・。」
コスモリングの左の宝石から黒い風が舞いあがり、ダナエを包んでいく。そしてその中から、黒い武道服に身を包んだ一人の女が現れた。
「・・・我が名はスカアハ・・・。武術と魔術を極めし、影の国の主なり!」
「ス・・・スカアハ・・・。ケルトの神か・・・・。」
スカアハは厳しさを感じる鋭い目に、燃えるような赤い瞳をしていた。少し厚みのある唇は優しさを感じさせるが、キリリとした鼻筋が芯の強い印象を与える。
そして後ろで括った長い黒髪を翻し、鍛え抜かれた無駄の無い身体でビシっと拳を構えた。
ウルズは言葉を失くして立ち尽くしていた。半分は恐怖で固まり、もう半分はその美しさに見惚れていた。武道服のスリットから覗く鍛え抜かれた綺麗な足に目を奪われて、鼻の下を伸ばしていた。
「・・・汝・・・・異星の神であるな?」
「・・・・え?あ、ああ・・・金星から来た神だ・・・。細菌を司っている・・・。」
「・・・我は問う・・・汝はなにゆえ狼藉を働くか?・・・返答次第では、この拳が黙っておらぬぞ・・・・。」
スカアハは猛禽のような鋭い眼光で威圧した。それは嘘を吐くことを許さない目で、ウルズは思わず震えた。
「自分の研究の為だ・・・。細菌の神なら、その可能性を追求するべきだと思って・・・。」
「・・・その為に・・・他者を傷つけても構わぬと・・・・?」
「・・・うう・・・・それは・・・・・。」
ウルズは追い詰められていた。スカアハの眼光は一瞬の隙もなく、下手な受け答えをしたら死を招くと分かっていた。どうしようかと焦っていると、床に落ちたダンタリオンの本が目に入った。
「・・・・・・・・・・・。」
ウルズはスカアハに目を向けたまま、ゆっくりと本の方に移動する。媚びるような苦笑いを見せ、敵意が無いことをアピールして銃を下げた。
「悪いことをしたと思っているよ。でも仕方がないだろう?私は細菌の神だから、研究の為だけに存在しているんだよ。」
上手いこと言い訳をしながら、少しずつ本に近づいていく。
「それに僕は金星で生まれた神だから、君とは考え方が違うのかもしれない。だってほら、スカアハといえば、ケルトの強い女神だ。僕も以前に地球へ行った時、君の勇名を聞いたことがあるよ。まさか君みたいな美人で強い神が、コスモリングに閉じ込められていたなんてねえ。」
適当な言葉で誤魔化しつつ、さらに本に近づいていく。そして足元まで本が来た時、ウルズは銃を振って笑った。
「・・・その腕輪に閉じ込められているってことは、誰かに負けたんだろ?君を負かすほど強い奴って、いったいどんな相手だい?」
ウルズはゆっくりと屈み、足元の本を拾った。その瞬間に勝ち誇ったように笑って、スカアハに銃を向けた。
「ねえスカアハ。ものは相談なんだけど、腕輪の持ち主を替えてみる気はないかい?僕ならその腕輪を使いこなせるかもしれない。そうすれば、君は外に出られて自由の身というわけだ。
どうかな?」
ウルズは本を捲って、『冥界への誘い』と書かれたページを開いた。それは先ほど、ウルズを本の中に引き込もうとした呪いのページだった。そしてそこに書かれている呪文を、スカアハに気づかれないように小さく唱えた。
「どうだい?そのダナエという子から離れて、僕を腕輪の主に選んでみる気はないかい?」
ウルズはわざとらしい笑顔でニコリと笑いかける。スカアハは鋭い目を向け、表情を崩さずに言った。
「我はこの眼で見定め、信に値する者にしか力をかさぬ・・・。汝は、己の欲望に負ける敗者なり・・・。ならば是非もなく、その問いに対する答えは・・・・・否である。」
「・・・そうかい。それは残念だ。」
ウルズは右手に本を構え、銃口をスカアハの眉間に向けた。
「チミみたいな美人を殺すのはもったいないけど仕方ない。あとで生き返らせて、僕の恋人として洗脳してあげよう。それじゃあ・・・・さよならだ!」
機関銃の引き金を引き、銃口から音速を超えた弾丸が撃ち出される。
雷のような爆音が響き、スカアハに銃弾の嵐が襲いかかった。
「・・・・児戯よな・・・・。」
スカアハ揺れる柳のように手を動かし、音もなく銃弾を払っていく。音速を超える鉄の弾丸は、吸い寄せられるようにポトポトと床に落ちていった。
「むむう・・・さすがは武術の達人・・・。銃では殺せないか・・・。」
「・・・しょせんは玩具・・・我が身を傷つけるに値せず・・・。」
スカアハは一瞬にしてウルズの目の前から消え、彼の顎に強烈なアッパーをめり込ませていた。
「ぶほああああッ!」
鉄の皮膚がビキビキと軋み、ガラスのようにヒビが入る。そして天井まで吹き飛ばされ、ブスリと突き刺さってぶらぶらと揺れた。
「・・・つ・・・強い・・・・。だがしかあああああああし!」
ウルズはバタバタと足をもがき、天井からすっぽ抜けてドスンと床に落ちた。
「チミは油断した!本の呪いを受け、地獄へ引きずり込まれるがいい!」
そう言って呪いの言葉を放ち、本に向けて手を放った。『冥界への誘い』と書かれたページからニョキニョキと腕が伸びてきて、スカアハを本の中に引き込もうとする。
「・・・呪殺か・・・。」
「ははははは!それはソロモンの魔人の呪いさ!例え相手が神であっても、間違いなく殺すことが出来る。さあ、地獄へ行きたまえチミいいいいいい!」
ウルズは口から強力な呪いの細菌を放ち、スカアハの身体を蝕もうとする。スカアハはズルズルと本の中に引き込まれ、ついには地獄の中へ連れ去られてしまった。
「あーっはっはっはっは!僕の計算勝ちだ!科学万歳!呪い万歳!ウルズ万歳!」
ウルズは本を拾い、勝ち誇った笑顔で叫ぶ。
「さあて、すぐにでもチミを蘇らせて僕の奴隷としようかね。・・・そして、あんなことやこんなことも・・・・ぐふふふふ!」
あれこれといやらしいことを考えてニンマリと笑う。しかし本の中から腕を伸びて来て、思い切り横腹を殴られた。
「ぐへええッ!」
鉄の脇腹が大きくへこみ、ヨダレを撒き散らして倒れるウルズ。腹を押さえて本を落とし、あまりの痛みにガクガクと震えた。
「な・・・なんだ・・・?」
顔をしかめて本を見つめると、その中からスカアハが現れた。しかも彼女の周りには、怖い顔をした恐ろしい悪魔が何人も立っていた。よく見ると悪魔の顔はボコボコに殴られていて、鼻から血を流して怯えている。
「ど、どういうことだ・・・・。なんで悪魔がチミの周りに・・・・。」
するとスカアハは髪を掻き上げ、何でもないことのように言った。
「我に狼藉を働く者は、この拳で鉄拳制裁あるのみ・・・。この悪魔どもは、我の拳に屈して舎弟となった・・・・・。」
「そ、そんな!悪魔をボコボコにして子分にしたっていうのか!」
ウルズは驚愕して唇を震わせる。スカアハは悪魔達に命令し、ウルズを自分の前に連れて来させた。
「痛い!乱暴はよしてくれ!」
「ダマレ!」
「オトナシクシロ!」
悪魔達にボコボコと殴られ、ウルズはスカアハの前に押さえつけられた。それはまるで、お奉行様の前に連れて来られた罪人のようで、二人の力の差をハッキリと表していた。
「・・・まずは・・・少女の友を返すべし・・・。」
スカアハは目を閉じて片手で印を結び、眉間に力を込めた。するとウルズの腹が波打ち、口の中からコウが吐き出された。
「・・・小さき戦士よ・・・見事な戦いであった・・・。」
スカアハは服の胸元を開き、その中にそっとコウを入れた。
「ああ・・・羨ましい・・・。」
「ダマレ!スカアハサマヲヘンナメデミルナ!」
「コノヘンタイガ!」
また悪魔に殴られ、ウルズはドクドクと鼻血を流す。スカアハは腰に手を当ててウルズを見下ろし、指を向けて言った。
「・・・汝・・・腐っても神なり・・・。今一度、機を与えてやろう・・・。」
「う、うう・・・・顔が怖い・・・。」
ウルズはさっと目を逸らすが、悪魔にガシっと顎を掴まれ、むりやり前を向かされた。
「・・・汝は細菌の神・・・。その真理を求める心、間違ってはおらぬ・・・。」
「そ、そうでしょ?僕は間違ってないんだ!」
「・・・だが数々の狼藉は許し難し・・・。神の風上にも置けぬ愚図なり・・・。」
「う、うう・・・・。仕方ないんだよ、研究の為に・・・・・。」
「・・・なればこそ、機を与えよう・・・。」
スカアハは悪魔に銀の槍を拾って来させ、それを握ってウルズに向けた。
「・・・この神器、心を貫く刃なり・・・。汝・・・我が言葉に謀りをもって答えれば、たちまち心を引き裂かれるであろう・・・・。」
そう言って銀の槍を向け、ウルズの胸にブスリと刺した。
「ぎゃああああああ!死ぬうううううう・・・・・・って、あれ?痛くない・・・?」
「よいか・・・我は一つだけ問う・・・。汝・・・心を入れ替え、善き神と成るか?」
スカアハは真剣な目で問いかける。ウルズはコクコクと頷き「なるなる!」叫んだ。
「もう悪いことは二度としません!みんなの役に立つ神様になります!だから許して!」
「・・・・・・・・・・・。」
スカアハは小さくため息をついた。すると急に銀の槍が光り、ウルズの胸に激痛が走った。
「ぎゃああああああああ!痛い痛い!胸が引き裂かれるううううううう!」
「・・・愚か者め・・・。謀りをもつなと言うたのに・・・・。」
銀の槍は輝きを増し、スカアハの瞳のように赤く燃え上がる。それは邪気を焼き払う聖火で、ウルズの歪んだ心を燃やしていった。
「熱いいいいいいいい!勘弁してくれえええええええ!」
「案ずることはない・・・神殺しはせぬ・・・・。しばしの間、地獄にて報いを受けるがよい。」
スカアハは悪魔達に目配せをする。すると悪魔達はコクリと頷き、ウルズを立たせて本の中に押し込もうとした。
「ぬおおおおお!この程度でやられるかああああああ!」
ウルズは自分で首を切り落とし、頭を飛ばしてスカアハに飛びかかる。しかしスカアハは冷静にウルズの顔を殴り飛ばし、本の中に叩きつけた。
「・・・お似合いの末路よな・・・。悪鬼ども、その身体も冥府へひったてい!」
悪魔達はペコペコと頭を下げ、ウルズの身体を掴んで本の中へと帰っていった。スカアハは本を拾い、そっとコウを撫でて天井を見上げた。
「・・・死者どもよ・・・悪しき神は去った。・・・もはや案ずることはない・・・。」
すると家の外から顔を覗かせていたトミーとジャムが、パタパタと走って来た。
「強えええええ!凄いっす!感動したっす!」
「・・・俺、こんなに興奮したの初めてです!弟子にして下さい!」
「・・・・・否・・・である・・・。」
スカアハはトミー達の横を通り抜け、頭を吹き飛ばされたダンタリオンを見つめた。そしてそっと膝をつき、吹き飛ばされた頭に手を当てた。
「・・・頭はなくとも息はある・・・。ソロモンの魔人なれば・・・時をおけば復活しよう。」
スカアハはスッと立ち上がり、ゾンビ達を呼んだ。そしてコウを手に乗せて二人を見つめた。
「・・・我・・・宝玉の中に戻らん・・・。事後は任せる・・・・。」
「え?・・・ああ!分かりました。」
「お疲れ様でした、師匠!」
トミーはコウを受け取り、ジャムは直角に腰を曲げて頭を下げる。スカアハ目を閉じ、黒い風を纏ってコスモリングの中へ戻っていった。それと入れ替わるようにダナエが現れ、「ほえ?」と変な声を出してパチパチとまばたきをした。
「よかった!ダナエちゃん!」
「無事だったんだねえ!」
トミーとジャムはダナエの手を取って喜び、ピョンピョンと跳びはねた。
「・・・ああ!もしかして、またプッチーの神様が?」
「そうだよ!めっちゃ美人な強い神様が助けてくれたんだ!」
「あの病気の神は地獄へ連れて行かれたよ。」
「そうなんだ・・・。またプッチーに助けられたんだ・・・・。」
そう呟いてコスモリングを見つめるが、ふと顔を上げてゾンビ達に詰め寄った。
「コウは!コウは無事なの!」
そう叫んでガクガクとトミーの首を揺さぶる。
「ぐぐぐ、ごごごごご・・・・。コウなら・・・俺の手の上に・・・・。」
「手の上?・・・ああ、コウ!良かった〜・・・・・。」
ダナエはギュッとコウを抱き寄せ、頬ずりをして涙を浮かべる。コウはまだ目を覚まさないが、ダナエの声に応えるように小さく羽が動いていた。するとダナエの後ろから、誰かが肩を叩いてきた。
「きゃあ!誰?」
「儂じゃよ。お互い事なきを得てよかった。」
「魔人さん・・・。」
ダンタリオンの顔は、その半分ほどが復活していた。まだ完全ではないせいか、ふらふらと貧血のようにゆらついている。
「お嬢さんと、その妖精には礼を言わんとな。おかげであの厄病神から解放された。」
「そんな・・・私達は何も・・・・、」
ダナエがそう言いかけた時、穴の空いた天井から声が響いた。
「もしかして・・・・・あの病気の神を倒したんですか?」
ダナエ達が天井の穴を見上げると、そこには大勢の人がこちらを覗き込んでいた。鬼や獣人、妖精や妖怪。みんながじっとダナエ達を見つめている。
「あなた達は誰?」
ダナエが尋ねると、頭が二つある蛇の妖怪が答えた。
「ここは病の村です。あの病気の神が、自分の実験の為だけに造った村です。」
「ウルズの・・・・実験の為・・・?」
ダナエが問い返すと、蛇の妖怪はコクリと頷き、とんでもないことを言った。
「あいつ・・・・邪神の手下なんです。」
「・・・・・・えええええええええ!」
暮れかけた薄紫の空に、ダナエの声が響き渡った。


                    

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