ダナエの神話〜神樹の星〜 第六話 魚神パラパラ・ブブカ(2)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 16:46

『魚神 パラパラ・ブブカ』2


社の中は、生き物の腸のようにウネウネと曲がりくねっていた。回りの壁は小さく波打ち、エスカレーターのように立っているだけでも前に進んでいく。
「不思議な場所・・・。これって、もしかしてブブカの体内なのかしら?」
神様の中には、山や川と変わらないくらいの、大きな身体を持った者がいる。ましてや海王星という遠い星から来た神ならば、月や地球の常識を超えた身体を持っていてもおかしくはなかった。ダナエは危険を感じて、コスモリングから銀の槍を呼び出した。そして槍を構えて慎重に進んでいく。
「何があっても、コウだけは守らなきゃね。」
魔法の絹で包んだコウの繭を腰にぶら下げ、ダナエは奇妙な道を進んでいく。どこから光が来ているのは分からないが、社の中は外と変わらないくらい明るい。不思議に思いながら進んでいくと、ふわふわと宙を漂う妙な生き物がいた。
「あれは・・・・クラゲ?」
ダナエは槍を向け、ゆっくりとクラゲに近づいていく。クラゲは海蛍のように綺麗な光を放っていて、周りを明るく照らしていた。
「なるほど・・・このクラゲのおかげで明るいのね。」
そう呟いて回りを見渡すと、所々に光るクラゲが浮いていた。まるで海中を遊泳するように、ふわふわと気持ち良さそうに漂っていた。
「ほんとに不思議な場所ね・・・。他にも生き物がいそうだわ。」
光るクラゲの下を通って先を進んでいくと、床にはビッシリとフジツボが生えていた。
「まるで磯みたいね。きっと、この社の中は海の力が宿っているんだわ。」
フジツボの隙間から点々と岩が突き出ていて、ダナエは身軽にピョンピョンと跳んでいく。
そしてフジツボの群れの先に降り立つと、白い何かが道を塞いでいた。
「何かしらこれ?大きなイボがついて、ブニブニしてるけど・・・。」
槍でその白い何かを突いていると、突然大きな雄叫びが響いた。
「ヴォオオオオオオオォン!」
「きゃあ!な、何・・・・。」
ダナエは慌てて飛び退き、銀の槍を構える。すると道を塞いでいた白い何かが動き出し、蛇のようにニュルニュルと絡みついてきた。
「いやあ!気持ち悪い!」
慌てて槍を振り、白い触手のようなものを切り払う。するとまた雄叫びが響き、地震のように道が揺れた。
「さっきからプスプス痛いわ!人の身体を突くな!」
「え?え?誰・・・?」
白い触手はシュルシュルと縮み、そして大きなイカが姿を現わした。
「このガキんちょめ!人の足を切りおって!こうしてくれるわ!」
イカは口を開けて、真っ黒なイカ墨を飛ばしてきた。
「きゃあ!ちょっと、やめてよ!」
「何言ってるんだ!先に喧嘩を売ったのはそっちだろうが!許してほしいなら謝れ!」
イカは吸盤から鋭い爪を伸ばし、乱暴に襲いかかってきた。
「ちょ、ちょっと待って!謝るから!」
「むほおおおおい!謝るのが遅い!このまま喰ってやるわ!」
爪の付いた吸盤がニュルニュルと襲いかかってくる。ダナエは身軽にそれをかわし、槍で斬り落とした。
「えいッ!」
「痛ッ!」
「もういっちょ!」
「痛いッ!このガキ・・・。」
巨大なイカは顔を真っ赤にして怒り、口を開けて水流を放ってきた。しかしダナエは落ち着いた様子で金の髪を抜き、ふっと息を吹きかけた。すると金の髪は大きな袋に変わり、イカの水流を吸い込んでいった。
「返すわ!」
水でパンパンに膨れた袋を蹴り飛ばと、中に溜まっていた水が溢れ出し、巨大なイカを押し流そうとした。
「こしゃくな・・・・・・。」
イカは触手を盾にして水流を防ぎ、口の中から小さなイカをたくさん放ってきた。
「そおれ!そのガキんちょを食べ尽くしてやれい!」
小さなイカは一斉にダナエに襲いかかってきた。
「見た目は可愛いけど、悪い気を感じる。油断出来ないわね・・・・。」
ダナエはヒラリヒラリと小さなイカをかわし、槍を振って倒していく。
斬られたイカは水風船のようにパシャンと弾け、飛沫になって消えていった。
「中々やるな・・・。だがこれならどうだ!」
巨大なイカはダナエの隙をつき、彼女の左足を絡み取った。
「あ!」
「ふふふ。これでちょこまか逃げられまい?さあミニゲソ達。そいつを食らい尽くせ!」
小さなイカは、口を開けて一斉に襲いかかって来る。しかしダナエは慌てなかった。落ち着いて魔法を唱え、両手をクロスさせて頭上に掲げた。
「風よ風・・・・荒れ狂う怒りで、眩い閃光を解き放て!」
するとクロスさせた両手にバリバリと電気が溜まり、青白い光を放った。
「水の中の生き物なら、電気に弱いでしょ?ビリビリ感電しなさい!」
ダナエはクロスさせた両手を広げた。溜まっていた電気が行き場を失って暴れ出し、空気を切り裂いて稲光を発した。
「ウキュウウウウウウウウウウッ!」
小さなイカは一瞬にして全滅し、パチン!と弾けて水飛沫に変わる。そして巨大なイカも、触手を震わせてビリビリと感電していた。
「ぐばばばばばば!焼きゲゾになっちまううううううううう!」
イカは泡を吹き、白目を剥いて失神しそうになっていた。そして・・・それはダナエも同じだった。足に巻き付いたイカの触手から、ビリビリと電気が伝わってくる。
「きゃわわわわわわわわッ!し、しびれるウウウウウウウ!」
電撃の魔法はしばらく続き、ダナエとイカは失神寸前になって倒れ込んだ。
「・・・うきゅううう・・・・・・。」
「・・・ぐへええええ・・・・・・。」
ボクシングのダブルノックダウンのように、ダナエとイカは倒れたまま動かない。強烈な電気が神経を痺れさせ、立ち上がることさえ出来なかった。
「・・・ダメだ・・・やっぱり私は・・・・ドジだ・・・。」
「うむむ・・・・ここでトドメを刺せば俺の勝ちだ・・・・動け身体よ!」
巨大なイカは力を振り絞り、触手を動かして身体を起こした。そしてプスプスと煙を上げながら、ゆっくりとダナエに近づいていった。
「ぬふふ・・・俺の勝ちのようだな。ガキにしちゃよく頑張ったが、ここまでだ・・・。」
「・・・コウは・・・せめてコウだけは守らないと・・・・。」
ダナエは絹の袋を抱え、身を盾にして守る。巨大なイカは、吸盤の爪を伸ばしてギラリと光らせた。
「さあ・・・これで終わりだ!」
そう言って吸盤の爪を振り下ろそうとして、ピタリと動きを止めた。
「・・・なんだ?この懐かしい感じは・・・。まるで海に包まれているような・・・。」
巨大なイカは、懐かしい海の匂いを感じ取っていた。柔らかな潮風、荒々しい波、そして多くの生き物が遊泳する青い宇宙。イカは大きな目から涙を流し、おいおいと泣き始めた。
「な、何・・・?どうしたの・・・?」
「・・・分からない・・・。でも、お前から海の懐かしさを感じるんだ・・・。長い間ここに閉じ込められているから、つい懐かしくなって・・・・。」
イカの涙は溢れ、ドバドバと滝のように流れ出す。長い触手で拭っても、次から次へと溢れてくる。
「ここに閉じ込められてるって・・・どういうこと?」
ダナエは痺れる身体を起こし、膝をついて立ち上がった。イカは大きな口を開けて、金属を擦り合わせるような声で鳴いた。
「俺は・・・この辺りの海の主だったんだ・・・。でも、違う星からやってきた神のせいで、ずっとここに閉じ込められてる・・・。だから、海が恋しくて恋しくてたまらないんだ!」
ブルブルと顔を振ったせいで、ドバッと涙が飛び散る。ダナエはイカの方に近づき、その顔を覗き込んだ。
「違う星から来た神様って、もしかしてパラパラ・ブブカのこと?」
「・・・知ってるのか?」
イカは大きな目を見開き、驚いた表情で見つめる。
「うん。その神様のせいで、この辺り一帯は時空が歪んでいるの。だから外にいる村の人達が、自分の家に帰れないのよ。」
「ああ・・・陸までそうなってるのか・・・。俺も空間の歪に飲み込まれて、ここから出られなくなってるんだ・・・。ブブカをどうにかしない限り、海へ戻ることは出来ない・・・。
俺は・・・俺は・・・こんな所で一生を終えるのは嫌だあああああああん!」
「分かった!分かったから泣かないで!鼓膜が破れちゃう!」
イカの泣き声はダレスの超音波並みに強烈で、ダナエは耳を塞いで叫んだ。
「私はブブカの力を弱らせる為にここへ来たの!そうすれば、時空の歪みが無くなるでしょ?
だからもしよかったら、私に手をかしてくれない?」
すると巨大なイカはピタリと泣きやみ、「なんと?」と驚いた声を出した。
「ブブカの力を・・・弱らせると?」
「だって、そうしなきゃ誰も外へ出られないでしょ?ほら、その為にこんな危ない物まで持って来たんだから。」
ダナエは白い布服の内ポケットをゴソゴソと漁り、ガラスの棒を取り出した。
「見て、この中に緑の液体が入ってるでしょ?これは呪いがかかった細菌兵器なの。」
「な、なんとおおおお!細菌兵器ッ!何でそんな恐ろしい物を持っているんだ!」
「・・・ええっと、それには複雑な事情があって・・・・。でもとにかく、これを使ってブブカを弱らせるの!そうすれば、あなただって海へ戻れるでしょ?」
「・・・・ふうむ・・・。むむむ・・・・・。」
イカは触手で頭を掻いて、目を瞑って唸っている。そしてブルブルと頭を振り、「そんなに甘くない!」と叫んだ。
「いいか!ここへ入ったら最後、外へ出るどころか、ブブカの所へ辿り着くことも至難の業だ。
そう簡単に上手くはいかん!」
「どうして?私は社を通ってここへ来たんだから、出ることくらいは簡単じゃないの?」
「チッチッチ!分かっていないな。そんなことで外へ出られるのなら、俺がずっとこんな場所にいると思うか?」
触手を振って諭すように言われ、ダナエは腕を組んで首を傾げた。
「確かにそうね・・・・。」
「この場所はブブカの力のせいで、あちこちの空間が歪んでいるんだ。だから来た道を戻っても、決して出口には辿り着けない。」
「ああ、そういえば蛇の妖怪さんがそんなことを言ってたっけ・・・。」
「お前が今から来た道を戻ったとしても、空間の歪に飲み込まれてまったく違う場所へ出るだけだ。ここは・・・・誰も抜け出せない魚神の迷宮なんだ。」
「魚の・・・迷宮・・・?」
「そうだ。そしてその空間の歪みを消し去るにはブブカをどうにかしないといけないが、それも難しい・・・。だって、ブブカの所へ行こうとしても、歪みに飲まれてまた別の場所に迷い込むだけだからな。」
「そんな!それじゃどうしたらいいの・・・・?」
「さあな。そんなことが分かってりゃ、とっくに抜け出してるよ。」
イカは諦めの混じった顔でそっぽを向く。そして強く目を閉じ、何かに怯えるようにブルリと震えた。
「それにな、ブブカはすんごく強いんだ。ずっと前に、ここへ入ってきた腕自慢の鬼や悪魔がいたんだけど、あっさりとバラバラにされちまった。」
「・・へえ・・・そんなに強いんだ・・・。でもさ、それが本当なら、イカさんはブブカを見たことがあるってことでしょ?だったらブブカのいる場所も知ってるはずよね?よかったら案内してほしいんだけど。」
ダナエは期待に満ちた目で頼み込む。しかしイカは残念そうに頭を振った。
「無理だよ。ブブカのいる場所は知ってるけど、あの時はたまたま辿り着いただけなんだ。
空間の歪みは毎回別の場所へ飛ばされるから、どこへ出るか分からないんだよ。」
「そんな・・・それじゃあみんなここから出られないってことじゃない・・・。」
「だからそう言ってるだろ。まあ諦めるんだな。」
巨大なイカは興味も無さそうに言い、背中を向けて去ろうとした。しかしふとダナエの左手を見て、「うお!」と声を上げた。
「おい、お前!その腕輪は何だ?」
「何だって・・・・、プッチーだけど。」
「プッチー・・・・。」
ダナエはコスモリングを掲げてみせる。イカは目をキラキラさせながらダナエに近寄り、そっと触手を伸ばしてコスモリングに触れた。
「これだ・・・このプッチーから海の懐かしさを感じていたんだ。ああ・・・触れているだけで青い海が思い浮かぶ・・・。」
イカは恍惚として目を閉じる。まるで海の音と匂いを楽しむように、じっと自分の世界に浸っていた。
「おい、このプッチーとやらをくれないか?」
「ダメよ。これは大切なものだから。」
「うむむ・・・・。しかし、その腕輪からは大きな海の力を感じる。きっと特別な代物なんだろうな・・・。」
イカの言葉にダナエは頷き、二コリと笑ってコスモリングを撫でた。
「ここに青い宝石が三つあるでしょ?この中にはすごく強い神様が宿っているの。」
「強い神様が・・・?」
「うん、私も何度か助けられたんだ。悪い病気の神様だって、イチコロで倒すくらい強いのよ。」
「ほほう・・・。そんなに強いのか・・・。」
「それにね、この腕輪は海の力の結晶で出来ているの。きっとそのせいで、イカさんは海の懐かしさを感じたんじゃないかな?」
「なんとお!海の結晶!ああ・・・そうだ・・・この感じはまさに海そのものだ・・・。」
イカはまた涙を浮かべ、目を瞑って天を見上げる。そして奇妙な鳴き声で唸り、触手で腕組みをして考えていた。
「・・・ふむ。・・・よし、いいだろう!」
「何がいいの?」
「俺はお前に力をかしてやるぞ。」
「ほんとう!」
「ああ、海の結晶で出来たその腕輪・・・・そんなものを身に着けているということは、きっとタダ者じゃないんだろう。」
「・・・ええっと、そうでもないけどね。以外と普通の妖精よ、私。」
「いいや、俺の目に狂いは無い!お前はきっと、何か光るものを持っているに違いない。
それにな、その腕輪に宿る神様に力をかしてもらえば、ブブカだって何とか出来るかもしれない。」
「じゃあ、ほんとうに力をかしてくれるのね?」
「だからそう言ってるだろう。俺だって、出来ればこんな所からオサラバしたいんだ。だから二人で協力して、ブブカの奴をぶっ飛ばしてやろう!」
イカは長い触手を持ち上げて気合を入れる。ダナエは手を叩いて喜び、触手を握って笑いかけた。
「私はダナエ!月から来た妖精よ。よろしくね。」
「月・・・?なんだそれは?」
「ここからずっと遠い所にある星よ。ねえ、あなたの名前は何ていうの?」
握った触手を振って尋ねると、イカは真っすぐにダナエを見つめて答えた。
「俺はチュルック、この海の主さ。・・・・今は違うけど・・・。」
「じゃあチュルック。これから私達は友達ね。」
「おお・・・友達。懐かしい響き・・・。昔は俺にも友達がいたが、ブブカに喰われて死んじまったよ・・・。」
チュルックは遠い目で壁を見つめる。そして涙をすすり、ダナエの手を離した。
「俺と同じくらい大きなタコでな。いっつも喧嘩ばかりしてたけど、今思えばいい奴だった。ブブカさえ来なけりゃ、今でも俺達は・・・・。」
「辛いわね・・・友達を失うなんて。」
「ああ・・・ほんとうに・・・。でもダナエが新しい友達になってくれるなら、ちょっとは元気が出るかな。」
「うん!もうチュルックは独りじゃないよ。だから力を合わせて、ここから出よう!」
チュルックは大きな頭を動かして頷き、道の奥を睨んだ。
「この先にも空間の歪がある。どこへ出るか分からないけど、とりあえず行ってみるか?」
「そうね。じっとしてても始まらないから、行ってみましょう。」
ダナエは銀の槍を拾い、チュルックの前に立って歩き出した。そしてしばらく先へ進むと、目の前の空間が波打つように歪み出した。
「これが空間の歪だ。ここを抜けると、また違う道へ出るはずだ。」
「・・・ちょっと不気味ね。でも行くしかないわ。えい!」
ダナエは迷わず空間の歪に飛び込み、チュルックもその後を追った。空間の歪に飛び込んだダナエは、一瞬風が駆け抜けていくのを感じた。そして次の瞬間には、さっきとはまったく違う場所に立っていた。
「わあ・・・・何ここ?変な景色・・・。」
ダナエが出て来た場所は、色とりどりの貝が並ぶカラフルな空間だった。
「ああ、ここへ出たか。」
チュルックが長い触手を動かしながら、カラフルな貝に触れた。
「知ってる場所?」
「ここは見ての通り、たくさんの貝が住んでいる場所なんだ。まあ特に危険はないよ。
・・・・・・あいつさえいなければ。」
「あいつ?あいつっていったい・・・・・、」
ダナエが言いかけた時、突然貝が割れる音が響いた。そしてシャキシャキと鋭い音がして、何かの気配が近づいて来た。
「何・・・?誰かいるの?」
息を飲んで槍を構えると、チュルックは「危ない!」といって触手で包み込んだ。
次の瞬間、「シャキーン!」と鋭い音がして、チュルックの触手は斬り落とされていた。
「ぎゃああああ!痛い!」
「チュルック!どうしたの!」
ダナエは心配そうにチュルックに駆け寄る。その時後ろから殺気を感じて、咄嗟にしゃがみ込んだ。すると次の瞬間、鋭いハサミが頭上を駆け抜けていった。小さな風圧が金色の髪を揺らし、ダナエは槍を構えて振り返った。
「誰!」
「・・・・・・・・・。」
ダナエの目の前にいたのは、見上げるほど巨大なカニだった。
「な、何この大きなカニは・・・・。」
巨大なカニは、シャキシャキとハサミを鳴らした。そのハサミは鋭い刀のように研ぎ澄まされていて、怪しく光っている。そして目玉はカタツムリのように飛び出し、黒緑の外殻は鉄のような重厚さを感じさせた。
「まずい!こいつは千年ガザミだ!」
「千年ガザミ?」
「ああ、ブブカは空間だけじゃなくて時間も歪めるから、この場所には時間の歪もあるんだよ。
こいつはそこを通って、千年分の成長をしたカニだ。ほんとうなら有り得ないことだけど、ブブカの力は俺達の常識が通用しない。だからこんな化け物まで出て来るんだ。」
「なんか・・・ますます危険な相手ね、ブブカって。」
千年ガザミはシャキシャキとハサミを鳴らし、奇声を上げて襲いかかってきた。
「伏せろ!」
チュルックは触手でダナエを抑え込む。そしてまたしても触手を切られてしまった。
「ぎゃあああああ!痛ってなあこの野郎!」
チュルックは口からミニゲソを吐いて応戦する。しかし千年ガザミの固い殻には、ミニゲゾの攻撃は通用しなかった。
「ジュウウウウウウウ・・・・シャアアアアアア!」
千年ガザミはハサミを振り回してミニゲソを叩き潰していく。そして口から泡を吹き出し、あっという間にミニゲソを全滅させてしまった。
「ダナエ!あの泡に触れるなよ!一瞬で身体が溶かされちまうぞ!」
チュルックはイカ墨を吐いて千年ガザミの泡を相殺し、長い触手を巻きつけて動きを封じた。
「今だ!その槍でトドメを刺せ!」
「わ、分かった!」
ダナエは立ち上がり、槍を構えて高く飛び上がった。そして千年ガザミの殻の隙間を狙い、思い切り槍を突き刺した。
「てやああああああ!」
銀の槍はハサミの関節に突き刺さり、千年ガザミは苦しそうにもがいた。
「あなたもビリビリ感電しなさい!」
ダナエは両手をクロスさせ、槍を通じて電気を放った。千年ガザミはバリバリと感電し、泡を吹いて動かなくなった。
「やった!倒した!チュルック、もう安心して・・・・・、」
そう言って振り返った時、思いもよらない光景を見て絶句した。なんと前年ガザミはもう一匹いて、チュルックの頭を真っ二つにしていた。
「・・・ああ・・・チュルックううううううう!」
ダナエは槍を握って駆け寄った。
「この!チュルックから離れなさい!」
そしてもう一度両手をクロスさせ、電気を放って千年ガザミを感電させた。激しい電流でガザミの身体は麻痺し、ハサミを下ろして動かなくなった。ダナエは槍を置いてチュルックの傍に膝をつき、必死に呼びかけた。
「チュルック!チュルック!しっかりして!」
「・・・ああ・・・・・ダナ・・・エ・・・。力が・・・はいらな・・・い・・・。」
「ダメよ死んだら!私が治してあげるから!」
ダナエは髪を三本抜き、水の精霊に呼びかけた。
「命の水よ、お願い!チュルックを助けてあげて!」
手に持った金色の髪にそっと息を吹きかけると、パッと綺麗な水に変わってチュルックに降り注いだ。しかし真っ二つにされた頭は元に戻らす、チュルックはどんどん力を失っていった。
「ダメだ・・・私の力じゃ・・・。コウなら助けられるかもしれないのに・・・。」
コウは傷や病気を癒す魔法を得意としていた。そしてこんな時はいつも魔法を使って怪我を治してくれるのだが、彼はまだ目を覚ます気配はなかった。
「ああ・・・どうしよう・・・チュルックが死んじゃう・・・・。」
ダナエは目にいっぱいに涙を溜め、チュルックを揺さぶる。
「チュルック!ねえ・・・しっかしりて・・・。」
「・・・ダナ・・・エ・・・・。せっかく・・・・ともだちに・・・なれたのに・・・。
もう・・・おわか・・・れ・・・・・みたい・・・・・だ・・・・。」
「いや!ダメだよ!せっかく友達になったんだから、お別れなんてダメ!チュルック・・・。」
「・・・・ダナ・・・エ・・・ともだちに・・・・なって・・くれて・・・あり・・がとう。
・・・さよ・・う・・な・・・・・・・・・・。」
チュルックは大きな目を開いたまま、ピクリとも動かなくなってしまった。
「そんな・・・チュルック!チュルックううう!うわああああああああん!」
ダナエはチュルックの触手を握って項垂れる。涙を流し、鼻水を垂らし、顔を赤くしてわんわんと泣き叫んだ。
そして・・・ダナエの後ろでは千年ガザミが動き出していた。痺れが治まり、力を取り戻して大きく鳴いた。
「シャアアアアアア!」
「ああ・・・・もう動き出した・・・・。」
ダナエは槍を掴み、涙を拭いて叫んだ。
「よくも私の友達を・・・。あんた達、焼きカニにしてやるわ!」
ダナエの金色の髪が薄く光り、わさわさと動き出す。槍を握りしめ、千年ガザミに向かって駆け出そうとした。しかしその時、背後で何かが動く気配を感じた。槍を構えて振り返ると、目の前に巨大なハサミが迫っていた。
「きゃあッ!」
咄嗟に槍を持ち上げて身を守ったが、強烈なパワーに弾き飛ばされてしまった。その衝撃で銀の槍を落としてしまい、腰に着けていた絹の袋も宙に投げ出されてしまった。
「コウ!」
咄嗟に走り出し、コウを包んだ袋を拾おうとする。しかしまた後ろから殺気を感じて、咄嗟にしゃがみ込んだ。
「シャアアアアア!」
ハサミが頭上を駆け抜けていく。立ち上がって逃げようとすると、目の前にはもう一匹のガザミがいた。
「・・ああ・・・・そんな・・・・。」
ダナエは逃げ場を失い、よろよろと後ずさって壁にぶつかった。千年ガザミはハサミを鳴らしてダナエを追い詰め、カタツムリのような目玉をギョロっと動かした。
「この!負けるもんか!」
ダナエは大きく息を吸い、両手を頭上に掲げて叫んだ。
「荒くれ者の火の精霊!凶暴なカニを焼き払って・・・・、」
しかし魔法を唱え終える前に、ガザミのハサミがダナエを叩き飛ばした。
「きゃあッ!」
ドシン!と大きな音が響き、ダナエは壁にめり込む勢いでぶつかる。そして力をなくし、ズルズルと壁にもたれて倒れていった。
「・・・うう・・・・ああ・・・・・・・。」
ダナエは半分目を閉じ、千年ガザミのハサミの音を聞いていた。シャキシャキと鋭い音が迫り、固くて冷たいハサミが自分の首に当てられる。
《ああ・・・また・・・何も出来なかった・・・。ダメだなあ・・・私は・・・。》
チュルックを助けられなかったこと。自分が死にそうになっていること。ダナエは情けなくなり、思わずポロリと涙をこぼした。
《ここで私が死んだら・・・みんな村から出られなくなっちゃう・・・。それに、コウだって守れない・・・。プッチーに宿る神様・・・また力をかして。悔しいけど・・・私じゃみんなを助けられない・・・。お願いだから・・・みんなを助けて!》
ダナエは強く願い、コスモリングの神を呼び出そうとした。しかしコスモリングはウンともスンともいわず、ダナエの願いに応えることはなかった。
《なんで?どうして出て来てくれないの?みんが危ないのに・・・。早く出て来て!》
もう一度強く呼びかけるが、やはりコスモリングは何の反応も示さない。そしてダナエの首に当てられたハサミがゆっくりと動き、その命を奪おうとした。
《ああ・・・もうダメだ・・・。みんな、ごめんなさい・・・。私は何も出来なかった・・・。》
ダナエは目を閉じ、みんなの顔を思い浮かべた。コウの顔、父と母の顔、月の女神の顔、そしてトミーとジャム、ダンタリオンや村人の顔を。
ハサミはグッと首に食い込み、今にもダナエの命を絶とうとしている。ダナエは悔しい思いで涙を流し、唇から血が出るほど歯を食いしばった。
そして・・・・シュン!と鋭い音がした。
《ああ・・・終わった・・・。私・・・死んじゃった・・・・。》
ダナエは力を抜き、天に召される瞬間を待った。じっと目を閉じ、愛しい者達の顔を思い浮かべながら死を受け入れた。しかし・・・・いくら待っても天から迎えは来なかった。それどころか、まだ胸が鼓動を刻んでいるのを感じて、ゆっくりと首に手を当ててみた。
「・・・・あれ?首が・・・・繋がってる・・・・。」
不思議に思って目を開けると、千年ガザミが倒れていた。固い殻をバラバラに切り刻まれ、ダナエのすぐ横に散らばっていた。
「きゃッ!な・・・何・・・?どうしてこんな・・・・。」
するとまたシュン!と鋭い音が響き、もう一匹のガザミもバラバラに切り刻まれてしまった。
ハサミや足がボトボトと地面に落ち、プラモデルのパーツのように散らばっていく。
「そんな!あの硬いカニの殻がバラバラになっちゃうなんて・・・いったい何が起こったの?」
震える瞳でバラバラになった千年ガザミを見つめていると、突然誰かが抱きついてきた。
「きゃあ!何!」
ビックリして手足をばたつかせ、顔にしがみつく何かを振りほどいた。
「ちょっと!いったい誰が・・・・・、あ!・・・あああ!」
「よ!おはようさん。」
ダナエの顔に抱きついて来た者。それは繭から目を覚ましたコウだった。
「ああ・・・コウ・・・。コウおおおおお!」
ダナエは目にいっぱい涙を溜め、力いっぱいコウを抱きしめた。
「コウ!よかった!目を覚ましてくれた!」
さっきまでの絶望はどこかへ吹き飛び、嬉しさと喜びだけが胸を満たしていた。何度も何度も名前を呼び、しっかりと抱きしめたままピョンピョンと跳びはねた。
「ちょっとちょっと!力入れ過ぎ!苦しいよ。」
「ああ、ごめん。だって嬉しいんだもん!」
ダナエはコウを抱え、ニコニコと見つめる。そして妙な違和感を覚え、小さく首を傾げた。
「あれ?なんか・・・前と変わってない?」
「うん。なんか身体に力が溢れてくるんだ。背だって伸びたしね。」
コウの言う通り、確かに背が伸びていた。そして身体つきも大人びていて、細い腕が少しだけ逞しくなっていた。羽も一回り大きく成長し、自信満々に胸を張っている。
「へえ・・・いきなり大人びちゃったねえ・・・・・。」
「それだけじゃないぜ!魔法だって強力になったんだ、ほれ。」
そう言って千年ガザミの方を指差し、ニヤリと笑った。
「あれってコウがやったの?」
「ああ、風の魔法を使ってね。もうカマイタチなんてレベルじゃないぜ!」
「・・・すごい・・・。じゃあコウが私を助けてくれたんだね?」
「そうだよ。繭の中でもダナエの声が聞こえてたからな。こりゃヤバイと思った時に、進化が終わったんだ。間一髪だったよな。」
コウは腕を組んで誇らしそうに笑った。
「まさかコウに助けられる日が来るなんて・・・ちょっぴり感動・・・。」
ダナエは瞳を潤ませ、グリグリとコウに頬ずりをした。
「何言ってんだよ。今までだって、何度も助けたことはあっただろ?」
コウは呆れたように呟き、ピンとデコピンを放った。そしてダナエの後ろを見つめ、「お!」と声を上げた。
「何とか復活したみたいだな。よかったよかった!」
ダナエは首を傾げ、何のことかと思って振り向いた。するとそこには、頭に切り傷の入ったチュルックがこちらを見つめていた。
「チュルック!」
ダナエはコウを抱えたままチュルックに駆け寄り、満面の笑みをみせた。
「よかった!てっきり死んじゃったのかと思ってた・・・。」
グスリと鼻を鳴らし、目尻を拭って俯いた。
「いやあ、危ないところだったよ。そこの妖精が傷を治してくれなきゃ、俺は確実にあの世行きだったな。」
そう言って大きく笑い、触手を伸ばしてコウの頭を撫でた。
「繭から出て来た時さ、このイカが真っ先に目に入ったんだよ。近づいてみるとまだ息があったから、水の魔法を使って治してやったんだ。」
「へえ・・・すごい。あの傷を治しちゃうなんて・・・。」
「俺もビックリだよ。あのまま死ぬもんだと覚悟してたのに。ほんと、何てお礼を言ったらいいか・・・。」
チュルックは大きな頭を縮ませて、ヘコヘコと畏まった。
「いいって、いいって!あんただってダナエを助けてくれたんだから、これであ合いこだよ。」
コウはビシっと親指を立て、ニコリと微笑んだ。
「さて、こんなことばっかり言い合ってても仕方がない。何とかこのへんてこりんな道を抜けて、ブブカとかいう神様の所に行かなきゃいけないんだろ?」
「そうなの。でもどうすれば辿り着けるのか分からなくて・・・・・。」
ダナエは困った顔で俯き、唇を尖らせて道の奥を見つめた。
「やっかいな場所だよな。どこに出るか分からないなんて。でももしかしたら、なんとかなるかもしれないぜ。」
コウはニヤリと笑い、宙に舞い上がった。
「おいイカ。」
「イカじゃない。チュルックだ。」
「そうか、じゃあチュルック。あのちっこいイカを出してくれよ。」
「ミニゲゾを?別にいいけど・・・どうしてだ?」
「いいから、いいから、さっさと出す。」
コウはチュルックの頭をポンと叩いた。
「まあいいけど・・・・。」
チュルックは口を開け、ミニゲソ達をばら撒いた。するとコウは目を閉じて魔法を唱え、パっと両手を広げた。
「虫の精霊!丈夫な白い糸をかしてくれ!」
そう叫ぶと、コウの指からシュルシュルと細い糸が伸びていき、ミニゲソ達にくっ付いた。
「これは蚕の糸さ。丈夫でよく伸びるんだ。そしてこの糸をチビイカに結んで解き放てば、それを辿ってブブカの所まで辿り着けるかもしれないだろ?」
「ああ!なるほど!」
ダナエは手を叩いて頷き、チュルックも「ほほう」と感心した。
「それじゃチュルック。チビイカを解き放ってくれ。」
「よし来た!お前達、ブブカを見つけ出してこい!もしみつけたら、この糸を引っ張って合図するんだ。」
ミニゲソ達は小さな触手を上げて頷き、バラバラと飛び散っていった。
「さて、あとはここで待つだけだな。」
コウはダナエの肩に座り、じっと道の奥を見つめた。ダナエは長い髪を揺らして腰を下ろし、腕の中にコウを抱き寄せた。
「あの小さなイカさん達、ちゃんとブブカを見つけてくれるかな?」
「さあな、でもこれしか方法はないし、今は待つだけさ。」
コウは肩を竦めて笑い、そして何かに気づいて回りを見渡した。
「あれ?あのゾンビ達は?」
「ああ、実はね・・・、ジャムが海に落っこちて・・・・。」
ゾンビ達のことを説明すると、コウは腹を抱えて笑っていた。
「あははは!やっぱりドジな奴!」
「もう、笑ったら可哀想よ。トミーはジャムを助けて、きっと後を追って来てくれるわ。」
ダナエは膝を立てて壁にもたれ、空間が歪む道の奥を睨んだ。三人はじっと黙ってミニゲソ達の合図を待っていた。いつ糸が動くかと目を凝らし、ピリピリと緊張が張り詰める。
・・・・・そして、しばらく時間が経った頃に、ピクピクと糸が動いた。
「おお!合図が来たぞ!」
「ほんとだ!」
ダナエは興奮して立ち上がり、じっと糸の先を見つめた。
「これを辿っていけば、ブブカの所へ行けるのね・・・。」
銀の槍を握りしめ、瞳に希望を映す。チュルックは触手を持ち上げて糸の先を指した。
「早く行かないと、ミニゲソ達とは別の場所に出てしまうぞ。空間の歪は、時間が経つと出る場所が変わるからな。」
「うん、そうだね。それじゃあブブカの所まで行こう!みんな気を付けるのよ!」
「お前が一番心配なんだけどな・・・。」
気合を入れるダナエに、コウがため息混じりの呟きを返す。三人は空間の歪に向かい、ピクピクと揺れる糸を掴んで歪に飛び込んだ。
三人の周りを風が駆け抜け、次の瞬間には別の場所に出ていた。
「ええっと・・・糸は向こうに続いてるな。行こう!」
合図を送る糸に向かって駆け出すと、また千年ガザミが出て来た。
「うわあ!こんな所にもいやがった!」
チュルックは怯えて足を止める。
「大丈夫だ!こんな甲殻類なんて怖かない!」
コウは羽を動かし、素早く呪文を唱えて真空の刃を放った。逆巻く風刃が千年ガザミを分解し、三人はさらに奥へ走っていく。そしてまた空間の歪に飛び込んだ。
そんなことを三回ほど繰り返していると、今までとは明らかに違う場所に出た。
「ここは・・・・・・。」
ダナエは不思議そうに辺りを見回した。ウネウネとうねった道は消え、岩で囲まれた広い洞窟のような場所だった。数匹の光るクラゲが漂い、辺りを薄い青に照らしている。そしてその奥にはさらに道が続いていて、ピクピクと糸が動いていた。
「この先だ。早く行こう!」
三人は駆け出し、洞窟の奥へ向かう。すると合図を送っていた糸はピタリと動きを止め、スルスルと地面に落ちていった。
「・・・これは・・・どこかで切れたのか?」
コウは小さな手を動かして糸を手繰り寄せる。すると切れた糸の先端に、ボロボロの白い布が付いていた。
「なんだこりゃ?」
手に取って不思議そうに見つめていると、ダナエがサッと横から奪い取った。
「これって・・・トミー達にあげた包帯だわ・・・。」
「何だって!」
コウは驚いて顔を寄せ、じっと睨んだ。
「・・・ほんとだな。確かにダナエがあげた包帯だ。でもどうしてあいつらの包帯がくっ付いてるんだ・・・?」
二人が首を傾げていると、チュルックが触手を動かして洞窟の奥を指した。
「おい・・・何か来るぞ・・・。」
ダナエとコウは、じっと洞窟の奥を睨んだ。すると眩く光る何かが近づいて来て、ふわりと三人の頭上に舞い上がった。
「あれは・・・・・。」
ダナエは驚いて声を上げる。三人の頭上に浮かんでいるのは、ピカピカと光るクラゲだった。
しかしその身体は千年ガザミと同じくらいに巨大で、長い触手に鋭い針が付いていた。
「こいつはきっと、時間の歪を通ったクラゲだ。千年ガザミと一緒で、有り得ないほど成長してるんだよ!」
チュルックは長い触手を伸ばして叫ぶ。ダナエは銀の槍を構えて警戒し、コウは宙に舞い上がって魔法を唱える準備をした。
「かかって来るなら来い!お前もバラバラにしてやるぞ!」
しかしダナエは何かに気づいてコウを止めた。
「待って!クラゲの中に何かいる!」
ピカピカと透き通るクラゲの中に、人影が見えた。それも二人分・・・。
ダナエはもしやと思い、目を細めてじっと見つめた。
「あれは・・・・・トミーとジャムだわ!」
「何だってええええ!」
二人は驚いて固まり、クラゲの中のトミーとジャムを見つめた。
「どうしてクラゲの中にいるんだ・・・?」
「さあ・・・?海へ落ちたはずなのに・・・。」
二人が疑問に思っていると、チュルックが触手を動かして答えた。
「ここへ入る方法は、社を通るだけじゃないんだ。社の周りにはいくつか空間の歪があって、俺もそこを通ってここへ迷い込んだんだ。」
「なるほど・・・あいつらはその歪に迷い込んだってことか・・・。」
コウが納得していると、巨大なクラゲは触手の針を飛ばしてきた。
「危ない!」
咄嗟にチュルックが触手で叩き落とすが、何本かの針が刺さって叫び声を上げた。
「痛いッ!くそ・・・。」
慌てて針を抜こうとするが、急に身体が痺れて動けなくなってしまった。
「・・・まずい・・・この針・・・・毒がある・・・ぞ・・・・。」
「何だって!」
コウはチュルックに飛び寄り、魔法を唱えて毒を消そうとする。しかしクラゲは長い触手を伸ばして、コウを巻き取ってしまった。
「うわああああああ!」
「コウ!」
ダナエは魔法を唱え、一番強力な火の魔法を放とうとする。しかしコウは首を振って「止めろ!」と叫んだ。
「そんなことしたら、ゾンビまで一緒に燃えちまう!アンデッドは火に弱いんだから!」
「ああ・・・そうだった・・・。でもどうしたら・・・。」
ダナエは槍を握ってオロオロとする。頼りのコスモリングは力をかしてくれないし、パワーアップしたコウは敵に掴まっているし、どうにも成す術がなかった。
するとチュルックはミニゲソをばら撒き、ダナエに向かって叫んだ。
「おい妖精!またあの糸を出してくれ!こいつらにくっ付けるんだ!」
コウは身をよじって羽を動かし、スパッと触手を斬り落とした。そして虫の精霊に働きかけ、蚕の糸を放つ。
「ここは俺に任せろ!お前達は糸を辿ってブブカの所へ行くんだ!」
チュルックはイカ墨を吐き、クラゲを弾き飛ばした。
「でもチュルック一人じゃ・・・。」
「みんなやられたら、誰がブブカの所へ行くんだよ!俺はいいから糸を辿って先へ行け!」
チュルックはミニゲソ達に命令し、洞窟の奥へ解き放った。
ダナエは迷っていた。チュルックを一人にしていいのか?それにトミーとジャムを見捨ててもいいのか?困った顔で眉を寄せ、槍を握る手に汗が滲んでいた。
「いいから行けダナエ!俺もここに残るから!」
「コウ・・・。」
「このゾンビ達だって、一応俺達の仲間だしな。それにチュルックだって、お前の友達なんだろ?だったら俺の友達も同然さ。」
コウはニコリと笑い、迫りくるクラゲの触手を羽で斬りおとした。
「・・・分かった。でも絶対に無事でいてよ!」
「そりゃこっちのセリフだ。いざとなったら、プッチーの神様がお前を助けてくれるさ。」
「・・・・・・・・・。」
コウは知らない。コスモリングがダナエの声に反応しないことを。しかしダナエはそのことは言わず、強く頷いて洞窟の奥に走って行った。
「コウ!みんなを守ってね!私は必ずブブカの力を弱めてくるから!」
「おう!頼んだぞ!」
ダナエは糸を掴んで走っていく。そのうちの一本がピクピクと揺れ、合図を送ってきた。
「もう合図が来た。きっとブブカが近くにいるんだ・・・。」
ダナエは槍を握りしめ、洞窟の奥にある歪にピョンと飛び込んだ。
「頼むぞダナエ・・・。」
コウとチュルック、そして巨大なクラゲとの戦闘が始まった。

 

                     (つづく)

 

 

 

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