ダナエの神話〜神樹の星〜 第六話 魚神パラパラ・ブブカ(3)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 16:51
『魚神 パラパラ・ブブカ』3


ダナエは糸を手繰って空間の歪を飛び抜け、また別の場所に出た。今度は潮の香りがする薄暗い洞窟で、辺りを警戒しながら走って行った。
「なんだか異様な気配を感じるわ・・・。きっと、これがブブカの気なんだ・・・。」
奇妙な気配が辺りを満たしている。そして洞窟の奥からまた巨大なクラゲが現れ、ダナエに襲いかかってきた。
「そう何度もやられたりしないわ!私だってやる時はやるんだから!」
ダナエは両手を掲げ、火の精霊に働きかけた。
「荒くれ者の火の精霊!私の敵を灰に変えて!」
ダナエの願いに応えて、空中を漂う火の精霊が集まった。それは恐ろしい猛禽の姿に変わり、燃え盛る翼を広げてクラゲに飛びかかっていった。
「行けええええええ!」
炎の猛禽と巨大なクラゲがぶつかり、爆音を轟かせて火柱が上がる。熱風がダナエの方にも押し寄せ、金色の長い髪が激しく揺れる。
「・・・・・・・・・・・。」
ダナエは腕で顔を覆い、じっと様子を窺った。巨大なクラゲは跡かたもなく消し飛んでいて、小さな火が辺りに散らばっていた。
「よし!」
ガッツポーズをして先へ進むと、今度は大量の千年ガザミが襲いかかってきた。
「きっとブブカの仕業ね。この先へ進ませないようにしているんだわ。」
ダナエは高く飛び上がり、千年ガザミの頭を踏み台にしてピョンピョンと跳びはねていく。
「へへ〜んだ!そんな鈍間じゃ捕まらないよ!」
身軽にジャンプして地面に着地し、糸の先にある空間の歪に飛びこむ。すると今までで一番強い風が吹いて、思わず目を瞑った。
「・・・・・・・・・・・・。」
グワン!と空間が歪む感触があり、次の瞬間には真っ暗な部屋へ投げ出されていた。
「きゃああああああ!」
握っていた糸がプチンと切れ、思わずバランスを崩す。しかしクルリと回転して見事に着地し、槍を握って回りを見渡した。そして足元に妙な感触を覚えて触れてみると、じっとりと濡れていた。
「これはミニゲソが弾けた跡ね・・・。」
ダナエは真っ暗な部屋を見上げ、「あ!」と声を上げた。暗い闇の中に、まるで星のような小さな光があった。
「綺麗・・・・。」
プラネタリウムのようなその光景に見入っていると、突然ドシン!と床が揺れた。
「何!」
槍を構えて警戒していると、暗い部屋の中に銀河の渦が浮かび上がった。宝石を散りばめたような美しい渦模様が煌めき、まるで宇宙に立っているような錯覚に襲われた。
「すごい・・・。でも、これは幻ね・・・。」
星の光はダナエの足元にも浮かんでいて、そっと膝をついて手を触れた。そこには石のような硬さと冷たさがあり、ザラザラとした荒い感触があった。
「いくら幻でも、ここまでリアルに見せるなんて・・・。きっとブブカの仕業ね。」
ダナエは気合を入れ、ギュッと槍を握って辺りの気配を窺う。すると天井に一際大きな星が浮かび、ビュンと頭上を飛び抜けていった。
「今のは・・・・。」
大きな星はグルグルと飛び回り、ゆっくりとダナエの前に降りてきた。
「私はこの星を知ってるわ。月からこの星へ来る途中で見たもの。」
それは深い青をした、なめらかな色合いの美しい星だった。もし青い真珠があったら、こんな模様になるのではないかと思うくらい、綺麗な青色をしていた。
「これは海王星ね。ブブカがやって来た星だわ・・・。」
ダナエの前に浮かぶ海王星は、ブルブルと震えて激しく振動する。そして部屋を揺らして大きな力を解き放った。
「きゃああああああ!」
強い風が吹き、砂嵐のように小さな粒子が飛んでくる。少し目を開けて見てみると、海王星はサラサラと溶けてその形を変えようとしていた。
「いよいよおでましね・・・。」
ダナエはゴクリと唾を飲み、銀の槍を構える。竜巻のような砂嵐の中で、海王星はニョキニョキとヒレを伸ばしていた。ダナエはじっとそれを見つめ、恐怖を感じてジリジリと後ずさった。
「・・・・・パラパラ・・・パララララ・・・・。」
低い歌声が聞こえ、砂嵐は高く舞い上がった。そしてその中から、一つ目の大きな魚が姿を現わした。
「パラパラ・・・ラララ・・・・パララララ・・・・・。」
「これが・・・パラパラ・ブブカ・・・・。」
パラパラ・ブブカは、まるでクジラのような巨体をしていた。その身体は海王星のような美しい青色をしていて、額に大きな目が一つ、その下には小さな目が二つあった。そして空中を遊泳するようにゆらゆらと漂い、分厚い唇を動かしてダナエに話しかけてきた。
「私は海王星より来たる、ブブカという者・・・。ここは私の家、私の住処、誰も立ち入ることは許さない・・・。」
ダナエはブブカの大きさに圧倒され、小さく息を飲んだ。
「私は月からやって来た妖精のダナエよ。あなたが時空を歪めたせいで、外の人達は困ってるわ。どうか時空を元に戻して、村の人達が外へ出られるようにしてあげて。」
ダナエは真っすぐにブブカを見つめて言った。するとブブカは大きな背びれを動かして、怒るように叫んだ。
「この海、この地は私のものだ!誰にも指図される覚えはない。」
「そんなことないわ!この場所は誰のものでもない。あなたが勝手なことをしたら、みんなが迷惑するのよ。だからお願い、時空の歪みを消し去って。」
「・・・・・・・・・・・。」
ブブカは尻尾を振り、高く舞い上がった。プラネタリウムの部屋が真っ暗になり、そして海の景色へと変わった。
「この海は、私の住処として最適だ。もっともっと時空を歪めて、私の故郷と同じような世界にする。この星の者達など、知ったことではない!」
「じゃあ聞くけど、どうしてこの星へやって来たの?そんなに故郷が恋しいなら、海王星に帰ればいいじゃない?」
そう言うと、ブブカはダナエの目の前に降りてきて睨んだ。
「もはやあの星に住むことは出来ない。光の壁の波が押し寄せ、空想と現実が歪み始めている。
悪しき神のせいで、居心地のよかったあの星は住めなくなってしまった。」
「光の壁の波が押し寄せる?いったいどういうこと?」
「空想と現実を遮る壁に、ヒビが入り始めている。この星から来たる邪神の企みにより、光の壁に穴が開いてしまった。その波が私の星を襲い、空想の世界に留まることが出来なくなった。
だからこの星へやって来た。」
「邪神・・・。また邪神のせいで・・・・。」
「あの悪しき神は、禁断の魔術を用いて光の壁に穴を開けた。それにより空想と現実を繋ぐ道が作られ、お互いの世界を行き交うことが可能となった。しかしそれは、真なる神の掟に逆らうことであり、そのしわ寄せが海王星に襲いかかったのだ。」
「そうか・・・。それで邪神は光の壁を越えて、地球に行くことが出来たんだ・・・。」
「光の壁の抜け道は、海王星から近い場所にある。そのせいで海王星は現実と空想が入り乱れ、居心地のよかった世界は失われた。私は現実の世界になど興味はない。ただ、空想の世界に留まっていたかったのだ・・・。」
ブブカは寂しそうに言った。そしてゆらゆらと宙を泳ぎ出し、またプラネタリウムを作り出した。
「見よ、この宇宙を!真なる神の意思と共に、全ての存在を内包している!これが世界!
これが宇宙だ!何人も宇宙の掟、そして真なる神の掟に逆らうことは許されない!もし掟に逆らえば、その身を焼く神罰の報いを受けるだろう!かの悪しき神は、いずれ何者かの手によって滅ぼされる!許されることのない業を背負い続け、深淵の煉獄にて永遠に苦しむのだ!」
ブブカはヒレを動かして高らかに言う。
その目には怒りが宿っていて、故郷を追われた憎しみがひしひしと伝わってきた。
「ねえブブカ・・・。あなたの怒る気持ちはよく分かるわ。でもあなたは今、その邪神と同じことをしようとしている。あなたがこのまま時空を歪め続けたら、あの村の人はどうなるの?
それに社の中に閉じ込められている生き物だって、ずっと外に出られないわ。」
「私は宇宙の掟には逆らわない。しかし命を持つ者である以上、生存競争は避けられない。
私が邪魔だというのなら、この身を滅ぼしてみせるがいい!」
ブブカはダナエを睨み、額の大きな目を青く輝かせた。
「生き残りを懸けた戦いに言葉は無意味!力ある者が覇者となる!妖精の少女よ、時空の歪みを消したいというなら、私を殺すことだ!」
ブブカはヒレを広げ、大きな口を開いた。すると周りの空間がグニャリと歪み、ダナエの頭がクラクラとしてきた。
「あれ・・・景色が・・・・歪んで見える・・・・。」
槍を落として膝をつき、気を失いそうになる。平衡感覚も無くなり、周りの景色が絵具を混ぜたように歪み出した。
「私は波を操る者。空間も、時間も、水も風も、そして・・・人の意識さえ!」
ブブカはヒレを動かして強烈な波を放った。その波は空間を歪めてダナエに襲いかかり、彼女の意識を崩壊させようとしていた。
「ああ・・・いや・・・私が・・・・・私が消えちゃう・・・・・。」
ダナエは自分が自分でなくなる感覚に襲われ、頭を抱えて目を瞑った。ブブカの波はダナエの意識をさらに揺さぶり、記憶や自我を抹消しようとしていた。
「私はお前を手駒としよう。その意識を消し去り、私の操り人形として働いてもらう。」
「い、嫌だ!やめて!」
「少女よ、お前は身体は小さいが、秘めたる力は中々のものだ。この海ならず、この星そのものを海王星に変える為、私の操り人形となれ!」
ブブカは翼のようにヒレを動かし、波の力を強めていく。ダナエは意識が壊れそうになるのを耐えながら、あることを思い出した。
《・・・自我が消える?そうだ!私にはあれがあるじゃない!》
ダナエは内ポケットを漁り、ガラスの棒を掴んだ。それは感染した者の自我を壊し、身体を腐らせる恐ろしい細菌兵器だった。
《これならブブカを倒せるかもしれない・・・。けど、ここからじゃ届かない・・・。
どうすれば・・・。》
ダナエは必死に考えた。考えるのは苦手だが、ここで負ければブブカの操り人形になってしまう。それだけは何としても防ぎたいと思い、ガラスの棒を握って策を考えた。
そして・・・頭を押さえてパタリと倒れ込んでしまった。
「・・・力を失くしたか?」
ブブカは慎重に近づき、鯉のような髭を伸ばしてツンツンと突いた。
「ふむ。反応は無し。では新しい自我を植え付け、洗脳するとしよう。」
ブブカは髭を伸ばしてダナエを絡み取り、自分の自我を分割して送り込もうとした。
しかし突然ダナエは目を開け、槍を振って髭を斬り落とした。
「なんと!まだ意識を保っていたのか!」
ブブカは驚いて大きな目を見開く。ダナエは懐からガラスの棒を取り出し、蓋を開けてブブカに投げつけた。
「これでも喰らいなさい!」
ガラスの棒は宙を舞いながら緑の液体をまき散らし、ブブカの大きな目に降り注いだ。
「ぐおおおおおおお!目が痛いいいいいいいい!」
ブブカは巨大な身体を動かしてのたうち回り、苦痛の叫びを上げる。
「・・・やった・・・。命中した・・・・。」
ダナエはホッとして笑い、そして力無く倒れ込んだ。
「・・・私の考え・・・・上手くいってよかった・・・・・。」
ダナエが考えたのは、敵を油断させておびき寄せることだった。ならば死んだフリをしようと
思いついたのだが、ここまで上手くいくとは思っていなかった。
「頭のいい人は・・・案外簡単な手に引っ掛かるもんね・・・。コウもそうだった・・・。」
コウに悪戯された時、その仕返しに簡単な罠をかけると、よく引っ掛かることがあった。単純な落とし穴、単純な嘘、単純な攻撃。
「頭のいい人は色々考えるもんね・・・。私みたいに馬鹿なら・・・こんなの引っ掛からないのに・・・。」
ダナエは目を瞑って頭を振り、パシパシと頬を叩いた。まだ頭はクラクラするが、意識はしっかりしている。そしてまたガラスの棒を取り出して、ブブカに近づいていった。
「ブブカ・・・ごめんなさい。私だってこんな物は使いたくなかった・・・。」
「うおおおおおおおおおお!」
ブブカの大きな身体が腐り始め、綺麗な青色の皮膚が黒く変色していく。ヒレは崩れ落ち、力を失くして動きが止まっていった。
「・・・ごめんなさい・・・ブブカ・・・・。」
申し訳無い思いで胸がいっぱいになり、思わず目尻を拭った。するとブブカは大きな目をギョロリと動かし、ダナエを睨んだ。
「・・・騙し討ちとは卑怯な・・・。許さん・・・・許さんぞ!」
ブブカは時空を歪め、大きな口を開けて叫んだ。すると腐ったはずの身体は見る見るうちに元に戻り、綺麗な青色の皮膚まで復活した。
「そんな!どうして・・・・。」
「時空の波を操り、ほんの少しだけ時間を戻した。もうお前の卑怯な手は喰わぬ!」
ブブカはヒレを広げて口を開け、時空の波を放った。
「まずい!」
ダナエは咄嗟に飛び退き、ヒラリとかわした。
「もう一個喰らいなさい!」
そう言ってガラスの棒の蓋を開け、ブブカに放り投げた。しかしブブカは空間を歪め、細菌兵器を別の場所へ飛ばしてしまった。
「ああ!しまった!」
「もうそんな手は喰わない!時空の彼方へ消し飛ぶがいい!」
「きゃああああ!」
ブブカの口から時空の波が放たれ、ダナエに襲いかかる。
「この波を浴びた者は、次元の狭間へ飛ばされる!さあ消え去れ!」
空間が波打ち、荒波のようにダナエに打ちつける。
「あああああああああ!」
ダナエは時間の波を受けて、だんだんと幼く退行していく。見る見るうちに背が縮み、ついには赤ん坊にまで退行してしまった。
「さあ!消え去れ!」
ブブカはヒレを振って時空の波をさらに強力にする。赤ん坊となったダナエは、波のようにグニャリと歪んで消えてしまった。後にはダナエの服と銀の槍、そしてコスモリングだけが残されていた。
「この海、この星は私のものだ!誰にも邪魔はさせない!」
ブブカは勝利の雄叫びを上げ、高く舞い上がってプラネタリウムの宇宙を遊泳した。


                         (つづく)

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