ダナエの神話〜神樹の星〜 第六話 魚神パラパラ・ブブカ(4)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 16:55

『魚神 パラパラ・ブブカ』4


ダナエが次元の狭間に飛ばされた頃、コウは巨大なクラゲを相手に苦戦していた。
「くそッ!以外とすばしっこいな!」
倒すことは造作もないが、下手をすればトミーとジャムを傷つける恐れがあった。
「いくらアンデッドでも、なるべく仲間は傷つけたくないし・・・。でもモタモタしてるとダナエが・・・・。」
クラゲは毒の針を飛ばし、執拗に攻め立ててくる。コウはヒラヒラとそれをかわし、羽を動かして風の刃を撃とうとした。
「ああ、くそ!また逃げやがった!」
クラゲは海中を遊泳するようにユラリと動き、コウの攻撃のタイミングを外す。しかしチュルックはその動きを読んでいて、長い触手で鞭のように叩きつけた。大きな音が響いてクラゲはよろめき、地面スレスレまで落ちてくる。
「今だコウ!やっちまえ!」
「ナイス!チュルック。」
コウは風の刃を放ってクラゲの触手を全て切り落とし、その動きを封じた。
「動きが鈍ったな!それだけ鈍けりゃ目を瞑ってても当たるぜ!」
クラゲは何とか体勢を立て直そうと浮き上がる。しかしそこへコウが突撃し、すれ違いざまに羽で切りつけた。
「・・・・・ッ!」
「それもういっちょ!」
「・・・・・ッ!」
まるで燕返しのようにVの字に切りつけ、クラゲの身体はパックリと割れた。すると飲み込まれていたトミーとジャムはズルリと滑り落ち、クラゲの中から解放された。
「よっしゃ!こうなればこっちのもんだ!」
コウは両手で印を結んで土の魔法を唱えた。
「土に宿る大地の精霊!このクラゲを吸い込み、分解してしまえ!」
そう叫んで地面に手を向けると、洞窟の岩を突き破って土が盛り上がってきた。
「・・・・・・・・・ッ!」
クラゲは土に飲み込まれ、水分を吸収されてしぼんでいく。そして土の精霊によって細かく分解されてしまった。
「やった!」
「やるじゃねえかコウ!」
二人はハイタッチして喜び合った。そしてトミーとジャムに飛びより、バチバチと頬を叩いた。
「おい!しっかりしろ!」
「・・・ん?」
「・・・・う〜ん・・・ママ・・・?」
トミーとジャムは目を開け、身体を起こして「うお!」と驚いた。
「どこだここは?」
「あれ・・・ママは・・・。」
「ここは社の中だ。お前らはでかいクラゲに飲み込まれてたんだよ。」
「クラゲ・・・・・ああ!そういえばジャムを助けようとしたら、急に空間が歪んで・・。」
「思い出した・・・。変な洞窟に迷い込んで、クラゲに食べられたんだっけ・・・。」
トミーとジャムは立ち上がり、キョロキョロと回りを見回した。
「うわ!なんだ・・・でかいイカがいる!」
「ぎゃあ!また喰われる!」
「安心しろ。あいつはダナエの友達だ。」
「ダナエちゃんの?」
トミーは怯えた目でイカを見つめ、そしてダナエの姿が見えないことに首を傾げた。
「あれ?ダナエちゃんは?」
「先に行っちまったよ。俺はお前らを助ける為に残ったんだ。」
コウは胸を張り、腰に手を当てて二人を見下ろす。
「そうか・・・お前が俺達を・・・・。」
「お前・・・いい奴だったんだなあ・・・。」
二人は感動して目を潤ませ、コウの手を握った。
「でもお前、なんか雰囲気が変わってないか?」
「俺も思った。ちょっと逞しくなってるっていうか・・・。」
「まあな。進化して成長したんだ。ていうか今はそんなことはどうでもいいんだよ!早くダナエの所へ行かないと!」
するとチュルックが近づいて来て、細い糸を手繰って言った。
「急がないとダナエと同じ場所に行けなくなるぞ。空間の歪は、時間が経つとワープする先が変わるんだから。」
すると突然、ジャムが怖い顔でチュルックに詰め寄った。
「おいお前!ダナエなんて呼び捨てにしやがって!いったいダナエちゃんとどういう関係なのさ!」
「俺とダナエは友達だ。」
「にゃにい〜・・・。友達だとお〜・・・。」
ジャムは顔を歪ませて睨みつけるが、トミーに拳骨を落とされてしまった。
「今は漫才やってる場合じゃねえんだよ!コウ、早くダナエちゃんの所へ行こう!もし何かあったら・・・・。」
「分かってるよ。ええっと・・・あれ?糸が切れてる・・・。」
「何いい!」
「だってほら、動かなくなってるもの。それに何の手ごたえもないし・・・きっとどこかで千切れたんじゃないか?」
「ううむ・・・じゃあもう一回やるか?」
「だな。ちょっと時間がかかるけど、迷うよりはマシだ。」
コウは魔法を唱えて糸を作り、チュルックはミニゲソを飛ばす。そしてしばらく待っていると、すぐに反応があった。
「もう合図が来たか。きっとブブカのいる場所が近いんだ。すぐに行こう!」
みんなは頷き、糸を手繰って走っていった。空間の歪みに飛び込み、ガザミやクラゲを蹴散らし、ブブカのいるプラネタリウムの部屋まで辿り着いた。
「うお!なんだここは・・・・。」
トミーは宇宙の景色を見て思わず声を上げる。コウは回りを見渡し、ダナエの姿を捜した。
「ダナエ!どこだ!」
必死に名前を叫んで飛び回っていると、地面にダナエの服が落ちているのに気がついた。
「ダナエ!」
慌てて飛びより、服を掴んで回りを捜す。
「槍とプッチーも落ちてる・・・。まさか、どこかへ連れて行かれたのか・・・?」
コウの背中に嫌な汗が流れる。駆け寄って来た三人もダナエの服を見つめ、不安そうに顔を歪ませた。
「ダナエちゃん・・・ここにいないのか?」
「分からない・・・。でも服や槍があるから、ここへ来ていたことは確かだ。」
コウはコスモリングを掴み、じっと見つめた。
「プッチーの神様は・・・ダナエを守ってくれなかったのか?」
コスモリングは青い宝石を光らせ、一瞬だけドクンと脈打った。
「な、なんだ・・・・。」
三人の神が宿る三つの宝石は、キラキラと光って眩しく輝き出す。すると右の宝石から目も開けられないほどの光が放たれ、そして左の宝石からは黒い風が舞いあがった。
「うわあああああ!」
トミーとジャムは慌てて逃げていく。チュルックは何事かと忙しなく触手を動かし、じりじりと後ずさる。
「これは・・・プッチーの神様が出て来ようとしてるのか・・・?」
コウはコスモリングを握って舞い上がり、息を飲んで見守った。すると右の宝石からアリアンロッドが飛び出し、左の宝石からスカアハが現れた。
「ああ!あんたは!」
コウは手を広げ、長い銀髪をなびかせるアリアンロッドに飛び寄った。
「コウ。少し見ない間に成長したな。」
アリアンロッドは手の平にコウを乗せ、ニコリと微笑んだ。
「ダナエは!ダナエはどこに行ったか知らないか!」
コウは小さな手を広げて尋ねる。するとアリアンロッドは首を振り、目を閉じて言った。
「ダナエは次元の狭間に飛ばされてしまった・・・。ここにはいない。」
「次元の狭間って・・・なんでそんな所に!」
すると横にいたスカアハが、鋭い目を向けて答えた。
「・・・パラパラ・ブブカという、異星の神の仕業なり・・・。」
「ブブカが・・・。」
「奴は波を操る力を持っている。だから時空を歪め、ダナエを次元の狭間に飛ばしたのだ。」
コウは目を見開いて固まり、そしてアリアンロッドの服を掴んだ。
「そんな!どうしてダナエを助けてくれなかったんだよ!あんたらはプッチーに宿る神様だろ!ダナエを守るのが役目じゃないのかよ!」
コウは悲痛な叫びで訴える。小さな手でアリアンロッドの服を揺さぶり、怒った目で睨みつけた。
「・・・仕方がなかったのだ。私達は表に出られる状況ではなかったからな・・・。」
「どういうことさ?」
アリアンロッドは横に立つスカアハを見つめた。スカアハはその視線を受けて頷き、武道服の胸元を開いてみせた。
「・・・ここに青痣がある。・・・我が弟子がつけたものだ・・・・。」
「あんたの弟子?」
「・・・我が弟子クーフーリンが、腕輪の中で暴れていたのだ・・・。どうして自分は外に出られないのかと・・・・。美しい容姿を暴虐の戦鬼に変え、無理矢理外に出ようと暴れた・・・。我らはそれを抑える為・・・・あの少女に力をかすことが出来なかった。」
「クー・フーリン・・・。それって、前にアリアンロッドが言ってた戦いの神様だよな?」
「そうだ。ひとたび荒れ狂えば、その闘争心が治まるまで手がつけられない・・・。
だから私も・・・ほら、この通りだ。」
アリアンロッドは肘まで袖を捲ってみせた。そこにはスカアハと同じように青痣があり、しかも切り傷から血が滲んでいた。
「今はなんとか抑え込んだが、またいつ暴れ出すか分からない・・・。」
「そんな・・・それでダナエを助けることが出来なかったのか・・・・。」
コウは悔しそうに眉を寄せ、クー・フーリンが宿る宝石を見つめた。青い光の中に何かがチラチラ光り、大きな力を発していた。
「・・・我が弟子、未だ怒りが止まず・・・。度重なる我らや少女の戦いに触発され、滾る闘志を抑えられずにいる・・・・。危険である・・・・。」
「何だよ・・・それじゃまるで狂犬じゃないか・・・。」
コウはゾッとしてコスモリングを落としそうになった。スカアハはコウの手からコスモリングを奪い、自分の左腕に填めた。
「・・・汝が持つには危険過ぎる物・・・。しばし預かっておこう・・・・。」
「・・・・いいよ、あげるよそんなの。」
コウは悲しそうに俯き、アリアンロッドの手の上で座り込んだ。
「要するにあんたらの内輪揉めのせいで、ダナエを助けることが出来なかったんだ・・・。
次元の狭間に飛ばされたなんて・・・いったいどうやって助けたらいいんだよ・・・。」
がっくりと項垂れ、頭を掻きむしるコウ。トミーとジャムはアリアンロッドに駆け寄り、悲痛な顔で頼み込んだ。
「ダナエちゃん・・・どうにかなんないんですか!」
「そうですよ!師匠達ならきっと何とか出来るんでしょ?」
しかしアリアンロッドは首を振り、スカアハも無理だという風に目を瞑った。
「残念ながら、私達に次元を飛び越える力は無い・・・。」
「そんな!このままじゃダナエちゃんが可哀想過ぎるぜ!」
「師匠!何とかしてあげて下さいよ!」
トミーとジャムはアリアンロッドに詰め寄り、必死に懇願する。するとチュルックも触手を伸ばし、重い声で言った。
「俺からもお願いするよ。ダナエは・・・こんな俺と友達になってくれたんだ。ずっと独りで寂しい思いをしていた俺に、希望をくれたんだよ!だからさ、助けてやってくれよ!
あんたらは強い神様なんだろ?なあ、この通り!」
チュルックは目を瞑り、大きな頭を下げる。トミーとジャムも泣きそうな目で見つめていた。
「・・・気持ちは分かるが・・・私達の力では・・・・・。」
アリアンロッドは申し訳なさそうに俯き、ゴクリと喉を鳴らした。コウは彼女の手の平の上でじっと座り、頭を抱えたまま黙りこんでいた。
するとスカアハは目を閉じたまま腕を組み、低い声で小さく呟いた。
「・・・危険ではあるが・・・・ルーを呼んでみるか・・・・。」
「ルー?」
コウは顔を上げて聞き返す。するとアリアンロッドは血相を変えて詰め寄った。
「馬鹿なことを言うな!ルーを呼び出す為には、クー・フーリンを召喚せねばならんのだぞ!
今の奴は怒りに狂っている・・・。私達はともかく、ここにいる妖精やゾンビ達は確実に消し飛ばさるぞ!」
「・・・百も承知している・・・。だが、それ以外に方法はあるまい?・・・ブブカとやらがどこぞへ去っている今しか、ルーを呼ぶ機は無し・・・・。」
「しかし・・・・。」
アリアンロッドは険しい顔で唇を噛む。コウは二人の顔を見比べ、手の平から舞い上がって尋ねた。
「ルーって何なのさ?」
アリアンロッドは天を見上げ、そこに誰かがいるように目を細めた。
「ルーとは、太陽神ルーのことだ。ケルトの最高神にして、クー・フーリンの父。
その力は計り知れず、彼ならダナエを助けることが出来るかもしれない。」
「マジか!じゃあすぐにそいつを呼び出してくれよ!」
「・・・そう簡単にはいかない。ルーを呼び出すには、コスモリングに宿る三人の神の力が必要だ。だからクー・フーリンもここへ召喚しなければならない。しかしそんなことをすれば、ここはたちまち戦場に変わり、お前達は死んでしまうだろう。」
アリアンロッドは語気を強め、宙に舞うコウを睨んだ。しかしコウはその視線を押し返し、覚悟を決めた目で言った。
「俺は構わない。それでダナエが助かる可能性があるなら・・・やってくれ!」
すると後ろにいたトミーとジャムも頷いた。
「俺もコウに賛成だ。このままダナエちゃんを放っておくことは出来ねえ!」
「そうだ!どっちにしろ俺達はもう死んでるから、何されたって大丈夫だぜ!」
「しかしクー・フーリンの魔槍は魂まで貫くぞ。いくらゾンビといえど、無事にはすまないと思うが・・・いいのか?」
「・・・ええっと、それは・・・・その・・・・。」
「・・・いや!それでも構わない・・・・・って言いたいけど・・・やっぱ怖いわ。」
ゾンビ達は勢いを失くして項垂れる。するとチュルックは二人の頭を叩き飛ばし、目をつり上げて怒鳴った。
「お前達はダナエの友達だろう?だったらビビってんじゃねえ!俺はコウに賛成だ。
せっかく出来た友達を見捨てたり出来ない。そんなに怖いなら、お前らはここから逃げてろ!」
チュルックに怒鳴られ、ゾンビ達はさらに落ち込む。
「・・・分かったよ。ダナエちゃんの為だもんな・・・。」
「怖いけど・・・俺は我慢する。師匠!そのルーとかいうのを呼んでくれ!」
「お前達・・・本当にいいのか?どうなっても責任を持てないぞ。」
アリアンロッドは、これが最後の忠告という感じで怖い顔をして尋ねる。しかし誰も首を振る者はおらず、真っすぐにこちらを見て頷いた。
「まったく・・・怖いもの知らずとはこのことだ。しかし、それだけダナエが愛されている証拠かもしれんな。」
アリアンロッドはクスリと笑い、スカアハと顔を見合わせて頷いた。
「ではスカアハ・・・奴を呼び出すか。」
「・・・うむ。・・・皆の者、我らの後ろに隠れておれ・・・死にたくなければな・・・。」
コウ達はササっと二人の女神の後ろに隠れる。アリアンロッドは腰の剣を抜いて構え、スカアハは目を閉じてコスモリングに念じた。
「海の力が宿りし腕輪よ・・・。我が弟子、クー・フーリンをここへ・・・・。」
すると中央の宝石が青白く光り、バリバリと稲妻が走った。
「うおお・・・・。」
ジャムが身を竦めてトミーの後ろに隠れる。宝石から放たれる稲妻は激しさを増し、まるで落雷のように降り注いだ。
そして、それと同時に空間が歪み、どこかへ消えていたブブカが姿を現わした。
「大きな力を感じて戻って来てみれば・・・まだ賊が残っていたか・・・。これ以上誰にも私の邪魔はさせない!一人残らず、次元の彼方へ吹き飛ぶがいい!」
ブブカはヒレを動かし、口から時空の波を放った。それは宝石から放たれる稲妻とぶつかり、プラネタリウムの部屋に閃光が飛び散った。
「うわああああああ!」
「怖えええええええ!」
ゾンビ達はアリアンロッドの服にしがみ付き、ブルブルと震える。
「・・・これは・・・予期せぬ事態なり・・・。」
スカアハのこめかみに冷や汗が流れる。アリアンロッドも険しい表情で剣を構え、コウ達を守るように立ちはだかる。
閃光が消えた部屋にはブブカの巨体が浮かんでいて、その下に一人の男が立っていた。
「・・・ようやく・・・ようやく出て来られた!これで思う存分戦えるぞお!」
男は長い黒髪を振り乱し、二股に分かれた白い槍を掲げた。そして赤い鎧をガシャガシャと鳴らして、スカアハに近づいて来た。
「師匠!ひどいじゃないですか!俺だけ閉じ込めるなんて!」
「・・・お主は戦いの鬼神なり・・・易々と外へ出すわけにはいかぬ・・・。」
男は目をつり上げて怒り、「ふん!」と鼻息を吐いてそっぽを向いた。
「これが・・・クー・フーリン・・・。」
コウはアリアンロッドの後ろから顔を覗かせ、じろじろと見つめた。
「いかにも!俺が戦の神、クー・フーリンだ!・・・よろしくな。」
クー・フーリンはさっと手を差し出し、コウの小さな手を握った。
「ああ・・・どうも・・・。」
コウは手を握りながら、じっとその顔を見つめた。
クー・フーリンの顔は精悍ながらも端整な顔立ちで、紫の瞳には戦士の迫力と鋭さが宿っていた。高い鼻に少し大きな口元、そしてキリリとした男らしい眉毛が気の強さを感じさせた。
「なんか思ってたより良い奴そうだな・・・。」
トミーは前に出てクー・フーリンに近づこうとしたが、アリアンロッドに首根っこを掴まれて引き戻された。
「後ろで大人しくしていろ!こいつはいつ噛みつくかも分からない狂犬なのだぞ!」
アリアンロッドは剣を構えてギロリと睨む。そしてスカアハは、クー・フーリンの後ろに浮かぶブブカを指差して言った。
「・・・宙に浮かぶ異星の神・・・我らに敵意を抱いている・・・。我が弟子よ、ここは一つ、あやつと剣を交えてみてはどうか?」
「ん?異星の・・・、おお!」
クー・フーリンは後ろを振り向き、ブブカの巨体を見て奇声を上げた。
「こんな見事な敵がいたとは・・・。ううん・・・唸る!俺の槍が唸るぞおおおおお!」
美しい顔が大きく歪み、顎は二つに割れていく。そして手足にモジャモジャと毛が生えてきて、髪は生き物のようにうねり出した。
「・・・おおおおおお・・・うううううう・・・・・。」
綺麗な肌も浅黒く変化し、身体じゅうに血管が浮かんで筋肉が膨れ上がる。その顔は鬼のような恐ろしい形相となり、魔槍ゲイボルグを握って雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおお!」
ブブカはクー・フーリンの異様な雰囲気に恐怖を感じ、口を開けて時空の波を放った。
「お前も次元の彼方へ消え去れ!」
空間が歪み、陽炎のようにクー・フーリンに襲いかかる。しかし彼は槍を振りかざして飛び上がり、ブブカの頭に乗って叫んだ。
「俺の槍を喰らえええええい!」
魔獣の骨で出来た白い槍が、ブブカの頭に突き刺さる。すると槍の先端が鋭く枝分かれして、ブブカの体内をズタズタに切り刻んだ。
「ぐおおおおおおおお!」
あまりに激痛に身をよじり、ブブカは空間を歪ませてクー・フーリンを弾き飛ばした。
「・・・おのれええ・・・・・。よくも私の身体を・・・・。」
青い皮膚からドクドクと血を流し、ヒレを広げて羽ばたいた。すると時間の波がブブカの身体を覆い、たちまち傷を消し去ってしまった。
「私にそんな攻撃は効かない!時間を巻き戻せば、ほれ、おの通りだ。」
「・・・いいぞお・・・それでこそ戦いがいがある・・・。もっと俺を楽しませろ!」
怒りと喜びでクー・フーリンの顔が歪む。そして槍を構え、高く投げ飛ばした。
すると槍は無数の矢に変わり、ブブカの頭上に降り注いた。
「無駄だ!こんな単純な攻撃は通用しない!」
ブブカは小さく鳴いて、パッと姿を消してしまった。矢の雨は地面に突き刺さり、槍に戻ってクー・フーリンの手に飛んで来た。
「・・・おかしな技ばかり使いやがる・・・。正々堂々と戦え!」
そう叫んだ瞬間、巨大な時空の波が足元から立ち昇った。クー・フーリンは高く舞い上がり、天井に叩きつけられて血を吐いた。
「むぶふッ!」
そこへブブカの体当たりが炸裂し、天井にめり込んで槍を落としてしまった。
「おいおい・・・これやばいんじゃないか・・・。クー・フーリンが負けちまうぞ・・・。」
コウは心配そうに二人の戦いを見つめる。しかしスカアハとアリアンロッドは、落ち着いた顔で首を振った。
「クーはまだ全然本気を出していない。これからもっと凶悪になるぞ。」
「・・・我が弟子・・・ここからが本番なり・・・・。」
天井に突き刺さったクー・フーリンは、ズボっと抜け落ちて地面に降り立つ。そして槍を拾い、コキコキと首を鳴らして笑った。
「あははははははは!中々面白い戦いだ!しかしお前の動きと技は見切った!もう俺には通用しない!」
クー・フーリンの筋肉はさらに盛り上がり、顔は凶悪に歪んでいく。黒い髪が血のように赤くなり、犬歯が牙のように伸びて雄叫びを上げた。
「ヴォオオオオオオオォ!」
「しぶとい奴め・・・。」
ただならぬ気迫にブブカは怯む。じりじりと後ろに下がり、大きな背びれを忙しなく動かした。
「単純な力だけでは私に勝てない!貴様の力など恐るるに足らず!」
ブブカは背ビレと胸ビレをバタバタ動かし、大気を揺さぶった。すると部屋の空気が細かく震え出し、超振動となってみんなに襲いかかった。
「隠れていろ!前に出るなよ!」
アリアンロッドは両手を広げ、虹色の膜を張る。そしてスカアハも黒い風を巻き上げ、竜巻の盾を作り出した。
虹の膜と黒い竜巻は超振動を跳ね返し、コウ達を守る。しかしクー・フーリンは、超振動の衝撃をモロに受けてしまった。
「このまま分子レベルまで砕いてやる!そおれい!」
ブブカのヒレがトンボの羽のように高速で羽ばたく。超振動は威力を増し、クー・フーリンの身体をミシミシと痛めつけていった。
「大丈夫なのか・・・クー・フーリンは?」
コウは二人の女神の間から顔を覗かせた。するとクー・フーリンは平気な顔で立っていて、ニコニコと笑っていた。
「うむ。ほどよい振動で血行が良くなった。ちょっと痒いな。」
そう言ってポリポリと首筋を掻き、槍を構えて叫んだ。
「この程度がお前の本気なら、俺に傷一つ付けられない!さあ、今度はこっちの番だぞ!」
クー・フーリンの身体から赤い気が立ち昇り、部屋じゅうに殺気が満ちていく。
「伏せろ!」
二人の女神はコウ達の頭を押さえつけ、地面に伏せた。するとゲイボルグの刃が嵐のように暴れ回り、プラネタリウムの部屋のズタズタに切り裂いていった。
その刃はブブカにも襲いかかり、巨体を切り裂こうと迫ってくる。
「無駄だと言っているだろう!単純な攻撃は通用しな・・・・・、ッ!」
そう言おうとした次の瞬間、ブブカの背ビレは斬り落とされていた。
「ば、馬鹿なッ・・・・。」
大きな背ビレを失い、ブブカの力が弱まる。クー・フーリンはその隙を見逃さず、地面を蹴って突撃した。そしてすれ違いざまにブブカの胸ヒレを斬り落とし、ついでに尻尾のヒレも切断した。
「お前の波の動きは見切った!もはや俺の槍を防ぐことは不可能!」
ブブカは力を失くし、真っ逆さまに落ちていく。その先にはクー・フーリンが待ち構えていて、トドメとばかりに槍を突いてきた。ゲイボルグはブブカの額の目に突き刺さり、穂先が枝分かれして体内を切り刻んだ。
「ごうええええええええうううういいいいいい!」
耳を塞ぎたくなる絶叫がこだまし、ブブカは血を吹いて地面に倒れ込んだ。大きな身体がピクピクと痙攣し、ブクブクと泡を吹いて白目を剥いていた。
「やった!ブブカを倒したぜ!」
コウはゾンビ達とハイタッチして喜ぶ。チュルックも触手を握って、「よっしゃ!」とガッツポーズをみせた。
するとドスン!と大きな音が響き、ゆらゆらと地面が揺れた。
「なんだ!」
コウは慌ててクー・フーリンの方に振り返った。すると、彼は鬼神の形相でブブカを蹴り飛ばし、何度も何度も槍で突き刺していた。
「おいおい!もう勝負は着いてるんだぜ!ちょっとやり過ぎだろ!」
コウは眉を寄せて顔をしかめる。ゾンビ達も「こりゃひでえ・・・」と怯えた。
「クーは完全に敵を消し去るまで戦いを止めない。もしブブカが跡かたも無く消し飛ばされたら、次は私達に襲いかかってくるだろう。」
アリアンロッドの言葉に、コウ達は不安そうに息を飲む。
クー・フーリンは攻撃の手を緩めることなく、何度も槍を突き刺していた。もはやブブカは虫の息で、微かに口元が痙攣しているだけだった。
「おい、もう止めろ!それ以上やったら・・・・、」
見かねたコウが飛び出そうとする。しかしアリアンロッドに引き戻され、ポイっとトミーの手に投げられた。
「何すんだ!あんたらはあれを放っておくつもりか!」
コウを小さな指をビシッと突きつけて怒鳴る。すると二人の女神は顔を見合わせて頷き、クー・フーリンに向かって飛びかかっていった。
「クーッ!お前の敵はこっちだ!」
アリアンロッドが剣を振り下ろして斬りつける。クー・フーリンはそれを素手で受け止め、槍を突いてきた。
「させぬ!」
スカアハは身体を捻ってクー・フーリンの槍を蹴り飛ばし、彼の顔面を思い切り殴り飛ばした。
「・・・いい!いいぞ!もっと戦いをくれえええええええ!」
魔槍ゲイボルグの刃が嵐のように振り乱れ、二人の女神に襲いかかる。
「ぬうんッ!」
「笑止ッ!」
三人の神は戦いを始め、目にも止まらぬ速さで攻防を繰り広げる。刃の火花が飛び散り、轟音が響いて部屋を揺らす。みんなは呆気に取られて見ていたが、我に返ったコウが弾かれたようにブブカの元へ飛んで行った。
「おい、お前!大丈夫か!」
「・・・・・・・・・・・。」
ブブカは返事をしない。口元だけを小さく動かし、何かを呟こうとしている。
「何だ!何か言いたいことがあるのか?」
コウは耳を近づけ、ブブカの呟きを聞き取ろうとした。
「・・・・しに・・たく・ない・・・。まだ・・・しにた・・く・・・ない・・・・。」
「ブブカ・・・。」
「・・・せめ・・て・・・もう・・・いち・・ど・・・こきょう・・・へ・・・・。」
ブブカの小さな目から涙が流れる。コウは頷き、宙に舞い上がって両手を広げた。
「心配するな、俺が助けてやる!でも・・・もう悪さをするのは無しだぜ。」
そう言って笑いかけると、ブブカは返事をするように呻いた。
「よし!じゃあすぐに治してやる!」
コウは目を閉じて息を吸い込み、胸の前で手を握って魔法を唱えた。
「水の精、土の精・・・そして海の精よ・・・。憐れな異星の神を、ここに復活させてくれ。」
コウの手の中に淡い光が集まり、蛍のようにゆらゆらと舞い上がる。そして空中でパッと弾けると、地面を突き破って土と水が溢れてきた。
命の水がブブカの傷を癒し、豊かな土が失ったヒレを再生させていく。ブブカの身体はみるみるうちに復活し、綺麗な青い皮膚が蘇っていく。そしてどこからともなく海水が滴ってきて、ブブカの心と身体に力を与えていった。
「・・・おお・・・おおお・・・・。私が・・・生き返っていく・・・・。」
大きな目を動かし、空間を波打たせてブブカは舞い上がった。
「・・・やった・・・・・。」
コウはニコリと笑い、力を失くしてパタリと地面に落ちてしまった。するとブブカが大きな胸ビレでそっと受け止め、小さな目を動かしてコウを見つめた。
「妖精よ・・・。お前のおかげで私は助かった。礼を言う。」
「・・・いいっていこと・・・。でも、ちょっと疲れた・・・。」
コウは目を閉じ、ぐったりと力を失くす。ブブカは大きな口を開けてコウを飲み込み、ぶるぶると喉を震わせた。
「ああ!コウが喰われちまった!」
「何すんだてめえ!せっかく助けてもらったのに!」
トミーとジャムが駆け寄り、拳を握って叫ぶ。しかしブブカが睨むと、「ぎゃあッ」と慌てて逃げていった。
「心配せずともいい。あの妖精はすぐに力を取り戻す。」
ブブカは口をモゴモゴさせて、ペッとコウを吐き出した。すると元気いっぱいになったコウが、羽を広げて飛び回った。
「おお、コウ!」
「無事だったか!」
トミーとジャムは笑顔で駆け寄ってくる。
「ブブカが力を分けてくれたんだ。おかげで完全復活だぜ!」
コウはビシッと親指を立てて笑った。
「・・・まさか、この私が誰かに助けられるとは思わなかった。・・・あの少女には可哀想なことをしてしまったな。すぐに次元の狭間から呼び戻そう。」
「おお、マジか!すぐにやってくれ!」
コウは羽を広げて喜び、ブブカの頭上に舞い上がった。
「では・・・・そおれい!」
ブブカは大きな口を開け、身体じゅうのヒレを動かして息を吸い込んだ。すると空間が揺らぎだし、宙に丸い穴が開いた。そして・・・・その穴の中から、赤ん坊の姿をしたダナエが現れた。ブブカはダナエを口の中に吸い込み、元の姿に戻していく。そして舌の上に乗せて、コウの前に運んでいった。
「ダナエ!」
コウは心配そうに飛び寄り、ギュッと抱きついた。そしてダナエの頬を優しく叩き、小さく呼びかけた。
「ダナエ、しっかりしろ。」
「・・・・ううん・・・。」
ダナエはゆっくりと目を開け、ぼやける視界で回りを見つめた。そしてコウの姿に気づき、ガバッと身を起こして叫んだ。
「コウ!」
「ダナエ!よかった〜・・・。」
コウはダナエの首元に抱きつき、ホッと胸を撫で下ろして鼻をすすった。
「大丈夫か?どこも痛くないか?」
「・・・うん、大丈夫。でも・・・・不思議な夢を見てたの・・・。」
「不思議な夢?」
「そう・・・。ユグドラシルが出て来て、自分の記憶を見せてくれたの。そしてその夢が終わった時に、誰かが私を呼ぶ声が聞こえて・・・。あれはコウの声だったのかな?」
「・・・さあな。でもとにかく戻って来てくれてよかった。」
コウは宙に舞い上がり、ゾンビ達を見下ろした。
「お前ら、悪いけどダナエの服を持ってきてくれ。」
「お、俺!俺が持って行く!」
「お前はダメだ。すっこんでろ!」
トミーはジャムを蹴り飛ばし、ダナエの服を持ってコウに駆け寄った。
「サンキュ。おいダナエ、これ。」
「うん、ありがとう。みんな、心配かけてごめんね。」
ダナエはいそいそと服を着て、ブブカの舌からピョンと飛び降りた。
「ブブカ、あなたが私を戻してくれたの?」
「ああ、お前には悪いことをしてしまった。謝ろう、この通りだ。」
ブブカは目を瞑り、申し訳無さそうに小さくヒレを動かした。ダナエは首を振り、「いいよ」と優しく笑いかけた。
「私はそこの妖精に助けられた。荒ぶる神にヒレを斬りおとされ、波を操ることも出来ずに、ただただ痛めつけられていた。あれは・・・恐怖だった。」
「荒ぶる神?」
ダナエが首を傾げると、コウは戦いを続ける三人の神を指差した。
「ほれ、槍を握った鬼神みたいなのがいるだろ?あれがプッチーに宿る、最後の神様さ。」
「あれが・・・・すんごい顎が割れてる。それにちょっとしゃくれてるし・・・顔も怖いし。
でも・・・悪い神様じゃないっていうのは分かるわ。ただ、ちょっと気性が荒いだけで。」
激闘を繰り広げる三人の神を見つめ、ダナエは落ち着いた顔で言う。
荒れ狂うゲイボルグの刃が目の前をかすめるが、それでも表情を崩さなかった。
「なんか、やんちゃ坊主って感じよね。昔のコウみたい。」
「馬鹿を言うな!俺はあんなに荒れてなかっただろ!」
怒るコウを見つめてクスクスと笑い、ダナエは銀の槍を拾った。そして激しい戦いを続ける三人の神の元へ近づく。
「馬鹿!危ないから戻れ!」
「いいから、いいから。私に任せて。」
コウの言葉を無視して、ダナエはクー・フーリンの後ろに回る。荒れ狂うゲイボルグの刃が頭上をかすめるが、それでも平気な顔で近づいていった。そして彼の後ろに立つと、槍を握って突き出した。
「えい!」
「ぎゃあッ!」
クー・フーリンの背中に、銀の槍がプスリと刺さる。
「誰だ!この俺の背中を刺す不届き者・・・・・、痛ッ!」
振り向いたクー・フーリンの眉間にまた槍が刺さる。ダナエはニコニコとして槍を構え、自己紹介をした。
「私は妖精のダナエ。あなたがプッチーに宿る三人目の神様ね?」
「いかにも!我こそは戦の神、クー・フーリン!荒れ狂う戦いを司り・・・・・、痛ッ!」
クー・フーリンの顎の割れ目に、プスリと銀の槍が刺さる。
「おのれ・・・不意打ちとは卑怯な・・・。」
「ねえ、もう戦いは止めましょうよ。ブブカだって大人しくなったんだし、あなたも・・・ね?」
ダナエはニコリと笑って、長い髪を揺らす。クー・フーリンはしげしげとダナエを見つめ、槍を向けて尋ねた。
「ダナエ・・・・・。ふうむ、中々いい目をしているな。この私に臆さないとは。」
「全然怖くないわ。だって、あなたはただのやんちゃ坊主でしょ?だから私がお姉さんになってあげるわ。退屈な時は一緒に遊んであげるから、もう大人しくしようね。」
「むむう・・・。神を相手になんと偉そうなものの言い方・・・。」
クー・フーリンは怒った顔で睨んだが、ダナエはまったく動じない。
「・・・そこまで言うなら大人しくしてやってもいい。しかし、一つ条件がある!」
「なあに?」
「私が戦いたい時は、いつでも外に出すこと。その条件を飲むなら、もう暴れるのはやめよう。」
「ああ、それは無理。」
「何い〜・・・。」
クー・フーリンの怒りは増し、般若のように目をつり上げる。
それでもダナエは笑顔を崩さずに言った。
「そういうのをわがままっていうのよ。何でも自分の思い通りにいかないの。だいたい、暴れるのを止めるのに条件を突きつけるなんて、どうかしてるわ。」
「ぐ・・・ごごごご・・・おのれええええッ・・・・。」
「ねえ、あなたが暴れたら、みんなが迷惑するの。だからちょっとだけ大人しくなろ、ね?」
ダナエは槍を下ろして微笑みかける。クー・フーリンはじっとダナエを睨んでいたが、「ふん」と悪態をついてそっぽを向いた。
「中々気の強い少女だ。その性格・・・気入ったぞ。それに免じて、この場は刃を引こう。」
そう言ってアリアンロッドとスカアハに振り向き、槍を下ろして元の美男子に戻った。
「師匠!アリアン!俺は腕輪の中へ戻る。しかしまた必ず出て来るぞ、いいな!」
クー・フーリンはビシっと指を刺し、稲妻となってコスモリングの中に戻っていった。
「ふう・・・なんとか治まったか。ダナエ、お手柄であった。」
アリアンロッドは剣を収めてダナエの肩に手を置いた。そしてスカアハはコスモリングを外し、そっとダナエに差し出した。
「・・・助けてやれずにすまぬ・・・。我が弟子が暴れていた故に・・・。」
ダナエは笑って首を振り、コスモリングを受け取った。
「いいわよ、こうしてみんな無事だったんだから。それに・・・ユグドラシルと会うことが出来たしね。」
「ユグドラシルと?」
アリアンロッドは興味深そうな目で見つめる。
「うん・・・。自分の記憶を語ってくれたの。それを聞いて・・・私は何がなんでもユグドラシルに会いに行かなきゃって思ったわ。」
決意の宿った目でコスモリングを見つめ、それを左の手首に填める。コスモリングがパッと光って、ダナエの手首にピッタリ収まった。
「でも今はその話をしている場合じゃないね。」
そう言ってブブカの方を振り向き、真っすぐに見つめて言った。
「ねえブブカ。時空の波を消し去って、みんなが外へ出られるようにしてあげて。
私は必ず邪神をやっつけて、あなたの故郷だって元に戻してみせる。だからお願い。」
ダナエの声は、真っすぐに透き通っていた。その言葉に嘘がないことを感じ、ブブカは大きく頷いた。
「・・・いいだろう。いつか私の故郷が元に戻るなら、時空の歪みを消し去ろう。」
ブブカは天に向かって大きく吠え、身体じゅうのヒレを動かして時空を歪めた。それは強力な波となって広がっていき、この辺りを覆う時空の歪を相殺していった。
「これでもう時空の歪はない。村の者も、そして社の中の者も外へ出られるぞ。」
「ありがとう!やったねチュルック、海へ帰れるよ!」
ダナエはチュルックの触手を握って嬉しそうに振る。
「・・・ありがとよお・・・。やっと、やっと青い海に帰れる・・・。」
チュルックは大きな目からドバドバと涙を流し、おいおいと泣いた。
「ダナエよ、私達もそろそろコスモリングに戻る。」
アリアンロッドは長い銀髪をなびかせて微笑んだ。ダナエは頷き、コスモリングを掲げた。
「今回は力になれなくてすまなかった。次は絶対にお前を守ってみせる。」
「・・・・我が弟子も、少しは大人しくなるやもしれぬ・・・礼を言う・・・・。」
「うん、また力をかりる時が来ると思う。その時はよろしくね。」
二人の女神は頷き、コスモリングの中へ戻っていった。
「よし!これでとりあえず一件落着ね。」
ダナエはみんなを振り向き、ニコリと笑って言った。
「帰ろう。村の人達に、外へ出られるようになったことを教えてあげなくちゃ。」
するとブブカが近づいてきて、大きな胸ビレを広げた。
「では私が外まで送ろう。さあ、私の周りに集まれ。」
ダナエ達はブブカの下に集まり、その巨体を見上げた。
「では行くぞ。」
ブブカが口を開けると、グニャリと空間が歪んだ。ダナエ達のまわりに風が舞いあがり、次の瞬間には社の外に出ていた。
「すげえ・・・。便利な力だなあ。」
コウは感心して呟く。すると蛇の妖怪が海から現れて、ブブカを見て怯えた。
「ひえええええ!」
「あ、大丈夫よ。もう悪さはしないから。」
ダナエが言うと、蛇の妖怪は「ほんとうに?」と疑わしそうな目で見つめた。
「ほんとほんと、それにもう時空の歪みは無いから、みんな村の外へ出られるよ。」
「おお!それはよかった!早くみんなに知らせないと。さ、さ、私の背中に乗って下さい。」
ダナエは頷き、コウを肩に乗せて飛び上がる。トミーもあとに続いて社から飛び上がり、蛇の背中に乗った。
「おいジャム!いつまでもビビってんじゃねえ!早く来い!」
「で、でも・・・。」
ジャムは相変わらず怖がり、社にヒシっとしがみ付いている。それを見かねたチュルックが長い触手でジャムを巻き取り、蛇の背中まで運んでいった。
「わ、悪いな・・・・。」
「いいさ、みんなダナエの友達なんだ。だったら、みんな俺の友達さ。」
チュルックは久しぶりの海を見つめ、懐かしそうに涙を浮かべた。
「よかったねチュルック。」
「ああ、やっと帰ってくることが出来た。ありがとう・・・ダナエ。」
「ふふふ、海の生き物達と仲良く暮らしてね。また会いに来るからさ。」
「ああ、楽しみにしている。それじゃあな!」
チュルックは触手を振り、泡を立てて海へと潜っていった。そして頭上に浮かんでいたブブカは、社を見つめてヒレを動かした。
「ダナエよ・・・。お前こそが、邪神の企みを砕く者かもしれぬ。それまで、私はこの社の中で待とう。我が故郷、海王星に帰れるその時を。」
「うん、約束は守るわ。きっと邪神をやっつけてみせる!」
ブブカは頷き、ヒレを動かして空間を歪めた。そしてパッとダナエ達の前から消え去り、声だけを響かせて言った。
「私は故郷に帰るのを待つ間、この海、そしてこの地に暮らす者を守ろう。そして、もし力が必要になったらいつでも会いにくるがいい。惜しむことなく助力しよう。」
ブブカの声は消え、そして荒れていた海が穏やかな波へと変わる。
「ありがとうブブカ。あなたも私の友達よ。」
ダナエは煌めく海面を見つめ、長い髪をなびかせた。そして蛇の妖怪を振り返り、大きな声で言った。
「さあ、村へ帰ろう!みんなにこのことを報告しなくっちゃ!」
蛇は頷き、穏やかな海面をスルスルと泳いでいく。遠くに見える海岸には、村人達が心配そうにこちらを見つめていた。ダナエは手を振り、ニコリと笑ってみせる。
魚神の社は、海の光を受けて佇んでいた。

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