ダナエの神話〜神樹の星〜 第八話 海底の廃墟(1)

  • 2014.02.18 Tuesday
  • 18:21

『海底の廃墟』1


美しいシャンデリアをぶら下げた部屋に、星の明かりが射している。
街を見渡せる豪華なホテルの最上階で、ダナエはうっとりと夜の漁火を眺めていた。
「綺麗・・・・。まるで海の宝石みたい・・・。」
トミーが予約してくれた宿は、超が付くセレブしか泊れない高級ホテルだった。しかもダナエが泊る部屋は、一泊で100万チョリスもするスイートルームだった。
「どう、いい部屋だろ?」
トミーがブランデーを回しながらニヒルに笑ってみせる。
「うん・・・まさかこんな場所に泊れるなんて思ってなかったわ。」
ダナエのうっとりはさらに加速し、これ以上うっとりすると、喜びのあまり天にも召される勢いだった。
しかしふと現実的な問題が頭をよぎり、恐る恐るトミーに尋ねた。
「ねえ、確かに良い部屋なんだけど・・・・値段ってどれくらいなの?」
「まあまあ・・・そんなの気にしない気にしない。」
「で、でも・・・あんまり高すぎると、旅のお金が無くなっちゃうんじゃないかしら?」
そう言うと、トミーはカッコをつけてブランデーを揺らし、小さく指を振った。
「実はね、このホテルって、ダレスさんの融資を受けて建てられたものなんだ。」
「融資?それって、お金を貸すってことよね?」
「そうだよ。このホテルのオーナーは、昔とんでもない貧乏人だったそうで、ダレスさんの所に金を借りに来たんだよ。そしてそのお金で小さなホテルを立てて、地道に頑張ってきた。
そして・・・今はこんな豪華ホテルのオーナーになるほど、大成功を収めたってわけさ。」
「へえ、なんか分かんないけど・・・すごいね。」
「うん、まあ・・・ダナエちゃんには興味のない話だったね。要するに、ここはダレスさんの顔が利くってこと。だから俺が子分だって伝えたら、タダで泊っていいって言ってくれたのさ。」
「でも、タダなんてなんだか悪いわ。私、ちょっとトイレ掃除でも手伝ってくる。」
ダナエはパタパタと部屋を出て行き、一階のカウンターに走って行った。
「真面目な子だなあ。俺も結婚して子供が出来たら、あんな子が欲しいな。」
ブランデーを飲み干し、トミーは屋内プールに向かう。包帯を取り去って屈伸運動をし、綺麗な飛び込みを決めた。
「トミーの奴はしゃいでるな。ゾンビがプールで泳ぐって、かなりシュールな光景だぞ。」
枕に寝そべってジュースをすすっていたコウが呆れ顔で言う。
「でもコウさん。私までこんな所に泊らせてもらっていいんでしょうか?なんだか落ち着かなくてソワソワするんですが・・・。」
「何言ってるんだよドリュー。あんたは昔、お城みたいな家に住んでたんだろ?
だったらこれくらいの部屋はどうってことないんじゃないの?」
「そんなことないですよ。お金持ちだったのは随分昔のことですから、今は貧乏生活が身に染み付いているんです。あんまり高い食事をしたせいで、なんだかお腹の調子もおかしいし。」
ドリューの腹はギュルギュルと鳴りっぱなしで、何度もトイレに駆け込んでいた。
「繊細だねえ、あんたは。でも芸術家っていうのはそんなもんか。」
フカフカのソファで足を組んだジャムが、偉そうに指を向ける。
「・・・僕、やっぱり芸術家気質なんだと思います。だから、もう一度絵を始めてみようかなって思ってて・・・・。」
「おお、いいじゃんか!なんだったら俺がモデルになってやるぞ。タイトルは夕暮れに佇むゾンビの横顔だ。」
「・・・遠慮しておきます。もしモデルを頼むなら、ダナエさんとコウさんにお願いすると思います。」
そう言うと、コウは嬉しそうにドリューの頭に乗っかった。
「おう、いつでもいいぜ。きっとダナエも喜ぶだろうしな。」
「ほんとですか!じゃあ明日さっそく画材屋に行かなきゃ!」
ドリューは嬉しそうに拳を握る。そして皿に盛られた果物を取って、チビチビと齧りながら言った。
「みなさんは、ユグドラシルを目指して旅をしているんですよね?」
「そうさ。この星と地球を救う為にな。」
「だったら、僕に一つ提案があるんですけど。」
「提案?ほうほう、聞こうじゃないかね。」
コウは胡坐を掻き、腕を組んで偉そうに笑う。ドリューはブドウの粒をプチプチ千切りながら、漁火の輝く夜の海を見つめた。
「みなさんは、ラシルの王国ってご存知ですか?」
「ラシルの王国?俺はこの星の者じゃないからな知らないな。ジャムは聞いたことあるか?」
「いいや、ないね。でもラシルってこの星の名前だろ?」
そう言うと、コウは「ほお!」と声を上げて驚いた。
「この星ってラシルっていうのか?」
「そうだよ。今まで教えたことなかったっけ?」
「聞いてないよ。知らなくても特に困らなかったけど。」
コウは唇を尖らせ、やや不機嫌そうな顔でドリューを振り返った。
「で、そのラシルの王国ってのがどうかしたのか?この星と同じ名前だけど、何か関係あるとか?」
そう尋ねると、ドリューは「大アリですよ」とブドウを噛み潰した。
「この星のラシルという名前は、ラシルの王国から来ているんです。そしてラシルの王国の名前は、あのユグドラシルから来ているんですよ。」
「へえ。ならラシルの王国は、ユグドラシルに関係してるってことだな?」
「はい。というより、ユグドラシルの周りに建てられたのがラシルの王国なんです。あの神樹はここから見える海の、もっとずっと先の島に根付いていたんです。でも邪神との戦いでその島は失われました。僕が産まれる、ずっとずっと昔のことですけどね。」
「ずっとってどれくらい?」
「う〜ん、そうですねえ・・・・だいたい二千年くらい前かな?」
「二千年!ずっごい昔の話なんだなあ・・・。」
コウは感心して一頷き、ドリューと同じように夜の海を見つめた。そしてその先に浮かんでいたラシルの王国を妄想し、勝手に悦に浸っていた。
「二千年前かあ・・・・ロマンがあるなあ・・・。」
「おや、コウさんは歴史好きですか?」
「まあね、こう見えてもけっこう博識なんだぜ、俺。」
親指立て、ビシッと顔を作ってみせる。ドリューは可笑しそうに笑い、ブドウを口に入れてグニュリと噛み潰した。
「ユグドラシルが生えていたラシルの王国には、病や飢えというのはまったく無かったそうです。そしていつでも不思議な力が溢れていて、魂と魂を直接つなぐことが出来たそうです。」
「魂と魂を・・・?」
「ええ、言葉に頼らずに、お互いの意思を理解し合うことが出来たそうです。だからラシルの王国では、争いというのはほとんどなかったとか。」
「へええ・・・魂と魂をねえ・・・。それってテレパシーみたいなもんか?」
「僕も詳しいことは分かりません。父に聞かされただけなので。でもね、一度だけラシルの王国に行ったことはあるんですよ。」
「え?でもラシルの王国は二千年前に無くなったんじゃ・・・・?」
そう尋ねると、ドリューは首を振って椅子から立ち上がった。そして窓から夜の海を見つめ、まるでその先にラシルの王国があるかのように目を細めた。
「ラシルの王国は今でもありますよ。あの深い深い海の底に、廃墟として存在しているんです。」
「この海の中に・・・。」
コウもドリューの横に並んで海を眺める。漁火と街の明かりが入り混じり、海面に揺らいで美しいアートを創り出している。
「まだ僕の家がお金持ちだったころ、父に連れて行ってもらったんです。
ラシルの廃墟の周りには大きな力が渦巻いていて、中に入るには廃墟に住む幻獣に認めてもらわなければいけないんですよ。だから父は素晴らしい絵を描いて、それを幻獣にプレゼントしたんです。そのおかげで中に入れてもらい、かつて神樹が息づいていた場所をじっくり見て回ることが出来たんです。あの時の光は今でも忘れられない。美しくて、幻想的で、でもすごく切なくて・・・。」
ドリューはラシルの廃墟を思い出し、画家の炎をたぎらせて創作意欲に駆られた。芸術の神の血を引く彼は、美しいものや感動的なものを見ると、居ても立ってもいられないくらいの熱い衝動が湧き上がる。
「ああ!じっとしていられない!何か、何か描く物はッ?」
クセ毛の頭を描きむしり、大きなクローゼットに向かって走り出す。引き出しを放り出して中のものをポイポイ投げ捨て、また頭を描きむしって部屋の中を走りまわる。
「誰か!誰か僕にペンと紙をッ!」
膝をついて天を見上げ、まるで雨乞いでもするかのようにお辞儀を繰り返す。
「落ち着けよ、俺の包帯をちょこっとやるから。」
ジャムがプチプチと包帯を千切って差し出す。
「そんな小さいのじゃ駄目だ!もっと、もっと大きな紙をくれえッ!」
「ぐがが・・・首を絞めるな・・・・。」
ドリューの目は血走り、ガクガクとジャムの首を揺さぶる。するとそこへダナエが戻って来て、嬉しそうに笑いながら手に持った物を見せびらかした。
「見て見て!トイレ掃除と洗い物のお手伝いをしたら、色鉛筆のセットをもらっちゃった!」
胸の前に色鉛筆セットを掲げ、ルンルンと部屋の中をスキップしていく。そして取っ組みあうドリューとジャムを見つけ、ニコニコしながら首を傾げた。
「あら?なにプロレスごっこしてるの?」
「ち、違う・・・こいつが俺の首を絞めるんだ・・・・ぐるじいッ・・・・。」
「ペンを!僕にペンと紙を!絵を描かせてくれええええッ!」
もはや殺す勢いで首を絞め、発狂したようにジャムを振り回す。
「ちょっとちょっと!それ以上やったら死んじゃうわよ!」
「もう死んでるけど・・・・苦しいから助けて・・・・。」
ダナエは高く飛び上がり、勢いをつけてジャンプキックを放つ。
「とおりゃああああッ!」
「へぶしッ!」
ジャムの顔面に蹴りがヒットし、もんどりうって床を転げていく。
「ダメよドリュー。いくらゾンビでも首を絞めたりなんかしたら。」
「はあ・・・はあ・・・絵を・・・絵を描かせてくれ・・・・。」
「絵?お絵描きしたいの?ならここに色鉛筆があるわよ、ほら。」
木作りの箱に入った色鉛筆セットを見せると、ドリューはサッと奪い取って壁に走っていった。
「あらら・・・。壁に絵を描き始めちゃった・・・・。」
ドリューは何かに取り憑かれたようにペンを振るい、凄まじい勢いで絵を描いていく。
「うふふ、さすが芸術の神様の子供よね。私もあれくらい熱中できるものがほしいな。」
羨ましそうに言ってクルリと回り、ルンルンとスキップをしながらバスルームへ向かっていく。
「今からお風呂に入るけど、コウも一緒に入る?」
「いいや、俺はあとでいいや。それよりジャムの首がおかしな方向に曲がってるけど、いいのか・・・・?」
「大丈夫でしょ、ゾンビだし。コキっとやれば元に戻るわよ。」
明るい声で言い、ダナエは手を振ってバスルームのドアを開けた。そして中から顔だけ覗かせて、唇を尖らせて呟いた。
「もしまたジャムが覗こうとしたら、バキ!ってやっちゃってね。」
「覗きたくても覗けないだれろ、あれじゃあ・・・・。」
コウは肩を竦めて首を振り、ジャムの頭を掴んで「コキ!」っと回した。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか・・・・。」
「すまんな、あいつけっこう悪ノリするところがあってさ。悪気はないから余計にタチが悪いんだよ。」
「なんで俺が蹴られるんだよ・・・。まあダナエちゃんだから許すけど。」
コキコキと首を鳴らし、ジャムはふらふらと立ち上がる。するとコウは肩に手を掛け、うんうんと頷きながら言った。
「確かにさっきのはやり過ぎだよ。後で俺からよく言っておく。」
「いや、別にいいけど・・・・・。」
「うんにゃ、ちゃんと注意しないとダナエの為にならない。今はバスルームにいるんだけど、出てきたらちゃんと注意するから。今はバスルームだから無理だけどな、バスルームだから。」
そう言ってポンポンと肩を叩き、必死に絵を描くドリューの方へ飛んで行く。そして後ろを振り返ると、ジャムはバスルームの前に移動していた。
「あいつ・・・いつか捕まるな。」
どうでもいいことのように呟き、一心不乱に絵を描くドリューを眺めた。
「ふええ・・・すごいもんだな。さすがプロの芸術家。」
部屋の壁には、壮大な神殿が立つ美しい街が描かれていた。薄いブルーを基調としていて、周りには光輝く海が銀色に塗られていた。
それは海に浮かぶ神の国のように神秘的で、見る者を引きつける不思議な力があった。
しかしどこか寂しげな雰囲気が漂い、じっと見つめていると切なさが込み上げてくる。
「これがラシルの廃墟か・・・?」
「そうです。子供の頃に一度行ったきりだけど、この景色ははっきりと覚えているんです。
だから・・・僕はもう一度ここへ行きたい!この目で、あの景色をもう一度!」
「なるほど、それで俺達にラシルの王国の話をしたわけだ。」
「ええ、でもそれだけじゃありませんよ。ここにはユグドラシルの力が眠っているといわれているんです。」
「ユグドラシルの力が?」
「ラシルの王国は、ユグドラシルの力で成り立っていた国なんです。だから今でも、その力が残っているといわれているんですよ。だからここへ行けば、きっとユグドラシルへ辿り着く手掛かりになるはずです。」
「ううん・・・でもあの神樹のいる場所は分かってるんだよな?確かマクナールの街っていうとこの海だろ?」
「そうですけど、あそこは簡単に行ける場所じゃないんです。途中に厄介な国があるし、邪神の力で呪いがかかっている場所もあるんです。だから、普通に行っても辿り着けないと思いますよ。」
「ジル・フィンもそんなことを言ってたな・・・。じゃあそのラシルの廃墟へ行く事は、ユグドラシルへ辿り着く上で大きな手掛かりになりそうだな。」
「だからここへ行こうと言っているんです。この街の港から船が出ているはずだから、それに乗れば海まで潜って行けますよ。」
「そうか。じゃあ明日の朝一番に港へ行ってみるか。」
「でも、船に乗るにはけっこうなお金がかかるんですよ。」
「ふ〜ん、どれくらい?」
「80万チョリス。」
「高けえッ!」
「だから願いしてるんですよ。僕はお金が無いから、コウさん達に払って乗せていってもらう。そしてコウさん達は、僕に廃墟の中を案内してもらう。これって、ウィン、ウィンの関係でしょう?」
「何がウィン、ウィンだよ。お前って画家のわりにはそういうとこちゃっかりしてるよなあ。」
「貧乏人は金にうるさくなきゃ生きていけないんです。でも廃墟には気難しい幻獣がうろついていますから、きっと僕が案内した方が安全ですよ。」
「分かったよ。俺達もユグドラシルへ辿り着く手掛かりは欲しいからな。あんたの提案に乗るよ。」
「そうこくちゃ。さあ、僕は絵を描き上げるぞ!」
新たな旅の指針が決まり、コウは頭の後ろに手を組んで枕に寝転がる。鈍チンのダナエが風呂から上がって来たらどう説明してやろうかと考えていると、だんだんと眠くなってきて目を閉じた。そして「もうすぐだな・・・」と意味深な言葉を呟くと、バスルームからガシャン!と大きな物音が聞こえてきた。
「もう!また覗いて!今度は本当にダレスに言いつけるからね!」
「い、いや・・・これはコウがそそのかして・・・・。」
「問答無用ッ!」
「ぷぎゃッ!」
また大きな物音が響いて、バスルームのドアを突き破ってジャムが壁にぶつかった。
「この!ごめんなさいしなさい!」
ダナエはバスタオルを巻いて銀の槍を振りかざし、バシバシとジャムの頭を叩く。
「ひいいいいい!ごめんなさい!」
「ダナエもジャムも、ほんとに人の予想通りに動くよなあ。実にからかいがいがある。」
バタバタと暴れる音を聞きながら、コウは腕枕をして寝返りをうつ。
プールからあがって来たトミーが、部屋を駆け回る二人を見て首を捻った。
「何やってんだ・・・・あいつら。」

            *

綺麗な木目の桟橋が、穏やかな海に架かっている。
ダナエ達は港の船乗り場で、いかついペンギンの船長に向かい合っていた。
「どういうことだよ、船が出てないって!」
コウはバタバタと羽を動かして怒鳴りつける。
「仕方ねえだろ。ラシルの廃墟は危険な場所なんだ。あそこへ行く便は二年も前に廃止になってんだよ。」
「そんな・・・。せっかく期待して来たのに・・・・。」
コウはがっくりと項垂れ、じろりとドリューを睨んだ。
「す、すいません!てっきりまだ船は出てるものだと思って・・・。」
ハンカチで額の汗を拭き、ペコペコと頭を下げる。
「お前ってずっとこの街に住んでたんだろ?なんで知らなかったんだよ。」
トミーに肘で突かれ、さらに恐縮して身を丸める。
「だって・・・港になんか来る用事は無いから・・・。」
「なんだよ、ったく・・・。締まらねえなあ。」
唇を尖らせ、険しい顔で海を睨むトミー。するとペンギンのオヤジが海岸沿いに見える小さな小屋を差した。
「どうしてもラシルの廃墟へ行きたいってんなら、あそこの小屋にいる男に聞いてみるんだな。」
ダナエ達は岸壁の傍にある小屋を見つめた。今にも崩れそうなボロボロの屋根に、いつ海に飲み込まれてもおかしくない岩場に建っている。
「すげえ場所に住んでるんだな。で、なんであそこの男に聞いてみ必要があるんだ?」
コウが尋ねると、ペンギンオヤジは煙管を吹かして答えた。
「あそこには他所の星から来た奴が住んでるのさ。しかもテレパシーが使える。」
これで説明は終わりだというふうに、ペンギンオヤジは去って行く。
「待て待て!何にも説明になってないよおっさん!」
「おっさんって言うな。俺はまだ二九だ!」
「嘘つけ!どう見たって還暦じゃねえか!」
「てめえ!俺のどこが還暦だ!舐めたこと言ってるとスリ身にして魚の餌にするぞ!」
ペンギンオヤジはペシンとコウを跳ね飛ばし、プリプリ怒って去って行った。
「痛ってなあ・・・。覚えてろよあのオヤジ。」
赤くなった頬を押さえながら、コウは困った顔でダナエを見つめた。
「なあ、どうするダナエ。あの小屋に行ってみるか?」
「そうねえ。せっかくここまで来たんだし、とりあえず行ってみようよ。」
「・・・そうだな。じゃああの小屋まで出発だ。」
ダナエ達は港を抜けて海岸の端っこまで出る。そして荒れた岩場を慎重に進み、何とかボロ小屋まで辿り着いた。
「すいませ〜ん。誰かいますか〜?」
ダナエはバシバシと戸を叩く。するとメキョっと音がして穴が開いてしまった。
「あ!やっちゃった・・・。」
中からドタドタと足音が聞こえ、勢い良く戸が開いた。
「誰だ!人の家の戸を壊す奴は!」
顔の真ん中に大きな切り傷の入った男が出て来て、ジロリとダナエ達を睨む。浅く焼けた肌に逞しい筋肉、そして真っ白な髪に威圧的な眼光をしていた。
「ご、ごめんなさい!壊すつもりはなかったの。ちょっと力加減を間違って・・・。」
「こんなボロい小屋なんだから、叩いたら壊れることくらい分かるだろ!弁償だ!弁償をしろ!」
あまりの剣幕にダナエは怖気づき、助けを求めるようにコウを見つめる。
「しゃあねえなあ。おいトミー、財布。」
「あいよ。」
包帯の中からスルスルと財布を取り出し、お札を一枚抜いて男に渡す。
「・・・なんだ?妙に金を持ってるなアンタら・・・。」
「ええ、まあ。そういう商売なもんで。」
トミーはニコニコと頭を下げ、包帯の中に財布をしまう。
「ふん!大金を稼ぐ商売にロクなもんはない!さっさと帰れ!」
男はぴしゃりと戸を閉める。ダナエは慌てて「待って!」と呼びかけ、また戸を叩いて壊した。
「ああ・・・・また・・・。」
再び足音が響き、男はギリギリと歯切りしをしてダナエを睨みつけた。
「てめえ・・・わざとやってんだろ!」
「ち、違うわ!あんまりにもこの小屋がボロいからつい・・・・。」
「人様の家をボロいって言うな!」
「ご、ごめんなさい・・・。でも、私達あなたにお話があって来たの。」
「ああん・・・話い・・・・?」
男の顔が険しく歪み、ギロリと睨んでタバコを咥えた。
「あのね、私達ラシルの廃墟に行きたいの。それでね、港のペンギン船長さんに聞いたら、あなたに話をしてみろっていうから・・・。」
「ペンギン・・・?ああ、あの老けた若僧か。二九のくせに還暦みたいな顔しやがって。
もういっそのこと、本当にジジイになっちまえばいいのになあ。はははは!」
「・・・・・・・・・。」
「何だよ、じっと睨んで。喧嘩売ってんのか?」
「いや、なんか・・・あなたの持つ雰囲気がこの星の人と違うから・・・。
私の良く知っている人に、あなたとそっくりな人がいるの。」
「ほお、そりゃ変わり者だな。もしかして宇宙人とかか?」
男は馬鹿にしたように笑い、ふっとタバコの煙を吹きかける。
「さっきペンギン船長さんに聞いたんだけど、あなたってこの星の人じゃないんだってね。」
「・・・ち、お喋りな若僧が・・・。で、それがどうしたよ?」
「あなたのやって来た星、もしかし地球じゃないの?」
そう言うと、男の顔色が変わった。ニヤニヤ笑いが消えて、タバコを投げ捨てて踏み潰す。
「・・・お前誰だ?なんで俺が地球から来たって分かる?」
「さっき言った、あなたに良く似た人っていうのはね、地球から来た金貸しさんなの。
今は狼の獣人になってて、ダレスっていうんだけど・・・。」
「ダレス・・・。知らねえな。」
「ダレスは怖いところもあるけど、でも本当はとっても優しくて頼りになる人なの。
そして・・・あなたからも同じ雰囲気を感じるわ。そうやって偉そうにみせてるけど、実はすごくいい人なんじゃないかしら?」
長い髪を揺らし、二コリと笑って男に尋ねる。
重い沈黙が二人の間に降りたが、男は突然笑いだして手を叩いた。
「はははは!俺がいい奴?こりゃ面白い!」
腹を抱えてゲラゲラ笑い、そして急に怒り出してダナエを殴りつけた。
「馬鹿言ってんじゃねえぞこのガキッ!俺のどこがいい奴だ!俺はなあ・・・俺は自分の息子を・・・。俺のせいで息子を・・・・・。」
男は悔しそうに唇を噛み、拳を振り上げてダナエに殴りかかろうとする。
「ダナエッ!」
コウはかまいたちを放ち、男の顔を斬りつけた。
「うお!てめえ・・・・。」
そこへトミーが殴りかかり、男を吹き飛ばした。
「ぐはあッ!」
「何してんだてめえッ!ぶっ殺すぞッ!」
トミーは倒れた男をガンガン蹴りつけ、髪の毛を掴んで頭を持ち上げた。
「どういうつもりだお前!何をいきなり殴ってんだよ、ああ!」
「痛てえなあ・・・。キレてんじゃねえよゾンビが・・・。」
「・・・てめえ。調子に乗ってるともっと痛い目に遭わすぞ。」
トミーは拳を握って男を殴ろうとする。
しかしダナエがその腕を押さえて、「やめて!」と叫んだ。
「暴力はダメよ!拳を下ろして!」
「だって・・・こいつはダナエちゃんを・・・。」
「平気よこれくらい。すぐ治るから。」
ダナエは髪を一本ぬいて、息を吹きかけて頬にこすりつけた。赤く腫れていた頬が元に戻り、口元から流れていた血も治まった。
「魔法か・・・。便利なもん持ってるよなあ、この星の奴らは・・・・。」
男は吐き捨てるように言い、口の中の血をペッと吐き出した。するとダナエはもう一本髪を抜き、男の傷を治してやった。
「ごめんね。私、何かあなたの気に触ることを言っちゃったみたいね。」
「・・・・なんだよ、善人ぶりやがって・・・。俺は感謝なんかしねえぞ。」
「いいわよそんなの。私はあなたにお話があって来ただけだから。」
ダナエはニコリと笑いかけ、男の手を取って立たせた。
「おいてめえ。もう暴れるんじゃねえぞ。」
トミーは目をつり上げて睨みつける。男は「へ!」と悪態をつき、腕を払って小屋の中に戻っていった。
「帰れよ。俺は誰とも話なんかしたくねえ。」
男は拗ねた少年のようにむくれてタバコを咥える。
彼のぶっきらぼうな態度は、何かの心の傷を隠すものだとダナエは感じていた。

 

                      (つづく)

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