サックスアンドザシティ

  • 2014.03.13 Thursday
  • 21:02
人生では予期せぬ出来事がしばしば起きる。
それは人の期待を裏切る時もあれば、期待以上のものを授けてくれることもある。
でもどちらにしろ、それを決められるのは神様だけで、私には何の決定権もないのだ。
いつかやってくる予期せぬ出来事を待ちながら、はや20年。
この町に来た時は、夢と希望に胸を膨らませていたけど、今は汚臭のするプライドと意地があるだけだ。
でもだからといって、投げやりに人生を過ごしたくはない。
私は私なりに、きちんと生きているのだから。
でもどんなに頑張ったって、一人では耐えられない時もある。
そういう時・・・一番頼りになるのが友達だ。
人生において、気の置けない友達ほど素晴らしい宝物はないのだから・・・。


            *******

 

ここはニューヨークの外れにある、サックスタウンという町だ。
その名の通り、サックスで有名な町である。
ここには腕のいいサックスの職人がたくさんいて、その職人の腕を目当てに音楽家たちが集まる。
私はそんなサックスタウンの中心にある、古いアパートに住んでいる。
風呂とトイレは部屋にあるけど、なぜかキッチンだけが共同なのだ。
ずいぶんおかしなアパートだけど、これはこれで中々楽しいものだ。
「ねえキャシー。今日の夜に合コンがあるの。
相手は一流音楽家とその弟子たち。あんたも一緒に行かない?」
そう言いながら魚をおろしているのは、下の階に住むシャマンシャだ。
村起こしのプロデュースを企画する会社を運営していたが、一か月前に倒産。今は無職だ。
「あんたねえ、もう合コンなんて歳じゃないでしょ?ここにいる女たちはもう40手前なのよ?
そんなもんが群れで行ったら、相手が逃げ出すに決まってるじゃない。」
そう言って肩を竦めながら話しているのは、向かいの部屋に住むミランダン。
ニューヨークの一流弁護士事務所で働いていたけど、半月前に倒産。今は無職だ。
「でもこの歳になったからこそ、出会いって大切よ?
若い時は男の方から寄って来るけど、今は目が合っただけで逃げちゃうもの。
だからこっちから出会いの場を作らないと。」
明るく喋りながら豚肉をミンチにしているのは、元お嬢様のシャルロット。
馬糞の肥料を高値で売り付ける資産家の令嬢だったが、父が逮捕されて破産、今は無職だ。
「確かにシャルロットの言うとおりね。この歳になると出会いが減るもの。
シャマンシャ、私その合コンに行くわ。もうそろそろ・・・理想の男と出会いたいしね。」
そう言って何もせずに酒を呷るのは、わたしくことキャシー。
夢と男を求めて二十年前にこの町に出て来た。ちなみに生まれてこのかた無職だ。
その夜・・・私たちは合コンへ行った。
渋っていたミランダンも、いざ合コンが始まるとノリノリだった。
でも結果はいまいち。音楽家たちは誰も私たちに興味を示さなかった。
男たちと別れ、女四人で寂しく飲みに行く。
「・・・はあ。結局女って年齢なのよね。あの音楽家崩れども・・・人を豚でも見るような目をしてたわ・・・。」
シャマンシャはボトルでウォッカを呷り、葉巻に火を着けて一息で灰に変える。
「だから言ったじゃない。四十手前の女なんて誰も相手にしないって。」
「なによミランダン。あんたノリノリだったくせに、えらく知ったかぶっちゃって。本当は傷ついてるんでしょ?」
「ぜ〜んぜん。最初からこうなることは予想出来たもの。
だってあいつらの目、馬の糞のでも見るような目つきだったじゃない。
だから初めからこういう結果になることは分かってたわ。」
ミランダンは面白くなさそうに言い捨て、お金をテーブルに叩きつけた。
「それじゃ私はもう帰るわ。明日はハローワークに行かなきゃいけないから。じゃあね。」
「ふん・・・妙に悟ったようなこと言っちゃって・・・。」
シャマンシャは唇を尖らせてミランダンが出て行ったドアを睨みつけた。
「私もそろそろ帰るね。明日は父に面会に行かなきゃいけないから。」
シャルロットもテーブルにお金を起き、スタスタと店を出て行ってしまった。
「ふん!何よ・・・どいつもこいつも・・・。どっちも無職のくせにさ。」
「それはあんたもでしょ?」
「生まれてこのかた無職のあんたに言われたくないわよ。
いったいいくらお金を貸したと思ってんの?」
「それもそうね。」
私はニコリと笑って肩を竦める。
生まれてこのかた無職の私は、人にたかる以外に生きていく方法を知らないのだ。
「それじゃ私も帰るわ。もしかしたら、新しい事業を立ち上げるかもしれないから。」
「また会社を起こすの?」
「もちろん。私は人に使われるなんて絶対に嫌なの。それじゃまたね。」
シャマンシャは私の分の代金も起き、お尻を振りながら店を出て行く。
「ちょっと待ってよ!私も帰るわ。」
慌てて彼女の後を追って店を出る。
すると、シャマンシャは道路の前で固まっていた。
「どうしたの?ボーっと立ち尽くして?」
「・・・キャシー。あいつら裏切り者よ・・・・。」
「裏切り者?どういうこと?」
そう尋ねると、シャマンシャは道路の向かいを指さした。
するとそこには、先ほど店を出て行ったミランダンとシャルロットがいた。
それも・・・さっきの合コン相手の男たちと手を繋いで・・・。
「あいつら・・・ちゃっかり男をゲットしてたんだ・・・。
だからあんなに余裕ぶっこいたセリフを吐いてたのよ・・・。」
シャマンシャのこめかみに血管が浮き上がる。
きっと・・・悔しくて悔しくてたまらないんだろうな。
自分がセッティングした合コンなのに、友達だけが男に恵まれるなんて。
「・・・・・・・・・・・。」
シャマンシャは悔しそうに唇を噛んでいたが、やがてフッと力を抜いて踵を返した。
「帰るの?」
「・・・・・・・・・・・。」
私は彼女の背中に声を掛ける。でも返事はない。
きっと傷ついているのだろう。今はそっとしておくべきだ。
その日の夜、シャマンシャは一人寂しく『ブリジット・ジョーンズの日記』を観て過ごした。


            *


翌日、シャルロットが泣きながら私の部屋へ駈け込んで来た。
「キャシー!私もうダメ!」
「どうしたのよ?裸のまま入って来るなんて・・・・。」
「だって・・・彼が・・・昨日の彼が・・・・・。」
「とにかく服を着て。そこにこの前の仮装で使ったブラックマジシャンガールのコスプレがあるから。」
私はいそいそとマジシャンガールのコスプレを着せ、シャルロットをベッドに座らせた。
「何か飲む?」
「・・・こぶ茶。」
私はキッチンへ行き、リトル東京で買ったこぶ茶をティーポットに淹れる。
そして金魚の湯呑みに注いで手渡した。
「はい。」
「・・・ありがとう。」
シャルロットはブラックマジシャンガールのコスプレをしたまま、金魚の湯呑みでこぶ茶をすする。
「それで?いったい何があったっていうの?」
隣に腰掛け、肩を撫でながら尋ねる。
するとシャルロットは、またグスグス泣き始めた。
「昨日の・・・昨日の音楽家の彼が・・・・。」
「昨日の彼が?」
「担当楽器がバイオリンじゃなくて、カスタネットだったの・・・・。
そんなの・・・そんなのって・・・・。カスタネットなんかカタカタ鳴らすだけじゃない!
私だって出来るわよ!」
「シャルロット、よく聞いて。単純な楽器ほど難しいのよ。
もしカタカタ鳴らすタイミングを間違えたら、それこそカスタネットの奏者としては失格よ。
逆にいえば、彼はそれだけカスタネットが上手ってことじゃない。」
「違う!彼は下手くそよ!
昨日の晩だって、ベッドで身体を重ねてると・・・・口でカタカタ口ずさむの!
しかも全部タイミングを間違えてるのよ!だから・・・私を残して自分だけ気持ちよく・・・。
もういや・・・あんな男・・・。」
「・・・それは・・・何とも言えないわね。」
シャルロットはこの世の終わりみたいな顔で、こぶ茶を一気に飲み干す。
今は傷心なのだろう。そっとしておいてやるのが一番いいかもしれない。
すると、今度はミランダンが部屋に駆けこんで来た。
「キャシー!私はもうダメかもしれない・・・・。」
そう言いながら、裸に蝶ネクタイだけ締めたミランダンが抱きついてくる。
「どうしたの?あんたまで裸だなんて・・・。」
「だって・・・だって昨日の男が・・・・。」
「昨日のって・・・あの音楽家の?」
「そうよ!あいつ・・・・ベッドに入る前に、私に指揮者をしろって言ったの!」
「指揮者・・・?」
「オーケストラの指揮者よ!裸になって、蝶ネクタイだけ締めて指揮をしてくれって・・・。」
「それままた・・・変わった趣味ね。」
「それだけならまだいいわよ!私が許せないのは・・・あいつ一人だけ楽しんだってことよ!」
「どういうこと?」
そう尋ねると、ミランダンは急に立ち上がって、近くにあった定規を手に取った。
そしていきなり裸のままで定規を振り始めたのだ。それもオーケストラの指揮者のように。
「昨日の晩・・・ずっとこれをやらされてたの・・・。
無理矢理椅子の上に立たされて、それで指揮してくれって。
そしたらあいつ・・・私の指揮に合わせて一人で始めちゃったのよ!
それも四時間ぶっ通しでよ!
こっちは何にも楽しくないのに、向こうだけ何度もフィニッシュして・・・・。
こんなの・・・こんなの許せない!自分だけ楽しんで、気持ちよくなるなんて・・・。
やっぱり男なんか最低よ!」
ミランダンは定規を床に叩きつけ、裸に蝶ネクタイのまま項垂れる。
「昨日の男たちはハズレだったみたいね・・・・。」
「まったくよ・・・。私、しばらく合コンなんか行かない!」
ミランダンの怒りはもっともだろう。
私だってそんなことをされた日には、相手を紐で縛りつけて送電線の鉄塔の上にぶら下げてやる。
シャルロットとミランダンは傷心に打ちひしがれ、おいおいと泣き喚いている。
そこへ今度はシャマンシャがやって来た。
「はあ〜い!みんな!今日も合コンしましょ!」
そう言ってパチパチとウィンクを飛ばすシャマンシャ。
しかしその姿を見て私は絶句した。
「ちょっと・・・その恰好はなに?」
「ああ、これ?けっこう似合うでしょ?」
シャマンシャは真っ白な学生シャツに、紺色の学生スカートを穿いていた。
そして膝下までの真っ白な靴下を履き、頭はおさげに結ってある。
「昨日の合コンで気づいたんだけど、やっぱり女は若さが大事よね。
だから若い恰好をしてみたんだけど・・・似合う?」
シャマンシャは自信満々にポーズを決めて見せる。
私はため息を吐き、首を振りながら「シャマンシャ、色々と間違ってるわ」と否定した。
「いくら学生の恰好をしても、あなたはもう学生じゃないでしょ?
だから・・・・その恰好は意味がないと思う。」
「そんなのやってみなきゃ分からないじゃない。
で、で、今日も合コンやるんだけど、行く人は手を挙げて〜。」
シャマンシャはピンと手を伸ばし、ニコニコとみんなを見渡す。
しかも誰も手を挙げる者はいなかった。
「何よ。せっかく今夜も合コンをセッティングしてあげたのに、誰も行かないわけ?」
そう言って不満そうに唇を尖らせる。
私は再びため息を吐き、みんなを見渡しながら言った。
「いい、みんな。もっとしっかりしましょう!
だって・・・なんだか今日のみんなは、色々と間違ってるもの。
だからもう少し真人間にならないと、ロクな男が寄ってこないわよ?」
私は諭すように、そして宥めるように優しい口調で言った。
するとみんなは一斉に冷めた目を向け、口を揃えて叫んだ。
「生まれてこのかた無職の奴が偉そうに言うな!」
「な、何よ・・・みんなだって今は無職じゃない!
そっちこそ偉そうに言わないでよ!」
私の部屋で汚い罵り合いが始まり、お互いの心を抉り合っていく。
しかししばらくすれば、一斉に笑い出してどうでもよくなった。
そして嫌な事を忘れる為に、みんなで飲みに行くことにした。
何があっても、私たちの友情は永遠。
私は誰よりもお酒を飲み、誰よりも料理を食べた。
いつものようにシャマンシャに奢ってもらい、「いい加減働け!」とビンタをかまされた。
私の素敵な友達・・・これからも永遠に・・・・。
 

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