ダナエの神話〜異星の邪神〜 第九話 決戦!邪神の軍勢(2)

  • 2014.04.05 Saturday
  • 20:02
「何かが来る・・・・・。」
アマテラスはゴクリと息を飲んで後ずさった。
暗い穴の中から、いくつかの邪気が迫って来ていた。それも身も凍るほどの凶悪な邪気だった。
神々は息を飲んで身構える。すると・・・穴の中から、空想の牢獄に閉じ込められていた化け物たちが姿を現した。
「・・・ようやく・・・ようやく外に出て来られた・・・。」
艶やかな黒いボディをした魔王が、嬉しそうにニヤリと笑った。背中に12枚の翼を持ち、頭には長い角が二本生えている。綺麗な赤髪をオールバックになでつけ、いかつい顔をしていた。
「ル・・・ルシアファー・・・・空想の牢獄から逃げ出したのか・・・。」
ダンタリオンが怯えながら後ずさる。
「脆弱な神どもが揃っているな。かつて私を空想の牢獄に閉じ込めた罪、今こそ思い知らせてやる!」
ルシアファーは天に向かって両手を挙げた。すると暗い穴の中から、恐ろしい悪魔たちが続々と現れた。
巨大な蠅の姿をした、偉大なる魔王ベルゼブブ。人の顔に風の身体を持った、宇宙を駆ける邪神ハスター。いくつもの顔と腕を持つ、怪力の巨人ヘカトンケイル。そして最後に出て来たのは・・・・・真っ白な顔をした、美しい人間の女であった。彼女の後頭部には男の顔が縫い付けられていて、喘ぐように絶叫していた。
空想の牢獄に閉じ込められていた化け物は、その全てが地上に出て来ていた。神々は言葉を失くし、おぞましい悪寒が背中を這った。
「ぜ・・・・全部出て来ているではないか!これはどういうことだスサノオ!」
ゼウスが怒って掴みかかる。
「うるさい!出て来たものは仕方ないだろうが!とりあえず・・・まとめてぶっ倒したらいいんだ!」
「それが無理だから怒っているんだろう!お前は事の重大さが分かっていない・・・・、」
ゼウスが怒って殴りかかろうとした瞬間、彼の腕は斬り落とされた。
「・・・・・・・・ッ!」
「ゼウス・・・この色情神め・・・。俺は忘れんぞ・・・お前に食らった稲妻の痛みを・・・。」
「ハスター・・・。」
ハスターは何とも形容しがたい悪魔だった。陰険な男の顔がポツリと浮かび、その下はユラユラと揺れる風の身体をしていた。しかし決まった形というものはなく、ノイズがかかったテレビのようにざらついている。
「お前を殺し、空想の牢獄に閉じ込める。その後はクトゥルーだ。あいつは俺の宿敵・・・決して許しはしない。」
ハスターはゼウスに襲いかかった。風のような身体でゼウスを覆い、一瞬にして全身を切り刻んでしまった。
「ぬぐあッ・・・・。」
「父上!」
娘のアテナが、しもべの女神ニケを連れて助けに入る。アテナは自慢の槍で突き、ニケは彼女の勝利を祈る。しかし・・・・ハスターには効かなかった。それどころか、父と同じように身体を斬られてしまった。
「ああ!」
「アテナ様!」
助けに入ったニケも、首に巻きつかれて呪いをかけられ、ものの数秒で絶命してしまった。
「お前ら!ボケっとしてるな!儂らも戦うのだ!」
スサノオの声を合図に、神々は戦いを始める。空想の牢獄から抜け出して来た悪魔は、それを迎え撃つように応戦した。
光の壁では、神々と最強の悪魔たちとの戦いが始まった。数では神々の方が勝るものの、個々の強さでは、牢獄の悪魔の方が上だった。
神々はどんどん命を落とし、名のある神でさえも力尽きていく。
「・・・おのれええ・・・・こんな所で・・・・。」
「もう・・・終わりだわ・・・・。」
トールとアルテミスが討ち取られ、オーディンまでもが危うくなる。
「北欧の神の力、舐めるなよ!」
オーディンの持つ神の槍、グングニルがルシファーに突き刺さる。しかし・・・まったく効いていなかった。
「こんなオモチャで何が出来る?貴様ら多神教の神など、しょせんは取るに足らぬ存在だ。」
ルシファーは腹に刺さったグングニルを抜き、枝でも折るようにポキリと折ってしまった。
「な、なんと!私の自慢の槍が・・・・、」
「貴様ら全員・・・・空想の牢獄へ行ってもらおうか!」
ルシファーが翼を広げると、黒い後光が射した。傷ついた神や、力の弱い神は、その後光に触れただけで命を落としていく。もはや誰もルシファーに近づくことさえ出来なかった。
その横では、ヴィシュヌとブラフマーが、ベルゼブブと睨み合っていた。
「蠅の悪魔、ベルゼブブ・・・ルシファーに次ぐ実力者か・・・。」
「ブラフマー殿、シヴァの気が近づいているのを感じます。彼が戻るまで、何とか持ち堪えましょう。」
ベルゼブブは二人の神を睨み、余裕の笑みを浮かべた。
「インドの神々か。遊び相手としては充分だが・・・儂を討ちとれると思うのは、少し思い上がっているのではないか?」
「ぬかせ!我らの命と引き換えにしても、お前を空想の牢獄へ封じてやる!」
ヴィシュヌは天に向かって祈りを捧げた。そしてブラフマーは大地に向かって祈りを捧げた。
祈りを聞き届けた天と大地は、目には見えない強力な力を発した。天の力と大地の力が、ベルゼブブを挟んで押し潰そうとする。
「ぬうう・・・・小癪な・・・。」
ベルゼブブの身体はミシミシと悲鳴を上げる。インドの最高神の力が、凶悪な魔王を粉砕しようとしていた。そこへシヴァとインドラが戻って来て、二人に加勢した。
「インドラ!特大の雷を落としてやれ!」
「おまかせを!」
インドラは印を結び、天に向かって「ひゃあああああああ!」と叫んだ。するとどこからともなく雷鳴が響き、眩い稲妻がベルゼブブを貫いた。
「ごふう・・・・し、痺れるではないか・・・。」
「駄目だ・・・。ほとんど効いていない・・・。」
インドラの雷も、ベルゼブブにはほとんど効果がない。
「ならば俺の光線でトドメを刺してやる!」
シヴァはベルゼブブの前に立ち、額の目から強力な光線を放った。五十万度の灼熱が、身動きの取れないベルゼブブに襲いかかる。
「うほおおおおおおおう!」
さすがのベルゼブブも堪らず声を上げる。しかし余裕の笑みで耐えてみせた。
「どれもこれも悪くない攻撃じゃが・・・儂を討ち取るには力が足らんな。」
インドの三大神の攻撃も、ベルゼブブにはほとんど効かなかった。
「さて、今度はこちらの番じゃな。儂の攻撃・・・・耐えてみせい!」
ベルゼブブは大きな目を光らせ、背中の羽を震わせた。すると大地に巨大な髑髏が現れて、気持ちの悪い笑い声を上げた。
「蠅とは死に群がる虫・・・ゆえに、儂は死を運ぶ悪魔でもある。貴様らの命、我が眷属によって、跡形残らず食らい尽くしてくれよう!」
ベルゼブブがパチンと指を鳴らすと、髑髏の口と目から、大量の蠅が湧いてきた。
「むうう・・・なんだこの蠅は!いくらでも湧いてくるではないか!」
ベルゼブブの呼び出した蠅は、彼によって殺された者たちの魂だった。絶望と苦痛だけの感情を持ち、命ある者を徹底的に貪るのだ。
インドの神々は蠅に取りつかれ、なす術なく食らい尽くされていく。
「おのれああああああ!この程度でくたばるかあああああ!」
怒ったシヴァは光線を乱射するが、いくら倒してもキリがなかった。堪らず膝をつき、その場に倒れてしまう。髑髏はインドの神々を飲み込み、空想の牢獄に閉じ込めた。
そこから少し離れた場所では、ギリシャの神々が戦っていた。ハスターとヘカトンケイルを相手に苦戦を強いられていた。
主力であるゼウスとアテナが傷を負い、思う存分力が出せない。ポセイドンもハデスも奮闘するが、ハスターの不可解な攻撃と、ヘカトンケイルの怪力の前に手を焼いていた。
「やばいぜ、このままじゃ・・・。いっそのこと逃げるか?」
盗人と商人の神のヘルメスが、ツンツンとアポロンの肘を突く。
「そんなこと出来るか!アルテミスがやられてしまったんだぞ!兄として黙っていられん!」
アポロンは得意の音楽を奏で、ヘカトンケイルの気を引く。
「今だ!誰か攻撃を!」
一瞬の隙をつき、ハデスが剣を振ってヘカトンケルの腹を切り裂いた。ポセイドンも三又の槍で顔を潰し、腕を斬り落とした。
ヘカトンケイルは堪らず倒れこむが、そこへハスターが襲いかかってきた。身体の風を膨らませ、ギリシャの神々を一気に飲み込む。
「ぐおおおおおお!」
ハスターの風は時空を駆ける力を持っていた。ギリシャの神々は空想の牢獄へ閉じ込められ、残りはゼウスとアテナだけになってしまった。
「ぐぬう・・・おのれハスター・・・。」
「クトゥルーが穴を空けたおかげで、空想の牢獄は脆くなっている。それゆえに我らは抜け出すことが出来た。もしお前たちに我々と同じくらいの力があるのなら、きっと空想の牢獄から抜け出せるだろう、はははは!」
ハスターは知っている。地上の神々の力では、決して空想の牢獄から抜け出せないことを。
「神というのは時間が経てば復活するから、いくら倒してもキリがない。ゆえに殺すのは得策ではない。一番良い方法は、二度と抜け出せない牢獄に閉じ込めておくことだ。」
「だから・・・我らの仲間を空想の牢獄に送ったのか・・・?」
「地上から神々を消し去るには、最善の方法だ。そして邪魔者がいなくなったあと、クトゥルーと決着をつける。奴が本気を出せば・・・この俺とて危ういかもしれんがな。」
クトゥルーの本当の恐ろしさを知るハスターは、ブルリと身振るいした。
「我々クトゥルー神話の神は、地球の神とは比べ物にならない力を持っている。長きに渡って宇宙を旅して、やっとこの星に辿り着いたのだ。今までに出会った強敵に比べれば、お前たちなど取るに足らない存在だ。そんなことだから・・・・あんな異星の邪神ごときに遅れを取るのだ。」
「貴様・・・邪神を知っているのか!」
ゼウスは驚いて尋ねた。
「牢獄の中にいても、お前たちの喚き声が聞こえていたぞ。あんな雑魚に慌てるなど、やはりこの星の神は大したことがない。今こそ、我らがこの地球の支配者にな・・・・、ふべらッ!」
「黙って聞いていれば好き勝手に言ってくれおって!この星の神が弱いかどうか、自分で確かめてみるがいい!」
大日如来を駆るアマテラスが、ハスターに向かって拳を振り下ろした。
「おっと・・・そんな鈍間な攻撃は食らわな・・・・・、へぶしッ!」
「私もまだ死んでおらんわ!アマテラス殿!こやつにトドメを刺しましょうぞ!そして二度と復活できないように、宇宙の彼方にまで飛ばしてやる!」
「おのれらああああ・・・・覚悟せいやボケええええええ!」
ハスターは怒り狂って暴れた。そして・・・そこから離れた場所では、スサノオが人間の女と睨み合っていた。女は肩までの短い黒髪で、彫りの深い美人だった。白いワンピースを身に着け、後頭部に縫い付けられた男の顔が絶叫を上げていた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
女は黙ってスサノオを睨む。人間の姿をしているが、その雰囲気はおよそ人のものではなかった。
「・・・お主・・・人の姿を借りた悪魔だな。それも・・・もっとも恐ろしい悪魔だ。」
スサノオは見抜いていた。この女がただの人間ではないと。人の姿は仮初めのもの。彼女の身に宿る魂は、この場にいる誰よりも邪悪な気を放っていた。
「ひ弱な人間の姿をしているが、その正体は・・・・・悪魔王サタンだ!」
スサノオは剣を振り上げて斬りかかった。しかし女は、指一本でそれを受け止めた。
「・・・・・・・・・・。」
女は顔を上げ、ニコリと微笑む。するとグルンと首が一回転し、後頭部が前に来た。縫い付けられた男の顔が、スサノオを睨んで雄叫びを上げる。
「なんともおぞましい悲鳴・・・儂の肝が冷えておるわ。」
豪胆なスサノオでさえ、背筋に冷たい汗が流れた。女は剣を握りしめ、バキバキと砕いてしまった。
「儂の剣が・・・こうも容易く・・・・、」
そう言いかけた次の瞬間、スサノオの腹に激痛が走った。
「ぐふうッ・・・・。」
続いて顎に衝撃が走り、その次はこめかみに衝撃が走る。
「がはあッ!」
スサノオの巨体がいとも簡単に吹き飛ばされ、ドクドクと血を流していた。女の拳にはスサノオの血が付いていた。それをペロリと舐め、白いワンピースを翻して飛び上がった。
そして胸いっぱいに息を吸い込み、スサノオに向かって吐き出した。悪魔王の白い息吹が、ゆっくりとスサノオを包む。
「ぬうう・・・この息はいったい・・・・・。」
白い息はスサノオの皮膚に染み込んでいく。すると彼の身体は、石膏のように白く固まり始めた。
「儂を石像に変えるつもりか!」
スサノオは立ち上がり、腕の筋肉を膨らませて力を込めた。
「ぬおおおおおお・・・・儂の鉄拳、耐えてみい!」
鋼鉄の何百倍も硬いスサノオの拳が、女に向かって振り下ろされる。ドシン!と大きな音が響き、地震のようにグラグラと大地が揺れた。
「・・・・・・・・・・・・。」
女はぺちゃんこに潰れていた。踏み潰された蟻のように、見る影もなくなっている。
しかし・・・死んでいなかった。致命的なダメージを受けたにも関わらず、ゆらりと立ち上がって笑い出した。
「気味の悪い奴よ・・・今度こそ潰してくれる!」
再びスサノオの拳が襲いかかる。またしてもぺちゃんこにされる女だったが、それでも立ち上がってきた。
「うぬうう・・・こやつ不死身か・・・。」
スサノオの身体は白い息に侵されていた。下半身は完全に石膏のように固まり、徐々に胸の辺りまで迫ってくる。
「ぬうう・・・・まずい・・・・。」
慌てるスサノオだったが、成す術はなかった。首の辺りまで白く固まり、ついには全身が石膏になってしまった。
「・・・・・・・・・・・・。」
女は石膏になったスサノオを見上げ、グルリと頭を回転させた。元の顔が前に来て、じっとスサノオを見つめる。
「・・・・・いい身体・・・・。」
艶めかしく微笑み、スサノオに触れる。そしてそっと目を閉じ、身体から黒い靄が抜けだした。
それは悪魔王サタンの魂であった。人間の身体を捨て、スサノオの身体に侵入する。
サタンが入っていた人間の身体は、干からびたカエルのようになって倒れた。後頭部の男の顔が、後ろを向いたまま絶命していた。
「・・・・・・・・・・・・。」
サタンはスサノオの身体に侵入したあと、彼の魂を追い出した。スサノオの魂がポン!と身体から飛び出て、グルグルと宙を彷徨った。
「・・・手に入れた・・・・新しい身体・・・・。」
サタンはスサノオの身体を乗っ取ってしまった。白い石膏がバキバキと剥がれ、中から真っ白に染まったスサノオが現れる。
「・・・・いい身体・・・・役に立ちそう・・・・。」
新たな身体を手に入れ、試運転でもするかのように手足を動かす。宙を漂っていたスサノオの魂は、《儂の身体を返せ!》と怒っていた。
《サタンめ!儂の身体を乗っ取るなど許さんぞ!》
「・・・だから何?ウザいから消えて・・・。」
サタンはピン!とデコピンを放った。スサノオの魂は弾き飛ばされ、それを受け取ったベルゼブブが髑髏の口に放り込んだ。
《ぬあああああああああ!》
スサノオの魂は空想の牢獄へ送られてしまった。残った神は、ゼウスとアテナ、大日如来を駆るアマテラス。そして・・・光の軍団を率いたアフラ・マスダだけだった。
アフラ・マスダは威厳のある老人の顔をしていて、川のようにユラユラと流れる金色の法衣を纏っていた。その力は強大で、ルシファーと正面から戦っていた。
そして配下の天使も強かった。スプンタ・アールマティを含め、六人の天使がルシファーと戦っていた。巨人のように大きな身体を持ち、白い法衣を纏うウォフ・マナフ。身体じゅうが燃え盛り、烈火のごとき正義感を持つアシャ・ヴァヒシュタ。金属の皮膚を持ち、頭に王冠を乗せているクシャスラ。
そしてアールマティと同じく、美しい女天使が二人。金色の長い髪を持ち、水のヴェールを身に着けたハルワタート。綺麗に編んだ緑色の髪を持ち、木目模様の入ったドレスを纏うアムルタート。六人の天使たちが、アフラ・マスダと共にルシファーを相手に奮闘している。
「なかなか手強いな・・・。だが、私を殺すには至らない。」
ルシファーは翼を広げて舞い上がり、両手を広げて咆哮した。辺りから光が消え去り、夜のように闇が訪れる。それはアーリマンの生み出す虚無の闇とは違い、全てを地獄へ誘う悪魔の闇だった。
アフラ・マスダは強烈な光を放って闇に対抗した。六人の天使も、六芒星のように陣形を整え、光の線を結んで結界を張る。しかしルシファーの闇の力は強力だった。彼らの結界にヒビを入れ、中に闇が侵入してくる。
「のおおおおおおお!」
「あああああああああ!」
アフラ・マスダの光は掻き消され、地獄へ誘う闇が襲いかかる。
「このまま負けられませんわ!みんな、今こそアレを!」
アール・マティが叫ぶと、六人の天使たちはアフラ・マスダに融合した。
「ぬうううううりゃああああああ!」
天使の力を吸収したアフラ・マスダは、眩い光を放って闇に対抗する。
「ほほう・・・やるではないか。しかし無駄だ・・・。その程度では私の闇は消せない。」
ルシファーが力を込めると、空間が波打つようにグニャリと歪んだ。アフラ・マスダは空間の歪みの中へ飲み込まれていく。
「負けぬ・・・・これしきで・・・・。」
「まだ耐えるか・・・。では仕方ない。お前も空想の牢獄へ行け。」
ルシファーがパチンと指を鳴らすと、また空間が波打った。アフラ・マスダと六人の天使が分離され、そのまま空想の牢獄へ飲み込まれていった。
ルシファーとベルゼブブ、そしてサタンは、勝利を確信してニヤリと笑った。ベルゼブブは辺りを見渡し、首を捻ってルシファーに尋ねた。
「ヘカトンケイルがいませんな?もしや・・・・、」
「・・・死んだ。怪力しか取り得のない奴だ。やられてもおかしくはない。」
「・・・・役立たずね・・・。」
「サタン・・・そのいかつい顔で女言葉を喋るな・・・気持ち悪い・・・。」
三人の魔王は、残った神々を睨んだ。ゼウスにアテナ、そして大日如来とアマテラスは、ハスターに苦戦を強いられていた。
「どうした?一つも俺にダメージが通っていないぞ?」
「ぐぬう・・・・悔しいが・・・普通の攻撃ではどうしようもない・・・。以前より強くなっているし・・・。」
「父上・・・もはやこれまでかもしれません。」
「何を言う!私は全知全能のゼウスなるぞ!こんな宇宙人モドキの悪魔になどやられたりは・・・・・、ぐっはあ!」
ハスターの風がゼウスの胸を貫いた。
「父上!・・・・あああああ!」
アテナの胸も貫かれ、父の上に倒れる。ハスターは二人を風で包み、空想の牢獄へと送り込んだ。
「他愛ない・・・これで残るわ・・・・。」
ハスターはゆっくりと後ろを振り向く。そこにはボロボロになった大日如来がいた。
「日本の最高神が二人・・・貴様らを仕留めれば全て終わる・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
アマテラスは焦っていなかった。それは・・・微かに繋いだ希望が、きっと状況を変えてくれると信じていたからだ。自分はここで倒れるが、それでも皆が死ぬわけではない。
まだ・・・まだ仲間が残っている。クー・フーリンとスクナヒコナ、それにクトゥルーとワダツミもいる。そして・・・・あのミヅキという少女。人間でありながら、どこか光るものを感じさせてくれた。それは淡い期待に過ぎないが、それでも希望としては充分だった。
「ハスターよ・・・。私はここで敗れるだろう。だがしかし!地球はお前たちの手に落ちることはない。一時は奪われるかもしれぬが、きっと・・・・きっと彼らが取り戻す!その時の為、私はこの命に代えてもお前を討ち取ろう!」
「はははは!どうやって?ゼウスも適わぬこの私に、お前たちがどう挑むというのだ?」
「日本の神々の力は・・・・あらゆるものを融合させることにある。万物に魂が宿る八百万の神の力・・・・とくと見るがいい!」
アマテラスは胸の前で手を合わせ、光そのものに姿を変える。彼女の身体は全身が輝き、そして大日如来も輝きだした。二人の神は光になって混ざり合い、一人の神となって現れた。
「ぬおおおおお!これは・・・・・。」
アマテラスと大日如来が融合し、女神のような、そして仏のような姿をした神になっていた。
髪は白銀のように美しく、ユラユラと揺れるようになびいている。顔は男とも女とも区別がつかず、美しくも精悍であった。そして平安時代の貴族のような、ゆったりとした白い服を纏い、手には大きな太刀を持っている。首には勾玉、そして腰には数珠が巻いてあった。
「ハスターよ・・・・我が攻撃は一度きり、それに全てを懸ける・・・。」
大日アマテラスは、太刀を抜いて大上段に構えた。どこからともなく後光が射し、神々しく輝き出した。
「無駄だ・・・そんな力は俺には通用しない。」
ハスターは攻撃してみろと言わんばかりに手を広げた。
「では・・・・てやああああああ!」
大日アマテラスの太刀が振り下ろされる。しかし・・・ハスターには効かなかった。まるで霧のように身体をすり抜け、大地に突き刺さる。
「だから言っただろう、通用しないと。さて、これが最後の攻撃だったな。今度は俺の攻撃を・・・・、」
そう言いかけた時、ハスターは違和感を覚えた。いくら前に進もうと思っても、その場から動くことが出来ないのだ。
「なんだ・・・どうなっている?」
「我が太刀の力だ。これは敵を斬る為のものではなく、動きを封じてしまう為のものだ。」
「何いい・・・・・。」
ハスターは必死に動こうとするが、全く前に進まない。後ろにも横にも行けず、身体の形を変えることも出来なかった。
「さて・・・それでは最後の攻撃をさせてもらう!大日アマテラス、モードチェンジ!」
大日アマテラスは、手を合わせて目を閉じる。するとニョキニョキと腕が生えてきて、千手観音の姿に変わっていった。アマテラスは元の姿に戻り、コクピットの椅子に座る。
「いくぞよ!」
アマテラスがパチンと指を鳴らすと、彼女の衣装がパイロットの服に変化した。長い髪を後ろで縛り、気合を入れてレバーを握った。
千手観音は拳を構える。それを見たハスターは慌てながら叫んだ。
「おい待て!攻撃は一度きりじゃなかったのか!神が嘘をつくつもりか!」
「はい?誰もさっきのが最後の攻撃だなんて言ってませんけど?」
「そ、そんなことあるか!刀で斬りかかっておいて、攻撃じゃないなんて通用しないだろう!」
「だから?」
「だ・・・・だからって・・・。」
「そんなのはそっちが勝手に勘違いしたんでしょう?こっちに愚痴られてもねえ・・・。」
「そ、そんな屁理屈があるか!さっきのは間違いなく攻撃だ!二度目の攻撃は止めろ!それとも日本の神は嘘をつくのか!」
ハスターは必死に攻撃を止めさせようとする。アマテラスは呆れたように「はあ・・・」ため息を吐いた。
「古代の邪神よ、いいことを教えてあげよう。」
「な、なんだ・・・?」
「確かにお前は強い。しかしその分思い上がっている!それゆえに足元をすくわれ、敵の術中に嵌るのだ。以前もそうやって封印されたのを忘れたか?」
「・・・・・・・ッ!」
「あの太刀はオトリ。これからが本当の・・・そして最後の攻撃ぞ!」
千手観音は二十四本の腕で拳を握り、ハスターを殴り飛ばした。
「ぐはあ!」
「まだまだこれからよ!」
アマテラスはレバーを握りしめ、高速で前後に動かした。
「はいやあああああああああ!」
「ぐはああああああああああああああ!」
千手観音の拳が、マシンガンのようにハスターをどつきまわす。そのスピードはさらに加速していった。
「はいやあああああああああああああああ!」
「ぶべらあああああああああ!」
アマテラスはコクピットから立ち上がり、レバーを壊す勢いで動かし続けた。
「ああああたたたたたたたたたたたた!ほあたああああああああ!」
「ぐっはあああああああああッ・・・・・・。」
もともと形という形を持たないハスターであったが、さらに形が崩れて吹っ飛んでいく。まるでボロ雑巾のようにボロボロになり、千手アマテラスの方を睨んで、プルプルと手を伸ばした。
「こ・・・こんなの・・・・ありなのか・・・ぐはあ!」
ハスターは力尽きた。サラサラと砂糖のように崩れ去り、跡形も無く消えていった。
「・・・我の役目は・・・・・果たした・・・・。」
そう言って手を下げる千手アマテラス。その後ろには、三人の魔王が立っていた。
「さっさとやれ。もはや無駄な抵抗はしない・・・・。」
「そうか。引き際をわきまえるとはよい心がけだ。」
ベルゼブブがニヤリと笑い、大地に髑髏を呼び出した。千手アマテラスは髑髏の口の中に吸い込まれ、空想の牢獄へと沈んでいった。
「さて・・・邪魔者は消した。そろそろ地上に出るとするか。」
ルシファーは海面を見上げ、海から飛び出していく。サタンとベルゼブブもそれに続いた。
すると彼らの後から、生き残った邪神の軍勢もついて来た。
「我々もお供させて下さい。」
ロキが膝をついて頭を下げる。
「・・・いいけど、ちゃんと役に立ってね・・・。」
サタンに睨まれ、邪神の軍勢はブルリと震えた。
「そう脅かすな。手駒は多い方がいい。」
ルシファーがサタンを宥め、インドの方角を睨んだ。
「遥か先から、強い力を持った者が来る・・・。これは天使の気だな。それも最上級の天使の気だ・・・。メタトロンか、もしくはミカエルか?」
ルシファーはじっと考える。このままここにいれば、強力な天使と戦うことになる。別に負ける気などしないが、無駄な戦いは避けたかった。
「皆の者、いったんここから離れよう。そして・・・私も一度邪神に会ってみたい。いったいどの程度の器なのか・・・・この目で確かめんとな。」
そう言うと、ロキがサッと前に出た。
「はは!ではエジプトへ参りましょう。」
「エジプト?なぜそんな所へ?」
「邪神は身体を捨て、魂だけとなってラシルの星に向かいました。そしてエジプトには、ユグドラシルの分身が生えているのです。」
「なるほど・・・ユグドラシルの根元の穴を通って、ラシルへ行けということか?」
「はは!」
「・・・・だそうだ。行くか、お前ら?」
ルシファーはサタンとベルゼブブを振り返る。
「そうですなあ・・・邪神に会うにはそれしか方法が無さそうですし。」
「・・・私は・・・・どっちでもいい・・・。」
「ふうむ・・・。ならば向かうとするか。もうこの星は我らのものだ。暇つぶしに邪神とやらに会いに行くのも悪くはない。おいロキ!邪神の元まで案内するのだ。」
「ははあ!」
ルシファーたちは、迫りくるメタトロンを避けながらエジプトを目指した。
事態は悪い方へと転がっている。神々は敗北し、地球は悪魔の手に落ちてしまった。あと一歩まで追い詰めた邪神も、ラシルの星へ逃げられてしまった。
しかし・・・全ての希望が途絶えたわけではなかった。
ラシルに向かったコウとアリアンロッド、日本に向かうスカアハと天使の兄弟。それにクー・フーリンとミヅキもいる。
地球とラシルを救う希望は、完全に絶たれたわけではないのだ。
アマテラスは、それらの希望を信じている。いつか・・・いつかかならず邪神を倒し、悪魔を退けて平和をもたらしてくれると。
暗い暗い空想の牢獄から、アマテラスは皆の無事を祈っていた。

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