ダナエの神話〜異星の邪神〜 第十話 月の女神と二つの世界(2)

  • 2014.04.05 Saturday
  • 20:08
ミヅキ達がジル・フィンと会っていた頃、地球ではメタトロン達が日本に辿り着いていた。
「この国もひどい有様だ・・・・。」
サンダルフォンは街を眺めてため息を漏らす。
「ビルは倒れてるし、高速道路はひっくり返ってる・・・。それに人間の兵器も滅茶苦茶にされてるし・・・。」
「うむ・・・そこらじゅうに魔物が暴れた形跡があるな・・・。インドほどではなくても、この国も大きな被害を受けたようだ・・・。」
スカアハはサンダルフォンの手から飛び降り、瓦礫に埋もれた車を撫でた。
「幸い人への被害は少ないようだ・・・。おそらく、魔物が来る前にどこかへ避難したのだろう。」
「でもさ、これだけ街が滅茶苦茶にされているのに、避難する場所なんてあるのかな?」
「・・・分からん・・・。しかし・・・どこかで生き延びてくれていると願いたい・・・。」
スカアハはボロボロになった街を眺め、後ろに立つメタトロンを見上げた。
「この街に・・・加々美という男がいるのだな・・・?」
「月の者たちはそう言っていた。」
「では早くその男を探そう・・・。」
「これが似顔絵だ。もし生きているなら、この街の近くにいるだろう。」
メタトロンは耳の中から小さな絵を取り出した。スカアハはその絵を受け取り、興味深く見つめた。
「・・・なんだか締まりのない顔をした男よな・・・。」
「実際に締まりのない男だそうだ。しかしやる時はやるらしい。彼の兄がそう言っていた。」
「加々美の兄ということは・・・妖精王のケンか?」
「そうだ。妖精王の話によると、加々美には一人娘がいるそうだ。数年前に離婚し、今はこの街に住んでいる。」
「そうか・・・娘がいるのか・・・。ならば魔物が溢れるこの状況は、父親としては気が気でないだろうな・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「どうした・・・?我は何かおかしな事を言ったか・・・?」
「ケルトの神よ、ここへ来るまでの道中、お前は色々と話してくれたな。ラシルの星のことや、地球に戻ってからのことを。」
「ああ・・・だがそれがどうかしたか・・・?」
「お前の話に出て来た、ミヅキという少女。彼女こそが、加々美幸也の一人娘なのだ。」
「・・・・・え?」
「高島ミヅキは、加々美幸也の娘だ。そして・・・ダナエのモデルになった人物でもある。」
「・・・・・・・・ッ!」
スカアハは驚きのあまり言葉を失う。手に持っていた絵を落とし、「それは本当か・・・?」と聞き返した。
「本当だ。十五年前、この地球ではある事件が起きた。月の女神ダフネが、空想と現実を混ぜようと企んだのだ。」
「・・・知っている・・・。何度も聞いた話だ・・・。」
「その時の事件で、加々美幸也は兄と婚約者を失った。そしてこの街の人間も大勢命を落としたのだ。その魂は妖精に転生し、月へ移り住んだ。」
「それも知っている・・・。確か月の中に存在する、空想の世界へ行ったのだろう?」
「そのとおり。妖精に転生した人間たちは、月の中の世界で幸せに暮らしていた。これにてダフネの事件は終わったわけだが・・・・加々美幸也はその物語の続きを綴ったのだ。」
「それも先ほどお主から聞いた・・・。加々美幸也はダナエというキャラクターを生み出し、彼女の物語を綴ったのだろう・・・?」
「そうだ。しかしそれは、邪神と出会うことで大きく変わってしまった。ダナエの物語は、邪神という予想外の者と出会うことで、本来の筋書きを離れてしまった。
ゆえに・・・起きてはならないことが次々と起きている。光の壁に穴が空いたせいで、十五年前と同じ事態になってしまった。しかも、今回はかなり危機的な状況にある。
神々と悪魔が争い、魔物が現実の世界で暴れている。しかも・・・ラシルという遠い星まで絡んでいるのだ。」
「一筋縄ではいかない事態になってしまったわけだ・・・。」
「我々は早急に加々美幸也を見つけ出し、ダナエの物語を書き換えてもらう必要がある。そうでなければ・・・邪神を撃退することは難しいだろう。そして・・・もうあまり時間が無いのだ・・・。」
「時間が無い・・・?どういうことだ?」
メタトロンは険しい顔で腕を組み、遠い月を見上げた。
「これは私の勘だが・・・ミヅキはラシルの星へ向かったはずだ。そしてラシルの星にはダナエがいる。この二人が接触することは、何としても避けねばならん。」
「なぜだ?この二人が接触すると、何かまずいことでもあるのか・・・・?」
「ダナエはミヅキをモデルに生み出されたのだ。ならばこの二人は表裏一体。空想と現実、それぞれの世界における同一人物ということになる。」
「・・・もしその二人が接触してしまったら・・・いったいどうなるというのだ・・・?」
「もしこの二人が出会ってしまった場合、予想もつかない悪い出来事が起こるだろう。どちらかの世界が消滅するか・・・それとも融合して二つの世界の境目がなくなるか・・・。最悪は世界そのものが消失してしまうことだ。」
「そこまでの事態になるのか・・・?」
「同じ世界に、同一人物が存在するということは許されないのだ。ミヅキとダナエは、それぞれの世界で生きる同じ人物。もしこの二人が出会ってしまったら、必ずパラドックスが起こる。
その時・・・この宇宙は形を保てなくなるだろう。それがどういう形で我々の世界に押し寄せてくるのか・・・そこまでは分からない。しかし、きっと良い結果にはならないだろう。」
「・・・ふうむ・・・それは恐ろしいな・・・。」
「心配事はそれだけではない。」
「まだあるのか・・・?」
「もし人間が光の壁の穴を通って空想の世界に行った場合、余計な力を身に付けて戻って来る可能性がある。これはなんとしても防がねばならない。」
「うむ・・・それは分かるな・・・。なにせ人間というのは、底なしの欲望を持っているから、余計な力を持ったら何をしでかすか分からぬ・・・・。」
「そのとおりだ。人間の欲深さには、悪魔も魔王も適わない。もし人間が魔法や呪術を身に付けてしまったら、それを悪用する可能性は非常に高いのだ。
そのような事態になったならば、私は人間の愚行を見逃すことは出来ない。神の代理たる役目をまっとうし、この地球上から人間を抹殺するだろう。」
「・・・なるほど・・・時間が無いとはそういう意味だったのか・・・。」
「そのような事態を防ぐ為に、早急に加々美幸也に会う必要がある。そしてダナエの物語を書き換えてもらい、最悪の結末を防ぐのだ!」
メタトロンはビシッと手を伸ばして叫んだ。
「兄ちゃん、話はよく分かったけど、どうやって加々美って人を見つけるの?こんな似顔絵だけじゃ、とてもじゃないけど探せないと思うよ。」
「うむ、問題はそこなのだ。この街に来れば会えると思っていたが、魔物の襲撃のせいで彼を探すのは困難だ。」
「じゃあどうするの?」
「シラミ潰しに探すしかあるまい。なあに、私とお前がいれば、すぐに見つけ出すことが出来るだろう。」
メタトロンは空に舞い上がり、「でや!」と叫んで目を光らせた。
「エンジェルアイ・サーチモード!」
メタトロンの目から光が放たれ、加々美幸也を探していく。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・いた?」
「・・・・・・・この近くにはいないようだ。仕方ない、他を探すぞ!」
「うん!スカアハ、僕の手に乗って。」
サンダルフォンはスカアハを手に乗せ、空に舞い上がった。
「では私は東を探す。お前は西を探せ。」
「了解!」
二人は翼を広げて飛び立とうとした。しかし頭上から眩い光が降ってきて、何事かと空を見上げた。
「この光はいったい・・・・。」
「凄まじい力を感じるな。しかし悪い気ではない。」
二人はじっと空を見つめる。すると丸い光の玉が、雲を割って下りてきた。
「兄ちゃん・・・こっちに来るよ・・・。」
「案ずるな、あれは悪いものではない。しかし・・・・いったい何者だ?」
光の玉は目の前まで下りて来た。そして雷鳴のような爆音を響かせて、中から巨大な龍が現れた。
「おお・・・これはまさか・・・・。」
スカアハは身を乗り出して龍を見つめた。
「これは・・・黄龍ではないか!」
「・・・・・・・・・・・・。」
光の玉から現れた龍は、長い髭に白いたてがみ、そして大きな角が二本生えていた。目は緑に光り、右手には宝玉を握っている。
「我は黄龍。龍族の長であり、森羅万象の龍神である。」
「おお・・・やはり黄龍であったか・・・。お初にお目にかかる。我はケルトの神、スカアハと申す者だ。」
黄龍はスカアハを見つめて頷き、大天使の兄弟に視線を向けた。
「強い力を感じて下りて来てみれば、大天使の兄弟がいようとは・・・。ケルトの神よ、我は嬉しいぞ。よくぞ光の使徒を連れて来てくれた・・・。これで微かに希望が持てようというものだ・・・。」
黄龍はスカアハに笑いかけ、大天使の兄弟を見つめた。
「兄ちゃん・・・・誰、この龍は?」
サンダルフォンが小声で尋ねる。
「黄龍という龍神だ。龍族の長であり、自然を司る神獣である。」
「へえ〜・・・これが黄龍か・・・。名前は知ってたけど、初めて見たよ。」
サンダルフォンは、まじまじと黄龍を見つめた。
「神に仕える大天使の兄弟よ。よくぞ来て下さった。我は弱き命を護るため、天より降りてきたのだ。あの雲の中には、多くの命が魔物から逃れている。」
黄龍は自分が降りてきた雲を見上げた。
「この国に現れた魔物は、我が同胞が殲滅した。しかし魔物の群れはまた現れよう。ゆえに、弱き命をあの雲に避難させているのだ。」
「そうか・・・それで人間の姿が見当たらなかったんだ・・・。」
サンダルフォンは納得し、兄に言った。
「兄ちゃん、もしかしたらあの雲の中に、加々美って人がいるかもしれないよ?」
「うむ。黄龍よ、我らは加々美幸也という人間を探しているのだ。あの雲の中に入ってもよいか?」
「もちろんだ。しかしこちらもお主たちに頼みがある。」
「ほう、どのような頼みか?」
「魔王アーリマンを倒してほしいのだ。」
「アーリマンだと?」
「奴は光の壁を越え、こちらの世界に現れた。そして虚無の闇を広げ、この星とラシルを繋ごうとしたのだ。幸い、氷の巨人ユミルのおかげでそれは阻止されたが、アーリマンはまだ生きている。今は氷漬けになっているが、もし何かのきっかけで目を覚ませば、また悪さをするに違いない。」
「なるほど・・・それでこの私にアーリマンを討てと?」
「我は弱き命を護る為、この場を離れるわけにはいかない。我が同胞も、ある目的の為に下手に動くわけにはいかぬのだ。だから・・・どうかお主たちに頼みたい。」
「いいだろう。しかしお前の言うある目的とは何だ?」
「・・・邪神に対抗する戦力を温存しておくことだ。」
「戦力の温存だと?」
「地球の神々は、邪神の軍勢に戦いを挑んだ。しかしもし神々が負けるようなことがあれば、いったい誰がこの地球を護るというのか?」
「なるほど、お前たちは保険というわけか。」
「そのとおりだ。邪神の持つ神器は、我ら神獣や聖獣には通用しない。ゆえに、我らは邪神との戦いにおいては有利となる。もし神々が敗れた時、我ら神獣がこの星を護らねばならん。
そして残念ながら・・・神々は敗れた。空想の牢獄より逃げ出した、恐るべき悪魔たちの手によってな。」
それを聞いたメタトロンは、目を見開いて驚いた。
「空想の牢獄から・・・悪魔が逃げ出しただと!」
「うむ。我が同胞がそう言っていたので、間違いあるまい。ルシファーやベルゼブブ、そしてサタンが地上に現れたのだ。神々は成すすべなく倒され、全員が空想の牢獄へ閉じ込められてしまった。」
「馬鹿な!空想の牢獄から逃げ出すなど出来るわけがない。私かミカエルの持っている鍵がないと、決して開けることは出来ないはずだ!」
「いや、そうとは限らない。お主たち以外にも、空想の牢獄を開けられる者はいるのだ。」
「そんなはずはない!地球の神や悪魔に、空想の牢獄を開ける力を持つ者などいないはずだ!」
「ならば地球以外の神ならどうか?」
「地球以外の?まさか・・・・邪神の奴めが開けたというのか?」
「いや、邪神ではない。開けたのはクトゥルーだ。」
「クトゥルーだと・・・・。馬鹿な!それこそ有り得ない!奴は空想の深海に閉じ込められているのだぞ。いったい如何にしてそこから抜け出せるというのか・・・。」
「アーリマンだ。」
「アーリマン・・・?」
「先ほども言ったが、アーリマンはこの国で虚無の闇を広げたのだ。その闇は現実世界を突きぬけ、空想の世界にまで達した。クトゥルーは特殊な力を持っているから、その力を使って虚無の闇と空想の深海を繋げたのだ。そして地上に出て来た。」
「そんな・・・・なんということだ・・・・・。」
メタトロンは眉間を押さえて頭を振った。
「我が同胞の話によれば、クトゥルーはわざと空想の牢獄を開けたわけではない。スサノオが無茶をしたせいで手違いが起こったのだ。」
「スサノオ・・・確か荒くれ者の神だったな・・・。なんということをしてくれたのだ・・・。」
メタトロンはがっくりと項垂れ、大きなため息をついた。
「兄ちゃん・・・大丈夫?」
「・・・頭が痛い・・・これでまた心配事が増えてしまった・・・・。」
次から次に厄介な事が起こり、さすがのメタトロンのうんざりしていた。しかし神の代理である以上、弱音を吐いて逃げ出すことは許されない。
「黄龍よ・・・お前はこう言うつもりだろう?アーリマンを倒した後は、ルシファーたちを倒してくれと。」
「お見通しというわけか。だが奴らを放っておくことは出来ぬだろう?もしもの時は我らも加勢するゆえ、どうか頼みをきいてほしい。」
「・・・・断る、とは言えない立場なのでな。それを分かった上で頼んでいるのだろう?以外に意地悪な奴よ。」
「ふふふ・・・悪いとは思っているが、お主たち以外に頼む相手がいないのだ。なにせ地球の神々は、そのほとんどが空想の牢獄に封印されてしまったのだからな。」
黄龍はゆっくりと空に昇り、大きな雲に向かって行く。
「ついて来い。あの中にお主たちの探している人間がいるはずだ。」
メタトロンとサンダルフォンは顔を合わせて頷き、黄龍のあとを追って雲の中に入った。
「おお!これはまるで・・・常世の楽園のようだ・・・。」
雲の中は美しい自然が広がっていた。山に川、そして海まである。花々が咲き誇り、虫や動物が自由気ままに歩いている。そして人間たちは、石造りの大きな社の中にいた。
「凄いな・・・。よくもまあ、雲の中にこんな世界を創れるものだ・・・。」
スカアハは感心して雲の中を歩いた。すれ違う動物たちが、突然の来訪者に驚いて逃げていく。
「我と四聖獣の力で、この世界を創り出している。他にも多くの同胞がいるぞ。」
黄龍が顎をしゃくった先には、ユニコーンやケルベロスなど、たくさんの空想の獣がいた。
「まさかに神話の獣軍団という感じだな・・・。これなら充分な戦力になる・・・。」
「獣といえども、秘めた力は大きいぞ。とくに神獣クラスの獣になれば、その力は神に匹敵する。」
「ああ、これならば充分に邪神に対抗できるだろう・・・。」
スカアハは微笑ましく獣たちを見つめ、近くによって来たペガサスの頭を撫でた。
「スカアハ、今はお馬さんと遊んでる場合じゃないよ。早く加々美って人を見つけないと。」
「分かっている・・・。ではあの社へ・・・・って、おっと!」
ペガサスはスカアハのことが気に入ったようで、背中に乗せて社まで飛んで行く。
「ははは、人懐こい奴よ。」
「ブヒン!」
スカアハは社の前に降り立ち、中にいる人間を覗き込んだ。
「ずいぶん大勢いるな・・・。ざっと見ただけでも数万人はいそうだが・・・・。」
「もっといるぞ。社はここだけではないのだ。」
黄龍は遠くの山を見つめる。するとそこにも大きな社が立っていて、中に人間がいた。
「外に出ても大丈夫だと言ったのだが、人間はどうも怖がりのようでな。あまり外に出たがらないのだ。」
黄龍の言うとおり、ほとんどの人間は社の中で怯えていた。しかし何人かはチラホラと外に出ていて、動物と戯れたり、景色を眺めたりしていた。
そしてその中に一人、じっとケルベロスの方を見つめて、何かを書いている男がいた。濃いグレーのスーツを着ていて、真剣な顔でペンを動かしている。
「あれは・・・・。」
スカアハは似顔絵とその人物とを見比べてみた。
「間違いない!あれが加々美幸也だ!」
一目散に男の元ヘ走り出し、「もし?ちょっとよいか?」と尋ねた。
「おお!色っぽいお姉ちゃん・・・。何か用ですか?」
男は締まりのない顔で笑い、ジロジロとスカアハを見つめた。
「失礼・・・加々美幸也殿とお見受けするが・・・如何に?」
「え?・・・そうですけど・・・誰ですか、あんたは?」
「ああ・・・これは失礼・・・。我はケルトの神、スカアハと申す者だ。」
「ケ、ケルトのスカアハ!」
加々美は持っていたペンを落とし、目を見開いて言葉を失った。しかしすぐに我に返り、サッと握手を求めてきた。
「加々美幸也といいます!よ・・・よかったら握手を・・・。」
「うむ。よろしく・・・。」
加々美は嬉しそうにスカアハの手を握り、しきりに感激していた。
「うわあ・・・・本物のケルトの女神だあ・・・・こりゃすごいや・・・・。」
「加々美殿、実はあなたにお願いしたいことがあって、ここへ参ったのだ・・・。」
「え?お、俺にですか?ええ・・・・そりゃもう!何でも言って下さい!」
加々美はスカアハの手を握って嬉しそうにする。その顔は少年のように無邪気だった。
「実は頼みというのは、お主の書いた物語のことで・・・・、」
スカアハがそう言いかけた時、加々美は「ぎゃあ!」と驚いて腰を抜かした。
「これが加々美とやらか。ずいぶんと間抜けな顔をした男だ。」
「兄ちゃん、初対面の人にそんな言い方をしたら失礼だよ・・・。」
メタトロンとサンダルフォンは、膝をついて加々美を見下ろした。いきなり現れた巨大な天使に、加々美は言葉を失くして震えていた。
「こ・・・これは・・・もしかして・・・メタトロンとサンダルフォン・・・・・?」
「ほお・・・さすがは神話学者だ。我らが分かるとは。」
「ほ、本物・・・・本物のメタトロンとサンダルフォンなのか・・・?」
「如何にも!我らは神の代理として、邪悪な悪魔を打ち砕く為に地球へやって来た!」
「兄ちゃん、大きな声を出したから怖がってるよ・・・・。」
「知るか!加々美よ!お前はダナエという妖精が登場する物語を書いたな?」
メタトロンは怖い顔で睨み、ビシッと指を差した。
「は、はい・・・書きました・・・。」
「では今すぐに物語を書き換えるのだ!そうでなければ、この星は悪魔の手に落ちてしまう!」
「だから・・・この人すっごく怖がってるから・・・・。」
メタトロンは天使でありながら、人間にはあまり優しくない。それどころか、怒らせたら平気で人間を処罰する、とても厳しい天使なのだ。
その事を知っている加々美は、サッと立ち上がって背筋を伸ばした。
「あ、あの・・・お言葉ですが、仰っている意味がよく分かりません・・・。もう少し詳しく説明を・・・・、」
「ならん!時間が無いのだ!今すぐ物語を書き換えろ!さもなくば神への反逆として、この場でお前を処罰する!」
「ひいいいいいい!」
加々美はスカアハの後ろに隠れ、ブルブルと震えていた。それを見かねたサンダルフォンが、そっと兄を宥めた。
「兄ちゃん落ち着けって。この人を処罰したって何の意味もないだろ?ていうかそんなことをしたら、物語が書き換えられなくなっちゃうじゃん。」
「むッ・・・。た、確かにそうだな・・・私としたことが取り乱してしまったようだ・・・。」
メタトロンは落ち着きを取り戻し、加々美の傍に膝を下ろした。
「人間よ、脅かしてすまない。だがもう時間が無いのだ。すぐに物語を書き換えてほしい。」
「・・・いや、さっきから言っている意味が分からないんです。いったいどういうことなのか説明してもらわないと・・・。」
「・・・そうだな。何から話せばよいか・・・・。」
メタトロンは顎に手を当てて宙を睨んだ。
「お前は一人娘がいるだろう?ミヅキという名前の。」
「ええ・・・いますけど・・・それがどうかしたんですか?」
「実はな、ミヅキとダナエが接触しようとしているのだ。それだけは何としても阻止せねばならん。」
「ミヅキが・・・・ダナエと?いったいどういうことですか!」
「手短に説明するとだな、お前の娘が・・・・、」
メタトロンは要点を掻い摘んで説明した。話を聞き終えた加々美は、青い顔をして俯いていた。
「そんな馬鹿な・・・。十五年前の悪夢が・・・また蘇ったっていうのか・・・。」
「空想と現実は、もはや境目を失くしつつある。もし二つの世界が交われば、それこそ邪神の思うつぼだ。」
「邪神・・・ラシルの星・・・確かに俺の書いた物語には登場しないものばかりだ。ということは、俺が物語を書き換えても、その筋書き通りにはいかないのでは・・・?」
「分かっている。しかし流れを変えることくらいは出来るだろう。お前はこれから月へ行き、創作活動に専念してもらいたい。」
「つ・・・月へ・・・ですか・・・?」
「この地球はもはや、邪神の手に落ちる一歩手前なのだ。それに恐ろしい悪魔もうろついている。そんな場所では集中して物語を綴れまい?だから月へ行き、とにかく物語を書くことに集中するのだ、よいな?」
「は、はあ・・・・。」
加々美は混乱していた。メタトロンの話はにわかには信じ難く、頭の中を整理する必要があった。
「俺の書いた物語が・・・現実に押し寄せているのか・・・。これじゃあ・・・十五年前とまったく逆だ。あの時は・・・俺が空想の世界が押し寄せるのを阻止しようとしていたのに。」
「混乱する気持ちは分かるが、今はとにかく月へ向かうのだ。」
メタトロンはヒョイと加々美を摘まみ、サンダルフォンに預けた。
「我が弟よ、これからすぐに月へ向かうのだ。」
「分かった。この人を送り届ければいいんだね。」
「うむ。それとミカエルたちに伝えてくれ。空想の牢獄から、ルシファーたちが逃げ出したことを。もしものことがあれば、彼らにも戦ってもらわねば。」
「了解!それじゃすぐに月へ行ってくるよ。」
サンダルフォンはそっと加々美を握り、翼を広げて舞い上がった。
「あ!兄ちゃんはこれからどうするの?まさか一人でルシファーたちと・・・・。」
「いや・・・それは少々無理がある。とりあえず奴らは後回しだ。まずは・・・アーリマンを倒しに行く。」
「・・・そう。アーリマンは手強い悪魔だよ。じゅうぶん気をつけて。」
「うむ。お前も気をつけて月まで行くのだぞ。」
「分かってる。この人を送り届けたら、すぐに戻って来るよ。それじゃ!」
サンダルフォンは「てやあ!」と叫んで雲から抜け出した。そして銀色の光を纏い、超スピードで月へ飛んで行った。
「頼んだぞ、我が弟よ。」
メタトロンは弟を見送ると、後ろの黄龍を振り返った。
「私はこれからアーリマンを倒しに行く。」
「頼みをきいてもらって感謝する。奴は強敵だ・・・油断されるなよ。」
「うむ。それでは・・・・。」
メタトロンは踵を返し、空を見上げて「でやあ!」と飛び上がった。瞬く間に音速を越えて、一直線にアーリマンの元に向かっていった。
「・・・今のところ・・・我の出る幕はなさそうだな・・・・。」
少し寂しそうに言いながら、スカアハはペガサスの鼻を撫でた。
「黄龍よ・・・邪神との戦い・・・我も手を貸すぞ・・・。」
「戦力は多い方がよい・・・。是非力を貸してくれ・・・。」
スカアハ天使の兄弟が去った空を見上げ、無事に帰って来てくれることを祈った。

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