カオスジャーニー 第二話 始まりの終わり

  • 2014.06.18 Wednesday
  • 11:45
始まりの終わり


誰かが自分を呼ぶ声がする。それは透き通るように心地よく、上質なクラシック音楽のようにも感じられるし、自然の中の素朴な音のようにも感じられる。
しかしとても落ち着くことは確かで、ずっと聞いていたい気持ちにさせるものだった。
《ああ、この声はあの時の・・・。奇妙な夢の時に聞いた声。
そして俺が生まれてくる時に聞いた声だ・・・。》
その声は何度も龍二の名前を呼び、頬に暖かいものを感じて目を開けた。
すると目の前には自分を覗き込む一人の女がいた。龍二はしばらくその女を見つめた。
青い瞳に薄紅色の唇。金色の長い髪が龍二の顔に触れていた。
やや丸みのある顔だが美人といって差し支えない整った顔だちで、その耳は鋭く尖っていた。気がつけばその女の顔に手を伸ばしていて、そっと頬に触れていた。
女はその手を握って龍二に顔を近づけ、唇を重ねて何かを口の中に移し込んできた。
それは細長い棒のようなもので、とても硬く、歯で噛んでみるとウネウネと動き出した。
「がはッ!」
まるで生き物のように口の中で暴れ回り、無理矢理喉を通って体内に侵入してくる。
龍二は身体を仰け反らしてのたうち回り、唾液と胃液を吐いてうずくまった。
少し時間が経つと楽になってきて、肩で息をしながら女を見た。
女は鮮やかな水色のワンピースに身を包んでいて、その周りにはふよふよと水が浮かんでいた。そして何も言わずに立ち上がり、龍二の元に膝をついて背中を撫でた。
「大丈夫?」
心地の良い声に変わりはないが、女の瞳には恐怖を覚えるものがあった。
あまりに深く透き通っていて、深い海に飲み込まれそうな感覚を覚えて目を逸らした。
するといつの間にか周りには多くの人間が集まっていて、不安そうに龍二を見下ろしていた。
《俺は・・・確かヨスガの国に落ちて・・・。そしてスサノオの像とぶつかったんだ。
しかしそこで意識が途切れて・・・・・。》
膝に手をついて立ち上がり、周りに立つ人間を見回した。
汚れたシャツを着た者や、破れたツナギを着た者、様々な人間がいたが、それは間違いなくヨスガの国の人間だった。そして回りを見上げてみると、黄色く霞んだ空だけが広がり、スサノオの像はなくなっていた。
「なんだ・・・?何がどうなっている・・・?」
呆然と立ち尽くしていると、先ほどの女が腕に触れてきた。
「身体・・・大丈夫?」
「は?身体?」
そう言われて自分の身体を見てみると、ブルーグレーの肌に鈍く光る胸の紋章があった。
衣服は何も身につけておらず、思わず前を隠して女に尋ねた。
「おい、さっき俺に何か飲ませたな。あれは何だ?」
威圧する強い口調だったが、女は肩を竦めて二コリと笑った。
「水の結晶。」
「水の結晶?なんだそれは?」
「水の力の集まった結晶のことよ。あなたスサノオの力を吸収したでしょ?
あのまま放っておいたら身体がバラバラになると思って。
今は水の結晶があなたの身体を繋いでいるから大丈夫よ。」
「スサノオの力を吸収?何を言っているんだ?
いや、それよりお前は誰なんだ?この国の人間ではないな。」
「そうよ。私はウンディーネ。ウンディーネのメリッサ。マヤ国に住んでいたんだけど、死神の鎌から逃れてここへやって来たの。」
「マヤ国だと!三強の一角じゃないか。しかも死神の鎌から逃れてと?」
「あいつら地獄の蓋の隙間から溢れてきたのよ。今は我が物顔でそこらじゅうにいるわ。
みんな迷惑してる。人間だけじゃなくて、私達精霊や獣人にまで手を出そうとするから。」
「地獄の蓋が・・・・・。俺達の先祖がしっかり閉めたはずじゃなかったのか・・・。」
「仕方ないわ。人間って完璧なようで抜けてるから。そういうのに気づかない辺りが人間の限界よね。」
メリッサは黄色に霞む空を見上げて指をさした。
「今ね、世界が生まれ変わる途中なの。あの黄色い空がそのうち落ちてくるわ。
そうなれば今までに在ったものは全部消えてなくなるの。」
「空が落ちてくる?世界が生まれ変わる?何を言っているんだ?
いや、そもそも精霊がこうも堂々と人間の前に姿を現すなんて・・・。」
「非常事態だもん。本当なら人間なんかと関わりたくないわ。でも今はそうも言っていられないからさ。」
メリッサは後ろで手を組んで目を閉じ、何かを念じるように眉間に皺を寄せていた。
そして小さく頷いて目を開け、龍二の方を向いて手を差し出した。
「よかったら、私と一緒に行ってくれないかな?」
「一緒に行く?どこへ?」
「あの黄色い空の中へ。」
「さっきから言っている意味が分からない。そもそもどうして俺がこんな身体になっているのかも分からないし・・・。」
「言っておくけど、今のあなたは人間じゃないのよ。
なんていうか・・・半分死神みたいな感じ。」
メリッサは頬に指を当てて首を傾げながら言った。
龍二は言葉を失い、自分の身体をまじまじと見つめて首を振った。
「俺が死神・・・?」
「そう、半分くらいはね。他にもあなたみたいな人が何人かいると思う。」
「他にも俺みたいな奴が?」
メリッサは大きく頷き、周りに浮かぶ水を集めて鏡を作った。
そこには映像が映し出され、龍二は興味深く覗き込んだ。
ゆらゆらと揺れる水の鏡の中に、黄色い空に浮かぶ塔のようなものが映し出されていた。
その周りには死神がうようよと飛んでいて、鎌を振りかぶって塔を斬りつけていた。
「この塔は・・・まるで大昔の石碑みたいだな。それに死神どもは何をしているんだ?」
「壊そうとしているのよ、この石碑をね。」
「壊す?どうして?」
「う〜ん、ここでいっぱい説明するのは面倒だから、向こうへ行きながらでいい?」
「向こうって・・・さっき言っていた黄色い空の中へか?」
「うん。早く行かないと死神にこの石碑を壊されちゃう。
そうなると空は粉々に砕け散って、この世界は丸ごと潰されちゃわ。
そんなことになったらもう生まれ変われない。」
メリッサは龍二の手を取り、周りに浮かんでいた水を集めて背中に羽を作った。
「おいちょっと待て!こっちは何が何だかちんぷんかんぷんなんだよ!」
「いずれ分かるわ。今はとにかく向こうへ行かないと。」
戸惑う龍二の手を握って、メリッサはぐんぐん空に昇っていく。
その下では生き残った人達が不安そうにこちらを見上げていた。
「おい!あの人達はどうなる?俺の国の人間なん・・・・、」
そう言いかけた時、突然龍二とメリッサの前に死神が現れた。
「なッ!おい、やばいぞ!」
「大丈夫よ!あなたが殴り倒して!」
「殴り倒すって・・・、」
死神は大鎌を振り上げ、手綱を引いてこちらに向かってきた。
あの時仲間を殺された記憶が蘇り、龍二は身を震わせて顔を逸らした。
「ダメよ、怖がってちゃ!何の為にスサノオが力を与えたと思ってるの!」
「スサノオが・・・?」
そう呟いて顔を上げると、死神は目の前に迫って鎌を振り下ろしてきた。
メリッサは水の羽でそれを受け止めて、思い切り龍二を投げ飛ばした。
「行けえええ!」
「やめろおおおお!」
龍二は死神とぶつかり、馬にしがみついてメリッサに助けを求めた。
「た、頼む・・・、助けてくれ・・・。俺は、俺は・・・・。」
「何言ってるの!あなたは軍人なんでしょ!」
「なんで知ってるんだ!」
「ただの勘よ!そういう雰囲気がしたから言っただけ!」
「なんて身勝手な・・・。」
言い合っている間に死神は鎌を振り上げ、龍二にめがけて振り下ろしてきた。
咄嗟に腕を上げて防いだが、あっさりと切り落とされて首元に迫ってきた。
「うおおお!」
首を逸らして何とか致命傷を免れたが、斬られた傷から大量の血が吹き出して視界を奪われた。死神は刃を返して龍二の背中に突き立て、鉤爪のように引き裂いた。
「ぐあッ!」
思わず馬にしがみついた手を放して落っこちそうになったが、メリッサがお尻を持ち上げて何とか支えていた。
「早くやっつけてよ!」
「だったらお前がやれ!俺は死神にトラウマがあるんだ!」
「誰だって死神なんかトラウマよ!そいつは『死』の象徴なんだから!」
龍二は背中に手を回して鎌の柄を掴み、身体を捻って引き抜いた。
そしてメリッサの頭を蹴って馬に飛び乗り、死神の頭を抱えてひざ蹴りを打ち込んだ。
「痛〜い!頭蹴らないでよ!」
「緊急事態だ!グダグダ言うな!」
馬の上で死神と取っ組み合い、なんとか鎌を奪い取って馬の頭を斬り落とした。
すると空に浮いていた馬は力を失くして落下していき、死神は宙に投げ出されて黒い衣をマントのように開いた。
中から骨だけの身体が露わになり、奇声を上げてこちらに向かって来る。
龍二は咄嗟にメリッサの背中に飛び乗り、鎌を振り上げながら叫んだ。
「自分の鎌でくたばれッ!」
渾身の力で鎌を振り下ろし、死神は真っ二つにされる。
耳を塞ぎたくなるような奇声を上げながら、死神は力を失くして地面に落ちていった。
落下した後もしばらく動いていたが、やがて糸が切れたように動きを止めて塵に還っていった。
「くたばったか・・・?」
鎌を構えて死神を見下ろす龍二だったが、メリッサに足首を殴られて落ちそうになった。
「ちょっと!私の首元に鎌が当たってるんだけど!」
「ん?ああ!悪い・・・。」
メリッサはくるりと回転して龍二を落とし、両足を掴んで持ち上げた。
「これ着といて。恥ずかしいものが丸出しだから。」
そう言っていつの間にか剥ぎとっていた死神の衣を投げつけた。
龍二は衣を腰に巻きつけ、逆さ吊りのままメリッサに尋ねた。
「なんで急に死神が現れたんだ?さっきまでどこにもいなかったのに。」
「死神はどこにでもいるわよ。でも気づかないだけ。
あいつらの乗ってる馬が完全に気配を隠しちゃうからね。」
「なるほど・・・。ということは他にもいる可能性が・・・、」
そう言いかけた時、またしても身の毛もよだつ殺気を感じて身を竦ませた。
さっきまで誰もいなかった場所に突然死神が現れ、周りを囲まれていた。
龍二は震える手で鎌を握りしめ、逆さ吊りのまま死神を睨みつけた。
「うじゃうじゃ湧いてきやがって・・・。なんなんだよお前ら・・・。」
「こんなにたくさんいたら勝てないわね。どうしよう・・・。」
死神達はしばらく二人を囲んでいたが、やがて眼下にいる人間に気づいてそちらに向かっていった。
「やった!今のうちに!」
メリッサは水の羽を羽ばたかせて上昇していく。
しかし龍二は足をばたつかせてメリッサに呼びかけた。
「おい待て!あの人達はどうなるッ?」
「殺されるわ・・・。」
「じゃあ引き返せ!自分の国の人間を見殺しに出来るか!俺は国防隊の軍人だぞ!」
「さっきまで怖がってたくせに偉そうに言うんじゃないの!あれだけの数の死神は相手に出来ないでしょ!」
「分かってるよ!でもあのままじゃ・・・、」
地上に降りた死神達は、逃げ惑う人々を無惨に殺していく。
老若男女関係なく首を切り落とされ、恐怖の悲鳴と絶叫が空高くにまで響いていた。
「ああ・・・やめろ・・・。せっかく生き残ったのに・・・やめてくれ・・・。」
見るに堪えかねて目を瞑り、悔し涙を流しながら嗚咽を漏らした。
「・・・悲しい?」
メリッサは後ろを振り返ることなく龍二に尋ねたが、彼は何も答えなかった。
ただ目を瞑って涙を流し、斬られた腕を押さえて身体と心の痛みに耐えていた。
「あそこに生き残っていた人達はね、スサノオの石像によって護られていたの。
でもあなたがその力を吸収しちゃったから、護るべき力が無くなってしまったのよ。」
「・・・俺のせいだというのか・・・・・?」
「違うわ。力を与えたのはスサノオ自身だからね。
でもそのせいであの人達は死神に殺されることになった・・・。
だったら、あなたはその責任を果たさなきゃけないって言ってるの。
悔しがって泣くなら、死神を全部やっつけて仲間を護らないと、ね?」
メリッサは小さく笑って龍二に振り向き、逆さに持っていた足を持ち上げて抱え直した。
地上にいた人々はほとんどが殺されていて、残る人間も絶叫を上げて逃げ惑っている。
あそこには龍二も経験した死の恐怖と仲間を失う地獄が広がっていて、何もしてあげられないことを心の中で謝った。
「なあメリッサ。さっき言っていたことを説明してくれないか?あの石碑と死神のことを。」
「いいけど、その前にあなたの名前を教えてよ。」
「龍二・・・円龍二だ。」
「ふ〜ん、けっこういい名前ね。じゃあ龍二、説明してあげるから泣くのは終わりにして。
私だって仲間の精霊を失ったんだから。あなただけずっと泣いてるなんて不公平じゃない。」
そう言われて龍二はメリッサの顔を見上げた。
平静を装っているが、彼女もまた死神によって仲間を失っているのだと知ると、こうして泣いている自分が情けなく思えてきた。ごしごしっと涙を擦り、鼻をすすって謝った。
「・・・悪い。助けてもらって礼すら言ってなかったな。ありがとう。」
「別にいいわよ。私だって自分の為にやってることだから。」
メリッサはまた笑顔を見せて大きく羽を羽ばたかせた。
「あのね、今起こっていることを一言で説明すると、『終わりの始まり』の時がやってきたの。」
「終わりの始まり?何かの頓知か?」
「違うわよ。さっきも言ったけど、この世界が生まれ変わろうとしているの。
もう今までの世界はおしまい。新しい世界が産声を上げようとしているってことよ。」
「生まれ変わりって・・・輪廻転生のことか?」
「言い方が違うだけで同じ意味じゃない。カッコつけてるの?」
「いや、そういうわけじゃ・・・。でも生まれ変わりって、生命だけにあるものじゃないのか?」
そう尋ねると、メリッサは「分かってないわね」という風に首を振った。
「いい、全てのものには始まりと終わりがあるの。そこに命があるかどうかなんて関係ないわ。この世界のものは全てが等しいのよ。そして誰もこの宿命から逃れられないわ。」
「じゃあ石ころやプラスチックにも生まれ変わりがあるというのか?」
「そうよ。平たく言えば、この世界そのものが生き物でもあるから、私達は内蔵や血管みたいなものね。だから命があるかどうかは関係ないって言ったの。
この世界に在るもの全てが、大きな生命の一部ってことだから。」
龍二には話が大きすぎて見えなかった。何となく言っている意味は分かるが、ただの言葉遊びにしか聞こえない。しかし今は説明を聞くのが先だと思って黙っていた。
「この世界はもう終わる。そして新しい世界が始まるわけだけど、その為にはあの石碑が必要なのよ。」
「死神が群がっていた石碑だな。そんなに重要なものなのか?」
「重要なんてものじゃないわ。この世界が終わりを迎えた時、全てはあの石碑の中で眠りにつくの。そしてたった一つの力に還元されて、そこからまた新しい世界が始まるんだから。」
「要するにあの石碑は輪廻転生の還元装置というわけか・・・。」
「だから難しく言わなくてもいいって。同じ意味なんだから。」
龍二は黄色く霞む空に目を向けて考えた。
全てがあそこに還元されるなら、死んだ家族や恋人、そして仲間達もそこにいるのではないか?上手くいけば再び会えるかもしれない。生き返らせることが無理だとしても、せめて最後の別れくらいは告げたい。
そのことをメリッサに言うと、「それは無理よ」とあっさり否定された。
「さっきも言ったけど、あそこに還るってことは一つの力に還されるの。
だからあなたの家族も恋人も、もうどこにもいないってことよ。」
その言葉に龍二はがっくりと項垂れた。予想はしていたが、こうもハッキリ言われるとやはり落ち込んでしまう。
「死んだ命は元には戻らないわ。それに生まれ変わったとしても、それはもう全く別の命だから。前の命が歩んだ道とは関係なくなるのよ。」
「そうか・・・。なら、もう二度と会えないんだな・・・。」
「自分という命は死んだらおしまい。そしてこの世界も死んだらおしまい。
生まれ変わるってことは、全く別の新しい何かになって戻ってくるだけよ。
それは人間かもしれないし、精霊かもしれない。もしかしたら石や水かもしれないわ。
そういうのが寄り集まって、世界を創り上げているんだから。」
「・・・さすが精霊。自然の民だけあって随分達観しているな。
俺はそう簡単に受け入れられそうにないよ・・・。」
龍二は二度と会えない愛しい者達を心の中で描いていた。
そんな彼の寂しさを感じ取ったメリッサは、同情を覚えるようにしばらく黙っていた。
「私もね・・・いっぱい仲間を失ったわ。同じウンディーネだけじゃない。
シルフやノ―ム、サラマンダーや妖精や獣人、たくさんの仲間を失った・・・。
マヤの国は私達みたいな存在が唯一安心して暮らせる場所だったのに、全部壊された。
国の兵隊も死神と戦ってみんな死んじゃったわ。でもそのおかげで私は生き延びた。
だから、仲間の為にも無駄死にするわけにはいかないの・・・絶対に。」
「・・・メリッサ・・・。」
龍二の呟きは悲しみを持っていて、それはメリッサの傷ついた心に響いた。
しかしメリッサは悲しみの色一つ見せない。嘆いても喚いても失ったものが戻るわけではないと知っていたし、今は戦って生き延びることが自分の使命だと感じていた。
「同情しなくていいわよ。傷の舐め合いなんて嫌いだし。」
「そんなつもりはないよ。それに同情しているのは君の方だろう。
俺だって傷口を舐められるのはごめんだ。」
「だったらもっとしっかりしないとね。さっきから女々しい顔ばっかり。」
メリッサに笑われ、龍二は苦笑いを見せながら斬られた腕をさすった。
「あれ?なんか腕が・・・。」
違和感を覚えて見てみると、傷口が塞がって腕が伸び始めていた。
「なんだこれ・・・。再生でもしてるのか・・・?」
「ああ、よかったわね。もうじき元に戻るんじゃない?」
「戻るって・・・そんなトカゲの尻尾みたいに言うなよ。」
「でもちゃんと再生してるじゃない。まあ当然よね。半分死神だし、スサノオの力が宿ってるし、私のあげた水の結晶も入ってるんだから。」
「そこがよく分からないけど・・・まあいい。今聞きたいのは石碑と死神のことだからな。
その石碑の役割は分かったけど、いったい誰がそんなものを用意したのか、そして誰がそんなものを造ったのか。今度はそこの所を聞かせてくれないか?」
「さあ?」
「さあ?って何だよ。あんなに詳しく喋っていたのに、そのことは何も知らないのか?」
「だって知らないものは知らないんだもん。あの石碑のことは精霊の間で言い伝えられているから知っていただけよ。」
「ならその成り立ちとか目的とか、あれを造ったのが誰かとかは聞いていないのか?」
「・・・・・さあね。」
今までとは明らかに違う態度に、龍二は不審の念を抱いた。
《こいつ・・・何か隠してやがるな・・・。》
しかしこれ以上尋ねても答える気はなさそうで、今は諦めるしかないと思った。
そして頭を切り替えて、もう一つの疑問である死神について尋ねてみた。
「あの死神どもは何なんだ?確か俺達のご先祖様が地獄の蓋を閉めて封印したはずなのに。
どうして出て来ているんだ?」
そう尋ねると、メリッサはさっきとは打って変わって饒舌に答えた。
「それはさっきも言ったけど、あなた達のご先祖様がいい加減な仕事をしたってことよ。
地獄の蓋は完全には閉まっていなくて、その隙間から死神が這い出てきたってこと。」
「でも俺は軍の学校で習ったぞ。今から千三百年も昔に人間が悪魔退治をして地獄の蓋を閉めたって。それで高名な魔導士が何人も集まって封印をかけ、最低でもあと五千年はもつようにしたと。」
「だからその封印のかけ方がいい加減だったのよ。大昔の悪魔退治の時には精霊や獣人だって力を貸したのに、最後は人間に任せておけっておいしいところをもっていってさ。
それで悪魔がいなくなったら人間のおかげだって言い出して、今度は私達に刃を向けたんじゃない。ほんと、人間って無能で身勝手よね。」
その声には激しい怒気が含まれていて、まるで自分が経験したことのように語っていた。
龍二はもしかしたらと思い、小さく咳払いをして尋ねてみた。
「あの・・・女性に年齢を尋ねるのは恐縮なんだけど、メリッサって今何歳なんだ?」
「さあ?二千歳くらいじゃない?千年超えた辺りで数えるのが面倒臭くなって止めちゃったから。」
「ああ、二千歳・・・。じゃ、じゃあ俺は敬語を使った方がいいのかな?」
「何それ?私をおばさん扱いする気?女性に年齢を聞いておいてすっごい失礼!」
「い、いや!全然そういうつもりじゃなくて・・・。」
「このまま手を放して落っことしてやろうかしら?」
「いやいや!気を悪くしたなら謝るよ!ごめん!」
メリッサは「ふん!」と鼻を鳴らし、機嫌が悪そうに口を噤んでしまった。
「そう怒らないでくれよ。精霊が長生きだっていうのは知ってたけど、教科書で学んだ歴史の生き字引がいるなんてすごいなって思って・・・・、」
「生き字引ッ!」
「ち、違う!悪い意味で言ったんじゃなくて・・・、」
「もういい!このまま落としてやるッ!」
「だから待てってッ!」
メリッサは本当に手を放し、龍二は必死に彼女の足にしがみついて謝り続けた。
罵声と怒号と謝罪が飛び交い、落とされそうになった龍二がメリッサのお尻にしがみついたことで、さらに彼女の怒りが爆発した。
まるで夫婦漫才のようにうるさくもめながら、二人は黄色く霞む空の中に入っていった。

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