【読切】 山下清は間違いなく最高の画家さ 【あなた疲れてるのよ】

  • 2014.08.06 Wednesday
  • 14:37
「あなた疲れてるのよ。」
これは俺の相棒である、スカリー捜査官の名言だ。
彼女はいつでも冷静沈着で、馬鹿な俺の言動を窘めてくれる。
それはとてもありがたいことなのだが、時として煩わしく感じることもある。
今・・・・俺の目の前には一人の画家がいた。
その名は山下清。萌えの国、クールジャパンにて最高の賞賛を得る画家だ。
彼はアメリカの風景を描く為、ビート版一つで太平洋を渡ってきた。
その体力は俺を驚かせたが、それよりももっと驚くべくことがあった。
彼の得意とする絵は、紙を細かく千切って貼り付ける千切り絵だと聞いていた。
しかしその情報は古かったらしい。
ミスター山下は、俺のデスクに座ってパソコンをいじっている。
そしてお絵かきソフトとペンタブを使って、『東方』と『艦これ』の絵を描いているのだ。
その腕前は見事なもので、ヤフオクに出してすぐに完売した。
しかも最高で4億の値がついたのだ。
彼は一瞬にして金持ちになったが、ニューヨークじゅうのコンビニからおにぎりを買占め、無一文になってしまった。
周りは彼のことを馬鹿にしたが、俺はそうは思わない。
彼こそはクールジャパンを代表する絵描きであり、人類の宝である。
だからまた絵を描いてもらう為に、俺の家に招いたというわけだ。
俺はキッチンで特大のおにぎりを握り、中にサーモンとプリングルスを入れてやった。
「ほら、ミスター山下。君の大好きなおにぎりだ。」
「お、おおおお、お、お、おおお、お、おおお・・・・・おにりぎなんだな!」
「見れば分かるだろう?さあ、たんと食べて絵を描くんだ。俺はキャサリンに餌をやりに行くから、ちょっと家を空けるがな。」
ミスター山下はおにぎりをほおばり、「う、うう、うう、う、う、うう・・・・美味いんだな!」と感激していた。
「ふふふ、素直な男だ。帰りにポプラへ寄って、海賊おにぎりを買ってきてやるか。ついでに艦これのフィギュアも予約しなければな。こっちは俺の分だが。」
靴を履いてドアを開け、わずか二秒で10キログラムのおにぎりを食べた山下を振り返る。
「それじゃちょっと留守番を頼むよ。」
「ぺ、ペンタブにも慣れてきたんだな。次はタッチパネルにしてほしいんだな。」
「オーケイ、帰りにヨドバシに寄って来よう。ポイントがたくさん溜まってるから買えるはずさ。」
俺は手を振って家を後にした。そして愛車のジャガーに乗り込むと、けたたましくケータイが鳴った。
「ん?これはスカリーじゃないか。確か着信拒否にされていたはずなのに。」
最近スカリーと喧嘩をしてしまい、またしても着信拒否にされていた。
ラインは既読無視されるし、ブログには俺への不満がぶちまけられていた。
『ファック!あの宇宙人マニアめ!次に仕事でヘマをしたら、亀甲縛りにしてバイカル湖に沈めてやるわ!』
そんな風に書いて怒っていたはずなのに、どうして向こうから電話が・・・・?
「・・・・は!もしかしてUFOにさらわれたのか?そうだ、きっと間違いない!待ってろよスカリー!」
スカリーは宇宙人にさらわれた。僕の勘がそう言っているんだ。
慌てて電話に出ると、スカリーの声が響いた。
「もしもしスカリー!今どこだ?どこの惑星につれて行かれた?」
『は?何を言ってるの?』
「宇宙人につれさられたんだろう?すぐに助けに行くから、居場所を教えてくれ!」
『違うわ、あなた馬鹿じゃないの?』
「それはいつものことさ。で、宇宙人にさらわれたんじゃないっていうのなら、いったいどんな用なんだい?
僕たちは喧嘩をしているはずなのに、どうして君から電話を?」
そう尋ねると、少し間をおいてから彼女は答えた。
『・・・・・実は、あなたに相談したいことがあるの?』
「なんだって?僕に相談だって?」
「ええ・・・・あなたにしか相談できないことなの・・・・。だからすぐに家まで来て。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
いったいこれはどういうことだろう?
スカリーが俺に相談?なぜ?どうして?ホワイ?
『もしもし?聞いてる?』
「ああ、もちろん聞いてるとも。でも君が僕に相談なんて珍しいじゃないか。
もしかして家にゾンビでも現れたのか?それともゴジラ?」
『いいえ、そのどっちでもないわ。』
「じゃあどうしたっていうんだい?君が僕に相談するなんて、例え地球が台形になったとしてもあり得ないだろう?」
『そうね。あなたに相談なんて、この世に生まれてから最大の屈辱だわ。
これなら重罪の前科がついた方がマシっていうくらいにね。』
「ははは、キツいジョークだな。でもどっちにしろ君の家に行くつもりだったんだよ。
キャサリンに餌をあげあいといけないからね。」
『ああ、そういえばそうだったわね。昨日はスキナーの当番だったから、今日はあなただったのね。』
「そうだよ。君との約束は何があったって守るさ。たとえミスター山下が艦これの絵を描いていたとしてもね。」
冗談まじりにそう言うと、スカリーは『ミスター山下が!』と驚いていた。
『あなたの家にミスター山下がいるの?』
「ああ、デカいおにぎりを一瞬で丸のみにして、パソコンで絵を描いているよ。」
『それは好都合だわ!』
スカリーはなぜか手を叩いて喜んでいた。そして明るい口調でこう言った。
『ねえモルダー、彼にフジヤマの絵を描いてくれるように頼んでくれないかしら?』
「フジヤマ?それって日本の富士山のことかい?」
『そうよ。それもできれば、雪景色のフジヤマを描いてほしいの。』
スカリーは興奮気味にそう言った。そして電話の向こうから、聞きなれない男の声が聞こえた。
「おいスカリー、いま男の声がしたぞ?誰かいるのか?」
『ええ、ちょっとね。』
「・・・・もしかして、君のボーイフレンドかい?」
恐る恐るそう尋ねると、『馬鹿言わないで』と笑われてしまった。
「じゃあ誰なのさ?言っておくけど、もし下らない男が君の家に来ているのなら、僕は今すぐにでもバルカン砲を持って突撃するよ?」
『ふふふ、相変わらず嫉妬深いわね。でも残念ながら、本当にボーイブレンドじゃないの。』
「じゃあ誰なのさ?」
『・・・・来てくれれば分かるわ。ああそれと、ミスター山下に冬景色の絵を描いてもらってきてね。それじゃ。』
「それじゃって・・・・、いったいどういうことなんだ?おいスカリー、スカリー!
・・・・切りやがった・・・・・。」
いったい今の電話はなんだったというのか?画面を戻し、艦これの長門の壁紙を睨みつける。
するとコンコンとドアがノックされて、ミスター山下が顔を覗かせた。
「どうした?またおにぎりが食べたいのか?」
やや不機嫌に尋ねると、ミスター山下は首を振った。
「や、やっぱり・・・・千切り絵の方がいいんだな。どこかに色紙は売ってないかな?」
そう言ってミスター山下は、紙を千切る動作をしていた。
「ふふふ、やっぱりそっちの方がいいか。よし!それじゃ今からホームセンターに行こう。
好きなだけ色紙を買ってやるさ!」
「ほ、ほんとなのかな?」
「ああ、本当だ。でも一つ頼みがあるんだ。実は僕の相棒が・・・・・・、」
事情を説明すると、ミスター山下は快く引き受けてくれた。
俺たちは色紙を買いにホームセンターへ走り、それからスカリーの家を目指した。
天才画家の山下は、彼女の家に着く前に絵を完成させていた。
それはとても見事なフジヤマの絵で、雪景色の中に、ぼんやりとフジヤマが浮かぶ幻想的な光景だった・・・・・。


            *


白髪交じりの男が、ミスター山下の描いた絵に見入っている。
子供のように目を輝かせ、まるでそこにフジヤマがあるかのように手を伸ばしていた。
「・・・・よかった・・・・。死ぬ前に・・・・もう一度富士山の雄姿を見ることが出来て・・・・。」
白髪の男は涙を流し、フジヤマの絵を抱きしめていた。
「よかったわね、ミスター田中。」
「ああ・・・ありがとう刑事さん・・・・。昔見た雪景色の富士山を、こうしてまた見ることが出来た。
儂は・・・・幸せだよ。」
田中と呼ばれた男は、何度も何度も頭を下げていた。するとどこからかサイレンの音が聞こえてきて、スカリーの家のドアがノックされた。
「スカリー捜査官!ミスター田中のご家族と連絡が取れました。」
「ありがとう、それじゃ後は任せるわ。」
スカリーはミスター田中の手を取り、そっと立たせた。
「さあ、田中さん。もう家族のところへ帰らないと。みんなきっと心配してるわよ?」
「・・・ああ、そうだな・・・・。」
「その絵は老人ホームに持って行けばいいわ。きっと寂しさを紛らわしてくれるでしょう。」
「・・・そうするよ・・・・ありがとう・・・・。」
ミスター田中は涙を浮かべながら、スカリーに深く頭を下げていた。そしてやって来た警官につれられて、パトカーでどこかに運ばれて行った。
「ご苦労だったね、スカリー。」
ミスター田中を見送るスカリーの肩を叩くと、「そうね・・・」と頷いていた。
「キャサリンの散歩の途中に、フラフラしている老人がいたから思わず声を掛けたの。
そうしたらいきなり泣き出すから、仕方なしに家までつれて来たんだけど・・・・まさかあなたに助けられるとはね。」
そう言ってスカリーはニコリと微笑んだ。
俺は頷き、彼女の家に来た時のことを思い出していた。
ミスター山下をつれてスカリーの家まで来ると、白髪の知らない男がいた。
スカリーによると、彼は家族と喧嘩をして家出をしたらしい。
その理由は、老人ホームに入りたくなかったからだ。
ミスター田中は家族とうまくいっておらず、厄介者扱いされていた。そして家から出て行ってもらう為に、老人ホームに入れられることになったのだ。
その話を聞いたスカリーは、大いに同情した。
しかしいくらFBI捜査官といえど、他人の家の事情にまで手は出せない。
そこで彼の最後の願いである、もう一度フジヤマを見たいという夢を叶えてやることにしたのだ。
「ミスター田中は日系移民なんだな?だから死ぬ前にもう一度フジヤマを・・・・・、」
そう呟くと、隣に立つスカリーが頷いた。
「田中さんは飛行機で長旅が出来るほど体力がないからね。でもかといって、パソコンの画面で見るのも味気ない。
だからあなたに頼んで、何とかしてもらおうと思ったのよ。」
スカリーは小さく微笑み、俺の肩を叩いた。
「こんな厄介事は、モルダーでないと頼めないからね。でもよかったわ、田中さんが満足してくれて。」
「いいや、俺の力じゃないさ。全てはミスター山下の・・・・・、」
そう言って家の中を振り返った時、そこにミスター山下の姿はなかった。
「あれ?いったいどこに行ったんだ?」
慌てて辺りを探していると、スカリーが「もう行ったのよ」と呟いた。
「ミスター山下は放浪の画家よ?ずっと同じ場所にはいられないわ。」
「・・・そうか、そうだな・・・。彼は放浪する画家として有名だもんな・・・。
きっとまたどこかで、誰かの為に絵を描いているに違いないさ。」
俺はミスター山下の姿を思い浮かべ、渋い目で空を睨んだ。
するとスカリーが、突然俺の目の前にスマホを向けてきた。
「ミスター山下ならここにいるわよ。」
「んん?どういうことだ?」
スカリーのスマホを見ると、艦これの長門が書かれた傘を差しながら、フランスのアニメエキスポに参加する山下がいた。
「さっき海を泳いでフランスまで行ったのよ、ビート版一つでね。」
「なんだって!」
「これは五分前に送られてきたラインだから、ものの二分程度で向こうに渡ったことになるわね。すごい体力だわ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺は言葉を失くしていた。それはミスター山下が二分でフランスまで泳いだからではなく、いつの間にかスカリーとライン友達になっていたからだ。
「シット!あのタンクトップ野郎!俺はまだ着信拒否されたままだっていうのに!」
悔しさのあまり地面を叩くと、スカリーは「顔を上げて」と言った。
「これはミスター山下から送られてきた、あなたへのプレゼントよ。
家に居候させてもらったお礼だって。」
「お礼・・・・?」
顔を上げてスカリーのスマホを見つめると、そこにはブラックマジシャンガールが映っていた。
それもティマイオスと融合した、竜騎士ブラックマジシャンガールの姿が・・・・・。
「こ、これは・・・・なんて素晴らしい絵なんだ!一つ一つ丁寧に千切られた紙が、まるで星空の輝きのように煌めいている。それにこの繊細なタッチ・・・・・本当に生きているようだ・・・・・。」
「ふふふ、彼は知ってたのよ。あなたの一番好きなキャラクターはブラックマジシャンガールだってね。」
「ど・・・どうして!」
「だって、あなたの部屋には五百体のブラックマジシャンガールのフィギュアがあるでしょ?
それにイラストだって二千枚はある。誰が見たって一目瞭然よ。」
「そ・・・そうか・・・。ミスター山下のやつ、俺の為にこんな素晴らしい絵を・・・・・。
クッ・・・・・すまない!さっきはタンクトップ野郎だなんて言って!やっぱり君は最高の画家だよ!」
俺はミスター山下に感謝の念を捧げ、自分のケータイを取り出した。
「スカリー、悪いんだけどそれをこっちに送ってくれないか?さっそく壁紙に設定するから。」
「ええ、いいわよ。でも二万ドルね。」
「に、二万ドルだって!なんでそんな金を払う必要があるんだ!」
「だってミスター山下は一流の画家だもの。それくらいの値段は当然でしょ?」
「い、いや・・・・でも二万ドルはさすがに・・・・。」
「あら?嫌ならいいわよ。これをヤフオクに出すだけだから。」
「やめてくれ!そんなことをしたら画像がコピーされまくって、希少価値がなくなる!
それは俺の為だけのブラックマジシャンガールなんだ!」
土下座をして懇願すると、スカリーは嬉しそうにスマホを振った。
「だったら・・・・これから毎日キャサリンの世話をお願いね。
あと一年先まで私の休みと交代すること。どう?」
スカリーはブラックマジシャンガールの画像を見せつけ、試すような目つきで見下ろしてくる。
俺は迷ったが、ミスター山下の描いたブラックマジシャンガールを諦めることは不可能だった。
「・・・・・・やる!その条件を飲むから、その画像を送ってくれ!」
俺は神に祈るように手を伸ばす。スカリーはニコリと頷き、画像を送ってくれた。
「やった!最高の宝物が手に入ったぞ!」
麗しきブラックマジシャンガールをさっそく壁紙に設定する。そしてニコニコと微笑んでいると、スカリーはため息をついた。
「ねえモルダー、私からその絵を売っといてあれなんだけど・・・・・ちょっといいかしら?」
「ん?なんだい?」
満面の笑みで顔を上げると、スカリーは腕を組んで見下ろしていた。
「あなた疲れてるのよ。」
「ん?」
「冗談のつもりだったのに、まさか本気でさっきの条件を飲むなんて・・・・やっぱり変態ね。」
スカリーの冷たい視線が突き刺さる。まるでゴミ虫でも睨むような、とても冷酷な視線だった。
「スカリー、男には誰だって夢がある。俺の場合・・・・たまたまそれがブラックマジシャンガールだっただけのことさ。」
「意味が分からないわ。」
「分からなくてけっこう。男には自分の世界があるものさ。」
俺は手を振り、スカリーの家を後にしようとした。しかし急に嫌な予感に襲われ、彼女に振り向いた。
「スカリー、事件だ。」
「また?」
「僕の勘がそう言ってるんだ。」
「・・・・・分かったわ。でもね、まさかその恰好で行くつもりじゃないわよね?」
「どういうことだい?」
肩をすくめて尋ねると、スカリーは首を傾げて微笑んだ。
「だって・・・・今日のあなた服を着てないわ。」
確かにその通り。今日の俺は服を着ていなかった。生まれたままの、一糸纏わぬ姿だ。
「・・・・・・また忘れてたよ。とりあえず君のネグリジェでも貸してくれると助かるんだが?」
そう言うと、スカリーの鉄拳が飛んできた。
「ぐはッ・・・・・冗談なのに・・・・・。」
俺は鼻血を出して倒れた。視線の先には、ミスター山下の描いたブラックマジシャンガールの壁紙が転がっていた。
「ミスター山下、やっぱりあんたは最高の画家さ。」
それから二日後、ヤフオクに彼の描いたブラックマジシャンガールの絵が出されていた。
出品者はもちろんスカリー。俺だけのブラックマジシャンガールは、瞬く間に世界へ広がっていってしまった。



                               完


 

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