ダナエの神話〜宇宙の海〜 第三十九話 神樹が蘇る時(2)

  • 2014.08.11 Monday
  • 18:52
《この!ちょこまかと動いて!》
「うっせうなおばちゃん、クネクネ触手を動かしてんじゃねえよ!」
倒れていた邪神は、恐ろしいほどの執念で立ち上がっていた。魂を呪われ、身体を傷けられながらも、凄まじい執念で目を覚ましたのだ。そしてコウを殺そうと、必死になって戦っていた。
「ダメだな、動きがトロいせ。いくら邪神っていっても、あれだけダメージを受けたらさすがに弱るか?」
《黙れ!毎回毎回邪魔をしやがって!今度こそブチ殺す!》
「やってみろよ、出来るもんならな。」
コウは挑発的に笑い、触手を掻い潜って邪神の頭に飛び乗った。
「特大の拳骨を落としてやる!食らいやがれ!」
そう叫んで両手を掲げ、魔法を唱えた。
「大地に眠る金属の精霊よ!このイカレタ女に鉄拳をお見舞いしてやれ!」
そう唱えて魔法を放つと、海底がモリモリと盛り上がって、アンモナイトの姿をした精霊が現れた。その精霊はコウの手に巻きつき、大きな拳へと姿を変えていった。
「おい、おばちゃん!鉄より硬い特大の拳骨をくれてやるぞ!どおおりゃああああ!」
コウは思い切り拳を振り下ろし、邪神の頭を殴り飛ばした。
《ふごおッ!》
「まだまだ!その顎を砕いてやるぜ!」
今度はボクシングのように拳を構え、強烈な右アッパーを放った。大きな硬い拳が邪神の顎をカチ上げ、バキバキと牙を砕いた。
「もういっちょ!」
《ふぶうッ!》
渾身の右ストレートが、邪神の顔を打ち抜く。すると邪神の角は割れ、顔にビキビキとヒビが入っていった。
「これで最後だ!」
コウは邪神から距離を取り、右拳を前に構えた。そして「行け!」と叫ぶと、大きな金属の拳が、ロケットパンチのように飛んでいった。
《ほごおおおおおおおッ!》
ロケットパンチは邪神の胸を抉り、そのまま遠くへ飛んで行く。そして最後は大きな爆発を起こして、白い泡の中に消えていった。
「・・・ちょっとは効いただろ。今のうちにみんなを助けよう。」
そう言って背中を向け、海底に倒れるダナエの元に向かった。
「おいダナエ!しっかりしろ!」
《・・・・・・・・・・・・・・・。》
肩をゆすって何度も呼びかけるが、ダナエはまったく目を開けなかった。
「ダメか・・・。ドリューが目の前で死んだのがよっぽどショックだったんだな。後でサリエルが生き返らせてくれるって言ったのに、全然耳に入ってなかったからなあ・・・。まあいいや、とりあえず他の仲間を助けるか。」
泡に包まれたダナエをそっと寝かせ、まずはアリアンロッドの方に向かった。
「おいアリアン!すぐ治してやるからな!」
アリアンロッドは酷く痛めつけられていた。コウはすぐに治癒の魔法を唱え、ついでに蚕の精霊に頼んで、衣服を修復してもらった。
《・・・コウ・・・・。》
「よかった!目が覚めたか!」
コウはアリアンロッドの肩を抱き起し、「もう大丈夫だ!」と微笑んだ。
「ずいぶん酷い目に遭ったな・・・。すぐに助けられなくてごめんな。ダナエの奴がいきなり気を失っちまうもんだから。」
コウはアリアンロッドの背中を撫で、いたわるように抱きかかえた。
《・・・コウ・・・私は・・・悔しい・・・。あの邪神にいいように弄ばれ、何も出来なかった・・・・。》
「・・・しょうがないよ、なんたって相手はあの邪神だもん。」
《・・・私はお前を呼んだのだぞ・・・早く助けてくれと。あのピラミッドの神殿で、たまには甘えてもいいと言うから、必死に助けを求めていたのに・・・・。お前ときたら、ダナエばかり見て・・・・・。》
アリアンロッドはコウの胸に頭を寄せ、ギュッと手を握りしめた。
《男なら約束くらい守れ!私は・・・私は危うく・・・汚されるところだった!》
「・・・ごめん、ごめんな。でももう大丈夫だから。俺が守ってやるさ、ダナエもアリアンも。」
そう言って笑いかけると、アリアンロッドは拗ねたように顔を背けた。
《やはり・・・お前にとってはダナエが一番なのだな?正直・・・少し悔しいよ・・・。》
「え?ああ・・・いや、そういうわけじゃなくて・・・・。」
照れくさそうに顔を赤くすると、突然コウの身体に触手が巻きついた。
「うわああああああ!」
《コウ!》
アリアンロッドは咄嗟に剣を振り、触手を切り払おうとした。しかし別の触手が飛んできて、思い切り弾き飛ばされてしまった。
《がはあッ!》
「アリアン!」
コウは触手に掴まれたまま、猛スピードで後ろに引っ張られた。その先には邪神が待ち構えていて、大きな口を開けて睨んでいた。
《このクソガキャああああああああああ!殺すなんてもんじゃ済まさねぞおおおおお!》
「やばい!ヒステリーが頂点に達してる!このままじゃ食われちまう!」
コウは羽を動かし、大きなカマイタチを放った。しかし邪神は海流の渦を吐きだし、カマイタチを相殺してしまった。
《妖精のクソ虫め!私はお前らが大嫌いなんだよ!お前ら妖精を見てると、自分がちっぽけな虫だった頃を思い出す!人の心を抉ってんじゃねえよ!》
「はあ?そんなもん知るかよ!どこまで自己中なんだよ!」
コウは何度も魔法を唱えて触手を断ち切ろうとするが、その度に邪神に邪魔をされてしまった。そして口の近くまで運ばれ、いよいよ飲みこまれようとしていた。
「うわああああああ!虫になんか食べられたくないいいいいい!」
《一気に飲み込んだりしないわ!スープになるまですり潰して、生まれてきたことを後悔するくらいに苦しめてやる!》
邪神は口を開け、びっしりと並ぶ鋭い歯を見せつけた。そしてそのままコウを丸齧りにしようとした時、一筋の銀色の光が横切っていった。
《な・・・なに・・・?》
思わず呆然としていると、コウを捕えていた触手がボトリと切り落とされた。
《なッ・・・なんで!》
驚きながら切られた触手を睨んでいると、七色に光る鱗粉が降り注いだ。
《これは・・・・妖精の粉?・・・もしかして!》
そう叫んで辺りを見回すと、頭上にコウを抱えたダナエが浮かんでいた。
《お前・・・・目を覚ましやがったのか!》
「うん、ユグドラシルのおかげでね。」
ダナエはそっと邪神の元に降り立ち、コウを下ろした。
「ダナエ・・・目が覚めたんだな!」
コウは嬉しそうに抱きつき、すぐに心配そうな顔になった。
「大丈夫か?急に気を失うから心配してたんだ・・・。」
「ごめんね、不安にさせちゃって。でも・・・もう私は大丈夫。だってユグドラシルに会って、勇気をもらったから。」
そう言っておでこを撫で、槍を構えて邪神を見上げた。
「邪神・・・いえ、クイン・ダガダ。あなたの話はユグドラシルから聞いたわ。元々は一国の王女だったのに、地球から侵略を受けて酷い目に遭ったんでしょ?」
《・・・それがどうした?しょうもない過去を突きつけて、私を揺さぶるつもり?》
「ううん、そんなつもりはないわ。今のあなたは、言葉で止まるような状態じゃないでしょ?」
《そうよ。身を焦がすこの怒りは、もう誰の言葉も受け付けない。私の中には無数の怨霊が宿っていて、それになにより、私自身が醜い怨霊だもの。》
邪神は触手を動かし、その先端をダナエに向けた。
《でもね、そんなことはどうでもいいの。私の中にあるのは、地球への復讐。そして、もう一つ大きな野望がある。その目的を達成する為に、妖精のクソ虫どもと遊んでる暇なんかないのよ!》
そう叫んで触手で攻撃すると、ダナエはヒラリとかわした。
「分かってる。ユグドラシルは何も言わなかったけど、今のあなたは復讐の為だけに動いているんじゃないってことくらい。そしてその野望っていうのは、とても恐ろしいものだってことも。かつてダフネが企んだように、また空想と現実を混ぜるつもりなんでしょ?
そうでないと、ここまで異常に暴れる理由が見当たらないもの。」
そう言って槍を突きつけると、邪神は可笑しそうに笑った。
《そうよ、現実と空想の壁を取り除いて、二つの世界を一つに戻す。そして地球とこの星を支配して、より大きな力を手に入れてやるわ。そうすることで、私は宇宙の海の支配者になれる。それはこの銀河を支配することに等しい。》
邪神は触手を地面に突き立て、海底を割って攻撃してきた。しかしダナエは焦ることなくそれをかわし、コウの手を取って後ろに飛びのいた。
《私の星は、弱いから侵略を受けた。そして私の国だって、弱いから滅んだのよ。だったらより大きな力を手に入れれば、誰にも支配されることは無くなる!さすがに宇宙の支配者になるのは無理があるけど、でもこの銀河を支配するくらいなら、何とか出来るかもしれない。そうすることで、私は命の連鎖の上に立つ!踏みつぶされる者から、踏みつぶす者へと変わることが出来るのよ!》
邪神は大きな口を開けて、ダナエを飲み込もうとした。しかしダナエの銀の槍が、邪神の顔を深く切り裂いた。
《ぎゃあ!なんで?たかが妖精ごときの武器でどうして!》
「これは私の武器じゃないよ。ジル・フィンって神様から譲り受けたもの。そして、この槍には不思議な力が宿っているわ。」
《不思議な力・・・?》
「ユグドラシルから勇気をもらって目を覚ました時、この槍がブルブルと震えてたわ。きっと・・・・ユグドラシルは、この槍の本当の力を解放してくれたんだと思う。それがどういう力か、自分の目で確かめてみるといいわ!」
ダナエは槍を掲げ、七色に輝かせた。すると槍の周りにぼんやりと何かが浮かび、じょじょに形を成していった。
《そ・・・それは!》
邪神は思わず後ずさった。なぜならダナエの槍の周りに浮かんでいるのは、神殺しの神器だったからだ。カプネに爆弾を付けられた三つの神器が、ダナエの槍の周りでクルクルと回っていたのである。
《どうして!どうして私の神器が!》
邪神は発狂したように叫び、ダナエを睨んだ。
《なんで私の神器をあんたが操ってるの!》
するとダナエは、小さく笑って答えた。
「それがこの槍の力よ。他の武器を吸い取って、この槍の力に変えるの。」
《そ・・・そんな・・・何よそれ!それは私の武器よ!返しなさい!》
邪神は呪いの神器を呼びだし、ダナエに奪われた神器を取り戻そうとした。しかしダナエが奪った神器が、呪いの神器を受け止めて邪神に跳ね返した。
《ぐおおッ・・・・この!よくも人の物を・・・・、》
「違うでしょ。」
《は?》
「これはあなたの武器じゃない。あなたの婚約者が作った武器でしょ?」
《・・・・あんたあ、そんなことまで知って・・・・。》
邪神の顔が、今までとは違った形に歪む。それは怒りというより、恥ずかしさからくるものだった。
「この武器を作った武神っていう神様は、きっと酷い使い方を望んでいたんじゃないわ。彼はこの星とあなたを守る為に、この武器を生み出した。だから・・・これがこの武器の正統な使い方よ!」
ダナエは神器を槍に戻し、七色の光を纏わせて突撃した。
《このクソガキ!調子に乗るなよ!》
邪神も呪いの神器で応戦し、ダナエの槍を受け止めようとした。しかし・・・・呪いの神器は全て弾かれてしまった。そしてダナエの槍が邪神を貫き、七色の光が爆ぜて邪神を苦しめた。
《ぎゃあああああああ!やめろこのガキ!》
邪神は苦しみながらも足を踏ん張り、呪いの杖をかざした。すると杖の先からヘドロのような物体が放たれ、ダナエに纏わりついた。
「きゃあ!」
《この杖には力を反転させる能力がある。弱者は強者に、強者は弱者に、そして光は闇に変わり、善は悪に変わる。あんたの力は弱者のように弱くなり、そして心は悪に染まる。》
「ううう・・・うぐぐッ・・・・。」
呪いの杖は、その力をもってダナエの力を反転させようとしていた。しかしそこへコウが飛んできて、何かを投げて寄こした。
「ダナエ!お前にはお前の武器があるだろ!これを使え!」
そう言ってコウが投げたのは、力を取り戻したコスモリングだった。
「プッチー!」
ダナエは手を伸ばしてそれを受け取り、左の腕に填めた。すると三つの青い宝石から三体の神様が現れ、杖から放たれるヘドロを吹き飛ばした。
《ダナエ!無事だった?》
アドネは鎌を振ってヘドロを切り裂き、心配そうにダナエを見つめた。
「うん、私は平気。邪神を倒す倒す為に、みんなの力を貸して!」
《お安い御用よ。それじゃブブカ、時空の波でみんなを守ってね。私は・・・あいつの魂を狩る!》
《了解した。》
ブブカは大きなヒレを動かし、時空を歪めて結界を張った。そしてアドネは鎌を振りあげ、高速で邪神に向かって行った。
《雑魚が・・・・身の程を知れ!》
邪神は呪いの斧を飛ばし、アドネを切断しようとした。しかしそこへニーズホッグが割って入り、硬い身体で呪いの斧を跳ね返した。
《ソンナ物ハ俺様ニハ効カン!》
《ぐッ・・・・またこのミミズなの・・・。しつこいわね。》
《虫ノオ前二言ワレタクナイワ!サア、俺様ノ歯デ噛ミ砕イテヤル!覚悟シロ!》
《ほんっとにもう・・・・どいつもこいつも邪魔ばかりして・・・・。カスの分際でチョロチョロしてんじゃねえわよおおおおお!》
邪神は羽を広げ、ニーズホッグとアドネに飛びかかった。そして激しい戦いを巻き起こし、一進一退の攻防を繰り広げた。
それを見たコウは、「すげえ!これならいけるかも」と拳を握った。しかしダナエは首を振り、「そんなに甘くないわ」と答えた。
「あの邪神・・・クイン・ダガダは、恐ろしいほどの執念を抱えている。だからこのまま戦い続けたって、いつか負けるのは目に見えているわ・・・・。」
「じゃあどうするんだよ?他の神様たちを復活させて、みんなで戦いを挑むか?」
「・・・いいえ、そんなことをしたって、またみんなが傷つくだけよ。だから・・・ここは私に任せて。」
ダナエはコスモリングを掲げ、ニコリと笑ってみせた。
「プッチーが復活した今なら、もしかしたら邪神を止められるかもしれない。望みは薄いけど・・・それでもやってみる価値はあるわ。」
「やってみるって・・・お前まさか・・・・、」
「うん、クインと魂のコンタクトをしてみる。」
そう言うと、コウは「ダメだダメだ!」と首を振った。
「そんなの危険過ぎるよ!いつかダンタリオンが言ってただろ。魂と魂のコンタクトは、すごく危険な面もあるって。お前が魂を見せても、向こうが魂を見せなかったら、お前は一口で食われちゃうんだぞ。そのことを分かってるのか!」
「もちろん分かってるわ。でも・・・もうこれしか方法がないと思う。危険を承知でやらなくちゃ、きっとクインは倒せない。彼女はそれくらい手強い相手よ。」
そう言って傷ついた仲間を見つめ、コウの背中を押した。
「ほら、コウはみんなの傷を治してあげて。それに・・・アリアンを守ってあげるんでしょ?」
「お前・・・・・さっきの会話を」聞いてたのか?」
「うん、こっそりとね。」
ダナエはニコリと笑い、ササッとコウに顔を寄せた。その顔はニヤニヤとニヤけていて、頬を赤くしながら言った。
「これは私の勘だけど・・・アリアンって絶対にコウに気があるわよ?」
「は・・・はあ?何を馬鹿なことを言って・・・・、」
「あはは!赤くなってる。でもアリアンは絶対に、コウのことを悪く思ってないわよ。だからここでビシッと守ってあげれば、いつか付き合うことになったりして・・・・。」
ダナエはニヤニヤしながら言い、ポンとコウの背中を押した。
「ほらほら、早くアリアンを助けてあげる。その後はスッチーたちを助けて、みんなで見守っていて。私と邪神が魂のコンタクトを取るところを、ね?」
ダナエは安心させるように笑いかけた。
「・・・・分かったよ。でも無茶はするなよ。なんたって、相手はあの邪神なんだからな。もし失敗したら・・・・・、」
「分かったから、早く行く。ほら。」
そう言ってコウの背中をドンと押し、邪神の方を振り返った。そこでは三体の神と邪神が激しく争い、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「互角に見えるけど、少しずつクインの方が押し始めてる。急がなきゃね。」
ダナエは目を閉じ、コスモリングに触れて語りかけた。
《お願いプッチー。アドネの時みたいに、私の魂をコンタクトさせて。このままクインと戦かったって、みんなが傷つくだけ・・・。だから・・・・お願い!》
ダナエはコスモリングにおでこを付け、強く念じた。すると力を取り戻したコスモリングは、その想いに反応して輝きだした。
そして・・・ダナエの魂を身体から離脱させ、邪神の方へと飛ばした。

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