ダナエの神話〜宇宙の海〜 第四十話 神樹が蘇る時(3)

  • 2014.08.12 Tuesday
  • 19:49
ダナエはコスモリングにおでこを付け、強く念じた。すると力を取り戻したコスモリングは、その想いに反応して輝きだした。そして・・・ダナエの魂を身体から離脱させ、邪神の方へと飛ばした。
《クイン・・・聞こえる?》
《これは・・あの妖精の声・・・?》
邪神は三体の神から距離を取り、辺りに耳を澄ませた。そして目の前にプカプカと浮かぶダナエの魂を見つけ、ニヤリと笑った。
《あんた、わざわざ食べられに来たの?》
《いいえ、違うわ。あなたの魂と交わろうと思って。》
《私の魂と交わるですって・・・?》
邪神は怪訝そうに顔を歪め、ダナエの魂を睨んだ。そこへニーズホッグが襲いかかろうとしたが、ダナエは《やめて!》と叫んだ。
《ミミズさん、今はじっと見守っていて。》
《何故ダ?邪神ガ気を取ラレテイル今ガ好機ダトイウノニ。》
《いいの、ここは私に任せて・・・ね?》
《ウムム・・・・オ前ガソウ言ウノナラ・・・・。》
ニーズホッグは動きを止め、ダナエの言うとおりに見守ることにした。
《ありがとう。さて・・・・それじゃクイン・ダガダ、あなたの魂を見せてくれない?》
《は?何を馬鹿なことを言ってるの?わざわざ敵の土俵に上がる馬鹿がいるわけないでしょ?このままひと飲みにしてやるわ!》
《怖いの?》
《はあ?》
《あなたは私と対等な場所に立つのが怖いんでしょ?だからそうやって逃げようとするのよ。ううん、きっと私だけじゃない。あなたは色んなものを怖がり、そこから目を背けようとしている。その証拠に、あんな卑怯な神器まで使って、しかも敵を罠に嵌めようとするのよ。そんなことをするのは、自分に自信がない証拠よ。》
《・・・・ふふ・・・うふふふふ、何それ?それで私を挑発してるつもり?》
邪神は可笑しそうに笑い、目を赤く光らせた。しかしダナエはまったく動じることなく、堂々とした口ぶりで言った。
《そうよ、下手クソな挑発だって分かってるけど、でも私の口車に乗ってもらわないと困るの。これ以上戦ったって、あなたに勝つ見込みはないもの。》
《だったら尚更あんたの口車に乗るわけないでしょ?とっととあの世へ行きなさい!》
邪神は口を開けてダナエに襲いかかった。しかしその時、辺りに緩やかな海の音色が響いて、ピタリと動きを止めた。
《こ・・・これは・・・・マクナールの海・・・。》
邪神は懐かしむように、その音色に耳を澄ませた。
《知ってる・・・この海の音は知ってるわ・・・。これはかつてのマクナールの海。まだ地球から侵略を受ける前の、穏やかなマクナールの海だわ。・・・・懐かしい・・・。》
邪神は、かつて自分が一国の王女であった頃を思い出していた。あの頃は何の不安もなくて、満たされた日々を送っていた。ラシルはいつでも平和で、周りには愛しい家族と婚約者がいた。そして毎日のようにマクナールの海を眺め、こんな時間が永遠に続くのだと信じていた。
《懐かしい、ほんとうに懐かしいわ・・・・。でも、この海は二度と還らない。地球の馬鹿どものせいで、ラシルの星に闘争という意志が宿ってしまったから・・・。だから私は許せない・・・。地球のゴミどもが許せないのよ!》
そう叫んでダナエを飲み込もうとした時、ハッと異変に気付いた。
《あ、あれ・・・?人の姿に戻ってる・・・どうして?》
邪神は美しい女の姿に戻っていた。不思議に思って自分の身体を見つめていると、後ろに巨大な虫が立っているのに気が付いた。
《あれは私の身体じゃない!ということは・・・今の私はまさか・・・、》
《そう・・・魂だけだよ。》
ダナエは邪神の前に立ち、ニコリと微笑んだ。
《クイン・・・あなたはプッチーの声が聞こえたのね?》
《プッチーの声・・・?》
《コスモリングのことよ。あの腕輪に反応するってことは、あなたの心にはまだ微かに誰かの言葉を聞き入れる余地があるってことよ。だからほら、こうして魂だけになっちゃったっでしょ?》
ダナエは手を広げて笑い、真っ直ぐに邪神を見つめた。
《ねえクイン・・・私もあなたも、種族は違えど王女という身分よね?だったら分かり合える部分があると思うの。》
そう言って邪神の手を取り、そのまま上に舞い上がった。
《魂と魂をコンタクトさせるってことは、お互いの本当の心を見せ合うってことよ。だから・・・あなたの心を見せてちょうだい。その代わり、私の心も見せてあげる。そしてもしお互いのことが理解出来れば、きっと争わずに済むと思う。》
《・・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
ダナエは屈託のない顔で笑いかけるが、邪神は黙ったまま睨んでいた。二人は一つも言葉を交わすことなく、さらに上へ舞い上がっていく。そして魂と魂が螺旋状に絡み合い、眩い光を放って海を飛び出していった。
《大丈夫、言葉はいらないから・・・・。ただあなたの心を見せてくれればそれでいい。》
ダナエは目を閉じ、自分の心をさらけ出していく。クインの魂に交わり、ダナエという人物の全てを見せていった。するとクインは、肩を揺らしてクスクスと笑った。
《あんた面白いわね。こんなに弱虫なクセに、今までずっと戦ってきたなんて。よく生き残れたわね。》
ダナエの心に触れたクインは、素直に賛辞を送った。しかし急に笑顔を消し、重い口調で言った。
《だったら私の心も見せてあげるわ。ああでも・・・一つ言っておくけど、私の心は一つじゃないわよ。それに魂もね。うふふ・・・・。》
《心と魂が一つじゃない・・・?どういうこと?》
《見れば分かるわ。それじゃ・・・・私の中を覗いてごらんなさい。》
クインはコスモリングの力に身を委ね、自分の全てを見せつけた。そして・・・それを見たダナエは、言葉に出来ないほどの恐怖を感じた。
《こ・・・これは何・・・?クインの他に、もう一つ別の心が・・・・。》
《そうよ、だから言ったでしょ。私の心は一つじゃないって。だって・・・私は二つの命が合わさって出来ているんですもの。このクインという命と、地を這うちっぽけな虫の魂とがね。》
《虫・・・・?ああ!そうか!もう一つの心の方は、クインと一緒になった虫の魂!》
ダナエが怯えていたのは、クインではなく虫の魂の方であった。
《虫というのは、いつでも草場の陰で生きているものよ。欲目をかいて表に出て来れば、たちまち駆除されてしまう。だから私と融合したこの虫も、そういう抗えない運命の元に生きていた。しかも最後には、私という怨霊を封じ込める道具に使われたの。ただ普通に生きていただけなのに、たまたま私の近くを通りかかったという理由だけでね。》
クインはそう言って、胸に手を当てて笑った。彼女の胸には二つの魂が光っていて、そのうちの一方はマーブル模様に歪んでいた。
《見て、この虫は魂までもが憎悪にまみれている。だからこんな茶番じゃ、どんなに頑張ったって納得させるのは無理よ。》
《そ、そんな・・・・魂と心が二つもあるなんて・・・・・・。》
予想外の出来ごとに、ダナエは唖然としていた。するとその隙をついて、クインはダナエを突き飛ばした。
《きゃあ!》
《さあ・・・もう茶番は終わり。私はそろそろ失礼させてもらうわ。私にはまだまだやらなきゃいけないことがあるから。それにもうどの道あの身体は使いものにならないしね。》
クインは傷ついた自分の身体を振り返り、ゴミでも睨むように冷たい視線を投げかけた。
《やっぱり急ごしらえの身体じゃあんなものね。だってあんた達みたいな雑魚にやられちゃうんですもの。次はもっと強い身体にしなくちゃ、うふふ・・・・・。》
クインはそのまま宙に舞い上がり、二つの魂を輝かせながら逃げて行った。
《待って!虫の魂が憎しみに歪んでいることは分かったけど、あなたはどうなの?クイン・ダガダという一人の女性は、ほんとうにそれでいいと思ってるの?》
去りゆくクインの魂にそう呼びかけると、馬鹿にしたような笑いが返ってきた。
《うふふ、思ってなきゃやるわけないでしょ?去り際に一言だけ忠告しておくけど、あんたは希望ばかり見過ぎよ。覚悟を決めたからって、何でも上手くいくわけじゃないわ。そんなに甘い考え方をしてると、いつか痛い目に遭うわよ?・・・・うふふふ・・・・。》
《待って!私はまだあなたの心は見せてもらってない!》
ダナエは必死にクインを追いかけようとするが、海の中から水柱が上がって振り返った。
《あれは・・・もしかしてクインの身体が暴れてるの?》
クインが身体だけになっても動けることは、コウから聞かされていた。ダナエは一目散に引き返し、クインの身体が立つ海底まで戻った。
《みんな!大丈夫!》
《おお、ダナエ。いま邪神の身体をブッ潰したところだぜ。》
コウは粉砕されたクインの身体の上に立ち、ガッツポーズを見せた。
《こいつまた身体だけで動きやがったんだ。でもこうなることは予想してたから、みんなで一斉にやっつけたのさ。》
倒されたクインの周りには、アリアンロッドやニーズホッグが立っていた。それを見たダナエは、ホッと胸を撫で下ろした。
《よかった・・・みんな無事だったんだね・・・。》
《ああ、傷ついた仲間はバッチリ治したぜ。そんで肝心のお前の方だけど・・・その様子じゃ上手くいかなかったみたいだな?》
《うん、途中で逃げられちゃった。》
《まあ仕方ないさ。こうして無事に帰って来ただけでも幸運ってもんだ。それより早く自分の身体に戻れよ。あんまり魂だけでウロウロしてると、身体に戻れなくなっちゃうぞ。》
コウはダナエの身体を抱きかかえ、《ほら》と促した。
《そうね・・・こうして無事に戻って来られただけでも良しとしないと。》
正直なところ、ダナエは死を覚悟していた。一か八かで挑んだ魂のコンタクトだが、その成功率が低いことは承知していたのだ。
しかし結果的にはクインを追い払うことに成功し、こうしてまた戻って来ることが出来た。それだけでも良しとしようと思い、自分の身体へと戻っていった。
「とりあえずみんなが無事でよかったわ。クインは逃がしちゃったけど、また追いかければすむ話だしね。」
あっけらかんとしてそう言うと、コウは「まだだよ」と首を振った。
「確かに邪神は追い払ったけど、まだ厄介な問題が残ってるだろう?」
「厄介な問題・・・・・?それって、もしかしてドリューのこと・・・・?」
ダナエは急に悲しい表情になり、グスンと鼻をすすった。
「泣くなよバカ。ドリューは何とかなるってずっと言ってるだろ。」
「なんとかって何よ!ドリューは死んじゃったんだよ!死んだ命を、今さらどうしようって言うのよ!」
ダナエはあえてドリューのことには触れずにおいた。ここで彼の話をすれば、涙が止まりそうになかったからだ。
「・・・・ドリューは・・・私を守る為に死んじゃった・・・。赤ちゃんだって生まれて来るのに・・・・。私は・・・なんて言ってドリューの家族に謝ればいいの?お腹の大きな奥さんに、どうやって謝ればいいの・・・・。」
ダナエはグスグスと鼻をすすって泣き出し、膝を抱えて座り込んでしまった。
「ごめんなさい・・ドリュー・・・。私のせいで死んじゃって・・・・ごめんなさい。」
ダナエは膝に顔をうずめ、オイオイと泣いていた。それを見たコウは、ため息をついて後ろを振り返った。そしてサリエルに向かって、小声で「頼む」と呼びかけた。
《いいだろう。死神族の掟に従い、お前が望む者の魂を復活させよう。》
そう言って黒いローブを翻し、白い方を表にして纏った。するとサリエルは天使に姿を変え、透明な杖を振りかざしてドリューの魂を呼び寄せた。
《さあ、死の神の命の元に、その命を現世に現すがよい!》
サリエルは透明な杖から青白い光を放ち、ドリューの魂に当てた。すると見る見るうちに彼の身体が復活して、魂はその中にスポンと入っていった。
ダナエはそんなことも知らずに、ただただ泣いていた。肩を揺らしながら、しゃっくりを繰り返し、何度もドリューに謝っていた。
「ごめんね、ドリュー・・・ごめんね・・・・。」
《ええ、気にしてないから大丈夫ですよ。》
「・・・・・・・・・ッ!」
ダナエはすっ転ぶ勢いで顔を上げた。そして目の前にドリューが立っているのを見て、目を点にして固まっていた。
《いやあ、まさかこうして生き返ることが出来るなんて思いませんでしたよ。死神の力ってすごいもんですね。》
そう言って頭を掻きながら笑うドリューに、ダナエはガバッと抱きついた。
「ドリュー!なんで?どうして?どうして生きてるの?」
《ああ・・・ええっと、そちらの死神が生き返らせてくれたんです。黄泉の国へ旅立つ途中だったのに、急に呼び戻されてしまってね。でもそのおかげでほら、こうしてまた現世に戻ってきました。おかげで生まれて来る赤ちゃんを抱き上げることが出来ます。》
ドリューは両手を広げ、素直に喜んでみせた。
「ドリュー・・・・この馬鹿!死んだらダメって言ったのに、勝手に死ぬなんて許さないわよ!もし死んじゃったままだったら・・・・私は一生自分を許すことが出来なかった。それにドリューの家族になんて謝ればいいか・・・・・。」
《すみません・・・あの時はああするしかないと思って・・・・。》
ドリューは困った顔でダナエの背中を撫で、コウに目配せをして助けを求めた。
「ダナエ、あんまり抱きついてると、ドリューが発情しちゃうから。」
《しませんよそんなこと!僕をジャムさんと一緒にしないで下さい!》
ドリューは顔を真っ赤にしてプリプリ怒っていた。するとダナエは「あああ!」と叫び、大事な何かを思い出したように頬を抑えた。
「そうだ!ジャムを助けないと!」
そう叫んでコウの首をガクガクと揺さぶった。
「ねえ大変なの!ジャムったら大きな龍神になっちゃって、滅茶苦茶に暴れてるのよ!早くあれを何とかしないと、ラシルの星が壊されちゃう!」
「ぐがががッ・・・・分かったから手を離せ・・・。」
「ああ、ごめん・・・。ほら、私って思ってることがすぐ口に出ちゃうタイプだから。」
「口じゃなくて手が出てたぞ・・・。」
コウは首を押えてケホケホと咳き込み、うんざりした顔でダナエを睨んだ。
「まったく・・・成長してもこういう部分だけは治らないんだな?」
「性分だからね。」
そう言ってニッコリ笑うダナエに、「何が性分だよ」とさらにうんざりした。
「でもまあ、とにかくだ・・・早くあの龍神どもを何とかしないといけない。でもジャムが龍神ってのはどういうことだ?あいつはここにいるはずじゃないのか?」
「ううん、ジャムは色々あって龍神になっちゃったの。それで色々と大変なことに・・・。」
「色々と説明を省き過ぎて分かんないよ。おい、スッチー。手短に説明してくれ。」
《うむ、実はジャム殿はな・・・・・、》
スクナヒコナは事の経緯を手短に説明し、「・・・というわけなのだ」と肩を竦めた。
「ああ・・・なるほどねえ。まったく、あいつも次から次へと面倒を起こしてくれるよなあ・・・。」
コウは頭を掻きながら困った顔をして、チラチラとダナエの方を見た。
「なあに?チラチラ見つめちゃって。もしかしてオシッコ?」
「違うよ!」
コウはダナエのおでこにデコピンを放ち、重たそうに口を開いた。
「実はな、ジャムはお前のことを本気で・・・・・、」
しかしそう言いかけて、途中で口を噤んだ。
「どうしたの?ジャムの本気がどうかしたの?」
「い、いや・・・別に・・・。これは俺の口から言うことじゃないから。」
「なによ、途中でやめるなんてコウらしくないよ?」
「いやまあ・・・これはデリケートな問題だから・・・。」
そう言って苦笑いし、ダナエの手を取って舞い上がった。
「とにかう行こう、ジャムの元へ。あいつを元に戻して、この星を守るんだ。」
「・・・そうだね、ジャムだって私たちが助けに来るのを待ってるはずよね。」
ダナエはコウの手を握り返し、そのまま海の外へ舞い上がっていった。
神々も海から上がり、ユグドラシルの眠る海底を後にした。

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