ダナエの神話〜宇宙の海〜 第四十一話 神樹が蘇る時(4)

  • 2014.08.13 Wednesday
  • 11:20
海の外には箱舟が待機していた。みんなはすぐに箱舟に乗り込み、猛スピードで偉人の谷を目指していった。
「ジャム、待っててね・・・すぐに元に戻してあげるから。」
ダナエは船の先頭に立ち、髪を風になびかせながら呟いた。そして偉人の谷の近くまでやって来ると、カプネが「ここで止めるぜ」と叫んだ。
「これ以上近づくのは危険だ。この先はあんたらだけで行ってくれ。」
「うん、分かった。それじゃみんなはここで待っててね。」
そう言ってニコリと笑い、船の上から飛び立とうとした。しかしコウから「待てよ」と言われ、足を止めて振り返った。
「俺も行くぜ。」
「でも危ないよ?ここにいた方が・・・・、」
「いいや、絶対について行く。これはお前の為というより、ジャムの為なんだ。なあドリュー?」
そう言って後ろを振り向くと、ドリューも頷いた。
「そうですよ、ジャムさんは一緒に旅をしてきた仲間なんですから、このまま放っておくことなんて出来ませんよ。」
「ドリューまで・・・・。」
ダナエは困ったように眉を寄せた。するとトミーも手を挙げ、「俺も行く!」と叫んだ。
「俺はアイツのたった一人の友達なんだ。だから俺も行かせてくれ。」
「トミー・・・・そうだね。トミーはジャムの親友だもんね。あなたの言葉なら、ジャムだって耳を貸してくれるかもしれないわ。」
ダナエはニコリと頷き、コウに向かって「お願い」と言った。
「おう、任せとけ!」
コウは魔法を唱えて特大のシャボン玉を作り、みんなでその中に入った。
「それじゃカプネ、この船のことを頼んだわよ。」
「おう、任せとけ。」
「それとダレス。ジャムを連れて帰って来ても、怖い顔で怒っちゃダメよ?」
「知るか・・・・と言いたいところだが、そうもいかねえ。後ろで怖い神様が睨んでるからな。」
そう言ってダレスはアリアンロッドに顎をしゃくった。
「ダナエ・・・あまり無茶はするなよ。いくらコスモリングの力が復活したとはいえ、相手は地球を支える龍神たちだ。もし危なくなったら、すぐにここへ逃げて来るんだ。」
「うん、分かってる。それじゃ・・・・行って来るね。」
ダナエたちはシャボン玉に包まれたまま、ふわりと宙に舞い上がった。そして魔法を唱えて風を起こし、偉人の谷へと飛んでいった。
「なあダナエ、カッコつけて来たのはいいけど、どうやってジャムを説得するつもりだ?
ノロノロしてたら、龍神の戦いに巻き込まれて死んじゃうぜ?」
「大丈夫、私に考えがあるの。」
ダナエは自信満々でコスモリングを見せつけ、さらにスピードを増して飛んでいった。そして偉人の谷の中央まで来ると、その異様な光景に息を飲んだ。
「なにこれ・・・・大地に穴が空いてる・・・。」
龍人たちが戦っていた場所は、巨大な隕石でも落下したかのように大きなクレーターが出来ていた。その穴はとても深く、まるで地獄へ続く通り道のように思えた。
みんなは息を飲みながらそのクレーターを見つめ、近くに寄って中を覗き込んでみた。すると巨大なクレーターの中で、二体の龍神が争いを続けていた。
「ひゃああ・・・・まだ戦ってんのかこいつら・・・。」
コウは舌を巻いて絶句した。
「しかもさっきより激しさを増していますね。こりゃあうっかり近づけませんよ。」
「だな。で・・・どうするんだダナエ?何か考えがあるって言ってたけど、どうせお前のことだ。何も考えてないんだろ?」
馬鹿にしたように言うと、ダナエは「失礼ね!」とコウを叩いた。
「ちゃんと考えがあるわよ。プッチーを使って、みんなの魂をジャムの元へ飛ばすの。」
「プッチーを使って・・・・ってことは、俺たちとジャムの魂をコンタクトさせる気か?」
「そうよ。でもその前に龍神さんたちに争いをやめてもらわなきゃいけないわ。だからあの神樹に頼むしかない。この星を見守り続けている、あの大きな神樹に・・・・・。」
ダナエはコスモリングに手を当て、目を閉じて祈りを捧げた。
《お願いプッチー・・・また力を貸して。私の願いに応えて、ユグドラシルをここへ連れて来てほしいの。》
そう祈りを捧げると、コスモリングが眩く輝き出した。そしてマクナールの海に向かって一筋の力を飛ばし、海底に眠るユグドラシルを連れて来た。
「ユグドラシル!よかった、来てくれた・・・・・。」
《ダナエ・・・コスモリングを通して、あなたの声が聞こえました。私に何か用ですか?》
ユグドラシルは、透き通る青い髪をなびかせて尋ねた。それを見たコウたちは、目を見開いて驚いていた。
「これがユグドラシル・・・・・・。」
「すごい・・・・やっと会うことが出来ましたよ!」
二人は喜び、宙に浮かぶユグドラシルに目を輝かせていた。
《私はユグドラシル・・・あなた達を呼び寄せた張本人です。ここまでの道のり、大変御苦労さまでした。》
そう言って頭を下げると、二人は「いえいえ」と謙遜した。
《さて・・・今は呑気に挨拶を交わしている場合ではありませんね。どうして私を呼んだのかは、だいたい想像はつきます。あの地球の龍神たちの争いをやめさせる為でしょう?》
そう言ってダナエの方に目を向けると、「うん」と答えた。
「実はあの九頭龍っていう龍神の中には、私の仲間がいるの。けどこのまま近づいたら、龍神さんたちの喧嘩に巻き込まれて死んじゃうでしょ?だから私たちがジャムを説得する間、あなたには龍神さんたちの争いを止めてほしいの。・・・・出来る?」
《・・・・出来ないことはありません。しかし今の私では力が足りないのです。だからあなた方の力を貸して頂ければ、あの龍神たちを止めて見せましょう。》
「私たちの力を借りる・・・?それはいいけど、どうやって貸せばいいの?」
《簡単なことです。私をあなたたちの心に住まわせてくれれば、それでいいのです。》
「それ・・・さっきも言ってたね。でも心に住まわせるってどうすればいいの?」
《それも簡単なことです。ただ私を思い描いてくれればいいだけです。心の中に、私という神樹の姿を描いてくれれば、力を得ることが出来ます・・・・。》
そう言ってユグドラシルは姿を変え、見上げるほどの巨木へと変化した。
「うおおお・・・・これがユグドラシルの正体か・・・・。」
コウは唾を飲んでユグドラシルを見上げた。その姿は実に壮大で、太い幹に立派な枝をいくつも生やしていた。そして大きな葉っぱを茂らせ、樹齢を感じさせる皺の刻まれた樹皮をしていた。
《さあ・・・この姿を心に描いて下さい。そうすれば、私はあの龍神たちの争いを止めてみせましょう。》
「分かったわ。じゃあみんな、あのユグドラシルを心に描いて。」
ダナエはみんなにそう言って、自分も目を閉じた。そして心の中にユユグドラシルの姿を思い描いた。すると・・・・心の中のユグドラシルは、まるで本物のようなリアリティを持ち始めた。風のなびく音や、葉っぱの擦れる音、それに心を落ち着かせる樹の匂いまで感じ始めた。
《すごい・・・まるで心の中にユグドラシルが生えてきたみたい。》
ダナエの心の中に生えたユグドラシルは、しっかりと根を張っていた。そして葉を揺らして風を起こし、心の外に向かって緑色の風を送り始めた。そしてコウやドリュー、トミーの心からも風が吹いていた。
ユグドラシルはその風を受け取ると、巨木の姿のままで龍神たちの間に舞い降りた。
《・・・・む?なんだこれは?》
《これは・・・樹か?》
二体の龍神は争いをやめ、じっとユグドラシルに見入った。すると突然緑の風に包まれ、心が穏やかになっていった。
《おお・・・これは何と心地よい・・・。まるでこの星そのものに抱かれているようだ。》
燭龍は緑の風に身を委ね、じっと目を閉じた。そして九頭龍もまた、同じように目を閉じていた。
《むううう・・・・これは良い風だ。しかしどこか懐かしいものを感じる。俺はこの風を知っているぞ。これはかつて、地球にそびえていたあの神樹にそっくりだ。》
ユグドラシルから放たれる緑の風は、瞬く間に龍神たちを虜にした。そしてピタリと争いを止め、まるで眠っているように目を閉じた。
それを見ていたコウは、「あれじゃまるで森林浴だぜ・・・」と呟いた。
「でも喧嘩は治まったわよ?これでジャムの説得が出来るわ。早く行こう!」
ダナエたちは一目散に燭龍の前まで舞い降り、ジャムに呼びかけた。
「ジャム!聞こえる?聞こえたら返事をして!」
大きな声でそう呼びかけるが、燭龍の中からは何の返事もなかった。
「反応がない・・・。昼寝でもしてるのかしら・・・?」
「そんな仕事をサボってるみたいな言い方するなよ・・・。」
コウはげんなりして言い、トミーの方を振り向いた。
「トミー、お前が呼びかけてみろよ。たった一人の親友なら、言葉を返してくれるかもしれないだろ?」
「・・・・そうだな。一度は絶交したけど、まだアイツのことは友達と思ってるんだ。ちゃんと心を込めて呼びかければ、返事をくれるよな?」
「もちろんよ!なんたってトミーはジャムの親友なんだから!さ、さ、早く!」
ダナエはグイグイとトミーの背中を押した。
「・・・そんじゃ・・・ちょっと呼んでみるか。」
トミーはいささか緊張した面持ちで、コホンと咳払いをした。
「おいジャム!俺だ!トミーだ!返事をしろ!」
そう叫んで返事を待つが、ウンともスンとも返ってこなかった。
「ダメだな・・・アイツまだ意地を張ってんのか?」
トミーは困った顔で腕を組み、じっと考え込んだ。そして何かを思いついたように、ハッと顔を上げた。
「おい俊宏!高田俊宏!俺だ!高橋学だ!パチンコ屋のアルバイトの時に、お前の漏らしたウンコを掃除してやった高橋学だ!」
《・・・・・・・・・・・・・・・・・。》
「まだ反応はないか。きっとまだまだ言葉が足りないんだな。よおし、それじゃあ今度はアレをバラしてやる。」
トミーは口元に手を当て、大声で叫んだ。
「コラ俊宏!バイトがだるいからってサボってんじゃねえよ!しかもネットでエア出社しやがって!みんなにバレバレだったぞ!店長なんか禿げた頭が薄くなるくらいに怒り狂ってたんだぞ!そのこと知ってんのか!」
《・・・・・・・・・・・・・・・。》
「・・・今ちょっとだけ声が聞こえたな・・・。よおし、それじゃトドメだ。これでもし返事がなかったら、俺は潔く諦めるぜ・・・。」
トミーは胸いっぱいに息を吸い込み、耳がキンキンするほどの大声で叫んだ。
「おい!お前は覚えてるか!あれは借金をする一年前のことだ!お前は好きになった女の子に声を掛けようとして、緊張のあまりこう言ったよな!『僕の遺伝子をもらって下さい!』って。あの後警察を呼ばれて、一日留置所で過ごしただろ!迎えに来たおばあちゃんが、必死に警察の人に謝ってたんだ!地元じゃちょっとした噂になって、近所のガキどもから変態王子って呼ばれてただろ!」
《・・・・さい・・・・・。》
「ああ、なんだ?聞こえねえよ?」
《・・・るさい・・・・・・。》
「ああ、そうか。まだ足りないか。じゃあ言ってやるよ。お前はおばあちゃんにこっ酷く叱られて、それがショックでおねしょをしたよな!もう大人だってのに、世界地図みたいに布団を濡らしておねしょをしてたよな!」
《・・・やめろ・・・・。》
「ああ?だから聞こえねえよ。もっと大きな声で言えよ。」
《やめろって言ってるんだ・・・・・。》
「何を?ああ、そうか・・・別の話をしろってことだな。じゃあもう一つとっておきのやつを披露してやる。あれは確かこの星へ来る直前のことだった。お前は緊張のあまり、またウンコを漏らして・・・・・、」
《だからやめろって!さっきからウンコウンコってうるさいな!ウンコくらい誰でもするだろ!》
「おお、やっと返事をしやがった。ちゃんと聞こえてんじゃん。」
《当たり前だ!人が黙ってるのをいいことに、ある事ない事喋りやがって!だいたい女の子に遺伝子をもらって下さいって言ったのはお前の方だろ!それなのになぜか俺が言ったと勘違いされて、警察にしょっぴかれたんだ!ウソばっかり言うなよ!》
「でもおねしょはほんとだろ?あとウンコも。」
《そ、それはまあ・・・・そうだけど・・・・。でも女の子の話は違うだろ!俺は元々女子に声を掛けられるような度胸はないんだ!だからそんなこと言うはずがないだろ!》
「あれ?そうだっけ?俺はてっきりお前が言ったと勘違いしてたのかな?だって最近のお前ってさ、よく俺の部屋に相談に来てたじゃん。本気で好きな子が出来たんだけど、どうやって気持ちを伝えていいのか分からないって。喋れるのは普通に喋れるけど、好きな気持ちを伝える方法が分からないから、悩んでるって言ってただろ?」
真面目な声でそう言うと、ジャムは急に黙り込んでしまった。
「なあジャム・・・もう背中を見せて逃げるのはやめろよ。そんなことしてたら、いつまでたっても弱虫のままだぞ?」
《そんなことは分かってるよ!でも・・・今さら自分を変えられないよ・・・。》
「別に変えなくてもいいんだよ。ただほんのちょっと勇気を出せばいいだけだ。そうすれば、ほんのちょっとだけ自信を持てるようになる。それを繰り返していけば、きっと強くなれるさ。」
《・・・・そんな上手くいくかな?》
「さあな。保証は出来ないけど、やってみる価値はあると思うぜ。だって・・・お前が本気で好きな相手が、いま目の前にいるんだから。ここで男を見せないでどうするよ?」
トミーはお兄ちゃん風を吹かせて親指を立てた。
「さあ、ジャム。もうグダグダ悩むのはよせよ。もしここで自分の殻から抜け出すことが出来たら、お前を地球に帰してやるからさ。」
それを聞いたジャムは、《ほんとか!》と叫んだ。
「ほんとだよ。ダレスさんに掛け合ったら、渋々だけどOKしてくれたんだ。」
《マジで・・・・?あのダレスさんが借金を帳消しにしてくれたってのか・・・?ちょっと信じられないな・・・・。」
「ウソじゃないぜ。お前みたいな弱虫をコキ使ったって、いつまで経っても借金を返せないだろうから、もう地球に帰っていいって言ってくれたんだ。」
トミーは本当のことを話さなかった。自分が借金を肩代わりしたなんて教えたら、きっとジャムが負い目に感じると分かっていたからだ。
「なあジャム・・・・お前は地球へ帰れるんだ。肉体を返してもらって、人間に戻って地球に帰ることが出来るんだよ。でもその為には・・・・自分の殻から抜け出さなきゃ。ここでハッキリと気持ちを伝えて、一歩でもいいから前に踏み出すんだ。そうすれば、きっとお前の世界は変わる。彼女がどういう答えを返すかは分からないけど、それでもお前は前に進めるんだ。」
《・・・・トミー・・・・。》
ジャムは切ない声で呟いた。その呟きを聞いたトミーは、「頑張れ、俺がついてる」と励ました。
《・・・・そうだよな・・・このままじゃいけないよな・・・。俺だって、もうそろそろ大人にならないといけないんだよな・・・。》
「そんなに気張る必要はねえよ。ただちょっとでもいいから前に踏み出せばいいだけだ。どんなことでも、最初の一歩は小さいもんだぜ?だから怖がるな、俺が見ててやるから。」
ジャムはしばらく黙ったままだった。しかし何かを決意したように、「よし!」と叫んだ。
《俺・・・伝えるよ、自分の気持ちを。まあなんとなく結果は見えてるけど、それでも伝えてみる。》
「おう、派手にぶつかって玉砕しろい。」
トミーはニコリと笑い、ダナエの方に目を向けた。そして事情を知るコウも、ジャムに向かって頷いた。ドリューも同じ男として、トミーとジャムの会話の内容は察していた。だから黙ってことの成り行きを見守ることにした。
しかし・・・・たった一人だけ何も気づかない人物がいた。それはもちろんダナエだった。
こういうことに疎い彼女は、いったい何の話をしているのだろうとチンプンカンプンだった。
《ダナエちゃん。》
ジャムは震える声で呼びかけ、歯切れ悪くゴニョゴニョと呟いた。
「なあにジャム?トミーの説得で出て来る気になった?」
ダナエは心配そうに見つめた。
《うん、俺はここから出る・・・いや、元の自分に戻るよ。でもその前に、やらなきゃいけないことがあるんだ。》
「やらなきゃいけないこと?なあに?」
鈍感なダナエはまだ気付かない。真っ直ぐな瞳で、ただジャムを見つめていた。
《あのさ・・・・実は俺・・・好きな人がいるんだ。》
「トミーとそんなことを喋ってたね。でもジャムの年頃なら、そういう人がいても普通なんじゃない?」
《・・・そうだね。だから俺は言うよ。ずっと胸の中にしまっていた気持ちを・・・ハッキリと伝えることにする!》
ジャムは決意を固めるように言い、少しだけ間を取った。そしてさっきとはうって変わって、落ち着いた声で言った。
《ダナエちゃん、俺が好きなのは・・・・君なんだよ。》
「へ?私?」
ダナエは驚いた顔で自分を指した。二人の間に、今までとは違った真剣な空気が流れていた。

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