ダナエの神話〜宇宙の海〜 第四十二話 神樹が蘇る時(5)

  • 2014.08.14 Thursday
  • 17:29
《ダナエちゃん、俺が好きなのは・・・・君なんだよ。》
「へ?私?」
ダナエは驚いた顔で自分を指した。
《俺・・・あんまり女の子と話すのって得意じゃないんだ。でもダナエちゃんは、こんな俺に普通に接してくれた。馬鹿で情けなくて、しょっちゅう悪ふざけをしてるのに、それでもずっと友達でいてくれた・・・。だから・・・そんなダナエちゃんを本気で好きになっちゃったんだ。》
ジャムは落ち着いた声のまま、ゆっくりと気持ちを伝えた。それを聞いたダナエはキツネにつままれたように固まっていて、何も言葉が出てこなかった。
《ビックリするよね、いきなりこんなことを言われたら・・・。でも、これが俺の正直な気持ちなんだ。日に日にダナエちゃんを好きな気持ちが強くなっていって、自分でもどうしたらいいか分からなくなってた・・・。でもダナエちゃんに気に入られたいから、ヘタレのクセに化け物と戦ってさ・・・。結果何も出来ないことがほとんどだったけど、それでも何もせずにはいられなかったんだ。だって・・・少しでもダナエちゃんに認めてほしかったから・・・。》
「あ、ああ・・・・ええっと・・・・うん。」
ダナエは顔を真っ赤にして、何と答えていいのか分からずにいた。月でも男の子の妖精から告白されることはあったが、まさか一緒に旅をしている仲間から告白されるとは思ってもいなかった。それもこんな風に、正面から堂々と・・・・。ダナエは軽く混乱して、なぜかコウのお尻をつねっていた。
「いでででで!何すんだよ!」
「え?ああ!ごめん・・・ちょっとわけが分からなくなっちゃって・・・・。」
「相当混乱してるな。」
コウは苦笑いしながら、ダナエを前に押し出した。
「ほれ、どんな答えを返すにしろ、ちゃんと聞いてやれよ。」
「・・・・う・・え・・・ああ・・・・はい。」
ダナエはカチコチに固まり、意味不明にジャムに会釈をした。
「ど、どうも・・・・。」
《ごめんね、やっぱりビックリさせたよね?》
「え・・・・ええっと、ビックリっていうか何ていうか・・・。ちょっと気持ちが整理出来なくて・・・・。だってジャムは大切な仲間だし、友達だし・・・。それにそんな風に私のことを思ってるって知らなかったから・・・・。」
そう言ってモジモジと指を動かし、さらに顔を赤くした。
《俺は・・・ダナエちゃんのことが好きだ。まだまだ伝えたいことはあるけど、でもこれで終わりにしとくよ。だって・・・・本当に伝えたいことはもう言ったから。俺は・・・それで充分だよ。》
ジャムの声は、さっきとはうって変わってハキハキとしていた。なぜならジャムは、ダナエがどういう返事をするかは予想していたからだ。もし断られても、それは仕方のないことだと思っていた。しかし何もしないまま終わることは悔しかった。だからこうして気持ちを伝えることが出来ただけで、充分満足だったのだ。
しかし・・・・ダナエの方はそうはいかなかった。いきなり思いもよらぬことを聞かされ、いったいどう答えればいいのかまったく分からなかった。
自分だってもちろんジャムのことは好きだが、それは仲間としてであって、異性として彼を見たことなどなかった。だから予想外の所からパンチを食らったように、大きな衝撃を受けていた。
すると黙って見ていたトミーが、「ダナエちゃん」と呼びかけた。
「ごめんね、急にアイツにあんなことを言わせて。」
「い、いや・・・・滅相もない・・・・。」
「これがダナエちゃんにとって迷惑なことかもしれないって分かってる。でも俺はアイツの親友だから、どうしても気持ちを伝えさせてやりたかったんだ。だって・・・もし地球に帰ったら、もう二度と会えなくなるかもしれないだろ?」
それを聞いたダナエは、ナイフで胸を刺されたような気分になった。
「地球に・・・・帰る・・・。ねえ、ジャムは本当に地球に帰っちゃうの?まだ旅は終わっていないのに・・・・私たちとサヨナラしちゃうの?」
ダナエはとても寂しそうに尋ねた。今までずっと一緒に旅をしてきたのに、それがいきなりいなくなるなんて寂し過ぎると思った。しかしトミーは強く頷き、「本当だよ」と答えた。
「ダレスさんは約束を守る人だ。だからジャムの肉体だって持って来てくれてるし、きっと地球にも帰してくれる。でも・・・もう二度と俺たちとは会えなくなる可能性があるんだ。だから・・・もしよかったら返事をしてやってよ。アイツは気持ちを伝えるだけでいいって言ってるけど、それはウソだと思う。きっと・・・・ダナエちゃんの答えを待ってるはずだから。」
トミーはポンとダナエの肩を叩き、「頼む」と頭を下げた。
「・・・・そうだね。もしかしたら、これで会えなくなっちゃうかもしれないんだもんね。それにジャムは勇気を出して気持ちを伝えてくれたんだし、私も逃げてちゃダメよね。」
そう言って表情を引き締め、燭龍の巨体を見上げた。
「ジャム・・・あなたの気持ち、とっても伝わってきた。まさかそんな風に私のことを想ってるなんて知らなかったから、ちょっと驚いちゃったけど・・・・でも嬉しいよ。」
ジャムは黙ってダナエの言葉を聞いていた。どういう返事がくるかは覚悟していたが、それでも緊張のあまり胸が張り裂けそうだった。
「・・・あのね、私ってけっこう鈍いから、ジャムの気持ちに全然気づかなかった。でもこうしてハッキリと告白された以上、私もキチンと自分の気持ちを伝えるわ。」
そう言って真っ直ぐにジャムを見つめ、青い瞳を揺らした。
「ジャム・・・・・ごめんね。気持ちはとっても嬉しいんだけど、あなたの想いには応えられない。だって・・・私の頭の中は、邪神のことやこの星のことや、それに地球のことでいっぱいだから。それに今はとにかく強くならなくちゃいけないし、他のことに気を回してる余裕がないと思う。だから・・・・ごめんなさい。」
ダナエは小さく頭を下げ、長い髪を揺らした。ジャムの気持ちを棒に振るのはとても心苦しかったが、でも逆に中途半端な答えを返せば、もっと心苦しくなる。だからここは、正直な気持ちで応えようと思った。嘘偽りのない言葉で、しっかりと自分の気持ちを返そうと思ったのだ。
「ジャムが地球に帰ったら、もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれない。けど、私たちはいつまでも友達だよ。ジャムは今まで一緒に旅をしてきた仲間で、私の大切な友達。それだけは・・・・この先もずっと変わらないから。」
ダナエはニコリと微笑みかけ、恥ずかしそうに俯いた。
「・・・こんなのでいいかな?これが今の私の精一杯の気持ちなんだけど・・・・。ジャムは納得してくれる?」
そう言って不安そうにジャムを見つめると、彼は「ありがとう」と言った。
「まさかそこまでちゃんと気持ちを返してもらえるとは思ってなかったから・・・嬉しいよ。フラれたことがショックじゃないと言えばウソになるけど・・・・でも充分納得できた。ダナエちゃん・・・・ありがとう。」
「ごめんね・・・こんな言葉しか返せなくて・・・・・。」
ダナエはさらに俯き、なぜか胸がつまって泣きそうになった。するとその瞬間、燭龍の大きな身体が見る見るうちに溶け始めた。そして瞬く間に消え去り、その中からジャムが姿を現した。
「ジャム!」
ダナエは手を伸ばしてジャムを掴み、シャボン玉の中に引き入れた。
「ジャム・・・よかった!無事に戻って来てくれた・・・・。」
そう言って涙ぐみながら手を握り、安心したように笑っていた。
「ダナエちゃん・・・ごめんね、心配かけて。でも・・・もう俺は大丈夫だから。だってダナエちゃんやみんなが迎えに来てくれたから。」
ジャムはニコリと笑ってみんなを見渡し、とても嬉しそうにはにかんでいた。
「トミー・・・心配かけてごめん。俺・・・やっぱりお前と絶交したくないよ。」
「んなことは分かってるよ。お前は昔っから意地っ張りだからな。でもすぐに素直になるから、こうして迎えに来たんじゃねえか。」
トミーはコツンとジャムの頭を叩き、嬉しそうに笑っていた。
「俺・・・本当にお前が友達でよかったよ。それに後ろの二人も・・・・迷惑掛けてごめん。一発くらいなら殴ってくれてもいいぜ、軽めにだけど・・・・・。」
「バ〜カ、誰が殴るかよ。いっつもダナエに殴られてるじゃねえか。これ以上殴ったら顔の形が変わっちまうぞ?」
「そうですよ。それに僕たちは迷惑だなんて思ってませんよ?仲間が困ってたら助けるのは当たり前じゃないですか。」
「お・・・お前ら・・・・ありがとう・・・。俺、もしかして友達増えてる?」
「もちろんよ!ここにいるみんながジャムの友達よ、ねえ?」
ダナエが周りを見渡すと、みんなが笑顔で頷いた。
「ジャム・・・私たちはずっと友達よ。もし地球に帰ったとしても、それだけは忘れないでね。私たちが過ごした時間は、きっとこの先も色褪せることはないわ。」
「ふう・・・・ううう・・・・・みんな・・・・ふぐッ・・・・。」
ジャムは目を真っ赤にして鼻をすすり、何度も頷いていた。するとそこへ人の姿をしたユグドラシルが降りてきて、《終わったようですね》と言った。
「うん、私の大切な仲間が無事に戻って来たわ。ありがとうね、ユグドラシル。」
《礼には及びません。あなたのおかげで、龍神たちは争いを止めたのですから。ほら、見て下さい。九頭龍も正気を取り戻したようです。もう暴れ回ることはないでしょう。》
そう言って九頭龍を見上げると、あの争いが嘘のように落ち着いていた。
《むうう・・・・よもやこの俺が邪神に利用されようとは・・・。ユグドラシルのおかげですっかり目が覚めたわ。》
そう言ってダナエたちに顔を近づけ、大きな鼻息を吹きかけた。
《お前たちがユグドラシルを呼び寄せてくれなければ、この星を破壊するまで暴れるところだった。止めてくれて感謝する。》
「いいわよそんなの。でもそれよりさ・・・・この辺り一帯は滅茶苦茶になっちゃったよ?あなたの力でどうにか出来ない?」
二体の龍神が争ったせいで、偉人の谷の周りは原形を失くしていた。それに遥か遠くでも大きな災害が起きていて、その被害は甚大なものだった。
《・・・・出来ないとは言えないな。これは元はと言えば俺のせいだ。地球を支える龍神の面子にかけて、破壊された自然を元に戻そう。》
「ほんと!ありがとう!」
ダナエは手を叩いて喜び、ジャムの手を握った。
「ジャム・・・地球に帰るまでは一緒にいよう。たくさんお話をして、たくさん思い出を作ろう。」
そう言うと、ジャムは目をウルウルさせながら震えていた。
「ほんとに・・・?ほんとにいいの?」
「うん!だって私たちは友達でしょ?だったら故郷に帰る友達を笑顔で送ってあげなくちゃ!」
「・・あ・・・ありがとう・・・すっごく嬉しいよ。」
ジャムは溜まらず泣きべそをかき、ゴシゴシと目を拭った。
「じゃ、じゃあさ・・・・一つだけお願いを聞いてくれるかな?」
「うん、いいわよ。何でも言って。」
ダナエはニコニコとして頷いた。するとジャムは、とても恥ずかしそうにしながら、頬を赤くして言った。
「あ・・・あのさ、俺も一回ダナエちゃんとお風呂に・・・・・、」
そう言いかけた時、トミーが思い切り拳骨を落とした。
「痛ッ・・・・・!何すんだよ!」
「何すんだよじゃねえよ、この馬鹿!ちょっと優しくすりゃつけ上がりやがって!」
「いいじゃねえか!最後なんだから風呂くらい!」
「ダメだ!そんなことはこの俺が許さん!いくらダナエちゃんが成長したからって、まだそこまでの年頃じゃないだろ!お前いつか本当に捕まるぞ!」
「・・・うう・・・うぬぬ・・・・じゃ、じゃあ・・・もっと別のお願いを・・・、」
渋々とそう言いかけた時、ダナエは「いいわよ」と答えた。
「へ?今なんて言ったの・・・?」
「ジャムのお願いを聞いてあげるって言ったの。もしかしたらこれが最後になるかもしれないから、ワガママを聞いてあげるわ。」
その言葉を聞いたジャムは、見る見るうちに笑顔になって「いやっほう!」と叫んだ。
「おい聞いたかトミー!一緒にお風呂に入ってもいいってよ!」
「そ・・・そんな馬鹿な・・・あり得ない・・・。」
トミーは愕然として首を振り、ダナエの肩を掴んだ。
「ダナエちゃん!ダメだよ、こいつのワガママを聞いちゃ!ダナエちゃんは今ちょっと混乱してるから、冷静な判断が出来ないんだ!なあ、コウもそう思うだろ?お前からもなんとか言ってくれよ。」
トミーは懇願する目でコウを見つめた。するとコウは「別にいいんじゃない」と答えた。
「お・・・お前まで・・・・。」
「いや、だってダナエがいいって言ってるんだから、なあ?」
「うん、私は別にいいわよ。でもここにはお風呂がないから、海でもいい?」
そう尋ねると、ジャムは「いいですいいです!」と喜んだ。
「ああ・・・言ってみるもんだなあ・・・。俺・・・生まれて来て今が一番幸せかもしれない・・・・・。」
ジャムは天にも昇る思いで空を見上げていた。そしてトミーもまた、「そんな馬鹿な・・・」と空を見つめていた。するとコウは肘でトミーつつき、「心配すんな」と笑った。
「いいか・・・ジャムの奴は大きな勘違いをしてるんだ。」
「勘違い?何が?」
「俺とダナエがいつも一緒に風呂に入ってるもんだから、自分もって思ったんだろうな。でもさ、いくら俺とダナエの仲がいいからって、裸同士で風呂に入ると思うか?」
「・・・違うのか?」
「当たり前だろ。小さい頃はそうやって入ってたけど、今は違うよ。まあジャムの奴はきっとガッカリするだろうな。・・・・いや、そうでもないか。案外それはそれで喜ぶかもな。」
コウは腕を組んでジャムを見つめ、ニヤリと笑っていた。
「さて!それじゃ船に戻ろう。みんなシャボン玉から落ちないようにしてね。」
ダナエは魔法で風を起こし、空高くに舞い上がっていった。
「それじゃ九頭龍、壊した自然はちゃんと元に戻してね。」
《分かっている。少々時間はかかるが、元通りにして見せよう。》
ダナエは「お願いね」と手を振り、そしてユグドラシルの方を振り向いた。
「ねえ、あなたも一緒に来る?今日はみんなでジャムを見送る会を開くから。」
《・・・いえ、せっかくの仲間水入らずを邪魔しては悪いですから、私は海へ戻ります。》
「別に遠慮しなくていいんだよ?たくさんいた方が楽しいし。」
《・・・ありがとう。でも私は海へ戻ります。短時間で色々と力を使って、少し疲れてしまいましたから。海に戻って、ゆっくり眠ろうと思います。」
「そっかあ・・・・龍神の争いを止めたり、邪神に齧られたりで大変だったもんね。ごめんね、いっぱい助けてもらって。」
《いいんです、私はもうこの星の住人ですから、この星を守る為に当然のことをしただけです。さあ、早く行きなさい。これから先は、さらに過酷な戦いが待ち受けているでしょう。今は・・・ほんのひと時の幸せな時間を過ごして下さい。》
ユグドラシルは青い髪をなびかせ、緑の風に包まれて消えていった。
「ユグドラシル・・・私は約束する。必ず邪神を倒して、この星と地球を守って見せる。
だから・・・また一緒に戦おう。私とあなたで、必ずクインを・・・・。」
ダナエはマクナールの海を見つめ、七色のシャボン玉に包まれて飛んでいった。

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