ダナエの神話〜宇宙の海〜 第四十三話 月への導き(1)

  • 2014.08.15 Friday
  • 19:12
月への導き


翌日、ダナエたちは海に来ていた。マクナールの海は荒れているが、ブブカが時空の壁を作って荒波を防ぎ、小さな囲いのプールを作っていた。
ダナエたちはその中ではしゃぎ、キャッキャと笑いながら水を掛け合っていた。
「ほらほらコウ!バックドロップ!」
「やめろ馬鹿!ここ浅いんだぞ・・・・・って、へぶしッ!」
「ほらほら、ドリューも!」
「い、いえ・・・僕は遠慮しておき・・・・・・、ぶごあッ!」
ダナエは二人にバックドロップをかまし、楽しそうにはしゃいでいた。そして海岸に座るゾンビたちに手を振り、「早くおいでよ!」と手招きをした。
「・・・・なあトミー、これって風呂っていうのかな?」
「さあな。でもいいんじゃないか、みんな楽しそうだし。」
ジャムはがっくりと項垂れ、「こんなの詐欺だと・・・」と呟いた。
「これのどこがお風呂なんだよ。ただの海水浴じゃんか。みんな水着きてるし・・・。」
「コウの魔法って便利だよな。蚕の精霊に頼んで水着を紡いでもらうなんて。地球で商売したら大ヒット間違いなしだぜ。」
「そんなことはどうでもいいんだよ・・・。はあ・・・昨日から楽しみにしてたのに、結局はこれかよ・・・なんかもう・・・無力感にさいなまれて・・・・。」
ジャムは大きなため息をつき、海岸の岩場に寝転んだ。それを見たトミーは、笑いを噛み殺しながら昨日のことを思い出していた。
昨日の夜、龍神たちの争いを止めて箱舟に帰ったダナエたちは、ジャムの為にお別れ会を開いた。ダナエはずっとジャムの隣に座り、笑顔で話しかけてくれた。ジャムは喜びのあまり有頂天になり、飲めないお酒に手を出してベロベロに酔っぱらっていた。
そしてその隣では、コウとトミーが微笑ましくそれを見ていた。きっとこれがジャムと一緒に過ごす最後の夜になるだろうと、とにかく彼を盛り上げてやったのだ。
やがてジャムは力尽きて眠ってしまい、ベッドに運ばれた。そしてそこでコウが、ヒソヒソとトミーに耳打をした。
『あのな、俺とダナエが一緒に風呂に入る時は、必ず水着をきてるんだ。それでもって、俺はいっつもプロレス技をかけられる。バックドロップをかまされたり、コブラツイストを極められたり。だから明日はきっと、ジャムがその餌食になる。一生消えないほどのプロレス技の衝撃が残るだろうぜ。』
そう言って可笑しそうに笑い、寝ているジャムの顔に落書きをしたのだった。トミーはそんな昨日のことを振り返り、必死に笑いを噛み殺していた。
「ジャム、こんな所で寝てないで、早く行って来いよ。」
「・・・やだよ・・・バックドロップされたくないもん・・・・。」
「いいじゃんか、一生の思い出に残るぜ。妖精の王女にバックドロップされるなんて、願ったって実現しないことなんだから。」
肘をつつきながらそう言うと、ジャムは「・・・・そうかな?」と顔を上げた。
「そうだよ。だから早く行って来い。きっと・・・・これが最後だろうからさ。」
トミーは遠くを見つめ、嘘くさい顔で涙を拭った。
「・・・・そうだな。これが最後になるかもしれないんだよな・・・。俺、ダナエちゃんにバックドロップされてくるよ!それに水着姿の彼女も最高だしな!」
「おう!思いっきり遊んでこい!」
トミーはジャムの背中を叩き、ダナエの方に送りだした。そして自分はというと・・・少し離れた場所で海を眺めるアリアンロッドを見つめていた。
「ううむ・・・やはり女はセクシーでなくちゃ・・・。師匠の水着姿、しっかりとこの目に焼き付ける!」
アリアンロッドは、実にセクシーな水着を着ていた。一流のモデルでなければ似合わないような、身体のラインをモロに強調する色っぽいビキニだった。そのビキニの青色が、彼女の白い肌をセクシーに引き立てていた。その身体は振り向かない男はいないほどの完璧なラインで、トミーは彼女の胸、くびれ、そしてお尻と太ももに釘付けになっていた。
「し・・・師匠・・・・。そのスタイルと横顔・・・・たまらんです!」
そう叫んでジュースを掴み、ササッとアリアンロッドの方に走って行った。
「師匠!飲み物でございます!」
「ああ、ありがとう。お前もみんなと一緒に遊んできたらどうだ?」
「いえ!師匠のお供をするのが弟子の役目であります!」
「・・・・本当は私の水着姿を見たいだけだろう?さっきから強い視線を感じるぞ?」
「・・・・バレました?」
トミーは鼻の下を伸ばし、デレデレとアリアンロッドに見入った。すると「ジロジロ見るな!」と剣の鞘で頭を叩かれた。
「おのれ、コウの奴・・・・。もっと地味で目立たない水着にしろと言ったのに、よりによってこんな派手な水着を・・・・。」
そう言って頬を赤く染め、サッと海へ飛び込んでいった。
「あ!師匠もダナエちゃんたちの所へ?」
「いや、この恰好が恥ずかしいだけだ。下心丸だしの弟子がジロジロ見つめてくるしな。」
アリアンロッドはバシャっとトミーに水を飛ばし、海の中へ潜っていった。
「師匠・・・その照れ屋さんなところも可愛いです!」
トミーはビシッと敬礼し、その目にしっかりと師匠の水着姿を焼き付けた。そしてダナエたちと遊ぶトミーを見て、急に切ない顔になった。
「ジャム・・・お前を見てると、昔に亡くなった弟のことを思い出すよ。あの時はまだガキだったから弟を守れなかったけど、今は違う。だから・・・まだお前を一人で行かせるわけにはいかねえ。もう少し大人になるまで、俺が守ってやるぜ。」
トミーは何かを決意したような顔で、楽しそうに遊ぶジャムを見つめていた。


            *


海での楽しいひと時が終わり、いよいよジャムとの別れの時がやってきた。海は暮れる陽で紫に染まり、真珠のように波を映えさせていた。
ジャムは海辺に立ち、足元に押し寄せる波を見つめていた。
「この星とも・・・もうお別れか。そう思うと、なんだか寂しくなるな・・・。」
ダレスに肉体を返してもらい、人間の姿に戻ったジャムは、ラシルの星の海を心に焼きつけようとしていた。
「地球には、ここまで綺麗な海なんてほとんどない。もう・・・これが二度と見られないんだな・・・。」
感傷に浸って海を見つめていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「じゃあここに残る?」
「ダナエちゃん・・・・。」
「いいのよ、残っても。また一緒に旅をしようよ。」
「・・・・ありがたいけど、それは出来ないよ。だって・・・トミーに悪いから・・・。」
ジャムは知っていた。トミーが自分の借金を肩代わりする代わりに、地球に帰れるようにしてくれたことを。トミーは何も言わなかったが、あのダレスが借金を帳消しにするはずがないので、きっとそういうことなんだろうなと思っていた。
「俺・・・ここで地球に帰らないと、ジャムを裏切ることになる。それだけは嫌なんだ。だから・・・・ここでお別れだよ。」
ジャムは端正な顔立ちで笑い、やや長めの髪を揺らした。
「そっか・・・・。じゃあ私は笑顔でジャムを送り出さなきゃね。寂しいけど・・・・ジャムが決めたことだから仕方ないわ。」
「・・・ごめんね、ダナエちゃん。」
ジャムは申し訳なさそうに俯き、ダナエの後ろに立つコウたちを見つめた。
「コウ・・・お前にも世話になったな。元気でな。」
「おう、お前こそな。もちっと大人になって、まっとうに生きろよ。」
「ははは、まだガキのお前に言われたくないよ。」
肩を竦めて苦笑いし、ドリューの方にも目を向けた。
「ドリュー、奥さんと生まれてくる赤ちゃん大切にな。」
「はい、きっと立派に育ててみせますよ。ジャムさんも早く良い人が見つかるといいですね。」
「ほんとになあ・・・でもこればっかりは縁だから仕方ないよ。まあゆっくりやるさ。」
「それがいいです。何事も焦っちゃダメですよ。」
ジャムは頷き、神々の仲間にも頭を下げた。そしてグルリと辺りを見渡し、トミーがいないことに落胆した。
「トミー・・・来てないな。」
「ああ、そういえば・・・・一番の親友のなのに、いったい何をやってるのかしら?」
ダナエは腕を組んで唇を尖らせ、「ちょっと呼んでくるね」と言った。
「いやいや、いいよ。」
「どうして?トミーはジャムの一番の友達でしょ?見送りに来ないなんてあんまりだわ。」
「・・・いいんだよ。もし立場が逆だったら、きっと俺も見送りに来ないから。」
「なんで?友達が遠くへ行っちゃうのに?」
ダナエが不思議そうに尋ねると、ジャムは小さく笑った。
「だって腹が立つだろ?一番の友達が、旅をほったらかして地球へ帰っちゃうなんて。だから・・・・仕方ないよ。」
ジャムが無理に笑ってみせると、ダナエは「そんなことない」と返した。
「トミーは腹なんか立ててないわ。きっと見送るのが寂しか・・・・、むぐぐ!」
「いいんだよこれで。こういうのは男同士にしか分かんないんだから、なあ?」
コウはダナエの口を塞ぎ、ドリューに同意を求めた。
「ええ、そういうもんですよ。男同士なんて。」
そう言って笑っていると、沖の方から巨大な魚に乗ったダレスが戻って来た。
「お前ら、女々しい別れは済んだか?」
そう言ってジャムの頭を小突き、バシバシと肩を叩いた。
「ダ・・・ダレスさん・・・痛いっす・・・。」
「あ?なんだって?俺は借金を踏み倒されて懐が痛いんだけどな?」
「ええっと、すいません・・・・はは・・・・。」
ダレスはまたジャムを小突き、大きな魚の方に背中を押した。
「さ、さ、脱落者はとっとと帰りやがれ。この戦いにヘタレはいらねえんだからよ。」
「もう!そんな言い方しちゃダメよ!」
ダナエは頬を膨らませて怒り、ダレスは「はいはい」と鬱陶しそうに手を振った。そしてツカツカと歩いてその場を後にし、一度だけ振り返って言った。
「ジャム・・・・もう二度と闇金には手を出すんじゃねえぞ。地球に戻ったら、まっとうに働いてしっかりと生きろ、いいな?」
「は・・・はい!」
腰を曲げて頭を下げると、ダレスは葉巻を吹かしながら去って行った。それを見たダナエは、不思議そうに首を捻って「ダレス、沖になんか出て何してたんだろ?」と呟いた。
「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃんか。今はジャムを見送ってやろうぜ。」
「そうね。」
ダナエはジャムの前に立ち、まっすぐに目を見つめた。
「ジャム・・・地球に帰っても、私たちのことは忘れないでね。」
「当たり前じゃんか。忘れるわけないだろ。」
ジャムは少しだけ恰好をつけてそう言った。するとダナエは、さっと顔を寄せて頬にキスをした。
「人間に戻ったジャムって、けっこうカッコイイよ。きっとすぐに彼女が出来るよ、頑張ってね!」
そう言って手を握り、ニコリと笑いかけた。
「・・・最後の最後で、最高の思い出が出来た・・・。」
ジャムは顔を真っ赤にして、キスをされた頬を撫でた。そして大きな魚の背中に乗り、ダナエたちを振り返った。
「じゃあ行くよ。」
「うん・・・。ユグドラシルには話をしてあるから、沖まで出たら迎えに来てくれるはずよ。後は根っこの穴を通れば無事に地球に帰れるから。」
「分かってるって、エジプトだろ?向こうの神様に会ったら、コウの友達だって言えばいいんだよな?」
「うん、そしたらきっと、日本まで送り届けてくれるわ。」
「分かった。そんじゃみんな・・・・世話になったな、元気でな!」
ジャムを乗せた大きな魚は、彼を沖まで運んで行く。そして見る見るうちに遠ざかり、こちらを振り向いて手を振った。
「みんな!俺、絶対にみんなのことは忘れないから!」
「ジャム〜!絶対にまた会おうね!その時まで元気でいてね!」
ジャムは笑いながら手を振り、沖まで出て行った。そして海面に現れたユグドラシルに導かれ、海の中へと消えていった・・・・。
「行っちゃった・・・・なんか、寂しいな・・・・。」
ダナエはジンと胸が熱くなり、クスンと鼻を鳴らした。
「大丈夫だって、またいつか会えるさ。な?」
コウは慰めるように頭を撫でた。
「そうよね?きっとまたいつか会えるよね・・・。」
ダナエは涙を拭い、紫に映える海を見つめていた。

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