ダナエの神話〜宇宙の海〜 第四十四話 月への導き(2)

  • 2014.08.16 Saturday
  • 18:31
ユグドラシルに海底まで案内されたジャムは、シャボン玉に包まれて大きな根っこの前に立っていた。そして根っこの奥に空いた穴を睨み、「ここへ来るのは二度目だ・・・」と呟いた。
「初めてこの星に来た時も、ここから出て来たんだ。」
《ええ、私も覚えていますよ。あなたがここから出て来たのを。すぐに海流に運ばれて遠くへ流されましたね?》
「ああ・・・でもまたこうして戻って来られるなんて思わなかったよ。」
ジャムは感慨深く言って、「じゃあ頼むよ」と頷いた。するとユグドラシルは、彼を包むシャボン玉を優しく押した。
《その穴の中に入ったら、流れに身を委ねて下さい。きっとすぐに地球まで運んでくれるでしょう。》
「分かった、それじゃ。」
ジャムはシャボン玉から手を伸ばし、穴の端に指をかけた。そして一度だけ後ろを振り返り、ダナエたちの姿を思い浮かべた。
「みんな・・・・さようなら。またいつか・・・・。」
そう言ってシャボン玉から飛び出し、穴の中へ飛び込んでいった。
「うわあ・・・なんかうす暗くて怖いな・・・。しかもトンネルみたいにデカイし。」
ジャムは根っこの穴の中を見渡し、ゾクリと震えた。根っこの穴は遥か奥まで続いていて、その先は闇に包まれていた。そして大きな穴の真ん中には、強い風が吹いていた。
「あの風に乗ればいいんだな。・・・ちょっと勇気がいるけど、地球へ帰る為だ!」
そう叫んで飛び上がろうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「ぎゃああああ!」
ジャムは腰を抜かしてブルブルと震えた。するとよく知る声で、「そんなビビんなよ」と肩を叩かれた。
「へ・・・・?この声はまさか・・・・、」
「おう、俺だよ。一緒に地球へ帰ろうぜ。」
「や・・・やっぱりトミーか!なんでここにいるんだよ!」
ジャムの目の前には、人間に戻ったトミーが立っていた。金に染めた短い髪に、細いながらも男前な顔をしていた。
「いや、俺もちょっと地球へ帰りたくなったからさ。だからダレスさんに頼んで借金の返済を伸ばしてもらったんだ。地球に帰ったら、バリバリ働いて返さねえとな!」
そう言ってビシっと拳を握り、ジャムの手を取って立たせた。するとジャムはその手を振り払い、トミーの胸倉を掴んだ。
「お前・・・ウソばっか言うなよ!あのダレスさんがそんなワガママを聞いてくれるわけないだろ!」
「ウソじゃねえよ。ワガママを聞いてくれたからこうして地球に帰れるんだろが。」
「・・・違う・・・。俺は知ってるぞ。お前は俺を地球に帰す為に、借金を肩代わりしたんだろ?そうでなきゃ、あのダレスさんがOKするはずがない!」
トミーは何も答えなかった。ただじっと黙って、ジャムを見つめていた。
「なのに・・・なんでお前がここにいるんだよ!俺の分の借金も抱えてるはずなのに、どうして地球に帰れるんだよ!」
ジャムは泣きそうな顔で、ガクガクとトミーの胸倉を揺さぶった。
「分かったから落ちつけよ。とにかく地球に帰ろう、な?」
「嫌だ!理由を言うまで俺は帰らない!」
「何言ってんだよ。もう細かいことはいいじゃねえか。めでたく地球に帰れるんだ。それで良しとしようぜ。」
トミーはジャムの手を払い、穴の奥に向かっていった。
「待てよ!ちゃんと理由を言えよ!そうじゃないと・・・・そうじゃないと俺は、お前に一生頭が上がらない・・・・。」
ジャムは悩んでいた。あの金にうるさいダレスが、借金の返済を伸ばしてトミーを返すはずがないと。だったらきっと、トミーは馬鹿高い利子を押しつけられて、地球で永遠に働かされるかもしれないと。もしそうなったら、それは自分のせいだと思っていた。自分が地球に帰りたいなどとワガママを言うから、トミーに余計な苦労を掛けているのだと。
ジャムは暗い顔で俯き、じっと佇んだまま動かなかった。するとそんな彼の心を見透かしたトミーが、足を止めて振り返った。
「・・・・師匠がな・・・・。」
「師匠?」
「・・・師匠に、お前のことを相談したんだよ。アイツはまだまだガキで、俺がそばにいてやんねえとロクに何も出来ないって。そうしたら、ダレスさんに話をつけに行ってくれたんだよ。俺たちの借金は、私が地球に帰ったら必ず返すって。利子もつけて、何倍にもして返してやるから、あの二人を自由にしてやってくれないか?ってな。」
「そんな・・・どうして師匠がそこまで・・・・?」
「そりゃ俺たちは弟子だもん。師匠は迷惑がってたけど、内心はそこまで嫌じゃなっかたのかもな。それに、今まで一応はダナエちゃんをここまで案内して来たわけだし、その努力を認めてくれたのかもしれねえ。まあいずれにしろ、お前が気に病む必要はないってことだ。安心して地球に帰ろうぜ。」
トミーはジャムの肩を叩き、背中を押して歩き始めた。
「地球は地球で大変らしいけど、師匠の弟子だって言えば、仲間の神様が護ってくれるって言ってたからよ。邪神を倒すまでは安心して暮らせないだろうけど、それはまあ仕方のないことだよ。また平和が訪れるまで、じっと地球で待ってようや。」
「・・・・・・・・・・・・。」
ジャムは背中を押されて歩きながら、グッと歯を食いしばった。
「泣くなよ、男だろ?」
「・・・・だって・・・みんななんでそこまでして俺のことを・・・。こんなヘタレで役立たずなのに・・・そんなの悪いじゃんか・・・。」
「んなこと気にすんなよ。仲間なんだから当たり前だろ?」
トミーはポンとジャムの頭を叩き、彼の手を掴んで飛び上がった。そして穴の中を吹き抜ける風に乗り、猛スピードで地球へ運ばれていった。
「なあジャム、俺たちがあの星で過ごした時間は、きっと色褪せることはないよ。この先どんなことがあったって、ダナエちゃんたちと一緒に旅をした思い出は、絶対に消えることはないよ。だからそれを胸に、地球で頑張ろうぜ。もう闇金なんかに手を出さないように、まっとうに生きて自分なりの幸せを掴むんだ。」
「・・・・・うん・・・。」
二人は強く手を握り合い、ラシルでの旅を思い起こしていた。ダナエと出会った時のこと、コウやドリューと一緒に戦った時のこと。そのどれもが胸に鮮明に残っていて、輝かしいダイヤのように光っていた。
もしかしたらもう二度と会うことはないかもしれないが、彼女たちがずっと友達であることに変わりはない。二人は思い出を大切に胸の中にしまい、新たな人生を歩く為に地球へ帰っていった・・・・・。


            *


ダナエは拗ねていた。誰とも口を利かず、トミーの残した別れの手紙を睨みつけていた。
《ダナエちゃんへ〜 ごめんね、直接お別れを言わずに帰っちゃって。でもどうか許してほしい。正直なところを言うと、俺はまだラシルに残りたかった。そしてダナエちゃんたちと一緒に旅を続けて、邪神を倒したかったんだ。
でもダナエちゃんの顔を見てお別れを言うと、きっとこの星から離れられないだろうと思ったから、こうして手紙に書くことにしたよ。
ジャムはさ、俺にとっちゃ弟みたいなもんなんだ。アイツって歳の割にガキで、いっつもどこか危なっかしいところがあるだろ?だから放っておけないんだよ。俺さ、ガキの頃に弟を亡くしてて、けっこうそれがトラウマになってるとこがあるんだよな。海で溺れてる弟を助けられずに、何も出来ないまま死なせちまったんだ。
だから・・・・・もう二度とあんな思いをするのは嫌なんだ。ジャムの野郎は一人で地球に帰ったって、きっと何も出来ない。だからアイツがもう少し大人になるまで、そばにいてやろうと思うんだ。これはジャムの為っていうより、弟を亡くしたトラウマを埋める自分の為かもしれない。
だからどうか許してほしい。ずっと一緒に旅をしてきたのに、こうして手紙で別れを告げることを・・・・。でもさ、俺はずっとダナエちゃんたちのことは忘れないぜ。どこにいたって、どんなに時間が経ったって、俺たちはずっと友達さ。みんなと一緒に過ごした時間は、俺にとっては宝物で、それはきっとジャムの奴も同じだと思う。
だから・・・地球からずっとダナエちゃんたちのことを見守ってるよ。そして応援してる。
邪神を倒して平和が訪れたら、またみんなで会えたらいいな。それじゃあ、またいつか会う日まで・・・さようなら。みんな元気でな。》
綺麗な字で書かれた手紙の上に、ダナエの涙がポトリと落ちる。そしてクシャッと手紙を握りしめ、クルクル丸めて鞄の中にしまった。
「・・・・トミーの馬鹿!私にもちゃんとお別れを言っていってよ!ジャムと二人でいきなりいなくなるなんて、そんなの酷いよ・・・・・。」
ダナエは鼻をすすり、涙を拭って立ち上がった。
「みんな!早く邪神を見つけに行こう!そしてサクっとやっつけて、またみんなで集まるの!ほら、早く!」
ダナエはコウとドリューの手を取り、海辺を走って箱舟に向かった。
「ダナエさあ・・・ショックなのは分かるけど、邪神をサクッとはいかないだろ?」
「いけるわよ!あんなのちょっと硬めのおせんべいと同じもんよ!サクッとやるのよ、サクッと!」
「これは相当ショックを受けてますね・・・。でも気持ちは分かりますよ、自分だけ手紙で別れを告げられたら、僕だってショックを受けると思うから。」
「当たり前よ!トミーの奴・・・今度会ったらバックドロップだけじゃ済まさない!コブラツイストにパワーボムに、キャメルクラッチも極めてやるわ!」
ダナエは急いで箱舟に戻り、入り口に座っていたカプネのお尻を叩いた。
「カプネ!早く船を飛ばして!さっさと邪神を捜しにいくの!」
「捜しに行くっていったって、いったいどこを捜すんだよ・・・?」
「そんなのどっかその辺にいるでしょ!パッと捜してサクっとやっちゃうの!ほら、早く!」
ダナエはカプネの口を掴み、グイグイと引っ張った。
「ひゃ・・・ひゃめれ・・・口が裂ける・・・・。」
カプネは煙管を吐きだし、白目を剥いて倒れてしまった。するとそこへアリアンロッドが走って来て、ダナエの肩を掴んだ。
「ダナエ!今すぐに操縦室へ来るんだ!とんでもない客が来ている!」
「とんでもないお客さん?」
「そうだ!先ほどとてつもなく強い気を感じて、空を見てみたのだ。するとなんと、あの天使の長がこの星に来ているではないか!」
アリアンロッドは興奮気味にまくしたてた。それを聞いたダナエは、コウやドリューと顔を見合わせて首を捻った。
「天使の長って誰?その人が私に会いに来てるってこと?」
「ああ、お前に話があるらしい。とにかく急ごう!」
アリアンロッドはダナエの手を握って走り出し、勢いよく操縦室のドアを開けた。そこにはスクナヒコナとクー・フーリンが立っていて、窓の外を真剣に見つめていた。
「スッチーにクー、二人ともどうしたの?」
「おお、ダナエ殿!あの空をご覧になられよ。」
そう言ってスクナヒコナは、西の遠い空を指した。するとそこには、大きな光に包まれた何者かが浮かんでいた。
「あれは・・・巨人?」
「いや、巨人ではない。天使の長、メタトロンだ。」
「メタトロン・・・?それって、確か博臣の魂を必要としていた天使よね?」
「うむ、メタトロン殿はダフネに頼まれてこの星へやって来たそうだ。」
それを聞いたダナエは、「ダフネが!」と叫んだ。
「メタトロン殿が現れてすぐに、サリエル殿が彼の元へ向かったのだ。そしてこう言伝を預かってきた。『妖精の王女ダナエよ、私と共に来い!』・・・・と。」
それを聞いたコウは、すかさず「プロポーズかよ」と突っ込んだ。すると窓の外にいきなり黒い影が現れて、ゾンビのような恐ろしい顔を覗かせた。
「きゃあ!なに!」
「私だ、サリエルだ。」
「ああ・・・ビックリした・・・。いきなり出て来ないでよ。心臓に悪いわ。」
サリエルは「すまん」と謝り、メタトロンが浮かぶ西の空を見つめた。
「メタトロンは、お主を月に連れて帰りたいそうだ。」
「どうして・・・・?」
「詳しいことは彼の元へ行けば分かる。さあ、セバスチャンに乗れ!メタトロンの元まで運ぼう。」
サリエルは手を伸ばして馬に乗るように促した。
「そ、そんなこといきなり言われても・・・・。」
「心配せずとも、すぐに帰って来られる。ダフネも忙しい身を割いてお前に会うのだ。そう長くは月にいられないだろう、さあ。」
「・・・・って言ってるけど、どうしよう?」
ダナエは困った顔でコウを見つめた。
「まあ行くしかないんじゃない?ダフネが呼んでるんだから。」
「そうだけど・・・・でもみんなを残して私だけ行くっていうのは・・・・。」
「心配ないよ、そこの死神がすぐ帰って来られるって言ってるじゃん。俺たちのことは心配せずに、ちゃっちゃと行って来いよ。」
コウはダナエの背中を押し、ニコリと笑った。するとサリエルは、コウに向かって「お前も行くのだ」と命じた。
「え?俺も?」
「ダフネがそう命じたのだ。ダナエだけでは心配だから、お前も一緒に来るようにと。」
「ははあ・・・まあダナエは鈍チンだからなあ。俺が一緒に行かなきゃ話にならないわけか。」
お兄ちゃん風を吹かせてそう言うと、ダナエは「鈍チンって言うな!」肘をつねった。
「まったく・・・・人のことを馬鹿扱いして・・・・。でもどうしても月へ戻らないといけないみたいね。だったらさっさと行ってすぐに帰って来なきゃ。」
そう言ってセバスチャンに乗ろうとした時、サリエルはアリアンロッドとクー・フーリンに目を向けた。
「お前たちも月へ行くのだ。」
「なに?私たちもだと?」
「どういうことだ?」
「いま・・・地球は悪魔の手に落ちようとしている。それを奪回する為に、少しでも戦力が必要なのだ。だから一度月へ行き、戦力を整えてから地球に襲撃を仕掛ける・・・・と、メタトロンが言っていた。」
「ふうむ・・・そういうことならば仕方あるまい。クーよ、この星を離れるのは心苦しいが、ここは地球へ行かねばなるまい?」
「分かっている。地球には師匠も残っているからな。弟子の俺が助太刀せんでどうする!」
クー・フーリンは槍を回し、勇ましく叫んだ。するとサリエルはスクナヒコナにも目を向けた。
「日本の神よ、汝も地球へ戻るのだ。日本の神々は悪魔に敗北し、空想の牢獄に閉じ込められている。」
「な・・・・なんと!日本の神々がか!」
「日本の神々も・・・・だ。地球の神々はそのほとんどが空想の牢獄に閉じ込められている。それを助けるには、闇を操る特殊な力が必要だ。」
「闇を操る特殊な力か・・・・。となると、そんなことが出来るのは・・・・、」
「うむ、クトゥルーしかいない。しかしあのタコはへそ曲がりだからな。我の言うことなど聞かぬだろう。そこでだ、是非お主にあのタコを説得してもらいたい。そして今後は、あのタコのお目付け役として同行してもらいたいのだ。」
「なるほど・・・そういうことならお任せあれ!このスクナヒコナ、地球の同胞を救う為、粉骨砕身の覚悟で務めを果たそうぞ!」
そう言って窓の下を眺めると、そこにクトゥルーはいなかった。
「はて?先ほどまであそこにいたはずだが・・・?」
首を捻ってそう呟くと、サリエルはセバスチャンに命じた。
「セバスチャン!クトゥルーを探し出せ!」
「ビヒイイイン!」
セバスチャンはじっと目を凝らし、千里眼を使ってクトゥルーを探った。
「ビヒイイイン!」
「おお・・・闇を作ってその中に逃げておるのか。クトゥルーは遥か昔、メタトロンによって空想の深海に閉じ込められたからな。今でも彼のことを恐れているのだろう。どれ、スクナヒコナよ。我と共にクトゥルーを説得しに行くのだ。」
「心得た。」
スクナヒコナはセバスチャンの尻尾に掴まり、よじよじと登ってサリエルの肩に乗っかった。
「ではしばし待たれよ。」
サリエルはセバスチャンを蹴って大地に降り、辺りの臭いを嗅いだ。そして「ここか!」と叫んで、草が倒れた大地を鎌で切りつけた。
すると地面に大きな闇の亀裂が走り、その中から「んだ!」とクトゥルーの声が聞こえた。
「やはり隠れていたか・・・。クトゥルーよ、月へ行くぞ。地球を悪魔どもから取り返すのだ。」
サリエルがそう言うと、クトゥルーは「オラ行かね!」と叫んだ。
「どうせ表に出たら、またメタトロンにボコボコにされるだ。オラもう痛いのは嫌だから、ここから出ね!」
「ううむ・・・子供のようなことを言う奴よ・・・。スクナヒコナ、ここは汝の出番だ。あのタコを説得してくれ。」
「承知した。」
スクナヒコナは闇の中を見つめ、赤い目を光らせるクトゥルーに話しかけた。

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