稲松文具店 第十七話 捕らわれた仲間(2)

  • 2014.09.05 Friday
  • 17:06
穏やかな瀬戸内の海が、潮風を運んで髪を揺らす。
私は翔子達と別れたあと、祐希の指定した場所に向かっていた。場所は海辺に立っている高級旅館の前で、そこで落ち合うことになっていた。
隼人に見つからないように細心の注意を払い、タクシーに乗ってそこまで辿り着いた。
「久しぶりね、溝端さん。会うのはこれで二回目かしら?」
旅館の前で待っていた祐希は、いかにもフリーライターという動きやすそうな恰好で手を振った。翔子ほどではなくても、なかなかの美人だと思いつつ、私も手を振り返して近づいた。
「隼人の動きを探るんでしょ?私も手を貸すから、あいつの弱みを掴みましょう。」
強気な口調でそう言うと、祐希はニコリと笑って頷いた。
「さっきまではずっと隼人の動きを追いかけていたんだけど、ちょっと事情が変わったのよ。心強い援軍のおかげでね。」
「心強い援軍?」
「ふふふ、実はね、もうほとんどあいつのアレの隠し場所は分かってるのよ。」
祐希は肩に掛けていたカメラを持ち上げ、肩を竦めて笑った。
「隼人が必死に隠している少女マンガのコレクション・・・この近くの建物にあるわ。
だから後はそこに潜入して、このカメラに現場を収めるだけ。」
勝ち誇った表情でカメラを構え、自信満々に胸を張る祐希。
「そう。ならとっととやっちゃいましょ。こっちは兄妹を人質に取られてるんだから、モタモタしてられないのよ。」
「分かってるわ。でもちょっと待って。箕輪さんがトイレに行ってるから。」
「箕輪?・・・ああ、いいじゃない、あんな地味な奴は放っとけば。どうせいてもいなくても変わらないでしょ?
ていうか、一緒に連れて行くと足手まといになりそうなんだけど?」
髪を掻き上げながらそう言うと、後ろから「誰が足手まといだって?」と声が掛かった。
「ああ、いたの?ゴメンね。私って気を使わない性格だから。」
「あ、そ。でも全然気にしてないからいいよ。自分でも地味な奴だって自覚してるし、特別役に立つわけでもないから。」
箕輪は生意気にガンを飛ばし、私を無視するように祐希の傍へ歩いて行く。
「へえ〜、自分でも自覚してるんだ。だったらさ、何でここにいるわけ?足手まといになるって分かってるなら、余計な事しなくていいのに。」
「私は役に立たなくても、私の友達が役に立つのよ。ねえ、優香ちゃん?」
箕輪は私の後ろに向かって、ニコリと微笑む。すると二人の少年と少女が旅館の角から現れ、じっと私を見つめた。
「・・・誰?この子たち?」
「明君と優香ちゃんよ。社長のアレの隠し場所を見つけてくれた功労者。ね?」
《この少年と少女が・・・・?》
私はじっと二人を見つめ返す。明と呼ばれた中学生くらいの少年が、恥ずかしそうに目を逸らす。そして優香と呼ばれた小学生くらいの少女は、ニコリと笑みを返して来た。
「二人とも、こっちおいで。」
箕輪が手招きをすると、少女の方がタタっとこちらに駆けて来た。そして後ろを振り返り、「お兄ちゃん」と手招きをしている。
旅館の角に隠れていた少年は、ペコリと頭を下げながらゆっくりと歩み寄って来た。
「で?この子たちは誰?隼人のアレの隠し場所を見つけたってどういうこと?」
私は腕を組んで尋ねる。さっきまでは辛辣な口調だったのに、今は穏やかな口調に変わってしまった。どうやら私は、こういう幼い兄妹に弱いらしい。
どうもあの子たちと重なって見えてしまうから。
「・・・お姉さん、怒ってる?」
優香という少女が、顔色を窺うように覗きこんでくる。
「なんで?怒ってないわよ。」
「ならよかった。あのね、うちのお兄ちゃんビビりなんだ。柔道の黒帯のくせに、ちょっとしたことでビビるの。
さっきお姉さんと箕輪さんが喧嘩してたから、緊張しまくってるの、ねえ?」
優香ちゃんは笑いながら少年を見上げる。
「・・・うるさいな。余計なこと言うなよ・・・。」
「だってビビってたじゃん。コソコソ陰に隠れてさ。」
「黙れ・・・。」
明君はピンと妹のおでこを叩き、ムスっとむくれる。
なるほど・・・この子たちは私の兄妹に似ている。人見知りで気の弱い兄と、物怖じしないやんちゃな妹。微笑ましく思いながら見つめていると、祐希が声を掛けてきた。
「どうしたの?頬が緩んでるけど。」
「・・・何でもないわ。それより私の質問に答えてよ。この子たちは誰?それに隼人のアレを見つけたって・・・どういうこと?」
「実はね、私は明君が通っている学校で、柔道部のコーチをしてるのよ。それにこの二人は箕輪さんの友達でもあるから、ちょっと協力してもらったわけ。」
祐希がそう言うと、明君が恥ずかしそうに口を開いた。
「優香と一緒に近所のコンビニに行くと、偶然コーチに会ったんです。なんだか探偵みたいにコソコソしてたから、何してるんですかって聞いたら、事情を話してくれたんですよ。」
「ふふふ、明君には冴木君の組み手相手にもなってもらったからね。おおよその事情は教えてたのよ。そして今は隼人の秘密を探してるって言ったら、とんでもない事を言いだしたの。」
「とんでもないこと・・・?」
「この子たち・・・隼人の秘密を知っていたのよ。」
「それほんと?」
眉を寄せて尋ねると、優香ちゃんが前に出てきて説明した。
「あのね、まだお兄ちゃんが小学生の頃に、一緒にここへ潮干狩りに来たの。」
「潮干狩り?」
「うん、私達の小学校は、毎年春になるとここへ潮干狩りに来るの。それでね、その時にたくさん少女マンガを抱えてるおじさんを見たんだ。」
「それマジ?」
「マジだよ。お兄ちゃんがオシッコを漏らして泣いてたから、私が一緒にトイレへ連れて行った時のこと。」
そう言うと、明君が「嘘つくな!」と怒鳴った。
「オシッコ漏らしたのはお前だろ!あの時お前はまだ小三だったから、我慢できずに泣いてたじゃないか。俺がたまたま近くにいたからトイレに連れて行ったんだ!」
「やめてよ!そういうのはこの場面では重要じゃないの!なんで女の子に恥をかかせるような事を言うかなあ・・・。」
優香ちゃんは腕を組んでプクリとむくれ、明君は顔を真っ赤にして怒っている。私は笑いそうになるのを堪え、咳払いをして「それで?」と促した。
「でね、オシッコをもらしたお兄ちゃんをトイレに連れていく途中に、そのオジサンとぶつかったの。そしたら抱えてたマンガを全部落としたから、拾ってあげたんだ。」
「・・・それ、死ぬほど恥ずかしかったでしょうね、アイツ。」
また笑いがこみ上げてきて、思わず吹き出した。
「オジサンは真っ赤な顔して『ありがとう・・・』って言ってた。それで逃げるように向こうの旅館に入って行ったんだよ。」
優香ちゃんは高級旅館の二つ隣にある、小さな旅館を指さした。
「それで・・・その後はどうなったの?」
「分かんない。その後はトイレに行って、潮干狩りに戻ったから。」
「そう・・・・。」
私は優香ちゃんの指さした旅館を見つめた。建物の大きさ自体は大したことはないが、外観はかなり立派だった。和風の粋を集めて造ったような、風情溢れる旅館だ。
「けっこう値段の張りそうな旅館ね。でも普通あんな所に隠すかしら?」
絶対に人に見られたくないものを、旅館に隠すとは思えない。不思議に思って首を捻っていると、祐希が口を開いた。
「あの旅館はね、隼人がオーナーなのよ。」
「そうなの?」
「私もついさっき知ったばかりなんだけどね。優香ちゃんの話を聞いてから、すぐにライター仲間に調べてもらったのよ。
そしたらなんと、あれは隼人が建てた旅館だってことが分かったわけ。自分の所有する建物なら、秘密を隠すにはうってつけよね。」
「なるほど・・・それじゃやっぱりあそこに隼人の大好きな少女マンガが隠されているわけね。」
場所が分かれば勝ったも同然。これでいよいよ隼人にトドメが刺せるというわけだ。
「じゃあ早く行こうよ。モタモタしてると、いつ隼人に見つかるか分かんないからさ。」
私は拳を握って隼人の旅館に向かう。すると優香ちゃんがトタトタと走って横に並んで来た。
「私も一緒に行く。」
そう言ってギュッと手を握って来る。
・・・・懐かしい感触だった。
まだあの子たちが幼かったころ、よくこうして手を繋いで歩いたものだった。思わず涙ぐみそうになり、顔を背けて咳払いをした。
「優香ちゃん、ここから先はお姉さんに任しておきなさい。」
「なんで?」
「危ないからよ。」
「危なくないよ。ただの旅館なのに。」
「・・・そうね。でもあの旅館のオーナーが危ない奴なの。だからここで大人しく待ってようね。」
微笑みながら優香ちゃんの肩を叩き、明君の方を見つめる。
「お兄ちゃん、ちゃんと妹のこと見ててやんなさい。ほら。」
私は優香ちゃんの背中を押し、明君の手に押し付ける。
「ええ〜、私も行く〜!」
「ダメだって!大人を困らすなよ。」
イヤイヤと駄々をこねる優香ちゃんを、明君は必死に宥めている。すると箕輪が二人の肩を叩いて、諭すように言った。
「君たちは私と一緒にここで待ってるって約束でしょ?それが条件で連れて来たんだから。」
「でもここを見つけたのは私だよ?だったら一緒に行ってもいいじゃん。」
「ダ〜メ。子供に危ないことはさせられないの。もし君たちに何かあったら、お父さんとお母さんが心配するよ?」
「でも・・・・・、」
「優香ちゃん。」
「・・・・はい。」
箕輪に睨まれ、優香ちゃんはシュンと萎れる。
「この子たちは私が見てるから、あんた達だけで行って来てよ。私も危ないのはゴメンだし。」
「分かってるわ。最初からあんたを連れて行く気なんかないし。ちゃんとその子達を見ててあげて。」
私は祐希と顔を見合わせ、コクリと頷き合った。
「それじゃすぐ終わると思うから、ちょっと待っててね。ああ、それと翔子ちゃんに連絡を入れておいて。隼人のアレを見つけたって。」
祐希は手を振り、私と並んで隼人の旅館に向かった。
「気をつけてね。」
箕輪が心配そうに言い、私は手を振ってこたえる。そして・・・・旅館の前までやって来て、門を見上げて立ち止まった。
「趣き深いっていう言葉がピッタリの旅館ね。まるで貧乏人は入るなって言ってるみたい。」
「実際に入るなって意味があるんでしょうね。ここには隼人の秘密が隠されているんだから。さあ、仕事はスピードが命。早く終わらせちゃいましょ。」
「それ同感。早くこんな厄介事とオサラバしたいわ。」
吐き捨てるように呟き、私と祐希は並んで門をくぐった。そして日本庭園風の中庭を抜け、旅館の入り口を開けて中に入る。
「中もこれまた金がかかってそうね。高そうな屏風に高そうな水墨画。貧乏のびの字も感じさせないって内装よね。」
嫌味ったらしく中を見渡していると、着物を着た女が廊下を通りかかった。
「あの、ちょっといいですか?」
祐希が嘘くさい笑顔で話しかける。
「はい・・・何でしょう?」
綺麗な桃色の着物を着た女が、怪訝そうに眉を寄せる。どうやらコイツが女将のようだが、とても接客業の人間の態度とは思えない。
普通は旅館にやって来た相手にこんな顔はしないはずだ。
「私、ライターをしております、御神祐希と申します。実はある雑誌の取材でこちらを訪れていたんですが、宿がなくて困っていたんです。
ですから、もし空き部屋があるならこちらで泊らせて頂きたいのですが。」
営業スマイルでニコニコと言う祐希に対し、女将の返事は素っ気ないものだった。
「申し訳ありませんが、事前にご予約の無い方はお泊り頂くことが出来ないんです。
もし宿をお探しなら、二つ隣に旅館がありますから、そちらへ行かれたらいかがですか?」
事務的な口調で淡々と伝え、頭を下げて去って行く女将。
「ちょ、ちょっと待って下さい!向こうの旅館は満室だと言って断られてしまったんです。」
女将は足を止め、さらに怪訝そうな顔で振り返る。
「はあ・・・満室ですか・・・?そんなはずはないと思いますけど・・・。行楽シーズンならともかく、この時期に宿が埋まることは無いはずですけどねえ。」
「・・・そうですね、正直、ちょっと嘘をついてしまいました。すみません。」
祐希は営業スマイルを引っ込め、急に砕けた態度になった。
「実はこの辺りを取材しているうちに、この旅館のことをお聞きしたんですよ。美しい日本庭園を持った、風情のある旅館が建っていると。
ですからどうしてもここに泊まりたいと思ってやって来たんです。」
「はあ・・・そう言われましても・・・ここは予約の無い方は・・・、」
「分かっています。でも無理を承知でお願いしているんです。」
祐希はペコリと頭を下げ、私に目配せをしてくる。
「お願いします。」
私も同じように頭を下げるが、女将はまだ納得しない。
「お気持ちは分かりますが・・・・今日はちょっと・・・・。」
「今日はちょっと・・・?」
「ああ、いえ!なんでもありません。こちらの事情ですから。それより、やはり予約の無い方は無理なんです。すみませんが・・・・・。」
「・・・そうですか。ではこの旅館は、客がやって来ても門前払いを食らわせるわけですね?旅館といえばサービス業なのに、客にこの扱いは有り得ない。」
祐希の態度が豹変し、笑顔が消えて冷徹な表情になる。
「こんなに立派な旅館なのに、そこで働いている人間はまったくなってないわ。取材で色んな所に行ったけど、ここまで融通の利かない宿は初めて。それに愛想も悪いし。
見たところ、あなたがここの女将よね?」
「ええ・・・そうですが・・・・。」
祐希の態度の豹変ぶりに、女将はうろたえ始める。
「下っ端の従業員ならともかく、それらを指導する立場にある女将がこれじゃあねえ・・・・。この旅館のレベルも知れてるわ。
こんな所はこっちから願い下げよ。溝端さん、他をあたりましょう。」
祐希は吐き捨てるように言い、女将に一瞥をくれてから踵を返す。
「あ、そうそう。今度の記事に、この旅館のことを書いてあげるわ。客を追い返すとっても酷い旅館だって。
外観だけが立派で、中身は最悪。サービス業の基本的な心得もなっていない。おもてなしの精神が重要なはずの旅館なのに、その欠片も見受けられないってね。」
そう言いながらカメラを構え、女将に向かってシャッターを切る。ストロボの閃光が走り、女将の顔がギョッと引きつった。
「あなたの顔の写真入りで雑誌に掲載しておくわ。楽しみにしててね。」
嫌らしいほどニコリと笑い、手を振りながら出て行く祐希。すると女将は慌てて駆け寄って来て、「お待ちください!」と回り込んだ。
「しょ、少々お待ち下さい。支配人に相談して参りますので。」
「でも予約が無いとダメなんでしょ?」
「いえ・・・一応はそうなっているんですが・・・少々お待ちを。」
女将は深々と頭を下げ、足早に奥へと消えて行った。
「・・・・・予想通りね。」
祐希はカメラを掲げてニコリと笑う。
「何が予想通りなの?」
「簡単な話よ。ここは隼人の信用のある人物しか泊れないの。なんたってあいつの秘密が隠されているんだから。予約がどうのってのは、信用の無い客を追い払う為の建前よ。」
「なるほど・・・。じゃあこの旅館を雑誌で叩くなんて言ったら、そりゃあ慌てるわよね。そんな事になったら悪い意味で注目されるわけだから。」
「そういうこと。きっとあの女将は、何も知らずに隼人の言い付けを守っているだけよ。
俺の許可した者以外は泊めるなってね。だから可哀想といえば可哀想なんだけど、今は緊急事態ということで仕方ないわね。」
「ふふふ、あんたいい性格してるわ。私と馬が合うかも。」
「あんまり嬉しくないわね。元スパイに言われても。」
「そりゃそうね。」
私は肩を竦めて笑い、壁にもたれかかって女将が戻って来るのを待った。そして二十分後・・・・私たちをたっぷり待たせてから、女将は満面の接客スマイルで三つ指をついた。
「支配人と相談いたしましたところ、是非お泊り下さいとのことです。」
「それはよかった。なんだかごめんなさいね、無理言っちゃって。」
「いえいえ、とんでもございません。それでは部屋まで御案内致します。」
女将はスリッパを揃え、「どうぞ」と中へ手を向ける。
「じゃあ溝端さん、行きましょうか。」
「・・・・・・・・・・。」
私は笑いを堪えながらスリッパに履き替え、女将に案内されて廊下を歩いた。
「どうぞ、こちらの部屋です。」
美しい木造の引き戸を開け、女将は中に手を向ける。
「へええ・・・これは立派な部屋ですね。和風の趣があって、とても落ち着きます。」
祐希の言うとおり、部屋は立派なものだった。
綺麗な畳に、渋い木目のテーブル。それに壁には美しい水墨画が掛かっていて、窓の外には日本庭園が見える。
その向こうには海が広がっていて、見ているだけでも心が癒される風景だった。
「お茶をお持ちいたしますので、どうぞ御寛ぎ下さい。」
女将は頭を下げ、足音を立てずに部屋を出て行った。
「さて、中へ入れたはいいけど、どこにアレが隠してあるかが問題ね。溝端さん、あの女将は私が引きつけておくから、あなたが探って来てちょうだい。」
祐希はそう言ってカメラを差し出す。
「了解。バッチリこのカメラに収めてやるわ。」
これで・・・これでついに隼人にトドメが刺せる。
あいつが隠している少女マンガのコレクションを暴露すれば、いったいどんな顔をするだろう?想像しただけでも笑いが止まらず、俄然やる気になってきた。
「失礼致します。」
女将が高そうなお茶を運んできた。
「取材でお疲れでしょう?どうぞお茶を飲んで御寛ぎ下さい。」
「へえ、これは玉露ね。しかも相当いいお茶だわ。」
湯呑みから立ち昇る香りにそそられ、思わずそれを手に取った。
「・・・うん、美味しい。でもちょっと苦味が強いかな?」
お茶を楽しんでいると、祐希に肘を突かれて咳払いされた。
「これはとてもいいお茶ですね?どこの葉っぱを?」
「ああ、それは・・・・、」
祐希は女将の向かいに腰を下ろし、ズズっと玉露をすする。あれやこれやとお茶の話が飛び交い、女将は饒舌に説明していく。
よし・・・今の隙に・・・・。
私は足音を殺しながら部屋を抜け出し、廊下を歩いて周りを見渡した。
「まさか客室に隠しているなんてことはないわよね。だったら・・・あとはどこだろ?やっぱりオーナーの部屋・・・とか?でもそんなもんがあるのかな?」
館内は外から見た時よりもかなり広く、お目当てのものを探し当てるにはちょっと苦労しそうだった。しかしここまで来れば勝ったも同然で、ニヤニヤ笑いが止まらなくなる。
「さあて・・・隼人君はアレをどこに隠してるのかなあ〜・・・。」
カメラを片手に館内を歩きまわり、エレベーターの前に辿り着いてボタンを押した。
「多分一階じゃなさそうね。ここは最上階から探してみるか。」
エレベーターのドアが開き、中に乗り込んで三階のボタンを押す。そして扉が閉じていく時に、ふと違和感を覚えた。
「そういえば・・・・なんでこんなに静かなんだろ?普通は仲居さんとかがいて、宿泊客だって・・・・・、」
そう呟きかけた時、突然目の前が揺らいだ。
「あれ・・・?今・・・なんか目眩が・・・・。」
思わず壁に手をつき、倒れそうになるのを堪える。
そして次の瞬間、立っていあれないほど頭がクラクラしてきた。
「なに・・・・これ・・・。意識が・・・・。」
それは強烈な眠気だった。抗えないほどの睡魔が襲いかかり、私の意識を奪おうとしてくる。
「これって・・・・まさか・・・・。」
こんなに強烈な眠気が、いきなり襲ってくるわけがない。となると、これは・・・睡眠薬しか考えられない。
「ああ!・・・きっと・・・さっき飲んだ玉露に・・・・。」
あのお茶を飲んだ時、かすかに違和感を覚えた。ほのかなお茶の風味の中に、妙な雑味が混じっていたのだ。
「あのお茶・・・・絶対に睡眠薬が・・・・。でも・・・あれは・・・確か・・・祐希も・・・飲んで・・・・・。」
ついに身体を支えられなくなり、エレベーターの床に倒れる。三階についたエレベーターの扉が開き、私は手を伸ばした。
「ダメ・・・・ここで寝たら・・・。きっと・・・・祐希も・・・・・寝てる・・から・・・・。
私まで・・・・寝ちゃったら・・・隼人を・・・倒せ・・・な・・・・。」
なんとか意識を保とうとするが、睡魔は容赦なく襲いかかってくる。すると誰かの気配を感じて、力を振り絞って見上げてみた。
「やあ、溝端さん。こんな所までご苦労さん。捜す手間が省けたよ。」
「は・・・・隼人・・・・。」
憎き敵、北川隼人がニコニコと笑いながら見下ろしている。その手には『ピュアラブ☆』という、甘ったるさ満載の少女マンガ雑誌が握られていた。
「残念だったね、あと一歩の所まで来ていたのに・・・。でもまあ、クズにしちゃよく頑張った方だよ。はははは!」
「・・・・く・・・あ・・・あんたあ・・・・・。」
私は鬼の形相で隼人を睨みつけた。
ここまで来て・・・・ここまで来て負けたくない・・・。せっかくトドメを刺せるチャンスなのに・・・ここまで来て・・・。
歯を食いしばって眠気に耐えるが、睡魔はそれをあざ笑うかのように力を奪っていく。
そして・・・・・私の意識は完全に闇に落ちた。

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